(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】転写ベルト装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/16 20060101AFI20241224BHJP
G03G 21/16 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
G03G15/16
G03G21/16 180
(21)【出願番号】P 2021135621
(22)【出願日】2021-08-23
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一博
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-128235(JP,A)
【文献】特開2011-242453(JP,A)
【文献】特開2002-296927(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0376962(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1200499(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
G03G 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー像が外面に転写される中間転写ベルトと、
前記中間転写ベルトの内面と当接するように配置されて前記中間転写ベルトを駆動する駆動ローラと、
前記中間転写ベルトの外面から前記駆動ローラに向かって押圧する押圧部材と
、
前記中間転写ベルトの外面に転写された前記トナー像をシートに転写する2次転写ローラとを有し、
前記押圧部材は、前記中間転写ベルトと前記駆動ローラとの当接領域における前記中間転写ベルトの回転方向の下流端と対応する位置に配設され、
前記当接領域における前記中間転写ベルトの回転方向の上流端には、前記2次転写ローラが配設され、
前記押圧部材と前記2次転写ローラは、ともに、前記駆動ローラに対向させて配置され、
前記中間転写ベルトは前記押圧部材に当接して、前記中間転写ベルトの外面が前記押圧部材の外面に所定の巻付き角で巻付くように設けられていることを特徴とす
る転写ベルト装置。
【請求項2】
請求項1に記載
の転写ベルト装置において、
前記押圧部材はローラ部材であって、前記中間転写ベルトの前記押圧部材に対する前記巻付き角は90度以内とされていることを特徴とす
る転写ベルト装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載
の転写ベルト装置において、
前記押圧部材はローラ部材であって、駆動ギアを介して回転駆動されていることを特徴とす
る転写ベルト装置。
【請求項4】
請求項3に記載
の転写ベルト装置において、
前記押圧部材は、前記駆動ローラに対して所定の速度差で前記駆動ローラよりも速く回転駆動されていることを特徴とす
る転写ベルト装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載
の転写ベルト装置において、
前記駆動ローラは支持部材に回転可能に軸支され、
前記支持部材には、前記押圧部材の回転軸と、前記駆動ローラの回転軸とが平行となるように、前記押圧部材の軸受部と係合する軸受係合部が設けられていることを特徴とす
る転写ベルト装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つの請求項に記載
の転写ベルト装置において、
前記押圧部材は弾性部材により覆われた被覆層が外面に設けられていることを特徴とす
る転写ベルト装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つの請求項に記載
の転写ベルト装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間転写ベルト装置、およびその中間転写ベルト装置を備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置には、複数の像担持体から中間転写ベルトにトナー像を順次重ね合わせて1次転写し、中間転写ベルトからシートにトナー像を2次転写する中間転写方式のものがある。この種の画像形成装置において、中間転写ベルトが蛇行すると、画像形成時の画質に悪影響が及ぶことから、そのような蛇行を抑制することが求められる。
