(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】調光シート、および調光シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1334 20060101AFI20241224BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20241224BHJP
C09K 19/54 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
G02F1/1334
G02F1/13 505
C09K19/54 A
(21)【出願番号】P 2022003782
(22)【出願日】2022-01-13
(62)【分割の表示】P 2021049982の分割
【原出願日】2021-03-24
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 泰佑
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/180923(WO,A1)
【文献】特開2000-098358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1334
G02F 1/13
C09K 19/54
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空隙を区画する有機高分子層と、
非重合性液晶化合物を含み前記空隙を埋める液晶組成物と、を備え、
前記非重合性液晶化合物の駆動によって可視光線の透過率を変える調光シートであって、
前記有機高分子層と前記液晶組成物との総重量に対する前記有機高分子層の重量の割合は、30質量%以上60質量%以下であり、
前記液晶組成物は、非重合性粘度低下剤を含み、
前記液晶組成物に含まれる全ての前記非重合性粘度低下剤は、下記式(1)を満たし、
前記非重合性液晶化合物と前記非重合性粘度低下剤との総重量に対する前記液晶組成物に含まれる全ての前記非重合性粘度低下剤の重量の割合は、2質量%以上6質量%以下である
【化1】
Xは、炭素原子数が1以上6以下の直鎖または分岐のアルキル基、またはアリール基
を構成する1つの炭素、または各別の炭素に結合する3つの水素原子を除いた基;
R
1、R
2、R
3は、Xを構成する
前記1つの炭素、または
前記各別の炭素に結合する、それぞれ独立に水素原子、または式(2)で表される官能基;
r
4は、炭素原子数が1以上10以下の直鎖または分岐のアルキル基、またはエーテル基;
【化2】
r
5は、炭素原子数が1以上10以下の直鎖または分岐のアルキル基、またはエーテル基である
調光シート。
【請求項2】
前記式(1)においてXは、炭素原子数が1以上6以下の直鎖アルキル基であり、
前記式(1)においてR
1は、前記式(2)で表される官能基であり、
前記式(1)においてR
2、R
3は、それぞれ独立に水素原子である
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記非重合性液晶化合物のNI点が100℃以上145℃以下である
請求項1または2に記載の調光シート。
【請求項4】
複数の空隙を区画する有機高分子層、および、非重合性液晶化合物を含み前記空隙を埋める液晶組成物を備え、前記非重合性液晶化合物の駆動によって可視光線の透過率を変える調光シートを製造する方法であって、
前記液晶組成物と紫外線硬化性化合物とを含む層で前記紫外線硬化性化合物を重合することにより前記液晶組成物からなる液晶粒子を前記有機高分子層から相分離することを含み、
前記有機高分子層と前記液晶組成物との総重量に対する前記有機高分子層の重量の割合は、30質量%以上60質量%以下であり、
前記液晶組成物は、非重合性粘度低下剤を含み、
前記液晶組成物に含まれる全ての前記非重合性粘度低下剤は、下記式(1)を満たし、
前記非重合性液晶化合物と前記非重合性粘度低下剤との総重量に対する前記液晶組成物に含まれる全ての前記非重合性粘度低下剤の重量の割合は、2質量%以上6質量%以下である
【化3】
Xは、炭素原子数が1以上6以下の直鎖または分岐のアルキル基、またはアリール基
を構成する1つの炭素、または各別の炭素に結合する3つの水素原子を除いた基;
R
1、R
2、R
3は、Xを構成する
前記1つの炭素、または
前記各別の炭素に結合する、それぞれ独立に水素原子、または式(2)で表される官能基;
r
4は、炭素原子数が1以上10以下の直鎖または分岐のアルキル基、またはエーテル基;
【化4】
r
5は、炭素原子数が1以上10以下の直鎖または分岐のアルキル基、またはエーテル基である
調光シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非重合性液晶化合物を含む調光シート、および調光シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、第1透明電極層、第2透明電極層、および第1透明電極層と第2透明電極層とに挟まれた調光層を備える。調光層に含まれる非重合性液晶化合物の配向状態は、2つの透明電極層の間の電位差の変化に追従して調光シートの光透過率を変える。例えば、非重合性液晶化合物の配向秩序が構築されるとき、調光シートは高い光透過率を示す。非重合性液晶化合物の長軸方向が無秩序であるとき、調光シートは低い光透過率を示す(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、2つの透明電極層の間の電位差の変化に対する光透過率の応答性は、調光シートの設置された環境温度に基づいて変わる。電位差の切り換えから所定時間以内に光透過率が変わる環境温度の範囲が広いほど、調光シートの適用分野は広がる。特に、寒冷地での駆動を要する適用分野には、低い環境温度において所定時間以内に光透過率が変わることが求められる。例えば、車両の窓ガラスに調光シートが貼り付けられる場合、調光シートの設置される環境温度は、車室内の物品よりも大きく低下する。