(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20241224BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20241224BHJP
F15B 11/042 20060101ALI20241224BHJP
F15B 11/02 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
E02F9/22 E
E02F9/20 M
E02F9/20 D
F15B11/042
F15B11/02 C
(21)【出願番号】P 2023551031
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2022011142
(87)【国際公開番号】W WO2023053502
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2021162384
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼川 直也
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 賢人
(72)【発明者】
【氏名】金濱 充彦
(72)【発明者】
【氏名】天野 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 涼介
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-033815(JP,A)
【文献】特開2019-157521(JP,A)
【文献】特開平09-242708(JP,A)
【文献】特開平08-145007(JP,A)
【文献】特開2008-231903(JP,A)
【文献】特開平11-181840(JP,A)
【文献】特開2019-019567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/22
E02F 9/20
F15B 11/042
F15B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧油を吐出する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから供給される圧油により駆動する油圧アクチュエータと、
前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御する方向制御弁と、
前記油圧アクチュエータの駆動により動作する被駆動部材と、
前記被駆動部材の動作を指示する操作信号を出力する操作装置と、
前記被駆動部材の動作情報を検出する第1検出装置と、
前記方向制御弁を介して前記油圧アクチュエータに供給される圧油の流量に関係する情報を検出する第2検出装置と、
前記油圧ポンプ及び前記方向制御弁の駆動を制御するコントローラとを備えた作業機械において、
前記コントローラは、
前記操作装置の操作信号を基に前記油圧アクチュエータの要求速度を演算し、
前記第1検出装置の検出値を基に推定される前記油圧アクチュエータの速度を第1推定速度として演算し、
前記第2検出装置の検出値を基に推定される前記油圧アクチュエータの速度を第2推定速度として演算し、
前記第1推定速度と前記第2推定速度とを前記油圧アクチュエータの駆動状態に応じて調停することで調停速度を演算し、
前記要求速度と前記調停速度の偏差に基づいて前記油圧ポンプ及び前記方向制御弁の駆動を制御するように構成され、
前記コントローラの前記調停速度の演算は、
前記第1推定速度を基に前記油圧アクチュエータの駆動状態が動き出しの状態であると判定可能な場合には、前記第2推定速度に対する影響度が前記第1推定速度に対する影響度よりも大きくなるように調停する一方、
前記第1推定速度を基に前記油圧アクチュエータの駆動状態が所定の状態を超えて定常状態に近づいていると判定可能な場合には、前記第1推定速度に対する影響度が前記第2推定速度に対する影響度よりも大きくなるように調停するものである
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記コントローラの前記調停速度の演算は、前記第2推定速度に対する前記第1推定速度の乖離の度合いが大きくなるにつれて、前記第2推定速度に対する影響度が大きくなる一方、前記第1推定速度に対する影響度が相対的に小さくなるように調停するものである
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項2に記載の作業機械において、
前記コントローラの前記調停速度の演算は、前記要求速度に対する前記第1推定速度の乖離の度合いが小さくなるにつれて、前記第1推定速度に対する影響度が大きくなる一方、前記第2推定速度に対する影響度が相対的に小さくなるように調停するものである
ことを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械において、
前記コントローラは、前記第1推定速度および前記第2推定速度のいずれかに一方に切り替えるように調停することで前記調停速度を演算するように構成され、
前記コントローラの前記調停速度の演算は、
前記油圧アクチュエータの加速時に前記第1推定速度が閾値よりも小さい場合又は前記油圧アクチュエータの減速時に前記第1推定速度が閾値よりも大きい場合には、前記第2推定速度を前記調停速度として算出する一方、
前記油圧アクチュエータの加速時に前記第1推定速度が閾値以上の場合又は前記油圧アクチュエータの減速時に前記第1推定速度が閾値以下の場合には、前記第1推定速度を前記調停速度として算出するものであり、
前記閾値は、前記要求速度に対する所定の割合の値として設定されている
ことを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項4に記載の作業機械において、
前記コントローラの前記調停速度の演算は、前記第1推定速度と前記第2推定速度の切替えの前後の変化量を制限する
ことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に係り、更に詳しくは、油圧アクチュエータの駆動を制御する作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルなどの作業機械では、ブームやアーム、バケットなどの複数の被駆動部材(リンク部材)を連結することで構成された作業装置を複数の油圧アクチュエータによって駆動している。油圧ショベルの作業効率を向上させる技術として、情報化通信技術を用いて作業装置を自動的又は半自動的に動作させて仕上げ掘削等の作業を行う情報化施工システムが知られている。情報化施工システムでは、設計面に対する施工面の仕上げ精度を高めるために、作業装置のバケット先端(爪先)を正確に制御することが求められている。そのため、油圧ショベルでは、作業装置を動作させる各油圧アクチュエータの駆動速度や各油圧アクチュエータに流入する圧油の流量(以下、メータイン流量と称することがある)を高精度に制御する必要がある。
【0003】
作業装置の動作を高精度に制御するための手法の一例として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1に記載の建設機械においては、作業装置の各部材(ブームやアームなど)の速度や角度、位置などを計測するセンサの実測値から得られた作業装置の合成重心の運動状態量(速度や位置)及びセンサよって計測された各油圧アクチュエータのストローク長や圧力などの実測値から得られた油圧アクチュエータの駆動トルクを用いてフィードバック制御を行うことで、作業装置の合成重心の運動状態量が目標値に追従するように制御されている。
【0004】
また、作業装置の動作を高精度に制御するための手法の別の例として、例えば、特許文献2に記載の技術が知られている。特許文献2に記載のショベルにおいては、油圧ポンプから油圧アクチュエータへ流れる作動油の流量を制御する制御弁に取り付けられたスプール変位センサによって検出された制御弁のスプールの変位を用いて制御弁を通過する作動油の流量(通過流量)を推定し、制御弁の通過流量の推定値をフィードバックすることで、制御弁の通過流量(すなわち、油圧アクチュエータのメータイン流量)が目標値に追従するように制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-033815号公報
【文献】特開2019-157521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の建設機械の制御のように、作業装置の速度や角度、位置などを計測するセンサ(例えば、作業装置の姿勢を検出可能な姿勢センサ)の実測値から直接的に導き出される油圧アクチュエータの速度をフィードバックすることで油圧アクチュエータの速度を目標値に追従させる制御を実行する場合、原理的に、油圧アクチュエータ(作業装置)の実際の駆動状態に応じて制御量(補正量)を決定するものである。このため、操作装置に操作量が大きく立ち上がりの早い操作が入力されると、作業装置の動き出しのときに、作業装置の慣性に起因した油圧アクチュエータの応答遅れの影響などによってセンサの実測値から得られる油圧アクチュエータの速度が操作装置の操作量に応じた目標値から大きく乖離してしまう。この場合、フィードバック制御の補正量が過大になって油圧アクチュエータの飛び出しやハンチングが起こり易くなる。すなわち、センサの実測値から直接的に導出される油圧アクチュエータの速度をフィードバックする場合、油圧アクチュエータの動き出しなど、フィードバックした油圧アクチュエータの速度が目標値から大きく乖離している状況では、油圧アクチュエータの制御の安定性が損なわれる懸念がある。
【0007】
それに対して、特許文献2に記載のショベルの制御のように、スプール変位センサの検出値を基に推定した制御弁の通過流量(油圧アクチュエータのメータイン流量)をフィードバックすることでメータイン流量を目標値に追従させる制御を実行する場合、油圧アクチュエータのこれからの駆動状態を予測して制御量(補正量)を決定可能である。このため、操作量が大きく立ち上がりの早い操作が入力されても、油圧アクチュエータが実際に動き出す前にメータイン流量を補正することが可能であり、特許文献1に記載の制御の場合よりも油圧アクチュエータの飛び出しやハンチングの抑制が可能である。
【0008】
