(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】加熱用光源装置
(51)【国際特許分類】
H10H 20/858 20250101AFI20241225BHJP
【FI】
H01L33/64
(21)【出願番号】P 2021078946
(22)【出願日】2021-05-07
【審査請求日】2024-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆博
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-065127(JP,A)
【文献】特開2009-295953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00
H01L 33/48-33/64
H01L 21/26-21/479
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光素子を含む発光素子領域を複数有すると共に、前記発光素子領域同士が相互に離間して配置された光源部と、
前記光源部に接触して配置された冷却ユニットと、
前記冷却ユニットの内部に形成され、前記冷却ユニットの内部で相互に独立して配置された複数の冷却流路と、
複数の前記冷却流路のそれぞれの一端部に連結された第一主流路と、
複数の前記冷却流路のそれぞれの他端部に連結された第二主流路とを備え、
複数の前記冷却流路のそれぞれが、複数の前記発光素子領域に対応する前記冷却ユニットの内部位置に形成されて
おり、前記冷却ユニットの主面と直交する方向から見たときに、前記発光素子領域の中央部側から徐々に周端部側に向かうように渦巻形状を呈していることを特徴とする加熱用光源装置。
【請求項2】
前記光源部が、前記発光素子領域ごとに分割された複数の発光素子基板を有し、前記発光素子基板を前記発光素子基板の主面と直交する方向から見たときに、前記発光素子基板と前記冷却流路の少なくとも一部とが重複していることを特徴とする請求項1に記載の加熱用光源装置。
【請求項3】
前記光源部が載置される前記冷却ユニットの主面と直交する方向から見たときの前記冷却流路の流路幅は、前記流路幅をw、前記複数の発光素子の長辺の長さの平均値をc、前記冷却ユニットの主面と直交する方向に関する、前記冷却ユニットの主面と前記冷却流路との離間距離をdとしたときに、下記(1)式を満たすことを特徴とする請求項
1に記載の加熱用光源装置。
1mm≦w≦c+2d (1)
【請求項4】
前記冷却ユニットは、前記光源部が載置される主面と直交する方向から見たときに、複数の冷却部材に分割されており、それぞれの前記冷却部材の内部に、前記冷却流路が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の加熱用光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源装置に関し、特に、光照射によって照射対象物を加熱するための加熱用光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスでは、半導体ウェハ等の被処理基板に対して、成膜処理、酸化拡散処理、改質処理、アニール処理といった様々な熱処理が行われ、これらの処理は、非接触での処理が可能な光照射による加熱処理方法が多く採用されている。
【0003】
LED素子は、供給される電流が同じであっても、温度によって特性が変動し、高温になるほど、輝度が低下するという特徴を有する。このため、LED素子が加熱用の光源として用いられる装置の多くは、LED素子がより高い輝度を維持するために、LED素子が搭載される基板(発光素子基板)に接触するように、空冷用のヒートシンクや水冷用の流路が設けられている。
【0004】
特に、半導体ウェハの加熱処理のような、高出力が要求され、多数のLED素子が用いられる光照射装置に関しては、一般的に空冷式よりも排熱性能が高い水冷式の冷却機構が採用される。例えば、下記特許文献1には、LED素子を加熱用光源とし、流路内に冷却媒体を通流させることで、当該LED素子を冷却する冷却機構が構成されたアニール装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、半導体製造プロセスに用いられる半導体ウェハに光を照射する装置は、半導体ウェハ全体が均一に処理されるように、被処理基板の表面(特に主面)全体にわたって同じ強度の光を照射できることが期待されている。また、半導体ウェハ以外の被処理基板(例えば、ガラス基板)を加熱処理する場合であっても、加熱ムラが生じることは好ましくないため、同様に被処理基板の表面全体にわたって均一な光を照射できることが期待されている。
