(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】杭基礎設計方法、杭基礎施工方法、及び、杭基礎設計システム
(51)【国際特許分類】
E02D 7/00 20060101AFI20241225BHJP
E02D 5/24 20060101ALI20241225BHJP
E02D 5/48 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
E02D7/00 Z
E02D5/24
E02D5/48
(21)【出願番号】P 2021019043
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】515277300
【氏名又は名称】ジャパンパイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100193286
【氏名又は名称】圷 正夫
(72)【発明者】
【氏名】細田 光美
(72)【発明者】
【氏名】小松 吾郎
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-248156(JP,A)
【文献】特許第6065155(JP,B2)
【文献】特開2019-183510(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0370065(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 7/00
E02D 5/24
E02D 5/48
G06Q 50/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の杭基礎施工現場における複数の杭孔の仕様、及び、前記複数の杭孔にそれぞれ配置される既製杭の仕様を設定する仕様設定工程を備え、
前記仕様設定工程において、杭径が異なる複数の前記既製杭に対し、同一の杭孔径の前記杭孔を割り当てる
ことを特徴とする杭基礎設計方法。
【請求項2】
一の杭基礎施工現場において複数の杭孔を掘削する杭孔掘削工程と、
前記複数の杭孔に既製杭をそれぞれ配置する杭配置工程と、を備え、
前記杭配置工程において、前記複数の杭孔のうち同一の杭孔径の杭孔に、前記既製杭のうち異なる杭径の既製杭を配置する
ことを特徴とする杭基礎施工方法。
【請求項3】
一の杭基礎施工現場における複数の杭孔の仕様、及び、前記複数の杭孔にそれぞれ配置される既製杭の仕様を設定するための仕様設定部と、
一の杭孔径に対し、該一の杭孔径の杭孔に配置可能な既製杭の複数の杭径を関連付けて登録可能なデータベースと、を備え、
前記仕様設定部は、
設計者によって設定された一の杭孔径を検索値として前記データベースを参照し
て該一の杭孔径に関連付けられた複数の杭径を抽出可能であり、前記設計者が抽出された前記複数の杭径の中から前記複数の杭孔
のうち同一の杭孔径の杭孔にそれぞれ配置される前記既製杭の
杭径を選択可能に構成されている
ことを特徴とする杭基礎設計システム。
【請求項4】
前記一の杭基礎施工現場における前記複数の杭孔の杭孔径が同一になるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の杭基礎設計システム。
【請求項5】
前記一の杭基礎施工現場において、前記既製杭の杭径に対する、該既製杭が配置される前記杭孔の杭孔径の比に対応する拡大比が、1.0以上2.0以下になるように構成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の杭基礎設計システム。
【請求項6】
