(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】量子バスのためのシフトされた高次モードを有する小型共振器
(51)【国際特許分類】
H10N 60/82 20230101AFI20241224BHJP
H10N 60/00 20230101ALI20241224BHJP
H01P 7/08 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
H10N60/82
H10N60/00 C ZAA
H01P7/08
(21)【出願番号】P 2022546056
(86)(22)【出願日】2021-02-16
(86)【国際出願番号】 EP2021053766
(87)【国際公開番号】W WO2021170453
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-07-21
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100120710
【氏名又は名称】片岡 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】サンドバーグ、マーティン
(72)【発明者】
【氏名】アディガ、ヴィヴェカナンダ
(72)【発明者】
【氏名】パイク、ハンヘー
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110378482(CN,A)
【文献】国際公開第2019/105630(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0264287(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0102691(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/82
H10N 60/00
H01P 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共平面導波路(CPW)構造体を含む共振器であって、
前記CPW構造体が、
第1の幅を有し、第1のキュービットに結合されるように構成された第1の端部と、
前記第1の幅より狭い第2の幅を有する中間部と、
前記第2の幅より広い第3の幅を有し、第2のキュービットに結合されるように構成された第2の端部
と
を有
し、前記中間部は、前記第1の端部と前記第2の端部の間にある、共振器。
【請求項2】
前記第1の幅は前記第3の幅と実質的に等しい、請求項1に記載の共振器。
【請求項3】
前記CPW構造体の前記中間部が折り返されている、請求項1または2に記載の共振器。
【請求項4】
前記第1の端部または前記第2の端部のうちの少なくとも一方がS字構造を有する、請求項1ないし3のいずれかに記載の共振器。
【請求項5】
前記S字構造は1つまたは複数の結合構造体を取り囲む、請求項4に記載の共振器。
【請求項6】
前記1つまたは複数の結合構造体のうちの少なくとも1つがアンダーバンプ金属(UBM)である、請求項5に記載の共振器。
【請求項7】
前記第1の幅と前記第3の幅が、前記CPW構造体
が示す高調波モードの周波数を増大させる、それぞれ、前記第1の端部および前記第2の端部のキャパシタンスおよびインダクタンスをもたらす幅に基づく、請求項1ないし6のいずれかに記載の共振器。
【請求項8】
前記第1のキュービットと前記第1の端部との前記結合が容量結合である、請求項1ないし7のいずれかに記載の共振器。
【請求項9】
前記第1の端部の長さと前記第2の端部の長さがそれぞれ前記中間部の長さより短い、請求項1ないし8のいずれかに記載の共振器。
【請求項10】
前記中間部のインダクタンスが前記第1の端部および前記第2の端部のそれぞれのインダクタンスより高い、請求項1ないし9のいずれかに記載の共振器。
【請求項11】
前記中間部のキャパシタンスが前記第1の端部および前記第2の端部のそれぞれのキャパシタンスより低い、請求項10に記載の共振器。
【請求項12】
前記
CPW構造体が示す第1高調波モードの
周波数が
、前記