しかし、スプール変位センサの検出値を用いた制御弁の通過流量(油圧アクチュエータのメータイン流量)の推定値は、流体力学的な関係式などを利用するので、油温やキャビテーションなどの外乱及びセンサの検出精度の影響によって推定精度の低下を招きやすい。このため、スプール変位センサの検出値を基に推定した油圧アクチュエータのメータイン流量を用いるフィードバック制御の精度は、油圧アクチュエータの実際の駆動状態が目標値に接近すると、特許文献1に記載の制御のようにセンサの実測値から直接的に得られる油圧アクチュエータの速度を用いるフィードバック制御の精度よりも劣る傾向にある。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、油圧アクチュエータの動き出し時における制御の安定性を確保しつつ、油圧アクチュエータの高精度な制御を可能とする作業機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいる。その一例を挙げるならば、圧油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから供給される圧油により駆動する油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御する方向制御弁と、前記油圧アクチュエータの駆動により動作する被駆動部材と、前記被駆動部材の動作を指示する操作信号を出力する操作装置と、前記被駆動部材の動作情報を検出する第1検出装置と、前記方向制御弁を介して前記油圧アクチュエータに供給される圧油の流量に関係する情報を検出する第2検出装置と、前記油圧ポンプ及び前記方向制御弁の駆動を制御するコントローラとを備えた作業機械において、前記コントローラは、前記操作装置の操作信号を基に前記油圧アクチュエータの要求速度を演算し、前記第1検出装置の検出値を基に推定される前記油圧アクチュエータの速度を第1推定速度として演算し、前記第2検出装置の検出値を基に推定される前記油圧アクチュエータの速度を第2推定速度として演算し、前記第1推定速度と前記第2推定速度とを前記油圧アクチュエータの駆動状態に応じて調停することで調停速度を演算し、前記要求速度と前記調停速度の偏差に基づいて前記油圧ポンプ及び前記方向制御弁の駆動を制御するように構成され、前記コントローラの前記調停速度の演算は、前記第1推定速度を基に前記油圧アクチュエータの駆動状態が動き出しの状態であると判定可能な場合には、前記第2推定速度に対する影響度が前記第1推定速度に対する影響度よりも大きくなるように調停する一方、前記第1推定速度を基に前記油圧アクチュエータの駆動状態が所定の状態を超えて定常状態に近づいていると判定可能な場合には、前記第1推定速度に対する影響度が前記第2推定速度に対する影響度よりも大きくなるように調停するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、油圧アクチュエータの駆動状態が動き出しのときには、油圧アクチュエータのこれからの駆動状態を予測した第2推定速度を用いて油圧アクチュエータの駆動を制御するので、被駆動部材の慣性に起因した油圧アクチュエータの応答遅れの影響による油圧アクチュエータの飛び出しやハンチングを抑制することができる。また、油圧アクチュエータの駆動が定常状態に近づいているときには、油圧アクチュエータの実際の駆動状態を基に導き出される第1推定速度を用いて油圧アクチュエータの駆動を制御するので、第1推定速度よりも推定精度に劣る第2推定速度を用いる場合よりも油圧アクチュエータの駆動を高精度に制御することができる。すなわち、油圧アクチュエータの動き出し時における制御の安定性を確保しつつ、油圧アクチュエータの高精度な制御が可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の作業機械の第1の実施の形態としての油圧ショベルを示す外観図である。
【
図2】本発明の作業機械の第1の実施の形態が備える油圧システムを示す回路図である。
【
図3】
図2に示す本発明の作業機械の第1の実施の形態の油圧システムを制御するコントローラの機能ブロック図である。
【
図4】
図3に示す本発明の作業機械の第1の実施の形態のコントローラの制御手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の作業機械の第1の実施の形態における操作装置の入力に対するコントローラによる油圧アクチュエータの各種の推定速度の演算結果の時間変化の一例を示す図である。
【
図6】本発明の作業機械の第2の実施の形態を構成するコントローラの機能ブロック図である。
【
図7】
図6に示す本発明の作業機械の第2の実施の形態のコントローラの制御手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の作業機械の第2の実施の形態における操作装置の入力に対するコントローラによる油圧アクチュエータの各種の推定速度の演算結果の時間変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の作業機械の実施の形態について図面を用いて説明する。本実施の形態においては、作業機械の一例として油圧ショベルを例に挙げて説明する。
[第1の実施の形態]
まず、本発明の作業機械の第1の実施の形態としての油圧ショベルの概略構成について
図1を用いて説明する。
図1は本発明の作業機械の第1の実施の形態としての油圧ショベルを示す外観図である。ここでは、運転席に着座したオペレータから見た方向を用いて説明する。
【0014】
図1において、作業機械としての油圧ショベルは、自走可能な下部走行体1と、下部走行体1上に旋回可能に搭載された上部旋回体2と、上部旋回体2の前部に俯仰動可能に設けられたフロント作業装置3とを備えている。上部旋回体2は、油圧アクチュエータである旋回油圧モータを含む旋回装置4によって下部走行体1に対して旋回駆動されるように構成されている。なお、上部旋回体2は、油圧ショベルの機体を構成している。
【0015】
下部走行体1は、例えば、左右両側にクローラ式の走行装置11(
図1中、左側のみ図示)を有している。左右の走行装置11はそれぞれ、油圧アクチュエータである走行油圧モータ12によって走行動作する。
【0016】
上部旋回体2は、下部走行体1上に旋回可能に搭載された支持構造体としての旋回フレーム14と、旋回フレーム14上の左前側に設置されたキャブ15と、旋回フレーム14の後端部に設けられたカウンタウェイト16と、キャブ15とカウンタウェイト16の間に設けられた機械室17とを含んで構成されている。キャブ15内には、オペレータが着座する運転席(図示せず)や後述の操作装置58(後述の
図2参照)などが配置されている。カウンタウェイト16は、フロント作業装置3と重量バランスをとるためのものである。機械室17は、原動機(図示せず)、後述の油圧ポンプ31(後述の
図2参照)、後述の制御弁332(後述の
図2参照)を含む制御弁ユニット33などの各種の機器を収容している。
【0017】
フロント作業装置3は、掘削作業等の各種作業を行うためのものであり、例えば、複数の被駆動部材を垂直方向に回動可能に連結することで構成された多関節型の作業装置である。複数の被駆動部材は、例えば、ブーム19、アーム20、作業具としてのバケット21とで構成されている。ブーム19は、その基端部が上部旋回体2の旋回フレーム14の前部に上下方向に回動可能に支持されている。ブーム19の先端部には、アーム20の基端部が上下方向に回動可能に支持されている。アーム20の先端部には、バケット21の基端部が上下方向に回動可能に支持されている。ブーム19、アーム20、バケット21はそれぞれ、油圧アクチュエータであるブームシリンダ22、アームシリンダ23、バケットシリンダ24の駆動によって動作する。
【0018】
上部旋回体2には、上部旋回体2(機体)の姿勢に関する物理量(姿勢情報)を検出する第1姿勢検出装置26及び上部旋回体2の旋回速度や旋回角を検出する第2姿勢検出装置27が設置されている。第1姿勢検出装置26は、例えば、上部旋回体2(機体)の姿勢に関する物理量として、上部旋回体2の前後方向への傾き(ピッチ角)及び上部旋回体2の左右方向(幅方向)への傾き(ロール角)を検出するものである。第1姿勢検出装置26及び第2姿勢検出装置27は、例えば、慣性計測装置(Inertial Measurement Unit:IMU)で構成されている。第1姿勢検出装置26及び第2姿勢検出装置27は、検出値に応じた検出信号を後述のコントローラ60(後述の
図2を参照)へ出力する。
【0019】
フロント作業装置3には、フロント作業装置3の姿勢に関する物理量(姿勢情報)及び動作状態に関する物理量(動作情報)を検出する第3姿勢検出装置28が設置されている。第3姿勢検出装置28は、フロント作業装置3の構成部材であるブーム19、アーム20、バケット21の姿勢に関する物理量(姿勢情報)及び動作状態に関する物理量(動作情報)をそれぞれ検出する複数の姿勢センサ28a、28b、28cによって構成されている。各姿勢センサ28a、28b、28cは、例えば、慣性計測装置(IMU)で構成されている。第3姿勢検出装置28(姿勢センサ28a、28b、28c)は、検出値に応じた検出信号を後述のコントローラ60(後述の
図2参照)へ出力する。なお、第3姿勢検出装置28を構成する各姿勢センサ28a、28b、28cは、フロント作業装置3の被駆動部材19、20、21の姿勢情報及び動作情報を検出可能であればよく、傾斜センサや角度センサ、ストロークセンサなどで構成することも可能である。第3姿勢検出装置28の各姿勢センサ28a、28b、28cは、請求項に記載の「被駆動部材の動作情報を検出する第1検出装置」に相当するものである。
【0020】
次に、本発明の作業機械の第1の実施の形態に搭載された油圧システムの構成について
図2を用いて説明する。
図2は本発明の作業機械の第1の実施の形態が備える油圧システムを示す回路図である。
【0021】
図2において、油圧ショベルは、下部走行体1、上部旋回体2、フロント作業装置3(共に
図1を参照)を油圧によって動作させる油圧システム30を備えている。なお、
図2では、フロント作業装置3のブーム19を動作させるブームシリンダ22に関する油圧回路のみが示されており、それ以外の走行装置11を動作させる走行油圧モータ12、上部旋回体2を旋回動作させる旋回油圧モータ(旋回装置4)、フロント作業装置3のアーム20やバケット21を動作させるアームシリンダ23やバケットシリンダ24に関する油圧回路は省略されている。また、後述の操作装置58の非操作時に油圧ポンプ31の吐出流量を後述の作動油タンク36へ排出するブリードオフ弁や各種機器など本発明の関係しないものは省略されている。
【0022】
油圧システム30は、原動機(図示せず)により駆動されて圧油を吐出する油圧ポンプ31と、油圧ポンプ31から供給される圧油により駆動してブーム19を動作させる油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)と、油圧ポンプ31から油圧アクチュエータ32に供給される圧油の流れ(方向や流量)を制御する方向制御弁332とを備えている。原動機は、例えば、エンジンや電動モータである。
