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特許7609613水硬性組成物及びその製造方法、硬化物及びその製造方法、並びに水硬性組成物キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】水硬性組成物及びその製造方法、硬化物及びその製造方法、並びに水硬性組成物キット
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20241224BHJP
   C04B 14/02 20060101ALI20241224BHJP
   C04B 24/28 20060101ALI20241224BHJP
   C04B 24/34 20060101ALI20241224BHJP
   C04B 20/02 20060101ALI20241224BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20241224BHJP
   C08G 18/30 20060101ALI20241224BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20241224BHJP
   E04F 15/08 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/02 A
C04B24/28 Z
C04B24/34
C04B20/02 Z
B28C7/04
C08G18/30 020
C08G18/08 038
E04F15/08 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020195440
(22)【出願日】2020-11-25
(65)【公開番号】P2022083863
(43)【公開日】2022-06-06
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】593077951
【氏名又は名称】AGCポリマー建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚原 嵩
(72)【発明者】
【氏名】▲瀬▼川 翔
(72)【発明者】
【氏名】豊田 太輝
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-174433(JP,A)
【文献】特許第6786735(JP,B1)
【文献】特開2014-156359(JP,A)
【文献】特開2011-032458(JP,A)
【文献】特開2006-117467(JP,A)
【文献】特開2011-088820(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0002226(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
B28C 7/04-7/12
C08G 18/08-18/26
C08G 18/28-18/69
E04F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に1つより多い活性水素を有する活性水素含有化合物、1分子中に1つより多いイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物、水硬性セメント、粒子表面に親水性官能基を導入した表面処理顔料である水性無機粉体顔料、及び水を含む水硬性組成物。
【請求項2】
前記水硬性組成物の総質量に対して、前記水性無機粉体顔料が0.5~20質量%である、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
前記水硬性セメント100質量部に対して、前記活性水素含有化合物が5~5000質量部、かつ前記ポリイソシアネート化合物が10~200質量部である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
前記水性無機粉体顔料の含有量を、前記水性無機粉体顔料の規定量、前記水性無機粉体顔料の規定量の0.75倍、及び前記水性無機粉体顔料の規定量の1.5倍に変化させたときの、下記測定方法で求められる硬化物のΔE1及びΔE2がいずれも0.6以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
[ΔE1及びΔE2の測定方法]
(1)水性無機粉体顔料の含有量が規定量である水硬性組成物X、水性無機粉体顔料の含有量が規定量の0.75倍である水硬性組成物Y、水性無機粉体顔料の含有量が規定量の1.5倍である水硬性組成物Zを、それぞれ白色のスレート板(縦300mm、横300mm)の全面に、塗布量4kg/mとなるように塗布し、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気中で24時間放置して硬化物とする。
(2)各硬化物の全面を縦100mm、横100mmの正方形領域に9分割し、四隅の正方形領域を領域1~4とし、中央の正方形領域を領域5とする。
(3)領域1~5のそれぞれについて、色差計でL値、a値、b値を測定する。
(4)前記水硬性組成物Xの硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL01~L05、a値をそれぞれa01~a05、b値をb01~b05とし、前記水硬性組成物Yの硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL1~L5、a値をそれぞれa1~a5、b値をb1~b5とするとき、下記式(1)~(4)によりΔEを求めてΔE1とする。
L’={(L01-L1)+(L02-L2)+(L03-L3)+(L04-L4)+(L05-L5)}/5・・・式(1)
a’={(a01-a1)+(a02-a2)+(a03-a3)+(a04-a4)+(a05-a5)}/5・・・式(2)
b’={(b01-b1)+(b02-b2)+(b03-b3)+(b04-b4)+(b05-b5)}/5・・・式(3)
ΔE=(L’+a’+b’)1/2・・・式(4)
(5)前記水硬性組成物Xの硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL01~L05、a値をそれぞれa01~a05、b値をb01~b05とし、前記水硬性組成物Zの硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL1~L5、a値をそれぞれa1~a5、b値をb1~b5とするとき、前記式(1)~(4)によりΔEを求めてΔE2とする。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水硬性組成物の硬化物。
【請求項6】
床材である、請求項5記載の硬化物。
