(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】噛み合い式伝動機構の制御装置
(51)【国際特許分類】
F16D 48/06 20060101AFI20241224BHJP
F16D 11/10 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
F16D28/00 A
F16D11/10 Z
F16D48/06 102
(21)【出願番号】P 2022008413
(22)【出願日】2022-01-24
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】飯井 優太
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-159763(JP,A)
【文献】特開2009-41637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-11/16
F16D 25/06-25/12
F16D 48/00-48/12
F16H 59/00-61/12
F16H 61/16-61/24
F16H 61/66-61/70
F16H 63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に対して固定された固定歯と、軸線方向に移動して前記固定歯に噛み合う可動歯と、通電されて前記可動歯を軸線方向に移動させる推力を発生するアクチュエータとを備え、前記固定歯と前記可動歯との軸線方向での端部にチャンファが形成され、前記可動歯を前記固定歯に係合させる係合指示があった場合に予め定めた係合通電時間の間前記アクチュエータに通電する係合制御を行う噛み合い式係合機構の制御装置において、
前記係合指示の後に前記可動歯を前記固定歯に係合させる条件が不成立となったことを判定する条件違反判定手段と、
前記条件が不成立となったことを前記条件違反判定手段が判定した場合に、前記アクチュエータに通電する時間を前記係合通電時間より短くする通電短縮手段と
を備えていることを特徴とする噛み合い式伝動機構の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スプラインなどの噛み合い歯を噛み合わせてトルクを伝達する噛み合い式伝動機構に関し、特に噛み合い歯を噛み合わせる際の制御を行う装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トルクの伝達・遮断を行う伝動機構として、所定の回転部材の外周面に形成したスプライン歯とその回転部材の外周側を軸線方向に移動するスリーブの内周面に形成したスプライン歯とを選択的に噛み合わせる噛み合い式伝動機構が知られている。この種の伝動機構では、スプライン歯同士を噛み合わせるべくスリーブを軸線方向に移動させる場合、スプライン歯同士の位相が一致していてそれらが軸線方向に並んでいると、それぞれのスプライン歯の端部同士が突き当たってしまい、噛み合いに到らないことがある。このような状態を頂点当たりと称することがあり、このような状態を回避するために同期機構(シンクロナイザ)を設けたり、スプライン歯の端部に面取り部(チャンファ)を形成したりすることが行われている。
【0003】
チャンファを設けてあれば、スリーブを移動させる推力(軸線方向の押圧力)によってトルクを生じさせることができるので、スプライン歯同士を噛み合い状態に導くことができる。その半面、噛み合わせるべきスプライン歯同士の回転数差や伝達するトルクが大きい場合には、スリーブを押し戻す反力がチャンファによって生じ、その結果、スプライン歯の跳ね返りと再度の接触とが繰り返すラチェッティングが生じ、それに伴っていわゆるギヤ鳴りと称される異音が生じ、またスリーブを移動させるシフトフォークなどに大きい荷重が掛かってその耐久性が低下するなどの可能性がある。
【0004】
このような不都合を解消するために特許文献1に記載された装置では、切替を解消することとしている。すなわち、特許文献1に記載された装置は、変速比の小さいハイ状態と変速比が大きいロー状態に切り替えることのできる副変速機において、切替の判断の成立後に、所定以上のトルクが掛かるなど切替許容条件が成立しなくなった場合、副変速機を切替動作の開始時点の状態に復帰させるように構成されている。
【0005】
また一方、いわゆる頂点当たりが生じた場合にシフトフォークなどの損傷を回避するように構成した装置が特許文献2に記載されている。特許文献2に記載された装置は、単一のアクチュエータを、トルク配分制御のためのクラッチの押し付けのためと、レンジ切替のためにスリーブを移動させるためとの両方の制御に使用するように構成したトランスファ装置において、スリーブを切り替えるために頂点当たりが生じた場合には、アクチュエータの出力(推力)を低下させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-041637号公報