CPW構造体が示す基本モードの基本周波数の2倍より上にある、請求項1ないし11のいずれかに記載の共振器。
【請求項13】
第1のキュービットと、
第2のキュービットと、
共平面導波路(CPW)構造体
と
を含む、量子バス・システムであって、
前記CPW構造体が、
第1の幅を有し、前記第1のキュービットに結合された第1の端部と、
前記第1の幅より狭い第2の幅を有する中間部と、
前記第2の幅より広い第3の幅を有し、前記第2のキュービットに結合された第2の端部
と
を含
み、前記中間部は、前記第1の端部と前記第2の端部の間にある、量子バス・システム。
【請求項14】
前記CPW構造体の前記中間部が折り返されており、
前記第1の端部または前記第2の端部のうちの少なくとも一方がS字構造を有する、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記S字構造が1つまたは複数の結合構造体を取り囲む、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記第1の幅と前記第3の幅が、前記CPW構造体
が示す高調波モードの周波数を増大させる、それぞれ、前記第1の端部および前記第2の端部のキャパシタンスおよびインダクタンスをもたらす幅に基づく、請求項13ないし15のいずれかに記載のシステム。
【請求項17】
前記第1のキュービットと前記第1の端部との前記結合が容量結合である、請求項13ないし16のいずれかに記載のシステム。
【請求項18】
前記第1の端部の長さと前記第2の端部の長さがそれぞれ前記中間部の長さより短い、請求項13ないし17のいずれかに記載のシステム。
【請求項19】
前記中間部のインダクタンスが前記第1の端部および前記第2の端部のそれぞれのインダクタンスより高く、
前記中間部のキャパシタンスが前記第1の端部および前記第2の端部のそれぞれのキャパシタンスより低い、請求項13ないし18のいずれかに記載のシステム。
【請求項20】
前記
CPW構造体が示す第1高調波モードの
周波数が
、前記
CPW構造体が示す基本モードの基本周波数の2倍より上にある、請求項13ないし19のいずれかに記載のシステム。
【請求項21】
キュービットを結合する方法であって、
共平面導波路(CPW)構造体の第1の端部を第1のキュービットに結合することと、
前記CPW構造体の第2の端部を第2のキュービットに結合することと、
前記第1の端部の幅および前記第2の端部の幅より狭い幅を有するように、
前記第1の端部と前記第2の端部の間に前記CPW構造体の中間部を設けることとを含む、方法。
【請求項22】
前記CPW構造体の前記第1の端部および前記第2の端部の幾何形状を調整することによって、前記CPW構造体
が示す高調波モードの周波数を増大させることをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第1のキュービットと前記第1の端部との前記結合が容量結合である、請求項21または22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には超伝導デバイスに関し、より詳細にはキュービットを互いに結合することに関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導量子コンピューティングは、超伝導電子回路を使用した量子コンピュータの一実装形態である。量子計算は、情報処理および通信のために量子現象を利用する。量子計算と量子シミュレーションの様々なモデルが存在する。ゲート・ベースの量子コンピュータの基本ビルディング・ブロックは量子ビット(キュービット)である。キュービットは、2つのとり得る状態を有するビットの1つの一般概念であるが、その量子的性質のために両方の状態の重ね合わせ状態をとることができる。量子ゲートは論理ゲートの1つの一般概念であるが、量子ゲートは、1つまたは複数のキュービットの初期状態を前提として、ゲートがそれらのキュービットに適用された後でそれらのキュービットに起こる変化を表す。
【0003】