【0023】
油圧ポンプ31は、例えば、可変容量式のポンプであり、ポンプ容積を調整するレギュレータを有している。レギュレータは、例えば、コントローラ60の指令信号に応じてポンプ容積を調整するものであり、後述のパイロット油圧回路40から流量指令信号としてのパイロット圧が入力される流量指令圧ポート31aを含んでいる。
【0024】
ブームシリンダ22用の方向制御弁332は、制御弁ユニット33(
図1参照)の一部を構成している。すなわち、制御弁ユニット33は、各油圧アクチュエータ12、22、23、24への圧油の流れ(方向や流量)を制御する方向制御弁の集合体である。方向制御弁332は、例えば、油圧パイロット式のものであり、両側に一対の指令圧ポート332a、332bを有している。方向制御弁332は、後述のパイロット油圧回路40で生成されたパイロット2次圧が一対の指令圧ポート332a、332bに入力されることで、その駆動(切換方向及びストローク量)が制御される。
【0025】
方向制御弁332は、ポンプライン37を介して油圧ポンプ31の吐出側と接続されている。方向制御弁332は、また、アクチュエータライン38、38を介して油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)に接続されている。
【0026】
ポンプライン37は、ポンプライン37から分岐するリリーフライン39を介して作動油タンク36に接続されている。リリーフライン39上には、リリーフ弁35が設けられている。リリーフ弁35は、油圧ポンプ31の吐出圧(メイン油圧回路)の上限を規定するものであり、油圧ポンプ31の吐出圧が設定圧を超えると開弁するように構成されている。
【0027】
ポンプライン37上には、チェック弁34が設けられている。チェック弁34は、油圧ポンプ31から方向制御弁332への圧油の流れを許容する一方、方向制御弁332から油圧ポンプ31への圧油の流れを阻止するように構成されている。すなわち、チェック弁34は、アクチュエータライン38、38からポンプライン37への圧油の逆流を防止するものである。
【0028】
ポンプライン37上には、油圧ポンプ31の吐出圧を検出する第1圧力センサ51が設けられている。第1圧力センサ51は、検出した油圧ポンプ31の吐出圧に応じた圧力検出信号Ppをコントローラ60へ出力する。
【0029】
アクチュエータライン38、38上にはそれぞれ、油圧アクチュエータ32の圧力(ブームシリンダ22の駆動圧力)を検出する第2圧力センサ52、53が設けられている。第2圧力センサ52、53は、検出した油圧アクチュエータ32の圧力に応じた圧力検出信号Psをコントローラ60へ出力する。
【0030】
油圧システム30は、制御弁ユニット33を構成する油圧パイロット式の各方向制御弁の駆動(切換方向やストローク量)制御及び油圧ポンプ31のポンプ容積の調整のためのパイロット油圧回路40を更に備えている。パイロット油圧回路40は、パイロット油圧源であるパイロットポンプ41と、パイロットポンプ41の吐出圧(パイロット1次圧)をコントローラ60からの第1弁指令信号Cpに応じて減圧して油圧ポンプ31のレギュレータの流量指令圧ポート31aに入力するパイロット2次圧を生成する第1電磁比例弁43と、パイロットポンプ41の吐出圧(パイロット1次圧)をコントローラ60からの第2弁指令信号Cvに応じて減圧して方向制御弁332の指令圧ポート332a、332bに入力するパイロット2次圧を生成する第2電磁比例弁44、45とを備えている。第1電磁比例弁43及び第2電磁比例弁44、45を含む複数の電磁比例弁の集合体が電磁弁ユニット42を構成している。
【0031】
パイロットポンプ41は、油圧ポンプ31のレギュレータや方向制御弁332に入力するパイロット2次圧の元圧であるパイロット1次圧を生成するものであり、原動機(図示せず)によって駆動される。パイロットポンプ41は、例えば、固定容量型のポンプである。パイロットポンプ41は、パイロットライン48を介して第1電磁比例弁43及び第2電磁比例弁44、45を含む電磁弁ユニット42に接続されている。パイロットライン48は、パイロットリリーフ弁47を介して作動油タンク36に接続されている。パイロットリリーフ弁47は、パイロットポンプ41の吐出圧(パイロット1次圧)が設定圧を超えると開弁するように構成されており、パイロット1次圧を設定圧に維持するためのものである。
【0032】
第1電磁比例弁43の出力側は、油圧ポンプ31のレギュレータの流量指令圧ポート31aに接続されている。第2電磁比例弁44、45の出力側はそれぞれ、方向制御弁332の指令圧ポート332a、332bに接続されている。第1電磁比例弁43及び第2電磁比例弁44、45は、パイロットライン49を介して作動油タンク36に接続されている。
【0033】
第1電磁比例弁43のソレノイド部43aは、コントローラ60に電気的に接続されており、コントローラ60からの第1弁指令信号Cpが入力される。第2電磁比例弁44、45のソレノイド部44a、45aは、コントローラ60に電気的に接続されており、コントローラ60からの第2弁指令信号Cvが入力される。コントローラ60から第2電磁比例弁44、45のソレノイド部44a、45aへの第2弁指令信号Cvとしての電流を検出する電流センサ55、56が設けられている。
【0034】
コントローラ60には、フロント作業装置3の被駆動部材であるブーム19などの動作を指示する操作装置58が電気的に接続されている。操作装置58は、例えば、電気式のものであり、入力された操作量及び操作方向に応じた操作信号を電気信号としてコントローラ60へ出力する。操作装置58は、例えば、操作レバー装置であり、オペレータにより把持される操作レバー58aと、操作レバー58aの操作方向および操作量を検出して検出値に応じた操作信号を電気信号として生成する電気信号生成部58bとを有している。
【0035】
コントローラ60は、操作装置58からの操作信号(電気信号)及び各センサ28a(28)、51、52、53、55、56からの検出信号(検出値)に基づき各電磁比例弁43、44、45の開度を制御することで、最終的に油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の駆動を制御するものである。
【0036】
次に、本発明の作業機械の第1の実施の形態の一部を構成するコントローラの機能について
図3を用いて説明する。
図3は
図2に示す本発明の作業機械の第1の実施の形態の油圧システムを制御するコントローラの機能ブロック図である。
【0037】
図3において、コントローラ60は、ハード構成として例えば、RAMやROM等からなる記憶装置61と、CPUやMPU等からなる処理装置62とを備えている。記憶装置61には、油圧ポンプ31のポンプ容積(ポンプ流量)及び方向制御弁332の駆動を制御するために必要なプラグラムや各種情報が予め記憶されている。処理装置62は、記憶装置61からプログラムや各種情報を適宜読み込み、当該プログラムに従って処理を実行することで各種機能を実現する。本実施の形態のコントローラ60の特徴は、概略すると、ブームシリンダ22、アームシリンダ23、バケットシリンダ24の各油圧アクチュエータの速度を2種類の手法を用いて推定し、2つの推定速度を各油圧アクチュエータの駆動状態に応じて調停することで調停された速度である調停速度を演算し、演算結果の調停速度を基にフィードバック制御を行うことで、各油圧アクチュエータの駆動制御(速度制御)を行うものである。なお、ここでは、ブームシリンダ22(油圧アクチュエータ32)の駆動制御(速度制御)のみについて説明するが、アームシリンダ23やバケットシリンダ24の駆動制御(速度制御)の場合も同様であるので、その説明は省略する。「調停」とは、信号調停と同義であって、一方の速度を他方の速度に対し相対的に大きくし、他方の速度を一方の速度に対し相対的に小さく調整することを意味する。
【0038】
コントローラ60は、処理装置62により実行される機能として、要求速度演算部71、第1推定速度演算部72、第2推定速度演算部73、推定速度調停部74、フィードバック制御器(以下、FB制御器を称することがある)76、ポンプ目標流量演算部77、ポンプ流量制御部78、方向制御弁制御部79を備えている。
【0039】
要求速度演算部71は、操作装置58からの操作信号Lを取り込み、取り込んだ操作信号Lに基づいて油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の要求速度Vs_Rを演算する。要求速度演算部71は、例えば、操作装置58の操作量と油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)の速度との対応関係を予め規定した特性テーブルを用いることで、要求速度Vs_Rの演算が可能である。演算結果の要求速度Vs_Rは、FB制御器76による後述のフィードバック制御の演算に用いられる。
【0040】
第1推定速度演算部72は、フロント作業装置3を構成するブーム19、アーム20、バケット21の姿勢情報及び動作情報を検出する第3姿勢検出装置28の各姿勢センサ28a、28b、28cの検出値Siを取り込み、取り込んだ各姿勢センサ28a、28b、28cの検出値Siを基に、ブーム19を動作させるブームシリンダ22の駆動速度を第1推定速度Vs_E1として推定するものである。
【0041】
各姿勢センサ28a、28b、28cはフロント作業装置3の被駆動部材19、20、21の実際の動作状態を検出するものなので、第1推定速度Vs_E1は、各被駆動部材19、20、21と各油圧アクチュエータ(ブームシリンダ22、アームシリンダ23、バケットシリンダ24)との幾何学的な関係から、被駆動部材19、20、21の実際の動作状態を基に直接的に各油圧アクチュエータの駆動速度を算出した値となる。したがって、第1推定速度Vs_E1は、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の実際の駆動状態(駆動速度)を高精度に推定した値となる。逆に、各姿勢センサ28a、28b、28cは、フロント作業装置3の各被駆動部材19、20、21が実際に動き出すまでは停止状態の動作情報を出力するので、第1推定速度Vs_E1は各被駆動部材19、20、21が実際に動き出すまでゼロの推定値となる。このため、各姿勢センサ28a、28b、28cの検出値から推定される第1推定速度Vs_E1を基に、フロント作業装置3の各被駆動部材19、20、21の動作を予測して制御指令を適切に調整することは不可能である。
【0042】
