(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20241225BHJP
B01L 7/00 20060101ALI20241225BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20241225BHJP
【FI】
G01N35/00 B
B01L7/00
C12M1/34 B
(21)【出願番号】P 2020183209
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】多田 賢弘
(72)【発明者】
【氏名】口田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】沢田 利春
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-185389(JP,A)
【文献】実開昭60-048155(JP,U)
【文献】特開2005-274241(JP,A)
【文献】特開平08-160050(JP,A)
【文献】特開平09-250997(JP,A)
【文献】特表2011-522240(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063647(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/049110(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 1/00-99/00
C12M 1/00- 3/10
G01N35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査液を収容する収容部が形成された検査容器を、共通の円周上に配置された複数の温度調節部に、順次移動させて接触させるようにした検査装置において、
上記複数の温度調節部が配置された円周の中心で回転する回転軸と、当該回転軸によって回転されて上記検査容器を支持して上記複数の温度調節部に移動させる回転支持体と、上記回転支持体を上記回転軸に対して軸方向に移動させる軸方向移動手段とを備え、
上記回転支持体は、上記検査容器の底部を上記温度調節部に接触させるように検査容器の端部を支持するようになっており、
上記検査容器を上記温度調節部に位置させる際には、上記軸方向移動手段によって上記回転支持体を上記検査容器が上記温度調節部に接触する接触位置に位置させ、上記検査容器を上記温度調節部から移動させる際には、上記軸方向移動手段によって上記回転支持体を上記検査容器が上記温度調節部から離隔する離隔位置に位置させることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
上記検査容器を上記回転支持体に付勢するとともに、上記回転支持体を上記離隔位置から接触位置に向かう方向に付勢する付勢手段を設け、
上記軸方向移動手段によって上記回転支持体が上記接触位置に位置した際には、上記付勢手段によって上記検査容器が回転支持体に付勢された状態で上記温度調節部に押し付けられ、上記検査容器を上記温度調節部から移動させる際は、上記軸方向移動手段は上記検査容器が回転支持体に付勢された状態で、上記付勢手段の付勢力に抗して上記回転支持体を上記離隔位置に位置させることを特徴とする
請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
上記回転支持体は略円盤状に形成されるとともに外周部に形成した切欠き部に上記検査容器を支持し、
上記軸方向移動手段は、上記回転支持体に上記回転軸を囲繞して設けたリング状のカムを備え、上記回転支持体の回転に伴う上記カムの作用によって、上記回転支持体を上記接触位置と離隔位置とに移動させることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検査装置に関し、詳しくは被検査液を収容する収容部が形成された検査容器を、共通の円周上に配置された複数の温度調節部に、順次移動させて接触させるようにした検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウイルス感染症の検査方法として、鼻咽頭ぬぐい液、喀痰、唾液等の検体(生体試料)から抽出した核酸分子の配列情報を解析する遺伝子解析が行われており、その際に上記検体を含んだ被検査液に含まれる核酸分子に熱変性、ハイブリダイゼーション、伸長の各反応を順次生じさせて核酸分子の増幅を行う、PCR(Polymerase Chain Reaction)が用いられている。
上記熱変性、ハイブリダイゼーション、伸長の各反応を生じさせるためには、上記核酸分子を含む被検査液を上記各反応が生じる所要の温度に調節する必要があり、また検査に必要な量の増幅産物を得るためには、上記反応を数十サイクル繰り返す必要がある。
このような温度調節部を備えた検査装置として、被検査液を収容する収容部が形成された検査容器を、共通の円周上に配置された複数の温度調節部に、順次移動させて接触させるようにした検査装置が知られている(特許文献1)。
この特許文献1では、上記検査容器は円盤状を有しており、当該検査容器を回転させるモータを備えている。そして特許文献1では、上記モータごと上記検査容器を当該モータの回転軸の軸方向に移動させることで、上記円盤状の検査容器の被検査液を収容した収容部を温度調節部に接触させ、検査容器を回転させる際には、当該検査容器をモータごと回転軸の軸方向に移動させて温度調節部から離隔させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1の検査装置では、上記検査容器の軸方向への移動を上記モータごと移動させることで行っているが、モータを移動させると回転軸の位置がずれたり傾いてしまう危険性があり、上記検査容器の収容部を温度調節部に適正に接触させることができなくなるという問題があるため実用的ではなかった。
このような問題に鑑み、本発明は検査容器を安定して移動させて温度調節部にずれや傾きがなく適正に接触させることが可能な検査装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかる検査装置は、被検査液を収容する収容部が形成された検査容器を、共通の円周上に配置された複数の温度調節部に、順次移動させて接触させるようにした検査装置において、
