(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20241224BHJP
【FI】
B60T7/12 D
B60T7/12 C
(21)【出願番号】P 2022048145
(22)【出願日】2022-03-24
【審査請求日】2024-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗宮 智貴
(72)【発明者】
【氏名】原田 一将
(72)【発明者】
【氏名】岡田 真一
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-027846(JP,A)
【文献】特開2009-274482(JP,A)
【文献】特開平09-249104(JP,A)
【文献】特開2020-132045(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0062246(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018007581(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向に存在する障害物に関する情報を取得する障害物センサと、
前記車両の運転者の状態を表す運転者状態パラメータを取得する運転者状態センサと、
前記運転者によって操作される前記車両の運転操作子の状態を表す操作子状態パラメータを取得する運転操作子状態センサと、
前記障害物センサからの情報に基いて前記車両が前記障害物と衝突すると予測される場合に成立する衝突予測条件が成立するか否かを判定し、
前記運転者が前記車両の運転を行うことが不能な異常状態に陥っているか否かを前記運転者状態パラメータに基いて判定し、
前記衝突予測条件が成立すると判定した場合、
前記運転者が前記異常状態に陥っていると判定しているときには、前記運転者が前記運転操作子を操作しているか否かに関わらず、前記運転者のブレーキ操作を要することなく前記車両が備える制動装置によって前記車両に制動力を付与する自動ブレーキ制御を実行し、
前記運転者が前記異常状態に陥っていないと判定しているときには、前記操作子状態パラメータが操作判定条件を満たしていれば、前記自動ブレーキ制御を実行することなく前記運転操作子の操作に基く前記車両の運転を優先するオーバーライド制御を実行する、
ように構成されたコントロールユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、
前記衝突予測条件が成立すると判定した場合に前記運転者が前記異常状態に陥っていないと判定しているとき、
前記運転者が前記異常状態に陥っていると判定していた状態において前記運転者が前記異常状態に陥っていないと判定し直した時点を開始時点とし同開始時点から所定時間が経過する時点を終了時点とする過渡期間内でなければ、前記運転操作子が操作されている場合に前記操作子状態パラメータが満足する第1条件を前記操作判定条件として採用し、
前記過渡期間内であれば、前記運転操作子が前記運転者の意思に基いて操作されている可能性が前記第1条件の成立時に比較してより高い場合に前記操作子状態パラメータが満足する第2条件を前記操作判定条件として採用する、
ように構成された、
車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が障害物と衝突することを回避するか又は障害物との衝突被害を軽減するための自動ブレーキ制御(衝突回避ブレーキ制御又は衝突被害軽減ブレーキ制御)を実行する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の前方の障害物を検知し、車両が障害物と衝突すると予測される場合、自動ブレーキ制御を実行する車両制御装置が知られている。このような車両制御装置の一つ(以下、「従来装置」と称する。)は、車両が障害物と衝突すると予測される場合に運転者によるアクセル操作及び/又はステアリング操作等の運転操作が検出されたとき、それらの運転操作が誤操作であるか否かを判定する。そして、従来装置は、それらの運転操作が誤操作でないと判定した場合には自動ブレーキを実行せず、運転者による運転操作を優先させる。即ち、従来装置は、オーバーライド制御を許容する。これに対し、従来装置は、それらの運転操作が誤操作であると判定した場合にはオーバーライド制御を禁止して自動ブレーキ制御を実行する(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
更に、運転者が車両の運転を行うことが不能な状態(以下、「異常状態」と称する。)に陥っているか否かを判定し、そのような判定がなされた場合に車両を制御する装置が開発されている(例えば、特許文献2を参照。)。運転者が異常状態に陥っている場合は、運転者が車両を運転する能力を失っている場合であり、例えば、運転者の状態が居眠り運転状態及び心身機能停止状態等にある場合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-121534号公報
【文献】特開2017-190048号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、車両が障害物と衝突すると予測される場合、運転者が異常状態に陥っていると判定されているとき、仮に、運転者による運転操作が検出されたとしても、その運転操作は誤操作であると判定することができる。よって、このような場合、オーバーライド制御は禁止されることが好ましい。
【0006】
しかしながら、運転者が異常状態に陥っていると判定された後に運転者が正常状態に復帰したと判定された場合、その時点から暫くの期間(以下、「過渡期間」と称する。)、運転者による運転操作は誤操作である可能性が高い。これは、運転者が正常状態に復帰したとの判定が必ずしも正しいとは限らないからである。このため、上記過渡期間において、上記オーバーライド制御が誤って実行されてしまう怖れがある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされた。即ち、本発明の目的の一つは、運転者が異常状態に陥っていると判定されていた状態から異常状態に陥っていないと判定された後の期間において、車両が障害物と衝突すると予測される場合にオーバーライド制御が誤って実行されてしまう可能性を低減可能な車両制御装置を提供することにある。
