(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20241224BHJP
【FI】
G02B6/44 366
(21)【出願番号】P 2023522575
(86)(22)【出願日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2022018319
(87)【国際公開番号】W WO2022244584
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2021083719
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向井 興泉
(72)【発明者】
【氏名】大里 健
(72)【発明者】
【氏名】鯰江 彰
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-228373(JP,A)
【文献】特開2013-109172(JP,A)
【文献】特開2018-112604(JP,A)
【文献】国際公開第03/085436(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/095958(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111239942(CN,A)
【文献】特開平09-218327(JP,A)
【文献】特開2021-056281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光ファイバと、
前記複数の光ファイバを包んでいると共に、最外周に位置する前記光ファイバに接触している押さえ巻きと、
前記押さえ巻きを覆うシースと、を備えた光ファイバケーブルであって、
前記シース
の内周面は、
前記光ファイバケーブルと同心円状の円周を形成するように並べられ、前記押さえ巻きの外周面に接している複数の主面と、
前記光ファイバケーブルの周方向に沿って相互に隣り合う前記主面同士の間にそれぞれ介在し、前記光ファイバケーブルの周方向に沿って等間隔に配置され、前記円周に対して前記光ファイバケーブルの径方向外側に向かって凹んでいる複数の凹部
と、を有しており、
前記凹部は、前記押さえ巻きと前記シースとの間に空間を形成しており、
前記空間に前記光ファイバを収容可能である光ファイバケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバケーブルであって、
前記凹部は、円弧形状を有する底部を含んでいる光ファイバケーブル。
【請求項3】
請求項2に記載の光ファイバケーブルであって、
前記凹部は、前記底部に接続された第1及び第2の側壁を含んでおり、
前記第1の側壁と前記第2の側壁との間の角度は、90度以上である光ファイバケーブル。
【請求項4】
請求項2に記載の光ファイバケーブルであって、
前記凹部は、前記底部に接続された第1及び第2の側壁を含んでおり、
前記第1及び第2の側壁における前記光ファイバケーブルの径方向内側の端部は、円弧形状をそれぞれ有している光ファイバケーブル。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光ファイバケーブルであって、
前記光ファイバケーブルは、前記シースに埋設された抗張力体をさらに備えており、
前記光ファイバケーブルの径方向に向かって、前記凹部と前記抗張力体とが相互に重複している光ファイバケーブル。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光ファイバケーブルであって、
前記シースは、前記シースの外周面に形成され、前記光ファイバケーブルの径方向外側に向かって突出している凸部を有しており、
前記光ファイバケーブルの径方向に向かって、前記凹部と前記凸部とが相互に重複している光ファイバケーブル。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光ファイバケーブルであって、
前記光ファイバケーブルは、スロットが形成されたロッドを有していないスロットレス型の光ファイバケーブルである光ファイバケーブル。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光ファイバケーブルであって、