第2推定速度演算部73は、第1圧力センサ51の検出値Pp(油圧ポンプ31の吐出圧)、第2圧力センサ52、53の検出値Ps(油圧アクチュエータ32の圧力)、電流センサ55、56の検出値Iv(第2電磁比例弁44、45への第2弁指令信号としての電流値)を取り込み、取り込んだ各センサ51、52、53、55、56の検出値を基に油圧アクチュエータ32のそれぞれの駆動速度を第2推定速度Vs_E2として推定するものである。油圧ポンプ31の吐出圧(第1圧力センサ51の検出値Pp)と油圧アクチュエータ32の圧力(第2圧力センサ52、53の検出値Ps)との差分から方向制御弁332の前後差圧を推定可能である。また、第2電磁比例弁44、45への電流値を基に方向制御弁332の開口度(開口面積)を推定可能である。方向制御弁332の前後差圧及び開口面積から流体力学的な関係式を用いることで方向制御弁332から油圧アクチュエータ32へ流れる圧油の流量を推定することが可能である。
【0043】
具体的には、第2推定速度Vs_E2は、例えば、以下の式(1)を用いて演算される。
【0044】
【0045】
ここで、Cdは流量係数、Avは各方向制御弁332の開口面積、Asは各油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の受圧面積、ΔPは各方向制御弁332の前後差圧、ρは作動油の密度を示している。流量係数Cd、作動油の密度ρ、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の受圧面積Asは、予め記憶装置61に記憶されている。
【0046】
第2推定速度Vs_E2は、方向制御弁332から油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)に供給される圧油の流量(メータイン流量)から予測される油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の駆動速度となる。つまり、第2推定速度Vs_E2は、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の実際の駆動状態を基に推定するものではなく、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)のこれから起こりうる駆動状態を予測した推定値である。このため、方向制御弁332に関連する各センサ51、52、53、55、56の検出値から推定する第2推定速度Vs_E2を基に、フロント作業装置3の各被駆動部材19、20、21の動作を予測して制御指令を適切に調整することが可能である。ただし、第2推定速度Vs_E2は、流体力学的な関係式を用いることで得られる推定値なので、油温やキャビテーションなどの外乱及びセンサの検出精度の影響によって推定精度の低下を招きやすい。このため、第2推定速度Vs_E2は、第1推定速度Vs_E1に比べると、推定精度が劣る傾向にある。
【0047】
なお、本実施の形態においては、第1圧力センサ51及び第2圧力センサ52、53並びに電流センサ55、56が方向制御弁332を介して油圧アクチュエータ32に供給される圧油の流量に関係する情報を検出する検出装置を構成する。当該検出装置を細分化すると、第1圧力センサ51及び第2圧力センサ52、53が方向制御弁332の前後差圧に関する物理量を検出する検出器を構成する。また、電流センサ55、56が方向制御弁332の開口面積に関する物理量を検出する検出器を構成する。
【0048】
推定速度調停部74は、第1推定速度演算部72の演算結果である油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の第1推定速度Vs_E1、及び、第2推定速度演算部73の演算結果である油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の第2推定速度Vs_E2を用いて油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の調停速度Vs_Arを演算する。推定速度調停部74は、上述した第1推定速度Vs_E1の特性及び第2推定速度Vs_E2の特性を踏まえて、油圧アクチュエータ32の駆動状態に応じて第1推定速度Vs_E1と第2推定速度Vs_E2を調停することで調停速度Vs_Arを演算する。
【0049】
概略すると、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の動き出しのときには、フロント作業装置3(ブーム19)の慣性に起因した油圧アクチュエータ32の応答遅れの影響による制御の不安定性(ハンチングなど)を抑制するために、第2推定速度Vs_E2に対する重み付けが第1推定速度Vs_E1に対する重み付けよりも大きくなるように調停を行う。ここで、「重み付け」とは影響度もしくは優先度と同義である。また、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の駆動状態が動き出しの状態から移行して所定の状態を超えて定常状態に近づいている場合には、油圧アクチュエータ32の推定速度の精度を高めるために、第1推定速度Vs_E1に対する重み付けを大きくする一方、第2推定速度Vs_E2に対する重み付けを相対的に小さくする調停を行う。このような調停を行うにより、油圧アクチュエータ32が動き出しのときや所定の状態よりも定常状態に近づくときなど、油圧アクチュエータ32の駆動状態に応じてフィードバック制御に適切な油圧アクチュエータ32の推定速度(調停速度Vs_Ar)を演算する。
【0050】
具体的には、調停速度Vs_Arは、例えば、以下の式(2)~式(4)を用いて演算される。ここで、Vs_E1は第1推定速度、Vs_E2は第2推定速度、Vs_Rは要求速度である。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
式(3)から導かれるα及び式(4)から導かれるβは、第1推定速度Vs_E1と第2推定速度Vs_E2を調停するときの重みである。係数αは、基本的に、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の駆動状態が動き出しの状態であるか否かが反映される重みとなるものである。すなわち、油圧アクチュエータ32が動き出しの状態であるか否かを判定可能な指標として機能する。また、係数αは、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の駆動状態が動き出しの状態から移行して所定の状態を超えて定常状態に近づいている状態であることが反映される重みにもなるものである。すなわち、油圧アクチュエータ32が所定の状態を超えて定常状態に近づいている状態であるか否かを判定可能な指標としても機能する。一方、係数βは、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の駆動状態が所定の状態を超えて定常状態に近づいている状態であるか否かが係数αよりも確実に反映される重みとなるものである。すなわち、油圧アクチュエータ32が所定の状態を超えて定常状態に近づいている状態であるか否かをより確実に判定可能な指標として機能する。
【0055】
式(3)のαの演算において、第2推定速度Vs_E2に対する第1推定速度Vs_E1の乖離の度合いが大きい場合、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の実際の駆動状態が方向制御弁332を介して油圧アクチュエータ32に供給される圧油の流量を基に予測される油圧アクチュエータ32の駆動状態に対して乖離していることを意味する。この状態は、通常、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)が動き出しの状態であることが想定される。この場合、第2推定速度Vs_E2の重みαが大きくなる一方、第1推定速度Vs_E1の重みが相対的に小さくなる。
【0056】
逆に、式(3)のαの演算において、第2推定速度Vs_E2に対する第1推定速度Vs_E1の乖離の度合いが極めて小さい場合、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の実際の駆動状態と方向制御弁332の通過流量から予測される油圧アクチュエータ32の駆動状態とが近い状態であることを意味する。この状態は、通常、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)が所定の状態を超えて定常状態に近づく駆動状態が継続していることが想定される。この場合、第2推定速度Vs_E2の重みαが小さくなる一方、第1推定速度Vs_E1の重みが相対的に大きくなる。
【0057】
ただし、第2推定速度Vs_E2に対する第1推定速度Vs_E1の乖離の度合い(係数α)が極めて小さい場合であっても、第1推定速度Vs_E1が要求速度Vs_Rの近傍に達しているとは限らない。そこで、係数βをさらに用いて第1推定速度Vs_E1と第2推定速度Vs_E2の調停を行う。式(4)のβの演算において、要求速度Vs_Rに対する第1推定速度Vs_E1の乖離の度合いが極めて小さい場合、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の実際の駆動状態が操作装置58の操作に応じた要求速度Vs_Rに近い状態であることを意味する。この状態は、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の実際の駆動状態が制御目標値に適切に追従しているときである。この場合、第2推定速度Vs_E2の重みβを小さくする一方、第1推定速度Vs_E1の重みを相対的に大きくする。第2推定速度Vs_E2よりも高精度な第1推定速度Vs_E1の重みを大きくすることで、駆動状態が定常状態に近い状態である油圧アクチュエータ32の速度を高精度に推定することが可能となる。
【0058】
逆に、式(4)のβの演算において、要求速度Vs_Rに対する第1推定速度Vs_E1の乖離の度合いが大きい場合、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)の実際の駆動状態が操作に応じた要求速度Vs_Rから乖離した状態であることを意味する。第1推定速度Vs_E1を用いてフィードバック制御を行うと、フィードバック制御の補正量が過大になって油圧アクチュエータ32の飛び出しやハンチングが懸念される。そこで、このような場合には、第2推定速度Vs_E2の重みβを大きくする一方、第1推定速度Vs_E1の重みを相対的に小さくする。
【0059】
FB制御器76は、要求速度演算部71の演算結果である油圧アクチュエータ32の要求速度Vs_Rおよび推定速度調停部74の演算結果である油圧アクチュエータ32の調停速度Vs_Arを基に、要求速度Vs_Rと調停速度Vs_Arの速度偏差が小さくなるように制御指令を補正する油圧アクチュエータ32の目標速度Vs_Tを演算する。目標速度Vs_Tは、例えば、PID制御の演算手法を用いて要求速度Vs_Rと調停速度Vs_Arの速度偏差を基に演算される。
【0060】
