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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】超音波映像装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/08 20060101AFI20241224BHJP
【FI】
A61B8/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020034547
(22)【出願日】2020-02-29
(65)【公開番号】P2021137081
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505000480
【氏名又は名称】フィンガルリンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129986
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓生
(72)【発明者】
【氏名】山越 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】名郷根 正昭
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-217605(JP,A)
【文献】特開2019-180870(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151972(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0014104(US,A1)
【文献】特表2015-512273(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0267847(US,A1)
【文献】特開2008-136880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物の表皮に接触させた状態で生体物内の特定方向へ単一の特定周波数の正弦波振動を加振する加振器と、
複数の超音波振動子を送信子・受信子それぞれ同配列で二次元配列したプローブと、
プローブで受信した元信号からせん断波の超音波映像信号を生成し出力する信号処理装置と、
信号処理装置による超音波映像信号を表示する表示装置と、を少なくとも具備した超音波映像装置であって、
前記信号処理装置は、
前記正弦波振動の特定周波数に対応した、前記特定周波数と同一の対応周波数及びその前後帯域の正弦波信号のみを抽出し及び強調し、この抽出し及び強調した正弦波信号について、信号の周期性と半周期での信号の絶対値の対称性に基づいてせん断波伝播速度の推定を行い、生体物の表皮に接触させたプローブの二次元配列に対応した所定の二次元領域内における、各点の推定せん断波伝播速度からなるせん断波伝播図画像を、せん断波の再生画像として連続生成することを特徴とする、超音波映像装置。
【請求項2】
前記信号処理装置は、前記正弦波振動の、特定周波数の整数倍の周波数及びその前後帯域の正弦波信号特定周波数に対応した周波数域の正弦波信号のみを通過させる帯域通過フィルタリングのステップと、
受信した元信号において、周期性及び半周期での対称性を有する特定信号について、超音波のパルス繰り返し周波数を、対称性を有する特定信号の自己相関の導出によって増幅させた増幅信号を取得し、この増幅信号に基づいて、加振による生体物内への正弦波信号に応じて得られた増幅信号によるせん断波伝播速度の流速値を推定する流速推定ステップと、の各ステップを順に行うことを特徴とする、請求項1に記載の超音波映像装置。
【請求項3】
前記信号処理装置は、
プローブの元信号の取得時刻に対応して、元信号を輝度に変換した前記二次元領域のBモード画像を、所定のバッファ数だけオンタイムで生成して連続的に蓄積し出力すると共に、
プローブの元信号の前記取得時刻に対応したせん断波伝播図を、前記所定のバッファ数と同じかそれ以下の枚数だけオンタイムで生成して、連続的又は断続的に蓄積し出力し、
前記表示装置は、所定の二次元領域のBモード画像とせん断波伝播図とを、取得時刻に対応して同期させ、重ね合わせ画像として連続表示する、請求項1に記載の超音波映像装置。