上記複数の温度調節部が配置された円周の中心で回転する回転軸と、当該回転軸によって回転されて上記検査容器を支持して上記複数の温度調節部に移動させる回転支持体と、上記回転支持体を上記回転軸に対して軸方向に移動させる軸方向移動手段とを備え、
上記回転支持体は、上記検査容器の底部を上記温度調節部に接触させるように検査容器の端部を支持するようになっており、
上記検査容器を上記温度調節部に位置させる際には、上記軸方向移動手段によって上記回転支持体を上記検査容器が上記温度調節部に接触する接触位置に位置させ、上記検査容器を上記温度調節部から移動させる際には、上記軸方向移動手段によって上記回転支持体を上記検査容器が上記温度調節部から離隔する離隔位置に位置させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明における検査装置は、複数の温度調節部が配置された円周の中心で回転する回転軸と、当該回転軸によって回転されて上記検査容器を支持して上記複数の温度調節部に移動させる回転支持体と、上記回転支持体を上記回転軸に対して軸方向に移動させる軸方向移動手段を備えており、上記軸方向移動手段によって上記回転支持体を上記回転軸に対して軸方向に移動させて、上記検査容器が温度調節部に接触する接触位置と、上記検査容器が温度調節部から離隔する離隔位置とに位置させるようになっている。
つまり上記軸方向移動手段により、上記回転支持体を上記回転軸に対して軸方向に移動させるため、上記検査容器を安定して移動させて温度調節部に適正に接触させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】検査テーブルおよび各ステーションを説明する平面図
【
図8】回転支持体が接触位置にある場合のPCR検査装置の断面図
【
図9】回転支持体が離隔位置にある場合のPCR検査装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、
図1はPCR検査装置1の断面図を示し、患者より採取した検体に対していわゆるPCR(Polymerase Chain Reaction)検査を行うことで、患者がウイルスに感染しているか否かを判定する装置となっている。
PCR検査の内容は従来公知であるため詳細な説明については省略するが、患者から採取した鼻咽頭ぬぐい液、喀痰、唾液等の検体(生体試料)から抽出した核酸分子を増幅させて配列情報を解析し、患者がウイルスに感染しているか否かを検査するものであり、本実施例に係るPCR検査装置1は、増幅産物をリアルタイムにモニタリングするリアルタイムPCR法によるものである。
PCRにより核酸分子を増幅させるためには、核酸分子に対して熱変性、ハイブリダイゼーション、伸長の各反応を連続的に生じさせる必要があり、そのためには被検査液を各反応ごとに異なる温度に連続的に調節する操作を行う必要がある。
そして上記PCR操作により、解析に必要な量の増幅産物が得られたら、当該被検査液に対して特定の波長の励起光を照射し、発光される蛍光を検出することで、リアルタイムに解析を行いウイルスの感染を特定することができる。
特に本実施例のPCR検査装置1は、異なる蛍光反応を検出することにより、インフルエンザA型およびB型、ならびにコロナウイルス(SARS-CoV-2)を同時に検出することが可能な、いわゆるマルチプレックスPCR検査装置となっている。
【0009】
そして本実施例のPCR検査装置1を用いてPCR検査を行うためには、最初に患者から採取した鼻咽頭ぬぐい液、喀痰、唾液等の検体を含んだ被検査液を検査容器2に収容させ、これを上記PCR検査装置1にセットする。
上記PCR検査装置1は、上方が開放された有底箱状のハウジング3と、当該ハウジング3の上部にヒンジを介して開閉可能に設けられた蓋部4と、上記ハウジング3の上方開放部分を塞ぐように設けられた検査テーブル5と、上記検査容器2を上記検査テーブル5の上方で移動させる移動手段6と、上述した各反応を生じさせる複数の温度調節手段7と、蛍光検出を行う蛍光検出手段8とを備え、これらはハウジング3の内部に設けられた制御手段9によって制御されるようになっている。
このように、本実施例のPCR検査装置1はコンパクトに構成され、クリニックなどの小規模な医療機関においても扱いやすいものとなっている。
本実施例において移動手段6は、上記検査容器2を円周方向に移動させるようになっており、
図2に示すように上記検査テーブル5上の共通の円周上に配置したS1~S4として示す各ステーションに移動させるようになっている。
本実施例では、
図2の図示上方から時計回りに、熱変性を生じさせる加熱ステーションS1、ハイブリダイゼーションを生じさせるアニーリングステーションS2、伸長反応を生じさせる昇温ステーションS3、上記蛍光検出を行う検査ステーションS4が設定されており、このうち調温ステーションS1~S3が複数の温度調節部として構成されている。
【0010】
次に、上記検査容器2について説明すると、
図3は上記検査容器2の平面図を、
図4は
図3における検査容器2のIV-IV部の拡大断面図を、
図5は検査容器2の使用方法を説明する図を示している。
上記検査容器2は、内部に被検査液を収容する収容部11が複数(本実施例では8つ)形成されたものとなっており、各収容部11には異なる患者から採取した生体試料を含む被検査液を収容することが可能となっている。
上記検査容器2は上記移動手段6によって上記各ステーションS1~S4を円周状の経路で移動するようになっており、このため検査容器2は平面視において細長い湾曲形状を有し、上記収容部11は当該湾曲形状に沿って一列に整列した状態で形成されたものとなっている。
【0011】
図4に示すように、検査容器2は内部に上記収容部11が形成された本体部12と、当該本体部12の裏面に固着された樹脂製の透明シート13と、上記本体部12の表面に貼付されたカバーフィルム14とから構成されている。
上記本体部12は硬質な樹脂によって形成され、内部に形成された収容部11が視認できる程度に透明である。また本体部12は平面視において湾曲した形状を有しており、その長辺をなす外周側の円弧形状は、上記移動手段6を構成する回転支持体21の外周円に合わせた形状となっている(
図7参照)。
また、検査容器2の移動方向前後となる本体部12の両端には、検査容器2を上記回転支持体21に支持させるための支持片15が設けられており、当該支持片15は
