(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】ステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241224BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241224BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20241224BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20241224BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D113:00
B62D117:00
(21)【出願番号】P 2021007131
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】飯田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】松田 哲
(72)【発明者】
【氏名】安部 健一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一馬
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-161198(JP,A)
【文献】特開2009-056888(JP,A)
【文献】特開2015-058753(JP,A)
【文献】特開平11-049010(JP,A)
【文献】特開2007-030804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の操作力によって操作される操作部材と、
その操作部材を操作可能に保持するとともに、その操作部材の操作に対する反力である操作反力を付与する操作装置と、
駆動源を有して車輪を転舵する転舵装置と、
その転舵装置を制御することで、前記操作部材の操作に応じた車輪の転舵を実現させ、前記操作装置を制御することで、操作反力を制御するコントローラと
を備えたステアバイワイヤ型のステアリングシステムであって、
前記操作装置と前記転舵装置とのそれぞれが2系統とされることで、当該ステアリングシステムが2系統とされ、前記コントローラが、その2系統の各々を制御し、かつ、その2系統の各々が、前記操作力を検出するセンサを有し、
前記コントローラが、
当該ステアリングシステムの2系統の各々に対して、前記操作反力を、
前記転舵装置の2系統のうちの対応する系統の車輪の転舵に対する負荷に依拠した成分である転舵負荷依拠成分と、
2系統のうちの対応する系統が有する前記センサによって検出された前記操作力に応じて減少させるための操作力依拠減少成分とを加算することで決定し、かつ、
2系統の一方の前記センサが失陥した場合には、当該ステアリングシステムの2系統のうちのその失陥したセンサが属する一方の系統の作動を停止させて、他方の系統だけの作動を許容し、2系統の両方の前記センサが失陥した場合には、前記操作力依拠減少成分を0とし、前記転舵負荷依拠成分を制限
しつつ、当該ステアリングシステムの2系統の両方の作動を許容するように構成されたステアリングシステム。
【請求項2】
前記操作力依拠減少成分が、いわゆるパワーステアリングシステムにおけるアシスト力を模した成分であり、前記操作力が大きい程大きな値に決定される請求項1に記載のステアリングシステム。
【請求項3】
前記転舵装置の前記駆動源が電動モータであり、
前記転舵負荷依拠成分が、前記電動モータに供給されている電流に基づいて、その電流が大きい程大きな値に決定される請求項1に記載のステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるステアバイワイヤ型のステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、運転者が操作部材に与える操作力に依らずに、駆動源を備えた転舵装置によって、その操作部材の操作に応じた車輪の転舵を行うシステム、いわゆるステアバイワイヤ型のステアリングシステム(以下、「ステアバイワイヤシステム」という場合がある)の開発が盛んである。ステアバイワイヤシステムは、操作部材と車輪とが機械的に連結されていないため、何らかの部位に失陥が生じた際に、その失陥に適切に対処することが望まれる。例えば、下記特許文献に記載されたステアバイワイヤシステムでは、冗長系を採用することで、失陥に対処している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステアバイワイヤシステムにおける失陥への対応については、改善の余地が多分に残されており、改善により、ステアバイワイヤシステムの実用性を向上させることが可能である。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いステアバイワイヤシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のステアリングシステムは、
