IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧

特許7609164プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法
<>
  • 特許-プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法 図1
  • 特許-プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法 図2
  • 特許-プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法 図3A
  • 特許-プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法 図3B
  • 特許-プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法 図4A
  • 特許-プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法 図4B
  • 特許-プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法 図5
  • 特許-プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法 図6
  • 特許-プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法 図7
  • 特許-プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法 図8
  • 特許-プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1246 20160101AFI20241224BHJP
   H01M 8/124 20160101ALI20241224BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20241224BHJP
   H01M 8/126 20160101ALI20241224BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20241224BHJP
   C25B 9/00 20210101ALN20241224BHJP
   C25B 9/23 20210101ALN20241224BHJP
   C25B 13/04 20210101ALN20241224BHJP
   C25B 13/07 20210101ALN20241224BHJP
【FI】
H01M8/1246
H01M8/124
H01M8/1253
H01M8/126
H01M8/12 101
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B13/04 301
C25B13/07
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022532457
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2021020453
(87)【国際公開番号】W WO2021256221
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020104994
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東野 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】野田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】水原 奈保
(72)【発明者】
【氏名】小川 光靖
(72)【発明者】
【氏名】俵山 博匡
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 正利
(72)【発明者】
【氏名】舟越 安紀子
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/107194(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/157566(WO,A1)
【文献】特開2009-231075(JP,A)
【文献】特開2017-071830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/12
C25B 1/00
C25B 9/00
C25B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極と、水素極と、前記空気極及び前記水素極の間に介在する固体電解質層とを備えたセル構造体であって、
前記固体電解質層は、緻密質からなる第1固体電解質層を少なくとも含み、
前記第1固体電解質層は、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
Bax1Srx21-y3-δ (1)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1+x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含み、
当該第1固体電解質層の空気極側の表面近傍における、BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr]:原子数基準)が、0.4以上であり、かつ
当該第1固体電解質層の水素極側の表面近傍における、前記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.003以上0.3以下である、
プロトン伝導型セル構造体。
【請求項2】
前記第1固体電解質層の厚さ方向中央部における、前記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.005以上0.3以下である、請求項1に記載のプロトン伝導型セル構造体。
【請求項3】
前記第1固体電解質層は、厚さ方向において、空気極側の表面から水素極側に向かう総厚さの6%の領域における、前記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.3以上である、請求項1又は請求項2に記載のプロトン伝導型セル構造体。
【請求項4】
前記式(1)において、
元素Aは、50at%以上がZrであり、
元素Mは、Yである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプロトン伝導型セル構造体。
【請求項5】
前記固体電解質層は、前記第1固体電解質層と前記空気極との間に介在する、多孔質からなる第2固体電解質層を更に含み、
前記第2固体電解質層は、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
Bax1Srx21-y3-δ (1)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1+x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプロトン伝導型セル構造体。
【請求項6】
前記式(1)において、
元素Aは、50at%以上がZrであり、
元素Mは、Yである、請求項5に記載のプロトン伝導型セル構造体。
【請求項7】
請求項1に記載のプロトン伝導型セル構造体における前記第1固体電解質層として用いられるプロトン伝導体であって、
緻密質からなる層状物であり、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
Bax1Srx21-y3-δ (1)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1+x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含み、
第1の主面近傍における、BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr]:原子数基準)が、0.4以上であり、かつ
第2の主面近傍における、前記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.003以上0.3以下である、
プロトン伝導体。
【請求項8】
厚さ方向中央部における、前記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.005以上0.3以下である、請求項7に記載のプロトン伝導体。
【請求項9】
厚さ方向において、前記第1の主面側から前記第2の主面側に向かう総厚さの6%の領域における、前記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.3以上である、請求項7又は請求項8に記載のプロトン伝導体。
【請求項10】
前記式(1)において、