前記既製杭の仕様として、軸部及び前記軸部に設けられた節部を有する節杭を選択可能であることを特徴とする請求項3乃至5の何れか一項に記載の杭基礎設計システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、杭基礎設計方法、杭基礎施工方法、及び、杭基礎設計システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、杭基礎の構築方法として、杭径を一定にするか、2種又は3種とする一方、先端支持力に応じて、杭ごとに杭孔径を設定するものが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1が開示する構築方法によれば、杭種を減らすことにより、杭径の違う杭を用意する手間やコストが省略され、施工性が良くなるとされている。一方、当該方法では、杭径D1に対する杭孔径D2の比D2/D1を1.3~2.5の範囲で設定することで、得られる先端支持力を変えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が開示するように、先端支持力を変えるために杭ごとに杭孔径を変化させた場合、杭孔の種類が多くなる。杭孔の種類が多くなった場合、掘削機や掘削ドリルの交換等の段取り替え作業に手間がかかる。またこの場合、掘削機や掘削ドリル等の機器や資材の種類も多くなるため、機器や資材の手配や管理も煩雑になる。このため、杭ごとに杭孔径を変化させた場合、却って施工性が低下してしまう。
上述した事情に鑑みて、本発明の目的は、杭孔径の種類が削減され、杭基礎の施工性が向上する杭基礎設計方法、杭基礎施工方法、及び、杭基礎設計システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭基礎設計方法は、
一の杭基礎施工現場における複数の杭孔の仕様、及び、前記複数の杭孔にそれぞれ配置される既製杭の仕様を設定する仕様設定工程を備え、
前記仕様設定工程において、杭径が異なる複数の前記既製杭に対し、同一の杭孔径の前記杭孔を割り当てる。
【0006】
上記構成(1)によれば、杭径が異なる複数の既製杭に対し、同一の杭孔径の杭孔を割り当てることにより、即ち、同一の杭孔径の杭孔に対し、異なる杭径の既製杭を配置することにより、杭孔径の種類を削減することができる。これにより、上記構成(1)によれば、杭孔径を変更するための段取り替え作業が削減されるとともに、掘削機や掘削ドリル等の機器や資材の種類も削減されて手配及び管理が容易になり、杭基礎の施工性が向上する。
【0007】
(2)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭基礎施工方法は、
一の杭基礎施工現場において複数の杭孔を掘削する杭孔掘削工程と、
前記複数の杭孔に既製杭をそれぞれ配置する杭配置工程と、を備え、
前記杭配置工程において、前記複数の杭孔のうち同一の杭孔径の杭孔に、前記既製杭のうち異なる杭径の既製杭を配置する。
上記構成(2)によれば、同一の杭孔径の杭孔に対し、異なる杭径の既製杭を配置することにより、杭孔径の種類を削減することができる。これにより、上記構成(2)によれば、杭孔径を変更するための段取り替え作業が削減されるとともに、掘削機や掘削ドリル等の機器や資材の種類も削減されて手配及び管理が容易になり、杭基礎の施工性が向上する。
【0008】
(3)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭基礎設計システムは、
一の杭基礎施工現場における複数の杭孔の仕様、及び、前記複数の杭孔にそれぞれ配置される既製杭の仕様を設定するための仕様設定部と、
一の杭孔径に対し、該一の杭孔径の杭孔に配置可能な既製杭の複数の杭径を関連付けて登録可能なデータベースと、を備え、
前記仕様設定部は、設計者によって設定された一の杭孔径を検索値として前記データベースを参照して該一の杭孔径に関連付けられた複数の杭径を抽出可能であり、前記設計者は抽出された前記複数の杭径の中から前記複数の杭孔のうち同一の杭孔径の杭孔にそれぞれ配置される前記既製杭の杭径を選択可能に構成されている。
【0009】
上記構成(3)によれば、データベースを参照することで、一の杭孔径に対し、複数の杭径を抽出することができ、設計者は、抽出された複数の杭径の中から適当な杭径を容易に選択することができる。このため、設計者は、同一の杭孔径の杭孔に異なる杭径の既製杭が配置されて杭孔径の種類が削減され、施工性が良好な杭基礎を容易に設計することができる。
