(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20241224BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241224BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20241224BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241224BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20241224BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241224BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/13
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0587
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2022144669
(22)【出願日】2022-09-12
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小椋 学
(72)【発明者】
【氏名】田中 克弥
【審査官】窪田 陸人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-026932(JP,A)
【文献】特開2016-066549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、および非水電解液を備える非水電解液二次電池であって、
前記負極に含まれるナトリウム濃度が532ppmよりも大きく71100ppm未満であり、
LiBOB相当物を含み、
前記LiBOB相当物は、前記非水電解液中に存在するリチウムビスオキサレートボレートまたは前記リチウムビスオキサレートボレートが他の物質と反応することで生成された物質であり、
前記LiBOB相当物は、前記リチウムビスオキサレートボレートの質量に換算する場合、前記非水電解液中の仮想的な濃度が0.35wt%以上であって且つ0.56wt%以下であ
り、
前記負極は、負極集電体と、負極活物質層とを含み、
前記負極活物質層の密度は、1.14グラムパー立方センチメートル以上であり、
前記非水電解液の粘度は、3.9[cP]以下である非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記負極に含まれるナトリウム濃度が700ppm以上である請求項1記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記正極および前記負極は、間にセパレータを挟んで捲回されることによって捲回電極体を構成しており、
前記捲回電極体において、捲回軸に平行な方向の端部から中央部へと移行するにつれて前記負極の抵抗値が増加する請求項1記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
正極、負極、および非水電解液を備える非水電解液二次電池の製造方法であって、
負極取得工程と、収容工程と、注入工程とを有し、
前記負極取得工程は、前記負極に含まれるナトリウム濃度が532ppmよりも大きく71100ppm未満となる前記負極を取得する工程であり、
前記収容工程は、前記正極および前記負極を備える電極体を電池ケースに収容する工程であり、
前記注入工程は、前記電池ケース内に前記非水電解液を注入する工程であり、
前記注入工程において注入される前記非水電解液に、LiBOB相当物を含め、
前記LiBOB相当物は、リチウムビスオキサレートボレートまたは前記リチウムビスオキサレートボレートが他の物質と反応することで生成された物質であり、
前記注入工程において注入される前記非水電解液中の前記LiBOB相当物の量は、前記リチウムビスオキサレートボレートの質量に換算する場合、前記非水電解液中の濃度が0.35wt%以上であって且つ0.56wt%以下であ
り、
前記負極は、負極集電体と、負極活物質層とを含み、
前記負極活物質層の密度を、1.14グラムパー立方センチメートル以上とし、
前記非水電解液の粘度を、3.9[cP]以下とする非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記負極に含まれるナトリウム濃度を700ppm以上とする請求項
