(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】眼科装置、その制御方法、プログラム、及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20241224BHJP
【FI】
A61B3/10 100
(21)【出願番号】P 2023113724
(22)【出願日】2023-07-11
(62)【分割の表示】P 2018173777の分割
【原出願日】2018-09-18
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】福間 康文
(72)【発明者】
【氏名】林 健史
(72)【発明者】
【氏名】多々良 陽子
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-139512(JP,A)
【文献】特開2015-154803(JP,A)
【文献】特開2016-187461(JP,A)
【文献】特開2011-115302(JP,A)
【文献】特開2008-188047(JP,A)
【文献】特開2012-075640(JP,A)
【文献】特開2016-054854(JP,A)
【文献】特開2014-200679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを適用するスキャン部と、
前記スキャン部の少なくとも一部を移動する移動機構と、
所定の基準位置に対する前記被検眼の偏位を測定する偏位測定部と、
前記被検眼の第1部位を含む第1領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第1スキャン制御と、前記第1部位と異なる第2部位を含む第2領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第2スキャン制御とを実行するスキャン制御部と、
前記第1スキャン制御の前に前記偏位測定部により取得された前記被検眼の第1偏位情報に基づき前記移動機構を制御する第1アライメント制御と、前記第2スキャン制御の前に前記偏位測定部により取得された前記被検眼の第2偏位情報に基づき前記移動機構を制御する第2アライメント制御とを実行するアライメント制御部と、
前記第1スキャン制御の下に前記スキャン部により取得された第1データと、前記第2スキャン制御の下に前記スキャン部により取得された第2データとに基づいて、前記第1部位と前記第2部位との間の距離を算出する距離算出部と
を含み、
前記スキャン部は、
前記被検眼に測定光を導く測定アームと、参照光を導く参照アームとを含む干渉光学系と、
前記測定光を偏向する光スキャナと
を含み、
前記スキャン制御部は、
前記被検眼に
Aスキャンを適用するように前記スキャン部を制御し、
前記
Aスキャンで得られた干渉信号の強度を既定閾値と比較し、
前記
Aスキャンを所定回数繰り返しても前記干渉信号の強度が前記既定閾値未満である場合に
、前記被検眼に
Bスキャンを適用するように前記スキャン部を制御
し、
前記Bスキャンで得られた干渉信号の強度を前記既定閾値と比較し、
前記Bスキャンを所定回数繰り返しても前記干渉信号の強度が前記既定閾値未満である場合に、前記被検眼にラジアルスキャンを適用するように前記スキャン部を制御し、
更に、前記第1部位及び/又は前記第2部位がOCTスキャンの適用範囲から外れないように、前記スキャン部の前記光スキャナの向きの変化の範囲を制限する制御を実行する、
ことを特徴とする、眼科装置。
【請求項2】
前記スキャン部は
、前記測定アーム及び前記参照アームの少なくとも一方に設けられ、前記スキャン制御部の制御の下にアーム長を変更するアーム長変更
部を含み、
前記距離算出部は、
前記第1スキャン制御において適用された第1アーム長と前記第2スキャン制御において適用された第2アーム長との間の差を算出し、
前記第1データを解析して前記第1部位に対応する第1位置を特定し、
前記第2データを解析して前記第2部位に対応する第2位置を特定し、
前記差と前記第1位置と前記第2位置とに基づいて、前記距離を算出する
ことを特徴とする、請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを適用するスキャン部と、
所定の基準位置に対する前記被検眼の偏位を測定する偏位測定部と、
前記被検眼の第1部位を含む第1領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第1スキャン制御と、前記第1部位と異なる第2部位を含む第2領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第2スキャン制御とを実行するスキャン制御部と、
前記第1スキャン制御に対応して前記偏位測定部により取得された前記被検眼の第1偏位情報及び前記第2スキャン制御に対応して前記偏位測定部により取得された前記被検眼の第2偏位情報の少なくとも一方と、前記第1スキャン制御の下に前記スキャン部により取得された第1データと、前記第2スキャン制御の下に前記スキャン部により取得された第2データとに基づいて、前記第1部位と前記第2部位との間の距離を算出する距離算出部と
を含み、
前記スキャン部は、
前記被検眼に測定光を導く測定アームと、参照光を導く参照アームとを含む干渉光学系と、
前記測定光を偏向する光スキャナと
を含み、
前記スキャン制御部は、
前記被検眼に
Aスキャンを適用するように前記スキャン部を制御し、
前記
Aスキャンで得られた干渉信号の強度を既定閾値と比較し、
前記
Aスキャンを所定回数繰り返しても前記干渉信号の強度が前記既定閾値未満である場合に
、前記被検眼に
Bスキャンを適用するように前記スキャン部を制御
し、
前記Bスキャンで得られた干渉信号の強度を前記既定閾値と比較し、
前記Bスキャンを所定回数繰り返しても前記干渉信号の強度が前記既定閾値未満である場合に、前記被検眼にラジアルスキャンを適用するように前記スキャン部を制御し、
更に、前記第1部位及び/又は前記第2部位がOCTスキャンの適用範囲から外れないように、前記スキャン部の前記光スキャナの向きの変化の範囲を制限する制御を実行する、
ことを特徴とする、眼科装置。
【請求項4】
前記偏位測定部は、前記第1スキャン制御及び前記第2スキャン制御のうちの一方のスキャン制御に対応して一の偏位情報を取得し、且つ、他方のスキャン制御の前に他の偏位情報を取得し、
前記スキャン部の少なくとも一部を移動する移動機構と、
前記他の偏位情報に基づき前記移動機構を制御するアライメント制御を前記他方のスキャン制御の前に実行するアライメント制御部と
を更に含み、
前記距離算出部は、前記一の偏位情報と前記第1データと前記第2データとに基づいて、前記距離を算出する
ことを特徴とする、請求項3に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記スキャン部は
、前記測定アーム及び前記参照アームの少なくとも一方に設けられ、前記スキャン制御部の制御の下にアーム長を変更するアーム長変更
部を含み、
前記距離算出部は、
前記第1スキャン制御において適用された第1アーム長と前記第2スキャン制御において適用された第2アーム長との間の差を算出し、
前記第1データを解析して前記第1部位に対応する第1位置を特定し、
前記第2データを解析して前記第2部位に対応する第2位置を特定し、
前記差と、前記第1位置と、前記第2位置と、前記第1偏位情報及び前記第2偏位情報の少なくとも一方とに基づいて、前記距離を算出する
ことを特徴とする、請求項3又は4に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記距離算出部は、
前記差と前記第1位置と前記第2位置とに基づいて、前記第1部位と前記第2部位との間の暫定距離を算出し、
前記暫定距離と、前記第1偏位情報及び前記第2偏位情報の少なくとも一方と、予め取得された前記被検眼の角膜曲率半径とに基づいて、前記距離を算出する
ことを特徴とする、請求項5に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記暫定距離をALmとし、前記第1偏位情報及び前記第2偏位情報の一方をhとし、前記角膜曲率半径をrとし、前記距離をALとしたとき、前記距離算出部は、演算式AL=(r-r×cos(arcsin(h/r)))+ALm×cos(arcsin(h/ALm))によって前記距離ALを算出する
ことを特徴とする、請求項6に記載の眼科装置。
【請求項8】
前記スキャン制御部は、前記第1スキャン制御及び前記第2スキャン制御の少なくとも一方において、複数回のOCTスキャンを前記スキャン部に実行させ、
前記距離算出部は、
前記複数回のOCTスキャンにより取得されたデータ群から単一のデータを取得し、
前記単一のデータを用いて前記距離の算出を行う
ことを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の眼科装置。
【請求項9】
前記距離算出部は、前記データ群を加算平均することで前記単一のデータを生成する
ことを特徴とする、請求項8に記載の眼科装置。
【請求項10】
前記Bスキャンのスキャンラインの長さは、標準的なBスキャンのスキャンラインの長さよりも短い
ことを特徴とする、請求項
1~9のいずれかに記載の眼科装置。
【請求項11】
前記ラジアルスキャンの寸法は、標準的なラジアルスキャンの寸法よりも小さい
ことを特徴とする、請求項
1~10のいずれかに記載の眼科装置。
【請求項12】
前記スキャン部の前記光スキャナの向きの変化の範囲として、前記Aスキャンに対応する範囲と、前記Bスキャンに対応する範囲と、前記ラジアルスキャンに対応する範囲とが、予め設定されている
ことを特徴とする、請求項1~11のいずれかに記載の眼科装置。
【請求項13】
前記Aスキャンに対応する範囲は、前記Bスキャンに対応する範囲及び前記ラジアルスキャンに対応する範囲よりも狭く設定されている
ことを特徴とする、請求項12に記載の眼科装置。
【請求項14】
被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを適用するスキャン部と、前記スキャン部の少なくとも一部を移動する移動機構と、所定の基準位置に対する前記被検眼の偏位を測定する偏位測定部とを含
み、前記スキャン部が、前記被検眼に測定光を導く測定アームと参照光を導く参照アームとを含む干渉光学系と、前記測定光を偏向する光スキャナとを含む眼科装置を制御する方法であって、
前記偏位測定部により取得された前記被検眼の第1偏位情報に基づき前記移動機構を制御する第1アライメント制御ステップと、
前記被検眼の第1部位を含む第1領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第1スキャン制御ステップと、
前記偏位測定部により取得された前記被検眼の第2偏位情報に基づき前記移動機構を制御する第2アライメント制御ステップと、
前記第1部位と異なる第2部位を含む第2領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第2スキャン制御ステップと、
前記第1スキャン制御ステップにおいて前記スキャン部により取得された第1データと、前記第2スキャン制御ステップにおいて前記スキャン部により取得された第2データとに基づいて、前記第1部位と前記第2部位との間の距離を算出する距離算出ステップと
を含み、
更に、
前記被検眼に
Aスキャンを適用するように前記スキャン部を制御するステップと、
前記
Aスキャンで得られた干渉信号の強度を既定閾値と比較するステップと、
前記
Aスキャンを所定回数繰り返しても前記干渉信号の強度が前記既定閾値未満である場合に
、前記被検眼に
Bスキャンを適用するように前記スキャン部を制御するステップと
、
前記Bスキャンで得られた干渉信号の強度を前記既定閾値と比較するステップと、
前記Bスキャンを所定回数繰り返しても前記干渉信号の強度が前記既定閾値未満である場合に、前記被検眼にラジアルスキャンを適用するように前記スキャン部を制御するステップと、
更に、前記第1部位及び/又は前記第2部位がOCTスキャンの適用範囲から外れないように、前記スキャン部の前記光スキャナの向きの変化の範囲を制限する制御を実行するステップと
を含む
ことを特徴とする、眼科装置の制御方法。
【請求項15】
被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを適用するスキャン部と、所定の基準位置に対する前記被検眼の偏位を測定する偏位測定部とを含
み、前記スキャン部が、前記被検眼に測定光を導く測定アームと参照光を導く参照アームとを含む干渉光学系と、前記測定光を偏向する光スキャナとを含む眼科装置を制御する方法であって、
前記被検眼の第1部位を含む第1領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第1スキャン制御ステップと、
前記第1部位と異なる第2部位を含む第2領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第2スキャン制御ステップと、
前記第1スキャン制御に対応して前記被検眼の第1偏位情報を取得させるステップ、及び、前記第2スキャン制御に対応して前記被検眼の第2偏位情報を取得させるステップの少なくとも一方を、前記偏位測定部に実行させる偏位測定ステップと、
前記偏位測定ステップにより取得された前記第1偏位情報及び前記第2偏位情報の少なくとも一方と、前記第1スキャン制御ステップにおいて前記スキャン部により取得された第1データと、前記第2スキャン制御ステップにおいて前記スキャン部により取得された第2データとに基づいて、前記第1部位と前記第2部位との間の距離を算出する距離算出ステップと
を含み、
更に、
前記被検眼に
Aスキャンを適用するように前記スキャン部を制御するステップと、
前記
Aスキャンで得られた干渉信号の強度を既定閾値と比較するステップと、
前記
Aスキャンを所定回数繰り返しても前記干渉信号の強度が前記既定閾値未満である場合に
、前記被検眼に
Bスキャンを適用するように前記スキャン部を制御するステップと
、
前記Bスキャンで得られた干渉信号の強度を前記既定閾値と比較するステップと、
前記Bスキャンを所定回数繰り返しても前記干渉信号の強度が前記既定閾値未満である場合に、前記被検眼にラジアルスキャンを適用するように前記スキャン部を制御するステップと、
更に、前記第1部位及び/又は前記第2部位がOCTスキャンの適用範囲から外れないように、前記スキャン部の前記光スキャナの向きの変化の範囲を制限する制御を実行するステップと
を含む
ことを特徴とする、眼科装置の制御方法。
【請求項16】
請求項
14又は
15に記載の制御方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項17】
請求項
16に記載のプログラムが記録されたコンピュータ可読な非一時的記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、眼科装置、その制御方法、プログラム、及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
眼軸長測定が可能な眼科装置が知られている。例えば、特許文献1には、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を利用して眼軸長を測定する技術が開示されている。眼軸長は、角膜頂点と黄斑部(中心窩)との間の距離として定義され、白内障手術前における眼内レンズの度数選択や、軸性屈折異常の確認などにおいて有用な眼内パラメータの1つである。
【0003】
前述のように、眼軸長は角膜頂点と黄斑部との間の距離として定義されるので、眼軸長を測定するには角膜の位置と網膜の位置との双方を知る必要がある。特許文献1に開示された発明では、角膜の位置を求めるための第1の計測(前眼部モードのOCTスキャン)と、網膜の位置を求めるための第2の計測(後眼部モードのOCTスキャン)との間に時間差がある。したがって、第1の計測と第2の計測との間に被検眼が動いた場合、眼軸長を正確に測定できない可能性がある。特に、被検眼の奥行き方向(深さ方向)に直交する方向への動きは、眼軸長の測定値の信頼性を大きく低下させるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の目的は、例えば飛蚊症を患っている被検眼において、混濁が硝子体内を移動する場合であっても、信頼性の高い眼軸長測定を実施可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
例示的な実施形態の第1の態様は、被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを適用するスキャン部と、前記スキャン部の少なくとも一部を移動する移動機構と、所定の基準位置に対する前記被検眼の偏位を測定する偏位測定部と、前記被検眼の第1部位を含む第1領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第1スキャン制御と、前記第1部位と異なる第2部位を含む第2領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第2スキャン制御とを実行するスキャン制御部と、前記第1スキャン制御の前に前記偏位測定部により取得された前記被検眼の第1偏位情報に基づき前記移動機構を制御する第1アライメント制御と、前記第2スキャン制御の前に前記偏位測定部により取得された前記被検眼の第2偏位情報に基づき前記移動機構を制御する第2アライメント制御とを実行するアライメント制御部と、前記第1スキャン制御の下に前記スキャン部により取得された第1データと、前記第2スキャン制御の下に前記スキャン部により取得された第2データとに基づいて、前記第1部位と前記第2部位との間の距離を算出する距離算出部とを含む眼科装置である。前記スキャン制御部は、第1スキャンモードのOCTスキャンを前記被検眼に適用するように前記スキャン部を制御し、前記第1スキャンモードのOCTスキャンで得られたデータがスキャンモード移行条件を満足するか否か判定し、前記第1のスキャンモードのOCTスキャンを所定回数繰り返しても前記スキャンモード移行条件が満足されない場合に、前記第1スキャンモードと異なる第2スキャンモードのOCTスキャンを前記被検眼に適用するように前記スキャン部を制御するように構成されていてもよい。
【0007】
例示的な実施形態の第2の態様は、第1の態様の眼科装置であって、前記スキャン部は、前記被検眼に測定光を導く測定アームと、参照光を導く参照アームとを含む干渉光学系と、前記測定アーム及び前記参照アームの少なくとも一方に設けられ、前記スキャン制御部の制御の下にアーム長を変更するアーム長変更部とを含み、前記距離算出部は、前記第1スキャン制御において適用された第1アーム長と前記第2スキャン制御において適用された第2アーム長との間の差を算出し、前記第1データを解析して前記第1部位に対応する第1位置を特定し、前記第2データを解析して前記第2部位に対応する第2位置を特定し、前記差と前記第1位置と前記第2位置とに基づいて、前記距離を算出することを特徴とする。
【0008】