【0003】
また、中間転写ベルトからのシートの剥離性を高めるために、中間転写ベルトを駆動する駆動ローラを小径化することがある。しかし、小径化した駆動ローラは中間転写ベルトに対するグリップ力が低下してしまい、中間転写ベルトがスリップしやすくなる。
【0004】
例えば特許文献1には、外径が異なる3つのローラを有する押圧ローラを、搬送ベルトの移動方向のプロセス部よりも下流側で、搬送ベルトのマークを検出する2つのセンサよりも上流側に設けて、搬送ベルトを駆動ローラに押圧してスリップを抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に開示されるように、搬送ベルトを挟んで駆動ローラと搬送ベルトの当接領域の中間部に駆動ローラと対向させて押圧ローラが設けられても、駆動ローラを含む各ローラの回転軸が互いに平行に配置されていなければ、搬送ベルトに片寄りを生じさせる軸方向の力が発生してしまう。そのため、多少ともスリップを抑制できたとしても、搬送ベルトは片寄りを生じて、搬送ベルトの蛇行量が大きくなるという問題が起こる。
【0007】
加えて、小径化した駆動ローラである場合には、駆動ローラの取付角度や外径公差の影響が一層大きくなるので、中間転写ベルトに片寄りを生じやすくなって、蛇行量が増大するおそれがあった。
【0008】
本発明は、前記のような問題点にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、中間転写ベルトを駆動する駆動ローラを小径化しても、中間転写ベルトの蛇行を抑制し得て良好な画質の画像形成を可能にする中間転写ベルト装置および画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明に係る中間転写ベルト装置では、中間転写ベルトと、前記中間転写ベルトの内面と当接するように配置されて前記中間転写ベルトを駆動する駆動ローラと、前記中間転写ベルトの外面から前記駆動ローラに向かって押圧する押圧部材とを備えて、前記押圧部材は、前記中間転写ベルトと前記駆動ローラとの当接領域における前記中間転写ベルトの回転方向の下流端と対応する位置に配設され、前記中間転写ベルトは前記押圧部材に当接して、前記中間転写ベルトの外面が前記押圧部材の外面に所定の巻付き角で巻付くように設けること特徴としている。
【0010】
前記中間転写ベルト装置における、より具体的な構成として次のものが挙げられる。すなわち、前記押圧部材はローラ部材であって、前記中間転写ベルトの前記押圧部材に対する前記巻付き角は90度以内とされていることが好ましい。
【0011】
また、前記構成の中間転写ベルト装置において、前記押圧部材はローラ部材であって、駆動ギアを介して回転駆動されることが好ましい。その場合に、前記押圧部材は、前記駆動ローラに対して所定の速度差で前記駆動ローラよりも速く回転駆動されることが好ましい。
【0012】
また、前記構成の中間転写ベルト装置において、前記駆動ローラは支持部材に回転可能に軸支され、前記支持部材には、前記押圧部材の回転軸と、前記駆動ローラの回転軸とが平行となるように、前記押圧部材の軸受部と係合する軸受係合部が設けられることが好ましい。
【0013】
また、前記構成の中間転写ベルト装置において、前記押圧部材は弾性部材により覆われた被覆層が外面に設けられることが好ましい。
【0014】
また、前記構成を具備する中間転写ベルト装置を有する画像形成装置も本発明の技術的思想の範疇である。
【0015】
これにより、中間転写ベルトを駆動する駆動ローラを小径化しても、中間転写ベルトの蛇行を抑制し得て良好な画質の画像形成が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、中間転写ベルトを駆動する駆動ローラを小径化しても、中間転写ベルトの蛇行を抑制し得て良好な画質の画像形成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置を示す概略正面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る中間転写ベルト装置(静止時)を模式的に示す説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る中間転写ベルト装置(駆動時)を模式的に示す説明図である。
【
図4】
図3に示す中間転写ベルト装置における駆動ローラ側の構成を模式的に示す説明図である。
【
図5】参考例としての中間転写ベルト装置において、中間転写ベルトの静止時に作用するベルト張力を示す説明図である。
