(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】レーンネットワーク生成装置、レーンネットワーク生成方法及びレーンネットワーク生成用コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/01 20060101AFI20241224BHJP
【FI】
G08G1/01 A
(21)【出願番号】P 2022040505
(22)【出願日】2022-03-15
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】塚本 守
【審査官】増子 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-109421(JP,A)
【文献】特開2020-075561(JP,A)
【文献】特開2007-164339(JP,A)
【文献】特開2018-087763(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0294036(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
G01C 21/00 - 21/36
G01C 23/00 - 25/00
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の道路を接続する所定の領域について、前記複数の道路の何れかの道路における、前記領域へ進入する進入車線から、前記複数の道路のうちの他の道路における、前記領域から退出する退出車線へ走行した車両の複数の走行軌跡に基づいて、前記領域内の個々の点について、当該点が標準となる走行軌跡上に位置する確率を表す確率分布を算出する確率分布算出部と、
前記進入車線と、前記退出車線のそれぞれの両端の位置同士を結ぶ仮想境界線を生成する仮想境界線生成部と、
前記領域内の個々の点のうち、二つの前記仮想境界線間に位置し、かつ、前記確率分布の分散が所定の分散閾値以下となる少なくとも二つの点を制御点として設定する制御点設定部と、
前記少なくとも二つの制御点に基づいてベジェ曲線を生成し、生成したベジェ曲線を、前記領域についての前記進入車線と前記退出車線とを結ぶ線とするネットワーク生成部と、
を有するレーンネットワーク生成装置。
【請求項2】
前記仮想境界線生成部は、前記進入車線と前記退出車線のそれぞれの両端の位置同士を結ぶベジェ曲線を前記仮想境界線として生成する、請求項1に記載のレーンネットワーク生成装置。
【請求項3】
複数の道路を接続する所定の領域について、前記複数の道路の何れかの道路における、前記領域へ進入する進入車線から、前記複数の道路のうちの他の道路における、前記領域から退出する退出車線へ走行した車両の複数の走行軌跡に基づいて、前記領域内の個々の点について、当該点が標準となる走行軌跡上に位置する確率を表す確率分布を算出し、
前記進入車線と、前記退出車線のそれぞれの両端の位置同士を結ぶ仮想境界線を生成し、
前記領域内の個々の点のうち、二つの前記仮想境界線間に位置し、かつ、前記確率分布の分散が所定の分散閾値以下となる少なくとも二つの点を制御点として設定し、
前記少なくとも二つの制御点に基づいてベジェ曲線を生成し、
生成したベジェ曲線を、前記領域についての前記進入車線と前記退出車線とを結ぶ線とする、
ことを含むレーンネットワーク生成方法。
【請求項4】
複数の道路を接続する所定の領域について、前記複数の道路の何れかの道路における、前記領域へ進入する進入車線から、前記複数の道路のうちの他の道路における、前記領域から退出する退出車線へ走行した車両の複数の走行軌跡に基づいて、前記領域内の個々の点について、当該点が標準となる走行軌跡上に位置する確率を表す確率分布を算出し、
前記進入車線と、前記退出車線のそれぞれの両端の位置同士を結ぶ仮想境界線を生成し、
前記領域内の個々の点のうち、二つの前記仮想境界線間に位置し、かつ、前記確率分布の分散が所定の分散閾値以下となる少なくとも二つの点を制御点として設定し、
前記少なくとも二つの制御点に基づいてベジェ曲線を生成し、
生成したベジェ曲線を、前記領域についての前記進入車線と前記退出車線とを結ぶ線とする、