ポンプ目標流量演算部77は、FB制御器76の演算結果である油圧アクチュエータ32の目標速度Vs_Tを基に、油圧ポンプ31のポンプ目標流量Qpを演算する。ポンプ目標流量Qpの演算では、記憶装置61に予め記憶されている油圧アクチュエータ32の設計諸元も用いられる。
【0061】
ポンプ流量制御部78は、ポンプ目標流量演算部77の演算結果であるポンプ目標流量Qpに応じた第1電磁比例弁43に対する第1弁指令信号Cpを演算する。ポンプ流量制御部78は、例えば、ポンプ目標流量Qpと第1電磁比例弁43に対する第1弁指令信号Cpとの対応関係を予め規定した特性テーブルを用いることで、第1弁指令信号Cpの演算が可能である。ポンプ流量制御部78は、第1弁指令信号Cpを第1電磁比例弁43へ出力する。
【0062】
方向制御弁制御部79は、FB制御器76の演算結果である油圧アクチュエータ32の目標速度Vs_Tに応じた第2電磁比例弁44、45に対する第2弁指令信号Cvを演算する。方向制御弁制御部79は、例えば、目標速度Vs_Tと第2電磁比例弁44、45に対する第2弁指令信号Cvとの対応関係を予め規定した特性テーブルを用いることで、第2弁指令信号Cvの演算が可能である。方向制御弁制御部79は、第2弁指令信号Cvを第2電磁比例弁44、45へ出力する。
【0063】
次に、本発明の作業機械の第1の実施の形態のコントローラが実行する制御手順の一例について
図4を用いて説明する。
図4は
図3に示す本発明の作業機械の第1の実施の形態のコントローラの制御手順の一例を示すフローチャートである。
【0064】
図4において、
図3に示すコントローラ60は、まず、操作装置58に対する操作入力(操作装置58からの操作信号の入力)の有無を判定する(ステップS10)。操作装置58の操作入力が有る場合、すなわち、操作信号が入力された場合(YESの場合)には、ステップS20に進む。一方、操作信号の入力が無い場合(NOの場合)には、再びステップS10に戻り、YESになるまでステップS10を繰り返す。
【0065】
ステップS10においてYESの場合には、コントローラ60の要求速度演算部71が操作装置58からの操作信号L(操作入力量)を基に各油圧アクチュエータ32の要求速度Vs_Rを演算する(ステップS20)。要求速度演算部71は、例えば、操作入力量と油圧アクチュエータの速度との対応関係を予め規定した特性テーブルを用いて要求速度Vs_Rを演算する。
【0066】
次に、コントローラ60の第1推定速度演算部72は、第3姿勢検出装置28の姿勢センサ28a、28b、28cの検出値Si(フロント作業装置3の被駆動部材19、20、21の姿勢情報及び動作情報)を基に、各油圧アクチュエータ32の駆動速度を第1推定速度Vs_E1として演算する(ステップS30)。第1推定速度Vs_E1は、フロント作業装置3の被駆動部材19、20、21の実際の動作情報を基に被駆動部材19、20、21の幾何学的な関係から直接的に被駆動部材19、20、21の駆動速度を推定した値となる。
【0067】
同時に、コントローラ60の第2推定速度演算部73は、第1圧力センサ51の検出値Ppである油圧ポンプ31の吐出圧、第2圧力センサ52、53の検出値Psである油圧アクチュエータ32の圧力、電流センサ55、56の検出値Ivである第2電磁比例弁44、45への第2弁指令信号Cvとしての電流値を基に、各油圧アクチュエータ32の駆動速度を第2推定速度Vs_E2として演算する(ステップS40)。第2推定速度演算部73は、例えば、流体力学的な関係式である上述の式(1)を用いることで、第2推定速度Vs_E2を演算する。第2推定速度Vs_E2は、方向制御弁332を介して油圧アクチュエータ32に供給される圧油の流量を基に、これから生じると予測される各油圧アクチュエータ32の駆動速度の推定値である。
【0068】
次いで、コントローラ60の推定速度調停部74は、第1推定速度演算部72の演算結果である第1推定速度Vs_E1及び第2推定速度演算部73の演算結果である第2推定速度Vs_E2を用いて各油圧アクチュエータ32の調停速度Vs_Arを演算する(ステップS50)。推定速度調停部74は、例えば、上述の式(2)~式(4)を用いることで、各油圧アクチュエータ32の駆動状態に応じて第1推定速度Vs_E1と第2推定速度Vs_E2を調停した調停速度Vs_Arを演算する。
【0069】
第2推定速度Vs_E2に対する第1推定速度Vs_E1の乖離の度合いが大きい場合、第2推定速度Vs_E2の重みαが大きくなる一方、第1推定速度Vs_E1の重みが相対的に小さくなる。逆に、第2推定速度Vs_E2に対する第1推定速度Vs_E1の乖離の度合いが極めて小さい場合、第2推定速度Vs_E2の重みαが小さくなる一方、第1推定速度Vs_E1の重みが相対的に大きくなる。
【0070】
また、要求速度Vs_Rに対する第1推定速度Vs_E1の乖離の度合いが極めて小さい場合、第2推定速度Vs_E2の重みβが小さくなる一方、第1推定速度Vs_E1の重みが相対的に大きくなる。逆に、要求速度Vs_Rに対する第1推定速度Vs_E1の乖離の度合いが大きい場合、第2推定速度Vs_E2の重みβが大きくなる一方、第1推定速度Vs_E1の重みが相対的に小さくなる。
【0071】
続いて、コントローラ60のFB制御器76は、要求速度演算部71の演算結果である要求速度Vs_Rおよび推定速度調停部74の演算結果である調停速度Vs_Arを基に、油圧アクチュエータ32の目標速度Vs_Tを演算する(ステップS60)。目標速度Vs_Tは、例えば、要求速度Vs_Rと調停速度Vs_Arとの速度偏差が小さくなるように制御指令を補正する目標値(制御量)である。
【0072】
次に、コントローラ60のポンプ目標流量演算部77は、FB制御器76の演算結果である各油圧アクチュエータ32の目標速度Vs_Tを基に、油圧ポンプ31のポンプ目標流量Qpを演算する(ステップS70)。さらに、コントローラ60のポンプ流量制御部78は、ポンプ目標流量演算部77の演算結果である油圧ポンプ31のポンプ目標流量Qpに応じた第1電磁比例弁43に対する第1弁指令信号Cpを算出し、第1弁指令信号Cpを第1電磁比例弁43へ出力する(ステップS80)。
【0073】
これにより、
図2に示す第1電磁比例弁43がパイロットポンプ41の吐出圧としてのパイロット1次圧から第1弁指令信号Cpに応じたパイロット2次圧を生成する。第1電磁比例弁43によって生成されたパイロット2次圧が油圧ポンプ31のレギュレータの流体圧ポート31aに入力されることで、油圧ポンプ31のポンプ流量(ポンプ容積)がコントローラ60の演算結果のポンプ目標流量Qpになるように調整される。
【0074】
また、コントローラ60の方向制御弁制御部79は、FB制御器76の演算結果である各油圧アクチュエータ32の目標速度Vs_Tに応じた第2電磁比例弁44、45に対する第2弁指令信号Cvを算出し、第2弁指令信号Cvを第2電磁比例弁44、45へ出力する(ステップS90)。これにより、
図2に示す第2電磁比例弁44、45がパイロットポンプ41の吐出圧としてのパイロット1次圧から第2弁指令信号Cvに応じたパイロット2次圧を生成する。第2電磁比例弁44、45によって生成されたパイロット2次圧が方向制御弁332の指令圧ポート332a、332bに入力されることで、方向制御弁332の開口面積(開口度)が制御され、それによって、方向制御弁332を介して油圧アクチュエータ32に供給される圧油の流量(メータイン流量)がコントローラ60の演算結果の油圧アクチュエータ32の目標速度Vs_Tになるように制御される。
【0075】
コントローラ60は、第1弁指令信号Cpの第1電磁比例弁43への出力(ステップS80)及び第2弁指令信号Cvの第2電磁比例弁44、45への出力(ステップS90)を終了すると、リターンして新たな制御周期をスタートさせる。すなわち、コントローラ60は、
図4に示すステップS10~S90で構成された制御周期を再び実行し、これを繰り返す。
【0076】
次に、本発明の作業機械の第1の実施の形態の動作及び効果について説明する。ここでは、説明を簡便にするために、ブームの単独操作を行う場合における油圧システムの動作について
図2及び
図5を用いて説明する。
図5は本発明の作業機械の第1の実施の形態における操作装置の入力に対するコントローラによる油圧アクチュエータの各種の推定速度の演算結果の時間変化の一例を示す図である。
図5中、上図は操作装置に対する操作入力量の一例の時間変化を、下図は上図に示す操作入力量に対するコントローラの演算結果であるブームシリンダの各種の速度の時間変化の一例を示している。
【0077】
図5に示す時間T1において、
図2に示す操作装置58に対してステップ状の操作入力(
図5の上図の実線)が開始されている。これにより、
図3に示すコントローラ60は、操作装置58からの操作入力量Lに応じたブームシリンダ22の要求速度Vs_R(
図5の下図の長破線)を演算する。コントローラ60は、要求速度Vs_Rに基づき油圧ポンプ31及び方向制御弁332に対して指令信号を出力する。
【0078】
操作入力の開始時間T1から極めて短時間経過後の時間T2においては、
図2に示す方向制御弁332がコントローラ60からの指令信号(第2電磁比例弁44、45に対する第2弁指令信号Cv)に応じて開口することで、油圧ポンプ31から方向制御弁332を介して油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)に圧油が供給されている状態となる。このため、第1圧力センサ51の検出値Pp及び第2圧力センサ52、53の検出値Ps(方向制御弁332の前後差圧)並びに電流センサ55、56の検出値Iv(方向制御弁332の開口面積)に基づきコントローラ60が演算する第2推定速度Vs_E2が0でない値になる。
【0079】
一方、質量の大きな停止状態のブーム19に対してブームシリンダ22は駆動力を作用させているが、ブーム19は慣性などによって停止状態のままである。このため、第3姿勢検出装置28の姿勢センサ28aは、ブームシリンダ22の駆動状態を停止状態として検出する。このため、第3姿勢検出装置28の検出値Siに基づきコントローラ60が演算する第1推定速度Vs_E1は0(ゼロ)になる。この結果、第1推定速度Vs_E1及び第2推定速度Vs_E2を基にコントローラ60が演算する調停速度Vs_Arは、第2推定速度Vs_E2と同値となる。すなわち、ブームシリンダ22が実際に動き出す前の状態では、第3姿勢検出装置28の姿勢センサ28aがブームシリンダ22の停止状態を検出するので、上述の式(2)~(4)に示した第2推定速度Vs_E2の重みα及びβが1となる一方、第1推定速度Vs_E1の重みが0となるように調停される。
【0080】
