(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】加工装置および加工方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 3/08 20060101AFI20241225BHJP
H05H 7/20 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
B23Q3/08 A
H05H7/20 ZAA
(21)【出願番号】P 2021034685
(22)【出願日】2021-03-04
【審査請求日】2023-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2020055735
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597100538
【氏名又は名称】株式会社ミラプロ
(73)【特許権者】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100135781
【氏名又は名称】西原 広徳
(74)【代理人】
【識別番号】100217227
【氏名又は名称】野呂 亮仁
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】道前 武
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-041671(JP,A)
【文献】特開平05-253777(JP,A)
【文献】実開昭55-034593(JP,U)
【文献】特開平01-306142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q3/08
H05H7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の対象物を切削する加工装置であって、
気体を吸引する吸引ポンプと、
前記対象物を保持する保持部材と、
前記保持部材に保持された前記対象物を切削する切削装置とを備え、
前記保持部材は、
前記対象物に対向する対象物対向面に1以上の開口が設けられて前記吸引ポンプにより気体が吸引される気体流路を有し、
前記対象物対向面に、前記開口を囲み、かつ前記対象物対向面より前記対象物側へ突出して前記対象物に当接するシール部材を備え、
前記吸引ポンプは、前記シール部材が前記対象物に当接している状態で前記気体流路から気体を吸引して前記対象物対向面と前記対象物と前記シール部材の間に減圧空間を生じさせる構成であ
り、
前記減圧空間は、排気用開口と吸着側開口とを有し、
前記保持部材は、前記対象物対向面において前記対象物から離間して前記減圧空間を形成する平面状の表面を有しており、
前記排気用開口は、前記表面に設けられている
加工装置。
【請求項2】
前記保持部材と前記切削装置のいずれか一方を他方に対して相対的に回転させる回転駆動部を備え、
前記対象物は、
前記回転駆動部の回転軸と直行する平面での断面がリング状で、前記回転軸の
方向に内径が変化して一方に小開口部、他方に大開口部を有する形状であり
、
前記シール部材は、前記対象物の外表面に当接する構成であ
り、
前記保持部材は、前記対象物対向面において、前記対象物に接触せず近接する複数の近接面と、前記シール部材を嵌め込む溝を有し、
前記複数の近接面は、前記溝を挟むように設けられている
請求項1記載の加工装置。
【請求項3】
前記シール部材は、
前記回転軸を中心とするリング状の第1シール部材と、
前記回転軸を中心とする前記第1シール部材よりもリング内径が小さい第2シール部材とを有し、
前記保持部材の前記対象物対向面に配置された前記第1シール部材と前記第2シール部材の間に前記開口が形成されている
請求項2記載の加工装置。
【請求項4】
前記シール部材は、厚み方向の断面において前記保持部材に当接する全周にわたる角を2つ以上備える形状を有し、
前記保持部材は、前記シール部材を固定する位置決め部を有する
請求項1、2、または3記載の加工装置。
【請求項5】
前記シール部材は、前記対象物に当接する面の厚み方向の断面形状が、少なくとも当該対象物と当接していない際には外周側に凸に湾曲する曲面に形成される
請求項4記載の加工装置。
【請求項6】
前記排気用開口は、前記吸着側開口よりも小さい開口面積を有する
請求項1から5のいずれか1つに記載の加工装置。
【請求項7】
加工対象である金属製の前記対象物が、超伝導加速部の形成に使用される金属セルのハーフセルであり、
前記対象物の内表面には前記保持部材および前記シール部材が当接しない構成である
請求項2または3に記載の加工装置。
【請求項8】
請求項1記載の加工装置を用いて、金属製の対象物を切削する加工方法であって、
前記対象物を保持部材によって保持し、
吸引ポンプによって、前記保持部材における前記対象物の対向面と前記対象物とシール部材との間に減圧空間を生じさせ、前記対象物の曲面を保持する工程と、
保持された前記対象物を切削装置によって加工する工程と、
を有する加工方法。
【請求項9】
前記減圧空間は、
排気用開口と吸着側開口とを有し、
前記排気用開口は、前記吸着側開口よりも小さい開口面積を有する
請求項8記載の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、湾曲した形状を有する対象物を保持し、加工する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
加速した電子と陽電子を衝突させ、発生した粒子の精密測定や、新粒子の発見を試みる取り組みが行われている。また、電子および陽電子を加速させる方法として、複数の金属製中空セルに、強い電磁場を形成し、発生した電場を電子および陽電子に作用させて加速する、超伝導加速が利用されている。
【0003】
超伝導加速に使用する金属セルは、セル内部に強い電磁波を発生させ、ためこむために、金属セルの内面を可能な限り凹凸がない湾曲した鏡面とすることが必要である。そのため、傷のつきにくい金属セルの加工方法が模索されていた。
【0004】
金属セルは、2つのおわん型であるハーフセルの開放口どうしを連結させて製造される。また、ハーフセルにおける底部には開口部が設けられ、開口部は金属セルどうしの結合点となる。ハーフセルの開放口と、開口部の切削加工において、これまでおわん型のハーフセルを固定するため、種々の特殊専用治具が用いられてきたが、ハーフセルの治具への取り付けが煩雑であることや、金属セル内面に治具が接触すること、セルの開放口と開口部を同時に加工できないこと等様々な問題があった。
【0005】