光透過率の変更に要する時間を低温環境で短縮可能であれば、車両用に向けた調光シートの適性が高められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための調光シートは、複数の空隙を区画する有機高分子層と、非重合性液晶化合物を含み前記空隙を埋める液晶組成物と、を備え、前記非重合性液晶化合物の駆動によって可視光線の透過率を変える調光シートであって、前記有機高分子層と前記液晶組成物との総重量に対する前記有機高分子層の重量の割合は、30質量%以上60質量%以下であり、前記液晶組成物は、非重合性粘度低下剤を含み、前記液晶組成物に含まれる全ての前記非重合性粘度低下剤は、下記式(1)を満たし、前記非重合性液晶化合物と前記非重合性粘度低下剤との総重量に対する前記液晶組成物に含まれる全ての前記非重合性粘度低下剤の重量の割合は、2質量%以上6質量%以下である。式(1)中のXは、炭素原子数が1以上6以下の直鎖または分岐のアルキル基、またはアリール基であり、R1、R2、R3は、Xを構成する1つの炭素、または各別の炭素に結合する、それぞれ独立に水素原子、または式(2)で表される官能基であり、r4は、炭素原子数が1以上10以下の直鎖または分岐のアルキル基、またはエーテル基である。式(2)中のr5は、炭素原子数が1以上10以下の直鎖または分岐のアルキル基、またはエーテル基である。
【0006】
【0007】
【0008】
上記課題を解決するための調光シートの製造方法は、複数の空隙を区画する有機高分子層、および、非重合性液晶化合物を含み前記空隙を埋める液晶組成物を備え、前記非重合性液晶化合物の駆動によって可視光線の透過率を変える調光シートを製造する方法であって、前記液晶組成物と紫外線硬化性化合物とを含む層で前記紫外線硬化性化合物を重合することにより前記液晶組成物からなる液晶粒子を前記有機高分子層から相分離することを含み、前記有機高分子層と前記液晶組成物との総重量に対する前記有機高分子層の重量の割合は、30質量%以上60質量%以下であり、前記液晶組成物は、非重合性粘度低下剤を含み、前記液晶組成物に含まれる全ての前記非重合性粘度低下剤は、上記式(1)を満たし、前記非重合性液晶化合物と前記非重合性粘度低下剤との総重量に対する前記液晶組成物に含まれる全ての前記非重合性粘度低下剤の重量の割合は、2質量%以上6質量%以下である。
【0009】
上記各構成によれば、非重合性液晶化合物のなかの電子の局在化と、非重合性粘度低下剤のなかの電子の局在化との相互作用によって、非重合性粘度低下剤の有する末端のアルキル基が、相互に隣り合う非重合性液晶化合物の間に介在しやすくなる。非極性基であるアルキル基が非重合性液晶化合物間に介在することは、非重合性液晶化合物における分子間相互作用を弱める。これにより、-20℃のような低い環境温度における光透過率の応答性を高めることが可能となる。
【0010】
また、有機高分子層が区画する空隙を液晶組成物が埋めるという構成は、有機高分子層を形成するための光重合性化合物と液晶組成物とを用い、光重合性化合物の重合を通じ、有機高分子層から液晶組成物が相分離されることによって形成される。この際、非重合性粘度低下剤は、有機高分子層から相分離されることに好適である。さらに、上記式(1)(2)が表す低分子構造もまた、光重合性化合物の重合体から拡散すること、すなわち有機高分子層から相分離されることに好適である。
【0011】
上記調光シートにおいて、前記式(1)においてXは、炭素原子数が1以上6以下の直鎖アルキル基であり、前記式(1)においてR1は、前記式(2)で表される官能基であり、前記式(1)においてR2、R3は、それぞれ独立に水素原子であってもよい。
【0012】
上記調光シートにおいて、前記非重合性液晶化合物のNI点が100℃以上145℃以下であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電位差の変化に応答して光透過率を変化させることに要する時間を短縮可能にした調光シート、および調光シートの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態における調光装置の概略構成を示す構成図。
【
図2】一実施形態における調光シートの断面構成を示す構成図。
【
図3】各実施例の高分子分散型用液晶組成物の組成および評価結果を示す表。
【
図4】各実施例の高分子分散型用液晶組成物の組成および評価結果を示す表。
【
図5】各実施例の高分子分散型用液晶組成物の組成および評価結果を示す表。
【
図6】各実施例の高分子分散型用液晶組成物の組成および評価結果を示す表。
【
図7】各比較例の高分子分散型用液晶組成物の組成および評価結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0015】
調光シート、高分子分散型用液晶組成物、および調光シートの製造方法の一実施形態を説明する。まず、
図1を参照して調光装置の構成を説明する。次に、
図2を参照して調光シート、および高分子分散型用液晶組成物の構成を説明する。最後に、調光シートの製造方法、および調光シートの各実施例を説明する。
【0016】
調光シートは、透明基材に貼り付けられる。透明基材は、ガラス体や樹脂体である。透明基材の一例は、車両や航空機等の移動体が搭載する窓ガラス、建物に設置された窓ガラス、車内や屋内に配置された間仕切りである。調光シートが貼り付けられる面は、平面状あるいは曲面状である。調光シートは、2つの透明基材によって挟まれてもよい。
【0017】
調光シートの駆動型式は、ノーマル型、あるいはリバース型である。ノーマル型の調光シートは、電圧印加によって不透明状態から透明状態に遷移し、当該電圧印加の解除によって透明状態から不透明状態に戻る。リバース型の調光シートは、電圧印加によって透明状態から不透明状態に遷移し、当該電圧印加の解除によって不透明状態から透明状態に戻る。
【0018】
なお、ノーマル型とリバース型とは、2つの透明電極層と調光層とを備える点において共通する。以下では、リバース型の構成と作用とを主に説明し、ノーマル型のなかでリバース型と相違する構成を付記し、ノーマル型のなかでリバース型と重複する構成を割愛する。
【0019】
[調光装置]
図1が示すように、調光装置10は、調光シート11と、駆動部12とを備える。調光シート11は、調光層31、第1配向層32、第2配向層33、第1透明電極層34、第2透明電極層35、第1透明支持層36、および、第2透明支持層37を備える。
【0020】
調光層31は、第1配向層32と第2配向層33との間に位置する。調光層31の第1面31Fは、第1配向層32に接し、調光層31の第2面31Sは、第2配向層33に接する。第1配向層32は、調光層31と第1透明電極層34との間に位置し、かつ調光層31と第1透明電極層34とに接する。第2配向層33は、調光層31と第2透明電極層35との間に位置し、かつ調光層31と第2透明電極層35とに接する。