超伝導回路を使用した量子ビットの多くの異なる実装形態がある。一般的な要素は、典型的にはジョセフソン接合である。ジョセフソン接合は、電極間のクーパー対の無散逸トンネル現象を可能にする2つの超伝導電極間の弱結合である。接合両端間の電圧とトンネル電流との関係のため、ジョセフソン接合は場合によっては非線形無損失インダクタのようにみなすことができる。量子ビットの最も成功した実装形態の1つは、いわゆるトランズモン・キュービットである。トランズモン・キュービットは、分路キャパシタに並列するジョセフソン接合を含み、したがって非調和振動子を形成する。この場合、量子ビットの2つの状態は非調和振動子の2つの最低エネルギー準位(基底状態および第1励起状態と呼ばれる)とみなされる。2つの状態のエネルギー差は、数GHzレジーム(多くの場合、約5GHz)における周波数に対応する。キュービット状態を読み出すために、キュービットに(たとえば結合容量を介して)結合されたマイクロ波読み出しキャビティにマイクロ波信号が印加される。送信された(または反射された)マイクロ波信号は複数の熱的分離段と、雑音を遮断または低減し、信号対雑音比を向上させるために使用される低雑音増幅器とを通過する。返された/出力されたマイクロ波信号の振幅または位相あるいはその両方から、キュービット状態に関する情報を推測することができる。キュービット状態に関する量子情報を伝達するマイクロ波信号は、通常、微弱(たとえば、数マイクロ波光子のオーダー)である。この微弱信号を測定するには、出力チェーンの信号対雑音比を向上させるために、加えられる雑音が量子力学によって要求される最小量の状態で量子信号をブーストするように、量子系の出力においてジョセフソン増幅器および進行波パラメトリック増幅器(TWPA)などの低雑音量子限界増幅器(QLA)を前置増幅器(すなわち第1増幅段)として使用することができる。ジョセフソン増幅器に加えて、ジョセフソン増幅器を使用する特定のジョセフソン・マイクロ波コンポーネント、またはジョセフソン・サーキュレータ、ジョセフソン・アイソレータ、およびジョセフソン・ミキサなどのジョセフソン・ミキサをスケーラブル量子プロセッサにおいて使用することができる。
【0004】
より多くのキュービットを組み込むことができることが、量子コンピュータの潜在能力の実現可能性にとって重要である。出願人らは、量子コンピュータの計算能力と信頼性を向上させるために、2つの主要な側面において改良を加えることができることを認識した。第1は、キュービット数自体である。量子プロセッサにおけるキュービットが多いほど、原理上、より多くの状態を操作し、記憶することができる。第2は、キュービット状態を正確に操作し、一貫性のある結果を提供し、単なる信頼性がないデータを提供しない順次動作を実行するために適切な低エラー率である。したがって、量子コンピュータの耐障害性を向上させるために、論理量子ビットを記憶するのに多数の物理キュービットを使用する必要がある。このようにして、量子コンピュータが局在エラーと、古典コンピュータのパリティ・チェックに類似したキュービットの固有基底における測定のパフォーマンスとに影響されにくくなるように局在情報が非局在化され、それにより、耐障害性がより向上した量子ビットとなる。
【発明の概要】
【0005】
一実施形態によると、共振器が、第1の幅を有し、第1のキュービットに結合されるように構成された第1の端部を含む共平面導波路(CPW)構造体を含む。第1の幅より狭い第2の幅を有する中間部がある。第2の幅より広い第3の幅を有し、第2のキュービットに結合されるように構成された第2の端部がある。
【0006】
一実施形態では、第1の幅は第3の幅と実質的に等しい。
【0007】
一実施形態では、CPW構造体の中間部が折り返される。
【0008】
一実施形態では、第1の端部または第2の端部のうちの少なくとも一方がS字構造を有する。S字構造は、1つまたは複数の結合構造体を取り囲み得る。1つまたは複数の結合構造体のうちの少なくとも1つは、アンダーバンプ金属(UBM)とすることができる。
【0009】
一実施形態では、第1の幅と第3の幅は、CPW構造体の基本周波数より上のモードの周波数を増加させる、それぞれ第1の端部と第2の端部のキャパシタンスとインダクタンスとをもたらす幅に基づく。
【0010】
一実施形態では、第1のキュービットと第1の端部との結合は容量結合である。
【0011】
一実施形態では、第1の端部の長さと第2の端部の長さはそれぞれ中間部の長さより短い。
【0012】
