(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】LED発光装置、照明器具及び測定用光源
(51)【国際特許分類】
H10H 20/851 20250101AFI20241224BHJP
F21V 3/00 20150101ALI20241224BHJP
F21V 3/08 20180101ALI20241224BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20241224BHJP
【FI】
H01L33/50
F21V3/00 510
F21V3/08
F21Y115:10
(21)【出願番号】P 2024071488
(22)【出願日】2024-04-25
【審査請求日】2024-05-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591149089
【氏名又は名称】株式会社MARUWA
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】加藤 曜
(72)【発明者】
【氏名】川本 健一
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0132059(KR,A)
【文献】国際公開第2016/208683(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/181372(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/240150(WO,A1)
【文献】特開2021-068918(JP,A)
【文献】特開2022-101467(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0270427(US,A1)
【文献】国際公開第2022/176782(WO,A1)
【文献】特表2018-516430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
F21K 9/00-9/90
F21S 2/00-45/70
F21V 8/00
C09K 11/00-11/89
F21V 3/00-3/08
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のLED素子と、同じ樹脂中に分散した複数の蛍光体とを備えたLED発光装置であって、
複数の蛍光体は、緑色蛍光体と赤色蛍光体と近赤外蛍光体とを含み、
LED発光装置から取り出される取出光は、波長が450~950nmの範囲で連続的な発光スペクトルを有し、かつ、
CIE1931表色系の色度図における色度点が、黒体放射軌跡よりも下側に位置し、色温度が2500~5000Kの範囲で平均演色評価数Raが90以上かつ特殊演色評価数R15が88以上であるLED発光装置。
【請求項2】
取出光は、770~820nmと550~650nmとにそれぞれ発光ピークを有し、770~820nmでの最大発光ピーク強度(A)よりも550~650nmでの最大発光ピーク強度(B)の方が高い請求項1記載のLED発光装置。
【請求項3】
770~820nmでの最大発光ピーク強度(A)に対する550~650nmでの最大発光ピーク強度(B)の比(B/A)が1.03~1.55である請求項2記載のLED発光装置。
【請求項4】
1又は複数のLED素子と、同じ樹脂中に分散した複数の蛍光体とを備えたLED発光装置であって、
LED素子は、440~460nmに発光ピークを有し、
複数の蛍光体は、480~520nmに発光ピークを有する緑色蛍光体と、640~680nmに発光ピークを有する赤色蛍光体と、780~820nmに発光ピークを有する近赤外蛍光体とを含み、
緑色蛍光体は、Lu
3Al
5O
12:Ce
3+で表される組成を有し、
赤色蛍光体は、CaAlSiN
3:Eu
2+で表される組成を有し、
近赤外蛍光体は、Li
aSr
bLa
cSi
dN
eEu
f(ただし、a~fは、a+b+c+d+e+f=100、0≦a≦8.22、0.22≦b≦17.33、1.12≦c≦11.36、22.41≦d≦38.09、49.47≦e≦56.09、0.88≦f≦1.01、を満たす数である。)で表される組成を有
し、
LED発光装置から取り出される取出光は、CIE1931表色系の色度図における色度点が、黒体放射軌跡よりも下側に位置するLED発光装置。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のLED発光装置を備えた照明器具。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のLED発光装置を備えた測定用光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域性と高演色性に配慮したLED発光装置、照明器具及び測定用光源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハロゲンランプから省電力性に優れるLED発光装置への置き換えは、各種照明において急速に進んでいるが、広帯域性と高演色性とが要求される用途においては十分に進んでいない。これらの両特性を、LED発光装置は満たすことが難しいからである。