4記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、非水電解液二次電池の製造工程が記載されている。この製造工程には、非水電解液二次電池の正極および負極を準備した後、それらに含まれるナトリウムを除去する工程が含まれている。また、製造工程には、リチウムビスオキサレートボレートが添加された非水電解液を電池ケース内に注入する工程が含まれる。
【0003】
上記リチウムビスオキサレートボレートは、負極に被膜を形成する。この被膜は、負極の表面を保護する役割を担う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、負極にナトリウムが存在すると、リチウムビスオキサレートボレートとナトリウムとの反応によって、上記被膜の形成にむらが生じやすい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.正極、負極、および非水電解液を備える非水電解液二次電池であって、前記負極に含まれるナトリウム濃度が532ppmよりも大きく71100ppm未満であり、LiBOB相当物を含み、前記LiBOB相当物は、前記非水電解液中に存在するリチウムビスオキサレートボレートまたは前記リチウムビスオキサレートボレートが他の物質と反応することで生成された物質であり、前記LiBOB相当物は、前記リチウムビスオキサレートボレートの質量に換算する場合、前記非水電解液中の仮想的な濃度が0.35wt%以上であって且つ0.56wt%以下である。
【0007】
リチウムビスオキサレートボレートに対する相対的なナトリウムの量が過度に大きい場合、負極におけるリチウムビスオキサレートボレート由来の被膜の形成に大きなむらが生じやすい。一方、負極のナトリウム量が過度に小さい場合、負極の剥離強度が低下する。また、リチウムビスオキサレートボレートの量が過度に大きい場合、負極の抵抗が過度に大きくなる。
【0008】
この点、上記構成によれば、ナトリウムの量を剥離強度を高く維持する量として且つ、ナトリウムの量とLiBOB相当物の量との相対的な量を適切な量とすることができる。そのため、負極の剥離強度の低下を抑制しつつリチウムビスオキサレートボレート由来の被膜を適切に形成することが可能となる。
【0009】
2.前記負極は、負極集電体と、負極活物質層とを含み、前記負極活物質層の密度は、1.14グラムパー立方センチメートル以上である上記1記載の非水電解液二次電池である。
【0010】
負極の密度が小さい場合、リチウムビスオキサレートボレートとナトリウムとの反応によって、リチウムビスオキサレートボレート由来の被膜のむらが大きくなりやすい。これに対し、上記構成では、負極の密度を確保することによって、リチウムビスオキサレートボレート由来の被膜のむらを抑制できる。
【0011】
3.前記非水電解液の粘度は、3.9[cP]以下である上記1または2記載の非水電解液二次電池である。
非水電解液の粘度が大きい場合、リチウムビスオキサレートボレートとナトリウムとの反応によって、リチウムビスオキサレートボレート由来の被膜のむらが大きくなりやすい。これに対し、上記構成では、非水電解液の粘度を小さい側に制限することによって、リチウムビスオキサレートボレート由来の被膜のむらを抑制できる。
【0012】
4.前記負極に含まれるナトリウム濃度が700ppm以上である上記1~3のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池である。
上記構成によれば、負極の剥離強度を十分に高めることができる。
【0013】
5.前記正極および前記負極は、間にセパレータを挟んで捲回されることによって捲回電極体を構成しており、前記捲回電極体において、捲回軸に平行な方向の端部から中央部へと移行するにつれて前記負極の抵抗値が増加する上記1~4のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池である。
【0014】
捲回軸に平行な方向における両サイドにおいて負極の抵抗値が極大となる構成の場合、リチウムビスオキサレートボレート由来の被膜のむらが大きくなる傾向にある。これに対し、上記構成では、捲回軸に平行な方向の端部から中央部へと移行するにつれて負極の抵抗値が増加する構成である。そのため、両サイドにおいて負極の抵抗値が極大となる構成と比較して、リチウムビスオキサレートボレート由来の被膜のむらを抑制できる。
【0015】
6.正極、負極、および非水電解液を備える非水電解液二次電池の製造方法であって、負極取得工程と、収容工程と、注入工程とを有し、前記負極取得工程は、前記負極に含まれるナトリウム濃度が532ppmよりも大きく71100ppm未満となる前記負極を取得する工程であり、前記収容工程は、前記正極および前記負極を備える電極体を電池ケースに収容する工程であり、前記注入工程は、前記電池ケース内に前記非水電解液を注入する工程であり、前記注入工程において注入される前記非水電解液に、LiBOB相当物を含め、前記LiBOB相当物は、リチウムビスオキサレートボレートまたは前記リチウムビスオキサレートボレートが他の物質と反応することで生成された物質であり、前記注入工程において注入される前記非水電解液中の前記LiBOB相当物の量は、前記リチウムビスオキサレートボレートの質量に換算する場合、前記非水電解液中の濃度が0.35wt%以上であって且つ0.56wt%以下である非水電解液二次電池の製造方法である。
