(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】薄膜触媒の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20241224BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20241224BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20241224BHJP
B01J 23/83 20060101ALI20241224BHJP
B01J 23/889 20060101ALI20241224BHJP
B01J 23/888 20060101ALI20241224BHJP
B01J 23/887 20060101ALI20241224BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
C23C14/24 C
C23C14/08 K
B01J37/02 301P
B01J23/83 M
B01J23/889 M
B01J23/888 M
B01J23/887 M
B01J27/24 M
(21)【出願番号】P 2023576102
(86)(22)【出願日】2021-10-12
(86)【国際出願番号】 CN2021123370
(87)【国際公開番号】W WO2023279563
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】202110780326.0
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523463270
【氏名又は名称】蘇州道一至誠納米材料技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】SUZHOU TAONE SINCERE NANOMATERIAL TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 428-23, 4th Floor, Yuanhe Building, No. 959 Jiayuan Road, Yuanhe Street, Xiangcheng District Suzhou, Jiangsu 215131, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】銭 若▲ちー▼
(72)【発明者】
【氏名】銭 敬吉
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-161354(JP,A)
【文献】特表2021-505776(JP,A)
【文献】特表2018-503942(JP,A)
【文献】特開2009-050827(JP,A)
【文献】特開2013-167007(JP,A)
【文献】特開2011-195925(JP,A)
【文献】特開2010-084153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜触媒の製造装置であって、
真空環境を作るための真空室と、
前記真空室内に設けられ、少なくとも1種の成膜材料を蒸発させるための複数の蒸発器と、
前記真空室内に設けられ、反応ガスを供給するための複数本のガス導入チューブと、
前記真空室内に設けられ、前記反応ガス及び蒸発後の前記成膜材料をイオン化するためのイオン発生器と、
前記真空室、前記複数の蒸発器、前記複数本のガス導入チューブ及び前記イオン発生器に接続され、前記真空室を制御して真空吸引を行うとともに、前記複数の蒸発器のうちの少なくとも2つを起動させ、前記ガス導入チューブを制御して反応ガスを供給し、また、蒸発後の前記成膜材料が前記反応ガスと反応して基材の表面に触媒膜を蒸着するように、前記イオン発生器のイオン源電流の大きさを制御して調整する制御ユニットと、
前記真空室内に回動可能に設けられ、前記基材を回動駆動するための巻き取り機構と、
回動手段と、を含
み、
前記回動手段は、モータ、公転ディスク、第1支持リング、第2支持リング、回転ディスクホルダ、及び巻き取り機構ホルダを含み、前記公転ディスク、前記第1支持リング、及び前記第2支持リングは平行に設けられ、前記モータの出力軸は前記公転ディスクの中心軸に接続され、前記巻き取り機構は前記巻き取り機構ホルダに移動可能に固定され、前記巻き取り機構ホルダは前記第1支持リングと第2支持リングとの間に設けられ、前記巻き取り機構ホルダの両端がそれぞれ前記第1支持リング及び前記第2支持リングに接続され、前記回転ディスクホルダの両端はそれぞれ前記公転ディスク及び前記第1支持リングに接続され、前記モータは、前記公転ディスクを回動駆動して、前記巻き取り機構ホルダを回転させ、前記巻き取り機構を回転させる、ことを特徴とする薄膜触媒の製造装置。
【請求項2】
前記複数の蒸発器は、少なくとも1つの第1蒸発器と、少なくとも1つの第2蒸発器と、を含み、前記第1蒸発器は電子ビーム又はレーザー蒸発器であり、前記第2蒸発器は抵抗蒸発器である、ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜触媒の製造装置。
【請求項3】
前記薄膜触媒は、
多金属元素セラミック薄膜触媒である、ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜触媒の製造装置。
【請求項4】
前記真空室内に設けられ、バイアス負電圧を供給して前記真空室内で電場を生成するためのバイアス負電圧デバイスをさらに含む、ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜触媒の製造装置。
【請求項5】
前記バイアス負電圧をUとすると、-380v≦U<0vである、ことを特徴とする請求項
4に記載の薄膜触媒の製造装置。
【請求項6】
前記真空室内に設けられたコールドトラップシステム及び加熱システムをさらに含む、ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜触媒の製造装置。
【請求項7】
前記イオン発生器のイオン源はホールイオン源である、ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜触媒の製造
装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の製造装置を用いた薄膜触媒の製造方法であって、
真空吸引を行うステップS1と、
イオン源電流が第1電流であるイオン発生器を起動させて、基材をパージするステップS2と、