【請求項7】
1分子中に1つより多い活性水素を有する活性水素含有化合物及び水を含む第1の組成物と、1分子中に1つより多いイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物を含む第2の組成物と、水硬性セメントを含む第3の組成物と、粒子表面に親水性官能基を導入した表面処理顔料である水性無機粉体顔料とを混合する、水硬性組成物の製造方法。
【請求項8】
前記第1の組成物と前記第2の組成物と前記水性無機粉体顔料とを混合して予備混合物を調製し、得られた予備混合物と前記第3の組成物とを混合する、請求項7に記載の水硬性組成物の製造方法。
【請求項9】
前記水性無機粉体顔料として、前記水性無機粉体顔料が水溶性フィルムからなる水溶性容器に封入された顔料包装体を用いる、請求項7又は8に記載の水硬性組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の製造方法で水硬性組成物を製造し、得られた水硬性組成物を塗布し、硬化させる硬化物の製造方法。
【請求項11】
前記水硬性組成物を床に塗布する、請求項10に記載の硬化物の製造方法。
【請求項12】
1分子中に1つより多い活性水素を有する活性水素含有化合物及び水を含む第1の組成物を収容した第1の容器、
1分子中に1つより多いイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物を含む第2の組成物を収容した第2の容器、
水硬性セメントを含む第3の組成物を収容した第3の容器、及び
粒子表面に親水性官能基を導入した表面処理顔料である水性無機粉体顔料を収容した第4の容器を有する、水硬性組成物キット。
【請求項13】
前記第4の容器が、水溶性フィルムからなる水溶性容器に前記水性無機粉体顔料が封入された顔料包装体である、請求項12に記載の水硬性組成物キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物とその製造方法、前記水硬性組成物の硬化物とその製造方法、前記水硬性組成物の製造に用いる水硬性組成物キット及び顔料包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば塗り床材として、ウレタン樹脂とセメントを組み合わせたポリウレタン系水硬性組成物が知られている。特許文献1には、水硬性セメント、水、ポリオール及びポリイソシアネート化合物を、現場で混合して施工する方法が記載されている。この方法によれば、水硬性セメントと水との水和反応、ポリオールとポリイソシアネート化合物とのウレタン化反応、及び水とポリイソシアネート化合物とのウレア化反応が同時に進行し、硬くて耐摩耗性、耐熱性、耐薬品性等に優れる硬化物(床材)が得られる。
特許文献2では、樹脂とセメントを組み合わせた材料を着色する方法が提案されている。具体例として、予め水とアクリル系樹脂と顔料とを含む着色エマルションを調製し、これをセメント材料と混合して施工する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-169744号公報
【文献】特開平11-199296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等は、特許文献2に記載の方法をポリウレタン系水硬性組成物に応用することを試みた。すなわち、予め水とポリオールと顔料を含む着色エマルションを調製し、これとセメント材料及びポリイソシアネート化合物とを混合して施工する方法を試みたところ、顔料添加量の変化に伴う硬化物の色調の変動(色ブレともいう)が大きいことを知見した。
本発明は、硬化物の色ブレが小さいポリウレタン系水硬性組成物とその製造方法、前記水硬性組成物の硬化物とその製造方法、前記水硬性組成物の製造に用いる水硬性組成物キット及び顔料包装体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 1分子中に1つより多い活性水素を有する活性水素含有化合物、1分子中に1つより多いイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物、水硬性セメント、水性無機粉体顔料、及び水を含む水硬性組成物。
[2] 前記水硬性組成物の総質量に対して、前記水性無機粉体顔料が0.5~20質量%である、[1]の水硬性組成物。
[3] 前記水硬性セメント100質量部に対して、前記活性水素含有化合物が5~5000質量部、かつ前記ポリイソシアネート化合物が10~200質量部である、[1]又は[2]の水硬性組成物。
[4] 前記水性無機粉体顔料の含有量を、前記水性無機粉体顔料の規定量、前記水性無機粉体顔料の規定量の0.75倍、及び前記水性無機粉体顔料の規定量の1.5倍に変化させたときの、下記測定方法で求められる硬化物のΔE1及びΔE2がいずれも0.6以下である、[1]~[3]のいずれかの水硬性組成物。
[ΔE1及びΔE2の測定方法]
(1)水性無機粉体顔料の含有量が規定量である水硬性組成物X、水性無機粉体顔料の含有量が規定量の0.75倍である水硬性組成物Y、水性無機粉体顔料の含有量が規定量の1.5倍である水硬性組成物Zを、それぞれ白色のスレート板(縦300mm、横300mm)の全面に、塗布量4kg/mとなるように塗布し、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気中で24時間放置して硬化物とする。
(2)各硬化物の全面を縦100mm、横100mmの正方形領域に9分割し、四隅の正方形領域を領域1~4とし、中央の正方形領域を領域5とする。
(3)領域1~5のそれぞれについて、色差計でL値、a値、b値を測定する。
(4)前記水硬性組成物Xの硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL01~L05、a値をそれぞれa01~a05、b値をb01~b05とし、前記水硬性組成物Yの硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL1~L5、a値をそれぞれa1~a5、b値をb1~b5とするとき、下記式(1)~(4)によりΔEを求めてΔE1とする。
L’={(L01-L1)+(L02-L2)+(L03-L3)+(L04-L4)+(L05-L5)}/5・・・式(1)
a’={(a01-a1)+(a02-a2)+(a03-a3)+(a04-a4)+(a05-a5)}/5・・・式(2)
b’={(b01-b1)+(b02-b2)+(b03-b3)+(b04-b4)+(b05-b5)}/5・・・式(3)
ΔE=(L’+a’+b’)1/2・・・式(4)
