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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-23
(45)【発行日】2025-01-07
(54)【発明の名称】編地および当該編地を用いた衣服
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20241224BHJP
   D04B 1/14 20060101ALI20241224BHJP
【FI】
D04B1/00 B
D04B1/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024545245
(86)(22)【出願日】2024-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2024015175
【審査請求日】2024-08-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399095232
【氏名又は名称】内野株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003982
【氏名又は名称】弁理士法人来知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(72)【発明者】
【氏名】内野 信行
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-096031(JP,A)
【文献】実開昭57-059806(JP,U)
【文献】実開昭59-083908(JP,U)
【文献】特開2014-214399(JP,A)
【文献】特開2013-167029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00-1/28;21/00-21/20
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
綿糸による編地であって、
前記綿糸の撚り係数は2.0以上3.4以下であり、
前記綿糸の英式綿番手の60番手から100番手(単糸相当)であり、
2層以上の天竺組織から形成され、
生地質量は150g/ 以下であり、
飽和吸水量は前記生地質量の4倍以上である
ことを特徴とする編地。
【請求項2】
前記綿糸は交撚された溶解糸を溶解することにより解撚されて形成される
ことを特徴とする請求項1記載の編地。
【請求項3】
前記溶解糸による解撚率は15-50%である
ことを特徴とする請求項2記載の編地。
【請求項4】
前記2層以上の天竺組織は、第1天竺組織と第2天竺組織とを含み、
前記第1天竺組織の裏側と前記第2天竺組織の裏側とが接結されている
ことを特徴とする請求項1記載の編地。
【請求項5】
撚り係数3.4超の綿糸に溶解糸を交撚し、交撚糸を形成し、
前記交撚糸により2層以上の天竺組織を形成し、
前記溶解糸を溶解し、前記綿糸を解撚する
ことを特徴とする請求項1記載の編地の製造方法。
【請求項6】
綿糸による編地であって、
前記綿糸の撚り係数は2.0以上3.4以下であり、
前記綿糸の英式綿番手の60番手から100番手(単糸相当)であり、
1層以上のインターロック組織から形成され、
生地質量は150g/ 以下であり、
飽和吸水量は前記生地質量の4倍以上である
ことを特徴とする編地。
【請求項7】
請求項1または6記載の編地により形成される
ことを特徴とする衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来品と比較して、特に軽量性と吸水性に優れた編地に関する。
【背景技術】
【0002】
衣服には、織地や編地が用いられる。織地は経糸と緯糸とが交差することにより形成される。編地一本の糸において連続したループを作り、そのループに糸を絡ませてループを作る動作を繰り返すことによって形成される。
【0003】
編地は織地に比べ、伸縮性や通気性が高く、肌触りに優れ、このような特性を生かして、編地は衣服に用いられる。
【0004】
編地には経編と緯編とがある。経編は、整経されて並行に並べられた多くの経糸によって縦方向に編目を作っていく。緯編は、1本の糸が横方向に進みながらループを絡ませて編目を作ってく。丸編は緯編の一形態である。