元素Aは、50at%以上がZrであり、
元素Mは、Yである、請求項7から請求項9のいずれか1項に記載のプロトン伝導体。
【請求項11】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のプロトン伝導型セル構造体を含む電気化学デバイス。
【請求項12】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプロトン伝導型セル構造体の前記第1固体電解質層として用いられる、プロトン伝導体の製造方法であって、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(2):
Bax11-y3-δ (2)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含む、第1固体電解質前駆体層の空気極側の表面に、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(3):
Srx21-y3-δ (3)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物の粉末とストロンチウム化合物の粉末との混合物を接触させ、
その状態のまま1200~1400℃で加熱処理する、
工程を含むプロトン伝導体の製造方法。
【請求項13】
請求項5又は請求項6に記載のプロトン伝導型セル構造体の前記固体電解質層として用いられる、プロトン伝導体の製造方法であって、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(2):
Bax11-y3-δ (2)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含む、第1固体電解質前駆体層の空気極側の表面に、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(3):
Srx21-y3-δ (3)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物の粉末とストロンチウム化合物の粉末とバインダとを含むペーストを塗布し、
その状態のまま1200~1400℃で加熱処理する、
工程を含むプロトン伝導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プロトン伝導型セル構造体、プロトン伝導体、電気化学デバイス、及びプロトン伝導体の製造方法に関する。
本出願は、2020年6月18日出願の日本出願第2020-104994号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
電荷のキャリアとして水素イオン(プロトン)を用いるPCFC(Protonic Ceramic Fuel Cells、プロトン伝導性酸化物形燃料電池)に適用できる固体電解質としては、ペロブスカイト型構造(Perovskite structure)を有するプロトン伝導性金属酸化物が知られている(例えば、特許文献1~特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-307546号公報
【文献】特開2007-197315号公報
【文献】特開2016-103409号公報
【文献】特開2016-160111号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示のプロトン伝導型セル構造体は、空気極と、水素極と、上記空気極及び上記水素極の間に介在する固体電解質層とを備えたセル構造体であって、
上記固体電解質層は、緻密質からなる第1固体電解質層を少なくとも含み、
上記第1固体電解質層は、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
Bax1Srx21-y3-δ (1)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1+x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含み、
当該第1固体電解質層の空気極側の表面近傍における、BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr]:原子数基準)が、0.4以上であり、かつ
当該第1固体電解質層の水素極側の表面近傍における、上記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.003以上0.3以下である。
【0005】
本開示のプロトン伝導体は、本開示のプロトン伝導型セル構造体における上記第1固体電解質層として用いられるプロトン伝導体であって、
緻密質からなる層状物であり、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
Bax1Srx21-y3-δ (1)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1+x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含み、
第1の主面近傍における、BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr]:原子数基準)が、0.4以上であり、かつ
第2の主面近傍における、上記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.003以上0.3以下である。
【0006】
本開示の電気化学デバイスは、本開示のプロトン伝導型セル構造体を含む。
【0007】
本開示のプロトン伝導体の製造方法の1つは、本開示のプロトン伝導型セル構造体の上記第1固体電解質層として用いられる、プロトン伝導体の製造方法であって、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(2):
Bax11-y3-δ (2)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含む、第1固体電解質前駆体層の空気極側の表面に、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(3):
Srx21-y3-δ (3)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物の粉末とストロンチウム化合物の粉末との混合物を接触させ、
その状態のまま1200~1400℃で加熱処理する、
工程を含む。
【0008】
本開示のプロトン伝導体の製造方法の他の1つは、本開示のプロトン伝導型セル構造体の上記固体電解質層として用いられる、プロトン伝導体の製造方法であって、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(2):
Bax11-y3-δ (2)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含む、第1固体電解質前駆体層の空気極側の表面に、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(3):
Srx21-y3-δ (3)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物の粉末とストロンチウム化合物の粉末とバインダとを含むペーストを塗布し、
その状態のまま1200~1400℃で加熱処理する、
工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示に係るプロトン伝導型セル構造体の一例を模式的に示す図である。
図2図2は、本開示に係るプロトン伝導型セル構造体の別の一例を模式的に示す図である。
図3A図3Aは、実施例1で形成した固体電解質層におけるBaとSrとの元素比を示す図である。
図3B図3Bは、図3Aの部分拡大図である。
図4A図4Aは、実施例2で形成した固体電解質層におけるBaとSrとの元素比を示す図である。
図4B図4Bは、図4Aの部分拡大図である。
図5図5は、実施例3で形成した固体電解質層におけるBaとSrとの元素比を示す図である。
図6図6は、実施例4で形成した固体電解質層におけるBaとSrとの元素比を示す図である。
図7図7は、比較例3で形成した固体電解質層におけるBaとSrとの元素比を示す図である。
図8図8は、比較例4で形成した固体電解質層におけるBaとSrとの元素比を示す図である。
図9図9は、ホール伝導を想定したプロトン伝導型セル構造体の等価回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示が解決しようとする課題]
イットリウムを添加したジルコン酸バリウム(BZY)は、プロトン伝導性金属酸化物の1つであり、700℃以下の温度域でも良好なプロトン伝導性を示すことから、中温型燃料電池や水蒸気電解セルの固体電解質として期待されている。
しかしながら、BZYは、酸素雰囲気下でホール伝導が生じ、リーク電流により起電力が低下したり、水蒸気電解時の電流効率が低下したりすることがある。
