(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】構造物の常時微動に基づく構造物の診断評価方法
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20241224BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20241224BHJP
【FI】
G01M7/02 H
G01M99/00 Z
(21)【出願番号】P 2023149639
(22)【出願日】2023-09-14
(62)【分割の表示】P 2022107375の分割
【原出願日】2018-12-26
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2017250238
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2018年7月20日 「一般社団法人 日本建築学会」発行 DVD「学術講演梗概集」に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】500007587
【氏名又は名称】構造品質保証研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127579
【氏名又は名称】平野 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100203301
【氏名又は名称】都築 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 俊一
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-257671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/02
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常時微動観測により、構造物の性能を評価する方法において、
前記構造物内の複数の観測点で同時に常時微動時刻歴を観測し、これらの時刻歴の二乗
平均値平方根(RMS)を用いて、前記構造物の耐震設計に用いる指標の推定値Aを算出
し、この値Aに対応する設計時点で用いられる指標の値Bに対する比率を用いて、前記構
造物の前記観測に基づく耐震性能の評価であって、
前記指標が、現行基準に規定された保有水平耐力であり、
保有水平耐力b(表8のb欄参照)が、建築物の構造モデルの各層にAi分布するせん
断力を漸増させて載荷し、第i層が降伏する時に第i層に作用している層せん断力a(表
8のa欄参照)であり、
地盤の微動によって構造物に生ずる層せん断力と基準点の加速度の関係が、平均加速度
伝達率(B
aik)によって表され、
層間変位と基準点の加速度の関係が、エネルギー伝達率により表され、
保有水平耐力の期待値が、構造物が線形に応答した場合に第i層の層間変位の最大値が
降伏変位に達するときの期待値であって、第i層以外は降伏しないと仮定した場合の保有
水平耐力の期待値であり、
平均加速度エネルギー伝達率が、
第i層に対する地震の作用を考える場合に、その層が支持する部分b(第i層から第n
層まで)の平均加速度のRMSを与える指標であり、
[数13]
(ここで、m
jは、第j層の質量、a(表5のa欄参照)は、第j層k方向の加速度のエ
ネルギー伝達率であり、B
aikを平均加速度エネルギー伝達率と称する。ただし、エネ
ルギー伝達率とは、注目する微動時刻歴と基準点の微動時刻歴のRMSの比であり、微動
診断では、これが地震動入力による弾性最大応答時に保存されるとし、ピークファクタを
適宜仮定して、注目時刻歴の最大応答を基準点の最大入力値にエネルギー伝達率を乗じて
計算する。
[表5]
)
であり、
保有水平耐力の期待値が、表8のc欄に示される保有水平耐力の期待値cであり、
基準点のk方向の加速度が、表8のd欄に示される基準点のk方向の加速度dであり、
基準点のk方向の加速度dに対する第i層k方向の層間変位(e
ik(t))のエネル
ギー伝達率が、表8のe欄に示される基準点のk方向の加速度dに対する第i層k方向の
層間変位(e
ik(t))のエネルギー伝達率eであり、
[表8]
基準点のk方向の加速度dに対する第i層k方向の層間変位(e
ik(t))のエネル
ギー伝達率eが、
[数20]
で表され、
(ここでσ
eikは、第i層k方向の層間変位時刻歴のRMSであり、数式20の右辺の分
母は、基準点のk方向の加速度時刻歴のRMSである)
a
ikYが、層間変位の最大値e
ikmax が降伏変位e
ikY に達するときの基準
点の加速度の最大値であり、
[数21]
この時の層せん断力の最大値の期待値a(表9のa欄参照)が、第i層が支持する部分
bの質量b(表9のb欄参照)にこの部分の平均加速度の最大値の期待値A
bkmax
を乗じて計算され、
[表9]
[数22]
指標の推定値Aが、層せん断力の最大値の期待値a(表9のa欄参照)、すなわち、表
8のc欄に示される保有水平耐力の期待値である、
構造物の常時微動に基づく構造物の診断評価方法。
【請求項2】
常時微動観測により、構造物の性能を評価する方法において、
前記構造物内の複数の観測点で同時に常時微動時刻歴を観測し、これらの時刻歴の二乗
平均値平方根(RMS)を用いて、前記構造物の耐震設計に用いる指標の推定値Aを算出
し、この値Aに対応する設計時点で用いられる指標の値Bに対する比率を用いて、前記構
造物の前記観測に基づく耐震性能の評価であって、
前記指標が、現行基準に規定されたベースシア係数であり、
ベースシア係数が、保有水平耐力に達するときの第一層の層せん断力係数であり、
ベースシア係数の期待値C
ui1km が、
[数8]
(ここで、Ai は、層せん断力を第1層のせん断力a(表3のa欄参照)で基準化した
値b(表3のb欄参照)と、その層から上の重量を第1層から上の合計重量(全重量)W
で基準化した量とα
iの比であり、層せん断力の高さ方向の分布を表す係数であり、
[表3]
C
iは地震層せん断力係数、Zは地域係数、R
tは振動特性係数およびC
0は標準せん
断力係数であり、
C
iは
[数6]
で表され、
第1層については、
[数7]
である。
また層せん断力aが、n層からなる建築物が地震の作用を受けて振動した場合に第i層
に生ずる最大せん断力(表2のa欄参照)であり、
その層が支持する重量bが、表2のb欄で示される値である。
[表2]
[数5]
また表3のa欄は、第1層のせん断力であり、
表3のb欄は、せん断力が第1層のせん断力aにより基準化された値であり、
P
jは、建物の第j層に作用する地震力であり、
k
jは、震度であり、
w
jは、建物の第j層の重量であり、
P
jは、
[数4]
で表され、
α
iは、基準化重量である。)の関係から、
[数26]
(ここで、H
0ik[m]は、第i層のk方向の階高であり、
R
Yik[rad]は、降伏変形角であり、
g[m/sec
2] は、重力加速度である。)
をAiで除して求められ、
指標の推定値Aが、ベースシア係数の期待値C
ui1kmである、
構造物の常時微動に基づく構造物の診断評価方法。
【請求項3】
連続して計測した前記常時微動時刻歴を分割し、複数の部分時刻歴を抽出し、各部分時
刻歴に関して前記指標の期待値を計算し、そのサンプル平均を前記指標の推定値とする構
造物の常時微動に基づく、請求項1
または2に記載の構造物の常時微動に基づく構
造物の診断評価方法。
【請求項4】
前記部分時刻歴の継続時間は、1~2分間である、請求項
3に記載の構造物の常時微動
に基づく構造物の診断評価方法。
【請求項5】
前記観測を、構造物の新築後、改修工事前後、また、定期的な診断時に行い、各観測時
点の前記推定値を相互比較することにより、構造物の耐震性能と大地震時の倒壊危険性と
使用継続性の経時変化と改修工事前後の変化とのうちの少なくともいずれかを診断評価す
る、請求項1
または2に記載の構造物の常時微動に基づく構造物の診断評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の常時微動に基づいて構造物の耐震性や健全性及び対策工・補強工の効果を診断評価する構造物の診断評価方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
人体、機械、建物などから、崖、地盤、樹木まで、我々の周囲にある様々な物に対して、性能を診断評価することは、安全で快適な生活を送る上での基本であり、多くの機器、技術が既に実用化されている。この中で、建物、インフラ施設などの構造物の耐震性、健全性の診断評価には、次のような困難さがある:長期に渡り、様々な自然環境条件にさらされる。一つ一つがそれぞれ異なる形状、材質を持っている。破壊試験ができない。大きさが人のスケールを超える。移動が困難である。完全に文書やデータで記述することができない。構造物は、地盤に支持されており、地盤の性状は地上に見える人造物よりも複雑である。地震等の突発的な外力の発生時期、規模、振動特性などについては不確定性が高い。
【0003】
また、既存建築物の耐震性評価には、構造耐震指標(Is値)を計算する方法が従来から行われているが、図面等の情報を専門家が判断してコンピュータプログラムに入力して複雑な計算を行うため、多額の費用と時間がかかった。さらに、計算法が一意的でなく、分岐や判断に基づく入力があったので、結果的には主観的な要素が入り易いとされ、第三者機関による判定会が制度化されるに至っている。つまり、上記従来手法は、多額の費用と労力、時間を要するものであった。
【0004】
これまでに実用化されている構造物全体を対象とする診断評価法には、a)図面や計算書との整合性をチェックするもの、b)構造計算をやり直すもの、c)別の計算法で計算しなおすもの、d)起振機などで振動を与えて揺れ方を計測するもの、e)チェックシート形式で評点をつけ集計するもの、f)微動観測に基づくものがある。新築時の検査は、a)あるいはb)に、耐震診断は、c)の範疇に属する。しかし、a)~c)に掲げた計算を用いる方法は、その根拠である数値を図面等から拾い出すので、実際の構造物および支持条件がその通りであるかどうかについては、仮定することになる。また、構造物内部について、詳細な計算をして100%正確な判定ができたとしても、基礎と周辺地盤の条件によって計算結果は殆ど左右される結果となる。また、d)に掲げた起振機などを使う方法も、起振機のエネルギーは構造物および周辺地盤の位置エネルギーに比べて小さすぎ、構造計算を行う場合と同様に、精度の高い判定とは言いがたい。
【0005】
常時微動は、上記の方法が依拠している情報に比べ、はるかに総合的、詳細かつ大量の、構造物および周辺地盤の情報を含んでいる。常時微動は、振幅こそ、数ミクロン程度と小さいが、構造物及び周辺地盤の巨大な質量が常時振動しているので、大きなエネルギーを持っている。空間的にも、構造物と周辺地盤の全ての箇所で振動するもので、情報量は、設計図書や起振機の情報とは全く比較になら無い程多い。特に、大地震に対する危険性を評価する上で、地震と同様に入力源を地盤とした実振動が測定できることは重要である。
【0006】
従来も、常時微動を利用する構造物の診断法は、例えば特許文献1の開示技術などのように幾つか試行されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来技術は、卓越していると思われる周期をフーリエスペクトルから目視で判定し、その変化を論ずる等の方法であり、常時微動の持つ豊富な情報量のごく一部を取り出すものに過ぎなかった。従って、診断結果は、精度、内容ともに不十分であり、構造物の診断法としての地位を築くことは出来なかった。また、特許文献1を含む従来技術は、算出した指標が現行の設計基準あるいは耐震診断基準で用いる指標ではなかったため、現行基準の枠組みでの評価や診断に適用することができなかった。さらに、現行基準の設計指標には、構造物の使用継続性を直接評価するものがない。ただし、現行の構造物の耐震設計基準及び耐震診断基準を総称して、本明細書では現行基準とする。また、耐震診断基準を単に診断基準、耐震設計基準を単に設計基準と称する。