ことをコンピュータに実行させるためのレーンネットワーク生成用コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに接続される複数の道路のそれぞれの車線間の接続関係を表すレーンネットワークを生成するレーンネットワーク生成装置、レーンネットワーク生成方法及びレーンネットワーク生成用コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転システムが車両を自動運転制御するために参照する高精度な地図に含める情報の一つとして、自動運転制御される車両の走行予定軌跡を設定するために参照される、車線同士の接続関係を表すレーンネットワークがある。そこで、レーンネットワークを生成する技術が提案されている(特許文献1及び2を参照)。
【0003】
特許文献1に開示された道路網データ生成装置は、交差点において進行可能な進入点と退出点の組み合わせに対して、進入点に接続する交差点外車線の交差点内への延長線と、退出点に接続する交差点外車線の交差点内への延長線の交点を求める。さらに、この道路網データ生成装置は、進入点と交点間に補正点を設定する。そしてこの道路網データ生成装置は、交点と、補正点と、退出点とからなる3点に対して、二次ベジェ曲線による円弧を設定し、交差点内車線とする。
【0004】
また、特許文献2に開示された経路生成装置は、地図情報及び自車両の位置に基づいて、自車両が走行する走行路の走路中心線に対応する複数の点を含む点列データを取得する。そしてこの経路生成装置は、点列データに基づいてスムージングを行って走路中心線を取得し、取得した走路中心線を自車両の目標走行経路として生成する。その際、この経路生成装置は、点列データのなかから、互いに隣接する複数の点を含む点列群を複数抽出し、抽出した複数の点列群それぞれの重心位置を算出する。そしてこの経路生成装置は、各重心位置に基づいて、ベジェ、Bスプライン、NURBSまたはスプライン補間曲線等のパラメトリック曲線を用いてスムージング処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-26875号公報
【文献】特開2018-105636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の技術では、地図情報を参照することでレーンネットワークが生成される。しかし、地図情報から生成されたレーンネットワークでは、車両の挙動が考慮されないため、そのレーンネットワークを車両の目標走行軌跡として利用するには不自然な軌跡となることがある。
【0007】
そこで、本発明は、車両の走行に適したレーンネットワークを生成することが可能なレーンネットワーク生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一つの実施形態によれば、レーンネットワーク生成装置が提供される。このレーンネットワーク生成装置は、複数の道路を接続する所定の領域について、複数の道路の何れかの道路における、その領域へ進入する進入車線から、複数の道路のうちの他の道路における、その領域から退出する退出車線へ走行した車両の複数の走行軌跡に基づいて、その領域内の個々の点について、その点が標準となる走行軌跡上に位置する確率を表す確率分布を算出する確率分布算出部と、進入車線と退出車線のそれぞれの両端の位置同士を結ぶ仮想境界線を生成する仮想境界線生成部と、所定の領域内の個々の点のうち、二つの仮想境界線間に位置し、かつ、確率分布の分散が所定の分散閾値以下となる少なくとも二つの点を制御点として設定する制御点設定部と、少なくとも二つの制御点に基づいてベジェ曲線を生成し、生成したベジェ曲線を、所定の領域についての進入車線と退出車線とを結ぶ線とするネットワーク生成部とを有する。
【0009】
このレーンネットワーク生成装置において、仮想境界線生成部は、進入車線と退出車線のそれぞれの両端の位置同士を結ぶベジェ曲線を仮想境界線として生成することが好ましい。
【0010】
