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特許7609560高粘度媒体を注射するためのシリンジ、注射器および注射装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】高粘度媒体を注射するためのシリンジ、注射器および注射装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/31 20060101AFI20241224BHJP
   A61M 5/34 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
A61M5/31 500
A61M5/34
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020013726
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2020124496
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】19154910
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】323001797
【氏名又は名称】ショット ファーマ シュヴァイツ アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT Pharma Schweiz AG
【住所又は居所原語表記】St. Josefen-Strasse 20, 9000 St. Gallen, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】レーモン モゼ
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン ブレヒラー
(72)【発明者】
【氏名】トム ファン ギネケン
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-510346(JP,A)
【文献】米国特許第03306291(US,A)
【文献】特開2004-160206(JP,A)
【文献】特開2014-087678(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0143746(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/31
A61M 5/34
A61M 5/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高粘度媒体を注射するための注射装置(10)であって、前記注射装置(10)は、シリンジボディ(12)と、ピストンロッドユニット(14)と、針基(32)およびカニューレ(34)を備えた針ユニット(16)と、を有しており、
前記シリンジボディ(12)は、遠位端部(18)および近位端部(20)を有しており、
前記シリンジボディ(12)は、中空円筒状であり、前記高粘度媒体を収容するための室を形成しており、
前記近位端部(20)は、開口を有しており、前記開口を介して、ピストンロッドユニット(14)を前記室内に挿入することができるようになっており、
前記遠位端部(18)には、ルアーロックコネクタ(22)が形成されており、前記ルアーロックコネクタ(22)は、前記高粘度媒体を供給するためのさらなる開口(42)を備えた外側円錐(40)と、雌ねじ山(46)を備えたスリーブ状部分(44)と、を有しており、
前記シリンジボディ(12)は、前記ルアーロックコネクタ(22)を介して前記針ユニット(16)に接続され、
前記シリンジボディ(12)は、90N超のNPO最小抵抗を有しており、
前記シリンジボディ(12)は、前記近位端部(20)に、傾斜面(60)を備えた内周面を有しており、前記傾斜面(60)は、前記近位端部(20)から前記遠位端部(18)に向かう方向に見て、前記内周面を先細にしており、前記傾斜面(60)は、前記シリンジボディ(12)の長手方向軸線(L)の方向に見て、1.2mm~1.8mmの長さ(w)を有しておりかつ/または前記傾斜面(60)は、前記長手方向軸線(L)とともに、少なくとも13°の角度(γ)を形成しており、
前記針基(32)は、前記針基(32)の近位端部の外周面に形成された2つの尖端部を有している、
注射装置(10)
【請求項2】
前記シリンジボディ(12)は、少なくとも100Nの平均的なNPO抵抗を有している、
請求項1記載の注射装置(10)
【請求項3】
前記雌ねじ山(46)は、7.05mm~7.15mmの最小内径(I)を有している、
請求項1または2記載の注射装置(10)
【請求項4】
前記雌ねじ山(46)は、ねじ山断面の稜線(50)に、0.44mm~0.52mmの幅(B)を有している、
請求項1または2記載の注射装置(10)
【請求項5】
前記雌ねじ山(46)は、ねじ山断面の谷(54)に、0.85mm~0.95mmの幅(B)を有している、
請求項1または2記載の注射装置(10)
【請求項6】
前記外側円錐(40)の遠位端面(56)は、2.1mm~2.5mmの距離(A)だけ、前記スリーブ状部分(44)の遠位カラー(58)を越えて突出している、
請求項1または2記載の注射装置(10)
【請求項7】
前記シリンジボディ(12)は、80mmの最大全長(LSK)および最大5mmの室内径(I)を有しており、前記シリンジボディ(12)内には少なくとも1mlの体積(V)が収容可能である、
請求項1または2記載の注射装置(10)
【請求項8】
前記シリンジボディ(12)は、少なくとも前記室の領域に、少なくとも1.7mmの壁厚さを有している、
請求項1または2記載の注射装置(10)
【請求項9】
前記シリンジボディ(12)は、2800MPa~3300MPaの弾性率を有する樹脂材料から製造されている、
請求項1または2記載の注射装置(10)
【請求項10】
前記シリンジボディ(12)は、90N~105NのNPO最小抵抗を有する、
請求項1または2記載の注射装置(10)
【請求項11】
前記ルアーロックコネクタ(22)は、ルアーロック結合システムの一部を形成しており、ルアーロックコネクタ対応部材と協働するように設計されている、
請求項1または2記載の注射装置(10)
【請求項12】
前記雌ねじ山(46)は、7.05mm~7.15mmの最小内径(I)を有しており、
前記雌ねじ山(46)は、ねじ山断面の稜線(50)に、0.44mm~0.52mmの幅(B)を有しており、
前記雌ねじ山(46)は、ねじ山断面の谷(54)に、0.85mm~0.95mmの幅(B)を有しており、
前記外側円錐(40)の遠位端面(56)は、2.1mm~2.5mmの距離(A)だけ、前記スリーブ状部分(44)の遠位カラー(58)を越えて突出している、
請求項11記載の注射装置(10)
【請求項13】
記ピストンロッドユニット(14)は、ピストンロッド(26)と、前記ピストンロッド(26)の遠位端部に取り付けられたピストン(28)と、を有しており、
