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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20241224BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20241224BHJP
   B62D 117/00 20060101ALN20241224BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20241224BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20241224BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D117:00
B62D119:00
B62D113:00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021201792
(22)【出願日】2021-12-13
(65)【公開番号】P2023087425
(43)【公開日】2023-06-23
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 大貴
(72)【発明者】
【氏名】福地 伸晃
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-194197(JP,A)
【文献】特開2014-218098(JP,A)
【文献】特開2009-214827(JP,A)
【文献】特開2021-172146(JP,A)
【文献】特開2013-86672(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0253767(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 117/00
B62D 119/00
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方に存在する立体物と、前記自車両の前方に延在している車線を規定する区画線と、についての情報を周囲情報として取得する周囲情報取得手段と、
少なくとも前記周囲情報に基づいて前記自車両の運転者の操舵操作を支援する操舵支援制御を実行する操舵支援制御実行手段と、
前記操舵支援制御の実行中に前記操舵支援制御をキャンセルして前記運転者の操舵操作を優先させるオーバーライドの実行条件が成立しているか否かを判定し、前記実行条件が成立している場合、前記オーバーライドを実行するオーバーライド実行手段と、
前記運転者の操舵操作に関連した入力値と、当該操舵操作に基づいて前記運転者が期待する前記自車両の期待出力値と、の関係を規定した関係式を予め記憶している関係式記憶手段と、
前記自車両の挙動に対して前記運転者が覚える違和感の度合いを示す指標である違和感ファクタを、前記入力値に対する前記自車両の実出力値が、前記入力値に対する前記期待出力値から乖離しているほど大きくなる値として演算する違和感ファクタ演算手段と、
を備え、
前記オーバーライド実行手段は、
前記操舵支援制御の実行中に演算された前記違和感ファクタを積算し、前記違和感ファクタの積算値が所定の許容閾値以上の場合に前記実行条件が成立していると判定する、
ように構成された、
運転支援装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵支援制御の実行中に運転者の操舵操作を優先させるステアリングオーバーライドを実行可能な運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両に搭載され、運転者の操舵操作を支援する操舵支援制御を実行可能な運転支援装置が知られている(特許文献1参照)。運転支援装置は、カメラセンサ及び/又はレーダセンサから周囲の情報を取得するとともに、各種センサ(車速センサ及び操舵トルクセンサ等)から車両の状態や運転操作状態を取得する。操舵支援制御の実行条件が成立した場合、運転支援装置は、取得された周囲の情報、車両の状態及び運転操作状態に基づいて目標出力値(典型的には、ヨーレート及び横加速度等)を演算し、現在の出力値を目標出力値に一致させるために必要な転舵角(車両の転舵輪が転舵される角度)を目標舵角として演算する。そして、転舵輪の転舵角を目標舵角に一致させるために必要とされるトルク(以下、「制御トルク」とも称する。)を演算し、当該トルクを車両のステアリング機構に付与することにより操舵支援制御を実行する。
【0003】
一般に、運転支援装置は、操舵支援制御の実行中に運転者が自身の操舵操作に基づいて運転する意思がある場合には操舵支援制御をキャンセルして運転者の操舵操作を優先させるオーバーライドを実行可能に構成されている。例えば、特許文献1の運転支援装置は、操舵支援制御の実行中において運転者の操舵操作に基づく入力値(例えば、操舵トルク、操舵角又は操舵角速度)が所定のオーバーライド閾値を超えた場合にオーバーライドを実行するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6819876号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1の運転支援装置のように、運転者の操舵操作に基づく入力値にのみ基づいてオーバーライドの実行可否を判定する構成では、運転者が違和感を覚える可能性がある。即ち、運転者は、操舵操作を行った場合、当該操舵操作に応じた車両の挙動が実現されることを期待(予期)している。例えば、運転者が操舵ハンドルを右回りに回転させる操舵操作を行った場合、車両が操舵ハンドルの回転量に応じた旋回度合いで右方向に旋回することを期待している。ところが、操舵支援制御の実行中は、運転支援装置により演算された制御トルクが車両に付与されているため、車両の挙動が運転者の操舵操作に応じた挙動から乖離(逸脱)する場合がある。従って、上述した構成(運転者の操舵操作に基づく入力値にのみ基づいてオーバーライドの実行可否を判定する構成)では、オーバーライドが実行されるまでの期間において車両の挙動が運転者の期待する挙動から大きく乖離したり長期間に亘って乖離したりする事態が発生し、運転者が違和感を覚える可能性がある(別言すれば、違和感の許容範囲を超える可能性がある)。このため、操舵支援制御の実行中に運転者が自身の操舵操作に基づいて運転する意思がある場合は、違和感の許容範囲内でオーバーライドが実行されることが望ましい。
