IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日鉄鋼管株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-超音波探傷方法及び超音波探傷装置 図1
  • 特許-超音波探傷方法及び超音波探傷装置 図2
  • 特許-超音波探傷方法及び超音波探傷装置 図3
  • 特許-超音波探傷方法及び超音波探傷装置 図4
  • 特許-超音波探傷方法及び超音波探傷装置 図5
  • 特許-超音波探傷方法及び超音波探傷装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】超音波探傷方法及び超音波探傷装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/30 20060101AFI20241224BHJP
【FI】
G01N29/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021085473
(22)【出願日】2021-05-20
(65)【公開番号】P2022178575
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】522502680
【氏名又は名称】日鉄鋼管株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 繁俊
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 将人
(72)【発明者】
【氏名】神尾 大輔
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-043989(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2249152(EP,A2)
【文献】特開2019-178878(JP,A)
【文献】特開平11-190727(JP,A)
【文献】特開2019-219344(JP,A)
【文献】特開2010-122072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被探傷管の外面に対向配置された超音波探触子を用いて、前記被探傷管の軸方向に沿って前記被探傷管の端面に向けて超音波を送受信することで、前記被探傷管の外面の表皮下に存在し、前記被探傷管の周方向に延びる表皮下欠陥を検出する超音波探傷方法であって、
第1人工欠陥として、外面又は内面に周方向ノッチが形成され、前記表皮下欠陥を模擬した第2人工欠陥として、端面で開口し軸方向に延びる円柱状の穴の底面が形成された、互いに外径の異なる複数本の校正用管を準備する第1ステップと、
前記複数本の各校正用管の外面に対向配置された前記超音波探触子を用いて、前記各校正用管の軸方向に沿って前記各校正用管の端面に向けて超音波を送受信することで、前記第1人工欠陥の探傷感度と、前記第2人工欠陥の探傷感度とを算出する第2ステップと、
前記第2人工欠陥の面積Sを前記第1人工欠陥の深さDと前記超音波探触子の有効ビーム幅Wとの積で除算したパラメータPsと、前記第1人工欠陥の探傷感度と前記第2人工欠陥の探傷感度との差Sdとの関係を算出する第3ステップと、
検出対象とする前記表皮下欠陥の面積Saと、前記第3ステップで算出した関係とに基づき、前記第1人工欠陥の探傷感度と検出対象とする前記表皮下欠陥の探傷感度との差Sd’を推定し、前記推定した差Sd’を用いて、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値又は探傷感度を補正する第4ステップと、
前記超音波探触子を用いて、前記被探傷管の軸方向に沿って前記被探傷管の端面に向けて超音波を送受信し、前記第4ステップで補正した後の欠陥検出しきい値又は探傷感度を用いて、前記表皮下欠陥を検出する第5ステップと、を含む、
ことを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項2】
前記被探傷管が電縫鋼管であり、
前記表皮下欠陥が前記電縫鋼管の溶接部に存在する、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷方法。
【請求項3】
前記第5ステップにおいて、前記超音波探触子を前記被探傷管の溶接部に沿って前記被探傷管の中央部から超音波を送受信する端面に向けて相対的に移動させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の超音波探傷方法。
【請求項4】
前記第5ステップは、
前記溶接部の位置を検出する手順と、
前記検出した溶接部の位置が前記超音波探触子に対向する位置となるように、前記被探傷管を周方向に相対的に回転させる手順と、
前記溶接部の位置が前記超音波探触子に対向する位置となった状態で、前記被探傷管の軸方向に沿って前記被探傷管の端面に向けて超音波を送受信する手順と、を含む、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の超音波探傷方法。
【請求項5】
被探傷管の外面に対向配置された超音波探触子を備え、前記超音波探触子が、前記被探傷管の軸方向に沿って前記被探傷管の端面に向けて超音波を送受信することで、前記被探傷管の外面の表皮下に存在し、前記被探傷管の周方向に延びる表皮下欠陥を検出する超音波探傷装置であって、
第1人工欠陥として、外面又は内面に周方向ノッチが形成され、前記表皮下欠陥を模擬した第2人工欠陥として、端面で開口し軸方向に延びる円柱状の穴の底面が形成された、互いに外径の異なる複数本の校正用管を準備する第1ステップと、
前記複数本の各校正用管の外面に対向配置された前記超音波探触子を用いて、前記各校正用管の軸方向に沿って前記各校正用管の端面に向けて超音波を送受信することで、前記第1人工欠陥の探傷感度と、前記第2人工欠陥の探傷感度とを算出する第2ステップと、
前記第2人工欠陥の面積Sを前記第1人工欠陥の深さDと前記超音波探触子の有効ビーム幅Wとの積で除算したパラメータPsと、前記第1人工欠陥の探傷感度と前記第2人工欠陥の探傷感度との差Sdとの関係を算出する第3ステップと、
検出対象とする表皮下欠陥の面積Saと、前記第3ステップで算出した関係とに基づき、前記第1人工欠陥の探傷感度と検出対象とする前記表皮下欠陥の探傷感度との差Sd’を推定し、前記推定した差を用いて、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値又は探傷感度を補正する第4ステップと、が予め実行されて、
前記超音波探傷装置には、前記第4ステップで補正した後の欠陥検出しきい値又は探傷感度が設定されており、
前記超音波探傷装置は、前記超音波探触子が前記被探傷管の軸方向に沿って前記被探傷管の端面に向けて超音波を送受信し、前記設定された補正後の欠陥検出しきい値又は探傷感度を用いて、前記表皮下欠陥を検出する、