一実施形態では、中間部のインダクタンスは第1の端部および第2の端部のそれぞれのインダクタンスよりも高い。中間部のキャパシタンスは、第1の端部および第2の端部のそれぞれのキャパシタンスよりも低くてもよい。
【0013】
一実施形態では、共振器の第1のモードが共振器の基本周波数の2倍より上にある。
【0014】
一実施形態によると、量子バス・システムが第1のキュービットと第2のキュービットとを含む。第1の幅を有し、第1のキュービットに結合された第1の端部と、第1の幅より狭い第2の幅を有する中間部と、第2の幅より広い第3の幅を有し、第2のキュービットに結合された第2の端部とを含むCPW構造体がある。
【0015】
一実施形態では、CPW構造体の中間部は折り返され、第1の端部または第2の端部の少なくとも一方がS字構造を有する。S字構造は、1つまたは複数の結合構造体を取り囲み得る。
【0016】
一実施形態では、第1の幅と第3の幅は、CPW構造体の基本周波数より上のモードの周波数を増加させるそれぞれ第1の端部と第2の端部のキャパシタンスとインダクタンスをもたらす幅に基づく。
【0017】
一実施形態では、第1のキュービットと第1の端部との結合が容量結合である。
【0018】
一実施形態では、第1の端部の長さと第2の端部の長さはそれぞれ中間部の長さより短い。
【0019】
一実施形態では、中間部のインダクタンスは第1の端部および第2の端部のそれぞれのインダクタンスより高く、中間部のキャパシタンスは第1の端部および第2の端部のそれぞれのキャパシタンスより低い。
【0020】
一実施形態では、共振器の第1のモードは共振器の基本周波数の2倍より上にある。
【0021】
一実施形態によると、キュービットを結合する方法は、CPW構造体の第1の端部を第1のキュービットに結合することを含む。CPW構造体の第2の端部が第2のキュービットに結合される。CPW構造体の中間部が、第1の端部の幅および第2の端部の幅より狭い幅を有するように設けられる。
【0022】
一実施形態では、CPW構造体の基本周波数より上のモードの周波数が、CPW構造体の第1の端部と第2の端部の幾何形状を調整することによって増加させられる。
【0023】
一実施形態では、第1のキュービットと第1の端部との結合が容量結合である。
【0024】
一実施形態では、CPW構造体の第1のモードが、共振器の基本周波数の少なくとも2倍になるように構成される。
【0025】
上記およびその他の特徴は、添付図面とともに読むべき以下の例示の実施形態の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0026】
図面は例示の実施形態の図である。これらの図面はすべての実施形態を示しているわけではない。他の実施形態もこれらに加えて、またはこれらに代えて使用可能である。スペースを節約するため、またはより効果的な図示のために、明白であるかまたは無用な詳細は省かれている場合がある。一部の実施形態は追加のコンポーネントもしくはステップを加えて実施されてもよく、または示されているすべてのコンポーネントもしくはステップなしに実施されてもよく、あるいはその両方であってもよい。異なる図面に同じ番号が記載されている場合、その番号は同一または同様のコンポーネントまたはステップを指す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1A】例示の一実施形態による、共平面導波路伝送線共振器の例示のアーキテクチャを示す図である。
【
図1B】2つの負荷インピーダンスの間に結合された共平面導波路伝送線の記号表現を示す図である。
【
図2】半波長と全波長とを伝達する例示の共振器を示す図である。
【
図3A】従来の共平面導波路伝送線共振器の共振を示す図である。
【
図3B】例示の一実施形態による、パドル構造を使用した共平面導波路伝送線共振器の共振を示す図である。
【
図4A】共振器の選択された基本周波数を示すグラフである。
【
図5】例示の一実施形態による、中間部と、中間部の幅よりも広い幅を有する2つの端部とを有する例示の共振器構造体を示す図である。
【
図6】例示の一実施形態による、フリップチップ・パッケージに使用可能なアンダーバンプ・メタライゼーションの周囲を取り巻く端部を有する例示の共平面導波路伝送線共振器を示す図である。
【