前記ピストン(28)は、前記シリンジボディ(12)の前記近位端部(20)に形成された開口を介して前記室内に収容されており、前記室内で移動可能に案内されている、
請求項1から12までのいずれか1項記載の注射装置(10)
【請求項14】
記針基(32)は、前記シリンジボディ(12)と前記針ユニット(16)との間にルアーロック結合部を形成するために、前記シリンジボディ(12)の前記ルアーロックコネクタ(22)に対して相補的なルアーロックコネクタ対応部材(36)を有している、
請求項1から13までのいずれか1項記載の注射装置(10)。
【請求項15】
前記カニューレ(34)は、少なくとも31Gの太さを有しており、かつ/または、
前記針基(32)は、内側円錐を有しており、前記内側円錐は、前記針ユニット(16)の長手方向軸線に沿って、3mm~7mmの長さを有している、
請求項1から14までのいずれか1項記載の注射装置(10)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高粘度媒体を注射するためのシリンジ、注射器および注射装置に関する。特にこれらのシリンジ、注射器および注射装置は、高粘度医薬媒体を注射または投与するために使用され得る。
【背景技術】
【0002】
注射器は、例えば医療分野および美容分野において用いられ、注射器内に収容された媒体を患者の体内に注射するために用いられる。例えば患者の皮膚の美容処置の枠内では、例えば患者の皮膚表面下に皮膚充填剤が注射される。美容用途では大抵、高粘度媒体が使用される。注射器内に収容される媒体には、流体、ペースト状または液状の物質ならびに混合物の、種々さまざまな形態が含まれてよい。
【0003】
注射するために必要とされる皮膚穿孔およびこれに結びついた患者の痛みを可能な限り小さく保つために、好適には極めて小さなカニューレ太さ(「ゲージ」)を有する針が設けられる。これは特に、患者の顔での使用に当てはまる。
【0004】
可能な限り小さなカニューレ太さと、注射すべき高粘度媒体との組み合わせは、注射器もしくはシリンジに高い荷重を加えることになる。特に注射器内の高い圧力は、注射ユニットの機械的な故障につながる恐れがある。しかしながら、注射器の機械的な故障は回避されねばならないため、従来周知の注射器では、小さなカニューレ太さを有する針の使用の可能性が制限されており、このこともやはり必然的に、患者に関する上述した欠点を伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の課題は、従来技術に基づく欠点を克服することにある。特に本発明の課題は、高粘度媒体を注射するために、小さなカニューレ太さを有する針の使用を可能にするシリンジ、注射器および注射装置を提供する、という点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、各独立特許請求項に記載のシリンジ、注射器および注射装置により解決される。シリンジ、注射器および注射装置の改良および実施形態は、従属請求項および以下の説明に記載されている。
【0007】
本発明の1つの態様は、高粘度媒体を注射もしくは投与するための注射器用のシリンジに関する。1つの実施形態では、高粘度媒体は、少なくとも30Paおよび最高150Pa、特に少なくとも50Paおよび最高100Pa、または少なくとも70および最高90Paの貯蔵弾性率G’を特徴とする。損失率tanδは、0.2~0.8、特に0.3~0.6または0.4~0.5であってよい。これは例えば、ヒアルロン酸充填剤であってよい。粘度は、プレート-プレート測定システムを用いて25℃および1013.25hPaの気圧において、特に1Hzの周波数でもって測定され得る(例えばAnton Paar社のレオメータMCR302)。測定は、例えばISO規格6721-10-2015-09に記載の方法により行われてよい。シリンジは、遠位端部と近位端部と、を有している。シリンジは中空円筒状であり、高粘度媒体を収容するための室を形成している。近位端部は開口を有しており、この開口を介して、プランジャロッドユニットが室内へ挿入可能であるまたは挿入されている。プランジャロッドユニットは、室内で室長手方向軸線の方向に移動可能でありかつシリンジ内で滑り案内されている。
【0008】
シリンジの遠位端部にはルアーロックコネクタが形成されており、ルアーロックコネクタは、高粘度媒体を供給するための比較的広い開口を備えた外側円錐と、雌ねじ山を備えたスリーブ状部分と、を有している。ルアーロックコネクタは、ルアーロック結合システムの一部を形成しており、針ユニットに形成されたルアーロックコネクタ対応部材と協働するように形成されている。外側円錐は、シリンジの遠位端部を越えて突出し、室から高粘度媒体を導出可能な円錐形のノズルであると説明することもできる。外側円錐もやはり、ルアーロック結合システムの一部を成しており、やはり針ユニットの相補的な対応部材と協働する。ルアーロック結合システムにおいて、外側円錐と、この外側円錐を包囲するスリーブ状部分とは、互いに同軸的に配置されている。シリンジのルアーロックコネクタは、特にISO規格80369―7:2016-12-01の枠内で形成されかつ寸法設定されていてよい。このことは、本発明によるシリンジを、ルアーロック結合の分野において規格化された複数の異なる針ユニットとともに使用することを可能にする。
【0009】
シリンジは、本発明に基づき90N超のNPO最小抵抗を有している。好適にはシリンジは、95N超、好適には100N超、さらに好適には103N超のNPO最小抵抗を有していてよい。特にシリンジは、90N~105N、好適には95N~103.5N、好適には98N~102NのNPO最小抵抗を有していてよい。NPOは、「針落ち」(Needle Pop Off)を意味し、シリンジからの針ユニット、特にルアーロック結合部を介してシリンジに結合された針ユニットの急な解離もしくは脱落を表す。針ユニットは(プランジャロッドユニットを介してシリンジに力が加えられることによりトリガされて)高圧下で回動し始めるとともに、高速でシリンジから外れ始める、すなわち、シリンジの外側円錐に対して相補的な、針ユニットの内側円錐が外れる。
【0010】
NPO最小抵抗(「針落ち」最小抵抗)は、以下で説明する試験方法の枠内でシリンジ中にもたらされ、シリンジと作用結合状態にあるプランジャロッドユニットに加えられる力の閾値を示すものである。NPO最小抵抗は、閾値未満で試験されたシリンジの1.8%以下に「針落ち」が生じる、ということにより規定されている。NPO最小抵抗に関する有意な結果を得るためには、同一の型および構成のシリンジの、少なくとも56の測定値が必要とされている。
【0011】
NPO抵抗、特にNPO最小抵抗および平均的なNPO抵抗を測定するための試験方法は、試験しようとするシリンジを試験機内で鉛直方向に配置するとともに、シリンジの近位端部の領域において保持する、ということを想定している。使用する試験機は、「TesT」社の「TesT 106.2kN」モデルのユニバーサル試験機である。この試験方法には、このユニバーサル試験機またはこれと比較可能なユニバーサル試験機を使用することができる。
