IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ イイダ産業株式会社の特許一覧

特許7609648外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法
<>
  • 特許-外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法 図1
  • 特許-外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法 図2
  • 特許-外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法 図3
  • 特許-外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法 図4
  • 特許-外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法 図5
  • 特許-外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法 図6
  • 特許-外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法 図7
  • 特許-外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法 図8
  • 特許-外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 5/00 20060101AFI20241224BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
C09J5/00
C09J201/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021015901
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2022118995
(43)【公開日】2022-08-16
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000101905
【氏名又は名称】イイダ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝井 雅剛
(72)【発明者】
【氏名】新田 正喜
(72)【発明者】
【氏名】片桐 大貴
(72)【発明者】
【氏名】後藤 洋平
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-089619(JP,A)
【文献】特開2019-061601(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193706(WO,A1)
【文献】特開2017-020945(JP,A)
【文献】岩間隆史ほか,マスチック接着剤による外板パネル歪の評価方法及び予測技術の開発,自動車技術会論文集,日本,2022年01月,Vol.53, No.1,p.177-182,DOI https://doi.org/10.11351/jsaeronbun.53.177
【文献】熊谷保昭,磯部健一,伊東良平,自動車外板用接着剤の機能性評価,第16回品質工学研究発表大会論文集,日本,品質工学会,2008年,p.366-369
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B62D
B62J
B60J
F16B
B23K
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の外板を想定した第1部材と、前記外板を補強する補強部材を想定した第2部材と、を準備する準備工程と、
マスチック接着剤を挟むように、前記第1部材と前記第2部材とを配置するとともに、少なくとも2つの拘束部材の間に前記マスチック接着剤が配置されるように、前記少なくとも2つの拘束部材で前記第1部材と前記第2部材とを拘束し、前記マスチック接着剤を加熱することで、前記第1部材と前記第2部材とを接着する接着工程と、
前記接着工程後の前記第1部材に対して、前記第2部材が位置する側とは反対側から、前記接着工程時の加熱による前記第1部材の変形量を測定する測定工程と、
前記接着工程時の加熱前の第1部材に対して、前記接着工程時の加熱後の前記第1部材の変形において、前記第2部材から離れる方向の変形を正の変形とし、前記第2部材へ近づく方向の変形を負の変形としたときに、前記測定工程において、以下の(1)~(3)のいずれか1つの変形を含む場合には、前記第1部材に相当する前記外板と、前記マスチック接着剤との組み合わせが、不適切であると判定する判定工程と、を含むことを特徴とする外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法。
(1)前記第1部材の変形が、前記正の変形と前記負の変形との双方の変形を含む。
(2)前記第1部材の全体が凸形状となる前記正の変形であり、前記第1部材の全体の凸形状に対して部分的に凹んでいるような変形である。