【0006】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、操舵支援制御の実行中において運転者の違和感の許容範囲内でオーバーライドを実行可能な運転支援装置を提供することにある。
【0007】
本発明による運転支援装置(以下、「本発明装置」と称する。)は、
自車両の前方に存在する立体物と、前記自車両の前方に延在している車線を規定する区画線と、についての情報を周囲情報として取得する周囲情報取得手段(11)と、
少なくとも前記周囲情報に基づいて前記自車両の運転者の操舵操作を支援する操舵支援制御を実行する操舵支援制御実行手段(10、20、21、22)と、
前記操舵支援制御の実行中に前記操舵支援制御をキャンセルして前記運転者の操舵操作を優先させるオーバーライドの実行条件が成立しているか否かを判定し(ステップ430)、前記実行条件が成立している場合(ステップ430:Yes)、前記オーバーライドを実行するオーバーライド実行手段(10、20)と、
前記運転者の操舵操作に関連した入力値(ST)と、当該操舵操作に基づいて前記運転者が期待する前記自車両の期待出力値と、の関係を規定した関係式(mx-b1≦y≦mx+b2)を予め記憶している関係式記憶手段(10)と、
前記自車両の挙動に対して前記運転者が覚える違和感の度合いを示す指標である違和感ファクタを、前記入力値(ST)に対する前記自車両の実出力値(YR)が、前記入力値(ST)に対する前記期待出力値から乖離しているほど大きくなる値として演算する違和感ファクタ演算手段(10)と、
を備える。
前記オーバーライド実行手段(10、20)は、
前記操舵支援制御の実行中に演算された前記違和感ファクタを積算し、前記違和感ファクタの積算値が所定の許容閾値以上の場合(ステップ525:Yes)に前記実行条件が成立していると判定する(ステップ530、ステップ430:Yes)、
ように構成されている。
【0008】
本発明装置では、運転者の操舵操作に関連した入力値だけではなく、当該入力値に対する自車両の実出力値(実際の出力値)にも基づいてオーバーライドの実行可否が判定される。具体的には、入力値及び実出力値に基づいて違和感ファクタ(自車両の挙動に対して運転者が覚える違和感の度合いを示す指標)が演算され、操舵支援制御の実行中に演算された違和感ファクタの積算値が演算される。この違和感ファクタ積算値は、運転者の違和感が大きいほど大きくなり、且つ、運転者の違和感が長期に亘って継続するほど大きくなる。オーバーライドの実行条件は、違和感ファクタの積算値が許容閾値以上になった場合に成立する。この構成によれば、許容閾値を適切に設定することにより、運転者の違和感の許容範囲内でオーバーライドを実行することが可能になる。
【0009】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る運転支援装置の概略構成図である。
図2】ドライバ操舵トルクとヨーレートとの関係を規定したグラフであり、運転者の違和感が比較的に小さい場合について説明するためのグラフである。
図3】ドライバ操舵トルクとヨーレートとの関係を規定したグラフであり、運転者の違和感が比較的に大きい場合について説明するためのグラフである。
図4】運転支援装置が備える運転支援ECU10のCPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
図5】CPUが実行するルーチン(オーバーライド判定処理)を示すフローチャートである。
図6】運転支援ECU10のROMに格納されているグラフであり、違和感小領域と違和感大領域について説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態)
以下、図面を参照して本実施形態に係る運転支援装置(以下、「本実施装置」とも称する。)について説明する。図1に示すように、本実施装置は、運転支援ECU10及びこれに接続されたセンサ11乃至13と、ステアリングECU20及びこれに接続された要素21、22と、ブレーキECU30及びこれに接続された要素31、32と、を備えている。これらのECU10、20及び30は、それぞれマイクロコンピュータを主要部として備えるとともに、図示しないCAN(Controller Area Network)を介して相互に送受信可能に接続されている。なお、ECUは、Electronic Control Unitの略である。マイクロコンピュータは、CPUと、ROM及びRAM等の記憶装置と、インターフェース(I/F)と、を含み、CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。以下では、この運転支援装置が搭載された車両を「自車両」と称する。また、以下では、運転支援ECU10、ステアリングECU20及びブレーキECU30をそれぞれ単に「ECU10」、「ECU20」及び「ECU30」とも称する。
【0012】
ECU10は、周囲センサ11、車両状態センサ12、及び、運転操作センサ13に接続されている。