【0012】
試験しようとするシリンジは、ルアーロックコネクタを介して針ユニットに結合されており、針ユニットは、ルアーロックコネクタ対応部材を用いてルアーロック結合部を形成するために、12Ncmのトルクでもってシリンジの遠位端部にねじ嵌められている。具体的には、前記試験方法は、針ユニット「TSK STERiJECT Hypodermic Needle」Ref.:PRC-30013l,30G×1/2またはこれと比較可能な針ユニットを用いて実施されることが望ましい。この試験方法に用いられた針ユニットは、ルアーロックコネクタ対応部材として、内側円錐と、針ユニットの針基の外周面に配置された2つの尖端部と、を有している。この試験方法に用いられた針ユニットは、30Gの太さおよび13mm(30G×1/2)の長さを備えたカニューレもしくは中空針を有している。カニューレは、試験のために試験方法実施前にハンマーで平らにし、これにより閉じておかねばならない。この試験方法のためには、針ユニットがシリンジにねじ嵌められてから、高粘度媒体が室内に充填されることにより、乾式のルアーロック結合部が形成され得る。この試験方法は、蒸気殺菌されていないコンポーネント(シリンジ、針ユニット、プランジャロッドユニット)を用いて実施され得る。
【0013】
本発明の試験方法に関しては、約84.5Paの貯蔵弾性率G’と、約0.48の損失率tanδと、を有する高粘度媒体が選択され得る。粘度は、プレート-プレート測定システムを用いて25℃および1013.25hPaの気圧において、特に1Hzの周波数でもって測定され得る(例えばAnton Paar社のレオメータMCR302)。測定は、例えばISO規格6721-10-2015-09に記載の方法により行われてよい。試験しようとするシリンジは、規定通りに高粘度媒体により完全に満たされている。さらに、プランジャロッドユニットは試験方法開始時にシリンジ中にもたらされてシリンジと作用結合状態にあるが、シリンジとプランジャロッドユニットとは、試験方法開始時にはまだ出発位置、すなわち非作動位置に位置している。本発明の試験方法には、試験しようとする各シリンジ用に設けられた標準プランジャロッドユニットが使用され得る。例えば、5mmの室内径を有するシリンジの場合には、(例えば製造者Daetwylerの)FM257形式の標準プランジャが使用され得る。
【0014】
この試験方法では、試験機の試験プランジャを介して、プランジャロッドユニットの近位端部に対し、垂直方向に力が加えられる。試験プランジャは、12.6mm/minの一定の試験速度でもってシリンジの遠位端部に向かって移動させられ、このとき、プランジャロッドユニットに作用する力は最大420Nにまで、連続的に高められた。試験プランジャは、試験に際して最大15mmの距離を移動させられる。作用する力は、200Hzのサンプリングレートを有する力センサにより検出される。不密性(「漏れ」)および/またはNPOが発生するかまたは420Nの最大力に到達するまで、試験プランジャが引き続き移動させられるもしくは作用する力が高められる。測定力が突如、少なくとも30%だけ低下した場合には、試験は停止させられる、すなわち不密性(「漏れ」)および/またはNPOが認められる。不密性および/またはNPOの発生時点で作用している力は記録され、この力において不密性および/またはNPOが発生しているか否かという情報と結び付けられる。この場合、記録された測定結果から、上述したNPO最小抵抗および平均的なNPO抵抗を求めることができる。ここで調べた不密性(「漏れ」)は、加えられた力と、これにより作用する圧力とに基づき発生する、シリンジと針ユニットとの間の不密性である。換言すると、シリンジと針ユニットとの間のルアーロック結合部の領域において、高粘度媒体が不都合に流出する力を求めることができる。
【0015】
回避されるべき機械的な故障は、特にNPO、互いに結合された注射器コンポーネント間の不密性(「漏れ」)および/またはシリンジの破損により生じる可能性がある。本発明の発明者らは、高粘度媒体および少なくとも31Gの小さなカニューレ太さを使用するためには、上述したNPO最小抵抗を有するシリンジが有利である、ということに気づいた。比較的小さな針直径もしくはカニューレ直径(例えば30G超)は患者にとって、比較的大きな針直径もしくはカニューレ直径(例えば従来高粘度媒体とともに用いられた27Gの直径)よりも少ない痛みを意味するが、ただし同時に、高粘度媒体を供給するためには、比較的大きな針直径もしくはカニューレ直径よりも高い力を加える必要がある。NPO最小抵抗に関して上述した本発明による値は、男性ユーザが規定通りに使用した場合には、平均して95Nの最大力(最大指力)でもって注射器もしくは注射装置を作動させることができる、という知見を考慮したものである。女性ユーザが規定通りに使用した場合には、平均して64Nの最大力(最大指力)でもって注射器もしくは注射装置を作動させることができる。つまり上述したNPO最小抵抗は、極めて細いカニューレを用いた高粘度媒体の確実な注射を保証するにもかかわらず、過剰に寸法設定されてはいないシリンジ構造体の最適な設計を成すものである。
【0016】
1つの改良では、シリンジは、少なくとも100N、好適には少なくとも105N、好適には少なくとも110N、さらに好適には少なくとも115N、なおさらに好適には少なくとも117Nの平均的なNPO抵抗を有していてよい。特に平均的なNPO抵抗は、100N~120N、好適には105N~120N、好適には110N~120N、さらに好適には115N~117Nであってよい。
【0017】
平均的なNPO抵抗は、針落ちを発生させるために、上述した試験方法の枠内でシリンジ中にもたらされ、シリンジと作用結合状態にあるプランジャロッドユニットに加えられる必要のある力の平均値を示すものである。平均的なNPO抵抗に関する有意な結果を得るためには、この場合も同一の型および構成のシリンジの、少なくとも56の測定値が必要とされている。
【0018】
1つの実施形態では、シリンジは、少なくとも100Nの漏れ最小抵抗を有していてよい。好適にはシリンジは、105N超、好適には117.5N超、さらに好適には125N超の漏れ最小抵抗を有していてよい。特にシリンジは、100N~130N、好適には105N~120N、好適には110N~115Nの漏れ最小抵抗を有していてよい。
【0019】
1つの改良では、シリンジは、少なくとも115N、好適には少なくとも120N、好適には少なくとも123N、さらに好適には少なくとも125N、なおさらに好適には少なくとも127Nの平均的な漏れ抵抗を有していてよい。特に平均的な漏れ抵抗は、110N~135N、好適には115N~130N、好適には120N~130N、さらに好適には125N~130Nであってよい。
【0020】