【0005】
編地には様々な材料が適用可能であるが、肌触りのよさから綿糸より形成されることも多い(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2023-150772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、綿糸による編地は衣服に好適である。一方、衣服に適用するためには軽量性が重要である。特に部屋着や寝衣等に用いる場合、着衣者が重量負荷を感じると、ゆっくりとくつろげない。
【0008】
編地を薄くする等すれば、軽量化を図ることができる。しかし、薄い生地では吸水性が著しく低下する。すなわち、軽量性と吸水性とを両立させるのは、難しい。
【0009】
本発明は上記課題を解決しようとするものであり、軽量性を維持しながら吸水性に優れた編地および当該編地を用いた衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は綿糸による編地である。前記綿糸の撚り係数は2.0以上3.4以下である。前記綿糸の英式綿番手の60番手から100番手(単糸相当)である。前記編地は2層以上の天竺組織から形成される。生地質量は150g/ 以下である。飽和吸水量は前記生地質量の4倍以上である。
【0011】
飽和吸水量とは生地が吸収することができる水量の上限値であるが、衣服の場合、吸収に時間を要すると不快感につながるため、ここでは便宜上180秒経過時点までに吸収した水量を飽和吸水量とする。一般に生地質量200g/ 以下の衣服用の綿の生地の場合、飽和吸水量に達する時間は60秒から120秒であり、それ以上の時間を要する生地は生地が水分を吸収しているという体感を得ることができない。
【0012】
これにより、軽量性を維持しながら優れた吸水性を実現できる。
【0013】
好ましくは、前記綿糸は交撚された溶解糸を溶解することにより解撚されて形成される。
【0014】
これにより、綿糸は弱撚糸となる。
【0015】
好ましくは、前記溶解糸による解撚率は15-50%である。
【0016】
これにより、綿糸は撚り係数2.0以上3.4以下の弱撚糸となる。
【0017】
好ましくは、前記2層以上の天竺組織は、第1天竺組織と第2天竺組織とを含み、前記第1天竺組織の裏側と前記第2天竺組織の裏側とが接結されている。
【0018】
これにより、さらに優れた吸水性を実現できる。
【0019】
上記課題を解決するための本願発明は、上記記載の編地の製造方法である。撚り係数3.4超の綿糸に溶解糸を交撚し、交撚糸を形成し、前記交撚糸により2層以上の天竺組織を形成し、前記溶解糸を溶解し、前記綿糸を解撚する。
【0020】
これにより、撚糸は撚り係数2.0以上3.4以下の弱撚糸となる。
【0021】
上記課題を解決するため、本発明は綿糸による編地である。前記綿糸の撚り係数は2.0以上3.4以下である。前記綿糸の英式綿番手の60番手から100番手(単糸相当)である。前記編地は1層以上のインターロック組織から形成される。生地質量は150g/ 以下である。飽和吸水量は前記生地質量の4倍以上である。
【0022】
これにより、軽量性を維持しながら優れた吸水性を実現できる。
【0023】
上記課題を解決するため、本発明の衣類は、上記編地により形成される。
【0024】
これにより、体から出る汗を速やかに吸収し、衣服内部から取り除くことができる。着衣者は汗によるべたつきや蒸れを感じず、爽快な着心地を維持できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の編地は、軽量性を維持しながら吸水性にも優れている。すなわち、吸水倍率が高い。また吸水速度も速い。
【0026】
吸水倍率とは、生地の質量に対する吸収した水量の倍率である。吸水速度とは、生地が水分を吸収する速度である。ここでは生地が1秒間に吸収した水量として表し、計測中に記録した最大速度を吸水速度として用いる。
【0027】
本発明の編地を用いた衣服は、体から出る汗を速やかに吸収し、衣服内部から取り除くことができる。着衣者は汗によるべたつきや蒸れを感じず、爽快な着心地を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】一般的な綿撚糸と弱撚糸の比較図
図2】弱撚糸形成のイメージ図
図3】細番手編地と太番手編地の比較図