【0008】
本発明の車両制御装置の一態様は、
車両の進行方向に存在する障害物に関する情報を取得する障害物センサ(17a、17b)と、
前記車両の運転者の状態を表す運転者状態パラメータを取得する運転者状態センサ(11、12、13、14、15、70)と、
前記運転者によって操作される前記車両の運転操作子(例えば、アクセルペダル及びステアリングホイール等)の状態を表す操作子状態パラメータを取得する運転操作子状態センサ(11、14、15)と、
前記障害物センサからの情報に基いて前記車両が前記障害物と衝突すると予測される場合に成立する衝突予測条件が成立するか否かを判定し(ステップ210、ステップ320)、
前記運転者が前記車両の運転を行うことが不能な異常状態に陥っているか否かを前記運転者状態パラメータに基いて判定し(ステップ220、ステップ520、ステップ550、ステップ580)
前記衝突予測条件が成立すると判定した場合(ステップ210:Yes、ステップ320:Yes)、
前記運転者が前記異常状態に陥っていると判定しているときには(ステップ220:No、ステップ410、ステップ420、ステップ330:Yes)、前記運転者が前記運転操作子を操作しているか否かに関わらず、前記運転者のブレーキ操作を要することなく前記車両が備える制動装置によって前記車両に制動力を付与する自動ブレーキ制御を実行し(ステップ270、ステップ340)、
前記運転者が前記異常状態に陥っていないと判定しているときには(ステップ220:Yes、ステップ410、ステップ430、ステップ330:No)、前記操作子状態パラメータが操作判定条件を満たしていれば(ステップ250:Yes、ステップ350:Yes)、前記自動ブレーキ制御を実行することなく前記運転操作子の操作に基く前記車両の運転を優先するオーバーライド制御を実行する(ステップ260、ステップ360)、
ように構成されたコントロールユニット(20)と、
を備える。
【0009】
更に、前記コントロールユニット(20)は、
前記衝突予測条件が成立すると判定した場合に前記運転者が前記異常状態に陥っていないと判定しているとき(ステップ220:Yes、ステップ330:No)、
前記運転者が前記異常状態に陥っていると判定していた状態において前記運転者が前記異常状態に陥っていないと判定し直した時点を開始時点とし同開始時点から所定時間が経過する時点を終了時点とする過渡期間(即ち、前記運転者が前記異常状態に陥っていると判定していた状態において前記運転者が前記異常状態に陥っていないと判定し直した時点から所定時間以内の期間である過渡期間)内でなければ(ステップ230:Yes、ステップ440:No)、前記運転操作子が操作されている場合に前記操作子状態パラメータが満足する第1条件を前記操作判定条件として採用し(ステップ240、ステップ450)、
前記過渡期間内であれば(ステップ230:No、ステップ440:Yes)、前記運転操作子が前記運転者の意思に基いて操作されている可能性が前記第1条件の成立時に比較してより高い場合に前記操作子状態パラメータが満足する第2条件を前記操作判定条件として採用する(ステップ280、ステップ460)、
ように構成されている。
【0010】
操作判定条件は、例えば、操作子状態パラメータXの大きさ|X|が「大きさ閾値Xth」以上である場合に成立する条件である。この例の場合、第1条件は、大きさ閾値Xthを第1閾値に設定した場合の操作判定条件であり、第2条件は、大きさ閾値Xthを「第1閾値よりも大きい第2閾値」に設定した場合の操作判定条件である。
操作判定条件は、例えば、操作子状態パラメータXの単位時間あたりの変化量の大きさ|dX|が「変化速度閾値dXth」以上である場合に成立する条件である。この例の場合、第1条件は、変化速度閾値dXthを第1変化速度閾値に設定した場合の操作判定条件であり、第2条件は、変化速度閾値dXthを「第1変化速度閾値よりも大きい第2変化速度閾値」に設定した場合の操作判定条件である。
【0011】
つまり、第2条件は、運転操作子が、第1条件の成立時に比較して、より大きく及び/又はより速く操作されたときに成立する条件であると言うことができる。
【0012】
この車両制御装置は、衝突予測条件が成立した時点において運転者が異常状態に陥っていると判定している場合、オーバーライド制御を禁止して自動ブレーキ制御を実行する。従って、運転者が異常状態にあるとき、運転操作子が操作されているか否かに関わらず自動ブレーキ制御を確実に実行することができる。
【0013】
更に、この車両制御装置は、衝突予測条件が成立した時点において運転者が異常状態に陥っていないと判定している場合、
(1)その時点が過渡期間でなければ、操作子状態パラメータが第1条件に設定された操作判定条件を満足するとき、自動ブレーキ制御を禁止してオーバーライド制御を実行し、
(2)その時点が過渡期間であると、操作子状態パラメータが「第1条件の成立時に比較して運転操作子が運転者の意思で操作された可能性が高い場合に成立する第2条件」に設定された操作判定条件を満足するとき、自動ブレーキ制御を禁止してオーバーライド制御を実行する。
【0014】
従って、運転者が異常状態から復帰したと判定された直後の期間において、オーバーライド制御が誤って実行される可能性を低減することができる。
【0015】
上記説明においては、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態に対応する発明の構成に対し、その実施形態で用いた名称及び/又は符号を括弧書きで添えている。しかしながら、本発明の各構成要素は、前記名称及び/又は符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両制御装置(本実施装置)の概略構成図である。
【
図2】本実施装置の作動を説明するための概念フローチャートである。
【
図3】
