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特許7609307アルカリ金属塩の回収方法及びアルカリ金属塩の回収装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】アルカリ金属塩の回収方法及びアルカリ金属塩の回収装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/00 20060101AFI20241224BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20241224BHJP
   B01D 61/08 20060101ALI20241224BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20241224BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20241224BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20241224BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20241224BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20241224BHJP
   B09B 3/30 20220101ALI20241224BHJP
   C01D 15/06 20060101ALI20241224BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20241224BHJP
   B09B 101/16 20220101ALN20241224BHJP
【FI】
C22B26/00
B01D61/02 500
B01D61/08
B01D61/58
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
B09B3/30 ZAB
C01D15/06
C22B3/22
B09B101:16
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023577806
(86)(22)【出願日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2023042994
(87)【国際公開番号】W WO2024117236
(87)【国際公開日】2024-06-06
【審査請求日】2024-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2022192379
(32)【優先日】2022-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】花田 茂久
(72)【発明者】
【氏名】小岩 雅和
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 友哉
(72)【発明者】
【氏名】征矢 恭典
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/077610(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/215484(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 26/00
B01D 61/00
B01D 69/00
B09B 3/30
C22B 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1および工程2を備える、アルカリ金属塩の回収方法。
工程1:アルカリ金属イオンを含む溶液Xを被処理液Aとしてナノろ過膜ユニットAに送液して、透過液Aと濃縮液Bとに分離し、さらに、前記濃縮液Bを前記被処理液Aの残部に混合させ、再度前記ナノろ過膜ユニットAに送液し、前記透過液Aをさらに得る、第一のナノろ過工程。
工程2:前記工程1で得られる前記透過液Aもしくは前記透過液Aの濃縮液を、被処理液Bとして前記ナノろ過膜ユニットAに送液して、透過液Cと濃縮液Dとに分離し、さらに、前記濃縮液Dを前記被処理液Bの残部に混合させ、再度前記ナノろ過膜ユニットAに送液し、前記透過液Cをさらに得る、または、
前記工程1で得られる前記透過液Aもしくは前記透過液Aの濃縮液を、被処理液Bとしてナノろ過膜ユニットBに送液して、透過液Cと濃縮液Dとに分離し、さらに、前記濃縮液Dを前記被処理液Bの残部に混合させ、再度前記ナノろ過膜ユニットBに送液し、前記透過液Cをさらに得る、第二のナノろ過工程。
【請求項2】
前記溶液Xから前記工程1および前記工程2を経て前記透過液Cを得る処理をN個(N:2以上の整数)の前記溶液Xに対して順次実施する、アルカリ金属塩の回収方法であって、
前記工程2は前記ナノろ過膜ユニットBを使用し、
前記N個の溶液Xのうち、k番目の溶液X(k)(k:1以上(N-1)以下の整数)に対して前記工程1を実施後に前記工程2を実施している間に、(k+1)番目の溶液X(k+1)に対して前記工程1を並行して実施する、請求項1に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
【請求項3】
前記被処理液Aおよび前記被処理液Bの少なくとも一方を希釈する工程を備える、請求項1または2に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
【請求項4】
さらに下記工程3を備える、請求項2に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
工程3:少なくとも一つの前記溶液X(k)において、k番目の透過液A(k)およびk番目の透過液C(k)の少なくとも一方を濃縮する、逆浸透ろ過工程。
【請求項5】
前記工程3を前記透過液C(k)に対して1回のみ実施する、請求項4に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
【請求項6】
前記溶液XがpH4以下である、請求項1または2に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
【請求項7】
前記アルカリ金属イオンがリチウムイオンを含む、請求項1または2に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
【請求項8】
下記工程4を備える、請求項1または2に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
工程4:前記溶液XがN個(N:2以上の整数)存在し、前記N個の溶液Xのうち、k番目の溶液X(k)(k:1以上(N-1)以下の整数)の前記工程2終了後、k番目の濃縮液D(k)を混合していたk番目の被処理液B(k)の残部を、m番目の溶液X(m)(m:(k+1)以上N以下の整数)またはm番目の被処理液A(m)に添加する工程。
【請求項9】
前記ナノろ過膜ユニットAおよび前記ナノろ過膜ユニットBの少なくとも一方が備えるナノろ過膜が、多孔性支持膜と分離機能層を有し、
前記ナノろ過膜の前記分離機能層側の表面から陽電子ビームを照射し、陽電子消滅寿命測定法から導出される前記分離機能層の平均孔径R1および平均孔径R2が0.90≦R1/R2≦1.10を満たす、
請求項1または2に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
R1:陽電子ビーム強度が0.1keVの条件での平均孔径
R2:陽電子ビーム強度が0.5keVの条件での平均孔径
【請求項10】
前記工程1および前記工程2の少なくとも一方を定透過流量で実施し、操作圧力の経時変化を監視しながら、下記式(2)に基づき、アルカリ金属イオンの回収率A(%)が目標値になった時点で、前記工程1および前記工程2の少なくとも一方を終了する、請求項1または2に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
【数1】

[式(2)中、アルカリ金属イオンの回収率A(%)、運転圧力P(Pa)、初期運転圧P(Pa)、処理対象の初期液量V(m)、ナノろ過膜のアルカリ金属イオン除去率R(%)、ナノろ過工程の液回収率S(%)、供給流量Q(m/s)、濃縮液流量Q(m/s)、ろ過終了時間t=tbである。]
【請求項11】
前記透過液A(k)および前記透過液C(k)の少なくとも一方が、pH3以下の条件で荷電を有さない中性分子を含み、かつ前記逆浸透ろ過工程に用いる逆浸透ろ過膜が0.5MPaの操作圧力で25℃、pH6.5のイソプロピルアルコール水溶液を透過させたときのイソプロピルアルコールの除去率が70%以上85%未満を満たす低除去逆浸透膜である、請求項4または5に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
【請求項12】
前記中性分子がホウ素化合物である、請求項11に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
【請求項13】
前記工程3において、前記逆浸透ろ過工程で得られる濃縮液を前記逆浸透ろ過工程に供給する溶液に混合させる循環工程を備える、請求項12に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
【請求項14】
0.5MPaの操作圧力で25℃、pH6.5のイソプロピルアルコール水溶液を透過させたときのイソプロピルアルコールの除去率が85%以上95%以下を満たす高除去逆浸透膜を備える高除去逆浸透膜ユニットに、前記逆浸透ろ過工程で得られる透過液を送液し、得られる前記透過液を前記被処理液Aおよび前記被処理液Bの少なくとも一方の希釈水として添加する工程を備える、請求項11に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
【請求項15】
アルカリ金属イオンを含む溶液を被処理液Aとして、第一のナノろ過膜ユニットにより透過液Aと濃縮液Bとに分離する第一分離手段と、
前記濃縮液Bを前記被処理液Aの残部に混合する第一循環手段と、
前記透過液Aまたは前記透過液Aの濃縮液を、被処理液Bとして第二のナノろ過膜ユニットにより透過液Cと濃縮液Dとに分離する第二分離手段と、
前記濃縮液Dを前記被処理液Bの残部に混合する第二循環手段と、
前記被処理液Aおよび前記被処理液Bの少なくとも一方に希釈水を添加する希釈手段と、
前記第一分離手段における前記透過液Aおよび前記濃縮液B、ならびに前記第二分離手段における前記透過液Cおよび前記濃縮液Dの各流量を制御可能な流量制御手段と、
前記希釈手段において、希釈水の添加流量と、希釈水が添加される被処理液をナノろ過膜ユニットに送液した際の透過液流量とを同期させる流量制御手段と、を備えるアルカリ金属塩の回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属塩の回収方法及びアルカリ金属塩の回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界の経済発展に伴い、鉱物資源の需要拡大が著しい。例えば、リチウムはリチウムイオン電池の材料としての需要が高まっており、炭酸リチウムは他にも耐熱ガラス添加剤および弾性表面波フィルターにも用いられる。特に高純度のものは、携帯電話ならびにカーナビなどのフィルターおよび発信器として使用されている。
【0003】
また、コバルトは、特殊鋼および磁性材料の合金用元素として、様々な産業界において広く利用されている。例えば、特殊鋼は、航空宇宙、発電機、特殊工具の分野で用いられており、磁性材料は小型ヘッドフォンおよび小型モーターなどに用いられている。コバルトは、リチウムイオン電池の正極材の原料としても使用されており、スマートフォンなどの移動式情報処理端末、ならびに自動車用および電力貯蔵用の電池の普及に伴い、コバルトの需要は高まっている。
【0004】
ニッケルは、光沢と耐食性の高さを活かし、ステンレス鋼として利用されており、近年ではコバルト同様にリチウムイオン電池の材料としての需要が高まっている。このように、各種レアメタルの需要が高まる中、貴重資源リサイクルの観点から使用済みのリチウムイオン電池やその製造工程から生じる廃材などから、リチウム、コバルトおよびニッケルなどのレアメタルを回収する取り組みが推進されている。
【0005】
例えば、廃リチウムイオン電池からの資源回収はコバルト、ニッケルなどのレアメタルを中心に実用化が進められているが、キレート剤を用いる溶媒抽出法が主流であるため、環境への負荷が大きいことに加え、コスト面でも不利であるといった問題があった(非特許文献1)。これを解決するために廃リチウムイオン電池を酸浸出させた水溶液から限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜といった分離膜を用いた分離回収方法(特許文献1)が開示されている。しかし、この分離回収方法では、ナノろ過膜が1段のプロセスであるため、ナノろ過膜性能を極端に高くしない限り、リチウムを高純度、かつ高回収することは困難である。
【0006】
そこで、ナノろ過膜を複数段で処理する分離回収方法(特許文献2)が開示されている。この方法は、すなわち、ナノろ過膜を透過した液を、再度ナノろ過膜に透過させることで、リチウム純度を向上させ、ナノろ過膜を透過しなかった液を、ナノろ過膜を透過させることで、残存したリチウムを回収する、連続プロセスである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2019/018333号
