(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241224BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241224BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20241224BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20241224BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D101:00
(21)【出願番号】P 2020156286
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柿本 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-096725(JP,A)
【文献】特開2006-130940(JP,A)
【文献】特開2012-116239(JP,A)
【文献】特開2019-199172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 119/00
B62D 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部と、前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達路が分離した構造を有する操舵装置を制御対象とし、
前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力の目標値となる目標反力トルクを演算する目標反力トルク演算部を備え、前記目標反力トルクに応じたモータトルクが発生するように前記操舵部に設けられた操舵側モータの作動を制御する操舵制御装置であって、
前記目標反力トルク演算部は、前記転舵輪を転舵させるべく動作する転舵軸に作用する軸力に応じた軸力成分として配分軸力を演算する配分軸力演算部を含み、
前記配分軸力演算部は、
前記転舵部に設けられた転舵側モータの出力に応じて定められるとともに路面情報が反映される軸力である電流軸力を演算する電流軸力演算部と、
前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度に応じて定められるとともに前記路面情報が反映されない軸力である角度軸力を演算する角度軸力演算部と、
前記電流軸力と前記角度軸力とを所定割合で配分して得られる前記配分軸力を演算する配分処理部と、を含み、
前記配分軸力演算部は、前記配分軸力に配分する
前の前記電流軸力と
前記配分軸力に配分する前の前記角度軸力との
うち、前記配分する前の前記角度軸力が過大とならないようにガード処理をするガード処理部を含んでいる操舵制御装置。
【請求項2】
前記ガード処理部は、
前記配分する前の前記角度軸力が過大とならないような制限値以下に
前記配分する前の該角度軸力の絶対値を制限する請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記ガード処理部は、
前記配分する前の前記角度軸力が過大とならないように調整を行う角度軸力調整マップを備えている請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記制限値は、車速に基づいて調整される請求項2または請求項3に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操舵装置の一種として、運転者により操舵される操舵部と運転者の操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達路が分離されたステアバイワイヤ式の操舵装置がある。同形式の操舵装置では、転舵輪が受ける路面反力等の路面情報が機械的にはステアリングホイールに伝達されない。そこで、同形式の操舵装置を制御対象とする操舵制御装置には、ステアリングホイールに対して路面情報を考慮した操舵反力を操舵側アクチュエータによって付与することで、路面情報として運転者に伝えるものがある。
【0003】
例えば特許文献1には、転舵輪に連結される転舵軸に作用する軸力に着目し、ステアリングホイールの操舵角に基づき得られる目標転舵角から算出される角度軸力と、転舵側アクチュエータの駆動源である転舵側モータの駆動電流から算出される電流軸力とを所定配分比率で配分した配分軸力に基づいて操舵反力を決定する操舵制御装置が開示されている。なお、角度軸力は、目標転舵角の絶対値が大きくなるほど大きい軸力として算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両が走行している場合には、運転者がステアリングホイールを操舵して車両の旋回中に、後輪と路面との間の摩擦力よりも遠心力が大きくなる状態に陥ることがある。このような状態は、凍結路等の低摩擦路で特に生じやすい。この場合、車両は運転者がステアリングホイールを操舵した以上に、車両が旋回する側に向くオーバーステアの状態になる。こうしたオーバーステアの状態において、運転者は、車両の態勢を立てなおすべく、車両が旋回する側と反対側にステアリングホイールを操舵する、所謂、カウンターステアを行ったりする。
【0006】
