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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】ノイズキャンセリングシステム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20241224BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
G10K11/178 100
H04R3/00 310
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023216421
(22)【出願日】2023-12-22
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501426046
【氏名又は名称】エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【弁理士】
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100209808
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 高志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴之
(72)【発明者】
【氏名】高杉 親知
(72)【発明者】
【氏名】市川 勉
【審査官】▲徳▼田 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-122729(JP,A)
【文献】特許第5114611(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2023/0252969(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部ノイズを収音するマイクロフォンからのノイズ信号を入力する入力部と、
前記ノイズ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路、前記デジタル信号をフィルタリングするデジタルフィルタ回路、フィルタリングされた前記デジタル信号をアナログ信号の第1のノイズキャンセル信号に変換するD/A変換回路を含むデジタル部と、
前記ノイズ信号をフィルタリングした第2のノイズキャンセル信号を出力するアナログ部と、
前記第1のノイズキャンセル信号および前記第2のノイズキャンセル信号を合成した第3のノイズキャンセル信号を出力する合成部と、
音源からの音声信号に前記第3のノイズキャンセル信号を加えた出力信号を出力する出力部と、
前記第1のノイズキャンセル信号および前記第2のノイズキャンセル信号に基づく制御信号を前記アナログ部にフィードバックするフィードバック部と、
を備えるノイズキャンセリングシステム。
【請求項2】
前記アナログ部は、第1のアナログフィルタを含み、
前記第1のアナログフィルタの特性は前記制御信号に基づき制御される、
請求項1に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項3】
前記第1のアナログフィルタは、抵抗素子、容量素子を含み、
前記抵抗素子の抵抗値、前記容量素子の容量値の少なくともいずれかは前記制御信号によって変化する、
請求項2に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項4】
前記容量素子は可変容量ダイオードである、
請求項3に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項5】
前記抵抗素子はポテンショメータである、
請求項3に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項6】
前記第1のアナログフィルタはローパスフィルタであって、
前記ローパスフィルタのカットオフ周波数は前記制御信号に基づき変化する、
請求項2に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項7】
前記第1のアナログフィルタのゲインは前記制御信号に基づき変化する、
請求項2に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項8】
前記第1のアナログフィルタの位相は前記制御信号に基づき変化する、
請求項2に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項9】
前記第1のアナログフィルタは、ベッセルフィルタである、
請求項2に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項10】
