(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ
(51)【国際特許分類】
B60K 35/23 20240101AFI20241224BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20241224BHJP
G09G 5/00 20060101ALI20241224BHJP
G09G 5/37 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
B60K35/23
G02B27/01
G09G5/00 550X
G09G5/37 300
G09G5/00 510Z
(21)【出願番号】P 2022512271
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013479
(87)【国際公開番号】W WO2021200912
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020059524
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 久敏
【審査官】齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-169828(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181926(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 35/23
G02B 27/01
G09G 5/00
G09G 5/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を表す表示光を出力する表示部と、前記表示部を制御する制御部を備え、前記表示光を車両のウインドシールドに反射させてアイボックスから前記表示光の虚像を視認させるヘッドアップディスプレイであって、
1つの前記アイボックスに対し1つのワーピング設定値
が設定され、
前記制御部は、前記ワーピング設定値に基づいて前記画像を変形させて前記虚像の歪みを補正し、
前記ワーピング設定値は、以下の通りに設定される:
(a)前記ワーピング設定値は、前記アイボックスの中心点に最適化されたものであり
、且つ、前記アイボックス内の複数の点から視認される前記虚像の評価値の統計的ばらつ
きが所定値未満である;あるいは、
(b)(a)が達成されない場合には、前記ワーピング設定値は、前記アイボックスの中心点に最適化されたものでなく、且つ、
前記統計的ばらつきが所定値未満である、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ。
【請求項3】
前記表示光を前記ウインドシールドに反射させる回転可能な反射部を備え、
前記アイボックスは、前記反射部の回転位置に対応してそれぞれ設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項4】
前記統計的ばらつきが所定値未満であるとは、前記統計的ばらつきの変動係数が0.1
未満であることを意味する、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載されるヘッドアップディスプレイが表示する虚像の歪み補正に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のヘッドアップディスプレイとして特許文献1に開示されたものがある。このヘッドアップディスプレイは、画像を表示する表示器から出射された表示光を反射鏡や車両のウインドシールドを反射させ、ウインドシールド越しに表示光の虚像を表示する。このようなヘッドアップディスプレイにおいては、反射鏡やウインドシールドを反射する過程で虚像に歪みが生じる。
【0003】
そのため、特許文献1に開示されたヘッドアップディスプレイは、上述した虚像の歪みを補正するため、ワーピングと呼ばれる画像の変形による歪み補正処理機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アイボックス内の中心点に基づいてワーピング設定値を定めるため、アイボックス内の中心点から視線が外れるほどヘッドアップディスプレイの表示品質が低下するという課題があることを本開示の発明者は認識した。
【0006】
本開示は、上述した課題を鑑みて、表示品質の高いヘッドアップディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のヘッドアップディスプレイは、
画像を表す表示光を出力する表示部と、前記表示部を制御する制御部を備え、前記表示光を車両のウインドシールドに反射させてアイボックスから前記表示光の虚像を視認させるヘッドアップディスプレイであって、
1つの前記アイボックスに対し1つのワーピング設定値が設定され、
前記制御部は、前記ワーピング設定値に基づいて前記画像を変形させて前記虚像の歪みを補正し、
前記ワーピング設定値は、以下の通りに設定される:
(a)前記ワーピング設定値は、前記アイボックスの中心点に最適化されたものであり
