(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】コンベヤベルトの管理システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
B65G 43/02 20060101AFI20241225BHJP
G06Q 50/08 20120101ALI20241225BHJP
【FI】
B65G43/02 A
G06Q50/08
(21)【出願番号】P 2023208550
(22)【出願日】2023-12-11
【審査請求日】2024-08-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】石橋 裕輔
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/132096(WO,A1)
【文献】特開2010-140441(JP,A)
【文献】特開2021-178185(JP,A)
【文献】国際公開第2016/174797(WO,A1)
【文献】特開2022-167374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 43/02
B65G 15/30
G06Q 50/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンベヤベルトに設置されるパッシブ型のICタグと、前記ICタグと無線通信する検知器と、この検知器に通信可能に接続された演算装置とを備えて、コンベヤ装置に装着されている前記コンベヤベルトに設置された前記ICタグに向かって前記検知器から発信された発信電波に応じて前記ICタグから返信される返信電波が前記検知器によって受信され、前記返信電波を利用して前記コンベヤベルトの状態が前記演算装置によって把握されるコンベヤベルトの管理システムにおいて、
前記ICタグとして、電波方式のICタグと電磁結合方式のICタグの二種類が使用されているコンベヤベルトの管理システム。
【請求項2】
前記コンベヤ装置の少なくとも1箇所の検知位置に配置された前記検知器による前記返信電波の受信時刻に基づいて前記コンベヤベルトの走行速度が前記演算装置により算出され、この算出された前記走行速度の経時変化に基づいて前記コンベヤベルトの稼働状態が把握される請求項1に記載のコンベヤベルトの管理システム。
【請求項3】
前記コンベヤベルトに設置される複数のセンサ部を備えて、前記電波方式のICタグに電気的に接続されるセンサ部と、前記電磁結合方式のICタグに電気的に接続されるセンサ部とを有し、それぞれの前記センサ部による検知データが前記返信電波によって前記ICタグから前記検知器に送信されて前記演算装置に入力され、入力された前記検知データに基づいて前記コンベヤベルトの状態が前記演算装置によって把握される請求項1または2に記載のコンベヤベルトの管理システム。
【請求項4】
前記検知データに基づいて前記コンベヤベルトの温度状態、摩耗状態、縦裂きの発生状態の三項目のうち、少なくとも一項目が前記演算装置によって把握される請求項3に記載のコンベヤベルトの管理システム。
【請求項5】
コンベヤベルトにパッシブ型のICタグを設置し、前記ICタグと無線通信する検知器からコンベヤ装置に装着されている前記コンベヤベルトに設置された前記ICタグに向かって発信電波を発信し、この発信電波に応じて前記ICタグから返信される返信電波を前記検知器によって受信し、前記返信電波を利用して演算装置により前記コンベヤベルトの状態を判断するコンベヤベルトの管理方法において、
前記ICタグとして、電波方式のICタグと電磁結合方式のICタグの二種類を使用するコンベヤベルトの管理方法。
【請求項6】
前記ICタグを前記コンベヤベルトの製造時に前記コンベヤベルトに埋設しておく請求項5に記載のコンベヤベルトの管理方法。
【請求項7】
前記ICタグを前記コンベヤベルトの製造後に、前記コンベヤベルトに設置する請求項5に記載のコンベヤベルトの管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベヤベルトの管理システムおよび方法に関し、さらに詳しくは、様々な使用条件下のコンベヤベルトの状態をより確実に把握できるコンベヤベルトの管理システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンベヤ装置のプーリ間に張設されて走行するコンベヤベルトを管理するシステムが種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1で提案されている管理システムは、コンベヤベルトに埋設されたRFID用タグ(ICタグ)とリーダとの間で無線通信を行って、RFID用タグから送信されたデータがリーダによって取得される。そして、リーダによって取得された種々のデータは、所定の端末装置に送信されて情報共有される。
【0003】
このような従来の管理システムでは、ICタグとして、通信方式がいわゆる電波方式のICタグが使用されることが多い。ところで、砕石、土砂、その他の鉱石素材やこれらの加工物などを搬送するコンベヤベルトは様々な使用条件下で稼働している。そして、コンベヤベルトの使用条件の違いに起因して、ICタグとリーダとの無線通信環境も変化する。そのため、同じ通信方式のICタグだけが使用されていると、コンベヤベルトの特定の使用条件下ではICタグとリーダとの無線通信が不能になって、ICタグからのデータを取得できないという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
即ち、コンベヤベルトに設置されるICタグがすべて同じ通信方式であると、様々な使用条件下のコンベヤベルトの状態を十分に把握できないことがある。それ故、様々な使用条件下のコンベヤベルトの状態をより確実に把握するには改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、様々な使用条件下のコンベヤベルトの状態をより確実に把握できるコンベヤベルトの管理システムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のコンベヤベルトの管理システムは、コンベヤベルトに設置されるパッシブ型のICタグと、前記ICタグと無線通信する検知器と、この検知器に通信可能に接続された演算装置とを備えて、コンベヤ装置に装着されている前記コンベヤベルトに設置された前記ICタグに向かって前記検知器から発信された発信電波に応じて前記ICタグから返信される返信電波が前記検知器によって受信され、前記返信電波を利用して前記コンベヤベルトの状態が前記演算装置によって把握されるコンベヤベルトの管理システムにおいて、前記ICタグとして、電波方式のICタグと電磁結合方式のICタグの二種類が使用されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のコンベヤベルトの管理方法は、コンベヤベルトにパッシブ型のICタグを設置し、前記ICタグと無線通信する検知器からコンベヤ装置に装着されている前記コンベヤベルトに設置された前記ICタグに向かって発信電波を発信し、この発信電波に応じて前記ICタグから返信される返信電波を前記検知器によって受信し、前記返信電波を利用して演算装置により前記コンベヤベルトの状態を判断するコンベヤベルトの管理方法において、前記ICタグとして、電波方式のICタグと電磁結合方式のICタグの二種類を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、コンベヤベルトに設置されるパッシブ型のICタグとして、電波方式のICタグと電磁結合方式のICタグの二種類が使用される。