例示的な実施形態の第3の態様は、被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを適用するスキャン部と、所定の基準位置に対する前記被検眼の偏位を測定する偏位測定部と、前記被検眼の第1部位を含む第1領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第1スキャン制御と、前記第1部位と異なる第2部位を含む第2領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第2スキャン制御とを実行するスキャン制御部と、前記第1スキャン制御に対応して前記偏位測定部により取得された前記被検眼の第1偏位情報及び前記第2スキャン制御に対応して前記偏位測定部により取得された前記被検眼の第2偏位情報の少なくとも一方と、前記第1スキャン制御の下に前記スキャン部により取得された第1データと、前記第2スキャン制御の下に前記スキャン部により取得された第2データとに基づいて、前記第1部位と前記第2部位との間の距離を算出する距離算出部とを含む、眼科装置である。前記スキャン制御部は、第1スキャンモードのOCTスキャンを前記被検眼に適用するように前記スキャン部を制御し、前記第1スキャンモードのOCTスキャンで得られたデータがスキャンモード移行条件を満足するか否か判定し、前記第1のスキャンモードのOCTスキャンを所定回数繰り返しても前記スキャンモード移行条件が満足されない場合に、前記第1スキャンモードと異なる第2スキャンモードのOCTスキャンを前記被検眼に適用するように前記スキャン部を制御するように構成されていてもよい。
【0009】
例示的な実施形態の第4の態様は、第3の態様の眼科装置であって、前記偏位測定部は、前記第1スキャン制御及び前記第2スキャン制御のうちの一方のスキャン制御に対応して一の偏位情報を取得し、且つ、他方のスキャン制御の前に他の偏位情報を取得し、前記スキャン部の少なくとも一部を移動する移動機構と、前記他の偏位情報に基づき前記移動機構を制御するアライメント制御を前記他方のスキャン制御の前に実行するアライメント制御部とを更に含み、前記距離算出部は、前記一の偏位情報と前記第1データと前記第2データとに基づいて、前記距離を算出することを特徴とする。
【0010】
例示的な実施形態の第5の態様は、第3又は第4の態様の眼科装置であって、前記スキャン部は、前記被検眼に測定光を導く測定アームと、参照光を導く参照アームとを含む干渉光学系と、前記測定アーム及び前記参照アームの少なくとも一方に設けられ、前記スキャン制御部の制御の下にアーム長を変更するアーム長変更部とを含み、前記距離算出部は、前記第1スキャン制御において適用された第1アーム長と前記第2スキャン制御において適用された第2アーム長との間の差を算出し、前記第1データを解析して前記第1部位に対応する第1位置を特定し、前記第2データを解析して前記第2部位に対応する第2位置を特定し、前記差と、前記第1位置と、前記第2位置と、前記第1偏位情報及び前記第2偏位情報の少なくとも一方とに基づいて、前記距離を算出することを特徴とする。
【0011】
例示的な実施形態の第6の態様は、第5の態様の眼科装置であって、前記距離算出部は、前記差と前記第1位置と前記第2位置とに基づいて、前記第1部位と前記第2部位との間の暫定距離を算出し、前記暫定距離と、前記第1偏位情報及び前記第2偏位情報の少なくとも一方と、予め取得された前記被検眼の角膜曲率半径とに基づいて、前記距離を算出することを特徴とする。
【0012】
例示的な実施形態の第7の態様は、第6の態様の眼科装置であって、前記暫定距離をALmとし、前記第1偏位情報及び前記第2偏位情報の一方をhとし、前記角膜曲率半径をrとし、前記距離をALとしたとき、前記距離算出部は、演算式AL=(r-r×cos(arcsin(h/r)))+ALm×cos(arcsin(h/ALm))によって前記距離ALを算出することを特徴とする。
【0013】
例示的な実施形態の第8の態様は、第1~第7の態様のいずれかの眼科装置であって、前記スキャン制御部は、前記第1スキャン制御及び前記第2スキャン制御の少なくとも一方において、複数回のOCTスキャンを前記スキャン部に実行させ、前記距離算出部は、前記複数回のOCTスキャンにより取得されたデータ群から単一のデータを取得し、前記単一のデータを用いて前記距離の算出を行うことを特徴とする。
【0014】
例示的な実施形態の第9の態様は、第8の態様の眼科装置であって、前記距離算出部は、前記データ群を加算平均することで前記単一のデータを生成することを特徴とする。
【0015】
例示的な実施形態の第10の態様は、第1~第7の態様のいずれかの眼科装置であって、前記スキャン制御部は、前記第1スキャン制御及び前記第2スキャン制御の少なくとも一方において、前記被検眼の3次元領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させ、前記距離算出部は、前記3次元領域に対するOCTスキャンにより取得されたデータを解析して、前記被検眼の特徴点に対応する特徴位置を特定し、前記特徴位置を一端とする線分の長さを前記距離として算出することを特徴とする。
【0016】
例示的な実施形態の第11の態様は、第10の態様の眼科装置であって、前記スキャン制御部は、前記第1スキャン制御において、前記被検眼の角膜表面を含む3次元領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させ、前記距離算出部は、前記3次元領域に対するOCTスキャンにより取得されたデータを解析して、角膜頂点に対応する特徴位置を特定することを特徴とする。
【0017】
例示的な実施形態の第12の態様は、第1~第11の態様のいずれかの眼科装置であって、前記スキャン制御部は、前記第2スキャンモードのOCTスキャンで得られたデータが前記スキャンモード移行条件を満足するか否か判定し、前記第2のスキャンモードのOCTスキャンを所定回数繰り返しても前記スキャンモード移行条件が満足されない場合に、前記第2スキャンモードと異なる第3スキャンモードのOCTスキャンを前記被検眼に適用するように前記スキャン部を制御し、前記第1スキャンモードは、Aスキャンであり、前記第2スキャンモードは、Bスキャンであり、前記第3スキャンモードは、ラジアルスキャンであることを特徴とする。
【0018】
例示的な実施形態の第13の態様は、第1~第12の態様のいずれかの眼科装置であって、前記スキャン制御部は、前記第1スキャンモードのOCTスキャンと異なる位置に前記第2のスキャンモードのOCTスキャンを適用するように、及び/又は、前記第1スキャンモードのOCTスキャンよりも広い範囲に前記第2のスキャンモードのOCTスキャンを適用するように、前記スキャン部の制御を実行することを特徴とする。
【0019】
例示的な実施形態の第14の態様は、第1~第13の態様のいずれかの眼科装置であって、前記スキャン制御部は、前記第1部位及び/又は前記第2部位がOCTスキャンの適用範囲から外れないように前記スキャン部の制御を実行することを特徴とする。
【0020】
例示的な実施形態の第15の態様は、被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを適用するスキャン部と、前記スキャン部の少なくとも一部を移動する移動機構と、所定の基準位置に対する前記被検眼の偏位を測定する偏位測定部とを含む眼科装置を制御する方法であって、前記偏位測定部により取得された前記被検眼の第1偏位情報に基づき前記移動機構を制御する第1アライメント制御ステップと、前記被検眼の第1部位を含む第1領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第1スキャン制御ステップと、前記偏位測定部により取得された前記被検眼の第2偏位情報に基づき前記移動機構を制御する第2アライメント制御ステップと、前記第1部位と異なる第2部位を含む第2領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第2スキャン制御ステップと、前記第1スキャン制御ステップにおいて前記スキャン部により取得された第1データと、前記第2スキャン制御ステップにおいて前記スキャン部により取得された第2データとに基づいて、前記第1部位と前記第2部位との間の距離を算出する距離算出ステップとを含む。例示的な実施形態の第15の態様は、更に、第1スキャンモードのOCTスキャンを前記被検眼に適用するように前記スキャン部を制御するステップと、前記第1スキャンモードのOCTスキャンで得られたデータがスキャンモード移行条件を満足するか否か判定するステップと、前記第1のスキャンモードのOCTスキャンを所定回数繰り返しても前記スキャンモード移行条件が満足されない場合に、前記第1スキャンモードと異なる第2スキャンモードのOCTスキャンを前記被検眼に適用するように前記スキャン部を制御するステップとを含んでいてもよい。
【0021】
例示的な実施形態の第16の態様は、被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを適用するスキャン部と、所定の基準位置に対する前記被検眼の偏位を測定する偏位測定部とを含む眼科装置を制御する方法であって、前記被検眼の第1部位を含む第1領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第1スキャン制御ステップと、前記第1部位と異なる第2部位を含む第2領域に対するOCTスキャンを前記スキャン部に実行させる第2スキャン制御ステップと、前記第1スキャン制御に対応して前記被検眼の第1偏位情報を取得させるステップ、及び、前記第2スキャン制御に対応して前記被検眼の第2偏位情報を取得させるステップの少なくとも一方を、前記偏位測定部に実行させる偏位測定ステップと、前記偏位測定ステップにより取得された前記第1偏位情報及び前記第2偏位情報の少なくとも一方と、前記第1スキャン制御ステップにおいて前記スキャン部により取得された第1データと、前記第2スキャン制御ステップにおいて前記スキャン部により取得された第2データとに基づいて、前記第1部位と前記第2部位との間の距離を算出する距離算出ステップとを含む。例示的な実施形態の第16の態様は、更に、第1スキャンモードのOCTスキャンを前記被検眼に適用するように前記スキャン部を制御するステップと、前記第1スキャンモードのOCTスキャンで得られたデータがスキャンモード移行条件を満足するか否か判定するステップと、前記第1のスキャンモードのOCTスキャンを所定回数繰り返しても前記スキャンモード移行条件が満足されない場合に、前記第1スキャンモードと異なる第2スキャンモードのOCTスキャンを前記被検眼に適用するように前記スキャン部を制御するステップとを含んでいてもよい。
【0022】
例示的な実施形態の第17の態様は、第15又は第16の態様の制御方法をコンピュータに実行させるプログラムである。
【0023】
例示的な実施形態の第18の態様は、第17の態様のプログラムが記録されたコンピュータ可読な非一時的記録媒体である。
【発明の効果】
【0024】
例示的な実施形態によれば、被検眼の動きにかかわらず信頼性の高い眼軸長測定を実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】例示的な実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図2】例示的な実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図3A】例示的な実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図3B】例示的な実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図4A】例示的な実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図4B】例示的な実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図5】例示的な実施形態に係る眼科装置が実行可能な動作の一例を表す概略図である。
【
図6】例示的な実施形態に係る眼科装置が実行可能な動作の一例を表すフローチャートである。
【
図7】例示的な実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図8】例示的な実施形態に係る眼科装置が実行可能な動作の一例を表す概略図である。
【
図9】例示的な実施形態に係る眼科装置が実行可能な動作の一例を表すフローチャートである。
【
図10】例示的な実施形態に係る眼科装置が実行可能な動作の一例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施形態に係る眼科装置、その制御方法、プログラム、及び記録媒体の例示的な態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。実施形態に係る眼科装置は、被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)スキャンを適用することでデータを取得することで、被検眼の2つの異なる部位の間の距離を求める。典型的には、実施形態に係る眼科装置は、被検眼の前眼部及び後眼部に対して順次にOCTスキャンを適用し、得られたデータから眼軸長の値を求める。
【0027】
以下の例示的な開示においては、スペクトラルドメインOCTと眼底カメラとを組み合わせた眼科装置について説明するが、実施形態はこれに限定されない。OCTの種別はスペクトラルドメインOCTには限定されず、例えばスウェプトソースOCTであってもよい。
【0028】
スペクトラルドメインOCTは、低コヒーレンス光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検物からの測定光の戻り光を参照光と重ね合わせて干渉光を生成し、この干渉光のスペクトル分布を分光器で検出し、検出されたスペクトル分布にフーリエ変換等を施して画像を形成する手法である。
【0029】
スウェプトソースOCTは、波長可変光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検物からの測定光の戻り光を参照光と重ね合わせて干渉光を生成し、この干渉光をバランスドフォトダイオード等の光検出器で検出し、波長の掃引及び測定光のスキャンに応じて収集された検出データにフーリエ変換等を施して画像を形成する手法である。
【0030】
このように、スペクトラルドメインOCTは空間分割でスペクトル分布を取得するOCT手法であり、スウェプトソースOCTは時分割でスペクトル分布を取得するOCT手法である。なお、実施形態に利用することが可能なOCT手法はこれらに限定されず、これらと異なる任意のOCT手法(例えば、タイムドメインOCT)を利用した実施形態を採用することも可能である。
【0031】
本明細書において、特に言及しない限り、「画像データ」と、それに基づく可視化情報である「画像」とを区別しない。また、特に言及しない限り、被検眼の部位又は組織と、それを可視化した画像とを区別しない。
【0032】
〈第1実施形態〉
第1実施形態は、被検眼に対するアライメントを行った後に被検眼の第1領域に対するOCTスキャン(第1OCTスキャン)を実行し、アライメントを再度行った後に第2領域に対するOCTスキャン(第2OCTスキャン)を実行し、第1OCTスキャンで得られた第1データと第2OCTスキャンで得られた第2データとに基づいて、第1領域に含まれる第1部位と第2領域に含まれる第2部位との間の距離を算出する。これにより、アライメントが良好な状態で第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンの双方を行うことができ、第1OCTスキャンと第2OCTスキャンとの間に被検眼が動いた場合であっても距離測定を高い信頼性で実施することが可能である。このような本実施形態の例を以下に開示する。
【0033】
〈構成〉
図1に示す例示的な眼科装置1は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100、及び演算制御ユニット200を含む。眼底カメラユニット2には、被検眼Eの正面画像を取得するための光学系や機構と、OCTを実行するための光学系や機構とが設けられている。OCTユニット100には、OCTを実行するための光学系や機構が設けられている。演算制御ユニット200は、各種の処理(演算、制御等)を実行するように構成された1以上のプロセッサを含んでいる。更に、眼科装置1は、互いに異なる2つの方向から前眼部を撮影するための2つの前眼部カメラ300を備えている。
【0034】
眼底カメラユニット2には、被検者の顔を支持するための顎受けと額当てが設けられている。顎受け及び額当ては、
図4A及び
図4Bに示す支持部340に相当する。ベース310には、駆動機構や演算制御回路が格納されている。ベース310上に設けられた筐体320には、光学系が格納されている。筐体320の前面に突出して設けられたレンズ収容部330には、対物レンズ22が収容されている。
【0035】
更に、眼科装置1は、OCTが適用される部位を切り替えるためのレンズユニットを備えている。具体的には、眼科装置1は、前眼部にOCTを適用するための前眼部OCT用アタッチメント400を備えている。前眼部OCT用アタッチメント400は、例えば、特開2015-160103号公報に開示された光学ユニットと同様に構成されていてよい。
【0036】
図1に示すように、前眼部OCT用アタッチメント400は、対物レンズ22と被検眼Eとの間に配置可能である。前眼部OCT用アタッチメント400が光路に配置されているとき、眼科装置1は前眼部にOCTスキャンを適用することが可能である。他方、前眼部OCT用アタッチメント400が光路から退避されているとき、眼科装置1は後眼部にOCTスキャンを適用することが可能である。前眼部OCT用アタッチメント400の移動は、手動又は自動で行われる。
【0037】
他の実施形態において、アタッチメントが光路に配置されているときに後眼部にOCTスキャンを適用可能であり、且つ、アタッチメントが光路から退避されているときに前眼部にOCTスキャンを適用可能であってよい。また、アタッチメントにより切り替えられる測定部位は後眼部及び前眼部に限定されず、眼の任意の部位であってよい。なお、OCTスキャンが適用される部位を切り替えるための構成はこのようなアタッチメントに限定されず、例えば、光路に沿って移動可能なレンズを備えた構成、又は、光路に対して挿脱可能なレンズを備えた構成を採用することも可能である。
【0038】
本実施形態において「プロセッサ」は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等の回路である。プロセッサは、例えば、記憶回路や記憶装置に格納されているプログラムを読み出し実行することで、実施形態に係る機能を実現する。
【0039】
〈眼底カメラユニット2〉
眼底カメラユニット2には、被検眼Eの眼底Efを撮影するための光学系が設けられている。取得される眼底Efのデジタル画像(眼底像、眼底写真等と呼ばれる)は、一般に、観察画像、撮影画像等の正面画像である。観察画像は、近赤外光を用いた動画撮影により得られる。撮影画像は、可視領域のフラッシュ光を用いた静止画像である。
【0040】
眼底カメラユニット2は、照明光学系10と撮影光学系30とを含む。照明光学系10は、被検眼Eに照明光を照射する。撮影光学系30は、被検眼Eに照射された照明光の戻り光を検出する。OCTユニット100からの測定光は、眼底カメラユニット2内の光路を通じて被検眼Eに導かれる。被検眼E(例えば、眼底Ef)に投射された測定光の戻り光は、眼底カメラユニット2内の同じ光路を通じてOCTユニット100に導かれる。
