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特許7609483液晶パネル、光スイッチング素子及び液晶パネル用電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】液晶パネル、光スイッチング素子及び液晶パネル用電極
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1343 20060101AFI20241224BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20241224BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20241224BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20241224BHJP
   G02F 1/137 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
G02F1/1343
G02F1/13 505
G02F1/1335
G02B5/18
G02F1/137
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023502546
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2022007978
(87)【国際公開番号】W WO2022181781
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2021031294
(32)【優先日】2021-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518295945
【氏名又は名称】株式会社SteraVision
(74)【代理人】
【識別番号】110002181
【氏名又は名称】弁理士法人IP-FOCUS
(72)【発明者】
【氏名】上塚 尚登
【審査官】近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-227760(JP,A)
【文献】特開2012-128408(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0129901(US,A1)
【文献】国際公開第2019/004295(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/182158(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1343
G02F 1/13
G02F 1/1335
G02F 1/1337
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の透明基板の間に電極及び液晶が保持された液晶パネルであって、
前記液晶がポリマー安定化ブルー相液晶であり、
前記電極が、前記透明基板と平行に配置される複数の薄膜状の透明電極と、前記透明電極の間に配置される薄膜状の透明スペーサで構成される積層体を、前記透明基板の面内方向に正極と負極で交互に配列してなり、
前記積層体は、前記液晶に接する面に前記透明スペーサよりも厚さが薄い透明スペーサが設けられ、
前記積層体を一対の前記透明基板の双方に装着し、一方の前記透明基板に装着された積層体と、他方の透明基板に装着された積層体との間に液晶層を設けてなることを特徴とする液晶パネル。
【請求項2】
一対の透明基板の間に電極及び液晶が保持された液晶パネルであって、
前記液晶がポリマー安定化ブルー相液晶であり、
前記電極が、前記透明基板と平行に配置される複数の薄膜状の透明電極と、前記透明電極の間に配置される薄膜状の透明スペーサで構成される積層体を、前記透明基板の面内方向に正極と負極で交互に配列してなり、
前記積層体は、前記液晶に接する面に前記透明スペーサよりも厚さが薄い透明スペーサが設けられ、
前記積層体を一方の前記透明基板に装着し、他方の前記透明基板と前記積層体との間に液晶層を設けてなることを特徴とする液晶パネル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液晶パネルであって、前記液晶層が電圧を加えた際にダイレクターが電圧の方向に長軸となる特性を有する液晶であることを特徴とする液晶パネル。
【請求項4】
請求項1に記載の液晶パネルの一方の面に透過型の回折部材を装着してなることを特徴とする光スイッチング素子。
【請求項5】
請求項2に記載の液晶パネルの一方の面に透過型の回折部材を装着してなることを特徴とする光スイッチング素子。
【請求項6】
請求項4に記載の光スイッチング素子の前記回折部材が装着された面を表面とし、他方の面を裏面としたときに、
前記光スイッチング素子の表面に、他の光スイッチング素子の裏面を装着してなることを特徴とする光スイッチング素子積層体。
【請求項7】
請求項5に記載の光スイッチング素子の前記回折部材が装着された面を表面とし、他方の面を裏面としたときに、
