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特許7609246車両制御装置、車両制御方法及びそのプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/08 20120101AFI20241224BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20241224BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
B60W30/08
B60W40/04
G08G1/16 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023216395
(22)【出願日】2023-12-22
(62)【分割の表示】P 2021008156の分割
【原出願日】2021-01-21
(65)【公開番号】P2024029080
(43)【公開日】2024-03-05
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 由美
(72)【発明者】
【氏名】橋本 翔
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-215752(JP,A)
【文献】特開2011-242887(JP,A)
【文献】特開2017-043262(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0217430(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/08
B60W 40/04
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両と前方車両との衝突の可能性が高い場合に当該衝突を回避するための衝突回避制御を衝突回避制御用のアクチュエータを制御することにより実行するコントローラを備える車両制御装置において、
前記コントローラは、
前記前方車両の移動予定方向を取得し、
前記前方車両の移動予定方向が前記衝突回避制御による前記自車両の回避予定方向と同じ方向である場合には前記衝突回避制御の実行を禁止し、
前記前方車両の移動予定方向が前記衝突回避制御による前記自車両の回避予定方向と異なる方向である場合には、前記前方車両の移動予定方向が取得されない場合に比べて、前記衝突回避制御を開始するための制御開始条件がより遅いタイミングにて成立するように当該制御開始条件を設定する、
ように構成された、
車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記コントローラは、
前記前方車両の移動予定方向を、前記前方車両の方向指示器が点滅しているときの当該方向指示器が指示している方向に基いて取得する、
ように構成された車両制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御装置において、
前記前方車両の方向指示器のうちの左方向指示器及び前記前方車両の方向指示器のうちの右方向指示器の何れもが点滅していない状態にある場合、及び、前記左方向指示器及び前記右方向指示器の何れもが点滅している状態にある場合、の何れかの場合、前記前方車両の移動予定方向が取得されない、
車両制御装置。
【請求項4】
自車両と前方車両との衝突の可能性が高い場合に当該衝突を回避するための衝突回避制御を衝突回避制御用のアクチュエータを制御することにより実行する車両制御方法であって、
前記前方車両の移動予定方向を取得するステップと、
前記前方車両の移動予定方向が前記衝突回避制御による前記自車両の回避予定方向と同じ方向である場合には前記衝突回避制御の実行を禁止するステップと、
前記前方車両の移動予定方向が前記衝突回避制御による前記自車両の回避予定方向と異なる方向である場合には、前記前方車両の移動予定方向が取得されない場合に比べて、前記衝突回避制御を開始するための制御開始条件がより遅いタイミングにて成立するように当該制御開始条件を設定するステップと、
を含む、車両制御方法。
【請求項5】
自車両と前方車両との衝突の可能性が高い場合に当該衝突を回避するための衝突回避制御を衝突回避制御用のアクチュエータを制御することにより実行するために、前記自車両に搭載されたコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記プログラムは前記コンピュータに、
前記前方車両の移動予定方向を取得するステップと、
前記前方車両の移動予定方向が前記衝突回避制御による前記自車両の回避予定方向と同じ方向である場合には前記衝突回避制御の実行を禁止するステップと、
前記前方車両の移動予定方向が前記衝突回避制御による前記自車両の回避予定方向と異なる方向である場合には、前記前方車両の移動予定方向が取得されない場合に比べて、前記衝突回避制御を開始するための制御開始条件がより遅いタイミングにて成立するように当該制御開始条件を設定するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両(自車両)と、自車両の前方に位置している他車両(前方車両)と、の衝突を回避するための制御を実行する車両制御装置、車両制御方法及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の衝突回避支援装置の一つは、自車両が自車両の前方に存在する障害物に衝突する可能性がある場合、自車両がその障害物との衝突を回避でき且つ他の物体に衝突することがない回避経路が存在するとき、その回避経路に沿って自車両が移動するように自車両の操舵を自動的に行う(特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-43262号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、自車両の前方に存在する障害物が前方車両であり、その前方車両の方向指示器が左方向及び右方向の何れかの方向(以下、「指示方向」と称呼する場合がある。)を示すように作動(点滅)している場合がある。この場合、指示方向が、自車両が操舵回避制御により前方車両を回避しようとしている方向(左方向及び右方向の何れかであり、以下、「回避予定方向」とも称呼する。)と異なる状況が生じ得る。この状況においては、自車両が回避経路に沿って走行を開始した後(即ち、操舵回避制御の開始後)に前方車両が自車両から離れる方向に移動する可能性が高い。操舵回避制御が早期に開始され、その後、前方車両が指示方向に移動すると、その操舵回避制御による自車両の横方向への移動量が過剰になったり、本来は操舵回避制御を行う必要がなかったりする場合が生じる。その結果、運転者が操舵回避制御を煩わしく感じてしまう可能性がある。
【0005】
これに対し、前方車両の指示方向が自車両の回避予定方向と同じである状況においては、その操舵回避経路に前方車両が接近してくる可能性がある。この場合、操舵回避制御により自車両と前方車両との衝突を回避しようとしているにも関わらず自車両と前方車両とが過度に接近するか又は衝突する恐れがある。
【0006】
本開示は上述した課題に対処するためになされた。即ち、本開示の目的の一つは、衝突回避制御(操舵回避制御)を実行した場合に、自車両と前方車両とが過度に接近することなく且つ運転者に衝突回避制御を煩わしいと感じさせてしまう可能性を低下することができる車両制御装置を提供することにある。以下、本開示に係る車両制御装置は「本開示支援装置」と称呼される場合がある。
【0007】
本開示支援装置(10)は、
自車両(SV)の前方の領域を撮影して当該領域を表す画像データを取得するカメラセンサ(21b)を含むとともに少なくとも当該画像データに基いて前記自車両の前方領域に存在する他車両である前方車両(OV1)についての情報を取得する周囲センサ(21)と、前記自車両の舵角を変更可能に構成された舵角アクチュエータ(52)と、前記周囲センサからの情報に基いて前記自車両が前記前方車両に衝突する可能性がある場合に成立する衝突可能性条件が成立したと判定した場合(ステップ710、ステップ715、ステップ720)前記自車両が前記前方車両との衝突を避けるための目標軌道を前記画像データを用いた演算により取得し(ステップ815)且つ所定の操舵回避制御開始条件が成立したと判定したとき(ステップ850)前記自車両が前記目標軌道に沿って走行するように前記舵角アクチュエータを制御する操舵回避制御を開始する(ステップ855)制御ユニット(20)と、を備える。