旋盤加工時に、ボルトを使用せずに加工物を固定可能な旋盤用チャック装置用把握生爪が発明されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、湾曲した加工対象を固定することはできなかった。また、生爪で挟み込んで固定した場合、加工対象の生爪の接触部に傷をつけてしまう恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、上述の問題に鑑みて、湾曲した形状の金属形成体である加工対象を、内面に傷をつけず、脱落しないようにしっかりと吸着保持する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、金属製の対象物を切削する加工装置であって、気体を吸引する吸引ポンプと、前記吸引ポンプに接続され、前記対象物を、当該対象物の曲面に近接して吸着保持する保持部材と、前記保持部材に保持された前記対象物を切削する切削装置とを備え、前記保持部材は、排気用開口または前記排気用開口と吸着側開口とを有する減圧空間と、すべての前記排気用開口または前記減圧空間を囲むように配置され、前記対象物を保持するときに当該対象物の曲面に当接するシール部材とを備える加工装置とした。
【発明の効果】
【0010】
この発明により、湾曲した形状の金属形成体である加工対象を、内面に傷をつけず、脱落しないようにしっかりと吸着保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1における金属湾曲形成体加工装置の概観図。
【
図2】実施例1における金属湾曲形成体加工装置の対象物である金属湾曲形成体の斜視図。
【
図3】実施例1における金属湾曲形成体加工装置のブロック図。
【
図4】実施例1における金属湾曲形成体を保持した状態の保持部材を示す断面図。
【
図5】実施例1における保持部材のホルダー部の部分拡大図。
【
図6】実施例1におけるホルダー部を(+Z)側から(-Z)側に向けて見た平面図。
【
図7】実施例1におけるチャック土台部を(+Z)側から(-Z)側に向けて見た平面図。
【
図8】実施例1における金属湾曲形成体の加工方法を示す流れ図。
【
図9】実施例1における金属湾曲形成体を実際に使用する超伝導加速器の内部図。
【
図10】実施例2における金属湾曲形成体を保持した状態の保持部材を示す断面図。
【
図11】実施例2における保持部材のホルダー部の部分拡大図。
【
図12】実施例3における金属湾曲形成体を保持した状態の保持部材を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付の図面を参照しつつ、詳細に説明する。ただし、以下の説明において特に断らない限り、方向や向きに関する記述は、当該説明の便宜上、図面に対応するものであり、例えば実施品、製品または権利範囲等を限定するものではない。
【実施例1】
【0013】
図1は、金属湾曲形成体加工装置1の概観図である。なお、
図1に示すX軸、Y軸およびZ軸は互いに垂直な軸である。また、本実施の形態では、X軸およびY軸は水平面に平行な軸を示し、Z軸は鉛直方向を示すものとして説明する。以下の図についても、同様とする。
【0014】
詳細は後述するが、金属湾曲形成体加工装置1は、加工の対象物である金属湾曲形成体4を内部に設置して加工する装置として構成されている。加工対象である金属湾曲形成体4は、荷電粒子に運動エネルギーを与える超伝導加速システムにおいて、中空状の超伝導加速空洞を形成するために用いられる部材である。この金属湾曲形成体4は、一方に大径部、他方に小径部を有するハーフセルと呼ばれるものであり、向きを交互に並べて大径部同士および小径部同士を接続する形で複数個連続させることによって、荷電粒子の進行方向(ハーフセルの接続方向)へ向かって内径がなだらかかつ規則的に大小に変化する形状となる。このハーフセルは、内面に傷等があると使用時にスパークが発生する等の問題が生じるため、内面を傷つけず、かつ、連続するハーフセル内に真空を保てる程度に接続部の加工精度を高精度にすることが要求されものである。
【0015】
図2は、金属湾曲形成体加工装置1の対象物である金属湾曲形成体4の斜視図である。ただし、
図2では、加工後の金属湾曲形成体4を図示している。
【0016】
金属湾曲形成体4は、円筒状の金属製の部材であって、円筒軸方向において、外径および内径が変化する形状(略おわん型形状)を有している。なお、ここに示す例では、金属湾曲形成体4は、ニオブを原料とする金属製であるが、金属湾曲形成体加工装置1の対象物はこれに限定されるものではない。
【0017】
金属湾曲形成体4は、円形に開放した開口部401と開口部403とを有している。開口部401は、(+Z)側に開口しており、開口部403は、(-Z)側に開口している。さらに、開口部401は(+Z)側に突出した開口部縁402を有する。すなわち、金属湾曲形成体4は、(-Z)側に開口した大開口部である開口部403と、開口部403より径が小さい小開口部である(+Z)側に開口した開口部401を有する。金属湾曲形成体4の内面は、おわんの内面のように、湾曲した曲面404となっている。ただし、対象物の形状はここに示す形状に限定されるものではない。
【0018】
図1に戻って、金属湾曲形成体加工装置1は、加工対象である金属湾曲形成体4を設置して加工する加工部2と、操作命令を外部から受け付ける操作部3とを有する。
【0019】
図3は、金属湾曲形成体加工装置1のブロック図である。
【0020】
操作部3は、切削駆動部9を操作するための切削操作部301と、回転駆動部を操作する回転駆動操作部302と、吸引ポンプ部7を操作する吸引ポンプ操作部303とを有する。
【0021】
加工部2は、金属湾曲形成体4を保持する保持部材5と、加工時に金属湾曲形成体4を回転させる回転駆動部6と、気体(雰囲気)を吸引する吸引ポンプ部7と、金属湾曲形成体4を切削加工する切削部8と、切削部8を駆動させる切削駆動部9とを有する。
【0022】
図4は、金属湾曲形成体4を保持した状態の保持部材5を示す断面図である。なお、
図4において、ポンプ吸気路701は断面として示していない。
【0023】
保持部材5は、金属湾曲形成体4を内側から保持するホルダー部501と、ホルダー部501の内部を減圧状態にするための排出口を形成する排気接続部502と、ホルダー部501および排気接続部502を固定する土台であるチャック土台部503を有する。
【0024】
図5は、保持部材5のホルダー部501の部分拡大図である。また、
図6は、ホルダー部501を(+Z)側から(-Z)側に向けて見た平面図である。なお、
図5および
図6において、金属湾曲形成体4については図示を省略している。
【0025】
ホルダー部501は、
図6に示すように、ホルダー部501の外周部分に配置されるホルダー外周部505と、ホルダー部501の内周部分に配置されるホルダー内周部506とから構成される。詳細は後述するが、ホルダー部501は、本発明における空間形成部材に相当する部材である。
【0026】
ホルダー外周部505は、
図5に示すように、第1ホルダー外周部507および第2ホルダー外周部508から構成される。
【0027】
第1ホルダー外周部507は、ホルダー外周部505のうち(+Z)側に配置される部分である。第1ホルダー外周部507のうち外周側に突出した部分の表面の一部は、近接面507a,507bを形成している。近接面507a,507bは、
