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特許7609652銅合金板の接合方法及び銅合金板の接合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】銅合金板の接合方法及び銅合金板の接合体
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/244 20140101AFI20241224BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20241224BHJP
   B23K 26/28 20140101ALI20241224BHJP
   B23K 26/32 20140101ALI20241224BHJP
【FI】
B23K26/244
B23K26/21 G
B23K26/28
B23K26/32
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021025139
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2022127158
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】泊 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】永田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】今村 美速
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第99/022081(JP,A1)
【文献】特開2020-049538(JP,A)
【文献】特開2016-035348(JP,A)
【文献】特開2002-103072(JP,A)
【文献】特開平10-071480(JP,A)
【文献】再公表特許第2016/194322(JP,A1)
【文献】特開2020-142283(JP,A)
【文献】特開2018-030155(JP,A)
【文献】特開2018-166365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/244
B23K 26/21
B23K 26/28
B23K 26/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の銅合金板同士をレーザ溶接して接合させる銅合金板の接合方法であって、
の融点より低い沸点を有する少なくとも一つの成分を含む複数の前記銅合金板同士を重ねて配置させる配置工程と、
前記銅合金板同士を重ね合わせた被照射部に対して溶接方向に沿ってレーザ光を照射し、複数の前記銅合金板を接合させるレーザ溶接工程と、
を含み、
前記レーザ溶接工程において、
前記レーザ光を前記溶接方向と交差する幅方向へ複数回移動させながら前記溶接方向へ走査させて、複数の前記銅合金板が重ね合わされた重ね合わせ部分に溶融金属が凝固した溶接部表裏に貫通して設けるとともに、前記溶接部、表面側の前記幅方向の幅寸法に対して、裏面側の前記幅方向の幅寸法80%以上にする、
銅合金板の接合方法。
【請求項2】
前記銅合金板に含まれる銅の融点より低い沸点を有する成分が、亜鉛、マグネシウムあるいはリンである、
請求項1に記載の銅合金板の接合方法。
【請求項3】
前記レーザ溶接工程において、前記レーザ光を前記幅方向へ周期的に移動させながら前記溶接方向へ走査させる、
請求項1または請求項2に記載の銅合金板の接合方法。
【請求項4】
前記レーザ溶接工程において、前記レーザ光をウォブリングさせて照射位置を旋回させながら前記溶接方向へ走査させる、
請求項1~3のいずれか一項に記載の銅合金板の接合方法。
【請求項5】
前記レーザ溶接工程において、前記レーザ光をウィービングさせて照射位置を前記溶接方向と交差する幅方向へ周期的に移動させながら前記溶接方向へ走査させる、
請求項1~3のいずれか一項に記載の銅合金板の接合方法。
【請求項6】
互いに接合させる前記銅合金板が厚さ0.1mm~1.0mmの薄板である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の銅合金板の接合方法。