図4】二重天竺構成イメージ図
図5】実施例1と比較例1の吸水能力比較図
図6】実施例2と比較例2の吸水能力比較図
図7】インターロック構成イメージ図
図8】実施例3と比較例3の吸水能力比較図
図9】参考例 吸水能力
図10】衣服内環境(湿度)時間変化図
図11】衣服内環境(温度)時間変化図
【発明を実施するための形態】
【0029】
~概要~
本願発明は、綿糸から形成される編地である。綿糸は綿繊維を撚ることにより形成される。特段、混紡の言及がない場合は綿繊維100%から形成される。ただし、実質的に綿繊維100%とみなせる場合(例えば綿90%以上)は綿糸として扱う。
【0030】
本願綿糸の撚り係数Kは2.0以上3.4以下である。(特徴1)。つまり弱撚糸を用いる。なお。一般的な綿撚糸(以下普通撚糸)の係数Kは3.6以上4.3以下である。撚り係数は単位長当たりの撚り回数/英式糸番手の平方根で定義される。
【0031】
図1は、普通撚糸(図1A)と弱撚糸(図1B)の断面比較イメージ図である。同量の綿繊維から形成されている。名目上同じ糸番手とする。
【0032】
同じ糸番手であっても、弱撚糸は普通撚糸に比べて柔らかく膨らむ。すなわち、見掛け上は若干太くなる。
【0033】
弱撚糸は普通撚糸に比べて内部空隙を多く含む。この空隙が毛細管現象を誘起するものと推測される。
【0034】
弱撚糸は単に普通撚糸に比べて撚り係数が少ないというだけでなく、交撚された溶解糸を溶解することにより解撚されて形成されていてもよい。
【0035】
図2は弱撚糸形成例のイメージ図である。上図は普通撚糸と溶解糸であり、下図は交撚糸である。
【0036】
普通撚糸は、綿花等の繊維を撚って形成される。ついで、普通撚糸の撚り方向に対して逆方向に溶解糸(たとえば水溶性糸)を巻き付けて交撚糸を形成する。溶解糸を溶解除去することにより、普通撚糸の撚りが戻され弱撚糸が形成される。このとき、糸が柔らかく膨らみ、繊維間に隙間が形成される。
【0037】
たとえば、普通撚糸の撚り100回に対し、溶解糸と交撚する撚り回数を15回とすると、撚り戻し後の撚り85%の弱撚糸が形成される。このときの解撚率は15%である。同様に、普通撚糸の撚り100回に対し、溶解糸の撚り50回とすると、撚り戻し後の撚り50%の弱撚糸が形成される。このときの解撚率は50%である。本願解撚率は15―50%である。
【0038】
解撚率15%未満であると、明確な隙間が形成されず、本願効果を得られない。解撚率は50%超であると糸の強度が不十分となり、製品形成が困難となる。さらに、本願解撚率は20―40%であることが好ましい。
【0039】
また、普通撚糸の撚り100回に対し、溶解糸と交撚する撚り回数を170回とすると、撚り戻し後の撚り-70%の弱撚糸が形成される。これは解撚率30%と同様に扱う。
【0040】
なお、普通撚糸の撚り100回に対し、溶解糸と交撚する撚り回数を100回とすると、撚り戻し後の撚り0%の無撚糸が形成される。無撚糸の撚り係数Kはゼロである。
【0041】
無撚糸または無撚糸に準ずる糸を編地に適用すると、編地のキックバック性が損なわれるため、本願では無撚糸を適用しない。
【0042】
本願綿糸は英式綿番手60番手から100番手(単糸相当)(特徴2)である。なお、天竺やインターロックなどの編地には英式綿番手20~40番手(単糸相当)が用いられることが多い。
【0043】
図3は細番手編地組織のループ(図3A)と太番手編地組織のループ(図3B)の比較イメージ図である。なお、本願におけるループとは編地組織の一部であり、パイル織物におけるループやパイル編物におけるループとは異なる。
【0044】
本願編地は衣服に適用することを前提とする。従って、軽量性も重要であり、編地の生地質量は150g/ 以下である(特徴4)。
【0045】
その結果、細番手編地組織ではループの間隔を短くし、太番手編地組織ではループの間隔を長くすることにより、質量が所定の範囲になる様に編密度(ウェール×コース)を調整している。具体的には編密度は編み機のゲージ数により調整される。
【0046】
細番手編地組織のループは太番手編地組織のループに比べて、ループ間に形成される隙間が狭く、かつ隙間の数も多くなり、この隙間が毛細管現象を誘起するものと推測される。
【0047】
また、細番手編地は太番手編地に比べて、組織の密度が密になり、糸の本数が増え、結果的に本願特徴1の効果が確実になるものと推測される。
