(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】全固体電池用電極シートの加熱装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20241224BHJP
【FI】
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2021113755
(22)【出願日】2021-07-08
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 祥惠
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 健吾
(72)【発明者】
【氏名】中山 豪
(72)【発明者】
【氏名】野澤 孝行
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/105348(WO,A1)
【文献】特開2014-107237(JP,A)
【文献】特開2007-141540(JP,A)
【文献】特開2009-228169(JP,A)
【文献】特開2016-138684(JP,A)
【文献】特開平10-216623(JP,A)
【文献】実開昭54-181172(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02-62
H01G 13/04
B05C 9/14
F26B 23/00-10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極合剤が電極集電体の表面に塗布された電極シートを加熱するための全固体電池用電極シートの加熱装置であって、
前記電極シートの被加熱面に対向するよう加熱面が配置される赤外線ヒーター、及び
前記赤外線ヒーターを、前記被加熱面に対して平行方向に動くよう平行移動させて、前記被加熱面に対向する加熱空間と前記被加熱面に対向しない退避空間との間で移動させる平行移動機構
を有する、全固体電池用電極シートの加熱装置。
【請求項2】
前記加熱空間において前記電極シートの温度が設定上限値に到達したときに、前記平行移動により、前記赤外線ヒーターを前記加熱空間から前記退避空間に退避させ、前記退避空間にて前記赤外線ヒーターを冷却する、請求項1に記載の全固体電池用電極シートの加熱装置。
【請求項3】
前記退避空間において前記赤外線ヒーターを昇温し、前記赤外線ヒーターの温度が設定下限値に到達したときに、前記平行移動により、前記赤外線ヒーターを前記退避空間から前記加熱空間に移動させ、前記加熱空間にて前記電極シートを加熱する、請求項1又は2に記載の全固体電池用電極シートの加熱装置。
【請求項4】
前記電極シートは、ロール・トゥ・ロール方式で搬送される、請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体電池用電極シートの加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池用電極シートの加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器や自動車等の電源として高性能な電池が広く利用されている。このような高性能な電池の例としては、複数の単位セルが互いに積層された構成を有する、全固体電池が挙げられる。
【0003】
全固体電池を構成する単位セルとなる積層体は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出し得る材料(電極活物質)が、導電性部材(電極集電体)に保持された構成の電極シートを備えている。このような電極シートは、導電性部材(電極集電体)に電極活物質を含むペースト(電極合剤)を塗布し、加熱して乾燥させつつ、あるいは乾燥させた後に、加圧して緻密化する工程を実施することで作製される。
【0004】
ここで、乾燥装置について、特許文献1には、所定パターンで厚膜ペーストが塗布された基板を、中赤外線ヒーターを用いて乾燥させる装置が記載されている。特許文献1に記載の装置によれば、厚膜ペーストをムラなく乾燥させることができるとされている。
【0005】
なお、特許文献2には、熱風を吹き付ける複数の熱風ノズルと、複数の電気式遠赤外線ヒーターからなるウェブの乾燥装置が記載されている。特許文献2に記載の装置は、昇温時間が短く、且つ表面温度を高くできる電気加熱式遠赤外線ヒーターを備えさせることで、乾燥能力を向上できるとされている。
【0006】
また、特許文献3には、導電性部材(電極集電体)の表面にペースト(電極合剤)が塗布された電極シートを、遠赤外線により乾燥させる装置が記載されている。特許文献3に記載の装置によれば、乾燥炉構造を複雑化させることなく、乾燥炉内での電極シートの揺れを抑え、電極合剤の乾燥を効率よくかつ安全に行うことができるとされている。