図1に示した車両制御ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図4】
図1に示した車両制御ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図5】
図1に示した車両制御ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【
図6】
図1に示した車両制御ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<構成>
本発明の実施形態に係る車両制御装置(以下、「本実施装置」と称する。)は、車両(以下において、他の車両と区別するために、「自車両」と称される場合がある。)に適用される。
【0018】
図1に示したように、本実施装置10は、車両制御(運転支援)ECU20、パワートレインECU30、ブレーキECU40、ステアリングECU50及びメータECU60を備えている。
【0019】
これらのECUは、マイクロコンピュータを主要部として備える電子制御装置(Electronic Control Unit)であり、CAN(Controller Area Network)を介して相互に情報を送信可能及び受信可能に接続されている。本明細書において、マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェースI/F等を含む。CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現する。換言すると、CPUはプログラムされたプロセッサである。これらのECUは、幾つか又は全部が一つのECUに統合されてもよい。
【0020】
車両制御ECU20は、以下に列挙するセンサ(スイッチを含む。)と接続されていて、それらのセンサの検出信号又は出力信号を受信するようになっている。なお、各センサは、車両制御ECU20以外のECUに接続されていてもよい。その場合、車両制御ECU20は、センサが接続されたECUからCANを介してそのセンサの検出信号又は出力信号を受信する。
【0021】
アクセルペダル操作量センサ11は、運転操作子である車両のアクセルペダル11aの操作量(アクセル開度)を検出し、アクセルペダル操作量APを表す信号を出力するようになっている。
ブレーキペダル操作量センサ12は、車両のブレーキペダル12aの操作量を検出し、ブレーキペダル操作量BPを表す信号を出力するようになっている。
【0022】
タッチセンサ13は、運転者が運転操作子である操舵ハンドル(ステアリングホイール)SWに触れているときにハイレベル信号を出力し、運転者が操舵ハンドルSWに触れていないときにローレベル信号を出力するようになっている。
操舵角センサ14は、操舵ハンドルSWの操舵角を検出し、操舵角θを表す信号を出力するようになっている。
操舵トルクセンサ15は、操舵ハンドルSWの操作により車両のステアリングシャフトUSに加わる操舵トルクを検出し、操舵トルクTraを表す信号を出力するようになっている。
車速センサ16は、車両の走行速度(車速)を検出し、車速SPDを表す信号を出力するようになっている。
【0023】
レーダセンサ17aは、ミリ波帯の電波を用いて、車両の前方の道路に存在する立体物(物標)に関する情報(以下、「レーダ物標情報」と称呼する。)を取得するようになっている。
【0024】
カメラセンサ装置17bは、何れも図示しない「カメラ及び画像処理部」を備えている。カメラは、車両前方の風景を撮影して画像データを取得する。画像処理部は、カメラが撮影した画像データに基づいて、車両の前方の道路に存在する立体物に関する情報(以下、「カメラ物標情報」と称呼する。)を取得するようになっている。
【0025】
車両制御ECU20は、レーダ物標情報とカメラ物標情報とを統合することにより統合物標情報を算出する。統合物標情報は、車両の前方の道路に存在する立体物(物標(n))に対する、車両からの距離Dfx(n)、相対速度Vfx(n)、及び、方位H(n)等を含む。よって、レーダセンサ17a及びカメラセンサ装置17bは、「車両の周囲に存在する障害物に関する情報を取得する障害物センサ」を構成している。
【0026】
ヨーレートセンサ18は、車両のヨーレートを検出し、実ヨーレートYRaを出力するようになっている。
【0027】
なお、アクセルペダル操作量センサ11、操舵角センサ14及び操舵トルクセンサ15等は、車両の運転操作子の状態を表す操作子状態パラメータを取得する運転操作子状態センサでもある。
アクセルペダル操作量センサ11、ブレーキペダル操作量センサ12、タッチセンサ13、操舵角センサ14及び操舵トルクセンサ15等は、車両の運転者の状態を表す運転者状態パラメータを取得する運転者状態センサでもある。
車速センサ16及びヨーレートセンサ18等は、車両の走行状態を表す走行状態パラメータを取得する走行状態センサでもある。
【0028】
パワートレインECU30は、パワートレインアクチュエータ31に接続されている。パワートレインアクチュエータ31は、パワートレイン(内燃機関及び/又は電動機)32を制御して車両の駆動輪に伝達される駆動力を変更するためのアクチュエータである。パワートレインECU30は、車両制御ECU20から出力抑制指令を受けていない場合、アクセルペダル操作量APが大きいほど車両の駆動輪に伝達される駆動力が大きくなるように、パワートレインアクチュエータ31を制御して駆動力を変更する。
【0029】
ブレーキECU40は、ブレーキアクチュエータ41に接続されている。ブレーキアクチュエータ41は、車両の各車輪に設けられた摩擦ブレーキ装置42を制御して車両に付与される制動力(摩擦制動力)を変更するためのアクチュエータである。ブレーキアクチュエータ41及び摩擦ブレーキ装置42は、ブレーキECU40とともに、車両に制動力を付与可能な制動装置を構成している。
【0030】
ステアリングECU50は、周知の電動パワーステアリングシステムの制御装置であって、モータ駆動回路51に接続されている。モータ駆動回路51は、転舵用モータ52に接続されている。転舵用モータ52は、「操舵ハンドルUS、操舵ハンドルに連結されたステアリングシャフト及び操舵用ギア機構等を含むステアリング機構」に組み込まれている。転舵用モータ52は、モータ駆動回路51から供給される電力によってトルクを発生し、このトルクによって左右の操舵輪の転舵角(即ち、車両の舵角)を変更することができる。なお、モータ駆動回路51及び転舵用モータ52等は、車両の舵角を変更可能な舵角アクチュエータを構成している。