【請求項7】
銅の融点より低い沸点を有する少なくとも一つの成分を含む複数の銅合金板同士を重ね合わされ重ね合わせ部分が、互いに溶接されて接合された銅合金板の接合体であって、
前記重ね合わせ部分には、溶融金属が凝固したレーザ溶接部が表裏に貫通して設けられ、
前記レーザ溶接部は、表面側の溶接方向と交差する幅方向の幅寸法に対して、裏面側の前記幅方向の幅寸法が80%以上である、
銅合金板の接合体。
【請求項8】
前記レーザ溶接部の表裏には、溶接方向に沿うビードが形成され、
それぞれの前記ビードには、複数の環状溶接痕が溶接方向に連なるように形成されている、
請求項7に記載の銅合金板の接合体。
【請求項9】
前記レーザ溶接部の表裏には、溶接方向に沿うビードが形成され、
それぞれの前記ビードには、溶接方向に沿って波状溶接痕が形成されている、
請求項7に記載の銅合金板の接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金板の接合方法及び銅合金板の接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、銅合金板同士を接合する場合、ろう付けや加締めによる接合方法が用いられる。しかし、これらの接合方法は、生産性が低く、また、生産コストが嵩張ってしまう。これに対して、銅合金板同士をレーザ溶接する接合方法によれば、コストを抑えつつ高い生産性が得られる。
【0003】
レーザによって銅合金板同士を溶接する技術として、特許文献1には、同じ集光ビーム径を有する2つ以上のファイバレーザビームを、各々のファイバレーザビームの照射部における中心間距離が集光ビーム径の0.7以下となるように被溶接部に照射することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-161863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、銅合金板は熱伝導率が高く、しかも、レーザ光の吸収率も低いため、安定した入熱を与えるのが難しい。特に、板厚が薄い銅合金薄板をレーザ溶接する場合、反射による溶け込み不良や溶け落ちなどの欠陥が発生し易く、信頼性の高い接合が難しい。
【0006】
しかも、亜鉛、マグネシウムあるいはリンなどの低沸点元素を含む銅合金板をレーザ溶接する場合、急激な入熱によって低沸点元素が蒸発して溶融金属が吹き飛ばされ、さらに溶け落ちなどの欠陥が発生し易く、品質低下を招いてしまうおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、高い信頼性で銅合金板同士をレーザ溶接して接合させることが可能な銅合金板の接合方法及び高い信頼性で接合された銅合金板の接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記構成からなる。
(1) 複数の銅合金板同士をレーザ溶接して接合させる銅合金板の接合方法であって、
銅の融点より低い沸点を有する少なくとも一つの成分を含む複数の前記銅合金板同士を重ねて配置させる配置工程と、
前記銅合金板同士を重ね合わせた被照射部に対して溶接方向に沿ってレーザ光を照射し、複数の前記銅合金板を接合させるレーザ溶接工程と、
を含み、
前記レーザ溶接工程において、
前記レーザ光を前記溶接方向と交差する幅方向へ複数回移動させながら前記溶接方向へ走査させる、
銅合金板の接合方法。
(2) 複数の銅合金板が重ね合わされ、重ね合わせ部分が溶接されて接合された銅合金板の接合体であって、
前記重ね合わせ部分には、溶融金属が凝固した溶接部が表裏に貫通して設けられ、
前記溶接部は、表面側の幅寸法に対して、裏面側の幅寸法が80%以上である、
銅合金板の接合体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い信頼性で銅合金板同士をレーザ溶接して接合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】銅合金板同士をレーザ溶接する様子を示す斜視図である。
図2】レーザ照射装置を模式的に示す概略斜視図である。
図3】レーザ溶接の様子を示す縁部を重ね合わせた銅合金板の概略平面図である。