【0041】
照明光学系10の観察光源11から出力された光(観察照明光)は、凹面鏡12により反射され、集光レンズ13を経由し、可視カットフィルタ14を透過して近赤外光となる。更に、観察照明光は、撮影光源15の近傍にて一旦集束し、ミラー16により反射され、リレーレンズ系17、リレーレンズ18、絞り19、及びリレーレンズ系20を経由して孔開きミラー21に導かれる。そして、観察照明光は、孔開きミラー21の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて被検眼E(眼底Ef)を照明する。観察照明光の被検眼Eからの戻り光は、対物レンズ22により屈折され、ダイクロイックミラー46を透過し、孔開きミラー21の中心領域に形成された孔部を通過し、ダイクロイックミラー55を透過し、撮影合焦レンズ31を経由し、ミラー32により反射される。更に、この戻り光は、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33により反射され、結像レンズ34によりイメージセンサー35の受光面に結像される。イメージセンサー35は、所定のフレームレートで戻り光を検出する。なお、撮影光学系30のフォーカスは、眼底Ef若しくはその近傍に合致するように調整可能であり、且つ、前眼部若しくはその近傍に合致するように調整可能である。
【0042】
撮影光源15から出力された光(撮影照明光)は、観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに照射される。被検眼Eからの撮影照明光の戻り光は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってダイクロイックミラー33まで導かれ、ダイクロイックミラー33を透過し、ミラー36により反射され、結像レンズ37によりイメージセンサー38の受光面に結像される。
【0043】
液晶ディスプレイ(LCD)39は固視標(固視標画像)を表示する。LCD39から出力された光束は、その一部がハーフミラー33Aに反射され、ミラー32に反射され、撮影合焦レンズ31及びダイクロイックミラー55を経由し、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔開きミラー21の孔部を通過した光束は、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投射される。固視標は、典型的には、視線の誘導及び固定に利用される。被検眼Eの視線が誘導(及び固定)される方向、つまり被検眼Eの固視が促される方向は、固視位置と呼ばれる。
【0044】
LCD39の画面上における固視標画像の表示位置を変更することで固視位置を変更することができる。固視位置の例として、黄斑を中心とする画像を取得するための固視位置や、視神経乳頭を中心とする画像を取得するための固視位置や、黄斑と視神経乳頭との間の位置(眼底中心)を中心とする画像を取得するための固視位置や、黄斑から大きく離れた部位(眼底周辺部)の画像を取得するための固視位置などがある。
【0045】
このような典型的な固視位置の少なくとも1つを指定するためのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)等を設けることができる。また、固視位置(固視標の表示位置)をマニュアルで移動するためのGUI等を設けることができる。また、固視位置を自動で設定する構成を適用することも可能である。
【0046】
固視位置の変更が可能な固視標を被検眼Eに提示するための構成は、LCD等の表示デバイスには限定されない。例えば、複数の発光部(発光ダイオード等)がマトリクス状に配列されたデバイス(固視マトリクス)を、表示デバイスの代わりに採用することができる。この場合、複数の発光部を選択的に点灯させることにより、固視標による被検眼Eの固視位置を変更することができる。他の例として、移動可能な1以上の発光部を備えたデバイスによって、固視位置の変更が可能な固視標を生成することができる。
【0047】
アライメント光学系50は、被検眼Eに対する光学系のアライメントに用いられるアライメント指標を生成する。発光ダイオード(LED)51から出力されたアライメント光は、絞り52、絞り53、及びリレーレンズ54を経由し、ダイクロイックミラー55により反射され、孔開きミラー21の孔部を通過し、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22を介して被検眼Eに投射される。アライメント光の被検眼Eからの戻り光は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサー35に導かれる。その受光像(アライメント指標像)に基づいてマニュアルアライメントやオートアライメントを実行することができる。
【0048】
なお、実施形態に適用可能なアライメント手法は、このようなアライメント指標を用いたものに限定されず、前眼部カメラ300を利用した手法(後述)や、斜方から角膜に光を投射して反対方向にて角膜反射光を検出するよう構成された光テコを利用した手法(後述)など、任意の公知の手法であってよい。
【0049】
フォーカス光学系60は、被検眼Eに対するフォーカス調整に用いられるスプリット指標を生成する。撮影光学系30の光路(撮影光路)に沿った撮影合焦レンズ31の移動に連動して、フォーカス光学系60は照明光学系10の光路(照明光路)に沿って移動される。反射棒67は、照明光路に対して挿脱される。フォーカス調整を行う際には、反射棒67の反射面が照明光路に傾斜配置される。LED61から出力されたフォーカス光は、リレーレンズ62を通過し、スプリット指標板63により2つの光束に分離され、二孔絞り64を通過し、ミラー65により反射され、集光レンズ66により反射棒67の反射面に一旦結像されて反射される。更に、フォーカス光は、リレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21に反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22を介して被検眼Eに投射される。フォーカス光の被検眼Eからの戻り光(眼底反射光等)は、アライメント光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサー35に導かれる。その受光像(スプリット指標像)に基づいてマニュアルフォーカシングやオートフォーカシングを実行できる。
【0050】
孔開きミラー21とダイクロイックミラー55との間の撮影光路に、視度補正レンズ70及び71を選択的に挿入することができる。視度補正レンズ70は、強度遠視を補正するためのプラスレンズ(凸レンズ)である。視度補正レンズ71は、強度近視を補正するためのマイナスレンズ(凹レンズ)である。
【0051】
ダイクロイックミラー46は、眼底撮影用光路とOCT用光路(測定アーム)とを合成する。ダイクロイックミラー46は、OCTに用いられる波長帯の光を反射し、眼底撮影用の光を透過させる。測定アームには、OCTユニット100側から順に、コリメータレンズユニット40、リトロリフレクタ41、分散補償部材42、OCT合焦レンズ43、光スキャナ44、及びリレーレンズ45が設けられている。
【0052】
リトロリフレクタ41は、これに入射する測定光LSの光路に沿って移動可能とされ、それにより測定アームの長さが変更される。測定アーム長の変更は、例えば、眼軸長に応じた光路長補正や、干渉状態の調整などに利用される。
【0053】
分散補償部材42は、参照アームに配置された分散補償部材113(後述)とともに、測定光LSの分散特性と参照光LRの分散特性とを合わせるよう作用する。
【0054】
OCT合焦レンズ43は、測定アームのフォーカス調整を行うために測定アームに沿って移動される。なお、撮影合焦レンズ31の移動、フォーカス光学系60の移動、及びOCT合焦レンズ43の移動を連係的に制御することができる。
【0055】
光スキャナ44は、実質的に、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置に配置される。光スキャナ44は、測定アームにより導かれる測定光LSを偏向する。光スキャナ44は、例えば、2次元走査が可能なガルバノスキャナである。典型的には、光スキャナ44は、測定光を±x方向に偏向するための1次元スキャナ(x-スキャナ)と、測定光を±y方向に偏向するための1次元スキャナ(y-スキャナ)とを含む。この場合、例えば、これら1次元スキャナのいずれか一方が瞳孔と光学的に共役な位置に配置されるか、或いは、瞳孔と光学的に共役な位置がこれら1次元スキャナの間に配置される。
【0056】
〈OCTユニット100〉
図2に示す例示的なOCTユニット100には、スペクトラルドメインOCTを実行するための光学系が設けられている。この光学系は干渉光学系を含む。この干渉光学系は、波長可変光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検眼Eに投射された測定光の戻り光と参照光路を経由した参照光とを重ね合わせて干渉光を生成する。干渉光学系により生成された干渉光のスペクトル分布が分光器で検出する。干渉光のスペクトル分布の検出により得られたデータ(検出信号)は、演算制御ユニット200に送られる。
【0057】
光源ユニット101は、広帯域の低コヒーレンス光L0を出力する。低コヒーレンス光L0は、例えば、近赤外領域の波長帯(800nm~900nm程度)を含み、数十マイクロメートル程度の時間的コヒーレンス長を有する。なお、低コヒーレンス光L0は、人眼では視認できない波長帯、例えば1040~1060nm程度の中心波長を有する近赤外光であってもよい。光源ユニット101は、スーパールミネセントダイオード(SLD)、LED、半導体光増幅器(SOA)等の光出力デバイスを含む。
【0058】
なお、スウェプトソースOCTが採用される場合、光源ユニットは、出射光の波長を高速で変化させる近赤外波長可変レーザーを含む。
【0059】
光源ユニット101から出力された低コヒーレンス光L0は、光ファイバ102により偏波コントローラ103に導かれてその偏光状態が調整される。偏光状態が調整された光L0は、光ファイバ104によりファイバカプラ105に導かれて測定光LSと参照光LRとに分割される。測定光LSを導く光路は測定アーム(sample arm)などと呼ばれ、参照光LRを導く光路は参照アーム(reference arm)などと呼ばれる。
【0060】
ファイバカプラ105により生成された参照光LRは、光ファイバ110によりコリメータ111に導かれて平行光束に変換され、光路長補正部材112及び分散補償部材113を経由し、リトロリフレクタ114に導かれる。光路長補正部材112は、参照光LRの光路長と測定光LSの光路長とを合わせるよう作用する。分散補償部材113は、測定アームに配置された分散補償部材42とともに、参照光LRと測定光LSとの間の分散特性を合わせるよう作用する。リトロリフレクタ114は、これに入射する参照光LRの光路に沿って移動可能であり、それにより参照アームの長さが変更される。参照アーム長の変更は、例えば、眼軸長に応じた光路長補正や、干渉状態の調整などに利用される。
【0061】
リトロリフレクタ114を経由した参照光LRは、分散補償部材113及び光路長補正部材112を経由し、コリメータ116によって平行光束から集束光束に変換され、光ファイバ117に入射する。光ファイバ117に入射した参照光LRは、偏波コントローラ118に導かれてその偏光状態が調整され、光ファイバ119を通じてアッテネータ120に導かれてその光量が調整され、光ファイバ121を通じてファイバカプラ122に導かれる。
【0062】
一方、ファイバカプラ105により生成された測定光LSは、光ファイバ127を通じてコリメータレンズユニット40に導かれて平行光束に変換され、リトロリフレクタ41、分散補償部材42、OCT合焦レンズ43、光スキャナ44、及びリレーレンズ45を経由し、ダイクロイックミラー46により反射され、対物レンズ22により屈折されて被検眼Eに投射される。測定光LSは、被検眼Eの様々な深さ位置において散乱・反射される。測定光LSの被検眼Eからの戻り光は、測定アームを逆向きに進行してファイバカプラ105に導かれ、光ファイバ128を経由してファイバカプラ122に到達する。
【0063】
ファイバカプラ122は、光ファイバ128を介して入射された測定光LSと、光ファイバ121を介して入射された参照光LRとを重ね合わせて干渉光LCを生成する。
【0064】
ファイバカプラ122により生成された干渉光LCは、光ファイバ129を通じて分光器130に導かれる。分光器130は、例えば、入射された干渉光LCをコリメータレンズによって平行光束に変換し、平行光束に変換された干渉光LCを回折格子によってスペクトル成分に分解し、回折格子により分解されたスペクトル成分をレンズ114によってイメージセンサーに投射する。このイメージセンサーは、例えばラインセンサーであり、干渉光LCの複数のスペクトル成分を検出して電気信号(検出信号)を生成する。生成された検出信号は、演算制御ユニット200に送られる。
【0065】
なお、スウェプトソースOCTが採用される場合、測定光と参照光とを重ね合わせて生成された干渉光が所定の分岐比(例えば1:1)で分岐されて一対の干渉光を生成し、生成された一対の干渉光が光検出器に導かれる。光検出器は、例えばバランスドフォトダイオードを含む。バランスドフォトダイオードは、一対の干渉光をそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを含み、これらにより得られた一対の検出信号の差分を出力する。光検出器は、この出力(差分信号等の検出信号)をデータ収集システム(DAQ)に送る。データ収集システムには、光源ユニットからクロックが供給される。クロックは、光源ユニットにおいて、波長可変光源により所定の波長範囲内で掃引される各波長の出力タイミングに同期して生成される。光源ユニットは、例えば、各出力波長の光を分岐して2つの分岐光を生成し、これら分岐光の一方を光学的に遅延させ、これら分岐光を合成し、得られた合成光を検出し、その検出信号に基づいてクロックを生成する。データ収集システムは、光検出器から入力される検出信号(差分信号)のサンプリングをクロックに基づいて実行する。このサンプリングで得られたデータが画像構築などの処理に供される。
【0066】
図1及び
図2に示す眼科装置1は、測定アーム長を変更するための要素(例えば、リトロリフレクタ41)と、参照アーム長を変更するための要素(例えば、リトロリフレクタ114、又は参照ミラー)との双方が設けられているが、これら要素のうちの一方のみが設けられていてもよい。測定アーム長と参照アーム長との間の差(光路長差)を変更することによりコヒーレンスゲート位置が変更されるが、光路長差を変更するための要素は本実施形態に例示された要素に限定されず、任意の要素(光学部材、機構など)を採用することが可能である。
【0067】
〈演算制御ユニット200〉
演算制御ユニット200は、眼科装置1の各部を制御する。また、演算制御ユニット200は、各種の演算処理を実行する。例えば、演算制御ユニット200は、分光器130により取得されたスペクトル分布にフーリエ変換等の信号処理を施すことによって、各Aラインにおける反射強度プロファイルを形成する。更に、演算制御ユニット200は、各Aラインの反射強度プロファイルを画像化することによって画像データを形成する。そのための演算処理は、従来のスペクトラルドメインOCTと同様である。
【0068】
演算制御ユニット200は、例えば、プロセッサ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスクドライブ、通信インターフェイスなどを含む。ハードディスクドライブ等の記憶装置には各種のコンピュータプログラムが格納されている。演算制御ユニット200は、操作デバイス、入力デバイス、表示デバイスなどを含んでいてもよい。
【0069】
〈ユーザーインターフェイス240〉
ユーザーインターフェイス240は表示部241と操作部242とを含む。表示部241は表示装置3を含む。操作部242は各種の操作デバイスや入力デバイスを含む。ユーザーインターフェイス240は、例えばタッチパネルのような表示機能と操作機能とが一体となったデバイスを含んでいてもよい。ユーザーインターフェイス240の少なくとも一部を含まない実施形態を構築することも可能である。例えば、表示デバイスは、眼科撮影装置に接続された外部装置であってよい。
【0070】
〈前眼部カメラ300〉
前眼部カメラ300は、被検眼Eの前眼部を異なる2以上の方向から撮影する。前眼部カメラ300は、CCDイメージセンサー又はCMOSイメージセンサーなどの撮像素子を含む。本実施形態では、眼底カメラユニット2の被検者側の面に2台の前眼部カメラ300が設けられている(
図4Aに示す前眼部カメラ300A及び300Bを参照)。
図1及び
図4Aに示すように、前眼部カメラ300A及び300Bは、対物レンズ22を通過する光路から外れた位置に設けられている。以下、前眼部カメラ300A及び300Bの一方を、又は双方をまとめて、符号300で示すことがある。また、前眼部カメラ300A及び300Bの代わりに採用可能な前眼部カメラを符号300で示すことがある。
【0071】
本実施形態では、2台の前眼部カメラ300A及び300Bが設けられているが、前眼部カメラ300の個数は2以上の任意の個数であってよい。後述の演算処理を考慮すると、異なる2方向から前眼部を撮影可能な構成であれば十分である(しかし、これに限定されるものではない)。或いは、移動可能な前眼部カメラ300を設け、互いに異なる2以上の位置から順次に前眼部撮影を行うようにしてもよい。
【0072】
本実施形態では照明光学系10及び撮影光学系30とは別個に前眼部カメラ300が設けられているが、例えば撮影光学系30を用いて前眼部撮影を行うことができる。すなわち、2以上の前眼部カメラ300のうちの1つは、撮影光学系30であってよい。本実施形態に係る前眼部カメラ300は、互いに異なる2(以上の)方向から前眼部を撮影可能であればよい。
【0073】
前眼部を照明するための構成が設けられていてもよい。この前眼部照明手段には、例えば、1以上の光源が含まれる。典型的には、2以上の前眼部カメラ300のそれぞれの近傍に少なくとも1つの光源(例えば、赤外光源)を設けることができる。
【0074】
2以上の前眼部カメラ300が設けられる場合、互いに異なる2以上の方向から実質的に同時に前眼部を撮影することができる。「実質的に同時」とは、2以上の前眼部カメラによる撮影タイミングが同時である場合に加え、例えば、眼球運動を無視できる程度の撮影タイミングのズレが介在する場合も許容されることを示す。このような実質的同時撮影によって、被検眼Eが実質的に同じ位置及び向きにあるときの画像を2以上の前眼部カメラで取得することが可能になる。
【0075】
2以上の前眼部カメラによる撮影は、動画撮影でも静止画撮影でもよい。動画撮影の場合、撮影開始タイミングを合わせるよう制御したり、フレームレートや各フレームの撮影タイミングを制御したりすることにより、上記のような実質的に同時の前眼部撮影を実現することができる。一方、静止画撮影の場合、撮影タイミングを合わせるよう制御を行うことによって、実質的に同時の前眼部撮影を実現することができる。
【0076】
〈制御系〉
眼科装置1の制御系(処理系)の構成の例を
図3A及び