前記光スイッチング素子の表面に、他の光スイッチング素子の裏面を装着してなることを特徴とする光スイッチング素子積層体。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の光スイッチング素子積層体であって、
積層された複数の前記光スイッチング素子に装着された回折部材は、
光の入射方向の上流側にある前記回折部材に比べて、下流側にある前記回折部材の偏光角度を大きく設定したことを特徴とする光スイッチング素子積層体。
【請求項9】
一対の透明基板の間にポリマー安定化ブルー相液晶が保持された液晶パネル内に配置される電極であって、
前記透明基板と平行に配置される複数の薄膜状の透明電極と、前記透明電極の間に配置される薄膜状の透明スペーサで構成される積層体を、前記透明基板の面内方向に正極と負極で交互に配列してなり、
前記積層体は、前記液晶に接する面に前記透明スペーサよりも厚さが薄い透明スペーサが設けられていることを特徴とする電極。
【請求項10】
請求項9に記載の電極であって、
前記積層体は、前記透明基板の面外方向から見て櫛歯状に形成されてなることを特徴とする電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネル、その液晶パネルを用いたな光スイッチング素子、及び液晶パネルに用いられる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、自動車の自動運転技術の開発が進められており、その中でも自動車の周囲の障害物等を検出するセンサ技術の開発が重要となっている。また、ロボット分野における把持対象物の検出や、障害物の検出においてもセンサ技術の開発が重要となっている。
【0003】
このようなセンサ技術の一環として、レーザー光等の光ビームを用いてセンシングを行うLiDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging:ライダー)の開発に注目が集まっている。LiDARでは、光ビームを外部に出射して、その光ビームが障害物等に当たって反射された際に、その反射光を受光して出射光と反射光との時間遅延や位相差等を利用して障害物の検出を行っている。
【0004】
本願発明者は、このLiDARに用いることができる光スイッチング素子を提案している(特許文献1)。この特許文献1における光スイッチング素子は、ポリマー安定化ブルー相液晶を用いた液晶パネルの表面に偏光グレーティングを装着し、その両面に傾斜部材であるガラスウェッジを装着している。
【0005】
特許文献1における液晶パネルは、2枚のガラス基板の表面に薄膜状の透明電極を形成し、その透明電極の間にポリマー安定化ブルー相液晶を充填し、光照射により安定化させている。特許文献1における光スイッチング素子は、上記構成により、従来のネマティック液晶等よりも高速でスイッチングが可能なポリマー安定化ブルー相液晶を用いることで、高速なスイッチングを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-106616号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者等は、特許文献1に記載の光スイッチング素子を用いたLiDARの開発を進めており、特に車載用のLiDARの実用化に向けて研究を続けている。車載用のLiDARは、電源が車両のバッテリーであるため、作動電圧がバッテリー電圧を超える場合は昇圧器等が必要となり、部品点数及び重量が増加するため好ましくない。
【0008】
特許文献1に記載の光スイッチング素子は、ポリマー安定化ブルー相液晶を採用することにより、高速なスイッチングを実現しているが、比較的高い作動電圧を必要としている。従って、車載用のLiDARの実用化のためには、作動電圧を低下させ、消費電力の低減を実現することが望まれている。
【0009】
本発明は、LiDAR、或いはロボット等のセンサ等に好適に用いることができ、従来よりも低い電圧で作動が可能な光スイッチング素子、その光スイッチング素子に用いられる液晶パネル、及びその液晶パネル用の電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第一の態様の液晶パネルは、一対の透明基板の間に電極及び液晶が保持された液晶パネルであって、前記液晶がポリマー安定化ブルー相液晶であり、前記電極が、前記透明基板と平行に配置される複数の薄膜状の透明電極と、前記透明電極の間に配置される薄膜状の透明スペーサで構成される積層体を、前記透明基板の面内方向に正極と負極で交互に配列してなり、前記積層体は、前記液晶に接する面に前記透明スペーサよりも厚さが薄い透明スペーサが設けられ、前記積層体を一対の前記透明基板の双方に装着し、一方の前記透明基板に装着された積層体と、他方の透明基板に装着された積層体との間に液晶層を設けてなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第二の態様の液晶パネルは、一対の透明基板の間に電極及び液晶が保持された液晶パネルであって、前記液晶がポリマー安定化ブルー相液晶であり、前記電極が、前記透明基板と平行に配置される複数の薄膜状の透明電極と、前記透明電極の間に配置される薄膜状の透明スペーサで構成される積層体を、前記透明基板の面内方向に正極と負極で交互に配列してなり、前記積層体は、前記液晶に接する面に前記透明スペーサよりも厚さが薄い透明スペーサが設けられ、前記積層体を一方の前記透明基板に装着し、他方の前記透明基板と前記積層体との間に液晶層を設けてなることを特徴とする。