(3)前記第1部材の全体が凹形状となる前記負の変形であり、前記第1部材の全体の凹形状に対して部分的に膨らんでいるような変形である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マスチック接着剤は、車両の外板と、外板を補強する補強部材とを接着する接着剤として用いられる。
【0003】
近年では、車両の軽量化を図るため、車両に使用する外板等を薄板化する傾向にあり、薄板化した外板等とマスチック接着剤とを接着した際に、外板等の接着部分にマスチック接着剤に起因した変形が発生し易くなる。この変形の発生を防止するために、特許文献1では、マスチック接着剤の熱膨張係数等に基づいたCAEシミュレーションにより、加熱および冷却した際の外板等の変形を予測し判定する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-59887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上に示す解析を行ったとしても、温度条件等により、マスチック接着剤の特性が変化したり、マスチック接着剤、外板、および補強部材の膨張収縮のタイミング等が異なったりするため、外板の変形を予測することは難しい。また、実際の車両では、僅かな変形であっても意匠性を損なうことがあり、このような変形を正確に捉えて、外板とマスチック接着剤との適切な組み合わせを選定することは難しい。
【0006】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、本発明として、車両の外板とマスチック接着剤との組み合わせが適切であるか否かを判定する組み合わせ判定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を鑑みて、本発明に係る外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法は、車両の外板を想定した第1部材と、前記外板を補強する補強部材を想定した第2部材と、を準備する準備工程と、マスチック接着剤を挟むように、前記第1部材と前記第2部材とを配置するとともに、少なくとも2つの拘束部材の間に前記マスチック接着剤が配置されるように、前記少なくとも2つの拘束部材で前記第1部材と前記第2部材とを拘束し、前記マスチック接着剤を加熱することで、前記第1部材と前記第2部材とを接着する接着工程と、前記接着工程後の前記第1部材に対して、前記第2部材が位置する側とは反対側から、前記接着工程時の加熱による前記第1部材の変形量を測定する測定工程と、前記接着工程時の加熱前の第1部材に対して、前記接着工程時の加熱後の前記第1部材の変形において、前記第2部材から離れる方向の変形を正の変形とし、前記第2部材へ近づく方向の変形を負の変形としたときに、前記測定工程において、以下の(1)~(3)のいずれか1つの変形を含む場合には、前記第1部材に相当する前記外板と、前記マスチック接着剤との組み合わせが、不適切であると判定する判定工程と、を含むことを特徴とする。
(1)前記第1部材の変形が、前記正の変形と前記負の変形との双方の変形を含む。
(2)前記第1部材の全体が凸形状となる前記正の変形であり、前記第1部材の全体の凸形状に対して部分的に凹んでいるような変形である。
(3)前記第1部材の全体が凹形状となる前記負の変形であり、前記第1部材の全体の凹形状に対して部分的に膨らんでいるような変形である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マスチック接着剤を挟むように、車両の外板を想定した第1部材と、補強部材を想定した第2部材を配置する。これとともに、少なくとも2つの拘束部材の間にマスチック接着剤が配置されるように、少なくとも2つの拘束部材で第1および第2部材を拘束する。これにより、マスチック接着剤を挟むように、車両の外板と補強部材とが配置され、これらの両端が拘束された状態を模擬することができる。この状態で、マスチック接着剤を加熱して、加熱により変形した第1部材の変形量を測定する。これにより、マスチック接着剤に起因して、車両の外板に実際に生じる変形を模擬して、その変形量を測定することができる。
【0009】
また、加熱により発生する第1部材の変形のうち、(1)~(3)に示す変形は、第1部材の表面に凹部と凸部が混在する波状の表面を形成するため、車両の外板の意匠性を損なう原因となる。したがって、加熱後の第1部材の変形が、(1)~(3)に示すいずれかの変形を含む場合には、外板とマスチック接着剤とが不適切な組み合わせであると判定する。
【0010】
このような結果として、車両の外板と補強部材とをマスチック接着剤を介して接着する際に、意匠性を損なう変形をもたらす、外板とマスチック接着剤との不適切な組み合わせを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法の判定対象となる車両のルーフ部分の概略斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法で用いられる試験体を説明する分解斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法の工程を説明するフロー図である。
図4】(a)は、図3に示す接着工程において、第1および第2部材を配置するとともに、2つの拘束部材で第1および第2部材を拘束した状態の試験体を説明する模式的概念図であり、(b)は、図3に示す接着工程において、加熱直後の試験体の状態を説明する模式的概念図であり、(c)は、図3に示す接着工程において、加熱直後から加熱が所定時間経過した試験体の状態を説明する模式的概念図である。