前記イオン源電流を前記第1電流に維持して、第1反応ガスを導入するとともに、複数の蒸発器を起動させ、前記基材上に、1種の金属の化合物又は1種の金属の複数種の化合物又は複数種の金属の化合物の複合物である第1触媒膜層を蒸着するステップS3であって、前記第1触媒膜層の化合物は、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、ホウ化物、又は錯体である、ステップS3と、を含む、ことを特徴とする薄膜触媒の製造方法。
【請求項9】
前記複数の蒸発器は、少なくとも1つの第1蒸発器と、少なくとも1つの第2蒸発器と、を含み、前記第1蒸発器は電子ビーム又はレーザー蒸発器であり、前記第2蒸発器は抵抗蒸発器である、ことを特徴とする請求項
8に記載の薄膜触媒の製造方法。
【請求項10】
前記ステップS3の後に、
前記イオン源電流を、前記第1電流よりも小さい第2電流に調整して、第2反応ガスを導入し、前記第1触媒膜層上に、1種の金属の化合物、1種の金属の複数種の化合物又は複数種の金属の化合物の複合物である第2触媒膜層を蒸着するステップS4であって、前記第2触媒膜層の化合物は、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、ホウ化物、又は錯体である、ステップS4と、
予め設定された層数に応じて、前記ステップS3と前記ステップS4を順に繰り返し、前記基材から離れた最外層の触媒膜を製造するときに使用される前記イオン源電流を前記第1電流にするステップS5と、をさらに含む、ことを特徴とする請求項
8に記載の薄膜触媒の製造方法。
【請求項11】
前記第1反応ガス及び前記第2反応ガスは、いずれも、酸素ガス、窒素ガス、及びメタンから選択される1種である、ことを特徴とする請求項
10に記載の薄膜触媒の製造方法。
【請求項12】
前記第1触媒膜層及び前記第2触媒膜層は、いずれも金属酸化物であり、かつ、前記第2電流は0である、ことを特徴とする請求項
10に記載の薄膜触媒の製造方法。
【請求項13】
前記第1電流は5A~10A、前記第2電流は0A~5Aである、ことを特徴とする請求項
10に記載の薄膜触媒の製造方法。
【請求項14】
前記第1
触媒膜
層の成膜時間及び前記第2触媒膜層の成膜時間のいずれも、5分間以下である、ことを特徴とする請求項
10に記載の薄膜触媒の製造方法。
【請求項15】
前記ステップS2においては、アルゴンガスも導入される、ことを特徴とする請求項
10に記載の薄膜触媒の製造方法。
【請求項16】
前記ステップS3及び前記ステップS4においては、前記アルゴンガスの導入量が同じである、ことを特徴とする請求項
15に記載の薄膜触媒の製造方法。
【請求項17】
前記第2触媒膜層の厚さが5~30nmである、ことを特徴とする請求項
10に記載の薄膜触媒の製造方法。
【請求項18】
前記第1触媒膜層の厚さが5~30nmである、ことを特徴とする請求項
8又は
17に記載の薄膜触媒の製造方法。
【請求項19】
前記ステップS3においては、バイアス負電圧を供給して電場を形成することをさらに含み、前記バイアス負電圧をUとすると、-380v≦U<0vである、ことを特徴とする請求項
8に記載の薄膜触媒の製造方法。
【請求項20】
前記第1触媒膜層の成膜時間が2~3分間である、ことを特徴とする請求項
19に記載の薄膜触媒の製造方法。
【請求項21】
前記第1電流が0~5Aである場合、前記第1触媒膜層の比表面積が20~200m
2/gであり、前記第1電流が5~10Aである場合、前記第1触媒膜層の比表面積が0.2~20m
2/gである、ことを特徴とする請求項
8に記載の薄膜触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の技術分野に関し、特に薄膜触媒の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業技術の発展に伴い、「現代工業の基礎」と呼ばれる触媒は、生産や環境保全の様々な分野で重要な役割を果たしている。その中の80%以上の化学プロセスはすべて、主に担持型金属触媒である不均一系触媒を用いている。担持型触媒は、応用範囲が非常に広く、アンモニア合成、炭素系資源の転化、精密化学工業、汚染物処理、薬物合成、新エネルギー電池膜などの実現にかけがえのない役割を発揮する。既存の触媒を量産する調製プロセスである浸漬法、共沈殿法、イオン交換法などでは、汚染が深刻で、不純物含有量の制御が難しく、安定性(高温安定性を含む)と再現性を完全に制御することができない。
【0003】
また、研究により、中高エントロピー合金触媒及び多金属元素セラミック膜触媒は、配合の自由度が高く、格子歪みが活性部位の電子構造を最適化することが分かった。また、高エントロピー合金及びび多金属元素セラミック膜触媒は、ヒステリシス拡散効果により、高温や腐食性の応用環境において単相構造の相対的安定性を維持することができ、高エントロピー効果と相まって、極端な条件下で熱力学的及び動力学的な安定性を維持することができる。そのため、新しい触媒調製技術の研究、発展や応用は急務となっている。
【0004】
現在、化学気相成長法(CVD)、原子層堆積法(ALD)でも高エントロピー合金薄膜触媒及び多金属元素セラミック薄膜触媒を製造することは可能であるが、極めて効率が悪く、コストが非常に高い。水熱法、ゾルゲル法、電気化学法でも高エントロピー合金薄膜触媒を製造することができるが、汚染が深刻で、コストが高く、触媒の付着力が低い。炭素熱衝撃法も高エントロピー合金薄膜触媒及び多金属元素セラミック薄膜触媒を製造することができ、依然として液体前駆体を使用する必要がある、担体として導電性担体しか選択できない、高エントロピーナノ合金のモフォロジーに対する制御性が本発明の方法より低いような欠点が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の技術的課題に対して、本発明は、中高エントロピー合金薄膜や多金属元素セラミックス薄膜触媒の製造効率が低く、成膜にかかる時間が長く、コストが高く、汚染が深刻で、大規模な工業的生産ができないなどの従来技術の問題を解決するために、薄膜触媒の製造装置及び製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成させるために、本発明は、
真空環境を作るための真空室と、
前記真空室内に設けられ、少なくとも1種の成膜材料を蒸発させるための複数の蒸発器と、
前記真空室内に設けられ、反応ガスを供給するための複数本のガス導入チューブと、
前記真空室内に設けられ、前記反応ガス及び蒸発後の前記成膜材料をイオン化するためのイオン発生器と、
前記真空室、前記複数の蒸発器、前記複数本のガス導入チューブ及び前記イオン発生器に接続され、前記真空室を制御して真空吸引を行うとともに、前記複数の蒸発器のうちの少なくとも2つを起動させ、前記ガス導入チューブを制御して反応ガスを供給し、また、蒸発後の前記成膜材料が前記反応ガスと反応して基材の表面に触媒膜を蒸着するように、前記イオン発生器のイオン源電流の大きさを制御して調整する制御ユニットと、を含む、薄膜触媒の製造装置を提供する。