また、イットリウムを添加したジルコン酸ストロンチウム(SZY)もプロトン伝導性金属酸化物の1つである。SZYは、BZYに比べて高いイオン輸率を示すものの抵抗が極めて高く、この点で燃料電池に用いるには不利である。
【0011】
本開示は、高いイオン輸率と低い抵抗値とを両立することが可能なプロトン伝導体を提供することを目的とする。
[本開示の効果]
【0012】
本開示によれば、高いイオン輸率と低い抵抗値とを両立することが可能なプロトン伝導体、及びその製造方法を提供することができる。
また、本開示によれば、上記プロトン伝導体を用いたプロトン伝導型セル構造体や、上記プロトン伝導型セル構造体を含む電気化学デバイスを提供することができる。
【0013】
[実施形態の説明]
最初に、本開示の内容を列記して説明する。
(1)本開示に係るプロトン伝導型セル構造体は、空気極と、水素極と、上記空気極及び上記水素極の間に介在する固体電解質層とを備えたセル構造体であって、
上記固体電解質層は、緻密質からなる第1固体電解質層を少なくとも含み、
上記第1固体電解質層は、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
Bax1Srx21-y3-δ (1)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1+x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含み、
当該第1固体電解質層の空気極側の表面近傍における、BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr]:原子数基準)が、0.4以上であり、かつ
当該第1固体電解質層の水素極側の表面近傍における、上記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.003以上0.3以下である。
【0014】
上記(1)に記載のプロトン伝導型セル構造体によれば、上記式(1)で表される金属酸化物を含み、空気極側の表面から固体電解質層の内部に向かってBaが増加し、Srが減少するようにBaとSrとの含有比率が傾斜する固体電解質層を含んでいるため、BZYからなる固体電解質層を備えたプロトン伝導型セル構造体と比較して、低抵抗を維持したまま、イオン輸率を高めることができる。
よって、上記プロトン伝導型セル構造体は、高いイオン輸率と高出力とを両立した燃料電池等の提供に適している。
【0015】
(2)上記(1)のプロトン伝導型セル構造体において、上記第1固体電解質層の厚さ方向中央部における、上記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])は、0.005以上0.3以下であることが好ましい。
この場合、低抵抗を維持したまま、イオン輸率を高めるのにより適している。
【0016】
(3)上記(1)又は(2)のプロトン伝導型セル構造体において、上記第1固体電解質層は、厚さ方向において、空気極側の表面から水素極側に向かう総厚さの6%の領域における、上記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.3以上であることが好ましい。
この場合も、低抵抗を維持したまま、イオン輸率を高めるのにより適している。
【0017】
(4)上記(1)~(3)のいずれかのプロトン伝導型セル構造体は、上記式(1)の金属酸化物において、元素Aの50at%(原子パーセント)以上がZrであり、元素MがYであることが好ましい。元素Aの半分以上をZrとすることで化学的安定性を高めることができる。元素MをYとすることで、プロトン伝導度を高めることができる。
【0018】
(5)上記(1)~(3)のいずれかのプロトン伝導型セル構造体において、上記固体電解質層は、上記第1固体電解質層と上記空気極との間に介在する、多孔質からなる第2固体電解質層を更に含み、
上記第2固体電解質層は、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
Bax1Srx21-y3-δ (1)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1+x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含む、ことが好ましい。
この場合、上記プロトン伝導型セル構造体を構成する固体電解質層では、空気極材料と空気と電解質との三相界面を増加させ、電極活性を向上させることができる。そのため、上記プロトン伝導型セル構造体はさらに良好なイオン輸率を有する。
【0019】
(6)上記(5)のプロトン伝導型セル構造体は、上記式(1)の金属酸化物において、元素Aの50at%以上がZrであり、元素MがYであることが好ましい。元素Aの半分以上をZrとすることで化学的安定性を高めることができる。元素MをYとすることで、プロトン伝導度を高めることができる。
【0020】
(7)本開示に係るプロトン伝導体は、本開示のプロトン伝導型セル構造体における上記第1固体電解質層として用いられるプロトン伝導体であって、
緻密質からなる層状物であり、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
Bax1Srx21-y3-δ (1)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1+x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含み、
第1の主面近傍における、BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr]:原子数基準)が、0.4以上であり、かつ
第2の主面近傍における、上記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.003以上0.3以下である。
上記(7)のプロトン伝導体は、低抵抗で、かつ高いイオン輸率を有する。
【0021】
(8)上記(7)のプロトン伝導体は、厚さ方向中央部における、上記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.005以上0.3以下であることが好ましい。
(9)上記(7)又は(8)のプロトン伝導体は、厚さ方向において、上記第1の主面側から上記第2の主面側に向かう総厚さの6%の領域における、上記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.3以上であることが好ましい。
(10)上記(7)~(9)のいずれかのプロトン伝導体は、上記式(1)の金属酸化物において、元素Aの50at%以上がZrであり、元素MがYであることが好ましい。
上記(7)~上記(10)のプロトン伝導体を用いれば、本開示のプロトン伝導型セル構造体を提供することができる。
【0022】
(11)本開示に係る電気化学デバイスは、上記(1)~上記(6)のいずれかのプロトン伝導型セル構造体を含む。
上記電気化学デバイスは、低抵抗で、かつ高いイオン輸率を有する固体電解質層を備える。
上記電気化学デバイスは、例えば、燃料電池や水蒸気電解セル、ガス分解装置である。
【0023】
(12)本開示に係るプロトン伝導体の製造方法は、上記(1)~上記(4)のいずれかのプロトン伝導型セル構造体の上記第1固体電解質層として用いられる、プロトン伝導体の製造方法であって、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(2):
Bax11-y3-δ (2)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含む、第1固体電解質前駆体層の空気極側の表面に、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(3):
Srx21-y3-δ (3)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物の粉末とストロンチウム化合物の粉末との混合物を接触させ、
その状態のまま1200~1400℃で加熱処理する、
工程を含む。
【0024】
(13)本開示に係る別のプロトン伝導体の製造方法は、上記(5)又は上記(6)のプロトン伝導型セル構造体の上記固体電解質層として用いられる、プロトン伝導体の製造方法であって、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(2):
Bax11-y3-δ (2)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含む、第1固体電解質前駆体層の空気極側の表面に、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(3):
Srx21-y3-δ (3)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物の粉末とストロンチウム化合物の粉末とバインダとを含むペーストを塗布し、
その状態のまま1200~1400℃で加熱処理する。
上記(12)、(13)のプロトン伝導体の製造方法によれば、本開示に係るプロトン伝導体を製造することができる。
【0025】
[実施形態の詳細]