前記押さえ巻きは、押さえ巻きテープを前記複数の光ファイバに縦添え巻きすることで形成されており、
前記押さえ巻きテープの端部同士が重なり合うラップ部は、前記光ファイバケーブルの径方向に向かって前記凹部と重複していない光ファイバケーブル。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光ファイバケーブルであって
、
下記の(1)式を満たす光ファイバケーブル。
20%≦CL
1/CL
0×100≦80% … (1)
但し、上記の(1)式において、CL
0は、前記複数の主面に内接する仮想上の内接円の長さであり、CL
1は、前記複数の主面の合計の長さである。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光ファイバケーブルであって、
前記空間に部材が配置されていない光ファイバケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットレス型の光ファイバケーブルに関するものである。
文献の参照による組み込みが認められる指定国については、2021年5月18日に日本国に出願された特願2021-83719に記載された内容を参照により本明細書に組み込み、本明細書の記載の一部とする。
【背景技術】
【0002】
撚り合わせた複数の光ファイバと、当該光ファイバを覆う押さえ巻きテープと、当該押さえ巻きテープの周囲を覆う外被と、を備えたスロットレス型の光ファイバケーブルが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のスロットレス型の光ファイバケーブルでは、光ファイバの実装密度を低くすることで、低温時の外被の収縮に起因した光ファイバの伝送特性の悪化を抑制することができる。そして、光ファイバケーブル自体の外径を大きくすることで、この実装密度を低くすることができる。しかしながら、光ファイバケーブルを既存のダクト内に敷設する場合には、当該光ファイバケーブルの外径が制限されてしまう。
【0005】
また、光ファイバケーブルの製造時には、光ファイバに一定のテンションを印加した状態で当該光ファイバを送り出す。そのため、光ファイバケーブルにおける光ファイバの引抜力(光ファイバを引張った際に光ファイバケーブルに対する当該光ファイバの相対移動を開始させるために要する力)が弱いと、不良品を製造してしまうおそれがある。また、光ファイバの引抜力が弱いと、光ファイバケーブルの敷設時や敷設後に当該光ファイバケーブルの端部から光ファイバが突き出てしまうおそれもある。従って、所定値以上の引抜力を確保する必要がある。しかしながら、上記のスロットレス型の光ファイバケーブルにおいて光ファイバの実装密度が低下すると、当該光ファイバの引抜力も低下してしまう場合がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、外径と引抜力を維持しつつ、実装密度を低下させることができる光ファイバケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明に係る光ファイバケーブルは、複数の光ファイバと、前記複数の光ファイバを包んでいると共に、最外周に位置する前記光ファイバに接触している押さえ巻きと、前記押さえ巻きを覆うシースと、を備えた光ファイバケーブルであって、前記シースは、前記シースの内周面に形成され、前記光ファイバケーブルの径方向外側に向かって凹んでいる複数の凹部を有しており、前記凹部は、前記押さえ巻きと前記シースとの間に空間を形成している光ファイバケーブルである。
【0008】
[2]上記発明において、前記凹部は、円弧形状を有する底部を含んでいてもよい。
【0009】
[3]上記発明において、前記凹部は、前記底部に接続された第1及び第2の側壁を含んでおり、前記第1の側壁と前記第2の側壁との間の角度は、90度以上であってもよい。
【0010】
[4]上記発明において、前記凹部は、前記底部に接続された第1及び第2の側壁を含んでおり、前記第1及び第2の側壁における前記光ファイバケーブルの径方向内側の端部は、円弧形状をそれぞれ有していてもよい。
【0011】