【0016】
注入工程において、非水電解液は、電極体の端部から中央部へと流動する。その際、リチウムビスオキサレートボレートの量に対する負極のナトリウムの相対的な量が過度に多い場合には、電極体の端部においてリチウムビスオキサレートボレートがナトリウムと反応する量が多くなる。そのため、リチウムビスオキサレートボレート由来の被膜が端部に局在する傾向がある。
【0017】
一方、ナトリウムの量が過度に少ない場合には、負極の剥離強度が低下する。また、リチウムビスオキサレートボレートの量が過度に多い場合には、リチウムビスオキサレートボレート由来の被膜量が過度に大きくなる。そのため、負極の抵抗値が大きくなる。
【0018】
そこで上記方法では、リチウムビスオキサレートボレートの量とナトリウムの量とを適切な量に調整する。これにより、負極の剥離強度を高く維持することと、リチウムビスオキサレートボレート由来の被膜を適切に形成することとの折衷を図ることができる。
【0019】
7.前記負極は、負極集電体と、負極活物質層とを含み、前記負極活物質層の密度を、1.14グラムパー立方センチメートル以上とする上記6記載の非水電解液二次電池の製造方法である。
【0020】
負極活物質の密度が過度に小さい場合、注入工程において非水電解液が負極の端部から中央部へと流入する速度が小さくなる。そのため、端部においてナトリウムと反応するリチウムビスオキサレートボレートの量が多くなる。これは、リチウムビスオキサレートボレート由来の被膜のむらを大きくする。そこで上記方法では、負極活物質の密度が過度に小さくならないように調整する。これにより、リチウムビスオキサレートボレート由来の被膜のむらを抑制できる。
【0021】
8.前記非水電解液の粘度を、3.9[cP]以下とする上記6または7記載の非水電解液二次電池の製造方法である。
非水電解液の粘度が過度に大きい場合、注入工程において非水電解液が負極の端部から中央部へと流入する速度が小さくなる。そのため、端部においてナトリウムと反応するリチウムビスオキサレートボレートの量が多くなる。これは、リチウムビスオキサレートボレート由来の被膜のむらを大きくする。そこで上記方法では、非水電解液の粘度が過度に大きくならないように調整する。これにより、リチウムビスオキサレートボレート由来の被膜のむらを抑制できる。
【0022】
9.前記負極に含まれるナトリウム濃度を700ppm以上とする上記6~8のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池の製造方法である。
上記方法によれば、負極の剥離強度を十分に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の斜視図である。
【
図2】同実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の電極体の構成を示す模式図である。
【
図3】同実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の製造工程を示す流れ図である。
【
図4】同実施形態にかかるパラメータの選定理由を示す図である。
【
図5】(a)~(d)は、同実施形態にかかるパラメータの選定理由を示す図である。
【
図6】本実施形態および比較例における負極シートの抵抗分布を示す図である。
【
図7】非水電解液に添加されるLiBOB濃度と劣化速度との関係を示す図である。
【
図8】負極シート中のナトリウム濃度と負極シートの剥離強度との関係を示す図である。
【
図9】上記実施形態にかかるパラメータの選定理由を示す図である。
【
図10】同実施形態にかかるパラメータの選定理由を示す図である。
【
図11】同実施形態にかかるパラメータの選定理由を示す図である。
【
図12】同実施形態にかかるパラメータの選定理由を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
<リチウムイオン二次電池10の構成>
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池10の構成の概略を示す斜視図である。
【0025】