【0003】
広帯域性に関しては、特許文献1に、480nm以下の範囲にピーク波長を有する光を発光するLEDと、700nmを超える範囲にピーク波長を有しかつ半値全幅が100nm以上である光を発する近赤外蛍光体とを用いることで、広帯域(400~1000nm)に連続したスペクトルを有するLED発光装置が記載されている。このLED発光装置は、分光分析装置等の産業機器用の発光装置として好適に用いることができるとされている。しかし、特許文献1には、演色性に関する記載はない。
【0004】
また、特許文献2には、白色LEDチップと近赤外蛍光体を用い、近赤外蛍光体を、710nmに発光ピークを有する第1蛍光体、810nmに発光のピークを有する第2蛍光体、910nmに発光のピークを有する第3蛍光体からなる群から選択することで、380~1200nmの波長領域をカバーすることができる超広帯域のLED発光装置が記載されている。このLED発光装置は、ハロゲンランプの代替ができ、太陽光スペクトル分布に類似した分布を有するとされている。しかし、その実施例のサンプルA,B,Cの平均演色評価数Raは83~87、特殊演色評価数R9は37~52にすぎず(表3)、演色性は乏しい。
【0005】
一方、高演色性に関しては、通常の帯域(400~750nm)であれば、高演色のLED発光装置が知られている。例えば特許文献3には、430~470nmの範囲内に発光ピーク波長を有するLEDと、所定の組成を有する第一蛍光体、第二蛍光体及び第三蛍光体から選択された少なくとも1種を含み、2種以上の希土類アルミン酸塩蛍光体と、所定の組成を有する第四蛍光体と、所定の組成を有する第五蛍光体と、を含む蛍光部材とを備えることで、実施例においてRaが93.9~95.9、R15が93.2~96.0(表2)という高演色性のLED発光装置が記載されている。しかし、同実施例の発光は400~750nmという通常の帯域であり(
図2~
図7)、近赤外領域までの広帯域性はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第7428323号公報
【文献】特表2022-553459号公報
【文献】特許第7311819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のとおり、LED発光装置が広帯域性と高演色性とを共に満たすことは難しい。また、本発明者による検討によると、特許文献3のような通常帯域で高演色性を有するLED発光装置に、近赤外領域までの広帯域性を付与するために、特許文献1,2のような800nm付近に発光強度を有する近赤外蛍光体を加えると、人の目が640~770nmの光を赤色と認識するため、高演色性を保てないことが分かった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、広帯域性と高演色性とを共に満たすLED発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]1又は複数のLED素子と、複数の蛍光体とを備えたLED発光装置であって、
発光装置から取り出される取出光は、波長が450~950nmの範囲で連続的な発光スペクトルを有し、かつ、色温度が2500~5000Kの範囲で平均演色評価数Raが90以上かつ特殊演色評価数R15が88以上であるLED発光装置。
【0010】
[2]取出光は、770~820nmと550~650nmとにそれぞれ発光ピークを有し、770~820nmでの最大発光ピーク強度(A)よりも550~650nmでの最大発光ピーク強度(B)の方が高い[1]記載のLED発光装置。
【0011】
[3]770~820nmでの最大発光ピーク強度(A)に対する550~650nmでの最大発光ピーク強度(B)の比(B/A)が1.03~1.55である[2]記載のLED発光装置。
【0012】
[4]取出光は、CIE1931表色系の色度図(以下単に「色度図」という。)における色度点が、黒体放射軌跡よりも下側に位置する[1]又は[2]記載のLED発光装置。
【0013】
[5]1又は複数のLED素子と、複数の蛍光体とを備え、白色の取出光が取り出されるLED発光装置であって、
LED素子は、440~460nmに発光ピークを有し、
蛍光体は、480~520nmに発光ピークを有する緑色蛍光体と、640~680nmに発光ピークを有する赤色蛍光体と、780~820nmに発光ピークを有する近赤外蛍光体とを含み、
緑色蛍光体は、Lu3Al5O12:Ce3+で表される組成を有し、
赤色蛍光体は、CaAlSiN3:Eu2+で表される組成を有し、