【0021】
第1透明電極層34は、第1接続端子22Aと第1配線23Aとを通じて、駆動部12に接続される。第1透明電極層34は、第1配向層32と第1透明支持層36との間に位置し、第1配向層32と第1透明支持層36とに接する。第2透明電極層35は、第2接続端子22Bと第2配線23Bとを通じて、駆動部12に接続される。第2透明電極層35は、第2配向層33と第2透明支持層37との間に位置し、第2配向層33と第2透明支持層37とに接する。
【0022】
調光層31は、有機高分子層31P(
図2を参照)と液晶組成物31LC(
図2を参照)とを備える。有機高分子層31Pは、液晶組成物31LCに埋められた空隙31Dを区画する。有機高分子層31Pによる液晶組成物31LCの保持型式は、高分子分散型、ポリマーネットワーク型、カプセル型からなる群から選択されるいずれか一種である。
【0023】
高分子分散型の調光層31は、孤立した多数の空隙31Dを区画する有機高分子層31Pを備え、有機高分子層31Pに分散した空隙31Dのなかに液晶組成物31LCを保持する。ポリマーネットワーク型の調光層31は、3次元の網目状を有した空隙31Dを有機高分子層31Pを備え、相互に連通した網目状の空隙31Dのなかに液晶組成物31LCを保持する。カプセル型の調光層31は、有機高分子層31Pのなかに分散したカプセル状の空隙31Dのなかに液晶組成物31LCを保持する。
【0024】
第1配向層32と第2配向層33とは、それぞれ非重合性液晶化合物LCMの配向方向を規制する。第1配向層32と第2配向層33とは、それぞれ無色透明、あるいは有色透明に視認される。第1配向層32と第2配向層33とは、垂直配向膜である。垂直配向膜は、非重合性液晶化合物LCMの長軸方向を調光層31の厚さ方向に沿わせ、調光層31に可視光線を透過させる。
【0025】
第1配向層32と第2配向層33とを構成する材料は、有機高分子化合物、あるいは無機酸化物である。有機高分子化合物は、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、シアン化化合物からなる群から選択されるいずれか一種である。無機酸化物は、シリコン酸化物、酸化ジルコニウム、シリコーンからなるいずれか一種である。
【0026】
第1透明電極層34と第2透明電極層35とは、それぞれ無色透明、あるいは有色透明に視認される。第1透明電極層34と第2透明電極層35とを構成する材料は、それぞれ導電性無機酸化物、金属、あるいは導電性有機高分子化合物である。導電性無機酸化物の一例は、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛からなる群から選択されるいずれか一種である。金属は、金や銀のナノワイヤーである。導電性有機高分子化合物の一例は、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)からなる群から選択されるいずれか1種である。
【0027】
第1透明支持層36と第2透明支持層37とは、それぞれ無色透明、あるいは有色透明に視認される。第1透明支持層36と第2透明支持層37とを構成する材料は、それぞれ有機高分子化合物、あるいは無機高分子化合物である。有機高分子化合物の一例は、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリオレフィンからなる群から選択されるいずれか一種である。無機高分子化合物の一例は、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素からなる群から選択されるいずれか一種である。
【0028】
駆動部12は、第1透明電極層34と第2透明電極層35とに別々に接続される。駆動部12は、第1透明電極層34と第2透明電極層35との間に、駆動電圧を印加する。駆動電圧は、非重合性液晶化合物LCMの配向状態を変えるための電圧である。駆動部12は、非重合性液晶化合物LCMの配向状態を変えて、透明状態と不透明状態とのうちの一方から他方に調光シート11を切り替える。不透明状態は、透明状態よりも低い平行線透過率を有し、また透明状態よりも高いヘイズを有する。
【0029】
駆動電圧の印加が解除されているとき、非重合性液晶化合物LCMは、第1配向層32と第2配向層33とから配向規制力を受け、非重合性液晶化合物LCMの長軸方向は、調光層31の厚さ方向に沿う。これにより、調光シート11は、可視光全域にわたり調光層31での散乱を抑えて、透明状態となる。
【0030】
駆動電圧が印加されはじめると、非重合性液晶化合物LCMは、電界による配向規制力を受け、非重合性液晶化合物LCMの長軸方向は、電界方向と直交する方向に向けて移動しはじめる。この際、非重合性液晶化合物LCMの長軸方向は、液晶組成物31LCでの分子間の相互作用と空隙31Dの大きさとによる制約を受け、十分に移動しきれず、無秩序になる。これにより、調光シート11は、可視光全域にわたり調光層31での散乱を生じ、不透明状態となる。
【0031】
駆動電圧の印加が再び解除されると、非重合性液晶化合物LCMは、電界による配向規制力を解除され、第1配向層32と第2配向層33とによる配向規制力に従い、非重合性液晶化合物LCMの長軸方向を調光層31の厚さ方向に沿わせる。これにより、調光シート11は、可視光全域にわたり調光層31での散乱を抑え、再び透明状態となる。
【0032】
なお、電圧印加による非重合性液晶化合物LCMの配向状態の変更に基づいて、調光シート11の透明状態と不透明状態とを切り換える構成であれば、調光シート11は、第1配向層32と第2配向層33とを割愛してもよい。この際、調光層31は、調光層31の第1面31Fは、第1透明電極層34に接し、調光層31の第2面31Sは、第2透明電極層35に接する。すなわち、調光シート11の駆動型式は、リバース型からノーマル型に変更してもよい。
【0033】
第1配向層32と第2配向層33とが割愛された場合、駆動電圧の印加が解除されているとき、非重合性液晶化合物LCMは、配向規制力を受けず、非重合性液晶化合物LCMの長軸方向は、無秩序になる。これにより、調光シート11は、可視光全域にわたり調光層31での散乱を生じ、不透明状態となる。
【0034】
駆動電圧が印加されると、非重合性液晶化合物LCMは、電界による配向規制力を受け、非重合性液晶化合物LCMの長軸方向は、電界方向に沿う配向状態となる。これにより、調光シート11は、可視光全域にわたり調光層31での散乱を抑えて、透明状態となる。