(5)前記水硬性組成物Xの硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL01~L05、a値をそれぞれa01~a05、b値をb01~b05とし、前記水硬性組成物Zの硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL1~L5、a値をそれぞれa1~a5、b値をb1~b5とするとき、前記式(1)~(4)によりΔEを求めてΔE2とする。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかの水硬性組成物の硬化物。
[6] 床材である、[5]の硬化物。
[7] 1分子中に1つより多い活性水素を有する活性水素含有化合物及び水を含む第1の組成物と、1分子中に1つより多いイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物を含む第2の組成物と、水硬性セメントを含む第3の組成物と、水性無機粉体顔料とを混合する、水硬性組成物の製造方法。
[8] 前記第1の組成物と前記第2の組成物と前記水性無機粉体顔料とを混合して予備混合物を調製し、得られた予備混合物と前記第3の組成物とを混合する、[7]の水硬性組成物の製造方法。
[9] 前記水性無機粉体顔料として、前記水性無機粉体顔料が水溶性フィルムからなる水溶性容器に封入された顔料包装体を用いる、[7]又は[8]の水硬性組成物の製造方法。
[10] 前記[7]~[9]のいずれかの製造方法で水硬性組成物を製造し、得られた水硬性組成物を塗布し、硬化させる硬化物の製造方法。
[11] 前記水硬性組成物を床に塗布する、[10]の硬化物の製造方法。
[12] 1分子中に1つより多い活性水素を有する活性水素含有化合物及び水を含む第1の組成物を収容した第1の容器、
1分子中に1つより多いイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物を含む第2の組成物を収容した第2の容器、
水硬性セメントを含む第3の組成物を収容した第3の容器、及び
水性無機粉体顔料を収容した第4の容器を有する、水硬性組成物キット。
[13] 前記第4の容器が、水溶性フィルムからなる水溶性容器に前記水性無機粉体顔料が封入された顔料包装体である、[12]の水硬性組成物キット。
[14] 水溶性フィルムからなる水溶性容器に、水性無機粉体顔料が封入された顔料包装体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、硬化物の色ブレが小さいポリウレタン系水硬性組成物とその製造方法、前記水硬性組成物の硬化物とその製造方法、前記水硬性組成物の製造に用いる水硬性組成物キット及び顔料包装体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例における測定結果を示すグラフであり、横軸は顔料の添加量、縦軸はΔEを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
本明細書において、数平均分子量(以下、「Mn」ともいう。)は、分子量既知の標準ポリスチレン試料を用いて作成した検量線を用い、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)で測定して得られるポリスチレン換算分子量である。
【0009】
本明細書において、水性無機粉体顔料の平均一次粒子径は、レーザー回折法による粒度分布計により測定される体積基準のメジアン径である。
例えば、水で希釈した試料をMicrotrac MT3000(マイクロトラック社製)で測定する方法が挙げられる。
【0010】
本明細書において「水溶性フィルム」とは、下記の測定方法で得られる、水温5℃における溶解率及び水温35℃における溶解率が、いずれも95~100%であるフィルムを意味する。
<溶解率の測定方法>
下記の方法で、サンプル温度tが5℃で水の温度Tが5℃のときの溶解率(以下、「5℃溶解率」ともいう)と、サンプル温度tが35℃で水の温度Tが35℃のときの溶解率(以下、「35℃溶解率」ともいう)を求める。
測定対象の水溶性フィルムを、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中に24時間静置したものをサンプルとする。サンプルを、縦2cm、横2cmの試験片に切り分け、10枚の試験片の合計の質量(W0:単位g)を測定する。
容量100mLのビーカーに試験片と、T℃の水50mLを投入し、マグネチックスターラー及び撹拌子(7mm×20mm)を用い、300rpm10分間撹拌する。
撹拌終了後、予め質量を測定したステンレス製200メッシュフィルター(質量W1:単位g)で濾過した後、メッシュフィルターを80℃で1時間乾燥させる。その後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中に15時間静置した後のメッシュフィルターの質量(W2:単位g)を測定し、下式(1)により溶解率を求める。
溶解率(単位:%)=[W0-(W2-W1)]/W0×100 ・・・(1)
【0011】
<水硬性組成物>
本実施形態の水硬性組成物は、活性水素含有化合物、ポリイソシアネート化合物、水硬性セメント、水性無機粉体顔料、及び水を含む。さらにその他の成分を含んでもよい。
【0012】
[活性水素含有化合物]
活性水素含有化合物は、1分子中に1つより多い活性水素を有する。本明細書において活性水素含有化合物は「水」を含まない。
水硬性組成物中の活性水素含有化合物は1種でもよく、2種以上でもよい。1種である場合、活性水素含有化合物は1分子中に2個以上の活性水素を有する。2種以上である場合、1分子当たりの活性水素の平均数が1を超える。
【0013】
活性水素含有化合物は、水酸基又はアミノ基を有する化合物が好ましい。1級アミノ基は活性水素を2個有し、2級アミノ基は活性水素を1個有する。
活性水素含有化合物としては、アルコール、多価アルコール、アミン、アルカノールアミン、ポリエーテルモノオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ヒマシ油又はその誘導体、ポリブタジエン系ポリオールが例示できる。
【0014】
アルコールは炭素数1~6のアルコールが好ましい。メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノールが例示できる。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、シュークロースが例示できる。
アミンは脂肪族アミンが好ましい。エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンが例示できる。
アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、N,N-ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノエトキシエタノール、N,N’,N’-トリメチル-N-アミノエチルエタノールアミンジエタノールアミン、トリエタノールアミンが例示できる。
