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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】ケイ素含有複合粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/029 20060101AFI20241224BHJP
   C01B 21/064 20060101ALI20241224BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20241224BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20241224BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241224BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
C01B33/029
C01B21/064 M
C01B32/00
C01B33/18 C
H01M4/36 A
H01M4/38 Z
【請求項の数】 38
(21)【出願番号】P 2023524775
(86)(22)【出願日】2021-10-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(86)【国際出願番号】 EP2021079421
(87)【国際公開番号】W WO2022084545
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】2016900.9
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/083885
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(73)【特許権者】
【識別番号】517050282
【氏名又は名称】ネクシオン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ティルマン
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ、ドレガー
(72)【発明者】
【氏名】アレナ、カリヤキナ
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン、クナイスル
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、レンナー
(72)【発明者】
【氏名】リチャード、グレゴリー、テイラー
(72)【発明者】
【氏名】ホセ、メドラノ-カタラン
(72)【発明者】
【氏名】マークス、アンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ、エイ.メイスン
(72)【発明者】
【氏名】ジョシュア、ウィッタム
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第02580110(GB,A)
【文献】特表2020-514231(JP,A)
【文献】米国特許第10508335(US,B1)
【文献】米国特許第10424786(US,B1)
【文献】特表2018-534720(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0129922(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
C01B 21/064
C01B 32/00 - 32/991
C04B 35/528
C04B 35/628
C23C 16/00 - 16/56
H01M 4/00 - 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素含有複合粒子を製造する方法であって、前記方法が、以下の工程:
(a)ミクロ細孔および/またはメソ細孔を含む複数の多孔質粒子を提供する工程であって、
(i)前記多孔質粒子のD50粒子径が、0.5~200μmの範囲内であり、
(ii)ガス吸着によって測定されるミクロ細孔およびメソ細孔の総細孔容積が、0.4~2.2cm/gの範囲内であり、
(iii)ガス吸着によって測定されるPD50細孔径が30nm以下である、工程と、
(b)バッチ式圧力反応器において、前記多孔質粒子の装入物をケイ素含有前駆体の装入物と組み合わせる工程であって、前記多孔質粒子の装入物が反応器容積(cm/LRV)1リットルあたり少なくとも20cmの容積を有し、前記ケイ素含有前駆体の装入物が反応器容積(cm/LRV)1リットルあたり少なくとも2gのケイ素を含む、工程と、
(c)前記反応器を、前記多孔質粒子の細孔内へのケイ素の堆積を引き起こすのに有効な温度に加熱し、それによって、前記ケイ素含有複合粒子を提供する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
1種以上の多孔質粒子が多孔質導電性粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多孔質粒子が多孔質炭素粒子である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記多孔質粒子が、0.5~150μm、または0.5~100μm、または0.5~50μm、または0.5~30μm、または1~25μm、または1~20μm、または2~25μm、または2~20μm、または2~18μm、または3~20μm、または3~18μm、または3~15μm、または4~18μm、または4~15μm、または4~12μm、または5~15μm、または5~12μmまたは5~10μm、または5~8μmの範囲内のD50粒子径を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記多孔質粒子が、0.45~2.2cm/g、または0.5~2cm/g、または0.55~2cm/g、または0.6~1.8cm/g、または0.65~1.8cm/g、または0.7~1.6cm/g、または0.75~1.6cm/g、または0.8~1.5cm/gの範囲内のミクロ細孔およびメソ細孔の総容積を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記多孔質粒子のPD50細孔径が、25nm以下、または20nm以下、または15nm以下、または12nm以下、または10nm以下、または8nm以下、または6nm以下、または5nm以下、または4nm以下、または3nm以下、または2.5nm以下、または2nm以下、または1.5nm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ミクロ細孔のメソ細孔に対する容積比が、90:10~55:45、または90:10~60:40、または85:15~65:35である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記多孔質粒子が、750m/g~4,000m/g、または1,000m/g~3,500m/g、または1,250m/g~3,250m/g、または1,500m/g~3,000m/gの範囲内のBET表面積を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ケイ素含有前駆体が、100kPaおよび20℃におけるケイ素含有液体または気体である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ケイ素含有前駆体が、シラン(SiH)、ジシラン(Si)、トリシラン(Siメチルシラン、ジメチルシランおよびクロロシランから選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)で使用される多孔質粒子の装入物が、少なくとも200cm/LRV、または少なくとも250cm/LRV、または少なくとも300cm/LRV、または少なくとも400cm/LRV、または少なくとも500cm/LRV、または少なくとも600cm/LRV、または少なくとも700cm/LRV、または少なくとも800cm/LRV、または少なくとも900cm/LRVの容積を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)で使用されるケイ素含有前駆体の装入物が、少なくとも5g/LRVのケイ素、または少なくとも10g/LRVのケイ素、または少なくとも15g/LRVのケイ素、または少なくとも20g/LRVのケイ素、または少なくとも40g/LRVのケイ素、または少なくとも60g/LRVのケイ素、または少なくとも80g/LRVのケイ素、または少なくとも100g/LRVのケイ素、または少なくとも150g/LRVのケイ素、または少なくとも200g/LRVのケイ素、または少なくとも250g/LRVのケイ素を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記バッチ式圧力反応器が、酸素ガスを含まない、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(b)が、前記バッチ式圧力反応器に不活性パディングガスの装入物を加えることをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程(b)の前記バッチ式圧力反応器の内容物が、前記多孔質粒子、前記ケイ素含有前駆体、および任意に不活性パディングガスまたは水素からなる、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程(b)における前記多孔質粒子と前記ケイ素含有前駆体との質量比(ケイ素換算ベース)が、95:5~40:60である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程(c)における温度が、300~800℃、または300~750℃、または300~700℃、または300~650℃、または300~600℃、または320~550℃、または320~500℃、または340~450℃、または350~450℃、または300~395℃、または320~380℃の範囲内である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程(c)における圧力が、少なくとも200kPa、または少なくとも300kPa、または少なくとも500kPaである、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
工程(c)における圧力が、少なくとも700kPa、または少なくとも1,000kPa、または少なくとも1,500kPa、または少なくとも2,000kPa、または少なくとも2,500kPa、または少なくとも3,000kPa、または少なくとも4,000kPa、または少なくとも5,000kPaである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
工程(c)が、前記ケイ素含有前駆体の臨界圧力以上で実施される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程(c)が、前記ケイ素含有前駆体の臨界圧力未満で実施される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
工程(c)の間、前記多孔質粒子が撹拌される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
工程c)において、前記反応器が、前記多孔質粒子の細孔内および前記多孔質粒子の表面へのケイ素の堆積を引き起こすのに有効な温度まで加熱される、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
以下の工程:
(d)前記バッチ式圧力反応器から副生ガスを排出する工程と、
(e)前記バッチ式圧力反応器にケイ素含有前駆体のさらなる装入物を加える工程であって、ケイ素含有前駆体ガスのさらなる装入物が、反応器容積(g/LRV)1リットルあたり少なくとも2gのケイ素を含む、工程と、
(f)前記反応器を、前記多孔質粒子の細孔におけるケイ素のさらなる堆積を引き起こすのに有効な温度まで加熱する工程と、
をさらに含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
工程(d)~(f)を1回または複数回繰り返す、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
以下の工程:
(g)工程(c)~工程(f)からの複合粒子の表面を不動態化剤と接触させる工程であって、前記複合粒子は、前記不動態化剤と接触する前に酸素に曝されない、工程、
をさらに含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
以下の工程:
(h)工程(c)、工程(f)または工程(g)からの複合粒子を、熱分解炭素前駆体と組み合わせる工程と、
(i)前記熱分解炭素前駆体を、熱分解導電性炭素材料の細孔内および/または前記複合粒子の表面への堆積を引き起こすのに有効な温度まで加熱する、工程と、
をさらに含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
以下の工程a)~c)が、以下のプロセスフェーズ1~7:
フェーズ1:前記バッチ式圧力反応器に1種以上の多孔質粒子を充填すること、
フェーズ2:前記バッチ式圧力反応器を1種以上のケイ素含有前駆体で充填すること、
フェーズ3:前記バッチ式圧力反応器を目標温度まで加熱し、この温度で前記ケイ素含有前駆体を前記バッチ式圧力反応器内で分解を開始させること、
フェーズ4:前記ケイ素含有前駆体を分解し、前記多孔質粒子の細孔内および任意に前記多孔質粒子の表面にケイ素を堆積させて、それによって、前記ケイ素含有複合粒子を提供すること、
フェーズ5:前記バッチ式圧力反応器を冷却すること、
フェーズ6:堆積の過程で形成されたガス状反応生成物を前記バッチ式圧力反応器から除去すること、
フェーズ7:前記ケイ素含有複合粒子をバッチ式圧力反応器から取り出すこと、
に分割され、
フェーズ4の間、バッチ式圧力反応器内の圧力が少なくとも7バールに上昇することを特徴とする、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
フェーズ4の間、前記バッチ式圧力反応器内の圧力が変化し、この圧力変化は、ケイ素含有前駆体の分解およびケイ素の堆積の結果としての物質量の変化、ならびに任意に、前記バッチ式圧力反応器内の温度変化の結果として生じる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記バッチ式圧力反応器内の圧力がフェーズ3およびフェーズ4で上昇し、フェーズ4全体を通した圧力上昇がフェーズ3全体を通した圧力上昇よりも高、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
フェーズ4における前記バッチ式圧力反応器内の温度が100~1000℃の範囲内である、請求項28~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
フェーズ4における前記バッチ式圧力反応器内の圧力が、10~400バールの範囲内である、請求項28~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
フェーズ1に続いて、フェーズ2~5および任意にフェーズ6からなる手順が少なくとも2回実施され、その後フェーズ7のみが実施される、請求項28~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
少なくとも1つのフェーズ2において、1種以上のケイ素含有前駆体が使用され、少なくとも1つのさらなるフェーズ2において、1種以上の炭素前駆体が使用され、ケイ素含有前駆体が使用されない、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
フェーズ4が等温的に行われる、請求項28~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
フェーズ4が等温的に行われず、前記バッチ式圧力反応器が加熱または冷却される、請求項28~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
ケイ素の堆積の進行が、圧力変化に基づいて監視される、請求項29または30に記載の方法。
【請求項38】
フェーズ4が、フェーズ4における圧力上昇がなくなったとき、または、なくなった後に終了する、請求項37に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、多孔質粒子の細孔内にケイ素を堆積させることにより、ケイ素含有複合粒子を製造する方法に関する。ケイ素含有複合粒子は、一般的に、金属イオン二次電池の負極活物質として使用するのに適している。
【背景技術】
【0002】
再充電可能な金属イオン電池は、携帯電話やノートパソコンなどの携帯電子機器に広く使用されており、電気自動車やハイブリッド車への応用が進んでいる。再充電可能な金属イオン電池は、一般的に、電池の充放電中に金属イオンを挿入および放出することができる材料として定義される電気活性材料の層が設けられた金属集電体の形態の負極を含んでいる。「正極」及び「負極」という用語は、本明細書では、負極がマイナスの電極であるように、電池が負荷を横切って配置されるという意味で使用される。金属イオン電池が充電されると、金属イオンは、金属イオン含有正極層から電解質を介して負極に輸送され、負極材料に挿入される。本明細書において、「電池」という用語は、単一の正極および単一の負極を含む装置と、複数の正極および/または複数の負極を含む装置との両方を指すために使用される。
【0003】
再充電可能な金属イオン電池の重量容量および/または容積容量を改善することに関心がある。これまで、市販のリチウムイオン電池は、負極活物質としてグラファイトを使用したものに限定されていた。黒鉛負極が充電されると、リチウムは黒鉛層間にインターカレートし、経験式Li(式中、xは0より大きく1以下である)を有する材料を形成する。その結果、グラファイトのリチウムイオン電池における最大理論容量は372mAh/gであり、実用容量はやや低い(約340~360mAh/g)。ケイ素、スズ、ゲルマニウムなどの他の材料は、グラファイトよりもかなり高い容量でリチウムをインターカレートすることができるが、多数の充放電サイクルで十分な容量を維持することが困難なため、まだ広く商業利用されていない。
【0004】
特にケイ素は、リチウムに対する容量が非常に大きいため、高い重量容量および容積容量を有する再充電可能な金属イオン電池の製造において、グラファイトに代わる有望な材料として認識されている(例えば、Insertion Electrode Materials for Rechargeable Lithium Batteries,Winter,M.et al.in Adv.Mater.1998,10,No.10を参照)。室温において、ケイ素は、リチウムイオン電池における理論上の最大比容量が約3,600mAh/g(Li15Siベース)である。しかし、バルクケイ素へのリチウムのインターカレーションにより、ケイ素を最大容量までリチウム化すると、ケイ素材料の容量が最大で400%という大きな増加を示す。充放電を繰り返すと、ケイ素材料に大きな機械的ストレスがかかり、その結果、ケイ素負極材料の破断や剥離が発生する。剥離に伴うケイ素粒子の容積収縮は、負極材料と集電体との間の電気的接触を失わせる可能性がある。さらに、ケイ素表面に形成される固体電解質界面(SEI)層が、ケイ素の膨張・収縮に対応する十分な機械的耐性を有していないことが難点である。その結果、ケイ素表面が新たに露出すると、電解質の分解が進み、SEI層の厚みが増して、リチウムが不可逆的に消費される。これらの故障メカニズムは、連続した充放電サイクルにおいて、電気化学的な容量が許容できないほど低下することになる。
【0005】
ケイ素含有負極の充電時に観察される容量変化に関連する問題を解決するために、多くの手段が提案されてきた。ケイ素膜やケイ素ナノ粒子など、断面が150nm以下の微細なケイ素構造は、ミクロンサイズのケイ素粒子と比較して、充放電時の容量変化に強いことが報告されている。しかし、いずれもそのままの状態では商業規模の用途には適さず、ナノスケール粒子は調製や取り扱いが難しく、ケイ素フィルムは十分なバルク容量が得られない。
【0006】
WO2007/083155は、高いアスペクト比、すなわち粒子の最大寸法の最小寸法に対する比、を有するケイ素粒子を用いて、改善された容量保持が得られる可能性があることを開示している。このような粒子の小さな断面は、充放電時の容量変化に起因する材料の構造的ストレスを低減する。しかし、このような粒子は、製造が困難でコストがかかる場合があり、壊れやすい場合がある。さらに、高い表面積は、過度のSEI形成をもたらし、最初の充放電サイクルで過度の容量損失をもたらす可能性がある。
【0007】
ケイ素のような電気活性材料が、活性炭材料のような多孔質キャリア材料の細孔内に堆積され得ることも一般的に知られている。これらの複合材料は、ナノ粒子の取り扱いの難しさを回避しながら、ナノスケールケイ素粒子の有益な充電放電特性の一部を提供する。Guo et al.(Journal of Materials Chemistry A,2013,pp.14075-14079)は、多孔質炭素基材が導電性フレームワークを提供し、基材の細孔構造内に均一分布で堆積したケイ素ナノ粒子を有するケイ素炭素複合材料を開示する。この複合材料は、複数の充電サイクルにわたって容量保持率が向上することが示されているが、複合材料の初期容量(mAh/g)は、ケイ素ナノ粒子の場合よりも著しく低い。
【0008】
本発明者らは、ケイ素などのナノスケール電気活性材料が、高多孔性導電性粒子材料、例えば多孔性炭素材料の細孔骨格に堆積された複合構造を有する電気活性材料のクラスの開発を以前に報告している。
【0009】
例えば、WO2020/095067およびWO2020/128495は、これらの材料の改善された電気化学的性能は、電気活性材料が数ナノメートル以下のオーダーの寸法を有する小さなドメインの形態で多孔質材料中に位置する方法に起因することができると報告している。このような微細な電気活性構造は、大きな電気活性構造に比べて弾性変形に対する抵抗が小さく、耐破壊性が高いため、過剰な構造応力をかけずにリチウム化、脱リチウム化できると考えられている。その結果、この電気活性材料は、複数回の充放電サイクルで良好な可逆的容量保持を示す。次に、多孔質炭素骨格内のケイ素の担持を、細孔容積の一部のみが非帯電状態のケイ素によって占有されるように制御することにより、多孔質炭素骨格の非占有細孔容積は、内部に相当量のケイ素の膨張を収容することが可能である。さらに、上記のように小さなメソ細孔および/またはミクロ細孔内にナノスケールのケイ素ドメインを配置することにより、ケイ素表面の小さな領域のみが電解液にアクセスできるため、SEIの形成が制限される。その後の充放電サイクルにおけるケイ素のさらなる露出が実質的に防止されるため、SEI形成は容量損失につながる重大な故障メカニズムではない。これは、例えばGuoによって開示された材料(上記参照)を特徴付ける過剰なSEI形成と明らかに対照的である。