前記フィードバック部は、
前記第3のノイズキャンセル信号をフィルタリングする第2のアナログフィルタと、
前記第2のアナログフィルタから出力された信号のレベルを検出し、前記レベルに応じた前記制御信号を生成するレベル検出回路と、
を含む、
請求項1に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項11】
前記フィードバック部は、
前記第3のノイズキャンセル信号を第2のデジタル信号に変換する第2のA/D変換回路と、
前記第2のデジタル信号をフィルタリングする第2のデジタルフィルタ回路と、
フィルタリングされた前記第2のデジタル信号を前記制御信号に変換する第2のD/A変換回路と、
を含む、
請求項1に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項12】
前記フィードバック部は、前記第3のノイズキャンセル信号に対し、アナログでのフィルタリングとデジタルでのフィルタリングとを並列に行うことで前記制御信号を生成する、
請求項1に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項13】
前記フィードバック部は、さらに、前記制御信号を前記デジタル部にフィードバックする、
請求項1に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項14】
前記デジタル部の前記デジタルフィルタ回路の特性は、デジタルに変換された前記制御信号に基づき制御される、
請求項13に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項15】
前記デジタル部は、前記制御信号に基づいて前記外部ノイズ以外の周波数成分を減衰させる適応型デジタルフィルタを含む、
請求項13に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項16】
前記制御信号は、前記第3のノイズキャンセル信号に基づいて生成される、
請求項1に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項17】
前記制御信号は、前記第1のノイズキャンセル信号および前記第2のノイズキャンセル信号の差分に基づいて生成される、
請求項1に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項18】
前記出力部は前記出力信号によって駆動されるスピーカを含み、
前記マイクロフォンは、前記スピーカから発せられた信号と、前記外部ノイズとを収音可能に構成される、
請求項1に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項19】
前記出力部は前記出力信号によって駆動されるスピーカを含み、
前記マイクロフォンは、前記スピーカから発せられた信号を収音せず、かつ、前記外部ノイズを収音可能に構成される、
請求項1に記載のノイズキャンセリングシステム。
【請求項20】
外部ノイズを収音するマイクロフォンからのノイズ信号を入力する入力部と、
前記ノイズ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路、前記デジタル信号をフィルタリングするデジタルフィルタ回路、フィルタリングされた前記デジタル信号をアナログ信号の第1のノイズキャンセル信号に変換するD/A変換回路を含むデジタル部と、
前記ノイズ信号をフィルタリングした第2のノイズキャンセル信号を出力するアナログ部とを有するノイズキャンセリングシステムの制御方法であって、
前記第1のノイズキャンセル信号および前記第2のノイズキャンセル信号を合成した第3のノイズキャンセル信号を出力するステップと、
音源からの音声信号に前記第3のノイズキャンセル信号を加えた出力信号を出力するステップと、
前記第1のノイズキャンセル信号および前記第2のノイズキャンセル信号に基づく制御信号を前記アナログ部にフィードバックするステップと、
を備えるノイズキャンセリングシステムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ノイズキャンセリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブノイズコントロール(ANC:Active noise Control)は、低減させたい音に対して別途に用意した制御音源から逆位相の音を発生させることで、位相干渉を利用して消音する技術であり、騒音制御やイヤホンやヘッドホンのノイズキャンセラー機能として広く利用されている。例えば、特許文献1には、デジタル部で形成されるノイズキャンセル信号と、アナログパスで形成されるノイズキャンセル信号とによって、ノイズ低減が可能となる帯域とノイズ低減のレベルを補い合うように構成されたハイブリッド型のノイズキャンセリングシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-238870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のハイブリッド型のノイズキャンセリングシステムにおいては、アナログ信号処理およびデジタル信号処理のそれぞれの特性が互いに大きく異なると、ノイズキャンセリング効果が低下してしまう。