【0007】
好ましい技術的形態として、前記複数の蒸発器は、少なくとも1つの第1蒸発器と、少なくとも1つの第2蒸発器と、を含み、前記第1蒸発器は電子ビーム又はレーザー蒸発器であり、前記第2蒸発器は抵抗蒸発器である。
【0008】
好ましい技術的形態として、前記薄膜触媒は、中高エントロピー合金薄膜触媒若しくは高エントロピーセラミック薄膜触媒、又は多金属元素セラミック薄膜触媒である。
【0009】
好ましい技術的形態として、前記真空室内に回動可能に設けられ、前記基材を回動駆動するための巻き取り機構をさらに含む。
【0010】
好ましい技術的形態として、回動手段をさらに含み、前記回動手段は、モータ、公転ディスク、第1支持リング、第2支持リング、回転ディスクホルダ、及び巻き取り機構ホルダを含み、前記公転ディスク、前記第1支持リング、及び前記第2支持リングは平行に設けられ、前記モータの出力軸は前記公転ディスクの中心軸に接続され、前記巻き取り機構は前記巻き取り機構ホルダに移動可能に固定され、前記巻き取り機構ホルダは前記第1支持リングと第2支持リングとの間に設けられ、前記巻き取り機構ホルダの両端がそれぞれ前記第1支持リング及び前記第2支持リングに接続され、前記回転ディスクホルダの両端はそれぞれ前記公転ディスク及び前記第1支持リングに接続され、前記モータは、前記公転ディスクを回動駆動して、前記巻き取り機構ホルダを回転させ、前記巻き取り機構を回転させる。
【0011】
好ましい技術的形態として、前記真空室内に設けられ、好ましい技術的形態としてもよいバイアス負電圧デバイスをさらに含み、前記バイアス負電圧をUとすると、-380v≦U<0vである。
【0012】
好ましい技術的形態として、前記真空室内に設けられたコールドトラップシステム及び加熱システムをさらに含む。
【0013】
好ましい技術的形態として、前記イオン発生器のイオン源はホールイオン源である。
【0014】
本発明はまた、
真空吸引を行うステップS1と、
イオン源電流が第1電流であるイオン発生器を起動させて、基材をパージするステップS2と、
前記イオン源電流を前記第1電流に維持して、第1反応ガスを導入するとともに、複数の蒸発器を起動させ、前記基材上に、1種の金属の化合物又は1種の金属の複数種の化合物又は複数種の金属の化合物の複合物である第1触媒膜層を蒸着するステップS3であって、前記第1触媒膜層の化合物は、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、ホウ化物、又は錯体である、ステップS3と、を含む、薄膜触媒の製造方法を提供する。
【0015】
好ましい技術的形態として、前記複数の蒸発器は、少なくとも1つの第1蒸発器と、少なくとも1つの第2蒸発器と、を含み、前記第1蒸発器は電子ビーム又はレーザー蒸発器であり、前記第2蒸発器は抵抗蒸発器である。
【0016】
好ましい技術的形態として、前記ステップS3の後に、
前記イオン源電流を、前記第1電流よりも小さい第2電流に調整して、第2反応ガスを導入し、前記第1触媒膜層上に、1種の金属の化合物、1種の金属の複数種の化合物又は複数種の金属の化合物の複合物である第2触媒膜層を蒸着するステップS4であって、前記第2触媒膜層の化合物は、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、ホウ化物、又は錯体である、ステップS4と、
予め設定された層数に応じて、前記ステップS3と前記ステップS4を順に繰り返し、前記基材から離れた最外層の触媒膜を製造するときに使用される前記イオン源電流を前記第1電流にするステップS5と、をさらに含む。
【0017】
好ましい技術的形態として、前記第1反応ガス及び前記第2反応ガスは、いずれも、酸素ガス、窒素ガス、及びメタンから選択される1種である。
【0018】
好ましい技術的形態として、前記第1触媒膜層及び前記第2触媒膜層は、いずれも金属酸化物であり、かつ、前記第2電流は0である。
【0019】
好ましい技術的形態として、前記第1電流は5A~10A、前記第2電流は0A~5Aである。
【0020】
好ましい技術的形態として、前記第1層触媒膜の成膜時間及び前記第2触媒膜層の成膜時間のいずれも、5分間以下である。
【0021】
好ましい技術的形態として、前記ステップS2においては、アルゴンガスも導入される。
【0022】
好ましい技術的形態として、前記ステップS3及び前記ステップS4においては、前記アルゴンガスの導入量が同じである。
【0023】
好ましい技術的形態として、前記第2触媒膜層の厚さが5~30nmである。
【0024】
好ましい技術的形態として、前記第1触媒膜層の厚さが5~30nmである。
【0025】
好ましい技術的形態として、前記ステップS3においては、バイアス負電圧を供給して電場を形成することをさらに含み、前記バイアス負電圧をUとすると、-380v≦U<0vである。
【0026】
好ましい技術的形態として、前記第1触媒膜層の成膜時間が2~3分間である。
【0027】
好ましい技術的形態として、前記第1電流が0~5Aである場合、前記第1触媒膜層の比表面積が20~200m2/gであり、前記第1電流が5~10Aである場合、前記第1触媒膜層の比表面積が0.2~20m2/gである
【発明の効果】
【0028】
従来技術と比べて、本発明の上記技術的形態は以下の利点を有する。
(1)本発明は、イオン源とアルゴンガスとのイオン化混合法を組み合わせた多重放射源を用いた共蒸着イオン反応法を採用することにより、非共蒸着膜触媒の高温耐性が悪いという問題を解決するだけでなく、真空室内の各種元素イオンがイオン源とアルゴンイオンの加速衝撃との共同作用により互いに衝突し、イオン反応を起こし、反応生成物を対象基材上に迅速に堆積し、サブナノメートルオーダーまたはナノメートルオーダーのアモルファス及び結晶性の薄膜を形成することができる。
(2)本発明では、成膜材料を励起してイオンを生成する速度が速く、イオン間の反応速度が速く、瞬時に成膜でき、かかる時間が短く、従来の成膜時間が時間を単位とするというこれまでの常識を打ち破り、多金属元素イオン反応を迅速かつ大規模に行い、中高エントロピー合金薄膜及び多金属元素セラミック薄膜触媒を製造することができ、大規模な工業的生産に基礎を築くことができる。
(3)本発明では、また、真空室内の基材上にバイアス負電圧を印加して、イオンまたは化合物の堆積を促進し、一次膜上でイオン反応を継続することを可能にすることによって、より多くの高エントロピー合金または錯体を生成し、触媒活性部位の安定性、特に高温に対する安定性を向上させる。本方法により製造された積層薄膜触媒は、非ファンデルワールス力二次元膜であり、結合力が高く、活性部位が安定している。