ここで、角度軸力は、ステアリングホイールの操舵角に基づき得られる目標転舵角に応じたものとなる。このため、カウンターステアが行われるなかでは、ステアリングホイールの操舵角が大きくなるほど角度軸力が大きくなり、操舵反力が過大になるおそれがある。この結果、カウンターステアが行われる状況では、ステアリングホイールの操舵を運転者が重く感じ、操舵フィーリングが低下するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、カウンターステアが行われる状況での操舵フィーリングの低下を抑えられる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する操舵制御装置は、操舵部と、前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達路が分離した構造を有する操舵装置を制御対象とし、前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力の目標値となる目標反力トルクを演算する目標反力トルク演算部を備え、前記目標反力トルクに応じたモータトルクが発生するように前記操舵部に設けられた操舵側モータの作動を制御する操舵制御装置であって、前記目標反力トルク演算部は、前記転舵輪を転舵させるべく動作する転舵軸に作用する軸力に応じた軸力成分として、前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度に応じて定められるとともに路面情報が反映されない軸力である角度軸力を演算する角度軸力演算部を含み、前記目標反力トルク演算部は、前記角度軸力が過大とならないようにガード処理をするガード処理部を含んでいる。
【0009】
上記構成によれば、軸力成分の演算では、角度軸力が過大とならないようにガード処理がなされる。これにより、カウンターステアが行われる状況であっても、操舵反力が過大になることが抑制されるようになる。したがって、カウンターステアが行われる状況では、ステアリングホイールの操舵を運転者が重く感じにくくなり、操舵フィーリングの低下を抑えることができる。
【0010】
具体的には、上記ガード処理部は、前記角度軸力が過大とならないような制限値以下に該角度軸力の絶対値を制限することで実現することができる。
上記構成によれば、角度軸力を制限したい値に好適に制限することができる。
【0011】
上記操舵制御装置において、前記ガード処理部は、前記角度軸力が過大とならないように調整を行う角度軸力調整マップを備えていることが好ましい。
上記構成によれば、角度軸力調整マップにより角度軸力が過大とならないように調整を行うことができるため、当該ガード処理に関わる構成を簡素化することができる。
【0012】
上記の操舵制御装置において、前記制限値は、車速に基づいて調整されることが好ましい。
例えば、車両が高速で走行していると、転舵軸に作用する軸力が大きくなるため、該路面反力を考慮すると角度軸力が大きくなるように設定することが好ましい。これは、カウンターステアが行われる状況であっても同様である。この点を踏まえ、上記構成では、車速に基づいて制限値を調整するため、カウンターステアが行われる状況で操舵反力が過大になることが抑制されるなかで適切な操舵反力を付与できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の操舵制御装置によれば、カウンターステアが行われる状況での操舵フィーリングの低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
操舵制御装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の操舵制御装置1の制御対象となる操舵装置2は、ステアバイワイヤ式の操舵装置として構成されている。操舵装置2は、ステアリングホイール3を介して運転者により操舵される操舵部4と、運転者による操舵部4の操舵に応じて転舵輪5を転舵させる転舵部6とを備えている。
【0016】
操舵部4は、ステアリングホイール3が固定されるステアリング軸11と、ステアリング軸11に操舵反力を付与可能な操舵側アクチュエータ12とを備えている。操舵側アクチュエータ12は、駆動源となる操舵側モータ13と、操舵側モータ13の回転を減速してステアリング軸11に伝達する操舵側減速機14とを備えている。なお、本実施形態の操舵側モータ13には、例えば三相のブラシレスモータが採用されている。
【0017】
転舵部6は、ピニオン軸21と、ピニオン軸21に連結された転舵軸としてのラック軸22と、ラック軸22を往復動可能に収容するラックハウジング23と、ピニオン軸21及びラック軸22からなるラックアンドピニオン機構24とを備えている。ピニオン軸21とラック軸22とは、所定の交差角をもって配置されており、ラックアンドピニオン機構24は、ピニオン軸21に形成されたピニオン歯21aとラック軸22に形成されたラック歯22aとを噛合することにより構成されている。ラック軸22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド25を介してタイロッド26が連結されており、タイロッド26の先端は、それぞれ左右の転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0018】
ピニオン軸21を設ける理由は、ラック軸22を図示しないハウジングの内部に支持するためである。すなわち、操舵装置2に設けられる図示しない支持機構によって、ラック軸22は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオン軸21へ向けて押圧される。これにより、ラック軸22はハウジングの内部に支持される。ただし、ピニオン軸21を使用せずにラック軸22をハウジングに支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0019】