図4】銅合金板同士を接合させた接合体における接合箇所の断面図である。
図5】銅合金板同士を接合させた接合体の接合箇所の状態を示す図であって、(A)はレーザ光の照射側の概略平面図、(B)はレーザ光の照射側と反対側の概略平面図である。
図6】他のレーザ溶接の様子を示す縁部を重ね合わせた銅合金板の概略平面図である。
図7】銅合金板同士を接合させた接合体の接合箇所の状態を示す図であって、(A)はレーザ光の照射側の概略平面図、(B)はレーザ光の照射側と反対側の概略平面図である。
図8】実施例1の評価結果を示す画像であって、(A)はレーザ光の照射側の画像、(B)はレーザ光の照射側と反対側の画像、(C)は接合箇所における断面の画像である。
図9】比較例1の評価結果を示す画像であって、(A)はレーザ光の照射側の画像、(B)はレーザ光の照射側と反対側の画像、(C)は接合箇所における断面の画像である。
図10】比較例2の評価結果を示す画像であって、(A)はレーザ光の照射側の画像、(B)はレーザ光の照射側と反対側の画像、(C)は接合箇所における断面の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、銅合金板11,13同士をレーザ溶接する様子を示す斜視図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る銅合金板の接合方法は、複数の銅合金板11,13をレーザ溶接によって接合する方法である。本例では、2枚の銅合金板11,13を接合する場合を例示する。
【0013】
被接合物である銅合金板11,13は、それぞれの一部が互いに重ね合わされ、この重ね合わせた部分が被照射部15とされる。そして、この被照射部15にレーザ照射装置100によってレーザ光Lが照射されてレーザ溶接され、互いに接合される。
【0014】
図2は、レーザ照射装置100を模式的に示す概略斜視図である。
図2に示すように、被照射部15にレーザ光Lを照射するレーザ照射装置100は、ガルバノスキャナユニットを備えたもので、ガルバノミラー101と、fθレンズ103とを有している。このレーザ照射装置100は、ファイバレーザ発振器(図示略)から出力されたファイバレーザをガルバノミラー101で反射させ、fθレンズ103を通して集光させて被照射部15へ照射する。このレーザ照射装置100によれば、回転軸に取り付けられたガルバノミラー101の角度を制御することにより、レーザ光Lを高速かつ高精度に走査させることができる。
【0015】
互いに接合させる銅合金板11,13は、銅(Cu)の融点より低い沸点を有する少なくとも一つの成分を有する銅合金からなる板材である。銅合金板11,13に含まれる銅(Cu)の融点より低い沸点を有する成分としては、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)あるいはリン(P)である。これらの銅合金板11,13としては、厚さ0.1mm~1.0mmの薄板が用いられる。なお、各銅合金板11,13の板厚は等しくてもよく、いずれか一方が他方より厚くてもよい。
【0016】
次に、本実施形態に係る銅合金板の接合方法について説明する。
図3は、レーザ溶接の様子を示す縁部を重ね合わせた銅合金板11,13の概略平面図である。図4は、銅合金板11,13同士を接合させた接合体25における接合箇所の断面図である。図5は、銅合金板11,13同士を接合させた接合体25の接合箇所の状態を示す図である。
【0017】
(配置工程)
図3に示すように、互いに接合させる銅合金板11,13を重ね合わせて配置させる。本例では、銅合金板11,13の縁部同士を重ね合わせる。これにより、銅合金板11,13に、互いに重ね合わせた部分からなる被照射部15を設ける。
【0018】
(レーザ溶接工程)
次に、銅合金板11,13の被照射部15に対してレーザ照射装置100からレーザ光Lを照射し、被照射部15の一端15aから他端15bへ向かう溶接方向Aに沿って走査させる。
【0019】