図7】例示の一実施形態による、マルチキュービット・コンピューティング・システムの例示の平面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の詳細な説明では、関連する教示を十分に理解することができるように、例として多くの具体的な詳細が記載されている。しかし、本教示はそのような詳細がなくても実施可能であることは明らかであろう。他の例では、本教示の態様が無用にわかりにくくならないように、よく知られている方法、手順、コンポーネント、または回路あるいはこれらの組合せについては、詳細を省いて比較的概略的に説明している。
【0029】
本開示は、一般には超伝導デバイスに関し、より詳細には、量子プロセッサにおいて相互接続された量子ビットの効率的な読み出しに関する。本明細書でキュービットと呼ぶ場合もある量子ビット間の接続は、典型的にはバス共振器によって仲介される。本明細書で示されるものは、比較的低損失であって、望ましくない余分なモードの影響を低減し、それによってキュービット読み出しの質を向上させる、共振器である。また、量子プロセッサ全体の総面積が縮小されるように、バス共振器の占有面積は比較的小さい。このようなサイズの最小化により、量子プロセッサはより高い周波数で動作させることができる。
【0030】
例示のアーキテクチャ
図1Aに、例示の一実施形態による、共平面導波路(CPW)伝送線共振器の例示のアーキテクチャ100を示す。
図1Bに、それぞれ2つの負荷インピーダンスZL間に結合されたCPW伝送線の記号表現を示す。負荷インピーダンスZLは、結合キャパシタの負荷と伝送線の幅広部分(L1)との複合負荷を表す。共振器100はキュービットを互いに接続するために使用することができる。接続はキュービット間にエンタングルメントを生じさせるために必要である。たとえば、キュービットの各対間にCPW伝送線共振器を使用して互いに接続されたキュービットのグリッドが存在し得る。共振器100は、キュービットのエンタングルメントのために必要な結合を提供することによって、これらのキュービットが互いに相互作用することができるようにする。
【0031】
アーキテクチャ100は、第1の端部102と第2の端部106との間に、本明細書で主要部と呼ぶ場合がある中間部104を含む共平面波導路構造を示す。第1の端部102は第1のキュービットに結合(たとえば容量結合または誘導結合)されてもよく、一方、第2の端部106は第2のキュービットに結合(たとえば容量結合または誘導結合)されてもよい。図のように、主要部104は適切な長さL2を有し、一方、第1および第2の端部102および106はそれぞれ異なる長さを有することができる。一実施形態では、第1の端部102と第2の端部106は同様の長さL1を有する。一実施形態では、長さL1に対する長さL2の比は少なくとも0.2である。第1の端部102の幅W1と第2の端部106の幅W3はそれぞれ、中間部104の幅W2より広い。一実施形態では、第1の端部102と第2の端部の幅は等しい(すなわちW1=W3)。
【0032】
一実施形態では、中間部と端部の実際の寸法は、端部102、106の所定倍(たとえば2倍)であるインダクタンスを有する中間部104に基づく。また、中間部と端部の寸法は、端部102、106の所定分の1(たとえば2分の1)であるキャパシタンスを有する中間部にさらに基づく。したがって、共振器のインダクタンスとキャパシタンスは共振器の異なる部分において異なる。共振器100は、定常マイクロ波モードを伝達する。波形に単位長当たりのインダクタンスLまたはキャパシタンスCを掛けた値を積算することによって共振器100の有効(すなわち集中)回路パラメータが得られる。伝送線170の長さに沿った単位長当たりのインダクタンスとキャパシタンスを最適化することによって、より高次のモードとの干渉がより少ないバス共振器が得られる。共振条件の式を得るために以下の式を使用することができる。
【0033】
【0034】
【0035】
基本モードの共振条件は以下のように書くことができる。
【0036】
【0037】
第1高調波の共振条件は以下のように書くことができる。
【0038】
Z2 tan(β1l1)=Z1 tan(β2l2/2) (式5)
【0039】