漏れ最小抵抗(不密性最小抵抗)は、上述した試験方法の枠内でシリンジ中にもたらされ、シリンジと作用結合状態にあるプランジャロッドユニットに加えられる力の閾値を示すものである。漏れ最小抵抗は、前記閾値未満で試験されたシリンジの1.8%未満に不密性が生じる、ということにより規定されている。漏れ最小抵抗に関する有意な結果を得るためには、同一の型および構成のシリンジの、少なくとも56の測定値が必要とされている。
【0021】
さらに平均的な漏れ抵抗は、不密性を発生させるために、上述した試験方法の枠内でシリンジ中にもたらされ、シリンジと作用結合状態にあるプランジャロッドユニットに加えられる必要のある力の平均値を示すものである。平均的な漏れ抵抗に関する有意な結果を得るためには、この場合も同一の型および構成のシリンジの、少なくとも56の測定値が必要とされている。
【0022】
1つの実施形態では、ルアーロックコネクタの雌ねじ山は、最大7.15mmまたは最大7.12mmの内径を有していてよい。内径は、好適には少なくとも7.05mmまたは少なくとも7.08mmであってよい。好適な実施形態では、内径は、7.05mm~7.15mm、好適には7.08mm~7.12mmであり、好適には最大7.1mmである。この内径は、スリーブ状の端部の、すなわち雌ねじ山のねじ山稜線から反対側に位置するねじ山稜線まで測定した、最小内径を表す。この寸法を有する内径は、シリンジと、シリンジに結合された針ユニットとの間の十分に密な結合に対してポジティブな影響を及ぼすことができ、ひいてはNPO最小抵抗ならびに平均的なNPO抵抗の調整に有利な影響を及ぼすことができる。このことは、漏れ最小抵抗および平均的な漏れ抵抗についても同様に当てはまる。
【0023】
シリンジの1つの実施形態では、雌ねじ山は、ねじ山断面の稜線に、少なくとも0.44mmまたは少なくとも0.46mmの幅を有していてよい。好適には、この幅は最大0.52mmまたは最大0.50mmである。好適な実施形態では、幅は、0.44mm~0.52mm、好適には0.46mm~0.50mm、好適には0.48mmであってよい。
【0024】
これに対して追加的または択一的には、雌ねじ山は、ねじ山断面の谷に、少なくとも0.85mmまたは少なくとも0.875mmの幅を有していてよい。好適には、この幅は最大0.95mmまたは最大0.925mmである。好適な実施形態では、幅は、0.85mm~0.95mm、好適には0.875mm~0.925mm、好適には0.9mmであってよい。
【0025】
雌ねじ山は、ねじ山断面の両側に、22.5°~27.5°の角度、特に24°~26°または約25°の角度を有していてよい。この角度は、シリンジの長手方向軸線に対して直交し、ねじ山断面と交差する線と、ねじ山断面の側面との間に形成された角度を表していてよい。
【0026】
上述した寸法に従ってねじ山断面パラメータを形成することにより、ねじ山結合部の接触面、すなわちシリンジの雌ねじ山と、付属の針ユニットの相補的な雄ねじ山との間の接触面が適合され得る。このことは、ルアーロック結合部を付属の針ユニットとともに改良するとともに、NPO最小抵抗ならびに平均的なNPO抵抗の調整に有利な影響を及ぼし得る。このことは、漏れ最小抵抗および平均的な漏れ抵抗についても同様に当てはまる。
【0027】
1つの改良では、外側円錐の終わりとなる、比較的広い開口を備えた、外側円錐の遠位端面は、少なくとも2.1mmまたは少なくとも2.2mmの距離だけ、スリーブ状部分の遠位カラーを越えて突出していてよい。1つの実施形態では、前記距離は最大2.5mmまたは最大2.4mmである。1つの好適な実施形態では、外側円錐の遠位端面は、2.1mm~2.5mm、好適には2.2mm~2.4mm、好適には2.3mmの距離だけ、スリーブ状部分の遠位カラーを越えて突出している。この構造的な適合も、NPO最小抵抗ならびに平均的なNPO抵抗の調整に有利な影響を及ぼし得る。このことは、漏れ最小抵抗および平均的な漏れ抵抗についても同様に当てはまる。
【0028】
1つの実施形態では、シリンジは近位端部に、傾斜面を備えた内周面を有していてよく、傾斜面は、近位端部から遠位端部に向かう方向に見て、内周面を先細にしている。換言すると、内周面は傾斜面の領域において、遠位端部に向かう方向に見て収縮し、円錐形を成すように延在していてよい。傾斜面は、シリンジの室内へのプランジャロッドユニット、より正確に言うとプランジャの挿入を容易にすることができる。傾斜面は、シリンジの長手方向軸線の方向に見て、少なくとも1.2mmまたは少なくとも1.4mmの長さを有していてよい。複数の実施形態において、前記長さは最大1.8mmまたは最大1.6mmである。好適な実施形態では、前記長さは1.2mm~1.8mm、好適には1.4mm~1.6mmであり、好適には約1.5mmである。これに対して追加的または択一的に、傾斜面は長手方向軸線とともに、少なくとも13°、好適には少なくとも14°、好適には少なくとも15°の角度を形成していてよい。このように寸法設定された傾斜面を形成することにより、シリンジの全長を、周知のシリンジに比べて短縮することができる。このことは、シリンジの人間工学もしくはユーザによる取扱いに有利な影響を及ぼし得る。それでもなお、このように寸法設定された傾斜面により、注射器の十分な安定性およびシール性(いわゆる容器閉鎖完全性(Container Closure Integrity, CCI))が保証され得る。つまり例えば、完全に満たされた非作動状態の注射器において、注射器の近位端部と、プランジャロッドユニットのプランジャの近位端部との間には、少なくとも9mm~最大10mm、または約9.5mmの間隔が設けられている、ということが想定されていてよい。
【0029】
シリンジは、1つの実施形態では80mmの最大全長および最大5mmの室内径を有していてよく、この場合、シリンジ内には少なくとも1mlの体積が収容可能である。より正確に言うと、室内と、室に続く、外側円錐により形成された室部分内とには、合わせて少なくとも1mlの体積が収容可能である。全長は、シリンジの近位端部を画定する端面から、シリンジの遠位端部を画定する端面、すなわち外側円錐の端面まで測定され得る。室内径は、室の全長にわたって一定であってよい。例えば室内および室部分内には、合計1073mlの体積が収容可能であってよく、これにより、室における2%の過剰充填および1mmの長さの気泡封入部を許容することができる。指摘しておくと、収容可能な体積は、室および室部分全体により形成される全容積とは同一視されない。収容すべき媒体の体積と、上述した過剰充填および気泡に関する許容誤差とに加えてさらに、室は既に非作動位置において追加的にプランジャロッドユニットの一部を収容し、これを安定的に支持することができなければならない。このためにプランジャロッドユニットのプランジャは、非作動位置において既にシリンジの近位端部から十分遠くに離されてシリンジ内に収容されていなければならない。例えば、注射器の近位端部と、プランジャロッドユニットのプランジャの近位端部との間には、9.5mmの間隔が設けられていてよい。
【0030】
シリンジは、好適にはISO規格11040-6:2012-04-01内で、これに従って形成されかつ寸法設定されていてよい。