他の実施形態によれば、レーンネットワーク生成方法が提供される。このレーンネットワーク生成方法は、複数の道路を接続する所定の領域について、複数の道路の何れかの道路における、その領域へ進入する進入車線から、複数の道路のうちの他の道路における、その領域から退出する退出車線へ走行した車両の複数の走行軌跡に基づいて、その領域内の個々の点について、その点が標準となる走行軌跡上に位置する確率を表す確率分布を算出し、進入車線と退出車線のそれぞれの両端の位置同士を結ぶ仮想境界線を生成し、所定の領域内の個々の点のうち、二つの仮想境界線間に位置し、かつ、確率分布の分散が所定の分散閾値以下となる少なくとも二つの点を制御点として設定し、少なくとも二つの制御点に基づいてベジェ曲線を生成し、生成したベジェ曲線を、所定の領域についての進入車線と退出車線とを結ぶ線とする、ことを含む。
【0011】
さらに他の実施形態によれば、レーンネットワーク生成用コンピュータプログラムが提供される。このレーンネットワーク生成用コンピュータプログラムは、複数の道路を接続する所定の領域について、複数の道路の何れかの道路における、その領域へ進入する進入車線から、複数の道路のうちの他の道路における、その領域から退出する退出車線へ走行した車両の複数の走行軌跡に基づいて、その領域内の個々の点について、その点が標準となる走行軌跡上に位置する確率を表す確率分布を算出し、進入車線と退出車線のそれぞれの両端の位置同士を結ぶ仮想境界線を生成し、所定の領域内の個々の点のうち、二つの仮想境界線間に位置し、かつ、確率分布の分散が所定の分散閾値以下となる少なくとも二つの点を制御点として設定し、少なくとも二つの制御点に基づいてベジェ曲線を生成し、生成したベジェ曲線を、所定の領域についての進入車線と退出車線とを結ぶ線とする、ことをコンピュータに実行させるための命令を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係るレーンネットワーク生成装置は、車両の走行に適したレーンネットワークを生成することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】レーンネットワーク生成装置が実装される地図生成システムの概略構成図である。
【
図2】レーンネットワーク生成装置の一例であるサーバのハードウェア構成図である。
【
図3】レーンネットワーク生成処理に関連するプロセッサの機能ブロック図である。
【
図4】進入車線の端点と退出車線の端点とを結ぶベジェ曲線の一例を示す図である。
【
図5】制御点の設定及びレーンネットワークの生成の一例を示す図である。
【
図6】レーンネットワーク生成処理の動作フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照しつつ、レーンネットワーク生成装置、及び、レーンネットワーク生成装置にて実行されるレーンネットワーク生成方法ならびにレーンネットワーク生成用コンピュータプログラムについて説明する。このレーンネットワーク生成装置は、交差点といった複数の道路が接続される領域について、1以上の車両から収集した実際の走行軌跡に基づいて、その領域に接続される複数の道路のそれぞれの車線間の接続関係を表すレーンネットワークを生成する。
【0015】
具体的に、このレーンネットワーク生成装置は、所定の交差点において着目する二つの車線間を走行した車両の複数の走行軌跡に基づいて、交差点内の個々の点について、標準となる走行軌跡上に位置する確率を表す確率分布を算出する。また、このレーンネットワーク生成装置は、二つの車線のそれぞれの両端の位置同士を結ぶ二つの仮想境界線を生成する。さらに、このレーンネットワーク生成装置は、確率分布を算出した個々の点のうち、二つの仮想境界線間に位置し、かつ、確率分布の分散が所定の分散閾値以下となる点の列を特定し、特定した点の列に含まれる少なくとも二つを制御点として設定する。そしてこのレーンネットワーク生成装置は、少なくとも二つの制御点に基づいてベジェ曲線を生成し、生成したベジェ曲線を、レーンネットワークにおける、その交差点についての二つの車線を結ぶ線とする。
【0016】
図1は、レーンネットワーク生成装置が実装される地図生成システムの概略構成図である。本実施形態では、地図生成システム1は、少なくとも一つの車両2と、レーンネットワーク生成装置の一例であるサーバ3とを有する。各車両2は、例えば、サーバ3が接続される通信ネットワーク4とゲートウェイ(図示せず)などを介して接続される無線基地局5にアクセスすることで、無線基地局5及び通信ネットワーク4を介してサーバ3と接続される。なお、