図3Bに示す。制御部210、画像形成部220、及びデータ処理部230は、例えば演算制御ユニット200に設けられる。
【0077】
〈制御部210〉
制御部210は、プロセッサを含み、眼科装置1の各部を制御する。制御部210は、主制御部211と記憶部212とを含む。
【0078】
〈主制御部211〉
主制御部211は、プロセッサを含み、眼科装置1の各要素(
図1~
図3Bに示された要素を含む)を制御する。主制御部211は、回路を含むハードウェアと、制御ソフトウェアとの協働により実現される。
【0079】
撮影光路に配置された撮影合焦レンズ31と照明光路に配置されたフォーカス光学系60とは、主制御部211の制御の下に、図示しない撮影合焦駆動部によって、一体的に又は連係的に移動される。測定アームに設けられたリトロリフレクタ41は、主制御部211の制御の下に、リトロリフレクタ(RR)駆動部41Aによって移動される。測定アームに配置されたOCT合焦レンズ43は、主制御部211の制御の下に、OCT合焦駆動部43Aによって移動される。なお、OCT合焦レンズ43の移動を、撮影合焦レンズ31及びフォーカス光学系60の移動と連係的に行うことができる。参照アームに配置されたリトロリフレクタ114は、主制御部211の制御の下に、リトロリフレクタ(RR)駆動部114Aによって移動される。ここに例示した機構のそれぞれは、典型的には、主制御部211の制御の下に動作するパルスモータ等のアクチュエータを含む。測定アームに設けられた光スキャナ44は、主制御部211の制御の下に動作する。更に、主制御部211は、偏波コントローラ103、偏波コントローラ118、アッテネータ120、各種光源、各種光学要素、各種デバイス、各種機構など、眼科装置1に含まれる任意の要素を制御することができる。また、主制御部211は、眼科装置1に接続された任意の周辺機器(装置、機器、デバイス等)の制御や、眼科装置1によりアクセス可能な任意の装置、機器、デバイス等の制御を実行可能であってよい。
【0080】
移動機構150は、例えば、少なくとも眼底カメラユニット2を3次元的に移動する。典型的な例において、移動機構150は、±x方向(左右方向)に移動可能なxステージと、xステージを移動するx移動機構と、±y方向(上下方向)に移動可能なyステージと、yステージを移動するy移動機構と、±z方向(奥行き方向)に移動可能なzステージと、zステージを移動するz移動機構とを含む。これら移動機構のそれぞれは、主制御部211の制御の下に動作するパルスモータ等のアクチュエータを含む。
【0081】
〈記憶部212〉
記憶部212は各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、例えば、OCT画像の画像データ、眼底像の画像データ、被検眼情報などがある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者情報や、左眼/右眼の識別情報や、電子カルテ情報などを含む。
【0082】
〈画像形成部220〉
画像形成部220は、分光器130により取得されたデータに基づいてOCT画像データを形成する。画像形成部220は、プロセッサを含む。画像形成部220は、回路を含むハードウェアと、画像形成ソフトウェアとの協働により実現される。
【0083】
画像形成部220は、分光器130により取得されたデータに基づいて断面像データを形成する。この画像形成処理は、従来のスペクトラルドメインOCTと同様に、サンプリング(A/D変換)、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルタ処理、高速フーリエ変換(FFT)などの信号処理を含む。
【0084】
画像形成部220により形成される画像データは、OCTスキャンが適用されたエリアに配列された複数のAライン(z方向に沿うスキャンライン)における反射強度プロファイルを画像化することによって形成された一群の画像データ(一群のAスキャン画像データ)を含むデータセットである。
【0085】
画像形成部220により形成される画像データは、例えば、1以上のBスキャン画像データ、又は、複数のBスキャン画像データを単一の3次元座標系に埋め込んで形成されたスタックデータである。画像形成部220は、スタックデータにボクセル化処理を施してボリュームデータ(ボクセルデータ)を構築することも可能である。スタックデータ及びボリュームデータは、3次元座標系により表現された3次元画像データの典型的な例である。
【0086】
画像形成部220は、3次元画像データを加工することができる。例えば、画像形成部220は、3次元画像データにレンダリングを適用して新たな画像データを構築することができる。レンダリングの手法としては、ボリュームレンダリング、最大値投影(MIP)、最小値投影(MinIP)、サーフェスレンダリング、多断面再構成(MPR)などがある。また、画像形成部220は、3次元画像データをz方向(Aライン方向、深さ方向)に投影してプロジェクションデータを構築することができる。また、画像形成部220は、3次元画像データの一部(3次元部分画像データ)をz方向に投影してシャドウグラムを構築することができる。なお、3次元部分画像データは、例えば、3次元画像データにセグメンテーションを適用することによって設定される。
【0087】
〈データ処理部230〉
データ処理部230は、各種のデータ処理を実行する。例えば、データ処理部230は、OCT画像データに画像処理や解析処理を適用することや、観察画像データ又は撮影画像データに画像処理や解析処理を適用することが可能である。データ処理部230は、例えば、プロセッサ及び専用回路基板の少なくともいずれかを含む。データ処理部230は、回路を含むハードウェアと、データ処理ソフトウェアとの協働により実現される。
【0088】
次に、
図1~
図3Aに示す要素(ハードウェア要素、ソフトウェア要素)により実現される眼科装置1の機能的構成を説明する。眼科装置1の機能的構成の一例を
図3Bに示す。なお、
図3Bに示す要素のうち
図3Aと同じ要素は同じ符号で示されている。
【0089】
〈スキャン部410〉
スキャン部410は、被検眼EにOCTスキャンを適用してデータを取得する。スキャン部410により取得されるデータは、例えば、分光器130により取得される第1データ、この第1データから画像形成部220により生成される第2データ(サンプリングデータ、反射強度プロファイル、画像データ等)、及び、この第2データからデータ処理部230等により生成されるデータ(画像データ等)のうちのいずれかであってよい。このように、スキャン部410は、分光器130を少なくとも含み、画像形成部220の少なくとも一部を更に含んでよく、データ処理部230の少なくとも一部をまた更に含んでよい。
【0090】
スキャン部410は、被検眼Eに測定光LSを導く前述の測定アームと、参照光LSを導く前述の参照アームとを含む干渉光学系を含む。前述したように、測定アームにはOCT合焦レンズ43、光スキャナ44等が設けられており、参照アームには偏波コントローラ118、アッテネータ120等が設けられている。この干渉光学系は、分光器130を含む。
【0091】
更に、スキャン部410は、測定アーム及び参照アームの少なくとも一方に設けられたアーム長変更部を含む。アーム長変更部は、リトロリフレクタ41及びリトロリフレクタ駆動部41Aの組み合わせ、並びに、リトロリフレクタ114及びリトロリフレクタ駆動部114Aの組み合わせのうち、いずれか一方又は双方を含む。アーム長変更部は、後述のスキャン制御部450の制御の下にアーム長を変更する。より具体的には、アーム長変更部がリトロリフレクタ41及びリトロリフレクタ駆動部41Aの組み合わせを含む場合、アーム長変更部は測定アーム長を変更可能である。また、アーム長変更部がリトロリフレクタ114及びリトロリフレクタ駆動部114Aの組み合わせを含む場合、アーム長変更部は参照アーム長を変更可能である。
【0092】
〈偏位測定部420〉
偏位測定部420は、予め設定された基準位置に対する被検眼Eの偏位を測定する。後述のアライメント制御部440は、偏位測定部420により取得された偏位の測定結果(偏位情報)に基づいてアライメント制御を実行する。アライメント制御は、偏位情報に基づく移動機構150の制御を含む。例えば、アライメント制御は、偏位測定部420によって得られた偏位を打ち消すように光学系(少なくとも測定アーム)を移動する処理である。
【0093】
基準位置に対する被検眼Eの偏位は、基準位置に対する相対位置であり、典型的にはベクトル量(方向及び大きさ)である。
【0094】
基準位置は、例えば、眼科装置1の光学系に基づき設定される。典型的な基準位置は、x方向における基準位置と、y方向における基準位置と、z方向における基準位置とを含む。つまり、典型的な基準位置は3次元的な位置である。基準位置は、3次元的な位置に限定されず、2次元的な位置又は1次元的な位置であってもよい。
【0095】
前述のように、基準位置に対する被検眼Eの偏位は相対位置であるから、眼科装置1の光学系に基づき基準位置が設定された場合には、眼科装置1の光学系に対する被検眼Eの偏位と、被検眼Eに対する光学系に対する偏位とは、同義である。なお、眼科装置1の光学系に基づかずに基準位置が設定された場合においても、この基準位置に関して、眼科装置1の光学系に対する被検眼Eの偏位と、被検眼Eに対する光学系に対する偏位とは、同義である。
【0096】
x方向における基準位置及びy方向における基準位置(xy基準位置)は、例えば、眼科装置1の光軸(対物レンズ22の光軸)の位置(光軸位置)である。この場合、偏位測定部420は、xy平面(xy座標系)における、光軸位置に対する被検眼Eの偏位を求めることができる。
【0097】
一方、z方向における基準位置(z基準位置)は、例えば、眼科装置1の光学系(対物レンズ22の前面)から+z方向に所定距離だけ離間した位置である。この場合、偏位測定部420は、z方向(z座標)における、z基準位置に対する被検眼Eの偏位を求めることができる。
【0098】
z基準位置の定義に用いられる所定距離は、例えば、予め設定されたワーキングディスタンス、又は、ワーキングディスタンスに所定値を加算した距離である。この所定値の例として、角膜曲率半径の半分の値や、角膜と瞳孔との間の距離の値がある。
【0099】
角膜表面を基準としてアライメントを行う場合、ワーキングディスタンスを上記所定距離として採用することができる。前眼部に形成される輝点(プルキンエ像)を基準としてアライメントを行う場合、角膜曲率半径の半分の値をワーキングディスタンスに加算して得られる距離を上記所定距離として採用することができる。瞳孔を基準としてアライメントを行う場合、角膜瞳孔間距離の値をワーキングディスタンスに加算して得られる距離を上記所定距離として採用することができる。なお、角膜曲率半径や角膜瞳孔間距離は、被検眼Eを実際に測定して得られた値であってよい。
【0100】
3次元的な基準位置の例として、眼科装置1の光軸上において対物レンズ22の前面から+z方向に上記所定距離だけ離間した位置がある。
【0101】
基準位置に対する被検眼Eの偏位を求めるためには被検眼Eの位置を定義する必要がある。被検眼Eの位置は、例えば、前眼部に形成された輝点の位置、瞳孔中心(瞳孔重心)の位置、又は、角膜頂点の位置として定義される。
【0102】
被検眼Eの位置が輝点位置として定義される場合、偏位測定部420は、例えば、本出願人による特開2017-074115号公報、特開2017-225638号公報に開示された処理手法にしたがって、2つの前眼部カメラ300により取得された2つの前眼部画像から輝点位置を特定し、基準位置に対する被検眼Eの偏位を求めることができる。
【0103】
被検眼Eの位置が瞳孔中心位置として定義される場合、偏位測定部420は、例えば、本出願人による特開2013-248376号公報、特開2017-225638号公報に開示された処理手法にしたがって、2つの前眼部カメラ300により取得された2つの前眼部画像から瞳孔中心位置を特定し、基準位置に対する被検眼Eの偏位を求めることができる。
【0104】
被検眼Eの位置が角膜頂点位置として定義される場合、偏位測定部420は、例えば、本出願人による特開2017-225638号公報に開示された処理手法にしたがって、2つの前眼部カメラ300により取得された2つの前眼部画像から角膜頂点位置を特定し、基準位置に対する被検眼Eの偏位を求めることができる。
【0105】
なお、基準位置の定義、被検眼Eの位置の定義、被検眼Eの位置を特定する処理手法、及び、基準位置に対する被検眼Eの偏位の算出方法は、上記した例に限定されず、任意であってよい。例えば、2つの輝点の位置関係に基づくアライメント手法や、光テコを利用したアライメント手法を適用することが可能である。
【0106】
図3Bに示す偏位測定部420は、被検眼Eの位置が輝点位置として定義される場合に適用可能な例である。本例の偏位測定部420は、アライメント光学系50と、2つの前眼部カメラ300と、偏位算出部430とを含む。偏位算出部430は、データ処理部230に含まれ、回路を含むハードウェアと、偏位算出ソフトウェアとの協働により実現される。
【0107】
前述したように、アライメント光学系50は、被検眼Eの前眼部にアライメント指標を投影する。すなわち、アライメント光学系50は、被検眼Eの前眼部に光束を投射する投射系に相当する。
【0108】
アライメント光学系50により光束が投射されているときに、2つの前眼部カメラ300は、被検眼Eの前眼部を互いに異なる方向から撮影する。これにより、互いに異なる方向に対応する2つの前眼部画像が得られる。これら前眼部画像のそれぞれには、アライメント光学系50により投射された光束の像、つまりアライメント指標として用いられる輝点、が描出されている。
【0109】
偏位算出部430は、2つの前眼部カメラ300により取得された2つの前眼部画像にそれぞれ描出された2つの輝点の位置に基づいて、所定の基準位置に対する被検眼Eの偏位を算出する。
【0110】
特開2017-074115号公報、特開2017-225638号公報に開示された処理手法と同様に、偏位算出部430は、2つの前眼部画像のそれぞれを解析して輝点を検出し、2つの前眼部画像から検出された2つの輝点に基づいて被検眼Eの位置を特定する。
【0111】
例えば、偏位算出部430は、2つの前眼部画像から検出された2つの輝点の相対位置に基づいて、眼科装置1の光軸に沿う方向(z方向)における被検眼Eと眼科装置1(対物レンズ22)との間の距離を算出することができる。この距離に基づいて、アライメント制御部440は、z方向における被検眼Eと眼科装置1との間の距離をワーキングディスタンスに一致させるように移動機構150を制御することができる。
【0112】
更に、偏位算出部430は、2つの前眼部画像から検出された2つの輝点の位置に基づいて、z方向に直交する方向(x方向、y方向)における被検眼Eと眼科装置1との間の偏位を算出することができる。この偏位に基づいて、アライメント制御部440は、眼科装置1の光軸と被検眼Eの軸とを一致させるように移動機構150を制御することができる。
【0113】
なお、2つの前眼部画像のいずれか一方又は双方から輝点が検出されないとき、他のアライメント手法(例えば、瞳孔中心を基準としたアライメント)に移行するようにしてもよい。
【0114】
詳細は後述するが、眼科装置1は、被検眼Eの第1部位(例えば角膜表面)を含む第1領域(例えば前眼部領域)に対する第1OCTスキャンと、第2部位(例えば網膜表面)を含む第2領域(例えば後眼部領域)に対する第2OCTスキャンとを実行する。偏位測定部420は、第1OCTスキャンの前に第1偏位測定を行って第1偏位情報を取得し、且つ、第2OCTスキャンの前に第2偏位測定を行って第2偏位情報を取得する。典型的には、第1偏位測定は第1OCTスキャンの直前に実行され、且つ、第2偏位測定は第2OCTスキャンの直前に実行される。
【0115】
なお、第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンの実行順序は任意であり、第1OCTスキャンの後に第2OCTスキャンを実行してもよいし、第2OCTスキャンの後に第1OCTスキャンを実行してもよい。
【0116】
〈アライメント制御部440〉
アライメント制御部440は、第1OCTスキャンの前に偏位測定部420により取得された第1偏位情報に基づき移動機構150を制御する第1アライメント制御と、第2OCTスキャンの前に偏位測定部420により取得された第2偏位情報に基づき移動機構150を制御する第2アライメント制御とを実行する。
【0117】
例えば、アライメント制御部440は、特開2017-074115号公報、特開2017-225638号公報、又は、特開2013-248376号公報に開示されたアライメント手法と同じ要領で、第1偏位情報が示す偏位を打ち消すように第1アライメント制御を実行し、且つ、第2偏位情報が示す偏位を打ち消すように第2アライメント制御を実行する。
【0118】
アライメント制御部440は、制御部210に含まれ、回路を含むハードウェアと、アライメント制御ソフトウェアとの協働により実現される。
【0119】
〈スキャン制御部450〉
スキャン制御部450は、前述した第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンのための制御を実行する。すなわち、スキャン制御部450は、被検眼Eの第1部位(例えば角膜表面)を含む第1領域(例えば前眼部領域)に対する第1OCTスキャンをスキャン部410に実行させる第1スキャン制御と、第2部位(例えば網膜表面)を含む第2領域(例えば後眼部領域)に対する第2OCTスキャンをスキャン部410に実行させる第2スキャン制御とを実行する。
【0120】
第1スキャン制御及び第2スキャン制御のそれぞれは、例えば、アーム長変更部(リトロリフレクタ駆動部41A及びリトロリフレクタ駆動部114Aのいずれか一方又は双方)の制御と、光源ユニット101の制御と、光スキャナ44の制御とを含む。なお、第1スキャン制御及び第2スキャン制御のそれぞれは、偏波コントローラ103の制御、偏波コントローラ118の制御、アッテネータ120の制御、OCT合焦駆動部43Aの制御などを含んでいてもよい。第1スキャン制御及び第2スキャン制御の例については後述する。
【0121】
スキャン制御部450は、制御部210に含まれ、回路を含むハードウェアと、スキャン制御ソフトウェアとの協働により実現される。
【0122】
〈距離算出部460〉
距離算出部460は、第1OCTスキャンにより取得された第1データと、第2OCTスキャンにより取得された第2データとに基づいて、第1OCTスキャンの適用範囲に含まれる第1部位と第2OCTスキャンの適用範囲に含まれる第2部位との間の距離を算出する。すなわち、距離算出部460は、第1スキャン制御の下にスキャン部410により取得された第1データと、第2スキャン制御の下にスキャン部410により取得された第2データとに基づいて、被検眼Eの第1部位と第2部位との間の距離を算出する。
【0123】
例えば、第1部位が角膜表面であり、且つ、第2部位が網膜表面である場合、つまり、角膜表面を含む前眼部領域に対して第1OCTスキャンが適用され、且つ、網膜表面を含む後眼部領域に対して第2OCTスキャンが適用された場合、距離算出部460は、角膜表面と網膜表面との間の距離を算出することができる。典型的には、距離算出部460は、角膜頂点と黄斑中心(中心窩)との間の距離である眼軸長を算出することができる。
【0124】
例えば、距離算出部460は、次に示す一連の処理(第1~第4の処理)によって距離算出を実行する。ここで、第1~第3の処理の実行順序は任意であり、これらのいずれか2以上を並行して実行してもよい。