上記の式において、共振器構造体の中心から見たときのインピーダンスの虚数部が基本モードの場合にゼロであり、第1励起モードの場合はアドミッタンスの虚数部がゼロであるということを使用した。式4および式5の解は数値的に容易に求めることができる。
【0040】
この新規な共振器100の特徴をよりよく理解するために、共振器の一般的動作について説明することが有用であろう。共振器の共振周波数は、本明細書では標準モードまたは単にモードとも呼び、典型的には、基本周波数と呼ばれる最低周波数の等間隔の倍数(高調波)である。たとえば、典型的なλ/2共振器の場合、共振器を実装するその伝送線上に、基本周波数モードと、その基本周波数から2の倍数に基づく追加の周波数とを含む、複数のモードがある。モードが基本周波数の単純な倍数である従来の共振器とは異なり、共振器100の「パドル」構造体の使用により、高次モードがさらに(たとえば2.3倍以上)シフトされ、それによって、キュービット結合に対する高次モードの影響が実質的に低減される。たとえば、半波共振器の場合、第2モードの周波数が基本周波数の2倍よりもさらに高く押し上げられる。高次モードの周波数を基本周波数からさらに遠く(すなわちより高く)移動することで、キュービットに生じる望ましくないパーセル損失が小さくなるとともに、より高い共振周波数によってもたらされるキュービット間のスプリアス結合が低減される。
【0041】
次に、半波長220と全波長230とを伝達する例示の共振器を示す
図2を参照する。伝送線として機能する共振器上の定常波は、波長の半分の倍数のみである。
図2に示すように、共振器の幅は中間部204において端部202および206よりも狭く、それによって共振器の「パドル」構造を形成している。このようにして、この伝送線の両端間を通過する進行波の速度が変化する。境界条件の変化は、定常波の見かけに依存し、第2励起モードからの基本モードに影響する。
【0042】
図3Aおよび
図3Bに、従来のCPW伝送線共振器300Aの共振と、パドル構造を使用したCPW伝送線共振器300Bの共振とをそれぞれ示す。説明のために、チャート300Aは、キャパシタンス165e-12F/mとインダクタンス2*pi*1e-7H/mに基づく。チャート300Aは、約7GHzである基本周波数(たとえば基本モード)と周波数が2倍、すなわち1.5GHzである第1高調波とを示している。対比のために、
図3Bに、共振器の第1の端部と第2の端部がそれぞれ、中間部より高いキャパシタンスを有するがインダクタンスがより低い、パドル構造を有する共振器に基づくチャートを示す。説明を目的とし、限定を目的とせず、C
1=165e-12/m、L
1=2*pi*1e-7/m、C
2=105e-12/m、およびL
2=4*pi*1e-7/mである。このチャートは、基本周波数と第1高調波との間の離隔の有意な増大(すなわち
図3Bの例では周波数が2.4倍)があることを示している。基本周波数がより低い周波数にシフトしている様子が示されているが、基本周波数は共振器の各部分のキャパシタンスとインダクタンスの適切な選択によって設定(すなわち制御)可能であることに留意されたい。たとえば、基本周波数は、設計上の選択に基づいて7GHzに維持、または7GHz未満に低下、または増大させることも可能である。
【0043】
本アーキテクチャの顕著な特徴は、より高次モードが2倍より上にある(
図3Bの提示の例では2.4倍)周波数にシフトされることである。モードの周波数が離れているほど、基本周波数と対応する高調波との漂遊結合が低下し、それによって対象キュービットの実質的により良質な読み出しが実現する。
【0044】
図4Aから
図4Bに、それぞれ、基本周波数と第1高調波を選択するためにシミュレータで使用される例示の伝送線を示す。
図4Aから
図4Bの例では、広い部分と狭い部分とを含めた共振器の全長は7mmである。
図4Aは、選択された6.4GHzの基本周波数を示す。第1高調波が12.8GHzにある従来の共振器に対比して、本明細書に記載のパドル構造を使用することによって、第1高調波が17.5GHzに大幅にシフトされ、それによって基本周波数からのさらなる5GHz近い離隔が設けられることを、高周波有限要素シミュレーション・ソフトウェア(HFSS)が示している。
【0045】