【文献】国際公開第2021/215484号
【非特許文献】
【0008】
【文献】「平成29年度鉱物資源開発の推進のための探査等事業鉱物資源基盤整備調査事業(鉱物資源確保戦略策定に係る基礎調査)報告書」、株式会社三菱総合研究所環境・エネルギー事業本部、2018年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の方法は、プロセスが複雑、かつ連続的であるため、処理対象の液の組成が変化した場合や、ナノろ過膜の劣化などによる分離性能が変化した場合に、ナノろ過膜での処理工程が不安定になる恐れがあり、所定のリチウム純度および回収率を維持することに関し、改善の余地があった。
【0010】
本発明の目的は、リチウムイオン電池やその製造工程で生じる廃材、廃液や鉱石などから、アルカリ金属塩を少ない工程数で安定的に、高純度、かつ高回収できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成をとる。
(1) 下記工程1および工程2を備える、アルカリ金属塩の回収方法。
工程1:アルカリ金属イオンを含む溶液Xを被処理液Aとしてナノろ過膜ユニットAに送液して、透過液Aと濃縮液Bとに分離し、さらに、前記濃縮液Bを前記被処理液Aの残部に混合させ、再度前記ナノろ過膜ユニットAに送液し、前記透過液Aをさらに得る、第一のナノろ過工程。
工程2:前記工程1で得られる前記透過液Aもしくは前記透過液Aの濃縮液を、被処理液Bとして前記ナノろ過膜ユニットAに送液して、透過液Cと濃縮液Dとに分離し、さらに、前記濃縮液Dを前記被処理液Bの残部に混合させ、再度前記ナノろ過膜ユニットAに送液し、前記透過液Cをさらに得る、または、前記工程1で得られる前記透過液Aもしくは前記透過液Aの濃縮液を、被処理液Bとしてナノろ過膜ユニットBに送液して、透過液Cと濃縮液Dとに分離し、さらに、前記濃縮液Dを前記被処理液Bの残部に混合させ、再度前記ナノろ過膜ユニットBに送液し、前記透過液Cをさらに得る、第二のナノろ過工程。
(2) 前記溶液Xから前記工程1および前記工程2を経て前記透過液Cを得る処理をN個(N:2以上の整数)の前記溶液Xに対して順次実施する、アルカリ金属塩の回収方法であって、前記工程2は前記ナノろ過膜ユニットBを使用し、前記N個の溶液Xのうち、k番目の溶液X(k)(k:1以上(N-1)以下の整数)に対して前記工程1を実施後に前記工程2を実施している間に、(k+1)番目の溶液X(k+1)に対して前記工程1を並行して実施する、上記(1)に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
(3) 前記被処理液Aおよび前記被処理液Bの少なくとも一方を希釈する工程を備える、上記(1)または(2)に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
(4) さらに下記工程3を備える、上記(2)または(3)に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
工程3:少なくとも一つの前記溶液X(k)において、k番目の透過液A(k)およびk番目の透過液C(k)の少なくとも一方を濃縮する、逆浸透ろ過工程。
(5) 前記工程3を前記透過液C(k)に対して1回のみ実施する、上記(4)に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
(6) 前記溶液XがpH4以下である、上記(1)~(5)のいずれか1つに記載のアルカリ金属塩の回収方法。
(7) 前記アルカリ金属イオンがリチウムイオンを含む、上記(1)~(6)のいずれか1つに記載のアルカリ金属塩の回収方法。
(8) 下記工程4を備える、上記(1)~(7)のいずれか1つに記載のアルカリ金属塩の回収方法。
工程4:前記溶液XがN個(N:2以上の整数)存在し、前記N個の溶液Xのうち、k番目の溶液X(k)(k:1以上(N-1)以下の整数)の前記工程2終了後、k番目の濃縮液D(k)を混合していたk番目の被処理液B(k)の残部を、m番目の溶液X(m)(m:(k+1)以上N以下の整数)またはm番目の被処理液A(m)に添加する工程。
(9) 前記ナノろ過膜ユニットAおよび前記ナノろ過膜ユニットBの少なくとも一方が備えるナノろ過膜が、多孔性支持膜と分離機能層を有し、
前記ナノろ過膜の前記分離機能層側の表面から陽電子ビームを照射し、陽電子消滅寿命測定法から導出される前記分離機能層の平均孔径R1および平均孔径R2が0.90≦R1/R2≦1.10を満たす、
上記(1)~(8)のいずれか1つに記載のアルカリ金属塩の回収方法。
R1:陽電子ビーム強度が0.1keVの条件での平均孔径
R2:陽電子ビーム強度が0.5keVの条件での平均孔径
(10) 前記工程1および前記工程2の少なくとも一方を定透過流量で実施し、操作圧力の経時変化を監視しながら、下記式(2)に基づき、アルカリ金属イオンの回収率A(%)が目標値になった時点で、前記工程1および前記工程2の少なくとも一方を終了する、上記(1)~(9)のいずれか1つに記載のアルカリ金属塩の回収方法。
【0012】
【数1】
【0013】
[式(2)中、アルカリ金属イオンの回収率A(%)、運転圧力P(Pa)、初期運転圧P(Pa)、処理対象の初期液量V(m)、ナノろ過膜のアルカリ金属イオン除去率R(%)、ナノろ過工程の液回収率S(%)、供給流量Q(m/s)、濃縮液流量Q(m/s)、ろ過終了時間t=tbである。]
(11) 前記透過液A(k)および前記透過液C(k)の少なくとも一方が、pH3以下の条件で荷電を有さない中性分子を含み、かつ前記逆浸透ろ過工程に用いる逆浸透ろ過膜が0.5MPaの操作圧力で25℃、pH6.5のイソプロピルアルコール水溶液を透過させたときのイソプロピルアルコールの除去率が70%以上85%未満を満たす低除去逆浸透膜である、上記(4)~(10)のいずれか1つに記載のアルカリ金属塩の回収方法。
(12) 前記中性分子がホウ素化合物である、上記(11)に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
(13) 前記工程3において、前記逆浸透ろ過工程で得られる濃縮液を前記逆浸透ろ過工程に供給する溶液に混合させる循環工程を備える、上記(12)に記載のアルカリ金属塩の回収方法。
(14) 0.5MPaの操作圧力で25℃、pH6.5のイソプロピルアルコール水溶液を透過させたときのイソプロピルアルコールの除去率が85%以上95%以下を満たす高除去逆浸透膜を備える高除去逆浸透膜ユニットに、前記逆浸透ろ過工程で得られる透過液を送液し、得られる前記透過液を前記被処理液Aおよび前記被処理液Bの少なくとも一方の希釈水として添加する工程を備える、上記(11)~(13)のいずれか1つに記載のアルカリ金属塩の回収方法。
(15) アルカリ金属イオンを含む溶液を被処理液Aとして、第一のナノろ過膜ユニットにより透過液Aと濃縮液Bとに分離する第一分離手段と、
前記濃縮液Bを前記被処理液Aの残部に混合する第一循環手段と、
前記透過液Aまたは前記透過液Aの濃縮液を、被処理液Bとして第二のナノろ過膜ユニットにより透過液Cと濃縮液Dとに分離する第二分離手段と、
前記濃縮液Dを前記被処理液Bの残部に混合する第二循環手段と、
前記被処理液Aおよび前記被処理液Bの少なくとも一方に希釈水を添加する希釈手段と、
前記第一分離手段における前記透過液Aおよび前記濃縮液B、ならびに前記第二分離手段における前記透過液Cおよび前記濃縮液Dの各流量を制御可能な流量制御手段と、
前記希釈手段において、希釈水の添加流量と、希釈水が添加される被処理液をナノろ過膜ユニットに送液した際の透過液流量とを同期させる流量制御手段と、を備えるアルカリ金属塩の回収装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアルカリ金属塩の回収方法によって、アルカリ金属イオンを含有する溶液からリチウムやセシウムなどのアルカリ金属の塩を、少ない工程数で安定的に、高純度、高回収することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る、アルカリ金属塩の回収方法を示す概略フロー図である。
図2図2は、本発明の別の一実施形態に係る、アルカリ金属塩の回収方法を示す概略フロー図である。
図3図3は、本発明の別の一実施形態に係る、アルカリ金属塩の回収方法を示す概略フロー図である。
図4図4は、比較形態における、アルカリ金属塩の回収方法を示す概略フロー図である。
図5図5は、本発明の別の一実施形態に係る、金属塩の回収方法を示す概略フロー図である。
図6図6は、比較形態における、アルカリ金属塩の回収方法を示す概略フロー図である。
図7図7は、比較形態における、アルカリ金属塩の回収方法を示す概略フロー図である。
図8図8は、本発明の別の一実施形態に係る、アルカリ金属塩の回収方法を示す概略フロー図である。
図9図9は、本発明の別の一実施形態に係る、アルカリ金属塩の回収方法を示す概略フロー図である。
図10図10は、本発明の別の一実施形態に係る、アルカリ金属塩の回収方法を示す概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0017】
(1)アルカリ金属塩の回収方法
本発明のアルカリ金属塩の回収方法は、アルカリ金属イオンを含む溶液から、アルカリ金属塩を回収する方法であって、下記工程1および2を備える。
工程1:アルカリ金属イオンを含む溶液Xを被処理液Aとしてナノろ過膜ユニットAに送液して、透過液Aと濃縮液Bとに分離し、さらに、前記濃縮液Bを前記被処理液Aの残部に混合させ、再度前記ナノろ過膜ユニットAに送液し、前記透過液Aをさらに得る、第一のナノろ過工程。
工程2:前記工程1で得られる前記透過液Aもしくは前記透過液Aの濃縮液を、被処理液Bとして前記ナノろ過膜ユニットAに送液して、透過液Cと濃縮液Dとに分離し、さらに、前記濃縮液Dを前記被処理液Bの残部に混合させ、再度前記ナノろ過膜ユニットAに送液し、前記透過液Cをさらに得る、または、前記工程1で得られる前記透過液Aもしくは前記透過液Aの濃縮液を、被処理液Bとしてナノろ過膜ユニットBに送液して、透過液Cと濃縮液Dとに分離し、さらに、前記濃縮液Dを前記被処理液Bの残部に混合させ、再度前記ナノろ過膜ユニットBに送液し、前記透過液Cをさらに得る、第二のナノろ過工程。
【0018】
本実施形態に係るアルカリ金属塩の回収方法は、前記溶液Xから前記工程1および前記工程2を経て前記透過液Cを得る処理をN個(N:2以上の整数)の溶液Xに対して順次実施する、アルカリ金属塩の回収方法であって、前記工程2は前記ナノろ過膜ユニットBを使用し、前記N個の溶液Xのうち、k番目の溶液X(k)(k:1以上(N-1)以下の整数)に対して前記工程1を実施後に前記工程2を実施している間に、(k+1)番目の溶液X(k+1)に対して前記工程1を並行して実施することが好ましい。工程1および工程2における回分処理工程を、複数個の溶液に対して半連続的に実施する一連の処理工程を、半回分処理工程という。
【0019】
(2)ナノろ過工程
ナノろ過工程では、ナノろ過膜を用いて、アルカリ金属イオンを含む溶液から、透過液と濃縮液とに分離する。
【0020】
透過液における、多価金属イオン濃度に対する、アルカリ金属イオン濃度の比(以下、「アルカリ金属イオン比率」と称す)は、溶液Xのアルカリ金属イオン比率より高く、濃縮液におけるアルカリ金属イオン比率は溶液Xのアルカリ金属イオン比率より低い。
【0021】
多価金属イオンの濃度は、例えば、コバルトイオンやニッケルイオンなどのイオン換算濃度の総和で計算される。また、アルカリ金属イオン濃度は、例えば、リチウムイオンやセシウムイオンなどのイオン換算濃度の総和で計算される。アルカリ金属は元素によっては単原子イオンではなく、多原子イオンとして溶液中に存在する場合があるが、換算濃度は、単原子イオンとして存在すると仮定した場合の濃度である。上記多価金属イオンおよびアルカリ金属イオン濃度は、例えば、測定対象の溶液を、日立株式会社製のP-4010型ICP(高周波誘導結合プラズマ発光分析)装置を用いて分析し、各種イオンの濃度(mg/L)を定量できる。
【0022】
(2-1)アルカリ金属イオンを含む溶液
アルカリ金属イオンを含む溶液Xは、少なくともアルカリ金属イオンおよび1種以上の共役塩基(例えば、塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、酢酸イオンなど)を含有すればよい。溶液X中のアルカリ金属イオンおよび共役塩基は、アルカリ金属塩の形態で存在していてもよく、アルカリ金属塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの塩が挙げられる。中でも、回収対象の価値の観点から、リチウムの塩を含有することが好ましい。すなわち、アルカリ金属イオンを含む溶液は、アルカリ金属イオンとして、リチウムイオン(以下、「Li」とも称する)を含むことが好ましい。
【0023】
アルカリ金属イオンを含む溶液XがN個存在する場合は、各溶液Xは少なくともアルカリ金属イオンおよび1種以上の共役塩基を含有すればよく、アルカリ金属イオン濃度、多価金属イオン濃度、pHなどの溶液の組成は、それぞれの溶液Xで異なっていてもよい。中でも、すべての溶液Xがアルカリ金属イオンとして、Liを含むことが好ましい。
【0024】