【文献】特開2017-159763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、噛み合い歯にチャンファを設けてあっても噛み合い歯同士が突き当たってそれ以上には噛み合いが進まない状態が生じるのであり、特許文献1に記載された装置では、そのような噛み合い不能な状態を検出することにより、噛み合い制御の開始前の状態に戻している。しかしながら、噛み合い歯同士が突き合った状態(いわゆる頂点当たりの状態)は、通常の噛み合い制御を実行した状態で生じ、かつその検出ならびに復帰の制御の開始までの間は頂点当たりの状態が継続する。そのため、特許文献1に記載された装置では、頂点当たりが生じている間にいわゆるギヤ鳴りなどの異音が生じたり、シフトフォークなどの関連する部材に大きい荷重が掛かってしまうなどの課題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載された装置では、いわゆる頂点当たりが生じる場合には、スリーブを移動させるための駆動電流値を低下させているが、頂点当たりが生じたのち、スリーブがチャンファを越えて噛み合うまでの間、ラチェッティングが継続する場合がある。そのため、特許文献2に記載の装置では、シフトフォークなどの損傷を回避もしくは抑制することができるとしても、ギヤ鳴りなどの異音を防止もしくは低下させる点で改善の余地がある。
【0009】
この発明は、上述した技術的課題に着目してなされたものであって、噛み合い歯のチャンファ同士が突き当たって噛み合いが進行しないことによる異音や荷重を低減することのできる噛み合い式伝動機構の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、上記の目的を達成するために、軸線方向に対して固定された固定歯と、軸線方向に移動して前記固定歯に噛み合う可動歯と、通電されて前記可動歯を軸線方向に移動させる推力を発生するアクチュエータとを備え、前記固定歯と前記可動歯との軸線方向での端部にチャンファが形成され、前記可動歯を前記固定歯に係合させる係合指示があった場合に予め定めた係合通電時間の間前記アクチュエータに通電する係合制御を行う噛み合い式係合機構の制御装置において、前記係合指示の後に前記可動歯を前記固定歯に係合させる条件が不成立となったことを判定する条件違反判定手段と、前記条件が不成立となったことを前記条件違反判定手段が判定した場合に、前記アクチュエータに通電する時間を前記係合通電時間より短くする通電短縮手段とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明では、可動歯を軸線方向に移動させて固定歯に噛み合わせる指示があると、アクチュエータが可動歯を固定歯に向けて移動させるようにアクチュエータに通電される。その通電は、可動歯を固定歯に係合させる条件が成立していれば、予め定めた係合通電時間の間、継続され、その係合通電時間の経過によって電流が遮断され、可動歯を軸線方向に押圧する荷重(推力)が停止する。これに対して、アクチュエータの通電開始後に上記の条件の不成立が判定された場合、すなわち条件違反の判定が成立すると、通電を開始したものの、通電を継続する時間が、通常の係合通電時間より短くされる。したがって、条件の不成立によってチャンファ同士が突き当たってそれ以上に噛み合いが進行しない事態が生じた場合、通常の係合通電時間より短い時間が経過した時点で通電が止められてアクチュエータによる可動歯を固定歯側に押す推力が解消もしくは低下させられる。すなわち、所定以上のトルクが掛かった状態でチャンファ同士が突き当たることによりいわゆるラチェッティングが生じたとしてもその継続時間が短くなるので、ギヤ鳴りなどと称される異音を早期に解消することができる。また併せてチャンファ同士が突き当たることにより反力が大きくなっている状態を早期に解消できるので、可動歯を軸線方向に動かすための部材に掛かる荷重を早期に低下させ、その耐久性の低下を回避もしくは抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この発明の実施形態におけるパワートレーンの一例を示す模式図である。
【
図2】その噛み合い式伝動機構の一例を模式的に示すスケルトン図である。
【
図3】固定歯ならびに可動歯の形状および相対位置を示す模式図である。
【
図4】この発明の実施形態における制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図5】この発明の実施形態における制御を実施した場合と、実施しない場合とにおける電流値の変化を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施形態を図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態はこの発明を実施した場合の一例に過ぎないのであって、この発明を限定するものではない。