転舵部6は、ラック軸22に転舵輪5を転舵させる転舵力を付与する転舵側アクチュエータ31を備えている。転舵側アクチュエータ31は、駆動源となる転舵側モータ32と、伝達機構33と、変換機構34とを備えている。そして、転舵側アクチュエータ31は、転舵側モータ32の回転を伝達機構33を介して変換機構34に伝達し、変換機構34にてラック軸22の往復動に変換することで転舵部6に転舵力を付与する。なお、本実施形態の転舵側モータ32には、例えば三相のブラシレスモータが採用され、伝達機構33には、例えばベルト機構が採用され、変換機構34には、例えばボールネジ機構が採用されている。
【0020】
このように構成された操舵装置2では、運転者によるステアリング操作に応じて転舵側アクチュエータ31からラック軸22に転舵力が付与されることで、転舵輪5の転舵角が変更される。このとき、操舵側アクチュエータ12からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール3に付与される。
【0021】
本実施形態の電気的構成について説明する。
操舵制御装置1は、操舵側モータ13及び転舵側モータ32に接続されており、これらの作動を制御する。なお、操舵制御装置1は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。これにより、各種の制御が実行される。
【0022】
操舵制御装置1には、車両の走行速度である車速Vを検出する車速センサ41、及びステアリング軸11に付与された操舵トルクThを検出するトルクセンサ42が接続されている。なお、トルクセンサ42は、ステアリング軸11における操舵側減速機14との連結部分よりもステアリングホイール3側に設けられており、トーションバー43の捩れに基づいて操舵トルクThを検出する。また、操舵制御装置1には、操舵部4の操舵量を示す検出値として操舵側モータ13の回転角θsを360度の範囲内の相対角で検出する操舵側回転センサ44、及び転舵部6の転舵量を示す検出値として転舵側モータ32の回転角θtを相対角で検出する転舵側回転センサ45が接続されている。なお、上記操舵トルクTh及び回転角θs,θtは、例えば右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。そして、操舵制御装置1は、これらの各種状態量に基づいて操舵側モータ13及び転舵側モータ32の作動を制御する。
【0023】
操舵制御装置1の構成について詳細に説明する。
図2に示すように、操舵制御装置1は、操舵側モータ制御信号Msを出力する操舵側制御部51と、操舵側モータ制御信号Msに基づいて操舵側モータ13に駆動電力を供給する操舵側駆動回路52とを備えている。操舵側制御部51には、操舵側駆動回路52と操舵側モータ13の各相のモータコイルとの間の接続線53を流れる操舵側モータ13の各相電流値Ius,Ivs,Iwsを検出する電流センサ54が接続されている。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線53及び各相の電流センサ54をそれぞれ1つにまとめて図示している。
【0024】
操舵制御装置1は、転舵側モータ制御信号Mtを出力する転舵側制御部56と、転舵側モータ制御信号Mtに基づいて転舵側モータ32に駆動電力を供給する転舵側駆動回路57とを備えている。転舵側制御部56には、転舵側駆動回路57と転舵側モータ32の各相のモータコイルとの間の接続線58を流れる転舵側モータ32の各相電流値Iut,Ivt,Iwtを検出する電流センサ59が接続されている。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線58及び各相の電流センサ59をそれぞれ1つにまとめて図示している。本実施形態の操舵側駆動回路52及び転舵側駆動回路57には、例えばFET等の複数のスイッチング素子を有する周知のPWMインバータがそれぞれ採用されている。また、操舵側モータ制御信号Ms及び転舵側モータ制御信号Mtは、それぞれ各スイッチング素子のオンオフ状態を規定するゲートオンオフ信号となっている。
【0025】
そして、操舵側制御部51及び転舵側制御部56は、操舵側モータ制御信号Ms及び転舵側モータ制御信号Mtを操舵側駆動回路52及び転舵側駆動回路57に出力することにより、車載電源Bから操舵側モータ13及び転舵側モータ32に駆動電力をそれぞれ供給する。これにより、操舵側制御部51及び転舵側制御部56は、操舵側モータ13及び転舵側モータ32の作動を制御する。
【0026】
操舵側制御部51の構成について説明する。
操舵側制御部51は、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行して、操舵側モータ制御信号Msを生成する。操舵側制御部51には、上記車速V、操舵トルクTh、回転角θs、各相電流値Ius,Ivs,Iws、転舵側モータ32の駆動電流であるq軸電流値Iqt及び後述する転舵対応角θpが入力される。そして、操舵側制御部51は、これら各状態量に基づいて操舵側モータ制御信号Msを生成して出力する。
【0027】
詳しくは、操舵側制御部51は、ステアリングホイール3の操舵角θhを演算する操舵角演算部61と、操舵反力の目標値となる目標反力トルクTs*を演算する目標反力トルク演算部62と、操舵側モータ制御信号Msを出力する操舵側モータ制御信号演算部63とを備えている。
【0028】
操舵角演算部61には、操舵側モータ13の回転角θsが入力される。操舵角演算部61は、回転角θsを、例えばステアリング中立位置からの操舵側モータ13の回転数をカウントすることにより、360度を超える範囲を含む積算角に換算して取得する。そして、操舵角演算部61は、積算角に換算された回転角に操舵側減速機14の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、操舵角θhを演算する。このように演算された操舵角θhは、目標反力トルク演算部62に出力される。
【0029】