本開示における実施形態の具体例を、適宜図面を参照しつつ以下に説明する。なお、本発明の実施形態はこれらの例示に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0026】
(第1実施形態)
[プロトン伝導型セル構造体]
図1は、本開示に係るプロトン伝導型セル構造体の一例を模式的に示す図である。
本実施形態に係るプロトン伝導型セル構造体10は、空気極11と、水素極12と、空気極11及び水素極12の間に介在する固体電解質層(プロトン伝導体)13とを備える。
プロトン伝導型セル構造体10において、固体電解質層13は、空気極11と水素極12との間に挟持されており、固体電解質層13の第1の主面14は空気極11に接触し、固体電解質層13の第2の主面15は水素極12と接触している。水素極12と固体電解質層13とは、焼成により一体化されていて、水素極12と固体電解質層13との複合体を形成している。
【0027】
固体電解質層13の厚みは、例えば、3μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下がより好ましい。
水素極12の厚みは、空気極11よりも大きくなっており、水素極12が固体電解質層13(ひいてはプロトン伝導型セル構造体10)を支持する支持体として機能している。ただし、水素極12の厚みを必ずしも空気極11よりも大きくする必要はなく、例えば、水素極12の厚みと空気極11の厚みとは同程度であっても良い。
【0028】
<固体電解質層(プロトン伝導体)>
固体電解質層13は、緻密質からなる層であり、プロトン伝導性を有する所定の金属酸化物を含む。
上記金属酸化物は、ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
Bax1Srx21-y3-δ (1)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1+x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物である。
【0029】
上記金属酸化物は、元素Aの50at%(原子パーセント)以上がZrであり、元素MがYであることが、抵抗が低く、化学的安定性の高いプロトン伝導体を提供できる点で好ましい。このとき、元素AにおいてZrが占める割合は高ければ高いほど好ましい。
【0030】
固体電解質層13は、上記式(1)で表される金属酸化物を含み、その厚さ方向において、BaとSrの組成比が異なっており、空気極11側の方が水素極12側よりも、BaとSrとの合計量に対するSrの比率が高くなるように構成されている。
Srの比率(及びBaの比率)を、固体電解質層13の厚さ方向に沿って傾斜させることにより、固体電解質層13の抵抗を低く抑えつつ、イオン輸率を高めることが可能となる。
従って、上記式(1)で表される金属酸化物は、Baの比率x1及びSrの比率x2が固体電解質層13内の位置によって異なっている。Baの比率x1は、水素極12側を空気極11側よりも高くしてプロトン伝導度を高めている。また、Srの比率x2は、空気極11側を水素極12側よりも高くしてイオン輸率を高めている。
【0031】
固体電解質層13の空気極11側の表面近傍における、BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr]:原子数基準)は、0.4以上である。
これにより、固体電解質層13における高いイオン輸率を確保している。空気極11側の上記Srの比率が0.4未満では、イオン輸率が低く、酸素雰囲気下でホール伝導が生じやすくなる。
空気極11側の上記Srの比率の上限は特に限定されず、上記Srの比率は1.0以下であれば良い。
【0032】
固体電解質層13の水素極12側の表面近傍における、BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr]:原子数基準)は、0.003以上0.3以下である。
これにより、固体電解質層13の低抵抗を確保している。水素極12側の上記Srの比率が0.3を超えると、固体電解質層13の抵抗が高くなる。Baに少量のSrが共存することによりプロトン伝導度が向上するため、上記Srの比率が0.003未満の場合も、固体電解質層13の抵抗が高くなる。
固体電解質層13の水素極12側の表面近傍における、上記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])は、抵抗を低くする観点から0.003以上0.1以下が好ましい。
【0033】
本開示において、固体電解質層13の表面近傍とは、固体電解質層13のそれぞれの主面14、15から、厚さ方向に沿って0.5μm内部側の位置をいう。
固体電解質層13における、BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr]:原子数基準)は、固体電解質層13の断面を電界放出形電子プローブマイクロアナライザー(FE-EPMA:Field Emission-Electron Probe Micro Analysis)によって観察し、算出する。
ここでは、固体電解質層13の第1の主面(空気極11側の表面)14に対する法線を引き、この法線に沿って、Ba及びSrのそれぞれの元素量を、0.1μm間隔で測定し、その結果からBaとSrとの合計量に対するSrの比率を算出する。
そして、固体電解質層13の主面から厚さ方向に沿って0.5μm内部側の位置、又はこの位置に最も近い位置での観察結果から算出された値を固体電解質層13の表面近傍の測定値とする。
【0034】
固体電解質層13は、その厚さ方向中央部における、上記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])が、0.005以上0.3以下である、ことが好ましい。
この場合、固体電解質層13は、抵抗を低く抑えつつ、イオン輸率を高めるのにより適している。
一方、固体電解質層13の厚さ方向中央部における上記Srの比率(Sr/[Ba+Sr])が0.005未満の場合、及び0.3を超える場合には、固体電解質層13の抵抗が高くなってしまうことがある。
固体電解質層13の厚さ方向中央部とは、固体電解質層13の2つの主面14、15から等距離にある位置をいう。そして、固体電解質層13の2つ主面14、15から等距離にある位置、又はこの位置に最も近い位置での観察結果から算出された値を固体電解質層13の厚さ方向中央部の測定値とする。
【0035】
固体電解質層13は、厚さ方向において空気極11側の表面から水素極12側に向かう総厚さの6%の領域全体が、上記BaとSrとの合計量に対するSrの比率(Sr/[Ba+Sr])0.3以上を満足していることが好ましい。
固体電解質層13は、空気極11側でイオン輸率が低下しやすいため、上記の構成を満足することにより、高いイオン輸率を確保することができる。
【0036】
本開示に係るプロトン伝導体は、酸素雰囲気下においても高いイオン輸率を確保できる。イオン輸率とは、電解質に電流を流した際に、電子、ホール、陰イオン、陽イオンによって運ばれる全電気量のうち、陰イオンと陽イオンによって運ばれる電気量の割合である。なお、運ばれる全電気量が陰イオンと陽イオンによって運ばれる電気量と等しい場合にはイオン輸率が1となる。例えばBZYやSZYの場合は、プロトンと酸化物イオンとホールとがキャリアとして存在することから、イオン輸率は、プロトンと酸化物イオンによって流れた電気の全体に対する割合を示す。
【0037】
<空気極>
空気極11は、例えば、燃料電池の場合、酸素分子を吸着し、解離させてイオン化することができる多孔質の構造を有している。
空気極11では、固体電解質層13を介して伝導されたプロトンと、酸化物イオンとの反応(酸素の還元反応)が生じる。酸化物イオンは、酸化剤流路から導入された酸化剤(酸素)が解離することにより生成する。
【0038】
空気極11の材料としては、例えば、燃料電池のカソードとして用いられる公知の材料を用いることができる。なかでも、ランタンを含み、かつ、ペロブスカイト型構造を有する化合物(フェライト、マンガナイト、コバルタイトなど)が好ましく、これらの化合物のうち、さらにストロンチウムを含むものがより好ましい。
具体的には、例えば、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF:La1-xSrFe1-yCo3-δ、0<x<1、0<y<1)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM:La1-xSrMnO3-δ、0<x<1)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC:La1-xSrCoO3-δ、0<x<1)等が挙げられる。ここで、δは酸素欠損量を示す。
【0039】
空気極11は、例えば、上記材料を焼結することにより形成することができる。
空気極11は、プロトンと酸化物イオンとの反応を促進させる観点から、Pt等の触媒を含んでいても良い。触媒を含む場合、空気極11は、触媒と上記材料とを混合して、焼結することにより形成することができる。このとき、必要に応じて、空気極11の材料とともに、バインダ、添加剤、分散媒などを用いても良い。
