(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】捨石式構造物の補修方法及び捨石式構造物
(51)【国際特許分類】
E02B 3/12 20060101AFI20241224BHJP
【FI】
E02B3/12
(21)【出願番号】P 2024181569
(22)【出願日】2024-10-17
【審査請求日】2024-10-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524382963
【氏名又は名称】創成技研コンサルタント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】397045769
【氏名又は名称】環境工学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】524382099
【氏名又は名称】株式会社アークス
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100166327
【氏名又は名称】舟瀬 芳孝
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 直樹
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-139165(JP,A)
【文献】特開平11-336044(JP,A)
【文献】特開平03-262813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
捨石をもって築造された土台部を被覆する被覆石層から被覆石が抜け出て、該被覆石層に抜け穴が形成された捨石式構造物の補修方法であって、
前記抜け穴内に、立体として膨らむことが可能な可撓性シート製型枠を、非立体にした状態で敷設し、
次に、前記可撓性シート製型枠内に流動状態の硬化材料を注入して、該可撓性シート製型枠を該硬化材料により膨らませ、
前記硬化材料により膨らませた可撓性シート製型枠を、被覆材として、前記抜け穴内に充填させると共に、該抜け穴内面を形成する既設被覆石の間に進入させる、
ことを特徴とする捨石式構造物の補修方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記可撓性シート製型枠内への前記流動状態の硬化材料の注入に伴い、該可撓性シート製型枠を介して該硬化材料に外力を加えて、該可撓性シート製型枠及び該可撓性シート製型枠内の硬化材料を前記既設被覆石間に押し込む、
ことを特徴とする捨石式構造物の補修方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記可撓性シート製型枠として、通気性材料を用いて、前記抜け穴内底面に覆うように敷設するための下面部と、該下面部の上方側に位置する上面部と、該上面部と該下面部の周縁部同士をつないで内部空間を形成し該内部空間に前記硬化材料が未注入のときには該上面部が該下面部に重なるように縮む側面部と、を有するものを用意し、
前記抜け穴内に可撓性シート製型枠を敷設するに当たり、少なくとも該可撓性シート製型枠の下面部を、該抜け穴内底面全体を覆うように配置し、
次いで、前記可撓性シート製型枠内への流動状態の硬化材料の注入に伴い、該可撓性シート製型枠の上面部を該可撓性シート製型枠の下面部から離間させつつ該可撓性シート製型枠の側面部を膨らませ、該可撓性シート製型枠の膨らんだ側面部を利用して前記抜け穴内面に沿うように馴染ませる、
ことを特徴とする捨石式構造物の補修方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記可撓性シート製型枠を複数用意し、該可撓性シート製型枠毎に、前記抜け穴内での可撓性シート製型枠の敷設工程、前記流動状態の硬化材料の注入工程を順次、行うことにより、該抜け穴内において、前記硬化材料により膨らませた可撓性シート製型枠を複数形成し、
前記硬化材料により膨らませた複数の可撓性シート製型枠の隣合うもの同士を、該両可撓性シート製型枠内の硬化材料が未硬化であることを利用して、該両可撓性シート製型枠内の硬化材料に連結筋を差し込むことにより連結する、
ことを特徴とする捨石式構造物の補修方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記抜け穴内から抜け出た被覆石の重量を見積り、
前記抜け穴内における前記可撓性シート製型枠内の硬化材料の重量を調整して、該重量を、前記抜け穴内から抜け出た被覆石の重量以上にする、