【請求項4】
前記加振器は、特定の複数周期の信号を加振するものであり、
前記信号処理装置は、加振した各周期の特定信号それぞれについて、自己相関による加算処理を行った自己相関値を導出し、特定の複数周期それぞれに対応する自己相関値を演算し、
複数周期それぞれの対応する自己相関値の平均値を比較して推定流速値を求める、請求項1又は2のいずれか記載の超音波映像装置。
【請求項5】
プローブの受送信部と加振器の加振部とが並行方向を向くと共に一定の距離及び一定範囲内の角度を保つよう、プローブの受送信部と加振器の加振部とを連結する連結冶具をさらに具備する、請求項1~4のいずれか記載の超音波映像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて生体物(人体又は動物)の生体組織の硬さを映像化する超音波映像装置に関し、特に、雑音低減効果を有するもの、並びに、当該超音波映像装置を備えた超音波映像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リハビリテーションにおける理学療法室、マッサージにおける治療室、スポーツ医学におけるトレーニング室等に持ち込んで骨格筋の硬さや変化を定量的に測定しようとする要求がある。つまり従来技術では難しかった骨格筋の硬さを定量的に評価して、その結果をリハビリテーション、マッサージ、トレーニングの効果判定、有効な治療、トレーニング計画の策定等に結び付けたいという要求である。このような要求には、生体硬さの映像化法CD-SWIを使うことが選択肢になると考えられるが、この時、大型の超音波診断装置ではなくフィールドで使える小型で可搬型のエコー装置(タブレットエコー:プローブ内に電子回路やCPUを組み込んで、これをタブレットやPCに接続することで超音波診断を行う装置)にCD-SWI法を組み込んで使う必要がある。超音波を用いて生体物(人体又は動物)の生体組織の硬さを映像化する超音波映像方法として、従来、WO2015/151972(特許文献1参照)が開示される。しかし、このようなタブレットエコー装置は大型の超音波診断装置に比べて雑音が大きく、上記の骨格筋の硬さ計測法を組み込んでも雑音の影響を大きく受けて不鮮明で定量性の低い画像しか得られない場合が多い。
【0003】
超音波を用いて生体物(人体又は動物)の生体組織の硬さを映像化する超音波映像方法として、従来、WO2015/151972(特許文献1参照)が開示される。
また他に従来、被検体に対し超音波接触子によって超音波を3次元状にスキャンし、このスキャンにより検出された被採取部の組織を、前記被検体内に2重構造の穿刺針を挿入してその外針から内針を突出させることにより前記被採取部に差し込んで採取するものであって、超音波のスキャンデータに基づいて前記被採取部の画像、及び前記被検体内に挿入される穿刺針の画像を生成する画像生成手段と、この画像生成手段により生成された前記被採取部の画像、及び前記穿刺針の画像を表示する表示手段を具備するものが開示される(特許文献2参照)。
【0004】
この装置において、穿刺針には微小振動を付与する励振器が設置され、この励振器により振動される穿刺針のドプラ効果の影響を受けたエコー信号をプローブが受信することにより、穿刺針の外針から突出する内針の動きが認識されるようになっている。ここで前記画像生成手段は、前記穿刺針の内針が前記被採取部に差し込まれる直前において、仮に前記内針が前記外針から突出されたとしたら前記被採取部から採取されることが期待される組織を前記表示手段に画像として表示させるものである。同文献によれば、被採取部の組織の採取に先立ち、表示手段を見るだけで被採取部のどこの部位が採取できるのかを予測することができ、所望する組織を確実に採取することができる、とされる。
【0005】
またほかに従来、振動する穿刺針からの超音波エコーのドプラ信号に基づいて前記穿刺針の画像を生成する超音波撮像方法であって、1音線当たり2回の超音波送受信で得たパケット長が2のエコー信号に関するMTI処理により前記ドップラ信号を求めることを特徴とする超音波撮像方法が開示される(特許文献3参照)。
【0006】