通信方式が異なるそれぞれのICタグが前記検知器と無線通信する際の通信特性には違いがある。そのため、様々な無線通信環境下であっても、二種類の通信方式のうち少なくとも一方の通信方式のICタグからの前記返信電波を前記検知器によって受信することが可能になる。即ち、コンベヤベルトの使用条件の違いに起因して生じる様々な無線通信環境下において、電波方式のICタグと前記検知器との間の無線通信、電磁結合方式のICタグと前記検知器との間の無線通信のいずれもが通信不能になるリスクが低減する。それ故、前記返信電波を利用して様々な使用条件下のコンベヤベルトの状態をより確実に把握するには有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】コンベヤベルトの管理システムの実施形態の全体概要を例示する説明図である。
【
図2】
図1の管理システムが適用されたコンベヤ装置を側面視で例示する説明図である。
【
図5】電波方式のICタグを平面視で例示する説明図である。
【
図6】
図5のICタグを正面視で例示する説明図である。
【
図7】電磁結合方式のICタグを平面視で例示する説明図である。
【
図8】
図7のICタグを正面視で例示する説明図である。
【
図9】ICタグと検知器とが無線通信している状態をコンベヤベルトの断面視で例示する説明図である。
【
図10】コンベヤベルトの走行速度の経時変化を模式的に例示するグラフ図である。
【
図11】検知位置に対するICタグの位置と返信電波の受信信号強度との関係を模式的に例示するグラフ図である。
【
図12】ICタグの起動時の電気抵抗値とICタグの温度との相関関係を例示するグラフ図である。
【
図13】それぞれの検知位置でのコンベヤベルトの温度を例示する説明図である。
【
図15】
図15A、
図15Bは二種類のICタグのさらに別の配置パターンをコンベヤベルトの平面視で例示する説明図である。
【
図16】管理システムの別の実施形態が適用されたコンベヤ装置を側面視で例示する説明図である。
【
図17】
図16の検知器付近のコンベヤベルトを横断面視で例示する説明図である。
【
図18】
図17の検知器およびコンベヤベルトを平面視で例示する説明図である。
【
図19】
図18のICタグおよびセンサ部を平面視で例示する説明図である。
【
図20】
図19のICタグおよびセンサ部を正面視で例示する説明図である。
【
図21】
図19のセンサ部の変形例を平面視で例示する説明図である。
【
図22】
図21のセンサ部付きICタグが埋設されたコンベヤベルトの一部を拡大して横断面視で例示する説明図である。
【
図23】管理システムのさらに別の実施形態が適用されたコンベヤベルトを横断面視で例示する説明図である。
【
図24】
図23の検知器およびコンベヤベルトを平面視で例示する説明図である。
【
図25】
図24のセンサ部の変形例を平面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のコンベヤベルトの管理システムおよび方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1~
図4に例示するコンベヤベルトの管理システム1の実施形態は、コンベヤ装置10に装着されたコンベヤベルト13の状態を把握するために使用される。この管理システム1は、コンベヤベルト13に設置されるパッシブ型のICタグ2(2A、2B)と、検知器7(7A、7B、7C)と、検知器7に無線または有線を通じて通信可能に接続された演算装置8とを備えている。それぞれの検知器7からの発信電波R1に応じてICタグ2から返信される返信電波R2が検知器7によって受信される。
図1に例示するように、この実施形態では演算装置8はコンベヤ装置10の設置現場とは離れた位置(遠隔地)にあるコンピュータやスマートフォンなどの端末機器9(9a、9b、9c、9d)に対してインターネットなどの通信網を介して接続される構成になっている。
【0013】
コンベヤ装置10は、一対のプーリ11a、11bと、プーリ11a、11b間に配置された多数の支持ローラ12とを有している。コンベヤベルト13は、プーリ11a、11b間に張設され、プーリ11a、11b間では多数の支持ローラ12によって支持される。駆動プーリ11aを回転駆動することでコンベヤベルト13は走行する。図中の矢印Lはコンベヤベルト13の長手方向、矢印Wはコンベヤベルト13の幅方向を示している。
【0014】
コンベヤベルト13は、上カバーゴム16と、下カバーゴム17と、両者の間に配置された1層の心体層14とが加硫接着によって一体化されて構成されている。この実施形態では、心体層14は幅方向Wに横並びされた多数のスチールコード15で構成されている。コンベヤベルト13には必要に応じて他の部材が備わる。心体層14はスチールコード15に限らず、帆布により構成される場合もある。帆布により心体層14を構成する場合は、コンベヤベルト13に対する要求性能によって例えば4層~8層程度の帆布が心体層14として積層される。
【0015】
コンベヤ装置10のキャリア側では、コンベヤベルト13の下カバーゴム17が支持ローラ12によって支持されることで、コンベヤベルト13は幅方向Wの中央部が下方に突出したトラフ状になる。搬送物Cは上カバーゴム16の上面に投入、載置されて搬送される。コンベヤ装置10のリターン側では、コンベヤベルト13の上カバーゴム16が支持ローラ12によってフラットな状態で支持される。
【0016】
ICタグ2として、
図5、
図6に例示する電波方式のICタグ2Aと、
図7、
図8に例示する電磁結合方式のICタグ2Bの二種類が使用されている。それぞれのICタグ2A、2Bは、ICチップ3aとアンテナ部3bとを有している。そして、ICチップ3aには、そのICタグ2を他のICタグ2と識別する識別情報が記憶されている。ICチップ3aにはその他の情報を記憶させることもできるが、この実施形態管理では、少なくともICタグ2の識別情報がそのICチップ3aに記憶されていればよい。
【0017】