【0005】
そこで、本明細書は、上述した課題に鑑みてなされたものであって、ハイブリッド型のノイズキャンセリングシステムにおけるノイズキャンセリングの効果を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書の1つ以上の実施形態によれば、外部ノイズを収音するマイクロフォンからのノイズ信号を入力する入力部と、前記ノイズ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路、前記デジタル信号をフィルタリングするデジタルフィルタ回路、フィルタリングされた前記デジタル信号をアナログ信号の第1のノイズキャンセル信号に変換するD/A変換回路を含むデジタル部と、前記ノイズ信号をフィルタリングした第2のノイズキャンセル信号を出力するアナログ部と、前記第1のノイズキャンセル信号および前記第2のノイズキャンセル信号を合成した第3のノイズキャンセル信号を出力する合成部と、音源からの音声信号に前記第3のノイズキャンセル信号を加えた出力信号を出力する出力部と、前記第1のノイズキャンセル信号および前記第2のノイズキャンセル信号に基づく制御信号を前記アナログ部にフィードバックするフィードバック部と、を備えるノイズキャンセリングシステムが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本明細書によれば、ハイブリッド型のノイズキャンセリングシステムにおけるノイズキャンセリングの効果を向上させることができる。
【0008】
本明細書の前述の説明および以下の詳細な説明の両方は、例示的で説明的であり、特許請求の範囲に記載された開示のさらなる説明を提供するために理解されるべきである。
【0009】
本明細書の追加理解を提供するために含まれ、本出願に統合され、その一部を構成する添付図面は、本明細書の態様および実施態様を例示し、説明と共に本明細書の原理を説明する役割をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態におけるノイズキャンセリングシステムの全体構成例を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態におけるデジタル部の構成例を示すブロック図である。
図3】第1の実施形態におけるアナログ部の構成例を示すブロック図である。
図4】第1の実施形態におけるアナログ部の構成例を示す回路図である。
図5A】第1の実施形態におけるフィードバック部の第1の構成例を示すブロック図である。
図5B】第1の実施形態におけるフィードバック部の第2の構成例を示すブロック図である。
図5C】第1の実施形態におけるフィードバック部の第3の構成例を示すブロック図である。
図6】第1の実施形態におけるノイズキャンセリングシステムの特性を示す図である。
図7】第1の実施形態におけるノイズキャンセルシステムの特性を示す図である。
図8】第2の実施形態におけるノイズキャンセリングシステムの全体構成例を示すブロック図である。
図9】第3の実施形態におけるノイズキャンセリングシステムの全体構成例を示すブロック図である。
図10】変形実施形態におけるノイズキャンセリングシステムの全体構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書の実施形態を詳細に参照し、その例は添付図面に例示できる。以下の説明で、よく知られた機能または構成の具体的な説明が本明細書の要旨を不必要に曇せる場合、その具体的な説明は、簡潔さのために省略することができる。説明された段階および/または動作の進行は、一例示的なものだが、段階および/または動作の順序は、本明細書に記載されたものに限定されず、特定の順序で必ず発生する段階および/または動作を除いて変更され得る。
【0012】
特に明記しない限り、同一の参照符号は、これらが異なる図面に図示されていても、全体的に類似の構成要素を指すことができる。1つ以上の実施形態で、異なる図面で同一の構成要素(または同一の名前を有する構成要素)は、特に明記しない限り、同一または実質的に同一の機能および特性を有することができる。以下の説明で使用される構成要素のそれぞれの名称は、便宜上選択されたもので、実際の製品とは異なり得る。
【0013】
