(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】ウォーム減速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/16 20060101AFI20241224BHJP
F16H 55/24 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
F16H1/16 Z
F16H55/24
(21)【出願番号】P 2024539119
(86)(22)【出願日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2023027670
(87)【国際公開番号】W WO2024029451
(87)【国際公開日】2024-02-08
【審査請求日】2024-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2022123209
(32)【優先日】2022-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】田島 郁也
(72)【発明者】
【氏名】泉 隆宏
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-17930(JP,A)
【文献】特開2020-128803(JP,A)
【文献】特開2018-204661(JP,A)
【文献】特開2007-239787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/16
F16H 55/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイール収容部と、前記ホイール収容部の中心軸に対しねじれの位置にある中心軸を有し、かつ、軸方向中間部が前記ホイール収容部に開口したウォーム収容部とを有する、ハウジングと、
外周面にホイール歯を有し、かつ、前記ホイール収容部の内側に回転自在に支持されるウォームホイールと、
外周面に、前記ホイール歯と噛合するウォーム歯を有し、かつ、前記ウォーム収容部の内側に回転自在に支持されるウォームと、
前記ウォームの先端部に外嵌される支持軸受と、
前記支持軸受または該支持軸受に外嵌された外嵌部材である、内径側部材を、前記ウォームホイールの側に向けて付勢する弾性付勢手段と、
前記内径側部材の外周面と、前記ウォーム収容部または該ウォーム収容部に内嵌された内嵌部材である、外径側部材の内周面との間部分において、前記弾性付勢手段による付勢方向である第1方向と前記ウォーム収容部の軸方向である第2方向とのいずれにも直交する第3方向に関して前記内径側部材の両側に配置された1対の挟持板ばねを有する、弾性挟持手段と、を備え、
前記1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねは、前記第3方向の成分を含む方向のたわみ量が増大することに伴ってばね定数が増大するような非線形のばね特性を発揮する、ウォーム減速機。
【請求項2】
前記1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねは、周方向中間部を前記外径側部材の内周面に接触させ、かつ、周方向両側部のそれぞれを前記内径側部材の外周面に接触させており、さらに、前記第3方向の成分を含む方向のたわみ量が増大することに伴って、前記内径側部材の外周面に対する前記周方向両側部の接触部間の距離が減少することにより、前記ばね定数が増大する、請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項3】
前記1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねの周方向中間部は、前記第2方向から見て、前記ウォームの中心を通過しかつ前記第3方向に伸長する直線である第3方向直線Lxと交差する、請求項2に記載のウォーム減速機。
【請求項4】
前記外径側部材の内周面のうち、前記1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねの周方向中間部と接触する部分が、前記第1方向に伸長する平面部により構成されている、請求項3に記載のウォーム減速機。
【請求項5】
前記1対の挟持板ばねを構成する一方の挟持板ばねの周方向中間部は、第2方向から見て、前記ウォームが所定方向に回転する際に前記ウォーム歯と前記ホイール歯との噛合部から前記ウォームに加わる噛み合い反力F1のベクトルを含む放射直線L1と交差し、
前記1対の挟持板ばねを構成する他方の挟持板ばねの周方向中間部は、第2方向から見て、前記ウォームが前記所定方向と反対方向に回転する際に前記噛合部から前記ウォームに加わる噛み合い反力F2のベクトルを含む放射直線L2と交差する、請求項2に記載のウォーム減速機。
【請求項6】
前記1対の挟持板ばねのうちの少なくともいずれか一方の挟持板ばねである、対象挟持板ばねにおいて、
前記周方向中間部は、前記内径側部材の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有する第1部分により構成されており、
前記周方向両側部のそれぞれは、前記内径側部材の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有し、かつ、前記第1部分に対して滑らかに連続した第2部分により構成されており、
自由状態での前記第1部分の径方向内側面の曲率半径が、前記内径側部材の外周面の曲率半径よりも小さく、
自由状態での前記第2部分の径方向内側面の曲率半径が、自由状態での前記第1部分の径方向内側面の曲率半径よりも大きい、請求項2に記載のウォーム減速機。
【請求項7】
前記1対の挟持板ばねのうちの少なくともいずれか一方の挟持板ばねである、対象挟持板ばねにおいて、
前記周方向中間部は、前記内径側部材の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有する第1部分により構成されており、
前記周方向両側部のそれぞれは、前記内径側部材の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有し、かつ、前記第1部分に対して滑らかに連続した第2部分により構成されており、
自由状態での前記第1部分および前記第2部分のそれぞれの径方向内側面の曲率半径は、互いに等しく、かつ、前記内径側部材の外周面の曲率半径よりも小さく、
前記第2部分のそれぞれは、前記第1部分側の周方向端部に、周方向の残部および前記第1部分よりも剛性が低い低剛性板ばね部を有する、請求項2に記載のウォーム減速機。
【請求項8】
前記1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねが、前記対象挟持板ばねであり、
前記弾性挟持手段は、前記1対の挟持板ばねの前記ウォームホイールに近い側の周方向端部を互いに周方向に接続する周方向接続部を有しており、
前記周方向接続部は、前記内径側部材の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有し、かつ、前記1対の挟持板ばねに対して滑らかに連続しており、
自由状態での前記周方向接続部の径方向内側面の曲率半径は、自由状態での前記第1部分および前記第2部分のそれぞれの径方向内側面の曲率半径と等しい、請求項7に記載のウォーム減速機。
【請求項9】
前記弾性挟持手段は、前記1対の挟持板ばねの前記ウォームホイールに近い側の周方向端部を互いに周方向に接続する周方向接続部を有する、請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項10】
前記周方向接続部は、周方向の少なくとも一部に、前記1対の挟持板ばねよりも剛性が低い低剛性接続部を有する、請求項9に記載のウォーム減速機。
【請求項11】
前記1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねは、前記外径側部材の内周面に接触する部分に残留応力が付与されている、請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項12】
前記弾性挟持手段は、前記内径側部材または前記外径側部材と周方向に係合する周方向位置決め片を有する、請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項13】
前記弾性挟持手段は、前記内径側部材または前記外径側部材と軸方向に係合する軸方向位置決め片を有する、請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項14】
前記非線形のばね特性は、横軸を前記第3方向のたわみ量とし、縦軸を荷重としたとき、下に凸であり、前記第3方向のたわみ量が増大するにしたがって傾きが増大するグラフによって表される、請求項1に記載のウォーム減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動パワーステアリング装置などに組み込むことが可能なウォーム減速機に関する。
【0002】
ステアリング装置の分野では、電動モータを補助動力源として、運転者がステアリングホイールを操作するのに要する力を低減する電動パワーステアリング装置が普及している。
【0003】