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫鋼管など管の外面の表皮下に存在し、管の周方向に延びる表皮下欠陥を検出する超音波探傷方法及び超音波探傷装置に関する。特に、本発明は、欠陥検出しきい値又は探傷感度を精度良く且つ効率良く校正可能な超音波探傷方法及び超音波探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電縫鋼管(電気抵抗溶接鋼管、ERW鋼管ともいう)は、公知のように、造管ラインにおいて、コイルから巻き出された薄板をロールで管状に成形し、管状に成形された薄板の端部同士を電気抵抗溶接することで製造される。この電気抵抗溶接は、高周波電力が印加されたインダクションコイルを用いて、薄板の端部に渦電流を生成し、この渦電流によって加熱(誘導加熱)された薄板の端部をロールで圧接する方法である。
【0003】
電縫鋼管のうち、特に高強度材から形成される鋼管には、溶接してから数日後に、溶接に伴って生じた溶接部の残留応力を開放するために、遅れ割れと称される鋼管の周方向に延びる欠陥が生じる場合がある。この遅れ割れは、鋼管の内外面に開口せず、外面の表皮下(例えば、鋼管の外面から1mm程度の位置)に残存する可能性が高い。
遅れ割れのような周方向に延びる表皮下欠陥が残存すると、例えば、溶接後の鋼管を誘導加熱して曲げ加工する際に、渦電流の流れが表皮下欠陥の周辺に集中し、局部的な過加熱が生じる可能性がある。これにより、鋼管が破断する等の問題が生じる可能性がある。
このため、周方向に延びる表皮下欠陥を検出し、鋼管の品質保証を行うことが重要である。
【0004】
表皮下欠陥のように鋼管の内部(肉厚内部)に存在する欠陥を非破壊で検出する方法として、超音波探傷方法が知られている。特に、鋼管の周方向に延びる欠陥を検出するには、いわゆる超音波斜角探傷のうち、軸方向斜角探傷が用いられる。軸方向斜角探傷は、鋼管の外面に対向配置された超音波探触子を用いて、鋼管の軸方向に沿って鋼管の端面に向けて超音波を送受信することで、欠陥を検出する方法である。具体的には、軸方向斜角探傷は、超音波探触子から送信した超音波を鋼管の外面の法線方向に対して所定角度で鋼管に入射(斜め入射)させ、入射した超音波が鋼管の軸方向に沿って鋼管の端面に向けて伝搬する際、欠陥が存在すると超音波が反射するため、反射した超音波(エコー)を超音波探触子で受信することで欠陥を検出する方法である。
【0005】
ここで、一般的に、軸方向斜角探傷の校正(欠陥検出しきい値及び探傷感度の校正)には、鋼管の外面又は内面に形成された周方向ノッチが用いられる。外面に形成された周方向ノッチ(外面周方向ノッチ)は、鋼管の外面に開口し、鋼管の周方向に延びるノッチ状の人工欠陥であり、鋼管の肉厚の10%など、肉厚に対して一定の割合の深さを有するものである。同様に、内面に形成された周方向ノッチ(内面周方向ノッチ)は、鋼管の内面に開口し、鋼管の周方向に延びるノッチ状の人工欠陥であり、鋼管の肉厚の10%など、肉厚に対して一定の割合の深さを有するものである。
軸方向斜角探傷は、周方向ノッチで反射したエコーを受信することで得られるエコー信号の強度が予め定めた大きさになるように、探傷感度(エコー信号の増幅度)を調整することで校正される。また、軸方向斜角探傷は、周方向ノッチで反射したエコーを受信することで得られるエコー信号を検出できるように欠陥検出しきい値を調整することで校正される。
【0006】
しかしながら、周方向に延びる表皮下欠陥を軸方向斜角探傷で検出する場合、その校正精度を高めるには、周方向ノッチのように外面又は内面に開口した人工欠陥ではなく、表皮下欠陥を模擬するように外面又は内面に開口していない人工欠陥を用いることが望ましい。このような人工欠陥としては、鋼管の端面で開口し軸方向に延びる円柱状の穴の底面を用いることが考えられる。
【0007】
上記のような円柱状の穴の底面を人工欠陥として用いて軸方向斜角探傷を校正すれば、校正精度が高まり、ひいては、表皮下欠陥の検出精度が高まることを期待できる。
しかしながら、校正に用いる円柱状の穴の底面で反射するエコーと、ノイズとなる鋼管の端面で反射するエコーとを区別するには、鋼管の軸方向に延びる円柱状の穴の深さを一定以上(例えば、鋼管の肉厚の3倍以上)にすることが必要である。このような円柱状の穴を鋼管の外面から1mm程度の位置に精度良く加工することは難しい。また、鋼管の外面から円柱状の穴の底面の位置を目視できないため、校正の際に、超音波探触子と円柱状の穴の底面とを位置合わせすることも難しい。
したがって、円柱状の穴の底面を人工欠陥として用いた軸方向斜角探傷の校正は可能であるものの、非常に手間を要するため、このような人工欠陥を校正の際に定常的に用いることは極めて効率が悪い。
【0008】
例えば、特許文献1~3には、超音波を用いて表皮下欠陥を検出する超音波探傷方法が提案されているものの、上記の問題を解決するものではない。
【0009】
なお、上記の説明では、電縫鋼管を例に挙げて説明したが、これに限るものではなく、管の外面に対向配置された超音波探触子を用いて、管の軸方向に沿って管の端面に向けて超音波を送受信することで、管の外面の表皮下に存在し、管の周方向に延びる表皮下欠陥を検出する超音波探傷方法に共通する問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特公昭64-11144号公報
【文献】特開昭58-144742号公報
【文献】特開平9-15215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、電縫鋼管など管の外面の表皮下に存在し、管の周方向に延びる表皮下欠陥を検出する超音波探傷方法及び超音波探傷装置であって、欠陥検出しきい値又は探傷感度を精度良く且つ効率良く校正可能な超音波探傷方法及び超音波探傷装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を行った。具体的には、第1人工欠陥として、外面又は内面に周方向ノッチが形成され、表皮下欠陥を模擬した第2人工欠陥として、端面で開口し軸方向に延びる円柱状の穴の底面が形成された、互いに外径の異なる複数本の校正用管を準備し、各校正用管を軸方向斜角探傷することで、第1人工欠陥の探傷感度と、第2人工欠陥の探傷感度とを算出した。そして、第1人工欠陥の探傷感度と第2人工欠陥の探傷感度との関係を鋭意検討した結果、第2人工欠陥の面積S(すなわち、円柱状の穴の底面の面積)を第1人工欠陥の深さDと超音波探触子の有効ビーム幅Wとの積で除算したパラメータPs(すなわち、Ps=S/(D・W))と、第1人工欠陥の探傷感度と第2人工欠陥の探傷感度との差Sdとの間には、良好な相関関係が得られることを見出した。
【0013】
したがって、検出対象とする表皮下欠陥の面積Saが決定されれば、この面積Saと、上記のパラメータPsと探傷感度の差Sdとの関係とを用いることで、第1人工欠陥の探傷感度と検出対象とする表皮下欠陥の探傷感度との差Sd’を推定することができる。具体的には、パラメータPsを規定する第2人工欠陥の面積Sの代わりに検出対象とする表皮下欠陥の面積Saを代入することで算出されるパラメータPs’と、上記の関係とを用いることで、第1人工欠陥の探傷感度と検出対象とする表皮下欠陥の探傷感度との差Sd’を算出(推定)することができる。