次に、例示の一実施形態による、中間部510と、中間部510の幅より広い幅を有する2つの端部502および530とを有する例示の共振器構造体を示す
図5を参照する。
図5の実施例では、共振器500は折り返してコンパクト設計とされている。より具体的には、蛇行構造を有するなど、中間部510が折り返され、それによって占有面積が削減される。一実施形態では、中央ストリップの狭い部分の構造体が10μmより有意に小さく(たとえば2μm)選定され、中央ストリップの広い部分が10μmより有意に広く(たとえば30μm)選定される。共振器の狭い部分は全長の半分に近く、それぞれが全長の4分の1に近いより幅広い両端部を残す。狭い部分の幅は、光リソグラフィを使用して信頼性高く製造可能な範囲とされる。電子ビーム・リソグラフィのような他の製造技術を使用して、さらに狭い中央線(サブμm)を使用することもできる。端部に開放領域を残すことによって、接地点がより少ない、スロット線路モードのより良好なモード抑制がもたらされる。一実施形態では、誘導部分に相当する折り返された中間部分は、占有面積を最小限にするために60μmのピッチまで密に蛇行させることができる。
【0046】
実施形態によっては、第1の端部502または第2の端部530あるいはその両方が、「S字」構造を有してもよい。たとえば、S字構造は接続点540(A)ないし540(D)を取り巻くように使用可能である。たとえば、接続点540(A)ないし540(D)のそれぞれが、1つまたは複数のパッド、バンプ、ワイヤ・ボンドなどを介してワイヤ・ボンドを受け入れることができる。共振器500は、バンプ・ボンディング・パッケージングの場合にも使用可能であることに留意されたい。これに関連して、
図6に、例示の実施形態による、フリップチップ・パッケージに使用可能なアンダーバンプ・メタライゼーション(UBM)の周囲を取り巻く端部を有する例示のCPW伝送線共振器を示す。このようにして、共振器600の端部の広い開放領域が、比較的大きいバンプ・ボンド602(A)ないし602(D)をそれぞれ受け入れることができる。UBMは、共振器構造体600の各領域に蒸着し、適宜、リフト・オフすることができる。
【0047】
図5に戻って参照すると、一実施形態では、中間部510は端部502および530のインダクタンスの2倍以上であるインダクタンスを有する。これに代えて、またはこれに加えて、中間部510は、端部502および530のそれぞれのキャパシタンスの少なくとも2分の1であるキャパシタンスを有する。
【0048】
図7に、例示の一実施形態による、マルチキュービット・コンピューティング・システム700の例示の平面図を示す。平面
図700は、各角にキュービットを含み、キュービットの各対が対応する共振器によって互いに結合されている。たとえば、各キュービット(704(A)ないし704(D))は、電荷雑音に対する感受性が低減された超伝導電荷キュービットであるトランズモン・キュービットであってもよい。実施形態によっては、電荷雑音に対する感受性を低下させるために、2つの超伝導体が容量分路される。トランズモンは、大型の分路キャパシタの使用によって実現可能な帯電エネルギーに対するジョセフソン・エネルギーの比を増大させることによって、電荷雑音に対する感度低下を実現する。
【0049】
図7に示すように、キュービットの各対は、本明細書に記載の構造を有するCPW伝送線共振器を介して互いに結合される。たとえば、キュービット704(A)とキュービット704(B)とが共振器706によって互いに結合され、キュービット704(B)とキュービット704(D)とが共振器708によって互いに結合され、キュービット704(D)とキュービット704(C)とが共振器710によって互いに結合され、キュービット704(A)とキュービット704(C)とが共振器712によって互いに結合される。様々な実施形態において、キュービットの各対が隣接する共振器に容量結合または誘導結合される。
図7のアーキテクチャの使用により、きわめて面積効率がよく、干渉が少ないマルチキュービット・コンピューティング・システム700が実現される。
【0050】
結論