電動パワーステアリング装置は、電動モータのトルクを増大させるためのウォーム減速機を備える。ウォーム減速機は、ハウジングと、ウォームホイールと、ウォームとを備える。ハウジングは、ホイール収容部と、ホイール収容部の中心軸に対しねじれの位置にある中心軸を有し、かつ、軸方向中間部がホイール収容部に開口したウォーム収容部とを有する。ウォームホイールは、外周面にホイール歯を有し、かつ、ホイール収容部の内側に回転自在に支持される。ウォームは、外周面に、ホイール歯と噛合するウォーム歯を有し、かつ、ウォーム収容部の内側に回転自在に支持される。電動モータのトルクは、ウォームを介してウォームホイールに伝達されることにより増大されてから、ステアリングシャフトやステアリングギヤユニットのピニオン軸またはラック軸などの操舵力伝達部材に補助動力として付与される。これにより、運転者がステアリングホイールを操作するのに要する力が低減される。
【0004】
ウォーム減速機では、ホイール歯とウォーム歯との噛合部に、ウォーム減速機を構成する部品のそれぞれの寸法誤差や組立誤差などに基づいて、不可避のバックラッシュが存在する。該バックラッシュの存在に基づき、ステアリングホイールの回転方向を変える際に
、噛合部で耳障りな歯打ち音が発生する場合がある。
【0005】
日本国特開2020-128803号公報には、ホイール歯とウォーム歯との噛合部での歯打ち音の発生を抑えるために、ウォームの先端部を、ウォームホイール側に向けて付勢する構造が記載されている。該構造は、ウォームの先端部を回転自在に支持する支持軸受に外嵌され、かつ、ウォームホイールに対する遠近動を可能に配置された外嵌部材と、外嵌部材とウォーム収容部との間に設置された付勢ばね(弾性付勢手段)とを備える。付勢ばねは弾性変形しており、付勢ばねの弾性復元力によって、外嵌部材をウォームホイール側に向けて付勢している。これにより、ホイール歯とウォーム歯との噛合部のバックラッシュが抑えられ、歯打ち音の発生が抑えられる。
【0006】
日本国特開2020-128803号公報に記載の構造では、ウォームの先端部がウォームホイールに対して遠近動できるようにするために、ウォームの先端部を回転自在に支持する支持軸受に外嵌された外嵌部材の外周面とウォーム収容部の内周面との間に、全周にわたり隙間が設けられている。このため、ウォームの先端部は、該隙間の存在に基づいて、付勢ばねによる付勢方向である第1方向とウォーム収容部の軸方向である第2方向とのいずれにも直交する第3方向にも移動し得る。
【0007】
一方、ウォームには、ウォーム歯とホイール歯との噛合部から噛み合い反力が作用する。該噛み合い反力には、第3方向成分の力が含まれる。該第3方向成分の向きは、ウォームの回転方向に応じて反転する。また、自動車の運転時には、タイヤから逆入力される振動の第3方向成分が、ウォームに伝達される。このため、前記隙間の存在に基づいてウォームの先端部が第3方向に移動することを無抵抗に許容すると、ウォームに作用する噛み合い反力の第3方向成分やウォームに逆入力される振動の第3方向成分によって、ウォーム収容部の内周面に外嵌部材の外周面が第3方向に勢い良く衝突し、耳障りな打音やラトル音などの異音が発生しやすくなる。
【0008】
そこで、日本国特開2020-128803号公報に記載の構造は、そのような異音の発生を抑制するために、外嵌部材を第3方向の両側から挟持する1対の挟持板ばねを備える。そして、1対の挟持板ばねにより、ウォームの先端部が第3方向に移動する際の勢いを抑えることで、上述のような異音の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
日本国特開2020-128803号公報に記載された従来構造は、以下の面から、改良の余地がある。
【0011】
すなわち、日本国特開2020-128803号公報に記載された従来構造において、付勢ばねによるウォームの先端部の付勢動作を滑らかにする、すなわち、ウォームの先端部の第1方向の移動を滑らかにするためには、1対の挟持板ばねのばね定数が低いことが要求される。一方、ウォームに作用する噛み合い反力の第3方向成分やウォームに逆入力される振動の第3方向成分によって、ウォーム収容部の内周面に外嵌部材の外周面が第3方向に勢い良く衝突することを十分に抑制するためには、1対の挟持板ばねのばね定数が大きいことが要求される。
【0012】
しかしながら、日本国特開2020-128803号公報に記載された従来構造では、1対の挟持板ばねのばね定数は一定であるため、互いに背反関係にある、上述した2つの要求に応えることが難しい。
【0013】
本開示は、弾性付勢手段によるウォームの先端部の付勢動作を滑らかにすることができ、かつ、ウォームの先端部の周囲において第3方向に関する部材間の衝突の勢いを抑制しやすい、ウォーム減速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示の一態様のウォーム減速機は、ハウジングと、ウォームホイールと、ウォームと、支持軸受と、弾性付勢手段と、弾性挟持手段とを備える。
【0015】
前記ハウジングは、ホイール収容部と、前記ホイール収容部の中心軸に対しねじれの位置にある中心軸を有し、かつ、軸方向中間部が前記ホイール収容部に開口したウォーム収容部とを有する。
【0016】
前記ウォームホイールは、外周面にホイール歯を有し、かつ、前記ホイール収容部の内側に回転自在に支持される。
【0017】
前記ウォームは、外周面に、前記ホイール歯と噛合するウォーム歯を有し、かつ、前記ウォーム収容部の内側に回転自在に支持される。
【0018】
前記支持軸受は、前記ウォームの先端部に外嵌される。
【0019】
前記弾性付勢手段は、前記支持軸受または該支持軸受に外嵌された外嵌部材である、内径側部材を、前記ウォームホイールの側に向けて付勢する。
【0020】
前記弾性挟持手段は、前記内径側部材の外周面と、前記ウォーム収容部または該ウォーム収容部に内嵌された内嵌部材である、外径側部材の内周面との間部分において、前記弾性付勢手段による付勢方向である第1方向と前記ウォーム収容部の軸方向である第2方向とのいずれにも直交する第3方向に関して前記内径側部材の両側に配置された1対の挟持板ばねを有する。
【0021】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねは、前記第3方向の成分を含む方向のたわみ量が増大することに伴ってばね定数が増大するような非線形のばね特性を発揮する。ここで、前記第3方向の成分を含む方向のたわみ量が増大することに伴う、ばね定数の増大の態様は、段階的な増大であってもよいし、連続的な増大であってもよい。
【0022】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねは、周方向中間部を前記外径側部材の内周面に接触させ、かつ、周方向両側部のそれぞれを前記内径側部材の外周面に接触させており、さらに、前記第3方向の成分を含む方向のたわみ量が増大することに伴って、前記内径側部材の外周面に対する前記周方向両側部の接触部間の距離が減少することにより、前記ばね定数が増大する。
【0023】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねの周方向中間部は、前記第2方向から見て、前記ウォームの中心を通過しかつ前記第3方向に伸長する直線である第3方向直線Lxと交差する。
【0024】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記外径側部材の内周面のうち、前記1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねの周方向中間部と接触する部分が、前記第1方向に伸長する平面部により構成されている。
【0025】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記1対の挟持板ばねを構成する一方の挟持板ばねの周方向中間部は、第2方向から見て、前記ウォームが所定方向に回転する際に前記ウォーム歯と前記ホイール歯との噛合部から前記ウォームに加わる噛み合い反力F1のベクトルを含む放射直線L1と交差しており、前記1対の挟持板ばねを構成する他方の挟持板ばねの周方向中間部は、第2方向から見て、前記ウォームが前記所定方向と反対方向に回転する際に前記噛合部から前記ウォームに加わる噛み合い反力F2のベクトルを含む放射直線L2と交差している。
【0026】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記1対の挟持板ばねのうちの少なくともいずれか一方の挟持板ばねである、対象挟持板ばねにおいて、前記周方向中間部は、前記内径側部材の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有する第1部分により構成されている。前記周方向両側部のそれぞれは、前記内径側部材の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有し、かつ、前記第1部分に対して滑らかに連続した第2部分により構成されている。自由状態での前記第1部分の径方向内側面の曲率半径が、前記内径側部材の外周面の曲率半径よりも小さい。自由状態での前記第2部分の径方向内側面の曲率半径が、自由状態での前記第1部分の径方向内側面の曲率半径よりも大きい。ここで、自由状態での前記第2部分の径方向内側面の曲率半径は、周方向の全長にわたり一定とすることができるほか、周方向に関して段階的に変化させたり、連続的に変化させたりすることができる。