【0013】
周囲センサ11は、少なくとも自車両の前方の道路に関する情報、及び、道路に存在する立体物に関する情報を取得する機能を有している。立体物は、例えば、歩行者、自転車、及び、自動車等の移動物、並びに、電柱、樹木、及び、ガードレール等の固定物を含む。
周囲センサ11は、例えば、カメラセンサ及びレーダセンサを備えている。
カメラセンサは、ステレオカメラを備え、前方領域の風景を撮影し、撮影して得られた画像データに基づいて、道路の形状、立体物の有無及び自車両と立体物との相対関係等を演算する。また、カメラセンサは、道路に延在している区画線を認識し、道路の形状、および、道路と自車両との位置関係を演算する。なお、カメラセンサは、ステレオカメラに代えて単眼カメラを備えていてもよい。
レーダセンサは、ミリ波帯の電波を自車両の周囲(少なくとも自車両の前方領域を含む範囲)に照射し、立体物が存在する場合、その立体物からの反射波を受信する。レーダセンサは、電波の照射タイミングと受信タイミング等に基づいて、立体物の有無及び自車両と立体物との相対関係(自車両から立体物までの距離、自車両に対する立体物の方位、及び、自車両に対する立体物の相対速度)等を演算する。
即ち、周囲センサ11は、自車両の前方に存在する立体物と、自車両の前方に延在している区画線と、についての情報を取得する。
【0014】
周囲センサ11によって演算(取得)された情報を周囲情報と称する。周囲センサ11は、周囲情報をECU10に所定時間が経過する毎に送信する。なお、周囲センサ11は、必ずしもカメラセンサ及びレーダセンサを備える必要はなく、例えば、カメラセンサのみを備えるように構成されてもよい。また、自車両の走行する道路の形状、および、道路と自車両との位置関係を表す情報については、ナビゲーションシステムの情報を利用することもできる。
【0015】
車両状態センサ12は、自車両の走行速度を検出する車速センサ、車輪速を検出する車輪速センサ、自車両の前後加速度(前後方向の加速度)を検出する前後Gセンサ、自車両の横加速度(横方向の加速度)を検出する横Gセンサ、及び、自車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサ等である。
【0016】
運転操作センサ13は、操舵角を検出する操舵角センサ、操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ、ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキ操作量センサ、ブレーキペダルの操作の有無を検出するブレーキスイッチ、及び、各運転支援制御の設定を行う設定スイッチ等である。運転者は、設定スイッチを操作することにより、各運転支援制御の実行を希望するか否かを選択したり、制御条件(例えば、車速)を設定したりすることができる。
操舵角及び操舵トルクについては、その符号によって操舵方向(左右方向)が特定される。また、操舵角を微分することにより操舵角速度が演算され得る。操舵速度についても、その符号によって操舵方向が特定される。本明細書では、操舵角センサ及び操舵トルクセンサは、運転者の操舵操作に基づいて入力される操舵角及び操舵トルクをそれぞれ検出する。
【0017】
ECU10は、運転支援制御として、衝突回避操舵支援制御と、車線維持支援制御と、を含む操舵支援制御を実行する機能を備えている(後述)。
【0018】
ECU20は、電動パワーステアリングシステムの制御装置であって、モータドライバ21に接続されている。モータドライバ21は、転舵用モータ22に接続されている。転舵用モータ22は、ステアリング機構(図示略)に組み込まれ、モータドライバ21から供給された電力によってロータが回転し、このロータの回転によって左右の転舵輪を転舵する。
ECU20は、通常時においては、運転者の操舵操作に基づく操舵トルク(即ち、操舵トルクセンサにより検出された値)に応じたアシストトルクを転舵用モータ22で発生させる。運転者が操舵操作する場合、「運転者の操舵操作に基づく操舵トルク」と「アシストトルク」の和がステアリング機構に付与される。このため、以下では、これらの和を「ドライバ操舵トルクST」と称する。ドライバ操舵トルクSTは、「運転者の操舵操作に関連した入力値」の一例に相当する。
一方、ECU20は、ECU10から送信される操舵制御指令を受信した場合、その操舵制御指令に従って転舵用モータ22を駆動制御して転舵輪を転舵する。具体的には、操舵制御指令は、操舵支援制御を実行する際に送信される指令であり、目標舵角を表す信号を含んでいる。ECU20は、操舵制御指令を受信すると、転舵輪の転舵角を目標舵角に一致させるために必要とされるトルクを転舵用モータ22で発生させる。このトルクは、操舵支援制御を実行する際にステアリング機構に付与される。このため、以下では、当該トルクを「制御トルクCT」と称する。
【0019】
ECU30は、ブレーキアクチュエータ31に接続されている。ブレーキアクチュエータ31は、ブレーキペダルの踏力によって作動油を加圧するマスタシリンダ(図示略)と、左右前後輪に設けられる摩擦ブレーキ機構32との間の油圧回路に設けられる。摩擦ブレーキ機構32は、車輪に固定されるブレーキディスク32aと、車体に固定されるブレーキキャリパ32bとを備え、ブレーキアクチュエータ31から供給される作動油の油圧によってブレーキキャリパ32bに内蔵されたホイールシリンダを作動させることによりブレーキパッドをブレーキディスク32aに押し付けて摩擦制動力を発生させる。
【0020】
ブレーキアクチュエータ31は、ブレーキキャリパ32bに内蔵されたホイールシリンダに供給する油圧を調整する公知のアクチュエータであり、ECU30からの制御指令に応じた油圧をホイールシリンダに供給して左右前後輪に制動力を発生させる。