図4に示すように、金属湾曲形成体4の内側の曲面404に接触せず近接する。なお、近接面507a,507bが金属湾曲形成体4の曲面404に万一接触したときに、金属湾曲形成体4にダメージを与えることのないように、ホルダー外周部505は、金属湾曲形成体4に比べて柔らかい材質であることが好ましい。
【0028】
近接面507a,507bの間には、溝が外周に一周連続して同じ太さ同じ深さで形成されている。この溝の深さと幅は、外周角リング509の太さと同一に形成されている。この溝には、外周角リング509が隙間なく嵌め込まれている。
【0029】
第1ホルダー外周部507の外周端部付近(近接面507aと近接面507bとの間)には、
図5に示すような凹部が設けられている。当該凹部には、外周角リング509が取り付けられている。
【0030】
さらに、第1ホルダー外周部507の(+Z)側の面は、XY平面に平行な向きに配置される表面507cを形成している。詳細は後述するが、表面507cは、減圧空間511を形成するための隔壁の一部を構成する。
【0031】
第2ホルダー外周部508は、ホルダー外周部505のうち(-Z)側に突出した部分である。第2ホルダー外周部508は、ホルダー内周部506よりもさらに(-Z)側に突出し、突出した(-Z)側の端部が排気接続部502と当接する。
【0032】
なお、第2ホルダー外周部508が排気接続部502と当接する部分には、Oリング518が取り付けられている。Oリング518は、第2ホルダー外周部508と排気接続部502との隙間から雰囲気が漏れることを防止する。
【0033】
ホルダー内周部506は、ホルダー外周部505より(+Z)側に突出した形状を有している。ホルダー内周部506の表面の一部は、
図5に示すように、近接面506a,506bを形成している。近接面506a,506bは、
図4に示すように、金属湾曲形成体4の曲面404に接触せず近接する。なお、近接面506a,506bが金属湾曲形成体4の曲面404に万一接触したときに、金属湾曲形成体4にダメージを与えることのないように、ホルダー内周部506は、金属湾曲形成体4に比べて柔らかい材質であることが好ましい。
【0034】
近接面506a,506bの間には、溝が外周に一周連続して同じ太さ同じ深さで形成されている。この溝の深さと幅は、内周角リング510の太さと同一に形成されている。この溝には、内周角リング510が隙間なく嵌め込まれている。
【0035】
ホルダー内周部506の外周端部付近(近接面506aと近接面506bとの間)には、
図5に示すような凹部が設けられている。そして、当該凹部には、内周角リング510が取り付けられている。
【0036】
さらに、ホルダー内周部506のうち、第1ホルダー外周部507の表面507cよりも(+Z)側に配置される部分((+Z)側に突出した部分)の表面の一部は、
図5に示すように、Z軸に平行な向きに配置される曲面506cを形成している。詳細は後述するが、曲面506cは、減圧空間511を形成するための隔壁の一部を構成する。
【0037】
厳密には、近接面506aと金属湾曲形成体4の曲面404との間には隙間が形成される。したがって、当該隙間や内周角リング510が取り付けられる凹部の一部は、減圧空間511の一部を構成する。同様に、厳密には、近接面507bと金属湾曲形成体4の曲面404との間には隙間が形成される。したがって、当該隙間や外周角リング509が取り付けられる凹部の一部は、減圧空間511の一部を構成する。しかし、以下の説明では、説明の便宜上、ホルダー部501において、第1ホルダー外周部507の表面507cと、ホルダー内周部506の曲面506cとによって、減圧空間511が形成されるものとして説明する。
【0038】
図5に示す減圧空間511は、排気用開口504aによって(-Z)側に開放されている。排気用開口504aは、排気流路504の開口でもある。言い換えれば、減圧空間511と排気流路504とは、排気用開口504aを介して連通接続されている。
【0039】
また、減圧空間511は、
図5に破線で示す吸着側開口511aによって(+Z)側に開放されている。吸着側開口511aは、主に、表面507cの(+Z)側に形成される開口である。すなわち、吸着側開口511aは、
図6に示す表面507cと同様にリング状である。さらに、吸着側開口511aは、
図5に示すように、XY平面に対して傾いている。したがって、吸着側開口511aの形状は、円錐台の斜面と同様の形状である。
【0040】
図5に示すように、ホルダー外周部505とホルダー内周部506との境界付近には、排気流路504が形成される。排気流路504は、Z軸に平行な方向に延びるように形成され、(+Z)側と(-Z)側とに開口している。
【0041】
排気流路504の(+Z)側の開口は、排気用開口504aである。
図6に示すように、本実施の形態におけるホルダー部501は、第1ホルダー外周部507の表面507cに、8つの排気用開口504aが設けられている。ただし、排気用開口504aの数は、8つに限定されるものではない。
【0042】
8つの排気用開口504aは、リング状の表面507cにおいて、同心円上となるように、リング状に配置されている。さらに、各排気用開口504aは、隣り合う他の排気用開口504aとの距離が同一となるように配置されている。
【0043】
各排気流路504の(-Z)側は、排気空間514に連通接続される。すなわち、排気流路504は、減圧空間511内の雰囲気を排気用開口504aを介して、後述する排気空間514に導く機能を有している。
【0044】
図6から明らかなように、排気用開口504aの開口面積(8つの合計)は、表面507cの面積より小さい。そして、
図5から明らかなように、表面507cの面積は、吸着側開口511aの開口面積より小さい。したがって、保持部材5において、排気用開口504aの開口面積(8つの合計)は、吸着側開口511aの開口面積よりも小さい。
【0045】
外周角リング509、内周角リング510およびOリング518は、いずれも可撓性(弾性)のある物質(例えばゴムなどの樹脂)により製造されたドーナッツ状の部材である。外周角リング509、内周角リング510およびOリング518は、所定の部材が当接する(さらに付勢力が加わる)ことにより、当該当接箇所において、気体の通過を規制する(密閉する)機能を有している。
【0046】
すでに説明したように、外周角リング509は、第1ホルダー外周部507の外周端部に配置されている。したがって、外周角リング509は、
図6に示すように、表面507cの外周付近に配置されている。また、内周角リング510は、ホルダー内周部506の近接面506aの内周付近に配置されている。したがって、内周角リング510は、
図6に示すように、曲面506cの(+Z)側端部付近に配置されている。すなわち、外周角リング509および内周角リング510は、吸着側開口511aを囲むように配置されている。
【0047】
外周角リング509および内周角リング510は、
図4に示すように、保持部材5が金属湾曲形成体4を保持するときに当該金属湾曲形成体4の曲面404に当接する。また、詳細は後述するが、保持部材5は、金属湾曲形成体4の曲面404を、外周角リング509および内周角リング510に付勢する付勢力として、吸着力(吸引ポンプ部7による吸引力および重力)を利用する。したがって、外周角リング509および内周角リング510は、金属湾曲形成体4の曲面404に当接する場所において、金属湾曲形成体4の曲面404に密着する。