本明細書の利点および特徴とそれらを達成する方法は添付図面に基づいて詳細に後述する多様な例を参照すると明らかになるであろう。しかし、本明細書は以下で開示する一実施形態に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態に実現可能であり、本明細書の一実施形態等はただ本明細書の開示を完全にし、本明細書の技術思想が属する技術分野で通常の知識を有する者に技術思想の範疇を完全に知らせるために提供され得る。
【0014】
本明細書で言及した「含む」、「有する」、「からなる」、「構成する」、「形成される」などが使用されている場合、「だけ」または「のみ」が使用されていない限り、他の部分を追加することができる。本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態を説明するために使用され、本明細書示の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される用語は、例示的な実施形態を説明するために使用されるだけで、本明細書示の範囲を限定することを意図するものではない。構成要素を単数で表現した用語は、特に明示的な記載事項がない限り、複数を含む場合を含む。「実施形態」は、例示的な例であり得る。本明細書に記載された「実施形態」または「一例」で説明された任意の実装は、必ずしも他の実装に比べて好まれ、有利なものと解釈される必要はない。
【0015】
時間関係についての説明の場合、「後に(after)」、「に続いて(subsequent)」、「次に(next)」、「前に(before or preceding or prior to)」などで時間的前後関係が説明されている場合、「すぐに(just)」、「即時(に)(immediate(ly))」、または「直接(に)direct(ly)」が使用されていない以上、連続的または連続的でない場合も含むことができる。
【0016】
第1、第2などを多様な構成要素を敍述するために使うが、これらの構成要素はこれらの用語に制限されない。これらの用語はただ一構成要素を他の構成要素と区別するために使用するものである。よって、以下で言及する第1構成要素は本明細書の技術的思想内で第2構成要素でもあり得る。さらに、第1要素、第2要素などは、本明細書の範囲から逸脱することなく、当業者の便宜に応じて任意に命名され得る。「第1」、「第2」などの用語は、構成要素を互いに区別するために使用され得るが、構成要素の機能または構造は、構成要素の前の序数または構成要素の名称によって限定されない。
【0017】
本明細書の構成要素を説明するにあたって、第1、第2、A、B、(a)、(b)などの用語を使用され得る。このような用語は、その構成要素を他の構成要素と区別するためのもので、その構成要素の本質、基礎、順番または個数な定義するために使用されない。
【0018】
「少なくとも1つ」の用語は、1つ以上の関連項目から提示可能なすべての組み合わせを含むものと理解されなければならない。例えば、「第1項目、第2項目、および第3項目のうちの少なくとも1つ」の意味は、第1項目、第2項目、または第3項目のうちの2つ以上から提示された項目の組み合わせだけではなく、第1項目、第2項目、および第3項目のいずれかの組み合わせのみを含むとすることができる。
【0019】
第1構成要素、第2構成要素「および/または」第3構成要素の表現は、第1、第2および第3の構成要素のうちの1つまたは第1、第2および第3の構成要素の任意の組み合わせまたはすべての組み合わせと理解されなければならない。例えば、A、Bおよび/またはCは、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A、BおよびCの任意または何らかの組み合わせ、またはA、BおよびCのすべてと見なすことができる。さらに、「構成要素A/構成要素B」の表現は、構成要素Aおよび/または構成要素Bと理解されなければならない。
【0020】
1つ以上の実施形態で、「の間」および「の中」の用語は、特に明記しない限り、便宜のために単に交換可能に使用され得る。例えば、「複数の構成要素の間」の表現は、「複数の構成要素の中」と理解することもできる。他の実施形態で、「複数の構成要素の中」の表現は、「複数の構成要素の間」と理解することもできる。1つ以上の実施形態で、構成要素の個数は、2であり得る。1つ以上の実施形態で、構成要素の個数は、2よりも多いことがあり得る。
【0021】
1つ以上の実施形態で、「互いに異なる」の表現は、任意の構成要素が他の構成要素と異なるものと理解することができる。
【0022】
1つ以上の実施形態で、「の1つ以上」および「のうちの1つ以上」の表現は、特に明記しない限り、便宜のために単に交換可能に使用され得る。例えば、「の1つ以上」の表現は、「のうちの1つ以上」と理解することもできる。例えば、「のうちの1つ以上」の表現は、「の1つ以上」と理解することもできる。
【0023】