ICタグ2(2A、2B)は一般に流通している仕様でよく、RFIDタグの汎用品を用いることができる。ICタグ2(2A、2B)のサイズは例えば、面積は200mm2以上6000mm2以下、より好ましくは300mm2以上2700mm2以下であり、厚さは例えば0.01mm以上0.4mm以下、より好ましくは0.03mm以上0.15mm以下である。ICタグ2の耐熱温度は例えば250℃程度である。
【0018】
図5、
図6に例示する電波方式のICタグ2Aでは、ICチップ3aとアンテナ部3bとが導電体(配線)を介して接続されている。アンテナ部3bは、ICチップ3aからICチップ3aの外側両側に屈曲した状態で延在している。ICチップ3aおよびアンテナ部3bは基板4上に配置されていて、絶縁層5によって覆われている。検知器7からの発信電波R1をアンテナ部3bが受信し、発信電波R1によって発生した電力がアンテナ部3bとICチップ3aとを接続している導電体を通じてICチップ3aに供給されてICタグ2Aが起動する。この導電体を通じてICチップ3aとアンテナ部3bとの間の通信が行われる。
【0019】
図7、
図8に例示する電磁結合方式のICタグ2Bでは、ICチップ(ICモジュール)3aとアンテナ部3bとが間隔をあけて配置されていて、両者が非接触構造になっている。アンテナ部3bは、ICチップ3aの外周側全周を囲むループを有していて、このループからループの外側両側に屈曲した状態で延在している。ICチップ3a、アンテナ部3bはそれぞれ、絶縁層5によって覆われている。検知器7からの発信電波R1をアンテナ部3bが受信することでループ内に磁界が形成される。この磁界が形成されることで、ICチップ3a内部の渦巻きアンテナとアンテナ部3bとの間が電磁結合されて、発信電波R1によって発生した電力によってICタグ2Bが起動する。渦巻きアンテナ(ICチップ3a)とアンテナ部3bとの電磁結合によってICチップ3aとアンテナ部3bとの間の通信が行われる。
【0020】
この実施形態では
図3に例示するように、ICタグ2は下カバーゴム17に埋設されている。ICタグ2は、コンベヤベルト13の別に位置に設置されてもよく、例えば、上カバーゴム16や、複数の帆布が積層された心体層14の場合には心体層14に埋設された仕様にすることもできる。ICタグ2を搬送物Cなどから保護するには、上カバーゴム16に埋設されるよりも、下カバーゴム17や心体層14に埋設されることが望ましい。
【0021】
コンベヤベルト13を製造する際には、成形工程において未加硫の下カバーゴム17または未加硫の上カバーゴム16、或いは、帆布で構成される心体層14の中にICタグ2を配置して成形品を成形する。その後、この成形品を加硫することで、心体層14と上カバーゴム16と下カバーゴム17と一体化させたコンベヤベルト13にICタグ2が埋設される。
【0022】
ICタグ2をコンベヤベルト13に設置するには、上述のように、コンベヤベルト13の製造時にコンベヤベルト13に埋設しておく方法に限定されず、製造後のコンベヤベルト13に設置することもできる。例えば、製造したコンベヤベルト13の所望位置にICタグ2を配置した後、そのICタグ2をゴム材により覆って、そのゴム材とともにICタグ2をコンベヤベルト13に接合する。この接合には公知の接着剤や加硫接着を用いることができる。ICタグ2をコンベヤベルト13に後付けする方法を採用すると、既存のコンベヤベルト13にこの管理システム1を適用することが可能になる。
【0023】
コンベヤベルト13には、それぞれのICタグ2A、2Bが少なくとも1個、設置されていればよいが、長手方向Lに間隔をあけて複数のICタグ2が設置されていることが好ましい。それぞれのICタグ2は、例えば長手方向Lに5m以上20m以下の間隔TLをあけてコンベヤベルト13に埋設される。即ち、ICタグ2の設置ピッチTLは、5m以上20m以下の範囲にすることが好ましくて、例えば10m程度が適切である。それぞれのICタグ2の設置ピッチTLは等ピッチにするとよい。
【0024】
図9に例示するように検知器7は、コンベヤベルト13に設置されたICタグ2とは、コンベヤベルト13に非接触で無線通信する。検知器7は、発信部7sと受信部7rとを有している。発信部7sは、ICタグ2に向かって発信電波R1を発信する。受信部7rは、発信電波R1に応じてICタグ2(アンテナ部3b)から返信された返信電波R2を受信し、返信電波R2とともに送信されるICチップ3aに記憶されているそのICタグ2の識別情報を取得する。
【0025】
検知器7としては、パッシブ型のRFIDタグ等との間で無線通信を行うことができる一般に流通している仕様が採用される。ICタグ2と検知器7との間での無線通信に用いる電波の周波数は主にUHF帯(国によって異なるが860MHz以上930MHz以下の範囲、日本では915MHz以上930MHz)であり、HF帯(13.56MHz)が用いられることもある。電波方式のICタグ2Aと検知器7との無線通信、電磁結合方式のICタグ2Bと検知器7との無線通信はそれぞれ、同じ周波数で通信できるように調整、設定する。
【0026】
検知器7は、コンベヤ装置10において、コンベヤベルト13に近接した検知位置Pに配置される。検知器7は、少なくとも1箇所の検知位置Pに配置される。検知器7は、1箇所の検知位置Pだけに配置されるよりも長手方向L(例えば10m~30m程度)に間隔をあけた複数箇所の検知位置Pに配置されることが好ましい。検知器7は、幅方向に間隔をあけた複数箇所の検知位置Pに配置されることもある。
【0027】
検知器7はこの実施形態のように、コンベヤ装置10のキャリア側に配置される仕様に限定されず、リターン側に配置される仕様にすることも、キャリア側およびリターン側に配置される仕様にすることもできる。検知器7とアンテナ部3bとが最も近づいた時の両者の離間距離は例えば1m以内に設定される。即ち、アンテナ部3bが検知器7の近傍を通過した時に、検知器7とアンテナ部3bとの離間距離が1m以下になる検知位置Pに検知器7が設置される。この実施形態ではそれぞれの検知器7は、
図4に例示するようにコンベヤベルト13の幅方向W一端部に配置されている。検知器7の幅方向位置は、ICタグ2のコンベヤベルト13での幅方向位置に合わせることが好ましい。
【0028】
演算装置8としては、公知のコンピュータやコンピュータサーバが用いられる。演算装置8には、検知器7により検知、取得された情報が逐次入力される。演算装置8は、入力された種々の情報に基づいて様々な演算処理をする。演算装置8は、インターネットなどの通信網を介して接続されている所望の端末機器9(9a~9d)に対して、様々な情報(データ)を送信する送信機能も有している。
【0029】
次に、管理システム1を用いてコンベヤベルト13の状態として稼働状態を把握する方法の手順の一例を説明する。
【0030】