図1では、簡単化のため、一つの車両2のみが図示されているが、地図生成システム1は、複数の車両2を有していてもよい。同様に、
図1では、一つの無線基地局5のみが図示されているが、複数の無線基地局5が通信ネットワーク4に接続されていてもよい。
【0017】
車両2は、GPS受信機と、走行軌跡記録装置と、無線通信端末とを有する。GPS受信機は、所定の周期ごとにGPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号に基づいて車両2の自己位置を測位する。そしてGPS受信機は、所定の周期ごとに、GPS信号に基づく車両2の自己位置の測位結果を表す測位情報を、車内ネットワークを介して走行軌跡記録装置へ出力する。なお、車両2はGPS受信機以外の衛星測位システムに準拠した受信機を有していてもよい。この場合、その受信機が車両2の自己位置を測位すればよい。
【0018】
走行軌跡記録装置は、例えば、プロセッサとメモリとを有する。そして走行軌跡記録装置のプロセッサがGPS受信機から取得した測位情報で表される車両2の位置を時間順に並べることで車両2が走行した軌跡を表す走行軌跡情報を生成し、生成した走行軌跡情報を走行軌跡記録装置のメモリに保存する。走行軌跡記録装置は、走行軌跡情報に、車両2の識別情報を含めてもよい。
【0019】
なお、車両2は、車両2の周辺領域を撮影するためのカメラを有していてもよい。そしてカメラは、所定の周期ごとに、車両2の周辺領域を表す画像を生成し、生成した画像を、車内ネットワークを介して走行軌跡記録装置へ出力してもよい。この場合、走行軌跡記録装置のプロセッサは、カメラから画像を受け取る度に、その画像から車両2が走行中の道路上または道路周囲の地物を検出する。さらに、走行軌跡記録装置のプロセッサは、車両2のオドメトリ情報を、車両2の走行を制御する電子制御装置(図示せず)から取得して、各画像の生成間隔ごとの車両2の移動量及び向きの変位量を求める。そして走行軌跡記録装置のプロセッサは、各画像から検出された地物及び各画像の生成間隔ごとの車両2の移動量及び向きの変位量に基づいて、いわゆるStructure from Motionの手法に従って、各画像生成時の車両2の位置を推定してもよい。そして走行軌跡記録装置のプロセッサは、各画像生成時の車両2の位置を時間順に並べることで、走行軌跡情報を生成してもよい。
【0020】
走行軌跡記録装置は、所定のタイミングになると、生成した走行軌跡情報を無線通信端末へ出力する。なお、所定のタイミングは、例えば、車両2のイグニッションスイッチがオフにされたタイミング、あるいは、車両2のイグニッションスイッチがオンにされてから一定の時間(例えば、30分~1時間)を経過する度のタイミングとすることができる。あるいは、走行軌跡の収集対象となる領域を表す収集領域情報がサーバ3から通信ネットワーク4及び無線基地局5を介して車両2に予め通知されていてもよい。この場合には、走行軌跡記録装置は、収集領域情報及び測位情報を参照して、車両2が収集対象となる領域外へ移動したタイミングを、所定のタイミングとしてもよい。
【0021】
無線通信端末は、所定の無線通信規格に準拠した無線通信処理を実行する機器であり、例えば、無線基地局5にアクセスすることで、無線基地局5及び通信ネットワーク4を介してサーバ3と接続される。そして無線通信端末は、走行軌跡記録装置から受け取った走行軌跡情報を含むアップリンクの無線信号を生成する。そして無線通信端末は、そのアップリンクの無線信号を無線基地局5へ送信することで、走行軌跡情報をサーバ3へ送信する。また、無線通信端末は、無線基地局5からダウンリンクの無線信号を受信して、その無線信号に含まれる、サーバ3からの収集領域情報を走行軌跡記録装置へわたす。
【0022】
次に、レーンネットワーク生成装置の一例であるサーバ3について説明する。
図2は、レーンネットワーク生成装置の一例であるサーバ3のハードウェア構成図である。サーバ3は、通信インターフェース31と、ストレージ装置32と、メモリ33と、プロセッサ34とを有する。通信インターフェース31、ストレージ装置32及びメモリ33は、プロセッサ34と信号線を介して接続されている。サーバ3は、キーボード及びマウスといった入力装置と、液晶ディスプレイといった表示装置とをさらに有してもよい。
【0023】