ことを特徴とする捨石式構造物の補修方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記可撓性シート製型枠内の硬化材料の重量を決めるに当たり、前記抜け穴内に対して必要な一定体積の下で、前記硬化材料の比重を調整する、
ことを特徴とする捨石式構造物の補修方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項において、
前記抜け穴内から露出する前記可撓性シート製型枠内の硬化材料が未硬化であるときに、アンカーが伸びた状態で取付けられた石材を、該アンカーを該可撓性シート製型枠を介して該硬化材料中に差し込むことにより、該可撓性シート製型枠の上面に該上面を覆うように固定する、
ことを特徴とする捨石式構造物の補修方法。
【請求項8】
捨石をもって築造された土台部上に該土台部を被覆するように被覆石層が設けられている捨石式構造物において、
前記被覆石層の一部に、硬化材料を収納することにより膨らんだ可撓性シート製型枠が設けられ、
前記硬化材料を収納することにより膨らんだ可撓性シート製型枠が、該可撓性シート製型枠周囲の既設被覆石間に進入されて、該硬化材料を収納することにより膨らんだ可撓性シート製型枠と該既設被覆石とが噛み合い、
前記可撓性シート製型枠の上面に、アンカーが伸びた状態で取付けられた石材が、該アンカーを該可撓性シート製型枠を介して該該可撓性シート製型枠内の硬化材料中に差し込むことにより固定されている、
ことを特徴とする捨石式構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捨石式構造物の補修方法及び捨石式構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
捨石式構造物として、防波堤、護岸等が存在する。捨石式構造物は、一般に、特許文献1に示すように、捨石を積み上げて土台部を築造し、その土台部の法面を被覆石層により被覆するものとされている。これにより、捨石式構造物においては、被覆石層が、土台部における捨石の吸い出し等を防ぎ、その安定した構造により、外洋から打ち寄せる波を防ぐ。
【0003】
ところで、上記のような捨石式構造物の被覆石層において、水面付近で被覆石が飛散することがある。波浪により被覆石間に設置されている間詰石が飛散し、被覆石の安定性が確保できないためと考えられる。このような被覆石層における被覆石の飛散を放置しておくと、土台部における捨石が吸い出されて、捨石式構造物の構造に影響を与えることになる。このため、被覆石層において、被覆石の飛散があった場合には、補修が行われることになっており、その補修方法としては、海上からの船舶により、補修個所(被覆石の抜け穴内)に被覆材を間詰めすることが一般に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、被覆石の抜け穴に対する補修方法として、その抜け穴に対して被覆材の間詰めを行うこととした場合、被覆材として、抜け穴の開口を超える大きさのものを抜け穴に入れることができず、抜け穴内に入れることができる程度の比較的小さな被覆材を用いなければならない。このため、このような大きさの被覆材では、抜け穴内面を形成する既設の被覆石に噛み合わせることができない。さらに、被覆石が抜け出た後に、その抜け穴内面を形成する既設の被覆石に事後的に被覆材を噛み合わせること自体が難しく、被覆材の間詰めでは、その被覆材を既設の捨石に噛み合わせることは実質上不可能である。このため、このような補修を行った捨石式構造物においては、被覆石層を強固に一体化することができず、波浪来襲時には、間詰めした被覆材は、吸い出されることにより抜け出すことになり、再度の補修が必要となる。
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その第1の目的は、被覆石層から被覆石が抜け出ることにより形成された抜け穴内に被覆材を十分な大きさをもって充填して、その被覆材を、抜け穴内面を形成する既設の被覆石に対して強固に噛み合わせることができる捨石式構造物の補修方法を提供することにある。第2の目的は、上記補修方法を用いて構築された捨石式構造物を提供することにある。
【0007】
前記第1の目的を達成するため本発明にあっては、次の(1)~(7)の構成とされている。
【0008】
(1)捨石をもって築造された土台部を被覆する被覆石層から被覆石が抜け出て、該被覆石層に抜け穴が形成された捨石式構造物の補修方法であって、
前記抜け穴内に、立体として膨らむことが可能な可撓性シート製型枠を、非立体にした状態で敷設し、
次に、前記可撓性シート製型枠内に流動状態の硬化材料を注入して、該可撓性シート製型枠を該硬化材料により膨らませ、