図9に例示するように、それぞれの検知器7(発信部7s)からICタグ2に向かって発信電波R1を発信する。それぞれのICタグ2は、コンベヤベルト13の走行によってそれぞれの検知器7に近接した際に発信電波R1をアンテナ部3bで受信し、この発信電波R1によってICタグ2が起動する。
【0031】
起動したICタグ2は、発信電波R1に応じて返信電波R2を検知器7に逐次返信する。この返信電波R2はアンテナ部3bを通じて、ICタグ2から検知器7に返信される。ICチップ3aに記憶されているそのICタグ2の識別情報は、返信電波R2を利用して検知器7に送信されて受信部7rによって受信される。したがって、検知器7は、返信電波R2を受信することでそのICタグ2の識別情報を逐次取得する。
【0032】
演算装置8は、入力された返信電波R2を利用してコンベヤベルト13の走行速度Vを算出する。即ち、演算装置8は検知器7による返信電波R2の受信時刻tに基づいてコンベヤベルト13の走行速度Vを算出する。そして、算出された走行速度Vの経時変化に基づいてコンベヤベルト13の稼働状態が把握される。走行速度Vは以下のように算出される。
【0033】
この実施形態では、長手方向Lに間隔をあけた複数の検知位置Pに検知器7が配置されているので、コンベヤベルト13が走行していると、それぞれの検知器7はICタグ2が近傍を通過した際に、そのICタグ2と無線通信をしてそのICタグ2の識別情報を取得する。取得されたそのICタグ2の識別情報は、その検知器7がそのICタグ2からの返信電波R2を受信した受信時刻tとともに演算装置8に記憶される。それぞれの検知器7は配置されている検知位置Pの長手方向Lの離間距離PLは予め判明しているので、この離間距離PLは演算装置8に入力されている。
【0034】
そこで、演算装置8は、長手方向Lに間隔をあけた少なくとも2箇所の検知位置Pに配置されたそれぞれの検知器7による同じICタグ2からの返信電波R2の受信時刻tとそれぞれの検知位置Pの離間距離PLとに基づいて走行速度Vを算出する。例えば、検知器7A、7Bの離間距離がPLであり、同じICタグ2からの返信電波R2の検知器7A、7Bによる受信時刻tがそれぞれt1、t2の場合は、そのICタグ2が検知器7Aから検知器7Bまで移動するために要した時間は(t2―t1)になるので、走行速度V=PL/(t2-t1)として算出される。
【0035】
走行速度Vの算出には、長手方向Lに隣り合う検知位置Pに配置された検知器7のデータ(検知器7Aと7Bのデータ、検知器7Bと7Cのデータ、検知器7Cと7Aのデータ)を用いることに限定されず、それぞれの検知位置Pから選択された2箇所の検知位置Pに配置されたそれぞれの検知器7のデータを用いることができる。したがって、検知器7Aと7Cのデータを用いてもよい。コンベヤベルト13は連続しているので、基本的には、任意の1区間(任意の2箇所の検知位置Pどうしの離間距離PL)での走行速度Vを算出すればよい。ただし、例えば、搬送物Cが投入される直前の区間と、搬送物Cが投入された直後の区間とでは、搬送物Cの重量や投入衝撃などに起因して走行速度Vが若干異なる場合があるので、複数区間での走行速度Vを算出するとよい。この算出方法では、離間距離PLが判明していればよく、コンベヤベルト13でのICタグ2の位置情報は不要なので、あらゆるコンベヤベルト13に容易に適用できる。
【0036】
他の方法によって走行速度Vを算出することもできる。この算出方法では、同一の検知位置Pに配置されている1個の検知器7を使用し、使用するそれぞれのICタグ2の設置ピッチTLを演算装置8に入力しておく。そして、この検知位置Pに配置された1個の検知器7により、設置ピッチTLで設置されたそれぞれのICタグ2からの返信電波R2を受信する。この検知器7によるそれぞれのICタグ2からの返信電波R2の受信時刻tと設置ピッチTLとに基づいて走行速度Vを算出する。
【0037】
例えば、2つのICタグ2が所定の設置ピッチTLで設置されていて、同一の検知位置Pに配置されている1個の検知器7によるそれぞれのICタグ2からの返信電波R2の受信時刻tがそれぞれt1、t2の場合は、コンベヤベルト13が設置ピッチTLの長さを移動するために要した時間は(t2―t1)になるので、走行速度V=TL/(t2-t1)として算出される。
【0038】
さらに、他の方法によって走行速度Vを算出することもできる。この算出方法では、同一の検知位置Pに配置されている1個の検知器7により、同じICタグからの返信電波R2をコンベヤベルト13の1周回毎に順次受信する。コンベヤベルト13の1周回毎にその検知器7により順次受信された返信電波R2の受信時刻tとコンベヤベルト13のベルト長BLとに基づいて走行速度Vを算出する。
【0039】
例えば、ベルト長BLであって、コンベヤベルト13の1周回毎に、同一の検知位置Pに配置されている検知器7により順次受信される同じICタグ2からの返信電波R2の受信時刻がそれぞれt1、t2の場合は、コンベヤベルト13の1周回(ベルト長BLの移動)に要する時間は(t2―t1)になるので、走行速度V=BL/(t2-t1)として算出される。この算出方法では、コンベヤベルト13のベルト長BLが判明している必要がある。
【0040】
演算装置8により算出された走行速度Vは、コンベヤベルト13の実際の稼働状況を反映している。即ち、走行速度Vがゼロの場合(限りなくゼロの場合も含む)は、コンベヤベルト13は稼働していない(走行していない)と判断できる。非常に稀ではあるが、或るICタグ2が或る検知位置P(検知器7)に近接した位置にある状態でコンベヤベルト13が停止した場合は、その検知器7はそのICタグ2からの返信電波R2を絶え間なく受信し続けることになる。そこで、同一の検知位置Pに配置されている検知器7が同じICタグ2から絶え間なく返信電波R2を受信し続ける場合もコンベヤベルト13は稼働してないと判断される。
【0041】
走行速度Vが概ね一定の場合は、コンベヤベルト13が定常稼働されていると判断できる。走行速度Vが一様に上昇している時はコンベヤベルト13が始動状態であり、一様に低下している時は稼働を停止する状態であると判断できる。
【0042】
そこで、
図10に例示するように、演算装置8により走行速度Vの経時変化のデータDVを出力し、データDVに基づいてコンベヤベルト13の累積稼働時間を算出する。
図10のデータDVを参照することで、コンベヤベルト13の実際の稼働状況(稼働の有無および走行速度Vの変化)を精度よく把握できる。コンベヤベルト13の実際の寿命Xは、コンベヤ装置10に装着してからの経過時間よりも累積稼働時間が大きく影響する。そのため、このデータDVを用いてコンベヤベルト13の実際の稼働時間(累積稼働時間)を把握することで、コンベヤベルト13の実際の寿命Xを精度よく把握するには有利になる。
【0043】
この実施形態では