上記の推定した差Sd’を用いれば、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値又は探傷感度を補正することが可能である。すなわち、いったん、パラメータPsと探傷感度の差Sdとの関係を算出しておきさえすれば、校正する毎に加工や位置合わせの難しい第2人工欠陥を用いて校正する必要がなく、一般的に常用される第1人工欠陥を用いて校正するだけで良いため、効率良く校正を行うことが可能である。また、一般的な校正と同様に第1人工欠陥を用いて欠陥検出しきい値及び探傷感度を校正するだけではなく、この校正した欠陥検出しきい値又は探傷感度を推定した差Sd’を用いて補正するため、精度良く校正を行うことが可能である。
【0014】
本発明は、上記の本発明者らの知見に基づき完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、被探傷管の外面に対向配置された超音波探触子を用いて、前記被探傷管の軸方向に沿って前記被探傷管の端面に向けて超音波を送受信することで、前記被探傷管の外面の表皮下に存在し、前記被探傷管の周方向に延びる表皮下欠陥を検出する超音波探傷方法であって、以下の第1~第5ステップを含むことを特徴とする。
(1)第1ステップ:第1人工欠陥として、外面又は内面に周方向ノッチが形成され、前記表皮下欠陥を模擬した第2人工欠陥として、端面で開口し軸方向に延びる円柱状の穴の底面が形成された、互いに外径の異なる複数本の校正用管を準備する。
(2)第2ステップ:前記複数本の各校正用管の外面に対向配置された前記超音波探触子を用いて、前記各校正用管の軸方向に沿って前記各校正用管の端面に向けて超音波を送受信することで、前記第1人工欠陥の探傷感度と、前記第2人工欠陥の探傷感度とを算出する。
(3)第3ステップ:前記第2人工欠陥の面積Sを前記第1人工欠陥の深さDと前記超音波探触子の有効ビーム幅Wとの積で除算したパラメータPsと、前記第1人工欠陥の探傷感度と前記第2人工欠陥の探傷感度との差Sdとの関係を算出する。
(4)第4ステップ:検出対象とする前記表皮下欠陥の面積Saと、前記第3ステップで算出した関係とに基づき、前記第1人工欠陥の探傷感度と検出対象とする前記表皮下欠陥の探傷感度との差Sd’を推定し、前記推定した差Sd’を用いて、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値又は探傷感度を補正する。
(5)第5ステップ:前記超音波探触子を用いて、前記被探傷管の軸方向に沿って前記被探傷管の端面に向けて超音波を送受信し、前記第4ステップで補正した後の欠陥検出しきい値又は探傷感度を用いて、前記表皮下欠陥を検出する。
【0015】
本発明における「校正用管」としては、必ずしもこれに限定されるものではないが、超音波探傷方法を適用することで品質保証する対象である「被探傷管」と同一の材質で形成された管を用いることが好ましい。
また、「互いに外径の異なる複数本の校正用管」は、互いに外径のみが異なる場合に限られるものではなく、互いに外径が異なることに応じて互いに肉厚が異なる場合も含む概念である。
また、第1人工欠陥及び第2人工欠陥は、必ずしも同一の校正用管に同時に形成される必要はなく、第1人工欠陥のみが形成された校正用管と、第2人工欠陥のみが形成された校正用管とを別個に用いることも可能である。
また、「端面に向けて超音波を送受信」とは、端面に超音波が到達する場合に限られるものではなく、端面方向に超音波を送受信することを意味する。
さらに、「超音波探触子の有効ビーム幅」は、管の径方向に貫通するように形成された小径(例えば、直径3mm)の貫通穴を、超音波探触子と管とを管の周方向に相対的に移動させながら軸方向斜角探傷し、貫通穴で反射したエコーを超音波探触子によって受信することで得られるエコー信号の強度のプロファイルにおいて、エコー信号の強度が所定の強度以上(例えば、最大強度を0dBとしたときに-3dB以上)となる範囲の長さを意味する。
【0016】
本発明によれば、第1ステップで、第1人工欠陥(外面又は内面に形成された周方向ノッチ)と第2人工欠陥(端面で開口し軸方向に延びる円柱状の穴の底面)とが形成された複数本の校正用管を準備し、第2ステップで、各校正用管を軸方向斜角探傷する(各校正用管の軸方向に沿って各校正用管の端面に向けて超音波を送受信する)ことで、第1人工欠陥の探傷感度と第2人工欠陥の探傷感度とを算出する。これにより、第3ステップで、第2人工欠陥の面積Sを第1人工欠陥の深さDと超音波探触子の有効ビーム幅Wとの積で除算したパラメータPs(Ps=S/(D・W))と、第1人工欠陥の探傷感度と第2人工欠陥の探傷感度との差Sdとの関係を算出することができる。具体的には、例えば、探傷感度の差SdをパラメータPsの2次関数で近似した、以下の式(1)に示すような関係式を算出することができる。
Sd=a・Ps+b・Ps+c ・・・(1)
【0017】
さらに、本発明によれば、第4ステップで、検出対象とする表皮下欠陥の面積Saと、第3ステップで算出した関係とに基づき、第1人工欠陥の探傷感度と検出対象とする表皮下欠陥の探傷感度との差Sd’を推定することができる。具体的には、パラメータPsを規定する第2人工欠陥の面積Sの代わりに検出対象とする表皮下欠陥の面積Saを代入することで算出されるパラメータPs’(Ps’=Sa/(D・W))と、第3ステップで算出した関係とを用いること、すなわち、例えば、このパラメータPs’を前記式(1)の右辺のPsに代わりに代入することで得られる左辺の値を探傷感度の差Sd’として算出(推定)することができる。
【0018】
そして、第4ステップでは、推定した差Sd’を用いて、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値又は探傷感度を補正する。
例えば、推定した差Sd’>0であれば、第1人工欠陥の探傷感度の方が検出対象とする表皮下欠陥の探傷感度よりも大きいと考えられる。換言すれば、同じ探傷感度で超音波探傷した場合、第1人工欠陥のエコー信号の強度の方が検出対象とする表皮下欠陥のエコー信号の強度よりも小さいと考えられる。このため、第1人工欠陥を用いて校正した探傷感度をそのまま用いる場合、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値をそのまま用いても(補正しなくても)、或いは、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値を、探傷感度の差Sd’に応じて大きな値に補正しても、表皮下欠陥を検出できることが期待できる。また、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値をそのまま用いる場合、第1人工欠陥を用いて校正した探傷感度をそのまま用いても(補正しなくても)、或いは、第1人工欠陥を用いて校正した探傷感度を、探傷感度の差Sd’に応じて小さな値に補正しても、表皮下欠陥を検出できることが期待できる。
また、例えば、推定した差Sd’=0であれば、第1人工欠陥の探傷感度と検出対象とする表皮下欠陥の探傷感度とが同一であると考えられる。このため、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値及び探傷感度を補正せずにそのまま用いることができる。