本明細書の1つ以上の実施例のそれぞれの特徴が部分的または全体的に互いに結合または組み合わせ可能で、技術的に多様な連動および駆動が可能であり、各実施例が互いに対して独立的に実施可能であり得、連関の関係で一緒に実施することもできる。1つ以上の実施例で、本明細書の多様な実施例による各装置の構成要素は、動作可能に結合されるか、または構成され得る。
【0024】
本明細書で使用される用語(技術的および科学的用語を含む)は、本明細書が属する技術分野で通常の知識を有する者によって理解されるものと同一の意味を有することができる。さらに、一般的に使用される辞書で定義された用語のような用語は、例えば、関連技術の文脈でその意味と一致する意味を有することして解釈されるべきであり、特に明記しない限り、理想化されるか、または過度に形式的な意味と解釈されてはならない。
【0025】
[第1の実施形態]
以下、本明細書に係る実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。各図面を通じて共通する機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略又は簡略化することがある。
【0026】
図1は、本実施形態におけるノイズキャンセリングシステム1の全体構成例を示すブロック図である。ノイズキャンセリングシステム1は、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムである。フィードバック方式は、実際の状況をリアルタイムに取得し、それに基づいて制御入力を決定する制御手法である。
【0027】
ノイズキャンセリングシステム1は、ノイズ発生源NSが発する騒音等の外部ノイズを収音したノイズ信号に対して信号処理を行い、ノイズ信号をキャンセルするノイズキャンセル信号を生成する。そして、ノイズキャンセリングシステム1は、ノイズキャンセル信号と、音源Sから入力された音楽等の音声信号とを合成した出力音声を出力する。このとき、ユーザの耳道には、ノイズキャンセリングシステム1が出力する出力音声とノイズ発生源NSが発するノイズ音とが入る。ノイズ音は、出力音声に含まれるノイズキャンセル信号の成分によってキャンセルされるため、ユーザは音源Sから入力された音声信号に基づく音声のみを聴くことが可能となる。
【0028】
図1に示すように、ノイズキャンセリングシステム1は、入力部10、デジタル部20、アナログ部30、第1の合成部40、フィードバック部50、第2の合成部60、および出力部70を備える。
【0029】
入力部10は、マイクロフォンおよびマイクアンプを含み、外部ノイズと出力部70から発せられた音を収音可能に構成される。入力部10はマイクロフォンで収音した音をノイズ信号として出力する。フィードバック方式は、入力部10で収音した信号(ノイズ信号)の逆相成分(ノイズキャンセル信号)をフィードバックすることで、外部ノイズを減衰させる。
【0030】
デジタル部20は、ノイズ信号に対してA/D変換処理、デジタルフィルタリング、およびD/A変換処理を順次行い、ノイズを低減する第1のノイズキャンセル信号を生成する。
【0031】
図2は、本実施形態におけるデジタル部20の構成例を示すブロック図である。デジタル部20は、ADC21、DSP22、DAC23を備える。ADC21は、ノイズ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路である。DSP22は、マイクロプロセッサの一種で、ADC21において変換されたデジタル信号をフィルタリングするデジタルフィルタ回路である。DAC23は、DSP22においてフィルタリングされたデジタル信号をアナログ信号の第1のノイズキャンセル信号に変換する。
【0032】
アナログ部30は、ノイズ信号をフィルタリングした第2のノイズキャンセル信号を出力するアナログ回路である。
【0033】
図3は、本実施形態におけるアナログ部30の構成例を示すブロック図である。アナログ部30は、アナログフィルタ31および反転回路32を備える。アナログフィルタ31は、アナログ信号であるノイズ信号をフィルタリングする。反転回路32は、アナログフィルタ31でフィルタリングされたアナログ信号の位相反転を行い、第2のノイズキャンセル信号を生成する。
【0034】
アナログフィルタ31(第1のアナログフィルタ)の特性は、後述するフィードバック部50からの制御信号に基づき制御される。アナログフィルタ31は、抵抗素子、容量素子、演算増幅器を含む。抵抗素子の抵抗値、容量素子の容量値の少なくともいずれかは制御信号によって変化する。
【0035】
アナログフィルタ31としては、ローパスフィルタ(Low-pass filter)等が挙げられる。ローパスフィルタのカットオフ周波数はノイズキャンセリング効果が最大となるように設定されることが好ましい。本実施形態においては、後述するようにカットオフ周波数は制御信号に基づき制御され得る。