【0031】
メータECU60は、ブザー(車室内警報音発生装置)61及びメータディスプレイに組み込まれた警告表示装置62等と接続されていて、これらを制御することができる。
【0032】
更に、車両制御ECU20は、確認ボタン70と接続されている。確認ボタン70は、運転者により操作可能な位置に配設されていて、操作されていない場合にはローレベル信号を出力し、押動操作されるとハイレベル信号を出力するようになっている。確認ボタン70出力信号は運転者状態パラメータの一つである。
【0033】
(作動の概要)
本実施装置は、障害物センサからの情報(レーダ物標情報及びカメラ物標情報に基いて得られた統合物標情報)に基いて、車両が障害物と衝突すると予測される場合に成立する衝突予測条件が成立するか否かを判定する。即ち、本実施装置は、統合物標情報に基いて算出される「車両が障害物と衝突する可能性を表す衝突可能性指標値(後述する、衝突余裕時間TTC)」が所定の衝突予測条件(TTC≦TTCth)を満たすか否かを判定する。
【0034】
更に、本実施装置は、後述するように、車両の運転者が「車両の運転を行うことが不能な状態(即ち、異常状態)」に陥っているか否かを運転者状態パラメータに基いて判定している。
【0035】
本実施装置は、
図2に概念フローチャートを示したように、衝突予測条件が成立すると判定した場合(ステップ210:Yes)、以下に述べる状態のそれぞれに応じて、オーバーライド制御(ステップ260)及び自動ブレーキ制御(ステップ270)の何れかを実行する。
【0036】
自動ブレーキ制御は、運転者によるブレーキ操作を要することなく、車両が障害物に衝突することを回避するか又は衝突による被害を軽減するように制動装置によって車両に制動力を自動的に付与する制御である。自動ブレーキ制御は、衝突回避ブレーキ制御又は衝突被害軽減ブレーキ制御と称される場合がある。自動ブレーキ制御自体は周知であるので、その説明を省略する。なお、本実施装置は、自動ブレーキ制御の実行中、仮に、アクセルペダル操作量APが変化しても、車両の駆動輪に伝達される駆動力がクリープ力以下になるように、パワートレインアクチュエータ31を制御する。
【0037】
オーバーライド制御は、自動ブレーキ制御を禁止し(実行せず)且つ運転者による運転操作子(例えば、アクセルペダル11a及びステアリングホイールSW等)の操作に基いて車両の走行状態を変更する制御である。即ち、オーバーライド制御は、車両の運転を運転者に委ねる制御であると言うことができる。
【0038】
(状態1)運転者が異常状態に陥っていると判定されている場合
状態1が発生している場合(ステップ220:No)、本実施装置は、運転者が運転操作子を操作しているか否かに関わらず(即ち、操作子状態パラメータの値の如何を問わず)、オーバーライド制御を禁止して自動ブレーキ制御を実行する(ステップ270)。
【0039】
(状態2)運転者が異常状態に陥っていないと判定されている場合
状態2が発生している場合(ステップ220:Yes)、本実施装置は、操作子状態パラメータが所定の操作判定条件を満たしていれば(ステップ250:Yes)自動ブレーキ制御を実行することなくオーバーライド制御を実行する(ステップ260)。これに対し、本実施装置は、操作子状態パラメータが操作判定条件を満たしていなければ(ステップ250:No)、オーバーライド制御を禁止して自動ブレーキ制御を実行する(ステップ270)。
【0040】
操作判定条件は、運転操作子が所定の態様で操作された場合に操作子状態パラメータが満足する条件である。例えば、運転操作子が操舵ハンドルSWである場合、操作判定条件は、操舵角θの大きさ|θ|が閾値操舵角θth以上であり且つ操舵角の変化速度の大きさ|dθ|が閾値操舵角変化速度dθth以上であることを成立条件とする条件である。なお、操作判定条件は上記条件に限定されることはない。概して言えば、操作判定条件は、操作子状態パラメータXの大きさ|X|が「大きさ閾値Xth」以上である場合、及び/又は、操作子状態パラメータXの単位時間あたりの変化量の大きさ|dX|が「変化速度閾値dXth」以上である場合、に成立する条件である。
【0041】
この操作判定条件は、衝突予測条件が成立したと判定された時点が「過渡期間」内であるか否かに応じて異なる条件(即ち、後述する第1条件及び第2条件の何れか)に設定される。より具体的に述べると、衝突予測条件が成立したと判定された時点が「過渡期間」内であるか否かに応じて、「大きさ閾値Xth」及び/又は「変化速度閾値dXth」の値が変更される。
【0042】
ここで、過渡期間は、本実施装置が、運転者が異常状態に陥っていると判定していた状態において運転者が異常状態に陥っていないと判定し直した時点(復帰判定時点)を開始時点とし、この開始時点から所定時間が経過する時点を終了時点とする期間(即ち、復帰判定時点から所定時間以内の期間)である。換言すると、運転者が異常状態に陥っているとの判定がなされ、その後、運転者が異常状態に陥っていないとの判定がなされると、その時点から所定時間が経過する時点までの期間が過渡期間となる。なお、車両の今回の運転開始後において運転者が異常状態に陥っていると一度も判定されていない場合、運転者が異常状態ではなくなったと判定した時点が存在しないから、衝突予測条件が成立したと判定された時点が「過渡期間」内であると判定されることはない。
【0043】
(状態2-A)衝突予測条件の成立時点が過渡期間内でない場合
この場合、本実施装置は、運転操作子が操作されているときに操作子状態パラメータが満足する第1条件(即ち、運転者正常時条件)を操作判定条件として採用する(ステップ240)。例えば、運転操作子が操舵ハンドルSWである場合、第1条件は、操舵角θの大きさ|θ|が「閾値操舵角θthとして設定された通常時閾値操舵角θNormal」以上であり、且つ、操舵角の変化速度の大きさ|dθ|が「閾値操舵角変化速度dθthとして設定された通常時閾値操舵角変化速度dθNormal」以上であるときに成立する条件である。