【0009】
また、現行の耐震設計で用いている層せん断力高さ方向の分布係数、保有水平耐力、及び耐震診断で用いている累積強度指標と形状指標の積などは、これを実測する方法がなかった。現行基準では、想定地震動を具体的に示しておらず、さらに、現行の計算法は、一意的でなく分岐や判断に基づく入力があるという問題もあった。
【0010】
本発明は、上記特許文献1を含む従来技術にみられた上記課題に鑑み、常時微動のもつ情報を、現行の既存構造物の診断・耐震改修設計に用いている累積強度指標、構造耐震指標の期待値や、現行の新築の設計に用いている層せん断力の高さ方向の分布係数の期待値や、構造物の使用継続性を直接評価するための損傷度に関連付けて前記指標や損傷度の推定値をそれぞれ微動の測定値から直接取得することで、実在の構造物・周辺地盤系の情報を抽出しこれを構造物の設計、診断評価に用いる新たな方法を提供することを目的とする。本発明の方法を微動診断(MTD:Micro Tremor Diagnosis)と称する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その構成上の特徴は、常時微動観測により、構造物の性能を評価する方法において、前記構造物内の複数の観測点で同時に常時微動時刻歴を観測し、これらの時刻歴の二乗平均値平方根(RMS)を用いて、前記構造物の耐震設計に用いる指標の推定値を算出し、この値の設計時点で用いられる前記指標の値に対する比率を用いて、前記構造物の前記観測に基づく耐震性能の評価を行うことにある。
【0012】
また、連続して計測した前記常時微動時刻歴を分割し、複数の部分時刻歴を抽出し、各部分時刻歴に関して前記指標の期待値を計算し、そのサンプル平均を前記指標の推定値とすることができる。この場合における前記部分時刻歴の継続時間は、1~2分間とするのが望ましい。
【0013】
本発明においては、前記観測を、構造物の新築後、改修工事前後、また、定期的な診断時に行い、各観測時点の前記推定値を相互比較することにより、構造物の耐震性能と大地震時の倒壊危険性と使用継続性の経時変化と改修工事前後の変化とのうちの少なくともいずれかを診断評価するものであってもよい。
【0014】
本発明において前記指標は、現行基準に規定された層せん断力の高さ方向の分布係数や、現行基準に規定された保有水平耐力とすることができる。
【0015】
また、本発明において前記指標は、現行基準に規定されたベースシア係数や現行基準に
規定された加速度応答倍率とすることもできる。
【0016】
さらに、本発明において前記指標は、現行基準に規定された累積強度指標と形状指標との積や、新たに本発明で定義する損傷度や転倒危険度としてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、現行の既存構造物の診断・耐震改修設計に用いている累積強度指標、構造耐震指標の期待値や、現行の新築の設計に用いている層せん断力の高さ方向の分布係数の期待値や、構造物の使用継続性を直接評価するために新たに定義した損傷度の推定値をそれぞれ微動の測定値から直接取得することで、構造物の各部分に鉛直アレーを設けた観測により、各フロアーの部分(ゾーン)の振動性情、強度、損傷度等を測定することができる結果、従来法より、はるかに詳細かつ迅速、安価に耐震性、健全性、あるいは改修設計の効果を評価できることとなった。
【0018】
つまり、本発明によれば、以上の指標を用いることで、新築後、改修工事後、また、定期的な診断時に、現行の診断評価、あるいは検査方法よりはるかに安価かつ迅速に診断評価、あるいは検査を行うことができるので、合理的な耐震補強設計、新設構造物の耐震設計を行うことができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明方法が適用される診断システムの構成例を示す説明図。
【
図2】微動計と分析器との間で行われる基本的な処理手順を示すフローチャート図。
【
図3】本発明方法において構造耐震指標、保有水平耐力及び損傷度を計算するために必要な要因を示す説明図。
【
図4】本発明方法の全体処理の手順を示すフローチャート図。
【
図5】分析器内で行われる処理内容のをルーチン別に示す説明図。
【
図6】実際の地震の作用と地震力を示す模式図であり、そのうちの(a)は実際の作用を、(b)はバネ・質点系を、(c)は地震力を示す。
【
図7】
図6(b)で黒点と線で描いた複数の質点とバネを一つにしたモデル(一質点系)図。
【
図8】バイリニア型の累積強度指標・層間変形角関係を示すグラフ図。
【
図9】摩擦型層間せん断力・支持部分加速度関係を示すグラフ図。
【
図10】摩擦型層間せん断力・層間速度関係を示すグラフ図。
【
図11】摩擦型層間せん断力・層間変位関係を示すグラフ図。
【
図12】4階建ての病院を例に1階における4種類の微動計の配置図。
【
図13】同4階建ての病院を例に2階における4種類の微動計の配置図。
【
図14】同4階建ての病院を例に3階における4種類の微動計の配置図。
【
図15】同4階建ての病院を例に4階における4種類の微動計の配置図。
【
図25】
図24との対応のもとで計測器配置と補強位置とを示す説明図。
【
図27】補強前の計測による11階建てSRC建物の屋上の振動のアニメーション。
【
図28】補強後の計測による11階建てSRC建物の屋上の振動のアニメーション。補強後の屋上面の運動につき屋上面3箇所に設置した微動計による変位データ(XYZ3成分)を構造解析結果可視化ソフトウェアに入力して、可視化(アニメーション化)したものの一瞬を示す図。
【
図29】ブロック塀、基礎および地盤と微動計との配置関係を示す模式図。
【
図30】ブロック塀の全景を(a)~(c)として状況別に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
構造物の周辺地盤は、常に微小な振動を生じている。振動エネルギーの供給源は、潮汐、交通振動等である。振幅は、数ミクロン[10=-6m]程度である。構造物のある点で観測される常時微動(以下、単に「微動」ともいう。)は、周辺地盤の微動が、基礎から構造物内に入り、構造物内部を伝播する間に増幅、あるいは減衰した結果である。
【0021】
常時微動は、構造物内に設置した微動計(加速度計)で観測される。これは、構造物内の特定の点の絶対加速度であり、通常は鉛直成分、水平2方向の直交3成分に分けてそれぞれ計測される。振幅が微小であり、継続時間も短いので、構造物は定常線形システムであり、常時微動は、定常確率過程(Stationaly Stochastic Process )の一部分であるとして数学的に扱うことができる。
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態例を説明する。
図1は、本発明方法が適用される診断システムの構成例を示す説明図である。同図によれば、診断システムの全体は、構造物10の各層の層境界面10a,10b,10cに配置される微動計1と、該微動計1が記録したデータに基づき各種の振動特性指標、及び現行基準で用いている各種の耐震性評価指標と新たな評価指標とを算出する分析器(例えばパーソナルコンピュータ)2とで構成されている。
【0023】
これらのうち、微動計(例えば白山工業製の微動計JU410)1は、加速度センサー、メモリ、GPSを内蔵している。また、分析器2には、微動診断ソフトが搭載されており、微動計1が記録したデータをUSBあるいはLAN、インターネットを介して受け取り、以下に詳説する本発明方法の計算を行い、各種の振動特性指標、及び現行基準で用いている各種の耐震性評価指標と新たな評価指標を計算する。また、分析器2は、ある層に例えば3箇所設置した微動計1が取得した微動変位データは、分析器2に搭載されている可視化ソフトに送られ、面の動きを3次元でアニメーション化した上で、分析器2が備える図示しない表示手段(ディスプレイ)に表示して構造物10がどのように震動しているか、その震動モードを表示して一目瞭然に目視確認できるようにして可視化されている。
【0024】
以下、本発明方法の概要を
図2~
図5に基づいて説明する。
図2は、微動計1と分析器2との間で行われる基本的な処理手順を示すフローチャート図である。同図によれば、振動計1は、常時微動(層境界上の観測点及び基準点の加速度時刻歴)を測定して記録する。分析器2は、受け取った測定記録データを周波数領域でフィルタ処理し、しかる後に対象構造物の固有振動数付近の周波数帯の加速度時刻歴を取得する。該加速度時刻歴を取得した後は、時間領域で、2分間程度のパートに分割され、それぞれについて、注目時刻歴、エネルギー伝達率、及び、各種の指標を計算する。計算後は、パート毎の振動特性指標、耐震性能指標及び収震性能指標の平均値と標準偏差とを計算し、前記平均値を各指標の推定値とする処理が行われる。
【0025】
また、
図3によれば、本発明方法における想定地震動の大きさは、最大加速度、最大速
度、最大変位、強震継続時間で表すこととしている。また、微動計は、対象構造物の各層及び基準面に鉛直アレー状に設置する。さらに、対象構造物の対象層の性能は、必要保有水平耐力、靱性指標、経年指標、限界繰り返し回数で表すこととしている。そして、微動計の設置を終えた後は、
図2に示す処理手順に従い、微動計1を用いた微動計測と分析器2を用いた計測結果の分析を行い、振動特性指標(中心周期、層せん断力の高さ方向の分布を示す係数)及び耐震性能評価指標(保有水平耐力、終局時累積強度指標と形状指標との積)及び収震性評価指標(履歴吸収エネルギー、損傷度)を計算する。以上を処理した後は、構造耐震指標、保有水平耐力比、及び損傷度を計算して処理を終えることになる。
【0026】
図4は、本発明方法の全体処理の手順を示すフローチャート図である。同図によれば、まず、対象構造物の事前調査を行う。具体的には、設計図面、計算書、増改築履歴、被災履歴、既往の耐震診断等の文献資料を収集するとともに、現地踏査により、微動計の設置可能位置を決定する。次いで、微動測定計画として測定時間帯、測定時間、微動計(計器)の配置、基準面を決定する。微動測定計画を策定した後は、微動計測実施として計器絶対時刻合わせ、微動計測、データ記録が行われ、分析実施として注目時刻歴計算、振動特性指標、性能指標計算が行われる。以上を終えた後は、診断実施が行われる。この場合、現行基準に即した診断には、構造耐震指標あるいは保有水平耐力比が用いられ、収震性能評価には、損傷度が用いられる。
【0027】
図5は、分析器2内で行われる処理内容をルーチン別に示す説明図である。同図によれば、入力データとしては、想定地震動諸元としての各データのほか、観測微動時刻歴、観測時間、観測周波数帯域、分析時間、分析周波数帯域があり、観測点属性としての各データ、構造物諸元としての各データが入力される。
【0028】
計算ルーチンにおいては、注目微動時刻歴の計算、パート分割、振動特性指標の計算、性能指標の計算が行われる。予備計算ルーチンについては、FFT、フィルター、ゼロ点補正、二乗平均値の計算、中心振動数計算、バンド幅指数計算が行われる。
【0029】
表示ルーチンにおいては、入力データ表示、観測時刻歴、スペクトル、中心振動数、バンド幅指数表示、振動特性指標表示、性能指標表示が行われるほか、時刻歴表示、パワースペクトル表示、軌跡表示、面の運動アニメーション表示も行われる。出力・転送ルーチンにおいては、紙、ハードデバイス、USB、LAN等や電波等を介して行われる。
【0030】
以上、
