IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社サングードの特許一覧

特許7609407積層複合材、および積層複合材の製造方法
<>
  • 特許-積層複合材、および積層複合材の製造方法 図1
  • 特許-積層複合材、および積層複合材の製造方法 図2
  • 特許-積層複合材、および積層複合材の製造方法 図3
  • 特許-積層複合材、および積層複合材の製造方法 図4
  • 特許-積層複合材、および積層複合材の製造方法 図5
  • 特許-積層複合材、および積層複合材の製造方法 図6
  • 特許-積層複合材、および積層複合材の製造方法 図7
  • 特許-積層複合材、および積層複合材の製造方法 図8
  • 特許-積層複合材、および積層複合材の製造方法 図9
  • 特許-積層複合材、および積層複合材の製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】積層複合材、および積層複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/02 20060101AFI20241224BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20241224BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20241224BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20241224BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
B32B5/02 B
B32B27/12
B32B27/40
B32B5/18
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020568626
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2020003639
(87)【国際公開番号】W WO2020158916
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/003322
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521338640
【氏名又は名称】株式会社サングード
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【弁理士】
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【弁理士】
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】岩田 光出
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-026841(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第104015444(CN,A)
【文献】実開平02-038442(JP,U)
【文献】国際公開第2016/006578(WO,A1)
【文献】特開2017-013456(JP,A)
【文献】特開平04-185314(JP,A)
【文献】特開2002-225210(JP,A)
【文献】特開平04-212838(JP,A)
【文献】特開平05-329976(JP,A)
【文献】特表2008-506803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 63/00-63/48,
65/00-65/82,
70/00-70/88
C08J 5/04- 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維によって織られた炭素繊維織物と、
前記炭素繊維織物の上面及び下面に熱圧着されているエラストマー性を有する熱可塑性樹脂層と、を備え、
前記熱可塑性樹脂層の表面粗さRaが、0.5μm~1.0μmであり、
前記熱可塑性樹脂層の表面に、当該熱可塑性樹脂層の表面粗さRaよりも薄い膜厚のコーティング層を有し、
前記エラストマー性を有する熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂がポリウレタンであることを特徴とする積層複合材。
【請求項2】
前記コーティング層が、帯電防止剤若しくは撥水剤によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層複合材。
【請求項3】
前記コーティング層が、フッ素樹脂によって形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層複合材。
【請求項4】
発泡ABS樹脂層と
炭素繊維強化プラスチック層と、