図1に例示する構成が採用されているので、演算装置8は、通信網を通じてデータDVをコンベヤ装置10の設置現場に対して離れた位置にある端末機器9(9a、9b、9c、9d)に対して送信する。例えば、コンベヤ装置10の設置現場に対して遠隔地にあるコンベヤベルト13の運用会社(ユーザ)の管理室、コンベヤベルト13の販売会社、製造会社などの関係者の端末機器9にデータDVや算出された累積稼働時間を送信する。これにより、これら関係者はコンベヤゲルト13の使用場所に対して遠隔地に居ながらコンベヤベルト13の稼働状況を実質的にリアルタイムで把握することも可能になる。
【0044】
ICタグ2と検知器7とは、両者間の通信漏れを防止するために、通信頻度を高くする必要がある。例えば、ICタグ2と検知器7との通信頻度は3回~10回/秒に設定することで、走行速度Vが速くても検知器7がICタグ2からの返信電波R2を受信できないという不具合(通信漏れ)を回避する。一方で、この通信頻度を大きくすると、ICタグ2が検知位置Pを通過する際に、その1回の通過の間にその検知位置Pに配置されている検知器7とICタグ2とは複数回の無線通信を行う。即ち、それぞれの検知位置Pを同じICタグ2が通過する際に、その1回の通過の間に、その検知位置Pに配置された検知器7は、同じICタグ2からの返信電波R2を複数回受信する。
【0045】
コンベヤベルト13が走行することで、検知器7が配置されている検知位置Pに対してICタグ2が移動すると、
図11に例示するデータDRのように、検知位置Pにより近い位置で、ICタグ2とその検知位置Pに配置された検知器7とが無線通信する程、その検知器7が受信した返信電波R2の受信信号強度RSSIが高くなる。即ち、返信電波R2の受信信号強度RSSIが最も高い時にICタグ2は、その検知位置Pに対して最も近い位置に存在していると考えられる。
【0046】
そこで、検知位置Pを同じICタグ2が通過する際に、その検知位置Pに配置された検知器7がそのICタグ2からの返信電波R2を、その1回の通過の間に複数回受信する場合は、複数回受信した返信電波R2のうち受信信号強度RSSIが最も高い返信電波R2を受信した時刻を、その検知位置Pに配置された検知器7による受信時刻tとして採用する。このように採用した受信時刻tを用いることで、走行速度Vをより高精度で算出するには有利になる。
【0047】
上述した実施形態では返信電波R2を利用してコンベヤベルト13の稼働状態を把握したが、返信電波R2を利用してコンベヤベルト13の温度状態を把握することもできる。この場合は、
図13に例示するICタグ2が起動した時のICタグ2での電気抵抗値とICタグ2の温度との相関関係データRを予め把握しておく。詳述すると、この相関関係データRは、発信電波R1を受信することによりICタグ2が起動した時のICタグ2の電気回路での電気抵抗値と、ICタグ2の温度との関係を示すデータである。一般的に、ICタグ2の温度が高くなるに連れて、ICタグ2の電気回路での電気抵抗値は増大するので、
図12に例示するように相関関係データRは右上がりになる。
【0048】
この相関関係データRは演算装置8に入力されている。その他に、演算装置8には、それぞれのICタグ2のコンベヤベルト13における埋設位置データ(長手方向L、幅方向Wの位置データ)、コンベヤベルト13が異常加熱していると判断する基準温度(閾値)などが記憶されている。
【0049】
そして、
図2に例示するようにコンベヤベルト13の走行中に、それぞれの検知器7からICタグ2に向かって発信電波R1を発信する。それぞれのICタグ2は、それぞれの検知器7に近接した際に発信電波R1をアンテナ部3bで受信し、この発信電波R1によってICタグ2には電力が発生してICタグ2が起動する。ICタグ2が起動した時のICタグ2における電気回路での電気抵抗値のデータがICチップ3aの記憶部に記憶される。
【0050】
そして、ICタグ2は、発信電波R1に応じて返信電波R2を検知器7に逐次返信する。返信電波R2とともにICタグ2に記憶されている上述した電気抵抗値のデータやそのICタグ2の識別情報がICタグ2から検知器7に送信される。
【0051】
検知器7により取得されたデータは演算装置8に入力される。演算装置8は、入力されたそれぞれのICタグ2の電気抵抗値のデータと、相関関係データRとに基づいて、コンベヤベルト13のそれぞれのICタグ2が埋設されている位置の温度が算出される。即ち、演算装置8は検知器7から入力された電気抵抗値のデータを
図12に例示する相関関係データRに当てはめて、そのICタグ2の温度を算出する。算出されたICタグ2の温度は、コンベヤベルト13のそのICタグ2が埋設されている位置の温度としてみなすことができる。
【0052】
検知器7が、プーリ11a、11b間のコンベヤベルト13の長手方向Lに間隔をあけた複数の検知位置に配置されていて、ICタグ2がコンベヤベルト13の長手方向Lに間隔をあけた複数箇所に埋設されていると、走行しているコンベヤベルト13の長手方向Lの温度分布を把握することができる。さらに、ICタグ2がコンベヤベルト13の幅方向Wに間隔をあけた複数箇所に埋設されていると、走行しているコンベヤベルト13の幅方向Wの温度分布を把握することができる。
【0053】
コンベヤ装置10の支持ローラ12が正常に回転していて、コンベヤベルト13が定常走行している場合は、
図13において破線で例示する温度データDnのように、長手方向Lに間隔をあけたそれぞれの検知位置でのコンベヤベルト13の温度は概ね一定になる。一方、コンベヤ装置10のキャリア側のいずれかの支持ローラ12が回転不良であると、回転不良の支持ローラ12と走行するコンベヤベルト13との間の摩擦抵抗が増大して、コンベヤベルト13が異常に加熱される。或いは、コンベヤ装置10のフレーム類にコンベヤベルト13が接触した状態で走行すると、コンベヤベルト13が異常に加熱される。
【0054】
このようにコンベヤベルト13に異常加熱が生じている場合は、
図13に実線で例示する温度データDxのように、局部的に温度が上昇するデータになる。
図13の縦軸のコンベヤベルト13の温度は、上述したように演算装置8によって算出された温度である。
図13に例示するように、回転不良の支持ローラ12の近傍の検知位置やフレーム類とコンベヤベルト13との接触位置の近傍の検知位置でのコンベヤベルト13の温度は、その他の検知位置でのコンベヤベルト13の温度よりも高くなる。
【0055】
したがって、
図13に例示する温度データDxに基づいて、コンベヤベルト13の異常加熱が発生しているコンベヤ装置10の長手方向Lの位置を概ね特定することができる。即ち、温度データDxがピーク(最大値)になっている検知位置の近傍範囲では、支持ローラ12の回転不良やフレーム類とコンベヤベルト13との接触が発生していると推定できる。
【0056】
上述したように、この管理システム1では、コンベヤベルト13に設置されるパッシブ型のICタグ2として、電波方式のICタグ2Aおよび電磁結合方式のICタグ2Bの通信方式が異なる二種類が使用されている。一方のICタグ2Aと検知器7とが無線通信する際の通信特性と、他方のICタグ2Bと検知器7とが無線通信する際の通信特性と、には違いがある。例えば気温、湿度、外力(衝撃力)、搬送物Cの種類(物性)などの影響によって、一方のICタグ2Aと検知器7との無線通信が途切れ易くても、他方のICタグ2Bと検知器7との無線通信は途切れ難い場合があり、その逆の場合もある。