図1~5に基づいて本発明方法の概要を説明したが、以下に、本発明方法をより詳細に説明する。本発明方法(MTD:Micro Tremor Diagnosis)では、微動の継続時間、変位、速度、加速度時刻歴に関する二乗平均値平方根(RMS)、ピークファクター、ゼロクロス周期、中心周期、バンド幅指数、また、基準点の微動変位、速度、加速度時刻歴と注目微動時刻歴の間のエネルギー伝達率を用いて微動と構造物の振動特性を定量的に分析する。これは、2次モーメントを用いた確率過程の特徴把握と入出力間の相関分析である。
【0031】
なお、微動計測では、一つの微動計配置に関して連続して計測した継続時間の中から、数セットの時刻歴を抽出し、各セットに関して下記の各量を計算して、サンプル平均と標準偏差を求める。耐震性評価には、各量のサンプル平均を、各量の期待値の推定値として用いる。
【0032】
図6は、実際の地震の作用と地震力を示す模式図であり、そのうちの(a)は実際の作用を、(b)はバネ・質点計を、(c)は地震力を示す。微動診断は、構造物地盤系を
図6(a)~(c)に示すように、周辺地盤21を剛床、構造物10を質点とバネにモデル化して計算を行う。これは、現行の耐震基準と同様である。
【0033】
地盤は、潮汐、交通振動等を受けて常に数ミクロン[10
-6m]程度の微小な振幅で振動を生じている。これは常時微動(Micro Tremor)と呼ばれている。
図6(a)に実線の長方形で表した構造物10の周辺地盤21も同様である。微動は基礎から構造物10内に入り、構造物10内部を伝播するので構造物10も常時微動を生じている。ランダムな入力を十分長期間に渡り受けているので、周辺地盤21も構造物10も固有の振動モードで振動していると考えられる。
【0034】
構造物10内に複数の微動計(加速度計)1を
図1に示すように設置することで、微動の時刻歴を観測することができる。例えば、
図6(b)のように構造物10の各層を質点とバネでモデル化することに対応するように、各層の代表点に一台ずつ鉛直アレー状に設置する。微動の振幅は微小であるので、有限な継続時間の中では構造物10は定常線形システムであり、常時微動は、定常確率過程(Stationary Stochastic Process)の一部分であるとして数学的に扱うことができる。
【0035】
地震動は、震源域での岩盤・地盤の破壊による変位が波動となって構造物周辺の地盤に達してこれを振動させる現象であるので常時微動とは振動エネルギーの源泉は異なるが振幅の小さい範囲では周辺地盤も構造物も固有モードで振動すると考えられるので常時微動と同じ振動をすると考えられる。
以上から、微動観測によって、次のような指標を計算し、構造物の動的性質、及び地震時の挙動を予測計算し、現行の耐震性能評価指標及び新たな評価指標を計算する。
【0036】
1.中心周期(振動特性指標 その1)
構造物内のある点のある方向の微動変位の中心周期Tc[sec]は次のように計算する。
【0037】
【0038】
【0039】
ただし、ωcy[rad/sec] は、任意の微動時刻歴を微分した時刻歴のRMSを
自身のRMSで除して計算される中心振動数(ここでいう「中心」は、英語「central frequency」を和訳したときに「central」に充てたものであり、具体的に何らかの中心にあるという意味ではなく、ゼロクロス振動数の期待値であり、不規則振動論で時刻歴の振動数特性を論ずる上で中心的な役割を演ずる振動数を意味する。)であり、a(表1のa欄参照)、及びb(表1のb欄参照)は、 それぞれ、変位時刻
歴と速度時刻歴のRMSである。
【0040】
【0041】
【0042】
ここで、[0,t0] は、微動時刻歴の継続時間である。速度、加速度、また、回転角
等についても同様に中心周期を定義できる。
構造物内のある部分に設置した複数の微動計で得られた時刻歴の中心周期をそれぞれ計算し、互いに比較することでその部分が固有の振動モードで振動しているかどうかを判断することができる。
【0043】
2.層せん断力の高さ方向の分布を表す係数の期待値(振動特性指標 その2)
現行の建築物の耐震基準及び耐震診断基準では、
図6(b)に示す力学モデルを背景に
、建物の第j層に作用する地震力(P
j)を震度(k
j)とその層の重量(w
j)の積として表している。
【0044】
【0045】
上記の関係から、n層からなる建築物が地震の作用を受けて振動した場合に第i層に生ずる最大せん断力を層せん断力a(表2のa欄参照)と称して、その層が支持する重量b(表2のb欄参照)と地震層せん断力係数(Ci)の積として与えている。
【0046】
【0047】
【0048】
さらに、地震層せん断力係数(Ci)を、地域係数(Z)、振動特性係数(Rt)、標準せん断力係数(C0)及び層せん断力の高さ方向の分布を表す係数(Ai)の積として規定している。なお、中小地震を想定した一次設計でC0 =0.2、大地震に対する2
次設計では、C0 =1.0 を用いると定められている。
【0049】
【0050】
なお、第1層については、
【0051】
【0052】
以上から、Ai は、層せん断力を第1層のせん断力a(表3のa欄参照)で基準化し
た値b(表3のb欄参照)と、その層から上の重量を第1層から上の合計重量(全重量)Wで基準化した量とαiの比であることが導かれる。
【0053】
【0054】
【0055】
上式の関係を用いて、微動診断で得られた第i層k方向の絶対加速度エネルギー伝達率a(表4のa欄参照)が地震動入力による弾性応当時にも保存されると仮定して、これと、基準点の最大加速度を乗じて絶対加速度の最大値の期待値b(表4のb欄参照)を計算し、これと構造物の各層の質量m
jから、最大層せん断力の期待値c(表4のc欄参照)を求め、第i層k方向の層せん断力の高さ方向の分布を表す係数の期待値E[A
ik] を
得ることができる(数9)。ただし、前記基準点の最大加速度は、数式9の最右辺の分母子に来るので約されるので表示していない。また、絶対加速度エネルギー伝達率a(表4のa欄参照)とは、本明細書の段落「0067」に定義したエネルギー伝達率において、注目する微動時刻歴を絶対加速度時刻歴としたもの、即ち、第i層k方向の絶対加速度時刻歴のRMSの第1層k方向の絶対加速度時刻歴のRMSに対する比である。また、数9の右から2番目の等号は、
図6(b)の構造物の力学モデルについての運動方程式(段落「0032」~「0034」参照)から導かれる。また、数9の最後の等号は、段落「0021」に述べた仮定、即ち、常時微動観測で得られた各層(第i層)の絶対加速度時刻歴は定常確率過程の一部分であるとして数学的に扱うことができるという仮定の基で、ある継続時間内の最大値の期待値はRMSにピークファクターを乗じて計算することができるという知見に基づいて、各層の絶対加速度時刻歴のピークファクターが互いに等しいと置いている。以上に示したように、本発明の方法は、地震時に構造物内に作用する力の最大値を用いて定義されている現行基準の設計指標を、以上の仮定に基づいて、微動観測によって得られた各層の絶対加速度時刻歴のRMSを用いて推定するものである。この方法は、実際に測定した最大値を用いる方法に比べて、ばらつきの小さな(安定した)最大値の推定値、即ち、設計指標の推定値を得るものである。
【0056】
【0057】
【0058】
因みに、耐震基準では、各種の解析・検討から、以下のように、上2式に登場するαi(基準化重量)、及び建物の一次固有周期TをパラメータとしてAiを規定している。
【0059】
【0060】
【0061】
ただし、T[sec]は、λを建築物のうち柱及び梁の大部分が木造または鉄骨造である
階(地階を除く)の高さの合計h[m] に対する比として、以下の式で計算することとさ
れている。
【0062】
【0063】
上記の規定は、塔状の構造物である建築物に対して低層から超高層までの各層の最大応答せん断力分布を1つの式で表すように工夫されたものであるとのことである。なお、耐震基準では上記の算式でA
iを計算することに代えて、個々の建物に関して直接、
図6(b)のモデルを作成して時刻歴応答解析等の方法で層せん断力の最大値を計算してA
iを求めることも許されている。
【0064】
3.平均伝達率と応答倍率の期待値(振動特性指標 その3)
図6(b)のモデルで、第i層に対する地震の作用を考える場合に、その層が支持する部分b(第i層から第n層まで)の平均加速度、平均速度等のRMSあるいは最大値を与える次のような指標を用いると便利である。
【0065】
【0066】
【0067】
ここで、m
j
は、第j層の質量、a(表5のa欄参照)、及びb(表5のb欄参照)はそれぞれ、第j層k方向の加速度及び速度のエネルギー伝達率であり、Baikを平均加速度エネルギー伝達率、Bvikを平均速度エネルギー伝達率と称する。ただし、エネルギー伝達率とは、注目する微動時刻歴と基準点の微動時刻歴のRMSの比であり、微動診断では、これが地震動入力による弾性最大応答時に保存されるとし、ピークファクタを適
宜仮定して、注目時刻歴の最大応答を基準点の最大入力値にエネルギー伝達率を乗じて計算する。
【0068】
【0069】
例えば、上記の平均加速度エネルギー伝達率を用いて、構造物内のある層iが支持する部分bの各点(質量dM )の絶対加速度時刻歴ak(t)の空間平均値のk方向成分A
k(t)のRMSの期待値E[σAk] を、基準点の加速度時刻歴のa(表6参照 )に応じて以下のように計算できる。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
数式9の層せん断力の高さ方向の分布を表す係数の期待値Aimkと数式13で定義し
た平均加速度エネルギー伝達率Baikの間には次のような関係がある。
【0074】
【0075】
即ち、A
imk は、注目部分iが支持する部分の平均加速度と第1層が支持する部分
(構造全体)の平均加速度の比であると言える。
数式13で、j=1とした平均加速度伝達率B
aikは、構造物の平均絶対加速度のa(表7のa欄参照)と基準点の絶対加速度のb(表7のb欄参照)の比、即ち、構造物全体を、
図7のように1自由度系に縮約した場合の加速度応答倍率R
amkの期待値である。
【0076】
【0077】
【0078】
同様に、数式14でj=1としたBv1kは、構造物全体を1自由度系に縮約した場合の速度応答倍率の期待値であると言える。
【0079】
【0080】
現行基準が、数式6の標準せん断力係数を、中小地震を想定した一次設計でC0 =0
.2 、大地震に対する2次設計では、C0 =1.0 を用いるとしたのは、想定する地
震動の最大加速度を、中小地震で、0.07G~0,08G、大地震で0.33~0.4Gとし、短周期建築物の加速度応答倍率を2.5~3と考えたからであるとのことである。
【0081】
4.保有水平耐力の期待値(耐震性能指標 その1)
耐震基準では、建築物の構造モデルの各層にAi分布するせん断力を漸増させて載荷し、第i層が降伏する時に第i層に作用している層せん断力a(表8のa欄参照)を、保有水平耐力b(表8のb欄参照)であると定義している。
地盤の微動によって構造物に生ずる層せん断力と基準点の加速度の関係は、本明細書の段落「0064」~「0080」にて定義した平均加速度伝達率(Baik )によって
表せる。また、層間変位と基準点の加速度の関係は本明細書の段落「0067」にて定義した伝達率を用いて表現することができる。これらを用いて、構造物が線形に応答した場合に第i層の層間変位の最大値が降伏変位に達するときの、層せん断力の期待値が計算できる。これを、第i層以外は降伏しないと仮定した場合の保有水平耐力の期待値c(表8のc欄参照)であると考えることができる。
基準点のk方向の加速度d(表8のd欄参照 )に対する第i層k方向の層間変位(e
ik(t))のエネルギー伝達率e(表8のe欄参照)を、それぞれのRMSの比として次のように定義する。
【0082】
【0083】
【0084】
層間変位の最大値eikmax が降伏変位eikY に達するときの基準点の加速度の最大値をaikY とおけば、
【0085】
【0086】