目標反力トルク演算部62には、車速V、操舵トルクTh、操舵角θh、q軸電流値Iqt及び転舵対応角θpが入力される。目標反力トルク演算部62は、後述するようにこれらの状態量に基づいて目標反力トルクTs*を演算し、操舵側モータ制御信号演算部63に出力する。また、目標反力トルク演算部62は、目標反力トルクTs*を演算する過程で得られたステアリングホイール3の操舵角θhの目標値である目標操舵角θh*を転舵側制御部56に出力する。
【0030】
操舵側モータ制御信号演算部63には、目標反力トルクTs*に加え、回転角θs及び相電流値Ius,Ivs,Iwsが入力される。本実施形態の操舵側モータ制御信号演算部63は、目標反力トルクTs*に基づいて、d/q座標系におけるd軸上のd軸目標電流値Ids*及びq軸上のq軸目標電流値Iqs*を演算する。d軸目標電流値Ids*はd/q座標系におけるd軸上の目標電流値を示し、q軸目標電流値Iqs*はq軸上の目標電流値を示している。操舵側モータ制御信号演算部63は、目標反力トルクTs*の絶対値が大きくなるほど、より大きな絶対値を有するq軸目標電流値Iqs*を演算する。なお、本実施形態では、d軸目標電流値Ids*は、基本的にゼロに設定される。そして、操舵側モータ制御信号演算部63は、d/q座標系における電流フィードバック制御を実行することにより、上記操舵側駆動回路52に出力する操舵側モータ制御信号Msを生成する。
【0031】
具体的には、操舵側モータ制御信号演算部63は、回転角θsに基づいて相電流値Ius,Ivs,Iwsをd/q座標上に写像することにより、d/q座標系における操舵側モータ13の実電流値であるd軸電流値Ids及びq軸電流値Iqsを演算する。そして、操舵側モータ制御信号演算部63は、d軸電流値Idsをd軸目標電流値Ids*に追従させるべく、またq軸電流値Iqsをq軸目標電流値Iqs*に追従させるべく、d軸及びq軸上の各電流偏差に基づいて目標電圧値を演算し、該目標電圧値に基づくデューティ比を有する操舵側モータ制御信号Msを生成する。
【0032】
このように演算された操舵側モータ制御信号Msは、操舵側駆動回路52に出力される。これにより、操舵側モータ13には、操舵側駆動回路52から操舵側モータ制御信号Msに応じた駆動電力が供給される。そして、操舵側モータ13は、目標反力トルクTs*に示される操舵反力をステアリングホイール3に付与する。
【0033】
転舵側制御部56について説明する。
転舵側制御部56は、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行して、転舵側モータ制御信号Mtを生成する。転舵側制御部56には、上記回転角θt、目標操舵角θh*及び転舵側モータ32の各相電流値Iut,Ivt,Iwtが入力される。そして、転舵側制御部56は、これら各状態量に基づいて転舵側モータ制御信号Mtを生成して出力する。
【0034】
詳しくは、転舵側制御部56は、ピニオン軸21の回転角である転舵対応角θpを演算する転舵対応角演算部71を備えている。また、転舵側制御部56は、上記転舵力の目標値となる目標転舵トルクTt*を演算する目標転舵トルク演算部72と、転舵側モータ制御信号Mtを出力する転舵側モータ制御信号演算部73とを備えている。なお、本実施形態の操舵装置2では、操舵角θhと転舵対応角θpとの比である舵角比が1:1の比率で一定に設定されており、転舵対応角θpの目標値となる目標転舵対応角は、目標操舵角θh*と等しい。
【0035】
転舵対応角演算部71には、転舵側モータ32の回転角θtが入力される。転舵対応角演算部71は、入力される回転角θtを、例えば車両が直進する中立位置からの転舵側モータ32の回転数をカウントすることにより、積算角に換算して取得する。そして、転舵対応角演算部71は、積算角に換算された回転角に伝達機構33の減速比、変換機構34のリード、及びラックアンドピニオン機構24の回転速度比に基づく換算係数を乗算して転舵対応角θpを演算する。つまり、転舵対応角θpは、ピニオン軸21がステアリング軸11に連結されていると仮定した場合におけるステアリングホイール3の操舵角θhに相当する。このように演算された転舵対応角θpは、減算器74及び上記目標反力トルク演算部62に出力される。減算器74には、転舵対応角θpに加え、目標操舵角θh*が入力される。
【0036】
目標転舵トルク演算部72には、減算器74において目標操舵角θh*、すなわち目標転舵対応角から転舵対応角θpを差し引いた角度偏差Δθpが入力される。そして、目標転舵トルク演算部72は、角度偏差Δθpに基づき、転舵対応角θpを目標操舵角θh*に追従させるための制御量として、転舵側モータ32が付与する転舵力の目標値となる目標転舵トルクTt*を演算する。具体的には、目標転舵トルク演算部72は、角度偏差Δθpを入力とする比例要素、積分要素及び微分要素のそれぞれの出力値の和を、目標転舵トルクTt*として演算する。つまり、目標転舵トルク演算部72は、目標転舵対応角である目標操舵角θh*に実際の転舵対応角θpを追従させる転舵角フィードバック制御の実行に基づいて目標転舵トルクTt*を演算する。
【0037】
転舵側モータ制御信号演算部73には、目標転舵トルクTt*に加え、回転角θt及び相電流値Iut,Ivt,Iwtが入力される。転舵側モータ制御信号演算部73は、目標転舵トルクTt*に基づいて、d/q座標系におけるq軸上のq軸目標電流値Iqt*を演算する。転舵側モータ制御信号演算部73は、目標転舵トルクTt*の絶対値が大きくなるほど、より大きな絶対値を有するq軸目標電流値Iqt*を演算する。なお、本実施形態では、d軸上のd軸目標電流値Idt*は、基本的にゼロに設定される。そして、転舵側モータ制御信号演算部73は、操舵側モータ制御信号演算部63と同様に、d/q座標系における電流フィードバック制御を実行することにより、上記転舵側駆動回路57に出力する転舵側モータ制御信号Mtを生成する。なお、転舵側モータ制御信号Mtを生成する過程で演算したq軸電流値Iqtは、上記目標反力トルク演算部62に出力される。