【0048】
したがって、英式綿番手60番手より太番手であると、生地が重くなったり、編密度が粗くなったりし、本願効果を得られない。英式綿番手100番手より太番手であると、糸の強度が不十分となり、製品形成が困難となる。さらに、本願綿番手は70番手から90番手(単糸相当)であることが好ましい。なお、単糸60番手は双糸120番手に相当し、単糸100番手は双糸200番手に相当する。
【0049】
また極端な細番手を編地に適用すると、編地のキックバック性が損なわれるため、本願では極端な細番手を適用しない。
【0050】
本願編地は2層以上の天竺組織から形成される(特徴3)。天竺編とは平編とも呼ばれ、緯編の最も基本的な組織であり、1列の針で編まれることにより、縦方向と横方向に同じ編組織が連なる。表裏で編目が異なり、表側は縦方向の編目、裏側は横方向の編目となる。なお、説明の便宜のため、下記実施例では二重天竺とする。なお、本願において特に言及しない場合、天竺組織は原則として一重組織である。
【0051】
図4は二重天竺の構成イメージ図である。第1の天竺組織と第2の天竺組織とが接結を介して積層している。図示が複雑になるため接結の詳細図示を省略している。図4Aは概略斜視図であり、図4Bは部分平面図である。
【0052】
天竺組織は明確な表面と裏面を持つが、第1の天竺組織の裏と第2の天竺組織の表を接結してもよいし、第1の天竺組織の裏と第2の天竺組織の裏を接結してもよいし、第1の天竺組織の表と第2の天竺組織の表を接結してもよい。
【0053】
第1の天竺組織と第2の天竺組織との積層により形成される空間が、繊維間の隙間や糸と糸の隙間と同様に、一種の一時的な貯水機能となるものと推測される。特に、第1の天竺組織の裏と第2の天竺組織の裏を接結すると、凸面同士が対向し、2層間の接触面積が減り、隙間の数が増える。これにより毛細管現象と貯水スペースも増大するため、好ましい。
【0054】
本願編地は衣服に適用することを前提とする。従って、軽量性も重要であり、編地の生地質量は150g/ 以下である(特徴4)。当該構成要件と綿糸番手を限定すると、必然的に組織の密度や生地の厚さは所定の範囲に限定される。
【0055】
さらに、編地の生地質量は80~130g/ 程度が好ましい。80g/ 以下だと組織が粗すぎたり薄すぎたりするため、本願効果を得られない。
【0056】
本願編地の飽和吸水量は生地質量の4倍以上である(特徴5)。すなわち、本願編地の特徴1~4を備えることにより、軽量性と吸水性との両立を実現できる。
【0057】
なお、生地質量を増やせば(軽量性を無視すれば)、吸水量は増える。本願では、単なる吸水量の多寡でなく、軽量性と吸水性との両立を目的としているため、生地質量当たりの飽和吸水量、すなわち吸水倍率を指標としている。
【0058】
吸水量はJIS L1907表面吸水法によって計測される値とする。飽和吸水量とは、生地が吸い上げる水の量が経時によって平衡状態になった時点の吸水量であり、一般に綿の生地は120秒以内に飽和吸水量に達することが多いため、本願では180秒まで計測を行い、180秒経過時点の値を飽和吸水量とした。生地の質量はJIS L1907表面吸水法に定められた試料サイズの質量とする。
【0059】
~実施例1~
本願特徴1(撚り係数)と本願効果との関係を検証するため、実施例1と比較例1とを比較した。
【表1】
【0060】
実施例1も比較例1も英式綿番手80番手による二重天竺組織とした。ゲージ数はG24とした。
【0061】
実施例1-1は、解撚率20%とし撚り係数3.1とした。実施例1-2は、解撚率30%とし撚り係数2.8とした。実施例1-3は、解撚率50%とし撚り係数2.0とした。
【0062】
比較例1-1は、撚り係数4.0(普通撚糸)とした。比較例1-2は、二重天竺組織のうち一方を撚り係数4.0(普通撚糸)とし、他方を撚り係数2.0(弱撚糸)とした。
【0063】
編地の生地質量は150g/ 以下であって、なるべく同じになる様に調整した。
【0064】
図5は、実施例1と比較例1の吸水能力比較図である。横軸は経過時間(S)であり、縦軸は吸水倍率(単位質量当たりの飽和吸水量(無次元))とする。なお、180秒経過時点での吸水倍率を飽和時吸水倍率とした。
【0065】
実施例1-1の吸水倍率は5.1であった。実施例1-2の吸水倍率は4.2であった。実施例1-3の吸水倍率は4.6であった。いずれも吸水倍率4.0以上を実現できた。