[5]上記発明において、前記光ファイバケーブルは、前記シースに埋設された抗張力体をさらに備えており、前記光ファイバケーブルの径方向に向かって、前記凹部と前記抗張力体とが相互に重複していてもよい。
【0012】
[6]上記発明において、前記シースは、前記シースの外周面に形成され、前記光ファイバケーブルの径方向外側に向かって突出している凸部を有しており、前記光ファイバケーブルの径方向に向かって、前記凹部と前記凸部とが相互に重複していてもよい。
【0013】
[7]上記発明において、前記光ファイバケーブルは、スロットが形成されたロッドを有していないスロットレス型の光ファイバケーブルであってもよい。
【0014】
[8]上記発明において、前記押さえ巻きは、押さえ巻きテープを前記複数の光ファイバに縦添え巻きすることで形成されており、前記押さえ巻きテープの端部同士が重なり合うラップ部は、前記光ファイバケーブルの径方向に向かって前記凹部と重複していなくてもよい。
【0015】
[9]上記発明において、前記シースは、前記光ファイバケーブルの周方向に沿って相互に隣り合う前記凹部同士の間にそれぞれ介在する複数の主面を含み、下記の(1)式を満たしていてもよい。
20%≦CL1/CL0×100≦80% … (1)
但し、上記の(1)式において、CL0は、前記複数の主面に内接する仮想上の内接円の長さであり、CL1は、前記複数の主面の合計の長さである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光ファイバケーブルの径方向外側に向かって凹んでいる複数の凹部がシースの内周面に形成されており、当該凹部によって押さえ巻きとシースとの間に空間が形成されているので、光ファイバケーブルの外径と光ファイバの引抜力とを維持しつつ、光ファイバの実装密度を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態における光ファイバケーブルの断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態における内側凹部を示す拡大断面図であり、
図1のII部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は本実施形態における光ファイバケーブル1の断面図である。また、
図2は本実施形態における内側凹部を示す拡大断面図であり、
図1のII部の拡大図である。なお、
図1及び
図2は、光ファイバケーブル1の長手方向(軸方向)に対して実質的に直交する方向に沿って当該光ファイバケーブル1を切断した場合の断面図である。
【0020】
本実施形態における光ファイバケーブル1は、
図1に示すように、複数の光ファイバ11を有する光ファイバ集合体10と、当該光ファイバ集合体10を包む押さえ巻き20と、当該押さえ巻き20を覆うシース30と、当該シース30に埋設された複数の抗張力体60と、を備えている。この光ファイバケーブル1は、スロットが形成されたロッドを有していない、所謂、スロットレス型の光ファイバケーブルである。従って、光ファイバ集合体10を包んでいる押さえ巻き20が、当該光ファイバ集合体10の最外周に位置している光ファイバ11に直接接触している。
【0021】
本実施形態における光ファイバケーブル1は、既に設置されているダクトや流路の内部に敷設される光ファイバケーブルである。従って、既存のダクトの内径等の制約から、この光ファイバケーブル1のシース30の外径は制限されている。なお、この光ファイバケーブル1の用途は、特に上記に限定されない。
【0022】
光ファイバ集合体10は、複数の光ファイバユニットを撚り合わせることで形成されており、それぞれの光ファイバユニットは、複数の光ファイバテープ心線を束ねることで形成されている。光ファイバテープ心線の一例としては、平行に並べた複数の光ファイバ11を接着部で間欠的に連結した、所謂、間欠固定型の光ファイバテープ心線を挙げることができる。
【0023】
本実施形態では、光ファイバ集合体10を構成する複数の光ファイバユニットは、SZ撚りで撚り合わせられている。このSZ撚りとは、所定周期毎に撚り方向を反転させながら複数の線状体を撚り合わせる撚り方である。なお、複数の光ファイバユニットの撚り合わせ方は、特にこれに限定されない。例えば、光ファイバ集合体10を構成する複数の光ファイバユニットを一方向撚りで撚り合わせてもよい。この一方向撚りとは、撚り方向として一方向のみを有する撚り方であり、複数の線状体を螺旋状に撚り合わせる撚り方である。