【0015】
ポリエーテルモノオールは、前記アルコールを開始剤として、後述のアルキレンオキシドの1種以上を開環付加した化合物が好ましい。
ポリエーテルポリオールは、前記多価アルコール又は前記アルカノールアミンを開始剤として、後述のアルキレンオキシドの1種以上を開環付加した化合物が好ましい。
前記アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシドが例示できる。アルキレンオキシドとして、プロピレンオキシド、又はプロピレンオキシドとエチレンオキシドとの併用が好ましい。
【0016】
ポリエステルポリオールは、ポリカルボン酸と前記多価アルコールの1種以上を反応させて得られる化合物が好ましい。
前記ポリカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸が例示できる。
ジカルボン酸と2価アルコールを反応させて得られるポリエステルジオールがより好ましい。
【0017】
活性水素含有化合物は、疎水性と反応性の観点から、ヒマシ油、ヒマシ油誘導体、ポリエーテルポリオール、及びポリエステルポリオールからなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。特に、ヒマシ油及びヒマシ油誘導体のいずれか一方又は両方を含むことがより好ましい。
活性水素含有化合物のMnは、流動性の観点から、300~3000が好ましく、400~2500がより好ましく、500~2000がさらに好ましい。
活性水素含有化合物の1分子当たりの活性水素の平均数は2~5が好ましい。
【0018】
[ポリイソシアネート化合物]
ポリイソシアネート化合物は、1分子中に1つより多いイソシアネート基を有する。
水硬性組成物中のポリイソシアネート化合物は1種でもよく、2種以上でもよい。1種である場合、ポリイソシアネート化合物は1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する。2種以上である場合、1分子当たりのイソシアネート基の平均数が1を超える。
ポリイソシアネート化合物は、低分子量ポリイソシアネート化合物又はイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーが好ましい。
【0019】
低分子量ポリイソシアネート化合物としては、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、これらの変成体が例示できる。
脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートが例示できる。
脂環式ジイソシアネートとしては、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、イソホロンジイソシアネートが例示できる。
芳香族ジイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、キシリレンジイソシアネートが例示できる。
変成体としては、ウレチジオン変成体、ヌレート変成体、カルボジイミド変成体、ビュレット変成体が例示できる。
【0020】
イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーは、前記低分子量ポリイソシアネート化合物と、多価アルコールとを、イソシアネート基が過剰となる条件下で反応させて得られる化合物が好ましい。
多価アルコールは、前記活性水素含有化合物としての多価アルコールと同様のものが例示できる。その中でもポリエーテルポリオールが好ましい。
イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーのMnは500~10,000が好ましく、500~2,000がより好ましい。
【0021】
ポリイソシアネート化合物としては、反応性、作業性の観点から、前記低分子量ポリイソシアネート化合物が好ましく、芳香族ジイソシアネート又は脂環式ジイソシアネートがより好ましく、ポリメリックMDIがさらに好ましい。
【0022】
[水硬性セメント]
水硬性セメントは、水と混和することにより硬化又は凝結する。公知の水硬性セメントを使用できる。ポルトランドセメントが好ましい。
ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントが例示できる。反応性、作業性の観点から、普通ポルトランドセメントが好ましい。硬化物の色調を調整しやすい点で、白色普通ポルトランドセメント(白色セメント)がより好ましい。
【0023】
[水性無機粉体顔料]
水性無機粉体顔料は、無機粉体顔料を表面改質処理して、粒子表面に親水性官能基を導入した表面処理顔料である。水性無機粉体顔料は水との親和性を有し、水中に安定して分散できる。水性無機粉体顔料は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機粉体顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、アルミ酸コバルトが例示できる。
親水性官能基としては、カルボキシ基、スルホ基、カルボニル基、ヒドロキシ基が例示できる。親水性官能基は塩を形成していてもよい。
【0024】
表面改質処理は公知の方法を使用できる。例えば酸化剤(例えば次亜塩素酸塩)を用いて、液相で酸化処理する方法を使用できる。
又は、顔料をスルホン化反応溶剤に分散させ、スルホン化剤を用いてスルホン酸基を導入する方法(例えば、特開平8-283596号公報、特開平10-110110号公報、特開平10-110111号公報、特開平10-110114号公報に記載の方法)を使用できる。
水性無機粉体顔料の平均一次粒子径は0.01~100.0μmが好ましく、0.02~50.0μmがより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、より分散しやすく均一に発色しやすく、上限値以下であると色の鮮明度が発現しにくい。
水性無機粉体顔料を2種以上併用する場合、それぞれの平均一次粒子径が上記の範囲内であることが好ましい。
【0025】
水性無機粉体顔料は市販品を用いてもよく、STC-295(レジノカラー工業社製品名)、EMFカラー、リオファストSFカラー(いずれもトーヨーカラー社製品名)、NAFカラー、AFカラー、MFカラー、WAカラー、セシウムソーブ(いずれも大日精化工業社製品名)が例示できる。
【0026】
[その他の成分]
その他の成分として、骨材、セメント減水剤、可塑剤、消泡剤、炭酸ガス吸収剤が例示できる。
骨材としては、公知の無機骨材又は公知の有機骨材を使用できる。骨材は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
無機骨材としては川砂、ケイ砂などの天然ケイ酸質材料、ガラス、セラミックス、電融アルミナ、炭化ケイ素などの無機材料の粉砕物、ガラスバルーン、シラスバルーンなどの中空材料が例示できる。