【0010】
(4)幾つかの実施形態では、上記構成(3)において、
前記一の杭基礎施工現場における前記複数の杭孔の杭孔径が同一になるように構成されている。
上記構成(4)によれば、一の杭基礎施工現場における杭孔の杭孔径が一つのみである杭基礎を容易に設計可能になるので、施工性が一層良好な杭基礎を容易に設計することができる。
【0011】
(5)幾つかの実施形態では、上記構成(3)又は(4)において、
前記一の杭基礎施工現場において、前記既製杭の杭径に対する、該既製杭が配置される前記杭孔の杭孔径の比に対応する拡大比が、1.0以上2.0以下になるように構成されている。
上記構成(5)によれば、杭径に対する杭孔径の比に対応する拡大比が1.0以上2.0以下になるようにすることで、同一の杭孔径であっても杭径の選択肢の幅が広く、各杭孔と既製杭の組み合わせによって得られる鉛直支持力や水平耐力を適宜変化させることができる。
【0012】
(6)幾つかの実施形態では、上記構成(3)乃至(5)の何れか一つにおいて、
前記既製杭の仕様として、軸部及び前記軸部に設けられた節部を有する節杭を選択可能である
上記構成(6)によれば、既製杭として節杭を選択することで、各杭孔と既製杭の組み合わせによって得られる鉛直支持力を上昇させることができ、杭孔径が同一であっても、鉛直支持力の設定範囲を広くすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、杭孔径の種類が削減され、杭基礎の施工性が向上する杭基礎設計方法、杭基礎施工方法、及び、杭基礎設計システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る杭基礎設計方法の概略的な手順を示すフローチャートである。
【
図2】
図1の杭基礎設計方法によって設計、構築された杭基礎の構成の一部を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図1の杭基礎設計方法によって設計、構築された他の杭基礎の構成の一部を概略的に示す断面図である。
【
図4】
図1の杭基礎設計方法によって設計、構築された他の杭基礎の構成の一部を概略的に示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る杭基礎施工方法の概略的な手順を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態に係る杭基礎設計システムの概略的な構成を示す図である。
【
図7】
図6の杭基礎設計システムのデータベースに登録されているデータセットの一例を示す表である。
【
図8】
図6の杭基礎設計システムのデータベースに登録されているデータセットの他の一例を示す表である。
【
図9】
図6の杭基礎設計システムのデータベースに登録されているデータセットの他の一例を示す表である。
【
図10】
図6の杭基礎設計システムによって表示される仕様設定画面の一例を概略的に示す図であり、初期状態の仕様設定画面を示す図である。
【
図11】
図6の杭基礎設計システムによって表示される仕様設定画面の一例を概略的に示す図であり、一行目の杭孔径を入力した後の状態の仕様設定画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る杭基礎設計方法(以下、単に杭基礎設計方法とも称する)の概略的な手順を示すフローチャートである。
図1に示したように、杭基礎設計方法は、仕様設定工程S1と、照査工程S2とを備えている。
仕様設定工程S1では、一の杭基礎施工現場における複数の杭孔の仕様、及び、複数の杭孔にそれぞれ配置される既製杭の仕様を設定する。
【0017】
杭孔の仕様とは、複数の杭孔の配置及び各杭孔の形状であり、杭孔の形状とは杭孔の直径及び長さである。なお、杭孔には、形状でみたときに、ストレート孔、拡底孔、拡頭孔、拡底拡頭孔等があり、杭孔の形状として、拡底孔の場合には、拡底部(杭孔の底部)の直径・長さ及び軸部(拡底部よりも上方の部分)の直径・長さが設定され、拡頭孔の場合には、拡頭部(杭孔の上部)の直径・長さ及び軸部(拡頭部よりも下方の部分)の直径・長さが設定され、拡底拡頭孔の場合には、拡底部の直径・長さ、拡頭部の直径・長さ及び軸部(拡底部と拡頭部の中間部分)の直径・長さが設定される。