【0027】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記1対の挟持板ばねのうちの少なくともいずれか一方の挟持板ばねである、対象挟持板ばねにおいて、前記周方向中間部は、前記内径側部材の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有する第1部分により構成されている。前記周方向両側部のそれぞれは、前記内径側部材の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有し、かつ、前記第1部分に対して滑らかに連続した第2部分により構成されている。自由状態での前記第1部分および前記第2部分のそれぞれの径方向内側面の曲率半径は、互いに等しく、かつ、前記内径側部材の外周面の曲率半径よりも小さい。前記第2部分のそれぞれは、前記第1部分側の周方向端部に、周方向の残部および前記第1部分よりも剛性が低い低剛性板ばね部を有する。
【0028】
この場合に、本開示の一態様のウォーム減速機では、前記1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねが、前記対象挟持板ばねであり、前記弾性挟持手段は、前記1対の挟持板ばねの前記ウォームホイールに近い側の周方向端部を互いに周方向に接続する周方向接続部を有しており、前記周方向接続部は、前記内径側部材の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有し、かつ、前記1対の挟持板ばねに対して滑らかに連続しており、自由状態での前記周方向接続部の径方向内側面の曲率半径は、自由状態での前記第1部分および前記第2部分のそれぞれの径方向内側面の曲率半径と等しい。
【0029】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記弾性挟持手段は、前記1対の挟持板ばねの前記ウォームホイールに近い側の周方向端部を互いに周方向に接続する周方向接続部を有する。
【0030】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記周方向接続部は、周方向の少なくとも一部に、前記1対の挟持板ばねよりも剛性が低い低剛性接続部を有する。
【0031】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねは、前記外径側部材の内周面に接触する部分に残留応力が付与されている。
【0032】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記弾性挟持手段は、前記内径側部材または前記外径側部材と周方向に係合する周方向位置決め片を有する。
【0033】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記弾性挟持手段は、前記内径側部材または前記外径側部材と軸方向に係合する軸方向位置決め片を有する。
【0034】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記非線形のばね特性は、横軸を前記第3方向のたわみ量とし、縦軸を荷重としたとき、下に凸であり、第3方向のたわみ量が増大するにしたがって傾きが増大するグラフによって表される。
【0035】
本開示は、上述したそれぞれの態様を、矛盾を生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0036】
本開示の一態様のウォーム減速機によれば、弾性付勢手段によるウォームの先端部の付勢動作を滑らかにすることができ、かつ、ウォームの先端部の周囲において第3方向に関する部材間の衝突の勢いを抑制しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態の第1例のウォーム減速機を組み込んだ電動パワーステアリング装置を示す図である。
【
図5】
図5は、
図3に示した部分から蓋体および止め輪を取り外して、
図3の右側から見た図である。
【
図8】
図8は、第1例において、ハウジングを、
図3の右側から見た図である。
【
図9】
図9は、第1例において、支持軸受、弾性付勢手段、および弾性挟持手段を取り出して示す斜視図である。
【
図13】
図13(a)~
図13(d)は、第1例における弾性付勢手段の第1方向のたわみ量が増大する様子を模式的に示す図である。
【
図14】
図14は、第1例における弾性付勢手段のばね特性を示す線図(概念図)である。
【
図15】
図15(a)~
図15(c)は、第1例における弾性挟持手段(挟持板ばね)の第3方向のたわみ量が増大する様子を模式的に示す図である。
【
図16】
図16は、第1例における弾性挟持手段(挟持板ばね)のばね特性を示す線図(概念図)である。
【
図17】
図17(a)~
図17(c)は、第1例における弾性挟持手段(挟持板ばね)の第3方向のたわみ量が、第1方向の移動に伴って変化しない様子を模式的に示す図である。
【
図18】
図18(a)は、本開示の実施の形態の第2例における弾性挟持手段の側面図であり、
図18(b)は、該弾性挟持手段の斜視図である。
【
図19】
図19(a)~
図19(c)は、第2例における弾性挟持手段(挟持板ばね)の第3方向のたわみ量が増大する様子を模式的に示す図である。
【
図20】
図20は、第2例における弾性挟持手段(挟持板ばね)が第3方向にたわんだ状態を誇張して模式的に示す図である。
【
図21】
図21は、本開示の実施の形態の第3例についての
図5の一部に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
[第1例]
本開示の実施の形態の第1例について、
図1~
図17を用いて説明する。
【0039】
(1)ウォーム減速機
本開示のウォーム減速機は、各種機械装置の一部に組み込まれるウォーム減速機に適用可能であるが、本例では、自動車用の電動パワーステアリング装置の一部に組み込まれるウォーム減速機に、本開示を適用する場合について説明する。
【0040】
本例のウォーム減速機1は、
図1~
図5に示すように、ハウジング2と、ウォームホイール3と、ウォーム4と、支持軸受5と、弾性付勢手段6と、弾性挟持手段7とを備える。
【0041】
ハウジング2は、ホイール収容部8と、ホイール収容部8の中心軸に対しねじれの位置にある中心軸を有し、かつ、軸方向中間部がホイール収容部8に開口したウォーム収容部9とを備える。
【0042】
ホイール収容部8は、筒状に構成されている。
図2において、ホイール収容部8の中心軸は、表裏方向に伸長している。
【0043】
ウォーム収容部9は、筒状に構成され、かつ、軸方向両側の端部に開口部を有する。
図2において、ウォーム収容部9の中心軸は、左右方向に伸長している。ウォーム収容部9の軸方向一方側の開口部は、該開口部に止め輪47を用いて装着された蓋体10により塞がれている。ウォーム収容部9の軸方向他方側の開口部は、ハウジング2に結合固定された電動モータ11により塞がれている。
【0044】
なお、ウォーム収容部9、および、ウォーム収容部9に収容される各部材に関して、軸方向一方側は、
図2における右側であり、軸方向他方側は、
図2における左側である。
【0045】
ウォームホイール3は、外周面にはすば歯車状のホイール歯12を有し、かつ、ホイール収容部8の内側に回転自在に支持される。本例では、ウォームホイール3は、ホイール収容部8の内側に回転自在に支持された回転軸の軸方向一部分(本例では、車両の前後方向に関するステアリングシャフト50の前側部)に外嵌固定されている。
【0046】
ウォーム4は、軸方向中間部外周面に、ウォームホイール3のホイール歯12と噛合する、ねじ状のウォーム歯13を有し、かつ、ウォーム収容部9の内側に回転自在に支持される。本例では、ウォーム歯13のねじれ方向は、右ねじ方向である。ただし、該ねじれ方向を、左ねじ方向とすることもできる。
【0047】
ウォーム4の基端寄り部分(
図2の左端寄り部分)は、ウォーム収容部9に対し、玉軸受14により回転自在に支持されている。本例では、玉軸受14の外輪がウォーム収容部9に径方向の隙間を介して内嵌され、かつ、玉軸受14の内輪がウォーム4の基端寄り部分に径方向の隙間を介して外嵌されている。これにより、ウォーム4の基端寄り部分が、ウォーム収容部9に対し、回転および揺動変位を可能に支持されている。なお、玉軸受14の外輪を、ウォーム収容部9に締り嵌めで内嵌することもできる。なお、ウォーム4の基端寄り部分を、ウォーム収容部9に対して、回転および揺動変位を可能に支持する構造については、本例の構造に限らず、各種構造を採用することができる。
【0048】
ウォーム4の基端部は、電動モータ11の出力軸15の先端部に対し、カップリング16を用いて、トルク伝達および揺動変位を可能に接続されている。なお、ウォーム4の基端部を、電動モータ11の出力軸15の先端部に対し、スプライン係合などにより、トルク伝達および揺動変位を可能に接続することもできる。
【0049】
支持軸受5は、ウォーム4の先端部に外嵌される。ウォーム4の先端部は、ウォーム収容部9の軸方向(
図2および
図3の左右方向、
図5の表裏方向)である「第2方向」において、軸方向一方側の先端部(
図2の右端部)である。
【0050】
本例では、支持軸受5は、玉軸受により構成されている。すなわち、支持軸受5は、