【0007】
そこで、本発明者は、半導体ウェハ等の被処理基板全体にわたってより均一な光を照射できる光照射装置について鋭意検討したところ、以下のような課題が存在することを見出した。
【0008】
上記特許文献1に記載のアニール装置は、被処理基板よりも広い範囲にわたって配置されたLED素子によって加熱源が構成されており、LED素子を冷却するための冷却媒体が供給配管から流路に供給され、流路を通流して排出配管から排出される構成とされている。
【0009】
当該アニール装置は、被処理基板の表裏双方の主面に対しても加熱光を照射できるように、二つの加熱源が形成されており、それぞれの加熱源に冷却機構が搭載されている。そして、それぞれの冷却機構は、一つの供給配管から一つの流路に対して冷却媒体が供給され、一つの排出配管から排出されるように構成されている。
【0010】
LED素子で発生した熱を吸収しながら流路内を通流する冷却媒体は、下流に向かうほど、吸収した熱によって温度が高くなる。したがって、冷却媒体が通流する流路の下流側の領域に配置されるLED素子は、流路の上流側の領域に配置されるLED素子よりも冷却媒体によって熱が吸収されにくい。
【0011】
つまり、単に冷却媒体を通流させる流路を構成した冷却機構では、冷却媒体が通流する流路の上流側の領域に配置されたLED素子と、下流側の領域に配置されたLED素子とで、大きな温度差が生じてしまう。その結果、配置された領域に応じて、LED素子ごとに輝度ムラが生じてしまい、被処理基板の被照射面において照射ムラが発生してしまう。
【0012】
また、LED素子等の半導体発光素子は、冷却が不十分で高温状態が長時間維持されると、十分に冷却されている素子と比較して劣化の進行が早くなり、寿命が短くなってしまう。つまり、上記構成のアニール装置では、使用しているうちにLED素子ごとに劣化の進行に差が生じるため、徐々に照射ムラや加熱ムラが進展してしまう。
【0013】
なお、許容できない照射ムラや加熱ムラが生じた時点で、LED素子全部を交換することも考えられるが、このような対応では、まだ劣化があまり進んでいないLED素子も含めての交換となり、装置を維持するためのコストが増大してしまう。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑み、発光素子から被処理基板に照射される光の照射ムラが抑制された加熱用光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の加熱用光源装置は、
複数の発光素子を含む発光素子領域を複数有すると共に、前記発光素子領域同士が相互に離間して配置された光源部と、
前記光源部に接触して配置された冷却ユニットと、
前記冷却ユニットの内部に形成され、前記冷却ユニットの内部で相互に独立して配置された複数の冷却流路と、
複数の前記冷却流路のそれぞれの一端部に連結された第一主流路と、
複数の前記冷却流路のそれぞれの他端部に連結された第二主流路とを備え、
複数の前記冷却流路のそれぞれが、複数の前記発光素子領域に対応する前記冷却ユニットの内部位置に形成されていることを特徴とする。
【0016】
本明細書における「発光素子領域」とは、複数の発光素子が密集して配置されている領域であって、具体的には、発光素子のピッチが2mm以下となるように配置された発光素子群の外縁を結ぶ線で囲まれた領域をいう。なお、本明細書における「発光素子のピッチ」とは、発光素子同士の中心間距離である。
【0017】
また、本明細書において「冷却流路が、発光素子領域に対応する冷却ユニットの内部位置に形成されている」とは、冷却流路が、どの発光素子領域を冷却対象とするのかが区別できるように冷却ユニットの内部に形成されていることをいう。なお、一つの発光素子領域を冷却対象とする冷却流路の数は、必ずしも一つである必要はなく、複数であっても構わない。
【0018】
また、本明細書において「光源部に接触して配置された冷却ユニット」とは、冷却ユニットと光源部とが、直接接触するように配置されている場合の他に、熱伝導性を高めるためのグリス等を介して、熱的に接触するように配置されている場合も含まれる。なお、光源部は、発光素子基板上に複数の発光素子が載置された構成が典型的な構成であるが、例えば、発光素子基板の発光素子が載置された面とは反対側の面に、高熱伝導性シート等がさらに設けられていても構わない。