これは、1音線当たり2回の超音波送受信で得たパケット長が2のエコー信号間でMTI処理を行なってドプラシフトを求めるものである。同文献によれば、1音線当たり最小限の超音波送受信回数でドプラシフトが求まり、撮像が高速化し、また、撮像視野が広がる、とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2015/151972A1公報
【文献】特許第5274854号公報
【文献】特許第4030644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記文献1記載のようなタブレットエコー装置は、小型化又はデバイス化すると、大型の超音波診断装置に比べて雑音が大きく、上記の骨格筋の硬さ計測法を組み込んでも雑音の影響を大きく受けて不鮮明で定量性の低い画像しか得られない場合が多い。つまり、装置を小型化するか、或いは簡易制御プログラム上で動作可能にアプリケーション化すると、処理精度の問題によって雑音の大きな元信号しか受信できず、生体組織の硬さ映像を鮮明に得ることができない、という問題が顕著であった。
【0009】
特に、超音波加振による元信号を基に雑音低減処理を行う場合、元信号が持つ特徴である「生体組織内へせん断波を励起するための加振が特定周波数の連続正弦波で行われる」ことを前提とする。このため、超音波加振の生体物への加振、或いは受信機との位置関係が安定しなければ、加振波が乱れてしまい、雑音(ノイズ)が大きく混入したり、連続正弦波という前提での処理を行えない場合がある。
【0010】
なお、上記文献2、3に記載の各装置は、穿刺針を生体物内に穿刺して測定を行うことが前提であり、穿刺の位置又は深さ、ひいでは穿刺者の技術に依存して取得映像が制限されてしまうという課題があった。この理由として、留置針を静脈内に正しく留置することが難しいことが挙げられる。
【0011】
そこで本発明は、雑音の大きな超音波診断装置でも、CD-SWI法による生体組織の硬さ映像が得られる雑音低減技術を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく本発明では以下の手段を講じている。但し以下において構成の名称に続けて記載する数字乃至アルファベットは、図面の理解のために便宜的に付した符号であり、これによって構成の概念ないし形状、構造を限定する趣旨ではない。
【0013】
(1)(正弦波加振によるフィルタリングと流速推定)
生体物の表皮に接触させた状態で生体物内の特定方向へ、特定周波数の正弦波振動を加振する加振器と、
複数の超音波振動子を送信子・受信子それぞれ同配列で二次元配列したプローブと、
プローブで受信した元信号からせん断波の超音波映像信号を生成し出力する信号処理装置と、
信号処理装置による超音波映像信号を表示する表示装置と、を少なくとも具備した超音波映像装置であって、
前記信号処理装置は、正弦波振動の特定周波数に対応した周波数域の正弦波信号のみを通過させる帯域通過フィルタリングのステップと、
受信した元信号において、周期性及び半周期での対称性を有する特定信号について、超音波のパルス繰り返し周波数を増幅させた増幅信号を取得し、この増幅信号に基づいて、加振による流速値を推定する流速推定ステップと、の各ステップを順に行うことを特徴とする、超音波映像装置。
【0014】
(2)
前記流速推定ステップは、受信超音波を直交検波して得られた、1周期中の複数の特定信号それぞれについて自己相関による加算処理を行った自己相関値(Is)を導出し、
導出した複数の自己相関値(Is)を平均化して流速値を求める、ことで、
オーバーサンプリングによる増幅信号を基に、加振に基づく流速値を求める流速演算ステップを行う。
【0015】
(3)前記加振器は、特定の複数周期の信号を加振するものであり、
前記信号処理装置は、加振した各周期の特定信号それぞれについて、自己相関による加算処理を行った自己相関値(Is)を導出し、特定の複数周期それぞれに対応する自己相関値を演算し、
複数周期それぞれの対応する自己相関値の平均値を比較して、推定流速値を求めることが好ましい。
【0016】
(4)(二次元配列のマップ表示)
上記いずれかに記載の超音波映像装置においては、
表示装置が、所定の検出面範囲内の血流状態(血流内の異物の流れ方)を連続的に検知し、動画として連続的に表示することが好ましい。
異物通過を動画として、前記二次元マップ上の対応位置に表示することで、通過する異物の通過有無だけでなく、通過の情報(大きさ、速度、位置等)を容易に得ることができる。