【0044】
(状態2-B)衝突予測条件の成立時点が過渡期間内である場合
この場合、本実施装置は、運転操作子が運転者の意思に基づいて操作されていることが第1条件成立時に比べてより確実である(より可能性が高い)ときに操作子状態パラメータが満足する第2条件(即ち、運転者正常復帰後の過渡期間条件)を操作判定条件として採用する(ステップ280)。例えば、運転操作子が操舵ハンドルSWである場合、第2条件は、操舵角θの大きさ|θ|が閾値操舵角θthとして設定された「通常時閾値操舵角θNormalよりも大きな過渡時閾値操舵角θLarge」以上であり、且つ、操舵角の変化速度の大きさ|dθ|が閾値操舵角変化速度dθthとして設定された「通常時閾値操舵角変化速度dθNormalよりも大きな過渡時閾値操舵角変化速度dθLarge」以上であるときに成立する条件である。
【0045】
このように構成された本実施装置によれば、運転者が異常状態ではないと判定されている場合であっても、衝突予測条件の成立時点が過渡期間内であれば、第1条件に代えて第2条件が操作判定条件として採用される。よって、運転操作子が運転者の意思に基づいて操作されている可能性が高い場合にオーバーライド制御が実行され、運転操作子が運転者の意思に基づいて操作されているかどうかが疑わしい場合にはオーバーライド制御が禁止されて自動ブレーキ制御が実行される。
【0046】
(具体的作動)
次に、本実施装置に係るECU20のCPUの作動について説明する。CPUは、所定時間が経過する毎に
図3乃至
図6にフローチャートにより示したルーチンのそれぞれを実行するようになっている。
【0047】
1.自動ブレーキ制御又はオーバーライド制御の実行
適当なタイミングになると、CPUは
図3のステップ300から処理を開始してステップ310に進み、車両の進行方向(この場合、車両の前方)に障害物が存在しているか否かを判定する。
【0048】
より具体的に述べると、先ず、CPUは、車両進行予想経路Ehvを求める。車両進行予想経路Ehvは、車両が現時点における「操舵角θ(又はヨーレートYr)及び車速SPD」を維持すると仮定した場合において、車両(車両の先端部の車幅方向中央位置)が所定の推定期間において通過すると予測される車両の将来の経路である。
【0049】
次に、CPUは、車両進行予想経路Ehvを車幅方向左側に距離dだけ移動した線を左前端部移動経路SLとして求め、車両進行予想経路Ehvを車幅方向右側に距離dだけ移動した線を右前端部移動経路SRとして求める。以上により、左前端部移動経路SL及び右前端部移動経路SRにより定まる帯状の自車両通過領域SPが推定される。そして、CPUは、障害物センサからの情報(統合物標情報)に基いて、自車両通過領域SP内に障害物が存在しているか否かを判定する。自車両通過領域SP内に障害物が存在していない場合、CPUはステップ310にて「No」と判定し、ステップ395に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0050】
自車両通過領域SP内に障害物が存在している場合、CPUはステップ310にて「Yes」と判定してステップ320に進み、統合物標情報に基いて車両がその障害物と衝突すると予測される場合に成立する衝突予測条件が成立するか否かを判定する。より具体的に述べると、CPUは、障害物と車両との距離Dfx(n)をその障害物の相対速度Vfx(n)で除することにより、衝突余裕時間TTCを算出する。そして、CPUは衝突余裕時間TTCが閾値衝突時間TTCth以下であるか否かを判定することにより、衝突予測条件が成立するか否かを判定する。衝突余裕時間TTCは、車両が障害物と衝突する可能性を示す衝突可能性指標値である。衝突可能性指標値は、車両が障害物と衝突する可能性が高くなるにつれて単調減少又は単調増加する値であればよく、例えば、衝突余裕時間TTCの逆数であってもよい。
【0051】
衝突予測条件が成立しない場合、CPUはステップ320にて「No」と判定し、ステップ395に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0052】
これに対し、衝突予測条件が成立する場合、CPUはステップ320にて「Yes」と判定してステップ330に進む。ステップ330にて、CPUはオーバーライド禁止フラグ(以下、「OR禁止フラグ」と称する。)XORprの値が「1」であるか否かを判定する。
【0053】
OR禁止フラグXORprの値は、車両の図示しないイグニッション・キー・スイッチがオフ位置からオン位置へと変更されたときにCPUにより実行される図示しないイニシャライズルーチンにより「0」に設定される。更に、OR禁止フラグXORprの値は、後述する
図4に示したルーチンにより「1」又は「0」に設定される。後述するように、OR禁止フラグXORprの値が「1」である場合、オーバーライド制御が禁止される。
【0054】
OR禁止フラグXORprの値が「1」である場合、CPUはステップ330にて「Yes」と判定してステップ340に進む。CPUは、ステップ340にてオーバーライド制御を禁止して自動ブレーキ制御を実行する。このとき、CPUはパワートレインECU30に出力抑制指令を送信する。これにより、パワートレインECU30は、アクセルペダル操作量APが変化しても、車両の駆動輪に伝達される駆動力をクリープ力以下に維持する。その後、CPUは、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、この場合、操作子状態パラメータの値の如何を問わず(仮に、運転操作子が操作されたとしても)、自動ブレーキ制御が実行される。
【0055】
一方、CPUがステップ330に進んだとき、OR禁止フラグXORprの値が「0」である場合、CPUはステップ330にて「No」と判定してステップ350に進む。CPUは、ステップ350にて、以下に述べる操作判定条件が成立しているか否かを判定する。操作判定条件は、オーバーライド制御許可条件とも称される。
【0056】