【0024】
なお、光ファイバユニットの構成は、特に上記の構成に限定されず、例えば、光ファイバテープ心線を用いずに、複数の光ファイバ(光ファイバ素線)11を束ねるだけで光ファイバユニットを構成してもよい。或いは、複数の光ファイバ11を撚り合わせることで光ファイバユニットを構成してもよい。或いは、複数の光ファイバ11に線条体を巻き付けて当該複数の光ファイバ11を束ねることで光ファイバユニットを構成してもよい。また、光ファイバ集合体10の構成も、特に上記に限定されず、例えば、光ファイバユニットを用いずに、複数の光ファイバ11を撚り合わせるだけで光ファイバ集合体10を構成してもよい。
【0025】
この光ファイバ集合体10は押さえ巻き20によって覆われている。本実施形態では、この押さえ巻き20は、押さえ巻きテープ21を光ファイバ集合体10の外周に縦添え巻きすることで形成されている。具体的には、この押さえ巻きテープ21は、当該押さえ巻きテープ21の長手方向が光ファイバケーブル1の軸方向と実質的に一致し、且つ、当該押さえ巻きテープ21の幅方向が光ファイバケーブル1の周方向と実質的に一致した状態で、光ファイバ集合体10の外周に巻かれている。なお、押さえ巻きテープ21の巻き方は、特に上記に限定されず、例えば、横巻(螺旋巻き)であってもよい。
【0026】
ここで、押さえ巻きテープ21を光ファイバ集合体10に巻き付ける際に、当該押さえ巻きテープ21の両端を重ね合わせなくてもよい(すなわちラップ部22を形成しなくてもよい)し、或いは、当該押さえ巻きテープ21の両端を重ね合わせることでラップ部22を形成してもよい。押さえ巻き20にラップ部22を形成しないことで、内側凹部42による効果を高めることができる。また、押さえ巻き20にラップ部22を形成する場合には、当該ラップ部22の幅を小さくするほど、内側凹部42による効果を高めることができる。なお、押さえ巻きテープ21においてラップ部22となる両端を薄くして、当該ラップ部22の厚さを非ラップ部の厚さ以下としてもよい。
【0027】
また、押さえ巻きテープ21を縦添え巻きする場合には、
図1に示すように、光ファイバケーブル1の径方向に
向かって、ラップ部22をシース30の内周面40の主面41と重複させることで、当該ラップ部22が当該内周面40の内側凹部42と重複していなくてもよい。これにより、シース30の収縮時における内側凹部42への押さえ巻き20の形状の追従が阻害されないため、押さえ巻き20にラップ部22がない場合に近い効果を得ることができる。
【0028】
この押さえ巻きテープ21は、不織布、又は、フィルムから構成されている。押さえ巻きテープ21を構成する不織布の具体例としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル、ポリエチレン(PE)、及び、ポリプロピレン(PP)等の繊維からなる不織布を挙げることができる。一方、押さえ巻きテープ21を構成するフィルムの具体例としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、及び、ナイロン等の樹脂からなるフィルムを挙げることができる。
【0029】
この押さえ巻きテープ21は、シース30の変形や光ファイバ集合体10の形状変化に追従して、当該押さえ巻き20で囲まれた空間の断面形状が変形することが可能な程度の剛性を備えている。このような押さえ巻きテープ21の剛性は、当該押さえ巻きテープ21の材質や厚さによって設定することができる。また、この押さえ巻きテープ21は、シース30を切り裂く際に当該刃から光ファイバ11を保護する程度の強度を備えていてもよい。
【0030】
なお、押さえ巻きテープ21を不織布で構成する場合には、当該不織布に吸水パウダを付与することで、光ファイバケーブル1内への止水のための吸水層として押さえ巻き20を機能させてもよい。浸水時には、吸水パウダが膨潤して光ファイバケーブル1内の隙間を塞ぐことによって、光ファイバケーブル1内が止水される。
【0031】
こうした吸水パウダの具体例としては、特に限定されないが、例えば、でん粉系、セルロース系、ポリアクリル酸系、ポリビニルアルコール系、及び、ポリオキシエチレン系の高吸収性を有する材料、並びに、これらの混合物を挙げることができる。また、不織布への吸水パウダの付与方法としては、不織布の表面に付着(塗布)させてもよいし、2枚の不織布の間に介在させてもよい。