【0125】
第1の処理において、距離算出部460は、第1スキャン制御において適用された第1アーム長と第2スキャン制御において適用された第2アーム長との間の差を算出する。第1アーム長及び第2アーム長は、例えば、第1スキャン制御及び第2スキャン制御を実行したスキャン制御部450から取得される。或いは、アーム長を検知する手段、例えばリトロリフレクタ41及びリトロリフレクタ114のいずれか一方又は双方の位置を検知する位置センサー、によって第1アーム長及び第2アーム長のいずれか一方又は双方を検知するようにしてもよい。
【0126】
第2の処理において、距離算出部460は、第1スキャン制御の下にスキャン部410により取得された第1データを解析して、被検眼Eの第1部位に対応する第1データ中の位置(第1位置)を特定する。例えば、第1部位が角膜表面である場合、距離算出部460は、前眼部領域に対する第1OCTスキャンにより取得された第1データを解析して、被検眼Eの角膜表面(典型的には角膜頂点)に対応する第1位置を特定する。典型的には、第1位置は、第1OCTスキャンで取得された検出信号から生成された反射強度プロファイルにおける信号位置、又は、この反射強度プロファイルを画像化して得られたAスキャン画像データにおける画素位置である。
【0127】
第3の処理において、距離算出部460は、第2スキャン制御の下にスキャン部410により取得された第2データを解析して、被検眼Eの第2部位に対応する第2データ中の位置(第2位置)を特定する。例えば、第2部位が網膜表面である場合、距離算出部460は、後眼部領域に対する第2OCTスキャンにより取得された第2データを解析して、被検眼Eの網膜表面(典型的には黄斑中心)に対応する第2位置を特定する。典型的には、第2位置は、第2OCTスキャンで取得された検出信号から生成された反射強度プロファイルにおける信号位置、又は、この反射強度プロファイルを画像化して得られたAスキャン画像データにおける画素位置である。
【0128】
第4の処理において、距離算出部460は、第1の処理で算出されたアーム長差と、第2の処理で特定された第1位置と、第3の処理で特定された第2位置とに基づいて、第1部位と第2部位との間の距離を算出する。
【0129】
典型的には、第4の処理において、距離算出部460は、第1の処理で算出されたアーム長差と、第2の処理で特定された角膜頂点位置と、第3の処理で特定された黄斑中心位置とに基づいて、被検眼Eの眼軸長の値を求める。この演算処理の概要を
図5に示す。
【0130】
被検眼Eの角膜頂点を符号Cで示し、黄斑中心を符号Mで示す。符号A
1及びA
2は、それぞれ、第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンを示す。本例における第1OCTスキャンA
1及び第2OCTスキャンA
2のそれぞれはAスキャンである。
図5は、第1OCTスキャンA
1及び第2OCTスキャンA
2のそれぞれが良好なアライメント状態の下に実行された場合を表す。すなわち、角膜頂点Cを通過するように第1OCTスキャンA
1が実行され、且つ、黄斑中心Mを通過するように第2OCTスキャンA
2が実行された場合を、
図5は示している。
【0131】
第1OCTスキャンA1によって取得された反射強度プロファイルを符号P1で示し、第2OCTスキャンA2によって取得された反射強度プロファイルを符号P2で示す。第1反射強度プロファイルP1が定義されるz座標軸を「z1」で表し、第2反射強度プロファイルP2が定義されるz座標軸を「z2」で表す。
【0132】
前眼部領域に対する第1OCTスキャンA1は、前眼部における任意の位置にコヒーレンスゲートが配置された状態で実行される。例えば、コヒーレンスゲートは、角膜頂点Cから+z方向に角膜曲率半径の半分の距離だけ離れた位置(輝点形成位置)に配置される。符号z1(0)は、本例の第1OCTスキャンA1において適用されたコヒーレンスゲート位置を示す。
【0133】
一方、後眼部領域に対する第2OCTスキャンA2は、後眼部における任意の位置にコヒーレンスゲートが配置された状態で実行される。例えば、コヒーレンスゲートは、硝子体内において網膜表面に近い位置に配置される。符号z2(0)は、本例の第2OCTスキャンA2において適用されたコヒーレンスゲート位置を示す。
【0134】
距離算出部460は、第1OCTスキャンA
1において適用されたコヒーレンスゲート位置z
1(0)と、第2OCTスキャンA
2において適用されたコヒーレンスゲート位置z
2(0)との間の差を算出する。この差は
図5に示す符号Δz
12に相当し、第1OCTスキャンA
1と第2OCTスキャンA
2との間におけるアーム長差に相当する。この処理は、前述した第1の処理の例である。
【0135】
第1反射強度プロファイルP1は、角膜表面に対応するピーク、角膜裏面に対応するピーク、水晶体表面に対応するピーク、水晶体裏面に対応するピークなどを含む。距離算出部460は、第1反射強度プロファイルP1に含まれる複数のピークのうちから角膜表面に対応するピークを特定する。このピーク特定は、例えば、最大強度のピークを特定する処理を含む。或いは、このピーク特定は、所定閾値を超える強度のピークのうち、z1座標値が最も小さいピーク(最も-z1側に位置するピーク)を特定する処理を含んでもよい。このようにして特定された角膜表面に対応するピークのz1座標値を「zC」で表す。本例のz1座標値zCは、角膜頂点Cの位置に対応する。z1座標値zCを求める当該処理は、前述した第2の処理の例である。
【0136】
第2反射強度プロファイルP2は、網膜表面に対応するピークに加え、網膜内層に対応する複数のピークや、脈絡膜に対応するピークなどを含む。距離算出部460は、第2反射強度プロファイルP2に含まれる複数のピークのうちから網膜表面に対応するピークを特定する。このピーク特定は、例えば、最大強度のピークを特定する処理を含む。或いは、このピーク特定は、所定閾値を超える強度のピークのうち、z2座標値が最も小さいピーク(最も-z2側に位置するピーク)を特定する処理を含んでもよい。このようにして特定された網膜表面に対応するピークのz2座標値を「zM」で表す。本例のz2座標値zMは、黄斑中心Mの位置に対応する。z2座標値zMを求める当該処理は、前述した第3の処理の例である。
【0137】
距離算出部460は、第1の処理で算出されたアーム長差Δz
12と、第2の処理で特定された角膜頂点位置z
Cと、第3の処理で特定された瞳孔中心位置z
Mとに基づいて、角膜頂点Cと黄斑中心Mとの間の距離(眼軸長)を算出する。
図5に示す例では、眼軸長ALは次式を用いて算出される:AL=Δz
12+(z
1(0)-z
C)+(z
M-z
2(0))。なお、右辺に含まれる符号の正負は、コヒーレンスゲート位置の設定、第1部位の設定、第2部位の設定などによって決定され、眼軸長ALは、一般に、次式を用いて算出される:AL=Δz
12±|z
C-z
1(0)|±|z
M-z
2(0)|。眼軸長等の距離を求めるための当該処理は、第4の処理の例である。
【0138】
〈動作〉
本実施形態に係る眼科装置1の動作の例を説明する。眼科装置1の動作の一例を
図6に示す。本動作例では、例えば、黄斑撮影用の固視標が被検眼Eに提示される。
【0139】
(S1:アライメントを実行)
まず、被検眼Eに対する眼科装置1のアライメントが実行される。
【0140】
本例では、まず、アライメント制御部440が、アライメント光学系50の発光ダイオード51を点灯させる。これにより、被検眼Eの前眼部に光束が投射され、前眼部に輝点が形成される。2つの前眼部カメラ300は、光束が投射されている前眼部を、互いに異なる方向から撮影する。これにより、それぞれに輝点が描出された一対の前眼部画像が得られる。
【0141】
偏位算出部430は、一対の前眼部画像のそれぞれから輝点位置を特定し、所定の基準位置に対する被検眼Eの偏位を求める。アライメント制御部440は、偏位算出部430により算出された偏位を打ち消すように移動機構150の制御を行う。
【0142】
本例において、2つの前眼部カメラ300による前眼部撮影と、偏位算出部430による偏位算出と、アライメント制御部440による移動制御とを含む一連の処理を、所定の時間間隔で繰り返し実行することで、アライメント状態を徐々に向上させることや、良好なアライメント状態を維持することが可能である。後者はトラッキングと呼ばれる。
【0143】
(S2:角膜の信号が得られるようにアーム長を変更)
ステップS1により良好なアライメント状態が達成されたら、スキャン制御部450(及びデータ処理部230)は、被検眼Eの角膜に対応する信号が得られるように、測定アーム長及び参照アーム長のいずれか一方又は双方を変更する。測定アーム長はリトロリフレクタ駆動部41Aを制御することで変更され、参照アーム長はリトロリフレクタ駆動部114Aを制御することで変更される。
【0144】
また、角膜の位置がワーキングディスタンスによって決まることを考慮し、所定のワーキングディスタンスにより決定された角膜の位置からの信号が検出されるようなアーム長(測定アーム長及び参照アーム長のいずれか一方又は双方)に対応する位置にリトロリフレクタ(リトロリフレクタ41及びリトロリフレクタ114のいずれか一方又は双方)が配置されるように、リトロリフレクタ駆動部(リトロリフレクタ駆動部41A及びリトロリフレクタ駆動部114Aのいずれか一方又は双方)を既定の制御量だけ制御してもよい。
【0145】
ステップS2の処理は、例えば、本出願人による特開2017-184874号公報に開示された「オートZ」と呼ばれる処理を含む。オートZは、良好なアーム長(ここでは、角膜の信号が得られるようなアーム長)を探索する自動処理である。なお、オートZと異なる処理によってステップS2のアーム長調整を行ってもよい。オートZに加えて、同文献に開示された「Zロック」と呼ばれる処理を実行することも可能である。Zロックは、オートZにより達成された好適な画像描出状態を維持するための自動処理である。
【0146】
ステップS2のアーム長調整の後、ステップS1と同じ要領でアライメントを再度行ってもよい。
【0147】
ここで、OCT合焦レンズ43を移動させて角膜付近にフォーカスを合わせてもよい。例えば、前述したように角膜の位置はワーキングディスタンスにより決まるため、これに対応するOCT合焦レンズ43の位置を予め決定しておき、この位置に移動することができる。また、角膜前面からの信号強度が強いことを考慮し、角膜の信号を取得する時点でも網膜にフォーカスを合わせるようにOCT合焦レンズ43を移動させることも可能である。この場合、フォーカス光学系60の移動に連係してOCT合焦レンズ43を移動させてもよいし、フォーカス光学系60を用いて決定された移動量だけOCT合焦レンズ43を移動させてもよい。
【0148】
(S3:前眼部にOCTスキャンを適用)
ステップS2のアーム長調整が完了したら、スキャン制御部450は、被検眼Eの前眼部に対してOCTスキャンを適用するための制御を実行する。本例では、スキャン制御部450は、被検眼Eの角膜表面を含む前眼部領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる第1スキャン制御を実行する。
【0149】
ここで適用されるOCTスキャンは、例えばAスキャンである。他のスキャンモードを適用する場合については後述する。
【0150】
(S4:反射強度プロファイルを生成)
スキャン部410(画像形成部220)は、ステップS3のOCTスキャンで取得されたデータから反射強度プロファイルを生成する。この反射強度プロファイルは、ステップS3でAスキャンが適用されたAラインに対応するデータである。
【0151】
(S5:リトロリフレクタの位置と反射強度プロファイルを記録)
眼科装置1(例えば距離算出部460)は、ステップS3のOCTスキャンが実行されたときのリトロリフレクタの位置と、ステップS4で生成された反射強度プロファイルとを記録する。
【0152】
ステップS2で測定アーム長が変更された場合にはリトロリフレクタ41の位置が記録され、ステップS2で参照アーム長が変更された場合にはリトロリフレクタ114の位置が記録される。ここで、リトロリフレクタ41の位置は、例えば、リトロリフレクタ駆動部41Aに対する制御内容に基づいて、又は、リトロリフレクタ41の位置を検知することによって、求められる。同様に、リトロリフレクタ114の位置は、例えば、リトロリフレクタ駆動部114Aに対する制御内容に基づいて、又は、リトロリフレクタ114の位置を検知することによって、求められる。
【0153】
(S6:網膜の信号が得られるようにアーム長を変更)
次に、スキャン制御部450(及びデータ処理部230)は、被検眼Eの網膜に対応する信号が得られるように、測定アーム長及び参照アーム長のいずれか一方又は双方を変更する。この処理は、ステップS2と同じ要領で実行される。
【0154】
(S7:アライメントを実行)
ステップS6のアーム長調整が完了したら、被検眼Eに対する眼科装置1のアライメントが実行される。アライメントは、ステップS1と同じ要領で実行される。
【0155】
角膜からの信号を取得するときにOCT合焦レンズ43を移動させて角膜付近にフォーカスを合わせていた場合(前述)、この段階において、網膜にフォーカスを合わせるようにOCT合焦レンズ43を移動させることができる。このとき、フォーカス光学系60の移動に連係してOCT合焦レンズ43を移動させてもよいし、フォーカス光学系60を用いて決定された移動量だけOCT合焦レンズ43を移動させてもよい。
【0156】
(S8:後眼部にOCTスキャンを適用)
ステップS7のアライメントが完了したら、スキャン制御部450は、被検眼Eの後眼部に対してOCTスキャンを適用するための制御を実行する。本例では、スキャン制御部450は、被検眼Eの網膜表面を含む後眼部領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる第2スキャン制御を実行する。
【0157】
ここで適用されるOCTスキャンは、例えばAスキャンである。他のスキャンモードを適用する場合については後述する。
【0158】
(S9:反射強度プロファイルを生成)
スキャン部410(画像形成部220)は、ステップS8のOCTスキャンで取得されたデータから反射強度プロファイルを生成する。この反射強度プロファイルは、ステップS8でAスキャンが適用されたAラインに対応するデータである。
【0159】
(S10:リトロリフレクタの位置と反射強度プロファイルを記録)
眼科装置1(例えば距離算出部460)は、ステップS8のOCTスキャンが実行されたときのリトロリフレクタの位置と、ステップS9で生成された反射強度プロファイルとを記録する。この処理は、ステップS5と同じ要領で実行される。
【0160】
(S11:眼軸長を算出)
距離算出部460は、ステップS5で記録されたリトロリフレクタの位置及び反射強度プロファイルと、ステップS10で記録されたリトロリフレクタの位置及び反射強度プロファイルとに基づいて、角膜表面と網膜表面との間の距離を算出する。
【0161】
本例において、距離算出部460は、まず、ステップ5で記録されたリトロリフレクタの位置(つまり前眼部OCTスキャンに適用された第1アーム長)と、ステップ10で記録されたリトロリフレクタの位置(つまり後眼部OCTスキャンに適用された第2アーム長)とに基づいて、第1アーム長と第2アーム長との間の差を算出する。更に、距離算出部460は、ステップ5で記録された反射強度プロファイルを解析して角膜表面に対応する位置(第1位置)を特定し、且つ、ステップS10で記録された反射強度プロファイルを解析して網膜表面に対応する(第2位置)を特定する。そして、距離算出部460は、アーム長の差と、第1位置と、第2位置とに基づいて、被検眼Eの眼軸長を算出する。以上で、本動作例に係る動作は終了となる(エンド)。
【0162】
〈第1実施形態の変形〉
第1実施形態に係る眼科装置1に適用可能な変形について説明する。なお、特に言及しない限り、眼科装置1の説明で使用した符号を以下の説明において用いることとする。
【0163】
〈第1変形例〉
例えば被検眼が飛蚊症を患っている場合、硝子体内を移動する混濁が後眼部OCTスキャンに悪影響を与える可能性がある。
【0164】
この問題に対処するために、後眼部に対してOCTスキャンを複数回適用することができる。この反復的OCTスキャンは、スキャン制御部450の制御の下にスキャン部410が実行する。各OCTスキャンは典型的にはAスキャンであるが、これに限定されず、Bスキャン、3次元スキャンなどの任意のスキャンモードであってよい。
【0165】
適用可能な反復的OCTスキャン(複数回のOCTスキャン)の一例を説明する。本例の眼科装置は、まずAスキャンを実施する。Aスキャンを所定回数(例えば10回)繰り返しても距離測定を好適に行えない場合、本例の眼科装置は、スキャンモードをAスキャンから他のスキャンモードに切り替える。他のスキャンモードは、例えばBスキャンである。距離測定が好適に実施されたか否かの判定は、例えば、OCTスキャン(この段階ではAスキャン)で得られた干渉信号の強度を既定閾値と比較する工程を含む。干渉信号強度が閾値以上である場合には距離測定が好適に実施されたと判定され、干渉信号強度が閾値未満である場合には距離測定が好適に実施されなかったと判定される。本例のBスキャンのスキャンラインの長さは任意であり、典型的には通常のBスキャンのそれより短い(例えば、長さ1mm)。Bスキャンを所定回数(例えば10回)繰り返しても距離測定を好適に行えない場合、本例の眼科装置は、スキャンモードをBスキャンから他のスキャンモードに切り替える。この他のスキャンパターンは、例えばラジアルスキャンである。Bスキャンを用いた距離測定が好適に実施されたか否かの判定は、Aスキャンの場合と同じ要領で実行される。本例のラジアルスキャンのサイズは任意であり、典型的には通常のラジアルスキャンのそれよりも小さい(例えば、各スキャンラインの長さが1mm)。このようなスキャンモードの切り替えを行うことで、いずれかの段階で網膜に対応する信号が得られる。
【0166】
より一般に、本例の眼科装置は、まず、第1スキャンモードを適用する。本例の眼科装置は、第1スキャンモードのOCTスキャンで得られたデータが所定の条件を満足するか否か判定する。第1スキャンモードのOCTスキャンを所定回数繰り返しても条件が満足されない場合、本例の眼科装置は、第1スキャンモードから第2スキャンモードに切り替える。本例の眼科装置は、第2スキャンモードのOCTスキャンで得られたデータが所定の条件を満足するか否か判定する。第2スキャンモードのOCTスキャンを所定回数繰り返しても条件が満足されない場合、本例の眼科装置は、第2スキャンモードから第3スキャンモードに切り替える。このように、本例の眼科装置は、所定の条件を考慮することで、第qスキャンモードのOCTスキャンで好適なデータが得られたか否か判定し、好適なデータが得られなかった場合には第qスキャンモードから第(q+1)スキャンモードに切り替えてOCTスキャンを行う(qは1以上の整数)。ここで、少なくとも2つのスキャンモードが予め設定されており、スキャンモード移行条件も予め設定されている。また、第(q+1)スキャンモードは、例えば、第qスキャンモードと異なる位置に適用され、及び/又は、第qスキャンモードよりも広い範囲に適用される。このようなスキャンモードの移行を漸次的に行うことで、被検眼内に浮遊物がある場合であっても、いずれかの段階で網膜に対応する信号を検出することが可能となる。
【0167】