(4)本発明の製造システムは、必要な原料が安価であり、マグネトロンスパッタリングターゲットに比べて原料(成膜材料)コストが大幅に低減されている。また、本発明の製造過程は、酸やアルカリ、固液廃棄物がなく、少量の真空排気ガスは、簡単なガスフィルターだけによって基準を満たすものになり、このため、環境にやさしい製造方式であり、さらに、本発明の製造プロセスは、信頼性が高く、安定性に優れている。
本発明の具体的な実施形態又は従来技術の技術的解決手段をより明確に説明するために、以下、具体的な実施形態又は従来技術の説明に使用する必要がある図面を簡単に説明する。以下の説明に記載された図面は、本発明の一部の実施形態に過ぎず、当業者であれば、創造的な労力を払うことなく、これらの図面から他の図面を得ることができることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施例に係る薄膜触媒の製造装置の概略図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る薄膜触媒の製造装置の放射源及びイオン源群の概略図である。
【
図3】本発明の一実施例に係る薄膜触媒の製造方法の流れ概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の目的、構造、特徴、及びそれらの機能の更なる理解を可能にするために、実施例を参照して以下に詳細に説明する。なお、「上」、「下」、「左」、「右」等の用語で示される方位又は位置関係は、図に示される方位又は位置関係に基づくものであり、図に示される各要素の形状、大きさ、方位又は位置関係は、本発明の技術的内容の説明を容易にするために過ぎず、本発明を限定するものとは理解されない。
【0031】
図1及び
図2を参照して、
図1は、本発明の一実施例に係る薄膜触媒の製造装置の概略図であり、
図2は、本発明の一実施例に係る薄膜触媒の製造装置の放射源及びイオン源群の概略図である。本発明は、例えば、中高エントロピー合金薄膜触媒、高エントロピー合金セラミック薄膜触媒、又は多金属元素セラミック薄膜触媒である薄膜触媒の製造装置を提供し、上記金属元素セラミックとは、金属元素の酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、ホウ化物、並びにこれらの混合物及び化合物(錯体)を意味する。高エントロピー合金(High-entropy alloys)はHEAと略称され、5種類以上の等量またはほぼ等量の金属で形成された合金である。中エントロピー合金は高エントロピー合金を基にして発展した概念であり、その主要元素は三元の単相合金である。高エントロピー合金セラミックス(High-entropy ceramics)は、略してHECと呼ばれ、1種又は複数種のWyckoff sitesを含む元素の占有率が同一または近似(5~35%)である多元素固溶体無機物からなる。
【0032】
上記薄膜触媒の製造装置は、真空室1と、複数の蒸発器2と、複数本のガス導入チューブ3と、イオン発生器4と、制御ユニット20と、を含む。真空室1は真空環境を作る。複数の蒸発器2は真空室1内に設けられ、少なくとも1種の成膜材料を蒸発させ、蒸発器2は、成膜材料を蒸発させて、原子団、イオン源、及び部分(不十分)イオン状態に変換する。実際の生産において、これらの蒸発器に所望の成膜材料をそれぞれ入れて、実際のニーズに応じて、このような成膜材料は、同一であっても、異なってもよい。複数本のガス導入チューブ3は、真空室1内に設けられ、反応ガスを供給し、ここで、反応ガスは、成膜材料の成分に応じて決定されてもよく、例えば、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガス又はメタンであってもよい。イオン発生器4は、真空室1内に設けられ、上記の反応ガス及び蒸発後の上記の成膜材料をイオン化する。制御ユニット20は、上記の真空室1、複数の蒸発器2、複数本のガス導入チューブ3及びイオン発生器4に接続される。例えば、制御ユニット20は、真空室内の真空度や温度などを制御したり、蒸発器2及びイオン発生器4の電流や速度などを制御したりすることができる。
【0033】
また、制御ユニット20は、真空室1を制御して真空吸引を行うとともに、複数の蒸発器2のうちの少なくとも2つを起動させ、ガス導入チューブ3を制御して反応ガスを供給し、また、イオン発生器4のイオン源電流の大きさを制御して調整し、蒸発後の成膜材料と反応ガスを反応させて基材の表面に触媒膜を蒸着することで、本発明の薄膜触媒を製造する。上記の触媒膜例えば、1種の金属の化合物、1種の金属の複数種の化合物又は複数種の金属の化合物の複合物であり、ここで、前記化合物は、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、ホウ化物、又は錯体であり、上記の金属は、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuなどである。
【0034】
上記の複数の蒸発器2は、少なくとも1つの第1蒸発器21と、少なくとも1つの第2蒸発器22と、を含み、第1蒸発器21は、例えば、電子ビーム又はレーザー蒸発器であり、電子ガンとして実装され、電子ガンは、セラミック、金属タングステン、モリブデン、又はカスタマイズされた高融点合金材料などの高融点材料を蒸発させるものであり、第2蒸発器22は、タングステン、マンガン、コバルト、銅、亜鉛などの低融点材料を蒸発させる抵抗蒸発器である。さらに、本発明では、使用される成膜材料は、単一金属成膜材料、又は複数種の金属の複合成膜材料であってもよいが、具体的には、実際のニーズに応じて決定されてもよい。また、イオン発生器4のイオン源として、いかなる形態のイオン源も可能であるが、好ましくは、ホールイオン源は大規模生産に使用され、高周波イオン源は不規則な元素の分散や結晶相の規則的な配置を局所的に制御するために使用される。
【0035】
これに加えて、薄膜触媒の製造装置は、真空室1内に回動可能に設けられ、基材を回動駆動するための巻き取り機構30をさらに含む。巻き取り機構30は、制御ユニット20に接続され、制御ユニットはまた、巻き取り機構30の巻き取り作動などを制御する。本実施例では、好ましくは、巻き取り機構30は、蒸発器2が巻き取り機構30に向かって成膜材料を蒸発させることを可能にするために、複数の蒸発器2の一方の側に位置するが、本発明はこれに限定されるものではなく、巻き取り機構30の位置は、基材の表面に触媒膜を効率的かつ均一に蒸着するものが好ましい。
【0036】
引き続き