前記硬化材料により膨らませた可撓性シート製型枠を、被覆材として、前記抜け穴内に充填させると共に、該抜け穴内面を形成する既設被覆石の間に進入させる構成とされている。
【0009】
この構成によれば、可撓性シート製型枠を非立体にした状態で抜け穴内に敷設し、その可撓性シート製型枠内に流動状態の硬化材料を注入してその可撓性シート製型枠を膨らませれば、その硬化材料により膨らませた可撓性シート製型枠を、抜け穴の開口を超えた十分に大きいものとしてその抜け穴に入れ込むことができる。さらには、可撓性シート製型枠内における硬化材料の流動性(変形可能性)を利用して、硬化材料により膨らませた可撓性シート製型枠を、抜け穴内面を形成する既設被覆石に馴染ませつつその既設被覆石の間(隙間)に進入させ、硬化材料の硬化後に、その硬化材料を収納した可撓性シート製型枠を被覆材として既設の被覆石に対して強固に噛み合わせることができる。このため、被覆石層から被覆石が抜け出ることにより形成された抜け穴内に被覆材を十分な大きさをもって充填して、その被覆材を既設被覆石に対して強固に噛み合わせることができる捨石式構造物の補修方法を提供できる。勿論この場合、硬化材料を収納した可撓性シート製型枠である被覆材を抜け穴内に十分な大きさをもって充填できることから、その被覆材の重量をもって安定性を確保できる。
【0010】
(2)前記(1)の構成の下で、
前記可撓性シート製型枠内への前記流動状態の硬化材料の注入に伴い、該可撓性シート製型枠を介して該硬化材料に外力を加えて、該可撓性シート製型枠及び該可撓性シート製型枠内の硬化材料を前記既設被覆石間に押し込む構成とされている。
【0011】
この構成によれば、可撓性シート製型枠内への流動状態の硬化材料の注入に伴い、可撓性シート製型枠が膨らむことになり、その可撓性シート製型枠の膨らみに対して外力を付与することにより、可撓性シート製型枠及びその可撓性シート製型枠内の硬化材料を既設被覆石間に積極的且つ的確に案内することができる。このため、硬化材料を収納した可撓性シート製型枠である被覆材を、既設被覆石に対して一層、強固に噛み合わせることができる。
【0012】
(3)前記(1)の構成の下で、
前記可撓性シート製型枠として、通気性材料を用いて、前記抜け穴内底面に覆うように敷設するための下面部と、該下面部の上方側に位置する上面部と、該上面部と該下面部の周縁部同士をつないで内部空間を形成し該内部空間に前記硬化材料が未注入のときには該上面部が該下面部に重なるように縮む側面部と、を有するものを用意し、
前記抜け穴内に可撓性シート製型枠を敷設するに当たり、少なくとも該可撓性シート製型枠の下面部を、該抜け穴内底面全体を覆うように配置し、
次いで、前記可撓性シート製型枠内への流動状態の硬化材料の注入に伴い、該可撓性シート製型枠の上面部を該可撓性シート製型枠の下面部から離間させつつ該可撓性シート製型枠の側面部を膨らませ、該可撓性シート製型枠の膨らんだ側面部を利用して前記抜け穴内面に沿うように馴染ませる構成とされている。
【0013】
この構成によれば、抜け穴内での可撓性シート製型枠の敷設において、上面部を下面部に重なるように縮ませた状態(非立体状態)にした可撓性シート製型枠を、その下面部が少なくとも抜け穴内底面全体を覆うようにし、その可撓性シート製型枠内に流動状態の硬化材料を注入さえすれば、その注入に伴い、下面部が抜け穴内底面に押し付けられてその抜け穴内底面に馴染む一方で、上面部が下面部から離間する方向に移動し、その移動に伴って、側面部が立ち上がる。そしてその側面部の立ち上がりに伴い、側面部が、外に向けて膨らみ、その側面部は、抜け穴内周面に押し付けられてその抜け穴内周面に馴染むことになる。このため、可撓性シート製型枠内の硬化材料の硬化後に、その硬化材料が収納された可撓性シート製型枠により、抜け穴内に収容される被覆材の必要な大きさ、必要重量を簡単且つ円滑に確保できるだけでなく、その硬化材料が収納された可撓性シート製型枠を被覆石層における既設被覆石に噛み合わせることができる。
【0014】
(4)前記(1)の構成の下で、
前記可撓性シート製型枠を複数用意し、該可撓性シート製型枠毎に、前記抜け穴内での可撓性シート製型枠の敷設工程、前記流動状態の硬化材料の注入工程を順次、行うことにより、該抜け穴内において、前記硬化材料により膨らませた可撓性シート製型枠を複数形成し、
前記硬化材料により膨らませた複数の可撓性シート製型枠の隣合うもの同士を、該両可撓性シート製型枠内の硬化材料が未硬化であることを利用して、該両可撓性シート製型枠内の硬化材料に連結筋を差し込むことにより連結する構成とされている。
【0015】
この構成によれば、硬化材料により膨らませた複数の可撓性シート製型枠を、被覆材として、一体化した状態で抜け穴内に収容することができ、種々の大きさの抜け穴の補修に的確に対応することができる。
【0016】