前記発泡ABS樹脂層と前記炭素繊維強化プラスチック層の間に設けられ、前記発泡ABS樹脂層と前記炭素繊維強化プラスチック層の間における相対的な滑りを助長させるエラストマー性を有する熱可塑性樹脂層と、
を有し、
前記エラストマー性を有する熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂がポリウレタンであることを特徴とする積層複合材。
【請求項5】
前記発泡ABS樹脂層の両面に前記エラストマー性を有する熱可塑性樹脂層を介して前記炭素繊維強化プラスチック層が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の積層複合材。
【請求項6】
前記発泡ABS樹脂層の上面側と下面側の前記炭素繊維強化プラスチック層の積層数が同じであることを特徴とする請求項5に記載の積層複合材。
【請求項7】
発泡ABS樹脂層と、
前記発泡ABS樹脂層の上に設けられた熱可塑性樹脂層であるポリウレタン層と、
前記ポリウレタン層の上に設けられた、炭素繊維によって織られた炭素繊維織物と、
前記炭素繊維織物の上に設けられたポリウレタン層と、
とを有することを特徴とする積層複合材。
【請求項8】
前記発泡ABS樹脂層の上面側と下面側の前記熱可塑性樹脂層及び前記炭素繊維織物の積層数が同じであることを特徴とする請求項7に記載の積層複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維織物を含む積層複合材、および当該積層複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、金属材料に比べ、低密度でありながら高強度であるため、製造コストが高いという問題はあるが、各分野の構造材料として広く利用されている。
このような炭素繊維強化プラスチックに関する従来技術が、特許文献1~3によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平02-169633号公報
【文献】特開平10-138354号公報
【文献】特開2013-202923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭素繊維強化プラスチックは、軽量でありながら強度が高いというその力学的特性に基づいて利用が進んできたものであるが、その後、そのデザイン性に基づいた利用もされるようになっている。即ち、炭素繊維が織られることによって現れるパターンに意匠性を見出し、これをデザイン的に利用するものである。
このように、デザイン的な利用にも重点がおかれるようになるに従い、炭素繊維強化プラスチックの意匠性を有しつつも特性が異なる材料等、より多様な材料が求められるようになっている。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、炭素繊維織物を含む積層複合材であって、従来にはない新たな積層複合材の提供、および、当該積層複合材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
炭素繊維によって織られた炭素繊維織物と、前記炭素繊維織物の上面及び下面に熱圧着されているエラストマー性を有する熱可塑性樹脂シートと、を有することを特徴とする積層複合材。
【0007】
(構成2)
前記熱可塑性樹脂シートが、透光性を有することを特徴とする構成1に記載の積層複合材。
【0008】
(構成3)
前記熱可塑性樹脂シートが、ポリウレタンシートであることを特徴とする構成1又は2に記載の積層複合材。
【0009】
(構成4)
前記熱可塑性樹脂シートの厚さが、前記炭素繊維織物よりも厚いことを特徴とする構成1から3の何れかに記載の積層複合材。
【0010】
(構成5)
前記炭素繊維織物の上面及び下面に熱圧着されている熱可塑性樹脂シートの一方の厚さが、前記炭素繊維織物よりも薄く、他方の厚さが、前記炭素繊維織物よりも厚いことを特徴とする構成1から3の何れかに記載の積層複合材。
【0011】
(構成6)
前記熱可塑性樹脂シートの表面に、当該熱可塑性樹脂シートの表面粗さRzよりも薄い膜厚のコーティング層を有することを特徴とする構成1から5の何れかに記載の積層複合材。
【0012】
(構成7)
前記コーティング層が、帯電防止剤若しくは撥水剤によって形成されていることを特徴とする構成6に記載の積層複合材。
【0013】
(構成8)
前記コーティング層が、フッ素樹脂によって形成されていることを特徴とする構成6又は7に記載の積層複合材。
【0014】
(構成9)
発泡ABS樹脂層をさらに有することを特徴とする構成1から8の何れかに記載の積層複合材。
【0015】
(構成10)
前記発泡ABS樹脂層の上面側と下面側の前記炭素繊維織物の積層数が同じであることを特徴とする構成9に記載の積層複合材。
【0016】
(構成11)
前記発泡ABS樹脂層の上面側と下面側の前記熱可塑性樹脂シート及び前記炭素繊維織物の積層数が同じであることを特徴とする構成10に記載の積層複合材。
【0017】
(構成12)
発泡ABS樹脂層と前記発泡ABS樹脂層に対して熱圧着された炭素繊維強化プラスチック層と、を有することを特徴とする積層複合材。