【0066】
比較例1-1の吸水倍率は4.4であった。比較例1-2の吸水倍率は5.0であった。いずれも吸水倍率4.0以上を実現できた。しかしながら、実施例1はいずれも40秒経過時点で吸水倍率4.0を超えたのに対し、比較例1-1は160秒経過時点で吸水倍率4.0を超えた。比較例1-2は60秒経過時点で吸水倍率4.0を超えた。
【0067】
実施例1と比較例1とにおいて、JIS L 1907表面吸水法によって計測される最大吸水速度(ml/s)を比較した。
【0068】
実施例1-1の吸水速度は0.13であった。実施例1-2の吸水速度は0.16であった。実施例1-3の吸水速度は0.07であった。
【0069】
比較例1-1の吸水速度は0.02であった。比較例1-2の吸水速度は0.03であった。
【0070】
ところで、本願編地は衣服に適用することを前提とする。具体的には体から出る汗を速やかに吸収し、衣服内部から取り除くことを意図している。
【0071】
したがって、吸水速度も重要な指標である。本願では、便宜的に、JIS L 1907表面吸水法によって計測される最大吸水速度(ml/s)0.05以上を実施例に含め、0.05未満を比較例に含めた。
【0072】
実施例1と比較例1との比較結果により、適切な撚り係数により、良好な吸水速度を実現できることが推測される。
【0073】
さらに、比較例1-1と比較例1-2とを比較すると、二重天竺組織のうち一方を適切な撚り係数とすることにより、吸水速度を向上できることが推測される。
【0074】
~実施例2~
本願特徴2(綿糸番手)と本願効果との関係を検証するため、実施例2と比較例2とを比較した。
【表2】
【0075】
実施例2も比較例2-1も撚り係数2.8による二重天竺組織とした。
【0076】
実施例2-1は英式綿番手80番手とした。ゲージ数はG24とした。実施例2-2は英式綿番手100番手とした。ゲージ数はG28とした。実施例2-3は綿糸番手60番手とした。ゲージ数はG22とした。なお、英式綿番手100番手超を用いた場合、糸の強度が不十分となり、製品形成が困難となるため、実施例において検証しなかった。比較例2-1は英式綿番手40番手とした。ゲージ数はG18とした。
【0077】
なお、実施例1-2と実施例2-1は実質的に同じものである。
【0078】
実施例2-1~3において編地の生地質量は150g/ 以下になる様に調整した。ただし、ゲージ数22以下だと編組織密度が粗になりすぎるため、実施例2-3はやや重くなった。また、比較例2-1の生地質量は150g/ 超となった。
【0079】
図6は、実施例2と比較例2の吸水能力比較図である。横軸は経過時間(S)であり、縦軸は吸水倍率(単位質量当たりの飽和吸水量(無次元))とする。なお、180秒経過時点での吸水倍率を飽和時吸水倍率とした。
【0080】
実施例2-1の吸水倍率は4.2であった。実施例2-2の吸水倍率は4.9であった。実施例2-3の吸水倍率は4.2であった。いずれも吸水倍率4.0以上を実現できた。
【0081】
比較例2-1の吸水倍率は3.2であった。比較例2-1は単位質量が大きく吸水量は充分であるが、単位質量が大きい分、吸水倍率は低くなる。
【0082】
実施例2と比較例2との比較結果により、適切な綿糸番手により、軽量性と吸水性とのバランスを実現できることが推測される。
【0083】
なお、実施例2おいて、JIS L 1907表面吸水法によって計測される最大吸水速度(ml/s)を確認した。実施例2-1の吸水速度は0.16であった。実施例2-2の吸水速度は0.05であった。実施例2-3の吸水速度は0.06であった。いずれも、0.05以上であった。
【0084】
本願特徴3(二重天竺)と本願効果との関係を検証するため、比較例2-1と比較例2-2を比較した。
【0085】
比較例2-1と比較例2-2とも撚り係数2.8、英式綿糸番手40番手の綿糸を用いた。
【0086】
比較例2-1は二重天竺組織であるのに対し比較例2-2は一重天竺組織である。その結果、生地質量も異なっている。
【0087】
比較例1-2の吸水倍率は3.2であった。吸水速度は0.08であった。比較例2-2の吸水倍率は2.4であった。吸水速度は0.02であった。二重天竺積層間に形成される一時的な貯水機能により、良好な吸水倍率と吸水速度を実現できることが推測される。
【0088】
~変形例~