時間T2から或る程度の時間が経過した後の時間T3においては、ブーム19が実際に動作している状態に移行している。すなわち、第3姿勢検出装置28の姿勢センサ28aがブームシリンダ22の実際の駆動を検出している。このため、第1推定速度Vs_E1は、第3姿勢検出装置28の検出値Siに応じた値になる。一方、第2推定速度Vs_E2は、時間T2のときと同様に、第1圧力センサ51の検出値Pp及び第2圧力センサ52、53の検出値Ps(方向制御弁332の前後差圧)並びに電流センサ55、56の検出値Iv(方向制御弁332の開口面積)に応じた値となる。
【0081】
この場合、調停速度Vs_Arは、上述の式(2)~(4)に示した重みα及びβに応じて第1推定速度Vs_E1と第2推定速度Vs_E2とを調停した値となる。時間T3のようにブームシリンダ22の動き出し直後の場合には、第2推定速度Vs_E2と第1推定速度Vs_E1との間の乖離が大きい。このため、第2推定速度Vs_E2の重みαが大きくなる一方、第1推定速度Vs_E1の重みが相対的に小さくなるように調停した調停速度Vs_Arが算出される。
【0082】
操作入力の開始時間T1から相当な時間が経過した時間T4においては、第3姿勢検出装置28の検出値Siに基づき演算される第1推定速度Vs_E1が操作入力量に応じた要求速度Vs_Rに近い値となっている。すなわち、ブームシリンダ22が定常状態に極めて接近した駆動状態となっている。この場合、要求速度Vs_Rに対する第1推定速度Vs_E1の乖離の度合いが極めて小さいので、第2推定速度Vs_E2の重みβが小さくなる一方、第1推定速度Vs_E1の重みが相対的に大きくなる。したがって、調停速度Vs_Arは、第1推定速度Vs_E1の成分が大部分となり、第2推定速度Vs_E2の成分をほとんど含まないように調停される。
【0083】
このように、本実施の形態においては、操作装置58への操作入力が開始された直後のブームシリンダ22の動き出しのときには、方向制御弁332を介してブームシリンダ22に供給される圧油の流量を基に予測されるブームシリンダ22の第2推定速度Vs_E2を主に用いてブームシリンダ22の駆動制御を行う。操作入力の開始直後では、ブーム19の慣性に起因したブームシリンダ22の応答遅れの影響が大きいので、第2推定速度Vs_E2を用いる方が、ブームシリンダ22の実際の駆動状態(ほぼ停止状態)を基に演算するブームシリンダ22の第1推定速度Vs_E1を用いる場合よりも、操作入力に応じた要求速度Vs_Rに対する乖離を抑制することができる。このため、フィードバック制御の補正量の過大によるブームシリンダ22の飛び出しやハンチングの発生を抑制することができる。
【0084】
一方、ブームシリンダ22の実際の駆動状態が操作入力に応じた状態に近いときには、ブームシリンダ22の実際の駆動状態を検出する姿勢センサ28aの検出値を基に演算されるブームシリンダ22の第1推定速度Vs_E1を主に用いてブームシリンダ22の駆動制御を行う。第1推定速度Vs_E1は、ブームシリンダ22の実際の駆動状態を基にブームシリンダ22の駆動速度を推定するものなので、高精度な推定値を得ることができる。それに対して、第2推定速度Vs_E2は、流体力学的な関係式を介してブームシリンダ22の駆動速度を推定するものなので、第1推定速度Vs_E1よりも推定精度が劣る傾向にある。したがって、ブームシリンダ22が操作装置58の操作に応じた駆動状態に近づいた状態の場合には、第2推定速度Vs_E2よりも高精度な推定値である第1推定速度Vs_E1を主に用いてブームシリンダ22の制御を行うので、ブームシリンダ22の高精度な速度制御を実現することが可能である。
【0085】
したがって、本実施の形態においては、ブームシリンダ22(油圧アクチュエータ32)の駆動状態が動き出しの状態から定常状態になるまで、油圧アクチュエータ32の良好な制御精度を実現することができる。
【0086】
また、本実施の形態においては、第1推定速度Vs_E1に対する重み付けと第2推定速度Vs_E2に対する重み付けを油圧アクチュエータ32の駆動状態(動き出しの状態から定常状態までの移行)に応じて相対的に増減させることで油圧アクチュエータ32の調停速度Vs_Arを演算する。このため、調停速度Vs_Arは、第1推定速度Vs_E1の値と第2推定速度Vs_E2との間で瞬間的に切り替わることがないので、連続的な変化の演算結果を得ることができる。したがって、調停速度Vs_Arに基づく制御では、制御の安定性を確保することができる。
【0087】
本実施の形態の作用及び効果が発揮される油圧ショベルの動作としては、例えば、掘削後の土砂の積込み動作が挙げられる。バケット21により掘削した土砂を旋回してブーム上げにより持ち上げてからダンプトラックに積み込む場合を想定する。油圧ショベルのオペレータは、作業時間を短くするために、掘削後に大きな操作量を早い立ち上がりで入力することが予想される(
図5の上図を参照)。この場合、ブームシリンダ22の第1推定速度Vs_E1が立ち上がるときの時間(時刻)は、第2推定速度Vs_E2が立ち上がるときの時間(時刻)に比べて遅くなる。すなわち、
図5の下図における時間T2のような第1推定速度Vs_E1が0(ゼロ)である時間領域が長くなる。また、要求速度Vs_Rは大きな操作量に応じて大きくなるので、ブームシリンダ22の実速度が要求速度Vs_Rに接近するまでの時間領域(
図5の下図の時間T3付近から時間T4に向かう時間領域)も長くなる。したがって、油圧ショベルの掘削後の土砂の積込み動作は、本実施の形態の作用及び効果が大いに発揮されると考えられる。
【0088】
上述した本発明の第1の実施の形態に係る油圧ショベル(作業機械)においては、コントローラ60の調停速度Vs_Arの演算は、第2推定速度Vs_E2に対する第1推定速度Vs_E1の乖離の度合いαが大きくなるにつれて、第2推定速度Vs_E2に対する重みが大きくなる一方、第1推定速度Vs_E1に対する重みが相対的に小さくなるように調停するものである。
【0089】
この構成によれば、油圧アクチュエータ32の動き出しのときには、第2推定速度Vs_E2に対する重み付けを第1推定速度Vs_E1に対する重み付けよりも大きくする調停を行うことで、油圧アクチュエータ32のこれからの駆動状態を予測した第2推定速度Vs_E2を主成分とする調停速度Vs_Arを用いて油圧アクチュエータ32の駆動を制御するようになるので、フロント作業装置3の慣性に起因した油圧アクチュエータ32の応答遅れの影響による制御の不安定性(ハンチングなど)を抑制することができる。また、油圧アクチュエータ32の駆動状態が所定の状態を超えて定常状態に近づいているときには、第1推定速度Vs_E1に対する重み付けを大きくする一方、第2推定速度Vs_E2に対する重み付けを相対的に小さくする調停を行うことで、油圧アクチュエータ32の実際の駆動状態を基に導き出される第1推定速度Vs_E1を主成分とする調停速度を用いて油圧アクチュエータ32の駆動を制御するようになるので、第1推定速度Vs_E1よりも推定精度に劣る第2推定速度Vs_E2を用いる場合よりも油圧アクチュエータ32の駆動を高精度に制御することができる。すなわち、油圧アクチュエータ32の動き出し時における制御の安定性を確保しつつ、油圧アクチュエータ32の高精度な制御が可能となる。加えて、乖離の度合いαの増減に応じて第1推定速度Vs_E1に対する重みづけと第2推定速度Vs_E2に対する重み付けを相対的に変化させるように調停することで、調停速度Vs_Arが連続的に変化するようになるので、調停速度Vs_Arを用いた制御の安定性を確保することができる。
【0090】
また、本実施の形態においては、コントローラ60の調停速度Vs_Arの演算は、要求速度Vs_Rに対する第1推定速度Vs_E1の乖離の度合いβが小さくなるにつれて、第1推定速度Vs_E1に対する重みが大きくなる一方、第2推定速度Vs_E2に対する重みが相対的に小さくなるように調停するものである。
【0091】
この構成によれば、油圧アクチュエータ32の駆動状態が所定の状態を超えて定常状態に近づいているときに、第2推定速度Vs_E2に対する重みβを小さくする一方、第1推定速度Vs_E1に対する重みを相対的に大きくするように調停を行うことで、油圧アクチュエータ32の実際の駆動状態を基に導き出される第1推定速度Vs_E1を主成分とする調停速度を用いて油圧アクチュエータ32の駆動を制御するようになるので、第1推定速度Vs_E1よりも推定精度に劣る第2推定速度Vs_E2を用いる場合よりも油圧アクチュエータ32の駆動を高精度に制御することができる。また、重みβは、要求速度Vs_Rに対する第1推定速度Vs_E1の乖離の度合いを示すものなので、油圧アクチュエータ32の駆動状態が所定の状態を超えて定常状態に近づいている状態か否かを確実に反映させた指標となる。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の作業機械の第2の実施の形態について
図6~
図8を用いて説明する。なお、
図6~
図8において、
図1~
図5に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
図6は本発明の作業機械の第2の実施の形態を構成するコントローラの機能ブロック図である。ここでも、ブームシリンダ22(油圧アクチュエータ32)の駆動制御(速度制御)のみについて説明するが、アームシリンダ23やバケットシリンダ24の駆動制御(速度制御)の場合も同様である。
【0092】
本発明の作業機械の第2の実施の形態が第1の実施の形態に対して相違する点は、
図6に示すコントローラ60Aにおける推定速度調停部74Aの第1推定速度Vs_E1と第2推定速度Vs_E2の調停手法(調停速度Vs_Arの演算方法)が異なっていることである。第1の実施の形態に係るコントローラ60の推定速度調停部74は、第1推定速度Vs_E1及び第2推定速度Vs_E2に対して重みαと重みβの2つの係数を用いて第1推定速度Vs_E1の割合と第2推定速度Vs_E2の割合を連続的に変化させて調停することで調停速度Vs_Arを演算するものである。それに対して、本実施の形態に係る推定速度調停部74Aは、基本的には、第1推定速度Vs_E1と閾値γの大小関係(比較判定の結果)に応じて、第1推定速度Vs_E1及び第2推定速度Vs_E2のいずれか一方に切り替えるように第1推定速度Vs_E1と第2推定速度Vs_E2を調停することで調停速度Vs_Arを演算するものである。すなわち、推定速度調停部74Aは、第1推定速度Vs_E1と閾値γの大小関係を基に、第1推定速度Vs_E1及び第2推定速度Vs_E2のいずれか一方に対して重みを1に設定すると共に他方に対して重みを0に設定する。第1推定速度Vs_E1と閾値γの大小関係が逆の関係である場合には、第1推定速度Vs_E1及び第2推定速度Vs_E2に対して設定する重み(0と1)を逆転させるように調停することで調停速度Vs_Arを演算する。
【0093】