通信インターフェース31は、通信部の一例であり、サーバ3を通信ネットワーク4に接続するためのインターフェース回路を有する。そして通信インターフェース31は、車両2と、通信ネットワーク4及び無線基地局5を介して通信可能に構成される。すなわち、通信インターフェース31は、車両2から無線基地局5及び通信ネットワーク4を介して受信した走行軌跡情報をプロセッサ34へわたす。また、通信インターフェース31は、プロセッサ34から受け取った収集領域情報を、通信ネットワーク4及び無線基地局5を介して車両2へ送信する。
【0024】
ストレージ装置32は、記憶部の一例であり、例えば、ハードディスク装置または光記録媒体及びそのアクセス装置を有する。そしてストレージ装置32は、レーンネットワーク生成処理において使用される各種のデータ及び情報を記憶する。例えば、ストレージ装置32は、レーンネットワークを表す情報を追加するための地図を記憶する。さらに、ストレージ装置32は、各車両2から受信した走行軌跡情報を記憶する。さらにまた、ストレージ装置32は、プロセッサ34上で実行される、レーンネットワーク生成処理を実行するためのコンピュータプログラムを記憶してもよい。
【0025】
メモリ33は、記憶部の他の一例であり、例えば、不揮発性の半導体メモリ及び揮発性の半導体メモリを有する。そしてメモリ33は、レーンネットワーク生成処理を実行中に生成される各種データなどを一時的に記憶する。
【0026】
プロセッサ34は、1個または複数個のCPU(Central Processing Unit)及びその周辺回路を有する。プロセッサ34は、論理演算ユニットあるいは数値演算ユニットといった他の演算回路をさらに有していてもよい。そしてプロセッサ34は、車両2の何れかから走行軌跡情報を受信する度に、受信した走行軌跡情報をストレージ装置32に保存する。さらに、プロセッサ34は、レーンネットワーク生成処理を実行する。
【0027】
図3は、レーンネットワーク生成処理に関連するプロセッサ34の機能ブロック図である。プロセッサ34は、確率分布算出部41と、仮想境界線生成部42と、制御点設定部43と、ネットワーク生成部44と、地図生成部45とを有する。プロセッサ34が有するこれらの各部は、例えば、プロセッサ34上で動作するコンピュータプログラムにより実現される機能モジュールである。あるいは、プロセッサ34が有するこれらの各部は、プロセッサ34に設けられる、専用の演算回路であってもよい。
【0028】
確率分布算出部41は、レーンネットワークの生成対象となる交差点に接続される各道路のうち、着目する一つの道路においてその交差点へ車両2が進入可能な車線と、着目する他の道路においてその交差点から車両2が退出する車線とを特定する。以下、交差点へ車両2が進入可能な車線を単に進入車線と呼ぶことがある。また、その交差点から車両2が退出する車線を、単に退出車線と呼ぶことがある。そして確率分布算出部41は、着目する進入車線から退出車線へ向けて車両2が走行したときの複数の走行軌跡情報に基づいて、交差点内の個々の点について、所定の確率分布を算出する。所定の確率分布は、着目する進入車線から退出車線へ走行する車両の標準となる走行軌跡上に位置する確からしさを表す。また、標準となる走行軌跡は、車両が着目する進入車線から退出車線へ向けて交差点内を走行する際に、その車両が標準的な速度で、かつ、特に回避行動を伴わずに走行するときの軌跡として想定される。
【0029】
確率分布算出部41は、ストレージ装置32に記憶されている各走行軌跡情報のうち、地図に表される、着目する交差点の進入車線及び退出車線に相当する範囲を通過する走行軌跡を表す走行軌跡情報を特定する。そして確率分布算出部41は、特定した個々の走行軌跡情報が表す走行軌跡を、着目する進入車線から着目する退出車線へ向けて車両2が走行したときの走行軌跡として特定する。確率分布算出部41は、特定した走行軌跡情報をストレージ装置32から読み出す。
【0030】
確率分布算出部41は、ストレージ装置32から読み込んだ各走行軌跡情報に表される走行軌跡に基づいて、交差点内の個々の点についての所定の確率分布を算出する。本実施形態では、個々の点についての確率分布は、ガウス過程に従うものとする。したがって、所定の確率分布は、路面に平行な2次元のガウス分布とすることができる。
【0031】