【
図6】参考例としての中間転写ベルト装置において、中間転写ベルトの駆動時に作用するベルト張力を示す説明図である。
【
図7】
図6に示す駆動時のベルト張力について簡単化して示した説明図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る中間転写ベルト装置における中間転写ベルトの駆動時のベルト張力について簡単化して示した説明図である。
【
図9】前記中間転写ベルト装置に設けられる押圧ローラの支持構造を示す拡大説明図である。
【
図10】前記押圧ローラの駆動機構を示す拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る中間転写ベルト装置20およびその中間転写ベルト装置20を備える画像形成装置1について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
(画像形成装置の全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係る画像形成装置1を示す概略正面図である。
【0020】
画像形成装置1は、例えばスキャナ機能、複写機能、プリンタ機能、およびファクシミリ機能等を有する複合機であり、画像読取装置18によって読み取られた原稿の画像を外部に送信し、また、読み取られた原稿の画像または外部から受信した画像をカラーもしくは単色でシートに画像形成する。この画像形成装置1は、帯電装置15、光走査装置11、現像装置12、感光体ドラム13、ドラムクリーニング装置14、給紙装置17、画像読取装置18、中間転写ベルト装置20、および定着装置44等を備えている。
【0021】
画像形成装置1では、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色を用いたカラー画像、または単色(例えば、ブラック)を用いたモノクロ画像に応じた画像データが扱われる。画像読取装置18は、原稿または原稿搬送部(ADF)から搬送された原稿を読み取って画像データを生成する。画像形成装置1の画像転写部10には、4種類のトナー像を形成するための現像装置12、感光体ドラム13、ドラムクリーニング装置14、および帯電装置15が4つずつ設けられて、それぞれがブラック、シアン、マゼンタ、およびイエローに対応するよう、4つの画像ステーションPa、Pb、Pc、Pdが構成されている。
【0022】
ドラムクリーニング装置14は、感光体ドラム13の表面の残留トナーを除去および回収する。帯電装置15は、感光体ドラム13の表面を帯電させる。光走査装置11は、感光体ドラム13の表面を露光して静電潜像を形成する。現像装置12は、感光体ドラム13の表面の静電潜像を現像して、感光体ドラム13の表面にトナー像を形成する。このような一連の動作によって、各感光体ドラム13の表面に各色のトナー像が形成される。
【0023】
感光体ドラム13の上側には中間転写ベルト装置20が設けられ、中間転写ベルト21を介して中間転写ローラ26が配置されている。中間転写ベルト21はトナー像が形成される像担持体であり、駆動ローラ22およびテンションローラ23に張架されて矢符Cの方向へ回転(周回移動)する。テンションローラ23は、中間転写ベルト21に所定の張力を付与するために設けられる。各感光体ドラム13の表面に形成された各色のトナー像は、中間転写ベルト21上に順次転写(1次転写)されて重ね合わされることで、中間転写ベルト21の表面にはカラーのトナー像が形成される。この中間転写ベルト装置20の詳細な構成については後述する。
【0024】
2次転写部42の2次転写ローラ43は、中間転写ベルト21との間にニップ域(2次転写位置)を形成して、シート搬送路31を通じて搬送されたシートをこのニップ域に挟み込んで搬送する。シートは、ニップ域を通過する際に、中間転写ベルト21の表面のトナー像が転写されて定着装置44に搬送される。中間転写ベルト21上に残ったトナー等はベルトクリーニング装置41によって回収される。
【0025】
定着装置44は、シートを挟んで回転する定着ローラ45および加圧ローラ46を備えている。定着装置44は、定着ローラ45および加圧ローラ46の間にトナー像が転写されたシートを挟み込んで加熱および加圧し、トナー像をシートに定着させる。
【0026】