【0048】
このように、吸着側開口511aを囲むように配置された外周角リング509および内周角リング510に金属湾曲形成体4の曲面404が密着することによって、ホルダー部501において吸着側開口511aが密閉(シール)される。したがって、外周角リング509はリング状の吸着側開口511aの外縁を囲む外周シール部材であり、内周角リング510はリング状の吸着側開口511aの内縁を囲む内周シール部材である。
【0049】
なお、外周角リング509および内周角リング510の硬さは、金属湾曲形成体4の曲面404に隙間なく当接するよう柔軟に変形でき、かつ、金属湾曲形成体4が吸引されても曲面404がホルダー内周部506の近接面506a,506bおよび第1ホルダー外周部507の近接面507a,507bに接触しない程度の強度(弾性力)を有する硬さに形成されている。
【0050】
また、
図4に示すOリング518は、第2ホルダー外周部508と排気接続部502とに当接し、詳細は後述するが、付勢力としてホルダー固定ねじ513による締結力(および重力)を利用する。このようにして、Oリング518は、すでに説明したように、第2ホルダー外周部508と排気接続部502との隙間から雰囲気が漏れることを防止する。
【0051】
図4に示すように、排気接続部502は、中心部分が(-Z)側に突出しており、略円卓形状の部材となっている。排気接続部502の中心部分の内部には、排気接続部502をZ軸方向に貫通する主排気路512が形成されている。排気接続部502の(+Z)側表面の外周部分は、第2ホルダー外周部508の(-Z)側端部と当接しており、ホルダー固定ねじ513によって固定される。
【0052】
なお、ホルダー固定ねじ513は、(-Z)方向から(+Z)方向に向けて螺入され、排気接続部502と第2ホルダー外周部508とを締結するとともに、Oリング518に対する付勢力を加える機能を有している。したがって、すでに説明したように、Oリング518は、シール部材として機能する。
【0053】
また、排気接続部502の(-Z)側に突出した突出部は、チャック土台部503の中央凹部に挿入される。このとき、第2ホルダー外周部508は、ホルダー内周部506より下側に突出しているため、排気接続部502の(+Z)側の表面と、ホルダー内周部506の(-Z)側の表面との間に円筒形状の排気空間514が形成される。すでに説明したように、各排気流路504の(-Z)側は、排気空間514に連通接続されている。すなわち、排気空間514は、排気流路504を介して、減圧空間511と連通接続されている。
【0054】
図7は、チャック土台部503を(+Z)側から(-Z)側に向けて見た平面図である。チャック土台部503は、中央に排気接続部502の突出部を挿入するため凹形状を有し、(+Z)側の表面に生爪515を有する。生爪515は、等間隔に3つ配置されている。
【0055】
生爪515は、チャック土台部503の外周および内周方向に向かってスライド移動することが可能であるとともに、生爪固定部516によって固定することも可能である。3つの生爪515をそれぞれチャック土台部503の内周方向に移動させて、生爪515の内周側端部を排気接続部502の側面および第2ホルダー外周部508の側面に当接させると、3つの生爪515によって排気接続部502および第2ホルダー外周部508を挟み込みむことが可能である。したがって、このような位置で、3つの生爪固定部516の固定ねじを締めることで、排気接続部502およびホルダー部501は、3つの生爪515によってチャック土台部503に固定される。
【0056】
図3に示す回転駆動部6は、すでに説明したように、加工時に金属湾曲形成体4を回転させる機能を有している。より詳細には、回転駆動部6は、金属湾曲形成体4を保持した状態の保持部材5を回転させる。
【0057】
吸引ポンプ部7は、
図4に示すように、ポンプ吸気路701を有する。吸引ポンプ部7は、ポンプ吸気路701から雰囲気(気体)を吸引して外部に排気する機能を有している。なお、吸引ポンプ部7は、ポンプ吸気路701の接続先から雰囲気を吸引できるものであれば種類は限定されず、公知のものを用いることができる。
【0058】
ポンプ吸気路701は、チャック土台部503を貫通する。そして、ポンプ吸気路701の(+Z)側の端部は、排気接続部502の主排気路512の(-Z)側に挿入される。これにより、保持部材5における減圧空間511、8つの排気流路504、排気空間514、および、主排気路512が、ポンプ吸気路701に連通接続される。すなわち、ポンプ吸気路701が排気接続部502に挿入されることにより、保持部材5が吸引ポンプ部7に接続される。
【0059】
また、ポンプ吸気路701は、主排気路512との当接部に、シール部材である吸引ポンプOリング702を有する。これにより、吸引ポンプOリング702は、ポンプ吸気路701と排気接続部502との隙間から雰囲気が漏れることを防止することができる。
【0060】
したがって、ポンプ吸気路701から雰囲気(気体)が吸引されて外部に排気されると、主排気路512、排気空間514、8つの排気流路504、および、減圧空間511は外部に比べて減圧される。減圧空間511の内部が減圧されると、外部との圧力差によって、外周角リング509および内周角リング510に当接した金属湾曲形成体4に対する吸引力が生じる。これにより、金属湾曲形成体4は、ホルダー部501(保持部材5)に吸着され、保持される。
【0061】
吸引ポンプ部7が減圧空間511の内部の雰囲気を吸引することにより生じる吸引力は、より詳細には、当該金属湾曲形成体4の曲面404のうち、吸着側開口511aに対向する部分に対して働くことになる。
【0062】
従来は、ポンプからの吸引路の開口により対象物を吸着する構造であった。すなわち、排気用の開口と、対象物に吸着する側の開口とがほぼ同一のサイズであった。このような構造では、ポンプによる吸引力が対象物の比較的狭い部分に集中して作用するため、吸引力を増大させると対象物が変形するなどのダメージを生じるおそれがあった。したがって、従来は、吸引力を増大させるには限界があり、加工する際に脱落する危険があった。そのため、従来は、対象物の内面と外面とを挟み込むように保持するための部材(外面保持部材)を用いる必要があった。
【0063】
これに対して、保持部材5では、排気用開口504aの開口面積(8つの合計)は、吸着側開口511aの開口面積よりも小さくなるように設計されている。これにより、吸引ポンプ部7の吸引力を分散させることができる。また、このように分散させたとしても、合成吸引力(金属湾曲形成体4に作用する吸引力の合計)は、あまり低下しない。したがって、金属湾曲形成体4が脱落しない程度にまで吸引ポンプ部7の吸引力を増大させることができる。
【0064】
図3に示す切削部8は、対向する2本の切削工具(図示せず)を備える。切削部8の2本の切削工具の位置は、切削操作部301の指示を受けた切削駆動部9によって、変更することが可能である。すなわち、切削工具は、移動可能に構成されている。
