(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】評価装置、粗面、評価方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 13/00 20060101AFI20241224BHJP
【FI】
G01N13/00
(21)【出願番号】P 2023560283
(86)(22)【出願日】2023-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2023020386
(87)【国際公開番号】W WO2024014155
(87)【国際公開日】2024-01-18
【審査請求日】2024-02-06
(32)【優先日】2022-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】焼野 藍子
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第1996/012151(WO,A1)
【文献】特表2015-530527(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0274875(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 13/00-13/04
G06F 30/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が表面を流れる粗面のうち、層流から乱流へと遷移する特定区間における評価を行う評価装置であって、
前記特定区間の入口における層流境界層の厚さを取得する取得部と、
取得した層流境界層の厚さに基づく直接数値計算を行うことにより、前記粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算する演算部と、
演算された結果に基づく情報を出力する出力部と
を備える評価装置。
【請求項2】
前記演算部は、VP法(Volume Penalization Method)及び重合格子法(Zonal Method)を用いることにより、前記粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算する
請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記粗面を撮像した画像に基づき、前記特定区間の入口における層流境界層の厚さを取得する
請求項1又は請求項2に記載の評価装置。
【請求項4】
演算された前記粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布とに基づき、層流から乱流への遷移位置を特定する特定部を更に備え、
前記出力部は、特定された前記遷移位置を出力する
請求項1又は請求項2に記載の評価装置。
【請求項5】
前記取得部は、複数の前記粗面についての、前記特定区間の入口における層流境界層の厚さを取得し、
前記演算部は、取得した複数の層流境界層の厚さに基づく直接数値計算を行うことにより、複数の粗面それぞれにおける乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算し、
演算された複数の粗面それぞれにおける乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布に基づき、渦の成長を抑止することができ、かつ発生した渦を破壊することができる前記粗面を選択する選択部を更に備える
請求項1に記載の評価装置。
【請求項6】
前記選択部は、ナビエストークス方程式の変数を時間変動しない変数と時間変動する変数とに分解し、擾乱として乱数を与えたときに増幅する渦の波長に基づき、渦の成長を抑止することができ、かつ発生した渦を破壊することにより、無効化を促進することができる前記粗面を選択する
請求項5に記載の評価装置。
【請求項7】
流体が表面を流れる粗面であって、
渦の成長を抑止することができる波長である第1波長に基づく第1突起と、前記第1波長と異なる波長であって発生した渦の破壊を促進することができる波長である第2波長に基づく第2突起を有し、
粗面に対して平行かつ渦の移流方向である第1方向と、粗面に対して平行でありかつ前記第1方向に直交する第2方向のいずれの方向においても、第1突起と第2突起とを有する
請求項5又は請求項6に記載の評価装置により選択された粗面。
【請求項8】
流体が表面を流れる粗面のうち、層流から乱流へと遷移する特定区間における評価を行う評価方法であって、
前記特定区間の入口における層流境界層の厚さを取得する取得工程と、
取得した層流境界層の厚さに基づく直接数値計算を行うことにより、前記粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算する演算工程と、
演算された結果に基づく情報を出力する出力工程と
を有する評価方法。
【請求項9】
コンピュータに、
流体が表面を流れる粗面のうち、層流から乱流へと遷移する特定区間における評価を行うプログラムであって、
前記特定区間の入口における層流境界層の厚さを取得する取得ステップと、
取得した層流境界層の厚さに基づく直接数値計算を行うことにより、前記粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算する演算ステップと、
演算された結果に基づく情報を出力する出力ステップと