この時の層せん断力の最大値の期待値a(表9のa欄参照)は、第i層が支持する部分bの質量b(表9のb欄参照)にこの部分の平均加速度の最大値の期待値Abkmax
を乗じて計算できる。
【0087】
【0088】
【0089】
基準点の最大加速度と上記の部分bの平均加速度の最大値の期待値は、平均加速度エネルギー伝達率Baik を用いて関係づけられている。
【0090】
【0091】
以上から、
【0092】
【0093】
数式21と数式24とから、
【0094】
【0095】
保有水平耐力に達するときの層せん断力係数の期待値Cuikm は、数式5の関係を
用いて、上式をその層が支持する重量で除して得られる。
【0096】
【0097】
ただし、第i層のk方向の階高をH0ik[m]、降伏変形角をRYik[rad] 、g[m/sec2] は重力加速度とする。また、保有水平耐力に達するときの第一層の層せん断力係数の期待値、即ち、ベースシア係数の期待値Cui1km は、数式8の関係から、上式をAiで除すことで求められる。これは、数式9、数式17及び数式19を用いて、加速度応答倍率Ramkと基準点の加速度に対する層間変位のエネルギー伝達率a(表10参照)で表せることが分かる。
【0098】
【0099】
【0100】
保有水平耐力比は、上記で得られた保有水平耐力の期待値を耐震基準が規定する必要保有水平耐力で除して計算する。
【0101】
5.終局時累積強度指標と形状指標の積の期待値と構造耐震指標(耐震性能指標 その2)
耐震診断基準では、中低層RC系建築物の各階(各層)の梁間および桁行き方向(水平2方向)それぞれについて、構造耐震指標Isを、保有性能基本指標E0と形状指標SD
、および経年指標Tの積として表している。
【0102】
【0103】
上式の保有性能基本指標E0に関して、各層の個々の柱・壁・梁の各方向の強度指標(C)と靭性指標(F)の積を集計して算定する詳細な算式が規定されている。ただし、原理的には、保有性能基本指標E0は、その層の強度指標と靭性指標の積である(E0 =
C×F)と解説されている。層の靭性指標とは、その層が終局限界に達する層間変形各に相当する靭性指標であるので、これをFUと表し、これに応じて、層が終局限界に達する層間変形角におけるベースシア係数と同等の係数(終局時累積強度指標)をCTUと表す。
【0104】
【0105】
以上の関係から、
【0106】
【0107】
数式29は、層せん断力a(表11のa欄参照)が層間変位eに対して
図8に描いた線分OYUようにバイリニア型であると仮定して導かれている。この場合、降伏点Yと終局点Uの層せん断力(累積強度指標)は等しく(C
TY=C
TU)、降伏相関変位(e
Y
)に対する累積強度指標になる。ただし、
図8は、層せん断力a(表11のa欄参照)をその層が支持する重量Σwと層せん断力の高さ方向の分布係数A
iで除して累積強度指標C
Tとし、層間変位eを階高H
0で除して層間変形角Rとして描いている。なお、添え字iは省略している。
【0108】
【0109】
微動診断で得られた層間変位・層せん断力関係は、
図8の関係の原点近傍ではあるものの、同図の関係を表していると仮定する。耐震診断基準では、経年指標T及び靭性指標F
Uを1.0としたとき、同基準が想定する地震動(基準地震動:G0)に対して、その層が終局に達する場合に、その層のI
S値が0.6となるように規定している。そこで、微動診断で得られた相関変位エネルギー伝達率h
egi に基準地震動(G0 )に対応する基準点変位を乗じて、相関変位の期待値(E[e
G0] )を計算した場合に、これが丁度
、降伏変位(e
Y=R
YH
0)であれば、 値が0.6であると言える。そこで、数式3
0でF
U=1,T=1とすれば、
【0110】
【0111】
累積強度指標と層間変形角(層間変位)は比例すると仮定しているので、第i層のk方向の終局時累積強度指標に形状指標を乗じた量((CTUSD)ik )の期待値は、微
動診断で得られた相関変位エネルギー伝達率hegik に基準地震動(G0)に対応す
る基準点変位xG0[1978] を乗じて、相関変位(eG0ik )を計算し、これで降伏変位(eYik)を除した値に0.6を乗じた値となる。
【0112】
【0113】
さて、耐震診断基準によれば、Is=0.6という数値は、1968年十勝沖地震、1978年宮城県沖地震による中破以上の被害を受けた建物群のIs値分布の推定値と地震被害未経験の建物群についてのIs値分布の比較から、その妥当性が検証されたとのことである。この他、1978年伊豆大島近海地震、及び1987年千葉県東方沖地震による検討、2011年東日本大震災による検討等が掲載されているが、1978年宮城県沖地震までの観測地震動と、2011年東日本大震災に代表される21世紀の観測地震動では最大加速度・速度、継続時間等が桁違いであるので、診断基準が想定する地震動としては、同基準が初めて制定された1978年当時までの地震動であると考えたい。
【0114】
我が国で1978年までに観測された強震記録は、米国大気海洋局(NOAA)がデータベース化して公表している。これを統計的に分析した結果等から、概ね、当時の地震動の最大変位の期待値としては、水平2方向とも、2.5cm程度が妥当であると考えて、数式32に代入する。また、同式の第i層のk方向の降伏変位eY[m] を階高H0[m]
と降伏変形角RY[rad]とで表して、エネルギー伝達率から終局時累積強度指標と形状指標の積の期待値を計算する式を得る。
【0115】
【0116】
数式30と上式より、構造耐震指標Isを微動診断から計算することができる。
【0117】
【0118】
ただし、Ismは微動診断から求めた構造耐震指標、FU、及びTは、終局靭性指標及び経年指標である。
【0119】
6.履歴吸収エネルギー(収震性能指標 その1)
非線形応答計算、即ち、構造物のある層が降伏強度に達した以降、即ち、応力に関して非線形性を呈した以降、構造物が地震の作用を受けてどのように変形し運動するかを設計図書に記載された情報あるいは記載する予定である情報から、計算で求めることは、地震動を特定し、構造物と地盤を
図6(b)あるいは
図7のように単純化したとしても容易ではない。
【0120】
降伏後に構造物の各層の間に作用する応力とひずみに関するモデル(構成則)は多種多様に考えられている。コンクリート、土は、ごく小さいひずみでも非線形性を呈する。また、非線形性を説明する変数としては、
図8に示したような層間変位だけでなく、その相対速度、絶対加速度、さらに、軸方向力などの他の方向の応力度、ひずみなどが考えられている。層を構成する部材、それを構成する材料、それぞれの部材の接続状況は多様であり、それを単一の構成則に還元する方法も多様である。どれが正解とは言えない。
【0121】
耐震設計においては、代表的な非線形モデルがいくつか存在し、部材レベル、あるいは実大模型で実験結果の解析等に用いられているが、実験装置の加力方法と変位等の計測方法では適合したとしても、3次元空間での実際の地震の作用における有効性を検証することはできない。
【0122】
図9は、摩擦型層間せん断力・支持部分加速度関係を、
図10は、摩擦型層間せん断力・層間速度関係を、
図11は、摩擦型層間せん断力・層間変位関係をそれぞれ示す。微動
診断によって、実構造の各層の代表点の振動を計測し、
図6(b)の構造モデルに対する各層の応答特性を数値化することができる。その結果から、
図9~
図11に示したような摩擦型モデルを用いた履歴吸収エネルギーの期待値が計算できる。
【0123】
このモデルは、石が重ねてあるような構造の応力のモデルであり、
図9及び
図10に示すように、層を支持する部分の絶対加速度が限界加速度を超えて、層間に相対速度が生ずると、その速度と逆向きに一定のせん断力が作用する。
【0124】
層間変位ゼロからスタートして一定の向きに層間変位が増加して、ある大きさになったところで、層間変位が減少し続けるように構造物が変形し、ある大きさまで減少したとことで、今度は増加するように構造物が変形した場合の層間変位との関係を描くと
図11のようになる。
図8に示したバイリニア型のせん断力・層間変位関係においても、層間せん断力と支持部分加速度関係を描くと、
図9になる。そこで、バイリニア型のせん断力・層間変位関係の内、せん断力が一定の部分(
図8の線分YU)に関して、上記の摩擦型モデルを当てはめることができる。
【0125】
k方向成分から計算した第i層の履歴吸収エネルギーWikは、下式に示すように、構造物の第i層の上面が下面に対して相対運動(層間変位eik)を起こすことに対して、復元力(層せん断力)a(表12のa欄参照)がする仕事Wikであり、増分(表12のb欄参照)を、振動の継続時間t0について積分して得られる。
【0126】
【0127】
【0128】
第i層が支持する部分のk方向の空間平均絶対加速度と質量とを、それぞれ、Aik(t)、(Σm)とすれば、注目部分が支持する部分のk方向の運動方程式は、以下のようになる。
【0129】
【0130】
復元力は、降伏限界強度a(表13参照)を持つと仮定しているので、数式36より、Aik(t)も限界値を持つことが分かり、これを限界加速度Acikとする。
【0131】
【0132】
【0133】
微動観測からは、構造物が弾性応答する場合、即ち、復元力が限界値を持たない場合の第i層が支持する部分の空間平均加速度が予測できるので、これをa(表14参照)とする。
【0134】
【0135】
復元力が摩擦型で、層下面が加速度a(表14参照)で振動した場合で、a(表14参照)が継続時間s0の定常ガウス過程の一部であるとした場合の単位質量あたりの履歴吸収エネルギーWikの期待値を、a(表14参照)のパワースペクトル密度関数から得られた各パラメータと限界加速度Aciとで表す理論式が不規則振動論より得られている。
【0136】
【0137】
ここで、
E[*]:*の期待値 [演算子]
【0138】
また、第i層のk方向について
a(表15参照):復元力 [N]
eik(t):上面と下面の相対変位 [m]
Acik:限界加速度 [m/sec2]
Σw:支持する重量 [N]
【0139】
【0140】
また、地震時の第i層が支持する部分の空間平均弾性応答加速度時刻歴a(表14参照)、及びこれを積分した速度時刻歴のk方向成分について:
s0:強震継続時間 [sec]
Tvik:速度時刻歴の中心周期 [sec]
σaik:加速度時刻歴のRMS [m/sec2]
αvik:速度時刻歴のバンド幅指数 [無次元]
σvik:速度時刻歴のRMS [m/sec]
【0141】
ただし、強震継続時間s0とは、地震動のように非定常性をもつ継続時間t0の時刻歴(x(t))を、同じパワースペクトル密度関数をもつ定常ガウス過程(G(t))の継続時間s0の部分として扱うための継続時間であり、x(t)の最大値が、G(t)の継続時間s0の間に、最大値として平均1回現れるようにするものである。
【0142】
上記Tvik以下のパラメータは、微動観測で得られた時刻歴とエネルギー伝達率及び想定する地震による基準点の振動時刻歴の最大値の予測値から計算する。まず、構造物は地震時でも、弾性応答時には、微動観測で得られた振動モードで振動すると仮定して、a(表16のa欄参照)の振動周期Tvik、バンド幅指数αvikは、第i層が支持する部分の下面、即ち、第i層上面の微動加速度時刻歴b(表16のb欄参照)を用いて計算する。さらに、c(表16のc欄参照)のRMSσvikとこの速度時刻歴のRMSσvikに関しては、各層(j=i…n)の平均伝達率(本明細書の段落「0059」~「0075」参照)と地震時の基準点のRMSを用いて計算する。
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
基準点の地震時の加速度と速度のRMSは、ピークファクターを用いて、基準点の地震時の最大速度の期待値Vmaxk及び最大加速度の期待値Amaxkとの関係に書き直すことができる。
【0147】
【0148】
【0149】