図5図3に示す測定工程を説明する模式的概念図である。
図6】(a)~(e)は、図3に示す測定工程で行った第1部材の変形量の測定結果の一例を説明する図である。
図7】変形が正の変形および負の変形の双方を有する場合の正反射および拡散反射した反射光の強度差を説明する図である。
図8】参考例1、2に係る第1および第2部材の乾燥炉投入後の経過時間と温度との関係を示すグラフである。
図9】急昇温条件下における試験体1~試験体4および緩昇温条件下における別の試験体1~試験体4に係る第1部材の歪み量(変形量)と、測定距離との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図1図7を参照しながら本発明に係る実施形態について説明する。以下では、外板の一例として、ルーフパネル101を用いて説明するが、外板はルーフパネル101に限定されず、外板がフードパネル、フロントフェンダーパネル、サイドパネル、ドアパネル等であってもよい。
【0013】
車両は、車体を備え、車体は、フード、トランクリッド、ドア、サイド、またはルーフ等の車体パネル構造体で構成され、車体には、これらの車体パネル構造体で囲まれた車室が形成されている。車体パネル構造体は、たとえば自動車の製造ラインにおいて、車両の外板と、外板を補強する補強部材とをマスチック接着剤30で接着して組み立てられる。マスチック接着剤30は、自動車製造ラインにおいて、外板および補強部材に塗布されて、外板塗装後の塗装焼付け炉による加熱を利用して硬化される。
【0014】
たとえば、図1に示す車両100のルーフ部分には、外板としてルーフパネル101と、補強部材としてリーンフォース102とを備えている。リーンフォース102は、ルーフパネル101の車室側に、複数個間隔を隔てて設けられている。ルーフパネル101とリーンフォース102との両端はサイドパネル103で拘束されている。
【0015】
リーンフォース102は、たとえば金属製であり、ルーフパネル101の張り剛性を向上させる補強部材である。リーンフォース102は、所定の間隔を有して複数配置されたマスチック接着剤30を介して、ルーフパネル101に接着されている。リーンフォース102は、ルーフパネル101を補強する部材であることから、ルーフパネル101よりも曲げ剛性が高い。
【0016】
ところで、マスチック接着剤30を介してルーフパネル101とリーンフォース102とを接着した際、ルーフパネル101の接着部分に、マスチック接着剤30に起因した変形が生じることがある。しかしながら、後述するように、ルーフパネル101の接着部分に生じる変形のうち、波状の形状を有する変形により、ルーフパネル101の意匠性が損なわれることがある。
【0017】
そこで、本実施形態の外板とマスチック接着剤30との組み合わせ判定方法では、車両100を模擬した試験体10を用いて、外板を想定した第1部材11の表面形状を測定して、外板とマスチック接着剤30の組み合わせが適切か否かを判定する。
【0018】
まず、図2を参照して、試験体10の構成について説明し、その後に、外板とマスチック接着剤30との組み合わせ判定方法について説明する。
【0019】
1.試験体10について
図2に示すように、試験体10は、マスチック接着剤30と、マスチック接着剤30を挟むように配置された第1部材11および第2部材21と、第1部材11および第2部材21を拘束する拘束部材40とを備えている。
【0020】
マスチック接着剤30は、第1部材11が位置する側の、後述する第2部材21の本体部21aの面(以下、「本体部21aの表面21c」)と、第2部材21が位置する側の第1部材11の面(以下、「第1部材11の裏面11b」)とに接触している。このように接触した状態の未硬化のマスチック接着剤30を、後述する接着工程S2で、加熱により硬化して、第1部材11と第2部材21とを接着する。なお、本明細書において、マスチック接着剤30は、未硬化のマスチック接着剤も、硬化したマスチック接着剤も同じ符号を付している。
【0021】
マスチック接着剤30は、熱硬化性材料と、柔軟性を付与する発泡剤とを有する。熱硬化性材料としては、熱硬化性樹脂または熱硬化性ゴム等を挙げることができ、硬化後には、圧縮弾性変形自在となる。発泡剤としては、有機発泡剤または無機発泡剤等を挙げることができる。さらに、マスチック接着剤30は、必要に応じて、充填剤、架橋剤、軟化剤等を含有してよい。
【0022】
第1部材11は、車両100の外板として想定した部材であり、平板状の部材である。第1部材11の材料としては、外板と同じ材料を用いることが好ましく、たとえば、アルミニウム等の金属、アルミニウム合金、鋼等の合金、または炭素繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチック(FRP)等を挙げることができる。第1部材11の厚さ(板状部材の板厚)は、評価対象となる車両100の外板の厚さに対応させることが好ましい。なお、後述するように、外板とマスチック接着剤30との組み合わせが、不適切であると判定した場合、マスチック接着剤30を変更することも考えらえるが、たとえば、外板の厚さおよび材料等を変更してもよい。
【0023】
第2部材21は、車両100の外板を補強する補強部材として想定して使用される。第2部材21の材料としては、補強部材と同じ材料を用いることが好ましく、たとえば、鋼等の合金を挙げることができる。