【0021】
ECU10は、周囲センサ11から取得される周囲情報に基づいて、走行車線(自車両が現在走行している車線)の形状、走行車線内における自車両の位置及び向き、及び、自車両に対する立体物の相対位置を演算する。なお、車線は、隣接する2つの区画線の間の領域として規定され得る。ECU10は、操舵支援制御の実行条件(後述)が成立している場合、当該制御を実行する。また、ECU10は、操舵支援制御の実行中に当該制御の終了条件又はキャンセル(中断)条件(何れも後述)が成立している場合、当該制御を終了又はキャンセルする。以下、操舵支援制御について衝突回避操舵支援制御及び車線維持支援制御を例に挙げて説明する。なお、操舵支援制御には、その他の制御(例えば、車線変更支援制御)も含まれ得る。
【0022】
(衝突回避操舵支援制御)
衝突回避操舵支援制御は、障害物と衝突する可能性が高い場合に当該障害物との衝突を回避するように制御トルクをステアリング機構に付与する制御である。衝突回避操舵支援制御は、緊急操舵支援制御(ESA:Emergency Steering Assist)と、自動緊急操舵制御(AES:Autonomous Emergency Steering)と、を含む。緊急操舵支援制御は、障害物と衝突する可能性が高い場合に運転者により操舵操作が行われたことをトリガとして実行され、自車両が区画線(厳密には、走行車線を規定する左右の区画線)から逸脱しないように運転者の操舵操作を支援する制御である。自動緊急操舵制御は、障害物と衝突する可能性が高い場合に運転者の操舵操作が行われなくても自動的に作動する制御である。
【0023】
具体的には、ECU10は、ヨーレートセンサによって検出されるヨーレートと、車速センサによって検出される車速と、に基づいて自車両の旋回半径を演算し、この旋回半径に基づいて自車両の軌道を演算(予測)する。また、ECU10は、周囲情報から取得される立体物の位置の変化に基づいて立体物が移動物であるのか静止物であるのかを判別し、移動物である場合、立体物の位置の推移に基づいて立体物の軌道を演算(予測)する。そして、自車両の軌道及び立体物の軌道に基づいて、自車両が現状の走行状態を維持して走行するとともに立体物が現状の移動状態(静止物である場合は、静止状態)を維持して移動した場合に自車両が立体物に衝突するか否かについて判定する。ECU10は、自車両が立体物に衝突すると判定した場合、その立体物を障害物として認識し、当該障害物に衝突するまでに要すると予測される時間を衝突予測時間(TTC:Time To Collision)として演算する。TTCは、自車両から衝突予測地点までの距離を車速で除算することにより演算され得る。ECU10は、TTCが所定のTTC閾値以下である場合、自車両が障害物と衝突する可能性が高いと判定する。
【0024】
この場合、ECU10は、自車両が障害物との衝突を回避するために取り得る目標回避軌道を演算する。目標回避軌道は、自車両が旋回することにより障害物と干渉することなく衝突を回避し得る複数の軌道のうち自車両の横加速度が最小となる軌道である。目標回避軌道の演算方法は周知であるため、その詳細な説明は省略する(例えば、特開2020-26207号公報を参照されたい)。なお、衝突回避操舵支援制御が緊急操舵支援制御である場合、目標回避軌道は走行車線内に設定される。
【0025】
衝突回避操舵支援制御が自動緊急操舵制御である場合、ECU10は、以下の条件1A及び2Aが何れも成立しているときに当該制御の実行条件が成立したと判定する。
(条件1A)自車両が障害物と衝突する可能性が高い。
(条件2A)目標回避軌道が演算されている。
一方、衝突回避操舵支援制御が緊急操舵支援制御である場合、ECU10は、条件1A及び2Aに加え、以下の条件3Aが成立しているときに当該制御の実行条件が成立したと判定する。
(条件3A)運転者により操舵操作が行われている。
なお、条件3Aは、操舵角、操舵トルク及び/又は操舵角速度がそれぞれ所定の閾値以上である場合に成立していると判定され得る。
但し、衝突回避操舵支援制御の実行条件はこれに限られない。
【0026】
ECU10は、条件1A及び2Aの少なくとも一方が成立しなくなった場合、衝突回避操舵支援制御の終了条件が成立したと判定して当該制御の実行を終了する。加えて、ECU10は、以下の条件4A乃至6Aの少なくとも1つが成立している場合、衝突回避操舵支援制御のキャンセル(中断)条件が成立したと判定して当該制御の実行をキャンセル(中断)する。
(条件4A)運転者によりブレーキ操作が行われている。
(条件5A)路面が低摩擦であることに起因して車両安定化制御(VSC:Vehicle Stability Control)が実行されている。
(条件6A)自動ブレーキ制御が実行されている。
ここで、車両安定化制御は、車両の横滑りを抑制する周知の制御である。自動ブレーキ制御は、自車両が障害物と衝突する可能性が高い場合に自車両に自動的にブレーキ力(制動力)を付与する周知の制御である。
但し、衝突回避操舵支援制御の終了条件及びキャンセル条件はこれに限られない。
【0027】
(車線維持支援制御)
車線維持支援制御(LTA:Lane Tracing Assist)は、自車両の位置が走行車線内の目標走行ライン付近に維持されるように制御トルクをステアリング機構に付与する制御である。ECU10は、以下の条件1B乃至3Bが何れも成立している場合に車線維持支援制御の実行条件が成立したと判定する。
(条件1B)図示しないLTA設定スイッチにより車線維持支援制御の実行が選択されている。
(条件2B)アダプティブクルーズ制御(ACC:Adaptive Cruise Control)が実行されている。
(条件3B)カメラセンサが区画線を認識している。
但し、車線維持支援制御の実行条件はこれに限られない。
【0028】
