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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】負極活物質層、及び固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20241224BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20241224BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241224BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241224BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241224BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241224BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241224BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/1395
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M10/0562
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022152734
(22)【出願日】2022-09-26
(65)【公開番号】P2024047223
(43)【公開日】2024-04-05
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】仲西 梓
(72)【発明者】
【氏名】中西 真二
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-097800(JP,A)
【文献】特開2018-206530(JP,A)
【文献】特開2022-094317(JP,A)
【文献】特開2022-020211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質シリコン粒子、グラファイト粒子、及び無機固体電解質粒子を含有しており
記多孔質シリコン粒子及び前記グラファイト粒子の合計質量に対して、前記グラファイト粒子の質量の割合が、10質量%~25質量%であ
前記グラファイト粒子の平均アスペクト比が、1.5以上であり、かつ
前記グラファイト粒子のD50径が、前記多孔質シリコン粒子のD50径の2倍以上20倍以下である、
負極活物質層。
【請求項2】
前記多孔質シリコン粒子が、多孔質クラスレートシリコン粒子である、請求項1に記載の負極活物質層。
【請求項3】
前記無機固体電解質粒子が、硫化物固体電解質粒子であり、かつ
前記多孔質シリコン粒子、前記グラファイト粒子及び前記無機固体電解質粒子の合計質量に対して、前記多孔質シリコン粒子及び前記グラファイト粒子の合計質量の割合が、30質量%~85質量%であ
請求項1に記載の負極活物質層。
【請求項4】
請求項1に記載の負極活物質層、固体電解質層、及び正極活物質層をこの順で有する、固体電池。
【請求項5】
ロールプレスすることを含む、請求項1に記載の負極活物質層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、負極活物質層、及び負極活物質層を有する固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電池は、正極層及び負極層の間に固体電解質層を有する電池であり、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。また、固体電池の中でも固体リチウムイオン電池は、リチウムイオンの移動を伴う電池反応を利用することによって高いエネルギー密度を提供することができるので、注目されている。
【0003】
電池の負極層において用いられる負極活物質として、シリコン(Si)を含有する活物質(シリコン含有活物質)が知られている。シリコン含有活物質は、体積当たりの理論容量が大きいという利点を有するが、その反面、充放電による体積変化が大きく、それによって繰り返して使用したときに特性が劣化しやすいという問題がある。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1のように、多孔質シリコン粒子を使用して、充放電によるシリコンの体積変化の影響を抑制することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-097017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のような多孔質シリコン粒子の使用によれば、充放電によるシリコンの体積変化の影響を抑制できる。
【0007】
しかしながら、本開示の開示者等は下記の点を見いだした:
・固体電池の負極活物質層の形成においては、粒子間の接触を改良するために、大きい圧力で負極活物質層をプレスする必要があること、特に硫化物固体電解質粒子を用いる場合には、プレスによって硫化物固体電解質粒子を変形させて粒子間の接触を改良するために、大きい圧力で負極活物質層をプレスする必要があること、及び