複数回のOCTスキャンにおいて、光スキャナ44の向きは一定であってもよいし、一定でなくてもよい。前者の場合、硝子体内の混濁の移動によって、或るOCTスキャンが混濁の影響を受ける場合であっても、他のOCTスキャンはその影響を受けない可能性がある。後者の場合、硝子体内の混濁の影響を積極的に避けることが可能になる。ただし、後者の場合においては、距離測定の対象部位(例えば黄斑中心)がOCTスキャンの適用範囲から外れないように、光スキャナ44の向きの変化の範囲を制限することが望ましい。特にAスキャンが適用される場合には、光スキャナ44の向きの変化を微小な範囲に制限する必要がある。光スキャナ44の向きの変化の範囲は、例えば、適用されるスキャンモードに応じて予め設定される。
【0168】
スキャン部410は、複数回のOCTスキャンのそれぞれにより得られた検出信号から、反射強度プロファイル又は画像データを生成する。これにより、複数回のOCTスキャンに対応するデータ群(複数のデータ)が得られる。
【0169】
距離算出部460は、複数回のOCTスキャンにより取得されたデータ群から単一のデータを取得し、この単一のデータを用いて距離算出を行うことができる。
【0170】
例えば、距離算出部460は、データ群に含まれる複数のデータのうちの少なくとも2つのデータを重ね合わせる(つまり加算平均する)ことによって単一のデータを生成することができる。被検眼Eの(実質的に)同じ箇所に適用された2以上のOCTスキャンにより得られた2以上のデータを加算平均することで、硝子体内の混濁などに起因するノイズを低減したり除去したりすることが可能である。
【0171】
他の例において、距離算出部460は、複数回のOCTスキャンにより取得されたデータ群のうちから1つのデータを選択することができる。データの選択においては、例えば、データから求められる所定の評価値(例えばコントラスト)が参照される。これにより、データ群に含まれる複数のデータのいずれかが硝子体内の混濁などの影響を受けていたとしても、その影響を受けていないデータ又はその影響が小さいデータを選択することが可能である。
【0172】
なお、距離算出部460により得られた単一のデータが所定の条件(例えばコントラスト条件)を満足しない場合、眼科装置1は、後眼部OCTスキャンを再度実施したり、後眼部OCTスキャンの再度の実施を促すメッセージを表示したりすることが可能である。
【0173】
〈第2変形例〉
被検眼Eの2つの部位の間の距離を正確に測定するためには、2つの部位を正確に特定する必要がある。そのために、被検眼Eの3次元領域に対してOCTスキャンを適用することが可能である。そのためのスキャンモードの例として、3次元スキャン、ラジアルスキャン、マルチラインクロススキャンなどがある。ここで、ラジアルスキャンは、放射状に配列された複数のラインスキャン(複数のBスキャン)からなるスキャンモードであり、マルチラインクロススキャンは、互いに直交する2つのラインスキャン群からなるスキャンモードである。
【0174】
スキャン制御部450は、例えば、前眼部OCTスキャン及び後眼部OCTスキャンの少なくとも一方において、被検眼Eの3次元領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる。
【0175】
典型的には、スキャン制御部450は、前眼部OCTスキャンにおいて、被検眼Eの角膜表面を含む3次元領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させることができる。アライメントが良好な状態においては、被検眼Eの角膜頂点を含む前眼部の3次元領域に対してOCTスキャンが適用される。
【0176】
また、スキャン制御部450は、後眼部OCTスキャンにおいて、被検眼Eの網膜表面を含む3次元領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる。アライメントが良好な状態においては、被検眼Eの黄斑中心を含む後眼部の3次元領域に対してOCTスキャンが適用される。
【0177】
距離算出部460は、被検眼Eの3次元領域に対するOCTスキャンにより取得されたデータを解析することにより、被検眼Eの特徴点に対応する特徴位置を特定することができる。
【0178】
典型的には、距離算出部460は、被検眼Eの角膜頂点を含む前眼部の3次元領域に対するOCTスキャンにより取得されたデータを解析することにより、角膜頂点に対応する特徴位置を特定することができる。この処理は、例えば、前眼部の3次元領域のデータから角膜表面に対応する画像領域を特定する処理と、この画像領域の形状から角膜頂点に対応する特徴位置(角膜頂点位置)を特定する処理とを含む。
【0179】
また、距離算出部460は、被検眼Eの黄斑中心を含む後眼部の3次元領域に対するOCTスキャンにより取得されたデータを解析することにより、黄斑中心に対応する特徴位置を特定することができる。この処理は、例えば、後眼部の3次元領域のデータから網膜表面(内境界膜等)に対応する画像領域を特定する処理と、この画像領域の形状、所定の組織の位置、所定の部位の位置から、黄斑中心に対応する特徴位置(黄斑中心位置)を特定する処理とを含む。所定の組織の例として網膜のサブ組織(層組織)があり、所定の部位の例として視神経乳頭がある。
【0180】
距離算出部460は、特定された特徴位置を一端とする線分の長さを算出する。この線分の長さが、測定目的の距離である。
【0181】
前眼部OCTスキャンにより取得されたデータから角膜頂点位置が特定され、且つ、後眼部OCTスキャンにより取得されたデータから黄斑中心位置が特定された場合、距離算出部460は、角膜頂点位置と黄斑中心位置とを結ぶ線分の距離を算出する。この距離は被検眼Eの眼軸長に相当する。
【0182】
〈効果〉
第1実施形態に係る眼科装置1及びその変形例の効果について説明する。
【0183】
眼科装置1は、スキャン部410と、移動機構150と、偏位測定部420と、スキャン制御部450と、アライメント制御部440と、距離算出部460とを含む。
【0184】
スキャン部410は、被検眼EにOCTスキャンを適用するように構成されている。移動機構150は、スキャン部の少なくとも一部を移動するように構成されている。偏位測定部420は、所定の基準位置に対する被検眼Eの偏位を測定する。
【0185】
スキャン制御部450は、被検眼Eの第1部位(例えば角膜表面)を含む第1領域(例えば前眼部領域)に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる第1スキャン制御と、第1部位と異なる第2部位(例えば網膜表面)を含む第2領域(例えば後眼部領域)に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる第2スキャン制御とを実行する。第1スキャン制御の下に実施されるOCTスキャンを第1OCTスキャンと呼び、第2スキャン制御の下に実施されるOCTスキャンを第2OCTスキャンと呼ぶ。
【0186】
アライメント制御部440は、第1スキャン制御の前に偏位測定部420により取得された被検眼Eの第1偏位情報に基づき移動機構150を制御する第1アライメント制御と、第2スキャン制御の前に偏位測定部420により取得された被検眼Eの第2偏位情報に基づき移動機構150を制御する第2アライメント制御とを実行する。なお、眼科装置1は、xy方向のアライメントとz方向のアライメントとを実施可能である。
【0187】
距離算出部460は、第1スキャン制御の下にスキャン部410によって取得された第1データと、第2スキャン制御の下にスキャン部410によって取得された第2データとに基づいて、第1部位と第2部位との間の距離(例えば眼軸長)を算出する。
【0188】
このような眼科装置1によれば、第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンのそれぞれの前にアライメントを行っているので、第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンの双方をアライメントが良好な状態で実施することが可能である。したがって、例えば第1OCTスキャンの後に第2OCTスキャンを行う場合において、第1OCTスキャンと第2OCTスキャンとの間に被検眼が動いたとしても、移動後の被検眼に対してアライメントを行ってから第2OCTスキャンを実施するため、距離測定の信頼性を担保することが可能である。
【0189】
任意的な構成として、眼科装置1のスキャン部410は、被検眼Eに測定光LSを導く測定アームと、参照光LRを導く参照アームとを含む干渉光学系を含む。更に、任意的な構成として、スキャン部410は、測定アーム及び参照アームの少なくとも一方に設けられ、スキャン制御部450の制御の下にアーム長を変更するアーム長変更部を含む。リトロリフレクタ41及びリトロリフレクタ駆動部41Aは、測定アームに設けられたアーム長変更部の例である。リトロリフレクタ114及びリトロリフレクタ駆動部114Aは、参照アームに設けられたアーム長変更部の例である。
【0190】
加えて、任意的な構成として、距離算出部460は、次の一連の処理を実行することができる:(1)第1スキャン制御(第1OCTスキャン)において適用された第1アーム長と、第2スキャン制御(第2OCTスキャン)において適用された第2アーム長との間の差(アーム長差)を算出する処理;(2)第1OCTスキャンで取得された第1データを解析することにより、被検眼Eの第1部位に対応する第1位置(例えば、角膜表面に対応する信号位置)を特定する処理;(3)第2OCTスキャンで取得された第2データを解析することにより、被検眼Eの第2部位に対応する第2位置(例えば、網膜表面に対応する信号位置)を特定する処理;(4)(1)で算出されたアーム長差と、(2)で特定された第1位置と、(3)で特定された第2位置とに基づいて、第1部位と第2部位との間の距離(例えば眼軸長)を算出する処理。
【0191】
この任意的な構成によれば、被検眼Eの第1部位と第2部位との間の距離を算出するための具体的な処理を提供することが可能である。
【0192】
任意的な構成として、スキャン制御部450は、第1スキャン制御(第1OCTスキャン)及び第2スキャン制御(第2OCTスキャン)の少なくとも一方において、複数回のOCTスキャンをスキャン部410に実行させることができる。この場合、距離算出部460は、複数回のOCTスキャンにより取得されたデータ群から単一のデータを取得することができる。ここで、距離算出部460は、複数回のOCTスキャンにより取得されたデータ群を加算平均することで単一のデータを生成することが可能である。更に、距離算出部460は、取得された単一のデータを用いて第1部位と第2部位との間の距離の算出を行うことができる。
【0193】
この任意的な構成によれば、硝子体内を移動する混濁などが後眼部OCTスキャンに悪影響を与える場合であっても、混濁等に起因するノイズを低減・除去することや、混濁等の影響を受けていないデータ又はその影響が小さいデータを選択することができるので、距離測定の信頼性の向上を図ることが可能である。
【0194】
任意的な構成として、スキャン制御部450は、第1スキャン制御(第1OCTスキャン)及び第2スキャン制御(第2OCTスキャン)の少なくとも一方において、被検眼Eの3次元領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させることができる。この場合、距離算出部460は、この3次元領域に対するOCTスキャンにより取得されたデータを解析することにより、被検眼Eの特徴点に対応する特徴位置を特定することができる。更に、距離算出部460は、この特徴位置を一端とする線分の長さを、第1部位と第2部位との間の距離として算出することができる。
【0195】
第1の典型的な例として、スキャン制御部450は、第1スキャン制御(第1OCTスキャン)において、被検眼Eの角膜表面を含む3次元領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させることができる。更に、距離算出部460は、この3次元領域に対するOCTスキャンにより取得されたデータを解析することで、被検眼Eの角膜頂点に対応する特徴位置を特定することができる。この場合、距離算出部460は、角膜頂点を一端とする線分の長さを、第1部位と第2部位との間の距離として算出することができる。
【0196】
第2の典型的な例として、スキャン制御部450は、第2スキャン制御(第2OCTスキャン)において、被検眼Eの網膜表面を含む3次元領域に対するOCTスキャンをスキャン部に実行させることができる。更に、距離算出部460は、この3次元領域に対するOCTスキャンにより取得されたデータを解析することで、被検眼Eの黄斑中心に対応する特徴位置を特定することができる。この場合、距離算出部460は、黄斑中心を一端とする線分の長さを、第1部位と第2部位との間の距離として算出することができる。
【0197】
第1及び第2の典型的な例を組み合わせることで、角膜頂点を一端とし、且つ黄斑中心を他端とする線分の長さ、つまり被検眼Eの眼軸長を求めることが可能である。
【0198】
任意的な構成として、偏位測定部420は、アライメント光学系50(投射系)と、2(以上)の前眼部カメラ300(2以上の撮影部)と、偏位算出部430とを含む。アライメント光学系50は、被検眼Eの前眼部に光束を投射する。2(以上)の前眼部カメラ300は、被検眼Eの前眼部を互いに異なる方向から撮影する。偏位算出部430は、2(以上)の前眼部カメラ300により取得された2(以上)の前眼部画像のそれぞれに描出された光束の像(輝点)の位置に基づいて、所定の基準位置に対する被検眼Eの偏位を算出する。
【0199】
この任意的な構成によれば、所定の基準位置に対する被検眼Eの偏位を測定するための具体的な構成及び処理を提供することが可能である。
【0200】
なお、第1実施形態において説明した任意の事項(構成、要素、処理、動作、作用、機能など)や任意の公知事項を、本効果欄に記載された眼科装置に組み合わせることが可能である。
【0201】
第1実施形態は、眼科装置の制御方法を提供する。この眼科装置は、被検眼EにOCTスキャンを適用するスキャン部(410)と、スキャン部(410)の少なくとも一部を移動する移動機構(150)と、所定の基準位置に対する被検眼(E)の偏位を測定する偏位測定部(420)とを含む。
【0202】
この制御方法は、第1アライメント制御ステップと、第1スキャン制御ステップと、第2アライメント制御ステップと、第2スキャン制御ステップと、距離算出ステップとを含む。
【0203】
第1アライメント制御ステップは、偏位測定部(420)により取得された被検眼(E)の第1偏位情報に基づき移動機構(150)を制御する。第1スキャン制御ステップは、被検眼(E)の第1部位を含む第1領域に対するOCTスキャンをスキャン部(410)に実行させる。このOCTスキャンを第1OCTスキャンと呼ぶ。
【0204】
第2アライメント制御ステップは、偏位測定部(420)により取得された被検眼(E)の第2偏位情報に基づき移動機構(150)を制御する。第2スキャン制御ステップは、被検眼(E)の第1部位と異なる第2部位を含む第2領域に対するOCTスキャンをスキャン部(410)に実行させる。このOCTスキャンを第2OCTスキャンと呼ぶ。
【0205】
距離算出ステップは、第1スキャン制御ステップにおいてスキャン部(410)により取得された第1データと、第2スキャン制御ステップにおいてスキャン部(410)により取得された第2データとに基づいて、第1部位と第2部位との間の距離を算出する。
【0206】
このような眼科装置の制御方法によれば、第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンのそれぞれの前にアライメントを行っているので、第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンの双方をアライメントが良好な状態で実施することが可能である。したがって、距離測定の信頼性を担保することができる。
【0207】
なお、第1実施形態において説明した任意の事項(構成、要素、処理、動作、作用、機能など)や任意の公知事項を、当該制御方法に組み合わせることが可能である。
【0208】
このような制御方法をコンピュータに実行させるプログラムを構成することが可能である。このプログラムは、例えば、第1実施形態の眼科装置1又はその変形例を動作させるための前述のプログラムのいずれかを含んでいてよい。
【0209】
また、このようなプログラムを記録したコンピュータ可読な非一時的記録媒体を作成することが可能である。この非一時的記録媒体は任意の形態であってよく、その例として、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリなどがある。
【0210】
〈第2実施形態〉
以上において説明したように、第1実施形態は、第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンのそれぞれの前にアライメントを行うことによって被検眼の距離計測の信頼性向上を図っている。換言すると、第1実施形態は、第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンの信頼性を高めることによって距離計測の信頼性向上を図っている。
【0211】
これに対し、第2実施形態は、OCTスキャンに介在したアライメント誤差をデータ処理において補正することによって距離計測の信頼性向上を図るものである。
【0212】
以下、特に言及しない限り、第1実施形態と同様の事項に関する説明は省略する。また、第2実施形態に含まれる要素のうち第1実施形態と同様の要素には、第1実施形態における対応要素と同じ符号が付されている。また、以下の説明において、第1実施形態の要素を必要に応じて参照する。
【0213】
〈構成〉
本実施形態に係る眼科装置の構成の一例を
図7に示す。眼科装置1Aは、第1実施形態に係る眼科装置1と同様のハードウェア構成を備える(
図1、
図2、
図3A、
図4A、及び
図4Bを参照)。
図7に示す構成は、第1実施形態の
図3Bに示す構成の代わりに適用される。
【0214】
眼科装置1Aにおいて、スキャン部410、偏位測定部420、及び、移動機構150は、それぞれ、第1実施形態と同様の構成、機能、及び作用を有する。
【0215】
スキャン部410は、被検眼EにOCTスキャンを適用してデータを取得する。第1実施形態と同様に、スキャン部410は、被検眼Eに測定光LSを導く測定アームと、参照光LSを導く参照アームとを含む干渉光学系を含む。更に、スキャン部410は、第1実施形態と同様に、測定アーム及び参照アームの少なくとも一方に設けられたアーム長変更部を含む。
【0216】
偏位測定部420は、予め設定された基準位置に対する被検眼Eの偏位を測定する。第1実施形態と同様に、偏位測定部420は、アライメント光学系50、前眼部カメラ300、及び偏位算出部430を含んでいてよい。
図7に示す偏位測定部420は、被検眼Eの位置が輝点位置として定義される場合に適用可能な例である。他の定義(例えば、瞳孔中心位置、角膜頂点位置など)が用いられる場合には、これに応じた構成が適用される。
【0217】
後述のアライメント制御部440Aは、偏位測定部420により取得された偏位の測定結果(偏位情報)に基づいてアライメント制御を実行することが可能である。また、後述の距離算出部460Aは、偏位測定部420により取得された偏位情報を考慮して、被検眼E内の所定の距離を算出することが可能である。
【0218】