運転者の操作力によって操作される操作部材と、
その操作部材を操作可能に保持するとともに、その操作部材の操作に対する反力である操作反力を付与する操作装置と、
駆動源を有して車輪を転舵する転舵装置と、
その転舵装置を制御することで、前記操作部材の操作に応じた車輪の転舵を実現させ、前記操作装置を制御することで、操作反力を制御するコントローラと
を備えたステアバイワイヤ型のステアリングシステムであって、
前記操作装置と前記転舵装置とのそれぞれが2系統とされることで、当該ステアリングシステムが2系統とされ、前記コントローラが、その2系統の各々を制御し、かつ、その2系統の各々が、前記操作力を検出するセンサを有し、
前記コントローラが、
当該ステアリングシステムの2系統の各々に対して、前記操作反力を、前記転舵装置の2系統のうちの対応する系統の車輪の転舵に対する負荷に依拠した成分である転舵負荷依拠成分と、2系統のうちの対応する系統が有する前記センサによって検出された前記操作力に応じて減少させるための操作力依拠減少成分とを加算することで決定し、かつ、
2系統の一方の前記センサが失陥した場合には、当該ステアリングシステムの2系統のうちのその失陥したセンサが属する一方の系統の作動を停止させて、他方の系統だけの作動を許容し、2系統の両方の前記センサが失陥した場合には、前記操作力依拠減少成分を0とし、前記転舵負荷依拠成分を制限しつつ、当該ステアリングシステムの2系統の両方の作動を許容するように構成される。
【発明の効果等についての説明】
【0006】
本発明のステアバイワイヤシステムにおいて、操作装置が付与する操作反力は、上述のように、転舵負荷依拠成分と、操作力依拠減少成分とを含んでいる。ステアバイワイヤシステムではないステアリングシステムでは、転舵輪とステアリングホイール等のステアリング操作部材とが機械的に連結されており、車輪の転舵の負荷は運転者に伝達される。転舵負荷依拠成分は、その負荷を模した成分である。また、いわゆるパワーステアリングシステムでは、運転者の操作力が何らかの動力によってアシストされて車輪の転舵が行われるため、そのアシストの分だけ、操作反力が小さくなる。操作力依拠減少成分は、そのアシストを模した成分である。つまり、本ステアリングシステムは、ステアリング操作において運転者が受ける操作感が、パワーステアリングの操作感に類似したものとなる。なお、本ステアリングシステムにおける操作反力は、転舵負荷依拠成分,操作力依拠減少成分以外の別の成分が含まれていてもよい。
【0007】
パワーステアリングシステムにおける上記アシストは、一般的には、例えば、ステアリングシャフトを構成するトーションバーの捩じれ量によって運転者の操作力を検出し、その検出した操作力に基づいて、その操作力に応じた大きさで行われる。本ステアリングシステムにおける操作力依拠減少成分も、運転者の操作力に基づいて決定すればよい。しかしながら、例えば、操作力を検出するためのセンサの失陥等によって操作力を検出できないときには、操作力依拠減少成分を発生させることができず、操作反力が大きくなり過ぎる。つまり、ステアリング操作が重くなったような印象を運転者に与えることとなる。
【0008】
そこで、本ステアリングシステムでは、操作力を検出できないときに、操作力依拠減少成分を0としつつ、転舵負荷依拠成分を制限するようにされている。つまり、操作力減少成分が無くなったことによる悪影響を緩和,軽減すべく、言い換えれば、良好な操作感を維持すべく、転舵負荷依拠成分が小さくされるのである。具体的には、例えば、転舵負荷にゲインを乗じて転舵負荷依拠成分を決定する際に、そのゲインを小さくしたり、また、例えば、転舵負荷依拠成分がある程度を超えて大きくならないようにガードを設ければよい。なお、転舵負荷依拠成分と操作力依拠減少成分とは、互いに正負の符号が逆になることから、「転舵負荷依拠成分と操作力依拠減少成分とを加算する」ことは、各成分の符号を問わない場合には、「転舵負荷依拠成分から操作力依拠減少成分を減算する」と考えることができる。
【0009】