【0019】
冷却流路は、冷却媒体を通流させるために冷却ユニット内に設けられた流路である。冷却媒体は、第一主流路から冷却ユニットに掲載された複数の冷却流路に流し込まれる。そして、それぞれの冷却流路を通流した冷却媒体は、第二主流路へと流れ込み、光源装置の外部へと排出される。つまり、冷却ユニットに形成された複数の冷却流路が、第一主流路と第二主流路との間で、並列に形成される。
【0020】
上記構成とすることで、冷却媒体は、発光素子領域に対応したそれぞれの冷却流路に対して、第一主流路から直接供給されるため、各発光素子領域に対応した冷却流路に、まだほとんど熱を吸収していない状態で供給される。したがって、冷却媒体が発光素子領域から熱を吸収した状態で、別の発光素子領域の熱を吸収するための冷却流路に供給されることがないため、各発光素子領域の温度バラつきが抑制される。
【0021】
そして、各発光素子領域の温度バラつきが抑制されるため、発光素子の輝度のバラつきが抑制され、被処理基板に対する加熱光の照射ムラが抑制される。
【0022】
光源部は、単一の発光素子基板を有していても構わないし、複数の発光素子基板を有していても構わない。後者の場合、各発光素子基板が、基板の面に平行な方向に離間して配置されると共に、それぞれの発光素子基板上に搭載されている複数の発光素子を含む領域が、異なる発光素子領域を形成するものとして構わない。
【0023】
上記加熱用光源装置は、
前記光源部が、前記発光素子領域ごとに分割された複数の発光素子基板を有し、前記発光素子基板を前記発光素子基板の主面と直交する方向から見たときに、前記発光素子基板と前記冷却流路の少なくとも一部とが重複するように構成されていても構わない。
【0024】
上記構成とすることで、各発光素子領域で発生した熱が、発光素子基板の載置面と平行な方向に拡散しにくくなり、それぞれの冷却流路は、対応していない発光素子領域で発生する熱の吸収が抑制される。したがって、それぞれの冷却流路が、対応する発光素子領域で発生する熱を重点的に吸収して冷却することができ、一部の発光素子領域において冷却が不十分となってしまうことが抑制される。
【0025】
上記加熱用光源装置は、
前記冷却流路は、前記冷却ユニットの主面と直交する方向から見たときに、前記発光素子領域の中央部側から徐々に周端部側に向かうように渦巻形状を呈していても構わない。
【0026】
冷却流路内を通流する冷却媒体は、冷却流路の内壁面との間で熱交換を行うことで、発光素子で発生して冷却ユニット内を伝搬する熱を吸収する。このため、より効率的に発光素子基板を冷却するためには、冷却媒体が冷却流路の内壁面との間でより多くの熱交換が行われるように、冷却流路の内壁面全体の表面積を大きくする必要がある。
【0027】
また、発光素子基板は、周縁部側に比べて、発光素子で発生した熱が放熱されにくい中央部側の方が高温になりやすい。このため、冷却流路は、冷却媒体が発光素子領域の中央部側でより多くの熱を吸収できるように、発光素子領域の中央部側から徐々に周端部側に向けて通流するように形成されていることが好ましい。
【0028】
そこで、上記構成とすることで、一方向に通流するだけの冷却流路が形成されているような場合と比較すると、冷却流路の内壁面全体の表面積が大きくなり、発光素子領域の中央部側を重点的に冷却することができる。したがって、発光素子領域全体の温度分布が平均化される。
【0029】
さらに、上記加熱用光源装置において、
前記光源部が載置される前記冷却ユニットの主面と直交する方向から見たときの前記冷却流路の流路幅は、前記流路幅をw、前記複数の発光素子の長辺の長さの平均値をc、前記冷却ユニットの主面と直交する方向に関する、前記冷却ユニットの主面と前記冷却流路との離間距離をdとしたときに、下記(1)式を満たすように構成されていても構わない。
1mm≦w≦c+2d (1)
【0030】
なお、冷却流路は、冷却ユニットの主面と直交する方向から見たときに、発光素子領域の中央部側から徐々に周端部側に向かって通流するように渦巻形状を呈している場合、発光素子領域に配置されている発光素子のそれぞれを冷却するために、発光素子の配置パターンに沿うように形成されていることが好ましい。
【0031】