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価装置、粗面、評価方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体の摩擦抵抗を低減する技術として、流体の流れる方向に沿ってリブレット加工を施す技術が知られている。リブレット加工を施すことにより所定の方向に流れる流体については摩擦抵抗を低減することが可能となるが、流体の流れる方向とリブレット加工の方向とが所定の角度以上ずれると、摩擦抵抗がかえって増加してしまうこととなる。また、小さな波状の粗さを有する突起により、自然遷移を遅延させ、摩擦抵抗を低減する技術が知られている。このように、流体が流れる表面の形状と、摩擦抵抗の増加との関係については、さかんに研究が行われている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Y.Kuwata and R.Nagura, Direct numerical simulation on the effects of surface slope and skewness on rough-wall turbulence, “Physics of Fluids”, 米国, AIP Publishing,2020年10月8日,32, 105113-1-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の研究によれば、摩擦抵抗を低減するための粗面についての研究は少なかった。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、微細な分布粗さによる摩擦抵抗の低減メカニズムを明らかにすることが可能な評価装置、評価方法及びプログラムを提供することを目的とする。更に本発明は、これらの評価装置、評価方法及びプログラムを用いて、摩擦抵抗の低減をすることが可能な粗面を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明の一態様は、流体が表面を流れる粗面のうち、層流から乱流へと遷移する特定区間における評価を行う評価装置であって、前記特定区間の入口における層流境界層の厚さを取得する取得部と、取得した層流境界層の厚さに基づく直接数値計算を行うことにより、前記粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算する演算部と、演算された結果に基づく情報を出力する出力部とを備える評価装置である。
【0007】
[2]本発明の一態様は、上述した[1]に記載の評価装置において、前記演算部は、VP法(Volume Penalization Method)及び重合格子法(Zonal Method)を用いることにより、前記粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算するものである。
【0008】
[3]本発明の一態様は、上述した[1]又は[2]に記載の評価装置において、前記取得部は、前記粗面を撮像した画像に基づき、前記特定区間の入口における層流境界層の厚さを取得するものである。
【0009】
[4]本発明の一態様は、上述した[1]から[3]のいずれかに記載の評価装置において、演算された前記粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布とに基づき、層流から乱流への遷移位置を特定する特定部を更に備え、前記出力部は、特定された前記遷移位置を出力するものである。
【0010】
[5]本発明の一態様は、上述した[1]から[4]のいずれかに記載の評価装置において、前記取得部は、複数の前記粗面についての、前記特定区間の入口における層流境界層の厚さを取得し、前記演算部は、取得した複数の層流境界層の厚さに基づく直接数値計算を行うことにより、複数の粗面それぞれにおける乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算し、演算された複数の粗面それぞれにおける乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布に基づき、渦の成長を抑止することができ、かつ発生した渦を破壊することができる前記粗面を選択する選択部を更に備えるものである。
【0011】
[6]本発明の一態様は、上述した[5]に記載の評価装置において、前記選択部は、ナビエストークス方程式の変数を時間変動しない変数と時間変動する変数とに分解し、擾乱として乱数を与えたときに増幅する渦の波長に基づき、渦の成長を抑止することができ、かつ発生した渦を破壊することにより、無効化を促進することができる前記粗面を選択するものである。
【0013】
[7]本発明の一態様は、上述した[5]又は[6]に記載の評価装置により選択された粗面において、流体が表面を流れる粗面であって、渦の成長を抑止することができる波長である第1波長に基づく第1突起と、前記第1波長と異なる波長であって発生した渦の破壊を促進することができる波長である第2波長に基づく第2突起を有し、粗面に対して平行かつ渦の移流方向である第1方向と、粗面に対して平行でありかつ前記第1方向に直交する第2方向のいずれの方向においても、第1突起と第2突起とを有するものである。
【0014】
[8]本発明の一態様は、流体が表面を流れる粗面のうち、層流から乱流へと遷移する特定区間における評価を行う評価方法であって、前記特定区間の入口における層流境界層の厚さを取得する取得工程と、取得した層流境界層の厚さに基づく直接数値計算を行うことにより、前記粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算する演算工程と、演算された結果に基づく情報を出力する出力工程とを有する評価方法である。
【0015】
[9]本発明の一態様は、コンピュータに、流体が表面を流れる粗面のうち、層流から乱流へと遷移する特定区間における評価を行うプログラムであって、前記特定区間の入口における層流境界層の厚さを取得する取得ステップと、取得した層流境界層の厚さに基づく直接数値計算を行うことにより、前記粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算する演算ステップと、演算された結果に基づく情報を出力する出力ステップとを実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、微細な分布粗さによる摩擦抵抗の低減メカニズムを明らかにすることが可能な評価装置、評価方法及びプログラムを提供することができる。更に本発明は、これらの評価装置、評価方法及びプログラムを用いて、摩擦抵抗の低減をすることが可能な粗面を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態における評価装置が評価対象とする特定区間について説明するための図である。