【0038】
このように演算された転舵側モータ制御信号Mtは、転舵側駆動回路57に出力される。これにより、転舵側モータ32には、転舵側駆動回路57から転舵側モータ制御信号Mtに応じた駆動電力が供給される。そして、転舵側モータ32は、目標転舵トルクTt*に示される転舵力を転舵輪5に付与する。
【0039】
ここで、目標反力トルク演算部62について説明する。
図3に示すように、目標反力トルク演算部62は、運転者の操舵方向にステアリングホイール3を回転させる力である入力トルク基礎成分Tb*を演算する入力トルク基礎成分演算部81を備えている。また、目標反力トルク演算部62は、運転者の操舵によるステアリングホイール3の回転に抗する力である反力成分Firを演算する反力成分演算部82を備えている。また、目標反力トルク演算部62は、操舵角θhの目標値となる目標操舵角θh*を演算する目標操舵角演算部83と、操舵角フィードバック演算の実行により操舵角フィードバック成分(以下、「操舵角F/B成分」という。)Tfbhを演算する操舵角フィードバック制御部(以下、「操舵角F/B制御部」という。)84を備えている。
【0040】
入力トルク基礎成分演算部81には、操舵トルクThが入力される。入力トルク基礎成分演算部81は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、大きな絶対値を有する入力トルク基礎成分Tb*を演算する。入力トルク基礎成分Tb*は、目標操舵角演算部83及び加算器85に入力される。
【0041】
反力成分演算部82には、車速V、操舵角θh、転舵側モータ32のq軸電流値Iqt、転舵対応角θp及び目標操舵角θh*が入力される。反力成分演算部82は、これらの状態量に基づいて、後述するようにラック軸22に作用する軸力に応じた反力成分Firを演算し、目標操舵角演算部83に出力する。
【0042】
目標操舵角演算部83には、車速V、操舵トルクTh、入力トルク基礎成分Tb*及び反力成分Firが入力される。目標操舵角演算部83は、入力トルク基礎成分Tb*に操舵トルクThを加算するとともに反力成分Firを減算した値である入力トルクTin*と目標操舵角θh*とを関係づけるモデル式を利用して、目標操舵角θh*を演算する。
【0043】
Tin*=C・θh*’+J・θh*’’ …(1)
このモデル式は、ステアリングホイール3と転舵輪5とが機械的に連結されたもの、すなわち操舵部4と転舵部6とが機械的に連結されたものにおいて、ステアリングホイール3の回転に伴って回転する回転軸のトルクと回転角との関係を定めて表したものである。そして、このモデル式は、操舵装置2の摩擦等をモデル化した粘性係数C、操舵装置2の慣性をモデル化した慣性係数Jを用いて表される。なお、粘性係数C及び慣性係数Jは、車速Vに応じて可変設定される。そして、このようにモデル式を用いて演算された目標操舵角θh*は、減算器86及び転舵側制御部56に加え、反力成分演算部82に出力される。
【0044】
操舵角F/B制御部84には、減算器86において目標操舵角θh*から操舵角θhが差し引かれた角度偏差Δθsが入力される。そして、操舵角F/B制御部84は、角度偏差Δθsに基づき、操舵角θhを目標操舵角θh*にフィードバック制御するための制御量として操舵側モータ13が付与する操舵反力の基礎となる操舵角F/B成分Tfbhを演算する。具体的には、操舵角F/B制御部84は、角度偏差Δθsを入力とする比例要素、積分要素及び微分要素のそれぞれの出力値の和を、基礎反力トルクとして演算する。このように演算された操舵角F/B成分Tfbhは、加算器85に出力される。
【0045】
そして、目標反力トルク演算部62は、加算器85において入力トルク基礎成分Tb*に操舵角F/B成分Tfbhを加算した値を目標反力トルクTs*として演算する。
次に、反力成分演算部82の構成について説明する。
【0046】
図4に示すように、反力成分演算部82は、配分軸力演算部91と、エンド反力演算部92と、障害物当て反力演算部93とを備えている。配分軸力演算部91は、転舵輪5を転舵させるべく動作するラック軸22に作用する軸力に応じた軸力成分として、配分軸力Fdを演算する。エンド反力演算部92は、ステアリングホイール3の操舵角θhの絶対値が限界舵角に近づく場合に、更なる切り込み操舵を規制するための反力であるエンド反力Fieを演算する。障害物当て反力演算部93は、転舵輪5が転舵により縁石等の障害物に当たっている状況になる場合に、転舵輪5を障害物に向けて転舵させる操舵を規制するための反力である障害物当て反力Foを演算する。そして、反力成分演算部82は、配分軸力Fdに対してエンド反力Fie及び障害物当て反力Foのうちの絶対値が大きい反力を加算して反力成分Firを演算して出力する。
【0047】
詳しくは、配分軸力演算部91は、電流軸力Ferを演算する電流軸力演算部101と、角度軸力Fibを演算する角度軸力演算部102とを備えている。なお、電流軸力Fer及び角度軸力Fibは、トルクの次元(N・m)で演算される。また、配分軸力演算部91は、転舵輪5を通じてラック軸22に作用する軸力が好適に反映されるように、角度軸力Fib及び電流軸力Ferを所定割合で配分して得られるラック軸22に作用する軸力を推定した演算上の軸力に相当する配分軸力Fdを演算する配分処理部103を備えている。
【0048】