冷却ユニットにおいて、流路表面積が広くなるように冷却流路が構成されていても、冷却流路が発光素子から離れすぎると、冷却ユニットが持つ熱抵抗の影響が大きくなり、冷却性能が低下してしまう。このため、冷却流路の表面積、特に冷却流路の流路幅wは、冷却流路と発光素子との離間距離dを考慮して調整されることが好ましい。
【0032】
発光素子で発生した熱が冷却流路に到達するまでの間に冷却ユニットの内部で拡がる幅は、「発明を実施するための形態」において、
図5Bを参照しながら説明されるが、冷却ユニットの内部を等方的に拡散すると仮定するとc+2dとなる。つまり、発光素子領域の温度分布を平均化するには、冷却流路の流路幅が、c+2d以下であることが好ましく、冷却性能を向上させるには、冷却流路は、発光素子の直下に形成されていることが特に好ましい。
【0033】
ただし、冷却ユニットは、流路幅が1mm未満の非常に狭い冷却流路を形成しようとすると、高精度な加工が可能な加工装置や加工技術が必要となり、製造コストが増大する。したがって、製造コストを抑え、かつ、効率良く冷却するためには、冷却流路の幅wは、上記(1)式に示す範囲とすることが好ましい。
【0034】
また、あくまで実施例を模した所定の条件における理論計算ではあるが、流路幅が1mm以上5mm以下の範囲で、流路幅に対する冷却流路の内壁面と冷却媒体との温度差(以下、「壁面温度差」と称する)の変動が小さいという結果が得られる。この結果からも、冷却流路の流路幅は、流路幅の変動に対して急激に排熱効率が悪化するというおそれが少ない1mm以上とすることが好ましい。詳細については「発明を実施するための形態」の項目において、
図6を参照しながら詳述される。
【0035】
なお、上記の冷却流路の流路幅の条件は、主に冷却媒体が冷却ユニットの内壁面と熱交換を行う領域において満たされていればよく、必ずしも冷却流路全体で満たされていなくても構わない。
【0036】
上記加熱用光源装置において、
前記冷却ユニットは、前記光源部が載置される主面と直交する方向から見たときに、複数の冷却部材に分割されており、それぞれの前記冷却部材の内部に、前記冷却流路が形成されていても構わない。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、発光素子から被処理基板に照射される光の照射ムラが抑制された加熱用光源装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1A】一実施形態の加熱用光源装置を備える光加熱システムをY方向に見たときの模式的な断面図である。
【
図2】
図1Aの加熱用光源装置を-Z側から見たときの図面である。
【
図3】
図1Aの加熱用光源装置を+Z側から見たときの図面である。
【
図4】冷却部材を+Z側から見たときの断面図である。
【
図5A】冷却部材をY方向に見たときの断面図である。
【
図6】壁面温度差と冷却流路の流路幅との相関関係を示すグラフである。
【
図7】別実施形態の加熱用光源装置を備える光加熱システムをY方向に見たときの模式的な断面図である。
【
図8】
図7の加熱用光源装置を-Z側から見たときの図面である。
【
図9】
図7の加熱用光源装置を+Z側から見たときの図面である。
【
図10】別実施形態の加熱用光源装置を備える光加熱システムをY方向に見たときの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の加熱用光源装置について、図面を参照して説明する。なお、加熱用光源装置に関する以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0040】
図1Aは、一実施形態の加熱用光源装置10を備える光加熱システム1をY方向に見たときの模式的な断面図であって、
図1Bは、
図1Aの一つの冷却部材13a周辺の拡大図である。
図1Aに示すように、光加熱システム1は、加熱用光源装置10と、被処理基板W1が収容されるチャンバ2とを備える。本実施形態の加熱用光源装置10は、
図1Aに示すように、複数の発光素子11と、複数の発光素子基板12と、複数の冷却部材13aに分割された冷却ユニット13と、基台14と、第一主流路15aと、第二主流路15bとを備える。
【0041】
発光素子基板12は、複数の発光素子11が搭載されている基板である。本実施形態では、加熱用光源装置10が複数の発光素子基板12を有し、それぞれの発光素子基板12上に複数の発光素子11が搭載されて、全体として光源部10aを構成している。冷却ユニット13は、本実施形態においては発光素子基板12を冷却するための部材であり、内部を冷却媒体C1が通流できるように構成されている。第一主流路15aは、冷却媒体C1を冷却ユニット13に導くための流路であり、第二主流路15bは、冷却ユニット13内を通流した後の冷却媒体C2を冷却ユニット13から排出するための流路である。基台14は、冷却ユニット13を固定するための台であるが、加熱用光源装置10が基台14を備えるか否かは任意である。