【
図2】実施形態における境界条件について説明するための図である。
【
図3】実施形態における壁付近のマスク関数形状とグリッド解像度の一例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る評価装置が用いるzonal gridの一例を示す図である。
【
図5】実施形態に係る粗面の幾何学的形状を示す図である。
【
図6】実施形態に係る評価装置によるシミュレーション結果を可視化した場合の一例を示す図である。
【
図7】実施形態に係る粗面の種類ごとの乱流運動エネルギーの比較について説明するためのコンターマップである。
【
図8】実施形態に係る粗面の種類ごとのx方向に沿った乱流運動エネルギーの最大値を示す図である。
【
図9】実施形態に係るZ方向の乱流運動エネルギーの分解積分値、及び摩擦抵抗係数値について、X方向に沿った変化を示す図である。
【
図10】実施形態に係る粗面の種類ごとのスナップショットであって、異なる時刻における複数のスナップショットを示す図である。
【
図11】実施形態に係るT-S波成分における位相、時間、スパンで平均化された乱流運動エネルギーのコンターマップである。
【
図12】実施形態に係るT-S波成分三次元構造における位相、時間、スパンで平均化された乱流運動エネルギーのコンターマップである。
【
図13】実施形態に係る評価装置の機能構成の一例を示す機能構成図である。
【
図14】実施形態に係る評価装置方法の一例を示すフローチャートである。
【
図15】本実施形態に係る評価装置10の内部構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施形態]
本発明の態様に係る評価装置、粗面、評価方法及びプログラムについて、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。なお、本発明の態様は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、多様な変更または改良を加えたものも含まれる。つまり、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれ、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換または変更を行うことができる。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、各構造における縮尺および数等を、実際の構造における縮尺および数等と異ならせる場合がある。
【0019】
図1は、実施形態における評価装置が評価対象とする特定区間について説明するための図である。同図には、平板上に発達した境界層が示されている。より詳細には、同図には、層流で構成された層流境界層(Laminar Boundary Layer)が示されている。境界層においては、粘性による影響を強く受けることが知られている。図示する一例において、流体は左方向を上流、右方向を下流として、上流から下流へと流れる。上流から下流へと流れるにつれて、層流(穏やかな流れで摩擦抵抗が少ない状態)から乱流(乱れている流れで摩擦抵抗が多い状態)へ遷移する。図示するような層流境界層よりさらに下流側(不図示)においては、遷移領域を経て、乱流境界層となる。本実施形態に係る評価装置を用いて、遷移に関わる渦の成長を抑止および破壊することが可能な粗面を提供することにより、全体としての摩擦抵抗を低減することが可能となる。
【0020】
流れが層流であるか乱流であるかは、乱流エネルギーの小大により判定することができる。下流側における乱流エネルギーの増大は、すなわち層流から乱流への遷移が起こったことを意味する。摩擦抵抗自体は、乱流エネルギーよりもレイノルズ応力により直接的に評価される。乱流エネルギーとレイノルズ応力は一般的に相関が高いことが知られている。
【0021】
一般に、リブレット加工が施されたような面は、既に乱流に発達した流れに対する効果があることが知られている。本実施形態に係る評価装置は、層流から乱流への遷移域と乱流域を含む領域における評価を行うことにより、当該領域における効果を得ることを目的とする。すなわち、リブレットのような従来技術と、本実施形態に係る評価装置により提供される粗面とは、不安定モードが異なるということもできる。以下の説明において、本実施形態に係る評価装置が評価を行う対象とする区間を、特定区間(Test Section)と記載する場合がある。特定区間とは、すなわち流体が表面を流れる粗面のうち、層流から乱流へと遷移する間と乱流域の区間であるということもできる。
【0022】
また、同図には、特定区間の入り口部分における流体の速度分布が示されている。一般論として、流体の粘性により、物体表面に近い程流体の速度は遅く、表面では速度が0とされ、また、表面から離れるほど流体の速度は速くなる。層流境界層では上下層の混ざり合いが少ないため、剥離を起こしやすいが,混ざり合いが少ないため、摩擦抵抗は小さくなる。すなわち、層流境界層では摩擦抵抗が小さいため、物体表面からの距離に応じて速度がなだらかに減少する速度分布を有する。また、乱流境界層では、物体表面に近く、流体の速度が遅い領域は粘性底層または内層と呼ばれている。また、物体表面から遠く、流体の速度が速い領域は乱流層または外層と呼ばれている。更に、粘性底層と乱流層との間の領域はバッファ層と呼ばれている。
【0023】