給紙装置17は、画像形成に使用するシートを収容しており、光走査装置11の下側に設けられている。シートは、ピックアップローラ33によって給紙装置17から引き出されて、シート搬送路31を通じて搬送され、2次転写部42や定着装置44を経由して、排紙ローラ36を介して排紙トレイ37へと搬送される。シート搬送路31には、シートを一旦停止させて、シートの先端を揃えた後、中間転写ベルト21と2次転写ローラ43との間のニップ域でのカラーのトナー像の転写タイミングに合わせてシートの搬送を開始するレジストローラ35、シートの搬送を促す複数の搬送ローラ34、および排紙ローラ36等の種々のローラ対が配置されている。
【0027】
シートの表面だけでなく裏面にも画像形成を行う場合は、シートを排紙ローラ36からシート反転搬送路32へと逆方向に搬送して、シートの表裏を反転させ、シートをレジストローラ35へと再度導き、表面と同様にして裏面に画像形成を行い、シートを排紙トレイ37へと搬送する。
【0028】
(中間転写ベルト装置)
中間転写ベルト装置20は、中間転写ベルト21の幅方向の端部側で対向設置されている図示しない本体側フレームに支持された無端ベルトである。
図1に示すように、左右方向Xの左側X1と右側X2には、テンションローラ23と駆動ローラ22とが互いに平行に軸支されている。さらに、テンションローラ23と駆動ローラ22との間には、各色に対応する4つの中間転写ローラ26が、それぞれ軸方向の両端で本体側フレームに軸支されて配設されている。
【0029】
図2および
図3は、中間転写ベルト装置20を模式的に示す説明図であり、
図2は中間転写ベルト21の静止時(非画像形成時)、
図3は中間転写ベルト21の駆動時(カラー画像形成時)を示している。なお、図中のX方向は画像形成装置1を正面(
図1参照)から見たときの左右方向に相当し、X1は左側、X2は右側を示し、図中Y方向は画像形成装置1を正面から見たときの前後方向に相当し、Y1は前面側、Y2は背面側を示している。したがって、
図1の画像形成装置1が前面側Y1から見て示されているのに対し、
図2および
図3は、
図1の背面側Y2から見た状態を示している。
【0030】
図2に示すように、背面側Y2から見て、中間転写ベルト21の外面に沿って、4つの画像ステーションPa、Pb、Pc、Pdに対応する感光体ドラム13がそれぞれ配置されている。また、中間転写ベルト21を挟んで、感光体ドラム13のそれぞれに対応する位置に中間転写ローラ26が配置されている。例示の形態では、中間転写ベルト21が4つの感光体ドラム13の上方に配置されている。
【0031】
中間転写ローラ26は、それぞれが対向する感光体ドラム13に対して離接可能に設けられている。これによって、中間転写ローラ26は、対向する感光体ドラム13に中間転写ベルト21を内面側から押しつける位置と、離間する位置との間で変位自在とされている。
図2に示すように、非画像形成時には、中間転写ローラ26のすべてが、それぞれ離間位置に配置されることで、中間転写ベルト21がすべての感光体ドラム13から離間した所定の位置に配置される。
【0032】
例示の形態に示す画像形成装置1であるカラー画像形成装置では、モノクロ画像形成時、カラー画像形成時、および非画像形成時の各動作状態に応じて、中間転写ローラ26を変位させるように構成されている。例えば、中間転写ベルト21は、非画像形成時には、
図2に示すようにすべての感光体ドラム13から離間し、モノクロ画像形成時にはブラック用の感光体ドラム13のみに当接するものとなる。カラー画像形成時には、
図3に示すように、すべての中間転写ローラ26がそれぞれの押付位置に配置されることで、中間転写ベルト21がすべての感光体ドラム13に当接して配置される。
【0033】
中間転写ベルト21を駆動するための駆動ローラ22の近傍には、懸架ローラ25が配置されている。中間転写ベルト21は、右側X2の端部で、駆動ローラ22および懸架ローラ25に巻き掛けられている。駆動ローラ22、懸架ローラ25等の各ローラは、中間転写ベルト21に所定のベルト張力(テンション)を付与している。
【0034】
また、中間転写ベルト装置20には、中間転写ベルト21を懸架する駆動ローラ21、テンションローラ23、懸架ローラ25等の各回転軸線の平行度が、取付け誤差や環境温度変化による取付け部の熱膨張差などの原因によってずれることによって発生する中間転写ベルト21の蛇行(片寄り)を機械的に補正するために、図示しない蛇行補正機構部が設けられている。蛇行補正機構部は、テンションローラ23に設けられており、テンションローラ23の軸方向(この場合には前後方向Y)に沿って発生する中間転写ベルト21の片寄り力によって、テンションローラ23の軸方向に沿って移動する片寄り伝達部材を含む。蛇行補正機構部は、この片寄り伝達部材の軸方向に沿った移動量に応じてテンションローラ23の回転軸線方向の傾きを機械的に変更することで中間転写ベルト21に発生する片寄り力を自動的に調整し、中間転写ベルト21の蛇行を抑えるように構成されている。