【0007】
さらに、特許文献4には、電極集電体の塗膜面に対して並行方向に熱風を送出する送風部を備える電極製造装置が記載されている。特許文献4に記載の装置によれば、電極集電体の塗膜面に対して並行方向に熱風を送風することによって、塗膜からの溶媒の急激な蒸発を抑制することで、電極合剤スラリー塗膜中のバインダーが表層部に浮き上がるマイグレーションを有効に防止することができ、電極内のバインダー分布を均一にできるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-185338号公報
【文献】特開平5-008372号公報
【文献】特開平9-129221号公報
【文献】特開2014-086172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
全固体電池の単位セルを構成する電極シートの製造にあたっては、導電性部材(電極集電体)の表面に塗布されたペースト(電極合剤)を、厳密な温度管理のもとで加熱する必要がある。
【0010】
しかしながら、特許文献1から4に記載の乾燥装置では、厳密な温度管理による加熱が困難であった。例えば、特許文献1に記載の乾燥装置の場合には、ペースト(電極合剤)が塗布された電極シートは、搬送される前のヒーター昇温時や、搬送停止後のヒーター冷却時に、過加熱を生じさせる恐れがあった。
【0011】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、温度管理が可能であり、特に、過加熱を効果的に抑制することのできる、全固体電池用電極シートの加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、電極シートの温度について詳細に検討した。そして、電極シートの温度は、ヒーターから電極シートに供給される放射エネルギー(ヒーター表面温度に比例し、電極シート搬送速度の逆数に比例する)で決まることに着目した。
【0013】
そして、ヒーターの表面温度についてみると、
図1に示すように、ヒーター停止後からある程度の時間が経過しても、温度の低下はわずかであることが判った。また、搬送速度についてみると、電極シートが搬送停止状態となると、電極シートへの放射エネルギーが搬送時より大きくなることから、電極シートの温度は、搬送時よりも搬送停止時のほうが高くなることとなる。
【0014】
そこで、本発明者らは、電極シートの搬送停止後に、ヒーターの加熱面を電極シートの被加熱面に対して平行方向に移動させて、電極シートからヒーターを退避させれば、ヒーターから電極シートに供給される熱の放射量と放射時間の両者を効果的に制御することができ、その結果、電極シートの過加熱を抑制できると考え、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0015】
《態様1》
電極合剤が電極集電体の表面に塗布された電極シートを加熱するための全固体電池用電極シートの加熱装置であって、
前記電極シートの被加熱面に対向するよう加熱面が配置される赤外線ヒーター、及び
前記赤外線ヒーターを、前記被加熱面に対して平行方向に動くよう平行移動させて、前記被加熱面に対向する加熱空間と前記被加熱面に対向しない退避空間との間で移動させる平行移動機構
を有する、全固体電池用電極シートの加熱装置。
《態様2》
前記加熱空間において前記電極シートの温度が設定上限値に到達したときに、前記平行移動により、前記赤外線ヒーターを前記加熱空間から前記退避空間に退避させ、前記退避空間にて前記赤外線ヒーターを冷却する、態様1に記載の全固体電池用電極シートの加熱装置。
《態様3》
前記退避空間において前記赤外線ヒーターを昇温し、前記赤外線ヒーターの温度が設定下限値に到達したときに、前記平行移動により、前記赤外線ヒーターを前記退避空間から前記加熱空間に移動させ、前記加熱空間にて前記電極シートを加熱する、態様1又は2に記載の全固体電池用電極シートの加熱装置。
《態様4》
前記電極シートは、ロール・トゥ・ロール方式で搬送される、態様1~3のいずれか一態様に記載の全固体電池用電極シートの加熱装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置は、赤外線ヒーターの加熱面が、電極シートの被加熱面に対して平行方向に移動するため、電極シートの搬送開始前のヒーターの昇温と、電極シートの搬送停止後のヒーターの冷却とを、電極シートから退避させた場所で行うことができる。
【0017】
したがって、赤外線ヒーターから電極シートに供給される熱の放射量と放射時間との両者を効果的に制御することができ、電極シートの過加熱を効果的に抑制することができる。その結果、全固体電池用の電極シートの製造過程において、電極シートの搬送速度を落とすことなく目標温度の管理を実施することができ、効率よく電極シートを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ヒーター停止後の経過時間と表面温度との関係を示す図である。