【0042】
図2は、
図1Aの加熱用光源装置10を-Z側から見たときの図面であり、
図3は、
図1Aの加熱用光源装置10を+Z側から見たときの図面である。
図3は、説明のために、第一主流路15a及び第二主流路15bが取り除かれた状態で図示されており、実際には見えない、基台14の+Z側に載置されている冷却部材13aが破線によって図示されている。
【0043】
以下の説明においては、
図2に示すように、発光素子基板12の載置面12aと平行な平面をXY平面とし、XY平面と直交する方向をZ方向とする。なお、発光素子11が配列されている方向の一方をX方向、他方をY方向として説明するが、本実施形態においては、特にX方向とY方向との区別はない。
【0044】
また、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載され、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。
【0045】
図1Aに示すように、チャンバ2は、加熱用光源装置10から出射される加熱光H1を、内側に取り込むための透光窓2aを備える。そして、チャンバ2は、透光窓2aから取り込まれた加熱光H1が、照射対象である被処理基板W1の被照射面W1aに照射されるように、被処理基板W1を支持するための支持部材2bとを備える。
【0046】
本実施形態における発光素子11は、Z方向に見たときの形状が正方形の表面実装型LED素子であり、サイズが1mm□(mm□は正方形の一辺の長さを示す。以下同じ。)の素子である。また、発光素子11は、典型的には波長が365nm~405nmである。
【0047】
なお、発光素子11は、例えば、サイズが1.4mm□や2mm□のLED素子を採用してもよく、Z方向に見たときの形状が長方形のLED素子であっても構わない。さらに、発光素子11は、表面実装型以外のLED素子や、被処理基板W1の加熱処理に用いることができる発光素子であれば、例えば、LD素子や蛍光素子等のLED素子以外の素子を採用しても構わない。
【0048】
発光素子基板12は、
図1A及び
図1Bに示すように、冷却ユニット13の主面13b上に載置されている。本実施形態においては、一つの冷却部材13aに対して発光素子基板12が一つ載置されている。
【0049】
また、発光素子基板12は、
図2に示すように、載置面12a上に複数の発光素子11がX方向及びY方向に配置されて、一つの発光素子領域11aが形成されている。本実施形態において、発光素子基板12の載置面12a上の発光素子領域11aは、X方向及びY方向のいずれも発光素子11のピッチが2mmとなっている。
【0050】
なお、被処理基板W1を加熱処理するために高出力な光源装置を実現するためには、狭ピッチで高密度に配置されている必要があり、具体的には、X方向及びY方向において、発光素子11が3mm以下のピッチで配置されることが好ましい。
【0051】
本実施形態の発光素子基板12は、窒化アルミニウム(AlN)を材料とする基板が採用されている。発光素子基板12を構成する窒化アルミニウム以外の材料としては、例えば、炭化ケイ素(SiC)等が挙げられる。
【0052】
図1B及び
図2に示すように、冷却ユニット13の一部である冷却部材13aは、冷却媒体C1が供給される流入口13pと、発光素子11で発生する熱を吸収した冷却媒体C2を第二主流路15bへと排出する排出口13qとを備える。本実施形態における冷却部材13aは、熱伝導率が高く、耐熱温度も高い銅(Cu)で形成されており、冷却流路13rは、冷却部材13aを切削して形成されている。冷却媒体(C1,C2)としては、典型的には水が用いられるが、他には、フッ素系不活性液体(フロリナート(登録商標)、ガルデン(登録商標))等を利用することができる。
【0053】
なお、冷却部材13aの材料は、銅以外であってもよく、例えば、耐熱温度と熱伝導率とが高いアルミニウム等が採用され得る。切削以外で冷却流路13rを備える冷却部材13aを作成する方法としては、例えば、冷却流路13rが形成された冷却部材13aの3D画像データを作成し、3D印刷によって作成する方法が挙げられる。