アルカリ金属イオンを含む溶液Xは、それぞれ、アルカリ金属イオンの他に、多価金属イオンを少なくとも一種以上含むことが好ましい。多価金属イオンとしては、例えば、マグネシウム、カルシウムおよびストロンチウムなどのアルカリ土類金属、典型元素(アルミニウム、スズ、鉛など)ならびに遷移元素(鉄、銅、コバルト、マンガンなど)、の多価金属イオンが挙げられる。
【0025】
また、アルカリ金属イオンを含む溶液Xは、pH3以下の条件で荷電を有さない中性分子を含んでいてもよく、該中性分子は分子量が70以下であることが好ましい。中性分子としては、ギ酸、酢酸、ホウ酸などのホウ素化合物などが挙げられる。中でも、ホウ素化合物は、リチウムイオン電池の電解液の添加剤として、電池の特性を向上させる目的で添加する場合があるため、アルカリ金属イオンを含む溶液Xに含まれる場合がある。例えば、ホウ素化合物が含まれる場合は、リチウム回収時の精製阻害物質となるが、後述する逆浸透ろ過工程にて除去することができる。溶液X中のホウ素濃度(mg/L)は、回収対象のアルカリ金属イオン濃度以下であることが好ましく、回収対象のアルカリ金属イオン濃度×0.5(mg/L)以下であることがより好ましく、回収対象のアルカリ金属イオン濃度×0.1(mg/L)以下であることがさらに好ましい。
【0026】
アルカリ金属イオンを含む溶液XはpHが0以上4以下であることが好ましい。
アルカリ金属イオンを含む溶液XはpHが4以下であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましく、2.5以下であることがより一層好ましい。pHが4以下であることで、ナノろ過工程において、多価金属イオンの透過率を低く維持しつつ、アルカリ金属イオンの透過率が高くなる。
また、アルカリ金属イオンを含む溶液XはpHが0以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、1以上であることがさらに好ましい。pHが0以上であることで、長期的に運転した際にナノろ過膜の多価金属イオンに対するアルカリ金属イオンの選択分離性能の低下を抑制できる。
【0027】
アルカリ金属イオンを含む溶液Xは、リチウムを含有する材料を酸で溶解させた液であることが好ましい。リチウムを含有する材料として、具体的には、リチウムイオン電池ならびにその製造工程で生じる廃材、廃液、鉱石およびスラグが挙げられる。これらの中でも、再利用の要望が高いこと、および含有するレアメタルの純度が高いことから、リチウムイオン電池が好ましい。
リチウムイオン電池は、正極材、負極材、セパレータおよび電解質などの部材で構成される。これらの部材のうち、リチウムを含むものであれば溶液Xの材料として使用できる。リチウムを含有する材料を溶解させる酸としては、塩酸、硫酸および硝酸からなる群より選ばれる少なくとも一つの酸を含むことが好ましい。リチウムイオン電池の部材を酸で溶解した場合に得られる溶液には、リチウムイオンのほかに、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、などが含まれる。
【0028】
アルカリ金属を含有する物質を酸で溶解させる方法は、例えば、酸性水溶液中に物質を浸漬させる方法が挙げられる。ただし、目的とするアルカリ金属イオンを溶出させることができれば、他の方法であってもよい。接触させる酸性水溶液の温度はアルカリ金属イオンの溶出効率の観点から10℃以上100℃以下が好ましい。また、コスト面および安全面の観点から20℃以上80℃以下がより好ましい。
アルカリ金属を含有する物質を酸で溶解させた溶液は、常に一定の組成であることはなく、物質中の各種イオン組成の変動および酸での溶解条件などにより、組成が変動し得る。すなわち、溶液XがN個存在する場合、N個の溶液Xの組成は、それぞれ異なる場合がある。
【0029】
回収対象のアルカリ金属イオンを含む溶液Xの液量は、特に制限はなく、溶液XがN個存在する場合、N個の溶液Xの液量はそれぞれ異なっていてもよい。各工程での処理効率の観点から、溶液Xの液量は10L以上10000L以下であることが好ましい。
【0030】
アルカリ金属イオンを含む溶液Xは、有機化合物を含有してもよい。例えば、溶液Xがリチウムイオン電池の酸溶解液である場合、集電体に活物質をつなぐバインダー、セパレータ、電解液などに由来するポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリオレフィン、炭酸エステルなどの有機化合物が挙げられる。これらの有機化合物はファウラントとなりアルカリ金属イオンの回収効率の低下を引き起こすおそれがあるため、後述の限外ろ過工程によってこれらのファウラントを除去してもよい。
【0031】
N個のアルカリ金属イオンを含む溶液Xが、それぞれ、アルカリ金属イオンとしてリチウムイオンを含む場合、溶液中のリチウムイオン濃度は0.5mg/L以上10000mg/L以下であることが好ましい。溶液中のリチウムイオン濃度が0.5mg/L以上であることで、膜分離によるリチウムイオンの回収効率が向上する。また、溶液中のリチウムイオン濃度が10000mg/L以下であることで浸透圧差が大きくなることを抑制し、膜分離の効率が向上する。溶液中のリチウムイオン濃度は、10mg/L以上8000mg/L以下がより好ましく、100mg/L以上6000mg/L以下がさらに好ましい。
【0032】
本実施形態に係るアルカリ金属塩の回収方法は、アルカリ金属イオンを含む溶液Xのアルカリ金属イオン比率が2.4以下である場合にも好適に用いることができる。一般的にアルカリ金属イオン比率が2.4以下である場合、アルカリ金属イオンと多価金属イオンを分離・回収する難易度が高くなるが、本実施形態に係るアルカリ金属塩の回収方法は、アルカリ金属イオンと多価金属イオンとの選択分離性が高く、効果的にアルカリ金属イオンを回収することができる。また、本実施形態に係るアルカリ金属塩の回収方法は、アルカリ金属イオンを含む溶液Xのアルカリ金属イオン比率が1以下である場合、さらには0.5以下である場合にも好適に用いることができる。
【0033】
(2-2)ナノろ過膜
本実施形態に係るアルカリ金属塩の回収方法に用いられるナノろ過膜は、逆浸透膜と限外ろ過膜との間に位置づけられる分画特性を有していればよく、0.5MPaの操作圧力で25℃、pH6.5の1000mg/Lのグルコース水溶液を透過させたときのグルコース除去率と、0.5MPaの操作圧力で25℃、pH6.5の1000mg/Lのイソプロピルアルコール水溶液を透過させたときのイソプロピルアルコール除去率の差が20%以上であることが好ましい。中でも、ナノろ過膜は、0.5MPaの操作圧力で25℃、pH6.5の1000mg/Lのグルコース水溶液を透過させたときのグルコース除去率と、0.5MPaの操作圧力で25℃、pH6.5の1000mg/Lのイソプロピルアルコール水溶液を透過させたときのイソプロピルアルコール除去率の差が40%以上、上記グルコース除去率が70%以上であり、かつ、0.5MPaの操作圧力で、25℃、pH6.5の2000mg/Lの硫酸マグネシウム水溶液を透過させたときの硫酸マグネシウム除去率が95%以上であることがさらに好ましい。以後、本願明細書において単に「グルコース除去率」と記載したときは、0.5MPaの操作圧力で、25℃、pH6.5の1000mg/Lのグルコース水溶液を透過させたときのグルコース除去率を意味し、「イソプロピルアルコール除去率」と記載したときは、0.5MPaの操作圧力で、25℃、pH6.5の1000mg/Lのイソプロピルアルコール水溶液を透過させたときのイソプロピルアルコール除去率を意味し、「硫酸マグネシウム除去率」と記載したときは、0.5MPaの操作圧力で25℃、pH6.5の2000mg/Lの硫酸マグネシウム水溶液を透過させたときの硫酸マグネシウム除去率を意味する。
逆浸透膜として一般に知られる膜は、大部分の有機物およびイオンを除去することができる。一方、限外ろ過膜は、通常、大部分のイオン種を除去せず、高分子量の有機物を除去する。
【0034】
アルカリ金属イオンと多価金属イオンとを分離するため、ナノろ過膜は、膜表面に荷電を有し、細孔による分離(サイズ分離)と荷電による静電気的な分離の両方が可能であることが好ましい。例えば、グルコース除去率とイソプロピルアルコール除去率との差が40%以上およびグルコース除去率が70%以上であることに加え、硫酸マグネシウム除去率と、0.5MPaの操作圧力で25℃、pH6.5の2000mg/Lの塩化マグネシウム水溶液を透過させたときの塩化マグネシウムの除去率との差が20%以下であるナノろ過膜である場合、サイズ分離と静電気的な分離の両方が可能となる。以後、本願明細書において単に「塩化マグネシウム除去率」と記載したときは、0.5MPaの操作圧力で、25℃、pH6.5の2000mg/Lの塩化マグネシウム水溶液を透過させたときの塩化マグネシウム除去率を意味する。
【0035】
ナノろ過膜の材料としては、酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、スルホン化ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどの高分子が使用される。ナノろ過膜は1種の材料のみで構成されてもよいし、複数の材料により構成されていてもよい。またその膜構造は、膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、緻密層から膜内部またはもう片方の面に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有する非対称膜や、非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い分離機能層を有する複合半透膜であってもよい。
【0036】
複合半透膜としては、例えば、ポリスルホンを含む多孔性支持膜と、多孔性支持膜上に設けられたポリアミドを含む分離機能層を有する膜であることが好ましい。また、複合半透膜は、多孔性支持膜と分離機能層のほかに基材を備えていてもよく、この場合、基材上に多孔性支持膜が設けられる。ポリアミドは、多孔性支持膜上で、多官能脂肪族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物との界面重縮合反応により形成される薄膜である。
【0037】
本実施形態に係るアルカリ金属塩の回収方法において、ナノろ過膜ユニットAおよびナノろ過膜ユニットBの少なくとも一方が備えるナノろ過膜が、多孔性支持膜と分離機能層を有し、ナノろ過膜の分離機能層側の表面から陽電子ビームを照射し、陽電子消滅寿命測定法から導出される分離機能層の平均孔径R1および平均孔径R2が0.90≦R1/R2≦1.10を満たすことが好ましい。ここでR1、R2は以下の通り定義される。
R1:陽電子ビーム強度が0.1keVの条件での平均孔径
R2:陽電子ビーム強度が0.5keVの条件での平均孔径
【0038】
「陽電子消滅寿命測定法」とは、陽電子が試料に入射してから消滅するまでの時間(数百ピコ秒から数十ナノ秒のオーダー)を測定し、その消滅寿命に基づいて、0.1~10nmの空孔の大きさ、その数密度、およびその大きさの分布などの情報を非破壊的に評価する手法である。
【0039】
なお、試料に入射させる陽電子ビームのエネルギー量によって、試料表面からの深さ方向の測定域を調節できる。エネルギーを高くするほど試料表面からより深い部分が測定域に含まれることになるが、その深度は試料の密度によって左右される。例えば、複合半透膜の分離機能層を測定する際に、複合半透膜の分離機能層側から0.1keV程度のエネルギーの陽電子ビームを照射すれば、通常、試料表面から1.0~5.0nmの深さの領域が測定され、0.5keV程度のエネルギーの陽電子ビームであれば、通常、試料表面から10~50nmの深さの領域が測定される。なお、分離機能層の上に保護層などの他の層が設けられている場合は、他の層を事前に取り除くことによって、分離機能層の平均孔径を測定できる。
【0040】
本実施形態において、複合半透膜における分離機能層の膜厚は、15nm以上50nm以下が好ましい。そのため、陽電子ビーム強度が0.1keVの条件では、分離機能層の表面側(多孔性支持膜側とは反対側)の平均孔径を、0.5keVの条件では、分離機能層の多孔性支持膜側の平均孔径を反映しており、R1/R2が1に近いほど膜厚方向に孔径が均一であるといえる。膜厚方向の孔径が均一であることで分離機能層内をイオンが拡散する方向が均一となり、分離機能層内を自由に動くことができるサイズである1価イオンの透過抵抗が抑制されると推測している。その結果として優れた1価イオン/多価イオン選択分離性能が実現するものと考えられる。そのため、R1/R2は0.92以上1.05以下であることがより好ましく、0.94以上1.03以下であることがさらに好ましい。
【0041】
また、R1は0.55nm以上0.70nm以下であることが好ましく、0.57nm以上0.68nm以下であることがより好ましく、0.60nm以上0.65nm以下であることがさらに好ましい。R1が上記範囲内にあることで、アルカリ金属イオンの透過抵抗を抑制しつつ、多価金属イオンの透過を阻害する効果が顕著となる。
R1およびR2が上記の関係を満たすには、例えば、後述する多官能脂肪族アミン化合物と多官能芳香族酸ハロゲン化物の界面重縮合を実施している間の相対湿度を高く、例えば80%以上に制御し、かつ複合半透膜における分離機能層を形成する多官能脂肪族アミンの分子量を90以上にする方法が挙げられる。
【0042】