有機骨材としては、プラスチックの粉砕物が例示できる。
骨材は、染料又は顔料を用いて着色したものでもよい。
【0027】
骨材の平均粒子径(個数基準のメジアン径)は、塗り広げ作業性の点からは0.05~4mmが好ましい。骨材を2種以上用いる場合、それぞれの骨材の平均粒子径が上記範囲内であることが好ましい。塗り広げ作業性を損なわない範囲で、平均粒子径が0.05mm以下の微小なガラス、セラミックス、シラスバルーンを併用してもよい。
【0028】
セメント減水剤は、水硬性セメントの粒子と分散媒との界面に作用して、分散安定性を向上させる界面活性剤としての役割を果たす成分である。水硬性組成物の流動性向上、施工性及び作業性の改善にも寄与する。
セメント減水剤として公知の化合物を使用できる。具体的に、ナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物系減水剤、メラミンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、ポリスチレンスルホン酸系減水剤、フェノールホルムアルデヒド縮合物系減水剤、アニリンスルホン酸系減水剤が例示できる。
【0029】
可塑剤としては、フタル酸ジオクチル、フタル酸ブチルベンジル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、安息香酸グリコールエステル、アルキルスルホン酸フェニルエステル、オクチル酸グリコールエステルが例示できる。
【0030】
[含有量]
水硬性組成物の総質量に対して、水性無機粉体顔料は0.5~20質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましく、2~12質量%がさらに好ましく、4~10質量%が特に好ましい。上記範囲の下限値以上であると着色力及び隠ぺい力が良好となりやすく、上限値以下であると顔料が凝集しにくく、色むらが発生しにくい。
水硬性セメント100質量部に対して、活性水素含有化合物の含有量は、5~5000質量部が好ましく、10~100質量部がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると硬化物の良好な外観が得られやすい。上限値以下であると硬化物の良好な強度が得られやすい。
水硬性セメント100質量部に対して、ポリイソシアネート化合物の含有量は、10~200質量部が好ましく、50~100質量部がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると硬化物の良好な表面硬度が得られやすい。上限値以下であると水硬性組成物の良好な流動性が得られやすい。
水硬性セメント100質量部に対して、水分含有量は5~500質量部が好ましく、10~100質量部がより好ましく、10~50質量部がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると水硬性組成物の良好な流動性が得られやすい。上限値以下であると硬化物の良好な外観が得られやすい。
【0031】
水硬性組成物が骨材を含む場合、水硬性セメント100質量部に対して、骨材の含有量は10~10000質量部が好ましく、25~5000質量部がより好ましく、100~1000質量部がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると、硬化収縮の抑制効果が充分に得られやすい。上限値以下であると良好な塗り広げ作業性が得られやすい。
水硬性組成物がセメント減水剤を含む場合、水硬性セメント100質量部に対して、セメント減水剤の含有量は、0.01~20質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると水硬性組成物の良好な流動性が得られやすい。上限値以下であると硬化物の良好な外観が得られやすい。
【0032】
<水硬性組成物の製造方法>
水硬性組成物は、活性水素含有化合物、ポリイソシアネート化合物、水硬性セメント、水性無機粉体顔料、水、及び必要に応じたその他の成分を混合して得られる。水性無機粉体顔料の種類及び添加量の一方又は両方によって、硬化物の色調を調整できる。
【0033】
水硬性組成物は、水硬性セメントと水との水和反応、活性水素含有化合物とポリイソシアネート化合物とのウレタン化反応、及びポリイソシアネート化合物と水とのウレア化反応が生じることによって硬化が進む。
したがって、少なくとも、水硬性セメントと水との混合、活性水素含有化合物とポリイソシアネート化合物との混合、及びポリイソシアネート化合物と水との混合は、施工現場で行うことが好ましい。活性水素含有化合物と水とは予め混合しておいてもよい。
【0034】
好ましくは、活性水素含有化合物及び水を含む第1の組成物と、ポリイソシアネート化合物を含む第2の組成物と、水硬性セメントを含む第3の組成物と、水性無機粉体顔料とを別々に用意し、これらを混合して水硬性組成物を製造する。第2の組成物は水を含まない液体であり、第3の組成物及び水性無機粉体顔料は粉体である。
水硬性組成物がその他の成分を含む場合、骨材は水硬性セメントとともに前記第3の組成物に含有させることが好ましい。セメント減水剤、可塑剤、消泡剤及び炭酸ガス吸収剤は、水とともに第1の組成物に含有させることが好ましい。
【0035】
前記第1~3の組成物及び水性無機粉体顔料を混合する順番は、まず、第1の組成物と第2の組成物と水性無機粉体顔料とを混合して予備混合物を調製し、得られた予備混合物と第3の組成物とを混合して水硬性組成物を得る方法が、顔料の分散性の点で好ましい。
【0036】
例えば、第1~第3の組成物及び水性無機粉体顔料を、後述の水硬性組成物キットの形態で用意してもよい。
水性無機粉体顔料を後述の顔料包装体の形態で用いることが好ましい。顔料包装体は、水溶性フィルムからなる水溶性容器に水性無機粉体顔料が封入されている。顔料包装体を開封せずに、水を含む液に投入すると、水溶性容器が水に溶解して水性無機粉体顔料が液中に分散する。顔料包装体を用いると、施工現場で水性無機粉体顔料を計量しなくても所定量を添加できる。また、水性無機粉体顔料の添加量の再現性にも優れる。
【0037】
<硬化物の製造方法>
水硬性組成物を製造した後、硬化が進行する前に施工対象に塗布し、その後放置することによって硬化物が得られる。
施工対象は、例えば建築物の壁、床が例示できる。塗布方法は施工対象に応じて公知の方法を適用できる。塗布量は、得ようとする硬化物の厚みに応じて設定できる。
【0038】
水硬性組成物の硬化物は、硬くて、耐摩耗性、耐熱性、耐薬品性等に優れ、床材又は壁材に好適である。例えば、食品工場、化学工場、機械工場などの床材又は壁材に好適である。特に床材に好適である。
水硬性組成物の硬化物からなる床材の厚みは、耐衝撃性、強度及び意匠性の観点から、設定することが好ましい。例えば1~50mmが好ましく、2~20mmがより好ましい。