さらに、第i層k方向の限界加速度は、本明細書の段落「0081」~「0100」で求めた保有水平耐力a(表17のa欄参照)が降伏層せん断力(a(表17のb欄参照))に等しいことを用いて計算する。数式37及び数式25より、
【0150】
【0151】
【0152】
以上より、k方向成分から計算した大地震による第i層の履歴吸収エネルギーの期待値Wmik[Nm]は、次のように計算できる。
【0153】
【0154】
ただし、降伏変位eikYを降伏変形角と階高との積で現している。また、第i層k方
向に関して、
RYik:降伏変形角 [無次元]
H0ik:標準階高 [m]
a(表18参照):基準点加速度に対する層間変位エネルギー伝達率[無次元]
【0155】
【0156】
また、注目部分上面の微動時刻歴のk方向成分に関して、
Tvik:微動速度時刻歴の中心周期 [sec]
αvik:微動速度時刻歴のバンド幅指数 [無次元]
ただし、バンド幅指数は、その時刻歴の中心振動数を微分時刻歴の中心振動数で除したものであり、微動速度時刻歴のバンド幅指数は、微動速度時刻歴の中心振動数と微動加速度時刻歴の中心振動数の比である。
【0157】
また、層が支持する部分に関して、
Σm:質量 [kg]
Baik:平均加速度伝達率(数式13参照) [無次元]
Bvik:平均速度伝達率(数式14参照) [無次元]
【0158】
さらに、基準点の大地震動のk方向成分に関して、以下のパラメータが入力の大きさと性質を決めるものとして、設計者の判断、あるいは、基準によって与えられる。
s0:強震継続時間 [sec]
Vmaxk:最大速度 [m/sec]
Amaxk:最大加速度 [m/sec2]
γv:速度時刻歴のピークファクター [無次元]
γa:加速度時刻歴のピークファクター [無次元]
【0159】
なお、上式の両辺をΣm/2で除して、支持する単位質量当たりの履歴吸収エネルギーの期待値の速度換算値Vmik[m/sec]を得る。
【0160】
【0161】
7.損傷度(収震性能指標 その2)
構造物のある層の地震の作用による損傷の度合いは、履歴吸収エネルギーに比例すると仮定して、その限界値との比を損傷度(Id)と称して設計指標とすることができる。
【0162】
【0163】
ここで、 第i層のk方向について:
Idik:損傷度[無次元]
Wmik:履歴吸収エネルギーの期待値 [Nm2/sec2]
Wlik:履歴吸収エネルギーの限界値[Nm2/sec2]
【0164】
履歴吸収エネルギーの限界値W
likは、個々の部材あるいは部材グループの復元力を
図8に示すようなバイリニア型であると仮定し、それぞれの限界値を累加して計算することができる。
【0165】
【0166】
ただし、限界値は、
図8で線分OYUの横軸への射影の面積を2倍したものが一回の繰り返しで吸収するエネルギーであるとし、このn
kj倍であるとして計算している。ここで、第i層のk方向の個々の部材j、あるいは部材グループjに関して:
n
kj:限界繰り返し回数 [無次元]
q
kj:強度 [N]
F
jk:靱性指標 [無次元]
e
Yj:降伏変位 [m]
R
Yik:降伏変形角 [rad]
H
0ik:階高 [m]
【0167】
第i層k方向の降伏層せん断力(保有水平耐力)の期待値は、本明細書の段落「0081」~「0100」で算出されているので、層の靭性指標と限界繰り返し回数を与えれば
、履歴吸収エネルギーの限界値を計算することができる。数式47で層全体を1グループとして、数式25を用いて、
【0168】
【0169】
ただし、第i層k方向について
Nik:限界繰り返し回数[無次元]
a(表17のa欄参照):降伏層せん断力(保有水平耐力)の期待値[N]
Fuik:靭性指標[無次元]
Σm:支持する部分の質量[kg]
【0170】
数式44の履歴吸収エネルギーの期待値と数式48の限界値の商として、損傷度を次のように計算する。
【0171】
【0172】
損傷度Idikは、第i層k方向に関して、構造物周辺地盤系の微動観測から得た振動特性をこれが支持する部分の平均加速度伝達率Baik、平均速度伝達率Tvik、及び基準点加速度に対する第i層k方向の層間変位エネルギー伝達率a(表20参照)、速度時刻歴の中心周期Tvik、及びバンド幅指数αvikで表し、入力地震動の特性を強震継続時間s0、最大速度Vmaxk及び最大加速度Amaxkとそれぞれのピークファクターγv、γaで表している。また、構造緒元として、第i層k方向の降伏変形角RYik、及び標準階高H0ikを用いており、復元性能は、靭性指標Fuikと限界繰り返し回数Nikで表している。
【0173】
8.耐震診断基準、現行基準、最近の地震環境に即した地震動レベルについて
微動診断(MTD2017)では、観測した微動時刻歴から、構造物の振動増幅特性をエネルギー伝達率のサンプル平均として定量化する。また、振動モードを可視化し、固有周期とバンド幅を計測する。耐震性評価に当たっては、構造物の1階、地下階等に設けた基準点の大地震による振動を入力として、エネルギー伝達率から、弾性最大応答を推定し、構造耐震指標の期待値を計算する。また、注目層あるいは部分が支持する部分の平均加速度、速度の予測値から履歴吸収エネルギーを推定し、損傷度を計算する。以上に必要な地震動レベルの設定は、各設計者の判断によるが、現行基準等の想定レベルを微動診断入力値に換算して表示することは有効である。
【0174】
表19には、診断基準、現行基準が想定していると考えられる標準的な地震動レベル(最大加速度、速度、変位の期待値 (Amax、Vmax、Dmax)及び強震継続時間
の期待値(S0)を掲げている。また、最下段には、最近の観測地震動から見た地震動レベルを参考として示した。診断基準に関しては、先述のとおり1978年までに我が国で観測された地震動から推定したものである。また、現行基準に関しては、基準制定の関係者の話と告示スペクトル(全国官報販売協同組合刊行の2015年版建築物の構造関係技術基準解説書pp488~490)の形状から推定している。最近の観測地震動については、2011年東北地方太平洋沖地震、2016年熊本地震の強震観測記録から推定しているが、統計処理等は行っていない。
なお、最近の地震環境の地震動レベルは、現行基準のレベルを一桁上回っており、弾性最大応答を基本とする現行基準の枠組み及び微動診断の枠組みの入力地震動として用いても意味がない。このレベルの地震動に対する耐震設計は現行法とは根本的に違う方法で行う必要がある。
【0175】
【0176】
微動診断の位置づけ
合理的耐震設計において、微動診断は以下の役割を担う。
【0177】
(1)竣工後の確認診断と追加対策工
構造物が竣工した後に微動診断を実施し、振動モード、振動周期(Tc)、層せん断力分布係数(Aim)、応答倍率(Ramk、Rvmk)、累積強度指標a(表20参照)、損傷度(Idm)を計測し、設計計算と比較して、計算・工事の妥当性を確認するとともに、必要に応じて、対策工を追加する。なお、上記各指標は、構造物全体で計算するとともに、部分に設置した鉛直アレー計測で、その部分の振動特性も把握する。
【0178】
【0179】
(2)定期的な健全性診断と補修
定期的に微動診断を実施し、前項の各指標を計測し、構造物の劣化等が認められた場合には補修を行う。また、補修後に再度微動診断を実施して補修効果を確認する。
【0180】
(3)既設構造物の診断と耐震補強
現行基準あるいは旧耐震基準で建設された既設構造物に対して微動診断を実施し、必要に応じて、対策工を設計・施工する。また、補強前後に計測・診断を行い、補強効果を定量的に確認する。
【0181】
(4)地震被害と地盤・構造物の振動特性の関係の分析
微動診断を実施した建物が地震に被災した場合を実施例として、被災度と診断指標の関係を分析し、今後の設計法、診断法、各指標の基準値等の改定に繋げる。
【実施例1】
【0182】
1)対象施設及び計測方法
昭和47年(1972年)竣工の地下1階、地上4階、述床面積838m
2(X方向1スパン、Y方向3スパン)のRC造病院建物(4階はS造、仮称Y病院)11における1階12から4階15は、
図12~
図15に示すとおりであり、このRC造病院建物11に対して、微動診断を実施した結果を紹介する。平成26年4月に耐震診断が実施されており、値が0.6を超える補強計画も立案されたが、病院を稼動しながらの工事は実施不可能と判断し、倒壊を防止する目的で、SRF工法(ポリエステル繊維ベルトによる巻きたて工法:本明細書の段落「0194」参照)で主要な柱を補強する「軸耐力補強」が施工されている。
【0183】
微動観測は、4台の微動計21を、
図12~
図15に示すような4種類の配置で実施した。1回目(計測1)及び2回目(計測2)では、1階床から4階床までの各層のA2通り、及びA4通に、それぞれ各1箇所づつ、鉛直アレー状に設置している。計測3では、1階のA4通りの点と2階のA2、A4、B1の各点に設置した。計測4では、1階のA4通りの点と3階のA2、A4、B1の各点に設置した。
【0184】
計測は、約2時間程度で、計器設置、5分間連続計測、計器の配置替えと順次実施し、4種類の計器配置による計測及び撤収を行っている。補強工事実施前は、平成29年8月8日15時~18時までの間、病院が稼働中実施している。補強後は、平成29年9月22日の14時~16時までである。補強工事の工期は、平成29年7月20日から9月30日までであるが、8月8日の時点では、事前準備のみで施工は行われていない。また、9月22日の時点では、躯体工事は完了し若干の仕上げを残すのみであった。
【0185】
微動診断は、各点で観測された全記録長5分間の時刻歴を、それぞれ、約1分間づつの互いに重複を許した5~7個の部分に分け、それぞれの部分についての各指標を計算して、計測毎に平均値と標準偏差を計算した。表21以降に後掲する各表ではこの平均値を示している。上記の計測を、それぞれ、SRF工法の補強工事実施前(補強前)と実施後(補強後)に行って、補強効果の影響を見た。
【0186】
微動計では、加速度時刻歴を観測し、10Hzのハイカットフィルター、0.2Hzのローカットフィルター(4次バターワース)を用いた後に、速度、変位は線形加速度法による数値積分で求めた。
図16~
図22には、対象建物の伏図と軸組図を示す。なお、4’通りには、エキスパンションジョイントが設置されている。耐震診断は、1~4’通りまでと、これ以外に分けて行われている。本明細書で引用する診断結果は、1~4’通りまでを対象とした結果である。
【0187】
2)性能指標
表21には、数式32に示した累積強度指標の期待値(CTSD)mikの補強前後の値を耐震診断計算から得られたCTUSDと比較して示す。計測1とは、A2通の鉛直アレー、計測2とはA4通の鉛直アレーを示す。また、表22には補強前後の変化率と計算値との比較を示している。表23及び表24には、基準化入力エネルギーについて、補強前後の微動診断で得られた値WKomikと計算で得られた値WKoikと補強前後の変化率及び計算との比較を示す。また、表25及び表26には、損傷度の期待値(Id0m)の補強前後の値と計算値(Id)及び補強前後、計算との比較を示す。なお、表21中
の括弧内は、第二種構造要素を考慮した値である。また、損傷度の計算とは、履歴吸収エネルギーの限界値を耐震診断の計算で求めた部材グループの強度と靱性から、数式47で計算し、履歴吸収エネルギーを略算式で計算したものである(本明細書の段落「0199」参照)。さらに、本例の計算では、履歴吸収エネルギーの計算に用いる限界加速度を求めるにあたり(本明細書の段落「0149」参照)、保有水平耐力ではなく、累積強度指標と形状指標の積(数式32参照)を用いている。
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