このとき、レーザ照射装置100をウォブリング動作させることにより、レーザ光Lを周期的に旋回させながら溶接方向Aへ走査させる。すると、レーザ光Lが被照射部15に対して螺旋Rが溶接方向Aに沿って互いに重なり合うように螺旋状に照射される。これにより、被照射部15には、溶接方向Aに対して交差する幅方向へ旋回径Dで複数回にわたって移動しながら溶接方向Aへレーザ光Lが走査されることとなる。これにより、銅合金板11,13の被照射部15は、レーザ光Lによって段階的に加熱されて溶接されることとなる。
【0020】
このように、レーザ照射装置100をウォブリング動作させてレーザ溶接を行うと、図4に示すように、銅合金板11,13同士の接合部には、レーザ光Lの照射箇所が溶融して互いに溶け込み、レーザ光Lの照射側と反対側の銅合金板13の裏面まで溶融する。そして、この溶融部分が冷却されて凝固・硬化した溶接部21が形成されて銅合金板11,13が接合され、これらの銅合金板11,13の接合体25が得られる。
【0021】
この銅合金板11,13の接合体25の溶接部21には、レーザ光Lの照射側にビードBaが形成され、レーザ光Lの照射側と反対側にビードBbが形成される。そして、レーザ光Lの照射側と反対側に形成されるビードBbの幅寸法WBbは、レーザ光Lの照射側の銅合金板11の表面に形成されるビードBaの幅寸法WBaの80%以上となる。
【0022】
図5の(A)に示すように、接合体25におけるレーザ光Lの照射側のビードBaには、レーザ光Lを旋回させたことにより、複数の環状溶接痕MRaが溶接方向Aに連なるように形成される。同様に、図5の(B)に示すように、接合体25におけるレーザ光Lの照射側と反対側のビードBbには、レーザ光Lを旋回させたことにより、複数の環状溶接痕MRbが溶接方向Aに連なるように形成される。
【0023】
このように、本発明の銅合金板の接合方法によれば、銅合金板11,13の重なり部分に対して溶接方向Aに沿ってレーザ光Lを照射する際に、レーザ光Lを溶接方向Aと交差する幅方向へ複数回移動させながら溶接方向Aへ走査させる。これにより、銅合金板11,13の重ね合わせた部分からなる被照射部15をレーザ光Lによって段階的に加熱して溶接できる。つまり、細かく入熱を制御できるので、反射等による溶け込み不良を抑えつつ、合金組成の急激な蒸発によるブローホール、割れあるいは溶け落ちなどの溶接欠陥の発生を抑制できる。また、急熱急冷を抑えることにより、クラックの発生を低減させることができる。つまり、熱伝導率が高く、しかも、レーザ光Lの吸収率が低いために安定した入熱を与えるのが難しい銅合金板11,13同士を、高い信頼性でレーザ溶接して接合させることができる。
【0024】
したがって、銅合金板に含まれる銅の融点より低い沸点を有する成分が、亜鉛、マグネシウムあるいはリンなどであっても、これらの合金組成の急激な蒸発による溶接欠陥の発生を抑制し、銅合金板同士を、高い信頼性でレーザ溶接して接合させることができる。
【0025】
特に、レーザ光Lを溶接方向に対して交差する幅方向へ周期的に移動させながら溶接方向Aへ走査させることにより、溶融金属が凝固するまでの時間を確保し、溶融金属中に生じた気泡の抜けを促進できる。
【0026】
具体的には、レーザ光Lをウォブリングさせて照射位置を旋回させながら溶接方向Aへ走査させることにより、溶接個所への入熱をより細かく制御し、合金組成の急激な蒸発を抑制しつつ十分な入熱量を確保できる。
【0027】
これにより、互いに接合させる銅合金板11,13が厚さ0.1mm~1.0mmの薄板であっても、高い信頼性でレーザ溶接して接合させることができる。
【0028】
そして、本発明の接合方法によって得られた銅合金板の接合体25によれば、複数の銅合金板11,13の重ね合わせ部分に、表裏に貫通する溶接部21を有している。そして、この溶接部21は、表面側の幅寸法WBaに対して、裏面側の幅寸法WBbが80%以上である。したがって、複数の銅合金板11,13の重ね合わせ部分が溶接部21でバランスよく高強度に接合された接合体25が得られる。
【0029】
また、溶接部21の表裏のビードBa,Bbにおいて、溶接方向Aに連なる複数の環状溶接痕MRa,MRbを有することから、レーザ光Lをウォブリングさせて照射させたことにより、バランスよく高強度に溶接されて接合された接合体25であることを確認でき、品質の管理が容易になる。
【0030】
上記の接合方法は、例えば、凹状の銅合金板に平板状の銅合金板を重ねて外周部をレーザ溶接して接合させることにより、内部に空洞部が形成されたべーパーチャンバを製造する際に好適である。