図3に示すように、内輪17、外輪18、および内輪17の外周面に備えられた内輪軌道と外輪18の内周面に備えられた外輪軌道との間に配置された複数個の玉19とを備える。内輪17は、ウォーム4の先端部に外嵌固定されている。なお、本開示を実施する場合には、支持軸受を、ころ軸受などの他の種類の軸受により構成することもできる。
【0051】
本例では、ウォーム収容部9の内周面は、軸方向一方側の端部寄り部分に、支持軸受5の外周面、すなわち外輪18の外周面よりも小径の小径円筒面部20を有し、かつ、小径円筒面部20の軸方向一方側に隣接する部分に、小径円筒面部20よりも大径の保持部21を有する。小径円筒面部20と保持部21とは、軸方向一方側を向いた段差面22により接続されている。本例では、支持軸受5は、保持部21の内側に、径方向の移動を可能に配置されている。
【0052】
なお、以下の説明中、弾性付勢手段6による付勢方向である、ウォーム4がウォームホイール3に対して遠近動する方向(
図2、
図3、および
図5の上下方向)を「第1方向」とし、ウォーム収容部9の軸方向(
図2および
図3の左右方向、
図5の表裏方向)を「第2方向」とし、第1方向と第2方向とのいずれにも直交する方向(
図2および
図3の表裏方向、
図5の左右方向)を「第3方向」とする。
【0053】
ウォーム収容部9の保持部21は、
図5および
図8に示すように、主保持部23と、副保持部24と、係止部25とを備える。主保持部23は、小径円筒面部20と略同軸に配置され、かつ、支持軸受5の外周面よりも一回り大きい略円筒形状を有する。副保持部24は、主保持部23のうち第1方向に関してウォームホイール3から遠い側(
図5および
図8の上側)の端部から外径側に張り出している。係止部25は、主保持部23のうち第1方向に関してウォームホイール3に近い側の端部から外径側に張り出している。
【0054】
主保持部23は、その内側に支持軸受5が径方向の移動を可能に配置される部分である。主保持部23のうち、第3方向の両側の端部は、それぞれが第1方向に伸長する1対の平面部26(
図7参照)により構成されている。1対の平面部26は、弾性挟持手段7を構成する1対の挟持板ばね41の周方向中間部が接触する部分である。第3方向に関する1対の平面部26の間隔は、支持軸受5の外周面の直径よりも大きい。第1方向に関する1対の平面部26の長さは、運転時に弾性挟持手段7がウォーム4の先端部および支持軸受5とともに第1方向に関して移動することが可能なストローク量よりも大きく確保されている。これにより、弾性挟持手段7の第1方向の移動に関わらず、弾性挟持手段7を構成する1対の挟持板ばね41が1対の平面部26に対して接触した状態が維持されるようにしている。
【0055】
主保持部23のうち、1対の平面部26から周方向に外れた部分は、支持軸受5の外周面よりも大径の円筒面部27により構成されている。なお、本開示を実施する場合には、主保持部の1対の平面部を省略して、主保持部を円筒面部のみにより構成することもできる。
【0056】
本例のウォーム減速機1では、ウォーム4からウォームホイール3にトルクを伝達する際に、ホイール歯12とウォーム歯13との噛合部から、ウォーム4に、噛み合い反力が加わる。該噛み合い反力には、第1方向成分だけでなく、第3方向成分も含まれる。該噛み合い反力のうち、第3方向成分の向きは、ウォーム4が所定方向に回転する場合と、ウォーム4が所定方向と反対方向に回転する場合とで、互いに逆向きとなる。また、該噛み合い反力に含まれる第1方向成分と第3方向成分との比率は、ウォーム4が所定方向に回転する場合と反対方向に回転する場合とで、互いに異なる。すなわち、ウォーム4とウォームホイール3との間でトルクを伝達する際には、ウォーム4の回転方向に応じて、ウォーム4の先端部に、
図5に示すような噛み合い反力F1またはF2が加わる。噛み合い反力F1、F2は、第3方向に関して互いに非対称な方向を向く。本例は、ウォーム歯13のねじれ方向が右ねじ方向の例であるが、ウォーム歯13のねじれ方向が左ねじ方向である場合には、
図5における噛み合い反力F1、F2のそれぞれの方向は、第3方向に関して反転させた方向となる。この場合には、本例の
図5に示される部分の構造を、第3方向に関して反転、すなわち、
図5において左右反転させることもできる。
【0057】
主保持部23の円筒面部27が存在する周方向範囲は、
図5に示すように、第2方向から見て、噛み合い反力F1、F2のベクトルと同じ周方向位置を含む。すなわち、噛み合い反力F1、F2のベクトルを含む放射直線L1、L2は、主保持部23の円筒面部27の周方向一部と交差する。
【0058】
副保持部24は、その内側に、弾性付勢手段6が配置される部分である。副保持部24は、第3方向の一方側(
図5および
図8の右側)部分に、第3方向の一方側に向けて凹入した大凹部28を有する。副保持部24は、第3方向の他方側(
図5および
図8の左側)部分に、第1方向に関してウォームホイール3から遠い側に凹入した小凹部29を有する。副保持部24は、大凹部28と小凹部29との間に、大凹部28の側から順番に、第1傾斜面部30と第2傾斜面部31とを有する。第1傾斜面部30および第2傾斜面部31のそれぞれは、第3方向に関して他方側に向かうにしたがい第1方向に関してウォームホイール3から遠い側に向かう方向に傾斜した平面により構成されている。
図6に示すように、第3方向に対する第2傾斜面部31の傾斜角度θ2は、第3方向に対する第1傾斜面部30の傾斜角度θ1よりも大きい(θ2>θ1)。本例では、第2方向から見て、第2傾斜面部31の長さは、第1傾斜面部30の長さよりも長い。大凹部28と第1傾斜面部30とは、第1角部32により接続されている。第1傾斜面部30と第2傾斜面部31とは、第2角部33により接続されている。第2傾斜面部31と小凹部29とは、第3角部34により接続されている。すなわち、第1角部32、第2角部33、および第3角部34は、第3方向に関して大凹部28に配置されるピン36から遠ざかる方向(
図5、
図6、および
図8の左方)に向けて、第1角部32、第2角部33、および第3角部34の順に位置しており、第1方向に関してウォームホイール3から遠ざかる方向(
図5、
図6、および
図8の上方)に向けて、第1角部32、第2角部33、および第3角部34の順に位置している。第1角部32、第2角部33、および第3角部34は、運転時に弾性付勢手段6を接触させる部分である。
【0059】
図5および
図8に示すように、係止部25は、弾性挟持手段7の一部分を周方向に係合させるための部分である。図示の例では、係止部25は、半円筒状凹面により構成されている。
【0060】
本例では、ウォーム収容部9は、段差面22のうち、大凹部28の内側に位置する部分に開口する凹部35を有する。凹部35には、第2方向に伸長する円柱状のピン36の軸方向他方側の端部が圧入により内嵌支持されている。ピン36は、弾性付勢手段6を保持するために用いられる部材である。
【0061】
弾性付勢手段6は、内径側部材に相当する支持軸受5を、ウォームホイール3の側に向けて付勢する。これにより、ホイール歯12とウォーム歯13との間のバックラッシュを抑えることで、歯打ち音の発生を抑制している。なお、本開示を実施する場合には、内径側部材として、支持軸受5に外嵌される外嵌部材を用いることもできる。すなわち、弾性付勢手段により、該外嵌部材をウォームホイールの側に向けて付勢することもできる。
【0062】
本例では、弾性付勢手段6は、使用箇所への設置状態で、第1方向のたわみ量が増大することに伴ってばね定数が増大するような、非線形のばね特性を発揮する。
【0063】
このために、本例では、弾性付勢手段6として、
図11(a)~
図11(e)に示すような構成を有し、かつ、
図5に示すように設置される金属製の付勢板ばね37を用いる。
【0064】
付勢板ばね37は、
図11(a)~
図11(e)に示すように、アスペクト比が大きい矩形平板状の帯板部38と、帯板部38の長手方向の基端側(
図11(a)の右側)の端縁部から厚さ方向の片側(
図11(a)の下側)に鈍角に折れ曲がった基板部39と、帯板部38の長手方向の先端側(
図11(a)の左側)の端縁部から厚さ方向の片側に180度折り返され、かつ、その先端側部分が帯板部38の先端側部分に重ね合わされた折り返し板部40とを備える。
【0065】
付勢板ばね37は、その全体が、ウォーム収容部9の内側に配置されている。具体的には、付勢板ばね37は、
図5に示すように、支持軸受5の外周面と、外径側部材に相当するウォーム収容部9の内周面に備えられた保持部21との間部分のうち、第1方向に関してウォームホイール3から遠い側に配置されている。より具体的には、付勢板ばね37は、保持部21を構成する副保持部24の内側に配置されている。なお、本開示を実施する場合には、外径側部材として、ウォーム収容部に内嵌される内嵌部材を用いることもできる。すなわち、該内嵌部材の内周面に、保持部21を備えさせることもできる。
【0066】
本例では、付勢板ばね37は、使用箇所に設置され、かつ、ウォーム減速機1の無負荷状態、すなわち、ウォーム4からウォームホイール3に伝達されるトルクがゼロであり、ウォーム4の先端部に加わる噛み合い反力F1、F2がゼロの状態で、周囲の部分に対し
、次のように配置されている。
【0067】
基板部39の基端部が、副保持部24を構成する大凹部28の底部に弾性的に接触している。帯板部38と基板部39との接続部の厚さ方向の片側面である凹側の側面(