・このような大きい圧力でのプレスは、多孔質シリコン粒子の多孔質構造を少なくとも部分的に破壊し、それによって多孔質シリコン粒子の本来の性能が発揮されない場合があること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである。
【0009】
〈態様1〉多孔質シリコン粒子、グラファイト粒子、及び無機固体電解質粒子を含有しており、かつ
前記多孔質シリコン粒子及び前記グラファイト粒子の合計質量に対して、前記グラファイト粒子の質量の割合が、10質量%~25質量%である、
負極活物質層。
〈態様2〉前記多孔質シリコン粒子が、多孔質クラスレートシリコン粒子である、態様1に記載の負極活物質層。
〈態様3〉前記無機固体電解質粒子が、硫化物固体電解質粒子であり、
前記多孔質シリコン粒子、前記グラファイト粒子及び前記無機固体電解質粒子の合計質量に対して、前記多孔質シリコン粒子及び前記グラファイト粒子の合計質量の割合が、30質量%~85質量%であり、かつ
前記グラファイト粒子の平均アスペクト比が、1.5以上であり、かつ
前記グラファイト粒子のD50径が、前記多孔質シリコン粒子のD50径の2倍~20倍以下である、
態様1又は2に記載の負極活物質層。
〈態様4〉態様1~3のいずれか一項に記載の負極活物質層、固体電解質層、及び正極活物質層をこの順で有する、固体電池。
〈態様5〉ロールプレスすることを含む、態様1~3のいずれか一項に記載の負極活物質層の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示の負極活物質層によれば、多孔質シリコン粒子による効果、すなわち充放電によるシリコンの体積変化の影響を抑制するという効果を、固体電池においても良好に提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、固体電池の一例を示す断面図である。
図2図2は、実施例及び比較例の固体電池についての、多孔質シリコン粒子及びグラファイト粒子の合計質量に対するグラファイト粒子の質量の割合と、空隙率との関係を示す図である。
図3図3は、実施例及び比較例の固体電池についての、多孔質シリコン粒子及びグラファイト粒子の合計質量に対するグラファイト粒子の質量の割合と、容量維持率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態について、詳細に説明する。ただし、図に示される形態は本開示の例示であり、本開示を限定するものではない。
【0013】
《負極活物質層》
本開示の負極活物質層は、多孔質シリコン粒子、グラファイト粒子、及び無機固体電解質粒子を含有しており、かつ多孔質シリコン粒子及びグラファイト粒子の合計質量に対して、グラファイト粒子の質量の割合が、10質量%~25質量%である。
【0014】
本開示の負極活物質層によれば、多孔質シリコン粒子を使用し、かつ無機固体電解質粒子を使用する場合にも、多孔質シリコン粒子の本来の性能を発揮することができる。理論に限定されるものではないが、これは、グラファイト粒子、すなわち比較的大きいアスペクト比を有する比較的硬質な粒子が、適度な割合で含有されていることによって、グラファイト粒子がピラー(柱)構造として機能し、それによって無機固体電解質粒子を用いる場合に必須のプレス及び/又は拘束の際に、多孔質シリコン粒子に過剰な圧力が加わることが抑制されること、すなわち多孔質シリコン粒子の多孔質構造の破壊が抑制されることによると考えられる。
【0015】
負極活物質層の厚さは、1μm以上、10μm以上、30μm以上、又は50μm以上であってよく、また100μm以下であってよい。
【0016】
本開示の負極活物質層は任意の方法で製造することができ、例えば多孔質シリコン粒子、グラファイト粒子、及び無機固体電解質粒子を含有している負極合剤スラリーを、基材上に塗布し、乾燥及びプレスして製造することができる。ここで、この場合のプレスとしては、ロールプレスを用いることが、負極活物質層に大きいプレス圧力を提供するために好ましい。ここで、このロールプレスの圧力は、10kN/cm以上、50kN/cm以上、80kN/cm以上、又は100kN/cm以上であってよく、また500kN/cm以下、300kN/cm以下、200kN/cm以下、又は100kN/cm以下であってよい。
【0017】
(多孔質シリコン粒子)
本開示に関して、多孔質シリコン粒子(ポーラスシリコン粒子)は、負極活物質粒子として用いられている。この多孔質シリコン粒子は、一次粒子の内部に細孔を有するシリコン粒子であり、この細孔によって、負極活物質粒子の充放電時における膨張及び収縮を抑制することができる。
【0018】
これに関して、例えば、多孔質シリコン粒子は、100nm以下の細孔径を有する細孔の量が、0.01cc/g以上、0.05cc/g以上、又は0.10cc/g以上であってよく、また、0.50cc/g以下、0.40cc/g以下、0.30cc/g以下、0.20cc/g以下、0.15cc/g以下、又は0.10cc/g以下であってよい。細孔直径が100nm以下である細孔の量は、細孔直径が100nm以下である細孔の累積細孔容積である。累積細孔容積は、例えば、水銀ポロシメーター測定等により求めることができる。
【0019】
多孔質シリコン粒子は、任意の方法で製造することができる。具体的には、多孔質シリコン粒子は、既知の方法で製造することができる。例えば、多孔質シリコン粒子は、シリコンとマグネシウム、リチウム等の他の金属との合金の粒子を形成し、この合金粒子から他の金属を溶出させて除去することによって製造できる。