電流軸力演算部101には、転舵側モータ32のq軸電流値Iqtが入力される。電流軸力演算部101は、q軸電流値Iqtに基づいて電流軸力Ferを演算する。電流軸力Ferは、転舵輪5を転舵させるべく動作するラック軸22に実際に作用する軸力、すなわちラック軸22に実際に伝達される軸力の推定値である。そして、電流軸力Ferは、車両の横方向への挙動に影響を与えない微小な凹凸や車両の横方向への挙動に影響を与える段差等の路面情報が反映される軸力として演算される。具体的には、電流軸力演算部101は、転舵側モータ32によってラック軸22に加えられるトルクと、転舵輪5を通じてラック軸22に加えられる力に応じたトルクとが釣り合うとして、q軸電流値Iqtの絶対値が大きくなるほど、電流軸力Ferの絶対値が大きくなるように演算する。このように演算された電流軸力Ferは、乗算器105に出力される。
【0049】
角度軸力演算部102には、目標転舵対応角である目標操舵角θh*及び車速Vが入力される。角度軸力演算部102は、目標操舵角θh*及び車速Vに基づいて角度軸力Fibを演算する。角度軸力Fibは、任意に設定する車両のモデルにより規定される軸力の理想値である。そして、角度軸力Fibは、上記路面情報が反映されない軸力として演算される。具体的には、角度軸力演算部102は、目標操舵角θh*の絶対値が大きくなるほど、角度軸力Fibの絶対値が大きくなるように演算する。また、角度軸力演算部102は、車速Vが大きくなるにつれて角度軸力Fibの絶対値が大きくなるように演算する。このように演算された角度軸力Fibは、ガード処理部200に出力される。
【0050】
ガード処理部200には、角度軸力Fib及び車速Vが入力される。ガード処理部200は、角度軸力Fib及び車速Vと、調整後の角度軸力Fib´との関係を定めた角度軸力調整マップを備えており、角度軸力Fib及び車速Vを入力とし、調整後の角度軸力Fib´をマップ演算する。角度軸力調整マップは、角度軸力Fibが過大とならないようにガード処理をするために機能するマップである。
【0051】
図5に示すように、角度軸力調整マップは、角度軸力Fibの絶対値を小さい領域、中程度の領域、及び大きい領域の3つの領域に分類した場合に、小さい領域及び中程度の領域では角度軸力Fibが大きいほど調整後の角度軸力Fib´が線形的に大きくなるように設定されている。また、角度軸力調整マップは、角度軸力Fibの絶対値が大きい領域では調整後の角度軸力Fib´の絶対値が予め決められた制限値Flimに維持されるように設定されている。制限値Flimは、車速Vが大きいほど大きな値となるように設定されている。なお、制限値Flimは、調整後の角度軸力Fib´に基づいて演算される反力成分Firの値、すなわち目標反力トルクTs*の値が過大とならないような範囲の値として、試験やシミュレーション等に基づいて設定されている。そして、ガード処理部200は、角度軸力調整マップを用いたマップ演算を通じて車速Vに応じた角度軸力Fibの調整を行う。このように演算された調整後の角度軸力Fib´は、乗算器106に出力される。
【0052】
配分処理部103には、車速Vに加え、電流軸力Fer及び調整後の角度軸力Fib´が入力される。配分処理部103は、車速Vに基づいて電流軸力Ferと角度軸力Fib´とを配分するためのそれぞれの配分比率である配分ゲインGer,Gibを演算する配分ゲイン演算部107を備えている。本実施形態の配分ゲイン演算部107は、車速Vと配分ゲインGer,Gibとの関係を定めた配分ゲインマップを備えており、車速Vを入力とし、配分ゲインGer,Gibをマップ演算する。配分ゲインGibは、車速Vが大きい場合に小さい場合よりも値が小さくなり、配分ゲインGerは車速Vが大きい場合に小さい場合よりも値が大きくなる。つまり、角度軸力Fibは、車速Vが大きくなるほど配分軸力Fdにおける配分割合が小さくなり、電流軸力Ferは、車速Vが大きくなるほど配分軸力Fdにおける配分割合が大きくなる。
【0053】
特に、配分ゲインGerは、車速Vが停車を含む低車速の場合にゼロ値となる。この場合、電流軸力Ferは、配分割合がゼロ値、すなわち配分軸力Fdに配分されないことを示す。また、配分ゲインGibは、上記低車速に対して十分に大きい高車速の場合にゼロ値となる。この場合、角度軸力Fibは、配分割合がゼロ値、すなわち配分軸力Fdに配分されないことを示す。つまり、本実施形態の配分割合は、電流軸力Fer及び角度軸力Fibのいずれかしか配分軸力Fdに配分しないゼロ値の概念を含む。なお、配分ゲインGer,Gibは、これらの和が「1」となるように値が演算される。このように演算された配分ゲインGerは乗算器105に出力され、配分ゲインGibは乗算器106に出力される。
【0054】
配分処理部103は、乗算器105において電流軸力Ferに配分ゲインGerを乗算して得られる値と、乗算器106において角度軸力Fibに配分ゲインGibを乗算して得られる値とを、加算器108において足し合わせて配分軸力Fdを演算する。このように演算された配分軸力Fdは、加算器94に出力される。
【0055】
エンド反力演算部92には、目標転舵対応角である目標操舵角θh*が入力される。エンド反力演算部92は、目標操舵角θh*とエンド反力Fieとの関係を定めたエンド反力マップを備えており、目標操舵角θh*を入力とし、エンド反力Fieをマップ演算する。エンド反力マップは、目標操舵角θh*の絶対値が閾値角度θie以下の場合にエンド反力Fieとしてゼロ値が演算され、目標操舵角θh*が閾値角度θieを超える場合にエンド反力Fieとして絶対値がゼロ値よりも大きい値が演算される。
【0056】
なお、エンド反力Fieは、目標操舵角θh*が閾値角度θieを超えてある程度大きくなると、人の力ではそれ以上の切り込み操舵ができないほどに大きな絶対値となるように設定されている。エンド反力Fieは、目標操舵角θh*が閾値角度θieを超えてある程度大きくなると、目標操舵角θh*に比例してその値が急激に大きくなる高勾配軸力である。また、閾値角度θieは、ラックエンド25がラックハウジング23に当接することでラック軸22の軸方向移動が規制される機械的なラックエンド位置よりも中立位置側に設けられた仮想ラックエンド位置での転舵対応角θpの値に設定されている。このように演算されたエンド反力Fieは、反力選択部95に出力される。