さらに、例えば、推定した差Sd’<0であれば、第1人工欠陥の探傷感度の方が検出対象とする表皮下欠陥の探傷感度よりも小さいと考えられる。換言すれば、同じ探傷感度で超音波探傷した場合、第1人工欠陥のエコー信号の強度の方が検出対象とする表皮下欠陥のエコー信号の強度よりも大きいと考えられる。このため、第1人工欠陥を用いて校正した探傷感度をそのまま用いる場合、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値もそのまま用いたのでは、表皮下欠陥を検出できないおそれがある。このため、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値を、探傷感度の差Sd’に応じて小さな値に補正すればよい。これにより、表皮下欠陥を検出できることが期待できる。また、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値をそのまま用いる場合、第1人工欠陥を用いて校正した探傷感度もそのまま用いたのでは、表皮下欠陥を検出できないおそれがある。このため、第1人工欠陥を用いて校正した探傷感度を、探傷感度の差Sd’に応じて大きな値に補正すればよい。
【0019】
以上のように、本発明によれば、第4ステップで、第1人工欠陥の探傷感度と検出対象とする表皮下欠陥の探傷感度との差Sd’を推定し、この推定した差Sd’を用いることで、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値又は探傷感度を補正することが可能である。すなわち、いったん、パラメータPsと探傷感度の差Sdとの関係を算出しておきさえすれば、校正する毎に加工や位置合わせの難しい第2人工欠陥を用いて校正する必要がなく、一般的に常用される第1人工欠陥を用いて校正するだけで良いため、効率良く校正を行うことが可能である。また、一般的な校正と同様に第1人工欠陥を用いて欠陥検出しきい値及び探傷感度を校正するだけではなく、この校正した欠陥検出しきい値又は探傷感度を推定した差Sd’を用いて補正するため、精度良く校正を行うことが可能である。
そして、本発明によれば、第5ステップで、被探傷管を軸方向斜角探傷し(被探傷管の軸方向に沿って被探傷管の端面に向けて超音波を送受信し)、第4ステップで補正した後の欠陥検出しきい値又は探傷感度を用いることで、精度良く且つ効率良く表皮下欠陥を検出することが可能である。
【0020】
本発明は、前記被探傷管が電縫鋼管であり、前記表皮下欠陥が前記電縫鋼管の溶接部に存在する場合に好適に用いられる。
【0021】
ここで、軸方向斜角探傷を行う場合の管の端部の不感帯(欠陥を検出できない範囲)は、一般的に、超音波を送受信する端面側の不感帯の方が、超音波を送受信する端面と反対側の不感帯よりも小さくなる。超音波を送受信する端面側の不感帯は、ノイズとなる管の端面で反射するエコー(端面エコー)の波長と波数に依存し、通常、管の肉厚の3倍程度(常用される電縫鋼管の肉厚であって、探傷周波数が5MHz程度の場合)になるが、超音波を送受信する端面と反対側の不感帯は、超音波が伝搬しない範囲によって決まり、通常、前者よりも後者の方が大きいからである。
【0022】
このため、被探傷管が電縫鋼管であり、表皮下欠陥が電縫鋼管の溶接部に存在する場合、前記第5ステップにおいて、前記超音波探触子を前記被探傷管の溶接部に沿って前記被探傷管の中央部から超音波を送受信する端面に向けて相対的に移動させることが好ましい。
上記の好ましい方法によれば、超音波探触子を被探傷管の中央部から超音波を送受信する端面に向けて相対的に移動させることで、不感帯を小さくした状態で、被探傷管の全長(不感帯を除く全長)の超音波探傷が可能である。
なお、上記の好ましい方法を用いて被探傷管の全長を超音波探傷するには、例えば、超音波探触子を被探傷管の中央部から超音波を送受信する端面に向けて相対的に移動させて、被探傷管のおよそ半分を超音波探傷した後、超音波探触子の向きを反転させて(前記端面と反対側の端面に向けて超音波を送受信するように超音波探触子の向きを変えて)、この超音波探触子を被探傷管の中央部から反対側の端面に向けて相対的に移動させて、被探傷管の残りの半分を超音波探傷することで、実行可能である。また、例えば、2つの超音波探触子を用いて、一方の超音波探触子を被探傷管の中央部から一方の端面に向けて相対的に移動させながら前記一方の端面に向けて超音波を送受信して超音波探傷し、他方の超音波探触子を被探傷管の中央部から他方の端面に向けて相対的に移動させながら前記他方の端面に向けて超音波を送受信して超音波探傷することで、被探傷管の全長を超音波探傷してもよい。
【0023】
ここで、被探傷管が電縫鋼管であり、表皮下欠陥が溶接してから数日後に溶接部に生じる遅れ割れのような欠陥である場合には、被探傷管の造管ラインに設置された超音波探傷装置で検出することはできない。また、造管ラインに設置されている超音波探傷装置は、一般的に、電縫鋼管の軸方向に延びる欠陥や溶接不良を検出することを目的としているため、周方向斜角探傷が用いられている。周方向斜角探傷は、管の外面に対向配置された超音波探触子を用いて、管の周方向に沿って超音波を送受信することで、欠陥を検出する方法であるため、原理的に、管の周方向に延びる表皮下欠陥を検出することはできない。
このため、遅れ割れのように、造管後に生じる表皮下欠陥を検出するには、造管ラインから外れたオフラインで超音波探傷(軸方向斜角探傷)する必要がある。オフラインで超音波探傷する場合、オフラインへの搬送過程で管が周方向に回転し得るため、管1本毎に溶接部の位置を特定することができない。このため、電縫鋼管をオフラインで超音波探傷する場合には、一般的に、管の全面・全長を超音波探傷することが可能なプローブ回転式超音波探傷装置(管が軸方向に相対的に移動すると共に、超音波探触子が管の周方向に回転しながら超音波探傷を行う超音波探傷装置)が用いられる。このプローブ回転式超音波探傷装置を用いて軸方向斜角探傷を行うことは可能であるものの、プローブ回転式超音波探傷装置への管の搬入・搬出時の探傷水(接触媒質)の乱れに起因して、管の端部の不感帯が大きくなるという問題がある。また、周方向に延びる欠陥が超音波探触子が有する山形の音圧分布の何れの部分を通過するかに応じて生じるエコー信号の強度の低下を一定値以下にして、エコー信号の強度の再現性を確保するには、管の軸方向への相対的な移動速度を小さくする必要があり、探傷効率が悪いという問題がある。
【0024】
このため、被探傷管が電縫鋼管であり、表皮下欠陥が電縫鋼管の溶接部に存在する場合、前記第5ステップは、前記溶接部の位置を検出する手順と、前記検出した溶接部の位置が前記超音波探触子に対向する位置となるように、前記被探傷管を周方向に相対的に回転させる手順と、前記溶接部の位置が前記超音波探触子に対向する位置となった状態で、前記被探傷管の軸方向に沿って前記被探傷管の端面に向けて超音波を送受信する手順と、を含むことが好ましい。
上記の好ましい方法によれば、オフラインで超音波探傷する場合のように、管1本毎に溶接部の位置を特定することができない状況であっても、溶接部の位置を検出して、検出した溶接部の位置が超音波探触子に対向する位置となるように、被探傷管を周方向に相対的に回転させた後に、軸方向斜角探傷するため、プローブ回転式超音波探傷装置のように超音波探触子を管の周方向に回転させながら超音波探傷する必要がなくなり、不感帯が大きくなったり、探傷効率が悪くなるという問題が生じないという利点が得られる。
なお、溶接部の位置は、例えば、管の外面に対向配置された撮像手段で管の外面を撮像し、この撮像画像に画像処理を施す公知の検出方法を用いて検出可能である。
【0025】