【0017】
(5)(連結冶具)
上記いずれかに記載の超音波映像装置においては、プローブの受送信部と加振器の加振部とが並行方向を向くと共に一定の距離及び一定範囲内の角度を保つよう、プローブの受送信部と加振器の加振部とを連結する連結冶具をさらに具備する。
【0018】
(6)
さらに、二次元配列された各受信子の検出信号によって検出された伝播速度を、表示装置において二次元配列した二次元検出画像領域の二次元マップ上に表示し、二次元配列された各受信子のうち一部の受信子の検出信号によって検出された伝播速度の値を色彩化して、前記二次元マップ上の対応位置に表示することが好ましい。
検出面に合わせた2次元配列のマップ表示を行うことで、マップ上の生体組織の硬さ画像を直感的に得ることができる。
【0019】
(7)(時間遅れ補正項によるドプラフォーカシング)
上記いずれかに記載の超音波映像装置においては、例えばさらに、二次元配列された複数の受信子による反射波のデータを、各座標の伝播速度値列としてタイムベースごとに連続的に保存し、この伝播速度値列のデータ群に基づいて、タイムベースごとの伝播速度の可変を差分画像としてタイムベースごとに連続的に作成し、初期保存した伝播速度の二次元画像と前期連続的に作成した差分画像のデータとに基づいて、2次元領域の伝播速度の処理画像を検出深さの情報と共に表示装置に連続的に動画表示することが好ましい。
なお、空間的な時間遅れを幾何的に解析し立式し、さらに超音波素子単体の音場特性、アレイ全体の音場特性を考慮した単純式に置き換えることで、時間遅れを補正する。簡易判別でありながら多くの情報を伴うドプラフォーカシングを連続的に行うことができる。
【0020】
(5)(異物種の判別表示)
上記いずれかに記載の超音波映像装置においては、例えばさらに、各振動子で受信した超音波信号を、時間軸を含む情報として分析し、異物オブジェクトの固さ、大きさ、及び流通速度に基づく判別基準によって、生体組織の硬さを予め分類した複数種類のオブジェクトモデルのいずれかに判別し、表示画面において、前記判別したオブジェクトモデルに1対1対応した色又は形状で、前記所定の連続時間に亘って、前記二次元マップ上の対応位置に表示することが好ましい。
(6)超音波映像装置方法
本発明の超音波映像装置方法は、複数の超音波振動子を送信子・受信子それぞれ同配列で二次元配列し、この二次元配列によって構成される検出面範囲を超音波検知する検知ステップと、
前記二次元配列された複数の超音波振動子の受信子による反射波のデータを、時間領域又は周波数領域のいずれかによって送信から受信までの時間遅れを補正する補正項によって補正するステップと、
二次元配列された複数の超音波振動子の受信子によって検出された生体組織のオブジェクトモデルの差分を、表示装置の表示画面における前記検知ステップの検出面範囲に対応した表示領域において、一部の受信子の検出信号を受信した特定の受信子に対応する前記二次元マップ上の対応位置に上書き表示する表示ステップとを、各ステップそれぞれ連続時間に亘って連続的に実行する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によって提供される超音波映像装置及び超音波映像装置方法は、上記のとおり、超音波の発信素子と受信素子とを同じ配列で二次元配列し、この二次元配列によって構成される検出面範囲を所定の連続時間に亘って超音波検知すると共に、表示装置においても同配列で二次元配列してマップ表示する構成を採用しているため、他の超音波映像装置の組み込み等による複雑な構造をとることなく、通過する異物の状況(数、大きさ、形状、通過位置)に関する情報を高精度に得ることができるものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例1の超音波映像装置の装置構成を示す説明図。
図2図1に示す実施例1の超音波映像装置の検出デバイスの構成を示す説明図。
図3】本発明の実施例1の超音波映像装置の検出デバイスの超音波振動子取付冶具を示す平面図及び正面図。
図4】本発明の超音波映像装置による検出面範囲(a)及び表示画面(b)の第三の例を示す説明図。
図5】本発明の超音波映像処理における、正弦波加振に特化した流速測定の概念図(オーバーサンプリング率n=4の場合)。