【0057】
そのため、様々な無線通信環境下であっても、二種類の通信方式のICタグ2A、2Bのうち少なくとも一方の通信方式のICタグ2からの返信電波R2を検知器7によって受信することが可能になる。換言すると、コンベヤベルト13の使用条件の違いに起因して生じる様々な無線通信環境下において、電波方式のICタグ2Aと検知器7との間、電磁結合方式のICタグ2Bと検知器7との間の両方が無線通信不能になるリスクは低い。それ故、検知器7によって返信電波R2を確実に受信し易くなるので、返信電波R2を利用して様々な使用条件下のコンベヤベルト13の状態をより確実に把握するには有利になる。
【0058】
図14、
図15に例示するように、それぞれの通信方式のICタグ2A、2Bは、コンベヤベルト13に対して様々なパターンで設置することができる。
図14、
図15では、それぞれのICタグ2A、2Bを区別し易くするために、電磁結合方式のICタグ2Bには斜線を付している。
図14(A)は、異なる通信方式のICタグ2A、2Bが長手方向および幅方向に交互に配置されている。
図14(B)では、同じ通信方式のICタグ2A、2Bが幅方向に一列に配置されて、この列が長手方向に交互に配置されている。
図4(C)では、同じ通信方式のICタグ2A、2Bが長手方向に一列に配置されて、この一列が幅方向に交互に配置されている。
図4(D)では、幅方向のそれぞれの一列には異なる通信方式のICタグ2A、2Bの両方が混在してランダムに配置されている。
【0059】
図15(A)、(B)では、長手方向のある程度の範囲(この実施形態では長手方向にICタグ2の3個分の配置範囲)が1単位になっていて、配置パターンが異なる1単位が長手方向に交互に配置されている。
図15(A)では、一方の通信方式のICタグ2Aだけが配置されている1単位と、他方の通信方式のICタグ2Bだけが配置されている1単位とが、長手方向に交互に配置されている。
図15(B)では、それぞれの通信方式のICタグ2A、2Bが配置されていて一方の通信方式のICタグ2Aの割合が多い1単位と、それぞれの通信方式のICタグ2A、2Bが配置されていて他方の通信方式のICタグ2Bの割合が多い1単位とが、長手方向に交互に配置されている。
【0060】
図14、
図15に例示したように、それぞれのICタグ2A、2Bの配置パターンは多数あるが、コンベヤ装置10によっては検知器7の設置スペースが限定される場合がある。例えば、コンベヤベルト13の幅方向一端部に相当する範囲のみに検知器7が設置できるコンベヤ装置10の場合は、コンベヤベルト13の幅方向一端部には、異なる通信方式のICタグ2A、2Bが混在する配置パターンが採用される。換言すると、コンベヤベルト13の幅方向一端部には、同じ通信方式のICタグ2A、2Bだけ配置される配置パターンは採用されない。このようにコンベヤ装置10での検知器7の設置位置を考慮しつつ、把握する事項(コンベヤベルト13の稼働状態、摩耗状態、温度状態、縦裂きの有無など)や搬送物Cの特性などが考慮されて、両方の通信方式のICタグ2A、2Bと通信器7との安定した無線通信を確保し易い配置パターンが決定される。
【0061】
後述する管理システム1のそれぞれの実施形態でも、ICタグ2として通信方式が異なる二種類のICタグ2A、2Bが採用される。また、後述する管理システム1のそれぞれの実施形態では、上述した様々なアレンジ、仕様を採用することができる。
【0062】
図16~
図18に例示する管理システム1の別の実施形態は、コンベヤベルト13の状態として表面の摩耗状態を把握する。
図18では、スチールコード15を一部の範囲で省略して記載している。この実施形態では上カバーゴム16の表面の摩耗状態を把握するためにセンサ部6は上カバーゴム16に埋設されているが、下カバーゴム17の表面の摩耗状態を把握する場合は、センサ部6は下カバーゴム17に埋設される。
【0063】
この管理システム1は、先の実施形態と同様にICタグ2と、検知器7と、演算装置8とを備えている。ただし、
図19、
図20に例示するようにICタグ2には線状のセンサ部6が接続されている構成が先の実施形態との相違点である。ICタグ2(2A、2b)は先の実施形態と同様であり、ICタグ2の全体は絶縁層5により被覆されている。
【0064】
センサ部6は、接続されたICタグ2の外部でコンベヤベルト13の所望の範囲に延在してループ回路を形成している。センサ部6(ループ回路)のコンベヤベルト13の表面からの埋設深さ(当初埋設深さ)は予め設定されている。この実施形態では、センサ部6は上カバーゴム16に埋設されているので上カバーゴム16の表面からの埋設深さ(当初埋設深さ)が予め設定されている。上カバーゴム16の摩耗を許容できる深さ(摩耗限度深さ)があるので、センサ部6の埋設深さは例えば、この摩耗限度深さに設定される。センサ部6が下カバーゴム17に埋設される場合は、下カバーゴム17の表面からの埋設深さ(当初埋設深さ)が予め設定される。
【0065】
センサ部6は、導電性を有する線状体であり、例えば、導電ゴム、導電ペーストまたは金属線などの公知に材料により形成される。センサ部6の外径(幅)は例えば0.5mm~2.0mm程度である。センサ部6は、単純な断面円形の線材でもよいが、扁平した線状体(帯状の線材)にすることもできる。センサ部6は、絶縁層5により被覆されていて外部と電気的に絶縁されている。
【0066】
センサ部6の長手方向一端部と他端部とはそれぞれ、ICチップ3aと通電可能に接続されている。ICタグ2には、ICチップ3aに接続された多数の一対の端子が設けられている。センサ部6の長手方向一端部と他端部とはそれぞれ、この一対の端子に接続されることでICチップ3aと電気的に接続されている。センサ部6と一対の端子とは、ハトメおよび圧着端子を用いて接続され、或いは、導電性接着剤、溶接、ハンダなどで接続される。この実施形態では、一対の端子が5つ設けられているが、ICタグ2に設けられる一対の端子の数は特に限定されず1個でもよい。スペースの制約があるため、1つのICタグ2に設けられる一対の端子の数は、例えば1個~6個程度である。
【0067】
センサ部6は、平面視で摩耗状態を把握したい範囲に相当する位置に延在させ、ICタグ2はコンベヤベルト13の幅方向端部に埋設することが好ましい。この実施形態では、コンベヤベルト13の幅方向一方端部にICタグ2が埋設されていて、センサ部6が心体層14の幅方向一方端部から他方端部まで延在している。
【0068】
コンベヤベルト13の表面の摩耗状態は、長手方向Lについてはコンベヤベルト13の全長に渡って概ね同様になる。センサ部6が接続されたICタグ2は、コンベヤベルト13の長手方向Lに間隔をあけた複数箇所に埋設される。