【0039】
本実施形態の水硬性組成物は、水性無機粉体顔料を含むポリウレタン系水硬性組成物であり、後述の実施例に示されるように、顔料添加量の変化に伴う色調の変動(色ブレ)が小さい硬化物が得られる。したがって、施工現場において顔料添加量がばらついた場合でも、美観を一定の水準に保つことができる。
【0040】
具体的には、水性無機粉体顔料の含有量を、規定量、規定量の0.75倍、及び規定量の1.5倍に変化させたときの、下記測定方法で求められる硬化物のΔE1及びΔE2が小さい水硬性組成物を実現できる。ΔE1及びΔE2が小さいほど、顔料添加量の変化に伴う色調の変動(色ブレ)が小さいことを意味する。
顔料の規定量とは、一般社団法人日本塗料工業会発行2019年K版塗料用標準色に近似となるように設定した顔料の添加量のことである。
例えば、市販のレジノカラー工業社製品名「STC-295」を水硬性セメント100質量部に対して10質量部加えることで、色票番号K39-40Lに近似した色味(グリーン)を達成することができる。また、市販の石原産業社製品名「タイペークR-830」、チタン工業社製品名「TAROX YM-1100」を使用した場合には、水硬性セメント100質量部に対してタイペークR-830を2.12質量部 TAROX YM-1100を7.88質量部加えることで、色票番号K19-60Tに近似した色味(イエロー)を達成することができる。市販のランクセス社製品名「バイフェロックス110」を使用した場合には、水硬性セメント100質量部に対して10質量部加えることで、色票番号K07-30Lに近似した色味(レッド)を達成することができる。市販の石原産業社製品名「タイペークR-830」、チタン工業社製品名「TAROX YM-1100」、ランクセス社製品名「酸化クロムGN」を使用した場合には、水硬性セメント100質量部に対してタイペークR-830を3.0質量部 TAROX YM-1100を0.87質量部 酸化クロムGNを6.13重量部加えることで、色票番号K37-50Lに近似した色味(ライトグリーン)を達成することができる。市販の石原産業社製品名「タイペークR-830」、チタン工業社製品名「TAROX YM-1100」、ランクセス社製品名「バイフェロックス318」を使用した場合には、水硬性セメント100質量部に対してタイペークR-830を7.5質量部 TAROX YM-1100を2.45質量部 バイフェロックス318を0.05質量部加えることで、色票番号K19-70Lに近似した色味(ベージュ)を達成することができる。市販の石原産業社製品名「タイペークR-830」、チタン工業社製品名「TAROX YM-1100」、旭産業社製品名「Black6350」を使用した場合には、水硬性セメント100質量部に対してタイペークR-830を7.1質量部 TAROX YM-1100を0.3質量部 Black6350を2.6質量部加えることで、色票番号K25―50Bに近似した色味(グレー)を達成することができる。
本実施形態の水硬性組成物においては、色票番号K39-40Lに近似した色味となる添加量を規定量とする。また、近似した色味とは、K39-40LとのL、a、bの値の差の絶対値ΔEが0~20である場合をいう。
色ブレ抑制に優れる点で、ΔE1及びΔE2がいずれも0.6以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましい。
【0041】
[ΔE1及びΔE2の測定方法]
(1)水性無機粉体顔料の含有量が規定量である水硬性組成物X、水性無機粉体顔料の含有量が規定量の0.75倍である水硬性組成物Y、水性無機粉体顔料の含有量が規定量の1.5倍である水硬性組成物Zを、それぞれ白色のスレート板(縦300mm、横300mm)の全面に、塗布量4kg/mとなるように塗布し、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気中で24時間放置して硬化物とする。
(2)各硬化物の全面を縦100mm、横100mmの正方形領域に9分割し、四隅の正方形領域を領域1~4とし、中央の正方形領域を領域5とする。
(3)領域1~5のそれぞれについて、色差計でL値、a値、b値を測定する。
(4)前記水硬性組成物Xの硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL01~L05、a値をそれぞれa01~a05、b値をb01~b05とし、前記水硬性組成物Yの硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL1~L5、a値をそれぞれa1~a5、b値をb1~b5とするとき、下記式(1)~(4)によりΔEを求めてΔE1とする。
L’={(L01-L1)+(L02-L2)+(L03-L3)+(L04-L4)+(L05-L5)}/5・・・式(1)
a’={(a01-a1)+(a02-a2)+(a03-a3)+(a04-a4)+(a05-a5)}/5・・・式(2)
b’={(b01-b1)+(b02-b2)+(b03-b3)+(b04-b4)+(b05-b5)}/5・・・式(3)
ΔE=(L’+a’+b’)1/2・・・式(4)
(5)前記水硬性組成物Xの硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL01~L05、a値をそれぞれa01~a05、b値をb01~b05とし、前記水硬性組成物Zの硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL1~L5、a値をそれぞれa1~a5、b値をb1~b5とするとき、前記式(1)~(4)によりΔEを求めてΔE2とする。
【0042】
<水硬性組成物キット>
本実施形態の水硬性組成物キットは、前記第1の組成物を収容した第1の容器、前記第2の組成物を収容した第2の容器、前記第3の組成物を収容した第3の容器、及び前記水性無機粉体顔料を収容した第4の容器を有する。
各容器内の成分を全部混合することによって、所望の組成の水硬性組成物が得られるように設計すると、施工現場で各成分を計量せずに添加でき、各成分の添加量の再現性にも優れる点で好ましい。
【0043】
第1の容器及び第2の容器に使用する容器は、液体を収容して密閉できる容器であればよい。プラスチックフィルムからなる袋状の容器が例示できる。容器の形状は特に限定されない。例えば液体を入れた状態で自立するスタンディングパウチの形状でもよい。
第3の容器に使用する容器は、粉体を収容でき、防湿性を有する容器であればよい。セメント用クラフト紙袋が例示できる。
第4の容器に使用する容器は、液体を収容して密閉できる容器であればよい。容器自体が水溶性であってもよい。プラスチックフィルムからなる袋状の容器、後述の水溶性フィルムからなる水溶性容器が例示できる。第4の容器として後述の顔料包装体を用いることが好ましい。
【0044】
<顔料包装体>