確率分布算出部41は、交差点内の個々の点について、各走行軌跡を参照して、ガウス過程回帰モデルの計算手法、例えば、ベイズ推定を利用する手法に従って確率分布を算出する。すなわち、確率分布算出部41は、交差点内の各点に対して初期の確率分布として所定の分散共分散行列を持つ2次元のガウス分布を設定する。そして確率分布算出部41は、設定したガウス分布を事前確率分布として、各走行軌跡上の個々の点に基づいて交差点内の各点の事後確率分布を算出する。そして確率分布算出部41は、交差点内の各点について、算出した事後確率分布に従って分散共分散行列を更新することで、交差点内の各点の確率分布を算出すればよい。個々の点について算出された確率分布の平均位置、すなわち、その点における確率値は、その点が標準となる走行軌跡上に位置する確からしさを表す。また、その確率分布の分散共分散行列は、その点が標準となる走行軌跡上に位置する場合における観測誤差の程度を表し、分散共分散行列の各要素の値が大きいほど、観測誤差が大きいことを表す。したがって、通過する走行軌跡が多い点ほど、平均位置における確率値が高くなり、分散共分散行列の各要素の値は小さくなる。
【0032】
確率分布算出部41は、個々の点ごとに算出した確率分布を、制御点設定部43へ通知する。
【0033】
仮想境界線生成部42は、地図を参照して、着目する進入車線と着目する退出車線のそれぞれの交差点の接続位置における、車線の幅方向の両端の位置を特定する。そして仮想境界線生成部42は、着目する進入車線の一方の端点と着目する退出車線の一方の端点とを一つのペアとし、着目する進入車線の他方の端点と着目する退出車線の他方の端点とをもう一つのペアとする。その際、仮想境界線生成部42は、それぞれのペアに含まれる進入車線の端点と退出車線の端点とを結ぶ線同士が交差しないように各ペアを設定する。
【0034】
仮想境界線生成部42は、ペアごとに、進入車線の端点と退出車線の端点とを結ぶベジェ曲線を生成する。その際、仮想境界線生成部42は、ペアごとに、進入車線の端点を通る進入車線の境界(その境界は、例えば、車線区画線または縁石により規定される)を交差点内へ延伸するとともに、退出車線の端点を通る退出車線の境界を交差点内へ延伸する。仮想境界線生成部42は、ペアごとに、進入車線側の境界を延伸した線と退出車線側の境界を延伸した線との交点を求め、その交点と進入車線側の端点との中点、及び、その交点と退出車線側の端点との中点に、それぞれ制御点を設定する。そして仮想境界線生成部42は、ベアごとに、設定した制御点に基づいて、進入車線側の端点と退出車線側の端点とを結ぶベジェ曲線を、仮想境界線として生成する。
【0035】
図4は、進入車線の端点と退出車線の端点とを結ぶベジェ曲線の一例を示す図である。
図4において、交差点400には、上下左右それぞれから道路が接続されている。これらの道路のうち、交差点400に対して下方から接続される道路401の進入車線402と、交差点400に対して右側から接続される道路403の退出車線404とが、それぞれ、着目する進入車線及び着目する退出車線であるとする。この場合、進入車線402の右側の端点402aと退出車線404の下側の端点404aとを結ぶベジェ曲線411、及び、進入車線402の左側の端点402bと退出車線404の上側の端点404bとを結ぶベジェ曲線412とが、仮想境界線として生成される。仮想境界線411及び仮想境界線412は、それぞれ、進入車線402と退出車線404のそれぞれの端点同士を結んでいる。そのため、仮想境界線411と仮想境界線412とで挟まれる領域は、進入車線402から退出車線404へ向かう車両が通行する領域に相当すると推定される。すなわち、仮想境界線411及び仮想境界線412は、それぞれ、進入車線402から退出車線404へ向かう車両が通行すると想定される領域(以下、仮想通行領域と呼ぶことがある)の境界を表していると推定される。
【0036】
仮想境界線生成部42は、生成した二つの仮想境界線を制御点設定部43へ通知する。
【0037】
制御点設定部43は、交差点内の個々の点のうち、二つの仮想境界線間に位置し、かつ、確率分布の分散が所定の分散閾値以下となる点の列を特定する。そして制御点設定部43は、特定した点の列に含まれる少なくとも二つの点を制御点として設定する。
【0038】