、且つ、前記アイボックス内の複数の点から視認される前記虚像の評価値の統計的ばらつ
きが所定値未満である;あるいは、
(b)(a)が達成されない場合には、前記ワーピング設定値は、前記アイボックスの中心点に最適化されたものでなく、且つ、前記統計的ばらつきが所定値未満である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、表示品質の高いヘッドアップディスプレイを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示のヘッドアップディスプレイの構成概略図
【
図2】補正前の画像及びワーピングメッシュを示す図
【
図3】アイボックス内の各視点位置に対応する虚像を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示のヘッドアップディスプレイを添付図面1-4に基づいて説明する。各図において、車両の左右方向をX方向、車両の上下方向をY方向、車両の前後方向をZ方向として図示する。また、
図1において、視覚的に理解しやすいように、表示光PLの主光線を図示する。
【0011】
ヘッドアップディスプレイHUDは、車両情報(走行速度や各種車両警告、経路案内情報など)を表す表示光PLを車両のウインドシールドWSに投射し、表示光PLの虚像によって車両情報を表示する車載計器である。車両の搭乗者Pは、虚像視認可能領域であるアイボックス内からウインドシールドWSを視認することで虚像を視認することができる。
【0012】
ヘッドアップディスプレイHUDは、表示光PLを出力する表示部1と、表示光PLをウインドシールドWSに向けて反射する反射部2と、ケース3と制御回路基板を有する。
【0013】
表示部1は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、あるいは、リアプロジェクション方式のプロジェクタなどの画像表示器である。表示部1は、制御回路基板に制御されて車両情報を表す画像を表示し、この画像から表示光PLを出力する。
【0014】
反射部2は、車両の左右方向(
図1におけるX方向)に延びる回転軸AXを中心に回転可能な凹面鏡である。
【0015】
反射部2は、第1の角度から第n(nは2以上の自然数)の角度に回動可能に構成される。反射部2が第1の角度にあるとき、虚像視認可能領域は第1の位置にあるアイボックスEB1に位置し、アイボックスEB1から虚像V1が視認可能になる。また、反射部2が第nの角度にあるとき、虚像視認可能領域は第nの位置にあるアイボックスEBnに位置し、アイボックスEBnから虚像Vnが視認可能になる。つまり、反射部2を回動させることで、虚像視認可能領域をアイボックスEB1からアイボックスEBnの範囲で車両の上下方向(
図2におけるY方向)に移動させることができ、搭乗者の視点の高さに合わせて虚像視認可能領域を調節できる。
【0016】
車両のステアリングに設けられたスイッチ等の操作手段によって虚像視認可能領域の調節指示が制御回路基板に入力されると、制御回路基板に制御されて反射部2は回動し、虚像視認可能領域が調節される。
【0017】
ケース3は、表示部1、反射部2、制御回路基板を収容するケースである。ケース3には、表示光PLをウインドシールドWSに向けて出射する出射開口が形成されている。ケース3の出射開口はアクリル樹脂板などの透光性防塵カバー31によって覆われている。
【0018】
制御回路基板は、表示部1及び反射部2を制御する演算集積回路(演算部)と、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリ(記憶部)を有する回路基板である。
【0019】
(ワーピング設定値に基づく歪み補正処理)
制御回路基板は、ウインドシールドWSの湾曲形状などに起因する虚像の歪みを補正するため、表示部1に表示させる画像を幾何学変形させるワーピング処理をする。このワーピング処理は、補正前画像OMを格子状に分割したメッシュ領域の各点OPを、ワーピングメッシュ(ワーピング設定値)WMの各点WPに合わせて変形させるものである。このワーピングメッシュWMは、制御回路基板の不揮発性メモリに記憶されている。具体的に例示すると、補正前画像OMを格子状に16分割したメッシュ領域の各点OP(0,0)…OP(4,4)を、ワーピングメッシュWMの各点WP(0,0)…WP(4,4)に対応させ、ワーピングメッシュWMの各領域に補正前画像OMの各分割領域の画像をテクスチャマッピングする。
【0020】
制御回路基板のワーピングメッシュWMは、反射部2の第1の角度から第nの角度の各角度に1つのワーピングメッシュが設定される。つまり、反射部2が第xの角度にあり虚像視認可能領域が第xの位置にあるアイボックスEBxに対し1つのワーピングメッシュWMxが一意に設定される。
【0021】
ここで、反射部2が第xの角度にありアイボックスEBxに対応するワーピングメッシュWMxによって表示部1に表示させる画像を変形した場合において、アイボックス内における視認者の視点の位置によって視認される虚像の歪み度合いにばらつきが生じることを本開示の発明者は認識した。
【0022】