【0014】
先ず、この発明を適用できる噛み合い式伝動機構1を含む四輪駆動用トランスファ(以下、単にトランスファと記す)2、ならびにそのトランスファ2を含むパワートレーン3の一例を説明する。
図1において符号4は駆動力源の一例であるエンジンを示し、エンジン4の出力側に変速機5が連結されている。変速機5は、従来知られている一般的な手動変速機と自動変速機とのいずれであってもよく、また有段変速機と無段変速機とのいずれであってもよい。この変速機5の出力側にトランスファ2が連結されている。
【0015】
トランスファ2は、変速比の大きいロー状態と変速比が小さいハイ状態とに切り替えるL-H切替機構6と、例えば後輪(図示せず)を駆動輪とする二輪駆動状態(2WD)と前後の四輪駆動輪とする四輪駆動状態(4WD)とに切り替える2-4切替機構7とを備えている。これらの機構6,7は従来知られている構成のものであってよく、例えば2-4切替機構7は、後輪出力軸8に駆動スプロケット9を回転可能に取り付けるとともに、その後輪出力軸8と駆動スプロケット9との間に噛み合い式係合機構10を設け、かつその駆動スプロケット9に巻き掛けた伝動部材としてのチェーン11を、前輪出力軸12に取り付けた従動スプロケット13に巻き掛けた構成であってよい。
【0016】
また、L-H切替機構6は、要は、高低二段に変速できる変速機構であればよく、例えば
図2に示すように、遊星歯車機構14を主体として構成した機構であってよい。遊星歯車機構14は、上記の変速機5に連結された入力軸15と一体のサンギヤSと、ケーシング16に固定されているリングギヤRと、これらサンギヤSとリングギヤRとの間に配置されてそれぞれに噛み合っているピニオンギヤを保持しているキャリヤCとを備えている。そのサンギヤSとキャリヤCとが出力要素となっており、噛み合い式の伝動機構1は、これらサンギヤSとキャリヤCとを前述した後輪出力軸8に選択的に連結するように構成されている。したがって、L-H切替機構6では、キャリヤCを後輪出力軸8に連結した状態ではキャリヤCがサンギヤSより低速で回転するので、ロー状態(Lo)が設定され、またサンギヤSを後輪出力軸8に連結した状態では、入力軸15の回転数と後輪出力軸8の回転数とが同一になって変速比が「1」のハイ状態(Hi)が設定される。
【0017】
伝動機構1は、スプラインを噛み合い歯とした形式の機構であり、軸線方向には固定されている係合歯である固定歯として、キャリヤCに一体化されかつ内歯であるロー用固定歯17と、サンギヤSに一体化されかつ外歯であるハイ用固定歯18とを備えている。軸線方向に移動して固定歯17,18に選択的に係合する係合歯である可動歯として、ロー用固定歯17に係合するロー用可動歯19と、ハイ用固定歯18に係合するハイ用可動歯20とを備えている。これらの可動歯19,20は、軸線方向に前後動するシフトスリーブ(以下、単にスリーブと記す)21の外周側と内周側とに設けられている。
【0018】
また、スリーブ21を軸線方向に前後動させるアクチュエータ22が設けられている。このアクチュエータ22は、モータや電磁ソレノイドなどの電気的に制御されるアクチュエータであって、通電することにより動作するように構成されている。なお、アクチュエータ22とスリーブ21とは両者を直接連結してもよいが、回転を直線運動に変換するカム機構や送りねじ機構、さらにはシフトフォーク(それぞれ図示せず)を介して両者を連結した構成としてもよい。
【0019】
図3に上記の各固定歯17,18ならびに可動歯19,20の形状および相対位置を模式的に示してある。なお、
図3には、便宜上、一つの可動歯19(もしくは20)がロー用固定歯17およびハイ用固定歯18に係合するように記載してあるが、
図2に示す機構では、ロー用可動歯19がロー用固定歯17に係合および離脱し、またハイ用可動歯20がハイ用固定歯18に係合および離脱するようになっている。
【0020】
各固定歯17,18は前述したようにスプライン歯であり、それぞれの固定歯17,18は所定のピッチ(
図3での上下方向での間隔)で互いに平行に所定の円筒体(図示せず)の外周面に設けられている。なお、ロー用固定歯17とハイ用固定歯18とは、軸線方向(
図3の左右方向)で所定の間隔を空けて配置され、またそれぞれのピッチは同じになっている。そして、各固定歯17,18の互いに対向する端部にはチャンファCfが形成されている。
【0021】
一方、各可動歯19,20は、軸線方向に移動して、各固定歯17,18の間に入り込んで固定歯17,18に回転方向(