着目する進入車線から退出車線へ向けて走行した車両2の進行方向に対して直交する方向において走行軌跡ごとの位置のバラツキが少ない位置が制御点となることが好ましい。そこで制御点設定部43は、着目する進入車線と退出車線のそれぞれの中点を結ぶ基準線を求める。基準線は、例えば、直線あるいは交差点の中心に対して凸となる円弧とすることができる。制御点設定部43は、交差点内の各点について、その点から最も近い基準線上の位置を算出し、算出した位置における基準線の接線方向をもとめる。制御点設定部43は、交差点内の各点について、その点から最も近い基準線上の位置における接線方向及び接線方向と直交する方向をそれぞれ軸とする直交座標系へのアフィン変換を、その点の確率分布に対して実行する。そして制御点設定部43は、交差点内の各点について、アフィン変換後の確率分布における、上記の接線方向と直交する方向の分散共分散行列の要素値を、分散閾値と比較する分散の値とすればよい。
【0039】
なお、制御点設定部43は、着目する進入車線の中点と退出車線の中点とを結ぶ直線に沿って交差点内の領域を複数の区間(例えば、5~10)に分割してもよい。そして制御点設定部43は、上記の点の列に属する各点のうち、互いに異なる区間内に含まれる2以上の点を制御点として設定してもよい。これにより、制御点同士の間隔が狭くなり過ぎることが防止される。
【0040】
分散が所定の分散閾値以下となる点を制御点とすることで、制御点設定部43は、着目する進入車線から退出車線へ向けて車両が走行する度に、その車両が通る位置となる可能性が高い位置に制御点が設定されることになる。また、仮想通行領域内の点を制御点に設定することで、制御点設定部43は、何らかの理由で車両2が着目する進入車線から退出車線へ大回りし、あるいはショートカットするように走行したような、異常な走行軌跡上の位置を制御点とすることを防止できる。
【0041】
制御点設定部43は、設定した各制御点の位置をネットワーク生成部44へ通知する。
【0042】
ネットワーク生成部44は、レーンネットワークの生成対象となる交差点について、制御点設定部43により設定された少なくとも二つの制御点に基づいてベジェ曲線を生成する。そしてネットワーク生成部44は、生成したベジェ曲線を、レーンネットワークにおける、その交差点についての着目する進入車線と退出車線とを結ぶ線とする。上記のように設定された制御点を使用することで、ネットワーク生成部44は、着目する進入車線と退出車線とをスムーズに接続し、かつ、実際に車両が走行したときの軌跡に近い曲線となるようにレーンネットワークを生成することができる。
【0043】
図5は、制御点の設定及びレーンネットワークの生成の一例を示す図である。
図5において、交差点500には、
図4に示される交差点と同様に、上下左右それぞれから道路が接続されている。これらの道路のうち、交差点500に対して下方から接続される道路501の進入車線502と、交差点500に対して右側から接続される道路503の退出車線504とが、それぞれ、着目する進入車線及び着目する退出車線であるとする。交差点500内の個々の点のうち、進入車線502の端点と退出車線504の端点とを結ぶ二つの仮想境界線511、512の間に位置する各点のうち、点531と点532のそれぞれを平均位置とする確率分布の分散が分散閾値以下となっている。そのため、点531と点532とが制御点として設定される。そして制御点531及び制御点532に基づいて生成されるベジェ曲線541が、レーンネットワークを構成する、進入車線502と退出車線504とを結ぶ線となる。
【0044】
ネットワーク生成部44は、生成したレーンネットワークを表す情報を地図生成部45へ出力する。
【0045】
地図生成部45は、各交差点領域についてのレーンネットワークを表す情報を含む地図を生成する。すなわち、地図生成部45は、ストレージ装置32から読み出した地図に表される個々の交差点について、ネットワーク生成部44により生成されたレーンネットワークを表す情報を追加する。これにより、レーンネットワークを含む地図が生成される。
【0046】
地図生成部45は、生成した地図を、ストレージ装置32に保存する。あるいは、地図生成部45は、生成した地図を、通信インターフェース31を介して他の機器へ出力してもよい。
【0047】