【0020】
多孔質シリコン粒子の大きさは特に限定されるものではない。多孔質シリコン粒子のメジアン径(D50粒子径)は、例えば、0.1μm以上、0.3μm以上、又は0.5μm以上であってよく、また、50.0μm以下、30.0μm以下、10.0μm以下、5.0μm以下、3.0μm以下、又は1.0μm以下であってよい。なお、多孔質シリコン粒子のメジアン径は、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(D50径)である。
【0021】
多孔質シリコン粒子は、クラスレート構造を有することもできる。多孔質シリコン粒子がクラスレート構造を有することは、電池の充放電に伴う多孔質シリコン粒子の膨張及び収縮が更に小さくなる点で好ましい。なお、多孔質シリコン粒子がクラスレート構造を有するか否かについては、ラマンスペクトルやXRDなどから容易に判断可能である。多孔質シリコン粒子は、酸化被膜を有するものであってもよく、炭素などの不純物を含むものであってもよい。
【0022】
(グラファイト粒子)
本開示に関して、グラファイト粒子は、負極活物質粒子として用いられている。このグラファイト粒子は、多数のグラフェン層から構成されている層状化合物であり、リチウムイオン等の金属イオンがこれらのグラフェン層の間に挿入及び脱離できる粒子である。
【0023】
グラファイト粒子の大きさは特に限定されるものではない。グラファイト粒子のメジアン径(D50粒子径)は、例えば、1.0μm以上、3.0μm以上、又は5.0μm以上であってよく、また、50μm以下、30μm以下、20μm以下、15μm以下、又は10μm以下であってよい。なお、グラファイト粒子のメジアン径は、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(D50径)である。
【0024】
グラファイト粒子のメジアン径は、多孔質シリコン粒子のメジアン径よりも大きくてよく、例えばグラファイト粒子のメジアン径は、多孔質シリコン粒子のメジアン径の2倍以上、3倍以上、4倍以上、又は5倍以上であってよく、また、20倍以下、10倍以下、15倍以下、又は10倍以下であってよい。
【0025】
グラファイト粒子は、通常、比較的大きいアスペクト比を有する。ここで、グラファイト粒子のアスペクト比は、短軸長さに対する長軸長さの比(長軸長さ/短軸長さ)である。長軸長さ及び短軸長さは、例えばマイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像解析によって測定することができる。グラファイト粒子の平均アスペクト比は、長軸長さがメジアン径以上のグラファイト粒子について画像解析で測定したアスペクト比の数平均値であり、1.5以上、2.0以上、又は2.5以上であってよく、また10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、4.0以下、又は3.5以下であってよい。
【0026】
多孔質シリコン粒子及びグラファイト粒子の合計質量に対して、グラファイト粒子の質量の割合は、10質量%以上、11質量%以上、12質量%以上、13質量%以上、14質量%以上、又は15質量%以上であってよく、また、25質量%以下、24質量%以下、23質量%以下、22質量%以下、21質量%以下、又は20質量%以下であってよい。
【0027】
(無機固体電解質粒子)
無機固体電解質粒子としては、任意のものを用いることができる。
【0028】
無機固体電解質粒子としては、例えば、ランタンジルコン酸リチウム、LiPON、Li1+XAlGe2-X(PO、Li-SiO系ガラス、Li-Al-S-O系ガラス等の酸化物固体電解質粒子;LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-SiS-P、LiS-P-LiI-LiBr、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P-GeS等の硫化物固体電解質粒子を例示することができる。特に、硫化物固体電解質粒子、中でも、構成元素として少なくともLi、S及びPを含む硫化物固体電解質粒子は性能が高ので、好ましい。無機固体電解質粒子は、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。無機固体電解質粒子は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0029】
負極活物質層において、多孔質シリコン粒子、グラファイト粒子及び無機固体電解質粒子の合計質量に対して、多孔質シリコン粒子及びグラファイト粒子の合計質量の割合(すなわち負極活物質及び無機固体電解質粒子の合計質量に対する負極活物質の質量の割合)は、30質量%以上、40質量%以上、又は50質量%以上であってよく、また85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、又は60質量%以下であってよい。
【0030】
負極活物質層の厚さは、1μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、30μm以上、又は50μm以上であってよく、また100μm以下、80μm以下、60μm以下、40μm以下、又は30μm以下であってよい。