【0031】
シリンジは、1つの別の実施形態では60mmの最大全長および最大4.65mmの室内径を有していてよく、この場合、室内および室部分内には合わせて少なくとも0.5mlの体積が収容可能である。
【0032】
シリンジは、1つの別の実施形態では71mmの最大全長および最大5mmの室内径を有していてよく、この場合、室内および室部分内には合わせて少なくとも0.8mlの体積が収容可能である。
【0033】
シリンジは、1つの別の実施形態では95mmの最大全長および最大6.45mmの室内径を有していてよく、この場合、室内および室部分内には合わせて少なくとも2.25mlの体積が収容可能である。
【0034】
シリンジは、1つの別の実施形態では117mmの最大全長および最大6.45mmの室内径を有していてよく、この場合、室内および室部分内には合わせて少なくとも2.8mlの体積が収容可能である。
【0035】
シリンジは、1つの別の実施形態では56mmの最大全長および最大12.2mmの室内径を有していてよく、この場合、室内および室部分内には合わせて少なくとも2.8mlの体積が収容可能である。
【0036】
シリンジは、1つの別の実施形態では58mmの最大全長および最大12.2mmの室内径を有していてよく、この場合、室内および室部分内には合わせて少なくとも3.0mlの体積が収容可能である。
【0037】
シリンジは、1つの別の実施形態では115mmの最大全長および最大8.75mmの室内径を有していてよく、この場合、室内および室部分内には合わせて少なくとも5mlの体積が収容可能である。
【0038】
上述した値は、最大寸法または正確な寸法であってよい。小さな室内径は、注射器もしくは注射装置に指の力を加えることにより高粘度の液体を投与することに対し、ポジティブな影響を及ぼす。ただし同時に、操作性を保証するためには、ともに使用されるプランジャロッドユニットの全長をも左右するシリンジの全長を極度に大きく選択しない、ということにも留意せねばならない。上述した各実施形態は、例えばさまざまなシリンジ容積に関して有利な全長と内径との組み合わせを示す実施形態を成している。
【0039】
1つの改良では、シリンジは少なくとも室の領域に、少なくとも1.7mm、好適には少なくとも1.8mm、好適には少なくとも2.0mm、さらに好適には少なくとも2.2mmの壁厚さを有していてよい。このような壁厚さの形成は、使用中のシリンジの形状安定性にポジティブな影響を及ぼすことができ、これによりシリンジの機械的な故障を減らすことができる。示した各値は、内径と外径との間の比に関して最適化された幾何学形状を成すものである。
【0040】
シリンジは、例えば室の領域に、5mm~15mm、特に7.5mm~12.5mm、または8.4mm~10mm、特に約9.4mmの外径を有していてよい。
【0041】
シリンジは、標準プランジャが室内を10mm/minで遠位端部に向かって移動させられる場合、40N未満の押出し力を有するように形成されていてよい。シリンジは、標準プランジャが室内を50mm/minで遠位端部に向かって移動させられる場合、75N未満の押出し力を有するように形成されていてよい。シリンジは、標準プランジャが室内を100mm/minで遠位端部に向かって移動させられる場合、100N未満の押出し力を有するように形成されていてよい。前記各値は、約84.5Paの貯蔵弾性率G’と、約0.48の損失率tanδと、を有する高粘度媒体の供給に関する。粘度は、プレート-プレート測定システムを用いて25℃および1013.25hPaの気圧において、特に1Hzの周波数でもって測定され得る(例えばAnton Paar社のレオメータMCR302)。測定は、例えばISO規格6721-10-2015-09に記載の方法により行われてよい。押出し力は、シリンジと結合された針ユニットのカニューレから媒体を流出させる力を表す。高粘度媒体は通常、低粘度媒体よりも高い押出し力を必要とする。前記各値は、30Gの太さおよび13mmの長さを備えたカニューレを有する針ユニット、つまり針ユニット30G×1/2、特に針ユニット「TSK HYPODERMIC NEEDLE」,Ref.:HPC-30013l-320,30G×1/2を備えた試験ユニットに当てはまる。この試験方法では、カニューレは開いているため、カニューレから高粘度媒体が流出可能である。針ユニットは、ルアーロックコネクタ対応部材として、(尖端部を備えた針ユニットとは異なり)ねじ山を有している。高粘度媒体に対して、このような比較的小さな押出し力を有するシリンジが必要とする、ユーザにより加えられる力はより少なく、改良された調量精度を可能にする。つまりこのようなシリンジは、高粘度媒体の使用にもかかわらず、より小さな太さ、すなわち30G以上の太さのカニューレを備えた針ユニットの使用を可能にする。
【0042】
1つの実施形態では、シリンジは、好適には2800MPa~3300MPa、特に2900MPa~3200MPa(1mm/min、ISO527第1部および第2部)の弾性率を有する樹脂材料から製造されていてよい。樹脂材料は、58MPa~65MPa、特に60MPa~63MPaの範囲の引張強さ(5mm/min、ISO527第1部および第2部)を有していてよい。樹脂材料は、0.01%未満の吸水率を有していてよい(ISO62)。さらに樹脂材料は、180~195N/mmの押込硬度を有していてよい(ISO2039第1部に基づく961Nの荷重における30秒値)。樹脂材料は、120~180℃の熱形状耐久温度を有していてよい(HDT/B0.45MPa、ISO75第1部および第2部)。樹脂材料の線形の熱膨張係数は、6.0×10-4-1であってよい(ISO11359第1部および第2部)。樹脂材料の破断点伸びは、2.5~2.7%の範囲内であってよい(ISO527第1部および第2部)。樹脂材料の衝撃強さは、約15kJ/mであってよく(ISO179/1eU)かつ/またはノッチ付衝撃強さは、1.6kJ/m~1.8kJ/mの範囲内であってよい(ISO179/1eA)。
【0043】
シリンジは、1つの改良ではその近位端部にフランジを有していてよい。フランジは、シリンジの使用に際してユーザの人差し指および中指を支持するグリップを形成することができるか、またはこのようなグリップを備えていてよい。
【0044】
本発明の1つの別の態様は、上述した形式のシリンジおよびプランジャロッドユニットを備えた、高粘度媒体を注射するための注射器に関する。プランジャロッドユニットは、プランジャロッドと、プランジャロッドの遠位端部に取り付けられたプランジャと、を有している。プランジャは、シリンジの近位端部に形成された開口を介して室内に収容されており、室内で移動可能に案内されている。プランジャは、例えば3つのシールリップを有していてよい。
【0045】