また、同図には、特定区間の入口における層流境界層の厚さをδsとして記載している。本実施形態に係る評価装置は、このδsに基づく直接数値計算(直接数値シミュレーション、Direct Numerical Simulation、DNS)を行うことにより、粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布とを演算する。
【0024】
本実施形態に係る評価装置が評価対象とする流体は、水、オイル、空気等を広く含む。流体の組成によって、(乱流状態における粘性底層を含む)境界層の幅が決まる。本実施形態に係る評価装置を用いて提供される粗面は、乱流状態における粘性底層の幅相当、又はより小さい粗さ高さであっても、摩擦抵抗を低減することができる。本実施形態に係る評価装置を用いて提供される粗面によれば、本実施形態に係る評価装置を用いて提供される粗面によれば、層流乱流遷移をもたらす運動エネルギーを削減し、遷移の遅延及び乱流再生成の抑制による摩擦抵抗低減をもたらすことができる。また、乱流状態では、粘性底層相当かそれ以下の大きさの砂状に分布する微小粗面により、表面極近傍領域で流体の運動エネルギーを安定に消費する。また、本実施形態に係る評価装置を用いて提供される粗面は、このような効果を得ることが可能な構造を有しているということもできる。
【0025】
図2は、実施形態における境界条件について説明するための図である。同図には、本実施形態に係る評価装置の評価対象となる粗面(Rough surface)が示されている。図示するように、粗面はx-y平面に沿って配置されているものとする。粗面に垂直な方向をz方向と記載する。数値計算においては有限の計算領域を扱うため、適切な境界条件を与えることが好適である。また、粗面上の流れでは境界層が形成されるため、粗面に近くほど格子間隔を密に配置してもよい。また、粗面から遠方にかけて流れ場は定常な主流に近くなるため、格子間隔を徐々に広げて配置してもよい。すなわち、グリッドストレッチを行ってもよい。
【0026】
本実施形態に係る評価装置が演算に用いる境界条件について説明する。本実施形態によれば、三次元の直接数値計算を行うことにより乱流遷移過程を解析するため、計算コストを削減し効率よく計算領域を設定することが好適である。入口における層流境界層の厚さδsに基づくレイノルズ数は、3535に設定される。圧縮性効果を無視できる範囲で十分に大きな時間刻みを得るため、マッハ数は0.2に設定されている。また変位は入口境界での境界層厚さで無次元化されており、流れ方向の計算領域は56.6である。
【0027】
入口境界条件ではブラジウス層流解によって得られた流れ方向速度、壁垂直方向速度を与え、密度及び圧力は主流と同じ値とする。入口境界条件では、壁面法線速度に人工的な擾乱を加え、T-S(Tollmien-Schlichting)波を誘起している。なお、人工的な擾乱が境界層に受容されてから粗面の影響を解析するために、入口境界から離れた場所に粗面を設置してもよい。スパン方向の計算領域はωダッシュ(高さ方向速度の変動成分)の2点相関に基づいて決定されてもよい。スパン方向の境界では周期的な条件を適用している。
【0028】
出口境界では、速度と圧力は自由とする。壁法線方向の遠方境界では、圧力と流速を固定し、壁法線方向とスパン方向の流速を自由とする。出口境界については、密度、速度、及び圧力を自由条件(ディリクレ境界条件)とする。壁垂直方向の遠方境界では、圧力と流れ方向速度を自由流の値に固定し、壁垂直方向速度とスパン方向速度を自由条件とする。壁面境界においては、滑りなし条件を適用し、全方向の速度は0に固定される。また断熱壁条件であると仮定し、密度および圧力は壁垂直方向に勾配ゼロとする。
【0029】
本実施形態に係る評価装置は、VP法(Volume Penalization Method)を用いて、三次元的な形状の粗面を再現する。圧縮性流れのVP法は、支配方程式であるナビエストークス(Navier-Stokes)方程式にペナルティ項を付加することにより、任意の固定壁形状において滑り無し条件を付与することができる。VP法を用いることにより、固体壁にフィットしたグリッドを生成する必要がなく、任意の形状の壁を解析することができる。
【0030】
ペナルティ項を加えたナビエストークス方程式は、次の(1)式乃至(3)式により表される。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
ここで、ρは流体の密度、uiは流速、U0,iは固体壁速度であり、滑りなし条件を課すために0とする。また、φは空隙率であり、1.0とする。また、κは熱伝導、τijは粘性応力、νは浸透率であり、いずれも十分に小さい値とする。また、νTは熱浸透率であり、νと同じであると仮定する。また、eは全エネルギー、pは圧力、Tは温度、T0は固体壁温度である。本実施形態によれば、低マッハ数の流れでは温度変化が無視できるため、固体壁温度は主流と同じと仮定する。また、χはマスク関数であり、VP法は境界適合格子の生成を必要としないため、次の(4)式でマスク関数を定義することにより、任意の形状の固体壁を再現することが可能である。
【0035】
【0036】
図3は、実施形態における壁付近のマスク関数形状とグリッド解像度の一例を示す図である。図中に示す線W1は、流体の粗さの高さを示し、破線は平均的な粗さの高さh
mを示す。このように、直交格子上でマスク関数が定義されるため、固定壁の形状を再現するためには、流れ方向及び壁垂直方向ともに十分な格子点数で粗さを解像することが好適である。分解能は、粗さ1波長あたり約20点以上であることが好適である。
【0037】
また、VP法は壁垂直方向の原点と計算格子の端からオフセットして、壁面内部の格子点数を確保している。つまり、図中の線W1よりも下側が個体壁として定義され、上側が流体領域として計算される。
【0038】