また、前記課題を解決するため、本発明は、被探傷管の外面に対向配置された超音波探触子を備え、前記超音波探触子が、前記被探傷管の軸方向に沿って前記被探傷管の端面に向けて超音波を送受信することで、前記被探傷管の外面の表皮下に存在し、前記被探傷管の周方向に延びる表皮下欠陥を検出する超音波探傷装置であって、第1人工欠陥として、外面又は内面に周方向ノッチが形成され、前記表皮下欠陥を模擬した第2人工欠陥として、端面で開口し軸方向に延びる円柱状の穴の底面が形成された、互いに外径の異なる複数本の校正用管を準備する第1ステップと、前記複数本の各校正用管の外面に対向配置された前記超音波探触子を用いて、前記各校正用管の軸方向に沿って前記各校正用管の端面に向けて超音波を送受信することで、前記第1人工欠陥の探傷感度と、前記第2人工欠陥の探傷感度とを算出する第2ステップと、前記第2人工欠陥の面積Sを前記第1人工欠陥の深さDと前記超音波探触子の有効ビーム幅Wとの積で除算したパラメータPsと、前記第1人工欠陥の探傷感度と前記第2人工欠陥の探傷感度との差Sdとの関係を算出する第3ステップと、検出対象とする表皮下欠陥の面積Saと、前記第3ステップで算出した関係とに基づき、前記第1人工欠陥の探傷感度と検出対象とする前記表皮下欠陥の探傷感度との差Sd’を推定し、前記推定した差を用いて、第1人工欠陥を用いて校正した欠陥検出しきい値又は探傷感度を補正する第4ステップと、が予め実行されて、前記超音波探傷装置には、前記第4ステップで補正した後の欠陥検出しきい値又は探傷感度が設定されており、前記超音波探傷装置は、前記超音波探触子が前記被探傷管の軸方向に沿って前記被探傷管の端面に向けて超音波を送受信し、前記設定された補正後の欠陥検出しきい値又は探傷感度を用いて、前記表皮下欠陥を検出する、ことを特徴とする超音波探傷装置としても提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、電縫鋼管など管の外面の表皮下に存在し、管の周方向に延びる表皮下欠陥を検出する超音波探傷方法及び超音波探傷装置において、欠陥検出しきい値又は探傷感度を精度良く且つ効率良く校正可能であり、ひいては、精度良く且つ効率良く表皮下欠陥を検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置の概略構成を模式的に示す図である。
図2】被探傷管の端部の不感帯を説明する図である。
図3】本発明の一実施形態に係る超音波探傷方法の概略手順を示すフロー図である。
図4図3に示すステップST1及びST2を説明する図である。
図5図3に示すステップST2で算出された第1人工欠陥AF1及び第2人工欠陥AF2の探傷感度の一例を示す。
図6図3に示すステップST3で算出されたパラメータPsと探傷感度の差Sdとの関係の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置及びこれを用いた超音波探傷方法について、被探傷管が電縫鋼管であり、表皮下欠陥が電縫鋼管の溶接部に存在する場合を例に挙げて説明する。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置の概略構成を模式的に示す図である。図1(a)は、被探傷管Pの軸方向から見た正面図である。図1(b)は、図1(a)に示す超音波探傷位置において、被探傷管Pの軸方向に略直交する水平方向から見た斜視図である。図1(c)は、図1(a)に示す超音波探傷位置における超音波探触子の移動軌跡を説明する斜視図である。図1(b)では、図1(a)に示す横送りコンベア5の図示を省略している。また、図1(c)では、図1(a)に示す探傷器2及び横送りコンベア5の図示を省略している。なお、図1に示す構成要素の寸法、縮尺及び形状は、実際のものとは異なっている場合があることに留意されたい。他の図についても同様である。
図1に示すように、本実施形態に係る超音波探傷装置100は、超音波探触子1と、探傷器2と、撮像手段3と、画像処理手段4と、横送りコンベア5と、回転ローラ6と、を備え、被探傷管Pの溶接部PWの外面の表皮下に存在し、被探傷管Pの周方向に延びる表皮下欠陥Fを検出する装置である。
【0030】
図1(a)に示すように、スキッド等の移送手段によって横送りコンベア5上の搬入位置に搬入された被探傷管Pは、横送りコンベア5によって、溶接部検出位置まで横送りされる。すなわち、被探傷管Pは、溶接部検出位置まで、被探傷管Pの軸方向に直交する水平方向に搬送される。
【0031】
溶接部検出位置には、被探傷管Pの外面に対向するように、上方にCCDカメラやCMOSカメラ等の撮像手段3が配置され、下方に一対の回転ローラ6が配置されている。回転ローラ6は昇降可能に構成されており、被探傷管Pが溶接部検出位置に到達するまでは、被探傷管Pに干渉しない下降位置に待機し、被探傷管Pが溶接部検出位置に到達した後に被探傷管Pの下面に接触するまで上昇する。上昇した回転ローラ6が回転することにより、被探傷管Pも周方向に回転する。画像処理手段4は、撮像手段3に接続されており、撮像手段3で取得した被探傷管Pの外面(上面)の撮像画像に公知の画像処理を施すことで、被探傷管Pの溶接部PWの位置を検出する。回転ローラ6を回転させながら(被探傷管Pを回転させながら)、撮像手段3で撮像画像を逐次取得し、画像処理手段4で溶接部PWの位置を逐次検出することで、溶接部PWが被探傷管Pの最上部(超音波探触子1に対向する位置)に到達する時点を検知可能である。回転ローラ6は、溶接部PWが被探傷管Pの最上部に到達する時点で回転を停止する。これにより、被探傷管Pの最上部に溶接部PWが位置する状態となる。図1(a)に示す例では、溶接部PWが破線で示す位置にあるときには回転ローラ6は回転している(被探傷管Pは回転している)が、溶接部PWが実線で示す位置にあるときには回転ローラ6は停止している(被探傷管Pは停止している)。
【0032】
回転ローラ6が停止した後、被探傷管Pは、超音波探傷位置まで横送りする際に周方向に回転しないように、所定のチャック(図示せず)によって固定される。また、回転ローラ6は、被探傷管Pに干渉しない下降位置まで下降する。そして、チャックで固定された状態の被探傷管Pは、横送りコンベア5によって、超音波探傷位置まで横送りされる。
【0033】
超音波探傷位置には、被探傷管Pの外面に対向するように、上方に超音波探触子1が配置されている。前述のように、溶接部検出位置において被探傷管Pの最上部に溶接部PWが位置する状態となり、その状態で、被探傷管Pは超音波探傷位置まで横送りされるため、超音波探触子1は、被探傷管Pの溶接部PWに対向することになる。
本実施形態では、超音波探触子1として、被探傷管Pの軸方向に沿って2つの超音波探触子1a、1bが配置されている。各超音波探触子1は、それぞれ走行台車(図示せず)に取り付けられている。各走行台車は、各超音波探触子1を昇降させると共に、被探傷管Pの軸方向に沿って移動する機能を有する。各走行台車が被探傷管Pの軸方向に沿って移動することにより、各超音波探触子1は被探傷管Pの軸方向に沿って移動することになる。
図1(b)に示すように、超音波探触子1は、軸方向斜角探傷が行われるように、被探傷管Pの軸方向に沿って(溶接部PWに沿って)被探傷管Pの端面に向けて超音波Uを送受信する構成である。本実施形態では、一方の超音波探触子1aが被探傷管Pの一方の端面PE1に向けて超音波Uを送受信し、他方の超音波探触子1bが被探傷管Pの他方の端面PE2に向けて超音波Uを送受信する構成となっている。
【0034】