【0008】
更に、前記制御ユニットは、
前記目標軌道が前記自車両を左方向及び右方向のうちの何れの方向に進路変更させるかを表す回避予定方向についての回避予定方向情報を取得し(ステップ830)、前記前方車両の方向指示器の状態が前記前方車両の移動予定方向を示している方向指示状態であるか否かを前記画像データに基いて判定し(ステップ835)、且つ、前記方向指示器の状態が前記方向指示状態であると判定した場合には前記方向指示器により示されている前記前方車両の移動予定方向が左方向及び右方向のうちの何れの方向であるかを表す指示方向についての情報を前記画像データに基いて取得し(ステップ860)、前記方向指示器の状態が前記方向指示状態でないと判定した場合、前記操舵回避制御開始条件を前記自車両と前記前方車両との車間距離が第1距離となった場合に成立し得る第1開始条件に設定し(ステップ840、ステップ845)、前記方向指示器の状態が前記方向指示状態であると判定した場合、前記前方車両の移動予定方向と前記回避予定方向とが同じであるか否かを前記指示方向についての情報と前記回避予定方向情報とに基いて判定し(ステップ865)、前記前方車両の移動予定方向と前記回避予定方向とが同じであると判定されたとき前記操舵回避制御の実行を禁止し(ステップ865:No、ステップ825)、前記前方車両の移動予定方向と前記回避予定方向とが異なると判定されたとき前記操舵回避制御開始条件を、前記車間距離が前記第1開始条件が成立し得る時点における車間距離よりも短い距離となった時点にて成立し得る第2開始条件に設定する(ステップ865:Yes、ステップ870、ステップ875)ように構成されている。
【0009】
本開示支援装置によれば、前方車両の方向指示器の状態が「前方車両の移動予定方向が左方向及び右方向のうちの何れかの方向であることを示している方向指示状態」であるか否かが判定される。更に、本開示支援装置によれば、前方車両の方向指示器の状態が方向指示状態であり、且つ、前方車両の移動予定方向と回避予定方向とが同じであると判定された場合、操舵回避制御の実行が禁止される。これにより、本開示支援装置は、車両が前方車両に衝突する可能性を低下できる。
【0010】
更に、本開示支援装置によれば、方向指示器の状態が方向指示状態でないと判定した場合、操舵回避制御開始条件は「自車両と前方車両との車間距離が第1距離となった場合に成立し得る第1開始条件に設定される。これに対し、前方車両の方向指示器の状態が方向指示状態であり、且つ、前方車両の移動予定方向と回避予定方向とが異なると判定された場合、操舵回避制御開始条件が、第2開始条件に設定される。この第2開始条件は、車両と前方車両との車間距離が、第1開始条件が成立する時点における車間距離よりも短い距離となった時点にて成立し得る条件である。換言すると、第2開始条件は、1開始条件が成立するタイミングに比べて遅いタイミングで成立する条件である。従って、本開示支援装置は、前方車両の移動予定方向と回避予定方向とが異なる場合、操舵回避制御による自車両の横方向への移動量が過剰になる可能性を低減でき、その結果、運転者が操舵回避制御を煩わしく感じてしまう可能性を低下できる。
【0011】
本開示支援装置の一態様において、
前記操舵回避制御開始条件は、少なくとも、前記自車両が前記前方車両に衝突する可能性を表す衝突指標値(TTC)が衝突可能性閾値(TTCth)に到達したとの条件を含み、前記制御ユニットは、前記第2開始条件にて使用される前記衝突可能性閾値(TTC2)を前記第1開始条件にて使用される前記衝突可能性閾値(TTC1)とは異なる値に設定している、
【0012】
より具体的には、前記操舵回避制御開始条件は、少なくとも、前記自車両が前記前方車両に衝突するまでの時間の予測値である衝突予測時間(TTC)が所定の衝突判定閾値時間(TTCth)より短いとの条件を含み、前記制御ユニットは、前記第1開始条件にて使用される前記衝突判定閾値時間(TTCth)を第1時間(TTC1)に設定し、前記第2開始条件にて使用される前記衝突判定閾値時間(TTCth)を前記第1時間よりも短い第2時間(TTC2)に設定している。
【0013】
上記態様によれば、前方車両の方向指示器の状態が方向指示状態であり、且つ、前方車両の移動予定方向と回避予定方向とが異なると判定された場合の衝突判定閾値が、前方車両の方向指示器の状態が方向指示状態でない場合の衝突判定閾値と相違する値に設定される。これにより、前方車両の移動予定方向と回避予定方向とが異なると判定されたときの操舵回避制御開始条件を、前記車間距離が前記第1開始条件が成立し得る時点における車間距離よりも短い距離となった時点にて成立し得る第2開始条件に設定することができる。
【0014】
上記説明においては、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態に対応する発明の構成に対し、その実施形態で用いた名称及び/又は符号を括弧書きで添えている。しかしながら、本発明の各構成要素は、前記名称及び/又は符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明の実施形態に係る衝突回避支援装置の概略構成図である。
図2図2は操舵回避制御の概要を説明するための図である。
図3図3は第1マップMap1を説明するための図である。
図4図4は衝突回避支援装置の作動の概要を説明するための図である。
図5図5は衝突回避支援装置の作動の概要を説明するための図である。
図6図6は第2マップMap2を説明するための図である。
図7図7は運転支援ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
図8図8は運転支援ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
図9図9は運転支援ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
図10図10は衝突回避支援装置の変形例の作動の概要を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<構成>
図1に示すように、本発明の実施形態に係る衝突回避支援装置10は、車両SVに適用される。車両SVは、他車両と区別するために、自車両SVと称呼される場合がある。衝突回避支援装置10は、運転支援ECU20、エンジンECU30、ブレーキECU40及び電動パワーステアリングECU50を備えている。なお、以下、運転支援ECU20は、「DSECU」と称呼され、電動パワーステアリングECU50は、「EPS・ECU50」と称呼される。
【0017】
これらのECUは、マイクロコンピュータを主要部として備える制御ユニット(電子制御装置(Electronic/Electric Control Unit))であり、コントローラとも称呼される。これらのECUは、CAN70(Controller Area Network)を介してデータ交換可能(通信可能)に互いに接続されている。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM及びインターフェース(I/F)等を含む。CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現する。これらのECUは、幾つか又は全部が一つのECUに統合されてもよい。
【0018】
DSECUには、周囲センサ21、車速センサ22、ヨーレートセンサ23、前後加速度センサ24及び横加速度センサ25が接続されている。DSECUは、それらのセンサの検出信号又は出力信号を受信する。これらのセンサの幾つか又は全部は、DSECU以外のECUに接続されていてもよい。その場合、DSECUは、これらのセンサの検出信号又は出力信号を他のECUからCANを通じて受信する。