本実施形態の顔料包装体は、水溶性フィルムからなる水溶性容器と、前記水溶性容器に封入された水性無機粉体顔料とを有する。
【0045】
[水溶性フィルム]
水溶性容器を構成する水溶性フィルムは、包装材料としての強度及び物性安定性を有する水溶性フィルムであればよい。公知の水溶性フィルムから適宜選択して使用できる。
水溶性フィルムは水溶性高分子の1種以上を含む。さらに任意の添加剤を含んでもよい。
【0046】
水溶性高分子は、天然高分子、半合成高分子、合成高分子のいずれでもよい。
合成高分子としては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、変性ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシドが例示できる。
半合成高分子としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが例示できる。
天然高分子としては、グアガム、カラギーナン、アルギン酸、デンプン、デンプン誘導体、デキストリン、キサンタンガム、プルラン、キトサン、ゼラチンが例示できる。
【0047】
水溶性高分子は上記に例示した化合物に限定されず、水溶性フィルムを構成する水溶性高分子として公知の化合物を使用できる。
例えば、特開2018-31015号公報の段落0011に水溶性樹脂として例示されている高分子化合物を用いることができる。
水溶性フィルムに含まれる添加剤は、特開2020-12117号公報の段落0021に例示されている可塑剤、界面活性剤が例示できる。
【0048】
水溶性フィルムの厚さは、該フィルムの強度と水溶性の観点から、材質に応じて、設定できる。例えば1~100μmが好ましく、10~70μmがより好ましい。
【0049】
顔料包装体は、例えば、2枚の水溶性フィルムの間に、所定量の水性無機粉体顔料を保持した状態で、前記水性無機粉体顔料の周囲の水溶性フィルムどうしを接着して封止する方法で製造できる。水溶性フィルムどうしは、例えばヒートシールする方法で接着できる。
【実施例
【0050】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
<評価方法>
[L値、a値、b値、ΔEの測定方法]
各例で得られた硬化物(縦300mm、横300mm)の全面を、縦100mm、横100mmの正方形領域に9分割し、四隅の正方形領域(領域1~4とする)及び中央の正方形領域(領域5とする)のそれぞれについて、色差計(MINOLTA社製品名:SPECTROPHOTOMETER CM-2600d)を用いてL値、a値、b値を測定した。L値、a値、b値の測定対象は、各領域1~5における中央部の円形領域(直径8mm)とした。
顔料の添加量が規定量の1.0倍であるときの領域1~5の、L値をそれぞれL01~L05、a値をそれぞれa01~a05、b値をb01~b05とし、顔料の添加量が規定量でないときの領域1~5の、L値をそれぞれL1~L5、a値をそれぞれa1~a5、b値をb1~b5とするとき、下記式(1)~(4)によりΔEを求めた。ΔEが小さいほど顔料の添加量が規定量であるときの色調と、顔料の添加量が規定量でないときの色調との差が小さいことを意味する。
L’={(L01-L1)+(L02-L2)+(L03-L3)+(L04-L4)+(L05-L5)}/5・・・式(1)
a’={(a01-a1)+(a02-a2)+(a03-a3)+(a04-a4)+(a05-a5)}/5・・・式(2)
b’={(b01-b1)+(b02-b2)+(b03-b3)+(b04-b4)+(b05-b5)}/5・・・式(3)
ΔE=(L’+a’+b’)1/2・・・式(4)
【0052】
[外観の評価方法]
各例で得られた硬化物の表面の光沢度を、光沢度計(スガ試験機社、品番:HG-268、測定角度:60度)で測定した。測定値が80以上のものを「〇」とし、80未満のものを「×」と判定した。
【0053】
以下の例で使用した原料は次のとおりである。
活性水素含有化合物1:ひまし油、Mn約840、1分子当たりの活性水素の平均数2.7。
ポリイソシアネート化合物1:ポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、Mn約630。
水硬性セメント1:白色ポルトランドセメント(白色セメント)。
水性無機粉体顔料1:レジノカラー工業社製品名「STC-295」、表面が親水化処理された酸化クロム顔料、平均一次粒子径0.3μm、規定量は水硬性セメント100質量部に対して10質量部。
比較の顔料1:LANXESS 社製品名「COLORTHERM Green GN」(酸化クロムグリーン、一次粒子径0.3μm、表面が親水化処理されていない無機粉体顔料)、規定量は水硬性セメント100質量部に対して10質量部。
可塑剤1:フタル酸ブチルベンジル(無水)。
減水剤1:ポリカルボン酸系減水剤(固形分30質量%の水溶液)。
消泡剤1:ポリシロキサン系消泡剤(固形分100質量%)。
【0054】
以下の例1-1~1-5及び4~6は実施例、例2-1~2-5及び例3-1~3-5は比較参考例である。
【0055】
[例1-1]
本例は水性無機粉体顔料1の添加量を規定量(水硬性セメント100質量部に対して10質量部)とした例である。
表1に示す配合で、活性水素含有化合物1、可塑剤1、減水剤1、消泡剤1及び水(添加水)を撹拌混合して第1の組成物を調製した。
第2の組成物として、ポリイソシアネート化合物1を用意した。
第3の組成物として、水硬性セメント1を用意した。
66質量部の第1の組成物、66質量部のポリイソシアネート化合物1、10質量部の水性無機粉体顔料1に100質量部の水硬性セメント1を加え、撹拌装置(PRIMIX社製品名:ラボ・リューション)を使用し、回転数2500rpm、撹拌時間1分間の条件で撹拌し、混合して水硬性組成物を得た。
得られた水硬性組成物を、白色のスレート板(縦300mm、横300mm)の全面に、塗布量4kg/mとなるように塗布し、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気中で24時間放置して硬化物を得た。
上記の方法で硬化物の5箇所(領域1~5)について、L値(L01~L05)、a値(a01~a05)、b値(b01~b05)をそれぞれ測定した。結果を表4に示す。
また、上記の方法で硬化物の外観を評価した。結果を表4に示す。
【0056】
[例1-2~1-5]
例1-1において、水性無機粉体顔料1の添加量を、下記のとおりに変更した以外は、例1-1と同様にして硬化物を製造した。例1-2~1-5の配合を表1に示す。
例1-2:5質量部(例1-1の0.5倍)
例1-3:7.5質量部(例1-1の0.75倍)
例1-4:12.5質量部(例1-1の1.25倍)
例1-5:15質量部(例1-1の1.5倍)
各例において、上記の方法で硬化物の5箇所(領域1~5)について、L値(L1~L5)、a値(a1~a5)、b値(b1~b5)をそれぞれ測定し、ΔEを求めた。結果を表4に示す。