【
図2】実施例1の加熱装置の作用を示す上面図である。
【
図3】実施例1の加熱装置の作用を示す側面図である。
【
図4】実施例2の加熱装置の作用を示す上面図である。
【
図5】実施例2の加熱装置の作用を示す側面図である。
【
図6】実施例3の加熱装置の作用を示す上面図である。
【
図7】実施例3の加熱装置の作用を示す側面図である。
【
図8】実施例及び比較例で作製した加熱装置による電極シートの温度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、種々変形して実施することができる。
【0020】
《全固体電池用電極シートの加熱装置》
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置は、全固体電池の単位セルを構成する電極の製造に適用されるものであり、厳密な温度管理のもとで加熱が可能となる加熱装置である。
【0021】
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置によれば、電極シートの過加熱を効果的に抑制することができるため、全固体電池用電極シートの製造過程において、電極シートの搬送速度を低下させることなく目標温度の管理を実施することができ、効率よく電極を作製することができる。
【0022】
《加熱装置の構成》
<赤外線ヒーター>
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置は、赤外線ヒーターを備える。赤外線ヒーターは、電極合剤が電極集電体の表面に塗布された電極シートを加熱するためのものであり、電極シートの被加熱面に対向するよう加熱面が配置される。
【0023】
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置が備える赤外線ヒーターは、特に限定されるものではない。電極シートの被加熱面に対向するよう配置が可能な、平面の加熱面を有するものであれば好ましい。
【0024】
赤外線ヒーターは、電極シートの被加熱面に対向するよう配置するため、電極シートの片面のみに電極合剤が塗布されている場合には、赤外線ヒーターは電極合剤が塗布されている面に対向するように、1台のみが備えられていればよい。両面に電極合剤が塗布されている電極シートを加熱する場合には、赤外線ヒーターは、電極シートを挟み込むように、電極シートの両面にそれぞれ1台ずつ、合計で2台が備えられていてもよい。
【0025】
<平行移動機構>
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置は、平行移動機構を備える。平行移動機構は、赤外線ヒーターを、電極シートの被加熱面に対して平行方向に動くよう平行移動させて、被加熱面に対向する加熱空間と被加熱面に対向しない退避空間との間で移動させる機構である。
【0026】
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置は、平行移動機構により、電極シートの搬送開始前のヒーターの昇温と、電極シートの搬送停止後のヒーターの冷却とを、電極シートから退避させた場所で行うことができる。これにより、赤外線ヒーターから電極シートに供給される熱の放射量と放射時間との両者を効果的に制御することができ、電極シートの過加熱を効果的に抑制することができる。
【0027】
平行移動機構の構成は、特に限定されるものではない。赤外線ヒーターを、電極シートの被加熱面に対して平行方向に動くよう平行移動させて、被加熱面に対向しない空間まで移動でき、また、被加熱面に対向しない空間から対向する空間に戻すことのできる構成であればよい。
【0028】
例えば、電極シートの搬送ラインに回転軸を配置し、回転軸を中心にしてヒーターを回転させる機構が挙げられる。
【0029】
なお、本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置が、2台の赤外線ヒーターを備える場合には、2台の赤外線ヒーターは、電極シートの搬送方向に対して、互いに同じ側に平行移動させる機構であっても、互いに異なる側にそれぞれ平行移動させる機構であってもよい。
【0030】
赤外線ヒーターの冷却時間を短縮したい場合には、互いに異なる側にそれぞれ平行移動させる機構とすることが好ましい。
【0031】
<その他の構成>
(温度測定手段)
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置は、赤外線ヒーターの加熱面の温度、及び電極シートの被加熱面の温度を計測するための温度測定手段を備えていてもよい。温度測定手段により得られた結果に基づき、赤外線ヒーターの平行移動を開始する。