【0069】
コンベヤベルト13の表面の摩耗状態は、幅方向Wについては違いが大きいので、センサ部6は心体層14の全幅を網羅するように延在させるとよい。或いは、上カバーゴム16では、幅方向Wの中央部が最も摩耗し易いので、この幅方向Wの中央部を少なくとも網羅するようにセンサ部6を延在させることもできる。
【0070】
演算装置8には、センサ部6の上カバーゴム16の表面からの埋設深さ(当初埋設深さ)が、そのセンサ部6を特定するセンサ識別情報と紐付けされて記憶されている。センサ部6が下カバーゴム17に埋設されている場合は、下カバーゴム17の表面からの埋設深さ(当初埋設深さ)がそのセンサ部6のセンサ識別情報と紐付けされて演算装置8に記憶される。さらに、演算装置8には、それぞれのICタグ2のコンベヤベルト13における埋設位置情報(少なくとも長手方向Lの位置データ)が、それぞれのICタグ2の識別情報と紐付けられて記憶されている。それぞれのセンサ部6の接続されているICタグ2に対する位置情報(長手方向Lや幅方向Wの位置データ)を、それぞれのセンサ識別情報と紐付けて演算装置8に記憶することもできる。
【0071】
次に、この管理システム1を用いてコンベヤベルト13の状態として摩耗状態を把握する方法の手順の一例を説明する。
【0072】
図16~
図18に例示するようにコンベヤベルト13の走行中に、検知器7は、検知器7の前(正面)を通過するICタグ2に向かって発信部7sから発信電波R1を発信する。ICタグ2は発信電波R1を受信すると、この発信電波R1に応じて返信電波R2を受信部7rに発信する。
【0073】
センサ部6が健全であれば、アンテナ部3bで受信された発信電波R1によってICチップ3aに電気が入力されて起動する。ICチップ3aが起動すると、電気がセンサ部6の一端部から他端部に流れてICチップ3aに入力される。これにより、ICチップ3aでは、センサ部6(ループ回路)が通電したことが把握される。そして、ICチップ3aに記憶されているICタグ2の識別情報と、接続されているセンサ部6のセンサ識別情報とが呼び出される。そして、アンテナ部3bから返信電波R2が発信される際に、呼び出されたICタグ2の識別情報およびセンサ識別情報が返信電波R2によって送信されて受信部7rに受信される。
【0074】
受信部7rはこの返信電波R2を受信することで、返信電波R2によって送信されたICチップ3aからのデータ(ICタグ2の識別情報およびセンサ識別情報)を取得する。検知器7により取得されたデータ(ICタグ2の識別情報およびセンサ識別情報)は演算装置8に入力される。演算装置8では、入力されたそれぞれのICタグ2の識別情報を用いて、予め記憶されているその識別情報に紐付けされたそのICタグ2のコンベヤベルト13での埋設位置情報が特定される。また、入力されたセンサ部6のセンサ識別情報を用いて、予め記憶されているそのセンサ識別情報に紐付けされたそのセンサ部6の埋設深さが特定される。
【0075】
検知器7から演算装置8にセンサ識別情報が入力されると、そのセンサ識別情報のセンサ部6は健全であり、このセンサ部6(ループ回路)は通電していると演算装置8により判断される。そして、そのセンサ部6の埋設深さは判明しているので、このセンサ部6の埋設範囲ではそのセンサ部6の埋設深さまで摩耗が進行していないと演算装置8により判断される。また、このセンサ部6が接続されているICタグ2のコンベヤベルト13での埋設位置情報が特定されているので、そのセンサ部6の埋設深さまで摩耗が進行していないと判断された範囲が、概ねそのICタグ2の埋設位置の近傍であることが把握できる。
【0076】
センサ部6の埋設深さまで上カバーゴム16が摩耗した場合は、そのセンサ部6が表面に露出し、まもなくセンサ部6が破断する。センサ部6が破断した場合、アンテナ部3bで受信された発信電波R1によってICチップ3aに電気が入力されて起動しても、センサ部6には電気が流れないので、ICチップ3aでは、センサ部6が通電していないことが把握される。そのため、ICチップ3aに記憶されているICタグ2のタグ識別情報は呼び出されても、接続されているセンサ部6のセンサ識別情報は呼び出されない。そして、アンテナ部3bから返信電波R2が発信される際に、呼び出されたICタグ2の識別情報は返信電波R2によって送信されて受信部7rに受信されるが、接続されているセンサ部6のセンサ識別情報は受信部7rに受信されることはない。
【0077】
即ち、検知器7により取得されたデータ(ICタグ2の識別情報)は演算装置8に入力されて、演算装置8では、入力されたそれぞれのICタグ2の識別情報を用いて、予め記憶されているその識別情報に紐付けされたそのICタグ2のコンベヤベルト13での埋設位置情報が特定される。しかし、そのICタグ2に接続されているセンサ部6のセンサ識別情報は存在しないので、そのセンサ部6は破損していると判断される。即ち、この場合はそのセンサ部6が埋設されている範囲では、センサ部6の埋設深さまで摩耗が進行していると演算装置8により判断される。
【0078】
接続されているセンサ部6のセンサ識別情報が取得できないICタグ2のコンベヤベルト13での埋設位置情報が特定されているので、そのICタグ2の埋設位置の近傍で実際に上カバーゴム16が摩耗限度深さまで摩耗していることを確認できる。このようにして、コンベヤベルト13の摩耗状態は、センサ部6による検知データ(センサ部6が通電しているか否かのデータ)に基づいて把握される。
【0079】
センサ部6を単純な断面円形の細線材にすると、鋭利な搬送物Cがコンベヤベル13に投入された時に、その搬送物Cの鋭利な部分でセンサ部6が切断されることがある。そうすると、そのセンサ部6の埋設深さまで摩耗が進行していなくても、そのセンサ部6が破断しているので、演算装置8によってその埋設深さまで摩耗が進行していると判断されて誤検知となる。
【0080】
そこで、センサ部6として、扁平した線状体(帯状の線材)を用いるとよい。平面視で帯状のセンサ部6を用いることで、上述した誤検知を回避するには有利になる。扁平したセンサ部6の幅は例えば5mm~10mm程度にする。
【0081】
図21に例示するセンサ部6付きのICタグ2を用いることもできる。このICタグ2は、1個のICタグ2に対して複数本(5本)のセンサ部6a~6eが接続されている。それぞれのセンサ部6a~6eの外周面は絶縁層5により被覆されている。それぞれのセンサ部6a~6eは、独立したループ回路を形成している。したがって、1個のICタグ2には独立したセンサ部6(ループ回路)が複数(5つ)接続されている。
【0082】
図22に例示するコンベヤベルト13には、ICタグ2は、独立したそれぞれのセンサ部6a~6eが、コンベヤベルト13の厚さ方向(深さ方向)に間隔をあけた状態で埋設されている。独立したそれぞれのセンサ部6a~6eの厚さ方向(深さ方向)の埋設間隔は、例えば0.5mm以上2mm以下の範囲にして、それぞれを等間隔にするとよい。最も深い位置に埋設されるセンサ部6eの埋設深さは摩耗限度深さにするとよい。