なお、本発明のステアリングシステムは、例えば、転舵装置が、駆動源として2系統の転舵モータを有し、操作装置が、操作反力の力源として2系統の反力モータを有することで、2系統のシステムとして構成されたステアバイワイヤシステムに対して適用されることが望ましい。そのような2系統システムでは、2系統のうち1系統に失陥が生じている場合に、他の1系統を作動させることで、車輪の転舵が可能である。そのようなシステムにおいて、検出された操作力は、車輪の転舵に、原則として用いられない。したがって、操作力が検出できないようなときでも、操作力依拠減少成分を0としつつ転舵負荷依拠成分を制限することで、2系統の作動を維持しつつ、操作反力を適正なものとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例のステアリングシステムの全体構成を模式的に示す図である。
【
図2】ステアリング操作に対する反力の成分である転舵負荷依拠成分を決定するために用いられるマップである。
【
図3】実施例のステアリングシステムにおいて実行される操作プログラムのフローチャートである。
【
図4】実施例のステアリングシステムにおいて実行される転舵プログラムのフローチャートである。
【
図5】実施例のステアリングシステムにおいて実行される失陥対処プログラムのフローチャートである。
【
図6】操作プログラムを構成する操作反力決定処理サブルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の実施例であるステアリングシステムを、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【実施例】
【0012】
[A]ステアリングシステムの構成
車両に搭載される実施例のステアリングシステムは、
図1に模式的に示すように、それぞれが転舵輪である2つの車輪(前輪である)10を転舵するためのシステムであり、機械的に互いに独立した操作装置12および転舵装置14を備えたステアバイワイヤ型のステアリングシステムである。
【0013】
操作装置12は、a)運転者によって操舵操作(ステアリング操作)される操作部材としてのステアリングホイール20と、b)先端にそのステアリングホイール20が取り付けられたステアリングシャフト22と、c)そのステアリングシャフト22を回転可能に保持するとともに、インパネリインフォースメント(図示を省略)に支持されるステアリングコラム24と、d)そのステアリングコラム24に支持された電動モータである反力モータ26を力源として、操舵操作に対する反力(厳密には、反トルクであるが、以下、慣用されている「操作反力」という文言を用いることとする)FCTを、ステアリングシャフト22を介して、ステアリングホイール20に付与する反力付与機構28とを含んで構成されている。この反力付与機構28は、減速機等を含む一般的な構造のものであるため、反力付与機構28の具体的な構造についての説明は、省略する。
【0014】
反力モータ26は、3相のブラシレスDCモータであり、回転シャフトの外周に磁石が付設され、それら磁石と対向するようにハウジングにコイルが配設されている。反力モータは、1つの磁石に対して、2セットのコイルが配設された2系統モータである。以下、2系統の各々を、反力モータ26a,反力モータ26bと呼ぶ場合がある。反力モータ26a,26bの各々は、自身への電力供給における通電相の切換のために、それぞれ、1回転内における回転角(「相対角」,「位相」と考えることができる)ωを検出するためのモータ回転角センサ30a,30b(以下、「モータ回転角センサ30」と総称する場合がある)を、独自に有している。したがって、本操作装置12は、冗長系である2系統の装置(以下、「操作装置12a」,「操作装置12b」という場合がある)と考えることができる。
【0015】
操作装置12は、ステアリングホイール20の操作角δをステアリング操作量として検出する操作角センサ32を有している。ちなみに、車両の直進状態においてステアリングホイール20がとる姿勢を中立姿勢とした場合に、その中立姿勢からの左右方向それぞれへの回転角(「絶対角」と考えることができる)が、ステアリングホイール20の操作角δである。
【0016】
また、本ステアリングシステムでは、一般的ないわゆるパワーステアリングシステムと同様、ステアリングシャフト22に、トーションバー34が組み込まれており、そのトーションバー34の捩じれ量に基づいて、運転者によってステアリングホイール20に加えられる操作力としての操作トルクTqを検出するための操作トルクセンサ36a,36b(以下、「操作トルクセンサ36」と総称する場合がある)を有している。操作トルクセンサ36は、当該操作装置12の2系統に対応すべく、2つ設けられている。
【0017】