【0032】
(移動制御手段)
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置は、平行移動機構を制御するための移動制御手段を備えていてもよい。移動制御手段は、例えば、温度測定手段により得られた結果が設定温度に到達しているか否かを判断し、判断結果に基づいて、平行移動機構に移動開始の指令を伝達する手段であってよい。
【0033】
<全固体電池用電極シート>
本発明の加熱装置が適用される全固体電池用電極シートは、特に限定されるものではない。公知の材料による公知の構成の全固体電池用電極シートであってよい。
【0034】
全固体電池用電極シートは、一般に、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出し得る電極活物質を含む電極合剤が、導電性部材である電極集電体に保持された構成を有する。
【0035】
その製造にあたっては、電極集電体の表面に電極活物質を含む電極合剤ペーストを塗布し、厳密な温度管理のもとで、電極合剤ペーストを加熱して乾燥させつつ、又は電極合剤ペーストを乾燥させた後に、加圧して緻密化することで電極とする。
【0036】
(電極集電体)
電極集電体に用いられる材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン等が挙げられる。なかでも、正極集電体層の材料は、アルミニウムであることが好ましく、負極集電体層の材料は、銅であることが好ましい。
【0037】
集電体層の形状としては、例えば、箔状、板状、又はメッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0038】
(電極合剤)
電極合剤は、電極活物質を含む。その他に、任意の成分として、導電助剤やバインダー、更には固体電解質等が含まれていてもよい。
【0039】
正極となる正極電極合剤に用いられる正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、Li1+xMn2-x-yMyO4(Mは、Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる1種以上の金属元素)で表される組成の異種元素置換Li-Mnスピネル等が挙げられる。
限定されない。
【0040】
負極となる負極電極合剤に用いられる負極活物質としては、例えば、金属リチウムや、リチウムイオン等の金属イオンを吸蔵及び放出可能な材料が挙げられる。リチウムイオン等の金属イオンを吸蔵及び放出可能な材料としては、例えば、合金系負極活物質又は炭素材料等が挙げられる。
【0041】
合金系負極活物質としては、例えば、Si合金系負極活物質、又はSn合金系負極活物質等が挙げられる。
【0042】
Si合金系負極活物質には、ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Si合金系負極活物質には、ケイ素以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、Ti等が含まれていてもよい。
【0043】
Sn合金系負極活物質には、スズ、スズ酸化物、スズ窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Sn合金系負極活物質には、スズ以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Ti、Si等が含まれていてもよい。
【0044】
炭素材料としては、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、又はグラファイト等が挙げられる。
【0045】
導電助剤としては、例えば、VGCF(気相成長法炭素繊維、Vapor Grown Carbon Fiber)、カーボンナノ繊維等の炭素材料、又は金属材等が挙げられる。
【0046】
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せが挙げられる。
【0047】
(搬送方法)
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置に適用される電極シートは、ロール・トゥ・ロール方式で搬送されるものであってよい。
【0048】
具体的には、電極合剤ペーストを隣り合う回転ロールの間に通し、電極集電体上に転写することにより、電極集電体上に電極合剤ペーストを塗布する方法で製造され、搬送されるものであってよい。
【0049】
電極シートがロール・トゥ・ロール方式で搬送される場合には、作業効率を向上させることができる。
【0050】
《加熱装置の作用》