【0031】
なお、上記の例では、2枚の銅合金板11,13を接合する態様を説明したが、本発明はこの態様に限定されるものではなく、3枚以上の銅合金板を接合する場合にも適用できる。
【0032】
また、上記の例では、レーザ溶接工程において、レーザ照射装置100をウォブリング動作させたが、ウォブリング動作以外のウィービング動作等によってレーザ光Lを溶接方向Aに対して交差する幅方向へ複数回移動させながら溶接方向Aへ走査させてもよい。
【0033】
具体的には、図6に示すように、レーザ溶接工程において、レーザ照射装置100をウィービング動作させることにより、レーザ光Lを周期的に溶接方向Aと交差する幅方向へ、幅寸法Wで周期的に往復移動させる。この場合も、銅合金板11,13の被照射部15は、レーザ光Lによって段階的に加熱されて溶接されることとなる。
【0034】
このように、レーザ照射装置100をウィービング動作させてレーザ溶接を行う場合も、銅合金板11,13同士の接合部には、レーザ光Lの照射箇所が溶融して互いに溶け込み、レーザ光Lの照射側と反対側の銅合金板13の裏面まで溶融する(図4参照)。そして、この溶融部分が冷却されて凝固・硬化した溶接部21が形成されて銅合金板11,13が接合され、これらの銅合金板11,13の接合体25が得られる。
【0035】
そして、この銅合金板11,13の接合体25の溶接部21においても、レーザ光Lの照射側と反対側に形成されるビードBbの幅寸法WBbが、レーザ光Lの照射側の銅合金板11の表面に形成されるビードBaの幅寸法WBaの80%以上となる。
【0036】
さらに、図7の(A)に示すように、接合体25におけるレーザ光Lの照射側のビードBaには、レーザ光Lを溶接方向Aと交差する方向へ往復移動させたことにより、溶接方向Aに沿って波状溶接痕MWaが形成される。同様に、図7の(B)に示すように、接合体25におけるレーザ光Lの照射側と反対側のビードBbには、レーザ光Lを溶接方向Aと交差する方向へ往復移動させたことにより、溶接方向Aに沿って波状溶接痕MWbが形成される。
【0037】
この場合も、ウィービングさせて照射位置を溶接方向Aと交差する幅方向へ周期的に移動させながら溶接方向Aへ走査させることにより、溶接個所への入熱をより細かく制御し、合金組成の急激な蒸発を抑制しつつ十分な入熱量を確保できる。
【0038】
そして、得られた銅合金板の接合体25の溶接部21は、表面側の幅寸法WBaに対して、裏面側の幅寸法WBbが80%以上となる。したがって、複数の銅合金板11,13の重ね合わせ部分が溶接部21でバランスよく高強度に接合された接合体25が得られる。
【0039】
また、溶接部21の表裏のビードBa,Bbにおいて、溶接方向Aに沿う波状溶接痕MWa,MWbを有することから、レーザ光Lをウィービングさせて照射させたことにより、バランスよく高強度に溶接されて接合された接合体25であることを確認でき、品質の管理が容易になる。
【実施例
【0040】
組成及び板厚が同一の2枚の銅合金板11,13を重ね合わせ、ガルバノスキャナユニットを備えたレーザ照射装置によってレーザ溶接して接合体を作製し、作製した接合体における溶接個所の表面、裏面及び断面を観察して評価した。銅合金板11,13としては、板厚0.15mmの(Ni,Fe)-P系銅合金を用いた。
【0041】
<溶接条件>
(実施例1)
レーザ出力3.8kW、走査速度10m/minでウォブリング動作させながら一方向の溶接方向に沿ってレーザ溶接した。ウォブリング動作は、旋回径0.6mm、旋回周期250Hzとした。
(比較例1)
レーザ出力4.7kW、走査速度20m/minで一方向の溶接方向に沿って直線的にレーザ溶接した。
(比較例2)
レーザ出力4.5kW、走査速度20m/minで一方向の溶接方向に沿って直線的にレーザ溶接した。
【0042】
<評価結果>
図8図10は、実施例1、比較例1及び比較例2の評価結果を示す画像であり、それぞれの図において、(A)はレーザ光の照射側の画像、(B)はレーザ光の照射側と反対側の画像、(C)は接合箇所における断面の画像である。
【0043】
(実施例1)