複合半透膜における分離機能層は、2価以上の多官能脂肪族アミン化合物と、2価以上の多官能芳香族酸ハロゲン化物との界面重縮合によって得られる半芳香族架橋ポリアミドを50質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、半芳香族架橋ポリアミドのみからなることが特に好ましい。半芳香族架橋ポリアミドを50質量%以上含有することで、半芳香族架橋ポリアミド中の芳香環に由来するπ-π相互作用による過度な緻密化が抑制され、優れたアルカリ金属イオン透過性が得られる。また、本発明者らは鋭意検討の結果、界面重縮合を実施している間の相対湿度を高く、例えば80%以上に制御した場合、得られる複合半透膜が酸性条件で特に優れた膜性能を発現することを見出した。なお、相対湿度は、精密空調装置を用いることなどによって調整できる。界面重縮合時の雰囲気湿度を80%以上とすることで、形成されるポリアミドの水分の蒸発を抑えられ、余剰に生成したアミノ基の多いオリゴマーの分子間水素結合による不溶化を抑制できる。これにより、界面重縮合反応で分離機能層を形成させた後にオリゴマーを効率的に除去できるため、酸性条件での膜運用時の半芳香族架橋ポリアミドの膨潤に伴う孔径拡大を抑制でき、優れた多価イオン除去性、すなわち所定のグルコース除去率、イソプロピルアルコール除去率、硫酸マグネシウム除去率などを示す複合半透膜が得られると考えられる。
【0043】
多官能脂肪族アミンは脂環式ジアミンであることが好ましく、ビピペリジン誘導体またはピペラジン誘導体であることがより好ましい。
【0044】
また、脂環式ジアミンの分子量は90以上であることが好ましい。脂環式ジアミンの分子量が90以上である場合、アミンの拡散係数が小さくなり、界面重縮合時にポリアミドが徐々に形成されていくため、界面重縮合初期から中期にかけて、膜厚方向に孔径が均一な分離機能層が形成されやすくなる。一方で、脂環式ジアミンの分子量は160以下であることが好ましい。通常は、界面重縮合初期終期には、有機層と接している支持体表面でオリゴマーが過剰生成し、支持体表面の孔が閉塞されるため、膜厚方向の孔径分布が不均一化する要因となる。しかし、脂環式ジアミンの分子量が160以下である場合、生成するオリゴマーの分子量が小さくなり、半芳香族架橋ポリアミドとの相互作用を低減できるため、界面重縮合反応で分離機能層を形成させた後に、オリゴマーが分離機能層から脱離しやすく、膜厚方向に孔径均一な分離機能層が形成されやすくなる。
【0045】
分子量が90以上160以下である脂環式ジアミンとしては、例えば、ピペラジン環が炭素数1~3のアルキル基で置換された置換ピペラジン(例えば、2-メチルピペラジン、2-エチルピペラジン、2-ノルマルプロピルピペラジン、2,2-ジメチルピペラジン、2,2-ジエチルピペラジン、2,3-ジメチルピペラジン、2,3-ジエチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、2,6-ジメチルピペラジン、2,6-ジエチルピペラジン、2,3,5,6-テトラメチルピペラジンなど)、ホモピペラジンが挙げられる。
【0046】
「多官能芳香族酸ハロゲン化物」とは、一分子中に2個以上のハロゲン化カルボニル基を有する芳香族酸ハロゲン化物であり、上記多官能脂肪族アミンとの反応により半芳香族架橋ポリアミドを与えるものであれば特に限定されない。多官能芳香族酸ハロゲン化物としては、例えば、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,3-ベンゼンジカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリスルホン酸、1,3,6-ナフタレントリスルホン酸などのハロゲン化物を用いることができる。多官能芳香族酸ハロゲン化物の中でも、酸塩化物が好ましく、特に経済性、入手の容易さ、取り扱い易さ、反応性の容易さなどの点から、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸の酸ハロゲン化物であるトリメシン酸クロリド、1,3-ベンゼンジカルボン酸の酸ハロゲン化物であるイソフタル酸クロリド、1,4-ベンゼンジカルボン酸の酸ハロゲン化物であるテレフタル酸クロリド、1,3,5-ベンゼントリスルホン酸の酸ハロゲン化物である1,3,5-ベンゼントリスルホン酸クロリド、1,3,6-ナフタレントリスルホン酸の酸ハロゲン化物である1,3,6-ナフタレントリスルホン酸クロリドが好ましい。上記多官能芳香族酸ハロゲン化物は単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよいが、三官能のトリメシン酸クロリド、1,3,5-ベンゼントリスルホン酸クロリド、1,3,6-ナフタレントリスルホン酸クロリドに、二官能のイソフタル酸クロリド、テレフタル酸クロリドのどちらか一方を混合することにより、ポリアミド架橋構造の分子間隙が拡大し、均一な孔径分布を持った膜を広範囲に制御することができる。三官能酸クロリドと二官能酸クロリドの混合モル比は、1:20~50:1が好ましく、1:1~20:1がより好ましい。
【0047】
上記の複合半透膜は、例えば、基材上に多孔性支持膜を形成し、次いで、多孔性支持膜上で多官能脂肪族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物を界面重縮合させることによって半芳香族架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成することで得られる。
【0048】
(2-3)ナノろ過膜による分離
アルカリ金属イオンはナノろ過膜を透過しやすく、多価金属イオンはナノろ過膜を透過しにくいため、アルカリ金属イオンと多価金属イオンとを分離することができる。ナノろ過膜は、スパイラル型などのエレメントに組み込まれた状態で用いられることが好ましい。
【0049】
(2-3-1)工程1:第一のナノろ過工程
第一のナノろ過工程(工程1)は、溶液Xを被処理液Aとしてナノろ過膜ユニットAに送液して、透過液Aと濃縮液Bとに分離し、さらに、濃縮液Bを被処理液Aの残部に混合させ、再度ナノろ過膜ユニットAに送液し、透過液Aをさらに得る工程である。工程1では、濃縮液Bをナノろ過膜ユニットAで2回以上処理することができる。この処理の繰り返しの回数は任意に設定できる。また、工程1での繰り返し処理は、後述のとおり、回収率が一定値に達したときに終えてもよい。濃縮液Bを被処理液Aの残部に混合させながらナノろ過膜ユニットAに被処理液Aを透過させることで、濃縮液B中に残るアルカリ金属イオンを再びナノろ過膜へ透過させることができ、アルカリ金属イオンの回収率を高くすることが可能となる。
第一のナノろ過工程は、進行とともに、透過液Aの液量が増加し、アルカリ金属イオンの回収率(%)が増加するとともに、被処理液Aの液量、被処理液A中のアルカリ金属イオン比率が減少していく。
【0050】
第一のナノろ過工程では、アルカリ金属イオン比率が2以上1000以下である透過液を得ることが好ましく、10以上700以下である透過液を得ることがより好ましく、20以上500以下である透過液を得ることがさらに好ましい。アルカリ金属イオン比率が2以上であることで、後段の第二のナノろ過工程の処理時間を短縮することができ、1000以下であることで、本工程の処理時間を短縮することができる。
【0051】
また、第一のナノろ過工程では、アルカリ金属イオンの回収率は80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。第一のナノろ過工程のアルカリ金属イオンの回収率が80%以上であれば、アルカリ金属イオンの回収コストを低くすることができる。ナノろ過工程のアルカリ金属イオンの回収率は、工程ごとに、下記式(1)で定義される。
【0052】
ナノろ過工程のアルカリ金属イオンの回収率(%)={(対象とするナノろ過工程の透過液量)×(対象とするナノろ過工程の透過液中のアルカリ金属イオン濃度)}/{(処理対象の液量)×(処理対象の液中の初期アルカリ金属イオン濃度)}・・・式(1)
【0053】
ナノろ過工程では、操作圧力が0.1MPa以上8MPa以下の範囲で溶液をナノろ過膜に供給することが好ましい。操作圧力が0.1MPa以上であれば膜透過速度が向上し、8MPa以下であればナノろ過膜の損傷を抑制できる。操作圧力は0.5MPa以上6MPa以下であることがより好ましく、1MPa以上4MPa以下であることがさらに好ましい。
【0054】
第一のナノろ過工程は、進行とともに被処理液Aの浸透圧が上昇し、それに伴って同一流量の透過液Aを得るための操作圧力が大きくなる。そのため、本実施形態に係るアルカリ金属塩の回収方法は、浸透圧が上昇する場合にろ過を継続しやすくするために、被処理液Aを希釈する工程を備えることが好ましい。被処理液Aを希釈することで、被処理液Aの浸透圧が下がり、第一のナノろ過工程を継続することができ、アルカリ金属イオンの回収率を増加させることができるため好ましい。
被処理液Aを希釈する方法としては、例えば、被処理液Aに直接希釈水を添加する方法、濃縮液Bに希釈水を添加する方法が挙げられる。中でも、簡便であることから被処理液Aに直接希釈水を添加する方法が好ましい。
【0055】
希釈水は、純水、酸性溶液など、特に限定はないが、後述する逆浸透ろ過工程において生じる金属イオン濃度の低い透過液を使用することが、高効率なアルカリ金属イオンの分離回収、および酸性水溶液を再使用できるため、好ましい。
【0056】
第一のナノろ過工程における運転制御方式としては、例えば、定流量濾過、低圧濾過などが挙げられ、特に制限はないが、被処理液Aを希釈する場合には、定流量濾過が好ましい。定流量濾過であれば、添加する希釈水流量も一定にでき、制御が容易となる。
定流量濾過の場合、Liの回収効率の観点から、透過液流量は溶液Xの液量に対して1%以上の液量を1分間に透過することが好ましく、制御の容易性の観点から、溶液Xの液量に対して50%以下の液量を1分間に透過することが好ましい。
【0057】
第一のナノろ過工程の進行度合い、すなわち、アルカリ金属イオンの回収率は、適宜、被処理液Aをサンプリングし、液組成を分析することで知ることが可能である。しかしながら、液組成の分析には時間を要するため、アルカリ金属イオンの回収率を常時監視できることが好ましい。
第一のナノろ過工程の進行中におけるアルカリ金属イオンの回収率の監視方法として、ナノろ過工程を定透過流量で実施する場合、以下の式(2)のように、運転圧力(操作圧力)と、アルカリ金属イオンの回収率に相関がある。そのため、次式で運転圧力の経時変化を監視しながら、アルカリ金属イオンの回収率A(%)を把握し、第一のナノろ過工程の終了時間を見極めることが好ましい。式(2)により運転圧力を監視しながら、第一のナノろ過工程の終了時間を見極めることで、液組成の分析に要する時間を削減でき、効率的にアルカリ金属イオンを回収できる。なお、目標とするアルカリ金属イオンの回収率A(%)は、適宜設定できる。工程1および工程2の少なくとも一方について、回収率が目標値に達することを条件として終了することができる。
【0058】
【数2】
【0059】
上記式(2)中、アルカリ金属イオンの回収率A(%)、運転圧力P(Pa)、初期運転圧P(Pa)、処理対象の初期液量V(m)、ナノろ過膜のアルカリ金属イオン除去率R(%)、ナノろ過工程の液回収率S(%)、供給流量Q(m/s)、濃縮液流量Q(m/s)、ろ過終了時間t=tbである。
【0060】
ナノろ過工程の液回収率Sは、S={(Q―Q)/Q}×100で定義される。
【0061】
図1図3図5および図8~10は、本発明の一実施形態に係る、アルカリ金属塩の回収方法を示す概略フロー図である。溶液Xを、後述する限外ろ過膜ユニット1に送液し、得られる透過液を第1タンク5aに送液する。第1タンク5aに貯留した透過液(被処理液A)をナノろ過膜ユニットA(2a)に送液し、透過液Aと濃縮液Bとに分離する。透過液Aは第2タンク5bに一定流量で送液し、濃縮液Bは第1タンク5aに送液して、第1タンク5a内の被処理液Aの残部と混合する。また、透過液Aの流量と同じ流量で第1タンク5aに希釈水を添加しながら、第一のナノろ過工程を実施できる。なお、希釈水として、後述の逆浸透ろ過工程によって得られる透過液を含んでもよく、図3および図9に示す例では、後述の逆浸透ろ過工程によって得られる透過液をさらに高除去逆浸透膜ユニット4に送液し、得られる透過液を希釈水として使用する。
【0062】
(2-3-2)工程2:第二のナノろ過工程
第二のナノろ過工程(工程2)では、上記の第一のナノろ過工程(工程1)で得られる透過液Aもしくは工程1で得られた透過液Aの濃縮液を被処理液Bとしてナノろ過膜ユニットAに送液して、透過液Cと濃縮液Dとに分離し、さらに、濃縮液Dを被処理液Bの残部に混合させ、再度ナノろ過膜ユニットAに送液し、前記透過液Cをさらに得る工程、または、前記工程1で得られる前記透過液Aもしくは前記透過液Aの濃縮液を、被処理液Bとしてナノろ過膜ユニットBに送液して、透過液Cと濃縮液Dとに分離し、さらに、前記濃縮液Dを前記被処理液Bの残部に混合させ、再度前記ナノろ過膜ユニットBに送液し、前記透過液Cをさらに得る工程である。工程2においても、濃縮液Dをナノろ過膜ユニットAまたはナノろ過膜ユニットBで2回以上処理することができる。この処理の繰り返しの回数は任意に設定できる。また、工程2での繰り返し処理は、上述のとおり、回収率が一定値に達したときに終えてもよい。
透過液Aの濃縮液は、透過液Aを後述する逆浸透膜ユニットで濃縮する方法などにより調製することができるが、特に限定されない。
第二のナノろ過工程は、処理時間を短縮する観点から、被処理液Bとして透過液Aを用いることが好ましく、また、ナノろ過膜ユニットBを用いることが好ましい。
【0063】