補強工事は、1階から3階までの各階の主要な柱にポリエステル繊維製の高延性材(ベルト)を巻きたてることでせん断強度と軸耐力を確保する方法(SRF工法)で行われた。補強設計は、全ての柱の検定比が1.0を上回るようにしている。なお、各階の地震時軸力の検定比の最大値を倒壊危険度値(If値)と称して、倒壊防止目的の補強の設計指標としている。表25右2列に補強前後のIf 値を掲げた。計算において柱の軸耐力は大変形(F>3.0)時の残存軸耐力としているので、RC柱では補強前はゼロとなり、
倒壊危険度値Ifは、無限大となっている。
【0195】
表21右側の診断計算の補強前後を見ると、補強工事によって、一階のX方向を除いて累積強度指標CTUSDが低下しているが、これは、柱型付き壁、あるいは袖壁付き柱にスリットを切って柱を巻きたてた為である。ただし、補強後のCTUSDは、補強前の診
断結果に補強した部材の強度・靭性の増減を反映し、再度グルーピングを行って集計した略算値である。なお、スリットを切ったことによる形状指標SDの変化は考慮していない。補強工事による強度指標の低下は、本補強設計では、Y方向の強度には余裕があると見て、強度を多少減らしても軸耐力を確保し倒壊を防止することを目標とした結果である。また、表25及び表26に示すように補強により、損傷度Idは、補強前に2~3割程度にまで大きく減少し、補強後は、全ての階と方向で基準値1.0を下回っており、補強工事によって損傷も許容限界内に収まったことを示している。
【0196】
表21及び表22に示した診断計算による累積強度指標C
TUS
Dと微動診断で得られた累積強度指標の期待値(C
TS
D)
mikの補強前の値を比較してみよう。計測2については、3階で微動診断値が4割程度低いものの、他の階と方向は、ほぼ同様の値であることが分かる。一方、計測1では、1階はほぼ同様であるが、2階と3階で微動診断結果が診断計算の2割程度と大幅に小さな値となっている。これは、以下のような、計測位置周辺の構造的な特徴を反映しているものと考えられる。
図17の軸組図に示すように、計測1(2通)X方向は、ほぼ壁の無いフレームである。また、隣接する1通りの壁の開口は大きく、3通りには壁がない。一方、計測2(4通)X方向は、ほぼ壁のフレームであり、隣接する4’フレームも同様である。計測1(2通、A通)Y方向は、壁が無いか、開口が大きい。一方、計測2(4通、A通)Y方向は、開口があるものの壁がついている。これは、耐震診断の形状指標にも反映されている。即ち、表21右側に示した形状指標S
Dは、X方向2階と3階で0.63と小さな値を示している。X方向の壁の偏在の結果、2通付近では、XY両方向の層間変位が大きくなっている。
【0197】
表22の補強前後の変化率を見ると、計測1(2通付近)では、(C
TS
D)
mikがほぼ一様に2割程度向上している。これは、
図16~
図22に示したSRF工法の柱補強によって、柱中心の1~3通りのX方向フレーム及び、2通り付近のY方向のAフレームの振動特性が改善され、基準地震動に対する層間変位が減少した効果であると言える。一方、計測2では、補強前後の変化はほぼ見られないか、(C
TS
D)
mikが減少している。しかし、表21の絶対値を見れば、計測2では、補強後は、X、Y両方向ともに1、2階が0.5~0.6程度、3階が0.2程度とそろった値となっている。計測1でも、同様に、1階が0.6程度、2、3階が0.2程度とそろっている。以上は、SRF工法で主要な柱を補強した結果、震動特性が安定した結果であると考えている。
【0198】
表22に示した診断計算と微動計測で得られた値の大きさの比較を見ると、偏心の少ない一階では、計測1、2ともほぼ計算と計測が同じ値となっている。これは、微動診断法及び耐震診断が想定している地震動の地表面変位最大値の期待値の設定(本明細書の段落「0113」~「0114」参照)がこの例では妥当であったことを示すといえる。また、偏心のある2階、3階においては、計測1と2で大きく違った値が計測されており、鉛直アレー観測によって、構造の詳細な特性が把握できることを示す例となっている。
【0199】
表23に示した基準化入力エネルギーWK0ikと許容限界値Wl0ikをみると、構造品質保証研究所刊行:2015年版 SRF工法設計施工指針と解説P112に示した基準化した履歴吸収エネルギー(以下、基準化入力エネルギーという。)WEの略算式では、入力エネルギーに対する地震動と構造物の影響は一律の係数mE=5.0として与えることとしているので、補強前後で入力エネルギーは変化しない計算となっている。一方、本明細書では数式49に示したように、構造物の強度、応答倍率、振動のバンド幅の影響を反映する算式となっているので、補強前後で変化している。ただし、表23では、緑本のWEにAiを乗じて、支持する質量だけで基準化した値として表示している。
【0200】
基準化入力エネルギーの絶対値としては、偏心の影響を大きく受ける補強前の計測1のX方向で、計測が計算の4倍から7倍程度と大きな値となっているが、その他はほぼ同様
の値であると言える。従って、この例は、微動診断法及び表19に示した現行規準相当の地震動レベルの設定値が損傷度に関しても妥当であることを示すと言える。
【0201】
表23及び表24に示した基準化入力エネルギーの補強前後の変化率を見ると、偏心の影響の大きい計測1については一様に、6割程度に減少している。一方、計測2では、X方向の1、2階で大きく減少しているが、3階では両方向ともに増加している。特に計測2のY方向の増加率が約7倍と大きい。これらは、直接的には、表22に現れている補強前後の強度(CTSD)mikの変化を反映したものである。即ち、本例は、基準化入力エネルギーの限界加速度の計算において、累積強度指標を用いているので、この強度の増減が反映された結果となっている。ただし、Y方向での増加率は大きいが、絶対値自体は許容値と比べて大きくない。
【0202】
表44及び表45に示した損傷度を見てみることとする。計算では、補強前は、X方向で基準値1.0を上回るが、補強後はXY両方向ともに下回る(損傷が許容値以下になる)結果となっている。微動診断によれば、偏心の影響を受ける計測1のX方向を除いて、基準値を下回っている。計測2の3階Y方向は、1.16であるが、ほぼ基準値であると考えてよい。
【0203】
以上から、本建物は、現行基準の想定する大地震に遭遇した場合には、2通り付近では、X方向の振動で許容限界を超える損傷を受ける可能性はあるが、その他の部分では損傷は許容限界内に収まる可能性が高いといえる。なお、微動診断では判定できないが、表44に示した倒壊危険度値Ifが補強後で規準値1.0以下であることから、現行規準を大幅に超える地震動を受けた場合でも倒壊は免れると考えられる。
【0204】
3)層せん断力の高さ方向の分布を表す係数Ai
表27には、層せん断力の高さ方向の分布を表す係数Aiの期待値(Aimk)の補強前後の値を、数式9によって、微動観測によって得られた絶対加速度エネルギー伝達率a(表4参照)と構造物の各層の質量mjから計算したものを、現行基準の計算式(数式10)から得られた値と比較して示し、表29には補強前後の変化率及び計算と実測の比を示している。
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
実測値の補強前後の値を見てみることとする。計測1では、各階、各方向ともに最大でも2%程度しか変化していない。計測2では、3階で10%~20%増加しているが、2階では変化は5%以下である。計算と実測の比を見ると、2階では、計測点、補強の有無に関らずほぼ一致している。一方、3階では、補強前は、計測1.2とも、計算よりも実測が10%程度小さく、補強後は、計測2では、実測と計算が一致するか、Y方向では10%程度大きくなっている。
【0209】
上記各数値の絶対値を見れば、実測と計算はほぼ一致している。これは、層せん断力の高さ方向の分布を表す係数の微動計測による測定法により、現行基準で低層建築物の最大応答層せん断力分布であると考えられている震度一様分布が実測されたことを示している。また、3階の補強前後の変化、計算との比較は、補強工事によって、3階の強度が特に大きかったものを、スリットを切ることで2階以下に近づける方向に修正した効果が現れていると考えられる。
【0210】
計測2の3階Y方向については、実測のAi(Aimk)が、計算よりもかなり大きくなっていることは、スリットを切ったことにより、この部分の振動を大きくする構造となったことを示している。これが、表21に示した強度指標の実測値(CTSD)mikの低下(0.60→0.20)、表23に示した基準化入力エネルギーWK0ikの増加(5.4→37.9)、及び表25に示した損傷度Id0ikの増加(0.80→1.16)に表れている。ただし、スリットを切った後にSRF工法で柱を巻き立てたことにより、同表で、倒壊危険度は、各階で1.0を下回っている。また、同表で、微動観測により、計測2の付近に関しては損傷度も各階でほぼ規準値(1.0)以下となったことが確認できる。また、計測1付近では、Y方向に関しては、1.0を下回っている。計測1のX方向の損傷がある程度予測されることに関しては、1通りの壁にSRF工法で耐震被覆を
行って振動エネルギーの吸収を図ることが有効である。今回の補強は、倒壊防止目的で行ったものであり、損傷制御する立場からは、今後の工事で上記の対策を実施したい。
【0211】
4)平均加速度、平均速度伝達率Baik、Bvik
微動観測結果から、数式13及び数式14によって平均加速度、平均速度伝達率を計算し、補強前後の値を比較して表30及び表31に示している。これらは、構造物の第i層が支持する部分の空間平均加速度、あるいは速度と規準点の加速度、あるいは速度との比である。従って、一階の値は、構造全体の平均応答倍率となる。また、Aiは、平均加速度エネルギー伝達率Baikの各階の値を一階の値で規準化した値である(数式17参照)。
【0212】
【0213】
【0214】
本建物は、第2種地盤に立地しており、地盤の固有周期Tc=0.6sec、建物高さh=14.3m、この内鉄骨部分の高さ2.95m、鉄骨造である階(地階を除く)の高さh[m]に対する比λ=0.206、従って、現行基準の算式(数式12参照)では、建物固有周期は、T=h(0.02+0.01λ)=0.32secと算定される。従って、T<Tcより、振動特性係数Rt=1.0と計算され、加速度応答倍率は、現行基準制定時の標準的な値である2.5~3.0であると結論される。
【0215】
以上を前提に、1階の値である実測の応答倍率を見てみよう。加速度、速度ともほぼ同様の値であり、計測1では、補強前で、2.5~4.0、補強後で、2.0~3.7、また、計測2では、補強前で、2.0~2.4、補強後で、1.6~2.2である。絶対値は、現行基準の想定である2.5~3.0と概ね等しい。これは、微動診断法の妥当性を示している。
【0216】
次に、補強前後の変化率を見てみることとする。表31に示すように、各階が支持する部分の加速度応答倍率については、補強後の計測2のY方向だけが若干(7%)増加しているものの、他の計測点では各方向ともに7割~9割程度に減少している。また、速度応答倍率に関しては、計測2のY方向で若干増加しているが、他は減少している。これらの数値は、補強工事によって、構造系が地震の影響を受けにくいように変化したことを定量的に表している。これらの値は、損傷度の計算に用いられており、前項までに述べた各指標値に、上記の特長が表れている。
【0217】
5)微動特性
表32には、補強前後の微動加速度のRMS、及びエネルギー伝達率と補強前後の変化率を示す。表52には、補強前後の微動加速度の中心周期とバンド幅指数を示す。同様に
表34~表37には、微動速度、変位に関して特性を掲載している。加速度計により、微動加速度を計測し速度、変位はこれを10Hzのハイカット及び0.2Hzのローカットフィルタ処理した後に線形加速度法で積分して求めている。各表中で、階とは、その階の床面である。
【0218】
【0219】
【0220】
【0221】
【0222】
【0223】
【0224】
エネルギー伝達率は、本明細書の段落「0067」に定義した基準点のRMSと各階のRMSの比で、即ち、振動の増幅率であり、前項までに示した各診断指標を計算する素となっている。