図1に示すようにリチウムイオン二次電池10は、セル電池として構成される。リチウムイオン二次電池10は、複数が直列に接続されて車両に搭載される。リチウムイオン二次電池10は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース12を備える。電池ケース12の内部には電極体20が収容される。電池ケース12内には蓋部19の注液孔から非水電解液14が充填されている。電池ケース12はアルミニウム合金等の金属で構成されている。またリチウムイオン二次電池10は、電力の充放電に用いられる正極外部端子16、および負極外部端子18を備えている。なお、正極外部端子16、および負極外部端子18の形状は、
図1に示されるものに限定されない。
【0026】
<電極体20>
図2は、捲回される電極体20の構成を示す模式図である。電極体20は、多数の負極シート30と正極シート40とそれらの間に配置されたセパレータ50とが扁平に捲回されて形成されている。負極シート30は、基材となる負極集電体32上に負極合材層34が形成される。負極シート30のうちの、捲回される方向Lに直交する方向Wの一端側には、負極合材層34が形成されていない。そして、負極合材層34が形成されていない領域は、負極集電体32が露出した負極接続部36となっている。
【0027】
正極シート40は、基材となる正極集電体42上に正極合材層44が形成される。
図2に示すように、正極集電体42のうちの、方向Wの他端側(負極接続部36と反対側)には、正極接続部46が設けられている。正極接続部46は、正極シート40のうちの正極合材層44が形成されていない領域である。換言すれば、正極接続部46は、正極集電体42の金属が露出した領域である。
【0028】
また、本実施形態では、正極合材層44の端部と隣接し、負極合材層34と対向した位置に絶縁保護層48を備える。絶縁保護層48は、露出した正極集電体42を被覆するように設けられている。
【0029】
<製造工程>
図3に、リチウムイオン二次電池10の製造工程の一部を示す。
図3に示す一連の工程においては、まず、正極シート40を形成する(S10)。この工程では、まず、たとえば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金から構成される金属箔を材料として、正極集電体42を形成する。次に、正極合材ペーストが正極集電体42に対して塗工される。正極合材ペーストは、正極活物質、正極溶媒、正極導電材、および、正極結着材を含んでよい。正極活物質には、リチウムイオン二次電池10における電荷担体であるリチウムイオンを吸蔵および放出可能なリチウム含有複合金属酸化物が用いられる。そして、正極合材ペーストを乾燥させることによって、正極集電体42上に正極合材層44を形成する。正極合材層44は、正極集電体42の相対する2つの面に1つずつ形成される。なお、正極集電体42の両面に形成された正極合材層44に力を加えることによって正極合材層44の厚さを調整してもよい。
【0030】
次に、負極シート30を形成する(S12)。この工程では、まず、たとえば、銅または銅を主成分とする合金から構成される金属箔を材料として、負極集電体32を形成する。次に、負極合材ペーストを負極集電体32に対して塗工する。負極合材ペーストは、負極活物質、負極溶媒、負極増粘剤、および、負極結着材を含んでよい。負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な材料である。負極活物質は、たとえば、黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、カーボンナノチューブ等の炭素材料等が用いられる。負極溶媒は、一例として、水である。負極増粘剤は、一例として、ナトリウム塩を含む増粘剤としてCMC(カルボキシメチルセルロース)を用いることができる。負極結着材は、正極結着材と同様のものを用いることができる。負極結着材は、一例としてナトリウム塩を含む結着材として、SBR(スチレンブタジエン共重合体)を用いることができる。次に、乾燥装置で負極合材ペーストを乾燥させることで、負極集電体32上に負極合材層34を形成する。負極合材層34は、負極集電体32の相対する2つの面に1つずつ形成される。なお、負極集電体32の両面に形成された負極合材層34を押圧することで、負極合材層34の厚さを調整してもよい。
【0031】
S12の工程では、負極合材層34の密度を、1.14グラムパー立方センチメートル以上とする。
次に、負極シート30のナトリウムを除去する(S14)。これは、S12の工程において形成された負極シート30を非水電解液で洗浄することによって実現される。非水電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させた液体とすればよい。支持塩は、たとえばリチウム塩である。S14の工程は、負極シート30を非水電解液に所定時間浸す工程と、たとえば有機溶媒等で負極シート30の表面を洗浄する工程と、負極シート30を乾燥させる工程と、を含んでよい。なお、上記3つの工程を順に実行した後、再度3つの工程を繰り返してもよい。ここで、負極増粘剤が、増粘剤としてCMCを含む場合、増粘剤に含まれるナトリウムが特に多くなる傾向がある。その場合、上記工程によって、以下の反応によって、ナトリウムが除去される。