(5)前記(1)の構成の下で、
前記抜け穴内から抜け出た被覆石の重量を見積り、
前記抜け穴内における前記可撓性シート製型枠内の硬化材料の重量を調整して、該重量を、前記抜け穴内から抜け出た被覆石の重量以上にする構成とされている。
【0017】
この構成によれば、硬化材料を収納する可撓性シート製型枠を被覆材として用いることから、可撓性シート製型枠内への流動状態の硬化材料の注入量、硬化材料の比重等を調整することにより、被覆材の重量を、簡単に、抜け穴内から抜け出た被覆石の重量(必要重量)以上にすることができ、被覆石層の安定性を向上させることができる。
【0018】
(6)前記(5)の構成の下で、
前記可撓性シート製型枠内の硬化材料の重量を決めるに当たり、前記抜け穴内に対して必要な一定体積の下で、前記硬化材料の比重を調整する構成とされている。
【0019】
この構成によれば、抜け穴内に充填する被覆材(硬化材料を収納する可撓性シート製型枠)が、抜け穴内に必要な一定体積である状態にあっても、被覆材の重量を増大させることができ、被覆材の設置安定性を簡単に高めることができる。
【0020】
(7)前記(1)~(6)のいずれかの構成の下で、
前記抜け穴内から露出する前記可撓性シート製型枠内の硬化材料が未硬化であるときに、アンカーが伸びた状態で取付けられた石材を、該アンカーを該可撓性シート製型枠を介して該硬化材料中に差し込むことにより、該可撓性シート製型枠の上面に該上面を覆うように固定する構成とされている。
【0021】
この構成によれば、抜け穴内から露出する可撓性シート製型枠内の硬化材料が硬化すれば、その可撓性シート製型枠上面に石材が覆った状態で固定されることになり、その可撓性シート製型枠上面の石材をもって周辺環境に調和させることができる。
【0022】
前記第2の目的を達成するため本発明にあっては、次の(8)の構成とされている。
【0023】
(8)捨石をもって築造された土台部上に該土台部を被覆するように被覆石層が設けられている捨石式構造物において、
前記被覆石層の一部に、硬化材料を収納することにより膨らんだ可撓性シート製型枠が設けられ、
前記硬化材料を収納することにより膨らんだ可撓性シート製型枠が、該可撓性シート製型枠周囲の既設被覆石間に進入されて、該硬化材料を収納することにより膨らんだ可撓性シート製型枠と該既設被覆石とが噛み合い、
前記可撓性シート製型枠の上面に、アンカーが伸びた状態で取付けられた石材が、該アンカーを該可撓性シート製型枠を介して該該可撓性シート製型枠内の硬化材料中に差し込むことにより固定されている構成とされている。
【0024】
この構成によれば、前述の(1)又は(7)の方法によって補修された捨石式構造物を提供できる。しかも、捨石式構造物を構築するに当たり、当初から、被覆石層の一部に硬化材料を収納した可撓性シート製型枠を用いる場合には、被覆石層の強度を高めた捨石式構造物を迅速に構築できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、被覆石層から被覆石が抜け出ることにより形成された抜け穴内に被覆材を十分な大きさをもって充填して、その被覆材を、抜け穴内面を形成する既設の被覆石に対して強固に噛み合わせることができる捨石式構造物の補修方法を提供できる。また、上記補修方法を用いて構築された捨石式構造物を提供でき、捨石式構造物を構築するに当たり、当初から、被覆石層の一部に硬化材料を収納した可撓性シート製型枠を用いる場合には、被覆石層の強度を高めた捨石式構造物を迅速に構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】捨石構造物としての防波堤を説明する説明図。
【
図2】
図1の防波堤における被覆石層に形成される被覆石の抜け穴の一例を示す拡大説明図。
【
図3】第1実施形態に係る防波堤の補修工程を示す工程図。
【
図4】第1実施形態に係る布製型枠が非立体の状態(シート状状態)にあることを示す斜視図。
【
図5】第1実施形態に係る布製型枠が立体の状態になることを説明する説明図。
【
図6】第1実施形態に係る布製型枠の敷設工程を説明する説明図。
【
図7】第1実施形態に係る水中コンクリートの注入工程を説明する説明図。
【
図8】第1実施形態に係るアンカー付き石材の取付け工程を説明する説明図。
【
図9】第1実施形態に係る施工が完了した状態を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
先ず、捨石式構造物について説明する。捨石式構造物には、防波堤、護岸等があり、その一例として、本実施形態においては、