【0010】
WO2020/095067およびWO2020/128495に記載された材料は、異なる反応器システム(静止、回転およびFBR)において化学蒸気浸透(CVI)により合成されたものである。多孔質導電性粒子は、不活性ガスとの混合物として、ケイ素含有前駆体(CVI)、典型的にはシランガスの流れに、大気圧で、400~700℃の温度で接触される。これらの反応器構成は全て、固体炭素足場についてはバッチモードとして、ケイ素前駆体ガスについては連続モードとして動作する。この温度でのシランの反応速度は速いが、シラン分子は固体粒子の細孔系を横切る蛇行した経路を通る必要がある。つまり、このような反応器システムで均質な浸透を得るには、物質移動が速度制限工程になるのを避けるために、温度を比較的高くする必要がある。その結果、表面積が比較的大きく、水素化物末端ケイ素の含有量が平均して比較的少ない複合製品が形成されることになる。これらの要因はいずれも、電気化学的性能の低下につながると考えられている。
【0011】
ケイ素含有前駆体ガスの連続流を使用するシステムの別の欠点は、ガス内の固体の良好な混合が必要であり、そうでなければ製品バッチに組成の不均一が生じる可能性があることである。効果的な混合が行われない場合、ガスとの接触時間が長い固体は、未反応シランガス流との接触時間が短い固体に比べて、より多くのケイ素を含むことになり、堆積は粉末床全体で均一ではない。
【0012】
CVIプロセスの温度を下げるだけでは、前述の欠点は解決できない。温度が低い場合、物質移動が速度制限工程となり、多孔質炭素骨格の浸透不良、非均質なケイ素分布、および粗いケイ素ドメインの形成につながる。
【0013】
US10,147,950B2は、CVDプロセス(化学気相成長法)により、300~900℃で、好ましくは粒子の撹拌を伴う管状炉または同等の炉のタイプで、モノシラン、SiHからのケイ素を多孔質炭素に堆積することを記載している。このプロセスでは、不活性ガスとして窒素を用い、モノシランを2mol%混合する。このような条件では、非常に長い反応時間を必要とする。US10,147,950B2は、様々な温度範囲と様々な圧力範囲に言及している。
【0014】
WO2012/097969 A1は、多孔性炭素支持体上のケイ素前駆体としてのシランを200~950℃で加熱することによる1~20nmの範囲内の超微粒子ケイ素の堆積を記載しており、堆積したケイ素粒子の凝集および/または厚い層の形成を防ぐために、シランは不活性ガスで希釈される。堆積は0.1~5バールの圧力範囲内で行われる。
【0015】
Motevalian et al,Ind.Eng.Chem.Res.2017,56,14995は、多孔質マトリックスの存在下ではないものの、上昇した圧力でのケイ素層の堆積を記載している。ここでも、使用されるケイ素前駆体、この場合はモノシラン、SiHは、全体のガス容積において最大で5mol%という低濃度でしか存在しない。
【0016】
上述のプロセスは、一般的に、ケイ素含有複合粒子中の高いケイ素分率を達成するために、長い反応時間を必要とする。これらのプロセスによる別の欠点は、供給された反応性ガスのごく一部しか反応を起こさないため、反応器を出たガスは、リサイクルまたは廃棄という高価で不便な操作を受けなければならず、特に、厳しい技術安全要件に従うケイ素前駆体を使用する場合には、コストがさらに増加することになる。
【発明の概要】
【0017】
したがって、当技術分野では、上記で論じた欠点の少なくとも1つ、好ましくは高温および低温のCVIプロセスまたは長い反応時間の論じた欠点を低減するか、あるいは解決する、ケイ素含有複合粒子を製造する方法が必要とされている。多孔質粒子およびケイ素前駆体から出発するプロセスは、好ましくは技術的に簡単に実施することができる。ケイ素含有複合粒子は、好ましくはリチウムイオンに対して高い貯蔵容量を有し、これは、リチウムイオン電池の負極における活物質として使用される場合、好ましくは高いサイクル安定性を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の態様において、本発明は、ケイ素含有複合粒子を製造する方法を提供し、当該方法は、以下の工程:
(a)ミクロ細孔および/またはメソ細孔を含む複数の多孔質粒子を提供する工程であって、
(i)前記多孔質粒子のD50粒子径が、0.5~200μmの範囲内であり、
(ii)ガス吸着によって測定されるミクロ細孔およびメソ細孔の総細孔容積が、0.4~2.2cm/gの範囲内であり、
(iii)ガス吸着によって測定されるPD50細孔径が30nm以下である、工程と、
(b)バッチ式圧力反応器において、前記多孔質粒子の装入物をケイ素含有前駆体の装入物と組み合わせる工程であって、前記多孔質粒子の装入物が反応器容積(cm/LRV)1リットルあたり少なくとも20cmの容積を有し、好ましくは反応器容積(cm/LRV)1リットルあたり少なくとも200cmの容積を有し、前記ケイ素含有前駆体の装入物が反応器容積(cm/LRV)1リットルあたり少なくとも2gのケイ素を含む、工程と、
(c)前記反応器を、前記多孔質粒子の細孔内へのケイ素の堆積を引き起こすのに有効な温度に加熱し、それによって、前記ケイ素含有複合粒子を提供する工程と、
を含む。
【0019】
本発明の第1の態様による本プロセスの好ましい実施形態では、上記工程a)~c)、特に上記工程b)~c)は、以下のプロセスフェーズ1~7:
フェーズ1:前記バッチ式圧力反応器に1種以上の多孔質粒子を充填すること、
フェーズ2:前記バッチ式圧力反応器を1種以上のケイ素含有前駆体で充填すること、
フェーズ3:前記バッチ式圧力反応器を目標温度まで加熱し、この温度で1種以上のケイ素含有前駆体を前記バッチ式圧力反応器内で分解を開始させること、
フェーズ4:ケイ素含有前駆体を分解し、前記多孔質粒子の細孔内および任意に前記多孔質粒子の表面にケイ素を堆積させて、それによって、前記ケイ素含有複合粒子を提供すること、
フェーズ5:前記バッチ式圧力反応器を冷却すること、
フェーズ6:堆積の過程で形成されたガス状反応生成物を前記バッチ式圧力反応器から除去すること、
フェーズ7:前記ケイ素含有複合粒子をバッチ式圧力反応器から取り出すこと、
に分割され、
フェーズ4の間、バッチ式圧力反応器内の圧力が少なくとも7バールに上昇することを特徴とする。
【0020】
1種以上の多孔質粒子の存在下で1種以上のケイ素含有前駆体の熱分解によりケイ素含有複合粒子を製造する方法であって、ケイ素が、前記多孔質粒子の細孔内および任意に前記多孔質粒子の表面上に堆積され、前記方法が、少なくとも以下のフェーズ1~フェーズ7:
フェーズ1:バッチ式圧力反応器を1種以上の多孔質粒子で充填することであって、前記多孔質粒子の装入物は、反応器容積(cm/LRV)1リットルあたり少なくとも20cmの容積を有し、好ましくは反応器容積(cm/LRV)1リットルあたり少なくとも200cmの容積を有し、かつ、前記多孔質粒子は、ミクロ細孔および/またはメソ細孔を含んでおり、
(i)前記多孔質粒子のD50粒子径が、0.5~200μmの範囲内であり、
(ii)ガス吸着によって測定されるミクロ細孔およびメソ細孔の総細孔容積が、0.4~2.2cm/gの範囲内であり、
(iii)ガス吸着によって測定されるPD50細孔径が30nm以下であること、
フェーズ2:前記バッチ式圧力反応器を1種以上のケイ素含有前駆体で充填することであって、前記ケイ素含有前駆体の装入物が、反応器容積(g/LRV)1リットルあたり少なくとも2gのケイ素を含むこと、
フェーズ3:前記バッチ式圧力反応器を目標温度まで加熱し、この温度で1種以上のケイ素含有前駆体を前記バッチ式圧力反応器内で分解を開始させること、
フェーズ4:ケイ素含有前駆体を分解し、前記多孔質粒子の細孔内および任意に前記多孔質粒子の表面にケイ素を堆積させて、それによって、前記ケイ素含有複合粒子を提供すること、
フェーズ5:前記バッチ式圧力反応器を冷却すること、
フェーズ6:堆積の過程で形成されたガス状反応生成物を前記バッチ式圧力反応器から除去すること、
フェーズ7:前記ケイ素含有複合粒子をバッチ式圧力反応器から取り出すこと、
に分割され、
フェーズ4の間、バッチ式圧力反応器内の圧力が少なくとも7バールに上昇する、製造方法が好ましい。
【0021】
さらなる態様において、本発明は、1種以上の多孔質粒子の存在下での1種以上のケイ素含有前駆体の熱分解によってケイ素含有複合粒子を製造する方法であって、ケイ素が、多孔質粒子の細孔内、好ましくは多孔質粒子の細孔内および表面で堆積され、当該方法は、少なくとも以下のフェーズ1~7:
フェーズ1:前記バッチ式圧力反応器に1種以上の多孔質粒子を充填すること、
フェーズ2:前記バッチ式圧力反応器を1種以上のケイ素含有前駆体で充填すること、
フェーズ3:前記バッチ式圧力反応器を目標温度まで加熱し、この温度で1種以上のケイ素含有前駆体を前記バッチ式圧力反応器内で分解を開始させること、
フェーズ4:ケイ素含有前駆体を分解し、前記多孔質粒子の細孔内、好ましくは多孔質粒子の細孔内および表面にケイ素を堆積させること、
フェーズ5:前記バッチ式圧力反応器を冷却すること、
フェーズ6:堆積の過程で形成されたガス状反応生成物を前記バッチ式圧力反応器から除去すること、
フェーズ7:前記ケイ素含有複合粒子をバッチ式圧力反応器から取り出すこと、
を含み、
フェーズ4の間、バッチ式圧力反応器内の圧力が少なくとも7バールに上昇することを特徴とする。
【0022】
1種以上の多孔質粒子の存在下で1種以上のケイ素含有前駆体の熱分解によりケイ素含有複合粒子を製造する方法が好ましく、ケイ素が、前記多孔質粒子の細孔内、好ましくは多孔質粒子の細孔内および表面上に堆積され、前記方法が、少なくとも以下のフェーズ1~フェーズ7:
フェーズ1:バッチ式圧力反応器を1種以上の多孔質粒子で充填することであって、前記多孔質粒子の装入物は、反応器容積(cm/LRV)1リットルあたり少なくとも20cmの容積を有し、好ましくは反応器容積(cm/LRV)1リットルあたり少なくとも200cmの容積を有し、かつ、前記多孔質粒子は、ミクロ細孔および/またはメソ細孔を含んでおり、
(i)前記多孔質粒子のD50粒子径が、0.5~200μmの範囲内であり、
(ii)ガス吸着によって測定されるミクロ細孔およびメソ細孔の総細孔容積が、0.4~2.2cm/gの範囲内であり、
(iii)ガス吸着によって測定されるPD50細孔径が30nm以下であること、
フェーズ2:前記バッチ式圧力反応器を1種以上のケイ素含有前駆体で充填することであって、前記ケイ素含有前駆体の装入物が、反応器容積(g/LRV)1リットルあたり少なくとも2gのケイ素を含むこと、
フェーズ3:前記バッチ式圧力反応器を目標温度まで加熱し、この温度で1種以上のケイ素含有前駆体を前記バッチ式圧力反応器内で分解を開始させること、
フェーズ4:前記ケイ素含有前駆体を分解し、前記多孔質粒子の細孔内、好ましくは多孔質粒子の細孔内および表面にケイ素を堆積させること、
フェーズ5:前記バッチ式圧力反応器を冷却すること、
フェーズ6:堆積の過程で形成されたガス状反応生成物を前記バッチ式圧力反応器から除去すること、
フェーズ7:前記ケイ素含有複合粒子をバッチ式圧力反応器から取り出すこと、
に分割され、
フェーズ4の間、バッチ式圧力反応器内の圧力が少なくとも7バールに上昇することを特徴とする。
【0023】
ただ明確にするために、以下に説明する好ましい実施形態および代替実施形態は、本明の上述の各態様および本発明の上述の好ましいプロセスの各々に言及する。
【0024】
したがって、本発明は、一般論として、ナノスケールのケイ素ドメインが多孔質粒子の細孔ネットワークに堆積される、複合粒子材料を製造する方法に関する。したがって、多孔質粒子は、ナノスケールケイ素ドメインを含む骨格を形成する。本明細書で使用する場合、「ナノスケールケイ素ドメイン」という用語は、多孔質粒子のミクロ細孔および/またはメソ細孔内のケイ素の位置によって決まる寸法を有するケイ素のナノスケール体を指す。
【0025】
本発明の方法は、ケイ素の堆積が、多孔質粒子およびケイ素含有前駆体の両方についてバッチモードで実施される点で、従来の方法論と異なっている。加えて、反応器容積1リットルあたりの多孔質粒子およびケイ素含有前駆体のそれぞれの装入物は、ケイ素の堆積が大気圧を超える自生圧力で行われることを意味し、少なくとも1桁または2桁だけ大気圧より高くてもよい。
【0026】
本発明の方法は、特にまた、バッチ式圧力反応器におけるケイ素含有前駆体の装入および本発明によるパラメータのために、多くの利点と関連している。有利な効果は、好ましい圧力手段によって相乗的にさらに増大させることができる。
【0027】
第1に、ケイ素含有前駆体は、反応器の全容積を通して分配することができる。したがって、反応は、温度プロファイルがない限り、特に同じ変換レベルまで反応器のどの地点でも行うことができる。固体とガス流との接触による不均質な製品組成は回避され、材料は反応器内の位置とは無関係に同じ特性を持つことができる。バッチ組成は、好ましくは均質であろう。
【0028】
第2に、ケイ素含有前駆体は、反応が起こる前に多孔質粒子の多孔質系を通して分配することができる。したがって、反応の開始時にケイ素含有前駆体が既に細孔内に存在するため、物質移動の制限を低減することができる。 さらに、バッチ反応器を大量の多孔質粒子で充電して、反応器内のヘッドスペースを減らすか、あるいはなくすことができ、多孔質粒子の細孔容積の外側(例えば、間隙)の残りの反応器容積に存在するケイ素含有前駆体分子は、最も近い粒子への短い平均自由行程しか持たないようにすることができる。
【0029】
第3に、圧力が高いほど、1回のバッチで反応器に供給できるシランの量は多くなる。 シランは47.8気圧以上で超臨界状態にあり、このような条件では圧縮性因子があるため、常温で1バッチに高充填のケイ素を導入することができる。
【0030】
驚くべきことに、当該バッチプロセスは、より短い反応時間で、したがって、より効率的な方法でケイ素含有複合粒子を製造することを可能にする。本方法は、驚くべきことに、特に多孔質粒子内で増加した量のケイ素含有前駆体の分解を可能にし、したがって、多孔質粒子内で増加した対応する量の堆積したケイ素を可能にする。さらに、ケイ素の堆積は特に均一である。これは、本発明の好ましい圧力によってさらに改善することができる。これは、多結晶シリコンの製造方法から、比較的高い圧力でのケイ素の堆積は、増加した不要なダストの形成を伴うことが知られており(J.O.Odden et al., Solar Energy Mat.&Solar Cells 2005,86,165)、これは、細孔の内面および多孔質粒子の外面へのシリコンの堆積および複合粒子の収率の両方にとって非生産的であるので特に意外だった。この有害な効果は、驚くべきことに、本発明の方法によって解決される。これらの効果は、当該圧力、特に少なくとも7バールで特に顕著である。
【0031】
第4に、温度は、一般的に、圧力下でケイ素含有前駆体を反応器に充填した後にのみ、堆積温度まで上昇される。このことは、反応速度と生成物の組成を制御する新しい方法をも導入している。システムが物質移動の制限に対処する必要がないため、より高い水素化ケイ素の堆積はより低い温度で行われることができる。したがって、大気圧合成ルートと比較して、より低い表面積とより高い水素化物末端ケイ素を有する製品複合粒子を得ることができる。
【0032】
ケイ素含有複合粒子を製造する本発明の方法は、先行技術と比較して様々な利点を提供する。特に、短い反応時間でケイ素前駆体の完全な変換が可能であるという利点がある。これらの利点は、好ましくは、工程(c)またはフェーズ4の間のバッチ式圧力反応器における圧力上昇によってさらに強化され、これは温度上昇によって引き起こされるものではないか、またはそれのみではない。
【0033】
別の利点は、不活性ガスの量を減らすか、または不活性ガスを完全に避けることができることであり、これは同様に、より高い空間/時間収率をもたらし、したがって、多孔質粒子内または多孔質粒子上にケイ素をより迅速かつ均一に堆積させることができる。
【0034】
さらに、開放型反応器の運転で通常発生する反応器オフガスの連続的なリサイクルや処理を防止することが可能である。
【0035】
さらに、バッチ式圧力反応器での実施により、ケイ素含有前駆体のような同じ反応成分からの複数の堆積を、それぞれの堆積工程における反応物に基づいて、正確に調整可能な堆積生成物の量で、非常に容易に実施することができる。
【0036】
したがって、本発明の方法から得られるケイ素含有複合粒子は、好ましくは、堆積された層の有利な均質性によって区別される。
【0037】
さらに、特定の利点は、しばしば説明される粉塵の発生が回避され得ることである。これは、例えば、ケイ素含有前駆体からのケイ素の堆積のために利用可能にされる多孔質粒子の大きな表面積によって、また、ケイ素含有前駆体との多孔質粒子の激しい浸透によって達成することができる。同時に、この方法では、堆積したケイ素の高い収率が得られる。
【0038】
さらに、多孔質粒子とケイ素前駆体から出発する本方法は、技術的に簡単に実施することができる。
【0039】
本発明の方法の利点の結果として、ケイ素含有複合粒子は、特に優れた特性を有するリチウムイオン電池の負極の活物質として使用するために、有利に迅速かつ経済的に入手できる。
【0040】
驚くべきことに、本方法に従って製造されたケイ素含有複合粒子は、リチウムイオンに対して高い貯蔵容量を有し、これは、リチウムイオン電池の負極の活性材料として使用される場合、驚くほど高いサイクル安定性を可能にする。当該ケイ素含有複合粒子は、サイクル中の容積の変化が有利に低いことを示す。
【0041】
ケイ素含有複合粒子は、高い容積エネルギー容量を有するリチウムイオン電池に使用するための改善された特性を有する本発明の方法で得ることができる。本発明の方法によって得られるケイ素含有材料は、リチウムイオンに対して透過性であり、また電子に対しても透過性であるため、荷電輸送を可能にする。さらに、分解電解質溶媒の量および固体電解質界面(「SEI」)の形成は、本発明の手段によって低減され得る。過剰なSEIは、リチウムイオン電池のサイクル効率に負の影響を与えることが知られている。
【0042】
誤解を避けるために、本明細書で使用される用語「粒子径」は、等価球径(esd)、すなわち、所定の粒子と同じ容積を有する球の直径を指し、ここで、粒子の容積は、任意の粒子内細孔の容積を含むと理解される。本明細書で使用される用語「D50」および「D50粒子径」は、容積ベースのメジアン粒子径、すなわち、粒子集団の50%容積が見出される以下の直径を指す。本明細書で使用される用語「D10」および「D10粒子径」は、10%容積ベースのメジアン粒子径、すなわち、粒子集団の容積の10%が見出される以下の直径を意味する。本明細書で使用される用語「D90」および「D90粒子径」は、90%容積ベースのメジアン粒子径、すなわち、粒子集団の90%容積が見出される以下の直径を意味する。
【0043】
粒子径と粒度分布は、ISO 13320:2009に準拠した標準的なレーザー回折法によって決定することができる。レーザー回折は、粒子が粒子サイズに応じて変化する角度で光を散乱させ、粒子の集合体が、粒度分布に相関することができる強度と角度で定義された散乱光のパターンを生成するという原理に依存している。多くのレーザー回折装置が市販されており、迅速かつ信頼性の高い粒度分布の測定が可能である。特に断らない限り、本明細書で指定または報告される粒度分布測定は、Malvern Instruments(登録商標)の従来のMalvern Mastersizer(登録商標)3000粒度分析計によって測定されたものである。Malvern Mastersizer(登録商標)3000粒度分布測定機は、水溶液に懸濁された目的の粒子を含む透明なセルにヘリウムネオンガスレーザー光を投射することによって動作する。粒子に当たった光線は、粒子径に反比例する角度で散乱し、光検出器アレイがいくつかの所定の角度で光の強度を測定し、異なる角度で測定された強度は、標準理論原理を用いてコンピュータで処理されて粒子径分布が決定される。本明細書で報告するレーザー回折値は、界面活性剤SPAN(登録商標)-40(ソルビタンモノパルミテート)を5容積%添加した2-プロパノール中の粒子の湿式分散を使用して得られる。粒子の屈折率は、多孔質粒子の場合は2.68、複合粒子の場合は3.50とし、分散媒の指数は1.378とする。粒度分布は、Mie散乱モデルを用いて計算する。
【0044】
あるいは、粒子径および粒度分布は、ISO 13320に従って、Mieモデルおよび測定器Horiba LA 950を用いた静的レーザー散乱により、粒子の分散媒として好ましくはエタノールを使用して決定することができる。
【0045】
一般的に、多孔質粒子は、0.5~200μmの範囲のD50粒子径を有する。任意に、多孔質粒子のD50粒子径は、少なくとも1μm、または少なくとも1.5μm、または少なくとも2μm、または少なくとも3μm、または少なくとも4μm、または少なくとも5μmであってもよい。任意に、多孔質粒子のD50粒子径は、150μm以下、または100μm以下、または70μm以下、または50μm以下、または40μm以下、または30μm以下、または25μm以下、または20μm以下、または18μm以下、または15μm以上、または12μm以上、または10μm以下であってもよい。
【0046】
例えば、多孔質粒子は、0.5~150μm、または0.5~100μm、または0.5~50μm、または0.5~30μm、または1~25μm、または1~20μm、または2~25μm、または2~20μm、または2~18μm、または3~20μm、または3~18μm、または3~15μm、または4~18μm、または4~15μm、または4~12μm、または5~15μm、または5~12μm、または5~10μmの範囲内のD50粒子径を有してもよい。これらのサイズ範囲内にあり、本明細書で規定する多孔度および細孔径分布を有する粒子は、CVIプロセスによる金属イオン電池用負極に使用するための複合粒子の製造に理想的に適している。
【0047】
多孔質粒子のD10粒子径は、好ましくは、少なくとも0.2μm、または少なくとも0.5μm、または少なくとも0.8μm、または少なくとも1μm、または少なくとも1.5μm、または少なくとも2μmです。D10粒子径を0.2μm以上に維持することにより、サブミクロンサイズの粒子の望ましくない凝集の可能性が低減され、形成される複合粒子の分散性が向上する。D10粒子径は、好ましくは≦10μm、より好ましくは≦5μm、最も好ましくは≦3μmである。
【0048】
多孔質粒子のD90粒子径は、好ましくは300μm以下、または250μm以下、または200μm以下、または150μm以下、または100μm以下、または80μm以下、または60μm以下、または40μm以下、または30μm以下、または25μm以下、または20μm以下、より好ましくは18μm以下、更に好ましくは15μm以下、最も好ましくは13μm以下である。D90粒子径は、好ましくは4μm以上であり、より好ましくは8μm以上である。