【0065】
切削駆動部9は、切削操作部301からの指示に従って、切削部8の2本の切削工具を移動させる機能を有する。切削駆動部9は、加工前に金属湾曲形成体4に当接する位置に切削工具を移動させるとともに、加工後に金属湾曲形成体4から離間する位置(退避位置)に切削工具を移動させる。
【0066】
以上が金属湾曲形成体加工装置1の構成および機能の説明である。次に、金属湾曲形成体4を加工する加工方法について説明する。
【0067】
図8は、金属湾曲形成体4の加工方法を示す流れ図である。
【0068】
図8に示す処理が開始されると、保持部材5の準備が行われる(ステップS1)。ステップS1では、作業者は、ホルダー部501と、ポンプ吸気路701が接続された排気接続部502をホルダー固定ねじ513でねじ留めすることで固定する。そして、固定したホルダー部501と排気接続部502を、金属湾曲形成体加工装置1の加工部2内にある、チャック土台部503の中央凹部に排気接続部502の突出部を挿入する。その後、3つの生爪515をチャック土台部503の内周側にスライドさせ、生爪515でホルダー部501と排気接続部502の側面を挟み込み、ホルダー部501および排気接続部502をチャック土台部503に固定する。
【0069】
ステップS1を終了すると、作業者は、金属湾曲形成体4を、金属湾曲形成体4の内面をホルダー部501に当接させて設置する(ステップS2)。このとき、金属湾曲形成体4の正確な設置位置を決定するため、金属湾曲形成体固定治具517のような位置決め補助治具を用いることができる。
【0070】
作業者は、ステップS2を終了し、金属湾曲形成体4の設置位置を確認したら、吸引ポンプ操作部303を操作して、吸引ポンプ部7を稼働させる。吸引ポンプ部7の吸引が開始されることによって、ホルダー部501の減圧空間511の内部は減圧され(ステップS3)、外気圧との気圧差によって金属湾曲形成体4はホルダー部501に押さえつけられ、吸着保持が開始される(ステップS4)。なお、金属湾曲形成体固定治具517を使用した場合、作業者は、金属湾曲形成体4が確実にホルダー部501に固定されていることを確認してから、金属湾曲形成体固定治具517を取り外す。
【0071】
金属湾曲形成体4の保持が開始されたら、作業者は、加工部2の扉を閉める。その後、作業者は、回転駆動操作部302を操作し、保持部材5および保持部材5に保持された金属湾曲形成体4を所定の速度で回転させる(ステップS5)。このとき、回転速度は、遅すぎると加工面が粗くなり、早すぎると金属湾曲形成体4が遠心力によって移動する恐れがあるため、加工に適した速度で、かつ金属湾曲形成体4が遠心力でズレ動かない程度とするのがより好ましい。
【0072】
回転が安定したことを確認したら、作業者は、切削操作部301を操作する。これにより、切削駆動部9が、回転している金属湾曲形成体4の開口部403および開口部縁402の、表面および内面に切削部8の切削工具を当接させる(ステップS6)。これにより、開口部403および開口部縁402の加工処理を行う(ステップS7)。なお、開口部403および開口部縁402のいずれを先に加工してもよい。
【0073】
金属湾曲形成体4に対する切削加工が終了したら、切削操作部301を操作して切削部8を金属湾曲形成体4から退避させる(ステップS8)。さらに、作業者は、回転駆動操作部302を操作して保持部材5および金属湾曲形成体4の回転運動を止め(ステップS9)、加工部2の扉を開く。その後、吸引ポンプ操作部303を操作し、吸引ポンプ部7を停止させ(ステップS10)、金属湾曲形成体4を取り外す(ステップS11)。
【0074】
これにより、金属湾曲形成体加工装置1によって、加工処理が施された金属湾曲形成体4を得ることができる。なお、別の加工対象である金属湾曲形成体4を同様の手順で必要な数、加工する場合は、ステップS2に戻って処理を繰り返せばよい。
【0075】
図9は、金属湾曲形成体4を実際に使用する超伝導加速器10の内部図である。
【0076】
超伝導加速器10は、冷却溶液を満たす箱型容器と、電子加速部とを有する。電子加速部は、2つの金属湾曲形成体4の開口部403を金属リングで連結した金属セルを、箱型容器内で、異なる金属セルの開口部401を金属リングで長手方向に複数連結させた中空の部材である。
【0077】
超伝導加速器10は、箱型容器内を液体ヘリウムなどで満たし、電子加速部内を極低温の超伝導状態とする。これにより、電子加速部の内部は磁場で満たされ、高い電場が発生する。電子加速部内を通過する電子は、発生した電場による電圧を加えられ、加速する。しかし、金属セルの内面に損傷があると電場が発生したときにスパークが発生し、エネルギーロスや、金属セルが破壊されるといった不具合が生じる。そのため、金属セルの内面は、傷などの損傷がないことが望ましい。
【0078】
また、電子加速部の金属セルは複数の金属湾曲形成体4を連結することで作製される。そのため、連結部となる金属湾曲形成体4の開口部403および開口部縁402の形状は、連結時に確実に固定するため、ゆがみのない同心円状でなければならない。しかし、切削部位ごとに金属湾曲形成体4を位置替えのために取り外し、再度取り付ける作業をすると、作業中の位置決めに誤差が生じ、金属湾曲形成体4ごとに開口部403および開口部縁402の形状に微小な差が発生し、金属湾曲形成体4を連結させる際にうまく連結できない恐れがある。よって、開口部403および開口部縁402の、表面および内面の切削加工は、金属湾曲形成体4を途中で取り外すことなく、連続して行うことが望ましい。
【0079】
本発明の金属湾曲形成体加工方法は、金属湾曲形成体4を、気圧差によって当接するホルダー部501に吸着して保持することで、生爪で物理的に挟み込む、ボルトで締め付けるといった、従来の固定方法と比較して、金属湾曲形成体4の内面に傷を生じさせることなく加工することができる。また、表面と内面を同時に切削することで、開口部403および開口部縁402にゆがみを発生させることなく、高精度な加工ができる。さらに、金属湾曲形成体4の開口部403および開口部縁402を同時に切削加工することで、取り付けおよび取り外しの回数が少なくなり、加工作業の迅速化および高精度化が可能である。
【0080】
すなわち、金属湾曲形成体4の用途は特に限定されるものではないが、金属湾曲形成体加工装置1は、例えば、超伝導加速器10の部品としての金属湾曲形成体4を製造する場合に特に適している。
【0081】
以上の構成により、金属湾曲形成体4を切削する金属湾曲形成体加工装置1は、雰囲気を吸引する吸引ポンプ部7と、吸引ポンプ部7に接続され、金属湾曲形成体4の曲面404を吸着保持する保持部材5と、保持部材5に保持された金属湾曲形成体4を切削する切削部8とを備えている。そして、保持部材5は、吸着側開口511aと当該吸着側開口511aの開口面積よりも小さい開口面積を有する排気用開口504aとが形成される減圧空間511を形成するホルダー部501と、吸着側開口511aを囲むように配置され、金属湾曲形成体4を保持するときに当該金属湾曲形成体4の曲面404に当接する外周角リング509および内周角リング510とを備えており、減圧空間511は、吸引ポンプ部7により排気用開口504aを介して吸引されることにより内部の圧力が減圧される。これにより、吸着力が、金属湾曲形成体4の狭い領域に集中することなく分散するため、金属湾曲形成体4の曲面404に与えるダメージを抑制できる。