上記実施形態も変形例に係る編地も、本願特徴1(撚り係数)、本願特徴2(綿糸番手)、本願特徴4(生地質量)、本願特徴5(吸水倍率)は共通する。
【0089】
上記実施形態は、二重天竺組織(本願特徴3-1)を備えるのに対し、変形例に係る編地はインターロック組織(本願特徴3-2)を備える。なお、インターロック組織をスムースと呼ぶこともある。
【0090】
図7はインターロック編の構成イメージ図である。天竺編では表裏で編目が異なり、表側は縦方向の編目、裏側は横方向の編目となるのに対し、インターロック編は2つのフライス編組織を合わせて表裏が同じになるようにした編み組織である。フライス編は天竺編の表面と裏面が交互に現れるように編んだ組織で、表裏対象の凹凸があるのが特徴である。
【0091】
すなわち、二重天竺組織は天竺組織が2つであるのに対し、インターロック組織は天竺組織1.5と解釈することができる。
【0092】
その結果、本願特徴3-2(インターロック組織)は本願特徴3-1(二重天竺組織)に準ずる一時貯水機能を発揮するものと推測される。
【0093】
~実施例3~
変形例においても、本願特徴1(撚り係数)と本願効果との関係を検証するため、実施例3と比較例3とを比較した。
【表3】
【0094】
実施例3も比較例3も英式綿番手100番手によるインターロック組織とした。ゲージ数はG28とした。
【0095】
実施例3-1は、解撚率20%とし撚り係数3.1とした。実施例3-2は、解撚率30%とし撚り係数2.8とした。実施例3-3は、解撚率50%とし撚り係数2.0とした。比較例3は、撚り係数4.0(撚糸)とした。
【0096】
編地の生地質量は150g/ 以下であって、なるべく同じになる様に調整した。
【0097】
図8は、実施例3と比較例3の吸水能力比較図である。横軸は経過時間(S)であり、縦軸は吸水倍率(単位質量当たりの飽和吸水量(無次元))とする。なお、180秒経過時点での吸水倍率を飽和時吸水倍率とした。
【0098】
実施例3-1の吸水倍率は4.5であった。実施例3-2の吸水倍率は4.6であった。実施例3-3の吸水倍率は4.8であった。いずれも吸水倍率4.0以上を実現できた。比較例3の吸水倍率は4.7であった。
【0099】
実施例3と比較例3との比較において吸水倍率に大きな違いは見られなかった。しかしながら、実施例3はいずれも20~25秒経過時点で吸水倍率4.0を超えたのに対し、比較例3は70秒経過時点で吸水倍率4.0を超えた。
【0100】
実施例3と比較例3とにおいて、JIS L 1907表面吸水法によって計測される最大吸水速度(ml/s)を比較した。
【0101】
実施例3-1の吸水速度は0.19であった。実施例3-2の吸水速度は0.09であった。実施例3-3の吸水速度は0.11であった。比較例3の吸水速度は0.04であった。すなわち、実施例3は吸水速度0.05以上となり、比較例3は0.05未満となった。
【0102】
実施例3と比較例3との比較結果により、適切な撚り係数により、良好な吸水速度を実現できることが推測される。
【0103】
~参考例~
参考例は大手衣服メーカーから市販されている製品である。吸水性と速乾性に優れ、体から出る汗を速やかに吸収し、衣服内部から取り除くことを謳っている。製品から可能な限り諸元を調べた。
【0104】
参考例1は、綿糸とポリエステル糸から形成された1重天竺である。生地質量は182g/ である。なお、当該編地は綿の混用率が70%程度であり、本願では綿編地として扱わない。参考例2は、ポリエステル糸とポリウレタン糸から形成された1重天竺である。生地質量は103g/ である。
【0105】
図9は、参考例の吸水能力図である。横軸は経過時間(S)であり、縦軸は吸水倍率(単位質量当たりの飽和吸水量(無次元))とする。なお、180秒経過時点での吸水倍率を飽和時吸水倍率とした。
【0106】
参考例1の吸水倍率は2.0であった。参考例2の吸水倍率は2.6であった。いずれも吸水倍率4.0未満であった。
【0107】
参考例1の吸水速度は0.10であった。参考例2の吸水速度は0.09であった。
【0108】
本願実施例1~3と参考例とを比較すると、吸水速度は同程度であるものの、吸水倍率に顕著な差がある。
【0109】
すなわち、本願製品も参考例製品も、体から出る汗を速やかに吸収し、衣服内部から取り除く機能は類似するが、汗の量が多くなると、参考例製品では当該機能が低下するのに対し、本願製品では汗の量が多くても当該機能は維持されるものと推測される。