【0049】
多孔質粒子の容積加重粒度分布は、好ましくは直径百分率d10≧0.2μm~d90≦20.0μm、より好ましくはd10≧0.4μm~d90≦15.0μm、そして最も好ましくはd10≧0.6μm~d90≦12.0μmである。
【0050】
多孔質粒子は、好ましくは、狭い粒度分布範囲を有する。例えば、粒度分布範囲((D90-D10)/D50で定義)は、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下、より好ましくは2以下、最も好ましくは1.5以下である。粒度分布範囲を狭く保つことで、稠密な粉体床への効率的な粒子の充填がより容易に達成される。
【0051】
多孔質粒子の容積加重粒度分布は、d90値とd10値の差(D90-D10差分)が、好ましくは≦15.0μm、より好ましくは≦12.0μm、非常に好ましくは≦10.0μm、特に好ましくは≦8.0μm、そして最も好ましくは≦4.0μmである。多孔質粒子の容積加重粒度分布は、好ましくは≧0.6μm、より好ましくは≧0.8μm、最も好ましくは≧1.0μmのd90-d10差分を有する。
【0052】
多孔質粒子は、好ましくは、孤立粒子または塊状粒子の形態で存在する。多孔質粒子は、好ましくは凝集しておらず、好ましくは塊状ではない。凝集しているとは、一般的に、多孔質粒子の製造過程で、最初は一次粒子が形成され、融合を受け、および/または一次粒子が例えば共有結合を介して互いに結合し、このようにして凝集体を形成することを意味する。一次粒子は一般的に孤立粒子である。凝集体または孤立粒子は、塊状体を形成することができる。塊状体は、凝集体または一次粒子の緩やかな連合体であり、これらは、例えばファンデルワールス相互作用または水素結合を介して互いに連結されている。塊状の凝集体は、従来の混練・分散技術により容易に凝集体に戻すことができる。凝集体は、これらの技術では一次粒子に崩壊させることができないか、あるいは部分的にしか崩壊させることができない。凝集体、塊状体または孤立粒子の形態の多孔質粒子の存在は、例えば、従来の走査型電子顕微鏡(SEM)により可視化することができる。マトリックス粒子の粒度分布または粒子径を決定するための静的光散乱法は、対照的に、凝集体または塊状体を区別することができない。
【0053】
多孔質粒子は、任意の所望の形態を有してよく、したがって、例えば、板状、不規則な形状、破片形状、球状、またはその他の針状であってよく、破片形状または球状粒子が好ましい。
【0054】
多孔質粒子は、0.5超の平均球形度(本明細書で定義する)を有してもよい。好ましくは、それらは、少なくとも0.55、または少なくとも0.6、または少なくとも0.65、または少なくとも0.7、または少なくとも0.75、または少なくとも0.8、または少なくとも0.85の平均球形度を有する。球状粒子は、堆積の均一性を助け、バッチ式圧力反応器と電極に組み込まれた最終製品の両方で、より稠密な充填を促進すると考えられている。
【0055】
走査型電子顕微鏡(SEM)によって、あるいは、デジタルカメラを使用して粒子が投影する影を記録する動的画像解析によって、ミクロンスケールの粒子の高精度な二次元投影を得ることが可能である。本明細書で使用する「真球度」という用語は、粒子投影(このようなイメージング技術から得られる)の面積と円の面積との比として理解されるものとし、ここで、粒子投影と円は同一の円周を有する。したがって、個々の粒子について、球形度Sは、以下のように定義され得る。
【数1】
式中、Amは粒子投影の測定面積であり、Cmは粒子投影の測定円周である。本明細書で使用される粒子の集団の平均球形度Savは、以下のように定義される:
【数2】
式中、nは集団に含まれる粒子の数を表す。粒子の集団の平均球形度は、好ましくは、少なくとも50個の粒子の二次元投影から算出される。
【0056】
多孔質粒子は、ミクロ細孔および/またはメソ細孔と、任意に微量のマクロ細孔とからなる3次元的に相互接続された開孔ネットワークからなる。従来のIUPAC用語に従って、用語「ミクロ細孔」は、本明細書において直径2nm未満の細孔を指すために使用され、用語「メソ細孔」は、本明細書において直径2~50nmの細孔を指すために使用され、用語「マクロ細孔」は、直径50nm超の細孔を指すために使用されている。
【0057】
本明細書において、多孔質粒子内のミクロ細孔、メソ細孔、およびマクロ細孔の容積への言及、および多孔質粒子内の細孔容積の分布への言及は、規定される方法の工程(a)において出発材料として使用される、すなわち工程(c)においてケイ素を細孔容積に堆積させる前の多孔質粒子の内部細孔容積に関連する。
【0058】
多孔質粒子は、0.4~2.2cm/gの範囲内のミクロ細孔およびメソ細孔の総容積(すなわち、0~50nmの範囲内の総細孔容積)により特徴付けられる。典型的には、多孔質粒子は、ミクロ細孔およびメソ細孔の両方を含む。しかし、ミクロ細孔を含み、かつメソ細孔を含まない多孔質粒子、またはメソ細孔を含み、かつミクロ細孔を含まない多孔質粒子が使用されることを排除するものではない。
【0059】
より好ましくは、多孔質粒子におけるミクロ細孔およびメソ細孔の総容積は、少なくとも0.45cm/g、または少なくとも0.5cm/g、少なくとも0.55cm/g、または少なくとも0.6cm/g、または少なくとも0.65cm/g、または少なくとも0.7cm/g、または少なくとも0.75cm/g、または少なくとも0.8cm/g、少なくとも0.85cm/g、または少なくとも0.9cm/g、または少なくとも0.95cm/g、または少なくとも1cm/gである。高細孔率粒子の使用は、より多くの量のケイ素を細孔構造内に収容することを可能にするので有利であり得る。
【0060】
多孔質粒子の内部細孔容積は、好適には、多孔質粒子の脆弱性の増加よりも、より多量のケイ素を収容する細孔容積の増加の利点が勝る値で上限を設定する。好ましくは、多孔質粒子におけるミクロ細孔およびメソ細孔の総容積は、2cm/g以下、または1.8cm/g以下、または1.6cm/g以下、または1.5cm/g以下、または1.45cm/g以下、または1.4cm/g以上、または1.35cm/g以上、または1.3cm/g以上、または1.25cm/g以上または1.2cm/g以上である。
【0061】
いくつかの例では、多孔質粒子におけるミクロ細孔およびメソ細孔の総容積は、0.45~2.2cm/g、または0.5~2cm/g、または0.55~2cm/g、または0.6~1.8cm/g、または0.65~1.8cm/g、または0.7~1.6cm/g、または0.75~1.6cm/g、または0.8~1.5cm/gの範囲内であってよい。
【0062】
他の例では、多孔質粒子におけるミクロ細孔およびメソ細孔の総容積は、0.4~0.75cm/g、または0.4~0.7cm/g、または0.4~0.65cm/g、0.45~0.75cm/g、または0.45~0.7cm/g、または0.45~0.65cm/g、あるいは0.45~0.6cm/gの範囲内であってよい。
【0063】
他の例では、多孔質粒子におけるミクロ細孔およびメソ細孔の総容積は、0.6~2cm/g、または0.6~1.8cm/g、または0.7~1.8cm/g、または0.7~1.6cm/g、または0.8~1.6cm/g、または0.8~1.5cm/g、または0.8~1.4cm/g、または0.9~1.5cm/g、または1~1.4cm/gの範囲内であってよい。
【0064】
多孔質粒子のPD50細孔径は、好ましくは30nm以下であり、任意に25nm以下、または20nm以下、または15nm以下、または12nm以下、または10nm以下、または8nm以下、または6nm以下、または5nm以下、または4nm以下、または3nm以下、または2.5nm以上、または2nm以上、または1.5nm以下である。本明細書で使用される「PD50細孔径」という用語は、ミクロ細孔およびメソ細孔の総容積に基づく、容積ベースのメジアン細孔径(すなわち、ミクロ細孔およびメソ細孔の総容積の50%が存在する細孔径以下の細孔径)をいう。したがって、本発明に従って、ミクロ細孔およびメソ細孔の総容積の少なくとも50%は、好ましくは30nm未満の直径を有する細孔の形態である。
【0065】
疑念を避けるために、あらゆるマクロ細孔容積(50nmを超える細孔径)は、PD50値を決定する目的で考慮されない。
【0066】
多孔質粒子におけるミクロ細孔のメソ細孔に対する容積比は、原則として100:0~0:100の範囲であってもよい。好ましくは、ミクロ細孔のメソ細孔に対する容積比は、90:10~55:45、または90:10~60:40、または85:15~65:35である。
【0067】
多孔質粒子の細孔径分布は、単峰性、双峰性、または多峰性であってもよい。本明細書で使用する場合、「細孔径分布」という用語は、多孔質粒子の細孔径の累積総内部細孔容積に対する分布に関連する。ミクロ細孔と直径の大きい細孔との間の近接が、多孔質ネットワークを通してケイ素への効率的なイオン輸送の利点を提供するので、双峰性または多峰性の細孔径分布が好ましいと考えられる。
【0068】
ミクロ細孔とメソ細孔の総容積とミクロ細孔とメソ細孔の細孔径分布は、ISO15901-2およびISO15901-3に規定される標準的な方法論に従って、急冷固体密度汎関数法(QSDFT)を用いて、77Kで相対圧p/pが10-6になるまでの窒素ガス吸着を用いて決定されるか、またはDIN66135に準拠したミクロ細孔のHorvath-KawazoeモデルおよびDIN66134に準拠したメソ細孔のBJHモデルなどの古典吸着モデルを用いて決定する。窒素ガス吸着は、固体の細孔にガスを凝縮させることで、材料の空隙率や細孔径分布を評価する手法である。圧力が上昇すると、ガスはまず直径の小さな細孔に凝縮し、全ての細孔が液体で満たされる飽和点に達するまで圧力が上昇する。その後、窒素ガスの圧力を段階的に下げ、液体を系外に蒸発させる。吸着・脱着等温線とその間のヒステリシスを解析することで、細孔容積と細孔径分布を決定することができる。窒素ガス吸着による細孔容積や細孔径分布の測定に適した装置としては、米国Micromeritics Instrument Corporationから入手可能なTriStar IIおよびTriStar II Plus空隙率分析装置、Quantachrome Instrumentsから入手可能なAutosorb IQ空隙率分析装置などがあります。
【0069】
窒素ガス吸着は、50nmまでの直径を有する細孔の細孔容積および細孔径分布の測定に有効であるが、はるかに大きな直径を有する細孔に対しては信頼性が低い。したがって、本発明の目的のために、窒素吸着は、50nmまでの直径を有する細孔についてのみ(すなわち、ミクロ細孔とメソ細孔についてのみ)、細孔容積および細孔径分布を決定するために用いられる。PD50も同様に、ミクロ細孔とメソ細孔の総容積のみを対象として決定される。
【0070】
利用可能な分析技術の限界を考慮すると、単一の技術を使用して、ミクロ細孔、メソ細孔、マクロ細孔の全範囲にわたって細孔容積および細孔径分布を測定することは不可能である。多孔質粒子がマクロ細孔を含む場合、50nm超100nm以下の範囲の直径を有する細孔の容積は、水銀ポロシメトリーによって測定することができ、好ましくは0.3cm/g以下、または0.20cm/g以下、または0.1cm/g以下、または0.05cm/g以下である。細孔ネットワークへの電解質のアクセスを容易にするために、ごく一部のマクロ細孔が有用であるが、本発明の利点は、ケイ素をミクロ細孔およびより小さいメソ細孔に収容することによって実質的に得られる。
【0071】
50nm以下の細孔径で水銀ポロシメトリーにより測定された細孔容積はすべて無視される(上記で述べたように、窒素吸着はメソ細孔とミクロ細孔を特徴付けるために使用される)。100nm超の水銀ポロシメトリーで測定された細孔容積は、本発明の目的上、粒子間空隙率であると仮定され、また無視される。
【0072】
水銀ポロシメトリーとは、水銀に浸した試料に様々なレベルの圧力を加えることで、材料の空隙率や細孔径分布を特徴付ける手法である。水銀が試料の細孔に侵入するのに必要な圧力は、細孔のサイズに反比例する。本明細書で報告される水銀ポロシメトリーによって得られる値は、ASTM UOP578-11に従って得られ、表面張力γは480mN/m、接触角φは室温での水銀に対して140°とされる。水銀の密度は、室温で13.5462g/cmとされている。水銀ポロシメーターは、米国Micromeritics社の自動水銀ポロシメーターAutoPore IVシリーズなど、高精度のものが数多く市販されている。水銀ポロシメトリーについては、P.A.WebbとC.Orrの“Analytical Methods in Fine Particle Technology,1997,Micromeritics Instrument Corporation,ISBN 0-9656783-0”が参考になる。
【0073】
ガス吸着や水銀ポロシメトリーなどの侵入技術は、多孔質粒子の外側から窒素または水銀にアクセス可能な細孔の細孔容積を決定するためにのみ有効であることが理解されるであろう。本明細書で規定する空隙率値は、開放細孔、すなわち多孔質粒子の外部から流体にアクセス可能な細孔の容積を指すと理解される。窒素吸着または水銀ポロシメトリーによって識別できない完全に封入された細孔は、本明細書において空隙率の値を決定する際に考慮されないものとする。同様に、窒素吸着による検出限界以下であるほど小さい細孔に存在する細孔容積は、考慮されない。
【0074】
多孔質粒子は、好ましくは、≧0.2cm/g、より好ましくは≧0.6cm/g、最も好ましくは≧1.0cm/gのGurwichガス侵入可能な細孔容積を有する。これは、高容量のリチウムイオン電池を得るために有用である。Gurwichガス侵入可能な細孔容積は、DIN66134に準拠した窒素によるガス吸収測定により決定した。
【0075】
好ましい多孔質粒子は、0.3cm/g未満、より好ましくは0.15cm/g未満のガス侵入不可能な細孔容積を有する。このようにしても、リチウムイオン二次電池の容量を増加させることが可能である。なお、ガス侵入不可能な細孔容積は、以下の式により求めることができる。
ガス侵入不可能な細孔容積=1/純物質密度-1/骨格密度
【0076】
ここでいう純物質密度とは、相組成に基づく多孔質粒子の理論的な密度、または純物質の密度(閉鎖細孔を有しない場合の材料の密度)である。純物質密度のデータは、当業者であれば、例えば、米国国立標準研究所(NIST、https://srdata.nist.gov/CeramicDataPortal/scd)のCeramic Data Portalで調べることができる。例えば、炭素の純物質密度は2.2~2.3g/m、酸化ケイ素の純物質密度は2.203g/cm、窒化ホウ素の純物質密度は2.25g/cm、窒化ケイ素の純物質密度は3.44g/cm、炭化ケイ素の純物質密度は3.21g/cmである。骨格密度は、ヘリウムピクノメトリーで求めた多孔質粒子の実密度(ガス侵入可能な)である。
【0077】
多孔質粒子は、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソカーボン、ミクロビーズの形態の非晶質炭素、天然黒鉛または合成黒鉛、単層および多層カーボンナノチューブおよびグラフェン;二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、混合ケイ素-アルミニウム酸化物、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化ジルコニウムなどの酸化物;炭化ケイ素、炭化ホウ素などの炭化物;窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物;およびその他のセラミックス材料からなる群から選択される1種以上の材料をベースとすることが好ましい。
【0078】
セラミック材料の例としては、以下の成分式:
AlMgSi
で記述され、0≦a、b、c、d、e、f、g≦1であり、少なくとも2つの係数a~g>0であり、a×3+b×3+c×4+d×2+g×4≧e×3+f×2である。
【0079】
セラミック材料は、例えば、2元、3元、4元、5元、6元または7元の化合物であってもよい。好ましいセラミック材料は、以下の成分式を有するものである。
非化学量論的窒化ホウ素BN(式中、z=0.2~1)
非化学量論的な炭窒化物CN(式中、z=0.1~4/3)
炭窒化ホウ素BCN(式中、x=0.1~20、z=0.1~20、x×3+4≧z×3)
ホウ素ニトリド酸化物BN(式中、z=0.1~1、r=0.1~1、3≧r×2+z×3)
炭窒化ホウ素酸化物BCN(式中、x=0.1~2、z=0.1~1、r=0.1~1、x×3+4≧r×2+z×3)
炭化ケイ素SiCO(式中、x=0.1~2、z=0.1~2、x×4+4≧z×2)
炭化窒化ケイ素SiCN(式中、x=0.1~3、z=0.1~4、x×4+4≧z×3)
炭窒化ホウ素化ケイ素SiCN(式中、w=0.1~3、x=0.1~2、z=0.1~4、w×4+x×3+4≧z×3)
炭化ホウ素化ケイ素SiCO(式中、w=0.10~3、x=0.1~2、z=0.1~4であり、w×4+x×3+4≧z×2)
ケイ素ホウ素炭窒酸化物SiCN(式中、v=0.1~3、w=0.1~2、x=0.1~4、z=0.1~3、v×4+w×3+4≧x×3+z×2)
アルミニウムホウ素ケイ素炭窒酸化物AlSiCN(式中、u=0.1~2、v=0.1~2、w=0.1~4、x=0.1~2、z=0.1~3、u×3+v×3+x×4+4≧w×3+z×2)
【0080】
多孔性金属酸化物粒子の例は、式TiOを有するチタンの酸化物であり、xは1超2未満の値を有する。
【0081】
好ましい多孔質粒子は、炭素、二酸化ケイ素、酸化チタン、窒化ホウ素、炭化ケイ素および/または窒化ケイ素をベースとする。より好ましい材料は、炭素、窒化ホウ素および二酸化ケイ素である。
【0082】
多孔質粒子は、より好ましくは多孔質導電性粒子であり、最も好ましくは多孔質炭素粒子である。
【0083】
多孔質炭素粒子は、非晶質炭素、天然黒鉛または合成黒鉛、単層および多層カーボンナノチューブなどのカーボンナノチューブ、およびグラフェンからなる群から選択される材料をベースとしてもよい。非晶質炭素は、ハードカーボン、ソフトカーボン、またはメソカーボンマイクロビーズの形態であってもよい。炭素は、結晶性炭素、非晶質炭素、または非晶質炭素と結晶性炭素の混合物であってもよい。多孔質カーボン粒子は、ハードカーボン粒子またはソフトカーボン粒子のいずれであってもよい。
【0084】
多孔性炭素粒子は、好ましくは、少なくとも80重量%の炭素、より好ましくは少なくとも90重量%の炭素、より好ましくは少なくとも95重量%の炭素、および任意に少なくとも98重量%または少なくとも99重量%の炭素を含む。
【0085】
本明細書で使用する場合、「ハードカーボン」という用語は、一般的に、炭素原子がナノスケールの多芳香族ドメインにおいてsp混成状態(三重結合)で主に見られる無秩序な炭素マトリックスを指す。多芳香族ドメインは、一般的に化学結合、例えばC-O-C結合で架橋されている。多芳香族ドメイン間の化学的架橋のため、ハードカーボンは高温でグラファイトに変換することができない。ハードカーボンは、ラマンスペクトルにおいて大きなGバンド(~1600cm-1)を持つことからわかるように、一般的にグラファイトのような性質を持つ。しかし、ラマンスペクトルの大きなDバンド(~1350cm-1)からわかるように、一般的にカーボンは完全なグラファイト状ではない。
【0086】
本明細書で使用する場合、「ソフトカーボン」という用語は、一般的に、炭素原子が5~200nmの範囲内の寸法を有する多芳香族ドメインにおいてsp混成状態(三重結合)で主に見られる無秩序な炭素マトリックスを指す。ハードカーボンとは対照的に、ソフトカーボンにおける多芳香族ドメインは一般的に分子間力で結合しているが、化学結合で架橋していない。これは、高温でグラファイト化することを意味する。多孔質炭素粒子は、好ましくは、XPSによって測定される、少なくとも50%のspハイブリッド化炭素を含んでいる。例えば、多孔性炭素粒子は、好適には、50%~98%のsp混成炭素、55%~95%のsp混成炭素、60%~90%のsp混成炭素、または70%~85%のsp混成炭素を含む。
【0087】
適切な多孔性炭素骨格を製造するために、様々な異なる材料を使用することができる。
使用され得る有機材料の例としては、リグノセルロース系材料(ココナッツ殻、籾殻、木材など)を含む植物バイオマス、および石炭などの化石炭素源などが挙げられる。熱分解により多孔質炭素粒子を形成する樹脂や高分子材料の例としては、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ピッチ、メラミン、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP);アクリレート、スチレン、α-オレフィン、ビニルピロリドンおよび他のエチレン性不飽和単量体の単量体単位からなる種々の共重合体等が挙げられる。出発材料および熱分解プロセスの条件に応じて、様々な異なる炭素材料が当技術分野で利用可能である。様々な異なる仕様の多孔性炭素粒子は、販売業者から入手可能である。
【0088】
多孔質炭素粒子は、メソ細孔およびミクロ細孔の容積を増加させるために、化学的または気体的な活性化処理を受けることができる。好適な活性化処理は、例えば、熱分解した炭素を、600~1000℃の範囲内の温度で、酸素、蒸気、CO、COまたはKOHの1種以上と接触させることを含む。
【0089】
多孔質粒子は、好ましくは開放細孔である。開放細孔とは、一般的に、細孔が、例えばチャネルを介して、粒子表面に接続されていることを意味し、好ましくは、周囲との物質移動、特にガス状化合物の移動においてあり得る。これは、ガス吸収測定(Brunauer、Emmett、Tellerによる評価、「BET」)、すなわち、比表面積の測定を用いて確認することができる。
【0090】
多孔質粒子は、好ましくは、少なくとも50m/g、または少なくとも750m/g、または少なくとも1,000m/g、または少なくとも1,250m/g、または少なくとも1,500m/gのBET表面積を有する。本明細書で使用する「BET表面積」という用語は、ISO9277に従って、Brunauer-Emmett-Teller理論を使用して、固体表面上のガス分子の物理的吸着の測定から計算される単位質量当たりの表面積を指すと考えるべきである。好ましくは、多孔質粒子のBET比表面積は、4,000m/g以下、または3,500m/g以下、または3,250m/g以下、または3,000m/g以下である。例えば、多孔質粒子は、750m/g~4,000m/g、または1,000m/g~3,500m/g、または1,250m/g~3,250m/g、または1,500m/g~3,000m/gの範囲内のBET表面積を有してよい。
【0091】
多孔質粒子は、好ましくは、ヘリウムピクノメトリーによって決定される0.1~7g/cm、より好ましくは0.3~3g/cmの骨格密度を有する。これは、リチウムイオン電池の重量容量(mAh/g)を増加させるのに有利である。
【0092】