図1を参照して、本実施例では、薄膜触媒の製造装置は、回動手段をさらに含み、前記回動手段は、モータ5、公転ディスク6、第1支持リング7、第2支持リング8、回転ディスクホルダ9、及び巻き取り機構ホルダ10を含み、前記公転ディスク6、前記第1支持リング7及び前記第2支持リング8は平行に設けられ、前記モータ5の出力軸51は前記公転ディスク6の中心軸に接続され、前記巻き取り機構30は前記巻き取り機構ホルダ10に移動可能に固定され、前記巻き取り機構ホルダ10は、前記第1支持リング7と第2支持リング8との間に設けられ、前記巻き取り機構ホルダ10の両端はそれぞれ前記第1支持リング7及び前記第2支持リング8に接続され、前記回転ディスクホルダ9の両端はそれぞれ前記公転ディスク6及び前記第1支持リング7に接続され、前記モータ5は前記公転ディスク6を回動駆動して、前記巻き取り機構ホルダ10を回転させ、前記巻き取り機構30を回転させる。さらに、好ましくは、前記巻き取り機構ホルダ10は一体構造とされており、巻き取り機構ホルダ10及び第1支持リング7は固定バックル11によって接続され、つまり、巻き取り機構ホルダ10は固定バックル11によって第1支持リング7に係止され、このようにして、巻き取り機構ホルダ10は、第1支持リング7の回動によって巻き取り機構30を安定して回動させることができる。また、回転ディスクホルダ9と第1支持リング7は、例えばローラ12によって接続されてもよく、巻き取り機構ホルダ10と第2支持リング8はローラ13によって接続されてもよい。
【0037】
さらに、上記の巻き取り機構30の各巻き取りサブシステムは、公転も自転も可能であり、基材が巻き取り機構30に固定されると、基材の横方向の各部位は、イオン発生器4のイオン源からの距離が均一に変化し、理論的には、1回転周期(1週)で換算すると、真空室内のイオン状態の物質の基材への蒸着速度や時間が一致する。また、各巻き取りサブシステムの公転が真空チャンバ内のイオン状態の物質に均一な外乱を与えるため、生成された膜の横方向の厚さが比較的均一である。直径1.6mの真空室のプロトタイプを例にして、膜の横方向の中央と縁部との厚さの誤差が2.4%以下であり、それによって、製品の良品率が高い。一方、各巻き取りサブシステムが公転しないと、蒸着された膜の横方向の厚さが不均一になり、膜の品質が劣る。直径1.6米の真空室のプロトタイプを例にして、膜の横方向の中央と縁部との厚さの誤差が26%と高い。真空室の体積が大きいほど、膜の横方向の誤差が大きく、製品の良品率が低くなる。
【0038】
さらに、本実施例では、薄膜触媒の製造装置は、前記真空室1内に設けられ、前記基材にバイアス負電圧を供給して、真空室1内で電場を形成するためのバイアス負電圧デバイス14をさらに含む。好ましくは、上記のバイアス負電圧は、U、-380v≦U<0vである。真空室1内の工件にバイアス負電圧が印加され(負極となる)、真空室1のケースの電位が0であり、イオン源及びアルゴンガスにより反応ガスがイオン化され、反応ガスイオンが電場の作用によって金属工件の表面に衝撃を与え、その表面の元素と低温イオン反応を起こす。すなわち、蒸発器2は、成膜材料を蒸発させて、原子団、イオン源、及び部分的(不十分な)イオン状態のものにし、真空室内にアルゴンガスが導入されると、イオン発生器4はアルゴンガスをイオン化し、アルゴンイオンが蒸発出の成膜材料に衝撃を与え、それをさらにイオン化する。電場の印加もアルゴンガスのイオン化を十分にすることができ、アルゴンイオンは蒸発した成膜材料に衝撃を与えて、蒸発した成膜材料をさらにイオン化する。電場の負極はイオンを引き寄せ、イオンをより迅速に堆積させる。さらに、電場はまた以下のような作用を果たす。(1)イオンを迅速に初めに生成した二次元ナノ膜表面に衝突させて、多種の異なるイオンを薄膜に挿入して更に複雑な化合物又は錯体を生成し、アモルファス又は結晶欠陥を増加させ、膜の触媒効果及び触媒活性部位の安定性、特に耐高温安定性を高める。(2)電場の存在により、基材へのイオンの堆積速度が速くなり、成膜速度が向上し、例えば、本来30nm成膜するのにかかる時間は約5分間であったが、電場の存在により、基材へのイオンの堆積速度が速くなるので、3分間で30nmの成膜が可能となった。
【0039】
さらに、真空室1内には、コールドトラップシステム及び加熱システムがさらに設けられ、コールドトラップシステムは、アモルファス触媒膜を製造する場合、加熱システムは、真空室1内の温度及び成膜材料への加熱を調整する場合に使用される。
【0040】
また、
図2に示すように、本発明に多放射源共蒸着イオン反応方法が使用されているので、電子ビーム又はレーザー蒸発器21及び抵抗蒸発器22は複数設けられている。本実施例では、電子ビーム又はレーザー蒸発器21及び抵抗蒸発器22がそれぞれ3つである場合を例にするが、本発明はこれに限定されるものではなく、実際の状況に応じて決定され得る。また、本実施例では、1つのイオン発生器23及び6本のガス導入チューブ24がさらに設けられている。このため、本発明の上記の製造装置によれば、複数の材料の共蒸発やマルチイオン反応の組み合わせを可能とし、目的生成物を効率的に合成することができる。具体的には、例えば、高融点成膜材料:タングステンW(融点3410℃)、石墨C(融点3850℃)、クロムCr(融点1890℃)を電子ガンの坩堝内に入れ、電子ビーム蒸発源とし、低融点成膜材料:鉄Fe(融点1535℃)、銅Cu(融点1083℃)、亜鉛Zn(融点419℃)を抵抗蒸着坩堝内に入れ、抵抗蒸発源とし、各成膜材料の真空音速に応じて、蒸着速度を、例えば、クロムの場合、1.0オングストローム/秒、銅の場合、2オングストローム/秒等に設定し、アルゴンガス速度を例えば80ml/sに設定し、30nm成膜するのにかかる時間は約2~3分間である。このように、多金属元素の複雑な炭化物触媒を合成することができ、従来技術における製造装置よりも成膜時間を大幅に短縮させる。窒素ガスを導入すると、多金属元素の複雑な炭窒化物セラミック膜触媒を合成することができる。
【0041】
上記基材は、例えば、ゼオライト、エレクトロスパンナノファイバー、ガラスファイバー、セラミックファイバー、発泡セラミック、および合金スクリーンのうちの1つまたは複数の組み合わせである。
【0042】
また、本実施例では、真空室内に1つの巻き取り機構を配置したことを例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、実際の製造においては、必要に応じて複数の巻き取り機構を配置して、大規模な生産の需要を満たすことができる。
【0043】
図3を参照して、
図3は、本発明の一実施例に係る薄膜触媒の製造方法の流れ概略図であり、本発明はまた、薄膜触媒の製造方法を提供し、前記製造方法は、以下のステップS1~ステップS3を含む。
ステップS1:真空吸引を行う。
ステップS2:イオン源電流が第1電流のイオン発生器を起動させて、基材をパージする。