図5の下側面)が、ピン36の外周面に弾性的に接触している。帯板部38の中間部の厚さ方向の他側面(
図5の上側面)が、副保持部24を構成する第1角部32に弾性的に接触している。折り返し板部40の先端部の厚さ方向の片側面(
図5の下側面)が、支持軸受5の外周面のうち、第1方向に関してウォームホイール3から遠い側の端部に弾性的に接触している。なお、帯板部38は、第2角部33および第3角部34に接触しておらず、帯板部38と第2角部33および第3角部34との間には隙間が存在している。
【0068】
この状態で、付勢板ばね37は、第1角部32との接触部が支点Sとなり、支持軸受5の外周面との接触部が荷重点Pとなる態様で、支持軸受5を、ウォームホイール3の側に向けて弾性的に付勢している(
図13(a)参照)。なお、本例では、付勢板ばね37は、ウォーム収容部9およびピン36との接触部に作用する摩擦力によって、使用箇所に保持されている。また、荷重点Pは、第3方向に関して、副保持部24の第3角部34とほぼ同位置に配置されている。
【0069】
本例では、ウォーム4からウォームホイール3に伝達されるトルクが増大することにより、ウォーム4の先端部に加わる噛み合い反力F1またはF2が増大すると、支持軸受5から付勢板ばね37の荷重点Pに加わる押圧力が増大して、付勢板ばね37(帯板部38)の第1方向のたわみ量が増大する。
図13(a)~
図13(d)は、該たわみ量が増大する様子を模式的に示した図である。本例では、付勢板ばね37の第1方向のたわみ量が増大すると、副保持部24に対する付勢板ばね37の弾性的な接触位置が、
図13(a)~
図13(d)の順に示すように変化する。すなわち、付勢板ばね37の支点Sの位置が、荷重点Pに近づく方向に段階的に変化する。これにより、付勢板ばね37のばね定数が、
図14(概念図)に示すように段階的に増大する。
【0070】
より具体的に説明すると、本例では、付勢板ばね37の第1方向のたわみ量が増大すると、副保持部24に対する付勢板ばね37の弾性的な接触位置は、
図13(a)に示す第1角部32(1箇所)から、
図13(b)に示す第1角部32および第2角部33(2箇所)に変化し、つづいて
図13(c)に示す第2角部33(1箇所)に変化し、つづいて
図13(d)に示す第2角部33および第3角部34(2箇所)に変化する。
【0071】
図13(a)に示すように、付勢板ばね37が第1角部32(1箇所)にのみ弾性的に接触している状態では、付勢板ばね37の支点Sは、第1角部32との接触部となる。この状態(第1段階)での付勢板ばね37のばね定数は、
図14に示すように、比較的小さい。なお、本例では、ウォームに大きな噛み合い反力が作用していない、通常運転時には、付勢板ばね37の第1方向のたわみ量は小さく抑えられ、付勢板ばね37は、常時、第1角部32に当接している。
【0072】
図13(b)に示すように、付勢板ばね37が第1角部32および第2角部33(2箇所)に弾性的に接触している状態、および、
図13(c)に示すように、付勢板ばね37が第2角部33(1箇所)にのみ弾性的に接触している状態では、付勢板ばね37の支点Sは、第2角部33との接触部となる。この状態(第2段階)での付勢板ばね37のばね定数は、
図14に示すように、比較的大きくなり、具体的には第1段階よりも大きくなる
。
【0073】
図13(d)に示すように、付勢板ばね37が第2角部33および第3角部34(2箇所)に弾性的に接触すると、付勢板ばね37は、それ以上、第1方向のたわみ量を増大させることができなくなり、いわゆる底付き状態となる。
【0074】
つまり、本例では、付勢板ばね37のばね定数は、付勢板ばね37の第1方向のたわみ量に応じて2段階に変化する。具体的には、付勢板ばね37のばね定数は、付勢板ばね37の第1方向のたわみ量が増大することに伴って、比較的小さい値(第1段階)から、比較的大きい値(第2段階)に増大する。
【0075】
このため、ウォーム4からウォームホイール3に伝達されるトルクが増大することにより、付勢板ばね37の第1方向のたわみ量が増大して、
図13(d)に示すように付勢板ばね37が第3角部34に衝突する直前の、付勢板ばね37のばね定数を、比較的大きい値(第2段階)にすることができる。したがって、該衝突の勢いを、付勢板ばね37の大きい弾力によって効率良く抑えることができる。これにより、衝突音の発生を効率良く抑えることができる。
【0076】
さらに、
図13(d)に示す状態から、ウォーム4の回転方向を反転させることにより、付勢板ばね37の第1方向のたわみ量が、
図13(a)に示す状態まで減少する直前の、付勢板ばね37のばね定数を、比較的小さい値(第1段階)にすることができる。したがって、ウォーム4の回転方向を反転させることに伴うホイール歯12とウォーム歯13との衝突の勢いを、付勢板ばね37の付勢力を小さくすることによって効率良く抑えることができる。これにより、ホイール歯12とウォーム歯13との歯打ち音の発生を効率良く抑えることができる。
【0077】
なお、本例では、付勢板ばね37の支点Sとなる角部を、第1角部32および第2角部33の2つとしたが、本開示を実施する場合、該角部の数を本例よりも多くすることによって、付勢板ばね37のばね定数を3段階以上に変化させることもできる。また、副保持部24のうち、付勢板ばね37が弾性的に接触する部分、たとえば、第1角部32と第2角部33との間に位置する部分や、第2角部33と第3角部34との間に位置する部分を、凸曲面とすることもできる。このような構成を採用すれば、付勢板ばね37の第1方向のたわみ量が増大することに伴って、付勢板ばね37が該凸曲面に沿って湾曲する。このため、付勢板ばね37の支点Sの位置を、荷重点Pに近づく方向に連続的に変化させることができ、付勢板ばね37のばね定数を、連続的に増大させることができる。
【0078】
本開示を実施する場合、弾性付勢手段のばね特性は、非線形でなくてもよく、線形であってもよい。本開示を実施する場合で、弾性付勢手段として板ばねを用いる場合には、該板ばねの形状を、本例と異なる形状とすることもできる。本開示を実施する場合には、弾性付勢手段として、コイルばねなどの、板ばね以外の各種ばね、あるいは、ゴムなどを用いることもできる。
【0079】
弾性挟持手段7は、内径側部材に相当する支持軸受5の外周面と、外径側部材に相当するウォーム収容部9の内周面に備えられた保持部21との間部分において、第3方向に関して支持軸受5の両側に配置された、1対の挟持板ばね41を有する。1対の挟持板ばね41を構成するそれぞれの挟持板ばね41は、第3方向の成分を含む方向のたわみ量(本例では、第3方向のたわみ量)が増大することに伴ってばね定数が増大するような、非線形のばね特性を発揮する。
【0080】
本例では、弾性挟持手段7は、
図12(a)~
図12(e)に示すように、全体が欠円筒形状(C字形状)を有する金属製の板ばねにより構成されている。1対の挟持板ばね41は、弾性挟持手段7の周方向両側部を構成する。弾性挟持手段7は、1対の挟持板ばね41のウォームホイール3に近い側の周方向端部を互いに周方向に接続する周方向接続部42を有する。
図12(a)において、破線αは、1対の挟持板ばね41と周方向接続部42との境界線を示している。
【0081】
本例では、1対の挟持板ばね41を構成するそれぞれの挟持板ばね41は、周方向中間部を構成する第1部分43と、周方向両側部を構成する第2部分44とを有する。
図12(a)において、破線βは、第1部分43と第2部分44との境界線を示している。
【0082】
第1部分43は、支持軸受5の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有する。第2部分44のそれぞれは、支持軸受5の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有し、かつ、第1部分43に対して滑らかに連続している。すなわち、第1部分43および第2部分44は、ウォーム4の軸方向から見て、互いの径方向内側面の周方向端部同士が共通接線を有するように接続されており、かつ、互いの径方向外側面の周方向端部同士が共通接線を有するように接続されている。
【0083】
自由状態での第1部分43の径方向内側面の曲率半径R1は、支持軸受5の外周面の曲率半径Rs(
図5参照)よりも小さい(R1<Rs)。自由状態での第2部分44の径方向内側面の曲率半径R2は、自由状態での第1部分43の径方向内側面の曲率半径R1よりも大きい(R2>R1)。本例では、該曲率半径R2を、支持軸受5の外周面の曲率半径Rsと等しくしている(R2=Rs)。ただし、本開示を実施する場合には、該曲率半径R2を、該曲率半径Rsよりも若干大きくまたは小さくすることもできる。
【0084】
本例では、1対の挟持板ばね41を構成するそれぞれの挟持板ばね41は、ウォーム収容部9の内周面に備えられた保持部21に接触する部分に相当する第1部分43に、残留応力が付与されている。これにより、他の部分に比べて運転時の弾性変形量が大きくなりやすい第1部分43の耐久性を確保しやすくしている。本開示を実施する場合には、該残留応力の付与を省略することもできる。
【0085】