多孔質粒子は、好ましくは、少なくとも0.35、好ましくは3g/cm未満、より好ましくは2g/cm未満、より好ましくは1.5g/cm未満、最も好ましくは0.35~1.2g/cmの粒子密度を有する。本明細書で使用される場合、用語「粒子密度」は、水銀ポロシメトリーによって測定される「見かけ粒子密度」のことを言う。(すなわち、粒子の容積で割った粒子の質量であり、ここで粒子の容積は、固体材料および任意の閉孔または盲孔(「盲孔」は、水銀ポロシメトリーで測定するには小さすぎる孔))の合計であると考える。)
【0093】
好ましくは、多孔質粒子は、少なくとも0.4g/cm、または少なくとも0.45g/cm、または少なくとも0.5g/cm、または少なくとも0.55g/cm、または少なくとも0.6g/cm、または少なくとも0.65g/cm、または少なくとも0.7g/cmの水銀ポロシメトリーにより測定される粒子密度を有する。好ましくは、多孔質粒子は、1.15g/cm以下、または1.1g/cm以下、または1.05g/cm以下、または1g/cm以下、または0.95g/cm以下、または0.9g/cmの水銀ポロシメトリーにより測定した粒子密度を有する。
【0094】
明確化のために、多孔質粒子は、一般的にケイ素含有複合粒子とは異なることに留意されたい。多孔質粒子は、ケイ素含有複合粒子を製造するための出発材料として機能する。一般的に、多孔質粒子の細孔内および多孔質粒子の表面上に位置するケイ素、より詳細にはケイ素前駆体の堆積によって得られるケイ素は、好ましくは存在しない。
【0095】
ケイ素含有前駆体は、好ましくは、標準条件(100kPaおよび20℃)下でケイ素含有液体または気体である。好ましくは、ケイ素含有前駆体は、標準条件下でケイ素含有気体である。
【0096】
ケイ素含有前駆体は、一般的に、熱処理下でケイ素を形成する。ケイ素含有前駆体は、好ましくは、ケイ素-水素化合物、塩素含有シランおよびアルキルシランからなる群から選択される。
【0097】
ケイ素-水素化合物の例は、モノシランSiH、ジシランSi、トリシラン(Si)および直鎖状、分枝状または環状の上位の同族体、例えばネオペンタシランSi12、シクロヘキサシランSi12である。塩素含有シランの例は、トリクロロシランHSiCl、ジクロロシランHSiCl、クロロシランHSiCl、テトラクロロシランSiCl、ヘキサクロロジシランSiClおよび直鎖状、分枝状または環状の上位の同族体、例えば1,1,2,2-テトラクロロジシランClHSi-SiHCl、塩素化または部分塩素化オリゴシランまたはポリシラン、メチルクロロシラン、例えばトリクロロメチルシランMeSiCl、ジクロロジメチルシランMeSiCl、クロロトリメチルシランMeSiCl、テトラメチルシランMeSi、ジクロロメチルシランMeHSiCl、クロロメチルシランMeHSiCl、クロロジメチルシランMeHSiClである。アルキルシランの例は、メチルシランMeHSi、ジメチルシランMeSi、トリメチルシランMeSiHである。
【0098】
より好ましいケイ素含有前駆体は、モノシランSiH;一般式Sin+2の直鎖状シラン(式中、nは2~10の範囲の整数である。);一般式-[SiH-の環状シラン(式中、nは3~10の範囲の整数である。);トリクロロシランHSiCl、ジクロルシランHSiClおよびクロロシランHSiClからなる群から選択される。特に好ましいケイ素含有前駆体としては、シラン(SiH)、ジシラン(Si)、トリシラン(Si)、メチルシラン、ジメチルシラン、およびクロロシランが特に好ましい。さらに好ましいケイ素含有前駆体は、SiH、HSiClおよびHSiClからなる群から選択される。最も好ましいのは、シラン(SiH)である。
【0099】
工程(b)で使用される多孔質粒子の装入物は、好ましくは少なくとも30cm/LRV、または少なくとも40cm/LRV、または少なくとも50cm/LRV、または少なくとも75cm/LRV、または少なくとも100cm/LRV、または少なくとも150cm/LRV、または少なくとも200cm/LRV、より好ましくは少なくとも250cm/LRV、または少なくとも300cm/LRV、または少なくとも400cm/LRV、または少なくとも500cm/LRV、または少なくとも600cm/LRV、または少なくとも700cm/LRV、または少なくとも800cm/LRV、または少なくとも900cm/LRVの容積を有する。好ましくは、工程(b)で使用される多孔質粒子の装入物は、少なくとも500cm/LRVであり、いくつかの実施形態では、任意でバッチ式圧力反応器の反応器容積を実質的に満たすのに十分である。
【0100】
本明細書で使用される場合、多孔質粒子の容積は、タップ密度から決定される多孔質粒子の等価質量を指す。例えば、本明細書で定義される1000g/Lのタップ密度を有する多孔質粒子材料の200cmの粒子容積は、多孔質粒子材料の200gと同等である。タップ密度は、ISO3953に従って、標準として12000タップを使用して測定される。
【0101】
工程(b)で使用されるケイ素含有前駆体の装入物は、少なくとも2g/LRVのケイ素、好ましくは少なくとも5g/LRVのケイ素、または少なくとも10g/LRVのケイ素、または少なくとも15g/LRVのケイ素、または少なくとも20g/LRVのケイ素を含む、または少なくとも40g/LRVのケイ素、または少なくとも60g/LRVのケイ素、または少なくとも80g/LRVのケイ素、または少なくとも100g/LRVのケイ素、または少なくとも150g/LRVのケイ素、または少なくとも200g/LRVのケイ素、または少なくとも250g/LRVのケイ素を含む。
【0102】
好ましくは、工程(b)で使用されるケイ素含有前駆体は、気体である。工程(b)に続くバッチ式圧力反応器におけるケイ素含有前駆体の分圧は、好ましくは少なくとも200kPa、または少なくとも300kPa、または少なくとも500kPa、またはより好ましくは少なくとも700kPa、または少なくとも1,000kPa、または少なくとも1,500kPa、または少なくとも2,000kPa、または少なくとも2,500kPa、または少なくとも3,000kPa、または少なくとも4,000kPa、または少なくとも5,000kPaである。
【0103】
バッチ式圧力反応器は、好ましくは、多孔質粒子およびケイ素含有前駆体装入物が添加された後、本質的に酸素ガスを含まない。酸素は、例えば、無酸素雰囲気で行われる反応の標準的な手順に従って、反応器容積を排気し、不活性ガスで、またはケイ素含有前駆体ガスでフラッシングすることによって反応器から十分に排除することができる。
【0104】
バッチ式圧力反応器は、ケイ素含有前駆体に加えて不活性パディングガス、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの希ガス、または窒素、二酸化炭素またはフォーミングガス等を含んでもよい。好ましい不活性ガスは、アルゴン、および特に窒素を含む。
【0105】
バッチ式圧力反応器への充填は、特にケイ素含有前駆体がクロロシランである場合には、水素ガスを含むこともでき、好ましくは、水素と塩素の原子比は少なくとも1:1である。
【0106】
バッチ式圧力反応器は、さらに、1種以上のドーパントを充填してもよい。ドーパントは、例えば、ホウ素、窒素、リン、ヒ素、ゲルマニウム、鉄またはニッケルを含む化合物をベースとする。ドーパントは、好ましくは、アンモニアNH、ジボランB、ホスファンPH、ゲルマンGeH、アルサンAsH、およびニッケルテトラカルボニルNi(CO)からなる群から選択される。ドーパントは、例えば工程(b)または本発明のフェーズ1またはフェーズ2でバッチ式圧力反応器に充填されてよい。
【0107】
バッチ式圧力反応器は、さらに、1~10個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン;1~10個の炭素原子を有する不飽和炭化水素、例えばエテン、アセチレン、プロペンまたはブテン、イソプレン、ブタジエン、ジビニルベンゼン、ビニルアセチレン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン;環状不飽和炭化水素、例えばシクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンまたはノルボルナジエン;芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、p-、m-またはo-キシレン、スチレン(ビニルベンゼン)、エチルベンゼン、ジフェニルメタンまたはナフタレン;他の芳香族炭化水素、例えばフェノール、o-、m-、p-クレゾール、シメン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ピリジン、アントラセンまたはフェナンスレン;ミルセン、ゲラニオール、チオテルピネオール、ノルボルナン、ボルネオール、イソボルネオール、ボルナン、カンファー、リモネン、テルピネン、ピネン、カラン、フェノール、アニリン、アニソール、フラン、フルフラール、フルフリルアルコール、ヒドロキシメチルフルフラール、ビスヒドロキシメチルフランおよびこれらの化合物を複数含む混合フラクション、例えば、天然ガス凝縮物、原油蒸留物またはコークス炉凝縮物からのもの、流動接触分解装置(FCC)、スチームクラッカーまたはフィッシャー・トロプシュ合成プラントからの製品流からの混合画分、またはごく一般的に木材、天然ガス、原油および石炭の処理からの炭化水素含有材料流からなる群から選択される1種以上の炭化水素で充填することができる。炭化水素は、例えば、工程(b)または本発明の方法のフェーズ1またはフェーズ2において、バッチ式圧力反応器に充填されることがある。
【0108】
工程(b)に続いて、バッチ式圧力反応器の内容物は、好ましくは、多孔質粒子、ケイ素前駆体、および任意で不活性パディングガスまたは水素から本質的に構成されてよい。
【0109】
多孔質粒子とケイ素含有前駆体中のケイ素との質量比は、複合粒子生成物のケイ素含有量を一般的に規定する。好ましくは、工程(b)における多孔質粒子とケイ素前駆体との質量比(ケイ素換算ベース)は、95:5~40:60であり、5~60重量%の理論ケイ素含有量を有する複合粒子をもたらす。例えば、工程(b)における多孔質粒子とケイ素前駆体との質量比(ケイ素換算ベース)は、少なくとも90:10、または少なくとも85:15、または少なくとも80:20であってよい。任意で、工程(b)における多孔質粒子とケイ素前駆体との質量比(ケイ素換算ベース)は、50:50以下、または60:40以下、または70:30以下であってよい。
【0110】
工程(c)における温度は、好ましくは、300~800℃、または300~750℃、または300~700℃、または300~650℃、または300~600℃、または320~550℃、または320~500℃、または340~450℃、または350~450℃、または300~395℃、または320~380℃の範囲内である。一般的に、反応が物質移動によって制限されないので、より低い温度(例えば、320~500℃、または340~450℃、または350~450℃、または320~380℃)が好ましい。
【0111】
工程(c)のバッチ式圧力反応器内の圧力は自生圧力であり、使用されるケイ素含有前駆体の種類、ならびに多孔質粒子の装入物のサイズおよび任意の不活性パディングガスの存在に依存することになる。しかしながら、全ての実施形態において、工程(c)における圧力は、大気圧以上であり、好ましくは大気圧を大幅に上回る。例えば、工程(c)における圧力は、少なくとも200kPa、または少なくとも300kPa、または少なくとも500kPa、または好ましくは少なくとも700kPa、または少なくとも1,000kPa、または少なくとも1,500kPa、または少なくとも2,000kPa、または少なくとも2,500kPa、または少なくとも3,000kPa、または少なくとも4,000kPa、または少なくとも5,000kPaであってよい。工程(c)は、任意に、ケイ素前駆体の臨界圧力以上で実施してよい。
【0112】
ケイ素含有前駆体からケイ素を堆積させると、一般的に副生ガスが除去され、一般的に反応器圧力が上昇する。例えば、シランガス(SiH)からケイ素を堆積させると、一般的にシランガス前駆体1モル当たり2モルの水素ガスが除去される。その結果、除去された水素の分圧は、一般的に、未反応のシランの分圧よりも著しく高くなる。場合によっては、例えば、反応器へのケイ素含有前駆体の充填量が反応器容積と比較して小さい場合、ケイ素含有前駆体の完全転化から生じる圧力上昇は、バッチ式圧力反応器の圧力許容範囲内に収まることがある。その後、副生ガスは、反応の完了後、反応器から単に排気することができる。
【0113】
他の場合には、反応の進行に伴う圧力上昇を制御することが必要であり、好ましくは、バッチ式圧力反応器内の全圧力がバッチ式圧力反応器の最大設計圧力を超えないようにすることができる。好ましくは、圧力反応器は、好ましくは反応の進行に伴う圧力上昇を制御するために、さらに好ましくは最大設計圧力を超えないようにするために、統合された水素選択膜を含む。これにより、水素ガスを反応器から排出できるように、副生する水素ガスを未反応のシラン(またはジシラン、トリシランなど)と分離することができる。
【0114】
工程(c)で堆積させるケイ素の量に応じて、本発明の方法は、目標量のケイ素を堆積させるために連続した堆積工程を使用するマルチパス方法として操作することができる。
マルチパス方法は、好ましくは、以下の追加工程:
(d)バッチ式圧力反応器から副生ガスを排出する工程と、
(e)バッチ式圧力反応器にケイ素含有前駆体のさらなる装入物を加える工程であって、ケイ素含有前駆体ガスのさらなる装入物が、反応器容積(g/LRV)1リットルあたり少なくとも2gのケイ素を含む、工程と、
(f)反応器を、前記多孔質粒子の細孔におけるケイ素のさらなる堆積を引き起こすのに有効な温度まで加熱する工程と、
を含む。
【0115】
工程(d)~(f)は、目標量のケイ素を堆積させるのに必要な回数だけ繰り返すことができる。
【0116】
上述の工程(b)におけるケイ素含有前駆体の反応器への充填および工程(c)における反応のための好ましい操作パラメータは、工程(e)および(f)におけるこれらの工程の反復にも適用される。工程(e)および(f)は、工程(b)および(c)と同じ条件下で、または異なる条件下で実施することができる。
【0117】
任意で、少なくとも1つの工程(f)は、工程(c)よりも低い温度および/または低い圧力で実施されてもよい。工程(f)が繰り返される場合、工程(f)の各実施形態は、先行するケイ素堆積工程(すなわち、工程(c)または先行する工程(f))よりも低い温度および/または低い圧力で実施されてもよい。
【0118】
より高い温度およびより高い圧力は、より速い堆積速度およびより速い細孔のキャッピングに有利であり、より低い表面積をもたらすと信じられている。しかし、これらの条件は、粒子の外部表面へのケイ素の堆積を促進する可能性があり、これは、露出したケイ素上でのSEI形成のために不利である。そのため、ケイ素の堆積速度や堆積位置を変えることができるのは大きな利点である。異なる温度および/または圧力で複数の充填工程を持つことにより、工程(c)のケイ素堆積速度を高くして細孔構造の大部分を充填し、その後、より低い圧力および/または温度で1種以上の工程(f)を行って堆積速度を遅らせて、キャッピング速度を制御して粒子の外面へのケイ素堆積を防止することができる。工程(d)は、任意で、バッチ式圧力反応器を300℃未満の温度、すなわちケイ素堆積が起こるには低すぎる温度まで冷却する工程を含んでもよい。これにより、反応器は、反応温度に加熱し直す前に、ケイ素含有前駆体の新たな充填で再平衡化することができる。しかし、ケイ素含有前駆体の新たな充填の注入時間が短い場合、冷却工程は必要ないことがある。
【0119】
複合粒子中の異なるケイ素の充填量の範囲は、本発明の方法を用いて得ることができる。例えば、工程(c)または工程(f)からの複合粒子生成物中のケイ素の量は、好適には、ケイ素および多孔質粒子骨格の総質量を基準として、5~60重量%の範囲であってよい。
好ましくは、工程(c)または工程(f)からの複合粒子生成物中のケイ素の量は、10~60重量%、または15~60重量%、または20~60重量%、または25~60重量%、または30~60重量%、または35~60重量%、または40~60重量%、または45~55重量%である。
【0120】
複合粒子中のケイ素の量は、工程(c)に続いて、多孔質粒子の内部細孔容積の少なくとも25%および最大で80%以上がケイ素によって占有されるように選択され得る。
例えば、ケイ素は、多孔質粒子の内部細孔容積の25%~60%、または25%~55%、または30%~50%、または53~55%、または40~60%、または25%~45%、または25%~40%を占め得る。これらの好ましい範囲内では、多孔質粒子の細孔容積は、充放電中のケイ素の膨張に対応するのに有効であるが、粒子状粒子の容積容量に寄与しない過剰な細孔容積は回避される。しかし、ケイ素の量も、不十分な金属イオン拡散速度により、または不十分な膨張容積によりリチウム化に対する機械的抵抗が生じることにより、有効なリチウム化を阻害するほど高くはない。
【0121】
多孔質粒子中のケイ素の量は、ケイ素と多孔質粒子の質量比が[0.5×P~1.9×P]:1の範囲内であるという要件によって、利用可能な細孔容積と相関させることができ、ここで、P1は、多孔質粒子におけるミクロ細孔とメソ細孔の総細孔容積の大きさをcm/gで表した無次元量である(例えば、多孔質粒子がミクロ細孔とメソ細孔の総容積1.2cm/gを有する場合、P=1.2)。この関係は、ケイ素の密度と多孔質粒子の細孔容積を考慮して、細孔容積が約20%~82%占有されるケイ素の重量比を定義する。
【0122】
好ましくは、複合粒子中のケイ素質量の少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、さらに好ましくは少なくとも98重量%は、複合粒子の外部表面に位置するケイ素がないか、または非常に少ないように、多孔質粒子の内部細孔容積内に位置している。CVIプロセスの反応速度論は、ケイ素の優先的な堆積が多孔質粒子の内部表面で起こることを保証する。
【0123】
複合粒子は、空気中での熱重量分析(TGA)により、さらにその性能を特徴付けることができる。この分析方法は、空気中、高温でケイ素が二酸化ケイ素(SiO)に酸化されると重量増加が観察されるという原則に基づく。ケイ素が酸化するメカニズムは、温度に依存する。ケイ素ナノ構造体の表面のケイ素原子は、ケイ素ナノ構造体のバルクのケイ素原子よりも低い温度で酸化される(参考文献:Bardet et al.,Phys.Chem.Chem.Phys.(2016),18,18201)。
【0124】
本発明の複合粒子は、好ましくは、TGAによって決定される粗大バルクケイ素の含有量が低い。粗大バルクケイ素とは、本明細書において、TGAによって決定される800℃を超える酸化を受けるケイ素として定義され、ここで、TGAは、空気中で、10℃/分の温度上昇速度で実施される。したがって、粗大バルクケイ素含有量は、以下の式に従って決定される。
Z=1.875×[(M-M800)/M]×100%
式中、Zは800℃における未酸化ケイ素の割合であり、M800は800℃における試料の質量であり、Mは1400℃における酸化終了時の灰の質量である。この分析では、800℃超での質量増加は、ケイ素がSiOに酸化されたことに相当し、酸化完了時の全質量はSiOであると仮定する。
【0125】
800℃を超える酸化を受けるケイ素はあまり好ましくない。好ましくは、ケイ素の10重量%以下、またはケイ素の8重量%以下、またはケイ素の6重量%以下、またはケイ素の5重量%以下、またはケイ素の3重量%以下、またはケイ素の2重量%以下が、TGAにより決定された粗大バルクケイ素である。
【0126】
複合粒子中のケイ素の量は、元素分析によって決定することができる。好ましくは、元素分析を用いて、多孔質炭素粒子単独およびケイ素含有複合粒子中の炭素(および任意に水素、窒素および酸素)の重量割合を決定することができる。多孔性炭素粒子単独中の炭素の重量割合を決定することは、多孔性炭素粒子が少量のヘテロ原子を含む可能性を考慮に入れている。両方の測定を一緒に行うことにより、ケイ素の多孔質炭素粒子に対する重量割合を確実に決定することができる。
【0127】
ケイ素の含有量は、好ましくは、ICP-OES(誘導結合プラズマ-光学発光分光分析)により決定される。ICP-OES装置は、ThermoFisher Scientific社から入手可能なiCAP(登録商標)7000シリーズのICP-OES分析装置など、多数が市販されている。複合粒子および多孔性炭素粒子単独の炭素含有量(必要に応じて、同様に水素、窒素および酸素含有量)は、好ましくはIR吸収によって決定される。炭素、水素、窒素および酸素の含有量を測定するのに適した装置は、Leco Corporationから入手可能なTruSpec(登録商標)Micro元素分析装置である。
【0128】
複合粒子は、好ましくは、低い総酸素含有量を有する。酸素は、例えば多孔質粒子の一部として、または任意の露出したケイ素表面上の酸化物層として、複合粒子に存在してよい。好ましくは、複合粒子の総酸素含有量は、15重量%未満、より好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、例えば2重量%未満、または1重量%未満、または0.5重量%未満である。
【0129】
ケイ素含有複合粒子は、好ましくは、0.5~30μmの範囲内のD50粒子径を有する。CVIプロセスの終了時の複合粒子のD50粒子径が30μm超である場合、複合粒子は、好ましくは、電極の製造に使用する前に、例えばミリングによって、30μm以下のD50粒子径までサイズを縮小される。D50粒子径が30μm以下である複合粒子は、スラリー中での良好な分散性、構造的堅牢性、繰り返される充放電サイクルでの高い容量保持を有し、20~50μmの従来の厚み範囲において均一な厚みの稠密な電極層の形成に適する。
【0130】
任意で、ケイ素含有複合粒子のD50粒子径は、少なくとも1μm、または少なくとも2μm、または少なくとも3μm、または少なくとも4μm、または少なくとも5μmであってよい。任意で、D50粒子径は、20μm以下、または18μm以下、または16μm以下、または14μm以下、または12μm以下、または10μm以下、または8μm以下であってよい。
【0131】
例えば、ケイ素含有複合粒子は、1~20μm、又は1~18μm、又は1~16μm、又は2~16μm、又は2~14μm、又は2~12μm、又は2~10μm、又は2~8μmの範囲内のD50粒子径を有してよい。
【0132】
ケイ素含有複合粒子のD10粒径は、好ましくは0.5μm以上、または0.8μm以上、または1μm以上である。D10粒子径を0.5μm以上に維持することで、サブミクロンサイズの粒子の望ましくない凝集の可能性を低減し、その結果、粒子状材料の分散性が向上し、容量保持性が向上する。
【0133】
ケイ素含有複合粒子のD90粒子径は、好ましくは50μm以下、または40μm以下、または30μm以下、または25μm以下、または20μm以下、または15μm以下である。非常に大きな粒子の存在は、電極活性層における粒子の充填が不均一となり、したがって、稠密な電極層、特に20~50μmの範囲内の厚さを有する電極層の形成を乱すことになる。したがって、D90粒子径が最大で40μmであることが好ましく、より好ましくはさらに低い。