具体的には、アイボックスEBxの中央の点EBx(1,1)から見た虚像Vx(1,1)と、中央の点EBx(1,1)を中心とする矩形の四隅の点EBx(0,0)…EBx(2,2)から見た虚像Vx(0,0)…Vx(2,2)の歪み度合いは異なることを本開示の発明者は認識した。
【0023】
そして、反射部2が第xの角度にあり虚像視認可能領域が第xの位置にあるアイボックスEBxに対し1つのワーピングメッシュWMxを一意に設定する場合、アイボックスEBx内における視認者の視点の位置によって視認される虚像の歪み度合いにばらつきが大きいと、ヘッドアップディスプレイHUDが表示する虚像の表示品質が低下し商品価値が下がるという課題があることを本開示の発明者は認識した。
【0024】
この課題を解決するため、以下に説明する手順により、アイボックスEBx内における視認者の視点の位置によって視認される虚像の歪み度合いのばらつきが小さいワーピングメッシュWMxを算出する。
【0025】
(ワーピング設定値の算出手順)
反射部2が第xの角度にあり虚像視認可能領域が第xの位置にあるアイボックスEBxに対し一意に定めるワーピングメッシュWMxの算出手順を以下に説明する。
【0026】
(第1工程S1:ワーピングメッシュWMxの初期値の設定)
アイボックスEBxの中心点(1,1)から視認したときの虚像Vx(1,1)の歪みが最も小さくなるワーピングメッシュWMxを初期値として設定する。設定後、第2工程S2に進む。
【0027】
(第2工程S2:虚像の撮像)
アイボックスEBxの各点から視認したときの虚像を撮像する。具体的には、アイボックスEBxの中央の点EBx(1,1)及び、この点を中心とする矩形の四隅の点EBx(0,0)…EBx(2,2)の5点から視認したときの虚像Vx(0,0)…Vx(2,2)を撮像する。撮像後、第3工程S3に進む。
【0028】
(第3工程S3:虚像の評価)
各虚像Vx(0,0)…Vx(2,2)の表示品質を評価する評価値を算出する。この評価値は、変形前の画像OMを基準に各虚像Vx(0,0)…Vx(2,2)の回転量、拡大縮小量、平行移動量に基づいて算出する。算出後、第4工程S4に進む。
【0029】
(第4工程S4:評価の統計的ばらつきを算出)
第3工程S3で算出した評価値の統計的ばらつきを算出する。この統計的ばらつきは、例えば、標準偏差を算術平均で割った変動係数(相対標準偏差)である。統計的ばらつきは、分散や標準偏差であってもよいが、機種の異なるヘッドアップディスプレイを同様の評価基準で扱う観点では、百分率で表される変動係数を用いることが好ましい。算出後、第5工程S5に進む。
【0030】
(第5工程S5:算出したワーピングメッシュの評価)
第4工程S4で算出した変動係数からワーピングメッシュWMxを評価し、評価が所定の水準未満の場合はワーピングメッシュWMxを調整する必要があると判断する。具体的には、変動係数が0.1以上である場合にワーピングメッシュWMxを調整する必要があると判断し、第6工程S6に進む。変動係数が0.1未満の場合はアイボックスEBx内のどの位置に視点があっても虚像の歪みのばらつきが少なく表示品質が高いワーピングメッシュWMxであると判断し、第7工程S7に進む。
【0031】
(第6工程S6:ワーピングメッシュの調整)
アイボックスEBx内のある点EBx(a,b)から視認したときの虚像Vx(1,1)の歪みが最も小さくなるワーピングメッシュWMxを再計算する。具体的には、第3工程S3で算出した評価値の最も悪いアイボックスEBx内の点に向けて所定距離移動した点を点EBx(a,b)として設定してワーピングメッシュWMxを再計算する。または、第3工程S3で算出した評価値及び第4工程S4で算出した評価の統計的ばらつきから、点EBx(a,b)を算出してもよい。ワーピングメッシュWMxを再計算後、第2工程S2に進む。
【0032】
(第7工程S7:ワーピングメッシュの決定)
反射部2が第xの角度にあり虚像視認可能領域が第xの位置にあるアイボックスEBxのワーピングメッシュとして、第5工程S5で変動係数が0.1未満であったワーピングメッシュWMxを採用する。採用されたワーピングメッシュWMxは、反射部2の第xの角度に対応するワーピングメッシュとして制御回路基板の不揮発性メモリに記憶する。
【0033】
上述した第1工程S1から第7工程S7の手順をアイボックスEB1~EBnのそれぞれに対して実行する。
【0034】
このように構成することで、アイボックス内における視認者の視点の位置によって視認される虚像の歪み度合いにばらつきが小さく、表示品質の高いヘッドアップディスプレイを提供することができる。
【0035】
本開示のヘッドアップディスプレイHUDは、以下の変形をしてもよい。
【0036】
ワーピングメッシュWMxの算出にあたって、遺伝的アルゴリズムなどの進化的アリゴリズムによって算出してもよい。あるいは、反射鏡2の角度によって変化する表示光PLが入射する位置の反射鏡2の曲率やウインドシールドの曲率などのパラメータから重回帰分析によって算出してもよい。
【符号の説明】
【0037】
HUD …ヘッドアップディスプレイ
1 …表示部
2 …反射部
OM …変形前の画像
WM …ワーピングメッシュ(ワーピング設定値)
PL …表示光の主光線
WS …ウインドシールド
EB1~EBn…アイボックス
V1~Vn …虚像