第二のナノろ過工程では、アルカリ金属イオン比率が10以上である透過液Cを得ることが好ましく、アルカリ金属イオン比率が100以上である透過液Cを得ることがより好ましく、アルカリ金属イオン比率が200以上である透過液Cを得ることがより一層好ましい。アルカリ金属イオン比率が10以上であれば、アルカリ金属イオンの純度が十分に高いと言える。
また、第二のナノろ過工程では、アルカリ金属イオンの回収率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。透過液のナノろ過工程のアルカリ金属イオンの回収率が80%以上であれば、アルカリ金属の回収コストを低くすることができる。
【0064】
第二のナノろ過工程は、少なくとも1回実施する。溶液Xのアルカリ金属イオン比率が小さく、第二のナノろ過工程が1回の場合では透過液Cのアルカリ金属イオン比率が目標値に達しない場合には、得られる透過液のアルカリ金属イオン比率が目標値に達するまで、透過液Cを被処理液Bとする第二のナノろ過工程を複数回実施してもよい。第二のナノろ過工程を複数回実施する場合、2回目以降に使用するナノろ過膜ユニットは、ナノろ過膜ユニットAまたはBのいずれでもよく、他のナノろ過膜ユニットを用いてもよい。
【0065】
第二のナノろ過工程においても、前記第一のナノろ過工程と同様に、被処理液Bを希釈する工程を備えることが好ましい。また、上記式(2)による工程の進行度の把握を実施することができる。
【0066】
第二のナノろ過工程における運転制御方式としては、例えば、定流量濾過、低圧濾過などが挙げられる。
定流量濾過の場合、Liの回収効率の観点から、透過液流量は、被処理液Bの初期液量に対して1%以上の液量を1分間に透過することが好ましく、制御の容易性の観点から、被処理液Bの初期液量に対して50%以下の液量を1分間に透過することが好ましい。
【0067】
図1図3図8および図9に示す例では、ナノろ過膜ユニットA(2a)にて、溶液Xのナノろ過工程を行い、ナノろ過膜ユニットAを透過し第2タンク5bに貯留された透過液Aを、被処理液Bとして第3タンク5cに送液し、被処理液Bをナノろ過膜ユニットB(2b)に送液し、透過液Cを第4タンク5dに一定流量で送液することで、第二のナノろ過工程を実施する。この時、ナノろ過膜ユニットB(2b)を透過しなかった濃縮液Dは第3タンク5c中の被処理液Bの残部に混合する。また、第3タンク5c中の被処理液Bに透過液Cの流量と同じ流量で希釈水を添加しながら、第二のナノろ過工程を実施できる。
【0068】
図5および図10に示す例では、ナノろ過膜ユニットA(2a)にて、溶液Xのナノろ過工程を行い、ナノろ過膜ユニットAを透過し第2タンク5bに貯留された透過液Aを、被処理液Bとして第1タンク5aに送液し、再度ナノろ過膜ユニットA(2a)に送液し、透過液Cを第2タンク5bに一定流量で送液することで、第二のナノろ過工程を実施する。この時、ナノろ過膜ユニットA(2a)を透過しなかった濃縮液Dは第1タンク5a中の被処理液Bの残部に混合する。また、第1タンク5a中の被処理液Bに透過液Cの流量と同じ流量で希釈水を添加しながら、第二のナノろ過工程を実施できる。
【0069】
図5および図10では、第二のナノろ過工程に、第一のナノろ過工程と同じナノろ過膜ユニットA(2a)を使用するので、第二のナノろ過工程の実施前に、ナノろ過膜ユニットA(2a)、第1タンク5a、第2タンク5bを洗浄することが好ましい。
【0070】
さらに、図8に示す例では、k番目の溶液X(k)の処理後の第3タンク5cに残存する被処理液B(k)の残部を、p番目の被処理液A(p)が入った第1タンク5aに添加する。また、図10に示す例では、k番目の溶液X(k)の処理後の第1タンク5aに残存する被処理液B(k)の残部を、m番目の被処理液A(m)が入った第1タンク5aに添加する。ここで、mは(k+1)以上N以下の整数を、pは(k+2)以上N以下の整数を意味する。
【0071】
一方、図2に示す例では、ナノろ過膜ユニットA(2a)を透過し、第2タンク5bに貯留された液を、第5タンク5eに送液した後、第5タンク5eの液を、後述の逆浸透ろ過工程を実施するため、第1逆浸透膜ユニット3aに送液し、得られた濃縮液を第6タンク5fに送液する。第6タンク5fに貯留された濃縮液を第3タンク5cに送液し、第3タンク5cの液を被処理液Bとして、ナノろ過膜ユニットB(2b)に送液し、透過液Cを第4タンク5dに一定流量で送液、濃縮液Dを第3タンク5c中の被処理液Bの残部に混合し、第3タンク5c中の被処理液Bに透過液Cの流量と同じ流量で希釈水を添加しながら、第二のナノろ過工程を実施する。
【0072】
(3)半回分処理工程
上述のように溶液Xの液組成は変動することがあるため、連続的にアルカリ金属イオンを含むN個(N:2以上の整数)の溶液Xを送液するプロセスでは、ナノろ過膜での処理工程で得られる液組成を安定化させ、所定のリチウム純度、回収率を維持することが非常に困難であり、場合によっては不可能である。また、ナノろ過膜での処理プロセスにおけるこのような不安定性を解消し、リチウムが高純度・高回収できるように、連続プロセスを実現すると、ナノろ過膜の段数が過剰になり、コスト増加およびプロセスの更なる複雑化の問題が生じる。また、バッチ処理プロセスでは、k番目(k:1以上(N-1)以下の整数)の溶液X(k)の処理が完了してから、次の(k+1)番目の溶液X(k+1)の処理を開始することになり、処理時間が長くなる問題がある。
【0073】
そこで、本実施形態に係るアルカリ金属塩の回収方法は、前記溶液Xから工程1および工程2を経て透過液Cを得る処理をN個(N:2以上の整数)の溶液Xに対して順次実施する、アルカリ金属塩の回収方法であって、工程2はナノろ過膜ユニットBを使用し、N個の溶液Xのうちk番目の溶液X(k)(k:1以上(N-1)以下の整数)に対して第一のナノろ過工程(工程1)を実施後に第二のナノろ過工程(工程2)を実施している間に、N個の溶液Xのうち(k+1)番目の溶液X(k+1)に対して第一のナノろ過工程(工程1)を並行して実施することが好ましい。このように工程1および2における回分処理工程を、複数個の溶液に対して半連続的に実施する半回分処理工程の構成とすることで、効率的にアルカリ金属イオンを回収することができる。
【0074】
また、効率的にアルカリ金属イオンを回収するために、溶液X(k)の第二のナノろ過工程終了後の被処理液B(k)の残部を、溶液X(m:(k+1)以上N以下の整数)または被処理液A(m)に添加し、溶液X(m)の第一のナノろ過工程を実施することが好ましい。
【0075】
この場合、第二のナノろ過工程においては、アルカリ金属の回収率を50%以上95%以下にすることが好ましく、60以上90%以下にすることがより好ましく、70%以上85%以下にすることがさらに好ましい。
第二のナノろ過工程において、アルカリ金属の回収率を95%以下にすることで、ナノろ過工程後期のアルカリ金属比率が低い透過液の透過を抑制できる。ナノろ過工程後期のアルカリ金属比率が低い透過液の透過を抑制する目的において、第二のナノろ過工程では、希釈水を添加しないことが好ましい。
【0076】
被処理液B(k)の残部は、溶液X(k)を一度ナノろ過膜でろ過した液であり、溶液X(m)と溶液X(k)の組成が大きく変動していなければ、アルカリ金属比率が溶液X(m)より高い。そのため、被処理液B(k)の残部を溶液X(m)または被処理液A(m)へ添加することにより、被処理液B(k)の残部中のアルカリ金属を全量回収でき、かつ溶液X(m)のアルカリ金属比率も向上するため、溶液X(m)の第一のナノろ過工程の透過液のアルカリ金属比率も向上する。すなわち、アルカリ金属の純度・回収率が向上する。
【0077】
被処理液B(k)の残部は限外ろ過工程を経た液であるため、被処理液B(k)の残部は、限外ろ過工程を実施していない溶液X(m)よりも、限外ろ過工程後の被処理液A(m)に添加することが、限外ろ過工程の負荷低減の観点から、より好ましい。
【0078】
したがって、本実施形態に係るアルカリ金属塩の回収方法は、下記工程4を備えることが好ましい。
工程4:前記溶液XがN個(N:2以上の整数)存在し、前記N個の溶液Xのうち、k番目の溶液X(k)(k:1以上(N-1)以下の整数)の前記工程2終了後、k番目の濃縮液D(k)を混合していたk番目の被処理液B(k)の残部を、m番目の溶液X(m)(m:(k+1)以上N以下の整数)またはm番目の前記被処理液A(m)に添加する工程。
【0079】
図10は、前記工程4を実施する一例であり、前記溶液X(k)の前記工程2終了後、k番目の濃縮液D(k)を混合していたk番目の被処理液B(k)の残部を、前記溶液X(m:(k+1)以上N以下の整数)に添加する工程を含む。
【0080】
さらに、前記の半回分処理工程と組み合わせ、前記工程4を下記工程5とすると、より効率的にアルカリ金属塩を回収することができる。
工程5:前記溶液X(k)の前記工程2終了後、k番目の濃縮液D(k)を混合していたk番目の被処理液B(k)の残部を、前記溶液X(p:(k+2)以上N以下の整数)またはp番目の前記被処理液A(p)に添加する工程。
【0081】
図8は、前記工程5を実施する一例であり、前記溶液X(k)の前記工程2終了後、k番目の濃縮液D(k)を混合していたk番目の被処理液B(k)の残部を、前記溶液X(p:(k+2)以上N以下の整数)に添加する工程を含む。
【0082】
図1図3図8および図9では、まず溶液X(1)を後述の限外ろ過膜ユニット1に送液して得られる被処理液A(1)について、ナノろ過膜ユニットA(2a)での処理が完了し、透過液A(1)がすべて第2タンク5bに送液された段階で、第1タンク5aの溶液を任意のタンクに回収する。その後、溶液X(2)を、後述の限外ろ過膜ユニット1に送液して得られる被処理液A(2)を第1タンク5aに貯留し、順次工程を進める。溶液X(3)から溶液X(N)についても、同様の手順で工程を進める。
【0083】
なお、本実施形態に係るアルカリ金属塩の回収方法においては、アルカリ金属イオンを含むN個のすべての溶液、すなわち1番目の溶液X(1)からN番目の溶液X(N)に対して、工程1および2を実施することが好ましい。また、N個の溶液について上記工程1および2以外の工程を実施してもよく、例えば、後述する逆浸透ろ過工程(工程3)、または限外ろ過工程を実施してもよい。
【0084】
(4)逆浸透ろ過工程
本実施形態に係るアルカリ金属塩の回収方法は、第一のナノろ過工程で得られる透過液Aおよび第二のナノろ過工程で得られる透過液Cの少なくとも一方を濃縮する逆浸透ろ過工程を備えることが好ましい。
中でも、本実施形態に係るアルカリ金属塩の回収方法は、溶液XがN個存在する場合には、下記工程3をさらに備えることが好ましい。
工程3:少なくとも一つの溶液X(k)において、k番目の透過液A(k)およびk番目の透過液C(k)の少なくとも一方を濃縮する、逆浸透ろ過工程。
【0085】
逆浸透ろ過工程では、透過液Aおよび透過液Cの少なくとも一方を逆浸透膜ユニットに送液し、送液した透過液Aまたは透過液Cよりもアルカリ金属イオン濃度が高い濃縮液と、透過液Aおよび透過液Cよりもアルカリ金属イオン濃度の低い透過液が得られる。
【0086】
逆浸透ろ過工程における運転制御方式としては、例えば、定流量濾過、低圧濾過などが挙げられる。
定流量濾過の場合、Liの回収効率の観点から、透過液流量は上記第一のナノろ過工程で得られる透過液A、または第二のナノろ過工程で得られる透過液Cの液量に対して1%以上の液量を1分間に透過することが好ましく、制御の容易性の観点から、上記第一のナノろ過工程で得られる透過液A、または第二のナノろ過工程で得られる透過液Cの液量に対して50%以下の液量を1分間に透過することが好ましい。
【0087】
(4-1)逆浸透膜
逆浸透ろ過工程では、アルカリ金属イオンが透過しない逆浸透膜であればいずれを用いてよい。このような逆浸透膜を用いることで、アルカリ金属イオン、特にリチウムイオンの濃縮過程でのリチウムイオンのロスが極めて少なく、リチウムイオンの高効率での回収が安定的に達成される。逆浸透膜のイオン除去率は高い方がプロセスとしての効率は良くなるが、一般的に除去率の高い膜は透水性に乏しいため、そのバランスを考慮して選択することが好ましい。
【0088】
特に、溶液Xが、ホウ酸に代表されるホウ素化合物などのpH3以下の条件で荷電を有さない中性分子を含む場合は、中性分子はナノろ過工程では除去されず、ナノろ過工程で得られる透過液Aおよび透過液Cにも含まれることとなる。そのため、逆浸透ろ過工程により、アルカリ金属イオンを濃縮しながら、中性分子を除去することが好ましい。すなわち、逆浸透膜でアルカリ金属イオンを透過させず、中性分子を透過させることが好ましい。特に、0.5MPaの操作圧力で25℃、pH6.5のイソプロピルアルコール水溶液を透過させた時のイソプロピルアルコールの除去率が70%以上85%未満である低除去逆浸透膜が、アルカリ金属イオンを透過させず、中性分子を透過させる点において好ましい。ここで、上記低除去逆浸透膜は、前記透過液A(k)および前記透過液C(k)の少なくとも一方を濃縮するもので、前記透過液A(k)および前記透過液C(k)の少なくとも一方はpH3以下の条件で荷電を有さない中性分子を含み、かつ上記低除去逆浸透膜は前記逆浸透ろ過工程に用いる逆浸透ろ過膜である。
【0089】