【0134】
ケイ素含有複合粒子は、好ましくは、狭い粒度分布範囲を有する。例えば、粒度分布範囲((D90-D10)/D50で定義)は、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下、より好ましくは2以下、最も好ましくは1.5以下である。粒径分布範囲を狭く保つことで、稠密な電極層への効率的な粒子の充填がより容易に達成される。
【0135】
ケイ素含有複合粒子は、好ましくは、300m/g以下、250m/g以下、200m/g以下、150m/g以下、100m/g以下、80m/g以下、60m/g以下、40m/g以下、30m/g以下、25m/g以下、20m/g以下、15m/g以上、10m/g以上、又は5m/g以下のBET比表面積を有する。一般的に、負極の最初の充放電サイクルにおいて、複合粒子の表面における固体電解質界面(SEI)層の形成を最小限に抑えるために、BET表面積は低い方が好ましい。しかしながら、過度に低いBET表面積は、周囲の電解質中の金属イオンに対して電気活性物質のバルクがアクセスできないために、許容できないほど低い充電速度および容量をもたらす。例えば、BET表面積は、好ましくは少なくとも0.1m/g、または少なくとも1m/g、または少なくとも2m/g、または少なくとも5m/gである。例えば、BET比表面積は、1m/g~25m/gの範囲内であってもよく、より好ましくは、2~15m/gの範囲内である。
【0136】
好ましくは、ケイ素含有複合粒子は、1200~2340mAh/gの初回リチウム化時の比電荷容量を有する。好ましくは、ケイ素含有複合粒子は、少なくとも1400mAh/gの初回リチウム化時の比電荷容量を有する。
【0137】
本反応の工程は、バッチモードで、かつ高圧で動作することができる任意の反応器を用いて実施することができる。バッチ式圧力反応器は、一般的に、反応器内の圧力が反応器の周囲の圧力よりも大きくなるような方法で操作することができるバッチ反応器である。
【0138】
バッチ式圧力反応器は、好ましくは、管状反応器、流動床反応器、固定床反応器、およびオートクレーブからなる群から選択されるタイプの反応器である。特に好ましいのは、流動床反応器およびオートクレーブであり、特にオートクレーブである。
【0139】
多孔質粒子および形成複合粒子は、粒子の静的床の形態で、または粒子の移動床の形態で反応器内に存在してもよい。多孔質粒子の装入物の容積がバッチ式圧力反応器の使用可能容積に対して高い、例えばバッチ式圧力反応器の使用可能容積の少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%である(すなわち、反応器が工程(b)において多孔質粒子で実質的に満たされるような)場合、粒子の静床は好ましい。その後、反応を開始する前に、ケイ素含有前駆体を多孔質粒子の全容積に分布させることができる。したがって、反応開始時にケイ素含有前駆体がすでに細孔内に存在するため、物質移動の制限がなくなる。反応は、反応器内の温度プロファイルがない限り、反応器内のどの位置でも同じ転化率で行われる。
【0140】
混合を伴わない静置床に使用され得るバッチ式圧力反応器は、任意の所望の幾何学的形状を有することができる。反応器構造の好ましい形態は、円筒形、円錐形、球形および多面体形またはそれらの組合せである。
【0141】
静床反応に好ましい反応器は、シェル及び管状炉型反応器である。このタイプの反応器は、圧力容器シェル内に配置された複数の反応管(例えば、10~500本)を含む。CVI反応中の温度プロファイルを最小にするために、管は通常5~200mmの直径を有する。管はシェルから密閉され、反応器内に2つの独立の空洞を形成する。管側の空洞は反応器容積を構成し、CVI反応中の多孔質粒子とケイ素含有前駆体を含む。シェル側の空洞には、管の内容物を加熱または冷却するための熱伝達流体を入れることができる。あるいは、抵抗加熱要素を用いて対流または伝導により管を加熱することもできる。
【0142】
多孔質粒子は、例えば、管の一端に配置された多孔質プレートを通して吸引することにより、管に装填することができる。その後、所定量のケイ素含有前駆体を導入する前に、管側空洞を密閉し、真空を用いて排気し、不活性ガスでパージすることができる。管側空洞は、副生成物である水素の除去および内圧の制御を容易にするために、水素選択性膜要素を含んでもよい。
【0143】
多孔質粒子の装入物の容積がバッチ式圧力反応器の反応器容積よりも小さい場合、多孔質粒子は、反応器内の均質性を維持するために、好ましくは移動床の形態である。
【0144】
移動床反応に適した反応器は、内部撹拌機を備えるオートクレーブ反応器を含む。オートクレーブは、複数の加熱棒または管型熱交換器を介して内部で加熱することができる。あるいは、オートクレーブの外壁は、抵抗加熱要素または対流加熱によって加熱することができる。オートクレーブ反応器には、副生成物である水素の除去や内圧の制御を容易にするために、水素選択膜要素を設けてもよい。CVI反応中に粒子の移動床を維持する他の方法として、振動、超音波、流動化技術が挙げられる。移動床反応に適した反応器としては、Parr Instrument Company(登録商標)の撹拌型圧力反応器システム、Buchi AG(登録商標)のNovoclave(登録商標)の撹拌型オートクレーブなどが挙げられる。
【0145】
移動床バッチ式圧力反応器は、固体の床が撹拌され得る任意の形態の反応器構造を有することができる。これらは、例えば、移動反応器、移動撹拌要素を有する反応器、又はガス通過反応器、又はそれらの組合せである。
【0146】
移動床反応器における運動の形態は、好ましくは、回転運動である。他の動きの形態も同様に好適である。回転反応器の好ましい構造形態は、例えば、ドラム反応器又は管状反応器、円錐形反応器、ダブルコーン反応器、オフセットコーンを有する反応器、球状反応器、多面体反応器、V形反応器、ダブルV形反応器、又はそれらの幾何学的組み合わせである。対称的な構造の形態の場合、回転軸は、好ましくは反応器の対称軸にある。非対称な構造の形態の場合、回転軸は、好ましくは反応器の重心を通過する。別の好ましい実施形態では、回転軸は、タンブリング運動が生じるように選択される。移動床反応器内の混合事象は、好ましくは、内部部品によって促進される。典型的な内部部品は、ガイドプレート、ブレード、羽根、刃などである。本発明に従って、ここでは回転軸の向きが自由に選択可能である。回転軸は、好ましくは、垂直方向、水平方向、または水平方向の実施形態に対して自由な角度で配向される。
【0147】
移動床の構造としてさらに好ましい形態は、移動する撹拌要素を有する固定バッチ式圧力反応器である。このための好ましい形状は、円筒形反応器、円錐形反応器、球形反応器、多面体反応器、またはそれらの組合せである。撹拌要素の移動は、好ましくは、回転移動である。他の形態の動きも同様に好適である。撹拌要素は、好ましくは撹拌シャフトを介して駆動され、撹拌シャフトあたり1つの撹拌要素または複数の撹拌要素が存在することができる。バッチ式圧力反応器に組み込まれるのは、好ましくは複数の撹拌シャフトであり、その各々に1つの撹拌要素または複数の撹拌要素が存在することができる。主反応器軸は、好ましくは、水平または垂直に整列される。さらに好ましい実施形態では、撹拌シャフトは、任意の向きの反応器において水平または垂直に設置される。垂直方向に運転されるバッチ式圧力反応器の場合、好ましい構造形態は、例えば、撹拌要素または複数の撹拌要素が、主撹拌軸を介した回転運動によって床材を混合するものである。さらに、2つ以上の撹拌軸が並列に配置された構造も好ましいとされる。また、2つ以上の撹拌軸が互いに平行でない状態で運転される構造の好ましい形態もある。垂直方向に操作されるバッチ式圧力反応器のための構造の別の好ましい形態は、スクリューコンベアを使用することを特徴とする。スクリューコンベアは、床材を好ましくは中央で搬送する。本発明による更なる設計は、スクリューコンベアが反応器の端部に沿って回転することである。水平に運転されるバッチ式圧力反応器の場合、好ましい構造形態は、例えば、撹拌要素または複数の撹拌要素が、主撹拌軸を介した回転運動によって床材を混合するものである。また、2つ以上の撹拌軸が並列に配置される構造も可能である。さらに好ましいのは、2つ以上の撹拌シャフトが互いに平行に動作しない構造の形態である。垂直方向に操作されるバッチ式圧力反応器の場合、好ましい撹拌要素は、ヘリカルスターラー、スパイラルスターラー、アンカースターラー、または、一般的に床材料を軸方向もしくは半径方向、または軸方向および半径方向の両方で搬送する撹拌要素を含む群から選択される要素である。水平に作動するバッチ式圧力反応器の場合、好ましくは、1つのシャフト上に複数の撹拌要素が存在する。水平に作動する反応器の撹拌要素のための本発明に従った構造の形態は、刃、パドル、ブレードスターラー、スパイラルスターラー、又は一般に、ベッド材料を軸方向及び半径方向の両方に搬送する撹拌要素である。移動する撹拌要素の他に、移動する撹拌要素を備えた固定バッチ式圧力反応器では、ガイドプレートのような剛性の高い内部構造も好まれる。また、特に好ましいのは、反応器と撹拌要素の両方が回転する構造の形態である。
【0148】
混合のためのさらなる可能性として、材料床は、好ましくはガス流にさらされる。ここで特に好ましいのは、流動床反応器のような構造の形態である。さらに好ましいのは、空気圧の使用により反応器内に意図的に混合ゾーンを形成するバッチ式圧力反応器である。
【0149】
バッチ式圧力反応器の構造については、それぞれの使用条件下で必要な機械的強度と耐薬品性を有していれば、原則としてどのような材料でも適している。耐薬品性に関しては、バッチ式圧力反応器は、対応する固体材料と、媒体と接触する部分に特定のコーティングまたはメッキを施した化学的に反応しない材料(耐圧材料)で構成することができる。
これらの材料は、好ましくは、以下を含む群から選択される。
- 金属材料:(DIN CEN ISO/TR 15608に従って)鋼は材料グループ1~11に、ニッケルおよびニッケル合金はグループ31~38に、チタンおよびチタン合金はグループ51~54に、ジルコニウムおよびジルコニウム合金はグループ61および62に、鋳鉄はグループ71~76に相当するもの、
- 酸化物セラミックスを含むセラミック材料であって、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、二酸化チタン(コンデンサ材料)等の単体系、また、例えば、チタン酸アルミニウム(酸化アルミニウムと酸化チタンの混合物)、ムライト(酸化アルミニウムと酸化ケイ素の混合物)、チタン酸ジルコン酸鉛(圧電セラミック)等の多体系、または、酸化ジルコニウムで強化した酸化アルミニウム(ZTA:ジルコニア強化アルミニウム酸化物、Al/ZrO)等の分散セラミックス、
- 非酸化物セラミックス、例えば炭化ケイ素および炭化ホウ素等の炭化物、例えば窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素および窒化チタン等の窒化物、ホウ化物およびシリサイド、ならびにこれらの混合物、および、
- 複合材料であって、例えば超硬合金、セラミック複合材料、コンクリートおよびポリマーコンクリート等の粒子状複合材料、例えばガラス繊維強化ガラス、金属マトリックス複合材料(MMC)、繊維セメント、炭素繊維強化炭化ケイ素、自己強化熱プラスチック、鋼強化コンクリート、繊維強化コンクリート等の繊維複合材料、例えば炭素繊維強化プラスチック(CRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GRP)、アラミド繊維強化プラスチック(ARP)、繊維-セラミック複合材料(セラミックスマトリックス複合材料(CMC))等の繊維-プラスチック複合材料、例えば金属-マトリックス複合材料(MMC)、分散強化アルミニウム合金、分散強化ニッケル-クロム超合金等の浸透複合材料、例えばバイメタル、チタン-グラファイト複合材料、複合プレートおよび複合チューブ、ガラス繊維強化アルミニウムおよびサンドイッチ構造、および構造用複合材料等の層状複合材料。
【0150】
CVIによって堆積された電気活性材料の表面は、一般的に酸素に対して反応性があり、大気中の酸素にさらされると一般的に自然酸化物層が形成される。ケイ素の場合、一般にケイ素表面が酸素にさらされると、アモルファス酸化ケイ素膜が直ちに形成される。自然酸化物層の形成は一般的に発熱性であるため、製造中の粒子状物質の過熱や燃焼を防ぐために慎重なプロセス制御が必要である。自然酸化物層の存在は、一般的に、不可逆的な容量損失およびサイクル寿命の低下と関連しているため、リチウムイオン電池の電気活性材料の性能に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、本発明のプロセスは、堆積されたケイ素の表面を不動態化剤と接触させる工程(g)を任意に含むことができ、ここで、ケイ素は、不動態化剤との接触の前に酸素に曝されることはない。
【0151】
工程(g)は、好ましくは、最終的なケイ素堆積工程(すなわち、単一堆積工程の場合には工程(c))の直後に、またはマルチパス堆積プロセスでは最終工程(f)の後に実施される。
【0152】
不動態化剤は、本明細書では、表面酸化物の形成を抑制または防止するように電気活性材料の表面を改質することができる化合物として定義される。
【0153】
好適な不動態化剤としては、例えば、アルケン、アルキンまたはカルボニル官能基、より好ましくは末端アルケン、末端アルキンまたはアルデヒド基を含む化合物が挙げられる。
【0154】
好ましい不動態化剤としては、1種以上の下記式の化合物が挙げられる。
(i)R-CH=CH-R
(ii)R-C≡C-R
(iii)O=CH-R
上記式中、Rは、H、または1~20個の炭素原子、好ましくは2~10個の炭素原子を有する非置換もしくは置換の脂肪族もしくは芳香族ヒドロカルビル基を表し、または式(i)中の2つのR基が3~8個の炭素原子を含む非置換もしくは置換のヒドロカルビル環構造体を形成する。
【0155】
特に好ましい不動態化剤としては、1種以上の下記式の化合物が挙げられる。
(i)CH=CH-R
(ii)HC≡C-R
上記式中、Rは上記で定義した通りである。好ましくは、Rは非置換である。
【0156】
好適な化合物の例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、ブタジエン、1-ペンテン、1,4-ペンタジエン、1-ヘキセン、1-オクテン、スチレン、ジビニルベンゼン、アセチレン、フェニルアセチレン、ノルボルネン、ノルボルダジエン、ビシクロ[2.2.2]オクト-2-エンが挙げられる。異なる不動態化剤の混合物も使用することができる。
【0157】
不動態化剤のアルケン、アルキンまたはカルボニル基は、一般的に、電気活性物質の表面のM-H基(式中、Mは電気活性物質の原子を表す)と挿入反応を起こし、空気による酸化に耐性のある共有結合的に不動態化された表面を形成することが理解される。ケイ素が電気活性物質である場合、ケイ素表面と不動態化剤との間の不動態化反応は、以下に模式的に示すように、ヒドロシリル化の一形態として理解することができる。
【化1】
【0158】
他の適切な不動態化剤としては、酸素、窒素、硫黄またはリンに結合した活性水素原子を含む化合物が挙げられる。例えば、不動態化剤は、アルコール、アミン、チオールまたはホスフィンであってよい。基-XHと電気活性材料の表面のヒドリド基との反応は、Hの排除をもたらし、Xと電気活性材料表面との間の直接結合の形成をもたらすと理解される。
【0159】
このカテゴリーの好適な不動態化剤には、例えば、以下の式の化合物が挙げられる。
(iv) HX-R
(式中、Xは、O、S、NRまたはPRを表し、各Rは独立して上記で定義した通りである。)
式(iv)中の2つのR基は、3~8個の炭素原子を含む非置換または置換のヒドロカルビル環構造を形成してもよい。好ましくは、Xは、OまたはNHを表し、Rは2~10個の炭素原子を有する任意に置換された脂肪族または芳香族基を表す。また、ピロリジン、ピロール、イミダゾール、ピペラジン、インドール、またはプリンのように、4~10員の脂肪族または芳香族環構造にアミン基を組み込むことができる。
【0160】
工程(g)における電気活性材料と不動態化剤との接触は、25~800℃の範囲内の温度、好ましくは750℃以下、または700℃以下の温度、および100kPa~50MPaの範囲内の圧力で実施してよい。例えば、工程(g)は、本明細書に規定する工程(c)および/または工程(f)の好ましい温度および圧力範囲内で好適に実施してよい。
【0161】
工程(g)における不動態化は、任意に、工程(c)および/または(f)と同じバッチ式圧力反応器において、例えば、バッチ式圧力反応器を適切な温度に冷却し、バッチ式圧力反応器から副生ガスを排気し;バッチ式圧力反応器に不動態化剤の装入物を加え;そして不動態化剤が複合粒子の露出したケイ素面を不動態化することによって実施されてよい。
【0162】
本発明のプロセスは、工程(c)、工程(f)または工程(g)からの最終堆積の後に、リチウムイオン透過性材料を残りの露出した細孔におよび/または複合粒子の外表面に堆積させる工程をさらに含んでもよい。これにより、複合粒子の表面積を減少させ、ナノスケールの電気活性材料ドメインを電解液のアクセスから遠ざけて密閉することによって、リチウムイオン電池用の電気活性材料として使用する場合の複合粒子の性能のさらなる向上が得られる。
【0163】
適切なリチウムイオン透過性材料には、例えば、導電性熱分解炭素材料が挙げられる。複合粒子の細孔内および/または外表面上の導電性熱分解炭素材料は、複合粒子のバルクへのおよびバルクからの電子輸送を改善するため、有利である。これは、複合粒子のレート性能を向上させるのに役立つ。
【0164】
熱分解カーボンは、化学気相成長法(CVD)、すなわち揮発性炭素含有ガス(例えばエチレン)の熱分解によって、ケイ素含有複合粒子の表面上に堆積させることができる。
【0165】
好適なプロセスは、例えば、以下の工程:
(h)工程(c)、工程(f)または工程(g)からの複合粒子を、熱分解炭素前駆体と組み合わせる工程、および
(i)熱分解炭素前駆体を、複合粒子の細孔内および/または外表面上への熱分解導電性炭素材料の堆積を生じるのに有効な温度まで加熱する工程、
を含む。
【0166】
工程(h)は、好適には、300~800℃の範囲内の温度、又は400~700℃の範囲内の温度で実施される。例えば、工程(i)における温度は、680℃以下、または660℃以下、または640℃以下、または620℃以下、または600℃以下、または580℃以下、または560℃以下、または540℃以下、または520℃以下、または500℃以下であってよい。工程(i)における最低温度は、使用される炭素前駆体の種類に依存する。好ましくは、工程(i)の温度は、少なくとも300℃、または少なくとも350℃、または少なくとも400℃、または少なくとも450℃、または少なくとも500℃である。工程(i)における圧力は、100kPaから50MPaの範囲内であってよい。
【0167】
熱分解炭素前駆体の好適な例は、上述した炭化水素を含む。
【0168】
好適な炭化水素のためのさらなる例としては、10~25個の炭素原子および任意に1~3個のヘテロ原子を含む多環式炭化水素が挙げられ、任意に、多芳香族炭化水素は、ナフタレン、ジヒドロキシナフタレンなどの置換ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、フルオレン、アセナプテン、フェナンスレン、フルオロアンスレン、ピレン、クリセン、ペリレン、コロネン、フルオレノン、アントラキノン、アントロンおよびこれらのアルキル置換誘導体から選択される。好適な熱分解炭素前駆体としては、二環式モノテルペノイドが挙げられ、任意に、当該二環式モノテルペノイドは、カンファー、ボルネオール、ユーカリプトール、カンフェン、カレン、サビネン、ツジェンおよびピネンから選択される。さらに好適な熱分解炭素前駆体としては、C2~C10炭化水素が挙げられ、任意に、当該炭化水素は、アルカン、アルケン、アルキン、シクロアルカン、シクロアルケンおよびアレーン、例えばメタン、エチレン、プロピレン、リモネン、スチレン、シクロヘキセン、α-テルピネンおよびアセチレンから選択される。他の適切な熱分解炭素前駆体としては、フタロシアニン、スクロース、デンプン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、ピレン類、ペルヒドロピレン、トリフェニレン、テトラセン、ベンゾピレン、ペリレン類、コロネン、およびクリセンが挙げられる。好ましい炭素前駆体は、アセチレンである。
【0169】
工程(i)で使用される熱分解炭素前駆体は、純粋な状態で使用されてもよいし、窒素やアルゴンなどの不活性キャリアガスと希釈混合されてもよい。 例えば、熱分解炭素前駆体は、当該前駆体と不活性キャリアガスの総容積に基づいて、0.1~100容積%、または0.5~20容積%、または1~10容積%、または1~5容積%の範囲内の量で使用されてよい。酸素の存在は、堆積した電気活性材料の望ましくない酸化を防止するために、再び最小化されるべきである。好ましくは、酸素の含有量は、工程(i)で使用されるガスの総容積に基づいて、0.01容積%未満、より好ましくは、0.001容積%未満である。
【0170】
CVDによる導電性炭素の堆積は、任意に、工程(c)および/または工程(f)と同じバッチ式圧力反応器において、例えば、バッチ式圧力反応器を適切な温度まで冷却し、バッチ式圧力反応器から副生ガスを排出し、バッチ式圧力反応器に炭素含有前駆体の装入物を加え、反応器を、複合粒子の細孔内および/または外表面上への熱分解導電性炭素材料の堆積を生じるのに有効な温度まで加熱することにより実施してよい。
【0171】
あるいは、CVDによる導電性炭素の堆積は、炭素含有前駆体を含むガスの流れの下で、別の従来の反応器タイプ(例えば、流動床反応器、またはロータリーキルン反応器)において実施してよい。あるいは、炭素被覆は、炭素含有化合物の溶液を複合粒子の表面に堆積させ、次いで熱分解することによって形成してよい。
【0172】
炭素コーティングは、表面欠陥を平滑化し、残存する表面のミクロ細孔を埋めることによって、複合粒子のBET表面積をさらに減少させ、それによって第一サイクル損失をさらに減少させるという利点を有する。さらに、炭素コーティングは、複合粒子の表面の導電性を向上させ、電極組成物中の導電性添加物の必要性を低減し、また、安定したSEI層の形成に最適な表面を形成し、その結果、サイクル時の容量保持を向上させる。
【0173】
また、複合粒子の表面積の減少は、複合粒子を含む電極活性層の形成に必要なバインダーの量を減少させる効果もある。過剰なバインダーはレート性能の低下の一因となることが知られている。
【0174】
炭素コーティングが存在する場合、ケイ素含有複合粒子は、好ましくは、150m/g以下、または100m/g以下、または80m/g以下、または60m/g以下、または40m/g以下、または30m/g以下、または25m/g以下、または20m/g以下、または15m/g以下、または10m/g以下、5m/g以下、または3m/g以下のBET表面積を有する。