【0036】
ローパスフィルタの具体例としては、ベッセルフィルタ(Bessel Filter)、チェビシェフィルタ(Chebyshev Filter)、バターワースフィルタ(Butterworth Filter)等が挙げられる。ベッセルフィルタは、電子工学や信号処理における線形フィルタの一種であり、群遅延が最大限平坦(線形位相応答)であることが特徴である。ベッセルフィルタは高音域と低音域などの分離を行う回路によく使われている。ベッセルフィルタは、群遅延特性が最も平坦である点において他のフィルタよりも好ましい。ただし、ベッセルフィルタは、遮断域における減衰の観点では最も劣っている。したがって、ベッセルフィルタを適用する場合、カットオフ周波数と群遅延特性との関係を適切に調整することが重要である。
【0037】
例えば、ローパスフィルタにおけるカットオフ周波数の設定が適切でない場合には、カットオフ周波数付近においてノイズ信号と当該ノイズ信号に対するノイズキャンセル信号の位相差が180°からずれ、ノイズ信号とノイズキャンセル信号が強め合う。この結果、ノイズ信号の増大がトリガとなり、ハウリングが生じる可能性もある。この場合、アナログ部30においてカットオフ周波数を低くすることが好ましい。
【0038】
図4は、本実施形態におけるアナログ部30の構成例を示す回路図である。ここでは、アナログ部30は、抵抗素子R1~R2、容量素子D1~D2、オペアンプOP等を含む。抵抗素子R1~R2、容量素子D1~D2、オペアンプOPは反転増幅型のローパスフィルタ回路を構成している。
【0039】
抵抗素子R1~R2は、例えばポテンショメータ(potentiometer)などの可変抵抗素子であり、制御信号CT-1、CT-3に応じて抵抗値を変化させることができる。
【0040】
容量素子D1~D2は、可変容量ダイオード(variable capacitance diode)などから構成され、端子間の電圧(制御信号CT-2、CT-4)によって容量を変化させることができる。
【0041】
オペアンプ(operational amplifier)OPは、演算増幅器である。演算増幅器は、非反転入力端子(+)、反転入力端子(-)、出力端子を備える。
【0042】
図4では、入力されたノイズ信号INが、抵抗素子R1~R2、容量素子D1~D2、オペアンプOPによってフィルタリングされると、第2のノイズキャンセル信号が出力される。制御信号CT-1~CT-4に応じて、抵抗素子R1~R2、容量素子D1~D2は変化し、ローパスフィルタのカットオフ周波数、位相は変化し得る。なお、制御信号による制御対象は、カットオフ周波数、位相だけでなく、ゲインなどの特性であってもよい。また、制御信号CT-1~CT-4は、フィードバック部50から供給された制御信号と共通の信号であってもよく、共通の制御信号にそれぞれ異なるバイアス電圧を加えた信号であってもよい。
【0043】
第1の合成部40は、第1のノイズキャンセル信号および第2のノイズキャンセル信号を合成した第3のノイズキャンセル信号を生成する。第3のノイズキャンセル信号はフィードバック部50および第2の合成部60へ出力される。ここでは、第3のノイズキャンセル信号は、第1のノイズキャンセル信号および第2のノイズキャンセル信号を加算した信号である。
【0044】
フィードバック部50は、第1の合成部40から入力された第3ノイズキャンセル信号をフィルタリングし、制御信号をアナログ部30にフィードバックする。本実施形態のアナログ部30は、制御信号に基づいて上述したローパスフィルタのカットオフ周波数、位相、ゲインなどの特性を変化させることができる。
【0045】
第2の合成部60は、音源Sからの音声信号に、フィードバック部50からの第3のノイズキャンセル信号を加えた出力信号を生成する。
【0046】
出力部70は、パワーアンプ、ドライバ回路、スピーカを含む。出力部70は、第2の合成部60で合成された出力信号でスピーカを駆動する。これにより、ユーザの耳において、外部ノイズがキャンセルされ、ユーザは音声信号のみを享受することができる。
【0047】
図5A乃至図5Cは、本実施形態におけるフィードバック部50の様々な構成例を示すブロック図である。フィードバック部50は、入力される信号のうち、所定の周波数成分を有する信号を遮断する回路である。フィードバック部50は、アナログ回路、デジタル回路、あるいはアナログ回路とデジタル回路の組合せなどの様々な回路により構築できる。
【0048】
図5Aに示す第1の構成例では、フィードバック部50は、アナログ回路により構成されており、アナログフィルタ51およびレベル検出回路52を備える。
【0049】
アナログフィルタ51は、入力された第3のノイズキャンセル信号をフィルタリングする第2のアナログフィルタである。アナログフィルタ51としては、アナログフィルタ31と同様に、ローパスフィルタ等が挙げられる。
【0050】