近赤外蛍光体は、LiaSrbLacSidNeEuf(ただし、a~fは、a+b+c+d+e+f=100、0≦a≦8.22、0.22≦b≦17.33、1.12≦c≦11.36、22.41≦d≦38.09、49.47≦e≦56.09、0.88≦f≦1.01、を満たす数である。)で表される組成を有するLED発光装置。
【0014】
[6]前記[1]~[5]のいずれか一項に記載のLED発光装置を備えた照明器具。
【0015】
[7]前記[1]~[5]のいずれか一項に記載のLED発光装置を備えた測定用光源。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、広帯域性と高演色性とを共に満たすLED発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は実施例及び比較例のLED発光装置の断面図である。
【
図2】
図2は実施例及び比較例の取出光の発光スペクトル図である。
【
図3】
図3は実施例及び比較例の取出光の色度点(色度座標)を黒体放射軌跡と対比して示す色度図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<1>LED素子
LED素子には、レーザーダイオード素子が含まれる。
LED素子の発光ピーク波長は、特に限定されないが、440~460nmの範囲内であることが好ましい。
【0019】
<2>1又は複数のLED素子と、複数の蛍光体
「1又は複数のLED素子と、複数の蛍光体」は、次の態様を含む。
・1のLED素子と該LED素子の発する光で励起される複数の蛍光体。
・1のLED素子と該LED素子の発する光で励起される1又は複数の蛍光体との組み合わせが、複数存在する。
【0020】
<3>蛍光体
蛍光体は、LED素子の発する光を励起源として蛍光を発する物質である。
前記のとおり、蛍光体は、480~520nmに発光ピークを有する緑色蛍光体と、640~680nmに発光ピークを有する赤色蛍光体と、780~820nmに発光ピークを有する近赤外蛍光体とを含むことが好ましい。
緑色蛍光体は、Lu3Al5O12:Ce3+で表される組成を有するものが好ましい。
赤色蛍光体は、CaAlSiN3:Eu2+で表される組成を有するものが好ましい。
近赤外蛍光体は、LiaSrbLacSidNeEuf(ただし、a~fは、a+b+c+d+e+f=100、0≦a≦8.22、0.22≦b≦17.33、1.12≦c≦11.36、22.41≦d≦38.09、49.47≦e≦56.09、0.88≦f≦1.01、を満たす数である。)で表される組成を有するものが好ましい。
【0021】
<4>連続的な発光スペクトル
前記のとおり、発光装置から取り出される取出光は、450~950nmの範囲に連続的な発光スペクトルを有しているので、広帯域性が求められる分光分析装置等の測定用光源(発光装置)として好適に用いることができる。
「連続的な発光スペクトル」とは、この範囲内の全域で、発光スペクトルの発光強度が800nm基準の相対値として0.05以上(より好ましくは0.1以上)であることを意味している。
【0022】
<5>発光ピーク
前記のとおり、取出光は、770~820nmと550~650nmとにそれぞれ発光ピークを有し、770~820nmでの最大発光ピーク強度(A)よりも550~650nmでの最大発光ピーク強度(B)の方が高いことが好ましい。これにより、近赤外蛍光体による人の目の赤色認識を抑制でき、その結果、高演色性を保つことができる。
前記のとおり、比(B/A)は1.03~1.55であることが好ましい。そうすることで、広帯域性(450~950nmの範囲内での連続的なスペクトル)と高演色性を両立することができる。
【0023】
<6>色度点
前記のとおり、取出光は、色度図における色度点(色度座標)が黒体放射軌跡よりも下側に位置することが好ましい。色度図は、可視光領域(380~780nm)を対象としたもので、黒体放射軌跡を基準にすると、近赤外蛍光体の含まれる赤色成分の影響で高演色性が保てない。そこで、取出光の色度点を黒体放射軌跡よりも下側に位置させることで、近赤外蛍光体を考慮した高演色性を有する白色光とすることができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を具体化した実施例について、比較例と比較しつつ、図面を参照して説明する。なお、実施例の各部の材料、数量及び条件は例示であり、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0025】
図1に示すように、実施例のLED発光装置1は、基板10と、基板10上に接着されたLED素子2と、LED素子2を封止した第1封止材3とを備えるものである。第1封止材3は、透明な樹脂4と該樹脂4に分散した蛍光体5とからなる。
【0026】
実施例のLED発光装置1から取り出される白色の取出光は、波長が450~950nmの範囲で連続的な発光スペクトルを有し、かつ、色温度が2500~5000Kの範囲で平均演色評価数Raが90以上かつ特殊演色評価数R15が88以上(好ましくは90以上)である。