【0035】
駆動電圧の印加が再び解除されると、非重合性液晶化合物LCMは、電界による配向規制力を解除され、非重合性液晶化合物LCMの長軸方向は、無秩序になる。これにより、調光シート11は、可視光全域にわたり調光層31での散乱を生じ、再び不透明状態となる。
【0036】
[調光シート]
図2が示すように、調光層31は、有機高分子層31P、液晶組成物31LC、およびスペーサーSPとを備える。有機高分子層31Pは、液晶組成物31LCに埋められた空隙31Dを区画する。有機高分子層31Pは、複数の空隙31Dを区画する。空隙31Dは、隣接する他の空隙31Dと隔絶されてもよいし、隣接する他の空隙31Dと接続されてもよい。空隙31Dの大きさは、2種類以上であり、相対的に大きい空隙31H1と、相対的に小さい空隙31H2とを含む。空隙31Dの形状は、球形状、楕円体状、あるいは不定形状である。
【0037】
[光重合性化合物]
有機高分子層31Pは、光重合性化合物の硬化体である。光重合性化合物は、紫外線硬化性化合物でもよいし、電子線硬化性化合物でもよい。光重合性化合物は、液晶組成物31LCと相溶性を有する。空隙31Dの寸法制御性を高める場合、光重合性化合物は、紫外線硬化性化合物であることが好ましい。紫外線硬化性化合物の一例は、分子構造の末端に重合性不飽和結合を含む。あるいは、紫外線硬化性化合物は、分子構造の末端以外に重合性の不飽和結合を含む。光重合性化合物は、1種の重合性化合物、あるいは2種以上の重合性化合物の組み合わせである。
【0038】
紫外線硬化性化合物は、アクリレート化合物、メタクリレート化合物、スチレン化合物、チオール化合物、および、各化合物のオリゴマーからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0039】
アクリレート化合物は、モノアクリレート化合物、ジアクリレート化合物、トリアクリレート化合物、テトラアクリレート化合物を含む。アクリレート化合物の一例は、ブチルエチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートである。メタクリレート化合物の一例は、ジメタクリレート化合物、トリメタクリレート化合物、テトラメタクリレート化合物である。メタクリレート化合物の一例は、N,N‐ジメチルアミノエチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートである。チオール化合物の一例は、1,3-プロパンジチオール、1,6-ヘキサンジチオールである。スチレン化合物の一例は、スチレン、メチルスチレンである。
【0040】
有機高分子層31Pと液晶組成物31LCとの総量に対する有機高分子層31Pの含有量の下限値は20質量%であり、より好ましい含有量の下限値は30質量%である。有機高分子層31Pと液晶組成物31LCとの総量に対する有機高分子層31Pの含有量の上限値は70質量%であり、より好ましい含有量の上限値は60質量%である。
【0041】
有機高分子層31Pの含有量の下限値、および上限値は、光重合性化合物の硬化過程において、液晶組成物31LCからなる液晶粒子が光重合性化合物の硬化体から相分離する範囲である。有機高分子層31Pの機械的な強度を高めることを要する場合、有機高分子層31Pの含有量の下限値が高いことが好ましい。非重合性液晶化合物LCMの駆動電圧を低めることを要する場合、有機高分子層31Pの含有量の上限値が低いことが好ましい。
【0042】
[液晶組成物]
液晶組成物31LCは、高分子分散型液晶組成物である。液晶組成物31LCは、非重合性液晶化合物LCMと非重合性粘度低下剤DPとを含み、空隙31Dに充填されている。液晶組成物31LCは、二色性色素、消泡剤、酸化防止剤、耐候剤、溶剤を含有してもよい。耐候剤の一例は、紫外線吸収剤や光安定剤である。
【0043】
[非重合成性液晶化合物]
非重合性液晶化合物LCMの長軸方向の誘電率は、非重合性液晶化合物LCMの短軸方向の誘電率よりも大きい、正の誘電異方性を有する。あるいは、非重合性液晶化合物LCMの長軸方向の誘電率は、非重合性液晶化合物LCMの短軸方向の誘電率よりも低い、負の誘電異方性を有する。非重合性液晶化合物LCMの誘電異方性は、調光シート11における各配向層の有無、および駆動型式に基づいて適宜選択される。
【0044】
非重合性液晶化合物LCMは、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、ピリダジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ビフェニルシクロヘキサン系、ジシアノベンゼン系、ナフタレン系、ジオキサン系からなる群から選択される少なくとも一種である。非重合性液晶化合物LCMは、1種の液晶化合物、あるいは2種以上の液晶化合物の組み合わせである。
【0045】
非重合性液晶化合物LCMの一例は、下記式(10)に表される。
R11-A11-Z11-A12-Z12-A13-Z13-A14-R12…(10)
R11は、水素原子、炭素原子数1以上20以下のアルキル基である。R11のアルキル基に含まれる1つ、または隣接しない2つ以上のメチレン結合は、酸素原子、エチレン結合、エステル結合、ジエーテル結合からなる群から選択されるいずれかに置換可能である。
【0046】
R12は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、または、炭素原子数1以上15以下のアルキル基である。R12のアルキル基に含まれる1つ、または隣接しない2つ以上のメチレン結合は、酸素原子、エチレン結合、エステル結合、ジエーテル結合からなる群から選択されるいずれかに置換可能である。
【0047】
A11、A12、A13、A14は、それぞれ独立して、1,4-フェニレン基、2,6-ナフチレン基を表す。1,4-フェニレン基、2,6-ナフチレン基の1つ、または2つ以上の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基に置換可能である。A11、A12、A13、A14は、それぞれ独立して、1,4-シクロヘキシレン基、3,6-シクロヘキセニレン基、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル基、ピリジン-2,5-ジイル基でもよい。A13、A14は、それぞれ独立して、単結合でもよい。
【0048】