【0032】
CMC-Na+LiOH→CMC-Li+NaOH
すなわち、CMC-NaとLiOHとを反応させて、CMC-Naのナトリウムをリチウムに置換することによって、ナトリウムが除去される。
【0033】
S14の工程において、負極シート30のナトリウム濃度を、ナトリウム濃度が532ppmよりも大きく71100ppm未満とする。より望ましくは、負極シート30のナトリウム濃度を、700ppm以上とする。
【0034】
次に、負極シート30と正極シート40とをセパレータ50を介して積層した状態で捲回することによって、電極体20を生成する(S16)。詳しくは、負極シート30と正極シート40とがセパレータ50を介して重ねて積層された状態で、捲回軸を中心に支えられて
図2に示した方向Lに沿って捲回される。
【0035】
次に、電極体20を電池ケース12内に収容する(S18)。S18の工程において、正極接続部46は、正極外部端子16と電気的に接続される。また、負極接続部36は、負極外部端子18と電気的に接続される。そして、電池ケース12と蓋部19とがレーザ溶接などにより密封されることにより、電池ケース12において開口部が蓋部19によって塞がれる。この段階ではまだ非水電解液14は注入されておらず、蓋部19の注液孔が開口している。
【0036】
次いで、電池ケース12内に非水電解液14を注入する(S20)。つまり、注入工程は、電極体20が収容された状態で電池ケース12に非水電解液14を注入する工程である。
【0037】
非水電解液14は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等からなる群から選択された一種または二種以上の材料を用いることができる。また、支持塩としては、一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。ここで、リチウム化合物は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等である。
【0038】
本実施形態では、非水溶媒としてエチレンカーボネートを採用している。非水電解液14には、添加剤としてのリチウム塩としてのリチウムビスオキサレートボレートが添加される。以下では、リチウムビスオキサレートボレートを、LiBOBと記載する。
【0039】
S20の工程において注入される非水電解液14中のLiBOBの濃度を、0.35wt%以上であって且つ0.56wt%以下とする。
また、S20の工程において注入される非水電解液14の粘度を、3.9[cP]以下とする。ここで、粘度は、ウベローデ粘度計で計測されたものである。
【0040】
次に、リチウムイオン二次電池10の充電および放電を所定回数繰り返す(S22)。S22の工程は、LiBOB由来のSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜の形成などを目的としている。
【0041】
<本実施形態の作用および効果>
図4に、S14の処理を経て生成される負極シート30中のナトリウム濃度およびS20の処理において注入される非水電解液14中のLiBOBの濃度を様々に変えたときの、負極シート30の抵抗値を示す。詳しくは、
図4の右側には、
図2に示した捲回軸の方向Wにおける負極シート30の抵抗値の分布を示す曲線をしている。また、
図4の右側の各曲線は、
図4の左側のナトリウム濃度およびLiBOB濃度によって分割された領域A1~A4のそれぞれに対応している。領域A3が、本実施形態において採用する領域である。
【0042】
図4に示すように、領域A1を採用する場合、負極シート30の抵抗値は、捲回軸に平行な方向において2つの極大値を有する。これは、LiBOBの濃度が過度に小さいためである。
【0043】
すなわち、電極体20は、負極シート30、正極シート40、およびセパレータ50の積層体を捲回することによって形成されている。そのため、S20の工程において非水電解液14が注入されると、非水電解液14は、負極シート30に、捲回軸に平行な方向Wにおける両端部から流入する。
【0044】
ここで、
図5(a)に示すように、LiBOBの濃度が過度に小さい場合、上記両端部においてLiBOBの大部分がナトリウムと反応する。そのため、負極シート30のうち、捲回軸に平行な方向Wにおける中央部には、LiBOBがほとんど浸透しない。したがって、負極シート30におけるLiBOB由来の被膜に大きなむらが生じる。これは、負極シート30の寿命の低下につながる。
【0045】
また、