車輪10の各々は、ステアリングナックル40を介して転向可能に車体に支持されている。転舵装置14は、ステアリングナックル40を回動させることで、車輪10の各々を一体的に転舵する。転舵装置14は、主要構成要素として、転舵アクチュエータ42を有している。転舵アクチュエータ42は、a)両端がリンクロッド44を介して左右のステアリングナックル40にそれぞれ連結されるステアリングロッド46と、b)そのステアリングロッド46を左右に移動可能に支持するとともに、車体に固定的に保持されたハウジング48と、c)電動モータである転舵モータ50を駆動源として、ステアリングロッド46を左右に移動させるためのロッド移動機構52とを含んで構成されている。ロッド移動機構52は、ステアリングロッド46に螺設されたボール溝と、そのボール溝とベアリングボールを介して螺合するとともに転舵モータ50によって回転させられるナットとによって構成されるボールねじ機構を主体とするものであり、一般的な構造のものであるため、ロッド移動機構52についてのここでの詳しい説明は省略する。
【0018】
なお、転舵モータ50も、反力モータ26と同様、2系統の3相ブラシレスDCモータであり、2系統の各々を、転舵モータ50a,転舵モータ50bと呼ぶ場合があることとする。転舵モータ50a,50bの各々は、自身への電力供給における通電相の切換のために、それぞれ、1回転内における回転角(「相対角」,「位相」と考えることができる)νを検出するためのモータ回転角センサ54a,54b(以下、「モータ回転角センサ52」と総称する場合がある)を、独自に有している。したがって、本転舵装置14は、冗長系である2系統の装置(以下、「転舵装置14a」,「転舵装置14b」という場合がある)と考えることができる。ちなみに、転舵モータ50a,50bは、それぞれ、自身に実際に供給されている電流ISを検出するための電流センサ56a,56b(以下、「電流センサ56」と総称する場合がある)をも、独自に有している。
【0019】
ちなみに、転舵装置14は、ステアリングロッド46の中立位置(車両の直進状態において位置する位置)からの左右それぞれへの移動量を検出することで、車輪10の転舵量としての転舵角θを検出するための転舵角センサ58を有している。
【0020】
操作装置12の制御、詳しくは、操作反力FCTの制御、すなわち、操作装置12の反力モータ26の制御は、当該操作装置12の2系統に対応して、それぞれのコントローラである操作コントローラとしての操作電子制御ユニット(以下、「操作ECU」と言う場合がある)60a,60bによって実行される。以下、操作ECU60a,60bを、操作ECU60と総称することがあることとする。各操作ECU60は、CPU,ROM,RAM等を有するコンピュータや、反力モータ26のドライバ(駆動回路)であるインバータ等によって構成されている。
【0021】
同様に、転舵装置14の制御、詳しくは、転舵角θの制御、すなわち、転舵装置14の転舵モータ50の制御は、当該転舵装置14の2系統に対応して、それぞれのコントローラである転舵コントローラとしての転舵電子制御ユニット(以下、「転舵ECU」と言う場合がある)62a,62bによって実行される。以下、転舵ECU62a,62bを、転舵ECU62と総称することがあることとする。各転舵ECU62は、CPU,ROM,RAM等を有するコンピュータや、転舵モータ50のドライバ(駆動回路)であるインバータ等によって構成されている。
【0022】
操作装置12a,転舵装置14a,操作ECU60a,転舵ECU62aが、1系統を、また、操作装置12b,転舵装置14b,操作ECU60b,転舵ECU62bが、別の1系統を構成することで、当該ステアリングシステムは、2系統のステアリングシステムを構成する。そのため、操作装置12aと転舵装置14aとは、専用通信線64aによって繋がれ、操作装置12bと転舵装置14bとは、専用通信線64bによって繋がれている(以下、専用通信線64a,64bを、「専用通信線64」と総称する場合がある)。また、別系統の操作装置12,転舵装置14間の通信を可能とするため、各操作装置12,転舵装置14は、共通通信線としてのCAN(car area network or controllable area network)66に接続されている。
【0023】
また、後に詳しく説明するが、本ステアリングシステムは、当該ステアリングシステムの2つの系統を統括するための統括コントローラとしての統括電子制御ユニット(以下、「統括ECU」と言う場合がある)68を有している。統括ECU68は、コンピュータを主要構成要素とするものであり、その統括ECU68も、CAN66に接続されている。なお、2つの操作ECU60,2つの転舵ECU62,統括ECU68によって、本ステアリングシステムの1つのコントローラが構成されていると考えることもできる。