Z11、Z12、Z13は、それぞれ独立して、単結合、エステル結合、ジエーテル結合、エチレン結合、フルオロエチレン結合、カルボニル結合からなる群から選択されるいずれか一種を表す。
【0049】
非重合性液晶化合物LCMの配向状態が電位差の変更に対して変わる速度は、環境温度に対して非線形的に変わり、環境温度が低いほど大きく遅くなる。有機高分子層31Pに区画された空隙31Dのなかで非重合性液晶化合物LCMが長軸方向の向きを変えることは、表示装置に用いられる液晶パネルのように、層状の広い空間のなかに液晶組成物31LCが充填されている構造と比べて特に困難となる。非重合性液晶化合物LCMの応答性は、非重合性液晶化合物LCMの分子間における相互作用に大きく依存する。
【0050】
非重合性液晶化合物LCMのNI点は、非重合性液晶化合物LCMがネマチック相(N相)から等方性液体相(I相)に相転移する温度である。非重合性液晶化合物LCMのNI点は、環境温度において、非重合性液晶化合物LCMの異方性が消失する度合いを示す。また、非重合性液晶化合物LCMのNI点は、非重合性液晶化合物LCMにおける分子間相互作用の度合いを少なからず反映する。
【0051】
非重合性液晶化合物LCMが2種類以上の液晶化合物の組み合わせである場合、非重合性液晶化合物LCMのNI点は、各液晶化合物の配合比を加重とした各液晶化合物におけるNI点の加重平均値である。非重合性液晶化合物LCMのNI点は、NI点が相互に異なる2種類以上の液晶化合物の組成によって上昇も降下も可能である。
【0052】
100℃のような高い環境温度において非重合性液晶化合物LCMの配向秩序を高めることが求められる場合、NI点が高いことが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。非重合性液晶化合物LCMと光重合性化合物との均一化を高めることが求められる場合、NI点が低いことが好ましく、145℃以下であることがより好ましい。
【0053】
非重合性液晶化合物LCMのCN点は、非重合性液晶化合物LCMが結晶相(C相)からネマチック相(N相)に相転移する温度である。非重合性液晶化合物LCMのCN点は、環境温度において、非重合性液晶化合物LCMの流動性が消失する度合いを示す。また、非重合性液晶化合物LCMのCN点は、非重合性液晶化合物LCMにおける分子間相互作用の度合いを大きく反映する。
【0054】
非重合性液晶化合物LCMが2種類以上の液晶化合物の組み合わせである場合、非重合性液晶化合物LCMのCN点は、各液晶化合物の配合比を加重とした各液晶化合物におけるCN点の加重平均値である。非重合性液晶化合物LCMのCN点は、NI点が相互に異なる2種類以上の液晶化合物の組成によって上昇も降下も可能である。
【0055】
-20℃のような高い環境温度において非重合性液晶化合物LCMの流動性を高めることが求められる場合、CN点が低いことが好ましく、25℃以下であることがより好ましく、0℃以下であることがより好ましい。
【0056】
非重合性液晶化合物LCMの長軸方向と短軸方向との屈折率差Δn(Δn=異常光屈折率ne-常光屈折率no)は、非重合性液晶化合物LCMにおける分子間相互作用の度合いを示す。また、非重合性液晶化合物LCMの屈折率差Δnは、波長が650nmの可視光線における屈折率の差であり、駆動電圧の印加時と非印加時との間での可視光線の散乱度合いの差を示す。非重合性液晶化合物LCMが2種類以上の液晶化合物の組み合わせである場合、非重合性液晶化合物LCMの屈折率差Δnの上限値は、全ての液晶化合物の屈折率差Δnから得られる上限値である。非重合性液晶化合物LCMの屈折率差Δnの下限値は、全ての液晶化合物の屈折率差Δnから得られる下限値である。
【0057】
高い環境温度における非重合性液晶化合物LCMの配向制御性を高めることを要する場合、屈折率差Δnの下限値が高いことが好ましい。また、透明状態と不透明状態との間のヘイズの差を高めることを要する場合、屈折率差Δnの下限値が高いことが好ましい。100℃のような高い環境温度において非重合性液晶化合物LCMの配向制御性を高めることを要する場合、非重合性液晶化合物LCMの屈折率差Δnの下限値が0.005であることが好ましく、0.01であることがより好ましい。あるいは、ヘイズの差を高めることを要する場合、非重合性液晶化合物LCMの屈折率差Δnの下限値が0.005であることが好ましく、0.01であることがより好ましい。
【0058】
低い環境温度における透過率の応答性を高めることを要する場合、屈折率差Δnの上限値が低いことが好ましい。-20℃のような低い環境温度において透過率の応答性をさらに高めることを要する場合、非重合性液晶化合物LCMの屈折率差Δnの上限値が0.028であり、より好ましくは0.02である。
【0059】
[非重合成性粘度低下剤]
非重合性粘度低下剤DPは、相互に隣り合う非重合性液晶化合物LCMの分子間相互作用を弱めるためのアルキル基などの非極性基を含む。非重合性粘度低下剤DPは、非重合性液晶化合物LCMの極性と相互作用する極性を有したエステル結合などの極性基を含む。
【0060】
非重合性粘度低下剤DPは、下記式(1)、あるいは下記式(3)で表される。式(1)で表される非重合性粘度低下剤DPの一例は、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、マロン酸ジエチル、フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)、o-アセチルクエン酸トリブチル、安息香酸メチルからなる群から選択される少なくとも一種である。式(3)で表される非重合性粘度低下剤DPの一例は、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリペンチルからなる群から選択される少なくとも一種である。非重合性粘度低下剤DPは、1種の粘度低下剤、あるいは2種以上の粘度低下剤の組み合わせである。
【0061】
【化3】
式(1)中のXは、炭素原子数が1以上6以下の直鎖または分岐のアルキル基、またはアリール基である。式(1)中のR
1、R
2、R
3は、それぞれ独立に水素原子、または式(2)で表される官能基である。式(1)中のr
4は、炭素原子数が1以上10以下の直鎖または分岐のアルキル基、またはエーテル基である。
【0062】
【化4】
式(2)中のr
5は、炭素原子数が1以上10以下の直鎖または分岐のアルキル基、またはエーテル基である。
【0063】
【化5】
式(3)中のr
6、r
7、r