図4に示すように、領域A2を採用する場合にも、負極シート30の抵抗値は、捲回軸に平行な方向において2つの極大値を有する。これは、負極シート30中のナトリウムの濃度が過度に大きいためである。
【0046】
すなわち、
図5(b)に示すように、負極シート30中のナトリウム濃度が過度に大きい場合、捲回軸に平行な方向Wにおける両端部から流入したLiBOBの大部分は、両端部においてナトリウムと反応する。そのため、負極シート30のうち、捲回軸に平行な方向Wにおける中央部には、LiBOBがほとんど浸透しない。したがって、負極シート30におけるLiBOB由来の被膜に大きなむらが生じる。これは、負極シート30の寿命の低下につながる。
【0047】
また、
図4に示すように、領域A4を採用する場合、負極シート30の抵抗値の変動は小さくなる。しかし、この場合には、負極シート30における負極合材層34の剥離強度が低下する。
【0048】
すなわち、たとえば、上述したようにCMC-Naからナトリウムを除去する場合、CMC-Naのナトリウムをリチウムに置換してCMC-Liとする。ここで、CMC-Liは、CMC-Naと比較して、分子量が小さい。
【0049】
そのため、
図5(c)の右側に示すように、
図5(c)の左側に示す場合と比較して、分子鎖が短くなり、絡まりにくい構造となる。そのため、負極活物質同士の結着力が低下する。これが、剥離強度の低下をもたらす。
【0050】
また、
図4に示すように、領域A5を採用する場合、負極シート30の抵抗値の変動は小さいものの、抵抗値が大きい。これは、非水電解液14中のLiBOBの濃度が過度に大きいためである。
【0051】
すなわち、
図5(d)に示すように、LiBOBの濃度が過度に大きい場合、LiBOBとナトリウムとの反応によって生成された被膜を、ナトリウムと反応しなかったLiBOB由来の被膜が厚く覆う。この被膜の抵抗値が大きいことから、負極シート30の抵抗値が過度に大きくなる。
【0052】
以上より、本実施形態では、領域A3を採用する。
図6に、実線にて本実施形態における負極シート30の抵抗値の分布の計測データを例示する。
図6には、破線にて、領域A2における抵抗値の分布の計測データを例示している。
図6に示すように、本実施形態では、負極シート30の抵抗値は、全領域において、28.07オーム未満である。
【0053】
図7に、非水電解液14中のLiBOB濃度と、リチウムイオン二次電池10の容量劣化速度との関係を示す。容量劣化速度は、リチウムイオン二次電池10の規格化された容量の日数に対する傾きの絶対値によって定量化されている。ここで、規格化された容量は、保存試験における初期容量である保存前容量に対する保存試験中の容量の比である。日数は、保存試験の開始からの経過日数である。規格化された容量の傾きの絶対値が大きいほど寿命低下が大きいことを意味する。
図7に示すように、非水電解液14中のLiBOB濃度が大きいほど、劣化速度が低下する。ただし、非水電解液14中のLiBOB濃度が大きくなると、負極シート30の抵抗値が大きくなる背反がある。
【0054】
図8に、負極シート30中のナトリウム濃度と負極シート30の剥離強度との関係を示す。
図8に示すように、ナトリウムの濃度が小さくなるほど剥離強度が低下する。ただし、負極シート30中のナトリウム濃度が大きくなると、負極シート30において、LiBOB由来の被膜のむらが大きくなる背反がある。
【0055】
図9に、負極シート30内のナトリウム濃度および非水電解液14中のLiBOBの濃度を領域A1~A5のそれぞれにおける1点に定めたときの、特性の評価結果を示す。領域A1,A2では、LiBOB由来の被膜のむらが大きいために、寿命特性が低い。領域A4では、負極シート30の剥離強度が低い。領域A5では、負極シート30の抵抗値が過度に大きいことから、入出力特性が低い。
【0056】
以下、
図10~
図12を用いて、本実施形態にかかるパラメータの設定の根拠について説明する。
図10に、非水電解液14に添加されるLiBOB濃度と容量劣化特性との関係を示す。
図10に示す縦軸の「1」は、非水電解液14に添加されるLiBOB濃度が0.5wt%であるときを基準としたものである。
【0057】
図10に示すように、非水電解液14に添加されるLiBOB濃度が0.35wt%以上である場合、容量劣化速度はほぼ一定である。これに対し、非水電解液14に添加されるLiBOB濃度が0.35wt%未満となると、容量劣化特性が低下する。そのため、本実施形態では、非水電解液14に添加されるLiBOB濃度を0.35wt%以上とする。
【0058】
図11に、非水電解液14に添加されるLiBOB濃度とリチウムイオン二次電池10の入力および出力の比である入出力比との関係を示す。
図11に示す関係は、具体的には、リチウムイオン二次電池10を「-10°C」としたときの関係である。また、