操作判定条件は、以下に述べる条件1及び条件2の少なくとも一つを成立条件とする条件である。つまり、CPUは、条件1及び条件2の少なくとも一つが成立している場合、操作判定条件が成立すると判定する。
【0057】
条件1:アクセルペダル操作量AP≧閾値アクセルペダル操作量APth 且つ
アクセルペダル変化速度dAP≧閾値ペダル変化速度dAPth
条件2:操舵角の大きさ|θ|≧閾値操舵角θth 且つ
操舵角の変化速度の大きさ|dθ|≧閾値操舵角変化速度dθth
なお、アクセルペダル変化速度dAPは、単位時間あたりのアクセルペダル操作量APの増加量である。操舵角の変化速度の大きさ|dθ|は、単位時間あたりの操舵角の変化量の大きさである。条件1及び条件2にて使用される閾値(APth、dAPth、θth、dθth)のそれぞれは、後述する
図4に示したルーチンにより変更(設定)される(ステップ450及びステップ460を参照。)。
【0058】
操作判定条件が成立している場合、CPUはステップ350にて「Yes」と判定してステップ360に進む。CPUはステップ360にて自動ブレーキ制御を実行することなくオーバーライド制御を実行する。即ち、CPUは、運転者による運転操作子の操作を優先して車両の走行状態を制御する。このとき、CPUはパワートレインECU30に出力抑制指令を送信しない。これにより、パワートレインECU30は、アクセルペダル操作量APに応じて車両の駆動輪に伝達される駆動力を変化させる。その後、CPUは、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0059】
これに対し、操作判定条件が成立していない場合、CPUはステップ350にて「No」と判定してステップ340に進む。従って、この場合、CPUはオーバーライド制御を禁止して自動ブレーキ制御を実行する。その後、CPUは、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0060】
2.オーバーライド禁止フラグ及び閾値(操作判定条件)の設定
適当なタイミングになると、CPUは
図4のステップ400から処理を開始してステップ410に進み、運転者が異常状態に陥っていると判定されているか否か(即ち、後述する異常判定フラグXijoの値が「1」であるか否か)を判定する。運転者が異常状態に陥っているか否かの判定は後述する
図5及び
図6に示したルーチンにより別途行われている。
【0061】
運転者が異常状態に陥っていると判定されている場合(異常判定フラグXijoの値が「1」である場合)、CPUはステップ410にて「Yes」と判定してステップ420に進む。CPUはステップ420にてOR禁止フラグXORprの値を「1」に設定し、ステップ495に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。従って、この場合、オーバーライド制御は禁止される。
【0062】
これに対し、運転者が異常状態に陥っていると判定されていない場合(異常判定フラグXijoの値が「0」である場合)、CPUはステップ410にて「No」と判定してステップ430に進む。CPUはステップ430にてOR禁止フラグXORprの値を「0」に設定してステップ440に進む。
【0063】
CPUはステップ440にて、現時点が過渡期間(即ち、運転者が前記異常状態に陥っていると判定していた状態において運転者が異常状態に陥っていないと判定し直した時点から所定時間以内の期間)であるか否かを判定する。より具体的に述べると、CPUは異常判定フラグXijoの値が「1」から「0」へと変化した時点から所定時間が経過しているか否かを判定する。なお、車両の今回の運転(イグニッション・キー・スイッチがオフ位置からオン位置へと変更された後にオン位置に維持されている状態)において、異常判定フラグXijoの値が「1」に一度もなっていない場合、CPUは現時点は過渡期間ではないと判定する。
【0064】
現時点が過渡期間内でなければ、CPUはステップ440にて「No」と判定してステップ450に進む。CPUはステップ450にて、以下に述べるように各閾値を設定することにより、操作判定条件を第1条件に設定する。その後、CPUはステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。なお、CPUは上述したイニシャライズルーチンにおいても、ステップ450と同じ処理を行う。ステップ450は、CPUが上述した第1条件を操作判定条件として採用するためのステップ(ステップ240に相当する。)である。
【0065】
CPUは、閾値アクセルペダル操作量APthを通常時閾値ペダル操作量APNormalに設定する。
CPUは、閾値ペダル変化速度dAPthを通常時閾値ペダル変化速度dAPNormalに設定する。
CPUは、閾値操舵角θthを通常時閾値操舵角θNormalに設定する。
CPUは、閾値操舵角変化速度dθthを通常時閾値操舵角変化速度dθNormalに設定する。
【0066】
これに対し、現時点が過渡期間内であると、CPUはステップ440にて「Yes」と判定してステップ460に進む。CPUはステップ460にて、以下に述べるように各閾値を設定することにより、操作判定条件を第2条件に設定する。その後、CPUはステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。ステップ460は、CPUが上述した第2条件を操作判定条件として採用するためのステップ(ステップ280に相当する。)である。
【0067】
CPUは、閾値アクセルペダル操作量APthを「通常時閾値ペダル操作量APNormalよりも大きい過渡時閾値ペダル操作量APLarge」に設定する。
CPUは、閾値ペダル変化速度dAPthを「通常時閾値ペダル変化速度dAPNormalよりも大きい過渡時閾値ペダル変化速度dAPLarge」に設定する。
CPUは、閾値操舵角θthを「通常時閾値操舵角θNormalよりも大きい過渡時閾値操舵角θLarge」に設定する。
CPUは、閾値操舵角変化速度dθthを「通常時閾値操舵角変化速度dθNormalよりも大きい過渡時閾値操舵角変化速度dθLarge」に設定する。
【0068】
3.運転者異常判定
適当なタイミングになると、CPUは