これに対し、比較例のLED発光装置は、実施例と同じ
図1の構造を有するが、光の特性が実施例と異なる。
詳しくは、表1に示す実施例1~5及び比較例1~3のLED発光装置を、次のように作製し、取出光の特性を測定した。
【0027】
【0028】
表1中、LED素子は、豊田合成社製の窒化ガリウム系LED素子であり、ピーク波長440~460nmの光を発するものである。
樹脂は、アイカ工業社製のシリコーン樹脂T-122である。
BG802/B2は、三菱ケミカル社製の緑色蛍光体(LuAG)の品番であり、Lu3Al5O12:Ce3+で表される組成を有し、480~520nmにピーク波長を有するものである。
C13Pは、東京化学社製の黄色蛍光体(YAG)の品番であり、Y3Al5O12:Ce3+で表される組成を有し、530~570nmにピーク波長を有するものである。
BR101Nは、三菱ケミカル社製の赤色蛍光体(CASN)の品番であり、CaAlSiN3:Eu2+で表される組成を有し、630~670nmにピーク波長を有するものである。
R660は、デンカ社製の赤色蛍光体(CASN)の品番であり、CaAlSiN3:Eu2+で表される組成を有し、640~680nmにピーク波長を有するものである。
NIR1は、大電社製の近赤外蛍光体の品番であり、(Y,Lu,Gd)3-x-y(Ga,Al,Sc)5O12:(Crx,(Yb,Nd)y)(0.05<x<0.3、0≦y<0.3)で表される組成を有し、690~730nmにピーク波長を有するものである。
NIR2は、大電社製の近赤外蛍光体の品番であるり、ScBO3:Crで表される組成を有し、790~830nmにピーク波長を有するものである。
TIR800は、物質・材料研究機構(NIMS)が開発した近赤外蛍光体(サイアロン)の品番であり、LiaSrbLacSidNeEuf(ただし、a~fは、a+b+c+d+e+f=100、0≦a≦8.22、0.22≦b≦17.33、1.12≦c≦11.36、22.41≦d≦38.09、49.47≦e≦56.09、0.88≦f≦1.01、を満たす数である。)で表される組成を有し、780~820nmにピーク波長を有するものである。
【0029】
(作製方法)
基板10上に、LED素子2を取り付け、通電可能とした。樹脂に表1に示す蛍光体を樹脂1gに対する配合量で配合し、撹拌機等を用いて混合して樹脂中に蛍光体を均一に分散させた。この樹脂と蛍光体の混合物を、表1の塗布量だけ、ディスペンサー等を用いてLED素子2上に塗布した。オーブンで樹脂を加熱硬化させて封止材3とし、実施例1~5及び比較例1~3の各LED発光装置1を作製した。
【0030】
(取出光の特性)
通電時のLED素子2が発する光と蛍光体5が発する光により、実施例1~5及び比較例1~3の各LED発光装置1から取出光が取り出された。各取出光の測定結果を次のとおり示す。
・
図2に、発光スペクトルを示す。
・表2に、770~820nmでの最大ピーク強度(A)、550~650nmでの最大ピーク強度(B)、比(B/A)、800nmでの発光強度(C)、950nmでの発光強度(D)、比(D/C)、相関色温度、色度図における色度座標、特殊演色評価数R1~R15、平均演色評価数Raを示す。
・
図3に、色度図における色度点(色度座標)を黒体放射軌跡と対比して示す。
【0031】
【0032】
(まとめ)
比較例1は、950nmでの発光強度が低い。これは近赤外蛍光体の性状によると考えられる。また、Ra,R15が低い。これは、色度点が黒体放射軌跡よりも上側にあることが一因の可能性がある。
比較例2は、広帯域性であるが、Ra,R15が低い。これは、比(B/A)が0.92と小さいことが一因の可能性がある。
比較例3は、広帯域性であり、Ra,R15が比較例1,2よりも高いものの、Raが90に達していない(JIS Z9112:2019高演色形クラス2の性能は満たせていない)。これは、x座標及びy座標の値がほぼ黒体放射軌跡上にあることが一因の可能性がある。
これらに対して、実施例1~5は、広帯域性であると共に、色温度が2500~5000Kの範囲でRaが90以上,R15が88以上(好ましくは90以上)であり、高演色性(高演色形クラス2)の性能を満たす。また、実施例1~5は、特殊演色評価数R9(赤色)65以上も満たす。
【0033】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 発光装置
2 LED素子
3 封止材
4 樹脂
5 蛍光体
10 基板
【要約】
【課題】広帯域性と高演色性とを共に満たすLED発光装置を提供する。
【解決手段】1又は複数のLED素子と、複数の蛍光体とを備えたLED発光装置であって、LED発光装置から取り出される取出光は、波長が450~950nmの範囲で連続的な発光スペクトルを有し、かつ、色温度が2500~5000Kの範囲で平均演色評価数Raが90以上かつ特殊演色評価数R15が88以上である。
【選択図】
図1