実施例1では、図8の(A)に示すように、レーザ光の照射側の銅合金板11の表面にビードBaが形成され、このビードBaには、レーザ光を旋回させたことにより複数の環状溶接痕MRaが形成された。また、図8の(B)に示すように、レーザ光の照射側と反対側の銅合金板13の表面にもビードBbが形成され、このビードBbにも、レーザ光を旋回させたことにより複数の環状溶接痕MRbが形成された。また、ビードBa,Bbには、溶け落ちが生じた形跡がなかった。
【0044】
また、実施例1では、図8の(C)に示すように、銅合金板11,13同士の接合部に厚さ方向にわたって貫通する溶接部21が形成された。この溶接部21において、銅合金板11側に形成されたビードBaの幅寸法WBaは0.80mmであり、銅合金板13側に形成されたビードBbの幅寸法WBbは、0.69mmであった。したがって、ビードBbの幅寸法WBbは、ビードBaの幅寸法WBaの86%であった。つまり、幅寸法WBaに対して幅寸法WBbが80%以上であり、銅合金板11,13おいて溶接部21が偏りなく形成されていた。
【0045】
(比較例1)
比較例1では、図9の(A)に示すように、レーザ光の照射側の銅合金板11の表面に、レーザ光の走査方向に沿う線状のビードBaが形成された。また、図9の(B)に示すように、レーザ光の照射側と反対側の銅合金板13の表面にも、レーザ光の走査方向に沿う線状のビードBbが形成された。しかし、これらのビードBa及びビードBbには、レーザ光によって急激に入熱されたためか、溶け落ちが生じていた(図9の(A)及び図9(B)におけるF部分)。
【0046】
また、比較例1では、図9の(C)に示すように、銅合金板11,13同士の接合部に、厚さ方向にわたって貫通する溶接部21が形成された。この溶接部21において、銅合金板11側に形成されたビードBaの幅寸法WBaは0.66mmであり、銅合金板13側に形成されたビードBbの幅寸法WBbは、0.48mmであった。したがって、ビードBbの幅寸法WBbは、ビードBaの幅寸法WBaの72%であった。つまり、幅寸法WBaに対して幅寸法WBbが80%未満であり、銅合金板11,13同士の接合部において溶接部21が偏って形成されていた。
【0047】
(比較例2)
比較例2では、図10の(A)に示すように、レーザ光の照射側の銅合金板11の表面に、レーザ光の走査方向に沿う線状のビードBaが形成された。しかし、図10の(B)に示すように、レーザ光の照射側と反対側の銅合金板13の表面には、ビードBbが形成されなかった。
【0048】
また、比較例2では、図10の(C)に示すように、銅合金板11,13同士の接合部において、レーザ光の照射側の銅合金板11に溶接部21が形成された。しかし、レーザ光Lの出力不足のためか、この溶接部21は、銅合金板13にほとんど達してなく、銅合金板13には溶け込んでいなかった。
【0049】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0050】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 複数の銅合金板同士をレーザ溶接して接合させる銅合金板の接合方法であって、
銅の融点より低い沸点を有する少なくとも一つの成分を含む複数の前記銅合金板同士を重ねて配置させる配置工程と、
前記銅合金板同士を重ね合わせた被照射部に対して溶接方向に沿ってレーザ光を照射し、複数の前記銅合金板を接合させるレーザ溶接工程と、
を含み、
前記レーザ溶接工程において、
前記レーザ光を前記溶接方向と交差する幅方向へ複数回移動させながら前記溶接方向へ走査させる、銅合金板の接合方法。
この構成の銅合金板の接合方法によれば、銅合金板の重なり部分に対して溶接方向に沿ってレーザ光を照射する際に、レーザ光を溶接方向と交差する幅方向へ複数回移動させながら溶接方向へ走査させる。これにより、銅合金板の重ね合わせた部分をレーザ光によって段階的に加熱して溶接できる。つまり、細かく入熱を制御できるので、反射等による溶け込み不良を抑えつつ、合金組成の急激な蒸発によるブローホール、割れあるいは溶け落ちなどの溶接欠陥の発生を抑制できる。また、急熱急冷を抑えることにより、クラックの発生を低減させることができる。つまり、熱伝導率が高く、しかも、レーザ光の吸収率が低いために安定した入熱を与えるのが難しい銅合金板同士を、高い信頼性でレーザ溶接して接合させることができる。