空気極11の厚みは、特に限定されないが、5μm~40μm程度であれば良い。
【0040】
また、プロトン伝導型セル構造体10が水蒸気電解セルの場合は、例えば、Niとイットリウム安定化ジルコニアとの複合体などを空気極11の材料として用いることができる。
【0041】
<水素極>
水素極12は、多孔質の構造を有している。水素極12では、例えば、燃料電池の場合、水素などの燃料が酸化され、プロトンと電子とを放出する反応(燃料の酸化反応)が行われる。
【0042】
水素極12の材料としては、例えば、燃料電池のアノードとして用いられる材料を用いることができる。
具体的には、触媒成分であるニッケルもしくはニッケル化合物(酸化ニッケル等)と、プロトン伝導体との複合物等が挙げられる。なお、ニッケル化合物は、セル構造体の使用中に還元され、Niを生成する。プロトン伝導体には、後述する式(2)の金属酸化物を用いる。
【0043】
水素極12は、例えば、NiO粉末と後述する式(2)の金属酸化物の粉末等とを混合して焼結することにより形成することができる。
水素極12の厚みは、例えば、10μm~2mmとすれば良く、10μm~100μmであっても良い。
水素極12は、厚みを大きくして、固体電解質層13を支持する支持体として機能を付与しても良い。この場合、水素極12の厚みは、例えば、100μm~2mmとすれば良い。
【0044】
プロトン伝導型セル構造体10が水蒸気電解セルの場合は、例えば、ストロンチウムを添加したランタンマンガン酸化物などの酸化雰囲気下で安定な導電性酸化物を水素極12の材料として用いることができる。
【0045】
[電気化学デバイス]
プロトン伝導型セル構造体10は、電気化学デバイスの構成部材として用いることができる。
上記電気化学デバイスとしては、例えば、燃料電池、水蒸気電解セル、ガス分解装置等が挙げられる。
【0046】
<燃料電池>
上記燃料電池としては、プロトン伝導型セル構造体10を含んでいれば良く、従来の燃料電池と同様の構成を有するものが挙げられる。
具体的には、例えば、プロトン伝導型セル構造体10の空気極11側に集電体を介して空気極11に酸化剤を供給するための酸化剤流路が形成されたセパレータが設けられ、プロトン伝導型セル構造体10の水素極12側に集電体を介して水素極12に燃料を供給するための燃料流路が形成されたセパレータが設けられたものが挙げられる。
本開示に係る燃料電池は、プロトン伝導型セル構造体10を含んでいるので、高出力と高いイオン輸率とを両立することができる。
上記燃料電池は、プロトン伝導型セル構造体10を用いる以外は、公知の方法で製造することができる。
【0047】
<水蒸気電解セル>
上記水蒸気電解セルは、プロトン伝導型セル構造体10を含んでいれば良く、その他の構成は、公知のものが採用できる。また、上記水蒸気電解セルは、プロトン伝導型セル構造体10を用いる以外は、公知の方法で製造することができる。
【0048】
<ガス分解装置>
上記ガス分解装置は、プロトン伝導型セル構造体10を含むものであれば良い。
プロトン伝導型セル構造体10の水素極12に、アンモニア、メタン、プロパン等の気体を含むガスを導入すると、水素極12では、これらの気体の分解反応が起こり、水素が発生する。よって、プロトン伝導型セル構造体10は、ガス分解装置に用いることが可能である。
例えば、アンモニアの分解により発生した水素は、水素極12によって酸化され、プロトンが生成する。生成したプロトンは、固体電解質層13を通って、酸素極11に移動する。一方、アンモニアの分解により同時に生成したNは、排気ガスとして排出される。
上記ガス分解装置では、水素極12に、上記ガスを分解する機能を有する触媒を含ませても良い。アンモニア等のガスを分解する機能を有する触媒としては、例えば、Fe、Co、Ti、Mo、W、Mn、RuおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種の触媒成分を含む化合物が挙げられる。
【0049】
[プロトン伝導型セル構造体の製造方法]
プロトン伝導型セル構造体10は、
(1)空気極用材料、固体電解質用材料A、固体電解質用材料B、及び水素極用材料を準備する工程(第1工程)と、
(2)水素極用材料を含む層と固体電解質用材料Aを含む層とを積層した後、得られた積層体を加熱して、水素極12と固体電解質前駆体層とが一体化した複合体を形成する工程(第2工程)と、
(3)固体電解質前駆体層の水素極12側と反対側の表面に、固体電解質用材料Bを接触させて、その状態のまま加熱して、水素極12と固体電解質層13との複合体を形成する工程(第3工程)と、
(4)固体電解質層13の表面(水素極側と反対側の表面)に、空気極用材料を含む層を積層した後、得られた積層体を加熱して、空気極11を形成する工程(第4工程)と、
を含む方法によって製造できる。
【0050】
(第1工程)
空気極用材料、固体電解質用材料A、固体電解質用材料B、及び水素極用材料を準備する。
ここで、上記水素極用材料としては、ニッケル化合物と、ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(2):
Bax11-y3-δ (2)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物との混合物を用意する。
上記水素極用材料は、NiOの粉末と上記式(2)で表される金属酸化物の粉末との混合物が好ましい。上記式(2)で表される金属酸化物の組成は、固体電解質用材料Aに含まれる上記式(2)で表される金属酸化物の組成と同一とすることが好ましい。
【0051】
上記固体電解質用材料Aとしては、上記式(2)で表される金属酸化物の粉末と、バインダと分散媒とを混合したペースト又はスラリーを用意する。
上記バインダとしては、セラミック材料の製造に使用される公知の材料、例えば、ポリマーバインダ、ワックスなどが挙げられるが、特に限定されない。上記ポリマーバインダとしては、例えば、セルロース誘導体、酢酸ビニル系樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。上記セルロース誘導体としては、例えば、エチルセルロース、セルロースエーテルなどが挙げられる。上記酢酸ビニル系樹脂の概念には、プロビニルアルコールなどの酢酸ビニル系樹脂のケン化物も含まれる。上記ワックスとしては、例えば、パラフィンワックスなどが挙げられる。
上記バインダの量は特に限定されず、上記式(2)で表される金属酸化物の粉末100質量部に対して、例えば、1質量部~20質量部、好ましくは1.5質量部~15質量部とすれば良い。
【0052】
上記分散媒としては、例えば、水、有機溶媒などが挙げられるが特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、トルエンなどの炭化水素;エタノール、イソプロパノールなどのアルコール;ブチルカルビトールアセテートなどのカルビトールなどが挙げられる。
上記分散媒の量は特に限定されず、上記式(2)で表される金属酸化物の粉末100質量部に対して、例えば、50質量部~200質量部とすれば良い。
上記固体電解質用材料Aには、必要に応じて、界面活性剤、解膠剤などの各種添加剤を含ませても良い。
上記固体電解質用材料Aにおいて、上記式(2)で表される金属酸化物の組成は、形成する固体電解質層の構成元素や組成比を考慮して適宜決定すれば良い。
【0053】
上記固体電解質用材料Bとしては、ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(3):
Srx21-y3-δ (3)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物の粉末と、SrCO等のストロンチウム化合物(Sr化合物)の粉末との混合物を用意する。
上記固体電解質用材料Bにおいて、上記式(3)で表される金属酸化物の組成は、形成する固体電解質層の構成元素や組成比を考慮して適宜決定すれば良い。
上記固体電解質用材料Bにおいて、上記式(3)で表される金属酸化物の粉末と、SrCO等のSr化合物の粉末との配合比は、質量基準で、金属酸化物:Sr化合物=99:1~70:30が好ましい。Sr化合物の比率が少なすぎると、固体電解質前駆体層へSrが十分拡散しないことがある。一方、Sr化合物の比率が多すぎると固体電解質層を構成する式(1)で表される金属酸化物において、x1+x2>1.1となりやすく、化学的安定性が低くなることがある。
【0054】
上記空気極用材料としては、空気極の材料であるLSCFやLSMの粉末と、バインダと分散媒とを混合したペースト又はスラリーを用意する。
ここで、バインダ及び分散媒のそれぞれとしては、固体電解質用材料Aに用いるものと同様のものが挙げられる。
上記バインダや上記分散媒の量は特に限定されず、空気極用材料の塗布に適した量を適宜選択すれば良い。
【0055】
(第2工程)
第2工程では、水素極用材料を含む層と固体電解質用材料Aを含む層とを積層し、1300~1700℃で加熱する本焼成を行い、水素極12と固体電解質前駆体層との複合体を形成する。
この工程では、水素極用材料及び固体電解質用材料Aを共焼結させて、複合体を形成する。
【0056】