ECU10は、条件1B乃至3Bの少なくとも1つが成立しなくなった場合、車線維持支援制御の終了条件が成立したと判定して当該制御の実行を終了する。
【0029】
続いて、オーバーライドについて説明する。従来は、オーバーライドの実行可否を、運転者の操舵操作に基づく入力値にのみ基づいて判定していたため、運転者が違和感を覚える可能性があった。図2及び図3を参照して具体的に説明する。図2及び図3は、何れもドライバ操舵トルクST[Nm](x軸)とヨーレートYR[deg/sec](y軸)との関係を規定したグラフである。上述したように、ドライバ操舵トルクSTは、「運転者の操舵操作に基づく操舵トルク」と「アシストトルク」との和である。ヨーレートYRは、自車両の挙動を決定する物理量の一種である。
【0030】
一般に、運転者は、操舵操作を行った場合、当該操舵操作に応じた自車両の挙動が実現されることを期待(予期)している。具体的には、運転者は、自身の操舵操作によりドライバ操舵トルクSTが増加(又は減少)した場合、ドライバ操舵トルクSTの増加(又は減少)に伴ってヨーレートYRが略線形に増加(又は減少)することを期待している。図2及び図3のグラフ中の破線BLは、ドライバ操舵トルクSTとヨーレートYRとの理想的な関係を示す。運転者は、任意の或るドライバ操舵トルクSTに対するヨーレートYRの値が破線BLの近傍に位置している場合、自車両が自身の操舵操作に応じた挙動を示していると感じ、違和感を覚えることは殆どない。これに対し、任意の或るドライバ操舵トルクSTに対するヨーレートYRの値が破線BLから離間した位置に位置している場合、自車両の挙動が自身の操舵操作に応じた挙動から乖離(逸脱)していると感じ、違和感を覚える。なお、本実施形態では、破線BLは直線とされているが、破線BLが、運転者が期待するドライバ操舵トルクSTとヨーレートYRとの関係を反映している形状であれば、直線に限られない。
【0031】
図2及び図3のグラフ中の実線SL1及びSL2は、操舵支援制御の実行中に運転者が所定の期間に亘って操舵操作を行ったときのヨーレートYRの推移を示す。点Sは当該期間の開始時点に対応しており、点Gは当該期間の終了時点に対応している。本実施形態では、操舵支援制御の実行中に運転者による操舵操作が行われると、制御トルクCTにドライバ操舵トルクSTを加算した値がステアリング機構に付与される。即ち、実線SL1及びSL2上のヨーレートYRは、制御トルクCTとドライバ操舵トルクSTとの合算値がステアリング機構に付与されたときの自車両のヨーレートである。このヨーレート(即ち、制御トルクCTとドライバ操舵トルクSTとの合算値がステアリング機構に付与されたときのヨーレート)は、「運転者の操舵操作に関連した入力値に対する自車両の実出力値」の一例に相当する。
【0032】
図2に示すように、実線SL1は、点Sから点Gまでの期間のうち範囲D1内を推移する比較的に短い期間においては破線BLから離間した領域を推移しているものの、残りの期間においては破線BL近傍の領域を推移している。このため、運転者は範囲D1内を推移する期間においては多少の違和感を覚えるものの、残りの期間においては殆ど違和感を覚えることはないと考えられる。
これに対し、図3に示すように、実線SL2は、点Sから点Gまでの期間のうち比較的に長い期間(範囲D2内を推移する期間)に亘って破線BLから離間した領域を推移している。このため、運転者は比較的に長期に亘って違和感を覚えると考えられる。
【0033】
従って、従来のように運転者の操舵操作に基づく入力値にのみ基づいてオーバーライドの実行可否を判定する構成では、オーバーライドが実行されるまでの期間において自車両の挙動が運転者の期待する挙動から大きく乖離したり長期間に亘って乖離したりする事態が発生し、運転者が違和感を覚える可能性がある(別言すれば、違和感の許容範囲を超える可能性がある)。
【0034】
そこで、本実施形態では、ECU10は、運転者の操舵操作に関連した入力値(アシストトルクを含む入力値)だけではなく、自車両の挙動を決定する物理量(出力値)にも基づいてオーバーライドの実行可否を判定するように構成されている。以下、図4及び図5を参照してECU10の具体的作動について説明する。
【0035】
ECU10のCPUは、イグニッションスイッチがオン状態の期間中、所定時間が経過する毎に図4及び図5にフローチャートにより示したルーチンを繰り返し実行するように構成されている。
【0036】
所定のタイミングになると、CPUは、図4のステップ400から処理を開始してステップ410に進み、上述した操舵支援制御(本実施形態では、衝突回避操舵支援制御又は車線維持支援制御)の実行条件が成立しているか否かに基づいて、操舵支援制御を実行中であるか否かを判定する。操舵支援制御を実行していない場合(ステップ410:No)、CPUは、ステップ495に処理を進めて本ルーチンを一旦終了する。一方、操舵支援制御を実行している場合(ステップ410:Yes)、CPUは、ステップ420に処理を進めてオーバーライド判定処理を行う。
【0037】
CPUは、ステップ420に進むと、図5のステップ500から処理を開始してステップ505に進み、現時点がオーバーライド有効期間内に含まれているか否かを判定する。即ち、操舵支援制御が開始されてから所定の特定期間においてはステアリング系がダイナミックに変動するため、慣性及び/又は路面摩擦の影響により操舵トルクセンサの検出値が高くなり易く、運転者がオーバーライドを望んでいるのか否かを判定し難い。このため、当該特定期間ではオーバーライドの実行可否を判定しないように構成されている。オーバーライド有効期間とは、操舵支援制御が実行されている期間から上記特定期間を除いた期間(即ち、運転者がオーバーライドを望んでいるのか否かを適切に判定し得る期間)である。
【0038】