【0024】
[B]ステアリングシステムの制御
(a)通常時の制御
実施例のステアリングシステムでは、一般的なステアバイワイヤ型のステアリングシステムと同様に、操舵操作に応じた車輪の転舵制御(以下、単に「転舵制御」と略す場合がある)と、操作反力の制御(以下、単に「反力制御」という場合がある)とを実行する。先に説明したように、本ステアリングシステムは2系統のシステムであり、通常時、すなわち、いずれの系統にも失陥が生じていないときには、それぞれが、並行して転舵制御,反力制御を実行する。以下に、通常時に、各系統で実行される転舵制御,反力制御についてである基本反力制御,反力変更処理について順次説明し、その後に、それらの制御のフローを簡単に説明する。
【0025】
i)転舵制御
転舵制御は、ステアリングホイール20に対する操舵操作に応じた車輪10の転舵を実現させるための制御である。詳しく言えば、ステアリングホイール20の操作角δに応じた転舵角θに車輪10を転舵する制御である。操作ECU60は、ステアリングホイール20の操作角δを、反力モータ26のモータ回転角センサ30を介して検出されたモータ回転角ωに基づいて取得する。当該車両の始動時に、操作角センサ30によって検出された操作角δを基にモータ回転角ωのキャリブレーションが行われており、以後の転舵制御では、そのモータ回転角ωに所定のギヤ比を乗じることによって、ステアリングホイール20の操作角δを取得する
【0026】
操作ECU60は、取得した操作角δに、設定されているステアリングギヤ比RGを乗ずることによって、車輪10の転舵角θの目標となる目標転舵角θ*を決定する。
θ*=RG×δ
操作ECU60は、その決定した目標転舵角θ*に関する情報を、専用通信線64を介して、同系統の転舵ECU62に送信する。
【0027】
一方で、転舵ECU62は、専用通信線64を介して、目標転舵角θ*に関する情報を、同系統の操作ECU60から受信するとともに、その目標転舵角θ*に基づいて、転舵モータ50のモータ回転角νの目標である目標モータ回転角ν*を決定する。車輪10の転舵角θと転舵モータ50のモータ回転角νは、所定のギヤ比となる関係にあり、当該車両の始動時に、操舵角センサ58を介して検出された転舵角θを基にモータ回転角νのキャリブレーションが行われる。以後の転舵制御は、転舵角θに代えてモータ回転角νを用いて行われる。
【0028】
転舵ECU62は、モータ回転角センサ54を介して、転舵モータ50の実際のモータ回転角νを検出し、目標モータ回転角ν*に対するモータ回転角νの偏差であるモータ回転角偏差Δνを、次式に従って決定する。
Δν=ν*-ν
そして転舵ECU62は、モータ回転角偏差Δνに基づくフィードバック制御則に従って、つまり、次式に従って、転舵モータ50に供給する電流ISを決定する。ちなみに、下記式の第1項,第2項,第3項は、それぞれ、比例項,積分項,微分項であり、GP,GI,GDは、それぞれ、比例項ゲイン,積分項ゲイン,微分項ゲインである。
IS=GP×Δν+GI×∫Δνdt+GD×dΔν/dt
転舵ECU62は、決定した電流ISを、転舵モータ50に供給する。なお、詳しい説明は省略するが、転舵ECU62は、実際に転舵モータ50に供給されている電流ISを、電流センサ56を介して検出しており、転舵モータ50への供給電流ISを、フィードバック制御の手法に従って制御する。
【0029】
ii)反力制御
反力制御は、運転者にステアリング操作に対する操作感を付与するための制御である。反力制御においては、操作ECU60は、操作反力FCTを、2つの成分である転舵負荷依拠成分FS,操作力依拠減少成分FAに基づいて、次式に従って決定する。
FCT=FS-FA
【0030】
転舵負荷依拠成分F
Sは、車輪10を転舵するために必要な転舵力に関する成分であり、転舵モータ50に供給されている電流I
Sに基づいて、
図2(a)に示すマップを参照して決定される。このマップに従えば、電流I
Sが大きい程、車輪10の転舵負荷が大きいと認識され、転舵負荷依拠成分F
Sが大きな値に決定される。ちなみに、転舵モータ50に実際に供給されている電流I
Sに関する情報は、転舵ECU62から、専用通信線64を介して、同系統の操作ECU60に送られる。
【0031】
一方、操作力依拠減少成分FAは、いわゆるパワーステアリングシステムにおける操作感を運転者に付与するための成分と考えることができる。パワーステアリングシステムでは、一般的には、操作トルクTqに応じたアシストトルクを、ステアリングシャフト22に付与するようにされている。そのアシストトルクを模すようにして、操作力依拠減少成分FAは、次式に従って決定される。
FA=β×Tq