8は、それぞれ独立に炭素原子数が3以上6以下の直鎖アルキル基、またはエーテル基である。
【0064】
非重合性液晶化合物LCMと非重合性粘度低下剤DPとの総量に対する非重合性粘度低下剤DPの含有量の下限値は0.6質量%であり、より好ましい含有量の下限値は1質量%であり、さらに好ましい含有量の上限値は2質量%である。非重合性液晶化合物LCMと非重合性粘度低下剤DPの総量に対する非重合性粘度低下剤DPの含有量の上限値は10質量%であり、より好ましい含有量の上限値は8質量%であり、さらに好ましい上限値は6質量%である。
【0065】
高い環境温度における非重合性液晶化合物LCMの配向制御性を高めることを要する場合、非重合性粘度低下剤DPの含有量の上限値が低いことが好ましい。低い環境温度における透過率の応答性を高めることを要する場合、非重合性液晶化合物LCMの含有量の上限値が高いことが好ましい。
【0066】
二色性色素は、非重合性液晶化合物LCMをホストとしたゲストホスト型式によって駆動されて有色を呈する。二色性色素は、ポリヨウ素、アゾ化合物、アントラキノン化合物、ナフトキノン化合物、アゾメチン化合物、テトラジン化合物、キノフタロン化合物、メロシアニン化合物、ペリレン化合物、ジオキサジン化合物からなる群から選択される少なくとも一種である。二色性色素は、1種の化合物、あるいは2種以上の化合物の組み合わせである。
【0067】
耐光性を高めること、および二色比を高めることが求められる場合、二色性色素は、アゾ化合物、およびアントラキノン化合物からなる群から選択される少なくとも一種であり、よりが好ましくはアゾ化合物である。
【0068】
スペーサーSPは、有機高分子層31Pの全体にわたり分散されている。スペーサーSPは、スペーサーSPの周辺において調光層31の厚さを定めると共に、調光層31の厚さを均一にする。スペーサーSPは、ビーズスペーサーでもよいし、フォトレジストの露光および現像によって形成されるフォトスペーサーでもよい。スペーサーSPは、無色透明でもよいし、有色透明でもよい。液晶組成物31LCが二色性色素を含む場合、スペーサーSPの呈する色は、二色性色素の呈する色と同色であることが好ましい。
【0069】
なお、電圧印加による非重合性液晶化合物LCMの配向状態の変化に基づいて、調光シート11の透明状態と不透明状態とを切り換える構成であれば、調光シート11は、他の機能層を備えてもよい。他の機能層は、調光層31に向けた酸素や水分の透過を抑えるガスバリア層でもよいし、調光層31に向けた特定波長以外の紫外光線の透過を抑える紫外線バリア層でもよい。他の機能層は、調光シート11の各層を機械的に保護するハードコート層でもよいし、調光シート11における層間の密着性を高める接着層でもよい。
【0070】
[調光シートの製造方法]
調光シート11の製造方法は、第1透明支持層36と第2透明支持層37との間に、上述した光重合性化合物と液晶組成物31LCとを含む塗膜を形成することを含む。第1透明支持層36は、第1配向層32と第1透明電極層34とを備える。第2透明支持層37は、第2配向層33と第2透明電極層35とを備える。なお、第1配向層32と第2配向層33とが割愛された調光シート11の製造方法では、第1透明支持層36と第2透明支持層37との間に、上述した光重合性化合物と液晶組成物31LCとを含む塗膜を形成する。第1透明支持層36は、第1配向層32を割愛され、第1透明電極層34を備える。第2透明支持層37は、第2配向層33を割愛され、第2透明電極層35を備える。
【0071】
塗膜は、光重合性化合物の重合を開始するための重合開始剤を含む。重合開始剤は、ジケトン化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、チオキサンソン化合物からなる群から選択される少なくとも一種である。重合開始剤は、1種の化合物でもよいし、2種以上の化合物の組み合わせでもよい。重合開始剤の一例は、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、シクロヘキシルフェニルケトンからなる群から選択されるいずれか一種である。
【0072】
調光シート11の製造方法は、塗膜のなかで光重合性化合物を重合させることによって、液晶組成物31LCからなる液晶粒子を重合体から相分離させることを含む。光重合性化合物を重合させる光は、紫外光線でもよいし、電子線でもよい。塗膜に照射される光は、第1透明支持層36に向けて照射されてもよいし、第2透明支持層37に向けて照射されてもよいし、これらの組み合わせでもよい。
【0073】
液晶組成物31LCからなる液晶粒子の相分離は、光重合性化合物の重合と、液晶組成物31LCの拡散とを通じて進む。光重合性化合物の重合する速度は、光重合性化合物に照射される光の強度によって変わる。液晶組成物31LCの拡散する速度は、光重合性化合物の重合時の処理温度によって変わる。液晶組成物31LCの相分離では、液晶粒子の大きさを所望の大きさとするように、すなわち空隙31Dの大きさを所望の大きさとするように、光重合性化合物に照射される光の強度が設定される。また、液晶組成物31LCの相分離では、液晶組成物31LCの拡散を促すための加熱を行ってもよい。
【0074】
空隙31Dの大きさを小さくすることが求められる場合、光重合性化合物に照射される光の強度を高めて、液晶組成物31LCの拡散を抑えるための低い温度で重合を進めることが好ましい。空隙31Dの大きさを大きくすることが求められる場合、光重合性化合物に照射される光の強度を低めて、液晶組成物31LCの拡散を促すための高い温度で重合を進めることが好ましい。
【0075】
[実施例]
調光シート11の具体的な実施例、および比較例を以下に示す。なお、各実施例、および比較例は、第1配向層32と第2配向層33とが割愛されたノーマル型の調光シート11である。そして、第1透明電極層34を備えた第1透明支持層36と、第2透明電極層35を備えた第2透明支持層37との間に、光重合性化合物と液晶組成物31LCとを含む塗膜を形成し、塗膜のなかで光重合性化合物を重合させることによって、調光シート11を得た。
【0076】
なお、実施例、および比較例に用いた各構成材料を以下に示す。非重合性液晶化合物LCMのNI点は、110℃である。また、実施例1~41、および比較例1~7の各構成材料の配合比を
図3~
図7に示す。
図3~
図7に示す配合比は、塗膜を形成するための塗工液の総量に対する各構成材料の割合を示す。
【0077】
・第1透明電極層34 : 酸化インジウムスズ