【0082】
また、吸着側開口511aはリング状に形成されており、リング状の吸着側開口511aの外縁を囲む外周角リング509と、リング状の吸着側開口511aの内縁を囲む内周角リング510とを備えることにより、リング状の吸着側開口511aによって金属湾曲形成体4を吸着するので、吸着力を均一化させることができる。
【0083】
また、減圧空間511に対して複数の排気用開口504aが形成されることにより、さらに、吸着力を均一化させることができる。
【0084】
さらに、複数の排気流路504を同心円状に備え、複数の排気流路504を、排気空間514を経由して主排気路512の1つに統一することで、1つの吸引ポンプ部7で、減圧空間511内を平均的にばらつきなく減圧状態とすることができる。
【0085】
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0086】
例えば、実施例ではホルダー部501と排気接続部502とを異なるパーツとし、排気接続部502とホルダー内周部506との間に形成された排気空間514を通じて排気流路504と主排気路512とを連通させると説明した。しかし、ホルダー部501と排気接続部502とを1つのパーツとし、排気流路504と主排気路512とを直接連通する構成としてもよい。
【実施例2】
【0087】
また、本発明の異なる実施形態として、実施例2について図面とともに説明する。
図10は、実施例2における金属湾曲形成体4を保持した状態の保持部材5を示す断面図であり、
図11は、実施例2における保持部材5のホルダー部1501の部分拡大である。
なお、実施例2において、実施例1と同一の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。また、金属湾曲形成体加工装置1における保持部材5以外の構成、すなわち、
図3に示した加工部2の回転駆動部6、吸引ポンプ部7、切削部8、および切削駆動部9と、操作部3の切削操作部301、回転駆動操作部302、および吸引ポンプ操作部303と、保持部材5の、チャック土台部503、生爪515、生爪固定部516は、実施例1と同一である。
【0088】
図10に示すように、ホルダー部1501は、排気接続部1502と、チャック土台部503と、ホルダー外周部1505と、ホルダー内周部1506とで構成される。また、ホルダー部1501には、シール部材としての外周シールリング520(第1シール部材)と、内周シールリング521(第2シール部材)とが配置されている。また、ホルダー部1501の上面は、金属湾曲形成体4の外表面の形状に対応し、外周から内周に向かって下方向に凹となるように形成される。
【0089】
ホルダー部1501は、排気接続部1502と、ホルダー外周部1505と、ホルダー内周部1506とが一体に形成され、その内部に排気流路1504と、排気空間1514と、主排気路1512とで構成された気体流路526が形成される。
【0090】
排気流路1504は、ホルダー部1501をZ軸方向(回転軸方向)に貫通する円柱形状の空間であり、ホルダー外周部1505とホルダー内周部1506との間に形成される。また、排気流路1504は、上端に排気用開口1504aが形成される。本実施例では、ホルダー部1501の上面に8つの排気用開口1504aが回転軸を中心とする同一円周上に等間隔で配置されるように形成されているが、排気用開口1504a(排気流路1504)の数および配置はこれに限定されない。
【0091】
排気空間1514は、XY軸平面方向(回転軸半径方向)に径を有する円柱状(円盤状)の空間であり、ホルダー内周部1506と、排気接続部1502との間に形成されている。また、排気空間1514は、その外周の一部が排気流路1504の下部外周に接続されて連通している。すなわち、排気流路1504と排気空間1514は連続した空間に形成される。また、排気空間1514の高さ(Z軸方向の長さ)は、少なくとも上端が排気流路1504の中間より下で、かつ下端が排気流路1504の下端よりも上に形成されている。
【0092】
主排気路1512は、Z軸方向に伸びた円柱状の空間であり、上端が排気空間1514の中央下端と接続されて連通し、下端がポンプ吸気路1701と接続されて連通している。すなわち、排気流路1504と排気空間1514と主排気路1512は連続した空間に形成される。本実施例では、主排気路1512は円柱形状であり、ホルダー部1501のZ軸方向の中心軸上に形成されているが、主排気路1512の形状および位置はこれに限定されない。ただし、どの形状および位置であっても、主排気路1512の下端はホルダー部1501のZ軸方向の中心軸上に形成されていることが好ましい。
【0093】
図11に示すように、ホルダー外周部1505は、上面が外周に向かって上方向に伸びる湾曲形状を有する。すなわち、ホルダー外周部1505の上面は、回転軸の半径外側より半径内側の方が凹となっている。ホルダー外周部1505の上面は、近接触面1505a,1505bを形成している。近接触面1505a,1505bは、金属湾曲形成体4の曲面404の内の外表面に接触または近接する。すなわち、ホルダー外周部1505の上面および上面を構成する近接触面1505a、1505bは、加工対象物である金属湾曲形成体4に対向する対象物対向面となる。ホルダー外周部1505は、近接触面1505a,1505bが金属湾曲形成体4の曲面404にダメージを与えることのないように、金属湾曲形成体4に比べて柔らかい材質で成形されることが好ましい。
【0094】
近接触面1505a,1505bの間には、外周シールリング固定溝525が一周連続して一律の太さおよび深さで形成されている。外周シールリング固定溝525は、外周側面525bと、底面525aと、内周側面525dと、各側面と底面525aとを接続する角525cとで構成され、上面は開放された形状を有する。また、外周側面525bと内周側面525dは、Z軸に平行に形成される。本実施例の底面525aは、XY軸平面に平行に形成され、外周側面525bおよび内周側面525dとの間で直角に角525cを形成しているが、底面525aの形状はこれに限定されない。例えば、底面525aにさらに角を設け、角525cを直角でない構成としてもよい。
【0095】