ちなみに、βは、操作力依拠減少成分FAを決定するためのゲインであり、操作ECU60は、操作トルクセンサ36を介して、操作トルクTqを検出する。
【0032】
以上のようにして決定した操作反力FCTに基づき、操作ECU60は、反力モータ26に供給する電流ICを、次式に従って決定し、その決定した電流ICを、反力モータ26に供給する。
IC=α×FCT
ちなみに、αは、設定されている電流決定係数である。
【0033】
iii)転舵制御,反力制御に関する変形例
本ステアリングシステムでは、2系統のいずれもが、同じ転舵制御,同じ反力制御を、並行して実施しているが、2系統のいずれか一方を主系統とし、他方を補助系統として、2系統が、CAN66を介した通信を行いつつ、協働して転舵制御,反力制御を行うようにしてもよい。
【0034】
具体的には、例えば、主系統に含まれる操作ECU60によって決定された目標転舵角θ*を2つの転舵ECU62に送信し、2つの転舵ECU62の各々が、その目標転舵角θ*に基づいて転舵モータ50への供給電流ISを決定し、その電流ISを自身に対応する転舵モータ50に供給してもよい。また、例えば、主系統に含まれる転舵ECU62によって検出された転舵モータ50への供給電流ISと、主系統に含まれる操作ECU60によって検出された操作トルクTqとに基づいて、主系統に含まれる操作ECU60が、2つの系統の各々の反力モータ26に供給すべき電流ICを決定し、それら決定された電流ICを、2つの系統の各々の操作ECU60が、各々の系統の反力モータ26に供給するようにしてもよい。
【0035】
(b)失陥への対処
本ステアリングシステムは、2つの系統を有していることから、基本的には、一方の系統に失陥が生じても、他方の系統によって、転舵制御,反力制御が実行可能である。本ステアリングシステムは、先に説明したように、統括ECU68を有しており、失陥に関する情報は、各操作ECU60,各転舵ECU62から、その統括ECU68に送られ、その統括ECU68は、その失陥の種類によって、その失陥への対処法を選択して、各操作ECU60,各転舵ECU62に対処のための指示を与える。
【0036】
i)基本的な失陥への対処
操作装置12の2系統のうちの1系統、若しくは、転舵装置14の2系統のうちの1系統が作動し得ない失陥が生じている場合、つまり、2系統の一方が作動し得ない失陥が生じている場合、失陥していない系統の1つの操作装置12と1つの転舵装置14によって、転舵制御,反力制御が実行される。2つの系統の一方の系統のいずれかのセンサが失陥している場合も、同様である。
【0037】
簡単な説明に留めるが、2系統の一方だけで、転舵制御,反力制御を実行したとしても、他方が作動しないことの悪影響を、ある程度カバーできる。具体的に言えば、2系統の転舵装置14の一方だけを用いて転舵制御を実行したとしても、上述した制御手法に従えば、モータ回転角偏差Δνが大きくなることで、転舵モータ50に供給される電流ISが大きくなることで、ある程度の転舵力は保証される。同様に、2系統の操作装置12の一方だけを用いて反力制御を実行したとしても、転舵モータ50に供給される電流ISが大きくなることで、その分操作反力FCTの転舵負荷依拠成分FSが大きくなることで、ある程度の操作反力は保証されることになる。
【0038】
なお、本実施例のステアリングシステムでは、基本的には、2系統のうち1系統に失陥が生じた場合に、他の1系統によって、転舵制御,反力制御を実行するようにされていたが、失陥が生じている1系統において、作動可能な部分については、作動させてもよい。具体的には、例えば、2系統の操作装置12のうちの一方に失陥が生じている場合、他方からの情報によって、2系統の転舵装置14の両方を作動させてもよい。逆に、例えば、2系統の転舵装置14のうちの一方に失陥が生じている場合、他方からの情報によって、2系統の操作装置12の両方を作動させてもよい。また、例えば、2系統のうちの1系統のいずれかのセンサが失陥している場合、他の系統の同じ機能のセンサの情報を用いて、2系統の両方を作動させてもよい。
【0039】
ii)特定の失陥への対応
例えば、特定のセンサの失陥、詳しくは、転舵制御に用いられないセンサの失陥であって、2系統の両方において失陥した場合について考える。具体的には、操作トルクTqを検出するための操作トルクセンサ36a,36bの両方が失陥して、操作トルクTqを全く検出できない場合について考える。トルクセンサ36a,36bは、それぞれ、操作ECU60a,60bに繋がっているが、その接続のためのコネクタが一体化され、接続線(リード線)は、一纏めの状態で配設されていることが多い。コネクタの抜け,接続線の断線等により、2つのトルクセンサ36a,36bの両方が失陥したとみなされ、操作トルクTqが全く検出できない状態となる。