図6は、サーバ3における、レーンネットワーク生成処理の動作フローチャートである。サーバ3のプロセッサ34は、レーンネットワーク生成対象となる交差点における、着目する進入車線と退出車線の組ごとに、以下に示される動作フローチャートに従ってレーンネットワーク生成処理を実行すればよい。
【0048】
プロセッサ34の確率分布算出部41は、着目する進入車線から着目する退出車線への各走行軌跡に基づいて、交差点内の個々の点について、走行軌跡上に位置する確からしさを表す確率分布を算出する(ステップS101)。
【0049】
また、プロセッサ34の仮想境界線生成部42は、着目する進入車線と着目する退出車線のそれぞれの交差点の接続位置における、車線の幅方向の両端の位置同士を結ぶベジェ曲線を仮想境界線として生成する(ステップS102)。
【0050】
プロセッサ34の制御点設定部43は、交差点内の個々の点のうち、二つの仮想境界線間に位置し、かつ、確率分布の分散が所定の分散閾値以下となる点の列を特定する(ステップS103)。そして制御点設定部43は、特定した点の列に含まれる少なくとも二つの点を制御点として設定する(ステップS104)。
【0051】
プロセッサ34のネットワーク生成部44は、設定された少なくとも二つの制御点に基づいてベジェ曲線を生成し、生成したベジェ曲線を、レーンネットワークにおける、着目する進入車線と退出車線とを結ぶ線とする(ステップS105)。そしてプロセッサ34の地図生成部45は、着目する進入車線と退出車線とを結ぶ線を表す情報を地図に追加する(ステップS106)。そしてプロセッサ34は、レーンネットワーク生成処理を終了する。
【0052】
以上に説明してきたように、このレーンネットワーク生成装置は、レーンネットワークの生成対象となる交差点の着目する進入車線から退出車線への複数の走行軌跡に基づいて、交差点内の個々の点について走行軌跡上に位置する確率分布を算出する。さらに、このレーンネットワーク生成装置は、交差点内の個々の点のうち、仮想通行領域内に位置し、かつ、確率分布の分散が分散閾値以下となる少なくとも二つの点を制御点として設定する。そしてこのレーンネットワーク生成装置は、設定した制御点に基づいて生成したベジェ曲線を、レーンネットワークにおける、着目する進入車線と退出車線とを結ぶ線とする。このレーンネットワーク生成装置は、このようにレーンネットワークを生成することで、車両の走行に適したレーンネットワークを生成することができる。
【0053】
変形例によれば、仮想境界線生成部42は、着目する進入車線と退出車線のそれぞれの端点同士を結ぶ仮想境界線を、ベジェ曲線以外の線として生成してもよい。例えば、仮想境界線生成部42は、着目する進入車線と退出車線のそれぞれの端点同士を結び、かつ、交差点の中心に対して凸となる円弧またはスプライン曲線を、仮想境界線としてもよい。あるいは、仮想境界線生成部42は、着目する進入車線と退出車線のそれぞれの端点同士を結ぶ仮想境界線を、交差点の中心に対して凸となり、かつ、進入車線の端点及び退出車線の端点からの距離が遠いほど曲率が大きくなるクロソイド曲線として生成してもよい。
【0054】
また、上記の実施形態または変形例による、レーンネットワーク生成の対象となる道路の領域は、交差点に限られず、分岐点あるいは合流点といった、1本の道路に他の道路が接続される領域であってもよい。この場合も、レーンネットワーク生成装置は、着目する進入車線と退出車線の組ごとに、上記の実施形態または変形例と同様の処理を実行することで、レーンネットワークを生成することができる。
【0055】
上記の各実施形態または変形例によるレーンネットワーク生成装置のプロセッサが有する各部の機能をコンピュータに実現させるコンピュータプログラムは、コンピュータによって読取り可能な記録媒体に記憶された形で提供されてもよい。なお、コンピュータによって読取り可能な記録媒体は、例えば、磁気記録媒体、光記録媒体、又は半導体メモリとすることができる。
【0056】
以上のように、当業者は、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
1 地図生成システム
2 車両
3 サーバ
31 通信インターフェース
32 ストレージ装置
33 メモリ
34 プロセッサ
41 確率分布算出部
42 仮想境界線生成部
43 制御点設定部
44 ネットワーク生成部
45 地図生成部
4 通信ネットワーク
5 無線基地局