【0018】
既製杭の仕様とは、既製杭の種類、外径及び長さであり、継ぎ杭の場合には各既製杭(例えば、上杭、中杭、下杭)の種類、外径及び長さである。
既製杭の種類には、材質でみたときには、鋼管杭、SC杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)、PC杭(プレストレストコンクリート杭)、PHC杭(高強度プレストレストコンクリート杭)、PRC杭(高強度プレストレスト鉄筋コンクリート杭)等があり、形状でみたときには、ストレート杭(軸部のみ)、節杭(軸部及び節部を有する)、拡頭杭(軸部及び拡頭部を有する)、拡底杭(軸部及び拡底部を有する)等がある。従って、既製杭の外径及び長さには、軸部、節部、拡頭部、及び拡底部のそれぞれ外径及び長さがある。
【0019】
照査工程S2では、各杭孔と既製杭の組み合わせについて、所定の性能を有しているか否かが判定される。所定の性能とは、例えば、鉛直支持力(先端支持力及び周面摩擦力)及び水平耐力である。判定の結果、各杭孔と既製杭の組み合わせが所定の性能を有していれば、設計は終了する。一方、判定の結果、各杭孔と既製杭の組み合わせが所定の性能を有していなければ、再度、仕様設定工程S1が実行され、一の杭基礎施工現場における複数の杭孔の仕様、及び、複数の杭孔にそれぞれ配置される既製杭の仕様を設定する。つまり、所定の性能を有する仕様が見つかるまで、仕様設定工程S1が繰り返される。
【0020】
ここで、
図2は、杭基礎設計方法によって設計、構築された杭基礎の構成の一部を概略的に示す断面図である。杭基礎においては、複数の既製杭1a,1bが、対応する杭孔3a,3bに配置される。杭孔3a,3bの底部には根固め液が注入され、既製杭1a,1bの下端部は、根固め液及び掘削土が硬化してなる根固め部5によって囲まれている。そして、根固め部5よりも上方には杭周液が注入され、既製杭1a,1bの根固め部5よりも上方部分は、杭周液及び掘削土が硬化してなる杭周面部7によって囲まれている。
【0021】
そして、
図2から分かるように、杭基礎設計方法では、仕様設定工程S1において、異なる杭径Dp(Dpa,Dpb)を有する複数の既製杭1a,1bに対し、同一の杭孔径Dhの杭孔3a,3bが割り当てられている。
【0022】
上記構成の杭基礎設計方法によれば、杭径Dpの異なる複数の既製杭1a,1bに対して同一の杭孔径Dhの杭孔3a,3bを割り当てることにより、即ち、同一の杭孔径Dhの杭孔3a,3bに対して異なる杭径Dpの既製杭1a,1bを配置することにより、杭孔径Dhの種類を削減することができる。これにより、上記構成の杭基礎設計方法によれば、杭孔径Dhを変更するための掘削機や掘削ドリル等の段取り替え作業が削減されるとともに、掘削機や掘削ドリル等の機器や資材の手配及び管理が容易になり、杭基礎の施工性が向上する。
【0023】
一方、杭径Dpを同一にせず種類が多い場合、異なる杭径Dpの既製杭の管理が問題となるが、現在、既製杭にはその仕様を表す符号が付けられており、符号を利用することで、各杭孔に配置する既製杭の杭径Dpが異なる場合であっても適切に管理することができる。
なお、一つの杭基礎施工現場における全ての杭孔の杭孔径Dhが同一であるのが好ましいが、杭径の種類が削減されて掘削機や掘削ドリル等の段取り替え作業が削減されてさえいれば、少なくとも一部の杭孔の杭孔径Dhが同一であればよい。
【0024】
図3は、本発明の一実施形態に係る杭基礎設計方法によって設計、構築された他の杭基礎の構成の一部を概略的に示す断面図である。
図2の杭孔3a,3bはストレート孔であったが、