【0012】
本発明の液晶パネルは、複数の透明電極と複数の透明スペーサが積層された積層体が、液晶内に正極と負極で交互に配列された電極を備えているので、電極に電圧を加える際の方向を透明電極と平行にすることができる。従って、正極と負極との間の液晶に直接電圧を印加することができるので、少ない電力で液晶を作動させることができる。
【0013】
また、第一の態様の液晶パネルは、液晶パネルに用いられる積層体を二層にしているので、積層体の厚さを薄くすることができ、積層体をエッチングで形成する際に、エッチング処理が容易となる。一方で、第二の態様の液晶パネルは、積層体を一方の透明基板に装着し、他方の透明基板には装着しないため、構成を簡素化することができる。
【0014】
また、本発明の液晶パネルにおいては、前記液晶層が電圧を加えた際にダイレクターが電圧の方向に長軸となる特性を有する液晶で構成されることが好ましい。電圧を加えた際にダイレクターが電圧の方向に長軸となる特性を有する液晶としては、例えばポリマー安定化ブルー相液晶があり、当該液晶により、透明基板に入射される光にリターデーションを生じさせることができる。
【0015】
また、上記第一の態様及び第二の態様の液晶パネルの一方の面に透過型の回折部材を装着することで光スイッチング素子を形成することができる。この光スイッチング素子は、前記回折部材が装着された面を表面とし、他方の面を裏面としたときに、前記光スイッチング素子の表面に、他の光スイッチング素子の裏面を装着しすることで、光スイッチング素子積層体を形成することができる。
【0016】
また、本発明の光スイッチング素子積層体において、積層された複数の前記光スイッチング素子に装着された回折部材は、光の入射方向の上流側にある前記回折部材に比べて、下流側にある前記回折部材の偏光角度を大きく設定することができる。
【0017】
積層された複数の光スイッチング素子を光が通過する場合、入射方向の上流側の光スイッチング素子を通過した光は回折部材によって傾斜するため、次の光スイッチング素子の表面には斜めに入射されることになる。一方で、光スイッチング素子に入射される光の入射角が表面に対して垂直のときにリターデーションを生じさせる効率が高くなる。このため、下流側の光スイッチング素子に用いられる回折部材の偏光角度を大きくして、液晶パネルに入射される光の角度をパネルに対して垂直に近づけることで、複数枚重ねても効率のよい光スイッチング素子積層体とすることができる。
【0018】
また、本発明の液晶パネルに好適な電極として、本発明の電極は、一対の透明基板の間にポリマー安定化ブルー相液晶が保持された液晶パネル内に配置される電極であって、前記透明基板と平行に配置される複数の薄膜状の透明電極と、前記透明電極の間に配置される薄膜状の透明スペーサで構成される積層体を、前記透明基板の面内方向に正極と負極で交互に配列してなり、前記積層体は、前記液晶に接する面に前記透明スペーサよりも厚さが薄い透明スペーサが設けられていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の電極において、前記積層体は、前記透明基板の面外方向から見て櫛歯状に形成されるようにしてもよい。当該構成により、液晶パネルに用いた際に液晶パネルをコンパクトに形成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、LiDAR、或いはロボット等のセンサ等に好適に用いることができ、従来よりも低い電圧で作動が可能な光スイッチング素子、その光スイッチング素子に用いられる液晶パネル、及びその液晶パネル用の電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態の光スイッチング素子の外観を示す説明図。
図2】(A)は図1の光スイッチング素子の断面の一部を示す説明図、(B)は電極の積層体を分離した状態を示す説明図、(C)は図1の光スイッチング素子の電極の状態を模式化した説明図。
図3】(A)は第一の実施形態の液晶パネルの断面を示す説明図、(B)は第一の実施形態の液晶パネルにおける電界の状態を示す説明図。
図4】(A)は第二の実施形態の液晶パネルの断面を示す説明図、(B)は第二の実施形態の液晶パネルにおける電界の状態を示す説明図。
図5】(A)は図1の光スイッチング素子を積層した積層体を示す説明図、(B)は(A)の光スイッチング素子の断面を模式化した説明図。
図6】(A)はS3の変位を示すグラフ、(B)は0次光の規格化光強度を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態の一例である光スイッチング素子、液晶パネル、電極、及び光スイッチング素子積層体について、図1図6を参照して説明する。図1及び図2(A)に示すように、第1の実施形態の光スイッチング素子1Aは、第1の実施形態の液晶パネル2Aと、液晶パネル2Aの光の入射方向の下流側に装着された回折部材3とを備えている。