特定期間は、操舵支援制御の種類毎に設定され得る。例えば、衝突回避操舵支援制御の開始後は、車線維持支援制御の開始後に比べてステアリング系の変動度合いが大きい。このため、衝突回避操舵支援制御の特定期間は、車線維持支援制御の特定期間よりも長く設定され得る(車線維持支援制御においては慣性の影響が比較的に小さいため、特定期間はゼロに設定されてもよい。)。加えて、衝突回避操舵支援制御の終了後に車線内戻し支援制御(自車両が車線外に逸脱しないように制御トルクをステアリング機構に付与する制御)を行う場合には、車線内戻し支援制御が開始される時点を含む所定の別の特定期間においてもオーバーライドの実行可否を判定しないように構成されてもよい(詳細については、特開2020-26207号公報を参照されたい)。
【0039】
現時点がオーバーライド有効期間に含まれていない(即ち、特定期間に含まれている)場合(ステップ505:No)、CPUは、ステップ510に処理を進めてオーバーライドフラグの値を0に設定する。オーバーライドフラグは、オーバーライドの実行可否を判定する際に使用されるフラグであり、その値が0の場合はオーバーライドを実行しない(許可しない)ことを示し、その値が1の場合はオーバーライドを実行する(許可する)ことを示す。その後、CPUは、ステップ595に処理を進めてオーバーライド判定処理を終了し、図4のステップ430に処理を進める(後述)。
【0040】
一方、現時点がオーバーライド有効期間に含まれている場合(ステップ505:Yes)、CPUは、ステップ515に処理を進め、図6のグラフを参照して現時点におけるドライバ操舵トルクST(入力値)に対するヨーレートYRの値(実出力値)が違和感大領域R2内に位置しているか否かを判定する。ここで、ステップ515の処理について説明する前に、図6のグラフについて説明する。このグラフは、ドライバ操舵トルクST[Nm](x軸)とヨーレートYR[deg/sec](y軸)との関係を規定したものである。グラフ内の領域は、「違和感小領域R1」と「違和感大領域R2」とに区画されている。違和感小領域R1は、破線BL近傍の領域(即ち、運転者が違和感を覚え難い領域)である(グレー部分を参照)。破線BLの式をy=mx(m:傾き)と規定した場合、違和感小領域R1は、mx-b1≦y≦mx+b2を満たす領域である。現時点のドライバ操舵トルクSTに対するヨーレートYRの値が違和感小領域R1に位置している場合、運転者は、自車両が自身の操舵操作に応じた挙動を示していると感じる。このため、違和感小領域R1内のヨーレートYRの値は、運転者が自身の操舵操作に基づいて期待する自車両の出力値(期待出力値)ということもできる。つまり、違和感小領域R1を規定する上記不等式(mx-b1≦y≦mx+b2)は、「運転者の操舵操作に関連した入力値と、当該操舵操作に基づいて運転者が期待する自車両の期待出力値と、の関係を規定した関係式」の一例に相当する。なお、定数b1及びb2は、実験又はシミュレーションに基づいて予め設定され得る。本実施形態ではb1=b2であるが、b1≠b2であってもよい。また、以下では、現時点のドライバ操舵トルクSTに対するヨーレートYRの値を「座標(ST,YR)」とも称する。
【0041】
一方、違和感大領域R2は、破線BLから離間した領域(即ち、運転者が違和感を覚え易い領域)であり、y<mx-b1又はmx+b2<yを満たす。例えば、座標(ST,YR)が位置P1、P2又はP3にそれぞれ位置している場合、これらは何れも違和感大領域R2内に位置しているため、運転者は違和感を覚える。具体的には、運転者は、座標(ST,YR)が位置P1に位置している場合、運転者の操舵操作に対して自車両が過度に旋回することにより違和感を覚え、座標(ST,YR)が位置P2に位置している場合、運転者の操舵操作に対して自車両の旋回度合いが小さいことにより違和感を覚え、座標(ST,YR)が位置P3に位置している場合、運転者の操舵操作により旋回するはずの方向と反対の方向に自車両が旋回することにより違和感を覚える。
【0042】
ECU10は、図6のグラフをROMに格納している。CPUは、ROMに格納されている上記グラフを参照して、現時点におけるドライバ操舵トルクSTに対するヨーレートYRの値(座標(ST,YR))が違和感大領域R2内に位置しているか否かを判定する。なお、ECU10は、図6のグラフの代わりに、違和感小領域R1を規定する上記不等式をROMに格納するように構成されてもよい。
【0043】
現時点の座標(ST,YR)が違和感大領域R2内に位置している場合(ステップ515:Yes)、CPUは、ステップ520に処理を進め、違和感ファクタの積算値を演算する。違和感ファクタとは、自車両の挙動(出力、応答)に対して運転者が覚える違和感の度合いを示す指標である。違和感ファクタが大きいほど運転者が覚える違和感の度合いは大きい。本実施形態では、違和感ファクタは、|ΔYR・ST|として規定される(「・」は乗算記号を表す)。ここで、ΔYRは、座標(ST,YR)と違和感小領域R1とのy軸方向の距離(別言すれば、ヨーレートYRの領域R1からの乖離量)を表す。例えば、図6に示すように、現時点の座標(ST,YR)が位置Peに位置している場合、ΔYRは位置Peから違和感小領域R1の境界線までのy軸方向の距離に等しい。一方、STはx座標の値に等しい。即ち、違和感ファクタは、座標(ST,YR)の値が違和感小領域R1から乖離しているほど大きくなる。
【0044】
具体的には、CPUは、ステップ520にて現時点の座標(ST,YR)に基づいて違和感ファクタ(=|ΔYR・ST|)を演算し、RAMに格納されている違和感ファクタ(初期値:ゼロ)にその値を加算する。これにより、現在実行中の操舵支援制御が開始されてから現時点に至るまでの期間において演算された違和感ファクタ(後述するステップ550にてリセットされた値は除く)の積算値が演算される。CPUは、このようにして演算した違和感ファクタ積算値をRAMに格納する。加えて、CPUは、タイマTの値が初期値(ゼロ)でない場合、タイマTの値をリセット(初期化)する(後述)。