【0019】
周囲センサ21は、レーダセンサ21a、カメラセンサ21b及び物標認識部21cを含む。なお、周囲センサ21は機能の観点から「障害物認識装置」を構成している。カメラセンサ21bは機能の観点から「指示方向取得装置」を構成している。なお、物標認識部21cはマイクロコンピュータを含むECUを含む。
【0020】
周囲センサ21は、少なくとも「自車両SVの前方の所定の領域(前方領域)」を含む「自車両SVの周辺領域」に存在する立体物を認識し、認識した立体物に関する情報を取得する。立体物は、移動物(例えば、歩行者及び車両等)又は固定物(例えば、電柱、樹木及びガードレール等)である。以下、立体物は「物標」と称呼される場合がある。
【0021】
周囲センサ21は、認識した物標に関する情報(以下、「物標情報」と称呼される場合がある。)を演算により取得してDSECUに送信する。物標情報は以下に列挙した情報を含む。
・物標の縦距離Dfx:物標の縦距離Dfxは、自車両SVの前端部と物標との間の自車両SVの前後方向に伸びる中心軸方向(x軸方向)の符号付き距離である。
・物標の横位置Dfy:物標の横位置Dfyは、物標の中心位置と、自車両SVの車幅方向の中心軸と、の自車両SVの前後方向に延びる中心軸に直交する方向(y軸方向)の符号付き距離である。
・物標の相対速度Vfx:物標の相対速度Vfxは、物標のx軸方向の速度Vbと自車両SVの車速(x軸方向の速度)Vsとの差(=Vb-Vs)である。
・物標の種類を示す情報(例えば、物標が車両、歩行者及び静止物の何れであるかを示す情報)
・物標の幅(物標の左右幅)W
・物標の長さL
なお、縦距離Dfx及び横位置Dfyは、「物標の検出位置」とも称呼される。
【0022】
周囲センサ21は、予め規定されたx-y座標に基いて物標情報を取得する。x軸は、自車両SVの前後方向に沿って自車両SVの前端部の車幅方向中心位置を通るように伸び、前方を正の値として有する座標軸である。y軸は、x軸と直交し、自車両SVの左方向を正の値として有する座標軸である。x軸の原点及びy軸の原点は、自車両SVの所定位置(例えば、自車両SVの前端部の車幅方向中心位置)である。
【0023】
より具体的に述べると、レーダセンサ21aは、レーダ波送受信部と処理部とを備えている。レーダ波送受信部は、例えば、ミリ波帯の電波(以下、「ミリ波」と称呼する。)を少なくとも自車両SVの前方領域を含む自車両SVの周辺領域に放射し、且つ、放射したミリ波が立体物の部分(即ち、反射点)によって反射されることにより生成される反射波を受信する。なお、レーダセンサ21aはミリ波帯以外の周波数帯の電波(レーダ波)を用いるレーダセンサであってもよい。
【0024】
レーダセンサ21aの処理部は、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰レベル及びミリ波を送信してから反射波を受信するまでの時間等を含む反射点情報に基いて、物標の有無を判定する。レーダセンサ21aの処理部は、1つの立体物を検出している可能性が高い「複数の反射点」をグルーピングし、グルーピングできた反射点の群を一つの物標として認識する(例えば、特開2019-003235号公報、特開2019-002691号公報及び特開2019-002690号公報などを参照。)。
【0025】
更に、レーダセンサ21aの処理部は、認識できた物標に属する反射点の反射点情報に基いて物標の縦距離Dfx、物標の横位置Dfy、自車両SVに対する物標の方位θp及び自車両SVと物標との相対速度Vfx等を演算する。レーダセンサ21aにより取得されるこれらの値を含む情報は、以下、「レーダセンサ検出情報」と称呼される場合がある。
【0026】
カメラセンサ21bは、ステレオカメラ及び画像処理部を備える。ステレオカメラは、自車両SVの前方の「左側領域及び右側領域」の風景(即ち、自車両SVの前方領域)を撮影して左右一対の画像(即ち、前方領域を表す画像データ)を取得する。画像処理部は、その画像データに基いて、自車両SVの前方領域に物標が存在するか否かを判定する。
【0027】
画像処理部は、自車両SVの前方領域に物標が存在すると判定した場合、その物標の方位θp、その物標の縦距離Dfx及び自車両SVとその物標との相対速度Vfx等を画像データに基いて演算により取得する。更に、画像処理部は、画像データに基いて、上述した物標の種類をパターンマッチングによって特定し、その物標の種類を示す情報を取得する。画像処理部により取得されるこれらの情報は、「カメラセンサ検出情報」と称呼される場合がある。
【0028】
物標認識部21cは、レーダセンサ21aの処理部及びカメラセンサ21bの画像処理部から「レーダセンサ検出情報」及び「カメラセンサ検出情報」をそれぞれ受信する。
【0029】
物標認識部21cは、「レーダセンサ検出情報」及び「カメラセンサ検出情報」に基いて、上述した物標の最終的な物標情報を決定(取得)する。物標認識部21cは、所定時間が経過する毎に、決定した物標の最終的な物標情報をDSECUに送信する。
【0030】
カメラセンサ21bの画像処理部は、取得した画像データに基いて、周知の手法により、道路の左及び右の車線区画線(以下、単に「白線」とも称呼する。)を認識する。例えば、画像処理部は、画像の輝度が急激に変化するエッジ点を検出し、検出したエッジ点に基いて白線の輪郭線を抽出することにより、左白線及び右白線を認識する。
【0031】
そして、画像処理部は、自車両SVが走行している車線(走行車線)を規定する左白線及び右白線の位置情報(上述のx-y座標上のx座標位置及びy座標位置)を所定時間が経過する毎に演算により取得してDSECUに送信する。
【0032】
更に、周囲センサ21(カメラセンサ21bの画像処理部)は、自車両SVの前方に位置する物標の種類が車両(以下、「前方車両」とも称呼する。)であると認識した場合、以下に述べる方向指示器情報を現在及び過去の画像データに基いて取得し、取得した方向指示器情報をDSECUに送信する。
・前方車両の方向指示器が点滅(作動)しているか否かについての情報。
・前方車両の方向指示器が点滅している場合、前方車両の「左方向指示器及び右方向指示器」のうちの何れか一方のみが点滅しているかについての情報。
・前方車両の「左方向指示器及び右方向指示器」のうちの何れか一方のみが点滅している場合、左方向指示器及び右方向指示器の何れが点滅しているかを表す情報(以下、「指示方向についての情報、又は、指示方向情報」と称呼される場合がある。)。
【0033】
具体的に述べると、画像処理部は、左方向指示器及び右方向指示器のうちの左方向指示器のみが点滅している場合、指示方向についての情報として「指示方向が左方向である旨を表す情報」を取得する。画像処理部は、左方向指示器及び右方向指示器のうちの右方向指示器のみが点滅している場合、指示方向についての情報として「指示方向が右方向である旨を表す情報」を取得する。なお、左方向指示器及び右方向指示器の何れもが点滅していない状態にある場合、及び、左方向指示器及び右方向指示器の何れもが点滅している状態にある場合、指示方向が特定されない。よって、これらの場合、画像処理部は、指示方向についての情報として「方向指示器の状態が方向指示状態ではない旨(即ち、指示方向が特定できない旨)を表す情報」をDSECUに送信する。
【0034】
車速センサ22は、自車両SVの走行速度(車速)を検出し、検出した車速Vsを表す信号を出力する。
【0035】
ヨーレートセンサ23は、自車両SVのヨーレートを検出し、ヨーレートYrを表す信号を出力する。
【0036】
前後加速度センサ24は、自車両SVの前後加速度を検出し、検出した前後加速度Gxを表す信号を出力する。前後加速度Gxが負の値であるとき、その前後加速度Gxの大きさ(絶対値)は、減速度を表す。
【0037】
横加速度センサ25は、自車両SVの横加速度を検出し、検出した横加速度Gyを表す信号を出力する。
【0038】
エンジンECU30は、エンジンアクチュエータ31に接続されている。エンジンアクチュエータ31は、エンジン32のスロットル弁の開度を変更するスロットル弁アクチュエータを含む。エンジンECU30は、エンジンアクチュエータ31を駆動することによって、エンジン32が発生するトルクを変更することができる。エンジン32が発生するトルクは、トランスミッション(不図示)を介して駆動輪に伝達されるようになっている。