【0051】
(2) 前記銅合金板に含まれる銅の融点より低い沸点を有する成分が、亜鉛、マグネシウムあるいはリンである、(1)に記載の銅合金板の接合方法。
この構成の銅合金板の接合方法によれば、亜鉛、マグネシウムあるいはリンなどの合金組成の急激な蒸発による溶接欠陥の発生を抑制し、銅合金板同士を、高い信頼性でレーザ溶接して接合させることができる。
【0052】
(3) 前記レーザ溶接工程において、前記レーザ光を前記溶接方向に対して交差する幅方向へ周期的に移動させながら前記溶接方向へ走査させる、(1)または(2)に記載の銅合金板の接合方法。
この構成の銅合金板の接合方法によれば、レーザ光を溶接方向に対して交差する幅方向へ周期的に移動させながら溶接方向へ走査させることにより、溶融金属が凝固するまでの時間を確保し、溶融金属中に生じた気泡の抜けを促進できる。
【0053】
(4) 前記レーザ溶接工程において、前記レーザ光をウォブリングさせて照射位置を旋回させながら前記溶接方向へ走査させる、(1)~(3)のいずれか一つに記載の銅合金板の接合方法。
この構成の銅合金板の接合方法によれば、レーザ光をウォブリングさせて照射位置を旋回させながら溶接方向へ走査させることにより、溶接個所への入熱をより細かく制御し、合金組成の急激な蒸発を抑制しつつ十分な入熱量を確保できる。
【0054】
(5) 前記レーザ溶接工程において、前記レーザ光をウィービングさせて照射位置を前記溶接方向と交差する幅方向へ周期的に移動させながら前記溶接方向へ走査させる、(1)~(3)のいずれか一つに記載の銅合金板の接合方法。
この構成の銅合金板の接合方法によれば、ウィービングさせて照射位置を溶接方向と交差する幅方向へ周期的に移動させながら溶接方向へ走査させることにより、溶接個所への入熱をより細かく制御し、合金組成の急激な蒸発を抑制しつつ十分な入熱量を確保できる。
【0055】
(6) 互いに接合させる前記銅合金板が厚さ0.1mm~1.0mmの薄板である、(1)~(5)のいずれか一つに記載の銅合金板の接合方法。
この構成の銅合金板の接合方法によれば、互いに接合させる銅合金板が厚さ0.1mm~1.0mmの薄板であっても、高い信頼性でレーザ溶接して接合させることができる。
【0056】
(7) 複数の銅合金板が重ね合わされ、重ね合わせ部分が溶接されて接合された銅合金板の接合体であって、
前記重ね合わせ部分には、溶融金属が凝固した溶接部が表裏に貫通して設けられ、
前記溶接部は、表面側の幅寸法に対して、裏面側の幅寸法が80%以上である、銅合金板の接合体。
この構成の銅合金板の接合体によれば、複数の銅合金板の重ね合わせ部分に、表裏に貫通する溶接部を有している。そして、この溶接部は、表面側の幅寸法に対して、裏面側の幅寸法が80%以上である。したがって、複数の銅合金板の重ね合わせ部分が溶接部でバランスよく高強度に接合された接合体が得られる。
【0057】
(8) 前記溶接部の表裏には、溶接方向に沿うビードが形成され、
それぞれの前記ビードには、複数の環状溶接痕が溶接方向に連なるように形成されている、(7)に記載の銅合金板の接合体。
この構成の銅合金板の接合体によれば、溶接部の表裏のビードにおいて、溶接方向に連なる複数の環状溶接痕を有することから、例えば、レーザ光をウォブリングさせて照射させたことにより、バランスよく高強度に溶接されて接合された接合体であることを確認でき、品質の管理が容易になる。
【0058】
(9) 前記溶接部の表裏には、溶接方向に沿うビードが形成され、
それぞれの前記ビードには、溶接方向に沿って波状溶接痕が形成されている、(7)に記載の銅合金板の接合体。
この構成の銅合金板の接合体によれば、溶接部の表裏のビードにおいて、溶接方向に沿う波状溶接痕を有することから、例えば、レーザ光をウィービングさせて照射させたことにより、バランスよく高強度に溶接されて接合された接合体であることを確認でき、品質の管理が容易になる。
【符号の説明】
【0059】
11,13 銅合金板
15 被照射部
21 溶接部
25 接合体
A 溶接方向
Ba,Bb ビード
L レーザ光
WBa,WBb 幅寸法
MRa,MRb 環状溶接痕
MWa,MWb 波状溶接痕
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10