レベル検出回路52は、積分回路を含み、アナログフィルタ51から出力されたアナログ信号のレベルを検出し、検出レベルに応じた制御信号を生成する。
【0051】
図5Bに示す第2の構成例では、フィードバック部50は、デジタル回路により構成されており、ADC53、DSP54、DAC55を備える。ADC53、DSP54、DAC55は、上述したADC21、DSP22、DAC23と同様の機能を有する。
【0052】
ADC(第2のA/D変換回路)53は、第3のノイズキャンセル信号を第2のデジタル信号にA/D変換する。DSP(第2のデジタルフィルタ回路)54は、A/D変換された第2のデジタル信号をフィルタリングする。DAC(第2のD/A変換回路)55は、フィルタリングされたデジタルデータをD/A変換した制御信号をアナログ部30へ出力する。
【0053】
図5Cに示す第3の構成例では、フィードバック部50は、アナログ回路(アナログフィルタ51/レベル検出回路52)およびデジタル回路(ADC53/DSP54/DAC55)を備えたハイブリッド型の回路である。
【0054】
図6は、本実施形態におけるノイズキャンセリングシステム1の特性を示す図である。縦軸は、音量であり、横軸は時間(秒)を表している。波形Aは、ANC機能がOFFである場合の出力音声の波形である。一方、波形Bは、ANC機能がONである場合の出力音声の波形である。図6では、ANC機能がONになることにより、7.8dBのノイズキャンセル効果を生じたことが示されている。
【0055】
図7は、本実施形態におけるノイズキャンセリングシステム1の特定を示す図である。縦軸は、信号に対して出力された音量であり、横軸は信号の周波数(Hz)を表している。符号Pの波形は、ANC機能がOFFである場合の周波数特性を表している。一方、符号Qの波形は、ANC機能がONである場合の周波数特性を表している。波形Pと波形Qとを比較すると、10~1000Hzの周波数帯域においてノイズキャンセリングの効果が特に大きいことが分かる。
【0056】
以上のように、本実施形態に係るノイズキャンセリングシステム1は、デジタル部20からの第1のノイズキャンセル信号および第2のノイズキャンセル信号に基づく制御信号をアナログ部30にフィードバックしている。このため、アナログ部30の第2のノイズキャンセル信号は、デジタル部20の処理に応じて動的に制御され得る。この結果、デジタル部20およびアナログ部30の特性差に起因するノイズキャンセリング効果の悪化を低減し、ノイズキャンセル効果を向上させることが可能となる。
【0057】
特に、アナログ部30は制御信号に基づき、アナログフィルタ31の特性、例えばカットオフ周波数、ゲイン、位相を変更可能であり、ノイズキャンセル効果を向上させることができる。
【0058】
また、アナログフィルタ31は、抵抗素子、容量素子を含み、抵抗素子の抵抗値、容量素子の容量値の少なくともいずれかは制御信号によって変化する。これにより、アナログフィルタ31の特性を変更可能である。
【0059】
[第2の実施形態]
本実施形態では、第1の実施形態におけるノイズキャンセリングシステム1の変形例について説明する。本実施形態におけるノイズキャンセリングシステム2は、第1の実施形態と同様に、入力部10、デジタル部20、アナログ部30、第1の合成部40、フィードバック部50、第2の合成部60、および出力部70を備える。各部の構成は第1の実施形態とほぼ同様であるため、重複する部分の説明を省略し、相違点について説明する。
【0060】
図8は、本実施形態におけるノイズキャンセリングシステム2の全体構成例を示すブロック図である。図8においては、図1と異なり、フィードバック部50からデジタル部20へ出力される制御信号の方向を表す矢印が記載されている。ただし、デジタル部20にフィードバックされる制御信号は、アナログ部30にフィードバックされる制御信号と異なっても良い。
【0061】
すなわち、本実施形態のノイズキャンセリングシステム2は、フィードバック部50が、さらに、第1のノイズキャンセル信号および第2のノイズキャンセル信号に基づく制御信号をデジタル部20にフィードバックする構成を備える点で第1の実施形態のノイズキャンセリングシステム1と異なる。
【0062】
デジタル部20は、制御信号に基づいてノイズ以外の信号成分を減衰させる適応型デジタルフィルタを含んでも良い。
【0063】
以上のように、本実施形態によれば、デジタル部20は、制御信号に応じてデジタルフィルタの特性を変更できるため、デジタル部20およびアナログ部30の特性差に起因するノイズキャンセリング効果の悪化を低減することができる。また、デジタル部20は、制御信号に基づいてノイズ以外の信号成分を減衰させる適応型デジタルフィルタを含むことにより、ノイズキャンセリングの効果をさらに向上できる。
【0064】
[第3の実施形態]