【0039】
従って、エンジンECU30は、エンジンアクチュエータ31を制御することによって、自車両SVの駆動力を制御して自車両SVの加速状態(前後加速度Gx)を変更することができる。なお、自車両SVが、ハイブリッド車両である場合、エンジンECU30は、車両駆動源としての「エンジン及び電動機」の何れか一方又は両方によって発生する自車両SVの駆動力を制御することができる。更に、自車両SVが電気自動車である場合、エンジンECU30は、車両駆動源としての電動機によって発生する自車両SVの駆動力を制御することができる。
【0040】
ブレーキECU40は、ブレーキアクチュエータ41に接続されている。ブレーキアクチュエータ41は、ブレーキペダルの踏力によって作動油を加圧する図示しないマスタシリンダと、左右前後輪のそれぞれに設けられる摩擦ブレーキ機構42との間の油圧回路に設けられる。摩擦ブレーキ機構42は、車輪に固定されるブレーキディスク42aと、車体に固定されるブレーキキャリパ42bとを備える。
【0041】
ブレーキアクチュエータ41は、ブレーキECU40からの指示に応じてブレーキキャリパ42bに内蔵されたホイールシリンダに供給する油圧を調整し、その油圧によりホイールシリンダを作動させる。これにより、ブレーキアクチュエータ41は、ブレーキパッドをブレーキディスク42aに押し付けて摩擦制動力を発生させる。従って、ブレーキECU40は、ブレーキアクチュエータ41を制御することによって自車両SVの制動力を制御して自車両SVの加速状態(負の前後加速度Gx)を変更することができる。
【0042】
EPS・ECU50は、周知の電動パワーステアリングシステムの制御装置である。EPS・ECU50は、モータドライバ51に接続されている。モータドライバ51は、転舵用モータ52に接続されている。転舵用モータ52は、「操舵ハンドルSW、ステアリングシャフトSF、及び、図示しない操舵用ギア機構等を含むステアリング機構」に組み込まれている。転舵用モータ52は、電動モータであり、モータドライバ51から供給される電力によって操舵トルクを発生する。転舵用モータ52は、この操舵トルクにより、自車両SVの左右の操舵輪を転舵できる。即ち、転舵用モータ52は、自車両SVの舵角(操舵輪の転舵角)を変更する舵角アクチュエータとして機能する。
【0043】
EPS・ECU50は、操舵角センサ53及び操舵トルクセンサ54に接続されている。操舵角センサ53は、自車両SVの操舵ハンドルSWの操舵角を検出し、操舵角θsを表す信号を出力する。操舵トルクセンサ54は、操舵ハンドルSWの操作により自車両SVのステアリングシャフトSFに加わる操舵トルク(以下、「ドライバトルクTqDr」と称呼される。)を検出し、ドライバトルクTqDrを表す信号を出力する。操舵角θs及びドライバトルクTqDrは、自車両SVの左旋回方向への操舵が行われる場合に正の値になり、自車両SVの右旋回方向への操舵が行われる場合に負の値になるように定義されている。
【0044】
EPS・ECU50は、検出された「ドライバトルクTqDr、操舵角θs及び車速Vs」に基いて転舵用モータ52を駆動する。これにより、EPS・ECU50は、操舵アシストトルクを発生し、運転者の操舵操作を補助する。
【0045】
EPS・ECU50は、後述の操舵回避制御の実行中、DSECUから操舵指令を受信した場合、その操舵指令によって特定される目標転舵角(又は目標操舵トルク)に基いてモータドライバ51を介して転舵用モータ52を駆動する。これにより、DSECUは、EPS・ECU50を介して自車両SVの舵角を自動的に変更する(操舵輪を転舵する)ことができる。
【0046】
<基本的な操舵回避制御の概要>
図2に示すように、自車両SVが直線路である走行車線LA1を走行しているときに、自車両SVの前方領域に立体物(物標)である前方車両OV1が存在する状況が生じたと仮定する。
【0047】
DSECUは、所定時間が経過する毎に、左白線WL及び右白線WRの位置情報に基いて、左白線WL及び右白線WRで区画される走行車線LA1を認識している。
【0048】
更に、DSECUは、自車両SVが現状の走行状態を維持すると仮定した上で、自車両SVの操舵角θs、ヨーレートYr及び車速Vsに基いて、自車両SVの予想走行軌跡を演算により求める。
【0049】
DSECUは、前方車両OV1が現状の走行状態を維持すると仮定した上で、前方車両OV1の物標情報に基いて、前方車両OV1の予想移動軌跡を演算により求める。より具体的に述べると、DSECUは、過去に所定時間が経過する毎に取得された前方車両OV1の複数の検出位置と、現地点の前方車両OV1の検出位置と、に基いて、前方車両OV1が移動すると予想される予想移動軌跡を取得する。
【0050】
DSECUは、自車両SVの予想走行軌跡及び前方車両OV1の予想移動軌跡に基いて、衝突可能性条件が成立するか否かについて判定する。衝突可能性条件は、前方車両OV1が現状の移動状態を維持し、且つ、自車両SVが現状の走行状態を維持した場合に、自車両SVが前方車両OV1に衝突する可能性がある(二つの予想走行軌跡が交差する)ときに成立する条件である。DSECUは、衝突可能性条件が成立すると判定した場合、自車両SVが前方車両OV1に衝突する可能性がある(即ち、自車両SVと衝突する可能性がある前方車両OV1が存在する)と判定する。
【0051】
DSECUは、自車両SVが前方車両OV1に衝突する可能性があると判定した場合、その前方車両OV1に対する衝突予測時間TTCを、前方車両OV1の縦距離Dfx及び相対速度Vfxに基いて算出する。具体的に述べると、DSECUは、縦距離Dfxを相対速度Vfxにより除して得られる値の符号を反転することによって衝突予測時間TTCを算出する(即ち、TTC=-Dfx/Vfx。)。なお、DSECUは、自車両SVと前方車両OV1とが衝突することが予想される地点(上記二つの予想走行軌跡が交差する地点)と自車両SVとの距離を、自車両SVの現時点の車速Vsで除することにより衝突予測時間TTCを算出してもよい。
【0052】
更に、DSECUは、周知の方法により、自車両SVが前方車両OV1との衝突を回避するためにとり得る軌道を演算する。より具体的に述べると、DSECUは、自車両SVが旋回する(進路方向を変更する)ことにより、前方車両OV1との干渉(衝突)を回避し得る軌道を目標軌道a1として設定する(例えば、回避目標軌道a1の決定については、特開2017-105383号公報、特開2017-43262号公報及び特開2018―106230号公報等を参照。)。以下、このような目標軌道a1は、「回避目標軌道a1」と称呼される場合がある。
本例において、回避目標軌道a1は、前方車両OV1についての物標情報と、左白線及び右白線の位置と、等に基いて、少なくとも以下の総ての条件(条件A1乃至条件A3)が満たされるように決定される。
・条件A1:自車両SVと前方車両OV1との衝突が予想される地点に位置する前方車両OV1の左側及び右側の何れかに自車両SVが通過できる回避スペースSP1が存在している。
・条件A2:自車両SVが左白線及び右白線により規定される走行車線LA1から逸脱しない。
・条件A3:自車両SVが現在の走行状態から回避目標軌道a1に沿って走行した場合、横加速度Gyの大きさ及びヨーレートYrの大きさがそれぞれの閾値以下である状態を維持しながら、回避スペースを通過することができる。
【0053】
その後、DSECUは、所定の操舵回避制御開始条件が成立するか否かを判定する。操舵回避制御開始条件は、以下に述べる第1条件及び第2条件の両方が成立する場合に成立する条件である。
第1条件:第1条件は、衝突予測時間TTCが閾値時間TTCthより短い場合に成立する。なお、閾値時間TTCthは、便宜上、「衝突判定閾値時間」とも称呼される。衝突予測時間TTCは、その値が小さくなるほど衝突の可能性が高くなっていることを示す値であり、衝突指標値と呼ぶこともできる。従って、第1条件は、衝突指標値により示される衝突の可能性が衝突可能性閾値以上となったとき成立する条件であるということができる。