【0057】
障害物当て反力演算部93には、q軸電流値Iqtに加え、減算器96において操舵角θhから転舵対応角θpを差し引くことにより得られる角度偏差Δθx、及び転舵対応角θpを微分することにより得られる転舵速度ωtが入力される。本実施形態の障害物当て反力演算部93は、これらの状態量に基づいて障害物当て反力Foを付与すべき状況に対する近似度合いを示す障害物当てゲインGoを演算する。障害物当て反力演算部93は、障害物当てゲインGoと障害物当て反力Foとの関係を定めた障害物当て反力マップを備えており、障害物当てゲインGoを入力とし、障害物当て反力Foをマップ演算する。
【0058】
障害物当て反力マップは、障害物当てゲインGoがゼロ値の場合に障害物当て反力Foがゼロ値となり、障害物当てゲインGoに比例して障害物当て反力Foが緩やかに大きくなる。そして、障害物当てゲインGoがゲイン閾値Gthよりも大きくなると、障害物当てゲインGoに比例して障害物当て反力Foが急激に大きくなる。なお、ゲイン閾値Gthは、転舵輪5が転舵により障害物に当たっている状況と判断しても差し支えない範囲の値であり、試験やシミュレーション等に基づいて設定されている。また、障害物当て反力Foは、障害物当てゲインGoがゲイン閾値Gthを超えてある程度大きくなると、人の力ではそれ以上の切り込み操舵ができないほどに大きな絶対値となるように設定されている。障害物当て反力Foは、障害物当てゲインGoがゲイン閾値Gthよりも大きくなると、障害物当てゲインGoに比例してその値が急激に大きくなる高勾配軸力である。これにより、障害物当てゲインGoがゲイン閾値Gth以下の領域では、障害物当て反力Foにより転舵輪5のタイヤ部分のみが障害物に当たった際の反力を再現している。これの反力は、転舵輪5のゴムの弾性成分に基づく特性と、転舵輪5が接続されている車両のサスペンションの弾性成分に基づく特性とに依存するものであり実験的に求めることができる。また、障害物当てゲインGoがゲイン閾値Gthよりも大きな領域では、障害物当て反力Foにより転舵輪5のホイール部分が障害物に当たった際の反力を再現している。このように演算された障害物当て反力Foは、反力選択部95に出力される。
【0059】
反力選択部95には、エンド反力Fie及び障害物当て反力Foに加え、操舵角θhを微分することにより得られる操舵速度ωhが入力される。反力選択部95は、エンド反力Fie及び障害物当て反力Foのうちの絶対値が大きい反力を選択し、該反力の符号、すなわち方向を操舵速度ωhに示される符号とした値を選択反力Fslとして加算器94に出力する。
【0060】
そして、反力成分演算部82は、加算器94において上記配分軸力Fdに選択反力Fslを加算して得られる値を反力成分Firとして目標操舵角演算部83に出力する。
本実施形態の作用を説明する。
【0061】
車両が走行している場合には、運転者がステアリングホイール3を操舵して車両の旋回中に、後輪と路面との間の摩擦力よりも遠心力が大きくなる状態に陥ることがある。このような状態は、凍結路等の低摩擦路で特に生じやすい。この場合、車両は運転者がステアリングホイール3を操舵した以上に、車両が旋回する側に向くオーバーステアの状態になる。こうしたオーバーステアの状態において、運転者は、車両の態勢を立てなおすべく、車両が旋回する側と反対側にステアリングホイール3を操舵する、所謂、カウンターステアを行ったりする。ここで、角度軸力Fibは、ステアリングホイール3の操舵角θhに基づき得られる目標操舵角θh*に応じたものとなる。このため、カウンターステアを行うことでステアリングホイール3の操舵角θhがエンド当てに近いような大きい角度になると、角度軸力Fibは過大となり、当該角度軸力Fibを反映して演算される反力成分Firが大きくなる。そして、こうした反力成分Firに基づいて目標反力トルクTs*を演算すると、ステアリングホイール3に付与する操舵反力が過大になるおそれがある。
【0062】
この点、本実施形態では、ガード処理部200によって、角度軸力Fibが過大とならないようにガード処理がなされる。つまり、反力成分Firには、角度軸力演算部102を通じて得られた角度軸力Fibではなく、ガード処理部200によってガード処理された調整後の角度軸力Fib´が反映される。これにより、カウンターステアが行われる状況であっても、反力成分Fir、当該反力成分Firに基づき演算される目標反力トルクTs*が過大となりにくくなる。したがって、ステアリングホイール3に付与する操舵反力が過大になることが抑制されるようになる。
【0063】
本実施形態の効果を説明する。
(1)ガード処理部200によって角度軸力Fibが過大とならないようにガード処理がなされることから、カウンターステアが行われる状況では、ステアリングホイール3の操舵を運転者が重く感じにくくなり、操舵フィーリングの低下を抑えることができる。
【0064】
(2)ガード処理部200では、ガード処理をするために制限値Flimを設定すればよいので、角度軸力Fibを制限したい値に好適に制限することができる。
(3)本実施形態では、角度軸力調整マップにより角度軸力Fibが過大とならないように調整することができるため、当該ガード処理に関わる構成を簡素化することができる。
【0065】
(4)本実施形態では、角度軸力調整マップにより角度軸力Fibを調整するため、同マップの形状を変更することで、車両の仕様等に応じた最適な操舵反力を容易に実現できる。
【0066】