【0032】
シース(外被)30は、押さえ巻き20の外周を覆っている筒状の部材である。押さえ巻き20に包まれた光ファイバ集合体10は、このシース30の内部空間に収容されている。このシース30を構成する材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、フッ化エチレン、及び、ポリプロピレン(PP)等の樹脂材料を挙げることができる。
【0033】
このシース30には、複数(本例では16本)の抗張力体60が埋設されている。この抗張力体60は、シース30の収縮により光ファイバ11に印加される歪みや曲げを抑制するための線状の部材である。本実施形態では、この複数の抗張力体60は、光ファイバケーブル1の周方向に沿って並べられており、実質的に等間隔に配置されている。
【0034】
なお、光ファイバケーブル1が備える抗張力体60の数は、特に上記に限定されない。また、本実施形態では、それぞれの抗張力体60が一本の線材から構成されているが、特にこれに限定されず、それぞれの抗張力体60を複数本の線材で構成してもよい。また、シース30内に抗張力体60を埋設しなくてもよい。
【0035】
本実施形態では、上述のように光ファイバ集合体10の撚り合わせ方がSZ撚りであるため、抗張力体60も、この光ファイバ集合体10の撚り合わせに倣って、所定周期で回転方向を反転しながら光ファイバケーブル1の軸方向に進むように延在している。そして、複数の抗張力体60は、実質的に平行に延在している。なお、光ファイバ集合体10の撚り合わせ方が一方向撚りである場合には、抗張力体60は、この光ファイバ集合体10の撚り合わせに倣って、光ファイバケーブル1の軸方向に沿って螺旋状に延在する。或いは、抗張力体60が、光ファイバ集合体10の撚り合わせに倣わず、光ファイバケーブル1の軸方向に対して実質的に平行に延在していてもよい。
【0036】
この抗張力体60を構成する材料としては、ノンメタリック材料、又は、メタリック材料を例示することができる。ノンメタリック材料の具体例としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、ケプラー(登録商標)により強化したアラミド繊維強化プラスチック(KFRP)、ポリエチレン繊維により強化したポリエチレン繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチック(FRP)を挙げることができる。一方、メタリック材料の具体例としては、特に限定されないが、例えば、銅線等の金属線を挙げることができる。
【0037】
本実施形態におけるシース30は、当該シース30の内周面40に形成された複数の内側凹部42と、当該シース30の外周面50に形成された複数の外側凸部51と、を有している。
【0038】
それぞれの内側凹部42は、光ファイバ集合体10の撚り合わせに倣って、所定周期で回転方向を反転しながら光ファイバケーブル1の軸方向に進むように延在している線状の溝である。また、それぞれの外側凸部51も、光ファイバ集合体10の撚り合わせに倣って、所定周期で回転方向を反転しながら光ファイバケーブル1の軸方向に進むように延在している線状の突起である。なお、光ファイバ集合体10の撚り合わせ方が一方向撚りである場合には、内側凹部42及び外側凸部51は、この光ファイバ集合体10の撚り合わせに倣って、光ファイバケーブル1の軸方向に沿って螺旋状に延在する。
【0039】
なお、この内側凹部42が、光ファイバ集合体10の撚り合わせに倣わず、光ファイバケーブル1の軸方向に対して実質的に平行に延在していてもよい。しかしながら、光ファイバ集合体10の撚り合わせに倣って延在していることで、シース30の収縮時に、内側凹部42によって形成された空間45に押さえ巻き20及び光ファイバ11が入り込み易くなる。
【0040】
複数の内側凹部42は、シース30の内周面40に形成されており、当該シース30の周方向に沿って実質的に等間隔に配置されている。それぞれの内側凹部42は、光ファイバケーブル1の径方向外側に向かって凹んでいる。なお、本実施形態において、光ファイバケーブル1の径方向外側とは、当該光ファイバケーブル1の中心からシース30の外側に向かう方向である。