外周シールリング520は、可撓性(弾性)のある物質(例えばゴムなどの樹脂)により製造され、外周シールリング固定溝525にはめ込まれ、位置決めされており、一周連続して一律の太さで形成されている。すなわち、外周シールリング固定溝525は、外周シールリング520の位置決め部としてはたらく。また、外周シールリング520は、お互い平行に対向する2つの側面520dと、底面520aと、各側面と底面520aとを接続する2つの角520cと、上方向に湾曲する断面円弧形状の上面520bとで構成される。2つの側面520d間の長さ(外周シールリング520のXY軸平面方向の太さ)は、外周シールリング固定溝525の太さと同じに形成される。すなわち、2つの側面520dは外周側面525bおよび内周側面525dと当接し、角520cは角525cと当接する。また、上面520bは、少なくとも一部が外周シールリング固定溝525の開放された上面から突出している。また、外周シールリング520は、厚み方向の断面形状において内周シールリング固定溝525と当接する2つの角520cを有し、加工対象物である金属湾曲形成体4と対向(当接)する面が、外周側に凸する断面円弧形状の上面520bとなっている。なお、本実施例では、底面525aが底面520aと当接するが、底面525aおよび520aの形状に応じて当接しなくてもよい。
【0096】
ホルダー内周部1506は、上面が外周に向かって上方向に伸びる傾斜を有する。すなわち、ホルダー内周部1506の上面は、回転軸の半径外側より半径内側の方が凹となっている。ホルダー内周部1506の上面は、近接触面1506d,1506eを形成している。近接触面1506d,1506eは、金属湾曲形成体4の曲面404の内の外表面に接触または近接する。すなわち、ホルダー内周部1506の上面および上面を構成する近接触面1506d、1506eは、加工対象物である金属湾曲形成体4に対向する対象物対向面となる。ホルダー内周部1506は、近接触面1506d,1506eが金属湾曲形成体4の曲面404にダメージを与えることのないように、金属湾曲形成体4に比べて柔らかい材質で成形されることが好ましい。
【0097】
近接触面1506d,1506eの間には、内周シールリング固定溝524が一周連続して一律の太さおよび深さで形成されている。内周シールリング固定溝524は、外周側面524bと、底面524aと、内周側面524dと、各側面と底面524aとを接続する角524cとで構成され、上面は開放された形状を有する。また、外周側面524bと内周側面524dは、Z軸に平行に形成される。本実施例の底面524aは、XY軸平面に平行に形成され、外周側面524bおよび内周側面524dとの間で直角に角524cを形成しているが、底面524aの形状はこれに限定されない。例えば、底面524aにさらに角を設け、角524cを直角でない構成としてもよい。
【0098】
内周シールリング521は、可撓性(弾性)のある物質(例えばゴムなどの樹脂)により製造され、内周シールリング固定溝524にはめ込まれ、位置決めされており、一周連続して一律の太さで形成されている。すなわち、内周シールリング固定溝524は、内周シールリング521の位置決め部として機能し、内周シールリング521は、外周シールリング520よりもリング内径が小さい。また、内周シールリング521は、お互い平行に対向する2つの側面521dと、底面521aと、各側面と底面521aとを接続する2つの角521cと、上方向に湾曲する断面円弧形状の上面521bとで構成される。すなわち、2つの側面521d間の長さ(外周シールリング520のXY軸平面方向の太さ)は、内周シールリング固定溝524の太さと同じに形成される。すなわち、2つの側面521dは外周側面524bおよび内周側面524dと当接し、角521cは角524cと当接する。また、上面521bは、少なくとも一部が内周シールリング固定溝524の開放された上面から突出している。また、内周シールリング521は、厚み方向の断面形状において内周シールリング固定溝524と当接する2つの角521cを有し、加工対象物である金属湾曲形成体4と対向(当接)する面が、外周側に凸する断面円弧形状の上面521bとなっている。なお、本実施例では、底面524aが底面521aと当接するが、底面524aおよび521aの形状に応じて当接しなくてもよい。
【0099】
また、本実施例における排気用開口1504aが配置された円周と、外周シールリング520と、内周シールリング521は、同一の軸を中心として配置される。すなわち、排気用開口1504aが配置された円周と、外周シールリング520と、内周シールリング521は、お互い平行に配置され、一定の距離を保持している。
【0100】
本実施例において、金属湾曲形成体4の加工方法は実施例1と同様である。ただし、本実施例において、金属湾曲形成体4は、実施例1と異なり、
図10に示すように開口部401が(-Z)側に開口しており、開口部403が(+Z)側に開口している。すなわち、保持部材5が金属湾曲形成体4を保持する際は、外周シールリング520の上面520bおよび内周シールリング521の上面521bが、金属湾曲形成体4の外表面に当接する。また、同様に近接触面1505a、1505b、1506d、および1506eが金属湾曲形成体4の外表面に当接または近接する。また、近接触面1505bおよび1506eが金属湾曲形成体4の外表面に近接している場合は、近接触面1505b、1506e、外周シールリング520、内周シールリング521、および金属湾曲形成体4の外表面によって減圧空間が形成される。
【実施例3】
【0101】
また、本発明のさらに異なる実施形態として、実施例3について図面とともに説明する。
図12は、実施例3における金属湾曲形成体4を保持した状態の保持部材5を示す断面図である。
なお、実施例3において、実施例1または実施例2と同一の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。また、金属湾曲形成体加工装置1における保持部材5以外の構成、すなわち、
図3に示した加工部2の回転駆動部6、吸引ポンプ部7、切削部8、および切削駆動部9と、操作部3の切削操作部301、回転駆動操作部302、および吸引ポンプ操作部303と、保持部材5のチャック土台部503、生爪515、生爪固定部516は、実施例1と同一であり、保持部材5の内周シールリング521、外周シールリング520は、実施例2と同一である。
【0102】
図12に示すように、ホルダー部2501は、排気接続部2502と、チャック土台部503と、ホルダー外周部2505と、ホルダー内周部2506と、金属湾曲形成体固定治具2517とで構成される。また、ホルダー部2501には、シール部材としての外周シールリング520と、内周シールリング521とが配置されている。また、ホルダー部2501は、実施例2と同様に金属湾曲形成体4の外表面の形状に対応し、外周から内周に向かって下方向に凹となるように形成される。
【0103】
ホルダー部2501は、排気接続部2502と、ホルダー外周部2505と、ホルダー内周部2506とが一体に形成され、その内部に排気流路2504と、排気空間2514と、主排気路2512とで構成された気体流路2526が形成される。
【0104】
排気流路2504は、ホルダー部2501の内部においてZ軸方向(回転軸方向)に伸びる円柱形状の空間であり、ホルダー外周部2505とホルダー内周部2506との間に形成される。また、排気流路2504は、上端に排気用開口2504aが形成される。本実施例では、ホルダー部2501の上面に8つの排気用開口2504aが回転軸を中心とする同一円周上に等間隔で配置されるように形成されているが、排気用開口2504a(排気流路2504)の数および配置はこれに限定されない。