【0035】
本実施形態に係る中間転写ベルト装置20においては、駆動ローラ22が従来のものに比して小径化されており、中間転写ベルト21の蛇行が発生しやすくなる。そのため、中間転写ベルト21の蛇行を前記蛇行補正機構部によるテンションローラ23の回転軸線の傾きの変更量が大きくなり、その結果、蛇行補正機構部が大型化するおそれがある。そこで、駆動ローラ22に対する中間転写ベルト21のスリップを抑制するとともに、中間転写ベルト21に回転力を伝える特性上、最も中間転写ベルト21の片寄り力に影響のある駆動ローラ22において、中間転写ベルト21に生じる蛇行量をできるだけ小さくするために、以下に示すような押圧部材が設けられている。
【0036】
(押圧部材)
図4は、
図3に示した中間転写ベルト装置20における駆動ローラ22側(右側X2部分)の構成を模式的に示す説明図である。
図4において、中間転写ベルト21は、駆動ローラ22の回転方向Dの回転駆動によって、回転方向Cに周回移動するように構成されている。
【0037】
中間転写ベルト装置20には、中間転写ベルト21の外面から駆動ローラ22に向かって押圧する押圧部材が設けられている。この押圧部材として、本実施形態ではローラ部材である押圧ローラ24が設けられている。
【0038】
図4に示すように、中間転写ベルト21と駆動ローラ22とは、当接領域αにおいて互いに当接して設けられている。押圧ローラ24は、この当接領域αにおける、中間転写ベルト21の回転方向Cの下流端Peと対応する位置で、中間転写ベルト21の外面に当接して配設されている。そして、中間転写ベルト21は押圧ローラ24に当接するとともに、この中間転写ベルト21の外面が押圧ローラ24の外面に所定の巻付き角θで巻付くように設けられている。この中間転写ベルト21の押圧ローラ24に対する巻付き角θは90度以内とされる。
【0039】
駆動ローラ22に対して、当接領域αで当接する中間転写ベルト21にはベルト張力が生じている。ここで、中間転写ベルト21におけるベルト張力について簡単に説明する。
【0040】
図5は、参考例としての中間転写ベルト装置において、中間転写ベルト21の静止時(非画像形成時)に作用するベルト張力を示し、
図6は、中間転写ベルト21の駆動時(画像形成時)に作用するベルト張力を示す説明図である。これらの例では、
図4と同様に、画像形成装置1を背面側Y2から見た状態を示しており、押圧ローラ24は設けられていない。
【0041】
中間転写ベルト21が静止しているとき、
図5に示すように、テンションローラ23の作用によって中間転写ベルト21と駆動ローラ22との当接領域αの両端部には、それぞれベルト張力T
1、T
2が生じる。このように中間転写ベルト21が静止している状態においては、当接領域αにおける中間転写ベルト21の回転方向Cの上流端に作用するベルト張力T
1は、回転方向Cの下流端に作用するベルト張力T
2とほぼ等しくなる。また、基点P0を含む微小長さの中間転写ベルト21を考えたときに、ベルト張力T
1およびその反力T
11について接線方向の分力と、駆動ローラ22の径方向の分力Fによる力のつり合い関係が形成される。
【0042】
一方、
図6に示すように、中間転写ベルト21が駆動されているとき、すなわち駆動ローラ22が回転方向Dに回転しているときは、中間転写ベルト21が駆動ローラ22と当接している当接領域αにおける回転方向Cの上流端にはベルト張力T
3が、回転方向Cの下流端にはベルト張力T
4が作用し、ここでベルト張力T
4<ベルト張力T
3となる。その理由について次に説明する。
図6の状態にある場合、
図3に示したように、中間転写ベルト21には、中間転写ローラ26に対向して感光体ドラム13がそれぞれ当接しており回転負荷となる。そのため、中間転写ベルト21の駆動ローラ22との当接領域αにおける上流側では、中間転写ベルト21に作用するベルト張力は張り気味となり、当接領域αにおける下流側はゆるみ気味となる。
【0043】
ここで、当接領域αにおける中間転写ベルト21を例えば4つに等分割した微小長さ領域に分け、各微小長さ領域に作用する径方向の分力を分力(F)とした場合、各分力(F)は、中間転写ベルト21に作用するベルト張力の影響を受けて当接領域αの上流側から下流側へと徐々に小さくなる。すなわち、当接領域αにおいて、中間転写ベルト21の回転方向Cの上流側では径方向の分力F1が作用するのに対し、下流側に向かって、分力F2、分力F3、分力F4と、この力が徐々に小さくなる。