図3の杭孔3c,3dは拡底孔である。この場合、杭孔3c,3dは、拡底部9及び拡底部9よりも上方の軸部11を有し、杭孔径Dhとしては、拡底部9若しくは根固め部5の直径(根固め部径Dhe)と、軸部11若しくは杭周面部7の直径(軸部径Dha)がある。そしてこの場合、杭孔径Dhが同一であるとは、少なくとも軸部径Dhaが同一であることを意味し、好ましくは、根固め部径Dheも同一であることを意味するものとする。少なくとも軸部径Dhaが同一であれば、同一の掘削機及び掘削ドリルによって軸部11を掘削することができる。
なお、図示しないが、杭孔が拡頭孔や拡底拡頭孔の場合も、杭孔径が同一であるとは、少なくとも軸部径が同一であり、好ましくは、拡底部や拡頭部の直径も同一であることを意味するものとする。
【0025】
図4は、本発明の一実施形態に係る杭基礎設計方法によって設計、構築された他の杭基礎の構成の一部を概略的に示す断面図である。
図2及び
図3の既製杭1a,1bはストレート杭であったが、
図4の既製杭1cは下杭としての節杭13、中杭としての拡頭杭15、及び、上杭としてのストレート杭17を連結した継ぎ杭である。
【0026】
図5は、本発明の一実施形態に係る杭基礎施工方法(以下、単に杭基礎施工方法とも称する)の概略的な手順を示すフローチャートである。杭基礎施工方法は、上述した杭基礎設計方法により設計された杭基礎を構築するものである。
【0027】
図5に示したように、杭基礎施工方法は、杭孔掘削工程S10、根固め液・杭周液注入工程S12及び杭配置工程S14を備えている。
杭孔掘削工程S10では、一の杭基礎施工現場において複数の杭孔を掘削する。
根固め液・杭周液注入工程S12では、杭孔に根固め液及び杭周液を注入する。通常、杭周液を注入後に、根固め液を注入するが、順序は逆でもよい。
杭配置工程S14では、複数の杭孔に既製杭をそれぞれ配置する。そして、杭配置工程S14では、複数の杭孔のうち同一の杭孔径の杭孔に、異なる杭径の既製杭を配置する。
【0028】
上記構成の杭基礎施工方法によれば、同一の杭孔径の杭孔に対し、異なる杭径の既製杭を配置することにより、孔径の種類を削減することができる。これにより、杭孔径を変更するための段取り替え作業が削減されるとともに、機器や資材の手配及び管理が容易になり、杭基礎の施工性が向上する。
なお、上記杭基礎施工方法は、埋込工法のうちプレボーリング工法によるものを前提としているが、中掘工法であってもよいのは勿論である。
【0029】
図6は、本発明の一実施形態に係る杭基礎設計システム(以下、単に杭基礎設計システムとも称する)の概略的な構成を示す図である。杭基礎設計システムは、上記杭基礎設計方法に用いるのに好適なものである。
具体的には、
図6に示したように、杭基礎設計システムは、仕様設定部20と、照査部22と、データベース24とを備えている。
【0030】
仕様設定部20は、コンピュータ26がプログラムを実行することによって実現される機能的なものであり、コンピュータ26は、一般的な構成、すなわちCPU(中央演算処理装置)、メモリ、及び外部記憶装置等を備えている。仕様設定部20は、杭基礎の設計者がユーザインターフェースを介してコンピュータ26を操作することによって、一の杭基礎施工現場における複数の杭孔の仕様、及び、複数の杭孔にそれぞれ配置される既製杭の仕様を設定するためのものである。
【0031】
照査部22も、コンピュータ26がプログラムを実行することによって実現される機能的なものであり、仕様設定部20によって設定された複数の杭孔の仕様、及び、複数の杭孔にそれぞれ配置される既製杭の仕様に基づいて杭基礎が所定の性能(鉛直支持力や水平耐力)を有しているか否か判定するものである。照査部22は、杭基礎の設計者がユーザインターフェースを介してコンピュータ26を操作することによって、杭基礎の性能を照査してもよいが、半自動または全自動で照査するように構成されていてもよい。
【0032】
データベース24は、コンピュータ26の外部記憶装置に格納されていてもよいが、本実施形態では、コンピュータ26と通信可能に接続された外付けの記憶装置28に格納されており、コンピュータ26は、データベース24の内容を読み出して処理可能である。