【0054】
図1Aに示すように、各冷却部材13aに形成された複数の流入口13pは、第一主流路15aによって冷却機構15と連絡され、複数の排出口13qは、第一主流路15aとは別の第二主流路15bによって冷却機構15と連絡されている。つまり、各冷却部材13aが備える冷却流路13rは、第一主流路15aと第二主流路15bとの間で並列に接続されている。
【0055】
図4は、冷却部材13aを+Z側から見たときの断面図である。
図5Aは、冷却部材13aをY方向に見たときの断面図であり、
図5Bは、
図5Aの領域A1の拡大図である。
図4に示すように、冷却部材13aは、流入口13pと排出口13qとを連絡し、内側を冷却媒体C1が通流する冷却流路13rとを備える。
【0056】
本実施形態の冷却ユニット13は、
図2に示すように、発光素子基板12を載置する主面13bが四角形状を呈する複数の冷却部材13aに分割されているが、冷却ユニット13は、四角形以外の形状を呈する複数の冷却部材13aに分割されていても構わない。例えば、冷却部材13aは、主面13bの形状が六角形状や八角形状を呈するものであってもよく、さらには、扇形状を呈するものであっても構わない。
【0057】
冷却流路13rは、
図4に示すように、Z方向に見たときに、全体が発光素子基板12と重複するように形成されており、発光素子領域11a(
図2参照)の中央部側から徐々に周端部側に向かうように渦巻形状を呈している。
【0058】
上記構成とすることで、冷却媒体C1は、それぞれの冷却流路13rに対して、まだ熱を吸収していない状態で、第一主流路15aから分流させて冷却ユニット13の複数箇所に供給される。それぞれの冷却ユニット13の近傍には、冷却対象である発光素子領域11a(本実施形態では発光素子基板12)が位置している。このため、それぞれの発光素子領域11aは、十分に低温である冷却媒体C1によって冷却される。つまり、第一主流路15aと第二主流路15bとの間で一本の長い流路が形成されて、一箇所から冷却媒体C1が供給される場合と比較して、冷却ユニット13の全体の温度バラつきが抑制され、発光素子基板12上の温度分布における温度バラつきが抑制される。
【0059】
そして、発光素子基板12に載置された複数の発光素子11の温度バラつきが抑制されるため、発光素子11の輝度のバラつきが抑制され、被処理基板W1に対する加熱光H1の照射ムラが抑制される。
【0060】
また、かかる観点から、加熱用光源装置10は、複数の発光素子領域11aを備えており、それぞれの発光素子領域11aから生じる熱が、並列に配置された冷却流路13rを通流する冷却媒体C1によって冷却される構成であれば、発光素子基板12の数には限定されない。すなわち、加熱用光源装置10が単一の発光素子基板12を有し、一つの発光素子基板12上に複数の発光素子領域11aが形成されていても構わない。
【0061】
また、同様の理由により、本実施形態では、冷却ユニット13が複数の冷却部材13aに分割され、発光素子基板12も冷却部材13aごとに載置されているが、発光素子基板12と冷却部材13aの数が異なっていても構わない。例えば、複数の冷却部材13a全体に跨るように、一つの発光素子基板12が載置されている構成であっても構わない。
【0062】
また、本実施形態では、一つの冷却部材13aに一つの流入口13p、排出口13q、冷却流路13rが形成されているが、一つの冷却部材13aに複数の流入口13p、排出口13q、冷却流路13rが形成されていても構わない。
【0063】
さらに、冷却ユニット13は、複数の冷却部材13aに分割されていなくても構わない。この点は、
図7を参照して後述される。
【0064】
次に、冷却性能をより高める観点から、冷却流路13rのより好ましい形状等について詳細に検討する。
図5Aは、は、冷却部材13aをY方向に見たときの断面図であり、
図5Bは、
図5Aの領域A1の拡大図である。発光素子基板12を載置する主面13bと冷却流路13rとの離間距離dは、2mmとした。なお、主面13bと冷却流路13rとの離間距離dは、大きくなるほど熱抵抗が大きくなり、小さくなるほど作製に高い加工技術を要することとなり、コストが増大する。したがって、主面13bと冷却流路13rとの離間距離dは、1mm以上3mm以下とすることが好ましく、1.5mm以上2.5mm以下とすることがより好ましい。
【0065】
図5Bに示す、本実施形態における冷却流路13rの流路幅wは、上記(1)式を満たすように2mmに設定されている。ここで、上記(1)式を再掲する。