図6】本発明の超音波映像処理における、正弦波加振に特化した流速測定の概念図(オーバーサンプリング率n=2の場合)。
図7】本発明の超音波映像処理による雑音低減技術の原理と効果の比較。
図8】本発明の超音波映像処理による雑音低減法の効果(下段)と従来法(上段)との比較図。
図9】本発明の超音波映像処理による雑音耐性の評価グラフ。
図10】本発明の実施例1の超音波映像装置の検出デバイスの超音波振動子取付冶具を示す平面図及び正面図。
図11】本発明の超音波映像装置による検出面範囲(a)及び表示画面(b)の第一の例を示す説明図。
図12】本発明の超音波映像装置による僧帽筋への運動負荷による硬さの変化グラフ。
図13】本発明の超音波映像装置による僧帽筋の運動負荷による硬さの、探査深度比較グラフ。
図14】本発明の超音波映像装置による、1回目の運動負荷直後の伝播速度差と、浅部-深部の伝播速度差の相関グラフ。
図15】本発明の超音波映像装置による、痛みのある筋膜に対して生理食塩水の注入前後の、せん断波の伝播速度の変化例を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態例を、実施例として示す各図と共に説明する。
図1に示す本発明の実施例1の超音波映像装置は、複数の超音波振動子を送信子・受信子それぞれ同配列で二次元配列した第一検出デバイスP1,第二検出デバイスP2と、これら各検出デバイスP1,P2による超音波振動を制御し信号を送受信させる制御装置2と、制御装置2によって受信した反射波のデータを補正及び増幅処理する処理装置1と、処理装置1によって処理された反射波のデータに関する情報を表示する表示領域M1を備えた表示装置と、から装置構成される。
【0024】
雑音の大きな超音波診断装置でも、CD-SWI法による生体組織の硬さ映像が得られる雑音低減技術を開発することが目的である。雑音低減処理では、超音波診断装置で得られる元信号のCD-SWI法に固有な時間的、周波数的な特徴に着目して、この特徴を持つ信号だけを抽出、強調することが重要であり、今回の発明はCD-SWI法による硬さ映像において元信号が持つ特徴「生体組織内へせん断波を励起するための加振が特定周波数の連続正弦波で行われる」ことを積極的に利用したもので、1正弦波加振に特化したMTI Filter(Moving Target Indicator)、2正弦波加振に特化した流速推定、の2つの方法包含する正弦波加振に特化した雑音低減技術を導入することで、タブレット型超音波映像装置のような雑音の大きい超音波映像装置でも硬さ映像を得て、硬さの定量計測を行う。
【0025】
実施例1は2つの検出デバイスP1,P2と有線で併接続された制御装置2が記憶部R、表示装置M2、入力装置I2を備え、各受信子のチャンネルに対応した信号がケーブルCによって処理装置1に接続される。処理装置1にはスイッチS,調整装置V,スピーカー及び検出デバイスP1,P2の係止部が設けられ、表示装置M1,入力装置Iに有線又は無線接続される。
【0026】
10に示すように正弦波で振動している加振器(S)から、生体組織中にせん断波が励起され、このせん断波は生体組織内を伝播する。この時、超音波プローブ(P)で同時に超音波を送信すると、生体組織内から反射し超音波プローブで受信される超音波には、加振によりドプラ効果が生じ周波数がわずかに変調された信号が得られる。ここで図10の(AM)(OW)は加振を行うための増幅器、加振器、および加振周波数を決める制御装置である。超音波プローブで得た信号は、直交検波後、IQ信号としてPCやタブレット等の信号処理装置からなるせん断波映像システム(AW)に取り込まれる。本発明は、この映像システム内に組み込まれる雑音低減技術に関するものである。最終的に得られた画像は表示装置(W)で表示される。
【0027】
図3に示す本発明の実施例2の超音波映像装置は、複数の超音波振動子を送信子・受信子それぞれ同配列で二次元配列した第三検出デバイスP3´/第四検出デバイスR3のいずれかと、この第三検出デバイスP3´/第四検出デバイスR3のいずれかとケーブルCで接続された制御装置2と、制御装置2によって受信し送信された反射波のデータを受信し処理するサーバー装置Sと、から装置構成される。実施例2は2つの検出デバイスP3´,R3のいずれかとケーブルCで有線接続された処理装置1兼制御装置2が、入力装置I3兼用の静電式表示装置M3を備え、処理装置1兼制御装置2が、サーバー装置Sとの間で無線信号を送受信する。