(5)例えば、車両が高速で走行していると、ラック軸22に作用する軸力が大きくなるため、該路面反力を考慮すると角度軸力Fibが大きくなるように設定することが好ましい。これは、カウンターステアが行われる状況であっても同様である。この点を踏まえ、本実施形態では、車速Vに基づいて制限値Flimを調整するため、カウンターステアが行われる状況で操舵反力が過大になることが抑制されるなかで適切な操舵反力を付与できる。
【0067】
上記実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・ガード処理部200は、角度軸力調整マップによるマップ演算の機能の代わりに、角度軸力Fibの絶対値と、制限値Flimとの比較を通じて出力する値を選択する機能を有するようにしてもよい。この場合、ガード処理部200は、角度軸力Fibの絶対値が制限値Flim以下の場合に角度軸力演算部102を通じて得られる角度軸力Fibを出力する選択状態とする。一方、ガード処理部200は、角度軸力Fibの絶対値が制限値Flimよりも大きい場合に制限値Flimとする角度軸力Fibを出力する選択状態とする。また、ガード処理部200は、角度軸力Fibの絶対値を小さくする側に所定のオフセット量だけオフセットすることで、角度軸力Fibの絶対値を制限値Flim以下の値とする機能を有するようにしてもよい。この場合、ガード処理部200は、角度軸力Fibの絶対値が制限値Flim以下の場合に角度軸力演算部102を通じて得られる角度軸力Fibを出力する状態とする。一方、ガード処理部200は、角度軸力Fibの絶対値が制限値Flimよりも大きい場合に所定のオフセット量だけオフセットした角度軸力Fibを出力する状態とする。
【0068】
・制限値Flimは、車速Vに応じて変更しなくてもよい。また、制限値Flimは、例えば、横加速度、ヨーレート等、他のパラメータに応じて変更してもよく、この場合には車速Vをパラメータに加えてもよい。
【0069】
・操舵側モータ13の制御では、操舵トルクThや反力成分Firに基づき演算される目標操舵トルクに操舵トルクThを追従させるトルクフィードバック制御の実行により演算される値を入力トルク基礎成分Tb*として目標反力トルクTs*を演算してもよい。その他、操舵側モータ13の制御では、操舵角F/B制御を実行しないで、所謂、フィードフォワード制御で実現してもよい。この場合、目標反力トルクTs*は、操舵トルクThに基づき演算されるアシスト成分と、反力成分Firとに基づいて演算されるようにしてもよい。
【0070】
・配分処理部103は、車速V以外のパラメータに応じて電流軸力Fer及び角度軸力Fibの配分割合を変更してもよい。こうしたパラメータとしては、例えば車載のエンジン等の制御パターンの設定状態を示すドライブモード等を用いることができる。
【0071】
・障害物当て反力演算部93は、例えば、q軸電流値Iqt、角度偏差Δθx、及び転舵速度ωtとこれらに対応する各閾値との大小比較に基づいて障害物当て反力Foを付与すべき状況であるか否かを択一的に判定してもよい。
【0072】
・角度軸力演算部102は、操舵角θhや転舵対応角θpに基づいて角度軸力Fibを演算してもよく、また操舵トルクThや車速V等、他のパラメータを加味する等、他の方法で演算してもよい。
【0073】
・配分軸力Fdは、電流軸力Fer及び角度軸力Fibに加えて、他のパラメータに基づく軸力を配分してもよい。他のパラメータに基づく軸力としては、例えば、ヨーレート及び横加速度に基づいて演算される車両状態量軸力や、ラック軸22の軸力を検出する軸力センサの検出値に基づく軸力、あるいは転舵輪5に作用するタイヤ力に基づく軸力等を採用できる。
【0074】
・反力成分演算部82は、少なくとも角度軸力Fibを反力成分Firに反映させることができればよい。反力成分演算部82は、角度軸力Fibのみを反力成分Firに反映させる場合、電流軸力演算部101及び配分処理部103を削除することができる。
【0075】
・反力成分演算部82は、操舵を規制する反力成分として、エンド反力Fie又は障害物当て反力Foのいずれか一方を演算すればよい。反力成分演算部82は、操舵を規制する反力成分として、エンド反力Fie及び障害物当て反力Foとは生じる状況や条件が異なる反力をこれらに代えて設定したり、これらに追加して設定したりしてもよい。こうした上記生じる状況や条件が異なる反力としては、例えば、車載電源Bの電圧が低下し、転舵側モータ32により十分な転舵力を付与できない場合に付与する反力を採用できる。
【0076】
・上記式(1)では、車両のサスペンションやホイールアライメント等の仕様によって決定されるバネ係数Kを用いた、所謂バネ項を追加してモデル化したモデル式を利用して目標操舵角θh*を演算することもできる。
【0077】
・上記実施形態において、制御対象とする操舵装置2は、クラッチにより操舵部4と転舵部6との間の動力伝達路を分離可能な構造の操舵装置を制御対象としてもよい。
・上記実施形態において、操舵制御装置1は、1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、2)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、あるいは、3)それらの組み合わせ、を含む処理回路によって構成することができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわち非一時的なコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【符号の説明】
【0078】
1…操舵制御装置
2…操舵装置
3…ステアリングホイール
4…操舵部
5…転舵輪
6…転舵部
22…ラック軸
62…目標反力トルク演算部
102…角度軸力演算部
200…ガード処理部
Flim…制限値
Fib…角度軸力
Fir…反力成分
Ts*…目標反力トルク