【0040】
上述したように、操作トルクTqは、転舵制御には用いられない。また、反力制御においても、上記操作力依拠減少成分FAの決定において用いられるだけである。そこで、本ステアリングシステムでは、操作トルクTqが検出できないときには、2系統の両方を作動させつつ、つまり、操作装置12の2系統の両方、および、転舵装置14の2系統の両方を作動させつつ、操作反力FCTの決定において、操作力依拠減少成分FAを0とし、その分操作反力FCが大きくなることを軽減若しくは防止すべく、転舵負荷依拠成分FSを制限するようにされている。つまり、統括ECU68は、そのような作動,制御を実行するための指示を、2つの操作ECU60の各々、および、2つの転舵ECU62の各々に発令するようにされている。
【0041】
転舵負荷依拠成分F
Sの制限について具体的に説明すれば、各操作ECU60は、
図2(a)に示す通常転舵負荷依拠成分マップに代えて、
図2(b),(c),(d)に示す転舵負荷依拠成分制限マップのいずれかを参照して、転舵負荷依拠成分F
Sを決定する。
図2(b)に示すマップは、転舵負荷の増加に対する転舵負荷依拠成分F
Sの増加、つまり、転舵モータ50に供給されている電流I
Sの増加に対する転舵負荷依拠成分F
Sの増加の勾配を小さくする(ゲインを小さくする)ことで、転舵負荷依拠成分F
Sに制限を加えるためのマップである。
図2(c)に示すマップは、転舵負荷依拠成分F
Sに上限を設ける(ガードを設ける)ことで、転舵負荷依拠成分F
Sに制限を加えるためのマップである。
図2(d)に示すマップは、
図2(b),
図2(c)のマップを合成したマップ、つまり、転舵負荷依拠成分F
Sの増加の勾配を小さくし、かつ、転舵負荷依拠成分F
Sに上限を設けることで、転舵負荷依拠成分F
Sに制限を加えるためのマップである。なお、詳しい説明は省略するが、いずれの転舵負荷依拠成分制限マップを選択するかは、当該車両の車種,当該車両の走行状態等によって、予め決められている。
【0042】
操作力依拠減少成分FAを0とし、かつ、上述のように通常転舵負荷依拠成分マップに代えて転舵負荷依拠成分制限マップを参照して転舵負荷依拠成分FSを決定することで、操作力が検出できないようなときでも、当該ステアリングシステムの2系統の作動を維持しつつ、操作反力FCTを適正なものとすることが可能となる。
【0043】
(c)制御のフロー
上記転舵制御,反力制御は、各操作ECU60が、
図3にフローチャートを示す操作プログラムを、各転舵ECU62が、
図4にフローチャートを示す転舵プログラムを、それぞれ、短い時間ピッチ(例えば、数msec~数十msec)で繰り返し実行することによって行われる。また、失陥への対処は、統括ECU68が、
図5にフローチャートを示す失陥対処プログラムを実行することによって行われる。以下、それらのフローチャートに沿って、制御の流れについて、簡単に説明する。
【0044】
操作プログラムに従う処理では、まず、ステップ1(以下、「S1」と略す。他のステップも同様である)において、モータ回転角センサ30を介して、反力モータ26のモータ回転角ωが検出され、続くS2において、そのモータ回転角ωに基づいて、ステアリングホイール20の操作角δが取得される。次のS3において、その操作角δに基づいて、車輪10を転舵すべき転舵角θである目標転舵角θ*が決定され、S4において、その決定された目標転舵角θ*についての情報が、同系統の転舵ECU62に送信される。
【0045】
S5では、操作反力F
CTの決定処理が実行される。この処理は、
図6にフローチャートを示す操作反力決定処理サブルーチンが実行することによって行われる。そのサブルーチンに従う処理では、まず、S51において、転舵モータ50に実際に供給されている電流I
Sに関する情報が受信され、S52において、2つの操作トルクセンサ36の両方ともが失陥したとみなせる状態、すなわち、操作トルクTqが検出できない状態(以下、「操作トルク非検出状態」という場合がある)であるか否かが判定される。
【0046】
S52において操作トルク非検出状態ではないと判定された場合には、S53において、
図2(a)の上述の通常転舵負荷依拠成分マップが選択され、S54において、そのマップを参照しつつ上記受信した電流I
Sに基づいて、転舵負荷依拠成分F
Sが決定される。次に、S55において、操作トルクセンサ36を介して操作トルクTqが検出され、S56において、その操作トルクTqに基づいて、上述のように操作力依拠減少成分F
Aが決定される。
【0047】
一方で、S52において操作トルク非検出状態であると判定された場合には、S57において、
図2(b)~(c)のいずれかの転舵負荷依拠成分制限マップが選択され、S58において、そのマップを参照しつつ上記受信した電流I