図3の上下方向)で係合し、また固定歯17,18の間から抜け出て固定歯17,18から離脱する長さの比較的短いスプライン歯として構成されており、それぞれの軸線方向での端部(両端部)にチャンファCfが形成されている。そして、ロー用可動歯19とハイ用可動歯20との軸線方向での間隔は、各固定歯17,18の軸線方向での間隔以下になっている。すなわち、一方の可動歯19(または20)が一方の固定歯17(または18)に係合している状態では、一方の可動歯20(または19)が一方の固定歯18(または17)から離脱し、ロー状態とハイ状態とが同時に成立することがないように間隔が設定されている。
【0022】
上述したスリーブ21を軸線方向に移動させて行うロー状態とハイ状態との切り替えは、上述したパワートレーンを搭載している車両の搭乗者がスイッチやレバー(それぞれ図示せず)を操作することに基づいて実行される。その場合、上記の噛み合い式伝動機構1が駆動側と被駆動側(従動側)との回転数を一致させる同期機構(シンクロナイザ)を備えていないことにより、切り替えのタイミング(係合のタイミング)によってはチャンファCf同士が突き当たったり、そのためにラチェッティングが生じたりするので、切り替え条件の成立および不成立に応じて、それぞれ異なる制御を行うように構成されている。具体的には、上述したアクチュエータ22の通電を制御する電子制御装置(ECU)23が設けられている。ECU23は、マイクロコンピュータや記憶素子を主体にして構成され、入力されたデータや予め記憶しているデータを使用して演算を行い、その演算の結果を制御信号として出力するように構成されている。このECU23には、ロー状態とハイ状態との切替信号(L-H切替信号)や、自動変速機で設定されているレンジを示すレンジ信号あるいは手動変速機の場合には入力クラッチの係合・解放(ON・OFF)のクラッチ信号などが入力されており、それらの入力信号(入力データ)に基づいて、ハイ・ローの切替条件の成立・不成立を判定し、その判定の結果に基づいて、アクチュエータ22の電流を制御するように構成されている。その制御の一例を
図4にフローチャートで示してある。
【0023】
図4に示すルーチンは、前述したECU23によって実行される。先ず、ハイ状態とロー状態との間の切替(H-L切替)の操作が行われたことが検出される(ステップS1)。それに伴ってH-L切替のためにアクチュエータ22への通電が開始される(ステップS2)。すなわち係合指示が行われて係合制御が開始される。H-L切替は、一方の可動歯19(もしくは20)が一方の固定歯17(もしくは18)から離脱し、かつ他方の可動歯20(もしくは19)が他方の固定歯18(もしくは17)に係合するまでの距離をスリーブ21が移動(ストローク)することにより達成される。したがって、アクチュエータ22への通電は、このようなストロークに要する時間の間、継続される。この時間は、伝動機構1における各固定歯17,18ならびに可動歯19,20の構成およびスリーブ21の移動速度によって設計上決まり、この時間がこの発明の実施形態における係合通電時間である。
【0024】
ステップS2に続けて、すなわち通電の開始後に、切替条件の違反が判定される(ステップS3)。このステップS3を実行する機能的手段が、この発明の実施形態における条件違反判定手段に相当する。前述したように伝動機構1は固定歯17,18と可動歯19,20との回転数を自動的に合わせる同期機構(シンクロナイザ)を備えていないので、可動歯19,20を軸線方向に移動させて固定歯17,18に係合させる場合、それぞれのチャンファCf同士が突き当たってそれ以上に係合が進行しなかったり、あるいはラチェッティングが生じたりする可能性が高く、したがっていずれか一方の固定歯17(もしくは18)と可動歯19(もしくは20)とを離脱させ(係合を外し)、かついずれか他方の固定歯18(もしくは17)と可動歯20(もしくは19)とを係合させてハイ・ローの切替を行う場合に、その切替を許容する(許可する)条件を定めてある。その切替条件は、例えば、固定歯17,18ならびに可動歯19,20にトルクが掛かっていないことであり、これは、一例として、前述した変速機5の動作状態に基づいて判断することができる。すなわち、変速機5が手動変速機であれば、シフトするためにクラッチ(図示せず)がOFF(開放状態)になっていてトルクを遮断していること、変速機5が自動変速機であれば、Nレンジ(ニュートラルレンジ)が選択されていてトルクを伝達していないことを切替条件とすることができる。
【0025】
通電の開始後に切替条件が成立しなくなると、すなわち切替条件違反の状態になると、ステップS3で肯定的に判断され、また反対に通電開始時と同様に切替条件が成立していれば、ステップS3で否定的に判断される。ステップS3で否定的に判断された場合には、通電を継続して切替を完了し(ステップS4)、