【0175】
リチウムイオン透過性フィラー材料が導電性熱分解炭素材料である場合、同じ化合物が工程(g)の不動態化剤と工程(h)の熱分解炭素前駆体の両方として機能する場合がある。例えば、熱分解炭素前駆体としてスチレンを選択した場合、スチレンと接触する前にケイ素が酸素にさらされなければ、スチレンは不動態化剤としても機能する。この場合、工程(g)の不動態化と工程(h)および(i)の導電性炭素材料の堆積は、例えば300~800℃の範囲内の温度で同時に実施することができる。あるいは、工程(g)における不動態化および工程(h)および(i)における導電性炭素材料の堆積は、不動態化剤および熱分解炭素前駆体として同じ材料を用いて順次実施することができるが、工程(i)は工程(g)より高い温度で実施される。 例えば、工程(g)は、25℃から300℃未満の範囲内の温度で実施してもよく、工程(i)は、300~800℃の範囲内の温度で実施してもよい。
【0176】
あるいは、工程(g)の不動態化剤と工程(h)の熱分解炭素前駆体として、異なる化合物を用いてもよい。例えば、電気活性材料をまず工程(g)で不動態化剤と接触させ、次いで工程(h)および(i)で導電性熱分解炭素材料を堆積させることができるが、ここで、工程(h)で使用する熱分解炭素前駆体は工程(g)で使用する不動態化剤と異なるものである。例えば、工程(g)の不動態化剤はスチレンであってよく、工程(h)の熱分解炭素前駆体は、熱分解炭素材料を形成することができるが、電気活性材料表面を不動態化することができないシクロヘキサンのような化合物であってよい。
【0177】
以下では、本プロセスのフェーズ1~7のいくつかの好ましい実施形態が、より詳細に説明される。明確にするために、多孔質粒子、ケイ素含有前駆体、ドーパントまたは炭化水素のような出発材料、または温度、圧力または不活性ガスパディングのような反応条件、またはバッチ式圧力反応器の実施形態またはプロセスの実行のような本プロセスの上述の一般的または好ましい実施形態は、以下のフェーズ1~7を参照し、以下のフェーズ1~7の記述と組み合わせて開示する。
【0178】
フェーズ1では、多孔質粒子がバッチ式圧力反応器に充填される。その後、バッチ式圧力反応器は一般的に閉じられる。
【0179】
バッチ式圧力反応器への多孔質粒子の充填は、例えば、不活性ガス雰囲気下または好ましくは周囲空気下で実施することができる。不活性ガスは、水素;希ガス、例えばヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン;窒素;二酸化炭素またはフォーミングガスまたはそれらの混合物からなる群から選択され得る。アルゴンまたは、特に、窒素が好ましい。
【0180】
フェーズ2では、1種以上のケイ素含有前駆体をバッチ式圧力反応器に装入する。
【0181】
フェーズ2において、まず最初に、すなわち特にバッチ式圧力反応器にケイ素含有前駆体を装入する前に、バッチ式圧力反応器に不活性ガスを装入するか、またはバッチ式圧力反応器を排気し、排気することが特に好ましい。不活性ガスの例および好ましい実施形態は、フェーズ1について上述した。特に好ましくは、操作は不活性ガス無しで行われる。
【0182】
バッチ式圧力反応器は、好ましくは、秤量された多孔質粒子の量に関連して、製造されるケイ素含有複合粒子の目標容積に十分な量のケイ素が堆積されるような量のケイ素含有前駆体で装入される。
【0183】
この文脈での装入は、一般的に、バッチ式圧力反応器へのケイ素含有前駆体の導入のことを意味する。バッチ式圧力反応器への導入の際、ケイ素含有前駆体は、例えば、気体、液体又は昇華可能な固体の形態で存在してよい。その後、バッチ式圧力反応器は、一般的に気密的に閉じられる。
【0184】
バッチ式圧力反応器は、フェーズ2において、1種以上のケイ素含有前駆体、および任意に1種以上の不活性ガス、水素、1種以上のドーパントまたは1種以上の炭化水素などの1種以上のさらなる構成要素を装入する。ケイ素含有前駆体は、一般的に、混合物として、または別々に、または不活性ガスとの混合物として、または純粋な物質として、バッチ式圧力反応器に導入することができる。不活性ガスの分圧は、標準条件下(DIN1343に従う)のケイ素含有前駆体の全圧を基準として、好ましくは0~99%、より好ましくは最大で50%、特に好ましくは最大で30%、および非常に好ましくは最大で5%である。特に好ましい一実施形態では、バッチ式圧力反応器は、不活性ガスを含有しない。そのようなドーパントまたはそのような炭化水素の実施形態は、上述されている。
【0185】
フェーズ3では、言い換えれば、一般的にバッチ式圧力反応器にケイ素含有前駆体が装入された後、一般的に閉鎖されているバッチ式圧力反応器は、目標温度に達するまで加熱される。目標温度では、ケイ素含有前駆体の分解が始まり、多孔質粒子の細孔内および任意に表面へのケイ素の堆積が起こる。ケイ素の堆積を伴うケイ素含有前駆体の分解の開始は、バッチ式圧力反応器内の温度の上昇によってもたらされないバッチ式圧力反応器内の圧力の上昇によって実験的に確認することができる。ケイ素含有前駆体の分解の場合、一般的にケイ素と同様に気体分子が形成され、バッチ式圧力反応器内の圧力の上昇をもたらす。バッチ式圧力反応器の容積は、プロセスの実施中、一般的に一定に保たれる。分解温度は、化学物質の特性に関する標準的な化学表にも記載されている。
【0186】
好ましくは、フェーズ3において、閉鎖バッチ式圧力反応器の加熱時の圧力変化は、例えば、下記式1:
【数3】
に従う熱力学的状態方程式によって記述され得るように、本質的に温度変化に依存している。
【0187】
フェーズ3におけるケイ素含有前駆体の分解のための目標温度の達成後、バッチ式圧力反応器におけるフェーズ4の温度は、フェーズ3の目標温度との関係で、例えば、上昇、一定、または小さい程度に低下させることができる。
【0188】
フェーズ3のバッチ式圧力反応器における温度、圧力、または差圧測定値は、バッチ式圧力反応器に一般的な測定技術および装置を用いて決定することができる。慣例的な校正に従えば、異なる測定装置でも同じ結果が得られる。
【0189】
目標温度は、好ましくは370~1000℃、より好ましくは390~800℃、最も好ましくは400~550℃の範囲内に位置する。SiHの場合、例えば、目標温度は、好ましくは370~500℃、より好ましくは390~450℃、非常に好ましくは400~420℃の範囲内にある。HSiClの目標温度は、好ましくは400~1000℃、より好ましくは600~800℃の範囲内である。HSiClの目標温度は、好ましくは350~800℃であり、より好ましくは450~550℃の範囲である。
【0190】
炭化水素が装入される場合、フェーズ3の終了時およびフェーズ4の間に適用される目標温度は、好ましくは、炭化水素の分解が始まり、多孔質粒子の細孔内および任意に表面上に炭素が堆積する温度である。この実施形態では、選択される目標温度は、好ましくは250~1000℃、より好ましくは350~850℃、最も好ましくは450~650℃の範囲内にある。
【0191】
フェーズ4の間のバッチ式圧力反応器内の圧力は、好ましくは少なくとも7バールに上昇する。
【0192】
好ましい一実施形態では、プロセスの過程における反応の進行は、圧力変化に基づいて監視される。このようにして、例えば、浸潤の程度または浸潤の終わりを確認することが可能である。浸潤とは、フェーズ4の多孔質粒子の細孔内および任意に表面へのケイ素の堆積を意味する。浸潤の終わりは、例えば、さらなる圧力上昇がないことから判断することができる。
【0193】
フェーズ4の間のバッチ式圧力反応器における圧力変化は、一般的に、例えば、下記式2:
【数4】
で表されるように、ケイ素の堆積の過程における温度変化および/または物質量の変化から実質的に生じるものである。
【0194】
フェーズ4における圧力変化は、好ましくは、ケイ素の堆積の過程における物質量の変化の実質的な産物である。したがって、有利には、ケイ素含有前駆体の反応の終了は、フェーズ4の終了時にさらなる圧力上昇がないことから認識することができ、そのため、さらなるフェーズは、反応器から未反応のケイ素含有前駆体を不必要に除去することなく、時間的に有効な引き金となり、完全変換が達成され得る。
【0195】
フェーズ4において、温度は、好ましくは、加熱によって増加されない。フェーズ4における温度は、好ましくは、ケイ素含有前駆体の場合によっては発熱する分解から生じる熱の結果として上昇する。さらに好ましいのは、フェーズ4におけるわずかな温度低下であり、より好ましくはフェーズ4中に最大20℃の温度低下である。
【0196】
フェーズ4(ケイ素含有前駆体の分解)におけるバッチ式圧力反応器内の圧力上昇は、好ましくはフェーズ3(バッチ式圧力反応器の加熱)よりも高く、これは、例えば、下記式3a:
【数5】
または、下記式3b:
【数6】
によって表される。
【0197】
フェーズ4におけるバッチ式圧力反応器内の圧力は、好ましくは少なくとも10バール、より好ましくは少なくとも50バール、より好ましくは少なくとも100バールに達する。フェーズ4におけるバッチ式圧力反応器内の圧力は、好ましくは400バール以下、より好ましくは300バール以下、特に好ましくは200バール以下のままである。
【0198】
フェーズ4のバッチ式圧力反応器内で優勢な温度は、好ましくは100~1000℃の範囲内、より好ましくは300~900℃の範囲内、最も好ましくは380~750℃の範囲内にある。
【0199】
フェーズ4のバッチ式圧力反応器における温度、圧力、圧力変化または差圧測定は、バッチ式圧力反応器に共通する測定用の技術および装置を用いて決定することができる。慣例的な較正に従えば、異なる測定装置でも同じ結果が得られる。物質の量または物質の量の変化は、例えば、バッチ式圧力反応器から規定容量の試料を取り出し、ガスクロマトグラフィーによって従来の方法でその実質的な組成を決定することによって、決定することができる。
【0200】
フェーズ3及び任意にフェーズ4におけるバッチ式圧力反応器の加熱は、例えば、一定の加熱速度で、又は複数の異なる加熱速度で行われてよい。加熱速度は、プロセスの設計に従って、例えば、反応器のサイズ、反応器内の多孔質粒子の量、撹拌技術、または計画された反応時間に従って、個々のケースで当業者によって適合され得る。バッチ式圧力反応器全体は、好ましくは、急速加熱にもかかわらず、ケイ素含有前駆体の分解が始まる温度におけるバッチ式圧力反応器内の最大温度勾配が1000℃/m未満、より好ましくは100℃/m未満、非常に好ましくは10℃/m未満のままであるような速度でフェーズ3において加熱される。このようにして、例えば、ケイ素の大部分が、多孔質粒子の細孔内に堆積し、その外表面には堆積しないようにすることが可能である。
【0201】
ケイ素含有前駆体の分解が始まる温度は、例えば、使用される多孔質粒子または使用されるケイ素含有前駆体、および分解の他の境界条件、例えば、分解の瞬間のケイ素含有前駆体の分圧、および分解反応に影響を与える他の反応性成分、例えば触媒などの存在に依存し得る。
【0202】
フェーズ3におけるバッチ式圧力反応器の加熱は、好ましくは1~100℃/分の加熱速度、より好ましくは2~50℃/分の加熱速度、非常に好ましくは3~10℃/分の加熱速度で行われる。
【0203】
フェーズ4におけるケイ素含有前駆体の分解の間、温度は一定に保たれるか、さもなければ変化させることができる。目的は、できるだけ短時間でケイ素含有前駆体をほぼ完全に変換し、使用に適したケイ素含有材料を生成することである。
【0204】
操作の様々なフェーズにおける圧力上昇の速度を制御するために、使用可能な様々な技術的解決策がある。圧力上昇を増加または減少させるために、反応器内容物に供給される熱は、好ましくは、それぞれ増加または減少される。圧力上昇率を減少させるためには、バッチ式圧力反応器からの冷却による熱の除去を増加させることも好ましい。この目的のために、好ましくは、1種以上の反応器壁が冷却されるか、または熱を除去するための設備が反応器に導入され、例としては冷却パイプまたは冷却リブが挙げられる。反応器内の圧力を非常に迅速に制御するために、バッチ式圧力反応器から少量のガスを供給または除去すること、または蒸発する液体を供給することが好ましい。この文脈において、バッチ式圧力反応器から除去された副流は、冷却および/または全体の流れの一部の除去後、好ましくは閉回路で反応器内容物に全体的または部分的に再び戻される。
【0205】
フェーズ4における反応の経過は、好ましくは、反応の終わりを認識するために、分析的に監視され、その結果、反応器占有時間を最小化する。反応の経過を観察する方法は、例えば、発熱または吸熱現象を決定するための温度測定、固体と気体の反応器内容物の成分の比率の変化を通じて反応の経過を決定するための圧力測定、さらに反応中のガス空間の変化する組成の観察を可能にするさらなる技術も含む。
【0206】
プロセスの実施中にバッチ式圧力反応器における圧力の変化、特に圧力の上昇を監視することが好ましい。この増加は、堆積速度の指標であり、したがって、多孔質粒子および/または結果として得られるケイ素含有材料における残りの表面積の指標となるものである。
【0207】
フェーズ5において、バッチ式圧力反応器は冷却される。冷却は、好ましくは堆積の終了後に行われ、任意で目標温度以下まで、好ましくはフェーズ6の温度まで行われる。
【0208】
フェーズ6において、堆積の過程で形成された、反応のガス状副生成物は、好ましくは堆積の温度で、またはガス状反応副生成物の除去に望ましい温度の達成後に除去され、除去は、例えばパージによって、バッチ式圧力反応器のガス空間から行われる。パージガスを使用することが好ましい。パージガスが装入される前に、バッチ式圧力反応器は、好ましくは少なくとも1回排気される。好ましいパージガスは、不活性ガス、例えばヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等の希ガス、または水素または窒素または二酸化炭素であり、個別にまたは混合物として、または酸素とのそれらの混合物、例えば空気または希薄空気として使用可能である。
【0209】
バッチ式圧力反応器は、好ましくは、不活性ガスと酸素の混合物でパージされる。このようにして、例えば、ケイ素含有複合粒子の表面を修飾すること-例えば、不活性化すること-が可能である。例えば、ケイ素含有複合粒子の表面に存在する任意の反応性基の反応を達成することが可能である。窒素と酸素の混合物は、好ましくは最大で20容積%、より好ましくは最大で10容積%、特に好ましくは最大で5容積%の酸素を含む。この工程は、好ましくは最大で200℃、より好ましくは最大で100℃、特に好ましくは最大で50℃の温度で行われる。
【0210】
プロセスのフェーズ7において、ケイ素含有複合粒子は、バッチ式圧力反応器から、任意にバッチ式圧力反応器中に存在する不活性ガス雰囲気を保持したまま、取り除かれる。
【0211】
プロセスの1つの好ましい実施形態では、フェーズ2~フェーズ6が何度も繰り返され、この場合、フェーズ2で装入されたケイ素含有前駆体は、それぞれの場合で同じであっても異なっていてもよい。
【0212】
プロセスのさらに好ましい実施形態では、フェーズ6はフェーズ4に直接続き、言い換えれば、フェーズ5は省略することができ、言い換えれば、フェーズ4の後、バッチ式圧力反応器を冷却せずにフェーズ6を継続することも可能である。
【0213】
プロセスのさらに好ましい実施形態では、フェーズ2~フェーズ6が単数または複数回繰り返され、この場合、任意に1回または複数回の繰り返しにおいて、フェーズ6が省略される。
【0214】
さらに好ましい実施形態では、フェーズ2~6、任意にフェーズ5を省略して、単数または複数回繰り返され(反応サイクル)、この場合、個別または多数回の繰り返しにおいて、ケイ素を含まない反応性成分を採用することも可能であり、この場合、それぞれの繰り返しにおけるケイ素を含まない反応性成分は、同じでも異なっていてもよく、但し、少なくとも一つの反応サイクルでは、ケイ素含有前駆体を含む反応性成分が使用される。ケイ素を含まない反応性成分は、好ましくは、ケイ素含有前駆体を含まない。ケイ素を含まない反応性成分は、好ましくは、1種以上の炭化水素を含む。この好ましい実施形態では、ケイ素を含まない反応性成分は、フェーズ2~6の繰り返しで使用することができる。好ましいケイ素を含まない反応性成分は、炭化水素である。ケイ素を含まない反応性成分を使用する場合、炭素は、好ましくは、多孔質粒子またはケイ素含有複合粒子の細孔内および任意に表面上に堆積される。
【0215】
特に好ましい一実施形態では、第1の反応サイクルにおいて、フェーズ2において、1種以上のケイ素含有前駆体が装入され、第2の反応サイクルにおいて、1種以上の炭化水素を含む反応性成分が装入され、この後者の成分は好ましくはケイ素含有前駆体を含まず、フェーズ5が任意に省略される。この手段により、例えば、外側に向けられた自由ケイ素表面を有さないケイ素含有複合粒子を得ることが可能である。
【0216】
さらなる好ましい実施形態では、第1の反応サイクルにおいて、フェーズ2において、少なくとも1つの炭化水素を含み、ケイ素含有前駆体を含まない反応性成分が装入され、第2の反応サイクルにおいて、1種以上のケイ素含有前駆体を含む反応性成分が使用され、フェーズ5が任意に省略される。任意に、第3の反応サイクルにおいて、ケイ素含有前駆体を含まない更なる炭化水素含有反応性成分が使用され、フェーズ5が任意に省略される。結果として得られるのは、例えば、多孔質粒子と堆積したケイ素の間に炭素層を有し、任意にさらに外側の炭素層を有するケイ素含有複合粒子であり、これは外側に向けられた自由ケイ素表面が存在しないことを意味する。ケイ素含有前駆体とは異なる好ましい反応性成分は、1種以上の炭化水素である。炭化水素およびその好ましい実施形態は、上述したとおりである。
【0217】
1種以上の炭化水素を含むがケイ素含有前駆体を含まない反応性成分は、好ましくは、さらなる成分を含まないか、または1種以上の不活性ガスおよび/または水素および/または1つ以上のドーパントを含まない。ドーパントおよびそれらの好ましい実施形態は、上述されている。
【0218】
フェーズ2~6の間、多孔質粒子およびまた結果として生じるケイ素含有複合粒子は、一般的に、静止床の形態で存在してもよく、または混合を伴う撹拌された形態であってもよい。バッチ式圧力反応器における多孔質粒子および/または結果として生じるケイ素含有複合粒子の撹拌された混合が好ましい。それは、例えば、全ての多孔質粒子と反応性成分、特にケイ素含有前駆体との均質な接触、又は床内の均質な温度分布を可能にする。粒子は、例えば、反応器内の撹拌内部部品によって、反応器全体の動きによって、あるいは、反応器内の固体をガス流で流動化することによって、撹拌することができる。
【0219】
本方法の工程a)~c)は、好ましくは上記プロセスフェーズ1~7に分割され、より好ましくは工程b)~c)はプロセスフェーズ1~7に分割される。工程b)は、好ましくは、フェーズ1およびフェーズ2から構成される。工程c)は、好ましくはフェーズ3~7、特にフェーズ3および4から構成される。
【0220】
本発明のプロセスによって得ることができるケイ素含有複合粒子は、好ましくは0.5~20μmの範囲内の直径割合d50の容積加重粒度分布を有する。d50値は、好ましくは少なくとも1.5μmであり、より好ましくは少なくとも2μmである。直径割合d50は、好ましくは最大で13μmであり、より好ましくは最大で8μmである。
【0221】
ケイ素含有複合粒子の容積加重粒度分布は、好ましくは直径割合d10≧0.2μmとd90≦20.0μmの間に位置し、より好ましくはd10≧0.4μmとd90≦15.0μmの間、最も好ましくはd10≧0.6μmとd90≦12.0μmの間とする。
【0222】
ケイ素含有複合粒子は、直径割合d10が好ましくは≦10μm、より好ましくは≦5μm、特に好ましくは≦3μm、最も好ましくは≦1μmの容積加重粒度分布を有する。直径割合d10は、好ましくは≧0.2μm、より好ましくは≧0.4μm、最も好ましくは≧0.6μmである。
【0223】
ケイ素含有複合粒子は、直径割合d90が好ましくは≧5μm、より好ましくは≧10μmの容積加重粒度分布を有する。直径割合d90は、好ましくは≦20μmであり、より好ましくは≦15μmであり、最も好ましくは≦12μmである。
【0224】
ケイ素含有複合粒子の容積加重粒度分布は、好ましくは≦15.0μm、より好ましくは≦12.0μm、さらに好ましくは≦10.0μm、特に好ましくは≦8.0μm、最も好ましくは≦4.0μmのd90-d10差分を有する。ケイ素含有複合粒子の容積加重粒度分布は、好ましくは≧0.6μm、より好ましくは≧0.8μm、最も好ましくは≧1.0μmのd90-d10差分を有する。
【0225】
ケイ素含有複合粒子は、孤立していてもよいし、凝集していてもよい。ケイ素含有複合粒子は、好ましくは、凝集しておらず、好ましくは塊状ではない。孤立、塊状および非凝集という用語は、多孔質粒子に関連して、上記で既に定義されている。凝集体または塊状体の形態のケイ素含有複合粒子の存在は、例えば、従来の走査型電子顕微鏡(SEM)により可視化することができる。
【0226】
ケイ素含有複合粒子は、任意の所望の形態を有してよく、したがって、例えば、板状、不規則な形状、破片形状、球状、またはその他の針状であってよく、破片形状または球状粒子が好ましい。
【0227】
Wadellの定義によれば、球形度ψは、物体の実際の表面積に対する等しい体積の球の表面積の比である。球体の場合、ψの値は1である。この定義によれば、本発明のプロセスによって入手可能なケイ素含有複合粒子は、好ましくは0.3~1.0、より好ましくは0.5~1.0、最も好ましくは0.65~1.0の球形度ψを有する。
【0228】
真球度Sは、表面に投影された粒子の投影と同じ面積Aを有する等価円の円周と、この投影の測定円周Uの比:
【数7】
である。理想的な円形の粒子の場合、Sの値は1である。本発明のプロセスによって入手可能なケイ素含有複合粒子の場合、球形度Sは、数値球形度分布割合S10~S90に基づいて、好ましくは0.5~1.0、より好ましくは0.65~1.0の範囲内にある。真球度Sは、例えば、個々の粒子の光学顕微鏡写真から、または好ましくは、10μmより小さい粒子の場合には、走査型電子顕微鏡を用いて、例えば、ImageJなどの画像解析ソフトウェアによるグラフィック評価により測定する。
【0229】
リチウムイオン電池のサイクル安定性は、ケイ素含有複合粒子の形態、材料組成、特に比表面積または内部空隙率を介してさらに高めることができる。
【0230】
ケイ素含有複合粒子は、ケイ素含有複合粒子の総重量を基準として、好ましくは10~90重量%、より好ましくは20~80重量%、非常に好ましくは30~60重量%、特に好ましくは40~50重量%の多孔質粒子を含む。
【0231】
ケイ素含有複合粒子は、ケイ素含有複合粒子の総重量を基準として、ケイ素含有前駆体から堆積して得られたケイ素を好ましくは10~90重量%、より好ましくは20~80重量%、非常に好ましくは30~60重量%、特に好ましくは40~50重量%含む(ICP-OESなどの元素分析により決定することが好ましい)。
【0232】