図5に示すように上記本体部12に対して上方に偏倚した位置に設けられ、当該支持片15が回転支持体21によって下方から支持されることで、検査容器2が支持されるようになっている。
また上記支持片15にはそれぞれ回転支持体21に対する位置決めのために係合穴15aが形成されており、一方の支持片15の係合穴15aは製造上の寸法誤差を吸収するために長孔となっている。
【0012】
図4において、上記本体部12の裏面側には上記収容部11を構成する凹部が形成され、当該本体部12の裏側全体を上記透明シート13によって覆うことで、上記凹部が閉鎖されて収容部11が形成されている。
また上記収容部11には平面視で略円形の検査領域11aが形成されており、当該検査領域11aに微量の被検査液が収容されるようになっている。
また各検査領域11aからは検査容器2を支持する回転支持体21の半径方向前後に上下通路を形成する突出部11bが形成され、本体部12の表面には各突出部11bに連通する注入口16および排出口17が開口している。
上記注入口16からはマイクロピペットを用いて微量の被検査液を注入するようになっており、排出口17からは検査領域11aに流入した被検査液によって押し出される空気を排出するようになっている。
なお上記注入口16および排出口17は同形状を有しており、いずれか一方を注入口16として用いればよく、またマイクロピペットによる注入を容易にするため、注入口16および排出口17の開口部にはテーパ面が形成されている。
そして本実施例のように、検査容器2の裏側を透明シート13によって覆い、また注入口16および排出口17を検査領域11aの両端部の突出部11bに連通させたことで、上記検査ステーションS4において検査容器2の裏側から上記検査領域11aに励起光を照射し、被検査液で発光する蛍光を検査容器2の裏側で受光することができる。
【0013】
上記カバーフィルム14は、上記収容部11に収容された被検査液の漏出と、加熱による被検査液の蒸発を防止するために設けられ、被検査液上記本体部12の表面のほぼ全面を覆うものとなっている。
上記カバーフィルム14には接着面が形成されており、医療従事者が上記収容部11に被検査液を注入した後で、当該カバーフィルム14を本体部12の表面に貼付して、注入口16および排出口17を密閉するようになっている。
【0014】
続いて、上記PCR検査装置1の各部について説明する。
図1に示すように上記ハウジング3の前面には上記制御手段9に接続されたタッチパネル3aが設けられており、PCR検査装置1の動作状態を確認するとともに所要の操作を行うことが可能となっている。
上記蓋部4はハウジング3の正面側に対するPCR検査装置1の背面側に、ヒンジを介して支持されており、上記ハウジング3の上部を開閉するとともに開放された際にはハウジング3の正面側を開放させるようになっている。
そしてPCR検査を行う際には、上記蓋部4は閉鎖され、さらに蓋部4の内側に設けられた後述する内蓋22が、上記移動手段6の回転支持体21および支持されている検査容器2に当接するようになっている。
【0015】
上記検査テーブル5は、上記ハウジング3の上方開放部分を覆うように設けられた板状の部材となっており、
図2に示すように中央部には開口部5aが形成されて、検査テーブル5の上方に位置する回転支持体21に、ハウジング3内に配置した駆動手段23の回転軸23aを連結させて駆動を伝達できるようになっている。
そして、上記中央部の開口部5aを囲繞するように、PCRを行うための調温ステーションとして、熱変性を生じさせる加熱ステーションS1と、ハイブリダイゼーションを生じさせるアニーリングステーションS2と、伸長反応を生じさせる昇温ステーションS3とが配置されており、さらに、加熱ステーションS1と昇温ステーションS3との間に蛍光検出を行う検査ステーションS4が、上記回転軸23aを中心とする共通の円周上に配置されている。
本実施例においては、上記検査ステーションS4がハウジング3の正面に位置するようになっている。
【0016】
次に、
図6を用いて上記移動手段6について説明する。移動手段6は上記検査テーブル5の下側に固定された駆動手段23と、検査テーブル5の上方で回転可能に設けられた略円盤状の回転支持体21とを備え、上記回転支持体21は上記駆動手段23の回転軸23aに対して軸方向に進退動可能に設けられている。そして、上記回転支持体21を上記駆動手段23の回転軸23aに対して軸方向に進退動させる軸方向移動手段24を備えている。
上記駆動手段23にはサーボモータやステッピングモータ等が使用され、上記制御手段9の制御によって回転支持体21を回転させて、回転支持体21に支持された検査容器2を所要の調温ステーションS1~S3に位置させることが可能となっている。
上記回転支持体21は、
図7に示すように略円盤状を有しており、中心部には上記駆動手段23の回転軸23aと結合する結合部材としてボス21aが設けられている。また外周部には、上記検査容器2を支持するため環状平板部21bが形成されている。
また回転支持体21の裏面には下方に突出するように形成された環状のリブ21cが設けられており、これに対し上記検査テーブル5には原点検出手段25が設けられている。
この原点検出手段25は上記回転支持体21のリブ21cに形成された原点位置を示すマーカを検出し、これに基づいて回転支持体21に支持された検査容器2の回転方向の移動位置を認識し、検査容器2を正確に上記調温ステーションS1~S3に停止させることが可能となっている。
【0017】
回転支持体21の外周に形成された上記環状平板部21bは、上記検査容器2の長手方向に対する幅方向とほぼ同じ寸法の幅を有する平坦面によって形成されている。上記回転支持体21は、検査容器2を支持するために外周部に切欠き部21gが形成されており、上記環状平板部21bは分断されて、当該分断箇所に上記当該検査容器2の本体部12が収容されるようになっている。
上記環状平板部21bに検査容器2が収容されると環状が形成され、環状平板部21bの外周縁の円弧形状は、上記検査容器2の外周側の円弧形状と滑らかに連続するようになっており、支持された検査容器2と回転支持体21とによって円盤形状が得られるようになっている。
さらに上記環状平板部21bの上記支持片15を支持する分断された両端部には、上記検査容器2の支持片15に形成された係合穴15aに係合する支持ピン21dが立設されており、医療従事者は検査容器2の係合穴15aを回転支持体21の支持ピン21dに係合させることで、検査容器2の両端部を回転支持体21に支持させて被検査液を収容した検査容器2をPCR検査装置1にセットすることが可能となっている。