【0028】
(検出デバイス)
検出デバイスは第一検出デバイスP1のような方形の検出面形状でもよいし、第二検出デバイスP2のような円形の検出面形状でもよい。実施例1の超音波映像装置は、第一検出デバイスP1,第二検出デバイスP2の2種の検出面形状の検出デバイスを併接続可能に有する。実施例2の超音波映像装置は、第三検出デバイスP3´/第四検出デバイスR3の2種の検出面形状の検出デバイスのいずれかをそれぞれ交換によって単独接続可能に有する。
【0029】
図4に、本発明のせん断波映像システムの信号処理のフローチャートを示す。このせん断波映像システムの信号処理について説明する。まず、ある定められた一定の周波数fvの正弦波で加振を行うと、得られる直交検波後のI,Q信号には、周期T=1/fvで同じ波形が繰り返えす「信号の周期性(以降、周期性と呼ぶ)」と、1周期の前半分と後半分で符号が異なるがその絶対値は同じになる「信号の対称性(以降、対称性と呼ぶ)」という2つの特徴がある。この特徴は従来の血流計測では得られないものであり、これら特徴を持つ信号を抽出および強調して、CD-SWI法でせん断波の映像再生を行う。
【0030】
周期性と対称性を有する信号を抽出、強調するために、2つの方法を用いる。これが今回の発明の要点になるが、この2つの方法とは、1周期性に着目した、正弦波加振に特化したMTI Filterと、2対称性及び周期性に着目した、正弦波加振に特化した流速推定である。まず、図2に示すように、直交検波信号I,Q信号の各々対して周波数fv付近の信号のみを通過させる「正弦波加振に特化したMTI Filter」を適用し、その後、信号の周期性と半周期での信号の対称性(符号が異なるが絶対値は幅は同じ)に着目した「正弦波加振に特化した流速推定」を行う。
【0031】
本発明の作用を説明するために、まずCD-SWI法におけるオーバーサンプリング(周波数条件のオーバーサンプリングへの拡張)を示し、その後、本発明の要点である正弦波加振に特化した雑音除去技術について示す。
【0032】
(CD-SWI法におけるオーバーサンプリング(周波数条件のオーバーサンプリングへの拡張))
CD-SWI法の周波数条件を数式1に示す。この条件はCD-SWI法でせん断波の波面がカラーフロー画像上に現れるための条件である。ただし、fν:加振周波数、fprf:超音波のパルス繰返し周波数、m:0または整数である。
【0033】
【数1】
【0034】
数式1は、次式のように書き直すことができる。
【0035】
【数2】
ここで信号に含まれる雑音を低減するためにfprfをn倍に向上させ、新たに周波数条件として数式3を考える。ただし、nはオーバーサンプリング率
(2以上の整数)であり、n=1が従来のCD-SWI法における周波数条件になる。
【0036】
【数3】
【0037】
数式3は下記数式4のようにも書くことができる。
【0038】
【数4】
【0039】
この時、加振周波数の逆数で与えられる1周期に入る超音波パルス数Nは、次の数式5で与えられる。
【数5】
【0040】
(正弦波加振に特化した雑音除去)
次に、正弦波加振に特化した雑音除去について説明する。硬さ映像では、前記数式4で表される周波数で正弦波加振を行う。このため得られる信号は固有の特徴を持ち、この特徴を持つ信号だけを抽出したり強調したりすると、雑音成分を有効に抑制できる。
具体的には正弦波加振に特化したMTI Filterと、正弦波加振に特化した流速推定の2つの方法を導入する。
【0041】
((b-1) 正弦波加振に特化したMTI(Moving Target Indicator) Filter)
まず、正弦波加振に特化したMTI(Moving
Target Indicator) Filterにつていて説明する。一般に用いられる血流計測用のMTI Filter MTI Filter (Moving Target Indicator Filter)は、非常に低い周波数成分である体動や拍動による信号を抑圧するために、例えば50Hzの遮断周波数を持つ高域通過フィルターが用いられる。
【0042】