【0110】
素材としての綿糸の優位性が推測できる。また、化学繊維を主成分とする参考例では弱撚糸という発想は起きにくい。
【0111】
~衣服内環境~
本願編地は衣服に適用することを前提とする。体から出る汗を速やかに吸収し、衣服内部から取り除くことを意図する。着衣者は汗によるべたつきや蒸れを感じず、爽快な着心地を維持できる。
【0112】
本願実施例1(二重天竺)(具体的には実施例1-2)、本願実施例3(インターロック)(具体的には実施例3-2)、比較例2(綿撚糸天竺)(具体的には比較例2-2)、参考例(市販製品)(具体的には参考例2)で製編された衣服に対し、衣服内環境の変化を比較した。
【0113】
衣服内環境測定システムは筐体内での水蒸気を制御することにより衣服内環境(温度・湿度)を再現できる。
【0114】
15分間平常状態を再現した後、100ml/m2/hの水蒸気を供給することで発汗状態を再現し、発汗状態を45分間継続した。
【0115】
図10は衣服内環境試験における湿度変化図である。図11は衣服内環境試験における温度変化図である。
【0116】
平常状態においては、本願実施例1、本願実施例3、比較例2、参考例とも、湿度50%程度で安定している。また温度も28.0~28.5度で安定している。
【0117】
発汗状態においては、本願実施例1、本願実施例3、比較例2、参考例とも湿度は単調増加している。詳細をみると、本願実施例1では湿度75%付近で均衡し、本願実施例3では湿度80%付近で均衡しているのに対し、比較例2、参考例とも湿度90%に近づいても単調増加を続けている。
【0118】
本願実施例1、本願実施例3が水分を吸収し衣服外に水分を排出している機能を有することを示唆するのに対し、比較例2、参考例の当該機能は不十分であることを示唆する。
【0119】
湿度上昇に伴い、本願実施例1、本願実施例3、比較例2、参考例とも温度も上昇している。詳細をみると、本願実施例1や本願実施例3では温度上昇幅が少なく、比較的早く温度低下が始まり平常状態に戻る。すなわち、衣服内環境が安定している。これに対し、比較例2や参考例では温度上昇幅が多く、温度低下が始まるのも遅く平常状態に戻るのも遅い。
【0120】
衣服内環境試験の結果は、本願実施例1や本願実施例3は汗によるべたつきや蒸れを抑制し、爽快な着心地を維持できることを示唆している。これに対し、比較例2や参考例は当該機能が不十分であることを示唆している。
【0121】
本願実施例1、本願実施例3、比較例2、参考例において他の諸元についても比較した。本願実施例1、本願実施例3は比較例2、参考例に比べ、軽量性(生地重量)、通気性、保温性においても優れていた。
【0122】
また、基本構成の違いから、本願実施例1(生地厚10.0mm)、本願実施例3(生地厚8.2mm)は比較例2(生地厚7.4mm)、参考例(生地厚5.8mm)に比べ、生地厚が厚くなった。本願編地は厚み7.5mm以上であると好ましい。
【0123】
~まとめ~
本願編地は、軽量性、通気性、保温性に優れ、衣服生地に好適である。
【0124】
本願編地は、吸水倍率に優れる。言い換えると、軽量性を維持しながらも吸水性に優れている。さらに、吸水速度に優れている。
【0125】
その結果、本願衣服は、体から出る汗を速やかに吸収し、衣服内部から取り除くことができる。着衣者は汗によるべたつきや蒸れを感じず、爽快な着心地を維持できる。
【要約】
【要約】
従来品と比較して、特に軽量性と吸水性に優れた編地を提供する。本願編地は綿糸により形成される。前記綿糸の撚り係数は2.0以上3.4以下である(特徴1)。前記綿糸の英式綿番手の60番手から100番手(単糸相当)である(特徴2)。前記編地は2層以上の天竺組織から形成される(特徴3)。前記編地の生地質量は150g/ 以下である(特徴4)。前記編地の飽和吸水量は前記生地質量の4倍以上である(特徴5)。本願編地は衣服生地に好適である。
【選択図】図1
図1
図2
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図5
図6
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図8
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図10
図11