周方向接続部42は、支持軸受5の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有し、かつ、1対の挟持板ばね41を構成するそれぞれの挟持板ばね41に対して滑らかに連続している。すなわち、該挟持板ばね41および周方向接続部42は、ウォーム4の軸方向から見て、互いの径方向内側面の周方向端部同士が共通接線を有するように接続されており、かつ、互いの径方向外側面の周方向端部同士が共通接線を有するように接続されている。本例では、自由状態での周方向接続部42の径方向内側面の曲率半径Rjを、自由状態での第2部分44の径方向内側面の曲率半径R2と等しくしている(Rj=R2)。なお、本開示を実施する場合には、周方向接続部を省略すること、すなわち、1対の挟持板ばね41を互いに分離することもできる。
【0086】
本例では、弾性挟持手段7は、ウォーム収容部9と周方向に係合する周方向位置決め片45を有する。
【0087】
本例では、周方向位置決め片45は、周方向接続部42の周方向中間部に、周方向に離隔して2つ備えられている。2つの周方向位置決め片45は、周方向接続部42の周方向中間部から径方向外側に突出するように備えられている。より具体的には、2つの周方向位置決め片45は、周方向接続部42の周方向中間部にH形状の透孔を形成することにより設けられた1対の舌片を径方向外側に折り曲げることで形成されている。周方向位置決め片45は、保持部21の係止部25に対して周方向に係合することにより、弾性挟持手段7の周方向の位置決めおよび回転止めをするための部分である。
【0088】
なお、本開示を実施する場合で、周方向位置決め片を設ける場合、周方向位置決め片の形状、個数、および周方向位置などは、本例と異ならせることもできる。また、周方向位置決め片は、支持軸受または支持軸受に外嵌される外嵌部材からなる内径側部材と周方向に係合するように設けることもできる。
【0089】
本例では、周方向接続部42は、周方向中間部、具体的には、2つの周方向位置決め片45の間部分に、周方向の残部である周方向接続部42の周方向両側部および1対の挟持板ばね41よりも剛性が低い、低剛性接続部60を有する。本例では、低剛性接続部60の剛性を低くするために、低剛性接続部60が位置する周方向部分に矩形の透孔61を形成することで、該周方向部分の断面係数を小さくしている。低剛性接続部60は、該低剛性接続部60のたわみ抵抗を下げることで、1対の挟持板ばね41の相互作用を小さくするために設けられている。本開示を実施する場合には、周方向接続部の周方向の少なくとも一部に低剛性部を設けることができる。周方向接続部に低剛性部を設けることを省略することもできる。
【0090】
なお、本開示を実施する場合には、低剛性部の剛性を低くするための手段として、低剛性部の板厚を薄くするなどの、本例と異なる手段を採用することもできる。
【0091】
本例では、弾性挟持手段7は、支持軸受5と軸方向に係合する軸方向位置決め片46を有する。
【0092】
本例では、軸方向位置決め片46は、1対の挟持板ばね41を構成するそれぞれの挟持板ばね41に、周方向に離隔して2つずつ備えられている。より具体的には、軸方向位置決め片46は、第2部分44のそれぞれの周方向中間部の軸方向一方側の端部から径方向内側に折れ曲がるように備えられている。
【0093】
なお、本開示を実施する場合で、軸方向位置決め片を設ける場合、軸方向位置決め片の形状、個数、周方向位置、および軸方向位置などは、本例と異ならせることもできる。また、軸方向位置決め片は、ウォーム収容部またはウォーム収容部に内嵌される内嵌部材からなる内径側部材と軸方向に係合するように設けることもできる。
【0094】
弾性挟持手段7は、
図5に示すように、支持軸受5の外周面と、ウォーム収容部9の内周面に備えられた保持部21との間部分に配置されている。具体的には、弾性挟持手段7は、支持軸受5に外嵌され、かつ、保持部21を構成する主保持部23の内側に配置されている。
【0095】
この状態で、弾性挟持手段7に備えられた2つの周方向位置決め片45が、保持部21を構成する係止部25の内側に配置されることにより、該係止部25に対して周方向に係合している。これにより、弾性挟持手段7が周方向に位置決めされることで、弾性挟持手段7を構成する1対の挟持板ばね41が、支持軸受5の外周面と主保持部23との間部分のうち、第3方向の両側に配置されている。本例では、2つの周方向位置決め片45と係止部25との間に、第1方向の隙間および第3方向の隙間が設けられている。これにより、運転時に必要となる、係止部25に対する2つの周方向位置決め片45の第1方向および第3方向の若干の変位を許容できるようにしている。本例では、運転時に、弾性挟持手段7がウォーム4の先端部および支持軸受5とともに第1方向に移動することに関わらず、常に、係止部25に対する2つの周方向位置決め片45の第1方向の侵入量が十分に確保されるように、2つの周方向位置決め片45の第1方向寸法が設定されている。
【0096】
弾性挟持手段7に備えられた軸方向位置決め片46のそれぞれが、支持軸受5の外輪18の軸方向一方側の側面に当接することにより、該外輪18に対して軸方向に係合している。これにより、支持軸受5に対して弾性挟持手段7が軸方向に位置決めされている。
【0097】
本例では、1対の挟持板ばね41を構成するそれぞれの挟持板ばね41の周方向中間部である第1部分43(より具体的には、第1部分43の周方向中央部)は、第2方向から見て、ウォーム4の中心O4を通過しかつ第3方向に伸長する直線である第3方向直線Lxと交差している。
【0098】
より具体的には、1対の挟持板ばね41を構成するそれぞれの挟持板ばね41は、噛み合い反力F1、F2がゼロの状態で、周囲の部分に対し、次のように配置されている。
【0099】
第1部分43の径方向外側面の周方向中央部が、主保持部23を構成する平面部26に、
図15(a)に示す点Q1で接触している。第2部分44のそれぞれの径方向内側面の周方向外側の端部、すなわち周方向に関して第1部分43から遠い側の第2部分44の端部が、支持軸受5の外周面に、
図15(a)に示す点Q2で接触している。第1部分43の径方向内側面は、支持軸受5の外周面に接触しておらず、第1部分43の径方向内側面と支持軸受5の外周面との間には隙間が存在している。第2部分44のそれぞれの径方向外側面は、主保持部23に接触しておらず、第2部分44のそれぞれの径方向外側面と主保持部23との間には、隙間が存在している。すなわち、挟持板ばね41は、主保持部23に対して1箇所(
図15(a)に示す点Q1)でのみ接触しており、かつ、支持軸受5の外周面に対して2箇所(
図15(a)に示す点Q2)でのみ接触している。噛み合い反力F1、F2がゼロの状態で、1対の挟持板ばね41を構成するそれぞれの挟持板ばね41には、第3方向の初期たわみが生じている。これにより、噛み合い反力F1、F2がゼロの状態でも、主保持部23の内側で支持軸受5が第3方向にがたつくことを抑制している。ただし、噛み合い反力F1、F2がゼロの状態での、1対の挟持板ばね41の平面部26に対する摩擦力を小さく抑える観点から、前記第3方向の初期たわみは、極力小さく設定することが好ましい。
【0100】
1対の挟持板ばね41のうち、第3方向に関して他方側(
図5の左側)に位置する一方の挟持板ばね41の、ウォームホイール3から遠い側の第2部分44は、第2方向から見て、噛み合い反力F1のベクトルを含む放射直線L1と交差している。1対の挟持板ばね41のうち、第3方向に関して一方側(
図5の右側)に位置する他方の挟持板ばね41の、ウォームホイール3から遠い側の第2部分44は、第2方向から見て、噛み合い反力F2のベクトルを含む放射直線L2と交差している。
【0101】
以上の状態で、弾性挟持手段7は、1対の挟持板ばね41により、支持軸受5を第3方向の両側から挟持している。これにより、ウォーム4の先端部が第3方向に移動する際の勢いを抑えることで、異音の発生を抑制している。
【0102】
すなわち、本例の構造では、ウォーム4の先端部がウォームホイール3に対して第1方向に遠近動できるようにするために、支持軸受5の周囲に配置された主保持部23が、支持軸受5の外周面よりも一回り大きく形成されている。このため、ウォーム4の先端部は、第3方向にも移動し得る。
【0103】
一方、ウォーム4に作用する噛み合い反力F1、F2には、第1方向の成分だけでなく、第3方向成分の力が含まれる。該第3方向成分の向きは、ウォーム4の回転方向に応じて反転する。また、本例のウォーム減速機1を組み込んだ機械装置(本例では、自動車)の運転時には、動力の伝達方向に関してウォーム減速機1の下流側に位置する部分(本例ではタイヤ)からウォーム減速機1に振動が逆入力される場合に、該振動の第3方向成分がウォーム4に伝達される。このため、ウォーム4の先端部が第3方向に移動することを無抵抗に許容すると、ウォーム4に作用する噛み合い反力F1、F2の第3方向成分やウォーム4に逆入力される振動の第3方向成分によって、主保持部23に支持軸受5の外周面が第3方向に勢い良く衝突し、耳障りな打音やラトル音などの異音が発生しやすくなる。
【0104】
そこで、本例の構造では、そのような異音の発生を抑制するために、弾性挟持手段7を構成する1対の挟持板ばね41により、支持軸受5を第3方向の両側から挟持している。これにより、ウォーム4の先端部が第3方向に移動する際の勢いを抑えることで、異音の発生を抑制している。
【0105】
本例では、ウォーム4からウォームホイール3に伝達されるトルクが増大することにより、ウォーム4の先端部に加わる噛み合い反力F1またはF2が増大すると、支持軸受5から第3方向の一方側(
図5の左側)または他方側(
図5の右側)に位置する挟持板ばね41に作用する第3方向の押圧力が増大する。これにより、該挟持板ばね41の第3方向のたわみ量が増大する。
図15(a)~
図15(c)は、該たわみ量が増大する様子を模式的に示した図である。