図1に示すような防波堤1が示されている。防波堤1は、波浪から港湾内部を静穏に保つこと等を目的として、港外側と港内側とを区分するように伸びており、その防波堤1には、断面(横断面)台形形状に形成された状態で伸びる土台部2(基礎マウンド)と、その土台部2の幅方向(
図1中、左右方向)両側面上に設けられる被覆石層3と、天端コンクリート層4と、が設けられている。
【0028】
土台部2は、防波堤1の安定化を図るべく、多数の捨石を積み上げて築造されるものであり、その土台部2は、既知の如く、港外側と港内側とにそれぞれ向かう側面が法面2aとして形成されている。この土台部2には、捨石として、一般的なもの(直径40~70cm程度)が用いられており、その捨石は、土台部2の各法面2aにおいて露出されている。被覆石層3は、前記土台部2の法面2aを波浪から保護すべく、その法面2aを被覆している。被覆石層3は、本実施形態においては、土台部2の天端付近から、法面2aに沿いつつ水中内に入り込むように伸びており、その範囲設定に関しては、水面Wの水位が変化してもその水面Wの水位が被覆石層3に余裕をもって接するようにすることが考慮されている。この被覆石層3は、多数の被覆石3aを噛み合わせつつ一定厚さとなるように積み上げられており、それらが土台部2の法面2aを覆うことになっている。この被覆石3aとしては、前記捨石よりも大きく且つ重い一般的なもの(1~2(t/個)であって、直径90~120cm程度)が用いられており、この被覆石3a間には、必要に応じて間詰石が設けられる。天端コンクリート層4は、土台部2の天端面2bを被覆している。この天端コンクリート層4は、土台部2の天端面2bにおいて、その土台部2の幅方向両側の被覆石層3間に介在されて、その両被覆石層3に連なっており、その天端コンクリート層4の上面4aは、両被覆石層3の上面と共に面一な平坦面を形成している。
【0029】
このような防波堤1においては、特に水面W付近で被覆石層3の被覆石3aが飛散して、
図2に示すように、被覆石層3に抜け穴5が形成されることがある。波浪により被覆石3a間に設置されている間詰石が飛散し、被覆石3aの安定性が確保できないためと考えられる。このような抜け穴5を放置しておくと、それがさらに拡大、伸長して、土台部2における捨石が吸い出され、そのことは、捨石式構造物の構造に影響を与えることになる。このため、そのような現象を防ぐべく、被覆石層3に抜け穴5が生成された段階で補修する必要がある。
【0030】
本実施形態(第1実施形態)に係る補修方法は、上記現象を防ぐと共に、補修後の再度の補修を極力なくすことができるようにしたものであり、そのために、本実施形態に係る補修方法おいては、
図3に示すように、準備工程、布製型枠の敷設工程、水中コンクリートの注入工程、石材取付け工程が、順に実施される。
【0031】
準備工程においては、前記抜け穴5の状態を調べて、その抜け穴5に応じた可撓性シート製型枠としての布製型枠6と、硬化材料としての水中コンクリート7とが用意される。布製型枠6内に水中コンクリート7が注入されたものが補修用の被覆材として抜け穴5内に収容され、布製型枠6及び水中コンクリート7が抜け穴5の状態に適合した状態で使用される必要があるからである。このため、先ず、抜け穴5の状態が調べられ、その際に、抜け穴5の内底面5a(既設被覆石3aで形成)の直径、面積、抜け穴5の深さ、抜け穴5の内周面5b(内面のうち、内底面5aから立ち上がっている面であって、既設被覆石3aで形成されたもの)及び開口の内径、内部形状等、種々の内容の収集、計測が行われる。そしてさらに、その内容から、抜け穴5の内容積、被覆材(水中コンクリート7)の必要重量及びその必要体積(必要注入量)が算出される。具体的には、抜け穴5の状態内容(計測値)を利用して抜け穴5の内容積が算出され(概略値)、その内容積と被覆石3aの比重(例えば2.65g/cm3)とにより水中コンクリート7(被覆材)の必要重量が算出される。そしてその水中コンクリート7の必要重量とその水中コンクリート7の比重(例えば2.5t/m3)とにより、水中コンクリート7の注入量(体積)が算出される。
【0032】
前記用意すべき布製型枠6は、基本的に、水中コンクリート7を注入すべき内部空間を有し、その内部空間に流動状態の水中コンクリート7を注入することに伴い、膨らむ機能を有している。このため、布製型枠6には、本実施形態においては、通気性、透水性を有すると共に、伸縮可能で且つ所定強度が確保された布材が用いられ、その布材の形成には、高強度合成繊維(例えばポリエステル)が用いられる。本実施形態においては、高強度合成繊維としてポリエステル繊維を用いて、引張強さ350(kgf/3cm)、伸度16(%)、引裂強さ80(kgf)とした布材が用いられている。
【0033】
前記布製型枠6をより具体的に説明する。布製型枠6は、
図4、