【0041】
光ファイバケーブル1の周方向に沿って相互に隣り合う内側凹部42同士の間には、内周面40の主面41が介在している。この主面41は緩やかな円弧形状をそれぞれ有しており、複数の主面41が周方向に並ぶことにより、光ファイバケーブル1と同心円状の円周を形成している。そして、全ての主面41に内接する仮想上の内接円43によって、光ファイバ集合体10を包んでいる押さえ巻き20の外周が規定されている。このため、内側凹部42によって、押さえ巻き20とシース30との間に空間45が形成されている。
【0042】
ここで、シース30の収縮時に有効活用できる内側凹部42の空間45は、押さえ巻きテープ21の厚さ分だけ減少するので、シース30の収縮量と押さえ巻き20の厚さを考慮して、内側凹部42の断面積、幅、及び、深さ等を設計してもよい。なお、シース30の内周面40におけるそれぞれの主面41の幅、並びに、当該内周面40における主面41の割合及び個数は、押さえ巻き20が内接円43を保てる程度にすることが好ましい。
【0043】
例えば、上述の内接円43に対する主面41の割合P(内接円43の全長CL0に対する全ての主面41の長さの合計CL1の割合P(P=CL1/CL0×100))は、20%以上80%以下とすることができ(20%≦P≦80%)、好ましくは40%以上60%以下とすることができる(40%≦P≦60%)。
【0044】
なお、
図1において、便宜上、内接円43を内周面40の主面41から離して図示しているが、実際には、内接円43は主面41と一致している。また、
図1において、便宜上、内接円43を押さえ巻き20から離して図示しているが、実際には、内接円43は押さえ巻き20の外周面に接している。
【0045】
それぞれの内側凹部42は、
図2に示すように、光ファイバケーブル1の径方向外側に向かった頂点が円弧形状である略三角形状の断面形状を有している。具体的には、この内側凹部42は、底部421と、一対の側壁422,423と、を有している。
【0046】
本実施形態では、底部421が円弧形状を有している。この底部421が有する円弧形状の曲率R1は、0.1mm以上であることが好ましい(R1≧0.1mm)。これにより、内側凹部の底部が角張った頂点を有している場合と比較して、応力集中に起因した内側凹部42の底部421への亀裂の発生を抑制することができる。また、底部421が有する円弧形状の曲率R1は、1.0mm以下であることが好ましく(R1≦1.0mm)、これにより、底部421と側壁422,423との接続部が角張った頂点にならない。
【0047】
底部421の両端には第1及び第2の側壁422,423が接続されている。この第1及び第2の側壁422,423は、光ファイバケーブル1の径方向に対して傾斜している。具体的には、第1及び第2の側壁422,423は、光ファイバケーブル1の径方向内側に向うに従って相互に離れるように傾斜している。
【0048】
本実施形態では、第1の側壁422と第2の側壁423との間のなす角度θは、90度以上であることが好ましく(θ≧90°)、これにより、応力集中に起因した内側凹部32の底部421への亀裂の発生を一層抑制することができる。また、第1及び第2の側壁422,423のなす角度θが150度以下であることが好ましく(θ≦150°)、これにより、押さえ巻き20を内接円43で押さえるための十分な広さの主面41を確保することができる。
【0049】
なお、本実施形態では、側部422,423が直線形状を有し、内側凹部42の断面形状が略三角形状であるが、特にこれに限定されない。例えば、側部422,423が曲線形状を有し、内側凹部42の断面形状が、光ファイバケーブル1の径方向外側に向かって略凸曲線形状であってよく、特に限定されないが、内側凹部42の断面形状が、シース30の内周面40の主面41を含めて略サイン曲線形状であってもよい。この場合には、上記の角度θは、側部422,423のそれぞれの接線がなす角度であり、当該それぞれの接線は、主面41からの深さ方向の中点での当該側部422,423の接線である。
【0050】