そして、上記回転支持体21に支持された検査容器2の本体部12の上面は、上記環状平板部21bの上面よりも上方に位置するとともに、本体部12の下面も環状平板部21bの下面よりも下方に位置するよう、互いの厚さが設定されており、検査容器2の底部を上記各調温ステーションS1~S3に確実に接触させるようになっている。
また、環状平板部21bには、上記検査容器2の本体部12を収容する分断箇所に対して上記ボス21aを挟んだ対向位置に、回転支持体21に支持された検査容器2の上面と同じ高さとなるように形成された当接部21eが設けられている。
なお、上記回転支持体21の形状は円盤状に限らず、上記回転軸23aにより回転されて検査容器2を回転移動させるように支持するとともに、上記回転軸23aに対して軸方向に進退動可能な構成を有していれば、扇状やX形状等、その他の形状とすることが可能である。
【0018】
上記軸方向移動手段24について説明すると、上記駆動手段23の回転軸23aと上記回転支持体21のボス21aとはスプライン結合によって連結され、回転軸23aの回転を上記回転支持体21に伝達するとともに、回転軸23aに対して回転支持体21の軸方向への移動を許容するものとなっている。
図6に示すように、上記回転支持体21の下面には下方に向けて突出させてリング状のカム21fが形成されており、上記検査テーブル5の開口部5aはこのカム21fと干渉しないように形成されている。そして上記検査テーブル5の裏面には、上記開口部5aの内側に位置するようにカムフォロア26が固定されている。
上記カム21fは上記カムフォロア26に対して上方から当接し、上記回転支持体21のボス21aと回転軸23aとを係合させると、回転支持体21は上記カムフォロア26に下方から支持された状態となる。
そして、当該回転支持体21は、カム21fの変化する突出量に応じて上記回転軸23aに対して軸方向に移動し、検査テーブル5に対して昇降するようになっており、本実施例においては、これらカム21fおよびカムフォロア26によって軸方向移動手段24が構成されている。
【0019】
上記検査容器2が上記加熱ステーションS1、アニーリングステーションS2、昇温ステーションS3に位置する際には、回転支持体21はカムフォロア26に当接するカム21fの突出量の減少に従って下降し、
図8に示すように接触位置に位置するようになっている。
このとき、上記回転支持体21に支持された検査容器2は、後述するように上記蓋部4の内側に設けた内蓋22によって上方から押圧され、これにより上記各調温ステーションS1~S3に停止すると、上記検査容器2は各調温ステーションS1~S3に設けられた温度調節手段7の調温ブロック32に押圧されるようになっている。
一方、上記検査容器2が上記各調温ステーションS1~S3以外の位置、すなわち上記検査ステーションS4を含むその他の位置を移動する際には、回転支持体21はカムフォロア26に当接するカム21fの突出量の増大に従って上昇しており、回転支持体21は
図9に示すように離隔位置に位置し、上記検査容器2および回転支持体21の下面を、検査テーブル5や調温ブロック32の表面から離隔させて接触させないようにしている。
このように、検査容器2が各調温ステーションS1~S3に位置する際に回転支持体21を接触位置に位置させることで、検査容器2の底部を調温ブロック32に押圧させることができ、検査容器2の下面を確実に調温ブロック32に接触させて、正確かつ迅速な被検査液の温度調節を行うことが可能となっている。
一方、それ以外の位置では回転支持体21を離隔位置に位置させることで、検査容器2の下面が検査テーブル5に接触せず、検査容器2の底部を構成する透明シート13の表面が傷つかないようになっており、検査ステーションS4における励起光の照射や蛍光の検出を阻害することを防止している。
【0020】
そして、上記検査容器2を押圧する上記蓋部4の内側に設けた内蓋22は円盤状に形成されており、上記蓋部4の略中央に設けられた支持軸4aに対して回転可能に軸支されている。
上記支持軸4aは蓋部4が閉鎖されると上記駆動手段23の回転軸23aと同軸上に位置するように設けられ、蓋部4を閉鎖した状態では、内蓋22が回転支持体21および検査容器2を押圧し、回転支持体21および検査容器2と内蓋22とが、同一中心で一体的に回転するようになっている。
また上記内蓋22は上記支持軸4aに対して軸方向に移動可能に吊り下げられるように支持され、上記内蓋22と蓋部4との間にはバネ27が弾装されている。
これにより内蓋22は蓋部4から離れる方向に付勢され、蓋部4を閉じた状態では回転支持体21を下方の検査テーブル5に向けて押圧するとともに、蓋部4に接近する方向への負荷を吸収するようになっている。
【0021】
図1に示すように、内蓋22の外周縁下面には環状の外側当接部22aおよび内側当接部22bが形成され、蓋部4が閉鎖されると、上記回転支持体21に支持された検査容器2および回転支持体21に形成された当接部21eに対して、上方から当接するようになっている。
つまり、蓋部4が閉鎖された状態では、回転支持体21に支持された検査容器2および対向した位置に設けられた上記当接部21eに、上記外側当接部22aおよび内側当接部22bが当接することで、内蓋22によってバランスよく回転支持体21および上記当接部21eを押圧することが可能となっている。
ここで、上記外側当接部22aと内側当接部22bとの間隔は、検査容器2の前後両端に設けた上記支持片15の幅よりも若干広く設定されており、外側当接部22aおよび内側当接部22bが検査容器2の上面に当接すると、これら外側当接部22aと内側当接部22bの間に上記支持片15が位置するようになっている。
さらに、上記検査容器2の収容部11に設定された検査領域11aも、外側当接部22aと内側当接部22bとの間に位置するようになっており、加熱により収容部11内の雰囲気が膨張し、検査領域11aを覆うカバーフィルム14が膨張しても、これを許容するようになっている。
【0022】
そして上記回転支持体21が上記カム21fによって
図8に示す接触位置に位置する際には、上記バネ27の付勢力により上記内蓋22が回転支持体21に支持された検査容器2を、両端部の支持片15を介して回転支持体21に付勢するとともに、検査テーブル5に設けられた各調温ステーションS1~S3の調温ブロック32に押し付けるようになっている。