【0023】
第1の実施形態の光スイッチング素子1Aは、図2(A)に示すように、一対の透明基板4の間に液晶5が保持された液晶パネル2A内に、第1の実施形態の電極6Aが配置されている。光スイッチング素子1Aは、液晶パネル2Aの一方の面に回折部材3を装着し、さらに電極6Aに給電を行う給電電極7を装着したものとなっている。
【0024】
本実施形態では、透明基板4は石英ガラスを使用しており、液晶5にはポリマー安定化ブルー相液晶を用いている。このポリマー安定化ブルー相液晶は、電圧を加えた際にダイレクター(図示省略)が電圧の方向に長軸となる性質を有している。ここで、ダイレクターの長軸方向は、電圧の方向と概ね一致していればよく、液晶パネル2Aを通過する光にリターデーションを生じさせることができればよい。
【0025】
また、電極6Aに用いられる透明電極61には酸化インジウムスズ(ITO)を用いている。また、回折部材3は、透過型の回折部材である偏光グレーティングを用いている。また、図2(A)に示すように、透明基板4の外面には、透明基板4と屈折率が同一の光学接着剤層41が設けられている。
【0026】
図2(A)は、第1の実施形態の光スイッチング素子1Aの断面図であり、一対の透明基板4の双方に一対の電極6Aが固定され、この一対の電極6Aの間に液晶5(液晶層)が介在している。また、電極6Aは、図2(A)及び(C)に示すように、正極となる電極6Pと負極となる電極6Mが設けられている。
【0027】
これら正の電極6Pと負の電極6Mは、図2(C)に示すように、透明基板4の面外方向(透明基板4の面を正面から見る方向)から見たときに、それぞれ櫛歯状となるように形成されている。また、正の電極6Pと負の電極6Mは、図2(C)に示すように、透明基板4の面内方向(図において上下方向)に交互に配列されている。
【0028】
図2(B)は電極6Aを分離した状態を示す説明図である。電極6Aは、薄膜状の複数の透明スペーサ62と複数の透明電極61が積層された積層体である。図2(B)に示すように、電極6Aは、図において左右対称に、5枚の透明スペーサ62と4枚の透明電極61が交互に積層されて形成されている。
【0029】
各電極6P,6Mを構成する透明スペーサ62は、中央に位置する一対の透明スペーサ62のみが他の透明スペーサ62よりも薄くなっており、他の左右それぞれ4枚の透明スペーサ62は同一の厚さとなっている。
【0030】
一例として、本実施形態では、中央の一対の透明スペーサ62の厚さを1μm、左右4枚の透明スペーサ62の厚さを2μm、透明電極61の厚さを15nmとしている。また、図2(A)における各電極6P,6Mの図中の縦方向の間隔は、本実施形態では2μmに設定している。なお、これらの数値は一例であり、使用される光の波長等に応じて適宜変更が可能である。
【0031】
本願においては、電極6の構造を把握しやすくするために、各部材の厚さ方向の寸法を圧縮して図示している。例えば、図2(A)においては、縦方向の縮尺を1とすると、横方向の縮尺は約1/6としている。図3及び図4においても同様である。また、電極6Aの電極6P,6Mは、寸法的に肉眼で形状を識別することはできないが、図2(C)においては、電極6P,6Mの部分を拡大して形状が識別できるように図示している。
【0032】
図2(C)に示すように、正の電極6Pと負の電極6Mには、櫛歯の根元の部分に給電電極7が接続されている。この給電電極7によって、正の電極6Pと負の電極6Mは、電圧が相対的に正と負になり、各電極6P,6Mの間に電界が生じる。
【0033】
次に、図3を参照して、第1の実施形態の液晶パネル2Aにおける電界の状態について説明する。図3(A)は第1の実施形態の電極6Aを備えた液晶パネル2Aの断面を示す説明図であり、図3(B)はその液晶パネル2Aの電極に電圧を印加した状態の電界の等高線と方向を示す説明図である。
【0034】
図3(B)に示すように、電極6Aの正の電極6P及び負の電極6Mに電圧を印加すると、電極6P,6Mの間には、図中の矢印に示すように、正極から負の方向に電界が生じる。この電界の方向は、電極6P,6Mの間では透明基板4と平行となり、透明基板4の面内方向と一致している。また、図において上方に位置する電極6Aと下方に位置する電極6Aとの間に液晶5が介在しているが、この電極6Aの間の液晶5にも透明基板4と平行な電界が生じている。
【0035】
このように、液晶5には、透明基板4と平行な方向に電界が作用する。本実施形態においては、液晶5にはポリマー安定化ブルー相液晶を用いており、電界を作用させることで液晶5内のダイレクターを透明基板4と平行に配列させることができる。この状態で液晶パネル2Aに光を照射すると、液晶5の作用によって、液晶パネル2Aを通過する光にリターデーションを生じさせることができる。
【0036】
一方で、電極6P,6Mの間に電界を作用させない状態では、液晶中のダイレクターは側面視で球状の屈折率楕円体となり、光学的にアイソトロピック(等方性)な媒質となり、液晶パネル2Aに光が照射されても、液晶パネル2Aを通過する光にはリターデーションは生じない。