【0031】
(その他)
負極活物質層は、多孔質シリコン粒子、グラファイト粒子、及び無機固体電解質粒子に加えて、電解液、導電助剤、及び/又は有機バインダーを有することができる。
【0032】
電解液は、例えば、キャリアイオンとしてのリチウムイオンを含み得る。電解液は、例えば、非水系電解液であってもよい。例えば、電解液として、カーボネート系溶媒にリチウム塩を所定濃度で溶解させたものを用いることができる。カーボネート系溶媒としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が挙げられる。リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸塩等が挙げられる。ただし、負極活物質層が電解液を含んでいないことが、無機固体電解質粒子による性能を提供するために好ましいことがある。
【0033】
導電助剤としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)やアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料;ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0034】
有機バインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー、ポリアクリル酸系バインダー等が挙げられる。有機バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0035】
《固体電池》
本開示の固体電池は、本開示の負極活物質層、固体電解質層、及び正極活物質層をこの順で有する。特に、本開示の固体電池は、負極集電体層、本開示の負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、及び正極集電体層をこの順で有する。
【0036】
本開示において、固体電池は、固体リチウムイオン電池、固体ナトリウムイオン電池、固体マグネシウムイオン電池、及び固体カルシウムイオン電池等を挙げることができる。中でも、固体リチウムイオン電池及び固体ナトリウムイオン電池が好ましく、特に、固体リチウムイオン電池が好ましい。また、本開示の固体電池は、固体電解質粒子として硫化物固体電解質粒子を用いる固体電池、すなわち硫化物固体電池であることが好ましい。
【0037】
また、本開示の硫化物固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でも、二次電池であることが好ましい。二次電池は、繰り返し充放電でき、例えば、車載用電池として有用だからである。よって、本開示の硫化物固体電池は、固体リチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【0038】
本開示において、電池積層体は、モノポーラ型の電池積層体であってもよく、バイポーラ型の電池積層体であってもよい。
【0039】
本開示の固体電池の電池積層体は、使用時に、積層方向に拘束されていてもよい。これによれば、充放電の際に、電池積層体の各層の内部及び各層の間における、イオン及び電子の伝導性を改良して、電池反応をより促進することができる。
【0040】
この場合の拘束力は、特に限定されず、例えば、1.0MPa以上、1.5MPa以上、2.0MPa以上、又は2.5MPa以上であってもよい。なお、拘束力の上限は、特に限定されず、例えば50MPa以下、30MPa以下、10MPa以下、又は5MPa以下であってもよい。
【0041】
(正極集電体層)
本開示の固体電池で用いられる正極集電体層は、二次電池の正極集電体層として一般的なものをいずれも採用可能である。正極集電体層は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、多孔質状、及び発泡体状等であってよい。正極集電体層は、金属箔又は金属メッシュであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。正極集電体層は、複数枚の金属箔からなっていてもよい。正極集電体層を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0042】
(正極活物質層)
本開示の固体電池で用いられる正極活物質層は、正極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤、バインダー等を含んでいてもよい。さらに、正極活物質層はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質層における正極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。
【0043】
正極活物質層に含まれ得る電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0044】
正極活物質層において、正極活物質粒子及び無機固体電解質粒子の合計質量に対して、正極活物質粒子の質量の割合は、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、又は80質量%以上であってよく、また95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、又は80質量%以下であってよい。