これに対し、上記回転支持体21が上記カム21fによって
図9に示す離隔位置に位置する際には、上記軸方向移動手段24によって上記バネ27の付勢力に抗して回転支持体21が上昇することにより、上記内蓋22が検査容器2を押圧して回転支持体21に付勢した状態のまま、調温ブロック32や検査テーブル5から離隔させるようになっている。
これにより、検査容器2は常に内蓋22に押圧された状態にあるため、移動時に回転支持体21より浮き上がって支持ピン21dから外れることがなく、安定した状態で移動させることができる。
【0023】
次に、上記加熱ステーションS1、アニーリングステーションS2、昇温ステーションS3に設けた温度調節手段7について説明する。ここでは
図6を用いてアニーリングステーションS2の温度調節手段7について説明するが、加熱ステーションS1および昇温ステーションS3の温度調節手段7についても、基本的に同様の構成を有している。
温度調節手段7は、上面が上記検査テーブル5の上面から突出するように設けられた調温ブロック32と、上面が調温ブロック32に接触して調温ブロック32の温度を調節する熱電素子としてのペルチェ素子31と、調温ブロック32上記ペルチェ素子31の下面に接触して設けられたヒートシンク33と、上記調温ブロック32の温度を測定する温度測定手段34とから構成されている。
上記調温ブロック32は、比較的熱伝導率の高いアルミニウムで製作されている。また、上記ペルチェ素子31は従来公知であるため詳細な説明については省略するが、制御手段9によって印可された電流により、接触している一方の面の調温ブロック32を加熱し、逆に他方の面に接触しているヒートシンク33から吸熱するようになっている。
【0024】
ここで、本実施例の上記加熱ステーションS1および昇温ステーションS3を構成する温度調節手段7は、
図2に示すように4つの調温ブロック32を備えており、各調温ブロック32のそれぞれに上記ペルチェ素子31およびヒートシンク33が設けられている。
上記4つの調温ブロック32は上記回転支持体21の回転方向に移動する検査容器2の円周方向の移動経路に沿って配置され、上記検査容器2が上記加熱ステーションS1および昇温ステーションS3に停止する際に、上記検査容器2に形成された8つの収容部11は、それぞれ2つの収容部11にひとつの調温ブロック32が対応して当接するようになっている。
つまり加熱ステーションS1および昇温ステーションS3では、一組のペルチェ素子31と調温ブロック32とヒートシンク33、温度測定手段34とから構成される温度調節手段7によって、2つの収容部11に収容された被検査液の温度を調節するようになっている。
【0025】
これに対し、本実施例において上記アニーリングステーションS2を構成する温度調節手段7は、
図2に示すように8つの調温ブロック32を備えており、各調温ブロック32に対しそれぞれ上記ペルチェ素子31およびヒートシンク33、温度測定手段34が設けられている。
これにより、上記検査容器2が上記アニーリングステーションS2に停止する際には、上記検査容器2に形成された8つの収容部11は、それぞれがひとつの調温ブロック32に当接するようになっている。
つまりアニーリングステーションS2においては、各収容部11ごとに一組のペルチェ素子31と調温ブロック32とヒートシンク33と温度測定手段34とからなる温度調節手段7が対応して、1つの収容部11の被検査液の温度を個別に調節することが可能となっている。
【0026】
上記温度測定手段34は上記調温ブロック32の温度、すなわち検査容器2に接触する部分の温度を測定するようになっており、測定した温度は制御手段9に送信され、温度制御手段としての制御手段9は、この温度の測定結果に基づいて、上記ペルチェ素子31へのフィードバック制御を行い、各調温ブロック32を所定の温度に維持するようになっている。
そして本実施例においては、上記加熱ステーションS1および昇温ステーションS3では温度測定手段34として熱電対を用い、これに対し上記アニーリングステーションS2では温度測定手段34として白金測温体を用いている。
これら熱電対や白金測温体は、上記検査テーブル5に挿し込まれた状態で上記調温ブロック32に接触するように設けられている。
そして、アニーリングステーションS2に設けた上記白金測温体は上記熱電対よりも細かい温度測定が可能となっており、これにより上記ペルチェ素子31によるより細かな温度制御をすることが可能となっている。
つまりアニーリングステーションS2では、検査容器2の個々の収容部11に対応するように、一対一の関係で温度調節手段7を設けることで、全ての収容部11を個別に温度調節することができ、さらに上記温度測定手段34として白金測温体を用いたことで緻密な温度調節を可能としたものとなっており、ハイブリダイゼーションを行うために重要なプライマーに依存するアニーリング温度に正確に調節することができる。
【0027】
上記検査ステーションS4には、
図2に示すように、上記検査テーブル5における上記検査容器2の移動経路に沿って、各調温ステーションS1~S3と共通の円周上に3つの貫通穴5bが設けられ、これら3つの貫通穴5bの上方を検査容器2に円弧状に整列した収容部11が通過するようになっている。
それぞれの貫通穴5bには、
図6に示すような蛍光検出手段8が設けられており、当該蛍光検出手段8は、それぞれ貫通穴5bの下方に設けられて励起光を水平方向に照射する発光素子35と、照射された励起光を上方に反射させて上記貫通穴5bを通過させるダイクロックミラー36と、励起光が照射されることで上記検査容器2の収容部11に収容された被検査液から発光される蛍光を、上記ダイクロックミラー36を通して受光する受光素子37とを備えている。
上述したように、上記検査容器2は上記検査ステーションS4で停止せずに通過するようになっており、また検査ステーションS4では上記回転支持体21は上記カム21fによって離隔位置に位置しており、検査容器2は検査テーブル5と接触せずに移動するようになっている。
そして上記検査容器2は、上記収容部11が上記3つの貫通穴5bを順次通過する間に、上記発光素子35が照射する励起光を収容部11の検査領域11aに受け、励起光により被検査液に含まれる増幅産物が反応して励起光の波長に応じた蛍光を発光すると、その蛍光がダイクロックミラー36を通過して受光素子37に受光されるようになっている。
なお本実施例では、検査ステーションS4を通過する検査容器2の全ての収容部11に対し、検査容器2が通過するたびに励起光を照射して蛍光を受光するようになっている。