ステップS3:前記イオン源電流を前記第1電流に維持して、第1反応ガスを導入するとともに、複数の蒸発器を起動させ、前記基材上に、1種の金属の化合物、1種の金属の複数種の化合物又は複数種の金属の化合物の複合物である第1触媒膜層を蒸着し、前記第1触媒膜層の化合物は、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、ホウ化物、又は錯体である。
【0044】
上記の複数の蒸発器は、少なくとも1つの第1蒸発器と、少なくとも1つの第2蒸発器と、を含み、前記第1蒸発器は電子ビーム又はレーザー蒸発器であり、前記第2蒸発器は抵抗蒸発器である。
【0045】
さらに、前記ステップS3の後に、以下のステップS4とステップS5をさらに含む。
ステップS4:前記イオン源電流を、第1電流よりも小さい第2電流に調整して、第2反応ガスを導入し、第1触媒膜層上に、1種の金属の化合物、1種の金属の複数種の化合物又は複数種の金属の化合物の複合物である第2触媒膜層を蒸着し、第2触媒膜層の化合物は、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、ホウ化物、又は錯体である。
ステップS5:予め設定された層数に応じて、前記ステップS3と前記ステップS4を順に繰り返し、前記基材から離れた最外層の触媒膜を製造するときに使用される前記イオン源電流を前記第1電流にする。上記の予め設定された層数とは、製造しようとする触媒膜の層数を指し、実際のニーズに応じて設定されてもよい。
【0046】
上記の第1反応ガス及び第2反応ガスは、すべて酸素ガス、窒素ガス、及びメタンから選択される1種であり、第1反応ガス及び第2反応ガスは、同一であっても、異なってもよい。
【0047】
さらに、前記ステップS2においては、アルゴンガスも導入され、例えば、ステップS2においては、アルゴンガスが15~30sccm導入され、ここで、アルゴンガスは、保護ガスとしてもよいが、イオン化されて反応に用いてもよい。好ましくは、前記ステップS3及び前記ステップS4においては、前記アルゴンガスの導入量が同じであり、例えば、8~10sccmである。
【0048】
前記ステップS2においては、前記反応ガスは第1導入量を有し、前記ステップS3においては、前記反応ガスは第2導入量を有し、前記第1導入量は、前記第2導入量以下である。例えば、前記反応ガスが酸素ガスである場合、酸素ガスの第1導入量は20~80sccmであり、第2導入量は80~100sccmである。前記反応ガスが窒素ガスである場合、窒素ガスの第1導入量は40~80sccmであり、第2導入量は80~100sccmである。前記反応ガスがメタンである場合、メタンの第1導入量は20~60sccmであり、第2導入量は60~80sccmである。もちろん、本発明はそれに限定されるものではなく、つまり、第1導入量は前記第2導入量よりも大きくてもよく、実際の製造においては、異なる反応ガスの導入量は、異なる薄膜触媒に必要とされる異なる価格の材料に応じて調整される。
【0049】
前記第1電流は、例えば5A~10Aであり、前記第2電流は、例えば0A~5Aである。本発明の上記のステップでは、イオン源を起動させるか、大電流(例えば5A~10A)を用いて製造された第1触媒膜層は、より緻密であり、膜と基材との結合力を保証することができる。イオン源をオフにするか、または低電流(例えば0A~5A)を用いて製造された第2触媒膜層は、触媒膜の比較面積、活性部位、触媒性能を保証することができる。より緻密な第3触媒膜層の製造は、高比表面積の触媒膜を押さえつけ、その剥離や老化等を防止するためである。比表面積の高い第4触媒膜層の製造は、材料全体の触媒性能を向上させる。具体的な触媒膜の層数は、実際のニーズに応じて選択することができるが、基材から離れた最外層の触媒膜は、常にイオン源をオンにして高電流時に製造された緻密な層であり、そうでないと、触媒膜の脱落や老化を起こしやすい。具体的には、前記第1電流が0~5Aのとき、前記第1触媒膜層の比表面積は20~200m2/gである。前記第1電流が5~10Aのとき、第1触媒膜層の比表面積は0.2~20m2/gである。
【0050】
別の実施例では、前記第1触媒膜層及び前記第2触媒膜層はいずれも金属酸化物であり、前記第2電流は0であり、つまり、第2触媒膜層を製造するときにイオン源電流をオフにすることができ、それによって、第2触媒膜層の比表面積、活性部位、触媒性能を確保することができる。
【0051】
一般的に、金属酸化物自体の耐高温性、緻密性などの性能は金属炭素、窒素化合物に劣るが、本発明では、イオン源補助(例えば、イオン源電流のスイッチングまたはイオン源電流の大きさの調整)を使用することにより、製造された触媒が高い比表面積を有し、かつ良好な結合力および安定性を維持することを達成することができる。
【0052】
好ましくは、第1触媒膜層の厚さは5~30nmであり、第2触媒膜層の厚さは5~30nmである。しかし、本発明はそれに限定されるものではなく、本発明で製造される触媒膜のそれぞれの厚さは、30nmよりも大きくてもよく、実際のニーズに応じて決定されてもよい。
【0053】
さらに、上記の第1触媒膜層及び第2触媒膜層のいずれの成膜時間も5分間以下であり、好ましくは、第1触媒膜層及び第2触媒膜層の成膜時間は2~3分間である。
【0054】
また、上記の薄膜触媒の製造方法は、例えば、上記の薄膜触媒の製造装置を用いて行われる。
【0055】
すなわち、本発明の上記の製造方法及び製造装置を用いて中高エントロピー合金薄膜又は多金属元素セラミック薄膜触媒を製造することは、速度が速く、成膜時間が基本的に5分間以内に抑えられるだけでなく、成膜品質も高く、イオン源電流の調整による補助により、金属酸化物の耐高温性、緻密性を改善し、薄膜触媒全体の性能を向上させることができる。
【0056】
以下、特定実施例をもって本発明についてさらに説明する。
【0057】
実施例1
(1)真空室で真空吸引を行った。
(2)イオン源電流が6Aのイオン発生器を起動させて、アルゴンガス導入量を15sccmとして、基材を60sパージした。
(3)イオン源電流を6Aに維持しながら、アルゴンガス導入量を8sccmに下げた。
(4)電子ビーム蒸着装置及び抵抗蒸着装置を起動させて、Al及びTiを電子ガンの坩堝に入れ、Ce及びFeを抵抗蒸着坩堝に入れ、酸素ガスを20sccmの導入量で導入し、Al2O3成膜材料に対する電子ガンの電流を300mA、速度を3.0オングストローム/秒(300mA、3.0オングストローム/秒)、TiO2成膜材料に対する電子ガンの電流を140mA、速度を1.0オングストローム/秒(140mA、1.0オングストローム/秒)、CeO2に対する電流を50mA、速度を0.5オングストローム/秒(50mA、0.5オングストローム/秒)、Feに対する電流を60mA、速度を0.5オングストローム/秒(60mA、0.5オングストローム/秒)に設定して、この4種類の材料を合計100s蒸着し、第1触媒膜層を得た。30nm成膜するのにかかる時間は約4分間であった。