ここで、粗面の形状を直交格子で再現するためには、十分に細かい格子解像度を用いることが好適である。しかしながら、このような計算を計算領域全体に対して行うと、膨大な計算コストがかかる。そこで、本実施形態においては、計算コストを抑えながら高精度に乱流を捉えるために、重合格子法(Zonal法)を適用する。Zonal法とは、2つ以上の計算格子を用いて数値計算を行うことである。Zonal法を適用することにより、単一の計算格子では難しい複雑な形状の計算を行ったり、局所的に格子解像度を上げて計算を行ったりすることができる。例えば、Zonal法は、航空機の主翼における超音速機におけるインテイクの内部流れなどの詳細な流れ場解析や、主翼の前縁に設置したプラズマアクチュエータ周りの解析等に用いられている。
【0039】
図4は、実施形態に係る評価装置が用いるzonal gridの一例を示す図である。本実施形態に係る評価装置は、壁面形状の形状を再現するため、壁近傍において局所的に高い格子解像度とすることが好適である。図中の線W2として示した領域はLocal zoneであり、線W3として示した領域はGlobal zoneである。Local zoneは、Global zoneに対して流れ方向の格子分解能が2倍となっている。Local zoneの高さは、粘性壁単位でLz
+≒50であり、乱流境界層における粘性底層及びバッファ層を含んでいる。
【0040】
Global zoneの解像度は、具体的には、(Nx,Ny,Nz)=(1454,151,284)としている。計算領域長は、流れ方向、スパン方向、壁法線で、それぞれ(Lx,Ly,Lz)=(56.6,11.3,28.3)としている。一方、Local zoneの解像度は具体的には、(Nx,Ny,Nz)=(2843,201,137)としている。計算領域は、(Lx,Ly,Lz)=(50.9,11.3,0.59)としている。ただし、比較例としての平滑面と波状粗面では、スパン方向にNy=201,Ly=14.1であるが、実施例としての砂状粗面の計算ではLy=11.3を用いた。これは、粗面の微細な凹凸を再現するために高い解像度が必要であるため、スパン方向の計算領域を小さくすることが好適であるためである。
【0041】
本実施形態に係る評価装置は、実際のサンドペーパーをレーザ計測することによって得られたデータに基づき砂状粗面の解析を実施してもよい。従来、完全発達乱流における摩擦抵抗係数値は、粗さの高さに依存することが知られていた。近年では、完全発達乱流における摩擦抵抗係数値は、粗さの形状を決定するパラメータである実効勾配ES(Effective Slope)や、歪度Skに依存することが注目されている。本実施形態に係る評価装置により提供される粗面の実効勾配ESと歪度Skとは、次の(5)式及び(6)式によって算出される。
【0042】
【0043】
【0044】
歪度Skは、偏り度とも呼ばれ、粗面における山と谷の分布の偏りを表すパラメータである。例えば、粗さ高さごとの存在確立の分布を考えたときに、Sk=0であれば粗さの分布は対称であり、Sk>0であれば山の割合が多く、Sk<0のとき谷の割合が多いということができる。実効勾配ESは、傾きの平均値として定義される。また、実効勾配ESは、粗度高さと粗度間隔との比であるということもできる。波状粗面であれば、実効勾配ESは、粗さ高さhと粗さ波長λを用いて、ES=h/λと表すことができる。
【0045】
本実施形態においては、具体的に、歪度Sk=-0.097、実効勾配ES=0.130とした。実効勾配ESが比較的小さい場合、歪度Skの値によるδU+の差は小さいことが知られており、歪度Skの差はそれほど重要でないことが示唆される。
【0046】
具体的に、発明者らは、番手1000番のサンドペーパー粗さを、高さ0.092になるように縮尺を合わせて使用した。この粗面で効果があることがわかったため、次に、人工的にガウス関数を使って模擬したところ、同様の効果を得られることがわかった。ここで、サンドペーパー粗さの場合は、単一の砂状粗さのデータでは計算領域全体を完全にカバーできないため、繰り返しパターンを用いることが好適である。なお、ガウス関数を使って模擬する場合、繰り返しパターンを用いることを要しない。
【0047】
図5は、実施形態に係る粗面の幾何学的形状を示す図である。同図を参照しながら、繰り返しパターンの一例について説明する。同図に示す破線により囲われた矩形は、1枚の単位タイルを示す。単位タイルを連続的に配置することにより、計算領域全体を完全にカバーすることができる。図示するように、粗面の繰り返し境界は滑らかに接続されていることが分かる。また、単位タイルは、図示するように1方向に連続的に配置される場合の一例に限定されず、2次元方向に連続的に配置されてもよい。
【0048】
ここで、遷移過程では粘性単位を厳密に決めることは容易ではない。しかしながら、平滑面での流れ場データから粘性スケールを算出し、算出された粘性スケールを粗面においても同程度の乱流スケールであると仮定することにより粘性スケールへの換算を行うことが可能となる。この場合、本実施形態における平均高さは、h+m=15.5となった。
【0049】
図6は、実施形態に係る評価装置によるシミュレーション結果を可視化した場合の一例を示す図である。同図の左側は流れの上流を示しており、右側は下流を示している。図示するように、入口境界で誘起された2次元ロール渦の形をなすT-S波は下流方向へ移流し、やがて直交するスパン奥行方向に波打ちながら歪んでいき、乱流崩壊する。
【0050】
図7は、実施形態に係る粗面の種類ごとの乱流運動エネルギーの比較について説明するためのコンターマップである。同図においては、3つの粗面における瞬間場で、Q値によって渦を可視化している。同図の左側は流れの上流を示しており、右側は下流を示している。
図7(a)は、sandy rough surface(sandy roughness、sandpaper roughness、又はsand-grind roughness)の一例であり、本実施形態に係る評価装置により提供される粗面を用いた場合の図である。
図7(b)は、wavy roughness(VP method)の一例であり、比較例である。
図7(c)は、wavy roughness(Body Fitted grid)の一例であり、比較例である。
図7(c)は、flat plate(平滑面)の一例であり、比較例である。