第2条件:第2条件は、回避目標軌道a1に沿って自車両SVが走行したと仮定した場合に、自車両SVと衝突するか又は自車両SVとの距離が所定最小距離以下となる「前方車両OV1以外の他の物標」が存在しない場合に成立する。
【0054】
操舵回避制御開始条件が成立した場合、DSECUは、自車両SVを回避目標軌道a1に沿って走行させるための目標ヨーレートを演算する。
【0055】
DSECUは、演算した目標ヨーレートと自車両SVの車速Vsとに基いて、目標ヨーレートが得られる自車両SVの操舵輪の目標転舵角を演算し、この目標転舵角を表す衝突回避用の操舵指令をEPS・ECU50に送信する。
【0056】
EPS・ECU50は、実際の転舵角を目標転舵角に一致させるために必要な目標操舵トルクを演算する。EPS・ECU50は、演算した目標操舵トルクに応じた操舵トルクを出力するように転舵用モータ52を駆動して自車両SVの操舵輪を転舵する。以上により、DSECUは、EPS・ECU50を介して、自車両SVの舵角を変更することにより、自車両SVを回避目標軌道a1に沿って走行させる。この場合、自車両SVは、走行車線LA1から逸脱せず、他の物標に衝突せず、且つ、前方車両OV1との衝突を回避することができる。以上が、基本的な操舵回避制御の概要である。
【0057】
<方向指示器の状態に応じた操舵回避制御の概要>
DSECUは、自車両SVが前方車両OV1に衝突する可能性があると判定した場合、周囲センサ21から上述した「指示方向情報を含む方向指示器情報」を取得する。
【0058】
更に、DSECUは、回避目標軌道a1に基いて、自車両SVの回避予定方向についての情報を取得する。例えば、回避目標軌道a1が右に曲がっている場合(即ち、回避目標軌道a1が自車両SVの車線幅方向の位置を右側に移動させる軌道である場合)、DSECUは「回避予定方向が右方向である旨」を表す情報を回避予定方向についての情報として取得する。同様に、回避目標軌道a1が左に曲がっている場合(即ち、回避目標軌道a1が自車両SVの車線幅方向の位置を左側に移動させる軌道である場合)、DSECUは「回避予定方向が左方向である旨」を表す情報を回避予定方向についての情報として取得する。
【0059】
(方向指示器の状態が方向指示状態ではない場合)
DSECUは、方向指示器の状態が前述した方向指示状態ではない場合、操舵回避制御開始条件の第1条件にて使用される閾値時間TTCthを第1時間TTC1に設定する。なお、第1条件にて使用される閾値時間TTCthが第1時間TTC1に設定されている操舵回避制御開始条件は、便宜上、「第1開始条件」とも称呼される。閾値時間TTCthを第1時間TTC1に設定することは、衝突可能性閾値を第1可能性閾値に設定することと同義であると言える。
【0060】
より具体的に述べると、DSECUは、第1時間TTC1を、前方車両OV1の相対速度Vfxの絶対値(|Vfx|)を図3に示すルックアップテーブルである第1マップMap1に適用することにより決定する。第1マップMap1によれば、点線Ln1により示すように、第1時間TTC1は、前方車両OV1の相対速度Vfxの絶対値が大きくなるほど長くなるように設定される。
【0061】
(前方車両OV1の方向指示器の指示方向が自車両SVの回避予定方向と同じである場合)
図4に示す例では、前方車両OV1の右方向指示器が作動しており(即ち、方向指示器の指示方向が右方向であり)、且つ、自車両SVの回避予定方向が右方向である。従って、方向指示器の指示方向が自車両SVの回避予定方向と同じである。
【0062】
このように前方車両OV1の方向指示器の指示方向が自車両SVの回避予定方向と同じである場合、操舵回避制御が開始された後に前方車両OV1が指示方向に移動し始める可能性がある。操舵回避制御が開始された後に前方車両OV1が指示方向に移動し始めた場合、操舵回避制御により自車両SVが前方車両OV1との衝突を回避しようとしているにも関わらず自車両SVと前方車両OV1とが衝突する恐れがある。従って、この場合、DSECUは、操舵回避制御の実行を禁止する。これにより、DSECUは、操舵回避制御を実行したにも関わらす自車両SVが前方車両OV1に衝突してしまうという可能性を低下できる。なお、DSECUは、周知である自動制動制御による衝突回避制御も実行可能となっている。よって、この場合には、自動制動制御により自車両SVと前方車両OV1との衝突が回避される。
【0063】
(前方車両OV1の指示方向が自車両SVの回避予定方向と異なる場合)
図5に示す例では、前方車両OV1の左方向指示器が作動しており(即ち、方向指示器の指示方向が左方向であり)、且つ、自車両SVの回避予定方向が右方向である。従って、方向指示器の指示方向が自車両SVの回避予定方向と異なる(互いに反対向きである。)。前方車両OV1の方向指示器の指示方向が自車両SVの回避予定方向と異なる場合、自車両SVが回避経路に沿って走行を開始した後(即ち、操舵回避制御の開始後)に前方車両OV1が自車両SVから離れる方向に移動する可能性が高い。よって、操舵回避制御が早期に開始され、その後、前方車両OV1が指示方向に移動すると、その操舵回避制御による自車両SVの横方向への移動量が過剰になる。その結果、運転者が操舵回避制御を煩わしく感じてしまう可能性がある。換言すると、前方車両OV1が自車両SVから離れる方向に移動することが予想され、運転者は操舵による回避が必要でないか或いは僅かな操舵で十分であると判断しているにも関わらず、そのような前方車両OV1の移動を考慮しない操舵回避制御が行われてしまう可能性がある。その結果、運転者が操舵回避制御を煩わしく感じてしまう可能性がある。
【0064】
そこで、この場合、DSECUは、第1条件(TTC<TTCth)が成立する時点の自車両SVと前方車両OV1との車間距離が、方向指示器の状態が方向指示状態ではない場合に第1条件が成立する時点の車間距離に比べて、短くなるように、第1条件を設定する。具体的に述べると、この場合、DSECUは、第1条件の閾値時間TTCthを、第1時間TTC1よりも短い第2時間TTC2に設定する。なお、第1条件にて使用される閾値時間TTCthが第2時間TTC2に設定されている操舵回避制御開始条件は、便宜上、「第2開始条件」とも称呼される。閾値時間TTCthを第2時間TTC2に設定することは、衝突可能性閾値を「第1可能性閾値よりも大きい第2可能性閾値」に設定することと同義であると言える。
【0065】
より具体的に述べると、DSECUは、第2時間TTC2を、前方車両OV1の相対速度Vfxの絶対値(|Vfx|)を図6に示したルックアップテーブルである第2マップMap2に適用することにより決定する。第2マップMap2によれば、実線Ln2により示すように、第2時間TTC2は、前方車両OV1の相対速度Vfxの絶対値が大きくなるほど長くなるように設定される。更に、第2マップMap2によれば、第2時間TTC2は、前方車両OV1の任意の相対速度Vfxの絶対値(|Vfx|)に対し、点線Ln1により示される第1時間TTC1よりも短くなるように設定される。
【0066】
従って、前方車両OV1の相対速度Vfxがある値(任意の値)である場合、閾値時間TTCthが第2時間TTC2に設定されたときの操舵回避制御開始条件が成立するタイミングは、閾値時間TTCthが第1時間TTC1に設定されたとき操舵回避制御開始条件が成立するタイミングに比べて遅くなる。換言すると、第2開始条件は、自車両SVと前方車両OV1との車間距離が、第1開始条件が成立する時点における自車両SVと前方車両OV1との車間距離よりも、短くなったときに成立し得る条件である。これにより、DSECUは、運転者が操舵回避制御を煩わしく感じる可能性を低下できる。
【0067】
<具体的作動>
DSECUのCPU(以下、単に「CPU」と称呼する。)は、図7乃至図9にフローチャートにより示したルーチンのそれぞれを所定時間が経過する毎に実行する。
【0068】