【0024】
第2部材21は、本体部21aと、本体部21aの対向する2辺(図2では、長辺)に形成された補強部21bとを有した、断面がU字状のチャンネルである。一対の補強部21bは、第1部材11が位置する側とは反対方向に垂直に起立するように、本体部21aの対向する2辺に形成されている。補強部21bにより、第2部材21の剛性が向上するため、第1部材11を補強する部材としての役割を果たすことができる。
【0025】
このような第2部材21は、1枚の板状部材の両側を折り曲げることにより形成され、第2部材21の厚さ(板状部材の板厚)は、補強部材と同じ厚さと相当であることが好ましい。第2部材21の形状は、剛性が向上するものであれば、特に限定されるものではなく、たとえば、円筒状であってもよい。しかしながら、第1および第2部材11、21を容易に拘束する点を考慮すると、第2部材21の形状は、図2に示す形状が好ましい。
【0026】
ここで、外板と補強部材との間に、マスチック接着剤を配して加熱した場合、外板の方が、表面積が大きく熱が伝導し易い。したがって、本実施形態では、第1および第2部材11、21の寸法、材質等を、実際の外板と補強部材とを想定したものとしているので、第2部材21は、試験体10の加熱の際、第1部材11の熱膨張より遅れて熱膨張が開始される。言い換えると、試験体10の加熱の際、第1部材11が第2部材21よりも先に熱膨張する。これにより、第1部材11が変形し易くなる。
【0027】
具体的には、第2部材21の材料と第1部材11の材料とが異なる場合には、第2部材21の材料の熱膨張率(線膨張係数または体積膨張係数)が第1部材11の熱膨張率よりも小さいことが好ましい。一方、第2部材21の材料と第1部材11の材料とが同じである場合、または、材料は異なるが、熱膨張率が同じである場合には、第2部材21の厚さ(板厚)は、第1部材11の厚さ(板厚)よりも大きいことが好ましい。なお、第1部材11および第2部材21の厚さは、それぞれ外板および補強部材の厚さに対応していることを前提とする。
【0028】
拘束部材40は、ボルト41およびナット42と、ボルト41のねじ部が挿入される中空部を有するワッシャー43とを備えている。ワッシャー43は、第1部材11と第2部材21との隙間の大きさを調整するものであり、第1部材11と、第2部材21との間に配置されている。ナット42は、第1部材11の表面11aに配置されている。
【0029】
本実施形態では、図2に示すように、第1部材11および第2部材21の両側には、ボルト41のねじ部が挿入される第1貫通孔12および第2貫通孔22がそれぞれ形成されている。接着工程S2で、第1および第2部材11、21を拘束する際、ボルト41のねじ部を、本体部21aの表面21cとは反対の面から、第2貫通孔22、ワッシャー43の中空部、および第1貫通孔12の順に挿入して、ナット42に螺合する。
【0030】
ここでは、拘束部材40が、ボルト41、ナット42、およびワッシャー43で構成されている例で説明しているが、これに限定されるものではない。第1および第2部材11、21の隙間を確保しつつ、これらを拘束することができるものであれば、拘束部材40として用いてよい。
【0031】
2.外板とマスチック接着剤30との組み合わせ判定方法について
次に、本実施形態の外板とマスチック接着剤との組み合わせ判定方法を図3に示す工程に沿って説明する。
【0032】
2-1.準備工程S1について
本実施形態の外板とマスチック接着剤30との組み合わせ判定方法では、まず、準備工程S1を行う。この工程では、車両100の外板を想定した第1部材11と、外板を補強する補強部材を想定した第2部材21と、を準備する。具体的には、上述した試験体10を構成する第1および第2部材11、21を準備する(図2を参照)。第1部材11および第2部材21のそれぞれは、たとえば、ルーフパネル101およびリーンフォース102(図1参照)として想定して用いることができる。
【0033】
2-2.接着工程S2について
次に、接着工程S2を行う。この工程では、図4(a)に示すように、マスチック接着剤30を挟むように、第1部材11と第2部材21とを配置する。これとともに、少なくとも2つの拘束部材40の間にマスチック接着剤30が配置されるように、少なくとも2つの拘束部材40で第1部材11と第2部材21とを拘束する。この状態で、図4(b)、図4(c)に示すように、マスチック接着剤30を加熱することで、第1部材11と第2部材21とを接着する。
【0034】
第1および第2部材11、21を配置する際、第2部材21の本体部21aの表面21cに、未硬化のマスチック接着剤30を点塗布する。ここでは、本体部21aの表面21cの中央に1個のマスチック接着剤30を点塗布する例を説明するが、これに限定されるものではない。点塗布するマスチック接着剤30の位置および個数は、想定するルーフパネル101およびリーンフォース102を接着する際のマスチック接着剤30の位置および個数に対応して、適宜設定してよい。
【0035】
点塗布後、第1部材11の裏面11bがマスチック接着剤30に接触できるように、ワッシャー43で、第1および第2部材11、21の隙間の大きさを調整する。調整後、第1部材11の裏面11bがワッシャー43およびマスチック接着剤30に接触するように、第1部材11をこれらに重ねる。
【0036】