【0057】
[例2-1]
例1-1において、水性無機粉体顔料1を用いず、比較の顔料1を含む顔料分散液を用いた。例2-1の配合を表2に示す。
比較の顔料1を含む顔料分散液は、第1の組成物に配合する可塑剤1の一部に、第1の組成物に配合する比較の顔料1を濃度50質量%となるように添加するととともに、不飽和ポリカルボン酸系分散剤(共栄社化学社製品名「フローレンG-100SF」)を濃度0.5質量%となるように添加し、混合して調製した。なお、表2の組成に分散剤は含まれていない。
本例では、表2に示す配合となるように、活性水素含有化合物1、可塑剤1(顔料分散液の分散媒を含む)、減水剤1、消泡剤1、比較の顔料1(顔料分散液中の顔料)及び水(添加水)を撹拌混合して第1の組成物を調製した。
76質量部の第1の組成物、及び66質量部のポリイソシアネート化合物1に、100質量部の水硬性セメント1を加え、例1-1と同じ条件で撹拌混合して水硬性組成物を得た。例1-1と同様にして硬化物を製造し、評価した。結果を表5に示す。
【0058】
例1-1で得られた硬化物の色調と、例2-1で得られた硬化物の色調の差の指標として、下記の方法でΔE3を求めたところ2.64であった。
例1-1で得られた硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL01~L05、a値をそれぞれa01~a05、b値をb01~b05とし、例2-1で得られた硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL1~L5、a値をそれぞれa1~a5、b値をb1~b5とし、前記式(1)~(4)を用いて△Eを求め、△E3とした。△E3が小さいほど色調の差が小さいことを意味する。
【0059】
[例2-2~2-5]
例2-1において、比較の顔料1の添加量を、下記のとおりに変更した以外は、例2-1と同様にして硬化物を製造し、評価した。例2-2~2-5の配合を表2に示す。
例2-2:5質量部(例2-1の0.5倍)
例2-3:7.5質量部(例2-1の0.75倍)
例2-4:12.5質量部(例2-1の1.25倍)
例2-5:15質量部(例2-1の1.5倍)
各例において、上記の方法で硬化物の5箇所(領域1~5)について、L値(L1~L5)、a値(a1~a5)、b値(b1~b5)をそれぞれ測定し、ΔEを求めた。結果を表5に示す。
【0060】
[例3-1]
例1-1において、水性無機粉体顔料1の代わりに比較の顔料1を粉体の状態で用いた以外は、例1-1と同様にして硬化物を製造し、評価した。例3-1の配合を表3に示す。評価結果を表6に示す。
【0061】
例1-1で得られた硬化物の色調と、例3-1で得られた硬化物の色調の差の指標として、下記の方法で△E4を求めたところ1.11であった。
例1-1で得られた硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL01~L05、a値をそれぞれa01~a05、b値をb01~b05とし、例3-1で得られた硬化物の領域1~5の、L値をそれぞれL1~L5、a値をそれぞれa1~a5、b値をb1~b5とし、前記式(1)~(4)を用いて△Eを求め、△E4とした。△E4が小さいほど色調の差が小さいことを意味する。
【0062】
[例3-2~3-5]
例3-1において、比較の顔料1の添加量を、下記のとおりに変更した以外は、例3-1と同様にして硬化物を製造し、評価した。例2-2~2-5の配合を表2に示す。
例3-2:5質量部(例3-1の0.5倍)
例3-3:7.5質量部(例3-1の0.75倍)
例3-4:12.5質量部(例3-1の1.25倍)
例3-5:15質量部(例3-1の1.5倍)
各例において、上記の方法で硬化物の5箇所(領域1~5)について、L値(L1~L5)、a値(a1~a5)、b値(b1~b5)をそれぞれ測定し、ΔEを求めた。結果を表6に示す。
【0063】
図1は、上記の各例の測定結果を示したグラフである。横軸は顔料の添加量(単位:質量部)を示し、縦軸は顔料の添加量が10質量部(規定量)であるときを0とするΔEを示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
表4~6及び図1の結果に示されるように、水性無機粉体顔料1を用いた例1-1~1-5の水硬性組成物は、例2-1~2-5又は例3-1~3-5に比べて、顔料添加量の変化に伴う硬化物の色調の変動(色ブレ)が低減した。
【0071】
[例4:顔料包装体の製造例]
水溶性フィルムは、クラレポバールフィルムVF-H(株式会社クラレ社製品名、水溶性高分子としてポリビニルアルコールを含み、厚さが35μmであり、5℃溶解率が100%かつ35℃溶解率が100%のフィルム)を用いた。
前記水溶性フィルム(5cm×5cm)の2枚の間に、前記水性無機粉体顔料1(STC-295)の10gを挟みこみ、前記水溶性フィルムの4辺をヒートシールにより封止して顔料包装体を作成した。
【0072】
[例5:水硬性組成物キットの製造例]
本例においては水硬性セメント1の6.0kgを100質量部とした。第1の容器及び第2の容器には、PET製フィルムからなるスタンディングパウチ容器を用いた。第3の容器にはセメント用クラフト紙袋を用いた。
表1の例1-1に示す配合で、活性水素含有化合物1、可塑剤1、減水剤1、消泡剤1及び水を撹拌混合して4.0kg(66質量部)の第1の組成物を調製し、前記スタンディングパウチ容器に収容して第1の容器とした。
4.0kg(66質量部)のポリイソシアネート化合物1からなる第2の組成物を、前記スタンディングパウチ容器に収容して第2の容器とした。
6.0kg(100質量部)の水硬性セメント1からなる第3の組成物を、セメント用クラフト紙袋に収容して第3の容器とした。
前記例4の方法で、水性無機粉体顔料1の0.6kg(10質量部)を10gずつ封入した顔料包装体60個を製造し、第4の容器とした。
前記第1の容器、前記第2の容器、前記第3の容器及び前記第4の容器を組み合わせて水硬性組成物キットとした。
【0073】
[例6:水硬性組成物キットを用いた硬化物の製造例]
例5で得た水硬性組成物キットを用いて硬化物を製造した。
混合容器に、第1の容器の内容物の全量と、第2の容器の内容物の全量を投入し、さらに第4の容器である顔料包装体の60個を開封せず投入し、撹拌装置(RYOBI社製品名、パワーミキサーPMT-1362A)を用い、回転数1300rpm、撹拌時間1分間の条件で混合して予備混合物を調製した。
得られた予備混合物に第3の容器の内容物の全量を加え、前記撹拌装置を用い、回転数1300rpm、撹拌時間2分間の条件で混合して水硬性組成物を得た。
得られた水硬性組成物を、コンクリート製の床面に、塗布量6kg/mとなるように塗布し、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気中で24時間放置して硬化物(床材)を得た。
図1