そして、第1の側壁422における光ファイバケーブル1の径方向内側の端部422aと、第2の側壁423における光ファイバケーブル1の径方向内側の端部423aによって、内側凹部42の開口部424が規定されている。第1及び第2の側壁422、423の端部422a,423aも円弧形状を有している。この端部422a,423aが有する円弧形状の曲率R2は、0.1mm以上であることが好ましく(R2≧0.1mm)、5.0mm以下であることが好ましい(R2≦5.0mm)。第1及び第2の側壁422、423の円弧形状の曲率R2を上記の範囲内とすることで、シース30の収縮時に第1及び第2の側壁422,423の端部422a,423aの当接によって、光ファイバ11に応力が集中してしまうのを抑制することができる。
【0051】
これに対し、複数の外側凸部51は、
図1に示すように、シース30の外周面50に形成されており、当該シース30の周方向に沿って実質的に等間隔に配置されている。それぞれの外側凸部51は、光ファイバケーブル1の径方向外側に向かって突出している。また、光ファイバケーブル1の周方向に沿って相互に隣り合う外側凸部51同士の間には、外側凹部52が相補的に形成されている。それぞれの外側凹部52は、外側凸部51と比較して、光ファイバケーブル1の径方向内側に向かって相対的に凹んでいる。
【0052】
それぞれの外側凸部51は、光ファイバケーブル1の径方向外側に向かう先端を有しており、当該先端が円弧形状を有している。シース30がこうした複数の外側凸部51を有することで、光ファイバケーブル1を既存のダクト内に敷設する際に、当該ダクトの内壁面等との間に生じる摩擦を低減することができる。なお、こうした摩擦低減の効果を必要としない場合には、外側凸部51をシース30に形成しなくてもよい。
【0053】
本実施形態におけるシース30は、抗張力体60の本数と同じ数(本例では16個)の内側凹部42を有している。そして、
図1に示すように、当該複数の内側凹部42は、光ファイバケーブル1の径方向に
向かって抗張力体60と重複するように配置されており、内側凹部42に対して抗張力体60が光ファイバケーブル1の径方向外側に位置している。これにより、内側凹部42に応力が集中して亀裂が進展した場合に、当該内側凹部42の径方向外側に位置する抗張力体60によって当該亀裂の進展を止めることができる。特に限定されないが、光ファイバケーブル1の径方向に
向かって、内側凹部42の中心と抗張力体60の中心とが実質的に一致していることが好ましい。
【0054】
また、このシース30は、抗張力体60の本数と同じ数(本例では16個)の外側凸部51を有している。そして、当該複数の外側凸部51は、光ファイバケーブル1の径方向に向かって抗張力体60と重複するように配置されており、抗張力体60に対して外側凸部51が光ファイバケーブル1の径方向外側に位置している。すなわち、本実施形態では、内側凹部42、抗張力体60、及び、外側凸部51が、光ファイバケーブル1の径方向に向かって相互に重複している。このような配置を採用することで、シース30において内側凹部42によって空間が形成されている部分を厚くすることができる。特に限定されないが、光ファイバケーブル1の径方向に向かって、外側凸部51の中心と抗張力体60の中心とが実質的に一致していることが好ましい。
【0055】
以上のように、本実施形態では、光ファイバケーブル1の径方向外側に向かって凹んでいる複数の内側凹部42をシース30の内周面40に形成し、当該内側凹部42によって押さえ巻き20とシース30との間に空間45が形成されている。これにより、本実施形態では、当該光ファイバケーブル1の外径を維持しつつシース30の内面積を増加させることができるので、光ファイバ11の実装密度を低下することができる。
【0056】
そして、低温時にシース30が収縮しても、内側凹部42によって形成された空間45に押さえ巻き20及び光ファイバ11が入り込むことができる。このため、シース30の収縮に起因した光ファイバ11への応力の印加を抑制することができ、低温時における光ファイバ11の伝送特性の悪化を抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、光ファイバ集合体10を包んでいる押さえ巻き20はシース30の内周面40の主面(接触面)41によって押さえられており、当該押さえ巻き20の外周は、内側凹部42を有しないシースと同等の内径を有する内接円43となっている。このため、シース30の内面積を増加させて光ファイバ11の実装密度を低下させても、当該光ファイバの引抜力を維持することができる。
【0058】