ここで、各層の形成方法は特に限定されず、水素極用材料を含む層は、例えば、一軸成形等のプレス成型などによって成形すれば良い。水素極用材料を含む層は、成形後、固体電解質用材料Aを含む層を積層する前に、仮焼成しても良い。仮焼成は、水素極用材料が焼結される温度よりも低い温度(例えば、900℃~1100℃)で行えば良い。仮焼成を行うことにより、固体電解質用材料Aを塗布し易くなる。
【0057】
固体電解質用材料Aを含む層は、固体電解質用材料Aのペースト又はスラリーを水素極用材料を含む層の表面にスクリーン印刷、スプレー塗布、スピンコート、ディップコートなどにより塗布することで形成すれば良い。
本工程では、固体電解質用材料Aを含む層を形成した後、本焼成を行う前に、バインダなどの樹脂成分を除去する脱バインダ処理を行っても良い。
脱バインダ処理は、例えば、大気中、500℃~800℃程度での加熱により行えば良い。
本工程では、水素極12と固体電解質前駆体層とが一体化された、水素極と固体電解質前駆体層との複合体が形成される。
【0058】
(第3工程)
第3工程では、上記複合体の固体電解質前駆体層の水素極12側と反対側の表面に、固体電解質用材料Bを接触させて、その状態のまま加熱して、水素極12と固体電解質層13との複合体を形成する。
具体的には、MgO等でできた板の上に、固体電解質前駆体層が上になるように上記複合体を載置し、その上から固体電解質用材料B(粉末の混合物)をかけて、固体電解質用材料B内に、上記複合体が埋まるようにする。
その後、この状態のまま、1200℃~1400℃で0時間~5時間の加熱処理を行う。
これにより、水素極12と固体電解質層13とが一体化した水素極-固体電解質層複合体を作製することができる。
このような複合体の製造方法は、本開示に係るプロトン伝導体の製造方法でもある。
【0059】
(第4工程)
第4工程では、水素極-固体電解質層複合体の固体電解質層13の表面に、空気極用材料を含む層を積層し、例えば800℃~1100℃で加熱する焼成を行い、空気極2を形成する。
上記空気極用材料を含む層は、空気極用材料のペースト又はスラリーを固体電解質層13の表面に、スクリーン印刷、スプレー塗布、スピンコート、ディップコートなどによって塗布することで形成すれば良い。
本工程では、空気極用材料を含む層を形成した後、焼成を行う前に、バインダなどの樹脂成分を除去する脱バインダ処理を行っても良い。
脱バインダ処理は、例えば、大気中、500℃~800℃程度での加熱により行えば良い。
このような第1工程~第4工程を行うことにより、プロトン伝導体型セル構造体10を製造することができる。
また、第3工程及び/又は第4工程の後には、必要に応じて固体電解質層の側面等に切削加工や研削加工等を施しても良い。
【0060】
(第2実施形態)
[プロトン伝導型セル構造体]
図2は、本開示に係るプロトン伝導型セル構造体の一例を模式的に示す図である。
本実施形態のプロトン伝導型セル構造体20は、空気極21と、水素極22と、空気極21及び水素極22の間に介在する固体電解質層(プロトン伝導体)23とを備える。
固体電解質層23は、水素極22側に設けられた緻密質からなる第1固体電解質層23Aと、空気極21側に設けられた多孔質からなる第2固体電解質層23Bとからなる。
本実施形態のプロトン伝導型セル構造体20は、固体電解質層23の構成が第1実施形態のプロトン伝導型セル構造体10と異なる。
【0061】
固体電解質層23は、2層構造を有しており、第2固体電解質層23Bの第1固体電解質層23A側と反対側の主面24が空気極21に接触し、第1固体電解質層23Aの第2固体電解質層23B側と反対側の主面25が水素極22と接触している。水素極22および固体電解質層23は、焼成により一体化されていて、水素極22と固体電解質層23との複合体を形成している。
第1固体電解質層23Aの厚みは、例えば、3μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下がより好ましい。
第2固体電解質層23Bの厚みは、例えば、3μm以上30μm以下が好ましく、3μm以上15μm以下がより好ましい。
固体電解質層23の総厚みは、例えば、6μm以上35μm以下が好ましい。
【0062】
<固体電解質層(プロトン伝導体)>
第1固体電解質層23Aは、緻密質からなる層であり、プロトン伝導性を有する所定の金属酸化物を含む。第1固体電解質層23Aの構成は、第1実施形態における固体電解質層13と同様の構成をとりえる。
また、第1固体電解質層23Aの好ましい構成は、第1実施形態における固体電解質層13の好ましい構成と同様である。
【0063】
第2固体電解質層23Bは、多孔質からなる層であり、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
Bax1Srx21-y3-δ (1)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x1+x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物を含む。
【0064】
本実施形態では固体電解質層23が、第1固体電解質層23Aに加えて、多孔質からなる第2固体電解質層23Bを有している。そのため、固体電解質層23(特に、第2固体電解質層23B)では、空気極材料と空気と電解質との三相界面が増加して電極活性が向上し、イオン輸率がさらに良好となる。
第2固体電解質層23Bの空隙率は、空気極材料と空気と電解質との三相界面を増加させる点、及び抵抗を低減させる点から6~40%が好ましい。
【0065】
本開示の実施形態において、固体電解質層が多孔質か緻密質かは、固体電解質層を厚さ方向に沿って切断した断面を顕微鏡観察して判断する。具体的には、得られた顕微鏡画像を空隙と非空隙とに二値化処理で区分けし、空隙の総面積と非空隙の総面積との合計面積に対する空隙の総面積が占める割合を空隙率として算出し、得られた空隙率に基づいて判断する。本開示の実施形態では、上記空隙率が5%以下の層を緻密質の層とし、上記空隙率が5%を超える層を多孔質の層とする。
【0066】
第2固体電解質層23Bに含まれる金属酸化物は、上記式(1)において、元素Aの50at%以上がZrであり、元素MがYであることが好ましい。元素Aの半分以上をZrとすることで化学的安定性を高めることができる。元素MをYとすることで、プロトン伝導度を高めることができる。このとき、元素AにおいてZrが占める割合は高ければ高いほど好ましい。
また、第2固体電解質層23Bに含まれる金属酸化物は、上記式(1)において、Baの比率x1及びSrの比率x2のそれぞれが、x1は、0≦x1≦0.6が好ましく、x2は、0.4≦x2≦1.0が好ましい。第2固体電解質層23Bは、全体で組成が同一であっても良いし、第2固体電解質層23B内の位置によって、Baの比率x1及びSrの比率x2が異なっていても良い。
【0067】
<空気極/水素極>
空気極21及び水素極22の構成は、第1実施形態の空気極11及び水素極12と同様である。
【0068】
[電気化学デバイス]
プロトン伝導型セル構造体20は、第1実施形態のプロトン伝導型セル構造体10と同様、燃料電池、水蒸気電解セル、ガス分解装置等の電気化学デバイスの構成部材として用いることができる。
【0069】
[プロトン伝導型セル構造体の製造方法]
プロトン伝導型セル構造体20は、
(1)空気極用材料、固体電解質用材料A、固体電解質用材料C、及び水素極用材料を準備する工程(第1工程)と、
(2)水素極用材料を含む層と固体電解質用材料Aを含む層とを積層した後、得られた積層体を加熱して、水素極22と固体電解質前駆体層とが一体化した複合体を形成する工程(第2工程)と、
(3)固体電解質前駆体層の水素極12側と反対側の表面に、固体電解質用材料Cを塗布し、その状態のまま加熱して、水素極12と緻密質の第1固体電解質層23Aと多孔質の第2固体電解質層23Bを有する固体電解質層23との複合体を形成する工程(第3工程)と、
(4)固体電解質層23(第2固体電解質層23B)の表面(水素極側と反対側の表面)に、空気極用材料を含む層を積層した後、得られた積層体を加熱して、空気極21を形成する工程(第4工程)と、
を含む方法によって製造できる。
【0070】
(第1工程)
空気極用材料、固体電解質用材料A、固体電解質用材料C、及び水素極用材料を準備する。
上記空気極用材料、上記固体電解質用材料A、及び上記水素極用材料は、第1実施形態と同様にして準備する。
【0071】
上記固体電解質用材料Cとしては、ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(3):
Srx21-y3-δ (3)
(式中、元素Aは、Zr、Ce及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、In及びScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x2≦1.10、0<y≦0.5を満たす)
で表される金属酸化物の粉末と、SrCO等のストロンチウム化合物(Sr化合物)の粉末と、バインダと分散媒とを混合したペースト又はスラリーを用意する。
上記固体電解質用材料Cにおいて、上記式(3)で表される金属酸化物の組成は、形成する固体電解質層の構成元素や組成比を考慮して適宜決定すれば良い。