図1(c)に実線の矢符で移動軌跡を示すように、超音波探触子1aが取り付けられた走行台車(図示せず)は、被探傷管Pの中央部において、超音波探触子1aが接触媒質(図示せず)を介して被探傷管Pに接触するまで(溶接部PWに接触するまで)超音波探触子1aを下降させる。その後、超音波探触子1aは超音波Uの送受信を開始し、走行台車は、超音波探触子1aを被探傷管Pの溶接部PWに沿って端面PE1に向けて移動させる。走行台車が端面PE1から所定の距離(被探傷管Pの端部の不感帯に応じた距離)まで超音波探触子1aを移動させることで、被探傷管Pの端面PE1側のおよそ半分が超音波探傷されることになる。そして、走行台車は、超音波探傷が終了した後、超音波探触子1aが被探傷管Pから離れるまで超音波探触子1aを上昇させ、端面PE2に向けて元の位置(被探傷管Pの中央部)まで超音波探触子1aを移動させる。
同様に、図1(c)に破線の矢符で移動軌跡を示すように、超音波探触子1bが取り付けられた走行台車(図示せず)は、被探傷管Pの中央部において、超音波探触子1bが接触媒質(図示せず)を介して被探傷管Pに接触するまで(溶接部PWに接触するまで)超音波探触子1bを下降させる。その後、超音波探触子1bは超音波Uの送受信を開始し、走行台車は、超音波探触子1bを被探傷管Pの溶接部PWに沿って端面PE2に向けて移動させる。走行台車が端面PE2から所定の距離(被探傷管Pの端部の不感帯に応じた距離)まで超音波探触子1bを移動させることで、被探傷管Pの端面PE2側のおよそ半分が超音波探傷されることになる。そして、走行台車は、超音波探傷が終了した後、超音波探触子1bが被探傷管Pから離れるまで超音波探触子1bを上昇させ、端面PE1に向けて元の位置(被探傷管Pの中央部)まで超音波探触子1bを移動させる。
なお、図1(c)に示すように、各走行台車は、超音波探触子1aの移動軌跡と超音波探触子1bの移動軌跡とが被探傷管Pの中央部でオーバラップするように、各超音波探触子1を移動させており、これにより、被探傷管Pの中央部において未検査領域が生じない。互いの移動軌跡がオーバラップする部分で各走行台車及び各超音波探触子1が互いに干渉しないように、各走行台車の移動のタイミングが制御されている。
以上のようにして、本実施形態に係る超音波探傷装置100によれば、被探傷管Pの全長を超音波探傷可能である。
【0035】
図2は、被探傷管Pの端部の不感帯を説明する図である。
軸方向斜角探傷を行う場合の被探傷管Pの端部の不感帯(欠陥を検出できない範囲)は、一般的に、超音波Uを送受信する端面側の不感帯の方が、超音波Uを送受信する端面と反対側の不感帯よりも小さくなる。図2に示す超音波探触子1aの場合、被探傷管Pの端面PE1に向けて超音波Uを送受信するため、図2(a)に示す端面PE1側の不感帯の方が、図2(b)に示す端面PE2側の不感帯よりも小さくなる。端面PE1側の不感帯は、ノイズとなる端面PE1で反射するエコー(端面エコー)の波長と波数に依存し、通常、被探傷管Pの肉厚の3倍程度(常用される電縫鋼管の肉厚であって、探傷周波数が5MHz程度の場合)になるが、端面PE2側の不感帯は、超音波Uが伝搬しない範囲によって決まり、通常、前者よりも後者の方が大きいからである。したがって、被探傷管Pの全長に亘って図2の矢符X1の方向に超音波探触子1aを移動させながら超音波探傷を行うと、端面P2側の不感帯が大きくなって好ましくない。
このため、本実施形態では、前述のように、超音波探触子1を被探傷管Pの中央部から超音波Uを送受信する端面に向けて移動させている。具体的には、超音波探触子1aを被探傷管Pの中央部から超音波Uを送受信する端面PE1に向けて(図1(b)に示す矢符X1の方向に)移動させ、超音波探触子1bを被探傷管Pの中央部から超音波Uを送受信する端面PE2に向けて(図1(b)に示す矢符X2の方向に)移動させている。これにより、不感帯を小さくした状態で、被探傷管Pの全長(不感帯を除く全長)の超音波探傷が可能である。
【0036】
なお、本実施形態では、超音波探触子1として、2つの超音波探触子1a、1bが配置されている場合を例示しているが、これに限るものではなく、単一の超音波探触子1が配置されている構成を採用することも可能である。単一の超音波探触子1が配置されている場合には、この超音波探触子1を被探傷管Pの中央部から超音波Uを送受信する端面(例えば、端面PE1)に向けて移動させて、被探傷管Pのおよそ半分を超音波探傷した後、超音波探触子1の向きを反転させて(前記端面と反対側の端面(例えば、端面PE2)に向けて超音波Uを送受信するように超音波探触子1の向きを変えて)、この超音波探触子1を被探傷管Pの中央部から反対側の端面に向けて移動させて、被探傷管Pの残りの半分を超音波探傷すればよい。これにより、不感帯を小さくした状態で、被探傷管Pの全長を超音波探傷可能である。
また、本実施形態では、被探傷管Pの周方向については単一の超音波探触子1が配置されている場合を例示しているが、これに限るものではなく、被探傷管Pの周方向に近接して複数の超音波探触子1を配置する構成を採用することも可能である。被探傷管Pの溶接部PWは、被探傷管Pの軸方向に平行な直線状に形成されずに蛇行する場合があるため、被探傷管Pの周方向に近接して複数の超音波探触子1を配置する構成を採用することで、未検査領域が生じるおそれを低減可能である。
【0037】
図1に示すように、超音波探触子1は、探傷器2に接続されている。探傷器2は、従来公知の一般的な超音波探傷装置が備える探傷器と同様の構成を有する。具体的には、探傷器2は、超音波探触子1から超音波U(図1(b)参照)を送信させるためのパルス信号を供給するパルサー(図示せず)や、エコーを受信した超音波探触子1から出力されるエコー信号を設定された探傷感度で増幅するレシーバ(図示せず)や、レシーバで増幅されたエコー信号から欠陥が存在する可能性のある所定の時間領域のエコー信号を抽出するゲート部(図示せず)や、ゲート部で抽出されたエコー信号をA/D変換するA/D変換器(図示せず)や、A/D変換されたエコー信号を設定された欠陥検出しきい値と比較して欠陥を検出する検出部など、超音波の送受信を制御すると共に欠陥を検出するための標準的な機器構成を有する。
【0038】
なお、超音波探傷装置100は、超音波探傷位置において被探傷管Pに表皮下欠陥Fが検出された場合には、この被探傷管Pを不良品ラックに搬送して収納し、被探傷管Pに表皮下欠陥Fが検出されなかった場合には、この被探傷管Pを良品ラックに搬送して収納するなど、表皮下欠陥Fの検出有無に応じて被探傷管Pを区別して搬送する機構部(図示せず)を備えている。
【0039】
以下、上記の構成を有する超音波探傷装置100を用いた超音波探傷(軸方向斜角探傷)方法について説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る超音波探傷方法の概略手順を示すフロー図である。
図3に示すように、本実施形態に係る超音波探傷方法は、ステップST1~ST8を含んでいる。ステップST1が本発明の第1ステップに相当し、ステップST2が本発明の第2ステップに相当し、ステップST3が本発明の第3ステップに相当し、ステップST6が本発明の第4ステップに相当し、ステップST7が本発明の第5ステップに相当する。以下、各ステップST1~ST8について、順に説明する。
【0040】
<ステップST1>