図5に示すように、前記布材を用いて、下面部6aと、その下面部6aの上方側に位置する上面部6bと、その上面部6bと下面部6aの周縁部同士をつなぐ側面部6cと、により構成され、これらは、内部空間6dを形成できることになっている(
図5参照)。そして、この内部空間6dには、上面部6bに縫合により接続された布製注入口(布材を合わせて形成されたもの)8を介して水中コンクリート7が注入できることになっている。このため、布製型枠6内に水中コンクリート7が注入されていない状態においては、上面部6bが下面部6aに重なるように縮み、それに伴って、側面部6cは上下方向略中央部付近で折り畳まれて(半折り)上面部6b及び下面部6aの外側にはみ出すことができ、布製型枠6は、非立体としてのシート状の状態となり得る(
図4参照)。他方、布製型枠6内に流動状態の水中コンクリート7が注入されるときには、それに伴い、上面部6bが下面部6aから離間しつつ側面部6cが膨らむことになり、布製型枠6は、立体状態となる。本実施形態においては、布製型枠6の上面部6b及び下面部6aが矩形形状に形成され、その上面部6b及び下面部6aの対応辺部が側面部6cを介して連なっており、布製型枠6は、立体となるときには、基本的に上方に伸びて直方体形状になろうとし、このとき、水中コンクリート7の注入の影響を受けて、側面部6cが外側に膨らむことになる。
図5における矢印は、布製型枠6が立体化しようとするとき、主として側面部6cが外側に向けて膨らむことを示している。
【0034】
前記用意すべき布製型枠6を選択するに当たっては、前述の通り、前記抜け穴5の状態内容が参考とされる。具体的には、収容容量が水中コンクリート7の必要注入量の要件を満たし、下面部6aが抜け穴5の内底面5a全体を覆う大きさのものであること、布製型枠6内に水中コンクリート7を注入して該布製型枠6を膨らませたとき、側面部6cが抜け穴5の内周面5bを押し付ける関係になるものであること等が考慮される。
【0035】
前記用意すべき水中コンクリート7としては、組成物として、セメント、水、砂(細骨材)、砂利(粗骨材)、混和材料等、既知の材料を含有し、その比重が、被覆石3aの比重(例えば2.65g/cm3)の値に近いもの(例えば2.5t/m3)が選択される。水中コンクリート7を収納した布製型枠6を用いても、それを抜け穴5内に充填さえすれば、抜け出た被覆石3aとほぼ同じ体積で且つほぼ同じ重量となり、防波堤1の安定性の観点から必要重量を満たしていることが視覚を通じて把握できるからである(作業の簡略化)。このことは、抜け穴5の規模が大きいために、被覆材として、水中コンクリート7を収納した複数の布製型枠6を抜け穴5内に収容しなければならない場合に有効に働く。水中コンクリート7を収納した布製型枠6の重量が予め明らかなもの(規格品)を用いて、抜け穴5内を充填さえすれば、その抜け穴5が大きくても、その抜け穴5にとって必要な重量が確保されることになるからである。
【0036】
しかし、今後、気候変動等に伴い、これまでの想定基準を超える強度、安定性が要求されることが考えられる。そのときには、水中コンクリート7の骨材として、これまでの標準的なものに比べて比重が高いものを使用して、水中コンクリート7の比重をこれまで以上(被覆石3aの比重(例えば2.65g/cm3)を超えるもの)にすることができる。これにより、抜け穴5に収容する必要体積を同じにするだけで、重量を、これまでの重量(必要重量)よりも増大させることができ、強度、安定性を高めることができる。
【0037】
前記準備工程が終了すると、
図3、
図6に示すように、布製型枠6の敷設工程が実行される。抜け穴5の開口の大小にかかわらず、後工程で、その抜け穴5の開口を超える大きさの被覆材(水中コンクリート7を収納した布製型枠6)をその抜け穴5内に充填できるようにすると共に、その被覆材を、抜け穴5内面を形成する既設被覆石3aに的確に噛み合わせることを可能とするためである。このため、シート状態の布製型枠6をその下面部6aが抜け穴5の内底面5aを覆うように敷設する。このとき、上面部6b及び下面部6aからはみ出す半折り状態の側面部6cを抜け穴5の内周面5bに沿いつつ立ち上げることが好ましい。後工程である水中コンクリート7の注入工程で、水中コンクリートの注入に伴い、布製型枠6を円滑に拡大膨張させるためである。しかもこのとき、半折りされた側面部6cを抜け穴内周面5bの被覆石3aに沿わせた状態でそのまま保持するようにしてよいが、接着剤等により仮止めすることがより好ましい。半折りされた側面部6cが倒伏して、抜け穴5内周面5bから離間することを防ぐためである。
【0038】
前記布製型枠6の敷設工程が終了すると、
図3、