本実施形態では、第1の実施形態におけるノイズキャンセリングシステム1の変形例について説明する。同一の符号が付された各部の構成は第1の実施形態とほぼ同様であるため、重複する部分の説明を省略し、相違点について説明する。
【0065】
上述した第1および第2の実施形態においては、フィードバック部50は第1のノイズキャンセル信号および第2のノイズキャンセル信号を加算した第3のノイズキャンセル信号に基づいて制御信号を生成していた。しかし、制御信号は、第1のノイズキャンセル信号および第2のノイズキャンセル信号の差分に基づいて生成されてもよい。
【0066】
図9は、本実施形態におけるノイズキャンセリングシステム3の全体構成例を示すブロック図である。本実施形態におけるノイズキャンセリングシステム3は、減算部80を備えている。減算部80は、デジタル部20から出力された第1のノイズキャンセル信号とアナログ部30から出力された第2のノイズキャンセル信号との差分をフィードバック部50へ出力する。すなわち、本実施形態のフィードバック部50は、第1のノイズキャンセル信号および第2のノイズキャンセル信号の差分に対してフィルタリング、レベル検出を行い、制御信号をアナログ部30にフィードバックする。
【0067】
以上のように、本実施形態によれば、制御信号は第1のノイズキャンセル信号および第2のノイズキャンセル信号の差分に基づいて生成される。アナログ部30は差分が小さくなるように制御されるため、デジタル部20およびアナログ部30のそれぞれの特性の差をさらに低減することができる。この結果、デジタル部20およびアナログ部30の特性差に起因するノイズキャンセリング効果の悪化を低減し、ノイズキャンセル効果を向上させることが可能となる。
【0068】
[変形実施形態]
上述した第1乃至第3の実施形態においては、フィードバック方式のノイズキャンセリングシステムについて説明した。しかし、本発明を適用可能なシステムはフィードバック方式だけではなく、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムにも適用可能である。また、ノイズキャンセリングシステムは、フィードフォワード方式とフィードバック方式を併用したシステム構成としてもよい。
【0069】
図10は、変形実施形態におけるノイズキャンセリングシステム4の全体構成例を示すブロック図である。ノイズキャンセリングシステム4は、フィードフォワード方式のノイズキャンセリングシステムである。フィードフォワード方式は、実際の状況を取得せずに、システムのモデルに基づいて動作を予測しながら制御入力を決定する制御手法である。ノイズキャンセリングシステム4の入力部10のマイクロフォンは、スピーカから発せられた信号を収音せず、かつ、外部ノイズを収音可能に構成される。これにより、ユーザの耳において、外部ノイズがキャンセルされ、ユーザは音声信号のみを享受することができる。
【0070】
以上で説明した本明細書は、上述した実施形態および添付した図に限定されるものではなく、本明細書の技術的思想から逸脱しない範囲内で種々の置換、変形および変更が可能であることが、本明細書が属する技術分野において通常の知識を有する者にとっては明らかである。したがって、本明細書の範囲は、後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味および範囲、およびその等価概念から導出されるすべての変更又は変形形態が、本明細書の範囲に含まれると解釈されなければならない。
【符号の説明】
【0071】
1,2,3,4 ノイズキャンセリングシステム
10 入力部
20 デジタル部
21 ADC
22 DSP
23 DAC
30 アナログ部
31 アナログフィルタ
32 反転回路
40 第1の合成部
50 フィードバック部
51 アナログフィルタ
52 レベル検出回路
53 ADC
54 DSP
55 DAC
60 第2の合成部
70 出力部
80 減算部
NS ノイズ発生源
S 音源
【要約】      (修正有)
【課題】ハイブリッド型のノイズキャンセリングシステムにおけるノイズキャンセリングの効果を向上させる。
【解決手段】ノイズキャンセリングシステムは、外部ノイズを収音するマイクロフォンからのノイズ信号を入力する入力部10と、ノイズ信号をデジタルフィルタ回路でフィルタリングし第1のノイズキャンセル信号を出力するデジタル部20と、ノイズ信号をフィルタリングした第2のノイズキャンセル信号を出力するアナログ部30と、第1のノイズキャンセル信号および第2のノイズキャンセル信号を合成した第3のノイズキャンセル信号を出力する合成部40と、音源からの音声信号に前記第3のノイズキャンセル信号を加えた出力信号を出力する出力部70と、前記第1のノイズキャンセル信号および前記第2のノイズキャンセル信号に基づく制御信号をアナログ部にフィードバックするフィードバック部50と、を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10