上記固体電解質用材料Cにおいて、上記式(3)で表される金属酸化物の粉末と、SrCO等のSr化合物の粉末との配合比は、質量基準で、金属酸化物:Sr化合物=99:1~75:25が好ましい。Sr化合物の比率が少なすぎると、固体電解質前駆体層へSrが十分拡散しないことがある。一方、Sr化合物の比率が多すぎると固体電解質層Bを構成する式(1)で表される金属酸化物において、x1+x2>1.1となりやすく、化学的安定性が低くなるためである。
【0072】
上記バインダとしては、セラミック材料の製造に使用される公知の材料、例えば、ポリマーバインダ、ワックスなどが挙げられるが、特に限定されない。上記ポリマーバインダとしては、例えば、セルロース誘導体、酢酸ビニル系樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。上記セルロース誘導体としては、例えば、エチルセルロース、セルロースエーテルなどが挙げられる。上記酢酸ビニル系樹脂の概念には、プロビニルアルコールなどの酢酸ビニル系樹脂のケン化物も含まれる。上記ワックスとしては、例えば、パラフィンワックスなどが挙げられる。
上記バインダの量は特に限定されず、上記式(3)で表される金属酸化物の粉末とSr化合物の粉末との合計量100質量部に対して、例えば、1質量部~20質量部、好ましくは1.5質量部~15質量部とすれば良い。
【0073】
上記分散媒としては、例えば、水、有機溶媒などが挙げられるが特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、トルエンなどの炭化水素;エタノール、イソプロパノールなどのアルコール;ブチルカルビトールアセテートなどのカルビトールなどが挙げられる。
上記分散媒の量は特に限定されず、上記式(3)で表される金属酸化物の粉末とSr化合物の粉末との合計量100質量部に対して、例えば、50質量部~150質量部とすれば良い。
上記固体電解質用材料Cは、必要に応じて、界面活性剤、解膠剤などの各種添加剤を更に含んでいても良い。
【0074】
(第2工程)
第2工程では、水素極用材料を含む層と固体電解質用材料Aを含む層とを積層し、1300~1700℃で加熱する本焼成を行い、水素極12と固体電解質前駆体層との複合体を形成する。
本工程は、第1実施形態の第2工程と同様にすれば良い。
【0075】
(第3工程)
第3工程では、上記複合体の固体電解質前駆体層の水素極12側と反対側の表面に、固体電解質用材料Cのペーストを塗布し、その状態のまま加熱して、水素極22と固体電解質層23との複合体を形成する。
具体的には、固体電解質用材料Cのペーストを上記固体電解質前駆体層の表面(水素極22側と反対側の面)にスクリーン印刷、スプレー塗布、スピンコート、ディップコートなどの方法で塗布する。
その後、この状態のまま、1200℃~1400℃で0時間~5時間の加熱処理を行う。
これにより、水素極22と固体電解質層23とが一体化した水素極-固体電解質層複合体を作製することができる。
【0076】
また、本工程の手法を採用すれば、緻密質からなる第1固体電解質層23Aと多孔質からなる第2固体電解質層23Bを含む2層構造の固体電解質層23を形成することができる。
このような複合体の製造方法は、本開示に係るプロトン伝導体の製造方法でもある。
【0077】
(第4工程)
第4工程では、水素極-固体電解質層複合体の固体電解質層23の表面に、空気極用材料を含む層を積層し、例えば800℃~1100℃で加熱する焼成を行い、空気極21を形成する。
本工程は、第1実施形態の第4工程と同様にすれば良い。
このような第1工程~第4工程を行うことにより、プロトン伝導体型セル構造体20を製造することができる。
また、第3工程及び/又は第4工程の後には、必要に応じて固体電解質層の側面等に切削加工や研削加工等を施しても良い。
【0078】
(他の実施形態)
第1及び第2実施形態のプロトン伝導型セル構造体の形状は積層型であるが、本開示に係るセル構造体の形状はこれに限定されない。例えば、中空を有するように、水素極を内側にして丸めた円筒形状であっても良い。
上記プロトン伝導型セル構造体の形状が積層型の場合、各層の形状は矩形板状であっても良いし、円板状であっても良い。
【実施例
【0079】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0080】
<BaZr0.80.22.9粉末の調製>
炭酸バリウムと、酸化ジルコニウムと、酸化イットリウムとを、Baの比率が1.0、Yの比率が0.2になるようなモル比で、それぞれボールミルに入れて24時間混合し、混合物を得た。得られた混合物を、1000℃、10時間の条件で仮焼成した。仮焼成された混合物をボールミルで10時間処理して、一軸成形した後、大気雰囲気において、1300℃で10時間焼成した。焼成した試料を乳鉢で粉砕した後、ボールミルで10時間処理した。得られた粉末に対して、再度、一軸成形した後、1300℃、10時間の焼成を行い、ボールミルで10時間処理することによってBaZr0.80.22.9粉末(以下、BZY20粉末ともいう)を得た。
【0081】
<SrZr0.850.152.975粉末の調製>
炭酸ストロンチウムと、酸化ジルコニウムと、酸化イットリウムとを、Srの比率が1.0、Yの比率が0.15になるようなモル比で、それぞれボールミルに入れて24時間混合し、混合物を得た。得られた混合物を、1000℃、10時間の条件で仮焼成した。仮焼成された混合物をボールミルで10時間処理して、一軸成形した後、大気雰囲気において、1300℃で10時間焼成した。焼成した試料を乳鉢で粉砕した後、ボールミルで10時間処理した。得られた粉末に対して、再度、一軸成形した後、1300℃、10時間の焼成を行い、ボールミルで10時間処理することによってSrZr0.850.152.975粉末(以下、SZY15粉末ともいう)を得た。
【0082】
<実施例1>
(1)NiOとBZY20粉末を7:3(質量比)で混合し、ボールミルを行った後、一軸成型した。得られた成型体を1000℃で仮焼し、仮焼後の成型体に、BZY20粉末100質量部に対して、有機溶媒(ブチルカルビトールアセテート(BCA))125質量部とバインダ(エチルセルロース)5質量部とを混合したBZY20ペーストをスクリーン印刷によって積層した。
得られた積層体に750℃の加熱よる脱バインダ処理を行った後、1450℃での共焼結を行い、焼結体を形成した。
【0083】
(2)MgO製の板の上にBZY20ペーストを積層した側を上にして得られた焼結体を置き、その上にSZY15粉末とSrCO粉末とを9:1(質量比)で混合した粉末をかけて焼結体を粉末中に埋め、この状態のまま加熱炉内で1300℃、0時間の熱処理を行った。ここで、1300℃、0時間の熱処理とは、炉内温度を20℃から1300℃まで6時間40分かけて昇温させ、1300℃に到達後、直ぐに1300℃から20℃まで6時間40分かけて降温させる熱処理をいう(熱処理パターン1)。
このような工程を経て、円板状の水素極と固体電解質層とが一体化した水素極-固体電解質層複合体Aを作製した。
本実施例で形成した固体電解質層の厚さは、15μmである。
【0084】
<実施例2>
まず、実施例1の工程(1)と同様にして焼結体を形成した。
その後、MgO製の板の上にBZY20ペーストを積層した側を上にして焼結体を置き、その上にSZY15粉末とSrCO粉末とを9:1(質量比)で混合した粉末をかけて焼結体を粉末中に埋め、この状態のまま加熱炉内で1300℃、2時間の熱処理を行った。ここで、1300℃、2時間の熱処理とは、炉内温度を20℃から1300℃まで6時間40分かけて昇温させた後、炉内温度1300℃で2時間維持し、その後、1300℃から20℃まで6時間40分かけて降温させる熱処理をいう(熱処理パターン2)。
上述した熱処理を経て、水素極-固体電解質層複合体Bを作製した。
本実施例で形成した固体電解質層の厚さは、14μmである。
【0085】
<実施例3>
まず、実施例1の工程(1)と同様にして焼結体を形成した。
その後、MgO製の板の上にBZY20ペーストを積層した側を上にして焼結体を置き、その上にSZY15粉末とSrCO粉末とを9:1(質量比)で混合した粉末をかけて焼結体を粉末中に埋め、この状態のまま加熱炉内で1400℃、2時間の熱処理を行った。ここで、1400℃、2時間の熱処理とは、炉内温度を20℃から1400℃まで7時間27分かけて昇温させた後、炉内温度1400℃で2時間維持し、その後、1400℃から20℃まで7時間27分かけて降温させる熱処理をいう(熱処理パターン3)。
上述した熱処理を経て、水素極-固体電解質層複合体Cを作製した。
本実施例で形成した固体電解質層の厚さは、17μmである。
【0086】
<実施例4>
まず、実施例1の工程(1)と同様にして焼結体を形成した。
次に、得られた焼結体のBZY20ペーストを積層した側の表面に、SZY15粉末とSrCO粉末を9:1(質量比)で混合し、SZY15粉末とSrCO粉末との合計量100質量部に対して、バインダ(エチルセルロース)5重量部と、有機溶媒(ブチルカルビトールアセテート(BCA))130重量部とを混合したペーストをスクリーン印刷によって積層した。その後、加熱炉内で1300℃、0時間の熱処理(熱処理パターン1)を行った。
このような熱処理を経て、水素極-固体電解質層複合体Dを作製した。
本実施例で形成した固体電解質層の厚さは、緻密質からなる第1固体電解質層の厚さが14μm、多孔質からなる第2固体電解質層の厚さが10μmである。