【0028】
3つの貫通穴5bに対応して設けられた各蛍光検出手段8を構成する発光素子35および受光素子37は、それぞれ異なる単一波長の蛍光を透過させる光学フィルタ35aおよび光学フィルタ37aを備えている。
これにより、上記3つの貫通穴5bの上方を通過する検査容器2のひとつの収容部11に対し、3つの貫通穴5bのそれぞれから上記発光素子35が異なる波長の励起光が照射されることとなり、また受光素子37は各々の波長の励起光に反応して発光される、励起光よりも長い波長の可視光線を受光することとなる。
具体的に本実施例においては、インフルエンザA型を検出するために蛍光色素としてCy5を、インフルエンザB型を検出するために蛍光色素としてROXを、またコロナウイルス(SARS-CoV-2)を検出するための蛍光色素としてFAMを、それぞれ含んだ反応液を使用するようになっている。
制御手段9では、各受光素子37による可視光線の受光によって蛍光反応の有無を判定し、3つのうちのどの受光素子37が受光するかによって、どのウイルスが存在しているかを判定するようになっている。
このように、各受光素子37による受光の有無から、目的のウイルスの存在を判定するようになっており、このような構成により、本実施例のPCR検査装置1は複数のウイルスを検出可能なマルチプレックスPCR検査を可能としている。
【0029】
上記構成を有するPCR検査装置1の動作について説明する。
まず、医療従事者は患者から採取した鼻咽頭ぬぐい液、喀痰、唾液等の検体と、所要の反応液とを混合して被検査液を調製し、当該被検査液をマイクロピペットを用いて、上記検査容器2の表面の注入口16より注入する。なお本実施例では一度に8人分の検査を同時に行うことが可能であるが、全ての収容部11に被検査液を注入する必要はない。
このようにして検査容器2の各収容部11に被検査液を注入したら、
図5に示すようにカバーフィルム14を本体部12の上面に貼付し、注入口16および排出口17を閉鎖する。
続いて、医療従事者が電源を投入して蓋部4を開放し、上記検査容器2を上記PCR検査装置1にセットする。電源が投入されると、制御手段9を構成するCPUが起動し、各調温ステーションS1~S3を予備昇温させる。
上記検査容器2をセットする際は、医療従事者は、上記検査容器2の支持片15の係合穴15aを、上記回転支持体21に形成された支持ピン21dに係合させて、検査容器2の端部を回転支持体21に支持させる。
また、蓋部4を開放すると、回転支持体21における検査容器2を支持するための切欠き部21gが、常にタッチパネル3aが配置されたPCR検査装置1の正面側に位置するように、上記制御手段9により停止位置が制御されている。
また本実施例では、正面側に検査ステーションS4が位置しており、右側面側に加温ステーションS1、左側面側に昇温ステーションS3、背面側にアニーリングステーションS2がそれぞれ配置されており、検査終了時には上記検査ステーションS4に検査容器2を位置させて回転支持体21が停止されるようになっている。
検査容器2を回転支持体21に支持させた後、医療従事者が蓋部4を閉鎖することで、内蓋22が上方から回転支持体21に支持された検査容器2および環状平板部21bの当接部21eに当接し、これらを上方から付勢するようになっている。
【0030】
蓋部4が閉鎖されると、制御手段9は最初に上記移動手段6の駆動手段23を作動させて回転支持体21を時計回りに数周回転させ、検査ステーションS4において検査容器2に励起光を照射する。
これにより、3つのうちの何れかの蛍光検出手段8を使用して、貫通穴5b上を通過する収容部11に順次発光素子35から励起光を照射し、受光素子37が検出する受光強度の差から、被検査液の入った収容部11と空の収容部11とを判別するようになっている。
併せて、制御手段9は上記検査容器2の各収容部11の回転方向の位置を、上記原点検出手段25が検出するリブ21cのマーカを基準とする回転角度により認識し、各収容部11と上記蛍光検出手段8による被検査液の収容の有無の検知結果を関連付けて記憶する。この場合、例えば時計回りに移動する検査容器2の先頭の収容部11を1番として、8番までの収容部11を個別に把握するようになっている。これにより、制御手段9は何番の収容部11に被検査液が収容されているかを把握することで、被検査液が収容されている収容部11に対応する温度調節手段7を選択して作動させてPCRのための温度調節を実行させる。このように作動される蛍光検出手段8の発光素子35、受光素子37および制御手段9により、被検査液の収容の有無を検知する検知手段が構成されている。
そして回転支持体21が回転する際には、カムフォロワ26に差し掛かるカム21fの突出量に応じて、回転支持体21が離隔位置と接触位置の間で昇降動作し、支持した検査容器2が各調温ステーションS1~S3に差し掛かると接触位置に下降し、各調温ステーションS1~S3から離れる際に隔離位置へ上昇するようになっており、検査ステーションS4では下降することなく隔離位置のまま通過する。
なお、各収容部11に対する被検査液の収容の有無の把握は、上記検知手段によるものに限らず、検査の前に予め入力手段としてのタッチパネル3aにおいて、操作者が検査容器2を確認して被検査液が収容された収容部11の番号を選択し、制御手段9は入力された番号の収容部11に対応する温度調節手段7を選択して作動させるようにしてもよい。
【0031】
ここで、検査容器2に収容された被検査液に含まれる核酸分子を増幅させるためには、核酸分子に対して熱変性、ハイブリダイゼーション、伸長反応の順で反応を生じさせ、このサイクルを数十回繰り返す必要がある。
そして、上記各反応を生じさせるためには、それぞれの反応に適した温度に被検査液を昇温させる必要があり、本実施例では、上記各反応を生じさせる前に、予め被検査液を予熱する予熱動作を行うようになっている。
この予熱動作のため、制御手段9は上記検査容器2を上記昇温ステーションS3上に位置させる。このとき回転支持体21は上記軸方向移動手段24のカム21fによって接触位置に下降し、検査容器2が昇温ステーションS3の各調温ブロック32の表面に接触するようになっている。
このとき上記蓋部4に設けた内蓋22が上記バネ27の付勢力によって回転支持体21を検査テーブル5に向けて付勢しているため、検査容器2は調温ブロック32に押し付けられる。
そして昇温ステーションS3には