図5のステップ500から処理を開始してステップ510に進み、運転者が異常状態に陥っていると判定されていない否か(即ち、異常判定フラグXijoの値が「0」であるか否か)を判定する。
【0069】
この異常判定フラグXijoの値も上述したイニシャライズルーチンにおいて「0」に設定される。更に、後述するように、異常判定フラグXijoの値は、車両の運転者が「車両の運転を行うことが不能な異常状態に陥っている」との判定がなされたときに「1」に設定される(ステップ590を参照。)。
【0070】
異常判定フラグXijoの値が「0」でなければ(「1」であれば)、CPUはステップ510にて「No」と判定し、ステップ595に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0071】
これに対し、フラグXijoの値が「0」であるとき、CPUはステップ510にて「Yes」と判定してステップ520に進み、現時点が運転無操作状態であるか否かを判定する。運転無操作状態とは、運転者によって「アクセルペダル操作量AP、ブレーキペダル操作量BP、操舵トルクTra及びタッチセンサ13の信号レベル」の一つ以上の組み合わせからなるパラメータの何れもが、「現時点から所定のサンプリング時間前の時点」から「現時点」までの間に変化しない状態(又は、各パラメータが各パラメータに対応する閾値以上変化しない状態)である。
【0072】
現時点が運転無操作状態でない場合、CPUはステップ520にて「No」と判定し、以下に述べる「ステップ530及びステップ540」の処理を順に行い、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0073】
ステップ530:CPUは、異常判定タイマTijoの値を「0」に設定する。なお、この異常判定タイマTijoの値も上述したイニシャライズルーチンにおいて「0」に設定される。
ステップ540:CPUは、異常判定フラグXijoの値のを「0」に設定する。
【0074】
これに対し、CPUがステップ520に進んだ時点が運転無操作状態である場合、CPUはステップ520にて「Yes」と判定してステップ550に進む。CPUはステップ550にて、異常判定タイマTijoの値を「1」だけ増大させる。従って、異常判定タイマTijoの値は、運転無操作状態の継続時間を示す。
【0075】
次に、CPUはステップ560に進み、異常判定タイマTijoの値が警告開始閾値時間Tkeikoku以上であるか否かを判定する。異常判定タイマTijoの値が警告開始閾値時間Tkeikoku未満であれば、CPUはステップ560にて「No」と判定し、ステップ595に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0076】
これに対し、異常判定タイマTijoの値が警告開始閾値時間Tkeikoku以上であると、CPUはステップ560にて「Yes」と判定してステップ570に進む。CPUはステップ570にて、メータECU60に指示信号を送信することにより、ブザー61から警告音を発生させ、警告表示装置62に「ウォーニングランプ」を点滅表示させるとともに「アクセルペダル11a、ブレーキペダル12a及び操舵ハンドルSW」の何れかを操作することを促す警告メッセージを表示させる。
【0077】
次に、CPUはステップ580に進み、異常判定タイマTijoの値が異常判定閾値時間Tijoth以上であるか否かを判定する。異常判定閾値時間Tijothは、警告開始閾値時間Tkeikokuよりも長い時間に設定されている。異常判定タイマTijoの値が異常判定閾値時間Tijoth未満であれば、CPUはステップ580にて「No」と判定し、ステップ595に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0078】
これに対し、異常判定タイマTijoの値が異常判定閾値時間Tijoth以上であると、CPUはステップ580にて「Yes」と判定してステップ590に進む。CPUはステップ590にて、異常判定フラグXijoの値を「1」に設定する。そして、CPUはステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、CPUは、運転無操作状態の継続時間が異常判定閾値時間Tijothに相当する時間以上に渡って継続したとき、運転者が車両の運転を行うことが不能な異常状態に陥っているとの判定を確定する。
【0079】
4.運転者正常復帰判定
適当なタイミングになると、CPUは
図6のステップ600から処理を開始してステップ610に進み、異常判定フラグXijoの値が「1」であるか否かを判定する。異常判定フラグXijoの値が「0」であると、CPUはステップ610にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0080】
これに対し、異常判定フラグXijoの値が「1」であると(即ち、現時点において運転者が異常状態に陥っていると判定されている場合)、CPUはステップ610にて「Yes」と判定してステップ620に進む。CPUはステップ620にて、復帰条件が成立したか否かを判定する。本例において、復帰条件は「運転無操作状態ではないこと」を成立条件とする条件である。なお、復帰条件は、運転者が異常状態ではなくなったと考えられる場合に成立する他の条件であってもよく、例えば、運転者が確認ボタン70を操作した場合に成立する条件であってもよい。
【0081】
復帰条件が成立していない場合、CPUはステップ620にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0082】
これに対し、復帰条件が成立している場合、運転者の状態が異常状態から異常状態ではなくなったと判定可能である。従って、復帰条件が成立している場合、CPUはステップ620にて「Yes」と判定し、以下に述べる「ステップ630乃至ステップ650」の処理を順に行い、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0083】
ステップ630:CPUは、異常判定タイマTijoの値を「0」に設定する。