【0225】
中心周期は、数式1で、バンド幅指数は、本明細書の段落「0156」に記載した方法で計算したものである。中心周期は、定常ガウス過程であればゼロクロス周期の期待値であり、バンド幅指数は、正弦波で1.0、ホワイトノイズで0となる。バンド幅が大きいほどゼロに近づく。補強前後の変化を見ると、加速度については、前後でほぼ等しいか若干大きくなっている。また、速度については、中心周期が計測1では若干大きくなり、計測2では若干減少している。バンド幅指数は、両観測点ともに増加している。即ち、バンド幅が狭くなっている。微動変位について見ると、補強後は明らかに中心周期が減少し、バンド幅が増大している。これは、補強によって、振動が正弦波に近づいて、かつ、構造系の剛性が向上したことを表している。
【0226】
表38~表40には、微動加速度、速度、変位に中心周期測定値と現行基準の1次固
有周期の計算値を比較して示している。微動あるいは、地震動を受ける構造物は不規則振動をするので、変位、速度、加速度の中心周期はバンド幅に応じて増大する(本明細書の段落「0156」参照)。本例では、現行基準の算式で計算した1次固有周期の値の周りに、加速度、速度、変位の中心周期がある。なお、加速度、速度、変位、それぞれについては、各点、各階、各方向ともにほぼ同じ中心周期の値が得られていることから、建物全体が固有のモードで振動していると考えられる。
【0227】
【0228】
【0229】
【実施例2】
【0230】
1)対象施設及び計測方法
計測対象は、1994年竣工の地上11階SRC造(X方向2スパン、Y方向1スパン、一階部分が駐車場のピロティ集合住宅建物(
図24参照)である。ただし、X方向には階段室等がある。平成29年8月末から9月に掛けて、一階の独立柱2本(A2、A3)をSRF工法(本明細所の段落「0194」の1行目から3行目参照)で巻きたてた。2階~11階までは、住戸であり、2階~10階の2通が耐震壁である。
計測は、各階のB2及びB3柱付近にそれぞれ計器を設置しての鉛直アレー2列と、一階及び屋上のB1、A2(
図25参照)、B3付近にそれぞれ3台ずつの計器を配置しての3点平面観測である。補強前は、平成29年8月25日に4台の計器で補強後は、同年12月19日に12台で実施した。なお、B2付近では2階に立ち入れなかった。
図26の一階平面図に補強した柱位置と計器配置を示す。
【0231】
2)計測結果
図27は、補強後のB3鉛直アレーの微動変位の水平2方向の軌跡を各階毎に6分間の計測を2分ずつ3つのパートに分けて表示している。一階から上層階に向けて増幅していること、各点がほぼ円運動していることが読み取れる。
【0232】
表41はB2鉛直アレー及び屋上面の、表42にはB3鉛直アレーのエネルギー伝達率(一階とその階の微動変位RMSの比)と補強前後の変化率を示す。なお、表41で面と記載した欄は、屋上面の座標軸周りの回転に関するエネルギー伝達率である。補強後に、X軸周りは、1/10程度、Y軸周りは1/30程度にまで減少している。表41と表42のRF以下の欄は、併進運動のエネルギー伝達率と補強前後の比であるが、B2、B3
ともに、上層階ほど大きく減少している。これらは、SRF工法で、一階ピロティ部分の独立柱2本(A2、A3)、特に下階壁抜け柱A2を巻きたてたことで、振動モードが安定した効果を表している。
【0233】
また、
図27は、補強前、
図28は、補強後の屋上面の運動を屋上面3箇所に設置した微動計による変位データ(XYZ3成分)を構造解析結果可視化ソフトウェアAVSに入力して、可視化(アニメーション化)したものの一瞬を描いたものである。該アニメーションを見ると、補強前は、屋上面が上下左右に大きく振動しているが、補強後は、略水平面内で円を描くように振動していることが分かる。これは、表1.3.9.1に面と表示したX軸、Y軸周りのエネルギー伝達率が、それぞれ、補強前後で11%と3%に減少していることを一目瞭然に示すものである。
【0234】
【0235】
【0236】
表43及び表44は、補強後の層せん断力分布係数(Ai)、及び微動変位の中心周期(Tc)の実測値と一次固有周期(T)耐震基準による計算値(本明細書の段落「0038」~「0058」記載内容)である。A1の実測値は、5階前後まではほぼ一致しているが、上層階では計算値より明らかに小さく地震動の増幅が少ないこと、即ち、ピロティ構造特有の振動モードであることを示している。中心周期は、下層階と屋上では若干ばらついているが、上層階ではB2、B3ともほぼ一定で、計算値に近い。
【0237】
【0238】
【0239】
表45は、B3付近の保有水平耐力に達するときの第一層の層せん断力係数(Cui1km )の実測値である(数式27)。2階から10階について、X方向に比べY方向の
値が大きいのは2通りの2階から10階の戸境壁が耐震壁であることを反映している。また、4階、5階では他の階に比べて低い。本建物は、4階、5階のコンクリート打設工事を行っていたときに豪雨にあい、工事が中断し、一旦撤収して1週間程度してから再開されたとのことである。この豪雨と中断によってコンクリートの品質が低下し保有水平耐力(強度)の低下を招いたと考えられる。
【0240】
【0241】
表46及び表47には、本明細書の段落「0119」~「0172」記載内容、及び該内容で導いた履歴吸収エネルギーの期待値の速度換算値(Vmik)と損傷度(Idik)を示す。なお、入力地震動の性質は、現行の耐震基準の想定数値として、強震継続時間s0=7sec、最大速度Vmax=0.8m/sect、最大加速度Vmax=4.0m/sec2としている。また、新耐震基準建物であることを考慮して、各階、各方向とも靭性指標Fuik=3.0としている。なお、限界繰り返し回数については、2階以上は、鉄骨鉄筋コンクリートの柱であることを考慮してNik=15とし、一階はSRF工法による巻きたて補強の効果を確認した実験からNik=45とした。
【0242】
表46及び表47には、入力地震動を、最近の地震環境を代表する数値として、強震継続時間s0=sec、最大速度Vmax=1.2m/sec、最大加速度Amax=10m/sec2としている(表19参照)。靱性指標と限界繰り返し回数については上記のとおりとした。
【0243】
表46の履歴吸収エネルギーの計算結果を見れば、現行基準の想定する地震動に対しては、Y方向についてはほとんど吸収しない(降伏変位に達しない)結果となった。しかし
、X方向に関しては、コンクリートの施工不良が疑われる4階、5階と最上階では降伏するとの結果である。また、表48の最近の地震環境を代表する地震動に対しては、B3付近のY方向の中間階を除いて、大きな吸収エネルギーが出るとの結果である。
【0244】
表47及び表49の損傷度は、各層が吸収するエネルギーが損傷限界に収まるかを示すものだが、現行基準の想定する地震動に対しては、B2、B3付近とも、XY両方向について限界値(1.0)を下回るとの結果である。この意味で、現行基準(新耐震基準)に適合していると言える。ただし、コンクリートの施工不良が疑われる4,5階と最上階ではほぼ限界に近いとの結果である。一方、表49の最近の地震環境を代表する地震動に対しては、B3付近のY方向では、4,5階を除き、限界内に収まるが、X方向では大きな損傷が出る結果である。なお、本建物は、ピロティ構造であり、表48で、1階で大きな履歴球種エネルギーが発生すると計算されているが、それでも、SRF工法で柱を巻きたて補強した1階とその直上の2階については、ほぼ限界値内に収まる結果となった。他の階についても、巻きたて工法等で対策を講ずることで損傷を低減することを考慮すべき結果である。
【0245】
上記の例では仮に定めたが、各部材の限界繰り返し回数と靭性指標は、同種の部材に対する繰り返し載荷実験から得られた荷重変位履歴と損傷の程度の観察から決定することができる。また、地震動の最大加速度、速度、変位、強震継続時間は、地震動観測結果を総合して決めることができる。
【0246】
【0247】
【0248】
【0249】
【0250】
以上に示すように、本発明の損傷度は地震動のレベルに応じた構造物の損傷の程度とこれに対する対策の効果を、構造物の微動観測により実測された各種の伝達率と、限界繰り返し回数と靭性指標を用いて定量的に示すことができる。耐震設計の合理化に資するものである。
【0251】
以下、本発明方法のブロック塀への適用例について説明する。
【0252】
1.設置
図29は、ブロック塀、基礎および地盤と微動計との配置関係を示す模式図であり、微動計1をブロック塀16の頂部17、基礎18あるいは、基礎18付近の地盤面20に水平に設置する。微動計1をブロック塀16の頂部17に設置する場合は、微動計1の足1aがブロック塀16の頂部17の中心線上にくるようにする。頂部17および周辺地盤21上に設置するとき、および、基礎18上のフリクが大きい場合には、鉄板を用いる。
【0253】
2.計測
頂部17および基礎18上での6分間程度同時計測をする。データは、建物診断と同様に、フリーキックと微動診断用エクセルを用いて分析する。このとき、階高は、ブロック塀16の高さ(頂部17の微動計1と基礎18あるいは周辺地盤21の微動計1のz座標の差)Hとし、層の支える重量はゼロとする。
計算は、それぞれの時刻歴の速度、変位の計算、RMS、中心周期、および伝達率とする。層間変位あるいは、頂部の絶対変位を注目時刻歴d(t)とし、基礎17あるいは周辺地盤21の計測点(
図29中のNo.1参照)を基準点とし、これとの伝達率(h
dk)を計算する。
【0254】
3.診断
診断基準が想定する大地震に対する基準点変位xGkmaxを2.5cmとしたときの頂部23の相対変位、あるいは絶対変位を下式(黄色本 式1.4.8)で予測する。
【0255】
【0256】
ただし、上式で、d(t)=y2(t)-y1(t)、hdk=RMS[d(t)]/RMS[y1(t)]とすれば、相対変位が予測される。
【0257】
また、d(t)=y2(t)、hdk=RMS[d(t)]/RMS[y1(t)]とすれば、絶対変位が予測される。
【0258】
ここで、d(t)、y2(t)、y1(t)は、それぞれ、頂部23と基準点の相対変位、頂部23の絶対変位、基準点の絶対変位のy方向(ブロック塀22直交方向)成分である。
【0259】
数式50で計算した地震時の頂部16と基礎17との相対変位、あるいは頂部16の絶対変位の期待値から、ブロック塀15の転倒危険度(Itbw)を計算する。
【0260】
転倒限界傾斜の平均値をD/Hとすれば、下式となる。
【0261】
【0262】
ただし、D[cm]は、ブロック塀15の幅(
図29参照)、E[d
Gkmax]は、耐震診断基準が想定している大地震に対するブロック塀15の頂部16の絶対変位あるいは相対変位の期待値、a(表50参照)は、転倒限界傾斜をD/Hとした場合の転倒限界頂部変位である。
【0263】
【実施例3】
【0264】
次に、ブロック塀に本発明方法を適用した具体的な微動計測事例を以下に説明する。
【0265】
諸元は、以下のとおりである。
場所:大阪府枚方市 某マンション ブロック塀
構造:CB造
厚さ:150[mm]
延長:~15000[mm]
高さ:1870[mm] (基準となる計測装置から頂部までの高さは、1790[
mm]
ブロックサイズ:(厚さ×延長×高さ)150[mm] ×390[mm]×200
[mm]
控壁:無し
微動計測装置4台使用
【0266】
図30(a)~(c)は、計測地点毎の実際の計測状況を示すものであり、そのうちの(a)は計測地点1の状況を、(b)は計測地点2の状況を、(c)は計測地点3の状況をそれぞれ示す。また、
図31は、
図30との対応のもとで上からブロック塀を見た際の計測装置(微動計)の配置状況を模式的示す説明図である。
【0267】
ブロック塀の転倒危険度については、数式51により転倒危険度を算定した。その結果を表51に示す。
【0268】
【0269】