【0018】
(構成13)
前記発泡ABS樹脂層の両面に前記炭素繊維強化プラスチック層が形成されていることを特徴とする構成12に記載の積層複合材。
【0019】
(構成14)
前記発泡ABS樹脂層の上面側と下面側の前記炭素繊維強化プラスチック層の積層数が同じであることを特徴とする構成13に記載の積層複合材。
【0020】
(構成15)
前記発泡ABS樹脂層と前記炭素繊維強化プラスチック層の間に、熱可塑性樹脂層が形成されていることを特徴とする構成12から14の何れかに記載の積層複合材。
【0021】
(構成16)
前記炭素繊維強化プラスチック層の表面に、熱可塑性樹脂層が形成されていることを特徴とする構成12から15の何れかに記載の積層複合材。
【0022】
(構成17)
前記発泡ABS樹脂層の上面側と下面側の前記熱可塑性樹脂層及び前記炭素繊維強化プラスチック層の積層数が同じであることを特徴とする構成15又は16に記載の積層複合材。
【0023】
(構成18)
構成1から4の何れかに記載の積層複合材の製造方法であって、成形型に対して、第1の離型シートと、エラストマー性を有する第1の熱可塑性樹脂シートと、前記炭素繊維織物と、エラストマー性を有する第2の熱可塑性樹脂シートと、第2の離型シートと、を積層するステップと、前記第1、第2の熱可塑性樹脂シートを前記炭素繊維織物に熱圧着させるステップと、を有することを特徴とする積層複合材の製造方法。
【0024】
(構成19)
構成5に記載の積層複合材の製造方法であって、成形型に対して、離型シートと、エラストマー性を有し、前記炭素繊維織物よりも厚い熱可塑性樹脂シートと、前記炭素繊維織物と、エラストマー性を有し、前記炭素繊維織物よりも薄い熱可塑性樹脂シートと、を、前記離型シートと前記炭素繊維織物よりも厚い熱可塑性樹脂シートが接するように積層するステップと、前記熱可塑性樹脂シートを前記炭素繊維織物に熱圧着させるステップと、を有することを特徴とする積層複合材の製造方法。
【0025】
(構成20)
前記第1及び第2の離型シートが前記熱可塑性樹脂シートに予め貼付されている、又は前記離型シートが前記熱可塑性樹脂シートに予め貼付されていることを特徴とする構成14又は15に記載の積層複合材の製造方法。
【0026】
(構成21)
少なくとも炭素繊維織物層と熱可塑性樹脂層と発泡ABS樹脂層とを有する積層複合材の製造方法であって、前記発泡ABS樹脂層を、ABS樹脂成型品として用意するステップと、前記ABS樹脂成型品に対して、離型シートと、少なくとも一方の表面に熱可塑性樹脂シートが積層された炭素繊維織物を有する積層シート体と、を前記離型シートと前記熱可塑性樹脂シートが接するように積層するステップと、前記各シートを積層したABS樹脂成型品を、一体的に熱圧着させるステップと、を有することを特徴とする積層複合材の製造方法。
【0027】
(構成22)
少なくとも炭素繊維強化プラスチック層と発泡ABS樹脂層とを有する積層複合材の製造方法であって、前記発泡ABS樹脂層を、ABS樹脂成型品として用意するステップと、前記ABS樹脂成型品に対して、カーボンプリプレグを積層し、当該カーボンプリプレグに離型シートを積層した積層体を形成するステップと、前記積層体を、一体的に熱圧着させるステップと、を有することを特徴とする積層複合材の製造方法。
【0028】
(構成23)
前記第1及び第2の離型シート又は前記離型シートの表面粗さRaが、0.5μm~1.0μmであることを特徴とする構成18から22の何れかに記載の積層複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明の積層複合材及びその製造方法によれば、従来にはない新たな積層複合材及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係る実施形態1の積層複合材の積層構造を示す概略図
図2】実施形態1の積層複合材の製造方法を示す説明図
図3】実施形態1の積層複合材が使用された鞄を示す図
図4】実施形態1の積層複合材の別の例の積層構造を示す概略図
図5】実施形態1の積層複合材の別の例の製造方法を示す説明図
図6】実施形態1の積層複合材の別の例の積層構造を示す概略図
図7】実施形態2の積層複合材のコーティング層の説明図
図8】実施形態3の積層複合材の積層構造を示す概略図
図9】実施形態4の積層複合材の積層構造を示す概略図
図10】別の例の積層複合材の積層構造を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0032】
<実施形態1>
本実施形態は、炭素繊維織物を含む新たな積層複合材に関し、当該積層複合材を使用した成形品の具体例としてベルト(鞄に使用するベルト)を用いて説明する。
なお、鞄100(図3参照)は、蓋部11と収納部12が開閉可能に接合されたトラベルケースであり、蓋部11と収納部12が炭素繊維強化プラスチックを含む積層複合材を用いて形成されているものである。
【0033】
図1は本実施形態のベルト(積層複合材)1の積層構造を示す概略図である。