【0044】
図7は、
図6に示す駆動時のベルト張力と各分力(F)を受けて中間転写ベルト22が移動する移動方向について簡単化して示した説明図であり、当接領域αを簡単化のために180度として示している。
図7において、図中右側には、背面側Y2から見た駆動ローラ22を示し、図中左側には、その駆動ローラ22を右側X2から見て模式的に示している。
【0045】
図示するように、中間転写ベルト21の回転方向Cの上流端ではベルト張力Tpが作用し、回転方向Cの下流端ではベルト張力Trが作用する。上流端のベルト張力Tpは、下流端のベルト張力Trよりも張力差ΔT分だけ大きい。理由は、回転方向Cの上流側に回転負荷(中間転写ローラ26、感光体ドラム13)が接続されているため、回転時に中間転写ベルト21がこの負荷を受けるからである。そのため、前述したように、当接領域αを45度で等分割した微小長さで考えたとき、中間転写ベルト21に作用する径方向の分力(F)は、当接領域αの上流側から下流側へと徐々に小さくなり、回転方向Cの上流側から順に、分力F1、分力F2、分力F3、分力F4となる。これら分力F1、分力F2、分力F3、および分力F4の総和(駆動ローラ21から中間転写ベルト22に作用する力であり摩擦力である)により、駆動ローラ21の回転方向上流側に複数配置された中間転写ローラ26と感光体ドラム13とが中間転写ベルト21と当接していても、中間転写ベルト21をスリップせずに回転駆動させることができる。
【0046】
さらに具体的に説明すると、基点P1における分力F1は、中間転写ベルト21と駆動ローラ22との間に作用する摩擦力μF1(μは摩擦係数)となり、基点P3における分力F3は、摩擦力μF3となる。ここで、中間転写ベルト21の回転方向Cと平行である左右方向Xに対して、駆動ローラ22の回転軸(回転軸線22a)の軸方向が直交せずにずれがあった場合、すなわち例えば、駆動ローラ22の回転軸が背面側Y2では右側X2にずれ、前面側Y1では左側X1にずれた配置であった場合には、
図7左側に示すように、中間転写ベルト21に作用する摩擦力(μF1、μF3)は、それぞれ中間転写ベルト21を駆動ローラ22の回転方向Dに対してずれた方向に移動させるように作用する。その移動方向は駆動ローラ22の回転方向Dの位置(P1、P2、P3、P4)に応じて変化する。
【0047】
すなわち、
図7左側に示すように、回転方向Cの上流側に位置する基点P1では、摩擦力μF1は回転方向Dに沿った力としては作用せず、回転方向Dに対して斜め方向の前面側Y1方向に傾いた力として作用する。また、回転方向Cの下流側に位置する基点P3では、摩擦力μF3は回転方向Dに対して斜め方向の背面側Y2方向に傾いた力として作用する。
【0048】
このように駆動ローラ22の回転方向Dに対して、傾きをもって生じる中間転写ベルト21と駆動ローラ22との摩擦力は、中間転写ベルト21に片寄りを招く要因となる。上流側の分力F1とF2による摩擦力は前面側Y1方向に作用し、下流側の分力F3とF4による摩擦力は背面側Y2方向に作用する。この場合、分力F1およびF2が、分力F3およびF4よりも大きいので、前面側Y1方向の摩擦力の影響を大きく受け、前面側Y1方向に片寄りを生じることとなる。
【0049】
したがって、駆動ローラ22の回転軸(回転軸線22a)が、中間転写ベルト装置20に設けられた他のローラの回転軸の配置との間で少しでもずれて配置されていると、中間転写ベルト21と駆動ローラ22との摩擦力が駆動ローラ22の回転方向Dに沿ったものとはならず、前後方向Yにずれた向きに生じるものとなってしまう。そのため、中間転写ベルト21が前後方向Yに位置ずれして片寄り、蛇行が生じやすくなる。また、本実施形態に示すように、駆動ローラ22が小径化されたローラである場合には、このような傾向が顕著となり、分力F1から分力F4までの差が大きくなることから、より片寄りを生じやすくなると考えられた。
【0050】
このような問題に対して、本実施形態に係る中間転写ベルト装置20では、
図4に示したように、中間転写ベルト21の外面から駆動ローラ22に向かって押圧する押圧ローラ24を設けたことで、中間転写ベルト21に生じる片寄りを抑制し、蛇行量をできるだけ抑えられるように構成している。
【0051】
図8は、押圧ローラ24を備えさせた場合における中間転写ベルト21の駆動時のベルト張力について簡単化して示した説明図であり、
図7相当図である。当接領域αは簡単化のために180度として示している。