【0051】
図8は、実施形態に係る粗面の種類ごとのx方向に沿った乱流運動エネルギーの最大値を示す図である。本実施形態に係る評価装置により提供される粗面を用いた場合の一例として、sandy rough surfaceを示している。また、比較例として、wavy roughness(VP)、wavy roughness(BF)、smooth(flat plate、又は平滑面)を示している。同図から明らかに、sandy rough surfaceでは、早期にT-S波が崩壊したことにより、T-S波が成長した後に崩壊することにより発生する擾乱の生成が抑えられていることが分かる。すなわち、同図から、sandy rough surfaceでは、乱流運動エネルギーTKE(turbulent kinetic energy)を最も抑制していることが分かった。
【0052】
図9は、実施形態に係るZ方向の乱流運動エネルギーの分解積分値、及び摩擦抵抗係数値について、X方向に沿った変化を示す図である。
図9(a)及び
図9(b)は、Z方向の乱流運動エネルギーの分解積分値の、X方向に沿った変化を示す。
図9(c)及び
図9(d)は、摩擦抵抗係数値についての、X方向に沿った変化を示す。
図9(a)及び
図9(c)は、flat plate(平滑面)の一例であり、比較例である。
図9(b)及び
図9(d)は、sandy rough surfaceの一例であり、本実施形態に係る評価装置により提供される粗面を用いた場合の図である。図から分かるように、sandy rough surfaceでは、flat plate(平滑面)と比較して、Z方向の乱流運動エネルギーの分解積分値も、摩擦抵抗係数値も低く抑えられていることが分かる。
【0053】
図10は、実施形態に係る粗面の種類ごとのスナップショットであって、異なる時刻における複数のスナップショットを示す図である。
図10(A)は、flat plate(平滑面)の一例であり、比較例である。
図10(B)は、sandy rough surfaceの一例であり、本実施形態に係る評価装置により提供される粗面を用いた場合の図である。
図10(C)は、wavy roughnessの一例であり、比較例である。これらのスナップショットは、T-S波が入口境界で誘起され、流れ方向に伝播し、やがて壊れて三次元構造になっていく様子を表している。ロール渦が破壊される位置を比較すると、図示する3つのケースの中で、本実施形態に係る評価装置により提供される粗面を用いた場合が最も速く破壊されることがわかる。
【0054】
ここで、本実施形態によれば、T-S波周期に基づく遷移過程の違いを明らかにするために、位相平均分解を適用する。具体的には、乱流運動エネルギーkは、次の(7)式に示すように、T-S波成分を示すkチルダと、三次元成分を示すkダッシュに分けられる。
【0055】
【0056】
更に、乱流運動エネルギーkは、次の(8)式に示すように、時間変動する項と、時間変動しない項とに分けられる。
【0057】
【0058】
kバーは、時間平均(時間変動しない項)である。kチルダ及びkツーダッシュは、時間変動する項である。より具体的には、kチルダは、T-S波成分を示し、kツーダッシュは三次元成分を示す。kチルダは、ロール渦が成長しないことに寄与している項であり、kツーダッシュは、ロール渦を潰すことに寄与している項である。本実施形態によれば、このように乱流運動エネルギーkを3つの項に分解することにより、ロール渦を成長させず、かつロール渦が成長した場合であっても潰すことができる。
【0059】
図11は、実施形態に係るT-S波成分における位相、時間、スパンで平均化された乱流運動エネルギーのコンターマップである。
図12は、実施形態に係るT-S波成分三次元構造における位相、時間、スパンで平均化された乱流運動エネルギーのコンターマップである。
図11(a)及び
図12(a)は、smooth surface(flat plate、又は平滑面)の一例であり、比較例である。
図11(b)及び
図12(b)は、sandy rough surfaceの一例であり、本実施形態に係る評価装置により提供される粗面を用いた場合の図である。
図11(c)及び
図12(c)は、wavy roughnessの一例であり、比較例である。
【0060】
3つの粗面上の乱流運動エネルギーkを比較すると、sandy rough surfaceのものが、下流側において最も小さく保たれていることが分かる。分解統計量から、sandy rough surfaceは、他の2つの粗面よりも、T-S波運動エネルギーを減少させることが分かる。また、三次元運動エネルギーは、上流側で最も増加するが、下流側では減少することが分かる。瞬間的な可視化では、三次元化が最も速く起こるのは、sandy rough surfaceである。しかし、その切れ目がT-S波運動を弱めており、その結果として、全乱流運動エネルギーとしては、下流側で小さくなっている。なお、wavy roughnessでもT-S波運動エネルギーは抑制されるが、全乱流運動エネルギーとしては、sandy rough surfaceよりも大きくなっている。これは、wavy roughnessの頂上で発生する渦のためである。
【0061】
以上説明したように、sandy rough surfaceでは、T-S波が弱まることがわかった。また、sandy rough surfaceでは、T-S波の分解が促進されたが、全乱流運動エネルギーと摩擦抵抗係数値は抑制されることがわかった。
【0062】
次に、
図13から
図15を参照しながら、上述したような評価装置の具体的な実現手段の一例について説明する。
【0063】
図13は、実施形態に係る評価装置の機能構成の一例を示す機能構成図である。同図を参照しながら、評価装置10の機能構成の一例について説明する。評価装置10は、取得部11と、演算部12と、記憶部13と、特定部14と、選択部15と、出力部16とを備える。これらの各機能部は、例えば、電子回路を用いて実現される。また、各機能部は、必要に応じて、半導体メモリや磁気ハードディスク装置などといった記憶手段を内部に備えてよい。また、各機能を、CPU(Central Processing Unit)を有するコンピュータおよびソフトウェアによって実現するようにしてもよい。