また、第1固体電解質層の空隙率は0%、第2固体電解質層の空隙率は8%であった。
【0087】
<比較例1>
実施例1の(1)の工程と同様にして作製した焼結体を、本比較例の水素極-固体電解質層複合体Eとした。
本比較例で形成した固体電解質層の厚さは、16μmである。
【0088】
<比較例2>
NiOとSZY15粉末を7:3(質量比)で混合し、ボールミルを行った後、一軸成型した。得られた成型体を1000℃で仮焼し、仮焼後の成型体に、SZY15粉末100質量部に対して、有機溶媒(ブチルカルビトールアセテート(BCA))140質量部とバインダ(エチルセルロース)5質量部とを混合したSZY15ペーストをスクリーン印刷によって積層した。
得られた積層体に750℃の加熱よる脱バインダ処理を行った後、1450℃での共焼結を行い、焼結体を形成した。
この焼結体を、本比較例の水素極-固体電解質層複合体Fとした。
本比較例で形成した固体電解質層の厚さは、15μmである。
【0089】
<比較例3>
NiOとBZY20粉末とを7:3(質量比)で混合し、ボールミルを行った後、一軸成型した。得られた成型体を1000℃で仮焼し、仮焼後の成型体に、比較例2と同様のSZY15ペーストをスクリーン印刷によって積層した。
得られた積層体に750℃の加熱よる脱バインダ処理を行った後、1450℃での共焼結を行い、焼結体を形成した。
この焼結体を、本比較例の水素極-固体電解質層複合体Gとした。
本比較例で形成した固体電解質層の厚さは、15μmである。
【0090】
<比較例4>
まず、実施例1の工程(1)と同様にして焼結体を形成した。
その後、得られた焼結体のBZY20ペーストを積層した側にパルスレーザー堆積法(PLD:Pulsed Laser Deposition)にて500nmのSZY15膜を積層した。
このようなSZY15膜の形成工程を経て、水素極-固体電解質層複合体Hを作製した。
本比較例で形成した固体電解質層の厚さは、15.5μmである。
【0091】
<断面観察・組成分析>
実施例1~4及び比較例3、4で作製した水素極-固体電解質層複合体における固体電解質層の組成について、当該固体電解質層の断面を電界放出形電子プローブマイクロアナライザー(FE-EPMA)によって観察・測定し、固体電解質層の元素比として「Ba/(Ba+Sr):原子数基準」及び「Sr/(Ba+Sr):原子数基準」を算出した。結果は、表1及び図3A図3B図4A図4B図5図6図7及び図8に示した。図3A図8のグラフは、横軸に固体電解質層の断面の厚さ方向の位置を示し、縦軸に固体電解質層の上記元素比を示す。
ここで、観察試料としての固体電解質層は、樹脂に埋め、研磨後、試料全体にカーボンを蒸着し、その後日本電子製 クロスセクションポリッシャ(SM-09010)で断面加工を行った。
EPMAとしては、JEOL製 JXA-8530Fを使用し、
加速電圧:15kV
照射電流:100nA
サンプリングタイム:1s
プローブ径:0.1μmφ
試料送りステップ:0.1μm
の条件で測定を実施した。このとき、定量は、ZAF法で行い、Baの標準試料としてはBaFを、Srの標準試料としてはSrTiO(どちらも日本電子製標準試料)を使用した。
【0092】
【表1】
【0093】
表1、及び図3A図8に示したように、実施例1~4で作製した水素極-固体電解質層複合体A~Dでは、第1固体電解質層の水素極と反対側(空気極側ともいう)の表面近傍でSr/(Ba+Sr)が0.4以上となっており、固体電解質層内にBaとSrの組成傾斜が形成されていた。
また、実施例1~3における固体電解質層の空隙率が0%であり、実施例4における固体電解質層は水素極側と反対側(空気極側)の10μmの領域に空隙率8%の領域が形成されていた。
一方、比較例3で作製した水素極-固体電解質層複合体Gでは、電解質層内でSrの拡散が進み、Srの組成傾斜が緩やかになっていた。固体電解質層の水素極と反対側(空気極側)でSr/(Ba+Sr)が0.4程度、固体電解質層の水素極側でSr/(Ba+Sr)が0.3程度であり、Sr/(Ba+Sr)は、固体電解質層全体で0.3~0.4程度であった。
比較例4で作製した水素極-固体電解質層複合体Hは、固体電解質層の水素極と反対側からの距離が1.0μmを超える領域でSrが検出されなかった。
【0094】
<電気化学測定・評価>
実施例及び比較例で作製した水素極-固体電解質層複合体A~Hを用いて燃料電池を作製し、得られた燃料電池を用いて電気化学測定を行った。
(1)燃料電池の作製
空気極材料としてLSCF(La0.6Sr0.4Fe0.8Co0.23-δ)の粉末と、溶媒(ブチルカルビトールアセテート)と、バインダ(エチルセルロース)とを混合したLSCFペーストを準備した。このLSCFペーストを水素極-固体電解質層複合体の固体電解質層の表面にスクリーン印刷によって塗布した。続いて、1000℃で2時間の熱処理を行って、LSCFを焼結させて、厚さ10μmのカソード(空気極)を形成し、セル構造体を得た。
得られたセル構造体(φ16mm)の空気極および水素極のそれぞれの表面に、リード線の溶接された白金メッシュを白金電極ペーストにて貼り付けた。
上記リード線のセル構造体側と反対側の端部は、各リード線の間の電流値および電圧値を計測できるように、計測器に接続した。
【0095】
(2)出力密度測定
動作温度を600℃として、作製した燃料電池の水素極に燃料ガスとして水素を100cm/分で流し、空気極に空気を200cm/分で流した。空気及び水素は露点25℃となるよう加湿を行った。電流密度を変化させながら電圧を測定し、電流密度と電圧から出力密度の最大値を求めた。結果を表2に示した。
【0096】
(3)直流抵抗変化の測定
開回路状態の直流抵抗ROCVとOCV-0.2Vの電圧を印加した際の直流抵抗R0.2との比ROCV/R0.2をイオン輸率の指標として算出した。
それぞれの直流抵抗は、電気化学インピーダンス法により測定した。このとき、開回路状態の電圧値(OCV)も取得した。
測定装置としては、Solartron製の1260A Impedance/Gain-phase Analyzer及びポテンショスタット1287Aを使用し、OCV又はOCV-0.2Vに対し±10mVの振幅で10Hzから0.1Hzまで掃引した際の電流値の周波数応答の実部を横軸、虚部を縦軸にプロットしたナイキスト線図を取得し、横軸との交点を直流抵抗として読み取った。結果を表2に示した。
【0097】
本評価では、「ROCV/R0.2」をイオン輸率の指標としている。その理由は、以下の通りである。
ホール伝導を想定したプロトン伝導型セル構造体の等価回路は、図9のように示すことができる。図9中、Rはプロトン伝導の抵抗、Rはホール伝導の抵抗、Rは空気極(カソード)の抵抗、Rは水素極(アノード)の抵抗、Rは全体抵抗である。
ここで、プロトン伝導体の伝導度σ、及びイオン輸率tは、それぞれ
【数1】

と表すことができる。また、インピーダンス測定の高周波側切片では、R及びRはともにゼロとみなすことができる。そのため、プロトン伝導型セル構造体の全体抵抗(直流抵抗)Rは、
【数2】

と表すことができる。
【0098】
非特許文献:T.Onishi and T.Uda, Electrochemistry, 87(3), 162-174 (2019)によると、セル構造体にかかる電圧が大きくなるほど、当該セル構造体は、ホール伝導度が大きくなるため、開回路状態よりも発電側に電圧を振った方がホール伝導度が小さくなることが明らかにされている。この文献の開示内容に基づくと、OCV-0.2Vの状態でのホール伝導度は、開回路状態でのホール伝導度の約1/5となる。そのため、OCV-0.2Vの状態でのホール伝導の抵抗は、OCV状態でのホール伝導の抵抗の約5倍となる。
ここで、OCV状態での直流抵抗をROCVとし、OCV-0.2Vの状態での直流抵抗をR0.2とし、
【0099】
【数3】

とすると、上記R0.2
【数4】

と表される。そして、R0.2に対するROCVの比は、
【0100】
【数5】

で表される。このことから、開回路状態のイオン輸率tはROCV/R0.2と一次の相関関係があることが把握できる。そこで、本評価では、上述した通り、ROCV/R0.2をイオン輸率の指標として用いた。
【0101】
【表2】
【0102】
実施例1~4の水素極-固体電解質層複合体を評価した燃料電池は、比較例1、3、4の水素極-固体電解質層複合体を評価した燃料電池に比べて輸率指標が高くなっており、本開示に係る電気化学デバイスは、高い出力密度を維持しつつ、イオン輸率が良好であった。
一方、比較例1、3、4の水素極-固体電解質層複合体を評価した燃料電池は、イオン輸率を高めることは困難であった。
比較例2の水素極-固体電解質層複合体を評価した燃料電池は、輸率指標は高いものの、出力密度が極めて低くかった。
これらのことから、本開示によれば、高いイオン輸率と高出力が両立できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0103】
10、20 セル構造体
11、21 空気極
12、22 水素極
13、23 固体電解質層
14、24 (第1の)主面
15、25 (第2の)主面
23A 第1固体電解質層
23B 第2固体電解質層

図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9