図11の縦軸の「1」は、非水電解液14に添加されるLiBOB濃度が0.5wt%であるときを基準としたものである。
【0059】
図11に示すように、非水電解液14に添加されるLiBOB濃度が0.56wt%以下の場合には、負極シート30の入出力比は0.5wt%のときと同等である。一方、非水電解液14に添加されるLiBOB濃度が0.56wt%を超えると、負極シート30の入出力比が悪化する。
【0060】
これらにより、本実施形態では、非水電解液14に添加されるLiBOB濃度を、0.35w%以上であって且つ、0.56wt%以下としている。
図12に、負極シート30中のナトリウム濃度と剥離強度との関係を、剥離強度の許容範囲の下限とともに示す。
図12に示すように、剥離強度の下限は、1.5(N/m)としている。その場合、負極シート30内のナトリウム濃度は、532ppmよりも大きいことが要求される。なお、負極シート30の剥離強度を十分に確保するうえでは、負極シート30内のナトリウム濃度は、700ppm以上であることが望ましい。ちなみに、負極シート30内のナトリウム濃度の上限は、
図6に示す負極シート30の抵抗値の上限値と、負極シート30の中央部におけるLiBOB由来の被膜の形成量に応じて定めた。
【0061】
このように、本実施形態では、非水電解液14に添加されるLiBOBの濃度と負極シート30のナトリウム濃度とを調整することによって、リチウムイオン二次電池10の入出力特性、寿命、負極シート30の剥離強度を高い基準を満たすものとすることができる。
【0062】
さらに、本実施形態では、負極合材層34の密度を、1.14グラムパー立方センチメートル以上とした。これは、負極合材層34の密度が小さい場合には、S20の工程において負極シート30に浸透する非水電解液14の速度が小さくなるからである。負極シート30に浸透する非水電解液14の速度が小さくなると、捲回軸に平行な方向Wの両端部においてナトリウムと反応する量が増え、同方向Wの中央部に到達するLiBOBの量が低下しやすい。
【0063】
また、本実施形態では、非水電解液14の粘度を、3.9[cP]以下としている。これは、粘度が高いと、S20の工程において負極シート30に浸透する非水電解液14の速度が小さくなるからである。負極シート30に浸透する非水電解液14の速度が小さくなると、捲回軸に平行な方向Wの両端部においてナトリウムと反応する量が増え、同方向Wの中央部に到達するLiBOBの量が低下しやすい。
【0064】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1,3~5]LiBOB相当物は、S20の工程において注入された物質または同物質がS22の工程においてナトリウム等と反応して生成された被膜等に対応する。[2,7]負極活物質層は、負極合材層34に対応する。[6,8,9]負極取得工程は、S12,S14の工程に対応する。収容工程は、S18の工程に対応する。注入工程は、S20の工程に対応する。
【0065】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0066】
「負極取得工程について」
・負極取得工程が、S14の工程を含むことは必須ではない。Naを除去する工程を含むことなく、負極中のナトリウム濃度を上記の条件を満たす量としてもよい。
【0067】
「注入工程について」
・注入工程において非水電解液に添加されるLiBOB相当物としては、リチウムビスオキサレートボレート自体に限らない。たとえば、リチウムビスオキサレートボレートが何らかの物質と反応した物質であっても、S22の工程で、リチウムビスオキサレートボレートと同等の被膜を形成するのであればよい。
【0068】
「電極体について」
・電極体としては、扁平な捲回体に限らず、たとえば、円筒状に捲回したものであってもよい。
【0069】
・電極体20は、捲回体ではなく、正極シート40と負極シート30とをセパレータ50を介して積層した積層体を電池ケース12に収容したものであってもよい。その場合であっても、たとえばナトリウムの濃度が過度に大きい場合には、注入工程において電極体の端部でリチウムビスオキサレートボレートがナトリウムと多量に反応し、むらが大きくなりやすい。そのため、上記条件を満たすことは有効である。
【0070】
「非水電解液二次電池について」
・非水電解液二次電池としては、薄板状の電池に限らない。たとえば、円柱形の電池等であってもよい。また、車載用に限らず、船舶用、航空機用、さらに定置用の電池であってもよい。
【符号の説明】
【0071】
10…リチウムイオン二次電池
12…電池ケース
14…非水電解液
16…正極外部端子
18…負極外部端子
19…蓋部
20…電極体
30…負極シート
32…負極集電体
34…負極合材層
36…負極接続部
40…正極シート
42…正極集電体
44…正極合材層
46…正極接続部
48…絶縁保護層
50…セパレータ