【0045】
なお、違和感ファクタはこれに限られず、例えば、|ΔST|として規定されてもよい。ここで、ΔSTは、座標(ST,YR)と違和感小領域R1とのx軸方向の距離(別言すれば、ドライバ操舵トルクSTの領域R1からの乖離量)を表す。
また、自車両の挙動を決定する物理量には、ヨーレートYRの他に横加速度LA又は操舵角SAが挙げられる。このため、図6のグラフに代えて、ドライバ操舵トルクSTと横加速度LAとの関係を規定したグラフにおいて違和感小領域R1と違和感大領域R2とを区画し、違和感ファクタを|ΔLA・ST|として規定してもよい。ここで、ΔLAは、座標(ST,LA)と違和感小領域R1とのy軸方向の距離(別言すれば、横加速度LAの領域R1からの乖離量)を表す。
或いは、図6のグラフに代えて、ドライバ操舵トルクSTと操舵角SAとの関係を規定したグラフにおいて違和感小領域R1と違和感大領域R2とを区画し、違和感ファクタを|ΔSA・ST|として規定してもよい。ここで、ΔSAは、座標(ST,SA)と違和感小領域R1とのy軸方向の距離(別言すれば、操舵角SAの領域R1からの乖離量)を表す。
更に、無次元化することにより上記物理量(ヨーレートYR、横加速度LA及び操舵角SA)のうち2つ以上を組み込んだ違和感ファクタを規定してもよい。
【0046】
続いて、CPUは、ステップ525に処理を進め、ステップ520にて演算された違和感ファクタ積算値が所定の許容閾値以上であるか否かを判定する。許容閾値は、運転者の違和感の許容範囲の上限値であり、実験又はシミュレーションにより予め設定され得る。違和感ファクタ積算値が許容閾値未満の場合(ステップ525:No)、CPUは、ステップ510に処理を進める。ステップ510では、CPUは、運転者の違和感はまだ許容範囲内であると判定し、オーバーライドフラグの値を0に設定する。その後、CPUは、ステップ595に処理を進めてオーバーライド判定処理を終了し、図4のステップ430に処理を進める。
【0047】
ステップ430では、CPUは、オーバーライドフラグの値が1であるか否かを判定する。オーバーライドフラグの値が0の場合(ステップ430:No)、CPUは、ステップ440に処理を進めて、上述した操舵支援制御の終了条件又はキャンセル条件が成立しているか否かを判定する。終了条件又はキャンセル条件が成立している場合(ステップ440:Yes)、CPUは、ステップ450に処理を進めて操舵支援制御を終了又はキャンセルする。続いて、CPUは、ステップ460に処理を進めて違和感ファクタ積算値をリセットするとともに、タイマTの値が初期値でない場合はタイマTの値をリセットする。そして、ステップ495に処理を進めて本ルーチンを一旦終了する。
【0048】
一方、終了条件又はキャンセル条件が不成立の場合(ステップ440:No)、CPUは、ステップ495に処理を進めて本ルーチンを一旦終了する。即ち、違和感ファクタ積算値(及び、タイマTの値が初期値でない場合はタイマTの値)を保持したまま、オーバーライドを実行せずに操舵支援制御の実行を継続する。
【0049】
上記の処理(違和感ファクタ積算値が許容閾値未満のためオーバーライドフラグの値が0であり、且つ、操舵支援制御の終了条件又はキャンセル条件が成立していないことにより、操舵支援制御の実行が継続される処理)を繰り返す過程で違和感ファクタ積算値が許容閾値以上になった場合(ステップ525:Yes)、CPUは、ステップ530に処理を進める。ステップ530では、CPUは、運転者の違和感が許容範囲を超えた(即ち、オーバーライド実行条件が成立した)と判定し、オーバーライドフラグの値を1に設定する。その後、CPUは、ステップ595に処理を進めてオーバーライド判定処理を終了し、図4のステップ430に処理を進める。
【0050】
オーバーライドフラグの値が1の場合(ステップ430:Yes)、CPUは、ステップ450に処理を進めて、オーバーライドを実行する。即ち、操舵支援制御をキャンセルして運転者の操舵操作を優先させる。続いて、CPUは、ステップ460に処理を進めて違和感ファクタ積算値及びタイマTの値(初期値でない場合)をリセットする。そして、ステップ495に処理を進めて本ルーチンを一旦終了する。
【0051】
これに対し、上記の処理を繰り返す過程で現時点の座標(ST,YR)が違和感小領域R1に移動した場合(ステップ515:No)、CPUは、ステップ535に処理を進め、RAMに格納されている違和感ファクタ積算値が正であるか否かを判定する。ここで、「違和感ファクタ積算値が正である」とは、現在の操舵支援制御の実行中に座標(ST,YR)が違和感大領域R2に位置していた期間があることを意味する。一方、「違和感ファクタ積算値が正ではない」とは、違和感ファクタ積算値がゼロであることを意味し、これは、現在の操舵支援制御の実行中に座標(ST,YR)が常に違和感小領域R1に位置していた(即ち、領域R2に位置していた期間がない)ことを意味する。なお、厳密には、座標(ST,YR)が違和感大領域R2に位置していても、x座標の値(=ST)がゼロの場合、違和感ファクタはゼロである。このような事態は運転者が操舵操作を行う過程で一時的に発生すると考えられるが、座標(ST,YR)が違和感大領域R2に位置している期間中、常にx座標の値がゼロである状況は想定され難いため、本実施形態ではこのような状況は考慮しないものとする。
【0052】