図7に示すように、水中コンクリート7の注入工程が実行される。布製型枠6内に水中コンクリート7を注入することにより、その布製型枠6を立体的に膨張させ、その水中コンクリート7が収納された布製型枠6を被覆材として抜け穴5内に充填すると共に、その水中コンクリート7が収納された布製型枠6を、その内部の水中コンクリート7の流動性を利用して、抜け穴5内面を形成する既設被覆石3a間の隙間3aaに進入させ、水中コンクリート7が収納された布製型枠6と抜け穴5内面における既設被覆石3aとを的確に噛み合わせるためである。
【0039】
具体的に説明すれば、水中コンクリート7の注入工程においては、
図7に示すように、コンクリートポンプ車(図示略)から伸びる供給ホース9が布製注入口8に接続され、供給ホース9及び注入口8を介して水中コンクリート7が布製型枠6内に注入される。これにより、布製型枠6が膨らみ始めることになり、その下面部6aが抜け穴5内底面5aに押し付けられてその抜け穴5内底面5aに沿うように馴染む一方で、上面部6bが下面部6aから離間する方向に移動する。この移動に伴って、側面部6cのうちの外側部分(半折りされた一方側部分であって敷設時の立ち上りに基づき抜け穴5内周面5bに当接している部分)が抜け穴5内周面5bに押し付けられる一方、側面部6cのうちの内側部分(半折りされた他方側部分)は何によっても妨げられることなく立ち上り、さらなる水中コンクリート7の注入に基づきその側面部6c部分も外側に向けて抜け穴5内周面5bに押し付けられる(
図6、
図7参照)。
【0040】
この結果、抜け穴5内周面5bを形成する既設被覆石3a間(隙間3aa)に側面部6cが入り込む。
図7における布製型枠6内の矢印は、注入された水中コンクリート7により布製型枠6が膨らみ、それに基づき側面部6cが既設被覆石3a間の隙間3aaに入り込むことを示している。このとき、布製型枠6内における水中コンクリート7の流動性を利用して、布製型枠6を介して水中コンクリート7に押し棒等により外力を加えれば、布製型枠6内の水中コンクリート7を既設被覆石3a間に積極的且つ的確に案内することができる。
図7における布製型枠6外の矢印は、そのときの布製型枠6に対する押し棒等による外力を示す。布製型枠6内に対して所定量の水中コンクリート7が注入されると、その注入が止められて、コンクリートポンプ車の供給ホース9が注入口8から引き抜かれる。そして、注入口8は、紐で縛ることにより閉じられ、その注入口8は布製型枠6内に押し込まれる。
【0041】
前記水中コンクリートの注入工程が終了すると、
図3、
図8に示すように、アンカー付き石材10の取付け工程が実行される。布製型枠6上面を石材10aをもって覆い、周辺環境(被覆石3aが敷設された環境)に調和させるためである。このため、複数のアンカー付き石材10が用意される。各アンカー付き石材10は、石材10aにアンカー10bの一端部が取付けられて、その他端部が石材10aから離れるように伸びたものである。石材10aとしては、自然石、擬石等を適宜用いることができ、より周辺環境に調和させる観点からは、自然石を用いることが好ましく、その自然石等の大きさ、重さに関しては、取付け作業を作業員が行うことから、作業員が持つことのできる程度のもの(20kg~30kg)が好ましい。また、アンカー10bについては、それが水中コンクリート7内部に埋設されることから、腐食から防護できるものが好ましく、本実施形態においては、鉄筋にエポキシ樹脂を被覆したエポキシ樹脂鉄筋が用いられる。しかも、このアンカー10bの選択に当たっては、石材10aに対する横方向からの波力については、アンカー10bのせん断応力(アンカー10bの断面積)で十分に抵抗し、石材10aの下面に対する揚圧力については、アンカー10bの付着力(アンカー10bの外周長×アンカー10bの伸び長さ)で十分に抵抗するものが選択される。
【0042】
上記アンカー付き石材10を取付けるに当たっては、
図8、
図9に示すように、抜け穴5内から露出する布製型枠6内の水中コンクリート7が未硬化であるうちに、各アンカー付き石材10のアンカー10bを布製型枠6を介して水中コンクリート7中に差し込み、各石材10aを、布製型枠6の上面に該上面を覆うように固定する。これにより、布製型枠6の上面の露出状態が維持される場合よりも周辺環境(被覆石層3)に調和させることができることになる。この後、布製型枠6内の水中コンクリート7の硬化を待ち、施工を終える。
【0043】
図10は、第2実施形態を示す。この第2実施形態において、前記第1実施形態と同一構成要素については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0044】