しかしCD-SWI法を映像法として使う硬さの映像では、加振周波数はPRF(パルス繰り返し周波数)に同期した整数倍の周波数(前記数式4)に近い値を使う。例えばPRF=1000Hzとすると、加振周波数は62.5Hz付近の周波数になる(この時、加振周波数はPRFの16分の1)。このためI,Q信号の加振周波数成分のスペクトラムが大きくなるので、加振周波数を通過帯域とする帯域通過フィルターをMTI Filterとして用いると信号に含まれる雑音成分を有効に抑圧できる。
【0043】
((b-2)正弦波加振に特化した流速推定)
つぎに、(b-2)正弦波加振に特化した流速推定について説明する。CD-SWI法での加振は正弦波で行われるので、記録される信号(I、Q信号)は周期性(加振周波数の逆数の周期Tv)と、1周期内の信号に対しては信号の対称性(1周期の信号の中で、前1/2周期と後ろ1/2周期の加振信号は符号が逆転しているが絶対値は同じ)を持つ。
このため、周期Tvを有し、かつTv内で対称性を有する信号を強調して流速推定を行うと、雑音成分を抑圧できる。このような信号を強調するために、ステップ1:I,Q信号の自己相関の導出と、ステップ2:流速推定とからなる、2ステップの流速推定を導入する。
【0044】
(ステップ1:I,Q信号の自己相関の導出)
まず、ステップ1:I,Q信号の自己相関の導出によって信号の強調を行う。前記数式5に示されるように加振周波数1周期中にN本の超音波が受信できるので受信超音波を直交検波した信号I(i),Q(i) (iは受信番号)に対して、下記数式6,7で自己相関Isを求める。
【0045】
【数6】
ここで
【0046】
【数7】
【0047】
(ステップ2:流速推定)
つぎに、ステップ2:流速推定によって信号の強調を行う。Isより下記数式8,9で加振により生じる流速値を求める。
【0048】
【数8】
ここで
【0049】
【数9】
またc:音速、f:超音波の中心周波数である。
【0050】
この方法では上記数式7で示される信号の平均化が雑音成分の抑圧に貢献する。
【0051】
上記数式6、7、8、9は、加振周波数1周期分の信号処理を述べたものであるが、複数周期の信号を用いることができる場合には、各周期内の信号に数式7の加算処理を適用後、数式8、9で流速推定を行うことで雑音低減が可能になる。
【0052】
数式7で示す符号を考慮した平均化処理を図5図6に示す。図5は前記数式7でオーバーサンプリング率n=4の場合であり、図6はn=2の場合である。
【0053】
(雑音低減の2つの方法の原理と効果)
雑音低減のために導入した2つの方法の原理と効果を図7にまとめた。
【0054】
(数値シミュレーション)
本発明の雑音低減技術の効果を評価するために数値シミュレーションを行った。数値シミュレーションでは、超音波診断装置から得られる直交検波信号(I,Q信号)に対して、独立に正規性白色雑音を加え、雑音低減処理を導入しない従来法と雑音低減処理を導入した方法とで流速マップを求めた。せん断波は、画面横方向に伝播するものと仮定し、画面内、横方向に4本の速度値が高い部分(縦じま)が現れるせん断波の波長に設定した。
結果を図8に示す。
【0055】
図8の上段3図は雑音低減を行わない従来法の画像であり、下段3図は本発明における正弦波加振に特化した雑音低減を導入した場合の結果で、信号と雑音パワーの比を0.25、1、4と変えて比較を行った。上下図の比較より、どの信号と雑音パワーの比に対しても、正弦波加振に特化した雑音低減を導入すると、せん断波の位相変化による4本の縦縞がより明瞭に現れ、この方法の有効性が確認される。
【0056】
図9に、本発明の雑音低減技術(超音波映像処理)の有効性を定量的に評価した評価グラフを示す。評価量として、せん断波の伝播速度(硬さの定量値)を規定した。図9の縦軸は伝播速度推定値の変動係数(標準偏差を平均値で除したもの)であり、この値が小さいほど安定して速度推定ができることを示している。一方、図9の横軸は信号パワーで規格化した雑音パワーであり、この値が大きいほど加えた雑音が大きいことを示す。
本発明の処理方法は従来法に比べて高い雑音に対する耐性を示しており、例えば、速度推定値の変動係数5%で比較すると、従来法では信号パワーで規格化した雑音パワーは2.6までしか許容されないのに対して、本発明の処理方法では60まで許容でき、両者の比である雑音耐性の改善率は23倍に達する。
【0057】