【0064】
取得部11は、評価装置10が評価対象とする粗面について、特定区間の入口における層流境界層の厚さδsを取得する。本実施形態において、例えば撮像装置20により評価対象である粗面が撮像され、取得部11は、粗面が撮像された画像情報を画像処理することにより、層流境界層の厚さδsを取得してもよい。撮像装置20は、CCD(Charge Coupled Devices)イメージセンサを用いたCCDカメラであってもよいし、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを用いたCMOSカメラであってもよい。また、撮像装置20により撮像される画像とは、カラー画像であってもよいし、モノクロ画像であってもよい。なお、複数の粗面についての評価を行う場合、取得部11は、複数の粗面についての、層流境界層の厚さδsを取得してもよい。
【0065】
演算部12は、取得した層流境界層の厚さδsに基づく直接数値計算(Direct Numerical Simulation、DNS)を行うことにより、粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算する。具体的には、演算部12は、上述したようなVP法(Volume Penalization Method)及び重合格子法(Zonal Method)を用いることにより、粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算する。なお、複数の粗面についての評価を行う場合、演算部12は、取得した複数の層流境界層の厚さδsに基づく直接数値計算を行うことにより、複数の粗面それぞれにおける乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算してもよい。
【0066】
記憶部13は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)、フラッシュメモリ(Flash Memory)、ROM(Read Only Memory)等を含んで構成される。記憶部13は、演算に用いるパラメータ等を記憶する。
【0067】
特定部14は、演算部12により演算された粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布とに基づき、層流から乱流への遷移位置を特定する。
【0068】
選択部15は、演算部12により演算された複数の粗面それぞれにおける乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布に基づき、渦の成長を抑止することができ、かつ発生した渦を破壊することができる粗面を選択する。選択部15は、ナビエストークス方程式の変数を時間変動しない変数(例えば、時間平均の変数)と時間変動する変数とに分解し、擾乱として乱数を与えたときに増幅する波長を特定し、特定された波長に基づき、渦の成長を抑止することができ、かつ発生した渦を破壊することができる粗面を選択する。選択部15は、例えば(7)式及び(8)式に示したように乱流運動エネルギーkを時間変動しない変数と時間変動する変数とに分解してもよい。
【0069】
出力部16は、演算部12により演算された結果に基づく情報を出力する。また、出力部16は、特定部14により特定された遷移位置を出力してもよい。更に、出力部16は、選択部15により選択された粗面についての情報を出力してもよい。
【0070】
なお、評価装置10により提供される粗面は、流体が表面を流れる粗面であって、複数の砂状の突起を有する砂状粗面である。評価装置10により提供される粗面は、砂状粗面を構成する突起として、第1突起と、第2突起とを少なくとも有する。第1突起とは、渦の成長を抑止することができる波長である第1波長に基づくものである。また、第2突起とは、第1波長と異なる波長であって、発生した渦を破壊することができる波長である第2波長に基づくものである。また、評価装置10により提供される粗面は、リブレットのように所定の方向に対してのみ効果を有するものでなく、様々な方向に対して効果を有するものである。すなわち、第1突起及び第2突起は、粗面に対して平行で渦が移流する方向である第1方向と、粗面に対して平行でありかつ第1方向に直交する第2方向のいずれの方向においても、備えられる。
【0071】
図14は、実施形態に係る評価装置方法の一例を示すフローチャートである。同図を参照しながら、本実施形態に係る評価装置10を用いた評価方法の一例について説明する。まず、評価装置10は、層流境界層の厚さδsを取得する(ステップS11)。次に、評価装置10は、取得した層流境界層の厚さδsに基づき、直接数値計算を行うことにより、乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算する(ステップS13)。次に、評価装置10は、演算した結果に基づき、層流から乱流への遷移位置を特定する(ステップS15)。また、評価装置10は、複数の粗面のうち、渦の成長を抑止することができ、かつ発生した渦を破壊することができる粗面を選択する(ステップS17)。最後に、評価装置10は、演算結果を出力する(ステップS19)。
【0072】