図4は、ステップST1及びST2を説明する図である。図4(a)は、校正用管P’の軸方向から見た正面図である。図4(b)及び図4(c)は、校正用管P’の軸方向に直交する水平方向から見た断面図である。
図4に示すように、ステップST1では、第1人工欠陥AF1として、外面又は内面(図4に示す例では外面)に周方向ノッチが形成され、表皮下欠陥F(図1(b)参照)を模擬した第2人工欠陥AF2として、端面で開口し軸方向に延びる円柱状の穴Hの底面が形成された校正用管P’を準備する。この校正用管P’は、互いに外径の異なるものを複数本準備する。校正用管P’としては、被探傷管Pと同一の材質で形成された管を用いることが好ましい。図4(a)に示す例では、第1人工欠陥AF1及び第2人工欠陥AF2が同一の校正用管P’に同時に形成されているが、必ずしもこれに限るものではなく、第1人工欠陥AF1のみが形成された校正用管P’と、第2人工欠陥AF2のみが形成された校正用管P’とを別個に用いることも可能である。
【0041】
<ステップST2>
ステップST2では、複数本の各校正用管P’を超音波探傷位置(図1(a)参照)に順次搬送し、各校正用管P’の外面に対向配置された超音波探触子1(超音波探触子1a及び超音波探触子1bのうち何れか一方の超音波探触子)を用いて、各校正用管P’を軸方向斜角探傷し(各校正用管P’の軸方向に沿って各校正用管P’の端面に向けて超音波Uを送受信し)、第1人工欠陥AF1の探傷感度と、第2人工欠陥AF2の探傷感度とを算出する。
具体的には、図4(b)に示すように、第1人工欠陥AF1が校正用管P’の最上部に位置するように校正用管P’の周方向位置を調整した後、超音波探触子1を接触媒質を介して校正用管P’の外面に接触させ、第1人工欠陥AF1のエコー信号の強度が最大となるように校正用管P’の軸方向に沿って超音波探触子1の位置を調整した状態で、第1人工欠陥AF1のエコー信号の強度が予め定めた大きさになる探傷感度(エコー信号の増幅度)を算出する。
また、上記のようにして第1人工欠陥AF1の探傷感度を算出した後、図4(c)に示すように、第2人工欠陥AF2が校正用管P’の最上部に位置するように校正用管P’の周方向位置を調整した後、超音波探触子1を接触媒質を介して校正用管P’の外面に接触させ、第2人工欠陥AF2のエコー信号の強度が最大となるように校正用管P’の軸方向に沿って超音波探触子1の位置を調整した状態で、第2人工欠陥AF2のエコー信号の強度が予め定めた大きさになる探傷感度を算出する。
なお、本実施形態では、被探傷管Pを超音波探傷する場合と同様に、超音波探傷位置に配置された超音波探触子1を用いて、第1人工欠陥AF1及び第2人工欠陥AF2の探傷感度を算出する場合を例示したが、これに限るものではなく、例えば、超音波探触子1を走行台車から取り外し、校正用管P’に対するこの超音波探触子1の位置を手動で調整して、第1人工欠陥AF1及び第2人工欠陥AF2の探傷感度を算出することも可能である。
【0042】
図5は、ステップST2で算出された第1人工欠陥AF1及び第2人工欠陥AF2の探傷感度の一例を示す。図5(a)は校正用管P’の外径と探傷感度との関係を、図5(b)は校正用管P’の外径と探傷感度の差Sd(第1人工欠陥AF1の探傷感度-第2人工欠陥AF2の探傷感度)との関係を示す。図5に示す結果は、第1人工欠陥AF1として、校正用管P’の肉厚の10%の深さを有する外面周方向ノッチが形成され、第2人工欠陥AF2として、端面で開口し軸方向に延びる直径2mmの穴の底面が形成された校正用管P’を用いたときに得られた結果である。
図5(b)に示す結果から分かるように、校正用管P’の外径と探傷感度の差Sdとの間には明確な相関関係が無い。そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、後述のステップST3で用いるパラメータPsと探傷感度の差Sdとの間に良好な相関関係が得られることを見出した。
【0043】
<ステップST3>
ステップST3では、前述の本発明者らの知見に基づき、第2人工欠陥AF2の面積S(図4(c)参照。例えば、第2人工欠陥AF2が直径2mmの穴の底面である場合、3.14mm)を第1人工欠陥の深さD(図4(b)参照)と超音波探触子1の有効ビーム幅Wとの積で除算したパラメータPs(Ps=S/(D・W))と、第1人工欠陥AF1の探傷感度と第2人工欠陥AF2の探傷感度との差Sdとの関係を算出する。
図6は、ステップST3で算出されたパラメータPsと探傷感度の差Sdとの関係の一例を示す。具体的には、図6に「〇」でプロットしたデータは、図5(b)に示す探傷感度の差Sdを、横軸をパラメータPsに変えて整理し直したデータである。なお、図6に示すパラメータPsを規定する有効ビーム幅Wは、校正用管P’の径方向に貫通するように形成された直径3mmの貫通穴を、超音波探触子1と校正用管P’とを校正用管P’の周方向に相対的に移動させながら軸方向斜角探傷し、貫通穴で反射したエコーを超音波探触子1によって受信することで得られるエコー信号の強度のプロファイルにおいて、エコー信号の最大強度を0dBとしたときに、エコー信号が-3dB以上の強度となる範囲の長さとした。
図6に示すように、パラメータPsと探傷感度の差Sdとの間には良好な相関関係が得られ、最小二乗法等の近似計算によって、例えば、図6に破線で示すように、探傷感度の差SdをパラメータPsの2次関数で近似した、以下の式(1)に示す関係式を算出することができる。
Sd=a・Ps+b・Ps+c ・・・(1)
上記の式(1)において、a、b、cは、それぞれ所定の定数を示す。
ただし、パラメータPsと探傷感度の差Sdとの関係式は、必ずしもこれに限るものではなく、例えば、探傷感度の差SdをパラメータPsの指数関数で近似するなど、高い近似精度が得られる限りにおいて、種々の関係式を用いることが可能である。
【0044】
<ステップST4>
ステップST4では、前述のように、超音波探傷装置100の探傷器2が有する検出部に設定された欠陥検出しきい値、又は、探傷器2が有するレシーバに設定された探傷感度を校正するか否かを判断する。
これらの校正は、最初の被探傷管Pを超音波探傷するときを除いて、被探傷管Pを超音波探傷する毎に行う必要はなく、例えば、超音波探傷する被探傷管Pの外径や肉厚が変化したタイミングなど、所定のタイミング毎に行えばよい。校正する場合(ステップST4で「Yes」の場合)には、後述のステップST5を実行し、校正しない場合(ステップST4で「No」の場合)には、後述のステップST7を実行する。校正しない場合には、後述のステップST7において、既に校正され、補正された後に、探傷器2に設定された欠陥検出しきい値及び探傷感度を用いて被探傷管Pが超音波探傷されることになる。
【0045】
<ステップST5>
ステップST5では、一般的に常用される第1人工欠陥AF1を用いて、欠陥検出しきい値及び探傷感度を校正する。
具体的には、例えば、複数本の校正用管P’のうち、被探傷管Pと同等の外径を有する校正用管P’を選択し、この校正用管P’に形成された第1人工欠陥AF1のエコー信号の強度が予め定めた大きさになるように、探傷感度を調整する。また、この校正用管P’に形成された第1人工欠陥AF1のエコー信号を検出できるように、欠陥検出しきい値を調整する。
【0046】
<ステップST6>
ステップST6では、検出対象とする表皮下欠陥Fの面積Saを決定し、この面積Saと、ステップST3で算出した式(1)で表される関係とに基づき、第1人工欠陥AF1の探傷感度と検出対象とする表皮下欠陥Fの探傷感度との差Sd’を推定する。