逆浸透膜の材料としては、例えば、酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、スルホン化ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどの高分子が使用される。逆浸透膜は1種の材料のみで構成されてもよいし、複数の材料により構成されていてもよい。またその膜構造は、膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、緻密層から膜内部あるいはもう片方の面に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有する非対称膜や、非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い分離機能層を有する複合半透膜であってもよい。
【0090】
逆浸透膜として用いられる複合半透膜としては、具体的には例えば、基材と、多孔性支持膜と、分離機能層とを備える、複合半透膜が挙げられる。中でも、ポリアミドを分離機能層に含む複合半透膜が好ましい。ポリアミドを含む分離機能層は、多孔性支持膜上で多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物を重縮合させることによって得られる。
【0091】
(4-2)逆浸透膜による濃縮
本実施形態に係るアルカリ金属塩の回収方法において、逆浸透ろ過工程は、ナノろ過工程の透過液Aおよび透過液Cの少なくとも一方に対して少なくとも1回、実施することが好ましい。すなわち、溶液X(k)において第一のナノろ過工程(工程1)で得られるk番目の透過液A(k)および第二のナノろ過工程(工程2)で得られるk番目の透過液C(k)の少なくとも一方に対して、少なくとも1回実施することが好ましい。
【0092】
逆浸透ろ過工程の回数は、溶液X(k)において第二のナノろ過工程で得られる透過液C(k)に対して1回のみ実施することが、プロセス全体の時間を短縮できる点においてさらに好ましい。なお、複数回第二のナノろ過工程を行う場合においては、最後の第二のナノろ過工程で得られる透過液C(k)に対して、逆浸透ろ過工程を1回のみ実施することが好ましい。
【0093】
上記の通り、溶液Xがホウ酸に代表されるホウ素化合物などのpH3以下の条件で荷電を有さない中性分子を含む場合には、低除去逆浸透膜によって中性分子を除去しつつ、アルカリ金属イオンを濃縮することが好ましい。このとき、逆浸透ろ過工程は、逆浸透ろ過工程で得られる濃縮液を前記逆浸透ろ過工程に供給する溶液に混合させる循環工程を備えることが、効率的に中性分子を除去しながらアルカリ金属イオンを濃縮できる点において好ましい。循環工程を備える場合、循環工程を実施する期間としては、運転圧力の観点から、逆浸透膜ユニットの耐圧力値の90%に達するまでの範囲内とすることが好ましい。
【0094】
また、上記の場合、低除去逆浸透膜の透過液は、中性分子を含むため、ナノろ過工程の被処理液Aまたは被処理液Bの希釈水として使用することは好適ではない。希釈水中の中性分子濃度は、被処理液中の中性分子濃度(mg/L)に対して1%以下とすることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましく、0.01%以下であることがさらに好ましい。被処理液中の中性分子濃度(mg/L)に対して1%以下であることで、低除去逆浸透膜の透過液を希釈水として被処理液の半回分処理工程を実施した際に、系内への中性分子の蓄積を有意に防ぐことができる。低除去逆浸透膜の透過液を希釈水として使用する場合は、以下で定義する高除去逆浸透膜を搭載した高除去逆浸透膜ユニットへ低除去逆浸透膜の透過液を送液し、中性分子を除去することが好ましい。高除去逆浸透膜を透過することで、低除去逆浸透膜の透過液中の中性分子濃度を、上記の希釈水に適した範囲にすることができる。
【0095】
「高除去逆浸透膜」とは、0.5MPaの操作圧力で25℃、pH6.5のイソプロピルアルコール水溶液を透過させた時のイソプロピルアルコールの除去率が85~95%である逆浸透膜を意味する。
【0096】
図1図5図8および図10に示す例は、透過液Cを濃縮する逆浸透ろ過工程および逆浸透ろ過工程で得られる透過液を被処理液Aの希釈水として用いる希釈工程を備えるアルカリ金属塩の回収プロセスのフロー図である。具体的には、ナノろ過膜ユニットB(2b)またはナノろ過膜ユニットA(2a)を透過し、第4タンク5dまたは第2タンク5bに貯留された透過液Cを、第5タンク5eまたは第3タンク5cに送液し、第5タンク5eまたは第3タンク5cの液を第1逆浸透膜ユニット3aに送液し、逆浸透ろ過工程を実施する。得られる透過液は、第1タンク5a中の被処理液Aの希釈水として送液し、濃縮液は第6タンク5fに送液する。第6タンク5fの液は任意のタンクに回収できる。
【0097】
図9に示す例は、透過液Cを濃縮する逆浸透ろ過工程を備え、かつ逆浸透ろ過工程で得られる透過液を高除去逆浸透膜で処理した後に被処理液Aの希釈水として用いる希釈工程を備えるアルカリ金属塩の回収プロセスのフロー図である。具体的には、ナノろ過膜ユニットB(2b)を透過し、第4タンク5dに貯留された透過液Cを、第5タンク5eに送液し、第5タンク5eの液を第1逆浸透膜ユニット3aに送液し、逆浸透ろ過工程を実施する。逆浸透ろ過工程で得られる濃縮液は第6タンク5fに送液する。第6タンク5fの液は任意のタンクに回収できる。さらに、逆浸透ろ過工程で得られる透過液を高除去逆浸透膜ユニット4に送液し、高除去逆浸透膜ユニット4で得られる濃縮液は排水、透過液は第1タンク5aに供給され、被処理液Aの希釈水として使用できる。
【0098】
図3に示す例は、透過液Cを濃縮する逆浸透ろ過工程が濃縮液を循環する工程を備え、かつ逆浸透ろ過工程で得られる透過液を高除去逆浸透膜で処理した後に被処理液Aの希釈水として用いる希釈工程を備えるアルカリ金属塩の回収プロセスのフロー図である。具体的には、ナノろ過膜ユニットB(2b)を透過し、第4タンク5dに貯留された透過液Cを、第5タンク5eに送液し、第5タンク5eの液を第1逆浸透膜ユニット3aに送液し、第1逆浸透膜ユニット3aで得られた濃縮液を第5タンク5eに混合しながら逆浸透ろ過工程を実施する。さらに、逆浸透ろ過工程で得られる透過液を高除去逆浸透膜ユニット4に送液し、高除去逆浸透膜ユニット4で得られる濃縮液は排水、透過液は第1タンク5aに供給され、被処理液Aの希釈水として使用できる。逆浸透ろ過工程完了後、透過液Cの濃縮液である第5タンク5eの液は、任意のタンクに回収してもよい。
【0099】
図2に示す例は、透過液Aを濃縮する逆浸透ろ過工程、透過液Cを濃縮する逆浸透ろ過工程および各逆浸透ろ過工程で得られる透過液を被処理液Aの希釈水として用いる希釈工程を備えるアルカリ金属塩の回収プロセスのフロー図である。具体的には、まず、ナノろ過膜ユニットA(2a)を透過した、第2タンク5bの液を第5タンク5eに送液する。第5タンク5eの液を第1逆浸透膜ユニット3aに送液し、得られる濃縮液を第6タンク5fに送液し、透過液を希釈水として被処理液Aに添加する。次に、第6タンク5fの液を第3タンク5cに送液する。第3タンク5cの液を被処理液Bとしてナノろ過膜ユニットB(2b)に送液し、第4タンク5dに貯留された透過液Cを、第7タンク5gに送液する。第7タンク5gの液を第2逆浸透膜ユニット3bに送液し、得られる濃縮液を第8タンク5hに送液し、透過液を希釈水として被処理液Aに添加する。第8タンク5hの液は任意のタンクに回収できる。
【0100】
(5)限外ろ過工程
溶液X(k)に対して、第一のナノろ過工程の前に限外ろ過を行ってもよい。限外ろ過により高分子量の有機物を除去することができ、高分子量の有機物を除去することで、ナノろ過膜のファウリングを抑制することができる。
複数の溶液を混合して溶液X(k)を得る場合に、これら複数の溶液について、それぞれ限外ろ過を行ってもよい。限外ろ過膜ユニットの透過液が被処理液A(k)として第一のナノろ過工程に用いられる。
図1図3では、溶液X(k)を限外ろ過膜ユニット1に送液し、透過液を第1タンク5aに送液する。
【0101】
(6)回収工程
本工程では、第二のナノろ過工程で得られたアルカリ金属イオンを含有する透過液Cまたは逆浸透ろ過工程を経て得られた透過液Cの濃縮液から、アルカリ金属塩を回収する。回収工程は、アルカリ金属塩水溶液の濃縮を含むことが好ましい。
【0102】
アルカリ金属塩の回収は、公知の方法で行うことができ、例えば、アルカリ金属塩がカリウム塩である場合、溶解度の温度依存性を利用するか、またはエタノールなどの貧溶媒を添加することで行われる。
リチウム塩は、他のアルカリ金属塩に比べて溶解度が小さい。例えば、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムは水への溶解度が高い(水100mLに対し20g以上)が、炭酸リチウムは25℃で水100mLに対して1.33gしか溶解しない。そのため、炭酸塩を、アルカリ金属イオンを含有する透過液Cまたは透過液Cの濃縮液に添加することで、リチウムを炭酸リチウムとして回収することができる。炭酸リチウムは高温ではさらに溶解度が低下するので、水溶液を加熱してもよい。
【0103】
(7)比較形態
図4図6および図7は、比較形態におけるアルカリ金属塩の回収プロセスを示す概略フロー図である。
図4のプロセス構成の図1のプロセス構成に対する差異は、ナノろ過膜ユニットA(2a)の濃縮液B、およびナノろ過膜ユニットB(2b)の濃縮液Dを、第1タンク5a、第3タンク5c内の液体にそれぞれ混合することなく排水する点であり、それ以外は図1と同じである。上記のプロセスの場合、Li回収率が低くなる点で問題がある。
【0104】
図6のプロセス構成は、第3タンク5c、ナノろ過膜ユニットB(2b)及び第4タンク5dが無い、すなわち第二のナノろ過工程が無く、第2タンク5bの液は第5タンク5eに送液されること以外は図1に示す例と同じである。上記プロセスの場合、回収液のLi純度が低くなる点で問題がある。
【0105】
図7のプロセス構成は、連続処理プロセスであり、溶液X(1)が限外ろ過膜ユニット1に送液され、限外ろ過膜ユニット1の透過液は、希釈水と混合されながら、ナノろ過膜ユニットA(2a)に送液される。ナノろ過膜ユニットA(2a)の透過液Aはナノろ過膜ユニットB(2b)へ送液され、ナノろ過膜ユニットA(2a)の濃縮液Bは第1タンク5aへ回収される。ナノろ過膜ユニットB(2b)の透過液Cは、第1逆浸透膜ユニット3aへ送液される、ナノろ過膜ユニットB(2b)の濃縮液Dは、ナノろ過膜ユニットA(2a)の濃縮液Bと混合され、第1タンク5aに送液される。第1逆浸透膜ユニット3aの濃縮液を第5タンク5eに送液する。第1逆浸透膜ユニット3aの透過液は希釈水の一部として使用する。溶液X(1)の全量を処理したのち、順次、溶液X(2)、溶液X(3)を同様の手順で処理する。上記プロセスの場合、Li回収率が低くなる点で問題がある。
【0106】
(8)アルカリ金属塩の回収装置
本発明のアルカリ金属塩の回収装置は、
アルカリ金属イオンを含む溶液を被処理液Aとして、第一のナノろ過膜ユニットにより透過液Aと濃縮液Bとに分離する第一分離手段と、
前記濃縮液Bを前記被処理液Aの残部に混合する第一循環手段と、
前記透過液Aまたは前記透過液Aの濃縮液を、被処理液Bとして第二のナノろ過膜ユニットにより透過液Cと濃縮液Dとに分離する第二分離手段と、
前記濃縮液Dを前記被処理液Bの残部に混合する第二循環手段と、
前記被処理液Aおよび前記被処理液Bの少なくとも一方に希釈水を添加する希釈手段と、
前記第一分離手段における透過液Aおよび濃縮液B、ならびに前記第二分離手段における透過液Cおよび濃縮液Dの各流量を制御可能な流量制御手段と、
前記希釈手段において、希釈水の添加流量と、希釈水が添加される被処理液をナノろ過膜ユニットに送液した際の透過液流量とを同期させる流量制御手段と、を備える。
【0107】
本発明のアルカリ金属塩の回収装置は、
第一分離装置と、第一循環設備と、第二分離設備と、第二循環設備と、希釈設備と、流量制御設備aと、流量制御設備bと、を備え、
前記第一分離設備は第一のナノろ過膜ユニットを備え、第一分離設備において、アルカリ金属イオンを含む溶液である被処理液Aは、前記第一のナノろ過膜ユニットにより透過液Aと濃縮液Bとに分離され、
前記第一循環設備において、前記濃縮液Bが前記被処理液Aの残部に混合され、
前記第二分離設備において、前記透過液Aまたは前記透過液Aの濃縮液が、被処理液Bとして第二のナノろ過膜ユニットにより透過液Cと濃縮液Dとに分離され、
前記第二循環設備において、前記濃縮液Dが前記被処理液Bの残部に混合され、
前記希釈設備において、前記被処理液Aおよび前記被処理液Bの少なくとも一方に希釈水が添加され、
前記流量制御設備aにおいて、前記第一分離装置において透過液Aおよび濃縮液B、ならびに前記第二分離装置において、透過液Cおよび濃縮液Dの各流量が制御され、
前記流量制御設備bにおいて、前記希釈手段における、希釈水の添加流量と、希釈水が添加される被処理液をナノろ過膜にユニットに送液した際の透過液流量とが同期される、
回収装置であってもよい。
【0108】
第一分離設備、第二分離設備において、ナノろ過膜ユニットは、ナノろ過膜のスパイラルエレメントが充填された圧力容器(ベッセル)を有し、高圧ポンプによりアルカリ金属イオンを含む溶液を前記ベッセルに供給できる構造であることが好ましい。ナノろ過膜ユニットは複数のベッセルを並列または直列に接続してもよく、各ベッセル内に複数のナノろ過膜エレメントを充填してもよい。ナノろ過膜のスパイラルエレメントは任意の直径、長さを有するものを用いることができる。ナノろ過膜のスパイラルエレメントは膜面積に応じてサイズが異なり、同一の膜種では、膜面積が大きいほど、より多くの液量を単位時間に処理できる。被処理液Aの規模に応じて、ナノろ過膜のスパイラルエレメントのサイズ、本数は任意に決めることができる。
【0109】