図4に示すルーチンを終了する。これとは反対にステップS3で肯定的に判断された場合には、通電時間を短縮する制御が実行される(ステップS5)。併せて、切替のための通電時間を短縮したこと、および切替が完了しなかったことを運転者(図示せず)に告知する。その告知のための手段はブザーの鳴動などの聴覚に訴える手段、インジケータの表示などの視覚に訴える手段、振動などの触覚に訴える手段などのいずれであってもよい。このステップS5を実行する機能的手段が、この発明の実施形態における通電短縮手段に相当する。
【0026】
ここで短縮した通電時間は、可動歯19,20が固定歯17,18から離脱(離隔)している状態すなわち解放状態から、固定歯17,18に僅かに係合する位置に移動するのに要する時間であって、予め定めた時間である。
図3には、模擬的に、一つの可動歯(例えば19)がハイ用可動歯20とロー用可動歯19を兼ねている場合の移動量(ストローク量)を示してあり、ハイ状態からロー状態に切り替える場合、通電開始後に切替条件違反となって通電時間が短縮され、その場合にチャンファCf同士の突き当たりが生じずに可動歯19がロー用固定歯17同士の間に入り込むと、通電時間が短縮されていることにより両者が僅かに係合した状態となる。短縮した係合時間は可動歯19,20がこのようにストロークするのに要する時間であり、言い換えれば、通常の係合通電時間より短いものの、固定歯17,18に到達する前に停止してしまわずに固定歯17,18にまで到達することができる程度の時間である。したがって、切替条件違反のためにラチェッティングが生じるとしても、通電時間が短縮されているためにラチェッティングが生じている時間が短縮される。そのため、ギヤ鳴りなどの異音を早期に停止させることができ、またアクチュエータ22による大きい荷重が掛かっている時間が短くなるので、シフトフォークなど(図示せず)の関連する部材の耐久性の低下を防止もしくは抑制することができる。
【0027】
その後、切替条件が再度成立したことが検出されると(ステップS6)、アクチュエータ22への通電を再開して切替制御を行う(ステップS7)。この場合、切替条件が成立していることによりアクチュエータ22に対する通電は前述した係合通電時間の間継続され、その結果、いずれかの可動歯19(もしくは20)がいずれかの固定歯17(もしくは18)同士の間に入り込んでそれらの可動歯19(もしくは20)と固定歯17(もしくは18)が係合し、切替が完了する(ステップS4)。
【0028】
切替条件が不成立になって通電時間を短縮した場合と、短縮しなかった場合との電流値の変化を
図5に模式的に示してある。ハイ状態からロー状態への切替、もしくはその反対の切替を行う切替スイッチ(切替SW)がON操作されると(t1時点)、解放状態にある可動歯を軸線方向に移動させるに十分な電流がアクチュエータに印加される。可動歯の先端部が固定歯の端部に到達するまで(t2時点まで)、その通電が維持される。その後、チャンファにガイドされて可動歯と固定歯との位相(相対的に回転角度)が変化したり、可動歯が固定歯との間の摩擦力に抗して軸線方向に移動したりするのに十分な推力となるように、電流値が次第に増大させられる。
【0029】
このt2時点の状態に到るまでの間のt3時点に、例えば自動変速機でのレンジがNレンジ(ニュートラルレンジ)からDレンジ(ドライブレンジ)に切り替えられて(すなわちDレンジ信号がONになって)切替条件が不成立になると、可動歯が固定歯の端部に到達したt2時点にラチェッティングなどによるギヤ鳴り(異音)が生じる。この発明の実施形態では、切替条件が不成立になったことにより通電時間が短縮されるから、
図5に実線で示すように、上記のt2時点の直後のt4時点に通電が止められる。したがって、ギヤ鳴りなどの異音は、t2時点からt4時点までの僅かな時間にとどめられ、またシフトフォークなどにそれ以上の長きに亘って荷重が掛かることが回避される。これに対して、上記の通電時間の短縮を行わないとすれば、
図5に破線で示すように、通常の係合通電時間の間(
図5のt5時点まで)、アクチュエータに対する通電が継続される。そのため、ギヤ鳴りなどの異音がその間、継続することになり、またシフトフォークなどの部材に大きい荷重が掛かり続けることになる。
【0030】
なお、
図5に鎖線で示すように、切替条件が不成立になった場合には、電流値を増大させずに、低い電流値に維持することもできる。このように制御すれば、ギヤ鳴りなどの異音を発生させる荷重が小さくなるので、異音の音量が小さくなり、またシフトフォークなどに掛かる荷重を低減できる。
【符号の説明】
【0031】
1 噛み合い式伝動機構
2 トランスファ
6 L-H切替機構
7 2-4切替機構
8 後輪出力軸
9 駆動スプロケット
11 チェーン
12 前輪出力軸
13 従動スプロケット
17 ロー用固定歯
18 ハイ用固定歯
19 ロー用可動歯
20 ハイ用可動歯
21 スリーブ
22 アクチュエータ
23 電子制御装置(ECU)
Cf チャンファ