【0106】
本例では、挟持板ばね41の第3方向のたわみ量が増大することに伴って、支持軸受5の外周面に対する2つの第2部分44の径方向内側面の接触部(点Q2)間の第1方向の距離Wが、
図15(a)~
図15(c)の順に示すように連続的に減少する。なお、
図15(c)に示すように、挟持板ばね41の第1部分43が、主保持部23の平面部26と支持軸受5の外周面との間で挟み込まれた状態になると、挟持板ばね41は、それ以上、第3方向のたわみ量を増大させることができなくなり、いわゆる底付き状態となる。すなわち、本例では、該底付き状態となるまでの間は、挟持板ばね41の第3方向のたわみ量が増大することに伴って距離Wが連続的に減少することにより、該挟持板ばね41のばね定数が、
図16(概念図)に示すように連続的に増大する。つまり上述したように、挟持板ばね41は、第3方向のたわみ量が増大することに伴ってばね定数が増大するような、非線形のばね特性を発揮する。特に
図16の例では、横軸を第3方向のたわみ量とし、縦軸を荷重としたとき、その非線形のばね特性を表すグラフは、下に凸であり、第3方向のたわみ量が増大するにしたがって傾きも増大する。なお、ばね特性としては、
図16の例に限定されず、任意の非線形特性が適用可能である。例えば、上に凸であり、第3方向のたわみ量が増大するにしたがって傾きが減少するようなグラフによって表されるばね特性であってもよい。また、複数の曲線及び/又は直線を組み合わせたようなグラフによって表されるばね特性であってもよい。
【0107】
このため、本例の構造では、付勢板ばね37によるウォーム4の先端部および支持軸受5の付勢動作を滑らかにすることができ、かつ、ウォーム4の先端部の周囲において第3方向に関する部材間の衝突の勢いを抑制しやすい。
【0108】
すなわち、挟持板ばね41のばね定数は、第3方向のたわみ量が小さい段階(低負荷領域)で小さくなるため、該段階では、該挟持板ばね41と主保持部23の平面部26との間に作用する摩擦力、および、該挟持板ばね41と支持軸受5の外周面との間に作用する摩擦力が小さくなる。このため、ウォーム4の先端部および支持軸受5の第1方向の移動を滑らかにすることができる。したがって、その分、付勢板ばね37によるウォーム4の先端部および支持軸受5の付勢動作を滑らかにすることができる。
【0109】
一方、挟持板ばね41のばね定数は、第3方向のたわみ量が大きくなった段階(高負荷領域)で大きくなるため、
図15(c)に示す底付き状態となる直前の、支持軸受5の第3方向の移動の勢いを、該挟持板ばね41の大きい弾力によって効率良く抑えることができる。これにより、底付きする際の衝突音の発生を効率良く抑えることができる。
【0110】
さらに、
図15(c)に示す状態から、ウォーム4の回転方向を反転させることにより、挟持板ばね41の第3方向のたわみ量が、
図15(a)に示す状態まで減少する直前の、該挟持板ばね41のばね定数を、小さくすることができる。したがって、ウォーム4の回転方向を反転させることに伴うホイール歯12とウォーム歯13との衝突の勢いを、該挟持板ばね41の付勢力を小さくすることによって効率良く抑えることができる。これにより、ホイール歯12とウォーム歯13との歯打ち音の発生を効率良く抑えることができる。
【0111】
なお、本例では、挟持板ばね41の周方向両側部を構成する第2部分44の径方向内側面の曲率半径を一定の大きさとしたが、本開示を実施する場合、第2部分の径方向内側面の曲率半径を、周方向に関して段階的に変化させたり、連続的に変化させたりすることもできる。
【0112】
本例では、主保持部23のうち、1対の挟持板ばね41を構成するそれぞれの挟持板ばね41が弾性的に接触する部分が、第1方向に伸長する平面部26により構成されている。このため、
図17(a)~
図17(c)に示すように、弾性挟持手段7が第1方向に移動した場合でも、1対の挟持板ばね41の第3方向のたわみ量、すなわち距離Wが変化せず、1対の挟持板ばね41を構成するそれぞれの挟持板ばね41のばね定数を一定に保つことができる。したがって、弾性付勢手段6および弾性挟持手段7に関して、安定したばね特性を確保することができる。なお、本開示を実施する場合には、第1方向に関する1対の平面部26の長さを、運転時に弾性挟持手段7がウォーム4の先端部および支持軸受5とともに第1方向に関して移動することが可能なストローク量よりも小さくすること、すなわち、ウォーム4に大きな噛み合い反力が加わったときなどに、主保持部23に対する挟持板ばね41の弾性的な接触部が、平面部26から円筒面部27に乗り上がるようにすることもできる。この場合でも、該接触部が平面部26に存在する間は、挟持板ばね41のばね定数を一定に保つことができる。
【0113】
本例では、第2方向から見て、噛み合い反力F1、F2のベクトルを含む放射直線L1、L2は、主保持部23の円筒面部27の周方向一部と交差している。また、1対の挟持板ばね41のうち、第3方向に関して他方側(
図5の左側)に位置する挟持板ばね41の、ウォームホイール3から遠い側の第2部分44は、第2方向から見て、噛み合い反力F1のベクトルを含む放射直線L1と交差している。また、1対の挟持板ばね41のうち、第3方向に関して一方側(
図5の右側)に位置する挟持板ばね41の、ウォームホイール3から遠い側の第2部分44は、第2方向から見て、噛み合い反力F2のベクトルを含む放射直線L2と交差している。
【0114】
このため、運転時に、支持軸受5が噛み合い反力F1の方向に移動する傾向となった場合でも、該移動の勢いを、第3方向に関して一方側に位置する挟持板ばね41の、ウォームホイール3から遠い側の第2部分44の弾力により抑えることができる。さらに、噛み合い反力F1を、主保持部23の円筒面部27により支承することができる。
【0115】
運転時に、支持軸受5が噛み合い反力F2の方向に移動する傾向となった場合でも、該移動の勢いを、第3方向に関して他方側に位置する挟持板ばね41の、ウォームホイール3から遠い側の第2部分44の弾力により抑えることができる。さらに、噛み合い反力F2を、主保持部23の円筒面部27により支承することができる。
【0116】
なお、本例では、
図5に示すように、主保持部23の円筒面部27の周方向範囲を、噛み合い反力F1、F2のベクトルを含む放射直線L1、L2と交差するように規制しているが、第3方向に対する放射直線L2の傾斜角度が、第3方向に対する放射直線L1の傾斜角度よりも小さくなっているため、円筒面部27のうち、第3方向に関して放射直線L2側(
図5の右側)の周方向端縁部E2を、放射直線L1側(
図5の左側)の周方向端縁部E1よりも、第1方向に関してウォームホイール3に近い側(
図5の下側)に配置することができる。このため、本例では、主保持部23のうち第1方向に関してウォームホイール3から遠い側(
図5および
図8の上側)の端部から外径側に張り出した副保持部24のうち、ピン36が配置される部分である大凹部28を、第3方向に関して放射直線L2側(
図5の右側)に配置している。これにより、大凹部28を第3方向に関して放射直線L1側(
図5の左側)に配置する場合に比べて、大凹部28を第1方向に関してウォームホイール3に近い位置に配置できるようにしている。すなわち、このような配置を採用することにより、主保持部23および副保持部24を含む保持部21全体の第1方向の幅寸法を極力抑えられるようにしている。
【0117】
(2)電動パワーステアリング装置
本例の電動パワーステアリング装置48は、
図1に示すように、ステアリングホイール49と、ステアリングシャフト50と、ステアリングコラム51と、1対の自在継手52a、52bと、中間シャフト53と、ステアリングギヤユニット54と、本例のウォーム減速機1および電動モータ11とを備える。
【0118】
ステアリングホイール49は、ステアリングシャフト50の後端部に支持固定されている。ステアリングシャフト50は、車体に支持されたステアリングコラム51の内側に、回転可能に支持されている。ステアリングシャフト50の前端部は、後側の自在継手52aと、中間シャフト53と、前側の自在継手52bとを介して、ステアリングギヤユニット54のピニオン軸55に接続されている。このため、運転者がステアリングホイール49を回転させると、ステアリングホイール49の回転は、ステアリングシャフト50と1対の自在継手52a、52bと中間シャフト53とを介して、ピニオン軸55に伝達される。ピニオン軸55の回転は、ピニオン軸55と噛合した、ステアリングギヤユニット54の不図示のラック軸の直線運動に変換される。この結果、1対のタイロッド56が押し引きされることで、左右の操舵輪にステアリングホイール49の回転操作量に応じた舵角が付与される。
【0119】
本例の電動パワーステアリング装置48は、電動モータ11の補助動力を、ウォーム減速機1により増大してからステアリングシャフト50の前端部に付与することにより、運転者がステアリングホイール49を操作するのに要する力を軽減できるように構成されている。
【0120】
本開示を実施する場合には、ステアリングギヤユニットのピニオン軸またはラック軸に補助動力を付与する位置に、ウォーム減速機1および電動モータ11を配置することもできる。
【0121】
[第2例]
本開示の実施の形態の第2例について、
図18~
図20を用いて説明する。
【0122】
本例では、弾性挟持手段7aの具体的な構造が、第1例と異なる。
【0123】
具体的には、本例の弾性挟持手段7aは、自由状態で、
図18(a)および