・第2透明電極層35 : 酸化インジウムスズ
・第1透明支持層36 : ポリエチレンテレフタレートフィルム
・第2透明支持層37 : ポリエチレンテレフタレートフィルム
・重合開始剤PI1 : 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
・非重合性液晶化合物LCM : シアノビフェニル化合物
・スペーサーSP : 直径15μmの真球状(PMMA製)
・紫外線重合性化合物(重合性不飽和化合物)
成分M1 :イソボニルアクリレート
成分M2 :ペンタエリスリトールトリアクリレート
成分M3 :ウレタンアクリレート
【0078】
・非重合性粘度低下剤DP(非重合性添加剤)
成分NPA1 : アジピン酸ジブチル
成分NPA2 : アジピン酸ジオクチル
成分NPA3 : アジピン酸ジイソノニル
成分NPA4 : アジピン酸ジイソデシル
成分NPA5 : アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)
成分NPA6 : マロン酸ジエチル
成分NPA7 : フタル酸ジ-n-ブチル
成分NPA8 : フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)
成分NPA9 : トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)
成分NPA10: o-アセチルクエン酸トリブチル
成分NPA11: 安息香酸メチル
成分NPA12: リン酸トリブチル・重合性添加剤
成分MA1 : アクリル酸ブチル
成分MA2 : トリエチレングルコールジアクリレート
成分MA3 : ペンタエリスリトールトリアクリレート
【0079】
(実施例1~実施例6)
図3が示すように、実施例1~実施例6の塗工液は、それぞれ非重合性粘度低下剤DPとして0.5質量%の成分NPA1~成分NPA6を用いた。実施例1~実施例6の塗工液を用いて、厚さが20μmの塗膜を第1透明電極層34の上に形成し、スペーサーSPを塗膜中に散布した。そして、スペーサーSPが散布された塗膜を第1透明電極層34と第2透明電極層35とによってラミネートし、第1透明支持層36に向けて365nmの紫外光線を照射することによって、実施例1~実施例6の調光シート11を得た。この際、紫外光線の強度を10mW/cm
2に設定し、紫外線の照射時間を100秒とした。
【0080】
(実施例7~実施例12)
図3および
図4が示すように、実施例7~実施例12の塗工液は、それぞれ非重合性粘度低下剤DPとして1.0質量%の成分NPA1~成分NPA6を用いた。非重合性粘度低下剤DPの配合比、および紫外線重合性化合物の配合比以外を実施例1と同様にして、実施例7~実施例12の調光シート11を得た。
【0081】
(実施例13~実施例18)
図4が示すように、実施例13~実施例18の塗工液は、それぞれ非重合性粘度低下剤DPとして2.0質量%の成分NPA1~成分NPA6を用いた。非重合性粘度低下剤DPの配合比、および紫外線重合性化合物の配合比以外を実施例1と同様にして、実施例13~実施例18の調光シート11を得た。
【0082】
(実施例19~実施例30)
図4および
図5が示すように、実施例19~実施例30の塗工液は、それぞれ非重合性粘度低下剤DPとして3.0質量%の成分NPA1~成分NPA12を用いた。非重合性粘度低下剤DPの配合比、および紫外線重合性化合物の配合比以外を実施例1と同様にして、実施例19~実施例30の調光シート11を得た。
【0083】
(実施例31~実施例36)
図6が示すように、実施例31~実施例36の塗工液は、それぞれ非重合性粘度低下剤DPとして4.0質量%の成分NPA1~成分NPA6を用いた。非重合性粘度低下剤DPの配合比、および紫外線重合性化合物の配合比以外を実施例1と同様にして、実施例31~実施例36の調光シート11を得た。
【0084】
(実施例37~実施例39)
図6が示すように、実施例37~実施例39の塗工液は、それぞれ非重合性粘度低下剤DPとして5.0質量%の成分NPA3、成分NPA5、成分NPA6を用いた。非重合性粘度低下剤DPの配合比、および紫外線重合性化合物の配合比以外を実施例1と同様にして、実施例37~実施例39の調光シート11を得た。
【0085】
(実施例40~実施例41)
図6が示すように、実施例40~実施例41の塗工液は、それぞれ非重合性粘度低下剤DPとして0.3質量%の成分NPA4、成分NPA6を用いた。非重合性粘度低下剤DPの配合比、および紫外線重合性化合物の配合比以外を実施例1と同様にして、実施例40~実施例41の調光シート11を得た。
【0086】
(比較例1)
図7が示すように、非重合性粘度低下剤DPを割愛した塗工液を用い、非重合性粘度低下剤DPを割愛すること、および紫外線重合性化合物の配合比以外を実施例1と同様にして、比較例1の調光シート11を得た。
【0087】
(比較例2~比較例3)
図7が示すように、非重合性粘度低下剤DPを割愛し、重合性添加剤として0.5質量%の成分MA1を加えた塗工液を用い、非重合性粘度低下剤DPを割愛すること、重合性添加剤を加えること、および紫外線重合性化合物の配合比以外を実施例1と同様にして、比較例2の調光シート11を得た。
【0088】
また、非重合性粘度低下剤DPを割愛し、重合性添加剤として4.0質量%の成分MA1を加えた塗工液を用い、非重合性粘度低下剤DPを割愛すること、重合性添加剤を加えること、および紫外線重合性化合物の配合比以外を実施例1と同様にして、比較例3の調光シート11を得た。
【0089】
(比較例4~比較例5)
図7が示すように、非重合性粘度低下剤DPを割愛し、重合性添加剤として0.5質量%の成分MA2を加えた塗工液を用い、非重合性粘度低下剤DPを割愛すること、重合性添加剤を加えること、および紫外線重合性化合物の配合比以外を実施例1と同様にして、比較例4の調光シート11を得た。
【0090】
また、非重合性粘度低下剤DPを割愛し、重合性添加剤として4.0質量%の成分MA2を加えた塗工液を用い、非重合性粘度低下剤DPを割愛すること、重合性添加剤を加えること、および紫外線重合性化合物の配合比以外を実施例1と同様にして、比較例5の調光シート11を得た。
【0091】
(比較例6~比較例7)
図7が示すように、非重合性粘度低下剤DPを割愛し、重合性添加剤として0.5質量%の成分MA3を加えた塗工液を用い、非重合性粘度低下剤DPを割愛すること、重合性添加剤を加えること、および紫外線重合性化合物の配合比以外を実施例1と同様にして、比較例6の調光シート11を得た。