図8においても、図中右側には、背面側Y2から見た駆動ローラ22を示し、図中左側には、その駆動ローラ22を右側X2から見て模式的に示している。また、前記同様、駆動ローラ22の回転軸の軸方向にずれがあった場合を想定しており、例えば駆動ローラ22の回転軸が背面側Y2では右側X2にずれ、前面側Y1では左側X1にずれた配置であった場合を示している。
【0052】
図8右側に示すように、押圧ローラ24は当接領域αでの下流端に配設され、中間転写ベルト21の外面が押圧ローラ24の外面に所定の巻付き角θで巻付くようにして設けられている。押圧ローラ24は、中間転写ベルト21の外面を押圧するように当接して設けられている。
【0053】
中間転写ベルト21の巻付き角θに対応する微小長さを考えたとき、基点P5では、押圧ローラ24の径方向に分力F5が中間転写ベルト21に作用する。したがって、
図8左側に示すように、駆動ローラ22の回転方向Dに対して、中間転写ベルト21の回転方向Cの上流側領域A1では、分力F1とF2による摩擦力は前面側Y1方向に傾いて作用するが、下流側領域A2では、分力F3~F5による摩擦力が背面側Y2方向に傾いて作用する。つまり、
図7に示した押圧ローラ24を備えない構成に対して、
図8に示す押圧ローラ24を備える構成では、分力F5による摩擦力μF5が中間転写ベルト21にさらに作用することとなる。
【0054】
中間転写ベルト装置20は、このような押圧ローラ24を備えることによって、駆動ローラ22の回転軸の軸方向にずれがあったとしても、下流側領域A2での分力F3、F4に、分力F5が加わって、下流側領域A2の摩擦力を増大させることができる。したがって、駆動ローラ22上で中間転写ベルト21に発生しうる片寄り方向(この場合、前面側Y1方向)と反対の方向(この場合、背面側Y2方向)の摩擦力を大きくすることができる。すなわち、この場合には、下流側領域A2の摩擦力が、上流側領域A1の摩擦力による前面側Y1方向の片寄りに抗するものとなり得て、相反する方向に生じる摩擦力によりそれらの影響が相殺され、片寄り量を低減させることが可能となる。
【0055】
中間転写ベルト21の押圧ローラ24に対する巻付き角θは、90度以内であることが好ましい。巻付き角θが90度を超えると、押圧ローラ24により生じる径方向の分力F5を、上流側領域A1の片寄り方向と反対方向の摩擦力として作用させることができず、押圧ローラ24の効果が低下すると考えられるからである。中間転写ベルト21の押圧ローラ24に対する巻付き角θを90度以内で設けることで、
図8に示す場合では、中間転写ベルト21の前面側Y1方向に生じる片寄りを、反対方向の背面側Y2方向に引き戻して、全体として発生する中間転写ベルト21の片寄りを小さく抑えることができる。
【0056】
また、小径化した駆動ローラ22とされることで、中間転写ベルト21に対するグリップ力が低下したり、駆動ローラ22の取付角度や外径公差の影響が一層大きくなるといった課題があったが、押圧ローラ24が設けられたことで、前記のように中間転写ベルト21に生じる片寄りを低減することが可能となる。このため、中間転写ベルト21の蛇行を効果的に抑制することが可能となって、前記の蛇行補正機構部に対する負荷も軽減することが可能となる。
【0057】
押圧ローラ24のより具体的な構成として、例えば、円筒状の金属芯材の外周面に弾性部材からなる被覆層242が設けられることが好ましい。被覆層242は、押圧ローラ24の全周にわたって一様な厚さとなるように設けられ、この被覆層242を構成する弾性部材として、例えばEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)等のゴム系材料等であることが好ましい。
【0058】
図9は、押圧ローラ24の支持構造を示す拡大説明図であり、
図10は、押圧ローラ24の駆動機構を示す拡大説明図である。
図9および
図10は、中間転写ベルト装置20における右側X2部分の構成を、背面側Y2から見て模式的に示している。
【0059】
図9に示すように、中間転写ベルト装置20において、駆動ローラ22はその回転軸221が、支持部材27に回転可能に支持されている。支持部材27は、前記した本体側フレーム等に支持されている。
【0060】
押圧ローラ24は、回転軸241の軸受部244が軸受ホルダ部245に保持されている。また、2次転写ローラ43も同様に、その回転軸431の軸受部432が軸受ホルダ部433に保持されて設けられている。押圧ローラ24と2次転写ローラ43は、ともに、駆動ローラ22に対向させて配置されている。押圧ローラ24には、駆動ローラ22に押しつける方向に付勢する付勢部材(バネ部材)246が軸受ホルダ部245に備えられている。2次転写ローラ43にも、駆動ローラ22に押しつける方向に付勢する付勢部材434が軸受ホルダ部433に備えられている。これにより、押圧ローラ24および2次転写ローラ43は、駆動ローラ22に向けて付勢されて設けられている。