注射器は、シリンジの室内に収容された高粘度媒体を有していてよい。1つの実施形態では、高粘度媒体は、少なくとも30Paおよび最高150Pa、特に少なくとも50Paおよび最高100Pa、または少なくとも70および最高90Paの貯蔵弾性率G’を特徴とする。損失率tanδは、0.2~0.8、特に0.3~0.6または0.4~0.5であってよい。粘度は、プレート-プレート測定システムを用いて25℃および1013.25hPaの気圧において、特に1Hzの周波数でもって測定され得る(例えばAnton Paar社のレオメータMCR302)。測定は、例えばISO規格6721-10-2015-09に記載の方法により行われてよい。例えば注射器は、シリンジの室内に収容されたヒアルロン酸充填剤および/または別の美容組成を有していてよい。
【0046】
注射器は、6cm~12cm、特に7.5cm~8cmの把持長さを有していてよい。把持長さは、シリンジの近位端部と、プランジャロッドユニットの近位端部との間の長さを表す。プランジャロッドユニットは、近位端部にグリップを備えていてよい。
【0047】
本発明の1つの別の態様は、上述した形式の注射器および針ユニットを有する、高粘度媒体を注射するための注射装置に関する。針ユニットは、針基とカニューレとを有しており、この場合、針基は、シリンジと針ユニットとの間にルアーロック結合部を形成するために、シリンジのルアーロックコネクタに対して相補的なルアーロックコネクタ対応部材を有している。つまり針基は、シリンジの外側円錐に対して相補的な内側円錐と、好適にはシリンジの雌ねじ山に対して相補的な雄ねじ山と、を有している。雄ねじ山に対して択一的に、針基は、針基の外周面に配置された2つの尖端部を有していてもよい。
【0048】
針ユニットは、少なくとも30G(ゲージ)、好適には少なくとも31G、好適には少なくとも32G、好適には少なくとも33G、さらに好適には少なくとも34G、なおさらに好適には少なくとも35Gの太さを備えたカニューレを有していてよい。カニューレは、少なくとも10mm、好適には少なくとも11mm、好適には少なくとも12mm、さらに好適には少なくとも13mmの長さを有していてよい。択一的に、カニューレは25mm以上の長さを有していてもよい。
【0049】
針ユニットの針基は、3mm~7mm、好適には5.5mm~6.5mm、好適には約6.1mmの、針ユニットの長手方向軸線に沿った長さを備えた内側円錐を有していてよい。
【0050】
特に注射装置は、針ユニット「TSK HYPODERMIC NEEDLE」Ref.:HPC-30013l-320,30G×1/2またはこれと比較可能な針ユニットを有していてよい。
【0051】
択一的に注射装置は、針ユニット「TSK STERiJECT Hypodermic Needle」Ref.:PRC-30013l,30G×1/2またはこれと比較可能な針ユニットを有していてよい。
【0052】
1つの実施形態では、シリンジは、シクロオレフィンコポリマ(COC)および/またはシクロオレフィンポリマ(COP)を含むまたはシクロオレフィンコポリマ(COC)および/またはシクロオレフィンポリマ(COP)から成る樹脂材料から形成されていてよい。
【0053】
1つの改良では、樹脂材料は、1つまたは複数の添加剤を含んでいてよく、この場合、添加剤は、好適には着色料であってよい。
【0054】
いくつかの態様および特徴は、上でかつ以下にシリンジに関してしか説明していないにもかかわらず、これらの態様および特徴は、注射器および/または注射装置に関しても相応して当てはまり、その逆もまた然りである。
【0055】
本発明は、本明細書に記載のシリンジ、本明細書に記載の注射器または本明細書に記載の注射装置を用いて高粘度の美容調合物を投与するステップを含む、治療方法または美容方法にも関する。1つの実施形態では、高粘度の美容調合物は、少なくとも30Paおよび最高150Pa、特に少なくとも50Paおよび最高100Pa、または少なくとも70および最高90Paの貯蔵弾性率G’を特徴とする。損失率tanδは、0.2~0.8、特に0.3~0.6または0.4~0.5であってよい。粘度は、プレート-プレート測定システムを用いて25℃および1013.25hPaの気圧において、特に1Hzの周波数でもって測定され得る(例えばAnton Paar社のレオメータMCR302)。測定は、例えばISO規格6721-10-2015-09に記載の方法により行われてよい。投与には、処置されるべき生体内への美容調合物の注射が含まれていてよい。好適には、調合物は人体における投与箇所中に投与される。投与は、皮下注射であってよい。投与箇所は、人の顔もしくは人の一部であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
以下に本発明の実施例を、添付の概略図を参照してより詳しく説明する。
図1】本発明の1つの実施例による注射装置を示すさまざまな斜視図である。
図2】シリンジの1つの実施例のルアーロックコネクタを示す断面図である。
図3図2に示したねじ山断面の詳細図である。
図4】内部にプランジャロッドユニットが収容されたシリンジの1つの実施例を示す断面図である。
図5図4に示したシリンジの傾斜面の詳細図である。
図6】本発明によるシリンジの、NPOおよび漏れに関する試験結果を表す線図である。
図7】本発明によるシリンジの、押出し力に関する試験結果を表す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図中の同一符号は、同一または類似の部材を示すものである。
【0058】
図1には、本発明の1つの実施例による注射装置10を分解図として、かつ組立て状態で示す、さまざまな斜視図が示されている。注射装置10は、シリンジ(シリンジボディ)12、プランジャロッドユニット(ピストンロッドユニット)14および針ユニット16を有している。
【0059】
細長いシリンジ12は、中空円筒状であり、媒体、特に高粘度媒体を収容するための室を形成している。シリンジ12は、遠位端部18と近位端部20とを有している。近位端部20は開口を有しており、この開口を介してプランジャロッドユニット14を室内へ挿入することができるようになっている(図1の右側の図を参照)。シリンジ12の遠位端部18には、図2を参照して詳しく説明するルアーロックコネクタ22が形成されている。シリンジ12の近位端部20はフランジ24を備えており、フランジ24は、シリンジ12の使用時にユーザの人差し指と中指とを支持するグリップとして働く。
【0060】
プランジャロッドユニット14は、プランジャロッド26とプランジャ28とを有しており、プランジャ28は、本実施例では弾性的な材料から製造されていて、3つのシールリップを有している。プランジャ28は、プランジャロッド26の遠位端部に取り付けられており、シリンジ12の室の内周面にわたって室内を滑り案内され、室長手方向軸線の方向に移動可能であってよい。プランジャロッドユニット14は近位端部にグリップ30を有しており、ユーザの親指によりグリップ30を介して、注射装置10に力を加えることができるようになっている。
【0061】