違和感ファクタ積算値が正の場合(ステップ535:Yes)、CPUは、ステップ540に処理を進め、タイマT(初期値:ゼロ)を起動して、「座標(ST,YR)が違和感小領域R1に位置しており且つ違和感ファクタ積算値が正である期間」のカウントアップを開始する。続いて、CPUは、ステップ545に処理を進め、タイマTの値が所定の時間閾値Tthに到達した(T≧Tthが成立した)か否かを判定する。時間閾値Tthは、違和感ファクタ積算値をオーバーライドの実行可否判定に使用できる有効時間の上限値である。即ち、タイマTの値が時間閾値Tthに到達した時点で違和感ファクタ積算値は無効となり、リセットされる(後述)。
タイマTの値がまだ時間閾値Tthに到達していない場合(ステップ545:No)、CPUは、違和感ファクタ積算値及びタイマTの値を保持したままステップ510に処理を進めてオーバーライドフラグの値を0に設定する。その後の処理は上述した通りである。
【0053】
これに対し、現在の操舵支援制御の実行中、座標(ST,YR)が常に違和感小領域R1に位置していた場合(ステップ515:No)、CPUは、ステップ535に処理を進める。この場合、違和感ファクタ積算値はゼロ(初期値)のままである(ステップ535:No)ため、CPUは、ステップ510に処理を進めてオーバーライドフラグの値を0に設定する。その後の処理は上述した通りである。
【0054】
タイマTの値が時間閾値Tthに到達する前に座標(ST,YR)が違和感大領域R2に再度移動した場合(ステップ515:Yes)、CPUは、ステップ520に処理を進め、RAMに保持されている違和感ファクタ積算値に現時点で演算された違和感ファクタを加算して違和感ファクタ積算値を更新する。加えて、このように、座標(ST,YR)が違和感大領域R2から違和感小領域R1に移動した後で再度違和感大領域R2に戻ってきた場合、CPUは、タイマTの値をリセットする。その後の処理は、上述した通りである。
【0055】
一方、タイマTの値が時間閾値Tthに到達した場合(ステップ545:Yes)、CPUは、ステップ550に処理を進める。ステップ550では、CPUは、違和感ファクタ積算値は無効になったと判定し、当該積算値及びタイマTの値をリセットする。続いて、CPUは、ステップ510に処理を進め、オーバーライドフラグの値を0に設定する。その後の処理は上述した通りである。
【0056】
以上説明したように、本実施装置では、ドライバ操舵トルクST(即ち、運転者の操舵操作に関連した入力値)だけではなく、ヨーレートYR(当該入力値に対する実出力値)にも基づいてオーバーライドの実行可否が判定される。具体的には、現時点のドライバ操舵トルクSTに対するヨーレートYRの値(即ち、座標(ST,YR))に基づいて違和感ファクタが演算され、現在の操舵支援制御の実行中に演算された違和感ファクタの積算値が演算される。この違和感ファクタ積算値は、運転者の違和感が大きいほど大きくなり、且つ、運転者の違和感が長期に亘って継続するほど大きくなる。オーバーライドは、違和感ファクタ積算値が許容閾値以上となった場合に実行される。この構成によれば、許容閾値を適切に設定することにより、運転者の違和感の許容範囲内でオーバーライドを実行することができる。
【0057】
以上、実施形態に係る運転支援装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0058】
例えば、違和感小領域R1の形状は図6のグラフに示される形状に限られない。例えば、違和感小領域R1の+y軸方向側の境界線B1と破線BLとのy軸方向の幅、及び、-y軸方向側の境界線B2と破線BLとのy軸方向の幅は、何れも、ドライバ操舵トルクSTの大きさ|ST|がゼロに近づくにつれて狭くなり、|ST|が増加するにつれて広くなるような曲線状であってもよい。或いは、破線BLの式は、第1象限において、ドライバ操舵トルクSTが増加するにつれて微分係数が小さくなり、所定のヨーレートYRに収束するような曲線の式であってもよい。この場合、第3象限における破線BLの式は、第1象限における破線BLの式と原点に関して点対称の関係にある。
【0059】
また、上記実施形態では、座標(ST,YR)が違和感大領域R2から違和感小領域R1に移動した場合、座標(ST,YR)が違和感小領域R1に留まっている期間が時間閾値Tthに到達した時点で違和感ファクタ積算値をリセットするように構成されているが、当該積算値をリセットする方法はこれに限られない。例えば、座標(ST,YR)が違和感大領域R2から違和感小領域R1に移動した場合、ECU10は、違和感なしファクタの積算値を演算してもよい。違和感なしファクタとは、自車両の挙動(出力、応答)に対して運転者が違和感を覚えない度合いを示す指標である。違和感なしファクタが大きいほど運転者は違和感を覚えない。違和感なしファクタは、例えば、|ΔYR|又は|ΔST|として規定され得る。なお、この場合のΔYRは、違和感小領域R1内の座標(ST,YR)と当該領域R1の境界線とのy軸方向の距離のうち短いほうの値であり、ΔSTは、違和感小領域R1内の座標(ST,YR)と当該領域R1の境界線とのx軸方向の距離のうち短いほうの値である。ECU10は、違和感なしファクタの積算値が所定の閾値以上となった時点で違和感ファクタ積算値をリセットするように構成されてもよい。
【0060】
更に、上記実施形態では、座標(ST,YR)が違和感小領域R1内に位置している場合には違和感ファクタは演算されないが、この構成に限られない。例えば、座標(ST,YR)が違和感小領域R1内に位置している場合には違和感ファクタがゼロであると演算するように構成されてもよい。
【0061】
更に、本発明の構成は、ステアバイワイヤ式の車両にも適用され得る。
【符号の説明】
【0062】
10:運転支援ECU、11:周囲センサ、12:車両状態センサ、13:運転操作センサ、20:ステアリングECU、21:モータドライバ、22:転舵用モータ、30:ブレーキECU、31:ブレーキアクチュエータ、32:摩擦ブレーキ機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6