本実施形態のベルト(積層複合材)1は、炭素繊維によって織られた炭素繊維織物CFの上面及び下面にエラストマー性を有する熱可塑性樹脂シートPU1、エラストマー性を有する熱可塑性樹脂シートPU2を熱圧着させたものである。
“炭素繊維によって織られた炭素繊維織物”とはカーボンプリプレグのマトリクス樹脂(熱硬化性樹脂)が無いものである。
熱可塑性樹脂シートPU1、熱可塑性樹脂シートPU2は、本実施形態では、300μmの厚さの透光性を有するポリウレタンシートと、150μmの厚さの透光性を有するポリウレタンシートである。ベルト(積層複合材)1は、図3に示されるように、鞄に使用されるベルトであり、鞄に取り付けられた状態で表面側が意匠面であり、裏面側は基本的には意匠面とはならない。ベルト(積層複合材)1は、意匠面側に300μmの厚さの熱可塑性樹脂シートPU1が設けられ、裏面側に150μmの厚さの熱可塑性樹脂シートPU2が設けられている。
炭素繊維織物CFの厚さは200μmであるため、本実施形態のベルト(積層複合材)1は、熱可塑性樹脂シートPU1の厚さが、炭素繊維織物CFよりも厚く、熱可塑性樹脂シートPU2の厚さが、炭素繊維織物CFよりも薄いものとなる。
【0034】
この炭素繊維織物CFの両面に、透光性の熱可塑性樹脂シートPU1、PU2が熱圧着された積層複合材は、非常に柔軟で革に似た手触りの素材となり、表面の見た目としてはカーボン素材(炭素繊維強化プラスチック)と同様である。即ち、見た目はカーボン素材でテクスチャとしては革に近い、高級感を感じさせる素材である。
このような本実施形態の積層複合材によって、鞄100に取り付けるベルト1を形成することにより、蓋部11と収納部12のカーボン素材の見た目とマッチし、より高級感のある製品とすることができる。ベルト1の他、鞄100に使用する各パーツ(蓋部11と収納部12の角部等にあてる各パーツや、取っ手等)にも上記積層複合材を用いてもよい。
【0035】
次に、本実施形態の積層複合材の製造方法について説明する。
【0036】
図2に示されるように、成形型T上に、離型シートRPと、熱可塑性樹脂シートPU1と、炭素繊維織物CFと、熱可塑性樹脂シートPU2と、をこの順で積層させる。これにより、「成形型に対して、離型シートと、炭素繊維織物よりも厚い熱可塑性樹脂シートと、炭素繊維織物と、炭素繊維織物よりも薄い熱可塑性樹脂シートと、を、離型シートと炭素繊維織物よりも厚い熱可塑性樹脂シートが接するように積層」されるものである。
【0037】
成形型Tは、各シートを積層するための単なるプレート状の型であるが、カーボンと線膨張が同程度の材料で形成された型である。成形型Tが、熱膨張係数がカーボンと同程度の材料で形成されていることにより、熱圧着の前後の温度変化の影響によって製品にシワや縮みが生じることが低減される。熱膨張係数がカーボンと同程度の材料としては、カーボンの板や石膏ボード等が挙げられる。
【0038】
離型シートRPは、熱可塑性樹脂シートPU1と成形型Tの間に配され、熱可塑性樹脂シートPU1の表面を保護すると共に、その表面の意匠性を向上させるためのものであり、耐熱紙によって形成される。
熱可塑性樹脂シートPU1は、成形型Tに接する側に配されるため、成形型Tに僅かであっても傷等があると、熱圧着される際にこの傷が転写されて熱可塑性樹脂シートPU1の表面に表れるおそれがある。また成形型Tにゴミや汚れが付着していると、同様にゴミや汚れが熱可塑性樹脂シートPU1の表面に表れるおそれがある。離型シートRPを用いることにより、このような問題を低減することができる。
また、離型シートRPと熱可塑性樹脂シートPU1を積層して熱圧着することにより、離型シートRPの表面の微細な凹凸が転写され、熱可塑性樹脂シートPU1の表面(意匠面)にマット感を与えることができる。この凹凸が、製品になった際の熱可塑樹脂特有の汚れの付着や傷を目立たなくさせる効果も有する。算術平均粗さRaが0.5μm~1.0μmの離型シートRPを用いると、第1の熱可塑性樹脂層の表面に好適なマット感を形成することができる。算術平均粗さRaは、粗さ計で測定した粗さ曲線の一部を基準長さで抜き出し、その区間の凹凸状態を平均値で表したものである。
なお、離型シートRPとして表面が平滑なシートを用いることによって、熱可塑性樹脂層に表面をツヤありにすることもできる。
このように、離型シートRPを用いることにより、熱可塑性樹脂シートPU1の表面を保護すると共に、その表面の意匠性を向上させることができる。
なお、本実施形態においては、離型シートRPは、熱可塑性樹脂シートPU1に予め貼付された状態にて、プレカットされており、成形型Tへの積層作業等においては、離型シートRPと熱可塑性樹脂シートPU1は、一体的に扱われるものである。
【0039】
成形型Tに対して、図2のごとく各シートを積層したら、これをオートクレーブ製法による熱圧着によって成形し、成形型Tから成形品を脱型することで、本実施形態の積層複合材によって形成された成型物が得られる。