針ユニット16は、針基32と、中空針の形態のカニューレ34と、を有している。図示の実施例では、カニューレ34は、少なくとも30Gの太さおよび13mmの長さを有している。ただし、異なる寸法を有するカニューレを使用してもよい。針基32は、ルアーロックコネクタ対応部材36を有しており、ルアーロックコネクタ対応部材36は、シリンジ12のルアーロックコネクタ22とともに、密なルアーロック結合部を形成することができ、これにより、シリンジ12を針ユニット16に結合することができるようになっている。ルアーロックコネクタ対応部材36、より厳密に言うと針基32は、図示の実施例では内側円錐と、針基32の近位端部の外周面に形成された2つの尖端部と、を有している。針基は、別の実施形態では尖端部の代わりに雄ねじ山もしくは雄ねじ山部分を備えていてよい、ということは自明である。雄ねじ山を備えたこのような実施形態により、より一層確実なルアーロック結合部が実現され得る。
【0062】
シリンジ12を例えば搬送中は閉じておくために、シリンジ12はルアーロックコネクタ22の領域において、図1に示した蓋38により閉じられていてよい。この蓋38は、シリンジ12のルアーロックコネクタ22に対して相補的に形成されている。蓋38がシリンジ12から取り外された後で、針ユニット16がシリンジ12に結合される。
【0063】
注射装置10は、シリンジ12と、プランジャロッドユニット14と、針ユニット16とが互いに構造的に結合されて作用結合された組立て状態において、プランジャ28が室内で近位端部20から遠位端部18に向かって移動させられることにより、非作動位置から作動位置にもたらされてよい。これにより、室内に収容された高粘度媒体、例えばヒアルロン酸が、カニューレ34を通じて患者の皮膚表面下に注射され得る。
【0064】
シリンジ12は、図示の実施例ではシクロオレフィンポリマ(COP)またはシクロオレフィンコポリマ(COC)から製造されている。
【0065】
図2には、シリンジ12のルアーロックコネクタ22の拡大断面図が示されている。ルアーロックコネクタ22は、室内に収容された高粘度媒体を供給するための、比較的広い開口42を備えた外側円錐40を有している。図1および図2において認められるように、外側円錐40は円錐形に形成されたノズルとして、シリンジ12の遠位端部を越えて突出している。ルアーロックコネクタ22はさらに、雌ねじ山46を備えたスリーブ状部分44を有している。外側円錐40は、スリーブ状部分44により包囲されており、この場合、外側円錐40とスリーブ状部分44とは、互いに同軸的に配置されている。
【0066】
雌ねじ山46は、雌ねじ山46のねじ山稜線50から反対側に位置するねじ山稜線50’まで測定した、7.1mmの最小内径Iを有している。雌ねじ山46のねじ山谷54から反対側に位置するねじ山谷54’まで測定した最大内径Iは、図示の実施例では8.0mmである。スリーブ状部分44の外径Aは、10.0mmである。よってスリーブ状部分44は、1mmの壁厚さを有している。
【0067】
図2および特に図3に示す雌ねじ山46のねじ山断面の詳細図から認められるように、雌ねじ山46は、ねじ山断面の稜線50に、0.48mmの幅Bを有している。さらに雌ねじ山46は、ねじ山断面の谷54に、0.9mmの幅Bを有している。雌ねじ山は、ねじ山断面の両側に、それぞれ25°の角度αおよびβを有している。これらの寸法を備えて形成されたねじ山断面は、付属の針ユニットの相補的な雄ねじ山を備えた共通の接触面を最適に固定するために役立つ。このことは、NPO最小抵抗、平均的なNPO抵抗、漏れ最小抵抗および平均的な漏れ抵抗の的確な調整に寄与し得る。
【0068】
外側円錐40は、比較的広い開口42が形成された遠位端面56を有している。遠位端面56は、シリンジ12の長手方向軸線Lの方向に見て、2.3mmの距離Aだけ、スリーブ状部分44の遠位カラー58を越えて突出している。さらに外側円錐40の遠位端面56は、第1の完全なねじ山断面の、端面56とは反対側の下側から、3.1mmの距離Bだけ離れている。外側円錐40は、図示の実施例では8.9mmの円錐全長Cを有している。
【0069】
特に図3に示したねじ山断面のパラメータB,B,αおよびβ、最小内径Iおよび/または距離Aは、容積がそれぞれ異なる複数のシリンジにおいて、前記寸法を備えて設けられていてよく、これにより、シリンジ12のNPO最小抵抗、平均的なNPO抵抗、漏れ最小抵抗および平均的な漏れ抵抗に関する最適な値を達成することができる。
【0070】
図4には、内部にプランジャロッドユニット14が収容されたシリンジ12の断面図が示されており、この場合、プランジャロッドユニット14は見やすさの理由から、全体的には図示されていない。図示の実施例のシリンジ12は、80.0mmの全長LSKを有している。この全長LSKは、シリンジの、室を形成している部分の長さと、外側円錐40の円錐全長Cとから構成されている。室の室内径Iは、図示の例では5mmである。よってシリンジ12の室内およびこれに続く、外側円錐40により形成された室部分内には、合わせて1073mmの体積Vを有する媒体、特に高粘度媒体が収容され得る。この収容可能な体積Vは、シリンジ12が1mlの体積の高粘度媒体を供給すべきであるという考察およびその結果生じた構成手段から得られる。さらに、室は2%の過剰充填および1mmの長さ(長さs参照)の気泡封入部を可能にする必要がある。収容すべき媒体の体積と、上述した過剰充填および気泡に関する許容誤差とに加えてさらに、室は既に非作動位置においてプランジャロッドユニットの一部を収容し、これを安定的に支持することができなければならない。このためにプランジャロッドユニット14のプランジャ28の近位端部は、非作動位置において既に9.5mmの距離uだけ、シリンジ12の近位端部から離されて配置されていることが望ましい。さらにこの非作動位置では、プランジャロッドユニット14のプランジャ28の第3の(近位)シールリップもやはり、シリンジ12の傾斜面60から9.5mmの距離oだけ離れて配置されている。プランジャ28は、例えば6.9mmの長さtを有している。
【0071】
傾斜面60は、シリンジ12の近位端部20の内周面に形成されている。傾斜面60は、近位端部20から遠位端部18に向かう方向に見て、シリンジ12の内周面を先細にしている。
【0072】
図5には、傾斜面60が拡大して示されている。傾斜面60は、シリンジ12の長手方向軸線Lの方向に見て1.5mmの長さwを有しており、長手方向軸線Lとともに、15°の角度γを形成している。傾斜面60の、シリンジ12の近位端部への移行領域には、0.5mmの半径Rが設けられている。
【0073】
図示の実施例のシリンジ12は、室の領域に2.2mmの壁厚さを有しており、このことは、シリンジの破損に対する十分な形状安定性に役立つ。
【0074】
図6には、NPOおよび漏れに対するシリンジの異なる測定抵抗を示す、本発明によるシリンジに関する試験結果を表す線図が示されている。根拠となる試験は、図1図5に示したシリンジ12を用いて実施された。線図のx軸の方向には、図示の測定値列(56の個別測定値)のそれぞれ異なる測定値が示されている。y軸は、NPOまたは漏れによりシリンジが故障した時点で注射器にもたらされた、測定された力を示す。