従って、CPUは所定のタイミングになると図7のステップ700から処理を開始してステップ705に進み、フラグ(衝突可能性フラグ)Xfの値が「0」であるか否かを判定する。フラグXfは、その値が「0」である場合、自車両SVと衝突する可能性がある前方車両OV1が存在しないことを表す。フラグXfは、その値が「1」である場合、自車両SVと衝突する可能性がある前方車両OV1が存在していることを表す。フラグXfの値は、自車両SVの図示しないイグニッション・キー・スイッチがオフ位置からオン位置へと変更されたときにCPUにより実行される初期化ルーチンにおいて「0」に設定される。
【0069】
フラグXfの値が「0」である場合、CPUはステップ705にて「Yes」と判定してステップ710に進み、周囲センサ21から取得した物標情報に基いて、自車両SVの予め定められた前方領域に前方車両OV1が存在するか否かを判定する。例えば、前方領域は、自車両SVの進行方向に自車両SVから所定距離以内の範囲であり、且つ、自車両SVの車幅方向に自車両SVの車幅よりも所定距離広い幅を有する範囲である。
【0070】
自車両SVの前方領域に前方車両OV1が存在しない場合、CPUはステップ710にて「No」と判定してステップ795に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0071】
自車両SVの前方領域に前方車両OV1が存在する場合、CPUはステップ710にて「Yes」と判定してステップ715に進み、上述した方法によって、自車両SVが前方車両OV1に衝突する可能性があるか否かを判定する。即ち、CPUは、上述した衝突可能性条件が成立しているか否かを判定する。
【0072】
自車両SVが前方車両OV1に衝突する可能性がない場合、CPUはステップ715にて「No」と判定してステップ795に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0073】
これに対して、自車両SVが前方車両OV1に衝突する可能性がある場合、CPUはステップ715にて「Yes」と判定してステップ720に進み、フラグXfの値を「1」に設定する。その後、CPUはステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0074】
なお、CPUがステップ705の処理を実行する時点でフラグXfの値が「1」である場合、CPUはステップ705にて「No」と判定してステップ795に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0075】
CPUは所定のタイミングになると図8のステップ800から処理を開始してステップ805に進み、操舵回避制御が非実行中であるか否か(操舵回避制御が実行中でないか否か)を判定する。より具体的に述べると、CPUは、現時点が、操舵回避制御を開始してから操舵回避制御が終了するまで(又は停止するまで)の制御実行期間内であるとき、操舵回避制御が実行中であると判定する(後述する図9のステップ910を参照。)。CPUは、現時点が制御実行期間以外の期間内にある場合、操舵回避制御が非実行中であると判定する。CPUは、現時点が制御実行期間内である場合、即ち、操舵回避制御が実行中である場合、CPUはステップ805にて「No」と判定してステップ895に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0076】
これに対し、操舵回避制御が非実行中であると、CPUはステップ805にて「Yes」と判定してステップ810に進み、フラグXfの値が「1」であるか否かを判定する。
【0077】
フラグXfの値が「0」である場合、CPUはステップ810にて「No」と判定してステップ895に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0078】
これに対して、フラグXfの値が「1」である場合、CPUはステップ810にて「Yes」と判定してステップ815に進み、ステップ715にて自車両SVが衝突する可能性があると判定された前方車両OV1に対する回避目標軌道a1を演算する。その後、CPUはステップ820に進み、回避目標軌道a1が存在するか否か(即ち、上述した条件A1乃至条件A3の総てを満足する軌道が存在するか否か)を判定する。
【0079】
回避目標軌道a1が存在しない場合、CPUはステップ820にて「No」と判定してステップ825に進み、フラグXfの値を「0」に設定した後、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。従って、この場合、前方車両OV1に対する操舵回避制御は行われない(操舵回避制御が禁止される。)。但し、この場合、一般には自動制動回避制御が実行される。
【0080】
これに対して、回避目標軌道a1が存在する場合、CPUはステップ820にて「Yes」と判定してステップ830に進み、回避予定方向についての情報に基いて自車両SVの回避予定方向を取得する。その後、CPUはステップ835に進み、方向指示器の状態が前述した方向指示状態であるか否か(前方車両OV1の方向指示器の指示方向を取得できたか否か)を指示方向についての情報に基いて判定する。
【0081】
方向指示器の状態が前述した方向指示状態でない場合、CPUはステップ835にて「No」と判定し、以下に述べるステップ840及びステップ845の処理を順に実行した後、ステップ850に進む。
【0082】
ステップ840:CPUは、前方車両OV1の相対速度Vfxの絶対値(|Vfx|)を第1マップMap1に適用することにより、第1時間TTC1を取得する。
ステップ845:CPUは、閾値時間TTCthを第1時間TTC1に設定する。
【0083】
その後、CPUはステップ850に進むと、上述した操舵回避制御開始条件(即ち、第1条件及び第2条件の両方の条件)が成立するか否かを判定する。なお、この場合、第1条件の閾値時間TTCthには、第1時間TTC1が設定されている。
【0084】
操舵回避制御開始条件が成立しない場合、CPUはステップ850にて「No」と判定してステップ895に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0085】
操舵回避制御開始条件が成立した場合、CPUはステップ850にて「Yes」と判定してステップ855に進み、操舵回避制御の実行を開始する。即ち、CPUは自車両SVを回避目標軌道a1に沿って走行させ始める。その後、CPUはステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0086】
CPUがステップ835の処理を実行する時点で、方向指示器の状態が前述した方向指示状態である場合、CPUはステップ835にて「Yes」と判定してステップ860に進む。CPUは、ステップ860にて指示方向についての情報に基いて指示方向を取得する。次に、CPUはステップ865に進み、方向指示器の指示方向が回避予定方向と異なるか否かを判定する。
【0087】
方向指示器の指示方向が回避予定方向と同じである場合、CPUはステップ865にて「No」と判定してステップ825に進み、フラグXfの値を「0」に設定した後、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。従って、この場合、前方車両OV1に対する操舵回避制御は行われない(操舵回避制御が禁止される。)。
【0088】
方向指示器の指示方向が回避予定方向と異なる場合、CPUはステップ865にて「Yes」と判定して以下に述べる「ステップ870及びステップ875」の処理を順に実行した後、ステップ850に進む。
【0089】
ステップ870:CPUは前方車両OV1の相対速度Vfxの絶対値(|Vfx|)を第2マップMap2に適用することにより、第2時間TTC2を取得する。
ステップ875:CPUは閾値時間TTCthを第2時間TTC2に設定する。前述したように、任意の絶対値(|Vfx|)に対する第2時間TTC2は、当該任意の絶対値(|Vfx|)に対する第1時間TTC1より短い。
【0090】
CPUはステップ850に進むと、上述した操舵回避制御開始条件(即ち、第1条件及び第2条件の両方の条件)が成立するか否かを判定する。なお、この場合、第1条件の閾値時間TTCthには、第2時間TTC2が設定されている。
【0091】