なお、オートクレーブ成形については適宜各手法を用いることができる。オートクレーブ成形は公知の技術であり、ここでの説明を省略するが、熱圧着時には、その温度が80度以下になるまで積層複合材をいれたバッグの真空度を保つ(圧着状態を保つ)ことが好ましい。本実施形態の積層複合材においては、熱可塑性樹脂を用いており、80度より高い温度下で真空度を緩めると、離型紙RPによる艶消し感の転写にムラが発生する可能性があるためである。
【0040】
本実施形態の積層複合材は、前述のごとく柔軟な素材であり、適宜カットや縫製等の加工をすることが可能である。
従って、例えば本実施形態の積層複合材として大きな布状の成形品(生地)として成形しておき、これを適宜カットや縫製等の加工をすることで、最終的な製品形状としてもよいし、予め製品形状にカットした各シートを積層してこれを熱圧着して成形することで、製品形状を得るものであってもよい。
なお、本実施形態の積層複合材をカットすると、その切断面には、炭素繊維織物CFが露出することになる。このように炭素繊維織物CFが断面で露出することが望ましくない場合には、熱圧着の前に各シートを製品形状にカットして成形することが望ましい。この際に、炭素繊維織物CFのカットサイズよりも、熱可塑性樹脂シートPU1、PU2(の何れか若しくは双方)を、少し大きめのサイズにカットすることにより、外周部に熱可塑性樹脂シートによるのりしろ部分を形成することで、炭素繊維織物CFが外周部で露出することを防止することができる。
【0041】
以上のごとく、本実施形態のベルト(積層複合材)1は、従来にはない新たな素材であり、炭素繊維が織られることによって現れるパターンによる意匠性の利用範囲を格段に広げることができる。
また、本実施形態のベルト(積層複合材)1は、熱可塑性樹脂シートが炭素繊維織物CFの表面に形成されるため、表面の質感や触感を向上させ、且つ、安全性を向上することができる。さらに、表面への塗装を不要とすることができ、表面に塗装を施す際においても、美しい塗装面を容易に得ることができる。
また、本実施形態によれば、熱可塑性樹脂シートPU1と成形型Tの間に配される離型シートRPを用いることにより、熱可塑性樹脂シートPU1の表面を保護すると共に、その表面の意匠性を向上することができる。加えて、離型シートRPを使用することで成形型Tのダメージを低減させ成形型Tの寿命を延ばすこともできる。
【0042】
なお、本実施形態では、製品としての意匠面が基本的に一方側だけであるため、裏面側となる熱可塑性樹脂シートPU2については、厚さが薄く、その成形時においても離型シートを配していないが、両面が意匠面となる場合には、熱可塑性樹脂シートPU2側も、熱可塑性樹脂シートPU1と同様の構成としてもよい。
図4にはそのような例としての積層複合材1´を示した。熱可塑性樹脂シートPU2´は、上記実施形態における熱可塑性樹脂シートPU1と同様のものである。図5は、当該積層複合材1´の製造方法を示す説明図である。同図に示されるように、熱可塑性樹脂シートPU1の下面に第1の離型シートRP1(上記実施形態における離型シートRPと同様)を配し、熱可塑性樹脂シートPU2´の上面にも第2の離型シートRP2(上記実施形態における離型シートRPと同様)を配し、この状態で熱圧着によって成形することで、熱可塑性樹脂シートPU2´の上面側も保護すると共に、その表面の意匠性を向上させることができる。
【0043】
本実施形態においては、積層複合材として、熱可塑性樹脂シートPU1と炭素繊維織物CFと熱可塑性樹脂シートPU2の3層構造であるものを例としているが、本発明をこれに限るものでは無く、少なくとも“炭素繊維織物の上面及び下面に熱圧着されている熱可塑性樹脂シート”を有するものであればよい。例えば、熱可塑性樹脂シートや炭素繊維織物それぞれの積層数若しくは、熱可塑性樹脂シートと炭素繊維織物の繰り返し数を増減してもよいし、他の材料層(例えば塗装膜)をさらに備えるもの等であってもよい。
図6には熱可塑性樹脂シートと炭素繊維織物の繰り返し数を増やした例としての積層複合材1´´を示した。なお、図1図4と同様の構成となるものについては、同一の符号を使用している。
積層複合材1´´は、熱可塑性樹脂シートPU1、炭素繊維織物CF1、と熱可塑性樹脂シートPU3、炭素繊維織物CF2、熱可塑性樹脂シートPU2´がこの順に積層された5層構造のものである。炭素繊維織物CF1、2は、実施形態の炭素繊維織物CFと同様のものである。熱可塑性樹脂シートPU3は、厚さが100μmのポリウレタンシートである。
このように積層数を増加させることにより、厚手の積層複合材を得ることができる。また、炭素繊維織物が1層だけであると、炭素繊維間の隙間が見える(光に透かすと穴として見える)ことがあるが、図6のように炭素繊維織物を積層することにより、炭素繊維間の隙間が見えることが低減される。この観点に基づき、炭素繊維織物の間に挟まれる熱可塑性樹脂シートPU3については、不透光性のシートを用いる(不透光層を形成する)ようにしてもよい。不透光層を形成する場合には、製品の表面となる熱可塑性樹脂シートと炭素繊維織物との間となる箇所以外に設けるようにするとよい。製品の表面となる熱可塑性樹脂シートと炭素繊維織物との間に不透光層を設けると、炭素繊維織物の織目の意匠性を得ることができないためである。
【0044】