データベース24は複数のデータセットによって構成されており、各データセットでは、一つの杭孔径に対し、当該杭孔径の杭孔に配置可能な既製杭の複数の杭径が関連付けられている(紐付けられている)。そして、仕様設定部20は、データベース24を参照し、設計者によって設定された杭孔径を検索値として、当該杭孔径に関連付けられた複数の杭径を抽出可能に構成されている。設計者は、抽出された複数の杭径の中から、適当な杭径を選択可能である。
【0033】
上記構成の杭基礎設計システムによれば、データベース24を参照することで、一の杭孔径に対し、複数の杭径を抽出することができ、設計者は、抽出された複数の杭径の中から適当な杭径を容易に選択することができる。このため、設計者は、同一の杭孔径の杭孔に異なる杭径の既製杭が配置されて杭孔径の種類が削減され、施工性が良好な杭基礎を容易に設計することができる。
なお、上記構成の杭基礎設計システムを用いて
図1の杭基礎設計方法を実施するのに際し、データベース24に必要なデータセットが登録されていない場合には、仕様設定工程S1を実施する前に、データベース24に予めデータセットを登録するデータセット登録工程を実施すればよい。
【0034】
図7~
図9は、データベース24中のデータセットの内容の一部を概略的に示す表である。
図7~
図9は、いずれも孔の形状が拡底孔であり、既製杭が節杭であるものを例示しており、根固め部径Dheが軸部径Dhaにそれぞれ100mm、200mm、300mm加算したものを例示している。また、
図7~
図9では、杭孔径Dhとしての根固め部径Dhe及び軸部径Dhaに紐付けられた節部径Dpnのみが表示されているが、杭孔径Dhとして杭孔の拡頭部径や、杭径Dpとして既製杭の軸部径Dpaや拡頭部径が登録されていてもよいのは勿論である。
【0035】
ここで、
図7~
図9には、杭孔径Dh毎に、該杭孔径Dhの杭孔に配置可能な既製杭の杭径Dpに対する杭孔径Dhの比Dh/Dpに対応する拡大比の範囲を参考のために示している。ただし本実施形態では、比Dh/Dpに略相当する拡大比として、Dh/(Dp+50)を採用しているが、比Dh/Dpそのものであってもよい。
【0036】
幾つかの実施形態では、上記構成の杭基礎設計システムにおいて、一の杭基礎施工現場における拡大比Dh/(Dp+50)が、1.0以上2.0以下になるように構成されている。そのために、データベース24の各データセットは、
図7~
図9に例示したように、拡大比Dh/(Dp+50)が1.0以上2.0以下になるように、一つの杭孔径Dhに対し複数の杭径Dpが紐付けられている。
【0037】
上記構成の杭基礎設計システムによれば、杭径Dpに対する杭孔径Dhの比に対応する拡大比Dh/(Dp+50)が1.0以上2.0以下になるようにすることで、同一の杭孔径であっても杭径の選択肢の幅が広く、各杭孔と既製杭の組み合わせによって得られる鉛直支持力や水平耐力を適宜変化させることができる。
なお、
図7~
図9の各データセットでは、拡大比Dh/(Dp+50)が2.0を超えないように、各杭孔径Dhと関連付けられる最小の杭径Dpが設定されているが、最小の杭径Dpと杭孔の軸部径Dhaとの差が500mm若しくは400mmを超えないように、最小の杭径Dpを設定してもよい。
【0038】
幾つかの実施形態では、上記構成の杭基礎設計システムにおいて、仕様設定部20は、少なくとも3つ以上、好ましくは4つ以上、より好ましくは5つ以上の杭径が紐付けられた杭孔径を優先的に選択するように構成されている。
上記構成によれば、少なくとも3つ以上、好ましくは4つ以上、より好ましくは5つ以上の杭径を選択可能であるため、杭孔径の種類を可及的に削減することができ、掘削機や掘削ドリルの段取り替え作業を可及的に削減することができる。
【0039】
またここで、
図7~
図9には、杭孔径Dh毎に、軸部径Dhaに対する根固め部径Dheの比(拡孔比)Dhe/Dhaを参考のために示している。
幾つかの実施形態では、上記構成の杭基礎設計システムにおいて、拡孔比Dhe/Dhaが所定の値、例えば1.4を超えるような杭孔径と杭径の組み合わせを除外するように構成されている。そのために、データベース24から該当するデータセットを除去するか、仕様設定部20において拡孔比Dhe/Dhaを演算してそのような組み合わせが設定されることを排除するようにしてもよい