本教示の様々な実施形態の説明を例示のために示したが、網羅的であること、または開示した実施形態に限定することは意図していない。当業者には、開示した実施形態の範囲および思想から逸脱することなく多くの修正および変形が明らかであろう。本明細書で使用されている用語は、実施形態の原理、実際の適用、または市場に見られる技術に対する技術的改良を最もよく説明するために、または当業者が本明細書で開示されている実施形態を理解できるようにするために選択された。
【0051】
上記では、最善の状態またはその他の実施例あるいはその両方とみなされるものについて説明したが、それらには様々な修正を加えることができること、本明細書で開示されている主題が様々な形態および実施例で実装可能であること、および教示が多くの用途に適用可能であり、本明細書ではその一部のみについて説明していることを了解されたい。提示した教示の真の範囲に含まれるあらゆる適用、修正および変形を、以下の特許請求の範囲により特許請求することが意図されている。
【0052】
本明細書で説明したコンポーネント、ステップ、特徴、目的、長所および利点は、例示に過ぎない。これらのいずれも、また、これらに関するいずれの説明も、特許保護の範囲を限定することは意図されていない。本明細書では様々な利点について説明したが、すべての実施形態が必ずしもすべての利点を含んでいるとは限らないことを理解されたい。特に明記されていない限り、以下の特許請求の範囲を含む本明細書に記載されているすべての測定値、値、定格、位置、大きさ、サイズ、およびその他の仕様は、近似値であり、厳密ではない。これらは、これらが関連する機能と、これらが属する技術分野において通例となっているものとに整合する、妥当な範囲を有することが意図されている。
【0053】
多くの他の実施形態も企図される。それらには、より少ないか、追加的であるか、または異なるか、あるいはこれらの組合せである、コンポーネント、ステップ、特徴、目的、長所、および利点を有する実施形態が含まれる。それらには、コンポーネントまたはステップあるいはその両方の配置または順序あるいはその両方が異なる実施形態も含まれる。
【0054】
上記は例示の実施形態とともに説明したが、「例示の」という用語は、最良または最適なものではなく一例という意味に過ぎないことを理解されたい。上記で直接記載されていない限り、記載または図示されているものはいずれも、特許請求の範囲に記載されているか否かを問わず、いかなるコンポーネント、ステップ、特徴、目的、長所、利点、または同等物の公衆への提供を行わせることは意図されておらず、そのように解釈されるべきではない。
【0055】
本明細書で使用されている用語および表現は、本明細書で特定の意味が別に記載されている場合を除き、対応するそれぞれの調査および研究の分野に関してそのような用語および表現に与えられている通常の意味を有するものと理解されたい。第1および第2などの関係語は、実体または動作間のいかなる実際のそのような関係または順位も必ずしも必要とせず、含意もせずに、1つの実体または動作を別の実体または動作から区別するためにのみ使用されている場合がある。「含んでいる」、「含む」という用語またはこれらのその他の変形は、要素の列挙を含むプロセス、方法、物または装置がそれらの要素のみを含むのではなく、明示的に列挙されていないかまたはそのようなプロセス、方法、物または装置に固有の他の要素も含み得るように、非排他的包含を対象として含むことが意図されている。「a」または「an」が前置されている要素は、さらなる制約なしに、その要素を含むプロセス、方法、物または装置における追加の同一要素の存在を排除しない。
【0056】
「要約書」は、読者が技術的開示の性質を迅速に把握することができるようにするために提供されている。要約書は、特許請求の範囲または意味を解釈または限定するためには使用されないという了解のもとに提出される。さらに、上記の「発明を実施するための形態」では、本開示を簡素化するために、様々な実施形態において様々な特徴がまとめてグループ化されていることがわかる。本開示の方法は、特許請求される実施形態が各請求項に明示的に記載されているより多くの特徴を有するという意図を反映しているものと解釈されるべきではない。そうではなく、以下の特許請求の範囲が示すように、本発明の主題は、単一の開示されている実施形態の特徴の全部ではなく一部にある。したがって、以下の特許請求の範囲は、本明細書により「発明を実施するための形態」に組み込まれ、各請求項は、別個に特許請求される主題として独立している。