このように重ねた状態で、第1および第2部材11、21の両側を、ボルト41とナット42とで固定することにより、2つの拘束部材40の間にマスチック接着剤30が配置される。
【0037】
本実施形態では、加熱による熱膨張の際に、第1部材11の伸びが水平方向に逃げないように、少なくとも2つの拘束部材40で第1および第2部材11、21を拘束する。さらに、少なくとも2つの拘束部材40の間にマスチック接着剤30が配置されるように、拘束部材40で拘束する位置を設定する。これにより、マスチック接着剤30が与える第1部材11の変形への影響を解析することができる。
【0038】
このようにして、未硬化のマスチック接着剤30を配置した試験体10が作製される。この試験体10は、未硬化のマスチック接着剤30を挟むように、ルーフパネル101とリーンフォース102とが配置されるとともに、これらの両側が、サイドパネル103で、拘束されている状態(図1参照)を模擬することができる。
【0039】
第1および第2部材11、21を拘束した後、マスチック接着剤30を加熱する前に、後述する加熱後の表面形状の測定方法と同様にして、第2部材21が位置する側とは反対側の第1部材11の面(以下「第1部材11の表面11a」)の表面形状(表面粗さ)を測定する(加熱前の表面形状の測定)。
【0040】
マスチック接着剤30を加熱する際、試験体10を、たとえば乾燥炉内に配置して、加熱する。この際、自動車製造ラインの塗装焼付け炉を想定して、試験体10全体が、乾燥炉内で、均一に加熱されることが好ましい。加熱により、マスチック接着剤30は、含有している発泡剤が発泡するとともに、未硬化の樹脂が硬化して、発泡および硬化が完了したマスチック接着剤30は冷却される。
【0041】
マスチック接着剤30の加熱温度は、マスチック接着剤30の種類に応じて、硬化および発泡可能な温度に適宜設定される。なお、加熱温度、加熱温度に到達するまでの昇温速度、加熱温度を維持する維持時間、冷却温度、および冷却温度に到達するまでの降温速度は、実際の自動車製造ラインの塗装焼付け炉で行う条件に対応して設定することが好ましい。
【0042】
一例として、加熱温度は、たとえば、160℃以上、または170℃以上であり、たとえば、200℃以下、または190℃以下であることが好ましい。昇温速度は、急速に昇温させる場合には、たとえば、35℃/分以上、40℃/分以上であり、たとえば、50℃/分以下、または45℃/分以下であることが好ましい。一方、緩やかに昇温させる場合には、たとえば、3℃/分以上、5℃/分以上であり、たとえば、15℃/分以下、または10℃/分以下であることが好ましい。加熱温度を維持する時間は、たとえば、10分以上、または15分以上であり、たとえば、40分以下、または30分以下であることが好ましい。
【0043】
また、冷却温度は、たとえば、60℃以下、または50℃以下であることが好ましい。冷却速度は、たとえば、5℃/分以上、または10℃/分以上であり、たとえば、30℃/分以下、または25℃/分以下であることが好ましい。なお、後述する表面形状測定の実施を考慮すると、冷却後、表面形状測定ができる温度(例えば、室温)まで、試験体10を放冷等することが好ましい。
【0044】
ここで、図4(b)および図4(c)を参照して、第1部材11の表面形状の変形の一例について説明する。図4(b)に示すように、加熱直後、マスチック接着剤30に含まれる発泡剤が発泡し始める。
【0045】
これとともに、本実施形態では、第1部材11は、加熱により、第2部材21よりも先に水平方向に熱膨張し(伸び)始める。しかし、第1部材11の両側は、拘束部材40で拘束され、第2部材21の水平方向の熱膨張は第1部材11に比べて遅いため、第1部材11は、第2部材21から離れる方向に、膨らむように変形する。
【0046】
その後、第2部材21も、第1部材11の伸びに近づこうと、熱膨張により水平方向に伸びようとするため、第1部材11の膨らむような変形は抑制される。このとき、マスチック接着剤30の硬化および発泡のタイミングによっては、マスチック接着剤30が、第1部材11の中央を拘束するため、図4(c)の如く、第1部材11は、波状に変形することがある。具体的には、第1部材11には、マスチック接着剤30との接着部分に、加熱前の第1部材11に対して、第2部材21へ近づく方向へ変形した凹部11gが形成される。さらに、この凹部11gを挟むように、加熱前の第1部材11に対して、第2部材21から離れる方向へ変形した凸部11fが形成される。
【0047】
ここで、本明細書では、凸部11fの如く、加熱前の第1部材11(図4(a)参照)に対して、加熱後の第1部材11の変形のうち、第2部材21から離れる方向の変形を正の変形という。一方、凹部11gの如く、加熱前の第1部材11に対して、加熱後の第1部材11の変形のうち、第2部材21へ近づく方向の変形を、負の変形という。
【0048】
第1部材11が波状に変形する場合を説明したが、後述する実施例で説明するように、マスチック接着剤30の材料、加熱条件、および第1部材11の厚さによっては、第1部材11には、正の変形および負の変形のいずれか一方が生じる場合もある。また、図4(c)では、第1部材11がM字状に変形する場合を説明したが、マスチック接着剤30の点塗布される位置によって変形状態は異なる。たとえば、S字状、W字状の変形等であっても、正の変形と負の変形を含むため、この場合であっても、外板の意匠性が損なわれる。
【0049】
2-3.測定工程S3について