具体的には、パラメータPsを規定する第2人工欠陥AF2の面積Sの代わりに検出対象とする表皮下欠陥の面積Saを代入することで算出されるパラメータPs’(Ps’=Sa/(D・W))を前記式(1)の右辺のPsに代わりに代入することで得られる左辺の値を探傷感度との差Sd’として算出(推定)する。
すなわち、以下の式(1)’に基づき、第1人工欠陥AF1の探傷感度と検出対象とする表皮下欠陥Fの探傷感度との差Sd’を推定する。
Sd’=a・Ps’+b・Ps’+c ・・・(1)’
【0047】
そして、ステップST6では、推定した差Sd’を用いて、ステップST5で第1人工欠陥AF1を用いて校正した欠陥検出しきい値又は探傷感度を補正する。前述の図6には、欠陥検出しきい値を補正する場合を例示している。
例えば、推定した差Sd’>0であれば、第1人工欠陥AF1の探傷感度の方が検出対象とする表皮下欠陥Fの探傷感度よりも大きいと考えられる。換言すれば、同じ探傷感度で超音波探傷した場合、第1人工欠陥AF1のエコー信号の強度の方が検出対象とする表皮下欠陥Fのエコー信号の強度よりも小さいと考えられる。このため、第1人工欠陥AF1を用いて校正した探傷感度をそのまま用いる場合、第1人工欠陥AF1を用いて校正した欠陥検出しきい値Thをそのまま用いても(補正後の欠陥検出しきい値=第1人工欠陥AF1を用いて校正した欠陥検出しきい値Th)、或いは、第1人工欠陥AF1を用いて校正した欠陥検出しきい値Thを、探傷感度の差Sd’に応じて大きな値に補正しても、表皮下欠陥を検出できることが期待できる。図6に示す例では、パラメータPsが1.4<Ps≦1.6である場合に、Sd’>0と推定されるため、第1人工欠陥AF1を用いて校正した欠陥検出しきい値Thをそのまま用いる(補正後の欠陥検出しきい値Th1=Th)場合を例示している。
なお、図示は省略するが、第1人工欠陥AF1を用いて校正した欠陥検出しきい値Thをそのまま用いる場合には、第1人工欠陥AF1を用いて校正した探傷感度をそのまま用いても(補正後の探傷感度=第1人工欠陥AF1を用いて校正した探傷感度)、或いは、第1人工欠陥AF1を用いて校正した探傷感度を、探傷感度の差Sd’に応じて小さな値に補正しても、表皮下欠陥Fを検出できることが期待できる。
【0048】
また、例えば、推定した差Sd’=0であれば、第1人工欠陥F1の探傷感度と検出対象とする表皮下欠陥Fの探傷感度とが同一であると考えられる。このため、第1人工欠陥AF1を用いて校正した欠陥検出しきい値及び探傷感度を補正せずにそのまま用いることができる。
【0049】
さらに、例えば、推定した差Sd’<0であれば、第1人工欠陥AF1の探傷感度の方が検出対象とする表皮下欠陥Fの探傷感度よりも小さいと考えられる。換言すれば、同じ探傷感度で超音波探傷した場合、第1人工欠陥AF1のエコー信号の強度の方が検出対象とする表皮下欠陥Fのエコー信号の強度よりも大きいと考えられる。このため、第1人工欠陥AF1を用いて校正した探傷感度をそのまま用いる場合、第1人工欠陥AF1を用いて校正した欠陥検出しきい値Thもそのまま用いたのでは、表皮下欠陥Fを検出できないおそれがある。このため、第1人工欠陥AF1を用いて校正した欠陥検出しきい値Thを、探傷感度の差Sd’に応じて小さな値に補正すればよい。これにより、表皮下欠陥Fを検出できることが期待できる。
図6に示す例では、パラメータPsが1.2<Ps≦1.4である場合に、その範囲の大部分でSd’<0と推定されるため、第1人工欠陥AF1を用いて校正した欠陥検出しきい値Thを、探傷感度の差Sd’に応じて小さな値に補正する場合を例示している。具体的には、補正後の欠陥検出しきい値Th2を、欠陥検出しきい値Thよりも3dB程度小さな値に補正する場合を例示している。また、パラメータPsが0.4<Ps≦1.2である場合に、その全ての範囲でSd’<0と推定されるため、第1人工欠陥AF1を用いて校正した欠陥検出しきい値Thを、探傷感度の差Sd’に応じて小さな値に補正する場合を例示している。具体的には、補正後の欠陥検出しきい値Th3を、欠陥検出しきい値Thよりも6dB程度以上小さな値に補正する場合を例示している。
なお、図示を省略するが、第1人工欠陥AF1を用いて校正した欠陥検出しきい値Thをそのまま用いる場合には、第1人工欠陥AF1を用いて校正した探傷感度もそのまま用いたのでは、表皮下欠陥Fを検出できないおそれがある。このため、第1人工欠陥AF1を用いて校正した探傷感度を、探傷感度の差Sd’に応じて大きな値に補正すればよい。
【0050】
以上のように、ステップST6で第1人工欠陥AF1の探傷感度と検出対象とする表皮下欠陥Fの探傷感度との差Sd’を推定し、この推定した差Sd’を用いることで、第1人工欠陥AF1を用いて校正した欠陥検出しきい値Th又は探傷感度を補正することが可能である。すなわち、いったん、ステップST3でパラメータPsと探傷感度の差Sdとの関係を算出しておきさえすれば、校正する毎に加工や位置合わせの難しい第2人工欠陥AF2を用いて校正する必要がなく、一般的に常用される第1人工欠陥AF1を用いて校正するだけで良いため、効率良く校正を行うことが可能である。また、一般的な校正と同様に第1人工欠陥AF1を用いて欠陥検出しきい値及び探傷感度を校正するだけではなく、この校正した欠陥検出しきい値又は探傷感度を推定した差Sd’を用いて補正するため、精度良く校正を行うことが可能である。
なお、ステップST5で校正され、ステップST6で補正された欠陥検出しきい値は、探傷器2が有する検出部に設定される。同様に、ステップST5で校正され、ステップST6で補正された探傷感度は、探傷器2が有するレシーバに設定される。
【0051】
<ステップST7>
ステップST7では、前述の超音波探傷位置(図1(a)参照)において、被探傷管Pを軸方向斜角探傷し(被探傷管Pの軸方向に沿って被探傷管Pの端面に向けて超音波Uを送受信し)、表皮下欠陥Fを検出する。この際、ステップST6で補正した後の欠陥検出しきい値又は探傷感度を用いることで、精度良く且つ効率良く表皮下欠陥Fを検出することが可能である。
【0052】
<ステップST8>
ステップST8では、次に超音波探傷する被探傷管Pが存在するか否かを判断する。次の被探傷管Pが存在する場合(ステップST8で「Yes」の場合)には、ステップST4から前述の動作を繰り返す。次の被探傷管Pが存在しない場合(ステップST8で「No」の場合)には、本実施形態に係る超音波探傷方法を終了する。
【0053】
以上に説明した本実施形態に係る超音波探傷方法によれば、欠陥検出しきい値又は探傷感度を精度良く且つ効率良く校正可能であり、ひいては、精度良く且つ効率良く表皮下欠陥Fを検出することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1、1a、1b・・・超音波探触子
2・・・探傷器
3・・・撮像手段
4・・・画像処理手段
5・・・横送りコンベア
6・・・回転ローラ
100・・・超音波探傷装置
AF1・・・第1人工欠陥
AF2・・・第2人工欠陥
F・・・表皮下欠陥
H・・・円柱状の穴
P・・・被探傷管
P’・・・校正用管
PE1、PE2・・・端面
PW・・・溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6