図18(b)に示すように、周方向の1箇所に不連続部(切れ目)57を有する円筒形状を有し、内周面の曲率半径が全周にわたり一定となっている。
【0124】
より具体的には、1対の挟持板ばね41aを構成するそれぞれの挟持板ばね41aに関して、周方向中間部に位置する第1部分43aの径方向内側面と、周方向両側部に位置する第2部分44aの径方向内側面とが滑らかに連続しており、かつ、第1部分43aの径方向内側面の曲率半径R1と、第2部分44aの径方向内側面の曲率半径R2とが、互いに等しくなっている(R1=R2)。また、1対の挟持板ばね41aを構成するそれぞれの挟持板ばね41aの径方向内側面と、周方向接続部42aの径方向内側面とが滑らかに連続しており、かつ、該挟持板ばね41aの径方向内側面の曲率半径R1、R2と、周方向接続部42aの径方向内側面の曲率半径Rjとが、互いに等しくなっている(R1=R2=Rj)。また、1対の挟持板ばね41aの周方向接続部42aと反対側の周方向端部が互いに突き合わされて、該突き合わせ部が不連続部57となっている。ただし、本開示を実施する場合には、不連続部57部分を、1対の挟持板ばね41aの周方向接続部42aと反対側の周方向端部が周方向に離隔した隙間部分、あるいは、1対の挟持板ばね41aの周方向接続部42aと反対側の周方向端部が径方向に重なり合った重なり部分とすることもできる。
【0125】
本例では、弾性挟持手段7aの自由状態で、第1部分43a、第2部分44a、および周方向接続部42aのそれぞれの径方向内側面の曲率半径R1、R2、Rjが、支持軸受5の外周面の曲率半径Rs(
図5参照)よりも小さくなっている(R1=R2=Rj<Rs)。
【0126】
本例では、第2部分44aのそれぞれは、第1部分43a側の周方向端部に、周方向の残部および第1部分43aよりも剛性が低い、低剛性板ばね部58を有する。本例では、低剛性板ばね部58の剛性を低くするために、低剛性板ばね部58が位置する周方向部分に矩形の透孔59を形成することで、該周方向部分の断面係数を小さくしている。
【0127】
なお、本開示を実施する場合には、低剛性部の剛性を低くするための手段として、低剛性部の板厚を薄くするなどの、本例と異なる手段を採用することもできる。
【0128】
弾性挟持手段7aは、その内径を弾性的に拡げることにより、支持軸受5(
図5参照)に外嵌され、かつ、保持部21を構成する主保持部23(
図5参照)の内側に配置される。この状態で、弾性挟持手段7aを構成する1対の挟持板ばね41aが、支持軸受5の外周面と主保持部23との間部分のうち、第3方向の両側に配置される。
【0129】
本例の場合、1対の挟持板ばね41aを構成するそれぞれの挟持板ばね41aは、噛み合い反力F1、F2がゼロの状態で、周囲の部分に対し、
図19(a)に模式的に示すように配置される。すなわち、第1部分43aの径方向外側面の周方向中央部が、主保持部23を構成する平面部26に、点Q1で接触する。第2部分44aのそれぞれの周方向外側の端部、すなわち周方向に関して第1部分43aから遠い側の第2部分44aの端部が、支持軸受5の外周面に、点Q2で接触する。第1部分43aおよび第2部分44aのそれぞれの径方向内側面は、支持軸受5の外周面に接触せず、第1部分43aおよび第2部分44aのそれぞれの径方向内側面と支持軸受5の外周面との間には隙間が存在している。第2部分44aのそれぞれの径方向外側面は、主保持部23に接触せず、第2部分44aのそれぞれの径方向外側面と主保持部23との間には、隙間が存在している。すなわち、挟持板ばね41aは、主保持部23に対して1箇所(点Q1)でのみ接触しており、かつ、支持軸受5の外周面に対して2箇所(点Q2)でのみ接触している。
【0130】
本例では、噛み合い反力F1またはF2が増大すると、支持軸受5から第3方向の一方側または他方側に位置する挟持板ばね41aに作用する、第3方向の押圧力が増大する。これにより、該挟持板ばね41aの第3方向のたわみ量が増大する。
図19(a)~
図19(c)は、該たわみ量が増大する様子を模式的に示した図である。
【0131】
本例では、挟持板ばね41aの第3方向のたわみ量が増大することに伴って、支持軸受5の外周面に対する2つの第2部分44aの接触部間の第1方向の距離Wが、
図19(a)~
図19(c)の順に示すように段階的に減少する。
【0132】
すなわち、第3方向のたわみ量が小さい段階(低負荷領域)では、
図19(a)および
図19(b)に示すように、距離Wは、ほぼ変化しない。これに対し、第3方向のたわみ量がある程度大きい段階(高負荷領域)になると、
図19(c)に示すように、2つの第2部分44aのそれぞれは、支持軸受5の外周面に対し、周方向外側の端部だけでなく、周方向内側の端部、すなわち低剛性板ばね部58でも、点Q3で接触するようになる。この理由は、
図20に誇張して示すように、低剛性板ばね部58が他の部分に比べて大きく湾曲し、支持軸受5の外周面に近づくためである。
図19(c)に示した状態では、支持軸受5の外周面に対する2つの第2部分44aの低剛性板ばね部58の接触部間の距離が、前記距離Wとなり、
図19(a)および
図19(b)に示した状態に比べて、距離Wが一気に小さくなる。そして、これに伴い、挟持板ばね41aのばね定数が、一気に増大する。換言すれば、本例では、挟持板ばね41aは、第3方向のたわみ量が増大することに伴ってばね定数が2段階に変化する、非線形のばね特性を発揮する。
【0133】
本例では、弾性挟持手段7aが、自由状態で、内周面の曲率半径が全周にわたり一定となったシンプルな形状を有するため、該弾性挟持手段7aの製造コストを抑えることができる。第2例についてのその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0134】
[第3例]
本開示の実施の形態の第3例について、
図21を用いて説明する。
【0135】
本例では、弾性挟持手段7bを構成する1対の挟持板ばね41を、第1方向に関して第1例の場合よりもウォームホイール3から遠い側に配置している。具体的には、本例では、1対の挟持板ばね41のうち、第3方向に関して他方側(
図21の左側)に位置する一方の挟持板ばね41の周方向中間部である第1部分43(より具体的には、第1部分43の周方向中央部)が、第2方向から見て、噛み合い反力F1のベクトルを含む放射直線L1と交差している。また、1対の挟持板ばね41のうち、第3方向に関して一方側(
図21の右側)に位置する他方の挟持板ばね41の周方向中間部である第1部分43(より具体的には、第1部分43の周方向中央部)が、第2方向から見て、噛み合い反力F2のベクトルを含む放射直線L2と交差している。
【0136】
本例では、一方の挟持板ばね41は、第3方向の成分を含む方向のたわみ量(具体的には、噛み合い反力F1の方向のたわみ量)が増大することに伴ってばね定数が増大するような、非線形のばね特性を発揮する。他方の挟持板ばね41は、第3方向の成分を含む方向のたわみ量(具体的には、噛み合い反力F2の方向のたわみ量)が増大することに伴ってばね定数が増大するような、非線形のばね特性を発揮する。
【0137】
したがって、本例では、支持軸受5が噛み合い反力F1の方向に移動する傾向となった場合に、該移動の勢いを、一方の挟持板ばね41の弾力により効率良く抑えることができる。また、支持軸受5が噛み合い反力F2の方向に移動する傾向となった場合に、該移動の勢いを、他方の挟持板ばね41の弾力により効率良く抑えることができる。
【0138】
本例では、保持部21を構成する主保持部23は、第3方向の両側の端部に第1方向に伸長する1対の平面部を有しておらず、周方向の全体が円筒面部27により構成されている。第3例についてのその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0139】
本開示は、上述した各実施の形態の構造を、矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【0140】
なお、本出願は、2022年8月2日出願の日本特許出願(特願2022-123209)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0141】
1 ウォーム減速機
2 ハウジング
3 ウォームホイール
4 ウォーム
5 支持軸受
6 弾性付勢手段
7、7a、7b 弾性挟持手段
8 ホイール収容部
9 ウォーム収容部
10 蓋体
11 電動モータ
12 ホイール歯
13 ウォーム歯
14 玉軸受
15 出力軸
16 カップリング
17 内輪
18 外輪
19 玉
20 小径円筒面部
21 保持部
22 段差面
23 主保持部
24 副保持部
25 係止部
26 平面部
27 円筒面部
28 大凹部
29 小凹部
30 第1傾斜面部
31 第2傾斜面部
32 第1角部
33 第2角部
34 第3角部
35 凹部
36 ピン
37 付勢板ばね
38 帯板部
39 基板部
40 折り返し板部
41、41a 挟持板ばね
42、42a 周方向接続部
43、43a 第1部分
44、44a 第2部分
45 周方向位置決め片
46 軸方向位置決め片
47 止め輪
48 電動パワーステアリング装置
49 ステアリングホイール
50 ステアリングシャフト
51 ステアリングコラム
52a、52b 自在継手
53 中間シャフト
54 ステアリングギヤユニット
55 ピニオン軸
56 タイロッド
57 不連続部
58 低剛性板ばね部
59 透孔
60 低剛性接続部
61 透孔