操舵回避制御開始条件が成立しない場合、CPUはステップ850にて「No」と判定してステップ895に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0092】
これに対して操舵回避制御開始条件が成立する場合、CPUはステップ850にて「Yes」と判定してステップ855に進み、操舵回避制御の実行を開始する。この場合、操舵回避制御開始条件の閾値時間TTCthが第1時間TTC1に設定された場合に比べて、遅いタイミングで操舵回避制御が開始される。換言すると、操舵回避制御開始条件の閾値時間TTCthが第2時間TTC2に設定されているから、操舵回避制御開始条件の閾値時間TTCthが第1時間TTC1に設定されている場合に比較して、操舵回避制御が開始される時点における自車両SVと前方車両OV1との車間距離がより小さくなった時点にて操舵回避制御が開始される。その後、CPUはステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0093】
CPUは所定のタイミングになると図9のステップ900から処理を開始してステップ905に進み、操舵回避制御が実行中であるか否かを判定する。
【0094】
操舵回避制御が実行中ではない場合、CPUはステップ905にて「No」と判定してステップ995に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0095】
操舵回避制御が実行中である場合、CPUはステップ905にて「Yes」と判定してステップ910に進み、所定の操舵回避制御の終了条件が成立しているか否かを判定する。例えば、操舵回避制御の終了条件は、自車両SVが回避目標軌道a1に沿って走行して前方車両OV1と車線幅方向において並んだ場合に成立する。
【0096】
操舵回避制御の終了条件が成立していない場合、CPUはステップ910にて「No」と判定してステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0097】
操舵回避制御の終了条件が成立している場合、CPUはステップ910にて「Yes」と判定し、以下に述べる「ステップ915及びステップ920」の処理を順に実行した後、ステップ995に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0098】
ステップ915:CPUは操舵回避制御を終了する。
ステップ920:CPUはフラグXfの値を「0」に設定する。
【0099】
本開示は、上述の実施形態に限定されず、本開示の範囲内において、本開示の技術的思想に基く各種の変形例を採用し得る。
【0100】
例えば、上述の実施形態において、第1時間TTC1及び第2時間TTC2のそれぞれは、ラップ率LRに応じて変更されてもよい。この場合のラップ率LRは、自車両SVと前方車両OV1とが衝突することが予想される時点における「自車両SVと前方車両OV1との車幅方向における重なり度合い」を示す指標である。ラップ率LRは、自車両SVが前方車両OV1と車幅方向において重なっている長さを自車両SVの車幅で除算することにより算出される。この場合、第1時間TTC1は、ラップ率LRが大きくなるほど長くなるように設定される。第2時間TTC2は、ラップ率LRが大きくなるほど長くなり、且つ、同じ絶対値(|Vfx|)及び同じラップ率LRに対応する第1時間TTC1より短くなるように設定される。
【0101】
上述の実施形態において、物標認識部21c及び/又は周囲センサ21が行う処理の少なくとも一部をDSECUが行ってもよい。更に、衝突指標値は、衝突予測時間TTCに限られず、例えば、自車両SVと前方車両OV1との位置の相対関係、自車両SVの運動状態、前方車両OV1の運動状態等を予め定められたルックアップテーブルに適用することにより、求められてもよい。
【0102】
<変形例>
更に、本開示の別の変形例として、以下に述べる変形例が採用されてもよい。この変形例は、回避目標軌道及び限界指標値(操舵回避限界指標値)TTSを後述するように求め、その限界指標値TTSが「0」になったときに操舵回避制御を開始する。即ち、限界指標値TTSは、現時点から操舵回避制御を開始する必要がある時点までの時間である。限界指標値TTSが「0」であるとの条件は、上述した操舵回避制御開始条件の第1条件(即ち、TTC<TTCth)に代わる条件であると言うことができる。
【0103】
以下、変形例の作動について図10を参照しながら具体的に説明する。図10の座標軸の縦軸は、自車両SVの横方向(車幅方向)の位置(以下、「横位置」と称呼する。)を表す。この縦軸の原点は、自車両SVの前端部の車幅方向中心位置である。この縦軸は、自車両SVの左方向が縦軸の正方向となるように規定されている。図10の座標軸の横軸は現時点からの時間(経過時間)である。
【0104】
先ず、DSECUは、前方車両OV1の物標情報を用いて上述したように衝突予測時間TTCを計算する。
次に、DSECUは、前方車両OV1の物標情報を用いて、現時点から衝突予測時間TTCが経過した時点tc1における第1位置P1aを求める。第1位置P1aは、時点tc1における前方車両OV1の左後端の横位置P1を、図10の縦軸に沿って正の方向に所定の第1距離d1(マージン)だけ移動した位置である。
同様に、DSECUは、時点tc1における第2位置P2aを求める。第2位置P2aは、時点tc1における前方車両OV1の右後端の横位置P2を図10の縦軸に沿って負の方向に所定の第2距離d2(マージン)だけ移動した位置である。
【0105】
DSECUは、ROMに格納されている所定の自車両SVの横加速度のプロファイル(操舵回避制御開始時点からの経過時間と横加速度との関係)に基いて自車両SVの左前端LFrの目標軌跡を演算により求める。この横加速度のプロファイルは、例えば、操舵回避制御開始時点から時間の経過とともに横加速度が「0」から「大きさAの横加速度」まで時間に比例するように増大し、その後、横加速度が「大きさAの横加速度」に維持されるプロファイルである。なお、DSECUは、左前端LFrの目標軌跡を求める場合、横加速度として「横加速度のプロファイルにより規定される横加速度の大きさ」に負の符号を付した値を用いる。DSECUは、このように求められる目標軌跡の起点(始点)が自車両SVの左前端LFrが通過するであろう経路LLFr上にあり、且つ、その目標軌跡が第2位置P2aを通るように、目標軌跡を移動させることにより、自車両SVの左前端LFrの衝突回避予測軌跡LO1を求める。
【0106】
次に、DSECUは、自車両SVの左前端LFrが衝突回避予測軌跡LO1上を移動するようにするために必要な「操舵を開始すべき時点(操舵開始必要時点)TS1」を特定する。更に、DSECUは、現時点から操舵開始必要時点TS1までの時間を第1操舵開始余裕時間T1として求める。なお、DSECUは、自車両SVの現時点における位置から衝突回避予測軌跡LO1の起点PSLまでの距離を自車両SVの現時点の車速Vsで除することにより第1操舵開始余裕時間T1を算出することもできる。
【0107】
同様に、DSECUは、上述した横加速度のプロファイルに基いて自車両SVの右前端RFrの目標軌跡を演算により求める。DSECUは、右前端RFrの目標軌跡を求める場合、横加速度として「横加速度のプロファイルにより規定される横加速度の大きさ」に正の符号を付した値を用いる。DSECUは、このように求められる目標軌跡の起点(始点)が自車両SVの右前端RFrが通過するであろう経路LRFr上にあり、且つ、その目標軌跡が第1位置P1aを通るように、目標軌跡を移動させることにより、自車両SVの右前端RFrの衝突回避予測軌跡RO1を求める。
【0108】
次に、DSECUは、自車両SVの右前端RFrが衝突回避予測軌跡RO1上を移動するようにするために必要な「操舵を開始すべき時点(操舵開始必要時点)TS2」を特定する。更に、DSECUは、現時点から操舵開始必要時点TS2までの時間を第2操舵開始余裕時間T2として求める。なお、DSECUは、自車両SVの現時点における位置から衝突回避予測軌跡RO1の起点PSRまでの距離を自車両SVの現時点の車速Vsで除することにより第2操舵開始余裕時間T2を算出することもできる。
【0109】