1mm≦w≦c+2d (1)
【0066】
本実施形態の加熱用光源装置10に搭載されている発光素子11をZ方向に見たときの形状は、正方形であるが、搭載される発光素子11は、Z方向に見たときの形状が長方形であってもよい。この場合、cの値は、発光素子11の長辺の長さが対応する。なお、サイズが異なる発光素子11が搭載されている場合、cの値は、各発光素子11の長辺の長さの平均値となる。
【0067】
ここで、所定の条件において、冷却流路13rの内壁面と冷却媒体C1との壁面温度差が、冷却流路13rの流路幅wに対して、どのように変化するのか計算による確認を行ったので、以下、計算の詳細について説明する。なお、下記の結果は、冷却流路13rを設計する際の検討用として、所定の条件のもとで行った理論的な計算結果であり、本発明における冷却流路13rの流路幅wが取り得る範囲を限定するものではない。
【0068】
計算に使用する各パラメータと値は、下記表1に記載の通りとした。
【0069】
【0070】
壁面温度差をΔT[K]、冷却流路13rの流路表面積をS[m2]、熱伝達係数をh[W/m2K]、発熱量P[W]とすると、壁面温度差ΔTは、下記(2)式によって求められる。
ΔT=P/(h×S) (2)
【0071】
上記(2)式における冷却流路13rの流路表面積Sは、冷却流路13rの流路幅w、深さb、流路長Lより、下記(3)式によって求められる。なお、深さbは、上記表1の流路断面積Xの値を満たすように、流路幅wに応じて変動するパラメータである。流路長Lは、冷却流路13r同士の離間距離が流路幅wと等しいとして、発光素子領域11aの直下(+Z側)の範囲内に、流路幅wで形成可能な冷却流路13rの長さに相当するパラメータである。
S=2×(w+b)×L (3)
【0072】
上記(2)式における発熱量Pは、発光素子11一個当たりの駆動電流If及び印加電圧Vf、発光素子11の総数N、発光素子11の発光効率ηより、下記(4)式によって求められる。
P=If×Vf×N×(1-η) (4)
【0073】
上記(2)式における熱伝達係数hは、冷却媒体C1の熱伝導率k、ヌセルト数Nu、冷却流路13r断面の相当直径deより、下記(5)式によって求められる。
h=(k×Nu)/de (5)
【0074】
上記(5)式における冷却流路13r断面の相当直径deは、冷却流路13rの流路断面積X、濡れ縁全長Y(=2×(w+b))より、下記(6)式によって求められる。
de=4X/Y (6)
【0075】
上記(5)式におけるヌセルト数Nuは、摩擦損失係数f、レイノルズ数Re、プラントル数Prより、下記(7)式(グニーリンスキの式)によって求められる。
【0076】
【0077】
上記(7)式におけるレイノルズ数Reは、冷却媒体C1の密度ρ、流速fv及び上記(6)式で求められる冷却流路13rの相当直径deより、下記(8)式によって求められる。
Re=(ρ×fv×de)/μ (8)
【0078】
上記(7)式におけるプラントル数Prは、冷却媒体C1の動粘度ν、熱拡散率αより、下記(9)式によって求められる。
Pr=ν/α (9)
【0079】
上記(7)式における摩擦損失係数fは、上記(8)式で求められるレイノルズ数Reより、下記(10)式(ブラジウスの式)によって求められる。
f=0.079Re-0.25 (10)
【0080】
図6は、上記(2)式~(10)式により求められた、壁面温度差ΔTと冷却流路13rの流路幅wとの相関関係を示すグラフである。
図6に示すように、冷却流路13rの流路幅wが5mmまでは傾きが小さいが、5mmより大きくなると傾きが大きくなる傾向がある。
【0081】
また、
図6に示すように、流路幅wが1.5mm以下になるとヌセルト数Nuが急激に低下し、流路幅wが小さくなるほど壁面温度差が上昇するという傾向となる。
【0082】
以上より、上述した条件で算出された理論値ではあるが、
図6に示すような変化点(w=1.5)が存在することと、排熱効率の観点から壁面温度差を小さくなるように構成することが好ましいことから、冷却流路13rの流路幅wは1mm以上であることが好ましい。
【0083】
さらに、上述したように、冷却ユニット13に冷却流路13rを形成する工程は、冷却流路13rの流路幅wが狭いほど、高精度な加工技術が要求される。このような事情と、上述した条件における計算結果も考慮すれば、冷却流路13rの流路幅wは、一つの目安として1mm以上5mm以下とすることが好ましいといえる。