【0105】
排気空間2514は、ホルダー部501のZ軸方向における中心軸付近からXY軸平面方向(回転軸半径方向)に放射状に伸びる円柱形状の空間であり、ホルダー内周部2506およびホルダー外周部2505と、排気接続部2502との間に形成されている。また、排気空間2514は、その外周の一部において排気流路2504の下端に接続されて連通している。本実施例では、排気空間2514は、排気流路2504と同数設けられ、排気流路2504と排気空間2514は連続した空間に形成される。また、排気空間2514は、その一端がホルダー外周部2505の外周上に設けられ、封止栓522により封止されている。他端は、他の排気空間2514の他端と接続され、その接続部において下方向に伸びる主排気路2512と、上方向に伸びる治具固定孔とさらに接続する。複数の排気空間2514の一端と他端との間隔(排気空間2514の長さ)は、すべて同じに形成される。
【0106】
主排気路2512は、Z軸方向に伸びた円柱状の空間であり、上端が排気空間2514の中央側端部および治具固定孔の下端と接続されて連通し、下端がポンプ吸気路2701と接続されて連通している。すなわち、複数の排気空間2514の他端はホルダー部2501のZ軸方向における中心軸付近で接続され、主排気路2512と治具固定孔は中心軸上において中心軸と同方向に長い形状となる。
【0107】
金属湾曲形成体固定治具2517は、底面が金属湾曲形成体4の対応する内表面と同形状に湾曲した形状を有する。金属湾曲形成体固定治具2517は、治具固定部材523によってホルダー部2501に固定される。このとき、金属湾曲形成体固定治具2517の底面の湾曲部分が、金属湾曲形成体4の開口部401付近をホルダー内周部2506と挟み込むように固定し、金属湾曲形成体4の位置を固定する。
【0108】
以上の実施例2または実施例3の構成により、さらに有利に湾曲した形状の金属形成体である加工対象を、内面に傷をつけず、脱落しないようにしっかりと吸着保持することができる。すなわち、吸引により保持するために金属湾曲形成体4に接触する部位を加工対象の外表面側としたことにより、加工対象の内面を傷つけることを防止できる。また、吸引による吸着(保持)を金属湾曲形成体4の外表面で行うことにより、強い吸引力で吸着しても内面が傷つくことは無いため、吸引力を向上させることを容易に実施できる。特に、超伝導加速部に用いられるハーフセルが加工対象であった場合に、強い吸引力で吸着して保持安定力を高めても、内面が傷つくことを防止できる。すなわち、吸引力を強くすることによって外周シールリング520と内周シールリング521の間で金属湾曲形成体4の外表面が保持部材5に接触しても、金属湾曲形成体4の内面には接触しないため、内面を傷つけずに保つことができる。
【0109】
本発明のホルダー部1501、2501は、可撓性(弾性)のある物質(例えばゴムなどの樹脂)により製造された外周シールリング520および内周シールリング521が金属湾曲形成体4の外表面に当接して保持する構成である。この構成により、金属湾曲形成体4の内表面は、加工時においても金属湾曲形成体固定治具2517の限られた一部としか当接しない。そのため、より金属湾曲形成体4の内表面に傷がつくことを防止することができ、特に超伝導加速器に必要な超伝導加速部の形成に使用される金属セル(ハーフセル)の製造に有利である。
【0110】
また、本発明の外周シールリング520および内周シールリング521は、2つの角520cおよび521cを有し、外周シールリング固定溝525および内周シールリング固定溝524のそれぞれに設けられた2つの角520cおよび521cと当接する構成である。この構成により、外周シールリング520および内周シールリング521は、それぞれ嵌め込まれた固定溝525および524の中で移動することがなく、加工中に金属湾曲形成体4が移動することを防止できる。
【0111】
また、本発明の外周シールリング520および内周シールリング521は、金属湾曲形成体4と当接する面が外周側(金属湾曲形成体4側)に向かって湾曲する断面円弧形状を有する。この構成により、金属湾曲形成体4が強く吸着保持された場合であっても、金属湾曲形成体4の外表面にリングの跡がつくことがなく、金属湾曲形成体4の外表面の外観を良好に保つことができる。
【0112】
また、外周シールリング520および内周シールリング521は、金属湾曲形成体4と当接する面が全周にわたって湾曲する断面円弧形状となっている。これにより、外周シールリング520および内周シールリング521は、いずれも全周にわたって金属湾曲形成体4の外表面に隙間なく当接することができ、吸引ポンプ部7による吸引時に金属湾曲形成体4を確実に吸着して保持することができる。
【0113】
また、外周シールリング520および内周シールリング521の位置は、金属湾曲形成体4の開口部401と開口部403のどちらからも離れた位置にあり、さらに開口部401と開口部403から離れる側となる外周シールリング520および内周シールリング521の間で吸引を行うことにより、吸引によって湾曲形成体4の開口部401や開口部403が変形することを防止できる。したがって、超伝導加速空洞を製造する際に湾曲形成体4の開口部401同士や開口部403同士を接続する際に要求される加工精度が損なわれることなく、良好な精度の湾曲形成体4を製造することができる。
【0114】
また、本発明における排気用開口1504a、2504aが配置された円周と、外周シールリング520と、内周シールリング521は、同一の軸を中心として配置される。この構成により、排気用開口1504a、2504aまたは減圧空間をバランスよく減圧することができ、加工中に金属湾曲形成体4が移動することを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、湾曲した金属湾曲形成体を加工する産業に用いることができる。
【符号の説明】
【0116】
1…金属湾曲形成体加工装置
2…加工部
3…操作部
301…切削操作部
302…回転駆動操作部
303…吸引ポンプ操作部
4…金属湾曲形成体
401,403…開口部
402…開口部縁
404…曲面
5…保持部材
501…ホルダー部
502…排気接続部
503…チャック土台部
504…排気流路
504a…排気用開口
505…ホルダー外周部
506…ホルダー内周部
506a,506b,507a,507b…近接面
506c…曲面
507…第1ホルダー外周部
507c…表面
508…第2ホルダー外周部
509…外周角リング
510…内周角リング
511…減圧空間
511a…吸着側開口
512…主排気路
513…ホルダー固定ねじ
514…排気空間
515…生爪
516…生爪固定部
517…金属湾曲形成体固定治具
518…Oリング
520…外周シールリング
521…内周シールリング
524…内周シールリング固定溝
525…外周シールリング固定溝
6…回転駆動部
7…吸引ポンプ部
701…ポンプ吸気路
702…吸引ポンプOリング
8…切削部
9…切削駆動部
10…超伝導加速器