詳細は後述するが、眼科装置1Aは、被検眼Eの第1部位(例えば角膜表面)を含む第1領域(例えば前眼部領域)に対する第1OCTスキャンと、第2部位(例えば網膜表面)を含む第2領域(例えば後眼部領域)に対する第2OCTスキャンとを実行する。なお、第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンの実行順序は任意である。
【0219】
偏位測定部420は、第1OCTスキャンに対応して第1偏位測定を行って第1偏位情報を取得し、且つ、第2OCTスキャンに対応して第2偏位測定を行って第2偏位情報を取得することができる。
【0220】
第1偏位測定は、第1OCTスキャンの実行前、実行中、及び実行後のいずれかのタイミングで行われる。同様に、第2偏位測定は、第2OCTスキャンの実行前、実行中、及び実行後のいずれかのタイミングで行われる。典型的には、第1OCTスキャンの直前、実行中、及び直後のいずれかのタイミングで第1偏位測定が行われ、第2OCTスキャンの直前、実行中、及び直後のいずれかのタイミングで第2偏位測定が行われる。
【0221】
後述の距離算出部460Aは、偏位測定部420により取得された第1偏位情報及び第2偏位情報のいずれか一方又は双方を考慮して、被検眼E内の所定の距離を算出することができる。また、後述のアライメント制御部440Aは、偏位測定部420により取得された第1偏位情報及び第2偏位情報のいずれか一方に基づいてアライメント制御を実行することができる。なお、第1偏位情報に基づきアライメント制御(第1アライメント制御)を行い、且つ、第2偏位情報に基づきアライメント制御(第2アライメント制御)を行う構成は、第1実施形態に相当する。
【0222】
第1実施形態と同様に、移動機構150は、スキャン部410(特に、干渉光学系の測定アーム)を被検眼Eに対して相対移動することができる。
【0223】
アライメント制御部440A及びスキャン制御部450Aは制御部210Aに設けられている。制御部210Aは、第1実施形態の制御部210の代わりに設けられる。制御部210Aは、プロセッサを含み、眼科装置1Aの各部を制御する。制御部210Aは、図示しない主制御部と記憶部とを含む。制御部210Aは、回路を含むハードウェアと、制御ソフトウェアとの協働により実現される。
【0224】
第1実施形態と同様に、アライメント制御部440Aは、偏位測定部420により取得された偏位情報に基づき移動機構150を制御するアライメント制御を実行する。
【0225】
スキャン制御部450Aは、被検眼Eの第1部位(例えば角膜表面)を含む第1領域(例えば前眼部領域)に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる第1スキャン制御と、第1部位と異なる第2部位(例えば網膜表面)を含む第2領域(例えば後眼部領域)に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる第2スキャン制御とを実行する。第1スキャン制御及び第2スキャン制御は、第1実施形態のスキャン制御部450と同じ要領で実行される。第1スキャン制御により実行されるOCTスキャンを第1OCTスキャンと呼び、第2スキャン制御により実行されるOCTスキャンを第2OCTスキャンと呼ぶ。
【0226】
前述したように、偏位測定部420は、第1スキャン制御の実行前、実行中又は実行後に被検眼Eの偏位測定を行って第1偏位情報を取得し、且つ、第2スキャン制御の実行前、実行中又は実行後に被検眼Eの偏位測定を行って第2偏位情報を取得する。
【0227】
距離算出部460Aは、第1偏位情報及び第2偏位情報のいずれか一方又は双方と、第1OCTスキャンで取得された第1データと、第2OCTスキャンで取得された第2データとに基づいて、被検眼Eの第1部位(例えば角膜表面)と第2部位(例えば網膜表面)との間の距離(例えば眼軸長)を算出する。
【0228】
換言すると、距離算出部460Aは、第1OCTスキャン時のアライメント誤差(第1偏位情報)及び第2OCTスキャン時のアライメント誤差(第2偏位情報)のいずれか一方又は双方を考慮して距離算出を行う。
【0229】
距離算出部460Aは、例えば、次の一連の処理を実行する。第1に、距離算出部460Aは、第1OCTスキャンにおいて適用された第1アーム長と第2OCTスキャンにおいて適用された第2アーム長との間の差(アーム長差)を算出する。第2に、距離算出部460Aは、第1OCTスキャンによって取得された第1データを解析して、被検眼Eの第1部位に対応する第1位置(例えば、角膜表面の信号位置)を特定する。第3に、距離算出部460Aは、第2OCTスキャンによって取得された第2データを解析して、被検眼Eの第2部位に対応する第2位置(例えば、網膜表面の信号位置)を特定する。第1~第3の処理は、それぞれ、第1実施形態と同じ要領で実行される。第4に、距離算出部460Aは、第1の処理で算出されたアーム長差と、第2の処理で特定された第1位置と、第3の処理で特定された第2位置と、偏位測定部420により取得された偏位情報(第1偏位情報及び第2偏位情報の少なくとも一方)とに基づいて、第1部位と第2部位との間の距離を算出する。
【0230】
このような演算処理の例を、
図8を参照しつつ説明する。第1実施形態の
図5と同様に、符号Cは被検眼Eの角膜頂点を示し、符号Mは黄斑中心を示す。角膜頂点Cと黄斑中心Mとを通る直線Axは、被検眼Eの眼軸を示す。
【0231】
符号Kは、角膜頂点Cにおける角膜表面の曲率中心を示す。曲率中心Kは、角膜頂点Cにおける曲率円(接触円)の中心である。この曲率円の半径、つまり角膜頂点Cにおける角膜表面の曲率半径をrとする。
【0232】
符号Gは、黄斑中心Mに投射される測定光LSの経路(入射経路)を示す。符号Hは、入射経路Gと被検眼Eの角膜表面との交点、つまり、被検眼Eに対する測定光LSの入射位置を示す。
【0233】
眼軸Axに対する入射経路Gの偏位(高さ)をhとする。角膜表面の形状が実質的に球面状であると仮定すると、或いは、高さhが十分に小さいと仮定すると(つまり、アライメント誤差が十分に小さいと仮定すると)、入射位置Hと曲率中心Kとの間の距離は、角膜頂点Cにおける曲率半径rに等しいと考えることができる。
【0234】
入射位置Hと曲率中心Kとを結ぶ線分が眼軸Axに対してなす角度をθとする。また、入射位置Hと黄斑中心Mとを結ぶ線分が眼軸Axに対してなす角度をφとする。
【0235】
入射位置Hと黄斑中心Mとを結ぶ線分の長さをALmとする。この長さALmは、入射経路Gを通って黄斑中心Mに投射される測定光LSを用いたOCTスキャンにより取得されたデータから求められる被検眼Eの眼軸長の測定値に相当する。
【0236】
被検眼Eの眼軸長(真値)をALとする。また、眼軸Axに沿った方向における角膜頂点Cと入射位置Hとの間の距離、つまり角膜頂点Cを始点とし入射位置Hを終点とするベクトルの眼軸(Ax)方向成分の大きさ、をAL1とする。また、眼軸Axに沿った方向における入射位置Hと黄斑中心Mとの間の距離、つまり黄斑中心Mを始点とし入射位置Hを終点とするベクトルの眼軸(Ax)方向成分の大きさ、をAL2とする。
【0237】
図8から明らかなように、眼軸長ALは次式のように表現される:AL=AL1+AL2=(r-r×cosθ)+ALm×cosφ=(r-r×cos(arcsin(h/r)))+ALm×cos(arcsin(h/ALm))。
【0238】
ここで、角膜曲率半径rは、ケラトメータ等の角膜形状測定装置によって事前に取得されるものとする。また、高さhは、偏位測定部420により測定されたxy方向におけるアライメント誤差であり、偏位情報に含まれている。また、眼軸長測定値ALmは、第1実施形態と同じ要領で眼科装置1Aにより求められた眼軸長の値である。これらの値r、h、及びALmを上記の式に代入することによって眼軸長ALが求められる。
【0239】
距離算出部460Aは、例えば、上記の式と、被検眼Eの角膜曲率半径値(r)とを予め記憶している。距離算出部460Aは、この角膜曲率半径値(r)と、偏位測定部420により取得された偏位情報に含まれるxy方向の偏位(h)と、OCTスキャンを用いて測定された眼軸長の値(ALm)とを上記の式に代入することで、被検眼Eの眼軸長の値(AL)を算出する。
【0240】
なお、本例では、後眼部OCTスキャン時にxy方向へのアライメント誤差が介在している場合について説明したが、前眼部OCTスキャン時にxy方向へのアライメント誤差が介在している場合や、前眼部OCTスキャン時及び後眼部OCTスキャン時の双方においてアライメント誤差が介在している場合にも同様の演算を行えることは、当業者にとって明らかである。
【0241】
また、本例では、角膜表面における測定光LSの屈折のみを考慮しているが、他の屈折率境界を考慮することも可能である。例えば、角膜裏面、水晶体表面、水晶体裏面などにおける測定光LSの屈折を考慮してもよい。
【0242】
xy方向へのアライメント誤差に加え、z方向へのアライメント誤差を考慮することも可能である。z方向へのアライメント誤差は、第1実施形態と同様に、偏位測定部420によって求められる。
【0243】
〈動作〉
本実施形態に係る眼科装置1Aの動作の例を説明する。以下、第1偏位情報及び第2偏位情報の双方を考慮して距離算出を行う第1動作例と、第1偏位情報をアライメントに使用しつつ第2偏位情報を考慮して距離算出を行う第2動作例とを説明する。
【0244】
〈第1動作例〉
眼科装置1Aの第1動作例を
図9に示す。本動作例では、例えば、黄斑撮影用の固視標が被検眼Eに提示される。また、ステップS21の前に予備的なアライメントを実行してもよい。
【0245】
(S21:角膜の信号が得られるようにアーム長を変更)
第1実施形態におけるステップS2と同じ要領で、スキャン制御部450A(及びデータ処理部230)は、被検眼Eの角膜に対応する信号が得られるように、測定アーム長及び参照アーム長のいずれか一方又は双方を変更する。
【0246】
(S22:第1偏位情報を取得)
ステップS21のアーム長の変更が完了したら、偏位測定部420は、第1OCTスキャン(前眼部OCTスキャン)に対応する第1偏位測定を行って第1偏位情報を取得する。
【0247】
(S23:前眼部にOCTスキャンを適用)
ステップS22の偏位情報取得が完了したら、スキャン制御部450Aは、被検眼Eの前眼部に対してOCTスキャンを適用するための制御を実行する。本例では、スキャン制御部450Aは、被検眼Eの角膜表面を含む前眼部領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる第1スキャン制御を実行する。ステップS23は、第1実施形態におけるステップS3と同じ要領で実行される。
【0248】
(S24:反射強度プロファイルを生成)
スキャン部410(画像形成部220)は、ステップS23のOCTスキャンで取得されたデータから反射強度プロファイルを生成する。この反射強度プロファイルは、例えば、ステップS23でAスキャンが適用されたAラインに対応するデータである。
【0249】
(S25:リトロリフレクタの位置と反射強度プロファイルと第1偏位情報を記録)
眼科装置1(例えば距離算出部460A)は、第1実施形態におけるステップS5と同じ要領で、ステップS23のOCTスキャンが実行されたときのリトロリフレクタの位置と、ステップS24で生成された反射強度プロファイルとを記録する。更に、眼科装置1(例えば距離算出部460A)は、ステップS22で取得された第1偏位情報を記録する。
【0250】
(S26:網膜の信号が得られるようにアーム長を変更)
次に、スキャン制御部450A(及びデータ処理部230)は、被検眼Eの網膜に対応する信号が得られるように、測定アーム長及び参照アーム長のいずれか一方又は双方を変更する。
【0251】
(S27:第2偏位情報を取得)
ステップS26のアーム長調整が完了したら、偏位測定部420は、第2OCTスキャン(後眼部OCTスキャン)に対応する第2偏位測定を行って第2偏位情報を取得する。この処理は、ステップS22と同じ要領で実行される。
【0252】
(S28:後眼部にOCTスキャンを適用)
ステップS27の偏位情報取得が完了したら、スキャン制御部450Aは、被検眼Eの後眼部に対してOCTスキャンを適用するための制御を実行する。本例では、スキャン制御部450Aは、被検眼Eの網膜表面を含む後眼部領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる第2スキャン制御を実行する。
【0253】
(S29:反射強度プロファイルを生成)
スキャン部410(画像形成部220)は、ステップS28のOCTスキャンで取得されたデータから反射強度プロファイルを生成する。この反射強度プロファイルは、例えば、ステップS28でAスキャンが適用されたAラインに対応するデータである。
【0254】
(S30:リトロリフレクタの位置と反射強度プロファイルと第2偏位情報を記録)
眼科装置1(例えば距離算出部460A)は、ステップS25と同じ要領で、ステップS28のOCTスキャンが実行されたときのリトロリフレクタの位置と、ステップS29で生成された反射強度プロファイルと、ステップS27で取得された第2偏位情報を記録する。
【0255】
(S31:眼軸長を算出)
距離算出部460Aは、ステップS25で記録されたリトロリフレクタの位置、反射強度プロファイル及び第1偏位情報と、ステップS30で記録されたリトロリフレクタの位置、反射強度プロファイル及び第2偏位情報とに基づいて、角膜表面と網膜表面との間の距離を算出する。
【0256】
本例において、距離算出部460Aは、まず、ステップ25で記録されたリトロリフレクタの位置(つまり前眼部OCTスキャンに適用された第1アーム長)と、ステップ30で記録されたリトロリフレクタの位置(つまり後眼部OCTスキャンに適用された第2アーム長)とに基づいて、第1アーム長と第2アーム長との間の差(アーム長差)を算出する。更に、距離算出部460Aは、ステップ25で記録された反射強度プロファイルを解析して角膜表面に対応する位置(第1位置)を特定し、且つ、ステップS30で記録された反射強度プロファイルを解析して網膜表面に対応する(第2位置)を特定する。そして、距離算出部460Aは、アーム長差、第1位置及び第2位置に加え、ステップS25で記録された第1偏位情報及びステップS30で記録された第2偏位情報に基づいて、被検眼Eの眼軸長を算出する。この演算は、例えば、
図8とともに説明された手法にしたがって実行される。なお、本例では、前眼部OCTスキャンにおけるアライメント誤差と後眼部OCTスキャンにおけるアライメント誤差との双方が考慮される。以上で、本動作例に係る動作は終了となる(エンド)。
【0257】
〈第2動作例〉
眼科装置1Aの第2動作例を
図10に示す。本動作例では、例えば、黄斑撮影用の固視標が被検眼Eに提示される。また、ステップS41の前に予備的なアライメントを実行してもよい。
【0258】
(S41:角膜の信号が得られるようにアーム長を変更)
スキャン制御部450A(及びデータ処理部230)は、被検眼Eの角膜に対応する信号が得られるように、測定アーム長及び参照アーム長のいずれか一方又は双方を変更する。
【0259】
(S42:第1偏位情報を取得してアライメントを実行)
ステップS41のアーム長の変更が完了したら、偏位測定部420は、第1OCTスキャン(前眼部OCTスキャン)に対応する第1偏位測定を行って第1偏位情報を取得する。アライメント制御部440Aは、取得された第1偏位情報に基づき移動機構150を制御するアライメント制御を実行する。アライメント制御は、第1実施形態と同じ要領で実行される。
【0260】
(S43:前眼部にOCTスキャンを適用)
ステップS42のアライメントが完了したら、スキャン制御部450Aは、被検眼Eの前眼部に対してOCTスキャンを適用するための制御を実行する。本例では、スキャン制御部450Aは、被検眼Eの角膜表面を含む前眼部領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる第1スキャン制御を実行する。この前眼部OCTスキャンは、良好なアライメント状態の下に行われたと仮定することができる。
【0261】
(S44:反射強度プロファイルを生成)
スキャン部410(画像形成部220)は、ステップS43のOCTスキャンで取得されたデータから反射強度プロファイルを生成する。この反射強度プロファイルは、例えば、ステップS43でAスキャンが適用されたAラインに対応するデータである。
【0262】
(S45:リトロリフレクタの位置と反射強度プロファイルを記録)
眼科装置1(例えば距離算出部460A)は、ステップS43のOCTスキャンが実行されたときのリトロリフレクタの位置と、ステップS44で生成された反射強度プロファイルとを記録する。
【0263】
(S46:網膜の信号が得られるようにアーム長を変更)
次に、スキャン制御部450A(及びデータ処理部230)は、被検眼Eの網膜に対応する信号が得られるように、測定アーム長及び参照アーム長のいずれか一方又は双方を変更する。
【0264】
(S47:第2偏位情報を取得)
ステップS46のアーム長調整が完了したら、偏位測定部420は、第2OCTスキャン(後眼部OCTスキャン)に対応する第2偏位測定を行って第2偏位情報を取得する。良好なアライメント状態の下に行われたと仮定される前眼部OCTスキャンと異なり、後眼部アライメントでは良好なアライメント状態が担保されないため、第2偏位情報のみが距離算出において考慮される(後述のステップS51)。
【0265】
(S48:後眼部にOCTスキャンを適用)
ステップS47の偏位情報取得が完了したら、スキャン制御部450Aは、被検眼Eの後眼部に対してOCTスキャンを適用するための制御を実行する。本例では、スキャン制御部450Aは、被検眼Eの網膜表面を含む後眼部領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる第2スキャン制御を実行する。
【0266】
(S49:反射強度プロファイルを生成)
スキャン部410(画像形成部220)は、ステップS48のOCTスキャンで取得されたデータから反射強度プロファイルを生成する。この反射強度プロファイルは、例えば、ステップS48でAスキャンが適用されたAラインに対応するデータである。
【0267】
(S50:リトロリフレクタの位置と反射強度プロファイルと第2偏位情報を記録)
眼科装置1(例えば距離算出部460A)は、ステップS48のOCTスキャンが実行されたときのリトロリフレクタの位置と、ステップS49で生成された反射強度プロファイルと、ステップS47で取得された第2偏位情報を記録する。
【0268】
(S51:眼軸長を算出)
距離算出部460Aは、ステップS45で記録されたリトロリフレクタの位置及び反射強度プロファイルと、ステップS50で記録されたリトロリフレクタの位置、反射強度プロファイル及び第2偏位情報とに基づいて、角膜表面と網膜表面との間の距離を算出する。
【0269】
本例において、距離算出部460Aは、まず、ステップ45で記録されたリトロリフレクタの位置(つまり前眼部OCTスキャンに適用された第1アーム長)と、ステップ50で記録されたリトロリフレクタの位置(つまり後眼部OCTスキャンに適用された第2アーム長)とに基づいて、第1アーム長と第2アーム長との間の差(アーム長差)を算出する。更に、距離算出部460Aは、ステップ45で記録された反射強度プロファイルを解析して角膜表面に対応する位置(第1位置)を特定し、且つ、ステップS50で記録された反射強度プロファイルを解析して網膜表面に対応する(第2位置)を特定する。そして、距離算出部460Aは、アーム長差、第1位置及び第2位置に加え、ステップS50で記録された第2偏位情報に基づいて、被検眼Eの眼軸長を算出する。この演算は、例えば、