【0084】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0085】
〈1〉
図7は、別実施形態の加熱用光源装置10を備える光加熱システム1をY方向に見たときの模式的な断面図である。
図8は、
図7の加熱用光源装置10を-Z側から見たときの図面であり、
図9は、
図7の加熱用光源装置10を+Z側から見たときの図面である。
図7及び
図8に示すように、本実施形態の加熱用光源装置10は、
図2に示すように、冷却ユニット13が複数の冷却部材13aには分割されておらず、一つの部材で構成されている。冷却ユニット13の主面13b上には、複数の発光素子基板12が複数載置されている。
【0086】
本実施形態の冷却ユニット13は、
図9に示すように、複数の流入口13pと複数の排出口13qが形成されており、それぞれ一対の流入口13pと排出口13qとを連絡するように、複数の冷却流路13rが形成されている。各冷却流路13rは、
図7に示すように、各流入口13pが第一主流路15aに、各排出口13qが第二主流路15bに接続されている。つまり、各冷却流路13rは、第一主流路15aと第二主流路15bとの間で、並列に接続されている。
【0087】
上記構成とすることで、
図7に示すように、基台14が不要となるため、加熱用光源装置10全体の部材の数を削減することができ、単純な構成とすることができる。
【0088】
なお、
図9に示すように、冷却ユニット13に形成された冷却流路13rは、Z方向に見たときに、発光素子基板12全体ではなく、一部と重複するように形成されていても構わない。また、
図9に示すように、発光素子領域11a(ここでは発光素子基板12)の数と冷却流路13rの数を同じ数で図示されているが、本発明は、発光素子領域11a(発光素子基板12)の数と冷却流路13rの数が完全に一致していることを厳密に要求するものではなく、異なっていても構わない。
【0089】
さらに、上述した各実施形態においては、冷却流路13rが、Z方向に見たときに、発光素子領域11aの中央部側から徐々に周端部側に向かうように渦巻形状を呈しているが、Z方向に見たときの冷却流路13rの形状は任意であり、発光素子領域11aの形状や発光素子11の配置パターンに応じて適宜調整されても構わない。
【0090】
〈2〉
図10は、
図7とは異なる、別実施形態の加熱用光源装置10を備える光加熱システム1をY方向に見たときの模式的な断面図である。本実施形態の加熱用光源装置10は、
図10に示すように、第一主流路15a及び第二主流路15bが内部に形成された配水プレート90で構成されている。
【0091】
上記構成とすることで、配管スペースを要することなく、最小限のスペースで第一主流路15aと第二主流路15bを、冷却ユニット13の近傍に構成することができるため、装置全体を小型化することができる。
【0092】
なお、配水プレート90の材料としては、例えば、銅やアルミニウム等を採用し得る。また、本実施形態の形成される第一主流路15a及び第二主流路15bは、配水プレート90を切削して形成されている。切削以外で第一主流路15a及び第二主流路15bを備える配水プレート90を作成する方法としては、例えば、第一主流路15a及び第二主流路15bが形成された配水プレート90の3D画像データを作成し、3D印刷によって作成する方法が挙げられる。
【0093】
さらに、冷却ユニット13と配水プレート90は、一体的に構成されていてもよい。つまり、本発明の加熱用光源装置10は、配水プレート90を別途設ける代わりに、第一主流路15a、第二主流路15b及び第一主流路15aと第二主流路15bとの間において複数の冷却流路13rが並列に形成された冷却ユニット13が搭載されていても構わない。
【0094】
〈3〉 上述した加熱用光源装置10が備える構成は、あくまで一例であり、本発明は、図示された各構成に限定されない。
【符号の説明】
【0095】
1 : 光加熱システム
2 : チャンバ
2a : 透光窓
2b : 支持部材
10 : 加熱用光源装置
10a : 光源部
11 : 発光素子
11a : 発光素子領域
12 : 発光素子基板
12a : 載置面
13 : 冷却ユニット
13a : 冷却部材
13b : 主面
13p : 流入口
13q : 排出口
13r : 冷却流路
14 : 基台
15 : 冷却機構
15a : 第一主流路
15b : 第二主流路
90 : 配水プレート
C1,C2 : 冷却媒体
H1 : 加熱光
W1 : 被処理基板
W1a : 被照射面