図10図11に被験者A,Bそれぞれの生体僧帽筋での二重加振による出力画像の例を示す。この解析では、タブレット型超音波映像装置からI,Q信号を取り出し、この信号からせん断波の波面を再生した。超音波繰返し周波数は1000Hz、加振周波数は62.2Hzであり、これはオーバーサンプリング率n=4に相当する。厳密には加振周波数62.5Hzがn=4の条件に合致するが、CD-SWI法では映像に適する加振周波数に上下5Hz程度の許容幅があることより、実験で用いた周波数でも映像化が可能になる。
【0058】
具体的には、2人の被験者の僧帽筋に対して小型の加振器で加振を行ったときの、浅い部分(0-24mm)、深い部分(24-48mm)それぞれの超音波受信信号を、写真中に示すタブレット型超音波映像装置に出力して記録した。図8の各図は、この時のBモード像である。
【0059】
従来法では、雑音の影響により、せん断波の伝播図には非常に細かな高周波数のパターンがアーティファクトとして生じていた。一方、本発明の処理方法により雑音が有効に抑制され、従来法のようなアーティファクトは生じない。僧帽筋内を伝播していくせん断波を二次元画像として明瞭に出力し記録することができる。
【0060】
(作用効果)
生体硬さの映像系であるCD-SWI法で生体書式内部を伝わるせん断波を映像化しようとするとき、拍動や体動などの生体由来の雑音、超音波のスペックルに由来する雑音、超音波の受信装置の雑音など雑音の影響を受けて、せん断波の映像が得にくいことがある。
【0061】
CD-SWI法は正弦波で加振するので、得られる超音波信号には一般の血流の映像化では見られない特徴が現れる。この特徴は加振周波数の逆数の周期での周期性であり、1周期内の信号の対称性である。
【0062】
この信号の周期性と対称性に着目して雑音を抑制する方法を組み込んだ映像装置を使うことで高雑音下であってもCD-SWI法により明瞭なせん断波の映像が得られる。
【0063】
(6)(その他)
上記のほか、各振動子で受信した超音波信号をスペクトル分析し、学習を経た多層ニューラルネット解析によって、異物オブジェクトを大きさ又は硬さの異なる複数種類のオブジェクトスペクトルモデルのいずれかに判別し、判別したオブジェクトスペクトルモデルに1対1対応した色又は形状でマップ上に表示することができる。検出面に合わせたマップ表示を行い、二次元配列された複数の各受信子と隣接する受信子とが重複して信号検出することで、異物オブジェクトの概形、厚さ(深度)が明瞭に認識できる。
【0064】
(超音波映像装置方法)
また、本発明の超音波映像装置方法は、超音波映像装置によって非接触で探触データを取得する上記いずれかの超音波映像装置と、取得された探触データを分析する分析装置とを具備してなる。この超音波映像装置方法における超音波映像装置は、筋肉の片さ試験のほか、内蔵の腫瘍又は硬化部の検出に用いられる(図12)。
図12は、本発明の超音波映像装置による僧帽筋への運動負荷による硬さの変化グラフである。1回当たり5kgのダンベルシュラッグ10往復を行って運動負荷をかけたときの、せん断波の伝播速度を調べたところ、負荷前と比べて僧帽筋の硬さが伝播速度2倍程度まで上昇していた。
図13は、本発明の超音波映像装置による僧帽筋の運動負荷による硬さの、探査深度比較グラフを示す。負荷前と1回目の運動直後の伝播速度を縦軸に規定し、浅い部分と深い部分の伝播速度差Vtを横軸に規定する。同じ被験者の同じ個所の僧帽筋であっても、浅い部分では伝播速度が下がる傾向にある一方、深い部分では伝播速度がほぼ一定の割合で上がっていることが確認される。また、深い部分では伝播速度の変化にばらつきがあることが確認される。
図14は、1回目の運動負荷直後の伝播速度差と、浅部-深部の伝播速度差との相関グラフである。Vt=(浅部の伝播速度)-(深部の伝播速度)とし、負荷前から1回目までの運動直後の伝播速度差を縦軸に規定し、浅い部分と深い部分の伝播速度差Vtを横軸に規定する。相関係数0.83であり、一定の相関関係にあることが確認される。
図15は、痛みのある筋膜に対し、超音波エコ-ガイド下で生理食塩水を注入したときの、せん断波の伝播速度の変化例を示したグラフである。生理食塩水を注入することで、せん断波伝播速度が時間経過と共に一定の割合で上昇していることが確認される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15