【0037】
このように、電極6P,6Mの間の電界のオンオフにより、動作が高速なポリマー安定化ブルー相液晶をスイッチングすることができる。従って、本実施形態の電極6A、この電極6Aを用いた液晶パネル2Aによって、高速にスイッチングが可能な光スイッチング素子1Aを形成することができる。
【0038】
次に、図4を参照して、本発明の第2の実施形態の光スイッチング素子1B、液晶パネル2B及び電極6Bについて説明する。第2の実施形態の液晶パネル2Bでは、電極6Bが透明基板4の一方にのみ固定されている点が上記第1の実施形態の電極6Aと相違している。
【0039】
第2の実施形態の電極6Bでは、8枚の透明電極61と、9枚の透明スペーサ62を積層したものとなっている。図4(A)において、図中で一番上の透明スペーサ62が他の透明スペーサ62よりも薄く形成されている。
【0040】
図4(B)は、液晶パネル2Bの電極6Bに電圧を印加した状態の電界の等高線と方向を示す説明図である。同図に示すように、第2の実施形態の電極6Bにおいても、第1の実施形態とほぼ同様に、各電極6P,6Mの間では電界の方向が透明基板4と平行となり、透明基板4の面内方向と一致している。
【0041】
次に、図5を参照して、光スイッチング素子積層体10について説明する。光スイッチング素子積層体10は、図1に示す光スイッチング素子1Aを複数枚積層したものとなっている。本実施形態では、8枚の光スイッチング素子1Aを積層しているが、積層する枚数は、角度分解能(スイッチする最小偏向角度)と最大偏向角度等に応じて適宜選択する。
【0042】
図5(B)は、図5(A)の光スイッチング素子積層体10の液晶パネル2Aの断面を模式的に表した図である。図5(B)に示すように、光スイッチング素子1Aは、液晶パネル2Aの一方の面に透過型の回折部材3を装着している。
【0043】
本実施形態の光スイッチング素子積層体10は、回折部材3を装着した面を表面とし、他方の件を裏面としたときに、表面を光の入射方向の下流側に配置し、この表面に他の光スイッチング素子1Aの裏面を装着することにより形成している。
【0044】
本実施形態においては、光の入射方向の上流側に設けられた回折部材3の偏光角度に比べて、下流側に設けられた回折部材3の偏光角度を大きく設定している。例えば、光の入射方向の上流側の回折部材3の偏光角度を0.1°とし、2番目の回折部材3の偏光角度を0.2°として、下流側に2倍ずつ偏光角度が増加する構成となっている。
【0045】
回折部材3について、このように光の入射方向の上流側から下流側に向けて偏光角度を変化させることにより、液晶パネル2Aに入射される光の角度を液晶パネル2Aに対して垂直に近づけることで、複数枚重ねても効率のよい光スイッチング素子積層体10とすることができる。
【0046】
次に、図6を参照して、第1の実施形態の光スイッチング素子1Aと、第2の実施形態の光スイッチング素子1BのS3の変位及び0次光の規格化光強度について説明する。図6(A)はS3の変位を示すグラフであり、図6(B)は0次光の規格化光強度を示すグラフである。各グラフの値は、光スイッチング素子積層体10及び液晶パネル2A内のブルー相液晶の温度を50℃とし、印可する電圧の周波数を1kHz~50kHzとして、光波長が1550nmの状態で測定を行っている。
【0047】
ここで、S3はストークパラメータであり1は右回りの円偏向を表し、-1は左周りの円偏向を表す。従って、S3が1から-1に変わるとその後に配置されている偏向グレーティングで光が偏向することになる。また、0次光の規格化光強度とは、高次の回折光も含んだ液晶パネルからの透過光に対する0次光の割合を示し、この値が高いと、高い効率でスイッチできることを示している。
【0048】
図6(A)に示すように、第1の実施形態の光スイッチング素子1Aは、S3の変位を見ると、変位が-1となる場合の電圧が40Vとなっている。一方で、第2の実施形態の光スイッチング素子1Bは、変位が-1となる場合の電圧が36Vとなっている。なお、より短波長の光(例えば可視光帯)では、10V程度のより低電圧で動作する。
【0049】
このように、本実施形態の光スイッチング素子1A及び光スイッチング素子1Bは、共に40V以下程度の電圧で作動が可能となっている。これは、ハイブリッド車や電気自動車においては、昇圧器等を用いることなく作動させることができるため、車載用のLiDARに好適な光スイッチング素子となる。
【0050】
なお、上記実施形態においては、液晶5としてポリマー安定化ブルー相液晶を用いているが、これに限らず、電圧を加えた際にダイレクターが電圧の方向に長軸となる特性を有する液晶であれば、他の素材により形成された液晶を用いてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1A,1B…光スイッチング素子
2A,2B…液晶パネル
3…回折部材
4…透明基板
5…液晶
6A,6B…電極
6M…正の電極
6P…負の電極
61…透明電極
62…透明スペーサ
7…給電電極
10…光スイッチング素子積層体

図1
図2
図3
図4
図5
図6