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置は、予め設定した設定温度に到達したときに、赤外線ヒーターを、電極シートの被加熱面に対して平行方向に動くよう平行移動させて、被加熱面に対向する加熱空間と被加熱面に対向しない退避空間との間で移動させる作用を有する。
【0051】
<退避>
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置は、電極シートの温度が設定上限値に到達したときに、平行移動機構による平行移動を実施して、赤外線ヒーターを加熱空間から退避空間に退避させて、退避空間にて赤外線ヒーターを冷却する。
【0052】
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置の退避について、
図2及び
図3を用いて説明する。
【0053】
図2(a)及び
図2(b)は、一実施形態に係る全固体電池用電極シートの加熱装置の上面図であり、
図3(a)及び
図3(b)は、当該装置の正面図である。そして、
図2(a)及び
図3(a)は、加熱空間における加熱装置の状態であり、
図2(b)及び
図3(b)は、退避空間における加熱装置の状態である。
【0054】
図2及び
図3に示される一実施形態に係る全固体電池用電極シートの加熱装置は、2台の赤外線ヒーター1及び3を備えており、加熱空間では、これら赤外線ヒーター1及び3の間に、電極シート2を配置して加熱する。本実施形態に係る電極シート2は、電極集電体の両面に電極合剤が塗布されており、電極シートの両面が被加熱面となっている。
【0055】
図2(a)及び
図3(a)に示されるように、加熱空間においては、電極シート2の被加熱面に対向するように、赤外線ヒーター1及び3の加熱面を配置して、電極シート2の被加熱面を加熱する。
【0056】
そして、電極シートの温度が、予め設定されている設定温度の上限値に到達したときに、赤外線ヒーターを加熱空間から退避空間に、平行移動機構による平行移動により退避させて、退避空間にて赤外線ヒーターを冷却する。
【0057】
赤外線ヒーターの退避により、赤外線ヒーターから電極シートに供給される熱の放射量と放射時間との両者を低減させることができ、その結果、電極シートの過加熱を抑制することができる。
【0058】
なお、
図2(b)及び
図3(b)に示されるように、本実施形態に係る固体電池用電極シートの加熱装置は、2台の赤外線ヒーター1及び3を、同じ方向に平行移動させて、電極シートから退避させる。
【0059】
本発明の固体電池用電極シートの加熱装置は、退避の状態となったときは、電極シートの搬送を停止してもよい。搬送を停止した後に、加圧して緻密化することで電極とすることができる。
【0060】
退避を判断するために予め設定する設定温度は、特に限定されるものではない。電極シートの過加熱を抑制できる範囲で、電極合剤の組成や厚み等に応じて、適宜設定することができる。
【0061】
<加熱の開始>
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置は、退避空間において赤外線ヒーターを昇温し、赤外線ヒーターの温度が設定下限値に到達したときに、平行移動機構による平行移動を実施して、赤外線ヒーターを退避空間から加熱空間に移動させて、加熱空間にて電極シートを加熱する。
【0062】
本発明の全固体電池用電極シートの加熱装置による加熱の開始は、上記した退避とは反対の平行移動である。
【0063】
退避空間にて、予め赤外線ヒーターを加熱した後に、平行移動機構による平行移動を実施して、赤外線ヒーターを退避空間から加熱空間まで移動させて、加熱空間にて電極シートを加熱する。
【0064】
赤外線ヒーターが十分に昇温されるまでは、電極シートは加熱されないことから、赤外線ヒーターから電極シートに供給される熱の放射量と放射時間との両者を低減させることができ、その結果、電極シートの過加熱を抑制することができる。
【0065】
前進を判断するために予め設定する設定温度は、特に限定されるものではない。電極シートの過加熱を抑制できる範囲で、電極合剤の組成や厚み等に応じて、適宜設定することができる。
【実施例】
【0066】
以下、実験結果を示して、本発明を更に詳細に説明する。実施例1、並びに比較例1及び2は、固体電池用電極シートの加熱装置において、赤外線ヒーターの退避の態様を異ならせた例である。
【0067】
<電極シートの作製>
電極集電体として、Ni箔を準備した。また、電極合剤として、正極活物質であるニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)を含む電極合剤ペーストを準備した。Ni箔の両面に、電極合剤ペーストを塗布することにより、電極シートを作製した。
【0068】
<実施例1>
実施例1で用いた固体電池用電極シートの加熱装置の退避の態様を、
図2及び
図3に示す。実施例1の退避の態様は、本発明の加熱装置によるものであり、具体的には、赤外線ヒーターを、加熱空間から退避空間に移動させるときに、電極シートの被加熱面に対して平行方向に動くよう平行移動させたものである。