【0045】
正極活物質層の厚さは、1μm以上、10μm以上、30μm以上、又は50μm以上であってよく、また100μm以下、80μm以下、60μm以下、又は40μm以下であってよい。
【0046】
〈電解質層〉
本開示の固体電池で用いられる電解質層は、少なくとも電解質を含む。電解質層は、固体電解質を含んでいてもよく、さらに任意にバインダー等を含んでいてもよい。この場合、電解質層における固体電解質とバインダー等との含有量は特に限定されない。また、電解質層は、各種の添加剤を含むものであってもよい。また、電解質層は、固体電解質とともに液体成分を含むものであってもよい。或いは、電解質層は、電解液を含むものであってもよく、さらに、この電解液を保持するとともに、正極と負極との接触を防止するためのセパレータ等を有していてもよい。
【0047】
(負極集電体層)
本開示の固体電池で用いられる負極層は、負極活物質層と接触する負極集電体層を備えていてもよい。負極集電体層は、電池の負極集電体層として一般的なものをいずれも採用可能である。また、負極集電体層は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、多孔質状、及び発泡体状等であってよい。負極集電体層は、金属箔又は金属メッシュであってもよく、或いは、カーボンシートであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。負極集電体層は、複数枚の箔やシートからなっていてもよい。負極集電体層を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、還元耐性を確保する観点及びリチウムと合金化し難い観点から、負極集電体層がCu、Ni及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種の金属を含むものであってもよい。
【実施例
【0048】
《実施例1》
〈正極層の作製〉
ポリプロピレン製容器に、分散媒としての酪酸ブチル、ポリフッ化ビニリデン系バインダーの5質量%酪酸ブチル溶液、正極活物質粒子としての平均粒径6μmのLiNi/3Co/3Mn/3O、硫化物固体電解質粒子としてのLiS-P系ガラスセラミック、導電助剤としての気相法炭素繊維を、容器に加えて、正極合剤スラリーを得た。
【0049】
ここで、正極活物質層において、正極活物質粒子と固体電解質粒子との質量比は、85:15であった。また、正極活物質層の厚さは、35μmであった。
【0050】
この正極合剤スラリーを、超音波分散装置(エスエムテー製 UH-50)で30秒間攪拌し、振盪器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で3分間振盪させ、そして超音波分散装置で30秒間撹拌した。その後、アプリケーターを使用してブレード法にて、正極合剤スラリーを、正極集電体層としてのアルミニウム箔(昭和電工製)上に塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させて、正極活物質層及び正極集電体層を有する正極層を得た。
【0051】
〈負極層の作製〉
ポリプロピレン製容器に、分散媒としての酪酸ブチル、PVDF系バインダーの5wt%酪酸ブチル溶液、導電助剤(気相法炭素繊維)、負極活物質としての多孔質シリコン及びグラファイト粒子、並びに硫化物固体電解質粒子(LiS-P系ガラスセラミック)を容器に加えて、負極合剤スラリーを得た。
【0052】
ここで、負極活物質層において、負極活物質粒子と固体電解質粒子との質量比は、55:45であった。また、多孔質シリコン粒子及びグラファイト粒子の合計質量に対するグラファイト粒子の質量の割合は、10質量%であった。負極活物質層の厚さは、21μmであった。多孔質シリコン粒子は、約1.0μmのメジアン径(D50)を有していた。グラファイト粒子は、約10μmのメジアン系(D50)及び約3のアスペクト比を有していた。
【0053】
この負極合剤スラリーを、超音波分散装置(エスエムテー製 UH-50)で30秒間攪拌し、そして振盪器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振盪させた。その後、アプリケーターを使用して、ブレード法にて、負極合剤スラリーを、負極集電体層としての銅箔(UACJ製)上に塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させて、負極活物質層及び負極集電体層を有する負極層を得た。
【0054】
〈剥離シート付き固体電解質層の作製〉
ポリプロピレン製容器に、ヘプタン、ブチルゴム系バインダーの5wt%ヘプタン溶液、及び硫化物固体電解質(LiS-P系ガラスセラミック)を加えて、固体電解質合剤スラリーを得た。
【0055】
この固体電解質合剤スラリーを、超音波分散装置(エスエムテー製 UH-50)で30秒間攪拌し、そして容器を振盪器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振盪させた。その後、アプリケーターを使用して、ブレード法にて、固体電解質合剤スラリーを、剥離層としてのアルミニウム箔上に塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させて、剥離シート付き固体電解質層を得た。
【0056】
〈電池の作製〉