また、本実施形態では、熱可塑性樹脂として、ポリウレタンを例としているが、本発明をこれに限るものではない。積層複合材に用いる熱可塑性樹脂シートとして、意匠性、質感、手触り、柔軟性、安全性等の設計思想に即した各種の樹脂を用いることができ、弾性部材、柔軟性部材としての機能を有する樹脂であることが好ましい。
【0045】
本実施形態では、積層複合材として、平面的に成形するものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、積層複合材が立体的に成形されるものであってもよい。
成形型として立体的な型を使用し、この立体的な型に対して各シートを積層し、これをオートクレーブ成形によって熱圧縮して成形することにより、積層複合材を立体的に成形することができる。
【0046】
本実施形態では、炭素繊維織物と熱可塑性樹脂シートの熱圧着を、オートクレーブ成形によって行うものを例としたが、これに限られるものではなく、例えば、ヒートプレスや、超音波溶融等によるものであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
<実施形態2>
実施形態2は、実施形態1で説明した積層複合材の表面にコーティング層を設けたものである。より具体的には、離型シートRPの表面の微細な凹凸が転写され、微細な凹凸を有する表面とされた熱可塑性樹脂層の表面に、離型シートRPの表面粗さRzよりも薄い膜厚のコーティング層を設けたものである。
【0048】
図7は、本実施形態の積層複合材のコーティング層を説明するための図である。
図7(a)は、実施形態1で説明した積層複合材の表面の凹凸を示した概略図である。同図に示されるように、実施形態1で説明した積層複合材の表面Sは、離型シートRPの表面の凹凸が転写されることによって、凹凸を有し、これによって光が乱反射してマット感を与えるものである。図中のRzは、表面粗さとしての最大高さを示すものである。表面粗さRzは、粗さ計で測定した粗さ曲線の一部を基準長さで抜き出し、もっとも高い部分ともっとも深い部分の和の値である。積層複合材の表面Sの凹凸は、離型シートRPの表面の凹凸が転写されたものであり、積層複合材の表面Sの表面粗さRzは、離型シートRPの表面粗さRzと同等以下のものとして形成される。
【0049】
表面Sの凹凸によってマット感が得られるものであるが、当該表面の凹凸によって、例えば指紋などの汚れが付着しやすく落ちにくいという傾向を有する。
本実施形態の積層複合材は、表面にコーティング層を有することによって、指紋などの汚れが目立たなく且つ落としやすいようにできると共に、マット感を失わないようにすることができるものである。
【0050】
図7(b)は、本実施形態の積層複合材の表面のコーティング層Clを示す概念図である。
コーティング層Clは、帯電防止剤及び撥水剤であるフッ素樹脂(例えば、株式会社日新科学研究所の「カプロンGS-5」を用いることができる)によって形成され、透光性を有している。当該コーティング層Clの形成方法は、実施形態1で説明した積層複合材の表面に、希釈したフッ素樹脂液をスプレーし、余剰をウエスでふき取った後に乾燥させる。
布等の表面に微細な凹凸を有するウエスで、乾燥前のフッ素樹脂液をふき取ることで、積層複合材の表面Sの凹凸の中に入り込むようにフッ素樹脂液がふき取られる。これによって、図7(b)に示されるように、積層複合材の表面Sの表面粗さRzよりも薄い膜厚を有するコーティング層Clが形成される。
【0051】
図7(c)は、積層複合材の表面Sの表面粗さRzよりも厚い膜厚Thを有するコーティング層Cl´が形成された場合を示している。
図7(c)では、コーティング層Cl´によって表面がなだらかになっている。この場合、汚れの付着抑止や汚れを落としやすくすることに対しては有効であるが、表面のマット感が失われてしまう。
【0052】
これに対し、本実施形態によれば、表面Sの表面粗さRzよりも薄い膜厚を有するコーティング層Clを有することにより、指紋などの汚れが目立たなく且つ落としやすいようにできると共に、マット感を失わないようにすることができる。マット感をより明確に得るためには、コーティング層Clを形成した状態において、その表面粗さRaが0.5μm~1.0μmであることが好ましく、そのために表面粗さRaが実施形態1(0.5μm~1.0μm)より大きな離型シートを用いるようにしても良い。
また、本実施形態では、帯電防止剤及び撥水剤であるフッ素樹脂によってコーティング層Clを形成しているため、静電気によるゴミの付着等も低減できると共に、汚れの付着抑止や汚れを落としやすくする効果をより大きくすることができる。
【0053】
なお、本実施形態では、表面Sの表面粗さについて、最大高さであるRzを用いたが、算術平均粗さRaを用いて、「表面Sの表面粗さRaよりも薄い膜厚を有するコーティング層Cl」を形成するようにしてもよい。前述のごとく、算術平均粗さRaは、粗さ計で測定した粗さ曲線の一部を基準長さで抜き出し、その区間の凹凸状態を平均値で表したものである。この表面Sの表面粗さRaに対し、表面Sの表面を表す曲線とコーティング層Clの表面を表す曲線の差分を示す曲線の一部を基準長さで抜き出し、その区間の凹凸状態を平均値で表したものが小さくなるようにするものである。