図10に示す第2実施形態は、布製型枠6を複数用意し、その布製型枠6毎に、抜け穴5内での布製型枠6の敷設工程、流動状態の水中コンクリート7の注入工程を順次、行うことにより、抜け穴5内において、水中コンクリート7により膨らませた布製型枠6を複数配置するようにしたものである。これらの水中コンクリート7により膨らませた各布製型枠6は、重量、体積が定まっている規格品(布製型枠6の収容容量、水中コンクリートの注入量を規格化したもの)であり、これらは、横方向に並び、上下方向に重なることにより、抜け穴5内に充填される。
図10は、抜け穴5内において、水中コンクリート7により膨らませた布製型枠6が組込中である状態を示す。この場合、水中コンクリート7により膨らませた複数の布製型枠6の隣合うもの同士を、両布製型枠6内の水中コンクリート7が未硬化であることを利用して、その両布製型枠6内の水中コンクリート7に連結筋11を差し込むことにより連結することとされる。
【0045】
具体的には、布製型枠6内に水中コンクリート7を注入し終えたものに対して連結筋11の一端側を差し込み、他端側を布製型枠6から突出させるようにする。その上で、連結筋11の他端側を、上下方向又は横方向に隣合うことになる水中コンクリート7注入前の布製型枠6に差し込み、その布製型枠6内に水中コンクリート7を注入する。特に、横方向に隣合うことになる布製型枠6に対しては、その布製型枠6内への注入による水中コンクリート7の高さが連結筋11の高さにまで至ったときに、その連結筋11の他端側を隣合う布製型枠6に差し込んでもよい。連結筋11については、本実施形態においても、前述のエポキシ樹脂鉄筋が用いられる。
【0046】
これにより、水中コンクリート7により膨らませた複数の布製型枠6を、被覆材として、一体化した状態で抜け穴5内に収容することができ、種々の大きさの抜け穴5の状態に的確に対応することができる。勿論この場合、水中コンクリート7の比重と被覆石3aの比重とが同程度のときには、水中コンクリート7を収納した複数の布製型枠6を抜け穴5内に満たすように配置するだけで補修に必要な必要重量を満たし、水中コンクリート7の比重を被覆石3aの比重よりも大きくすれば、その水中コンクリート7を収納した複数の布製型枠6を用いることにより補修に必要な必要重量以上の重量を確保でき、補修された防波堤の強度、安定性を高めることができる。
【0047】
以上実施形態について説明したが本発明においては、次の態様を包含する。
(1)硬化材料として、前述の水中コンクリート7の他に、モルタル等、流動状態(未硬化状態)を経て硬化状態になるものを用いること。
(2)可撓性シート製型枠が、水中コンクリート7の注入に伴い膨張し外力により変形し得るものである限り、可撓性シート製型枠の材質が布製以外の材質であってもよいこと。
(3)施工において(特に布製型枠6内に水中コンクリート7を注入するとき)、施工周囲に汚濁防止膜を設置して、仮に施行中に汚濁成分が流出しても、その汚濁成分の拡散を防止すること。
(4)土台部2の法面2aに被覆石層3を形成するに際して、布製型枠6(可撓性シート製型枠)内に水中コンクリート7を収納したものを、被覆石3aの一部に代えて法面2a上に配置して、被覆石層3に点在させること。このとき、布製型枠6の上面をアンカー付き石材10で覆うことが好ましい。これにより、被覆石層3の形成作業の迅速化を図ることができると共に、その被覆石層3を強固なものにできる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、被覆石層3から被覆石3aが抜け出ることにより形成された抜け穴5内に被覆材を十分な大きさをもって充填して、その被覆材を、抜け穴5内面を形成する既設の被覆石3aに対して強固に噛み合わせることに利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 防波堤
2 土台部
3 被覆石層
3a 被覆石
3aa 隙間
5 抜け穴
6 布製型枠(可撓性シート製型枠)
6a 下面部
6b 上面部
6c 側面部
6d 内部空間
7 水中コンクリート(硬化材料)
10 アンカー付き石材
11 連結筋
【要約】
【課題】被覆石層から被覆石が抜け出ることにより形成された抜け穴内に被覆材を十分な大きさをもって充填して、その被覆材を、抜け穴内面を形成する既設の被覆石に対して強固に噛み合わせることができる捨石式構造物の補修方法及びその補修方法を用いて構築された捨石式構造物を提供する。
【解決手段】立体として膨らむことが可能な布製型枠6を、シート状にした状態で、土台部2を被覆する被覆石層3の抜け穴5内に敷設し、次に、布製型枠6内に流動状態の水中コンクリート7を注入して、布製型枠6を膨らませ、水中コンクリート7により膨らませた布製型枠6を、被覆材として、抜け穴5内に充填させると共に、抜け穴5内面を形成する既設被覆石3aの間に進入させる。
【選択図】
図7