上記のようにして得た剥離シート付き固体電解質層及び正極層を、剥離シート、固体電解質層、正極活物質層、及び正極集電体層の順になるようにして積層した。この積層体を、100kN/cmのプレス圧力及び165℃のプレス温度でロールプレスし、そして剥離シートを剥がすことによって、正極積層体を得た。
【0057】
上記のようにして得た剥離シート付き固体電解質層及び負極層を、剥離シート、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層の順になるようにして積層した。この積層体を、60kN/cmのプレス圧力及び25℃のプレス温度でロールプレスし、そして剥離シート付きを剥がすことによって、負極積層体を得た。
【0058】
上記のようにして得た剥離シート付き固体電解質層及び負極積層体を、剥離シート、固体電解質層(中間固体電解質層)、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層の順になるようにして積層した。この積層体を、100MPaのプレス圧力及び25℃のプレス温度で、10秒にわたって、平面一軸プレスし、そして剥離シートを剥がすことによって、中間固体電解質層付き負極積層体を得た。
【0059】
なお、中間固体電解質層付き負極積層体の面積が、正極積層体の面積より大きくなるように、中間固体電解質層付き負極積層体及び正極積層体を作製した。
【0060】
上記のようにして得た正極積層体及び中間固体電解質層付き負極積層体を、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、中間固体電解質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層の順になるようにして積層した。この積層体を、200MPaのプレス圧力及び120℃のプレス温度で、1分間にわたって、平面一軸プレスすることによって、実施例1の固体電池を得た。
【0061】
〈空隙率の評価〉
空隙率としては、負極活物質層の全体体積に占める負極活物質層内の空隙体積の割合を調べた。負極活物質層の空隙率は、下記の式で求めた:
空隙率(%)=(1-x/y)×100
x:負極活物質層を構成する各材料の重量を各材料の真密度で割って得られる各材料の体積の合計
y:実際の負極活物質層の寸法から得られる見かけ体積
【0062】
〈容量維持率の評価〉
上記のようにして得た固体電池を、拘束治具を用いて所定の拘束圧(5MPa)にて拘束し、1.0Cで3.0Vまで放電し、0.33Cで4.35Vまで定電流-定電圧で充電し、0.33Cで3.00Vまで定電流-定電圧で放電して、初回容量を規定した。その後、2.0Cでの充放電試験を200回繰り返して、初回容量からの維持率を算出した。
【0063】
《実施例2~3、及び比較例1~3》
負極層の作製において、負極活物質としての多孔質シリコンとグラファイトとの質量比を表1のように変更したことを除いて実施例1でのようにして、実施例2~3及び比較例1~3の固体電池を作製し、そして評価した。
【0064】
《評価結果》
実施例1~3及び比較例1~3について、負極活物質としての多孔質シリコン粒子及びグラファイト粒子の合計質量に対するグラファイト粒子の質量の割合、負極活物質層の空隙率、及び固体電池の容量維持率を、表1、並びに図1及び2に示している。
【0065】
【表1】
【0066】
表1及び図1で示されているように、多孔質シリコン粒子及びグラファイト粒子の合計質量に対するグラファイト粒子の質量の割合がそれぞれ10質量%、15質量%、及び20質量%である実施例1~3では、負極活物質層の空隙率が比較的大きく、また固体電池の容量維持率も比較的大きかった。これは、負極活物質層が適度な量のグラファイト粒子を含有しているので、グラファイト粒子がピラー(柱)として機能し、それによって多孔質シリコン粒子内の細孔が潰れるのを抑制していることによると考えられる。なお、このような多孔質シリコン粒子内の細孔は、電池の充放電による膨張及び収縮を吸収し、それによって電池の容量維持率を向上させるために有益である。
【0067】
これに対して、グラファイト粒子を使用していない比較例1では、上記のようなピラー(柱)が存在しないので、多孔質シリコン粒子の空隙が潰れ、それによって負極活物質層の空隙率が比較的小さくなり、また固体電池の容量維持率も比較的小さかったと考えられる。
【0068】
また、多孔質シリコン粒子及びグラファイト粒子の合計質量に対するグラファイト粒子の質量の割合が5質量%である比較例1では、グラファイト粒子を使用していない比較例1と比較しても、負極活物質層の空隙率が比較的小さく、また固体電池の容量維持率も比較的小さかった。これは、少量のグラファイト粒子が、かえって、多孔質シリコン粒子の圧壊を促進してしまったことによると考えられる。
【0069】
また、多孔質シリコン粒子及びグラファイト粒子の合計質量に対するグラファイト粒子の質量の割合が30質量%である比較例3では、グラファイト粒子を使用していない比較例1と比較しても、負極活物質層の空隙率が比較的小さく、また固体電池の容量維持率も比較的小さかった。これは、多孔質シリコン粒子の量が比較的少なく、したがって多孔質シリコン粒子の機構によって提供される空隙の量が減少したことによると考えられる。
【符号の説明】
【0070】
11 正極集電体層
12 正極活物質層
31、32、33 固体電解質層
21 負極集電体層
22 負極活物質層
100 固体電池
図1
図2
図3