ここで、実施例、比較例1、及び、比較例2に係る光ファイバケーブルを作製した。実施例1は、
図1に示す構造を有する光ファイバケーブルであり、下の表1に示すように、864本の光ファイバを有していると共に、シースの内部空間の断面積(内面積)が89.0mm
2である。これに対し、比較例1は、(1)シースが内側凹部を有していない点を除いて、実施例1と同様の構成を有しており、シースの内面積は87.3mm
2である。また、比較例2は、(1)シースが内側凹部を有していない点と、(2)シースの内面積が実施例において内側凹部を含むシースの内面積と実質的に同じである点とを除いて、実施例1と同様の構成を有しており、シースの内面積は88.9mm
2である。
【0059】
【0060】
そして、上記の実施例、比較例1、及び、比較例2について光ファイバの引抜力を評価すると共に、実施例、及び、比較例1について温度変化時の伝送損失を評価した。
【0061】
引抜力の評価では、光ファイバが両端から突き出た部分を有する長さ10mの光ファイバを準備し、光ファイバの一方の端部を荷重測定器により引張り、当該光ファイバの他方の端部が動き始めた荷重を引抜力として測定した。上の表1において、「ファイバ抜け」の欄において、「〇」は、所定値以上の引抜力を有しており光ファイバの抜けが生じなかったことを意味し、「×」は、引抜力が所定値に達する前に光ファイバが抜けてしまったことを意味している。
【0062】
上の表1に示すように、実施例及び比較例1では、いずれも十分な引抜力を有しており、光ファイバの抜けは生じなかった。これに対し、比較例2では、内側凹部を有していないと共に実装密度が低いため、十分な引抜力を有しておらず、光ファイバを引き始めて直ぐに当該光ファイバが抜けてしまった。
【0063】
また、温度変化時の伝送損失の評価では、“Telcordia Technologies Generic Requirements GR-20-CORE Issue 4, July 2013”における“Temperature cycling”の規定に従って、実施例及び比較例1の光ファイバケーブルを-40℃~+70℃の範囲で2サイクル温度変化させ、1.55μmの測定波長における最大損失変動量を測定した。上の表1において、「温度損失特性」の欄において、「〇」は、温度変化時における光ファイバケーブルの伝送特性が良好であることを意味し、「×」は、温度変化時における光ファイバケーブルの伝送特性が不十分であることを意味している。
【0064】
実施例では、この伝送損失の評価における最大損失変動量が0.15dB/km以下であった。これに対し、比較例1では、シースの内面積が小さいため、この伝送損失の評価における最大損失変動量が0.15dB/kmを超えていた。
【0065】
以上のように、複数の内側凹部42をシース30の内周面40に形成することで、光ファイバケーブル1の外径と光ファイバ11の引抜力とを維持しつつ、光ファイバ11の実装密度を低下させることができる。
【0066】
また、本実施形態では、シース30の内周面40に複数の内側凹部42を形成するので、内側凹部42を有しないシースと比較して、当該内側凹部42に相当する量だけシース30の体積が減少する。このため、低温時におけるシース30の収縮量自体も減少する。
【0067】
また、複数の抗張力体がシース内に当該シースの周方向に沿って配置されているタイプの光ファイバケーブルでは、シースに切り込みを入れた後に当該シースと抗張力体を折って切り取ることで光ファイバの口出し処理を行うが、シースにおいて抗張力体の内側の部分に切り込みを入れづらく、口出し処理の作業性が低い。これに対し、本実施形態では、シース30において抗張力体60の内側の部分が内側凹部42によって薄くなっているので、シース30を切り取り易くなり、口出し処理の作業性向上を図ることもできる。
【0068】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0069】
1…光ファイバケーブル
10…光ファイバ集合体
11…光ファイバ
20…押さえ巻き
21…押さえ巻きテープ
22…ラップ部
30…シース
40…内周面
41…主面
42…内側凹部
421…底部
422,423…側壁
422a,423a…端部
424…開口部
43…内接円
45…空間
50…外周面
51…外側凸部
52…外側凹部
60…抗張力体