次に、この変形例が実行する操舵回避制御の概要について説明する。
変形例のDSECUは、上述した衝突可能性条件が成立するか否かについて判定し、衝突可能性条件が成立すると判定した場合(即ち、自車両SVと衝突する可能性がある前方車両OV1が存在すると判定した場合)、以下の処理を行う。
【0110】
(1)DSECUは、上述した手法により、衝突回避予測軌跡LO1、第1操舵開始余裕時間T1、衝突回避予測軌跡RO1及び第2操舵開始余裕時間T2を求める。
【0111】
(2)DSECUは、右方向操舵回避条件が成立するか否かを判定する。右方向操舵回避条件は以下の両条件が成立したときに成立する。
・自車両SVと前方車両OV1とが衝突することが予想される時点(現時点から衝突予測時間TTCが経過した時点tc1)における前方車両OV1の右側に、自車両SVが走行車線を逸脱することなく、且つ、自車両SVが通過できる回避スペースが存在している。
・自車両SVの左前端LFrが衝突回避予測軌跡LO1上を移動するように自車両SVが走行した場合に、自車両SVと衝突するか又は自車両SVとの距離が所定最小距離以下となる「前方車両OV1以外の他の物標」が存在しない。
【0112】
(3)DSECUは、左方向操舵回避条件が成立するか否かを判定する。左方向操舵回避条件は以下の両条件が成立したときに成立する。
・自車両SVと前方車両OV1とが衝突することが予想される時点tc1における前方車両OV1の左側に、自車両SVが走行車線を逸脱することなく、且つ、自車両SVが通過できる回避スペースが存在している。
・自車両SVの右前端RFrが衝突回避予測軌跡RO1上を移動するように自車両SVが走行した場合に、自車両SVと衝突するか又は自車両SVとの距離が所定最小距離以下となる「前方車両OV1以外の他の物標」が存在しない。
【0113】
(4)DSECUは、右方向操舵回避条件及び左方向操舵回避条件の何れもが成立していない場合、操舵回避制御を禁止する。このとき、DSECUは限界指標値TTSを実質的に無限大の時間に設定する。
【0114】
(5)DSECUは、右方向操舵回避条件が成立しているが、左方向操舵回避条件が成立していない場合、衝突回避予測軌跡LO1を自車両SVの左前端LFrの回避目標軌道として採用し、第1操舵開始余裕時間T1を限界指標値TTSとして採用する。
【0115】
(6)DSECUは、左方向操舵回避条件が成立しているが、右方向操舵回避条件が成立していない場合、衝突回避予測軌跡RO1を自車両SVの右前端RFrの回避目標軌道として採用し、第2操舵開始余裕時間T2を限界指標値TTSとして採用する。
【0116】
(7)DSECUは、右方向操舵回避条件及び左方向操舵回避条件の何れもが成立している場合、第1操舵開始余裕時間T1と第2操舵開始余裕時間T2とのうちの長いほうの時間を限界指標値TTSとして採用する。更に、DSECUは、第1操舵開始余裕時間T1と第2操舵開始余裕時間T2とのうちの長いほうの時間に対応する衝突回避予測軌跡を、対応する自車両SVの前端部(左前端LFr又は右前端RFr)の回避目標軌道として採用する。
【0117】
(8)DSECUは、上記(1)乃至(7)の処理を所定時間が経過する毎に繰り返し実行し、限界指標値TTSが0になったか否かを判定する。限界指標値TTSが0になった場合、DSECUは更に以下の処理を行う。
【0118】
(9)DSECUは、方向指示器情報に基いて方向指示器の状態が方向指示状態か否かを判定する。DSECUは、方向指示器の状態が方向指示状態ではないと判定した場合、回避目標軌道として設定された衝突回避予測軌跡に適合する「自車両SVの右前端RFr及び左前端LFrのうちの一方」が当該回避目標軌道上を移動するように自車両SVの舵角を変更する。即ち、操舵回避制御を開始する。なお、衝突回避予測軌跡LO1が回避目標軌道として採用されている場合におけるこの操舵回避制御の開始時点は便宜上「右方向通常時点」と称呼される。衝突回避予測軌跡RO1が回避目標軌道として採用されている場合におけるこの操舵回避制御の開始時点は便宜上「左方向通常時点」と称呼される。
【0119】
(10)DSECUは、方向指示器情報と回避目標軌道とに基いて、前方車両OV1の方向指示器の状態が方向指示状態であると判定した場合、前方車両OV1の方向指示器の指示方向が自車両SVの回避予定方向と異なるか否かを判定する。DSECUは、方向指示器の指示方向が自車両SVの回避予定方向と同じであると判定した場合、操舵回避制御を禁止する(開始しない)。
【0120】
(11)これに対し、DSECUは、方向指示器情報と回避目標軌道とに基いて、前方車両OV1の方向指示器の状態が方向指示状態であると判定した場合、前方車両OV1の方向指示器の指示方向が自車両SVの回避予定方向と異なると判定したとき、直ちには操舵回避制御を開始せず、更に、以下の処理を行う。
【0121】
(11-1)回避予定方向が右方向である場合(即ち、右方向操舵回避条件が成立しているが、左方向操舵回避条件が成立していない場合であって、衝突回避予測軌跡LO1が回避目標軌道として採用されている場合)
この場合、DSECUは、時点tc1における前方車両OV1の右後端の横位置P2を「前述した第2距離d2よりも小さい所定の補正第2距離」だけ図10の座標軸の縦軸に沿って負の方向に移動した位置を、第2位置P2aとして求める。
【0122】
そして、DSECUは、この第2位置P2aを用いて左前端LFrの衝突回避予測軌跡LO1を回避目標軌道として求め直し、更に、限界指標値TTSとしての第1操舵開始余裕時間T1(操舵開始必要時点TS1までの時間)を求め直す処理を所定時間が経過する毎に繰り返し実行する。DSECUは、このように取得される第1操舵開始余裕時間T1が「0」になった時点(以下、便宜上「右方向遅延時点」と称呼する。)から、左前端LFrが回避目標軌道(衝突回避予測軌跡LO1)を移動するように自車両SVの舵角を変更する。即ち、操舵回避制御を開始する。この右方向遅延時点は、前述の右方向通常時点よりも時間的に遅い。換言すると、右方向遅延時点における自車両SVと前方車両OV1との車間距離は、右方向通常時点における自車両SVと前方車両OV1との車間距離よりも短い。よって、この変形例は、実施形態と同様、運転者が操舵回避制御を煩わしく感じる可能性を低下できる。
【0123】
(11-2)回避予定方向が左方向である場合(即ち、左方向操舵回避条件が成立しているが、右方向操舵回避条件が成立していない場合であって、衝突回避予測軌跡RO1が回避目標軌道として採用されている場合)
この場合、DSECUは、時点tc1における前方車両OV1の左後端の横位置P1を「前述した第1距離d1よりも小さい所定の補正第1距離」だけ図10の座標軸の縦軸に沿って正の方向に移動した位置を、第1位置P1aとして求める。
【0124】
そして、DSECUは、この第1位置P1aを用いて右前端RFrの衝突回避予測軌跡RO1を回避目標軌道として求め直し、更に、限界指標値TTSとしての第2操舵開始余裕時間T2(操舵開始必要時点TS2までの時間)を求め直す処理を所定時間が経過する毎に繰り返し実行する。DSECUは、このように取得された第2操舵開始余裕時間T2が「0」になった時点(以下、便宜上「左方向遅延時点」と称呼する。)から、右前端RFrが回避目標軌道(衝突回避予測軌跡RO1)を移動するように自車両SVの舵角を変更する。即ち、操舵回避制御を開始する。この左方向遅延時点は、前述の左方向通常時点よりも時間的に遅い。換言すると、左方向遅延時点における自車両SVと前方車両OV1との車間距離は、左方向通常時点における自車両SVと前方車両OV1との車間距離よりも短い。よって、この変形例は、実施形態と同様、運転者が操舵回避制御を煩わしく感じる可能性を低下できる。
【符号の説明】
【0125】
10…衝突回避支援装置、20…運転支援ECU、21…周囲センサ、21a…レーダセンサ、21b…カメラセンサ、21c…物標認識部、22…車速センサ、23…ヨーレートセンサ、24…前後加速度センサ、25…横加速度センサ、50…EPS・ECU、51…モータドライバ、52…転舵用モータ、SV…車両
図1
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図10