【0083】
このICタグ2を用いると、上カバーゴム16の摩耗が進行するに連れて、順次、センサ部6a、6b、6c、6d、6eが損傷して通電しなくなる。それ故、このICタグ2を用いることで、上カバーゴム16の摩耗の進行状態をより詳細に把握することができる。
【0084】
図16~
図18に例示する管理システム1の実施形態は、コンベヤベルト13の状態として、コンベヤベルト13の長手方向Lに延在する亀裂(いわゆる縦裂き)の発生の有無を把握することもできる。即ち、コンベヤベルト13に縦裂きが発生して、センサ部6が破断すると、上述したように上カバーゴム16が摩耗してセンサ部6が破断した場合と同様、ICタグ2の識別情報は返信電波R2によって送信されて受信部7rに受信されるが、そのICタグ2に接続されているセンサ部6のセンサ識別情報は受信部7rに受信されることはない。したがって、検知器7によるセンサ識別情報の取得の有無によって、縦裂きの発生の有無を把握できる。
【0085】
図23~
図24に例示する管理システム1の別の実施形態に基づいて、コンベヤベルト13の縦裂きの発生の有無を把握する方法を詳述する。
【0086】
図24に例示するように、センサ部6が接続されたICタグ2は、長手方向Lに間隔P(埋設ピッチP)をあけてコンベヤベルト13に多数埋設される。この実施形態では、コンベヤベルト13の幅方向一方端部にそれぞれのICタグ2が埋設されていて、センサ部6(ループ回路)が心体層14の幅方向一端部から他方端部まで延在している。それぞれのICタグ2は、幅方向一方端部と幅方向他方端部とに分散して(例えば千鳥配置で)埋設することもできる。
【0087】
この実施形態では、検知器7はコンベヤ装置10のリターン側に配置されているがキャリア側に配置することもできる。演算装置8には、それぞれのICタグ2のコンベヤベルト13における埋設位置情報(少なくとも長手方向Lの位置データ)が、それぞれのICタグ2の識別情報と紐付けられて記憶されている。さらに、ICタグ2に対するそれぞれのセンサ部6の延在している位置情報(少なくとも長手方向Lの位置データ)が、それぞれのセンサ部6を特定するセンサ識別情報と紐付けられて演算装置8に記憶されている。
【0088】
縦裂きの発生の有無を把握する際には、コンベヤベルト13の走行中に、検知器7は、検知器7の前(正面)を通過するICタグ2に向かって発信部7sから発信電波R1を発信する。ICタグ2は発信電波R1を受信すると、この発信電波R1に応じて返信電波R2を受信部7rに発信する。返信電波R2は受信部7rにより受信されて演算装置8に入力される。
【0089】
センサ部6(ループ回路)が健全であれば、それぞれのICタグ2のアンテナ部3bからの返信電波R2によって、そのICタグ2の識別情報およびセンサ部6のセンサ識別情報が送信されて受信部7rに受信される。演算装置8では、入力されたICタグ2の識別情報およびセンサ部6のセンサ識別情報に基づいて、このセンサ部6(ループ回路)は通電していると判断され、このセンサ部6の埋設範囲ではコンベヤベルト13の縦裂きが発生していないと判断される。
【0090】
コンベヤベルト13に縦裂きが発生してセンサ部6(ループ回路)が破断すると、そのセンサ部6が接続されているICタグ2のアンテナ部3bで受信された発信電波R1によってICタグ2が起動してもセンサ部6には電気が流れない。そのため、そのICタグ2のICチップ3aでは、センサ部6が通電していないことが把握される。そのため、ICチップ3aに記憶されているICタグ2の識別情報は呼び出されても、そのセンサ部6のセンサ識別情報は呼び出されない。そして、アンテナ部3bから返信電波R2が発信される際に、呼び出されたICタグ2の識別情報は返信電波R2によって送信されて受信部7rに受信されるが、そのセンサ部6のセンサ識別情報は受信部7rに受信されることはない。演算装置8には、ICタグ2に接続されているセンサ部6のセンサ識別情報が入力されないので、そのセンサ部6は破損していると判断される。
【0091】
尚、縦裂きの発生などによってICタグ2が破損している場合は、発信部7sから発信電波R1をICタグ2に発信しても、受信部7rはそのICタグ2の識別情報もそのICタグ2に接続されているセンサ部6のセンサ識別情報も受信しない。この場合は、演算装置8は、コンベヤベルト13に異常が生じていると判断する。
【0092】
図21に例示するセンサ部6付きのICタグ2を、
図25に例示するようにコンベヤベルト13に設置することもできる。このICタグ2は、独立したそれぞれのセンサ部6a~6eが、コンベヤベルト13の長手方向Lに間隔をあけた状態で埋設される。尚、
図25では、スチールコード15を一部の範囲で省略して記載している。独立したそれぞれのセンサ部6a~6eの長手方向Lの埋設間隔は、例えば1m以上3m以下の範囲にして、それぞれを等間隔にするとよい。
【0093】
上述したように、センサ部6が接続されたICタグ2をコンベヤベルト13に設置した管理システム1を用いることで、センサ部6による検知データに基づいて、コンベヤベルト13の温度状態、摩耗状態、縦裂きの発生状態の三項目のうち、少なくとも一項目を演算装置8によって把握することができる。尚、センサ部6は実施形態で例示した形態に限定されずに、例えば、そのセンサ部6と同様の機能を有する公知のセンサを用いることもできる。
【符号の説明】
【0094】
1 管理システム
2 ICタグ
2A 電波方式のICタグ
2B 電磁結合方式のICタグ
3a ICチップ
3b アンテナ部
4 基板
5 絶縁層
6(6a、6b、6c、6d、6e) センサ部
7(7A、7B、7C) 検知器
7s 発信部
7r 受信部
8 演算装置
9(9a、9b、9c、9d) 端末機器
10 コンベヤ装置
11a、11b プーリ
12 支持ローラ
13 コンベヤベルト
14 心体層
15 スチールコード
16 上カバーゴム
17 下カバーゴム
C 搬送物
【要約】
【課題】様々な使用条件下のコンベヤベルトの状態をより確実に把握できるコンベヤベルトの管理システムおよび方法を提供する。
【解決手段】パッシブ型のICタグ2として電波方式のICタグ2Aと電磁結合方式のICタグ2Bをコンベヤベルト13に設置し、コンベヤ装置10に装着されているコンベヤベルト13の各ICタグ2A、2Bに向かって検知器7から発信した発信電波R1に応じて各ICタグ2A、2Bから返信される返信電波R2を検知器7によって受信し、返信電波R2を利用してコンベヤベルト13の稼働状態が演算装置8よって把握され、或いは、各ICタグ2A、2Bに接続されたセンサ部6による検知データを返信電波R2によってICタグ2A、2Bから検知器7に送信して演算装置8に入力し、検知データに基づいてコンベヤベルト13の状態が演算装置8によって把握される。
【選択図】
図9