【0058】
実施例2
(1)真空室で真空吸引を行った。
(2)イオン源電流が6Aのイオン発生器を起動させて、アルゴンガス導入量を15sccmとして、基材を60sパージした。
(3)イオン源電流を6Aに維持しながら、アルゴンガス導入量を8sccmに下げた。
(4)電子ビーム蒸着装置及び抵抗蒸着装置を起動させて、Al及びTiを電子ガンの坩堝に入れ、CeO2及びFeを抵抗蒸着坩堝に入れ、酸素ガスを20sccmの導入量で導入し、Al2O3成膜材料に対する電子ガンの電流を300mA、速度を3.0オングストローム/秒(300mA、3.0オングストローム/秒)、TiO2成膜材料に対する電子ガンの電流を140mA、速度を1.0オングストローム/秒(140mA、1.0オングストローム/秒)、CeO2に対する電流を50mA、速度を0.5オングストローム/秒(50mA、0.5オングストローム/秒)、Feに対する電流を60mA、速度を0.5オングストローム/秒(60mA、0.5オングストローム/秒)に設定し、この4種類の材料を合計100s蒸着し、第1触媒膜層を得た。30nm成膜するのにかかる時間は約4分間であった。
(5)電子ビーム蒸着装置及び抵抗蒸着装置を起動させて、イオン発生器を停止し、酸素ガスを80sccmの導入量で導入し、各成膜材料の真空音速に応じて、蒸着速度を、Co(電流190mA、2オングストローム/秒)、Mn(6mA、0.5オングストローム/秒)、W(490mA、0.2オングストローム/秒)、Mo(400mA、0.3オングストローム/秒)、Cu(300mA、1.0オングストローム/秒)に設定し、5種類の材料を合計100s蒸着し、第2触媒膜層を得た。30nm成膜するのにかかる時間は約4分間であった。
(6)電子ビーム蒸着装置及び抵抗蒸着装置を起動させて、イオン源電流が6Aのイオン発生器を起動させて、酸素ガスを40sccmの導入量で導入し、各成膜材料の真空音速に応じて、蒸着速度を、Co(電流190mA、2オングストローム/秒)、Mn(6mA、0.5オングストローム/秒)、W(490mA、0.2オングストローム/秒)、Mo(400mA、0.3オングストローム/秒)、Cu(300mA、1.0オングストローム/秒)に設定し、5種類の材料を合計100s蒸着し、第3触媒膜層を得た。30nm成膜するのにかかる時間は約3分間であった。
【0059】
実施例3
(1)真空室で真空吸引を行った。
(2)イオン源電流が6Aのイオン発生器を起動させて、アルゴンガス導入量を15sccmとして、基材を60sパージした。
(3)イオン源電流を6Aに維持しながら、アルゴンガス導入量を8sccmに下げた。
(4)電子ビーム蒸着装置及び抵抗蒸着装置を起動させて、バイアス負電圧として-160Vを印加し、Al及びTiを電子ガンの坩堝に入れ、CeO2及びFeを抵抗蒸着坩堝に入れ、酸素ガスを20sccmの導入量で導入し、Al2O3成膜材料に対する電子ガンの電流を300mA、速度を3.0オングストローム/秒(300mA、3.0オングストローム/秒)、TiO2成膜材料に対する電子ガンの電流を140mA、速度を1.0オングストローム/秒(140mA、1.0オングストローム/秒)、CeO2に対する電流を50mA、速度を0.5オングストローム/秒(50mA、0.5オングストローム/秒)、Feに対する電流を60mA、速度を0.5オングストローム/秒(60mA、0.5オングストローム/秒)に設定して、この4種類の材料を合計100s蒸着し、第1触媒膜層を得た。30nm成膜するのにかかる時間は約3分間であった。
(5)電子ビーム蒸着装置及び抵抗蒸着装置を起動させて、イオン発生器を停止し、バイアス負電圧として80Vを印加し、酸素ガスを80sccmの導入量で導入し、各成膜材料の真空音速に応じて、蒸着速度を、Co(電流190mA、2オングストローム/秒)、Mn(6mA、0.5オングストローム/秒)、W(490mA、0.2オングストローム/秒)、Mo(400mA、0.3オングストローム/秒)、Cu(300mA、1.0オングストローム/秒)に設定し、5種類の材料を合計100s蒸着し、第2触媒膜層を得た。30nm成膜するのにかかる時間は約3分間であった。
(6)電子ビーム蒸着装置及び抵抗蒸着装置を起動させて、イオン源電流が6Aのイオン発生器を起動させて、バイアス負電圧として-220Vを印加し、酸素ガスを40sccmの導入量で導入し、各成膜材料の真空音速に応じて、蒸着速度を、Co(電流190mA、2オングストローム/秒)、Mn(6mA、0.5オングストローム/秒)、W(490mA、0.2オングストローム/秒)、Mo(400mA、0.3オングストローム/秒)、Cu(300mA、1.0オングストローム/秒)に設定し、5種類の材料を合計100s蒸着し、第3触媒膜層を得た。30nm成膜するのにかかる時間は約2分間であった。
【0060】
実施例4
(1)真空室で真空吸引を行った。
(2)イオン源電流が10Aのイオン発生器を起動させて、アルゴンガス導入量を24sccmとして、基材を60sパージした。
(3)イオン源電流を10Aに維持しながら、アルゴンガス導入量を10sccmに下げた。
(4)電子ビーム蒸着装置及び抵抗蒸着装置を起動させて、W及びCrを電子ガンの坩堝に入れ、Fe、Cuを抵抗蒸着坩堝に入れ、窒素ガスを20sccmの導入量で導入し、各成膜材料の真空音速に応じて、蒸着速度を、W(490mA、0.2オングストローム/秒)、Cr(300mA、1.0オングストローム/秒)、Fe(60mA、0.5オングストローム/秒)、Cu(300mA、1.0オングストローム/秒)に設定して、この4種類の材料を合計100s蒸着し、第1触媒膜層を得た。30nm成膜するのにかかる時間は約3分間であった。
(5)電子ビーム蒸着装置及び抵抗蒸着装置を起動させて、イオン源電流を5Aに調整し、窒素ガスを100sccmの導入量で導入し、各成膜材料の真空音速に応じて、蒸着速度を、Al(300mA、3.0オングストローム/秒)、CeO2(50mA、0.5オングストローム/秒)、Mo(400mA、0.3オングストローム/秒)、Cu(300mA、1.0オングストローム/秒)に設定し、5種類の材料を合計100s蒸着し、第2触媒膜層を得た。30nm成膜するのにかかる時間は約2分間であった。
(6)電子ビーム蒸着装置及び抵抗蒸着装置を起動させて、イオン源電流を10Aに調整し、窒素ガスを80sccmの導入量で導入し、各成膜材料の真空音速に応じて、蒸着速度を、W(490mA、0.2オングストローム/秒)、Cr(300mA、1.0オングストローム/秒)、Fe(60mA、0.5オングストローム/秒)、Cu(300mA、1.0オングストローム/秒)、CeO2(50mA、0.5オングストローム/秒)に設定し、5種類の材料を合計100s蒸着し、第3触媒膜層を得た。30nm成膜するのにかかる時間は約2分間であった。