次に、測定工程S3を行う。この工程では、図5に示すように、接着工程S2後の第1部材11に対して、第2部材21が位置する側とは反対側から、接着工程S2時の加熱による第1部材11の変形量を測定する。
【0050】
具体的には、一方の拘束部材40から他方の拘束部材40の間を、レーザ光を照射する測定センサー70を移動させながら、第1部材11の表面11aにレーザ光を照射して、第1部材11の表面形状(表面粗さ)を測定する(加熱後の表面形状の測定)。なお、レーザ光を照射して、表面形状を測定したが、表面形状を測定することができるのであれば、その測定方法は、特に限定されるものではない。
【0051】
次いで、マスチック接着剤30を加熱する前の第1部材11の表面形状を基準にして、接着工程S2時の加熱による第1部材11の変形量を算出する。詳細には、加熱後の表面形状の測定から得られた測定値から、加熱前の表面形状の測定から得られた測定値を差し引くことにより、接着工程S2時の加熱による第1部材11の変形量を算出する。
【0052】
第1部材11の変形量に係る算出結果の一例を図6(a)~図6(e)に示す。図6(a)~図6(e)のグラフ中、マスチック接着剤30を加熱する前の第1部材11の表面形状を変形無しの線として示す。また、正の変形の変形量および負の変形の変形量をそれぞれ、Y軸のプラス側およびマイナス側に示す。
【0053】
図4(c)および図5に示す如く、加熱後の第1部材11の変形が正および負の変形の双方を有する場合には、算出される第1部材11の変形量を示す曲線は、図6(a)に示す如く、変形無しの線に対して、凸状および凹状の双方の有する波状の曲線となる。すなわち、図6(a)に示すような第1部材11の変形は、本発明でいう(1)に示す変形の一例である。
【0054】
一方、加熱後の第1部材11の変形が正の変形のみを有する場合には、算出される第1部材11の変形量の曲線は、図6(b)に示す如く、変形無しの線に対して、凸状の曲線となる。また、加熱後の第1部材11の変形が負の変形のみを有する場合には、算出される第1部材11の変形量の曲線は、図6(c)に示す如く、変形無しの線に対して、凹状の曲線となる。
【0055】
この他にも、図6(d)に示すように、第1部材11の全体が凸形状となる正の変形であり、第1部材11の全体の凸形状に対して部分的に凹んでいるように、第1部材11が、変形することがある。具体的には、第1部材11の変形量の曲線は、変形無しの線に対して正側に位置する曲線であり、変形無しの線に向かって部分的に凹んだ曲線を含む。すなわち、図6(d)に示すような第1部材11の変形は、本発明でいう(2)に示す変形の一例である。なお、図6(d)に示す変形は、第1部材11の中央部分が、部分的に凹んだ変形であるが、たとえば、複数の箇所で部分的に凹んでもよい。
【0056】
この他にも、図6(e)に示すように、第1部材11の全体が凹形状となる負の変形であり、第1部材11の全体の凹形状に対して部分的に膨らんでいるように、第1部材11が、変形することがある。具体的には、第1部材11の変形量の曲線は、変形無しの線に対して負側に位置する曲線であり、変形無しの線に向かって部分的に膨らんだ曲線を含む。すなわち、図6(e)に示すような第1部材11の変形は、本発明でいう(3)に示す変形の一例である。なお、図6(e)に示す変形は、第1部材11の中央部分が、部分的に膨らんだ変形であるが、たとえば、複数の箇所で部分的に膨らんでもよい。
【0057】
2-4.判定工程S4について
次に、判定工程S4を行う。この工程では、測定された第1部材11の変形が、正の変形と負の変形との双方の変形を含む場合には、第1部材11に相当する外板と、マスチック接着剤30との組み合わせが、不適切であると判定する。
【0058】
具体的には、第1部材11の変形量を示す曲線のパターンが、図6(a)の如く、加熱後の第1部材11の変形が正の変形および負の変形双方を有する場合には、変形無しの線に対して凸状および凹状の双方の曲線を有する波状の線になる。図6(d)に示す、第1部材11の全体が凸形状となる正の変形であり、第1部材11の全体の凸形状に対して部分的に凹んでいるような変形である場合も、変形無しの線に対して凸状および凹状の双方の曲線を有する波状の線になる。さらに、図6(e)に示す、第1部材11の全体が凹形状となる負の変形であり、第1部材11の全体の凹形状に対して部分的に膨らんでいるような変形である場合も、変形無しの線に対して凸状および凹状の双方の曲線を有する波状の線になる。
【0059】
これらの変形では、入射光は、局所的に膨らんだ凸部11f(すなわち正の変形をした部分)で正反射し、凹部11g(すなわち負の変形をした部分)が拡散反射し易いため、これらの反射光の強度差により、外板の意匠性が損なわれることがある(図7参照)。したがって、第1部材11に相当する外板と、マスチック接着剤30との組み合わせが、不適切であると判定する。
【0060】
一方、第1部材11の変形量を示す曲線のパターンが、図6(b)および図6(c)の如く、変形無しと示す線に対して凸状または凹状のいずれか一方の場合には、上述したように、加熱後の第1部材11の変形は、正の変形および負の変形のいずれか一方を有する。この場合には、外板の全体では、入射光は拡散反射するため、変形が認識され難い。したがって、この場合には、この変形で外板の意匠性は、損なわれていないとみなすことができるため、第1部材11に相当する外板と、マスチック接着剤30との組み合わせが、適切であると判定する。
【0061】