具体的には、コントローラ60Aの推定速度調停部74Aは、先ず、第1推定速度演算部72の演算結果である第1推定速度Vs_E1が閾値γに達しているか否かを判定する。油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)が加速している場合には、第1推定速度Vs_E1が閾値γ以上であるか否かを判定する。油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)が減速している場合には、第1推定速度Vs_E1が閾値γ以下であるか否かを判定する。閾値γは、例えば、要求速度演算部71の演算結果である要求速度Vs_Rの80%の値に設定される。この閾値γは、油圧アクチュエータ32の駆動状態が動き出しの状態から移行して所定の状態を超えて定常状態に近づいている状態であると想定される状況に設定されている。具体的には、第3姿勢検出装置28の各姿勢センサ28a、28b、28cがフロント作業装置3の被駆動部材19、20、21の慣性に起因した油圧アクチュエータ32の応答遅れの影響をほぼ受けずに油圧アクチュエータ32の駆動状態を検出可能な状況に設定されている。
【0094】
第1推定速度Vs_E1が閾値γに達していない場合には、推定速度調停部74Aは、第2推定速度演算部73の演算結果である第2推定速度Vs_E2を調停速度Vs_Arとして算出する。すなわち、第1推定速度Vs_E1の重みを0に設定する一方、第2推定速度Vs_E2の重みを1に設定するように調停する。
【0095】
一方、第1推定速度Vs_E1が閾値γに達している場合には、推定速度調停部74Aは、調停速度Vs_Arの演算結果の変化量を制限するためのレート制限速度V_rlmtを演算する。
【0096】
具体的には、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)が加速しているときの第1推定速度Vs_E1が演算結果のレート制限速度V_rlmt以上である場合、又は、油圧アクチュエータ32(ブームシリンダ22)が減速しているときの第1推定速度Vs_E1がレート制限速度V_rlmt以下である場合には、第1推定速度Vs_E1を調停速度Vs_Arとして算出する。すなわち、第1推定速度Vs_E1の重みを1に設定する一方、第2推定速度Vs_E2の重みを0に設定するように調停する。また、加速時の第1推定速度Vs_E1がレート制限速度V_rlmtよりも小さい場合、又は、減速時の第1推定速度Vs_E1がレート制限速度V_rlmtよりも大きい場合には、レート制限速度V_rlmtを調停速度Vs_Arとして算出する。
【0097】
推定速度調停部74Aは、基本的に、閾値γを用いて調停速度Vs_Arの設定を第1推定速度Vs_E1及び第2推定速度Vs_E2のいずれか一方に切り替えるものである。ただし、第1推定速度Vs_E1と第2推定速度Vs_E2の切替時に調停速度Vs_Arの演算結果の変化量が大きいと、調停速度Vs_Arの急峻な変化により制御の安定性が損なわれる懸念がある。そこで、レート制限速度V_rlmtを用いて調停速度Vs_Arの切替時の変化量を制限する。
【0098】
具体的には、例えば、レート制限速度V_rlmtを以下の式(5)を用いて演算する。
【0099】
【0100】
ここで、Vs_E1は第1推定速度、Vs_E2は第2推定速度、Rは制限レート、tは第1推定速度Vs_E1が閾値γに到達したと判定した時点からの経過時間である。制限レートRは、例えば、予め設定された固定値であり、記憶装置61に予め記憶されている。
【0101】
次に、本発明の作業機械の第2の実施の形態のコントローラが実行する制御手順の一例について
図7を用いて説明する。
図7は
図6に示す本発明の作業機械の第2の実施の形態のコントローラの制御手順の一例を示すフローチャートである。
【0102】
図7に示す第2の実施の形態のコントローラ60Aの制御手順が
図4に示す第1の実施の形態のコントローラ60の制御手順に対して相違する点は、第1の実施の形態のステップS50の調停速度Vs_Arの演算手順に代えて、ステップS42~S56の調停速度Vs_Arの演算手順を実行することである。それ以外の処理手順、すなわち、
図7に示すステップS10~S40及びS60~S90については、
図4に示す第1の実施の形態のコントローラ60の処理手順と同様であり、それらの説明を省略する。
【0103】
図7において、本実施の形態に係るコントローラ60Aは、ステップS42~S56の処理を実行することで、調停速度Vs_Arを演算する。
【0104】
具体的には、先ず、コントローラ60Aの推定速度調停部74Aは、第1推定速度Vs_E1が閾値γに達しているか否かを判定する(ステップS42)。油圧アクチュエータ32が加速している場合には、第1推定速度Vs_E1が閾値γ以上であるか否かを判定する。油圧アクチュエータ32が減速している場合には、第1推定速度Vs_E1が閾値γ以下であるか否かを判定する。判定結果がYESの場合にはステップS44に進む一方、判定結果がNOの場合にはステップS52に進む。
【0105】
ステップS42においてNOの場合、推定速度調停部74Aは、ステップS40の演算結果である第2推定速度Vs_E2を調停速度Vs_Arとして算出する(ステップS52)。すなわち、第1推定速度Vs_E1の重みを0に設定する一方、第2推定速度Vs_E2の重みを1に設定するように調停する。
【0106】
一方、ステップS42においてYESの場合、推定速度調停部74Aは、調停速度Vs_Arの変化量を制限するためのレート制限速度V_rlmtを演算する(ステップS44)。レート制限速度V_rlmtは、例えば、第1推定速度Vs_E1、第2推定速度Vs_E2、設定値である制限レートR、ステップS42のYESの判定時点からの時間経過tを用いて上述の式(5)から演算される。
【0107】
次いで、推定速度調停部74Aは、油圧アクチュエータ32が加速している場合には、第1推定速度Vs_E1がレート制限速度V_rlmtよりも小さいか否かを判定する(ステップS46)。また、油圧アクチュエータ32が減速している場合には、第1推定速度Vs_E1がレート制限速度V_rlmtよりも大きいか否かを判定する(ステップS46)。判定結果がYESの場合にはステップS54に進む一方、判定結果がNOの場合にはステップS56に進む。
【0108】
ステップS46においてNOの場合、推定速度調停部74Aは、ステップS30の演算結果である第1推定速度Vs_E1を調停速度Vs_Arとして算出する(ステップS56)。すなわち、第1推定速度Vs_E1の重みを1に設定する一方、第2推定速度Vs_E2の重みを0に設定するように調停する。
【0109】
一方、ステップS46においてYESの場合、推定速度調停部74Aは、ステップS44の演算結果であるレート制限速度V_rlmtを調停速度Vs_Arとして算出する(ステップS54)。これは、調停速度Vs_Arの切替時の変化量をレート制限速度V_rlmtにより制限するように調停したものである。
【0110】
次に、本発明の作業機械の第2の実施の形態の動作及び効果について説明する。ここでは、説明を簡便にするために、ブームの単独操作を行う場合における油圧システムの動作について
図2及び
図8を用いて説明する。
図8は本発明の作業機械の第2の実施の形態における操作装置の入力に対するコントローラによる油圧アクチュエータの各種の推定速度の演算結果の時間変化の一例を示す図である。
図8中、上図は操作装置に対する操作入力量の一例の時間変化を、下図は上図に示す操作入力量に対するコントローラの演算結果であるブームシリンダの各種の速度の時間変化の一例を示している。
【0111】
図8の上図に示す操作装置58の操作入力は、第1の実施の形態の場合の
図5の上図に示す操作装置58の操作入力と同様なものである。すなわち、
図8に示す時間T1において、操作装置58に対してステップ状の操作入力(
図8の上図の実線)が開始されている。
【0112】
これにより、
図6に示すコントローラ60Aは、操作装置58からの操作入力量Lに応じたブームシリンダ22の要求速度Vs_R(
図8の下図の長破線)を演算する。この要求速度Vs_Rは、第1の実施の形態の場合の
図5の下図の長破線で示す要求速度Vs_Rと同様なものである。コントローラ60Aは、要求速度Vs_Rに基づき油圧ポンプ31及び方向制御弁332に対して指令信号を出力する。
【0113】
図8に示す時間T2においては、第1の実施の形態の場合の
図5に示す時間T2の場合と同様に、コントローラ60Aからの第2弁指令信号Cvに応じて
図2に示す方向制御弁332が開口することでブームシリンダ22に圧油が供給されている。このため、方向制御弁332の開口面積及び前後差圧に基づきコントローラ60Aが演算する第2推定速度Vs_E2が0でない値になっている。一方、ブーム19は慣性の影響などにより停止状態のままなので、第3姿勢検出装置28はブームシリンダ22の駆動状態を停止状態として検出する。このため、第3姿勢検出装置28の検出値Siに基づきコントローラ60Aが演算する第1推定速度Vs_E1は0になる。このため、第1の実施の形態の場合と同様に、調停速度Vs_Arは、第2推定速度Vs_E2に設定される。
【0114】
図8に示す時間T3aにおいては、第1の実施の形態の場合の
図5に示す時間T3の場合と同様に、ブーム19が実際に動作している状態に移行している。このため、第3姿勢検出装置28がブームシリンダ22の実際の駆動を検出するので、第1推定速度Vs_E1が第3姿勢検出装置28の検出値Siに応じた値になる。しかし、ブームシリンダ22が動き出してから間がないので、第1推定速度Vs_E1は閾値γよりも小さい値である。この場合、調停速度Vs_Arは、第1の実施の形態の場合と異なり、第2推定速度Vs_E2に設定される。これは、第1推定速度Vs_E1の重みが0に設定されると共に、第2推定速度Vs_E2の重みが1に設定されるように調停することと同義である。
【0115】
図8に示す時間T5においては、第1推定速度Vs_E1が閾値γよりも大きくなっている。しかし、第1推定速度Vs_E1は、レート制限速度V_rlmtよりも小さくなっている。そのため、調停速度Vs_Arは、第2推定速度Vs_E2から第1推定速度Vs_E1へ切り替わらずに、レート制限速度V_rlmtになるように調停される。調停速度Vs_Arは、その後もレート制限速度V_rlmtに維持され、第1推定速度Vs_E1がレート制限速度V_rlmtよりも大きくなると、レート制限速度V_rlmtから第1推定速度Vs_E1へ切り替えられる。
【0116】
操作入力の開始時間T1から相当な時間が経過した時間T4aにおいては、第1推定速度Vs_E1が閾値γよりも大きく且つレート制限速度V_rlmtよりも大きくなっている。このため、調停速度Vs_Arは、第1推定速度Vs_E1に設定されている。すなわち、第1推定速度Vs_E1の重みが1に設定されると共に、第2推定速度Vs_E2の重みが0に設定されるように調停することと同義である。
【0117】