【0069】
実施例1における退避の状態については、上記の実施形態に記載したものと同様である。
【0070】
加熱空間においては、電極シート2の被加熱面に対向するように、赤外線ヒーター1及び3の加熱面を配置して、電極シート2の被加熱面を加熱する。電極シートの温度が、予め設定した設定温度の上限値に到達したときに、赤外線ヒーターを退避空間に移動させて、退避空間にて赤外線ヒーターを冷却する。
【0071】
実施例1においては、赤外線ヒーターを、電極シートの被加熱面に対して平行方向に動くよう平行移動させて、電極シートから退避させる。
【0072】
赤外線ヒーターを退避した後の電極シートの温度の変化を、
図8に示す。
図8において、横軸は、赤外線ヒーターを退避させた後の経過時間を示し、縦軸は、電極シートの温度を示す。なお、縦軸におけるMaxは、予め設定した設定温度の上限値である。
【0073】
<比較例1>
比較例1で用いた固体電池用電極シートの加熱装置の退避の態様を、
図4及び
図5に示す。比較例1の退避の態様は、赤外線ヒーターを、加熱空間から退避空間に移動させるときに、電極シートの被加熱面に対して垂直方向に動くよう移動させたものである。
【0074】
図4(a)及び
図4(b)は、比較例1の加熱装置の上面図であり、
図5(a)及び
図5(b)は、当該装置の正面図である。そして、
図4(a)及び
図5(a)は、加熱空間における加熱装置の状態であり、
図4(b)及び
図5(b)は、退避空間における加熱装置の状態である。
【0075】
図4及び
図5に示される比較例1の全固体電池用電極シートの加熱装置は、実施例1と同様に、2台の赤外線ヒーター4及び6を備えており、
図4(a)及び
図5(a)に示すように、加熱空間では、これら赤外線ヒーター4及び6の間に、電極シート5を配置して加熱する。
【0076】
そして、電極シートの温度が、予め設定されている設定温度の上限値に到達したときに、赤外線ヒーター4及び6を退避空間に移動させて、退避空間にて赤外線ヒーター4及び6を冷却する。
【0077】
比較例1においては、
図4(b)及び
図5(b)に示すように、2台の赤外線ヒーター4及び6を、電極シートの被加熱面に対して垂直方向に動くよう移動させて、電極シート5から退避させる。
【0078】
赤外線ヒーターを退避した後の電極シートの温度の変化を、実施例1と同様に、
図8に示す。
【0079】
<比較例2>
比較例2で用いた固体電池用電極シートの加熱装置の退避の態様を、
図6及び
図7に示す。比較例2の退避の態様は、赤外線ヒーターを、加熱空間から退避空間に移動させるものではなく、電極シートの被加熱面と赤外線ヒーターの加熱面との間に、ステンレス製の遮蔽板を挿入するものである。
【0080】
図6(a)及び
図6(b)は、比較例2の加熱装置の上面図であり、
図7(a)及び
図7(b)は、当該装置の正面図である。そして、
図6(a)及び
図7(a)は、加熱空間における加熱装置の状態であり、
図6(b)及び
図7(b)は、退避空間における加熱装置の状態である。
【0081】
図6及び
図7に示される比較例2の全固体電池用電極シートの加熱装置は、2台の赤外線ヒーター7及び10を備えており、
図6(a)及び
図7(a)に示すように、加熱空間では、これら赤外線ヒーター7及び10の間に、電極シート8を配置して加熱する。
【0082】
そして、電極シートの温度が、予め設定されている設定温度の上限値に到達したときに、
図6(b)及び
図7(b)に示すように、赤外線ヒーターは移動させることなく、2台の赤外線ヒーター7及び10の加熱面と、電極シート8の被加熱面との間に、2枚の遮蔽板9を挿入する。
【0083】
遮蔽板9を挿入した後の電極シートの温度の変化を、実施例1と同様に、
図8に示す。
【0084】
<考察>
赤外線ヒーターを、電極シートの被加熱面に対して平行方向に動くよう平行移動させて退避させた実施例1においては、電極シートの温度は、予め設定した設定温度の上限値(
図8におけるMax)を超えることなく、経過時間とともに大きく低下していくことが判る。
【0085】
一方で、赤外線ヒーターを、電極シートの被加熱面に対して垂直方向に動くよう移動させて退避させた比較例1においては、退避後もしばらくは電極シートの温度は上昇し、予め設定した設定温度の上限値(
図8におけるMax)を上回った。すなわち、比較例1の加熱装置によれば、過加熱を避けることができなかった。
【0086】
また、2枚の遮蔽板により赤外線ヒーターの熱の遮蔽を試みた比較例2は、電極シートの温度が、予め設定した設定温度の上限値(
図8におけるMax)を超えることはなかったものの、その温度の低下は、実施例1と比較して緩やかであった。
【符号の説明】
【0087】
1、3、4、6、7、10 赤外線ヒーター
2、5、8 電極シート
9 遮蔽板