また、本実施形態では、コーティング層をフッ素樹脂によって形成するものを例としているが、本発明をこれに限るものではない。例えばシリコン系のコーティング剤を用いるもの等であってもよい。
【0054】
<実施形態3>
実施形態3は、実施形態1で説明した積層複合材の積層構造の中に、発泡ABS樹脂層を有するものである。
図8は、本実施形態の積層複合材の積層構造を示す概略図である。
図8に示されるように、本実施形態の積層複合材2は、熱可塑性樹脂シートPU21と、炭素繊維織物CF21と、熱可塑性樹脂シートPU22と、発泡ABS樹脂ボードABSrと、熱可塑性樹脂シートPU23と、炭素繊維織物CF22と、熱可塑性樹脂シートPU24を積層した上で、熱圧着させることで構成される。なお、熱可塑性樹脂シートPU21の下面側と熱可塑性樹脂シートPU24の上面側には、それぞれ離型シートRPが設けられて熱圧着される(熱圧着後、離型シートRPは剥がされる)。
これにより、本実施形態の積層複合材は、第1の熱可塑性樹脂層(本実施形態ではポリウレタン層)と第1の炭素繊維織物層と第2の熱可塑性樹脂層(本実施形態ではポリウレタン層)と発泡ABS樹脂層と第3の熱可塑性樹脂層(本実施形態ではポリウレタン層)と第2の炭素繊維織物層と第4の熱可塑性樹脂層(本実施形態ではポリウレタン層)の7層構造を有する。
【0055】
発泡ABS樹脂ボードABSrは、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの合成樹脂発泡プレートであり、本実施形態では発泡倍率が1.5~2.5倍で、厚さが3mm~5mmのものを用いている。発泡倍率が2倍とは、発泡によって無発泡の場合の2倍の体積となるものをいう。
発泡ABS樹脂ボードABSrは、軽量で、高い耐衝撃性を有している。
なお、離型シートRPや各熱可塑性樹脂シートと炭素繊維織物については、実施形態1と同様のものであるので、ここでの説明を省略する。
【0056】
本実施形態の積層複合材によれば、安価、軽量、且つ高い耐衝撃性を有する発泡ABS樹脂層を有することにより、低コストで高い強度を有する積層複合材を得ることができる。
【0057】
本実施形態の積層複合材は、発泡ABS樹脂ボードに対して、熱可塑性樹脂シートを積層し、これをオートクレーブによって熱圧着したものであるため、各層が高い密着性を有し、層間の剥離を起こし難い。
発泡ABS樹脂ボードは、発泡材料であるため、表面に微細な凹凸を有しており、当該凹凸内に熱可塑性樹脂シートの熱可塑性樹脂が入り込んで硬化するため、高い密着力が得られるものである。また、オートクレーブにおいて積層複合材を入れたバッグを真空引きするため、層間に空気が残ることによる密着力の低下も抑止することができるため、より高い密着力を得ることができるものである。
【0058】
本実施形態の積層複合材の形成は、実施形態1で説明した各シートを重ねる作業において、必要な個所に発泡ABS樹脂ボードを重ねるだけの作業であり、材料コストだけでなく作業コストも抑えることができる。
【0059】
本実施形態では、上述した7層構造を有するものを例としているが、本発明をこれに限るものではない。例えば、熱可塑性樹脂層と炭素繊維織物の繰り返し数を増減してもよいし、他の材料層(例えば炭素繊維強化プラスチック層や塗装膜)を備えるものであってもよい。
例えば、第1の熱可塑性樹脂層と第1の炭素繊維織物層と第2の熱可塑性樹脂層と発泡ABS樹脂層の4層構造とするもの等としてもよい。ただし、本実施形態のごとく、発泡ABS樹脂層の上面側と下面側のカーボンプリプレグの積層数を同じにすることがより好ましい。また、発泡ABS樹脂層の上面側と下面側の熱可塑性樹脂シート及びカーボンプリプレグの積層数が同じであることが好ましい。また、発泡ABS樹脂ボードを中心にして、シンメトリーな層構造であるより好ましい。
【0060】
<実施形態4>
実施形態4は、発泡ABS樹脂層に炭素繊維強化プラスチック層が熱圧着された積層複合材である。
図9は、本実施形態の積層複合材の積層構造を示す概略図である。
図9に示されるように、本実施形態の積層複合材3は、発泡ABS樹脂ボードABSrの両面に、炭素繊維強化プラスチック層CFPが形成されている。
積層複合材3は、ABS樹脂ボードABSrの両面に、厚さが200μmのカーボンプリプレグを積層し、当該カーボンプリプレグに離型シートを積層した積層体を、一体的に熱圧着することで得られる(熱圧着後、離型シートRPは剥がされる)。発泡ABS樹脂ボードABSrは実施形態3と同様のものであり、離型シートは実施形態1と同様のものである。
【0061】
本実施形態の積層複合材は、発泡ABS樹脂ボードに対して、カーボンプリプレグを積層し、これをオートクレーブ等によって熱圧着したものであるため、各層が高い密着性を有し、層間の剥離を起こし難い。