多孔質粒子がケイ素化合物、例えば二酸化ケイ素を含む場合、ケイ素含有前駆体からの堆積を介して得られたケイ素の上記重量%の数値は、元素分析によって確認されたケイ素含有複合粒子中のケイ素質量から、元素分析によって確認された多孔質粒子中のケイ素質量を差し引き、その結果をケイ素含有複合粒子の質量で割ることによって決定できる。
【0233】
ケイ素含有複合粒子に含まれ、ケイ素含有前駆体からの堆積を経て得られたケイ素の容積は、ケイ素含有複合粒子の総質量に対するケイ素含有前駆体からの堆積を経て得られたケイ素の質量分率の積を、ケイ素の密度(2.336g/cm)で割った値である。
【0234】
ケイ素含有複合粒子の細孔容積Pは、ガス侵入可能な細孔容積とガス侵入不可能な細孔容積の和である。ケイ素含有複合粒子のGurwichガス侵入可能な細孔容積は、DIN66134に準拠した窒素によるガス吸着測定により求めることができる。
【0235】
ケイ素含有複合粒子のガス侵入可能な細孔容積は、下記式:
ガス侵入可能な細孔容積=(1/純物質密度)-(1/骨格密度)
により決定することができる。
【0236】
ここで、ケイ素含有複合粒子の純物質密度は、ケイ素含有複合粒子に含まれる成分の理論純物質密度に、材料全体におけるそれぞれの重量基準分率を乗じた合計から算出できる理論密度である。従って、例えば、多孔質粒子にケイ素が堆積されたケイ素含有複合粒子の場合、以下のようになる。
純物質密度=(ケイ素の理論純物質密度×ケイ素の分率(重量%))+(多孔質粒子の理論純物質密度×多孔質粒子の分率(重量%))
【0237】
純物質密度のデータは、当業者であれば、例えば、米国国立標準研究所(NIST、https://srdata.nist.gov/CeramicDataPortal/scd)のセラミックデータポータルから取得することができる。例えば、炭素の純物質密度は2.2~2.3g/m、酸化ケイ素の純物質密度は2.203g/cm、窒化ホウ素の純物質密度は2.25gcm、窒化ケイ素の純物質密度は3.44g/cm、および炭化ケイ素の純物質密度は3.21g/cmである。
【0238】
ケイ素含有複合粒子の細孔容積Pは、ケイ素含有複合粒子に含まれ、ケイ素含有前駆体の堆積により得られるケイ素の体積を基準として、好ましくは0~400容積%の範囲内に位置し、より好ましくは100~350容積%の範囲内、さらに好ましくは200~350容積%の範囲内である。
【0239】
ケイ素含有複合粒子に含まれる細孔は、ガス侵入可能及びガス侵入不可能の両方であってもよい。ケイ素含有複合粒子のガス侵入可能な細孔の容積と侵入不可能な細孔の容積の比は、概ね0(ガス侵入可能な細孔がない)~1(全ての細孔がガス侵入可能である)の範囲内に位置する。ケイ素含有複合粒子のガス侵入可能な細孔の容積と侵入不可能な細孔の容積の比は、好ましくは0~0.8の範囲内、より好ましくは0~0.3の範囲内、特に好ましくは0~0.1の範囲内に位置する。
【0240】
ケイ素含有複合粒子の細孔は、任意の所望の直径を有してよく、例えば、マクロ細孔(>50nm)、メソ細孔(2~50nm)およびミクロ細孔(<2nm)の範囲に位置している。ケイ素含有複合粒子はまた、異なる細孔タイプの任意の所望の混合物を含むことができる。ケイ素含有複合粒子は、全細孔容積に基づいて、最大30%のマクロ細孔を含むことが好ましく、マクロ細孔を含まないケイ素含有複合粒子が特に好ましく、全細孔容積に基づいて少なくとも50%の5nm未満の平均孔径を有する細孔を有するケイ素含有複合粒子が非常に特に好ましい。ケイ素含有複合粒子は、専ら、最大で2nmの直径を有する細孔を有することが特に好ましい。
【0241】
ケイ素含有複合粒子は、少なくとも1つの次元において、好ましくは最大で1000nm、より好ましくは100nm未満、非常に好ましくは5nm未満の構造サイズを有するケイ素構造体を含む(決定方法:走査電子顕微鏡(SEM)および/または高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM))。
【0242】
ケイ素含有複合粒子は、好ましくは1000nm未満、より好ましくは100nm未満、非常に好ましくは5nm未満の層厚を有するケイ素層を含む(決定方法:走査型電子顕微鏡(SEM)および/または高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM))。また、ケイ素含有複合粒子は、ケイ素を粒子の形態で含んでいてもよい。ケイ素粒子は、好ましくは最大で1000nm、より好ましくは100nm未満、非常に好ましくは5nm未満の直径を有する(決定方法:走査型電子顕微鏡(SEM)および/または高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM))。なお、ここでのケイ素粒子の数値は、好ましくは顕微鏡画像における粒子周囲の円の直径を基準とする。
【0243】
ケイ素含有複合粒子は、最大で50m/g、好ましくは30m/g未満、特に好ましくは10m/g未満の比表面積を有する。BET比表面積は、DIN 66131(窒素使用)に従って決定される。したがって、ケイ素含有複合粒子をリチウムイオン二次電池用負極の活物質として用いた場合、SEIの発生を抑制し、初期クーロン効率を向上させることができる。
【0244】
ケイ素含有前駆体から堆積されたケイ素含有複合粒子中のケイ素は、例えば、Li、Fe、Al、Cu、Ca、K、Na、S、Cl、Zr、Ti、Pt、Ni、Cr、Sn、Mg、Ag、Co、Zn、B、P、Sb、Pb、Ge、Bi及び希土類からなる群から選ばれる1種以上のドーパントを更に含んでもよい。ここでは、リチウムおよび/またはスズが好ましい。ケイ素含有複合粒子中のドーパントの量は、ICP-OESの手段によって決定可能な、ケイ素含有複合粒子の総重量に基づいて、好ましくは最大で1重量%、より好ましくは最大で100ppmである。
【0245】
ケイ素含有複合粒子は、一般的に、圧縮および/または剪断負荷の下で驚くほど高い安定性を有する。ケイ素含有複合粒子の圧力安定性および剪断安定性は、例えば、圧縮荷重(例えば電極の成形時)およびそれぞれ剪断荷重(例えば電極の準備時)下でのSEMにおけるケイ素含有複合粒子の多孔質構造の変化の欠如または事実上の欠如によって現わされる。
【0246】
ケイ素含有複合粒子は、任意に、炭素のような元素をさらに含んでいてもよい。炭素は、好ましくは、最大で1μm、好ましくは100nm未満、より好ましくは5nm未満、非常に好ましくは1nm未満の層厚を有する薄層の形態で存在する(SEMまたはHR-TEMを介して決定可能)。これらの炭素層は、ケイ素含有複合体粒子の細孔内および表面の両方に存在し得る。フェーズ2~6の対応する繰り返しによるケイ素含有複合粒子における異なる層の順序、またその数もまた任意である。したがって、まず、多孔質粒子上に、多孔質粒子とは異なるさらなる材料、例えば炭素などの層が存在し、その層がケイ素層またケイ素粒子の層を担うことができる。また、多孔質粒子とケイ素層またはケイ素粒子からなる層との間に、多孔質粒子の材料とは異なる材料のさらなる層が存在するかどうかにかかわらず、ケイ素層またはケイ素粒子の層上に、多孔質粒子の材料と異なっていてもよいし、同じであってもよいさらなる材料の層が存在することも可能である。本発明のプロセスは、バッチ式圧力反応器を開放することにより中断することなく、フェーズ2~フェーズ6の繰り返しを直接続けることができるので、特に有利であることが証明される。
【0247】
ケイ素含有複合粒子は、好ましくは≦50重量%、より好ましくは≦40重量%、特に好ましくは≦20重量%の追加元素を含む。ケイ素含有複合粒子は、好ましくは≧1重量%、より好ましくは≧3重量%、特に好ましくは≧2重量%の添加元素を含有する。重量%の数値は、ケイ素含有複合粒子の総重量に基づくものである。代替的な実施形態では、ケイ素含有複合粒子は、付加的な元素を含有しない。
【0248】
本発明の第2の態様において、本発明によるプロセスによって得ることができる、粒子状材料、すなわち本ケイ素含有複合粒子を含む、またはそれらからなる組成物が提供される。特に、本発明のプロセスによって得られるケイ素含有複合粒子と、(i)バインダー;(ii)導電性添加剤;および(iii)追加の粒子状電気活性物質から選択される少なくとも1種の他の成分とを含む組成物が提供される。 本発明の第2の態様による組成物は、電極組成物として有用であり、したがって、電極の活性層を形成するために使用され得る。
【0249】
当該組成物は、ケイ素含有複合粒子と、少なくとも1種の追加の粒子状電気活性材料とを含むハイブリッド電極組成物であってよい。追加の粒子状電気活性材料の例としては、グラファイト、ハードカーボン、ケイ素、スズ、ゲルマニウム、アルミニウムおよび鉛が挙げられる。少なくとも1種の追加の粒子状電気活性材料は、好ましくはグラファイトおよびハードカーボンから選択され、最も好ましくは、少なくとも1種の追加の粒子状電気活性材料はグラファイトである。
【0250】
ハイブリッド電極組成物の場合、当該組成物は、好ましくは、当該組成物の総乾燥重量に基づいて、3~60重量%、または3~50重量%、または5~50重量%、または10~50重量%、または15~50重量%のケイ素含有複合粒子を含む。
【0251】
少なくとも1種の追加の粒子状電気活性材料は、好適には、少なくとも1種の追加の粒子状電気活性材料の20~95重量%、または25~90重量%、または30~75重量%の量で存在する。
【0252】
少なくとも1種の追加の粒子状電気活性材料は、好ましくは、10~50μm、好ましくは10~40μm、より好ましくは10~30μm、最も好ましくは10~25μm、例えば15~25μmの範囲内のD50粒子径を有する。
【0253】
少なくとも1種の追加の粒子状電気活性材料のD10粒径は、好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも6μm、より好ましくは少なくとも7μm、より好ましくは少なくとも8μm、より好ましくは少なくとも9μm、およびなおより好ましくは少なくとも10μmである。
【0254】
少なくとも1種の追加の粒子状電気活性材料のD90粒子径は、好ましくは最大で100μm、より好ましくは最大で80μm、より好ましくは最大で60μm、より好ましくは最大で50μm、および最も好ましくは最大で40μmである。
【0255】
少なくとも1種の追加の粒子状電気活性材料は、好ましくは、炭素含有粒子、グラファイト粒子および/またはハードカーボン粒子から選択され、グラファイト粒子およびハードカーボン粒子は、10~50μmの範囲内のD50粒子径を有する。さらに好ましくは、少なくとも1種の追加の粒子状電気活性材料は、グラファイト粒子から選択され、グラファイト粒子は、10~50μmの範囲内のD50粒子径を有する。
【0256】
当該組成物はまた、追加の粒子状電気活性材料を実質的に含まない非ハイブリッド(または「高充填」)電極組成物であってもよい。この文脈において、用語「追加の粒子状電気活性材料を実質的に含まない」は、当該組成物が、当該組成物の総乾燥重量に基づいて、15重量%未満、好ましくは10重量%未満、好ましくは5重量%未満、好ましくは2重量%未満、より好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満の任意の追加の電気活性材料(すなわち、電池の充電および放電の間に金属イオンを挿入および放出できる追加の材料)を含むことと解釈すべきである。
【0257】
このタイプの「高充填」電極組成物は、好ましくは、当該組成物の総乾燥重量に基づいて、少なくとも50重量%、または少なくとも60重量%、または少なくとも70重量%、または少なくとも80重量%、または少なくとも90重量%の、本発明のプロセスに従って得られたケイ素含有複合体粒子を含む。
【0258】
当該組成物は、任意に、バインダーを含んでもよい。バインダーは、当該組成物を集電体に付着させ、当該組成物の完全性を維持するために機能する。本発明に従って使用してよいバインダーの例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリル酸(PAA)およびそのアルカリ金属塩、変性ポリアクリル酸(mPAA)およびそのアルカリ金属塩、カルボキシメチルセルロース(CMC)、変性カルボキシメチルセルロース(mCMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na-CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸塩およびそのアルカリ金属塩、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)およびポリイミド等が挙げられる。当該組成物は、バインダーの混合物を含んでもよい。好ましくは、バインダーは、ポリアクリル酸(PAA)およびそのアルカリ金属塩、変性ポリアクリル酸(mPAA)およびそのアルカリ金属塩、SBRおよびCMCから選択されるポリマーを含む。
【0259】
バインダーは、好適には、当該組成物の総乾燥重量に基づいて、0.5~20重量%、好ましくは1~15重量%、好ましくは2~10重量%、最も好ましくは5~10重量%の量で存在することができる。
【0260】
バインダーは、任意に、架橋促進剤、カップリング剤および/または接着促進剤などの、バインダーの特性を改変する1種以上の添加剤と組み合わせて存在することができる。
【0261】
当該組成物は、任意に、1種以上の導電性添加剤を含んでもよい。好ましい導電性添加剤は、当該組成物の電気活性成分間および当該組成物の電気活性成分と集電体との間の電気伝導性を改善するように含まれる非電気活性材料である。導電性添加剤は、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、金属繊維、金属粉末および導電性金属酸化物から選択され得る。好ましい導電性添加剤としては、カーボンブラックおよびカーボンナノチューブが挙げられる。
【0262】
1種以上の導電性添加剤は、好適には、当該組成物の総乾燥重量に基づいて、0.5~20重量%、好ましくは1~15重量%、好ましくは2~10重量%、最も好ましくは5~10重量%の総量で存在し得る。
【0263】
第3の態様では、本発明は、集電体と電気的に接触する、本発明によるプロセスによって得られるケイ素含有複合粒子を含む電極を提供する。本発明の第3の態様の電極を製造するために使用される粒子状材料は、本発明の第2の態様による組成物の形態であってよい。
【0264】
本明細書で使用する場合、集電体という用語は、当該組成物中の電気活性粒子との間で電流を運ぶことができる任意の導電性基材を指す。集電体として使用できる材料の例としては、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタンおよび焼結炭素が挙げられる。 銅は好ましい材料である。集電体は、典型的には、3~500μmの間の厚さを有する箔またはメッシュの形態である。本発明の粒子状材料は、集電体の片面または両面に、好ましくは10μm~1mm、例えば20~500μm、または50~200μmの範囲内である厚さに塗布することができる。
【0265】
本発明の第3の態様の電極は、本発明のケイ素含有複合粒子と、溶媒および任意に1種以上の粘度調整添加剤とを組み合わせて、スラリーを形成することによって製造することができる。次いで、スラリーを集電体の表面にキャストし、溶媒を除去し、それによって集電体の表面に電極層を形成する。さらに、バインダーを硬化させるための熱処理や電極層のカレンダー処理などの工程を適宜実施することができる。電極層は、好適には、20μm~2mm、好ましくは20μm~1mm、好ましくは20μm~500μm、好ましくは20μm~200μm、好ましくは20μm~100μm、好ましくは20μm~50μmの範囲内の厚さを有する。
【0266】
あるいは、スラリーを、例えば、適当なキャスティングテンプレート上にキャストし、溶媒を除去した後、キャスティングテンプレートを除去することによって、本発明の粒子状物質を含む自立したフィルムまたはマットに形成することができる。得られたフィルムまたはマットは、凝集性のある自立した塊の形状であり、その後、既知の方法によって集電体に接着させてもよい。
【0267】
本発明の第3の態様の電極は、金属イオン電池の負極として使用することができる。 したがって、第4の態様において、本発明は、上述の電極を含む負極と、金属イオンの放出および再吸収が可能な正極活物質を含む正極と、負極と正極との間の電解質とを備える再充電可能な金属イオン電池を提供する。
【0268】
金属イオンは、好ましくは、リチウムイオンである。より好ましくは、本発明の再充電可能な金属イオン電池は、リチウムイオン電池であり、正極活物質は、リチウムイオンの放出および再吸収が可能である。
【0269】
正極活物質は、好ましくは、金属酸化物系複合体である。好適な正極活物質の例としては、LiCoO、LiCo0.99Al0.01、LiNiO、LiMnO、LiCo0.5Ni0.5、LiCo0.7Ni0.3、LiCo0.8Ni0.2、LiCo0.82Ni0.18、LiCo0.8Ni0.15Al0.05、LiNi0.4Co0.3Mn0.3およびLiNi0.33Co0.33Mn0.34などが挙げられる。正極集電体は、一般的に3~500μmの厚さである。正極集電体として使用できる材料の例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタンおよび焼結炭素が挙げられる。
【0270】
電解質は、好適には、金属塩、例えばリチウム塩を含む非水電解質であり、限定されないが、非水電解質溶液、固体電解質および無機固体電解質が挙げられる。使用できる非水電解質溶液の例としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン.2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ニトロメタン、メチルホルメート、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホランおよび1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。
【0271】
有機固体電解質の例としては、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、硫化ポリエステル、ポリビニルアルコール、フッ化ポリビニリデン、およびイオン性解離基含有ポリマーが挙げられる。
【0272】
無機固体電解質の例としては、LiNI、LiN、LiI、LiSiO、LiSiS、LiSiO、LiOHおよびLiPOなどの窒化物、ハロゲン化物、および硫化物のリチウム塩が挙げられる。
【0273】
リチウム塩は、好適には、選択された溶媒または溶媒の混合物に可溶である。好適なリチウム塩の例としては、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiBC、LiPF、LiCFSO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLiおよびCFSOLiが挙げられる。
【0274】
電解液が非水系有機溶液である場合、金属イオン電池は、好ましくは、負極と正極との間に介在するセパレータを備える。セパレータは、典型的には、高いイオン透過性と高い機械的強度を有する絶縁性材料で形成される。セパレータは、典型的には、0.01~100μmの細孔径と、5~300μmの厚さとを有する。好適な電極セパレータの例としては、ミクロ細孔ポリエチレンフィルムが挙げられる。
【0275】
セパレータは、ポリマー電解質材料によって置換されてもよく、そのような場合、ポリマー電解質材料は、複合負極層および複合正極層の両方の中に存在する。ポリマー電解質材料は、固体ポリマー電解質またはゲル型ポリマー電解質であり得る。
【実施例
【0276】
以下の実施例は、ここに記載された発明のさらなる解説に役立つものである。
【0277】
特性評価に使用した分析方法および装置は以下の通りである。
【0278】
走査型電子顕微鏡(SEM/EDX):
顕微鏡分析は、Zeiss Ultra 55走査電子顕微鏡およびOxford X-Max 80Nエネルギー分散型X線分光器を用いて実施した。分析に先立ち、帯電現象を防止するため、Safematic Compact Coating Unit 010/HVを用いて、炭素の気相堆積処理を行った。ケイ素含有複合粒子の断面は、Leica TIC 3Xイオンカッターを用い、6kVで作製した。
【0279】
無機分析/元素分析:
実施例で報告したCの含有量は、Leco CS 230アナライザーを用いて確認した。O、および必要に応じてNとHの含有量の決定には、Leco TCH-600アナライザーを使用した。その他の報告した元素の定性および定量は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析(Optima 7300 DV、Perkin Elmer製)を用いて行った。この分析のために、サンプルをマイクロ波(Microwave 3000、Anton Paar製)で酸分解(HF/HNO)させた。ICP-OESによる測定は、ISO 11885“Water quality-Determination of selected elements by inductively coupled plasma optical emission spectrometry(ICP-OES)(ISO 11885:2007);German version EN ISO 11885:2009”に従っており、酸性の水溶液(例:飲料水、廃水、およびその他の水の酸性化サンプル、土壌や堆積物の王水抽出物)の分析に使用した。
【0280】
粒子径の測定
粒度分布は、本発明の文脈において、ISO 13320に従って、Horiba LA 950を用いた静的レーザー散乱によって決定した。試料の調製において、ここでは、個々の粒子のサイズではなく、凝集体のサイズを測定しないように、測定溶液中の粒子の分散に特に注意を払う必要がある。測定には、粒子をエタノールに分散させた。このため、測定前の分散液は、必要に応じて、Hielscher社のモデルUIS250v超音波実験装置とLS24d5ソノトロードを用いて、250Wの超音波で4分間処理した。
【0281】
BET表面積の測定:
材料の比表面積は、Sorptomatic 199090装置(Porotec)またはSA-9603MP装置(Horiba)を用いて、BET法(窒素を用いたDIN ISO 9277:2003-05による決定)により、窒素を用いたガス吸着を介して測定した。
【0282】
骨格密度:
骨格密度、すなわち、外部からガス侵入可能な細孔空間の容積のみに基づく多孔質固体の密度は、DIN 66137-2に従ったHeピクノメトリーにより決定した。
【0283】
Gurwichのガス侵入可能な細孔容積:
Gurwichのガス侵入可能な細孔容積は、DIN 66134に従い、窒素を用いたガス吸着測定により求めた。
【0284】
PD50孔径:
PD50細孔径は、DIN66135に従ったHorvath-Kawazoe法で定義されたミクロ細孔とDIN66134に従ったBJH法で定義されたメソ細孔の総体積から、を体積基準の中央孔径として算出しました。