上記構成によれば、拡孔比Dhe/Dhaを所定の値以下に制限することで、軸部径と拡底部径の掘削径の差が抑えられるため、一つの機械式の拡翼掘削ドリルによって、杭孔の軸部及び拡底部を連続して掘削することが確実に可能になる。
【0040】
図10及び
図11は、仕様設定部20によってモニタに表示される仕様設定画面の一例を概略的に示すものであり、
図10は初期状態、
図11は1行目のデータの杭孔径及び根固め部径を入力した後、節部径を入力しているときの状態である。仕様設定画面には、杭孔径、既製杭の種類、及び杭径の入力欄が設けられている。
【0041】
幾つかの実施形態では、仕様設定部20は、1つの杭孔の杭径が設定されると、他の杭孔の杭径が同じ値に設定されるように構成されている。例えば、
図11に示したように、仕様設定画面において、1行目の杭孔径及び根固め部径を設計者が入力すると、残りの行の杭孔径及び根固め部径が自動的に同じ値に設定される。これにより、設計者が残りの行の杭孔径及び根固め部径を一つ一つ入力する手間が省略される。
なお、自動的に設定された杭孔径及び根固め部径については、後から設計者が変更可能であってもよい。つまり、杭孔径の種類が削減されて掘削機や掘削ドリルの段取り替え作業が削減されてさえいれば、全ての杭孔の杭孔径が同一である必要はない。
【0042】
また、
図11に示したように、仕様設定部20は、入力された杭孔径の杭孔に配置可能な既製杭の杭径を抽出して選択肢として表示するための手段(選択肢表示手段)として、例えばプルダウンメニュー30を設定入力画面に表示可能である。設計者は、プルダウンメニュー30に表示された選択肢の中から適当な杭径を選択することによって、任意の杭孔径の杭孔に配置可能な既製杭の杭径を一つ一つ調べることなく容易に選択・設定することができる。
なお、
図10及び
図11の仕様設定画面には、杭孔径として軸部径及び根固め部径、並びに、既製杭の杭径として軸部径及び節部径の入力欄が設けられているが、杭孔及び既製杭の拡頭部径の入力欄が設けられていてもよいのは勿論である。
【0043】
幾つかの実施形態では、上記構成の杭基礎設計システムにおいて、一の杭基礎施工現場における複数の杭孔の杭孔径が同一になるように構成されている。そのために、例えば、杭基礎設計システムの仕様設定画面に、設計者が杭孔径を固定するか否かを選択するための手段として、チェックボックス32を設けておいてもよい。設計者は、チェックボックス32をクリックすることにより、複数の杭孔の杭孔径が同一になるようにすることができる。
上記構成によれば、一の杭基礎施工現場における杭孔の杭孔径が一つのみである杭基礎を容易に設計可能になるので、施工性が一層良好な杭基礎を容易に設計することができる。
【0044】
幾つかの実施形態では、上記構成の杭基礎設計システムにおいて、既製杭の仕様として、軸部及び軸部に設けられた節部を有する節杭を選択可能である。
上記構成によれば、既製杭として節杭を選択することで、既製杭の外周面が大きくなり、既製杭の外周面の根固め部5や杭周面部7と既製杭との一体性が高くなるので、鉛直支持力の評価に際し、根固め部5や杭周面部7の外周面の摩擦抵抗力をより大きく考慮することが可能となる。この結果、既製杭による鉛直支持力を上昇させることができ、杭孔径が同一であっても、鉛直支持力の設定範囲を広くすることができる。
なお、節杭には、PHC杭等に節部を設けたもの以外に、鋼管杭やSC杭に金属製のリブを設けたものも含まれるものとする。
【0045】
最後に、本発明は上述した幾つかの実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0046】
1a,1b,1c 既製杭
3a,3b,3c,3d 杭孔
5 根固め部
7 杭周面部
9 拡底部
11 軸部
13 節杭
15 拡頭杭
17 ストレート杭
20 仕様設定部
22 照査部
24 データベース
26 コンピュータ
28 記憶装置
30 プルダウンメニュー
32 チェックボックス