流量制御設備aとしては、ナノろ過膜ユニットの透過液、濃縮液の流量を一定に保つために、ナノろ過膜ユニットの透過液、濃縮液の流量を測定可能な計器(流量計)を有することが好ましい。透過液の流量制御について、高圧ポンプは透過液流量計のデータを随時受信し、一定の透過液流量になるように高圧ポンプの出力を制御できる機構を有することが好ましい。濃縮液流量制御については、濃縮液流量計の付近に電磁バルブを有することが好ましく、前記電磁バルブは、濃縮液流量計のデータを随時受信し、濃縮液流量が一定になるように制御できる機構を有することが好ましい。
第一循環設備、第二循環設備において、被処理液を充填するタンク(原水槽)を有し、ナノろ過膜ユニットから出る濃縮液を、原水槽に循環するための配管を有することが好ましい。
希釈設備において、希釈水を充填するタンク(希釈水槽)を有することが好ましい。希釈水槽から原水槽に希釈水を送液するためのポンプ(希釈水送液ポンプ)を有することが好ましい。
流量制御設備bとしては、前記希釈水送液ポンプは、前記透過液流量計のデータを随時受信し、透過液流量を同一の流量で希釈水を送液する機構を有することが好ましい。
上記の設備は、被処理液の液性や運転圧力に対して耐性がある素材を有することが好ましい。
本発明の回収装置は、アルカリ金属塩の回収を達成するために、上記に加え、ポンプ、配管、バルブ、槽、ベッセル、温度調節機器、計器類(pH計、電気伝導度計、流量計、圧力計など)を選定し、任意に組み合わせることができる。
【実施例
【0110】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例および比較例における測定は次のとおり行った。
【0111】
<ナノろ過膜および逆浸透膜の性能>
(ナノろ過膜のグルコース除去率、イソプロピルアルコール除去率)
供給水として25℃、pH6.5の1000mg/Lのグルコース水溶液を0.5MPaの操作圧力でナノろ過膜に透過させたときの透過液と供給水のグルコース濃度、および25℃、pH6.5の1000mg/Lのイソプロピルアルコール水溶液を0.5MPaの操作圧力でナノろ過膜に透過させたときの透過液と供給水のイソプロピルアルコール濃度から、下記式を用いてイソプロピルアルコール除去率とグルコース除去率を算出した。
イソプロピルアルコール除去率(%)=100×(1-(透過液中のイソプロピルアルコール濃度/供給水中のイソプロピルアルコール濃度))
グルコース除去率(%)=100×(1-(透過液中のグルコース濃度/供給水中のグルコース濃度))
なお、イソプロピルアルコール濃度はガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製GC-18A)を用いて求め、グルコース濃度は屈折率計(株式会社島津製作所製RID-6A)を用いて求めた。
【0112】
(ナノろ過膜の硫酸マグネシウム除去率、塩化マグネシウム除去率)
供給水として25℃、pH6.5の2000mg/Lの硫酸マグネシウム(以下、「MgSO」とも称する)水溶液を0.5MPaの操作圧力でナノろ過膜に透過させたときの透過液と供給水の硫酸マグネシウム濃度、および25℃、pH6.5の2000mg/Lの塩化マグネシウム(以下、「MgCl」とも称する)水溶液を0.5MPaの操作圧力でナノろ過膜に透過させたときの透過液と供給水の塩化マグネシウム濃度から、下記式を用いてMgSO除去率およびMgCl除去率を算出した。
硫酸マグネシウム濃度および塩化マグネシウム濃度は、供給水および透過液の電気伝導度を東亜電波工業株式会社製電気伝導度計により測定して、それぞれの実用塩分、すなわちMgSO濃度、およびMgCl濃度を得た。
MgSO除去率(%)=100×{1-(透過液中のMgSO濃度/供給水中のMgSO濃度)}
MgCl除去率(%)=100×{1-(透過液中のMgCl濃度/供給水中のMgCl濃度)}
【0113】
(陽電子ビーム法による陽電子消滅寿命測定法)
後述のナノろ過膜Aおよびナノろ過膜Bについて、平均孔径を導出した。
分離機能層の陽電子消滅寿命測定は、以下のように陽電子ビーム法を用いて行った。-30℃減圧下で複合半透膜を凍結乾燥させ、1.5cm×1.5cm角に切断して検査試料とした。陽電子ビーム発生装置を装備した薄膜対応陽電子消滅寿命測定装置(この装置は、例えば、Radiation Physics and Chemistry,58,603,Pergamon(2000)で詳細に説明されている)にて、ビーム強度0.1keVおよび0.5keV、室温真空下で、光電子増倍管を使用して二フッ化バリウム製シンチレーションカウンターにより総カウント数500万で検査試料の分離機能層側を測定し、POSITRONFITにより解析を行った。解析により得られた第3成分の平均寿命τから、Tao-Eldrupの式を用いて、ビーム強度が0.1keVの場合の平均孔径をR1およびビーム強度が0.5keVの場合の平均孔径をR2として導出し、R1/R2を計算した。得られた値を「孔径分布」とする。
【0114】
(溶液X)
特許文献2の表1に記載されている、レアメタル含有酸性水溶液AのLi、Ni2+、Co2+、Mn2+濃度になるように、硫酸リチウム、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを水に溶解させ、硫酸を用いてpHを1に調整した。さらに、該水溶液をpH1の硫酸水溶液で1.2倍に希釈し、溶液Xa(番号1)を作製した。
溶液Xa(番号1)に対し、Li濃度を1/2とした以外は同様の方法で溶液を調整し、溶液Xa(番号2)とした。
溶液Xa(番号1)に対し、Li濃度を1/4とした以外は同様の方法で溶液を調整し、溶液Xa(番号3)とした。
溶液Xa(番号1~3)に対し、pHを3.7に調整したこと以外は同様の方法で溶液Xb(番号1~3)をそれぞれ作製した。
溶液Xa(番号1~3)に対し、それぞれにホウ酸を添加し、ホウ素濃度を50mg/Lとした以外は同様の方法で、溶液をそれぞれ調整し、溶液Xc(番号1~3)とした。
上記で得られた溶液について、日立株式会社製のP-4010型ICP(高周波誘導結合プラズマ発光分析)装置を用いて、各種イオン濃度を定量した結果を表1に示す。
なお、溶液Xa、溶液Xbおよび溶液Xcを構成する番号1~3の液量は、各1000Lとした。
【0115】
【表1】
【0116】
<ナノろ過膜および逆浸透膜の作製>
(ナノろ過膜A)
ポリエステル繊維からなる不織布(通気度1cc/cm/s)上にポリスルホンの18.0質量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を180μmの厚みで室温(25℃)にてキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間静置することによって繊維補強ポリスルホンからなる多孔性支持膜(厚さ160μm)を作製した。
【0117】
次に、25℃に調整したエアーを吹き付け余分な水分を除去しつつ、多孔性支持膜の膜面温度を25℃に調整した。ピペラジン2.0質量%、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム250ppm、リン酸三ナトリウム1.0質量%を溶解した30℃の水溶液を多孔性支持膜の表面に塗布して15秒静置した後、エアーノズルから窒素を吹き付け、余分な水溶液を除去することで多孔性支持膜上にアミン水溶液の被覆層を形成させた。さらにトリメシン酸クロリド(以下、「TMC」)0.2質量%を含む38℃のn-デカン溶液を多孔性支持膜の表面全体に均一塗布した後、相対湿度70%、温度25℃で1分間静置することで界面重縮合を行い、膜面に2流体(純水とエアー)を吹き付けて、表面の溶液を除去した。その後、80℃の純水で洗浄し、ナノろ過膜Aを得た。
【0118】
(ナノろ過膜B)
ピペラジンを、2,5-ジメチルピペラジンとし、TMC0.2質量%を含む38℃のn-デカン溶液を多孔性支持膜の表面全体に均一塗布した後、相対湿度80%、25℃で1分間静置した以外は、ナノろ過膜Aと同様の方法でナノろ過膜を作製し、ナノろ過膜Bを得た。
【0119】
(ナノろ過膜E)
KOCH社のSelRO(登録商標)MPS-34をナノろ過膜Eとした。
【0120】
ナノろ過膜A、ナノろ過膜Bおよびナノろ過膜Eの膜性能を、表2に示す。
ナノろ過膜A、ナノろ過膜Bおよびナノろ過膜Eは、それぞれ任意の方法でスパイラル状に巻囲し、直径20.32cm、長さ102cmの膜エレメント(以下、「8inchエレメント」と称す)として使用した。
【0121】
【表2】
【0122】
(逆浸透膜C)
ナノろ過膜Aと同様の方法によって多孔性支持膜を作製し、25℃に調整したエアーを吹き付け余分な水分を除去しつつ、多孔性支持膜の膜面温度を25℃に調整した。m-フェニレンジアミン(以下、「m-PDA」)5.0質量%を溶解した水溶液に15秒間浸漬した後、エアーノズルから窒素を吹き付け余分な水溶液を除去し、さらにTMC0.18質量%を含む30℃のn-デカン溶液を多孔性支持膜の表面全体に均一塗布した後、30℃で1分間静置し、膜面に2流体(純水とエアー)を吹き付けて、表面の溶液を除去した。その後、80℃の純水で洗浄し、逆浸透膜Cを得た。
【0123】
(逆浸透膜D)
m-PDAを1.8質量%とし、さらにTMCを0.07質量%に変更した以外は、逆浸透膜Cと同様の方法によって作製した。
【0124】
上記逆浸透膜Cおよび逆浸透膜Dの膜性能を表3に示す。
逆浸透膜Cおよび逆浸透膜Dはそれぞれ、任意の方法でスパイラル状に巻囲し、8inchエレメントとして使用した。
【0125】
【表3】
【0126】
表3の結果から、逆浸透膜Cは高除去逆浸透膜であり、逆浸透膜Dは低除去逆浸透膜であることがわかった。
【0127】
<アルカリ金属塩の回収に関する評価>
(アルカリ金属イオン比率)
溶液中の各種イオン濃度を用い、下記式よりアルカリ金属イオン比率を算出した。
アルカリ金属イオン比率=リチウムイオン濃度/(コバルトイオン濃度+ニッケルイオン濃度+マンガンイオン濃度)
【0128】
(Li回収率)
Li回収率は次式で計算した。
Li回収率(%)={(最終的に逆浸透膜ユニットで濃縮された液量(L))×(最終的に逆浸透膜ユニットで濃縮された液中のLi濃度(mg/L))}/{(溶液Xの初期液量(L))×溶液Xの初期液中のLi濃度(mg/L))}
【0129】
なお、溶液X(k)において、第二のナノろ過工程の被処理液B(k)の残部を回収する場合は、該被処理液B(k)の残部に含まれるLiは、被処理液A(m)(m:(k+1)以上N以下の整数)、または被処理液A(p)(p:(k+2)以上N以下の整数)に添加することにより回収されるため、回収されたとみなし、溶液X(k)におけるLi回収率(k)は次式で計算した。実施例9においては下式を使用したが、溶液数N=3において、k=2、3についても、第二のナノろ過工程の被処理液B(k)の残部に含まれるLiは回収されるとみなした。
Li回収率(k)(%)={(溶液X(k)の処理において最終的に逆浸透膜ユニットで濃縮された液量(L))×(溶液X(k)の処理において最終的に逆浸透膜ユニットで濃縮された液中のLi濃度(mg/L))+(第二のナノろ過工程の被処理液B(k)の残部の液量(L))×(第二のナノろ過工程の被処理液B(k)の残部の液中のLi濃度(mg/L))}/{(溶液X(k)の初期液量(L))×(溶液X(k)の初期液中のLi濃度(mg/L))+(溶液X(k)に添加した第二のナノろ過工程の被処理液B(k-1:k≧2)の残部の液量(L))×((溶液X(k)に添加した第二のナノろ過工程の被処理液B(k-1:k≧2)の残部の液中のLi濃度(mg/L))}
【0130】
(Li純度)
Li純度は、最終的に逆浸透膜ユニットで濃縮された液の、アルカリ金属イオン比率とした。
【0131】
(ホウ素濃度比)
ホウ素濃度比は、最終的に逆浸透膜ユニットで濃縮された液の、リチウムイオン濃度に対するホウ素濃度の比で定義した。
【0132】
(合計処理時間)
合計処理時間は、各種溶液Xの番号1~3の処理を完了するのに要した時間の合計で定義した。
【0133】
(実施例1)
図1に示したプロセス構成にて、ナノろ過膜ユニットA(2a)およびナノろ過膜ユニットB(2b)のナノろ過膜としてナノろ過膜A、第1逆浸透膜ユニット3aの逆浸透膜として逆浸透膜Cを用い、溶液Xaの番号1~3の順番で、半回分処理工程を実施し、アルカリ金属塩の回収を実施した。なお、第1逆浸透膜ユニット3aの耐圧力値は、8MPaであった。ナノろ過工程は、透過液流量が60L/minの定流量濾過で実施した。ナノろ過工程のアルカリ金属イオン回収率を、式(2)を用いて運転圧力を監視することで確認し、第一のナノろ過工程ではアルカリ金属イオン回収率が93%、第二のナノろ過工程では、アルカリ金属イオン回収率が96%となるまで、ろ過を継続し、逆浸透ろ過工程は、透過液流量が60L/minの定流量濾過で実施し、運転圧力が7MPaになるまで継続した。なお、各ナノろ過膜ユニット、逆浸透膜ユニットには、それぞれ8inchエレメント4本を直列に接続して使用した。
本プロセスを実施した結果を表4に示した。
【0134】
(実施例2)
溶液Xaではなく、溶液Xbの番号1~3を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。
本プロセスを実施した結果を表4に示した。pHが3.7と高い場合、pHが1.0の実施例1に比べてアルカリ金属イオンの透過率が下がり、合計処理時間が増大したが、高純度、高回収率でリチウムイオンを回収することができた。
【0135】
(実施例3)