なお、組み合わせが不適切であると判定された場合には、第1部材11の厚さおよび材料、マスチック接着剤30の種類、および加熱条件を変えた試験体10により、適切な組み合わせであると判定されるまで、上述した接着工程S2、測定工程S3、および判定工程S4を行い続けてもよい。なお、マスチック接着剤30を変更する場合には、硬化剤の添加量および種類を変更することにより、硬化開始温度を調整したり、硬化時間を調整したりする。また、マスチック接着剤30に発泡剤を含む場合には、発泡剤の添加量を調整してもよい。
【0062】
これにより、実際の自動車製造ラインで、外板とマスチック接着剤30との適切な組み合わせを得ることができる。たとえば、自動車製造ラインでは、各工場の塗装焼付け炉の加熱条件の変更が難しい場合や、車両設計決定後に外板の厚さ変更が難しい場合がある。このような場合でも、車両を模擬した試験体10を用いることができるため、塗装焼付け炉の加熱条件や決定した外板の厚さに合わせて、適切な外板とマスチック接着剤30との組み合わせを得ることができる。
【0063】
本実施形態によれば、マスチック接着剤30を挟むように、第1および第2部材11、21を配置するとともに、一対の拘束部材40、40の間にマスチック接着剤30が配置されるように、一対の拘束部材40、40で第1および第2部材11、21を拘束する。これにより、マスチック接着剤30を挟むように、車両の外板と補強部材とが配置され、これらの両端が拘束された状態を模擬することができる。この状態で、マスチック接着剤30を加熱して、マスチック接着剤30の接着を行う。次に、接着後(すなわち加熱後)、加熱により変形した第1部材11の変形量を測定する。これにより、マスチック接着剤30に起因して、車両の外板に実際に生じる変形を模擬して、その変形量を測定することができる。
【0064】
上述したように、加熱により発生する変形のうち、図6(a)、図6(d)、および図6(e)に示す変形は、実際の車両の外板の意匠性を損なう原因となることがある。したがって、加熱後の第1部材11の変形が、正の変形と負の変形との双方の変形を含む場合には、外板とマスチック接着剤30とが不適切な組み合わせであると判定する。同様に、第1部材11の全体が凸形状となる正の変形であり、第1部材11の全体の凸形状に対して部分的に凹んでいるような変形の場合には、外板とマスチック接着剤30とが不適切な組み合わせであると判定する。さらに、同様に、第1部材11の全体が凹形状となる負の変形であり、第1部材11の全体の凹形状に対して部分的に膨らんでいるような変形である場合にも、外板とマスチック接着剤30とが不適切な組み合わせであると判定する。
【0065】
これにより、車両の外板と補強部材とをマスチック接着剤30を介して接着する際に、意匠性を損なう変形をもたらす、外板とマスチック接着剤30との不適切な組み合わせを判定することができる。結果として、このような不適切な組み合わせを排除することができるため、実際に、外板と補強部材とをマスチック接着剤30を介して接着する際に、意匠性を損なう変形の発生を防止することができる。
【実施例
【0066】
以下に、本発明を実施例により説明する。
【0067】
1.第1および第2部材の温度上昇および熱膨張について
参考例1、2に係る試験体を作製して、試験体を乾燥炉に投入して、試験体を加熱しながら、第1および第2部材の温度を測定した。また、加熱中の第1および第2部材の挙動を観察した。以下に詳述する。
【0068】
<参考例1>
参考例1として、未硬化のマスチック接着剤が配置された図2に示す試験体を作製した。作製した試験体は、第1部材として、板厚が0.6mmの鋼板を、第2部材として、板厚が1.6mmの鋼板を使用した。また、マスチック接着剤として、合成ゴムを主剤とした接着剤を使用した。
【0069】
乾燥炉での加熱条件は、3.5分間で16℃から170℃まで昇温し、昇温後、一定時間で温度を保持し、その後、降温した(急昇温条件)。なお、温度ムラを回避するために、試験体の周囲に遮蔽板を配置した。
【0070】
第1および第2部材の温度の測定は、第2部材の本体部の表面の中央に点塗布されたマスチック接着剤の中心付近に熱電対を設置して、乾燥炉に試験体を投入してから所定時間ごとに行った。また、第1および第2部材の挙動観察を、乾燥炉投入直後、および、乾燥炉に投入してから所定の時間が経過した後に行った。
【0071】
<参考例2>
第1部材の板厚が0.8mmである点以外は、参考例1と同様にして、参考例2に係る第1および第2部材の温度を測定した。
【0072】
(結果・考察)
図8に結果を示す。図8は、参考例1および参考例2に係る第1および第2部材の乾燥炉投入後の経過時間と温度との関係を示すグラフである。グラフ中、実線は、参考例1、2の第2部材を示し、一点鎖線は、参考例1の第1部材を示し、点線は、参考例2の第1部材を示す。
【0073】
図8からわかるように、参考例1、2の両方とも、乾燥炉投入直後では、第2部材よりも第1部材のほうが先に温度が上昇し、時間が経つにつれて、第1および第2部材は同じ温度に近づいていった。すなわち、加熱により、第1部材の方が、第2部材よりも先に、延びることが分かる。これは、第1部材と第2部材が鋼製など、同じ材料からなる場合、第2部材は、補強材としての役割を担うため、その熱容量が大きく、第1部材と同じ温度に昇温されるまでに、時間がかかることを意味している。すなわち、第1部材の方が、第2部材に比べて、先に熱膨張により伸び易いため、接着工程の熱により、第1部材が変形し易い。