【0092】
また、非重合性粘度低下剤DPを割愛し、重合性添加剤として4.0質量%の成分MA3を加えた塗工液を用い、非重合性粘度低下剤DPを割愛すること、重合性添加剤を加えること、および紫外線重合性化合物の配合比以外を実施例1と同様にして、比較例7の調光シート11を得た。
【0093】
[評価]
実施例1~41、および比較例1~7の調光シート11を用い、不透明状態の調光シート11のヘイズ(非通電時)、および透明状態の調光シート11のヘイズ(通電時)をそれぞれ-20℃、-10℃、0℃、23℃、90℃、100℃の各温度で測定した。
【0094】
実施例1~41、および比較例1~7の調光シート11を用い、調光シート11が不透明状態から透明状態に切り替わるまでに要する時間を、オン動作として、-20℃、-10℃、23℃の各温度で測定した。不透明状態から透明状態に切り替わるまでに要する時間は、駆動電圧を印加しはじめてから調光シート11のヘイズが安定するまでの時間である。
【0095】
実施例1~41、および比較例1~7の調光シート11を用い、調光シート11が透明状態から不透明状態に切り替わるまでに要する時間を、オフ動作として、-20℃、-10℃、23℃の各温度で測定した。透明状態から不透明状態に切り替わるまでに要する時間は、駆動電圧の印加を停止してから調光シート11のヘイズが安定するまでの時間である。
【0096】
実施例1~実施例41の-20℃でのオン動作は、いずれも5秒以下である一方、比較例1~比較例7の-20℃でのオン動作は、いずれも7秒以上であることが認められた。これにより、非重合性粘度低下剤DPとして成分NPA1~NPA12を添加することで、非重合性粘度低下剤DPを添加しない場合、また重合性添加剤を添加する場合と比べて、-20℃でのオン動作の応答性を高められることが認められた。
【0097】
また、-20℃でのオン動作と、23℃でのオン動作との乖離は、実施例1~実施例41では、いずれも4秒以下である一方、比較例1~比較例7では、いずれも6秒以上であることが認められた。これにより、非重合性粘度低下剤DPとして成分NPA1~NPA12を添加することで、非重合性粘度低下剤DPを添加しない場合、また重合性添加剤を添加する場合と比べて、温度の低下に起因してオン動作の応答性が低下する度合いを抑えられることが認められた。
【0098】
また、実施例1~実施例39の透明状態でのヘイズは、いずれも6%以下である一方、実施例40~実施例41の透明状態でのヘイズは、7%以上であることが認められた。これにより、非重合性液晶化合物LCMの重量に対する非重合性粘度低下剤DPの割合が1%以上であれば、透明状態でのヘイズを抑えられることが認められた。
【0099】
実施例7~実施例39の透明状態でのヘイズと、実施例1~実施例6の透明状態でのヘイズとの比較から、非重合性液晶化合物LCMの重量に対する非重合性粘度低下剤DPの割合が2%以上であれば、透明状態でのヘイズをさらに抑えられることが認められた。
【0100】
実施例33,35,36の不透明状態でのヘイズは、100℃において85%以上である一方、実施例37,38,39の不透明状態でのヘイズは、100℃において83%以下であることが認められた。これにより、非重合性液晶化合物LCMの重量に対する非重合性粘度低下剤DPの割合が8%以下であれば、不透明状態でのヘイズの低下を抑えられることが認められた。
【0101】
また、-20℃での不透明状態のヘイズと、23℃での不透明状態のヘイズとの乖離は、実施例33,35,36では、いずれも10%以下である一方、実施例37,38,39では、いずれも12%以上であることが認められた。これにより、非重合性液晶化合物LCMの重量に対する非重合性粘度低下剤DPの割合が8%以下であれば、温度の低下に起因して不透明状態のヘイズが低下する度合いを抑えられることが認められた。
【0102】
実施例19~実施例23における-20℃での透明状態のヘイズは、実施例24,27~30における-20℃での透明状態のヘイズよりも低いことが認められた。また、実施例19~実施例23における100℃での不透明状態のヘイズは、実施例25~27における100℃での不透明状態のヘイズよりも高いことが認められた。これにより、低い環境温度において非重合性液晶化合物LCMの配向秩序を高めることが要求される場合、非重合性液晶化合物LCMのなかでも、成分NPA1~成分NPA6を用いることが好ましい。また、高い環境温度において非重合性液晶化合物LCMの流動性を高めることが要求される場合も、非重合性液晶化合物LCMのなかでも、成分NPA1~成分NPA6を用いることが好ましい。
【0103】
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)上記式(1)~(3)で表される非重合性粘度低下剤DPを液晶組成物31LCに含む構成であれば、非極性基であるアルキル基が非重合性液晶化合物LCMの間に介在して、非重合性液晶化合物LCMにおける分子間相互作用を弱める。これにより、-20℃のような低い環境温度における光透過率の応答性を高めることが可能となる。
【0104】
(2)上記式(1)~(3)が表す低分子構造であれば、紫外線重合性化合物の重合体から拡散すること、すなわち有機高分子層31Pから液晶粒子として相分離されることに好適である。
【0105】
(3)成分NPA1~成分NPA6のように、非重合性粘度低下剤DPがアジピン酸エステルである場合、-20℃のような低い環境温度において、非重合性液晶化合物LCMの配向秩序が低下することが抑制可能ともなる。
【0106】
(4)非重合性液晶化合物LCMの重量に対する非重合性粘度低下剤DPの重量の割合が1%以上である場合、-20℃のような低い環境温度における非重合性液晶化合物LCMの配向秩序の低下が抑制可能ともなる。
【0107】
(5)非重合性液晶化合物LCMの重量に対する非重合性粘度低下剤DPの重量の割合が2%以上8%以下である場合、100℃のような高い環境温度における非重合性液晶化合物LCMを無秩序相に転移させることの制御が容易ともなる。
【符号の説明】
【0108】
DP…非重合性粘度低下剤
LCM…非重合性液晶化合物
SP…スペーサー
11…調光シート
12…駆動部
31…調光層
32…第1配向層
33…第2配向層
34…第1透明電極層
35…第2透明電極層
36…第1透明支持層
37…第2透明支持層
31P…有機高分子層
31D…空隙
31LC…液晶組成物