図2に示すように上記温度調節手段7を構成する調温ブロック32が4つ設けられており、一つの調温ブロック32によって検査容器2の隣り合う2つの収容部11を予熱するようになっている。この場合、対応する2つの収容部11に被検査液が収容されていない温度調節手段7については作動させず、その他の温度調節手段7を選択的に作動させる。
昇温ステーションS3の温度調節手段7は、予熱の際には調温ブロック32を各調温ステーションS1~S3のいずれの調温温度よりも低い予熱温度、例えば42℃に維持し、当該調温ブロック32に検査容器2を予熱温度に達する所定時間、例えば180秒間接触させることで、収容部11内の被検査液を加温する。
【0032】
次に、制御手段9は上記検査容器2を上記加熱ステーションS1に位置させる。このとき、検査容器2は上記検査ステーションS4を通過するが、移動中は回転支持体21は上記軸方向移動手段24のカム21fによって離隔位置に上昇しているため、検査容器2の底面が検査テーブル5の表面に接触することなく移動するようになっている。
検査容器2が加熱ステーションS1に停止する際は、回転支持体21は上記カム21fによって接触位置に下降し、また上記バネ27で付勢される内蓋22によって、検査容器2は温度調節手段7の各調温ブロック32に押し付けられることとなる。
加熱ステーションS1には
図2に示すように調温ブロック32が4つ設けられており、各調温ブロック32には隣り合う2つの収容部11が位置するようになっている。
そして上記加熱ステーションS1の温度調節手段7では、調温ブロック32が所定の熱変性温度、例えば95℃に維持されており、当該調温ブロック32に検査容器2を熱変性が生じる所定時間、例えば3秒間接触させることで、収容部11内の被検査液を加熱して被検査液に含まれる核酸分子に熱変性を生じさせる。この場合も、対応する2つの収容部11に被検査液が収容されていない温度調節手段7については作動させず、その他の温度調節手段7を選択的に作動させる。
【0033】
次に、加熱ステーションS1における加熱工程の次工程であるアニーリングステーションS2におけるアニーリング工程においては、後述するように被検査液を熱変性に必要な温度よりも低いアニーリング温度、例えば60℃としなければならず、加熱した被検査液の温度を低下させる必要がある。
そこで本実施例では、制御手段9は上記加熱ステーションS1の温度調節手段7において、検査容器2を95℃で3秒間加温した後に検査容器2を加熱ブロック32に押圧した状態のまま、上記ペルチェ素子31の電流方向を切り替えて調温ブロック32を放熱させ、調温ブロック32の温度を熱変性温度からアニーリング温度よりも低い、例えば50℃まで低下させて、被検査液をアニーリング温度よりも低い温度まで冷却する冷却工程を設定している。
なお、その他の冷却操作方法として、加熱ステーションS1において検査容器2を加温した後に、上記移動手段6によって回転支持体21を逆方向すなわち反時計回りに回転させて、上記温度調節手段7が設けられていない上記検査ステーションS4上に停止させ、当該検査ステーションS4において所定時間放置して自然冷却を行うようにすることもできる。
所定時間が経過したら、回転支持体21を引き続き逆方向に回転させて、検査容器2を反時計回りに上記昇温ステーションS3を経由してアニーリングステーションS2へと移動させる。
この場合、検査ステーションS4において積極的に冷却させるために、検査容器2の停止位置の下方となる検査テーブル5の表面に冷却素材を配置したり、上記貫通穴5bから冷却用の気体を吹き出すようにしてもよい。
【0034】
このようにして熱変性工程および冷却工程が終了すると、制御手段9は移動手段6を作動させて上記検査容器2を、上記アニーリングステーションS2に位置させてハイブリダイゼーション工程に移行する。
検査容器2を支持している回転支持体21は、カム21fによって停止する際に接触位置に下降し、検査容器2はバネ27で付勢される内蓋22によって温度調節手段7の各調温ブロック32の表面に押し付けられる。
アニーリングステーションS2には
図2に示すように調温ブロック32が8つ設けられており、各調温ブロック32に対応して収容部11が1つずつ位置するようになっている。
そして上記アニーリングステーションS2の温度調節手段7では、調温ブロック32が所定のアニーリング温度、例えば60℃に維持されており、当該調温ブロック32に検査容器2をハイブリダイゼーションが生じる所定時間、例えば5秒間接触させ、これにより被検査液に含まれる核酸分子にハイブリダイゼーションを生じさせる。この場合も、対応する収容部11に被検査液が収容されていない温度調節手段7については作動させず、その他の温度調節手段7を選択的に作動させる。
【0035】
このようにしてアニーリング工程が終了すると、続いて制御手段9は移動手段6を作動させて上記検査容器2を時計回りに移動させて、上記昇温ステーションS3に位置させて伸長反応工程に移行する。
検査容器2を支持している回転支持体21は、上記軸方向移動手段24のカム21fによって停止する際に接触位置に下降し、検査容器2はバネ27で付勢される内蓋22によって温度調節手段7の各調温ブロック32の表面に押し付けられる。
昇温ステーションS3では、上記加温ステーションS1と同様に温度調節手段7を構成する調温ブロック32が4つ設けられており、検査容器2が上記昇温ステーションS3に停止すると、各調温ブロック32に対して収容部11が2つずつ位置するようになっている。
そして昇温ステーションS3の温度調節手段7では、上記予熱工程が終了した直後から上記ペルチェ素子31が調温ブロック32を所定の伸長反応温度、例えば75℃に昇温させて維持させており、当該調温ブロック32に検査容器2を伸長反応が生じる所定時間、例えば1秒間接触させ、収容部11内の被検査液に含まれる核酸分子に伸長反応を生じさせる。この場合も、対応する2つの収容部11に被検査液が収容されていない温度調節手段7については作動させず、その他の温度調節手段7を選択的に作動させる。
【0036】
そして、以上の熱変性工程、アニーリング工程、伸長反応工程からなるPCRを実行するが、確度の高いウイルスの検出を行うためには、十分に核酸分子を増幅させて十分な量の増幅産物を得る必要があり、上記熱変性伸長PCRサイクルを数十回繰り返すようになっている。本実施例ではこれを45サイクル行うようになっている。