Sに基づいて、転舵負荷依拠成分F
Sが決定される。そして、S59において、操作力依拠減少成分F
Aが、0に決定される。
【0048】
転舵負荷依拠成分FS,操作力依拠減少成分FAが決定された後、S60において、転舵負荷依拠成分FSと操作力依拠減少成分FAとが加算されて、すなわち、転舵負荷依拠成分FSから操作力依拠減少成分FAが減算されて、付与すべき操作反力FCTが決定され、当該サブルーチンに従った処理が終了する。
【0049】
操作反力FCTの決定処理の後、S6において、決定された操作反力FCTに基づいて、上述のように反力モータ26に供給する電流ICが決定され、S7において、反力モータ26に、その電流ICが供給される。
【0050】
転舵プログラムに従う処理では、まず、S11において、操作ECU60からの目標転舵角θ*についての情報が受信される。続くS12において、その目標転舵角θ*に基づいて、転舵モータ50のモータ回転角νの目標である目標モータ回転角ν*が決定される。次のS13において、モータ回転角センサ54を介して実際のモータ回転角νが検出され、S14において、モータ回転角偏差Δνが決定される。そして、S15において、上述したように、モータ回転角偏差Δνに基づくフィードバック制御則に従って、転舵モータ50に供給すべき電流ISが決定され、S16において、転舵モータ50に、その電流ISが供給される。
【0051】
S17においては、電流センサ56を介して、実際に転舵モータ50に供給されている電流ISが検出され、そして、S18において、検出された電流ISに関する情報が、同系統の操作ECU60に送信される。
【0052】
失陥対処プログラムに従う処理では、まず、S21において、当該ステアリングシステムが正常であるか否かが判定され、正常である場合には、S22において、通常時の制御が実行されるべく、各操作ECU60,各転舵ECU62に指示がなされる。
【0053】
当該ステアリングシステムが正常ではない場合、つまり、何某かの失陥が生じている場合には、S23において、その失陥が、いずれかのセンサについての失陥であるか否かが判定される。いずれかのセンサの失陥ではない場合には、S24において、上記2系統のうちの失陥が生じている系統の操作ECU60,転舵ECU62に、その系統の作動を停止する旨の指示、つまり、その系統における転舵制御,反力制御を実行しない旨の指示がなされる。
【0054】
S23においていずれかのセンサに失陥が生じていると判定された場合には、S25において、その失陥が生じているセンサが転舵制御に使用されるものであるか否かが、具体的には、その失陥が操作トルクセンサ36に生じているか否かが、判断される。失陥が生じているセンサが、操作トルクセンサ36でない場合には、S24において、上記2系統のうちの失陥が生じている系統の操作ECU60,転舵ECU62に、その系統の作動を停止する旨の指示がなされる。
【0055】
失陥が生じているセンサが操作トルクセンサ36である場合には、S26において、その失陥が2系統のいずれについての失陥であるかが特定可能であるか否かが判定される。失陥系統が2系統のうちのいずれか一方であることが特定可能である場合には、S24において、上記2系統のうちの失陥が生じている系統の操作ECU60,転舵ECU62に、その系統の作動を停止する旨の指示がなされる。
【0056】
一方、S26において、いずれの系統の操作トルクセンサ36についての失陥であるかが特定できない場合には、2系統のいずれの操作トルクセンサ36も失陥しているとみなされ、すなわち、操作トルク非検出状態であると認定され、S27において、転舵負荷依拠成分FSの決定において、転舵負荷依拠成分制限マップを使用することが決定される。そして、S28において、2系統の両方の操作ECU60,転舵ECU62に作動を行う旨の指示がなされるとともに、2系統の両方の操作ECU60に対して、操作トルク非検出状態である旨の指示がなされる。
【符号の説明】
【0057】
10:車輪 12a,12b:操作装置 14a,14b:転舵装置 20:ステアリングホイール〔操作部材〕 26a,26b:反力モータ 30a,30b:モータ回転角センサ 34:トーションバー 36a,36b:操作トルクセンサ 42:転舵アクチュエータ 46:ステアリングロッド 50a,50b:転舵モータ 54a,54b:モータ回転角センサ 56a,56b:電流センサ 60a,60b:操作電子制御ユニット(操作ECU)〔コントローラ〕 62a,62b:転舵電子制御ユニット(転舵ECU)〔コントローラ〕 64a,64b:専用通信線 66:CAN 68:統括電子制御ユニット(統括ECU)〔コントローラ〕