表51によれば、転倒危険度は、いずれも1.0を下回り、耐震診断基準が想定する地震動(最大変位2.5cm)では、転倒の危険性は大きくはないと判定された。しかし、これを上回る地震動(例えば、最近の地震動)では転倒の危険がある。
【0270】
微動診断の役割について
地震の作用は地動加速度に比例する慣性力であるとする方法(慣性力近似)は、新旧耐震基準の別、動的、静的計算に関らず、現行の耐震設計の基本原理となっている。これは、有限要素法に代表される数値計算法、デジタルコンピュータの発達と相まって、1960年代の後半から現在まで、未だかつて地上に存在しなかった規模、形状、材質の構造物を、我が国を始めとする世界中の地震帯地域に続々と建設する原動力となった。
新耐震基準で構造物の崩壊過程を数値的に追うように規定されたことにより専用ソフトがないと構造設計ができないほど、耐震計算は複雑化した。専門家でも、構造耐震指標や保有水平耐力、あるいは、動的解析の計算過程の詳細な把握は物理的にできない。コンピュータの打ち出す数値を信じるしかないのが現状である。一方で、20世紀末から今世紀にかけ、地震活動は活発さを増し、観測される地震動の大きさ、継続時間ともに、1970年代までの地震観測に基づいて定められた現行基準の想定を数倍から一桁上回っている。
【0271】
地動加速度が1Gを超えるような最近の地震動レベルでは、慣性力近似は成立しない。3次元運動をしようとする構造物・地盤系をx方向、y方向に分けて設計することの非合理性も際立ってくる。そもそも、大地震の時空間的スケールは個々の構造物のスケールと比較にならない。大地震の地震動を構造物のスケールで捉えようとすれば、極めてランダムになる。大地震の引き起こす現象は、条件が少し変わっただけで、結果が不連続的に大きく変化する。統計的現象と呼ばれるものである。現行基準の方法による計算を根拠に、これまで存在しなかった規模や形式の構造物を建設することは、入力地震動においても、計算の仮定とモデルにおいても、合理的であるとはいえない。
【0272】
1891年濃尾地震を契機に我が国で開始された近代的な耐震構造の研究は、鉄筋コンクリート材料の設計施工技術の開発・改良と相まって、1923年関東大震災にも耐え抜き、1960年代までに東京を始めとする主要都市に中低層RC系建築物を基調とする重厚な景観を生み出した。ところが、1963年の高さ制限撤廃、1964年東京オリンピック、高度経済成長政策、コンクリートポンプ圧送工法の急速な普及も手伝って、以前の建物が取り壊され、過密化、高層化が急速に進展している。
【0273】
1995年阪神淡路大震災の震度7の帯の地域で、現行基準の想定を3倍以上上回る地震動を受けても、中低層のRC系建築物は旧基準でもピロティを除けば約半数が無被害で
あり、倒壊したものは数パーセントに過ぎない。土木構造物である新幹線高架橋、高速道路等が倒壊したが、設計で想定した数倍の地震動を受けており、かつ、旧河道等の地盤の影響の大きいところに被害が集中しており、倒壊することは当然であったといわれている。2011年東日本大震災においても、同様である。旧基準でも建築物は地震動で倒壊したものは僅かである。震度5以上の地震を受けたIs値0.3以下の中低層RC系公共建物98棟の内、倒壊した物はなく、97棟がほとんど無被害で使用継続していた。一方で、耐震補強した校舎、マンション等が使用不能となり、取り壊されたり、大規模修繕を余儀なくされた。また、東北新幹線は、橋脚に鉄板を用いた耐震補強が実施済みであったが、震災後、梁の破壊、架線等の上部工の損壊により不通になり、復旧に50日以上を要している。
【0274】
現行耐震基準の抜本的改定が必要なことは、先述の診断基準において述べられている。ここでは、微動診断の特徴と合理的な耐震設計・監理、補強工事を行う上で、微動診断が果たす役割を述べる。
【0275】
(1)応答計算
地震時に構造物に求められる性能としては、損傷が少なく、使用継続できることが大きい。地動加速度が1Gを超えるような最近の地震動レベルでは、保有水平耐力等の指標を用いて、構造物が非線形化した後を追跡することは物理学的に困難であるだけでなく、使用継続性を確保するという観点からは、非線形化自体を生じない構造物、即ち、診断基準で述べられているように、強度が高い(非線形化のハードルが高い)建物が望まれる。
応答計算で分かることは、ある特定の地震動、あるいは、一般的な地震動に対して、構造物地盤系が線形に応答した場合の振動モード、最大加速度、速度、変位、履歴吸収エネルギー等である。微動診断により、弾性範囲内の計算に必要な情報を直接得ることができる。また、計算と実測の比較も容易である。
【0276】
(2)地震動想定
地震の作用は、近接作用である。震源から周辺地盤へ、そして周辺地盤から基礎へ、土台から一階の柱へと、下から上へ伝わってくるという実現象に則して、想定地震動(計算に用いる地震動)を決めることが合理的である。現行の建築基準が行っているように、構造物の応答加速度、あるいは、応答スペクトルを予め決める方法は合理的でないだけでなく、構造物に過度の地震力を発生させ倒壊したり大きな損傷を受ける危険性がある。ましてや、応答スペクトルに合うような地震動を数値的に合成し、時刻歴応答解析を行うことは、本末転倒になる。
【0277】
想定地震動を定義する場所として、工学的基盤面とする方法があり、限界耐力計算等で用いられている。しかし、実際に構造物が受ける地震動は、直下の工学的基盤の地震動だけでなく、3次元的に広がった広い範囲の基盤面からの影響を受ける。実現象にそった計算、即ち、3次元的な地盤の振動解析計算はほとんど不可能である。これに代えて、1次元の重複反射を計算するのでは、構造物に実際に入力する地震動と計算された地震動の差異は、極めて大きくならざるを得ない。
【0278】
微動診断では、構造物の基礎で、入力振動を与えている。また、想定地震動の性質としては、最大加速度、最大速度、最大変位、及び強震継続時間を用いている。ただし、想定地震動の大きさ等に関して、具体的な数値を決めたとしても、あくまで、期待値(平均値)になる。実際の地震動は、この数値に対して、大きなばらつきを加減したものになる。
【0279】
(3)性能評価
地動加速度が1Gを超え、継続時間が数分以上に渡るような最近の地震動では、木造から超高層まで、目に見える変位が生ずることは避けられず、また、多数の繰り返し変位が
生ずることを明確に取り入れた評価指標が必要である。さらに、構造物の層毎に、指標を集計するのではなく、個々の部材、部分に関する指標の集合体を用いて性能評価を行う必要がある。
微動診断では、使用継続性を直接評価する指標として、損傷度を定義して用いている。これを収震性能指標と称している。
【0280】
(4)合理的耐震構造
最近の地震動レベルでは、現行基準が想定しているような、全体崩壊形を呈する構造物では、計算上倒壊することは避けられず、使用継続性は望むべくもない。大きく変形・振動させ、地震動のエネルギーを吸収する部分と損傷限界内の変形に収める部分を予め計画する構造が合理的である。
整形なRC系構造物では、各々の柱の柱頭、柱脚部が曲げヒンジとなり、全体的な変形と運動を生ずる。偏心したもの、ピロティでは、壁の少ない部分の柱頭、柱脚が稼働し、ピロティ階、偏心で振られる部分が大きく振動しエネルギーを吸収することで、その他の階、部分の変形は小さく抑えることができる。
RC系構造物では、岩盤立地でない限り、構造躯体の剛性は周辺地盤に比べて十分大きいので、上記の躯体の振動部分に加えて、周辺地盤と躯体の境界(基礎)によるエネルギー吸収を計画的に行うことを考えたい。基礎と周辺地盤の相対運動を設計に取り入れることが有効である。木造では、個々の接合部、釘打ち部の変形・エネルギー吸収能力が大きいので、3次元的な可動性、復元性のある接合部、釘打ち部とする。また、基礎からの土台の浮き上がりによる地震作用の低減を具体的に設計に反映したい。
微動診断で現行基準の想定地震動に対して、構造物各部分の累積強度指標及び損傷度を計算し、固有振動モードを可視化することで、振動の腹、節を抽出し、要の部材、及び接合部に対してエネルギー吸収能力を付与する補強を行うことで、大地震に耐える運動能力とエネルギー吸収能力を持つ構造とすることができる。上記の補強には、SRF工法が有効である。
【0281】
(5)新築時確認検査、及び構造的改修工事の検査
構造物が竣工した後、あるいは、改修工事が完了した後に微動診断を実施し、振動モード、振動周期(Tm)、層せん断力分布係数(Aim)、応答倍率(Ramk、Rvmk)、累積強度指標(CTSD)m 、損傷度(Idm)を計測し、設計計算と比較して、
計算・工事の妥当性を確認するとともに、必要に応じて、対策工を追加する判断材料とすることができる。なお、上記各指標は、構造物全体で計算するとともに、部分に設置した鉛直アレー計測で、その部分の振動特性も把握する。
現在は、新築の中間検査と確認検査は、検査員が目視により、図面との整合性を確認しているに留まっている。耐震改修に関しても同様である。微動診断により、検査員の判断指標に客観的な数値を加えることができる。
【0282】
(6)定期健全性診断
定期的に微動診断を実施し、前項の各指標を計測し、構造物の劣化等が認められた場合には補修を行う判断材料とする。また、補修後に再度微動診断を実施して補修効果を確認する資料とすることができる。
【0283】
(7)既設構造物の耐震診断と耐震改修設計
現行基準あるいは旧耐震基準で建設された既設構造物に対して微動診断を実施し、耐震性能を評価し、必要に応じて、対策工を設計・施工する資料とする。また、補強前後に計測・診断を行い、補強効果を定量的に確認する資料とすることができる。
現在は、数ヶ月の期間と数百万円あるいは一千万円以上の費用を投じて耐震診断が実施されている。これは、計算が、複雑でかつ高度の専門知識を要する為である。診断計算を単純化し、微動診断によって得られた指標と総合して判断することとすれば、費用と時間
を大幅に縮減することができる。
【0284】
(8)被害・無被害事例の分析
今後、多数の実測例が蓄積され、実地震での実被害・無被害との相関分析等が行われれば、計算と診断者の判断の比率を最小化し、微動診断結果を主とした耐震診断と改修箇所の抽出等の改修設計が可能になると期待される。さらに、新築時、改修後、及び定期検査における微動診断の役割を増やし、計算と判断を必要な範囲に絞り込むことが可能になる。
【0285】
耐震基準の課題とSRF工法(包帯補強)を用いた解決策については、2017年4月に耐震の変革と題した論文を公表している。微動診断とともに、耐震設計を合理化し、地震に対する経済的な負担とリスクを軽減するお役に立つことを願っている。
【0286】
以上に詳述した説明からも明らかなように、本発明によれば、現行の既存構造物の診断・耐震改修設計に用いている累積強度指標、構造耐震指標の期待値や、現行の新築の設計に用いている層せん断力の高さ方向の分布係数の期待値や、構造物の使用継続性を直接評価するための損傷度を定義付けてその期待値をそれぞれ微動の測定値から直接取得することで、構造物の各部分に鉛直アレーを設けた観測により、各フロアーの部分(ゾーン)の震動性情、強度、損傷度等を測定することができる結果、構造物の健全性、安全性を対象物に直接外力などを作用させる従来法より、はるかに詳細な耐震設計、補強のみならず、個々の振動特性に応じた耐震性評価、耐震設計や構造物の使用継続性(耐震補強工事実施の最も重要な目標性能である。)を直接、安価、迅速に評価できることになった。
【0287】
つまり、本発明によれば、以上の指標を用いることで、新築後、改修工事後、また、定期的な診断時に、現行の耐震診断よりはるかに安価かつ迅速に耐震診断を行うことができるので、合理的な耐震補強設計、新設構造物の耐震設計を行うことができることになる。
【符号の説明】
【0288】
1 微動計
1a 足
2 分析器
10 構造物
10a,10b,10c 層境界面
11 RC造病院建物
12 1階
13 2階
14 3階
15 4階
16 ブロック塀
17 頂部
18 基礎
20 地盤面
21 周辺地盤