【0074】
2.外板とマスチック接着剤30との組み合わせ判定方法について
図2に示す試験体を用いて、第1部材の板厚の大きさ、マスチック接着剤の種類、および加熱条件を変えて、上述した判定方法を行った。以下、詳述する。
【0075】
<試験体1>
第1部材として、厚さ0.8mmの鋼板を、第2部材として、厚さ1.6mmの鋼板を準備した。次いで、第2部材の本体部の表面の中央に、未硬化のマスチック接着剤(直径15mm×厚さ4mm)を、1個点塗布した。マスチック接着剤として、ゴムを主剤とした接着剤(材料A)を用いた。点塗布後、第1および第2部材の間(クリアランス)が3mmとなるようにワッシャーで調整して、第1部材の裏面がマスチック接着剤およびワッシャーの表面と接触するように、これらの上に第1部材を重ねた。第1および第2部材の両側を、ボルトとナットとで固定して、未硬化のマスチック接着剤を配置した試験体1を作製した。
【0076】
<試験体2~4>
試験体1と同様に試験体2~4を作製した。試験体2が、試験体1と相違する点は、マスチック接着剤の硬化特性が異なる接着剤(材料B)を用いた点である。試験体3が、試験体1と相違する点は、第1部材の鋼板の厚さが0.6mmである。試験体4が、試験体1と相違する点は、マスチック接着剤の硬化特性が異なる接着剤(材料B)を用いた点と、第1部材の鋼板の厚さが0.6mmである。
【0077】
作製した試験体1~4の第1部材の表面に、レーザ光を照射して、一方の拘束部材から他方の拘束部材に亘って、第1部材の表面形状(加熱前の表面形状)を測定した。表面形状測定条件を以下に示す。
【0078】
(表面形状測定条件)
測定機:高精度形状測定システムK2-300(神津精機製)
測定センサー:CCDレーザ変位計 LKG-30(キーエンス製)
測定位置:第1部材鋼板の短辺の中心線(測定距離:240mm)
測定温度:23℃
測定ピッチ:0.1mm
測定速度:40mm/sec
【0079】
次いで、試験体1~4を乾燥炉に投入して、上述した急昇温条件で、マスチック接着剤を加熱することにより、未硬化のマスチック接着剤を硬化させ、および発泡剤を発泡させて、第1および第2部材を接着した。同様に、別の試験体1~4を、乾燥炉に投入して、以下に示す緩昇温条件で、マスチック接着剤を加熱することにより、未硬化のマスチック接着剤を硬化させ、および発泡剤を発泡させて、第1および第2部材を接着した。なお、緩昇温では、19.5分間で20℃から170℃まで昇温し、昇温後、一定時間で温度を保持し、その後降温した。
【0080】
次いで、上述した加熱前の表面形状の測定と同様にして、第1および第2部材を接着した状態の試験体1~4の第1部材の表面形状(加熱後の表面形状)を測定した。得られた加熱後の表面形状の測定値から上述した加熱前の表面形状の測定値を差し引くことにより、試験体1~4に係る加熱後の第1部材の変形量を算出した。これらの結果を図9に示す。図9のグラフでは、第2部材から離れる方向および第2部材へ近づく方向の第1部材の変形量(歪み量)をそれぞれプラス側およびマイナス側として示している。
【0081】
(結果・考察)
図9の結果からわかるように、試験体4を緩昇温で接着した場合(右下のグラフ参照)には、表面形状は、波状であり、正の変形および負の変形の双方を有していたが、それ以外の場合には、その変形は、正の変形または負の変形のいずれかの変形のみであった。
【0082】
この結果から、たとえば、試験体4に対応する外板、補強材、およびマスチック接着剤を選定し、緩昇温条件で加熱した場合には、正および負の変形が生じたため、図7に示すように、外板の意匠性が損なわれた。したがって、この場合には、マスチック接着剤と外板が適切でないと判定することができた。その他の場合には、正の変形または負の変形のいずれかの変形のみであったので、外板の意匠性が確保されているため、マスチック接着剤と外板(厚さ)が適切であると判定することができた。さらに、試験体1~4の結果から、実際の車両の外板の意匠性の傾向を掴むことができた。なお、実際の製造ラインにおいて、乾燥炉の昇温条件は変更し難いため、マスチック接着剤と外板との組み合わせから、変形の適正を判断している。
【0083】
なお、組み合わせが不適切であると判定された際には、試験体の第1部材の板厚、マスチック接着剤の種類、および加熱条件を変えて、判定を続けることで、最終的に実際の製造ラインで使用可能な外板とマスチック接着剤との組み合わせを得ることができる。
【0084】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0085】
たとえば、上記実施形態では、加熱前および加熱後の第1部材の表面形状を測定して、加熱前の第1部材の表面形状を基準にして、正および負の変形を決定する例を説明したが、加熱後の第1部材の表面形状のみを測定して、正および負の変形を決定してもよい。この場合には、拘束により、拘束部材が配置された付近の第1部材の表面形状は、加熱前後で変形が生じ難いため、この表面形状を基準にして正および負の変形を決定してもよい。
【符号の説明】
【0086】
100:車両、101:ルーフパネル、102:リーンフォース、11:第1部材、21:第2部材、30:マスチック接着剤、40:拘束部材、S1:準備工程、S2:接着工程、S3:測定工程、S4:判定工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9