このように、本実施の形態においては、操作装置58への操作入力が開始された直後のブームシリンダ22の動き出しのときには、方向制御弁332を介してブームシリンダ22に供給される圧油の流量を基に予測される第2推定速度Vs_E2のみを用いてブームシリンダ22の駆動制御を行う。操作入力の開始直後では、ブーム19の慣性に起因したブームシリンダ22の応答遅れの影響が大きいので、ブームシリンダ22の実際の駆動状態(ほぼ停止状態)を基に演算するブームシリンダ22の第1推定速度Vs_E1を用いる場合よりも、操作入力に応じた要求速度Vs_Rに対する乖離を抑制することができる。このため、フィードバック制御の補正量の過大によるブームシリンダ22の飛び出しやハンチングの発生を抑制することができる。
【0118】
一方、ブームシリンダ22の実際の駆動状態が操作入力に応じた状態に近いときには、ブームシリンダ22の実際の駆動状態を検出する姿勢センサ28aの検出値を基に演算される第1推定速度Vs_E1に切り替えてブームシリンダ22の駆動制御を行う。第1推定速度Vs_E1は、ブームシリンダ22の実際の駆動状態を基にブームシリンダ22の駆動速度を推定するものなので、高精度な推定値を得ることができる。したがって、ブームシリンダ22が操作装置58の操作に応じた駆動状態に近づいた状態の場合には、第2推定速度Vs_E2よりも高精度な推定値である第1推定速度Vs_E1に切り替えてブームシリンダ22の駆動制御を行うのでブームシリンダ22の高精度な制御を実現可能である。
【0119】
したがって、本実施の形態においては、ブームシリンダ22(油圧アクチュエータ32)の駆動状態が動き出しの状態から定常状態になるまで、油圧アクチュエータ32の良好な制御精度を実現することができる。
【0120】
また、本実施の形態においては、第1推定速度Vs_E1と第2推定速度Vs_E2の切替時に調停速度Vs_Arの変化量を制限することで、調停速度Vs_Arの切替時の変化を滑らかにすることができる。これにより、調停速度Vs_Arを用いた制御の安定性を確保することができる。
【0121】
また、本実施の形態の作用及び効果は、第1の実施の形態の場合と同様に、油圧ショベルの掘削後の土砂の積込み動作に対して大いに発揮されると考えられる。
【0122】
上述した本発明の作業機械の第2の実施の形態に係るコントローラ60Aは、第1推定速度Vs_E1および第2推定速度Vs_E2のいずれかに一方に切り替えるように調停することで調停速度Vs_Arを演算するように構成されている。コントローラ60Aの調停速度Vs_Arの演算は、油圧アクチュエータ32の加速時に第1推定速度Vs_E1が閾値γよりも小さい場合又は油圧アクチュエータ32の減速時に第1推定速度Vs_E1が閾値γよりも大きい場合には、第2推定速度Vs_E2を調停速度Vs_Arとして算出する一方、油圧アクチュエータ32の加速時に第1推定速度Vs_E1が閾値γ以上の場合又は油圧アクチュエータ32の減速時に第1推定速度Vs_E1が閾値γ以下の場合には、第1推定速度Vs_E1を調停速度Vs_Arとして算出するものである。閾値γは、要求速度Vs_Rに対する所定の割合の値として設定されている。
【0123】
この構成によれば、油圧アクチュエータ32の動き出しのときには、調停速度Vs_Arを第2推定速度Vs_E2に切り替える調停を行うことで、油圧アクチュエータ32のこれからの駆動状態を予測した第2推定速度Vs_E2である調停速度Vs_Arを用いて油圧アクチュエータ32の駆動を制御するようになるので、フロント作業装置3の慣性に起因した油圧アクチュエータ32の応答遅れの影響による制御の不安定性(ハンチングなど)を抑制することができる。また、油圧アクチュエータ32の駆動状態が所定の状態を超えて定常状態に近づいているときには、調停速度Vs_Arを第1推定速度Vs_E1に切り替える調停を行うことで、油圧アクチュエータ32の実際の駆動状態を基に導き出される第1推定速度Vs_E1である調停速度を用いて油圧アクチュエータ32の駆動を制御するようになるので、第1推定速度Vs_E1よりも推定精度に劣る第2推定速度Vs_E2を用いる場合よりも油圧アクチュエータ32の駆動を高精度に制御することができる。すなわち、油圧アクチュエータ32の動き出し時における制御の安定性を確保しつつ、油圧アクチュエータ32の高精度な制御が可能となる。
【0124】
また、本実施の形態においては、コントローラの調停速度の演算が第1推定速度と第2推定速度の切替えの前後の変化量を制限するものである。
【0125】
この構成によれば、調停速度の変化量が第1推定速度と第2推定速度の切替えの前後で制限することで、調停速度Vs_Arの変化を滑らかにすることができるので、調停速度Vs_Arを用いた制御の安定性を確保することができる。
【0126】
[その他の実施の形態]
なお、上述した第1~第2の実施の形態においては、本発明を油圧ショベルに適用した例を示したが、油圧アクチュエータにより駆動する作業装置を備えた各種の作業機械に広く本発明を適用することができる。
【0127】
また、本発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0128】
例えば、上述した実施の形態においては、方向制御弁332の開口面積に関係する物理量を検出する検出器として、第2電磁比例弁44、45への第2弁指令信号Cvの電流値を検出する電流センサ55、56を用いた構成の例を示した。しかし、当該検出器として、方向制御弁332の流体圧ポート332a、332bに入力されるパイロット圧を検出する圧力センサや方向制御弁332のスプールの変位を検出するスプール変位センサを用いる構成も可能である。圧力センサによって検出されるパイロット圧やスプール変位センサの検出値を基に方向制御弁332のスプールの変位量を算出することで方向制御弁332の開口面積の推定が可能である。
【0129】
また、上述した第1の実施の形態においては、コントローラ60が調停速度Vs_Arを上述の式(2)を用いて演算する構成の例を示した。すなわち、上述の式(3)により規定された重みα及び上述の式(4)により規定された重みβの2つの重みを用いて調停速度Vs_Arを演算する構成の例が示されている。しかし、コントローラ60は、重みαのみを用いて調停速度Vs_Arを演算する構成も可能である。ただし、この場合、重みα及び重みβの2つの係数を用いる場合と比べて、油圧アクチュエータの制御精度が劣ることがある。
【0130】
また、上述した第2の実施の形態においては、第1推定速度Vs_E1が閾値γに到達したときに、レート制限速度V_rlmtを用いて調停速度Vs_Arを演算するように構成されたコントローラ60Aの例を示した。しかし、コントローラ60Aは、レート制限速度V_rlmtを用いずに、第1推定速度Vs_E1と閾値γの大小関係(比較判定の結果)に応じて、第1推定速度Vs_E1及び第2推定速度Vs_E2のいずれか一方に切り替えるように調停速度Vs_Arを演算する構成が可能である。ただし、レート制限速度V_rlmtを用いる構成の場合よりも、調停速度Vs_Arの変化量が急変して制御の安定性が低下することがある。
[まとめ]
以上をまとめると、上述した本発明の実施の形態に係る作業機械は、圧油を吐出する油圧ポンプ31と、油圧ポンプ31から供給される圧油により駆動する油圧アクチュエータ32と、油圧ポンプ31から油圧アクチュエータ32に供給される圧油の流れを制御する方向制御弁332と、油圧アクチュエータ32の駆動により動作する被駆動部材19、20、21と、被駆動部材19、20、21の動作を指示する操作信号を出力する操作装置58と、被駆動部材19、20、21の動作情報を検出する第3姿勢検出装置28(第1検出装置)と、方向制御弁332を介して油圧アクチュエータ32に供給される圧油の流量に関係する情報を検出する第2検出装置を構成する第1圧力センサ51、第2圧力センサ52、53、電流センサ55、56と、油圧ポンプ31及び方向制御弁332の駆動を制御するコントローラ60、60Aとを備える。コントローラ60、60Aは、操作装置58の操作信号を基に油圧アクチュエータ32の要求速度Vs_Rを演算し、第3姿勢検出装置28(第1検出装置)の検出値を基に推定される油圧アクチュエータ32の速度を第1推定速度Vs_E1として演算し、第2検出装置を構成する第1圧力センサ51、第2圧力センサ52、53、電流センサ55、56(第2検出装置)の検出値を基に推定される油圧アクチュエータ32の速度を第2推定速度Vs_E2として演算し、第1推定速度Vs_E1と第2推定速度Vs_E2とを油圧アクチュエータ32の駆動状態に応じて調停することで調停速度Vs_Arを演算し、要求速度Vs_Rと調停速度Vs_Arの偏差に基づいて油圧ポンプ31及び方向制御弁332の駆動を制御するように構成されている。コントローラ60、60Aの調停速度Vs_Arの演算は、第1推定速度Vs_E1を基に油圧アクチュエータ32の駆動状態が動き出しの状態であると判定可能な場合には、第2推定速度Vs_E2に対する影響度が第1推定速度Vs_E1に対する影響度よりも大きくなるように調停する一方、第1推定速度Vs_E1を基に油圧アクチュエータ32の駆動状態が所定の状態を超えて定常状態に近づいていると判定可能な場合には、第1推定速度Vs_E1に対する影響度が第2推定速度Vs_E2に対する影響度よりも大きくなるように調停するものである。
【0131】
この構成によれば、油圧アクチュエータ32の駆動状態が動き出しのときには、油圧アクチュエータ32のこれからの駆動状態を予測した第2推定速度Vs_E2を用いて油圧アクチュエータ32の駆動を制御するので、被駆動部材19、20、21の慣性に起因した油圧アクチュエータ32の応答遅れの影響による油圧アクチュエータ32の飛び出しやハンチングを抑制することができる。また、油圧アクチュエータ32の駆動が定常状態に近づいているときには、油圧アクチュエータ32の実際の駆動状態を基に導き出される第1推定速度Vs_E1を用いて油圧アクチュエータ32の駆動を制御するので、第1推定速度Vs_E1よりも推定精度に劣る第2推定速度Vs_E2を用いる場合よりも油圧アクチュエータ32の駆動を高精度に制御することができる。すなわち、油圧アクチュエータ32の動き出し時における制御の安定性を確保しつつ、油圧アクチュエータ32の高精度な制御が可能となる。
【符号の説明】
【0132】
19…ブーム(被駆動部材)、 20…アーム(被駆動部材)、 21…バケット(被駆動部材)、 22…ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)、 23…アームシリンダ(油圧アクチュエータ)、 24…バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)、 28…第3姿勢検出装置(第1検出装置)、 31…油圧ポンプ、 332…方向制御弁、 51…第1圧力センサ(第2検出装置)、 52、53…第2圧力センサ(第2検出装置)、 55、56…電流センサ(第2検出装置)、 58…操作装置、 60、60A…コントローラ