発泡ABS樹脂ボードは、発泡材料であるため、表面に微細な凹凸を有しており、当該凹凸内にカーボンプリプレグのマトリクス樹脂が入り込んで硬化するため、高い密着力が得られるものである。また、オートクレーブによれば、積層複合材を入れたバッグを真空引きするため、層間に空気が残ることによる密着力の低下も抑止することができ、より高い密着力を得ることができる。
【0062】
発泡ABS樹脂ボードABSrは、軽量で、高い耐衝撃性を有しており、これに、伸縮率の非常に小さい素材である炭素繊維強化プラスチックが全面的に密着して形成されるため、曲げ剛性が高く、軽量且つ高い耐衝撃性を有する素材とすることができる。
炭素繊維強化プラスチックは、軽量で強度が高いものではあるが、高い強度を得るためには、カーボンプリプレグの積層数を多くする必要がある。しかしながら、多数のカーボンプリプレグを使用するとコスト高となる問題がある。これに対し、上記の積層複合材によれば、低コストで高い強度を有し、多用途に使用することができる積層複合材を得ることができる。
【0063】
本実施形態では、発泡ABS樹脂層の両面に炭素繊維強化プラスチック層が形成されるものを例としたが、発泡ABS樹脂層の片面のみに炭素繊維強化プラスチック層を形成するようにしてもよく、片面若しくは両面に複数の炭素繊維強化プラスチック層を形成してもよい。ただし、発泡ABS樹脂ボードの両面に炭素繊維強化プラスチック層を設けるようにする方が好ましく、両面の炭素繊維強化プラスチック層の積層数を同じにすることが好ましい。発泡ABS樹脂ボードの両面に炭素繊維強化プラスチック層を設けることにより、より高い剛性が得られると共に、発泡ABS樹脂ボードを中心にして、シンメトリーな層構造であることにより、積層複合材にそりが生じることを低減できる。
なお、紫外線があたる環境下で使用する場合には、紫外線があたる炭素繊維強化プラスチック層に対して耐候性を有する表面層を形成することが好ましく、例えば、表面となる炭素繊維強化プラスチック層の表面にポリウレタン等の熱可塑性樹脂層を形成するとよい。当該熱可塑性樹脂層は、塗膜として形成されるもの等であってよい。
また、素材に柔軟性を付与する等の目的で、炭素繊維強化プラスチック層の間に、エラストマー性を有する層を設けるようにしてもよい。エラストマー性を有する層によって、発泡ABS樹脂層と炭素繊維強化プラスチック層の間における相対的な滑りが助長され、この現象によって積層複合材に柔軟性を持たせる結果が得られるものである。
【0064】
図10には、上面側の炭素繊維強化プラスチック層の表面に熱可塑性樹脂層PU1を形成すると共に、下面側の炭素繊維強化プラスチック層を2層とし、この炭素繊維強化プラスチック層の間にエラストマー性を有する層(熱可塑性樹脂層PU2)を設けたものの例を示した。熱可塑性樹脂層PU1、2は実施形態1で説明した熱可塑性樹脂シートPU1、2、各炭素繊維強化プラスチック層CFPは実施形態4で説明したカーボンプリプレグ、発泡ABS樹脂ボードABSrは実施形態3で説明した発泡ABS樹脂ボードによってそれぞれ形成されるものであり、離型シートRPと、熱可塑性樹脂シートPU1と、第1のカーボンプリプレグCFPと、発泡ABS樹脂ボードABSrと、第2のカーボンプリプレグCFPと、熱可塑性樹脂シートPU2と、第3のカーボンプリプレグCFPを、積層した上で、熱圧着させることで構成される(熱圧着後、離型シートRPは剥がされる)。
実施形態1で説明したような鞄において、その底面となる部分に、図10の積層複合材を使用すると、鞄の底面を安価に補強することができる。特に、キャスターを有するタイプの鞄においては、キャスターを有する底面において梁構造になるため、図10の積層複合材にて補強することが有効である。もちろん、底面以外の箇所に図10の積層複合材を使用するものであってよい。
【0065】
実施形態3、4における発泡ABS樹脂は、平板状のものだけではなく、3次元的な構造を有する成形品(ABS樹脂成形品)としてもよい。
発泡ABS樹脂を3次元的な構造を有する成形品(ABS樹脂成形品)として形成し、これを、積層複合材を形成するためのプレフォーム型として利用することもできる。
例えば、発泡ABS樹脂を3次元的な構造を有するABS樹脂成形品を形成し、これに対して、“離型シートと、少なくとも一方の表面に熱可塑性樹脂シートが積層されたカーボンプリプレグを有する積層シート体と、を前記離型シートと前記熱可塑性樹脂シートが接するように積層する”こと等により、図8で説明したような積層構造を形成し、これを一体的に成形型にはめ込んで熱圧着させることにより、本実施形態の積層複合材にて形成することができる。
この説明からも明らかなように、ABS樹脂成形品をプレフォーム型(成形型に対してカーボンプリプレグと熱可塑性樹脂シートを成形状態で積層する作業を効率化及び高精度化するためのツール)として機能させることができるものである。
【0066】
1...ベルト(積層複合材)
CF...炭素繊維織物
PU1、PU2...熱可塑性樹脂シート
RP...離型シート
T...成形型
100...鞄
Cl...コーティング層
ABSr...発泡ABS樹脂層
CFP...炭素繊維強化プラスチック層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10