【0061】
実施例5 高エントロピー二次元膜CuFeNiMoCoTi
【0062】
Mo及びTiを電子ガンの坩堝内に入れ、Cu、Fe、Ni、及びCoを抵抗蒸着坩堝内に入れ、各成膜材料の真空音速に応じて、蒸着速度を、例えば、タングステンの場合、0.5オングストローム/秒、鉄の場合、2オングストローム/秒に設定し、30nm成膜するのにかかる時間は約2分間であった。
【0063】
実施例6 高エントロピー二次元膜CrMoNiMnVWZn
Mo、V、W、Ti、及びCrを電子ガンの坩堝内に入れ、Mn、Ni、及びZnを抵抗蒸着坩堝内に入れ、各成膜材料の真空音速に応じて、蒸着速度を、例えば、モリブデンの場合、1.0オングストローム/秒、鉄の場合、3オングストローム/秒に設定し、50nm成膜するのにかかる時間は約3分間であった。
【0064】
実施例7 多金属元素セラミック二次元膜FeCrWCuN
W及びCrを電子ガンの坩堝内に入れ、Fe及びCuを抵抗蒸着坩堝内に入れ、窒素ガスとしてガスを導入し、各成膜材料の真空音速に応じて、蒸着速度を、例えば、クロムの場合、1.0オングストローム/秒、銅の場合、2オングストローム/秒に設定し、窒素ガスの速度を例えば80ml/sに設定し、30nm成膜するのにかかる時間は約2~3分間であった。
【0065】
実施例8 多金属元素セラミック二次元膜AlCeCoZrMnO
Zr、及びCeOを電子ガンの坩堝内に入れ、Al、Co、及びMnを抵抗蒸着坩堝内に入れ、ガスとして酸素ガスを導入し、各成膜材料の真空音速に応じて、蒸着速度を、例えば、ジルコニウムの場合、1.0オングストローム/秒、マンガンの場合、2.5オングストローム/秒に設定し、酸素ガスの速度を例えば60ml/sに設定し、40nm成膜するのにかかる時間は約2~3分間であった。
【0066】
実施例9
Al、Ce、Mo、Co、Zr、Feの6種類の元素を共蒸着して得られた窒素セラミック膜を、240℃~250℃で処理する場合、ジメチルアセトアミドVOCに対する効果が優れ、前記VOCは、触媒により処理されて水に、二酸化炭素及び窒素ガスになる。
【0067】
実施例10
不織布とステンレス金網を基材にしたCu系3金属元素酸化物セラミック薄膜触媒は、1分間ではコロナウイルスH1N1の死滅効率が98.8%を超え、10分間ではウイルス死滅効率が99%を超える。
【0068】
実施例1~8から、本発明の製造方法で製造された中高エントロピー合金薄膜又は多金属元素セラミック薄膜触媒を用いると、速度が速く、30nm成膜するのにかかる時間がほぼ2~3分間に抑えられることが分かった。
【0069】
実施例2及び実施例3では、実施例3ではバイアス負電圧を印加した以外、実験条件は同じである。実施例3の成膜時間が有意に短縮されたことが分かった。
【0070】
実施例9において、本発明の製造方法を用いて製造した窒化セラミック膜は、240℃~250℃でジメチルアセトアミドVOCを処理する効果が優れているが、従来技術において、浸漬法や飽和共沈殿法を用いて製造した窒素含有VOC触媒では、本発明で製造した多金属元素セラミック薄膜触媒と同じ効率を達成するには、運転温度を150~250℃上昇させるか、或いは触媒を通過するVOC速度を1.6cm/sまで低下させる必要がある。一方、本発明の薄膜触媒の風速は20cm/sである(処理後の風速は産業上の必要に応じて1~7m/sとすることができる)。水熱法と比較して、高結合力、高分散の窒化コバルト触媒を製造するには、水酸化マグネシウムを鋳型剤とし、前駆体として酢酸コバルトとフェナントロリン(窒素源)を用いて、200℃で反応させた後、酸洗浄して水酸化マグネシウム鋳型剤を除去する。この方法は、本発明の製造方法と比較して、不純物を導入する工程があり、精度が蒸着法やスパッタリング法と比べ物にならない。本製造方法を用いて多金属元素セラミック薄膜触媒を工業的に製造することにより、このようなVOCを処理するための従来の設備よりも投資を1/3~1/2に削減することができ、運転時に大量の天然ガスを消費する必要がなく、又は、加熱用の電力エネルギーを大幅に削減することができ、ランニングコストを低減することができる。
【0071】
実施例10において、多金属元素セラミック薄膜触媒を不織布及びステンレス金網にその場で成長させてコロナウイルスを消除する製品を製造することも良好な効果を得ているが、本製造方法を利用して多金属元素セラミック薄膜触媒を工業的に製造することにより、多金属元素セラミック薄膜触媒は、環境保全分野、医療衛生システム、CBDなどのビルの中央空調システム、高速鉄道や航空機等の密閉空間の空気清浄システムの迅速なコロナウイルスの消除に広く応用することができる。
【0072】
以上のように、本発明は、イオン源とアルゴンガスとのイオン化混合法を組み合わせた多重放射源を用いた共蒸着イオン反応法を採用することにより、非共蒸着膜触媒の耐高温性が悪いという問題を解決できるだけでなく、真空室内の各種元素イオンがイオン源とアルゴンイオンの加速衝撃との共同作用により互いに衝突し、イオン反応を起こし、反応生成物を対象基材上に迅速に堆積させ、サブナノメートルオーダーまたはナノメートルオーダーのアモルファス及び結晶性の薄膜を形成することができる。また、膜材料を励起してイオンを生成する速度が速く、イオン間の反応速度が速く、瞬時に成膜でき、かかる時間が短く、多金属元素イオン反応を迅速かつ大規模に行い、中高エントロピー合金薄膜及び多金属元素セラミック薄膜触媒を製造することができ、大規模な工業的生産に基礎を築くことができる。本発明では、また、真空室内の基材上にバイアス負電圧を印加して、イオンまたは化合物の堆積を促進し、一次膜上でイオン反応を継続することを可能にすることによって、より多くの高エントロピー合金または錯体を生成し、触媒活性部位の安定性、特に高温に対する安定性を向上させる。また、本発明の製造システムは、必要な原料が安価であり、マグネトロンスパッタリングターゲットに比べて原料(成膜材料)のコストが大幅に低減されている。また、本発明の製造過程は、酸やアルカリ、固液廃棄物がなく、少量の真空排気ガスは、簡単なガスフィルターだけによって基準を満たすものになり、このため、環境にやさしい製造方式であり、さらに、本発明の製造プロセスは、信頼性が高く、安定性に優れている。
【0073】
本発明は、上記の関連する実施例により説明されたが、上記の実施例は、本発明を実施するための一例にすぎない。また、上記の本発明の各実施形態に係る技術的特徴は、相互に矛盾を生じさせない限り、相互に組み合わせてもよい。なお、開示された実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。一方、本発明の精神及び範囲から逸脱しない範囲内で行われた変更及び修正は、本発明の特許保護の範囲である。