【0285】
実験例を実施する際に使用した材料および装置は次の通りである。
【0286】
使用したオートクレーブは、円筒形の下部(ビーカー)と、多数の接続部(例えば、ガス供給、ガス除去、温度測定、圧力測定)を備えた蓋から構成されている。オートクレーブ容積は、594ml(AK1)、312ml(AK2)、5300ml(AK3)であった。オートクレーブは電気的に加熱された。使用したスターラーは、非常に接近したクリアランスのヘリカルスターラーであった。このスターラーの高さは、反応器内部のクリアな高さの約50%であった。このヘリカルスターラーは、床で直接温度測定ができるような構造になっていた。
【0287】
使用したSiHは、グレード4.0で、Linde GmbHから入手した。
【0288】
使用した多孔質粒子:
多孔質粒子1~6は多孔質炭素、多孔質粒子7は多孔質酸化ケイ素、多孔質粒子8は多孔質窒化ホウ素である。
【0289】
使用した多孔質粒子1~8の組成および特定の物性を表1に再現する。
【0290】
実施例1~実施例23
ケイ素含有前駆体としてモノシランSiHを用いたケイ素含有複合粒子の製造:
パラメータA~L、多孔質粒子の材料番号X、およびオートクレーブのタイプのそれぞれの値を表2にまとめた。
フェーズ1では、オートクレーブにAgの量の多孔質材料Xを充填して閉鎖し、ここでKは、反応器容積1リットル当たりの多孔質粒子の装入量である。フェーズ2では、まずオートクレーブを真空にした。次に、Bgの量のSiHを圧力Cバールで加圧し、ここで、反応器容積1リットル当たりのSiの装入量はLである。フェーズ3では、オートクレーブをD分以内にE℃の温度まで加熱し、フェーズ4では、温度をF分間維持した。全加熱時間(D+F)のうち時間G分までは、式1のとおりの圧力上昇であった。フェーズ4の過程で、圧力は、式2に従ってHバールまで上昇した。フェーズ5では、12時間かけて、オートクレーブを室温まで冷却した。この冷却の後、オートクレーブ内にはIバールの圧力が残っていた。フェーズ6では、オートクレーブ内の圧力を1バールに下げ、その後、オートクレーブを窒素で5回、酸素分率が5%の希薄空気で5回、酸素分率が10%の希薄空気で5回、その後、空気で5回パージした。フェーズ7では、Jgの量のケイ素含有複合粒子が、微細な黒色固体の形態で単離された。
【0291】
得られたケイ素含有複合粒子について確認された分析データは、表3にまとめている。得られたケイ素含有複合粒子の選択された実施例に基づく電気化学セルを、実施例29に従って製造した。ケイ素含有複合粒子の電気化学的特性は、同様に、表3に記載されている。
【0292】
【表1】
【0293】
表2 実施例1~23のパラメータ(n.d.は技術的な理由で測定できなかったことを意味する)
【表2】
【0294】
実施例24
フェーズ2~フェーズ6の繰り返しによるケイ素含有複合粒子の製造:
フェーズ1では、オートクレーブ(AK2)に5.0gの多孔質材料1を充填して閉鎖し、ここで多孔質粒子の装入量は反応器容積1リットルあたり50gである。フェーズ2では、オートクレーブを排気し、7gのモノシランSiHを装入し(12バール)、ここでSiの装入量は反応器容積1リットル当たり19.63gである。フェーズ3では、オートクレーブを65分かけて420℃まで加熱した。この時まで、圧力上昇は式1に従っていた。フェーズ4では、この温度を180分間保持し、この間、圧力は式2に従って68バールに上昇した。フェーズ5では、600分かけて、オートクレーブを20℃の温度まで冷却した。フェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出による反応器圧力の1バールへの低下後、さらなるフェーズ2内で圧力は1ミリバールに低下し、オートクレーブに再び7gのSiHを装入し(12バール)、ここでSiの装入量は反応器容積1リットルあたり19.63gである。その後、2回目のフェーズ3では、オートクレーブを70分かけて450℃に加熱し、2回目のフェーズ4では、この温度を240分間保持し、その間に圧力は式2に従って50バールに上昇した。フェーズ6の最後の繰り返しでは、オートクレーブ内の圧力を1ミリバールまで低下させ、600分かけてオートクレーブを30℃まで冷却した後、オートクレーブのガス空間を窒素で5回、酸素分率が5%の希薄空気で5回、酸素分率が10%の希薄空気で5回、その後、空気で5回パージした。フェーズ7では、12.5gのケイ素含有複合体粒子が、微細な黒色粉末の形態で、反応器から単離された。
【0295】
得られたケイ素含有複合粒子の分析データを表3にまとめる。
【0296】
ケイ素含有複合粒子は、実施例29によるセルで電気化学的に特徴付けられ、その仕様も同様に表3に記載されている。
【0297】
実施例25
フェーズ2~フェーズ6の繰り返しによるケイ素含有複合粒子の製造:
フェーズ1では、オートクレーブ(AK3)に69gの多孔質材料1を充填して閉鎖し、ここで多孔質粒子の装入量は反応器容積1リットルあたり40.7gである。フェーズ2では、オートクレーブをまず排気し、次いでSiHを300℃で装入し(9.5バール)、ここでSiの装入量は反応器容積1リットル当たり6.8gである。フェーズ3では、オートクレーブを15分かけて420℃まで加熱した。この時まで、圧力上昇は式1に従っていた。フェーズ4では、この温度を30分間保持し、この間、圧力は式2に従って38バールに上昇した。フェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出による反応器圧力の1バールへの低下後、さらなるフェーズ2内で圧力は1ミリバールに低下し、オートクレーブに再びSiHを装入し(11バール)、ここでSiの装入量は反応器容積1リットルあたり7.9gである。2回目のフェーズ3では、オートクレーブを70分かけて450℃に加熱し、2回目のフェーズ4では、この温度を30分間保持し、その間に圧力は式2に従って23バールに上昇した。フェーズ6の最後の繰り返しにおいて、オートクレーブ内の圧力を1ミリバールまで低下させ、600分かけてオートクレーブを30℃まで冷却した後、オートクレーブのガス空間を窒素で5回、酸素分率が5%の希薄空気で5回、酸素分率が10%の希薄空気で5回、その後、空気で5回パージした。フェーズ7では、140gのケイ素含有複合体粒子が、微細な黒色粉末の形態で、反応器から単離された。
【0298】
得られたケイ素含有複合粒子の分析データを表3にまとめる。
【0299】
ケイ素含有複合粒子は、実施例29によるセルで電気化学的に特徴付けられ、その仕様も同様に表3に記載されている。
【0300】
実施例26
フェーズ2~フェーズ6を複数回繰り返したケイ素含有複合粒子の製造:
フェーズ1では、オートクレーブ(AK3)に180gの多孔質材料1を充填し、多孔質粒子の装入量が反応器容積1リットル当たり106.1gであるところで閉じた。フェーズ2では、オートクレーブを排気し、その後、SiHを370℃の温度で装入し(9.5バール)、ここでSiの装入量は反応器容積1リットル当たり7.1gである。フェーズ3では、オートクレーブを10分間かけて420℃まで加熱した。この時まで、圧力上昇は式1に従ったものであった。フェーズ4では、この温度を30分間保持し、その間に圧力は式2に従って24バールまで上昇した。フェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出により反応器圧力を1バールに低下させた後、さらなるフェーズ2内で圧力を1ミリバールに低下させ、オートクレーブに再びSiHが装入され(9.5バール)、ここでSiの装入量は反応器容積1リットルあたり5.6gである。2回目のフェーズ3では、オートクレーブを10分間かけて420℃に加熱し、2回目のフェーズ4では、この温度を30分間保持し、その間に圧力は式2に従って22バールに上昇した。2回目のフェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出によって反応器圧力を1バールに低下させた後、3回目のフェーズ2内で圧力を1ミリバールに低下させ、オートクレーブに400℃で再びSiHを装入し(9.5バール)、ここでSiの装入量は反応器容積1リットルあたり5.6gである。3回目のフェーズ3では、オートクレーブを10分間かけて420℃に加熱し、3回目のフェーズ4では、この温度を30分間保持し、その間に圧力は式2に従って20バールまで上昇した。フェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出により反応器圧力を1バールに低下させた後、4回目のフェーズ2内で圧力を1ミリバールに低下させ、オートクレーブに400℃でSiHを再び装入し(11バール)、ここでSiの装入は反応器容積1リットル当たり6.4gである。4回目のフェーズ3では、オートクレーブを10分間かけて420℃に加熱し、4回目のフェーズ4では、この温度を30分間保持し、その間に圧力は式2に従って23バールまで上昇した。フェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出によって反応器圧力を1バールに低下させた後、5回目のフェーズ2内で、圧力を1ミリバールに低下させ、オートクレーブに400℃でSiHを再び装入し(11バール)、ここでSiの装入量は反応器容積1リットルあたり6.4gである。5回目のフェーズ3では、オートクレーブを10分間かけて420℃に加熱し、5回目のフェーズ4では、この温度を30分間保持し、その間に圧力は式2に従って23バールまで上昇した。フェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出により反応器圧力を1バールに低下させた後、第6のフェーズ2内で圧力を1ミリバールに低下させ、オートクレーブに400℃でSiHを再び装入し(11バール)、ここでSiの装入は反応器容積1リットルあたり7.1gである。6回目のフェーズ3では、10分かけてオートクレーブを420℃まで加熱し、6回目のフェーズ4では、この温度を30分間保持し、その間に圧力は式2に従って23バールまで上昇した。フェーズ6の最後の繰り返しにおいて、オートクレーブ内の圧力は1ミリバールまで低下し、オートクレーブを600分かけて30℃まで冷却した後、オートクレーブのガス空間は、窒素で5回、酸素分率が5%の希薄空気で5回、酸素分率が10%の希薄空気で5回、その後、空気で5回パージした。フェーズ7では、376gのケイ素含有複合体粒子が、微細な黒色粉末の形態で、反応器から単離された。
【0301】
得られたケイ素含有複合粒子の分析データを表3にまとめる。
【0302】
ケイ素含有複合粒子は、実施例29によるセルで電気化学的に特徴付けられ、その仕様も同様に表3に記載されている。
【0303】
実施例27
フェーズ2~フェーズ6の複数回の繰り返しと反応器圧力による反応制御を伴うケイ素含有複合粒子の製造:
フェーズ1では、オートクレーブ(AK3)に180gの多孔質材料1を充填し、多孔質粒子の装入量が反応器容積1リットル当たり106.1gであるところで閉じた。フェーズ2では、オートクレーブを排気し、SiHを370℃の温度で装入し(9.5バール)、ここでSiの装入量は反応器容積1リットル当たり7.1gである。フェーズ3では、オートクレーブを10分間かけて420℃まで加熱した。この時まで、圧力上昇は式1に従ったものであった。フェーズ4では、この温度を30分間保持し、その間に圧力は式2に従って24バールまで上昇した。フェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出により反応器圧力を1バールに低下させた後、2回目のフェーズ2内で圧力を1ミリバールに低下させ、オートクレーブに400℃で再びSiHが装入され(9.5バール)、ここでSiの装入量は反応器容積1リットルあたり6.1gである。2回目のフェーズ3では、オートクレーブを10分間かけて420℃に加熱し、2回目のフェーズ4では、この温度を30分間保持し、その間に圧力は式2に従って21バールに上昇した。フェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出によって反応器圧力を1バールに低下させた後、3回目のフェーズ2内で圧力を1ミリバールに低下させ、オートクレーブに400℃で再びSiHを装入し(9.5バール)、ここでSiの装入量は反応器容積1リットルあたり6.1gである。3回目のフェーズ3では、オートクレーブを10分間かけて420℃に加熱し、3回目のフェーズ4では、この温度を30分間保持し、その間に圧力は式2に従って20バールまで上昇した。フェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出により反応器圧力を1バールに低下させた後、4回目のフェーズ2内で圧力を1ミリバールに低下させ、オートクレーブに400℃でSiHを再び装入し(11バール)、ここでSiの装入は反応器容積1リットル当たり7.1gである。4回目のフェーズ3では、オートクレーブを10分間かけて420℃に加熱し、4回目のフェーズ4では、この温度を30分間保持し、その間に圧力は式2に従って23バールまで上昇した。フェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出によって反応器圧力を1バールに低下させた後、5回目のフェーズ2内で、圧力を1ミリバールに低下させ、オートクレーブに400℃でSiHを再び装入し(11バール)、ここでSiの装入量は反応器容積1リットルあたり7.1gである。5回目のフェーズ3では、オートクレーブを10分間かけて420℃に加熱し、5回目のフェーズ4では、この温度を30分間保持し、その間に圧力は式2に従って23バールまで上昇した。フェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出により反応器圧力を1バールに低下させた後、第6のフェーズ2内で圧力を1ミリバールに低下させ、オートクレーブに400℃でSiHを再び装入し(11バール)、ここでSiの装入は反応器容積1リットルあたり7.1gである。6回目のフェーズ3では、10分かけてオートクレーブを420℃まで加熱し、6回目のフェーズ4では、この温度を30分間保持し、その間に圧力は式2に従って23バールまで上昇した。フェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出により反応器圧力を1バールに低下させた後、7回目のフェーズ2内で圧力を1ミリバールに低下させ、オートクレーブに400℃でSiHを再び装入し(11バール)、ここでSiの装入は反応器容積1リットルあたり7.1gである。7回目のフェーズ3では、オートクレーブを10分間かけて420℃に加熱した。7回目のフェーズ4では、20分後、記録された時間経過に伴う圧力上昇は大幅に低下していた。圧力曲線の急峻さが低いことから、材料の表面積が小さいことがわかり、22.5バールの圧力で実験を中止し、オートクレーブ内の圧力を1ミリバールまで低下させた。オートクレーブを600分かけて30℃まで冷却した後、オートクレーブのガス空間は、窒素で5回、酸素分率が5%の希薄空気で5回、酸素分率が10%の希薄空気で5回、その後、空気で5回パージした。フェーズ7では、439gのケイ素含有複合体粒子が、微細な黒色粉末の形態で、反応器から単離された。
【0304】
得られたケイ素含有複合粒子の分析データを表3にまとめる。
【0305】
ケイ素含有複合粒子は、実施例29によるセルで電気化学的に特徴付けられ、その仕様も同様に表3に記載されている。
【0306】
実施例28
in-situカーボンコーティングを有するケイ素含有複合粒子の製造:
フェーズ1では、オートクレーブ(AK2)に8gの多孔質材料1を充填して閉鎖し、ここで多孔質粒子の装入量は反応器容積1リットルあたり80.1gである。フェーズ2では、オートクレーブをまず排気し、次いでSiHを装入し(16バール)、ここでSiの装入量は反応器容積1リットル当たり7.1gである。フェーズ3では、オートクレーブを40分かけて420℃まで加熱した。この時まで、圧力上昇は式1に従っていた。フェーズ4では、この温度を170分間保持し、この間、圧力は式2に従って85バールに上昇した。フェーズ5では、600分かけて、オートクレーブを20℃の温度まで冷却した。フェーズ6では、ガス状反応器内容物の放出による反応器圧力の1バールへの低下後、2回目のフェーズ2内で圧力は1ミリバールに低下し、オートクレーブに2gの液体スチレンを装入した。2回目のフェーズ3では、オートクレーブを90分かけて650℃に加熱し、2回目のフェーズ4では、この温度を120分間保持した。フェーズ6では、オートクレーブ内の圧力を1バールまで低下させ、その後、窒素で5回、酸素分率が5%の希薄空気で5回、酸素分率が10%の希薄空気で5回、その後、空気で5回パージした。フェーズ7では、17.3gのケイ素含有複合体粒子が、微細な黒色粉末の形態で、反応器から単離された。
【0307】
得られたケイ素含有複合粒子の分析データを表3にまとめる。
【0308】
ケイ素含有複合粒子は、実施例29によるセルで電気化学的に特徴付けられ、その仕様も同様に表3に記載されている。
【0309】
実施例29
リチウムイオン電池の負極における活性材料として使用する際のケイ素含有複合粒子の電気化学的特性評価:
29.71gのポリアクリル酸(85℃で一定重量に乾燥;Sigma-Aldrich、Mw~450000g/mol)と756.6gの脱イオン水を、ポリアクリル酸が完全に溶解するまでシェーカー(290/分)により2.5時間撹拌した。水酸化リチウム一水和物(Sigma-Aldrich)を、pHが7.0(SenTix RJDプローブ付きWTW pH 340ipHメーターを用いて測定)になるまで溶液に部分的に添加した。続いて、3.87gの中和したポリアクリル酸溶液と0.96gのグラファイト(Imerys、KS6L C)を50ml容器に導入し、プラネタリーミキサー(SpeedMixer、DAC 150 SP)において2000rpmで混合した後、さらに4時間シェーカーを用いて混合した。次に、実施例1、6、7、9、10、11、22、23、27または30のそれぞれのケイ素含有複合粒子3.40gを、2000rpmで1分間撹拌した。次に、導電性カーボンブラックの8%分散液1.21gと脱イオン水0.8gを加え、プラネタリーミキサー上で2000rpmで取り入れた。それらの分散は、ディゾルバーで3000rpm、20℃の一定温度で30分間行われた。このインクを再びプラネタリーミキサーで2500rpm、5分間、減圧下で脱気した。次いで、完成した分散液を、0.1mmのギャップ高さを有するフィルムアプリケーターフレーム(Erichsen、モデル360)を用いて、0.03mmの厚さを有する銅箔(Schlenk Metallfolien、SE-Cu58)上に塗布した。こうして製造された負極コーティングは、その後、1バールの空気圧下で50℃で60分間乾燥させた。乾燥した負極コーティングの平均坪量は1.9mg/cmであり、コーティング密度は0.9g/cmであった。
【0310】
電気化学的検討は、2電極配置のボタン電池(CR2032型、ホーセンコーポレーション)を用いて行った。電極コーティングを対電極または負電極(Dm=15mm)として使用し、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物6:2:2に基づくコーティング(含有率94.0%、平均坪量15.9mg/cm、会社SEIから入手)を作用電極または正電極(Dm=15mm)として使用した。60μlの電解液を含浸させたガラス繊維ろ紙(Whatman、GDタイプD)をセパレータとして使用した(Dm=16mm)。電解液は、フルオロエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1:4(v/v)混合液にヘキサフルオロリン酸リチウムを1.0モル溶解させたものを使用した。セルはグローブボックス(<1ppm HO、O)内で組み立てた。使用した全成分の乾燥質量中の水分量は20ppm未満であった。
【0311】
電気化学試験は20℃で実施した。セルは、充電をcc/cv(定電流/定電圧)法により、最初のサイクルでは5mA/g(C/25に相当)、その後のサイクルでは60mA/g(C/2に相当)の定電流で行い、4.2Vの電圧限界に達した後、1.2mA/g(C/100に相当)または15mA/g(C/8に相当)未満に電流が低下するまで一定の電圧で充電を行った。セルは、cc(定電流)法により、最初のサイクルでは5mA/g(C/25に相当)、その後のサイクルでは60mA/g(C/2に相当)の定電流で、電圧限界の2.5Vに達するまで放電を行った。選択された比電流は、正極のコーティングの重量に基づくものであった。セルの充電容量とセルの放電容量の比は、クーロン効率と呼ばれる。電極は、正極と負極の容量比が1:1.2となるように選択した。
【0312】
実施例1、6、7、9、10、11、22、23、27または30の活物質を含むリチウムイオン電池のフルセルの電気化学試験の結果を、表3に示す。
【0313】
比較例30
ケイ素含有複合粒子の製造
【0314】
体積1Lの管状反応器に、2.2gの多孔質粒子1を導入し、管状反応器を閉鎖した。その後、管状反応器を410℃の温度に加熱し、窒素中の10%SiHのガス流で5時間通流させた。冷却が行われた後、5.24gのケイ素含有複合体粒子が黒色粉末の形態で単離された。
【0315】
得られた生成物は、ケイ素含有量56質量%(ICP)、表面積9m/g、密度2.16g/cm(Heピクノメトリー)、酸素含有量8.76質量%であった。
【0316】
電気化学的試験は、実施例29に従って、リチウムイオン電池のフルセルで行われた。対応する結果は、同様に表3に記載されている。
【0317】
図1は、実施例1のケイ素含有複合体粒子の断面のSEM顕微鏡写真を示す。
【0318】
図2は、比較例30のケイ素含有複合粒子の断面のSEM顕微鏡写真を示す。
【0319】
比較例30では、5.24gの材料が、1000mlの容積を有する反応器において、本発明ではない方法によって300分の経過で製造された(加熱段階なし)。例1では、11.4gの材料が、本発明の方法によって、312mlの容積を有する反応器において、195分の経過で製造された。実施例1では、それに応じて、材料の収率は、例30の場合と比較して、時間と反応器容積との関係で、10.7倍大きかった。
【0320】
さらに、実施例1と比較例30の材料の断面のSEM顕微鏡写真の比較から、実施例1で製造された材料は、粒子間ケイ素含有量の点でより高い均質性を有することが明らかである。その指標となるのが、SEM顕微鏡写真上の個々の粒子の色調である。色調が薄いほど、他のすべての粒子に対してケイ素含有量が多いことを示し、色調が濃いほど、他のすべての粒子に対してケイ素含有量が少ないことを示す。2種以上の粒子のグレーの段階が似ている場合は、ケイ素の含有量が似ていることを示す。このことから、ケイ素含有複合粒子は、本発明の方法によりはるかに迅速に得ることができ、さらに、多孔質粒子の細孔内および表面へのケイ素の非常に均質な堆積によって特徴付けられ、その安定性および電気化学的特性により、リチウムイオン電池用負極の活物質としての使用に特に適していることが明らかである。
【0321】
【表3】
図1
図2