図2に示したプロセス構成にて、ナノろ過膜ユニットA(2a)およびナノろ過膜ユニットB(2b)のナノろ過膜としてナノろ過膜A、第1逆浸透膜ユニット3aおよび第2逆浸透膜ユニット3bの逆浸透膜として逆浸透膜Cを用い、溶液Xaの番号1~3の順番で、半回分処理工程を実施し、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。なお、第2逆浸透膜ユニット3bの耐圧力値は、8MPaであった。ナノろ過工程は、透過液流量が60L/minの定流量濾過で実施した。第一のナノろ過工程および第二のナノろ過工程のアルカリ金属イオン回収率を、それぞれ式(2)を用いて運転圧力を監視することで確認し、第一のナノろ過工程ではアルカリ金属イオン回収率が93%、第二のナノろ過工程では、アルカリ金属イオン回収率が96%となるまで、ろ過を継続した。逆浸透ろ過工程は、それぞれ透過液流量が15L/minの定流量濾過で実施し、運転圧力が7MPaになるまで継続した。なお、各ナノろ過膜ユニット、逆浸透膜ユニットには、それぞれ8inchエレメント4本を直列に接続して使用した。
【0136】
本プロセスを実施した結果を表4に示した。ナノろ過工程の後に都度、逆浸透膜ユニットによる濃縮をすると、再後段のナノろ過工程後にRO濃縮を1度だけする場合と比較して、合計処理時間がやや増加したが、高純度、高回収率でリチウムイオンを回収することができた。
【0137】
(実施例4)
ナノろ過膜Bを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。
本プロセスを実施した結果を表4に示した。所定の性能を満たすナノろ過膜Bを使用した場合、純度および回収率が向上し、短時間で処理可能であることがわかる。
【0138】
(実施例5)
ナノろ過工程のアルカリ金属イオン回収率を、式(2)を用いた運転圧力の監視を実施せず、適宜透過液を分析することで確認した以外は、実施例4と同様の方法で、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。
本プロセスを実施した結果を表4に示した。適宜分析に時間を要するため、式(2)を用いた運転圧力の監視を実施する場合に比較して処理時間が増加した。
【0139】
(実施例6)
溶液Xcを使用した以外は、実施例4と同様の方法で、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。
本プロセスを実施した結果を表4に示した。
【0140】
(実施例7)
図9に示したプロセス構成にて、ナノろ過膜ユニットA(2a)およびナノろ過膜ユニットB(2b)のナノろ過膜としてナノろ過膜B、第1逆浸透膜ユニット3aの逆浸透膜として逆浸透膜D、高除去逆浸透膜ユニット4の逆浸透膜として逆浸透膜Dを用い、溶液Xc1~3の順番で、半回分処理工程を実施し、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。第一のナノろ過工程および第二のナノろ過工程は、透過液流量が60L/minの定流量濾過で実施した。第一のナノろ過工程および第二のナノろ過工程のアルカリ金属イオン回収率を、式(2)を用いて運転圧力を監視することで確認し、第一のナノろ過工程ではアルカリ金属イオン回収率が93%、第二のナノろ過工程では、アルカリ金属イオン回収率が96%となるまで、ろ過を継続した。逆浸透ろ過工程は、透過液流量が60L/minの定流量濾過で実施し、運転圧力が7MPaになるまで継続した。なお、各ナノろ過膜ユニット、逆浸透膜ユニットには、それぞれ8inchエレメント4本を直列に接続して使用した。
本プロセスを実施した結果を表4に示した。低除去膜である逆浸透膜Dで濃縮を行うことにより、ホウ素が除去できたことがわかる。
【0141】
(実施例8)
図3に示したプロセス構成にて、ナノろ過膜ユニットA(2a)およびナノろ過膜ユニットB(2b)のナノろ過膜としてナノろ過膜B、第1逆浸透膜ユニット3aの逆浸透膜として逆浸透膜D、高除去逆浸透膜ユニット4の逆浸透膜として逆浸透膜Dを用い、溶液Xc1~3の順番で、半回分処理工程を実施し、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。第一のナノろ過工程および第二のナノろ過工程は、透過液流量が60L/minの定流量濾過で実施した。第一のナノろ過工程および第二のナノろ過工程のアルカリ金属イオン回収率を、式(2)を用いて運転圧力を監視することで確認し、第一のナノろ過工程ではアルカリ金属イオン回収率が93%、第二のナノろ過工程では、アルカリ金属イオン回収率が96%となるまで、ろ過を継続し、逆浸透ろ過工程は、透過液流量が60L/minの定流量濾過で実施し、運転圧力が7MPaになるまで継続した。なお、各ナノろ過膜ユニット、逆浸透膜ユニットには、それぞれ8inchエレメント4本を直列に接続して使用した。
本プロセスを実施した結果を表4に示した。低除去膜である逆浸透膜Dで濃縮を行い、かつ逆浸透ろ過工程に循環工程を設けることで、実施例7と比較してホウ素がより除去できていることがわかる。
【0142】
(実施例9)
図8に示したプロセス構成にて、ナノろ過膜ユニットA(2a)およびナノろ過膜ユニットB(2b)のナノろ過膜としてナノろ過膜A、第1逆浸透膜ユニット3aの逆浸透膜として逆浸透膜Cを用い、溶液Xaの番号1~3の順番で、半回分処理工程を実施し、アルカリ金属塩の回収を実施した。このとき、溶液Xa1(すなわち溶液X(1))における工程2後の被処理液B(1)を、溶液Xa3(すなわち溶液X(3))における被処理液A(3)に添加した。なお、第1逆浸透膜ユニット3aの耐圧力値は、8MPaであった。ナノろ過工程は、透過液流量が60L/minの定流量濾過で実施した。ナノろ過工程のアルカリ金属イオン回収率を、式(2)を用いて運転圧力を監視することで確認し、第一のナノろ過工程ではアルカリ金属イオン回収率が93%、第二のナノろ過工程では、アルカリ金属イオン回収率が80%となるまで、ろ過を継続し、逆浸透ろ過工程は、透過液流量が60L/minの定流量濾過で実施し、運転圧力が7MPaになるまで継続した。なお、各ナノろ過膜ユニット、逆浸透膜ユニットには、それぞれ8inchエレメント4本を直列に接続して使用した。
本プロセスを実施した結果を表4に示した。被処理液B(k)の残部を、被処理液A(p)に添加することで、より高純度、高回収率でリチウムイオンを回収することができることがわかる。
【0143】
(比較例1)
図4に示したプロセス構成にて、ナノろ過膜ユニットA(2a)およびナノろ過膜ユニットB(2b)のナノろ過膜としてナノろ過膜A、第1逆浸透膜ユニット3aの逆浸透膜として逆浸透膜Cを用い、溶液Xaの番号1~3の順番で、半回分処理工程を実施し、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。なお、全工程において、透過液流量が60L/minとなるように実施した。なお、各ナノろ過膜ユニット、逆浸透膜ユニットには、それぞれ8inchエレメント4本を直列に接続して使用した。
本プロセスを実施した結果を表5に示した。ナノろ過工程が循環工程を有さない場合、リチウム回収率が低いことがわかる。
【0144】
(実施例10)
図5に示したプロセス構成にて、ナノろ過膜ユニットA(2a)のナノろ過膜としてナノろ過膜A、第1逆浸透膜ユニット3aの逆浸透膜として逆浸透膜Cを用い、溶液Xaの番号1~3の順番で、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。なお、第1逆浸透膜ユニット3aの耐圧力値は、8MPaであった。ナノろ過工程は、透過液流量が60L/minの定流量濾過で実施した。ナノろ過工程のアルカリ金属イオン回収率を、式(2)を用いて運転圧力を監視することで確認し、第一のナノろ過工程ではアルカリ金属イオン回収率が93%、第二のナノろ過工程では、アルカリ金属イオン回収率が80%となるまで、ろ過を継続し、逆浸透ろ過工程は、透過液流量が60L/minの定流量濾過で実施し、運転圧力が7MPaになるまで継続した。なお、全工程において、透過液流量が60L/minとなるように実施した。なお、各ナノろ過膜ユニット、逆浸透膜ユニットには、それぞれ8inchエレメント4本を直列に接続して使用した。
本プロセスを実施した結果を表5に示した。
【0145】
(比較例2)
図6に示したシステム構成にて、ナノろ過膜ユニットA(2a)のナノろ過膜としてナノろ過膜A、第1逆浸透膜ユニット3aの逆浸透膜として逆浸透膜Cを用い、溶液Xaの番号1~3の順番で、半回分処理工程を実施し、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。なお、全工程において、透過液流量が60L/minとなるように実施した。なお、各ナノろ過膜ユニット、逆浸透膜ユニットには、それぞれ8inchエレメント4本を直列に接続して使用した。
本プロセスを実施した結果を表5に示した。第一のナノろ過工程のみである場合、リチウム純度が低いことがわかる。
【0146】
(比較例3)
図7に示したプロセス構成にて、ナノろ過膜ユニットA(2a)およびナノろ過膜ユニットB(2b)のナノろ過膜としてナノろ過膜A、第1逆浸透膜ユニット3aの逆浸透膜として逆浸透膜Cを用い、溶液Xaの番号1~3の順番で、連続処理工程を実施し、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。なお、全工程において、透過液流量が60L/minとなるように実施した。なお、各ナノろ過膜ユニット、逆浸透膜ユニットには、それぞれ8inchエレメント4本を直列に接続して使用した。
本プロセスを実施した結果を表5に示した。連続処理工程では、リチウム回収率が低いことがわかる。
【0147】
(比較例4)
ナノろ過膜Eを使用した以外は、比較例1と同様の方法で、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。
本プロセスを実施した結果を表5に示した。
【0148】
(実施例11)
ナノろ過膜Eを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。
本プロセスを実施した結果を表5に示した。本実施形態に係るプロセスを適用することで、比較例4よりもリチウム回収率が向上することがわかる。
【0149】
(実施例12)
ナノろ過膜Eを使用した以外は、実施例9と同様の方法で、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。
本プロセスを実施した結果を表5に示した。ナノろ過膜Eを用いた場合でも、被処理液B(k)の残部を、被処理液A(p)に添加することで、より高純度、高回収率でリチウムイオンを回収することができることがわかる。
【0150】
(実施例13)
図10に示したプロセス構成にて、ナノろ過膜ユニットA(2a)のナノろ過膜としてナノろ過膜A、第1逆浸透膜ユニット3aの逆浸透膜として逆浸透膜Cを用い、溶液Xaの番号1~3の順番で、アルカリ金属塩の回収プロセスを実施した。なお、第1逆浸透膜ユニット3aの耐圧力値は、8MPaであった。ナノろ過工程は、透過液流量が60L/minの定流量濾過で実施した。ナノろ過工程のアルカリ金属イオン回収率を、式(2)を用いて運転圧力を監視することで確認し、第一のナノろ過工程ではアルカリ金属イオン回収率が93%、第二のナノろ過工程では、アルカリ金属イオン回収率が80%となるまで、ろ過を継続し、逆浸透ろ過工程は、透過液流量が60L/minの定流量濾過で実施し、運転圧力が7MPaになるまで継続した。なお、全工程において、透過液流量が60L/minとなるように実施した。なお、各ナノろ過膜ユニット、逆浸透膜ユニットには、それぞれ8inchエレメント4本を直列に接続して使用した。
本プロセスを実施した結果を表5に示した。被処理液B(k)の残部を、被処理液A(m)に添加することで、より高純度、高回収率でリチウムイオンを回収することができることがわかる。
【0151】
【表4】
【0152】
【表5】

【0153】
以上の実施例および比較例においては、リチウム回収率、リチウム純度、は高いほど優位であり、ホウ素濃度比、合計処理時間、は低いほど優位である。
以上の結果から、本発明のアルカリ金属塩の回収方法である実施例1~8は、比較例1~4と比してアルカリ金属塩を高純度かつ高回収率、かつ短時間で回収できることがわかった。また、実施例6~8の結果から、ホウ素など中性分子が含まれる場合においても、これらを高い効率で除去することができるとともに、合計処理時間を短縮することができることがわかった。
【0154】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2022年11月30日付けで出願された日本特許出願(特願2022-192379)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明は、リチウムイオン電池やその製造工程で生じる廃材、廃液および鉱石やスラグなどからリチウムなどのアルカリ金属を効率的に分離回収する方法として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0156】
1 限外ろ過膜ユニット
2a ナノろ過膜ユニットA
2b ナノろ過膜ユニットB
3a 第1逆浸透膜ユニット
3b 第2逆浸透膜ユニット
4 高除去逆浸透膜ユニット
5a 第1タンク
5b 第2タンク
5c 第3タンク
5d 第4タンク
5e 第5タンク
5f 第6タンク
5g 第7タンク
5h 第8タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10