ステップ640:CPUは、異常判定フラグXijoの値のを「0」に設定する。
ステップ650:CPUは、ステップ570にて発生させた警告音を停止し、ウォーニングランプ及び警告メッセージを消灯する。
【0084】
以上、説明したように、本実施装置は、衝突予測条件が成立した時点において運転者が異常状態に陥っていると判定している場合、オーバーライド制御を禁止して自動ブレーキ制御を実行する。
【0085】
更に、本実施装置は、衝突予測条件が成立した時点において運転者が異常状態に陥っていないと判定している場合、
(1)その時点が過渡期間でなければ、操作子状態パラメータが第1条件に設定された操作判定条件を満足するとき、自動ブレーキ制御を禁止してオーバーライド制御を実行し、
(2)その時点が過渡期間であると、操作子状態パラメータが「第1条件の成立時に比較して運転操作子が運転者の意思で操作された可能性が高い場合に成立する第2条件」に設定された操作判定条件を満足するとき、自動ブレーキ制御を禁止してオーバーライド制御を実行する。従って、オーバーライド制御が誤って実行される可能性を低減することができる。
【0086】
本発明は上記実施形態及び変形例に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の以下に述べるような種々の変形例を採用することができる。
【0087】
<第1変形例>
ステップ350にて成否が判定される操作判定条件は、以下の条件3乃至条件8の何れか一つを成立条件とする条件であってもよい。更に、ステップ350にて成否が判定される操作判定条件は、以下の条件3乃至条件8の何れか二つ以上の条件が同時に成立していることを成立条件とする条件であってもよい。
【0088】
条件3:アクセルペダル操作量AP≧閾値アクセルペダル操作量APth
条件4:アクセルペダル変化速度dAP≧閾値ペダル変化速度dAPth
条件5:操舵角の大きさ|θ|≧閾値操舵角θth
条件6:操舵角の変化速度の大きさ|dθ|≧閾値操舵角変化速度dθth
条件7:操舵トルクTraの大きさ|Tra|≧閾値操舵トルクTrath
条件8:操舵トルクTraの変化速度の大きさ|dTra|≧閾値操舵トルク変化速度dTrath
【0089】
条件7が操作判定条件の成立条件として使用される場合、CPUは、ステップ450において閾値操舵トルクTrathを通常時閾値操舵トルクTraNormalに設定し、ステップ460において閾値操舵トルクTrathを「通常時閾値操舵トルクTraNormalよりも大きい過渡時閾値操舵トルクTraLarge」に設定する。
【0090】
条件8が操作判定条件の成立条件として使用される場合、CPUは、ステップ450において閾値操舵トルク変化速度dTrathを通常時閾値操舵トルク変化速度dTraNormalに設定し、ステップ460において閾値操舵トルク変化速度dTraを「通常時閾値操舵トルク変化速度dTraNormalよりも大きい過渡時閾値操舵トルク変化速度dTraLarge」に設定する。
【0091】
<第2変形例>
CPUは、運転者が異常状態に陥っているか否かの判定を、特開2013-152700号公報等に開示されている所謂「ドライバモニタ技術」を採用して行ってもよい。より具体的に述べると、ドライバモニタ技術を採用した車両制御装置は、車室内の部材(例えば、操舵ハンドルSW及びピラー等)に設けられたドライバモニタカメラを用いて運転者を撮影し、その撮影画像を用いて運転者の視線の方向又は顔の向きを監視する。そして、CPUは、運転者の視線の方向又は顔の向きが車両の通常の運転中には長時間向くことがない方向に所定時間以上継続して向いている場合、運転者が異常状態であると判定してフラグXijoの値を「1」に設定する。このように、ドライバモニタカメラからの画像情報は車両の運転者の状態を表す運転者状態パラメータとして機能する。なお、この場合の復帰条件は、運転者の視線の方向又は顔の向きが頻繁に変化することが確認されることを成立条件とする条件であってもよい。
【0092】
<第3変形例>
CPUは、運転者が異常状態に陥っているか否かの判定を、確認ボタン70を用いて行ってもよい。より具体的に述べると、CPUは、
図5のステップ570にて「運転者に確認ボタン70を操作することを促す警告メッセージ」を警告表示装置62に表示させる。
【0093】
そして、CPUは、その状態において第1時間に渡って確認ボタン70が操作されないとき、運転者が異常状態であると判定してフラグXijoの値を「1」に設定する。なお、CPUは、
図5のステップ520にて確認ボタン70が操作されたことを確認すると、ステップ530及びステップ540に進む。このように、確認ボタン70からの信号は車両の運転者の状態を表す運転者状態パラメータとして機能する。この場合の復帰条件は、確認ボタン70が操作されたことを成立条件とする条件であってもよい。
【符号の説明】
【0094】
10:本実施装置、11…アクセルペダル操作量センサ、11a…アクセルペダル、12…ブレーキペダル操作量センサ、12a…ブレーキペダル、13…タッチセンサ、14…操舵角センサ、15…操舵トルクセンサ、17a…レーダセンサ、17b…カメラセンサ装置、20…車両制御(運転支援)ECU、30…パワートレインECU、31…パワートレインアクチュエータ、40…ブレーキECU、41…ブレーキアクチュエータ、42…摩擦ブレーキ装置、50…ステアリングECU、51…モータ駆動回路、52…転舵用モータ、60…メータECU、SW…操舵ハンドル(ステアリングホイール)、Tijoth…異常判定閾値時間、TTC…衝突余裕時間、TTCth…閾値衝突時間、AP…アクセルペダル操作量、APth…閾値アクセルペダル操作量、APNormal…通常時閾値ペダル操作量、APLarge…過渡時閾値ペダル操作量、dAP…アクセルペダル変化速度、dAPth…閾値ペダル変化速度、dAPNormal…通常時閾値ペダル変化速度、dAPLarge…過渡時閾値ペダル変化速度、θ…操舵角、θth…閾値操舵角、θNormal…通常時閾値操舵角、θLarge…過渡時閾値操舵角、dθ…操舵角の変化速度、dθth…閾値操舵角変化速度、dθNormal…通常時閾値操舵角変化速度、dθLarge…過渡時閾値操舵角変化速度。