【0075】
試験方法に関しては、試験すべきシリンジ12が「TesT」社の「TesT 106.2kN」型のユニバーサル試験機内に鉛直方向に配置され、シリンジ12の近位端部の領域において保持された。試験開始前に、試験されるシリンジ12はルアーロックコネクタ22を介して、ルアーロック結合部を形成するためにルアーロックコネクタ対応部材として内側円錐と、針ユニットの針基の外周面に配置された2つの尖端部と、を有する針ユニット「TSK STERiJECT Hypodermic Needle」Ref.:PRC-30013l,30G×1/2に結合された。シリンジ12のルアーロックコネクタ22は、12Ncmのトルクでもって、針ユニットのルアーロックコネクタ対応部材にねじ締結された。針ユニットの、30Gの太さおよび13mm(30G×1/2)の長さを有するカニューレは、試験方法実施前にハンマーにより平らにされ、これにより閉じられた。この試験方法のためには、針ユニットがシリンジにねじ嵌められてから、高粘度媒体が室内に充填されたことにより、乾式のルアーロック結合部が形成された。試験方法は、蒸気殺菌されていないコンポーネント(シリンジ、針ユニット、プランジャロッドユニット)を用いて実施された。本試験方法には、高粘度プラシーボ媒体が用いられた。この高粘度プラシーボ媒体は、約84.5Paの貯蔵弾性率G’と、約0.48の損失率tanδを有していた。粘度は、プレート-プレート測定システムを用いて25℃および1013.25hPaの気圧において測定された(例えばAnton Paar社のレオメータMCR302)。周波数は1Hzであった。測定は、ISO規格6721-10-2015-09に従って実施された。試験されたシリンジ12は前記材料、すなわち1073mmの体積を有する材料で完全に満たされた。プランジャユニットには、製造者DaetwylerのFM257形式の標準プランジャが用いられた。
【0076】
試験機の試験プランジャを介して、プランジャロッドユニットの近位端部に対し、垂直方向に力が加えられた。試験プランジャは、12.6mm/minの一定の試験速度でもってシリンジの遠位端部に向かって移動させられ、このとき、プランジャロッドユニットに作用する力は連続的に高められた。最大力として420Nの力が調整され、この最大力において試験は中断された。作用する力は、200Hzのサンプリングレートを有する力センサにより検出された。試験プランジャは、不密性(「漏れ」)および/またはNPOが認められるまで、すなわち測定力が突如、少なくとも30%だけ低下するまで、引き続き連続的に移動させられた。
【0077】
不密性および/またはNPOの発生時点において作用している力が測定毎に記録され、図6に示した線図に書き込まれた。図6に示す線図は、56の測定値を含む測定値列の結果を表している。線図に表された結果は、56の測定値のうち、100N未満の力においてNPOまたは漏れによるシリンジの故障が発生しているものは1つもない、ということを示している。56回の測定実施数は、NPO最小抵抗が決定され得る、ということを保証するものであり、NPO最小抵抗は、前記閾値未満で試験されたシリンジの1.8%以下に「針落ち」が生じる、ということにより規定されている。
【0078】
注射器を実際に操作する最大指力は平均して95Nであるため、本発明によるシリンジにより、NPOおよび/または漏れの発生が回避され得る。
【0079】
図7には、従来技術から周知の製品の押出し力と比較した、本発明によるシリンジの押出し力に関する試験結果を表す、別の線図が示されている。線図のx軸の方向には、それぞれ異なる測定値が示されている。y軸は、測定された押出し力を表す。この線図には、3つの異なる試験速度を用いた測定が示されている。
【0080】
図1図5に示した実施例によるシリンジと、充填容積が1mlの「SCHOTT COC 標準型」シリンジ(呼称「TopPac 1ml ロング」)とが比較された。プランジャユニット用には、両シリンジとともに、製造者DaetwylerのFM257形式の標準プランジャが用いられた。針ユニットとしては、両シリンジとともに、30Gの太さおよび13mmの長さを有する、開いた(平らにされていない)カニューレを備えた針ユニット「TSK HYPODERMIC NEEDLE」、Ref.:HPC-30013l-320、30G×1/2が用いられた。押し出される媒体としては、高粘度媒体が用いられた。この高粘度媒体は、約84.5Paの貯蔵弾性率G’と、約0.48の損失率tanδを有していた。粘度は、プレート-プレート測定システムを用いて25℃および1013.25hPaの気圧において測定された(例えばAnton Paar社のレオメータMCR302)。周波数は1Hzであった。測定は、ISO規格6721-10-2015-09に従って実施された。
【0081】
試験は、100mm/min、50mm/minおよび10mm/minの試験速度でもってプランジャをシリンジ内で近位から遠位に向かって移動させて行われた。試験結果は、100mm/minの試験速度において、本発明によるシリンジの押出し力は、従来技術によるシリンジに比べ、172.3Nから94.9Nに低下された、ということを示している。さらに試験結果は、50mm/minの試験速度において、本発明によるシリンジの押出し力は、従来技術によるシリンジに比べ、136.4Nから73.9Nに低下された、ということを示している。さらに試験結果は、10mm/minの試験速度において、本発明によるシリンジの押出し力は、従来技術によるシリンジに比べ、73.5Nから38.3Nに低下された、ということを示している。
【0082】
つまり本発明によるシリンジ12の押出し力は、周知のシリンジの押出し力よりも大幅に小さくなっている。よって本発明によるシリンジが高粘度媒体を供給するために必要とする、ユーザによりもたらされる力は、より少なくなっており、これにより、改良された調量精度を可能にする。つまり本発明によるシリンジは、高粘度媒体の使用にもかかわらず、より小さな太さ、すなわち30G以上の太さのカニューレを備えた針ユニットの使用を可能にする。
【符号の説明】
【0083】
10 注射装置
12 シリンジ
14 プランジャロッドユニット
16 針ユニット
18 遠位端部
20 近位端部
22 ルアーロックコネクタ
24 フランジ
26 プランジャロッド
28 プランジャ
30 グリップ
32 針基
34 カニューレ
36 尖端部
38 蓋
40 外側円錐
42 開口
44 スリーブ状部分
46 雌ねじ山
50,50’ 稜線
54,54’ 谷
56 端面
58 遠位カラー
60 傾斜面
L 長手方向軸線
A 距離
B 距離
C 円錐全長
最小内径
最大内径
外径
幅 稜線
幅 谷
α ねじ山断面における角度
β ねじ山断面における別の角度
γ 傾斜面の角度
室内径
V 収容可能な体積
SK 全長
o 距離
s 気泡の長さ
t プランジャ長さ
u 距離
w 傾斜面の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7