この間、上記検査容器2は上記蓋部4によって閉鎖された環境内で回転方向に移動しているが、移動手段6の駆動手段23の発熱や温度調節手段7の調温ブロック32からの放射熱等によってPCR検査装置1自体の温度が上昇し、蓋部4と検査テーブル5とによって区画される検査空間の環境温度も上昇するため、ペルチェ素子31を一定の温度で作動させていても想定した温度調節が実行されず、PCRによる各反応に影響を及ぼす危険性がある。
そこで各調温ステーションS1~S3では、温度調節手段7の各調温ブロック32の温度を、それぞれに設けた温度測定手段34によって常時測定し、制御手段9はこの測定結果に基づいて各ペルチェ素子31の温度をフィードバック制御して、各調温ブロック32を所定の温度に維持するようになっている。
特に、上記アニーリングステーションS2においては、被検査液に対してハイブリダイゼーションを行うために重要な、プライマーに依存するアニーリング温度に正確に調節する必要があり、各収容部11ごとに調温ブロック32およびペルチェ素子31、温度測定手段34を設けて、かつ温度測定手段34としては、調温ブロック32の温度を熱電対よりも検出精度の高い白金測温体温度測定手段34によって測定している。
さらに、加熱ステーションS1、昇温ステーションS3では4つの、アニーリングステーションS3では8つの調温ブロック32を設けて、検査容器2の8つの各収容部11に対応させて、調温ブロック32の温度制御を行っているが、始めに被検査液の収容されている収容部11を制御手段9において把握しておくことで、温度調節手段7を選択的に作動させて、空の収容部11に対応する調温ブロック32のペルチェ素子31については、加温を停止するようにしている。
これにより、各調温ステーションS1~S3における発熱量を抑え、PCR検査装置1自体や蓋部4と検査テーブル5で区画させる検査空間の環境温度や検査テーブル5および検査容器2の温度の上昇を抑制することができる。これにより、上述した加熱工程とアニーリング工程の間で行う冷却工程に要する時間を削減することが可能であり、全サイクルを通して検査時間の短縮化も可能である。
なお、温度調節手段7を選択的に作動させることは、本実施例のように全ての調温ステーションS1~S3で行ってもよいが、何れかのステーションで行ってもよい。
【0037】
上記検査ステーションS4においては、3つの各貫通穴5bに対応して設けられた蛍光検出手段8の発光素子35から各々に異なる波長の励起光が常時上方へ照射されており、制御手段9には受光素子37から常時受光信号が入力されるようになっている。
上記検査容器2が上記昇温ステーションS3から上記加熱ステーションS1へと移動する際に、上記検査ステーションS4の各貫通穴5bの上方を通過すると、受光素子37は検査容器2への励起光の照射によって被検査液から発光された蛍光を受光し、制御手段9は検査容器2の各収容部11ごとに蛍光検出に基づく検査結果を記録するようになっている。
制御手段9は得られた検査結果に基づいて、検査容器2の被検査液が収容されている各収容部11ごとに、収容された被検査液がウイルスに感染しているか否かや、感染しているウイルスの種類の特定を行い、この検査結果をハウジング3の正面側のタッチパネル3aに表示させる。
なお、増幅回数が少ない間は正しい判定ができないため、所定回数のサイクルが終了してから蛍光検出を行うようにしてもよい。
【0038】
ここで、上記PCR検査装置1を最初に使用する際や、所定回数PCR検査を行うごとに、陰性用および陽性用の疑似検査液を用いて、正しくウイルスの検出ができるか否かについての動作確認を行うことができる。
上記検査容器1の所定の収容部11に上記陰性用および陽性用の疑似検査液を収容し、当該検査容器1をPCR検査装置1の回転支持体21にセットしたら、その状態で上記タッチパネル3aを用いて制御手段9に対し動作確認の実行を指示する。
すると、制御手段9は上記回転支持体21を回転させて上記検査容器1を上記検査ステーションS4の上方を通過させ、各蛍光検出手段8から励起光を照射させる。
これにより、陰性用の疑似検査液では受光素子37は蛍光を受光せず、陽性用の疑似検査液では所定の蛍光が受光されることで、正常なウイルスの検出が行われることを確認でき、PCR検査装置1が適正に作動していることを確認できる。
なお、この陰性用、陽性用の疑似検査液を、被検査液とともに検査容器2に収容してもよい。この場合、上記動作確認を行った後に、そのままPCR検査を行うこととなるが、検査容器2に被検査液を収容できる収容部11の数は減少する。
【0039】
このように、本実施例のPCR検査装置1によれば、被検査液を複数の収容部11を備えた検査容器2に収容して、これを各調温ステーションS1~S3に順次移動させることを繰り返してPCRを実行する構成にあって、各収容部11に対応して被検査液の温度調節を可能としたため、いずれの収容部11においても確実にPCRを実行することができ、正確な判定を行うことが可能となる。
その際、上記移動手段6は検査テーブル5に固定された駆動手段23の回転軸23aによって回転支持体21を回転させるようになっているが、この回転支持体21は軸方向移動手段24によって回転軸23aに対して軸方向に移動するようになっている。
このように回転支持体21を駆動手段23に対して移動させることで、駆動手段23ごと回転支持体21を軸方向に移動させる場合に比べて回転軸23aの傾きが生じにくく、高精度に回転支持体23を回転させることができ、例えば上記アニーリングステーションS2において検査容器2の8つの収容部11を上記温度調節手段7を構成する8つの調温ブロック32にずれや傾きがなく適正に接触させることが可能となっている。
なお、上記実施例ではアニーリングステーションS2の温度調整手段7として、検査容器2の収容部11と同数のペルチェ素子31と調温ブロック32と温度測定手段34とを備えて構成しているが、これを上記加熱ステーションS1や昇温ステーションS3に展開してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 PCR検査装置(検査装置) 2 検査容器
5 検査テーブル 6 移動手段
7 温度調節手段 8 蛍光検出手段
9 制御手段(温度制御手段) 11 収容部
21 回転支持体 21a ボス
21f カム 22 内蓋
23 駆動手段 23a 回転軸
24 軸方向移動手段 31 ペルチェ素子(熱電素子)
32 調温ブロック 34 温度測定手段
S1 加熱ステーション S2 アニーリングステーション
S3 昇温ステーション S4 検査ステーション