図8とともに説明された手法にしたがって実行される。以上で、本動作例に係る動作は終了となる(エンド)。
【0270】
〈第2実施形態の変形〉
第2実施形態に係る眼科装置1Aに適用可能な変形について説明する。なお、特に言及しない限り、眼科装置1及び/又は眼科装置1Aの説明で使用した符号を以下の説明において用いることとする。
【0271】
〈第1変形例〉
第1実施形態の第1変形例と同様に、硝子体内を移動する混濁が後眼部OCTスキャンに与える悪影響に対処するために、後眼部に対してOCTスキャンを複数回適用することができる。この反復的OCTスキャンは、スキャン制御部450Aの制御の下にスキャン部410が実行する。
【0272】
スキャン部410は、複数回のOCTスキャンのそれぞれにより得られた検出信号から、反射強度プロファイル又は画像データを生成する。これにより、複数回のOCTスキャンに対応するデータ群(複数のデータ)が得られる。距離算出部460Aは、複数回のOCTスキャンにより取得されたデータ群から単一のデータを取得し、この単一のデータを用いて距離算出を行うことができる。
【0273】
〈第2変形例〉
第1実施形態の第2変形例と同様に、被検眼Eの2つの部位を正確に特定するために、被検眼Eの3次元領域に対してOCTスキャンを適用することが可能である。スキャン制御部450Aは、例えば、前眼部OCTスキャン及び後眼部OCTスキャンの少なくとも一方において、被検眼Eの3次元領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる。
【0274】
距離算出部460Aは、被検眼Eの3次元領域に対するOCTスキャンにより取得されたデータを解析することにより、被検眼Eの特徴点に対応する特徴位置を特定し、特定された特徴位置を一端とする線分の長さを算出することができる。この線分の長さが、測定目的の距離である。
【0275】
〈効果〉
第2実施形態に係る眼科装置1A及びその変形例の効果について説明する。
【0276】
眼科装置1Aは、スキャン部410と、偏位測定部420と、スキャン制御部450Aと、距離算出部460Aとを含む。
【0277】
スキャン部410は、被検眼EにOCTスキャンを適用する。偏位測定部420は、所定の基準位置に対する被検眼Eの偏位を測定する。
【0278】
スキャン制御部450Aは、被検眼Eの第1部位(例えば角膜表面)を含む第1領域(例えば前眼部領域)に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる第1スキャン制御と、第1部位と異なる第2部位(例えば網膜表面)を含む第2領域(例えば後眼部領域)に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させる第2スキャン制御とを実行する。
【0279】
距離算出部460Aは、第1スキャン制御に対応して偏位測定部420により取得された被検眼Eの第1偏位情報及び第2スキャン制御に対応して偏位測定部420により取得された被検眼Eの第2偏位情報の少なくとも一方と、第1スキャン制御の下にスキャン部410により取得された第1データと、第2スキャン制御の下にスキャン部410により取得された第2データとに基づいて、被検眼Eの第1部位と第2部位との間の距離(例えば眼軸長)を算出する。
【0280】
このような眼科装置1Aによれば、第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンのいずれか一方又は双方におけるアライメント誤差(偏位情報)を取得し、このアライメント誤差を考慮して距離算出を行うことができる。したがって、例えば第1OCTスキャンの後に第2OCTスキャンを行う場合において、第1OCTスキャンと第2OCTスキャンとの間に被検眼が動いた場合であっても距離測定の信頼性を担保することが可能である。
【0281】
任意的な構成として、偏位測定部420は、第1スキャン制御及び第2スキャン制御のうちの一方のスキャン制御に対応して一の偏位情報を取得し、且つ、他方のスキャン制御の前に他の偏位情報を取得してもよい。更に、眼科装置1Aは、移動機構150とアライメント制御部440Aとを含んでいてもよい。移動機構150は、スキャン部410の少なくとも一部を移動する。アライメント制御部440Aは、他の偏位情報に基づき移動機構150を制御するアライメント制御を他方のスキャン制御の前に実行する。距離算出部460Aは、一の偏位情報と第1データと第2データとに基づいて、距離算出を行うことができる。
【0282】
例えば、
図10に示す第2動作例では、偏位測定部420は、第1スキャン制御の前に第1偏位情報を取得してアライメントを実行し、且つ、第2スキャン制御に対応して取得された第2偏位情報と第1データと第2データとに基づき距離算出を行っている。
【0283】
この任意的な構成によれば、第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンの一方をアライメント後に実行しつつ、他方におけるアライメント誤差を考慮して距離算出を行うことができるので、高い信頼性で距離測定を実行することが可能である。
【0284】
任意的な構成として、スキャン部410は、干渉光学系と、アーム長変更部とを含んでいてよい。干渉光学系は、被検眼Eに測定光LSを導く測定アームと、参照光LRを導く参照アームとを含む。アーム長変更部は、測定アーム及び参照アームの少なくとも一方に設けられ、スキャン制御部450Aの制御の下にアーム長を変更する。リトロリフレクタ41及びリトロリフレクタ駆動部41Aは、測定アームに設けられたアーム長変更部の例である。リトロリフレクタ114及びリトロリフレクタ駆動部114Aは、参照アームに設けられたアーム長変更部の例である。
【0285】
加えて、任意的な構成として、距離算出部460Aは、次の一連の処理を実行することができる:(1)第1スキャン制御(第1OCTスキャン)において適用された第1アーム長と第2スキャン制御(第2OCTスキャン)において適用された第2アーム長との間の差(アーム長差)を算出する処理;(2)第1OCTスキャンで取得された第1データを解析することにより、被検眼Eの第1部位に対応する第1位置(例えば、角膜表面の信号位置)を特定する処理;(3)第2OCTスキャンで取得された第2データを解析することにより、被検眼Eの第2部位に対応する第2位置(例えば、網膜表面の信号位置)を特定する処理;(4)(1)算出されたアーム長差と、(2)で特定された第1位置と、(3)で特定された第2位置と、偏位測定部420により取得された第1偏位情報及び第2偏位情報の少なくとも一方とに基づいて、第1部位と第2部位との間の距離(例えば眼軸長)を算出する処理。
【0286】
ここで、距離算出部460Aは、次のように構成されていてよい。まず、距離算出部460Aは、アーム長差と第1位置と第2位置とに基づいて、第1部位と第2部位との間の暫定距離を算出する。更に、距離算出部460Aは、この暫定距離と、第1偏位情報及び第2偏位情報の少なくとも一方と、予め取得された被検眼Eの角膜曲率半径とに基づいて、第1部位と第2部位との間の距離を算出する。
【0287】
このような距離算出の具体例として、第1部位と第2部位との間の暫定距離をALmとし、第1偏位情報及び第2偏位情報の一方をhとし、角膜曲率半径をrとし、第1部位と第2部位との間の距離(真値)をALとしたとき、距離算出部460Aは、演算式AL=(r-r×cos(arcsin(h/r)))+ALm×cos(arcsin(h/ALm))によって距離ALを算出することができる。
【0288】
これらの任意的な構成によれば、被検眼Eの第1部位と第2部位との間の距離を算出するための具体的な処理を提供することが可能である。
【0289】
任意的な構成として、スキャン制御部450Aは、第1スキャン制御(第1OCTスキャン)及び第2スキャン制御(第2OCTスキャン)の少なくとも一方において、複数回のOCTスキャンをスキャン部410に実行させることができる。この場合、距離算出部460Aは、複数回のOCTスキャンにより取得されたデータ群から単一のデータを取得することができる。ここで、距離算出部460Aは、複数回のOCTスキャンにより取得されたデータ群を加算平均することで単一のデータを生成することが可能である。更に、距離算出部460Aは、取得された単一のデータを用いて第1部位と第2部位との間の距離(例えば前述の暫定距離)の算出を行うことができる。
【0290】
この任意的な構成によれば、硝子体内を移動する混濁などが後眼部OCTスキャンに悪影響を与える場合であっても、混濁等に起因するノイズを低減・除去することや、混濁等の影響を受けていないデータ又はその影響が小さいデータを選択することができるので、距離測定の信頼性の向上を図ることが可能である。
【0291】
任意的な構成として、スキャン制御部450Aは、第1スキャン制御(第1OCTスキャン)及び第2スキャン制御(第2OCTスキャン)の少なくとも一方において、被検眼Eの3次元領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させることができる。この場合、距離算出部460Aは、この3次元領域に対するOCTスキャンにより取得されたデータを解析することにより、被検眼Eの特徴点に対応する特徴位置を特定することができる。更に、距離算出部460Aは、この特徴位置を一端とする線分の長さを、第1部位と第2部位との間の距離(例えば前述の暫定距離)として算出することができる。
【0292】
第1の典型的な例として、スキャン制御部450Aは、第1スキャン制御(第1OCTスキャン)において、被検眼Eの角膜表面を含む3次元領域に対するOCTスキャンをスキャン部410に実行させることができる。更に、距離算出部460Aは、この3次元領域に対するOCTスキャンにより取得されたデータを解析することで、被検眼Eの角膜頂点に対応する特徴位置を特定することができる。この場合、距離算出部460Aは、角膜頂点を一端とする線分の長さを、第1部位と第2部位との間の距離(例えば前述の暫定距離)として算出することができる。
【0293】
第2の典型的な例として、スキャン制御部450Aは、第2スキャン制御(第2OCTスキャン)において、被検眼Eの網膜表面を含む3次元領域に対するOCTスキャンをスキャン部に実行させることができる。更に、距離算出部460Aは、この3次元領域に対するOCTスキャンにより取得されたデータを解析することで、被検眼Eの黄斑中心に対応する特徴位置を特定することができる。この場合、距離算出部460Aは、黄斑中心を一端とする線分の長さを、第1部位と第2部位との間の距離(例えば前述の暫定距離)として算出することができる。
【0294】
第1及び第2の典型的な例を組み合わせることで、角膜頂点を一端とし、且つ黄斑中心を他端とする線分の長さ、つまり被検眼Eの眼軸長を求めることが可能である。
【0295】
任意的な構成として、偏位測定部420は、アライメント光学系50(投射系)と、2(以上)の前眼部カメラ300(2以上の撮影部)と、偏位算出部430とを含む。アライメント光学系50は、被検眼Eの前眼部に光束を投射する。2(以上)の前眼部カメラ300は、被検眼Eの前眼部を互いに異なる方向から撮影する。偏位算出部430は、2(以上)の前眼部カメラ300により取得された2(以上)の前眼部画像のそれぞれに描出された光束の像(輝点)の位置に基づいて、所定の基準位置に対する被検眼Eの偏位を算出する。
【0296】
この任意的な構成によれば、所定の基準位置に対する被検眼Eの偏位を測定するための具体的な構成及び処理を提供することが可能である。
【0297】
なお、第2実施形態において説明した任意の事項(構成、要素、処理、動作、作用、機能など)や任意の公知事項を、本効果欄に記載された眼科装置に組み合わせることが可能である。また、第1実施形態において説明した任意の事項(構成、要素、処理、動作、作用、機能など)を、本効果欄に記載された眼科装置に組み合わせることが可能である。
【0298】
第2実施形態は、眼科装置の制御方法を提供する。この眼科装置は、被検眼EにOCTスキャンを適用するスキャン部(410)と、所定の基準位置に対する被検眼(E)の偏位を測定する偏位測定部(420)とを含む。
【0299】
この制御方法は、第1スキャン制御ステップと、第2スキャン制御ステップと、偏位測定ステップと、距離算出ステップとを含む。
【0300】
第1スキャン制御ステップは、被検眼(E)の第1部位を含む第1領域に対するOCTスキャンをスキャン部(410)に実行させる。このOCTスキャンを第1OCTスキャンと呼ぶ。また、第2スキャン制御ステップは、被検眼(E)の第1部位と異なる第2部位を含む第2領域に対するOCTスキャンをスキャン部(410)に実行させる。このOCTスキャンを第2OCTスキャンと呼ぶ。
【0301】
偏位測定ステップは、第1スキャン制御に対応して被検眼(E)の第1偏位情報を取得させるステップ、及び、第2スキャン制御に対応して被検眼(E)の第2偏位情報を取得させるステップの少なくとも一方を、偏位測定部(420)に実行させる。
【0302】
距離算出ステップは、偏位測定ステップにより取得された第1偏位情報及び第2偏位情報の少なくとも一方と、第1スキャン制御ステップにおいてスキャン部(410)により取得された第1データと、第2スキャン制御ステップにおいてスキャン部(410)により取得された第2データとに基づいて、被検眼(E)の第1部位と第2部位との間の距離を算出する。
【0303】
このような眼科装置の制御方法によれば、第1OCTスキャン及び第2OCTスキャンのいずれか一方又は双方におけるアライメント誤差(偏位情報)を取得し、このアライメント誤差を考慮して距離算出を行うことが可能である。したがって、距離測定の信頼性を担保することができる。
【0304】
なお、第1実施形態において説明した任意の事項(構成、要素、処理、動作、作用、機能など)や、第2実施形態において説明した任意の事項(構成、要素、処理、動作、作用、機能など)や、任意の公知事項を、当該制御方法に組み合わせることが可能である。
【0305】
このような制御方法をコンピュータに実行させるプログラムを構成することが可能である。このプログラムは、例えば、第2実施形態の眼科装置1A又はその変形例を動作させるための前述のプログラムのいずれかを含んでいてよい。
【0306】
また、このようなプログラムを記録したコンピュータ可読な非一時的記録媒体を作成することが可能である。この非一時的記録媒体は任意の形態であってよく、その例として、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリなどがある。
【0307】
〈その他の事項〉
以上に説明した態様は、この発明の実施の例示に過ぎない。この発明を実施しようとする者は、この発明の要旨の範囲内における任意の変形(省略、置換、付加等)を施すことが可能である。
【0308】
例えば、実施形態に係る眼科装置は、被検眼の特性を測定するための構成を備えていてもよい。具体例として、実施形態に係る眼科装置は、被検眼の角膜曲率半径を測定するための構成を備えていてよい。角膜曲率半径を測定するための構成は、従来の角膜形状測定装置と同様の光学系、演算系及び制御系を含んでいてよい。角膜曲率半径を測定するための構成の例として、本出願人による特開2017-063978号公報に開示された、ケラト板(ケラトリング)又はプラチド板(プラチドリング)を利用したものがある。また、前眼部OCTスキャンによって角膜曲率半径を測定してもよい。なお、角膜曲率半径を測定するための構成はこれら例示に限定されず、任意の公知技術を利用した構成であってよい。
【0309】
実施形態に係る眼科装置により測定可能な被検眼の特性は角膜曲率半径に限定されない。例えば、実施形態に係る眼科装置は、被検眼の屈折力(球面度数、乱視度数、乱視軸角度など)を測定するための構成を備えていてよい。被検眼の屈折力を測定するための構成は、従来の屈折力測定装置(レフラクトメータ)と同様の光学系、演算系及び制御系を含んでいてよい。屈折力を測定するための構成の例として、本出願人による特開2017-063978号公報に開示されたものがある。
【0310】
実施形態に係る眼科装置が眼屈折力測定機能を有する場合、この眼科装置は、前述の開示のようにフォーカス光学系60を用いる代わりに、眼屈折力測定機能を用いてフォーカス位置を決定し、この位置にフォーカスを合わせるようにOCT合焦レンズ43を移動させることができる。
【0311】
前述の開示では、適用可能なアライメント手法として、アライメント指標を用いた手法と前眼部カメラを利用した手法とを説明したが、他のアライメント手法を適用してもよい。他のアライメント手法の例として光テコを利用した手法がある。なお、光テコを利用した眼科装置のアライメント手法は、例えば、特開2012-148032号公報、特開2018-050922号公報などに開示されている。
【0312】
本例の眼科装置の偏位測定部は、光テコを利用することで、所定の基準位置に対する被検眼の偏位を測定する。所定の基準位置は、例えば、ワーキングディスタンスに対応する位置、つまり所定のワーキングディスタンスだけ被検眼からz方向に離れた位置、であり、測定される偏位は、典型的にはz方向における偏位である。
【0313】
本例の偏位測定部は、被検眼の前眼部に斜方から光束を投射する投射系と、投射された光束の前眼部からの反射光束を検出するイメージセンサーとを含む。投射系及びイメージセンサーの構成及び配置は、従来の光テコ型アライメント手段と同じであってよい。
【0314】
典型的な投射系は、光源とレンズとを含む。典型的な投射系の光軸は、測定アームの光軸(対物レンズの光軸)に対して第1方向に第1角度だけ傾斜している。典型的なイメージセンサーは、CCDイメージセンサー又はCMOSイメージセンサーであり、且つ、ラインセンサー又はエリアセンサーである。典型的には、イメージセンサーと被検眼Eとの間に結像レンズが配置される。イメージセンサーと結像レンズとを含む検出系の光軸は、測定アームの光軸に対し、第1方向とは反対の第2方向に、第1角度と等しい第2角度だけ傾斜している。
【0315】
このような構成及び配置により、投射系及び検出系が被検眼に対して所定範囲内に位置するとき、イメージセンサーは反射光束を検出することができる。また、投射系及び検出系と被検眼との間の相対位置が変化すると、イメージセンサーによる反射光束の検出位置が変化する。つまり、投射系及び検出系と被検眼との間の相対位置に応じて、イメージセンサーの受光エリア(受光素子アレイ)に対する反射光束の投影位置が変化する。
【0316】
本例の偏位測定部は、イメージセンサーによる反射光束の検出位置に基づいて被検眼の偏位を算出する偏位算出部を含む。本例の偏位算出部が実行する演算は、従来の光テコ型アライメント手段が実行する演算と同様であり、典型的にはz方向における偏位を求めるものである。本例の偏位算出部は、回路を含むハードウェアと、偏位算出ソフトウェアとの協働により実現される。
【0317】
本例によれば、アライメント指標を用いる場合や2以上の前眼部カメラを用いる場合と同様に、所定の基準位置に対する被検眼の偏位を測定するための具体的な構成及び処理を提供することが可能である。
【符号の説明】
【0318】
1 眼科装置
50 アライメント光学系
150 移動機構
210、210A 制御部
300 前眼部カメラ
410 スキャン部
420 偏位測定部
430 偏位算出部
440、440A アライメント制御部
450、450A スキャン制御部