図15は、本実施形態に係る評価装置10の内部構成の一例を示すブロック図である。評価装置10の少なくとも一部の機能は、コンピュータを用いて実現され得る。図示するように、そのコンピュータは、中央処理装置901と、RAM902と、入出力ポート903と、入出力デバイス904や905等と、バス906と、を含んで構成される。コンピュータ自体は、既存技術を用いて実現可能である。中央処理装置901は、RAM902等から読み込んだプログラムに含まれる命令を実行する。中央処理装置901は、各命令にしたがって、RAM902にデータを書き込んだり、RAM902からデータを読み出したり、算術演算や論理演算を行ったりする。RAM902は、データやプログラムを記憶する。RAM902に含まれる各要素は、アドレスを持ち、アドレスを用いてアクセスされ得るものである。なお、RAMは、「ランダムアクセスメモリー」の略である。入出力ポート903は、中央処理装置901が外部の入出力デバイス等とデータのやり取りを行うためのポートである。入出力デバイス904や905は、入出力デバイスである。入出力デバイス904や905は、入出力ポート903を介して中央処理装置901との間でデータをやりとりする。バス906は、コンピュータ内部で使用される共通の通信路である。例えば、中央処理装置901は、バス906を介してRAM902のデータを読んだり書いたりする。また、例えば、中央処理装置901は、バス906を介して入出力ポートにアクセスする。
【0073】
[実施形態のまとめ]
以上説明したように、評価装置10は、流体が表面を流れる粗面のうち、層流から乱流へと遷移する特定区間における評価を行う。評価装置10は、取得部11を備えることにより、特定区間の入口における層流境界層の厚さδsを取得し、演算部12を備えることにより取得した層流境界層の厚さδsに基づく直接数値計算を行い、粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算し、出力部16を備えることにより演算された結果に基づく情報を出力する。このような構成を採用することにより、評価装置10によれば、微細な分布粗さによる摩擦抵抗の低減メカニズムを明らかにすることができる。
【0074】
また、上述した実施形態によれば、演算部12は、VP法(Volume Penalization Method)及び重合格子法(Zonal Method)を用いることにより、粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算する。したがって、本実施形態によれば、直接数値計算により演算を行うことができる。
【0075】
また、上述した実施形態によれば、取得部11は、粗面を撮像した画像に基づき、特定区間の入口における層流境界層の厚さδsを取得する。すなわち、本実施形態によれば、評価装置10は、流体が流れる粗面を撮像した画像情報に基づいた評価を行う。したがって、本実施形態によれば、容易に、粗面の評価を行うことができる。
【0076】
また、上述した実施形態によれば、特定部14を更に備えることにより、演算された粗面における乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布とに基づき、層流から乱流への遷移位置を特定する。したがって本実施形態によれば、評価装置10は、層流から乱流への遷移位置を特定することができる。
【0077】
また、上述した実施形態によれば、取得部11は、複数の粗面について層流境界層の厚さδsを取得し、演算部12は、取得した複数の層流境界層の厚さδsに基づく直接数値計算を行うことにより、複数の粗面それぞれにおける乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布を演算する。また、評価装置10は、選択部15を備えることにより、演算された複数の粗面それぞれにおける乱流エネルギーと、摩擦抵抗係数値の流れ方向分布に基づき、渦の成長を抑止することができ、かつ発生した渦を破壊することができる粗面を選択する。したがって、本実施形態によれば、摩擦抵抗を効率的に低減可能な粗面を選択することができる。
【0078】
また、上述した実施形態によれば、選択部15は、ナビエストークス方程式の変数を時間変動しない変数と時間変動する変数とに分解し、複数の粗面それぞれに対し擾乱として乱数を与えたときに増幅する波長を特定し、特定された波長に基づき、渦の成長を抑止することができ、かつ発生した渦を破壊することができる粗面を選択する。したがって、本実施形態によれば、直接数値計算により、摩擦抵抗を効率的に低減可能な粗面を選択することができる。
【0079】
また、上述した実施形態によれば、流体が表面を流れる粗面であって、上述したような評価装置10を用いて選択された粗面を提供することができる。したがって、本実施形態によれば、摩擦抵抗の低減をすることが可能な粗面を提供することができる。
【0080】
また、上述した実施形態によれば、本実施形態に係る粗面は、渦の成長を抑止することができる波長である第1波長に基づく第1突起と、第1波長と異なる波長であって発生した渦を破壊することができる波長である第2波長に基づく第2突起を有し、粗面に対して平行な第1方向と、粗面に対して平行でありかつ第1方向に直交する第2方向のいずれの方向においても、第1突起と第2突起とを有する。このような突起を有することにより、本実施形態に係る粗面は、効果を有する方向を特定することなく、いずれの方向に対しても摩擦抵抗を低減することができる。
【0081】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0082】
また、上述した各装置の機能を実現するためのコンピュータプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行するようにしてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disc)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0083】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。 また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0084】
1…評価システム、10…評価装置、11…取得部、12…演算部、13…記憶部、14…特定部、15…選択部、16…出力部、20…撮像装置