【0061】
支持部材27には、押圧ローラ24の回転軸241と、駆動ローラ22の回転軸221とが平行となるように、押圧ローラ24の軸受ホルダ部245と係合する第1軸受係合部271が設けられている。
図9に示すように、第1軸受係合部271は、支持部材27の上端部を一部切り欠いて、軸受ホルダ部245を支持するように形成されている。
【0062】
また、支持部材27には、2次転写ローラ43の軸受ホルダ部433と係合する第2軸受係合部272が設けられている。第2軸受係合部272は、第1軸受係合部271に対向する配置形態で、支持部材27の側部を一部切り欠いて、軸受ホルダ部433を支持するように形成されている。これにより、支持部材27に回転可能に支持された駆動ローラ22の回転軸221に対して、押圧ローラ24の回転軸241と2次転写ローラ43の回転軸431とが互いに平行に位置決めされて、安定的に支持される。
【0063】
また、
図10に示すように、押圧ローラ24は、ギア243を介して回転駆動されている構成であってもよい。駆動ローラ22は、ギア222を介して駆動力が回転軸221に伝えられ、回転方向Dに回転駆動される。これに対して、押圧ローラ24は、駆動ローラ22のギア222にかみ合うギア243を備えて、このギア243を介して駆動力が回転軸241に伝えられ、回転方向Eに回転駆動される。これにより、押圧ローラ24をスリップすることなく回転させることができ、中間転写ベルト21に効果的に作用させることができる。
【0064】
また、押圧ローラ24の回転速度の方が駆動ローラ22の回転速度より速くなるように、これらのギア222、243のギア比と、押圧ローラ24および駆動ローラ22の外径を設定することが好ましい。これにより、押圧ローラ24を、駆動ローラ22に対して所定の速度差で、駆動ローラ22よりも速く回転駆動させて、より効果的に中間転写ベルト21の片寄りを抑制するよう作用させることができる。押圧ローラ24の回転速度と駆動ローラ22の回転速度との速度差は適宜調整すればよく、0.2~1%程度の僅かな差であっても、充分に片寄りを抑制するよう作用させることができる。
【0065】
以上のように構成された中間転写ベルト装置20においては、駆動ローラ22を小径化して備えさせたとしても、押圧ローラ24が設けられていることで、中間転写ベルト21をスリップさせることなく回転させることができ、駆動ローラ22の回転軸221の配置ずれがあったとしても、中間転写ベルト21に生じる片寄りを低減するように押圧ローラ24を作用させることが可能となる。このため、中間転写ベルト21の蛇行を効果的に抑制することが可能となり、前記蛇行補正機構部に対する負荷も軽減することが可能となる。
【0066】
前記実施形態において、押圧ローラ24はギア243を備える構成であるに限らず、中間転写ベルト21の外面が巻付くように設けられて、中間転写ベルト21との間の摩擦力で回転するよう構成されてもよい。また、押圧ローラ24は、中間転写ベルト21と駆動ローラ22との当接領域αにおける中間転写ベルト21の回転方向Cの下流端と対応する位置に配設されて、中間転写ベルト21が押圧ローラ24に90度以内の巻付き角θで巻付くように設けられた構成であれば、他のどのような形態とされてもよい。
【0067】
なお、前記のような中間転写ベルト装置20を備える画像形成装置1としては、
図1に示す複合機であるに限られず、種々の画像形成装置にも適用可能である。また、以上開示した前記実施形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、前記実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1 画像形成装置
10 画像転写部
11 光走査装置
12 現像装置
13 感光体ドラム
20 中間転写ベルト装置
21 中間転写ベルト
22 駆動ローラ
22a 駆動ローラの回転軸線
23 テンションローラ
24 押圧ローラ(押圧部材)
241 回転軸
242 被覆層
243 ギア
244 軸受部
245 軸受ホルダ部(軸受部)
246 付勢部材
25 懸架ローラ
26 中間転写ローラ
27 支持部材
271 第1軸受係合部(軸受係合部)
272 第2軸受係合部
42 2次転写部
43 2次転写ローラ