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特許7610195TUT4/7発現調節因子を含む癌予防又は治療用薬学的組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】TUT4/7発現調節因子を含む癌予防又は治療用薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/713 20060101AFI20241225BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241225BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241225BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20241225BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20241225BHJP
【FI】
A61K31/713 ZNA
A61P35/00
A61P25/00
C12Q1/6886 Z
C12N15/113 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021549466
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 KR2020002709
(87)【国際公開番号】W WO2020175898
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0022551
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509329800
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(73)【特許権者】
【識別番号】521371991
【氏名又は名称】インスティチュート フォア ベーシック サイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】キム,ビッ.ネリ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヘドン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジミ
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/129633(WO,A1)
【文献】Oncol Lett,2018年,16(4),5331-5338
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
C12Q 1/00- 1/70
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の塩基配列;及び配列番号2の塩基配列を含む、マイクロRNAであって、
前記マイクロRNAは長い二重複合体(long duplex)の形態である、マイクロRNA。
【請求項2】
前記塩基配列のそれぞれの5’末端に、リン酸塩が結合している、請求項1に記載のマイクロRNA。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマイクロRNAを含む癌予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項4】
配列番号4の塩基配列からなる核酸;配列番号5~20から選ばれる塩基配列を含む短い干渉RNA(siRNA);組成物、をさらに含む、請求項に記載の癌予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項5】
前記短い干渉RNAは、配列番号5~8のいずれか一つの塩基配列を含む短い干渉RNA及び前記配列番号9~12のいずれか一つの塩基配列を含む短い干渉RNAが互いに結合した複合体の形態;又は配列番号13~16のいずれか一つの塩基配列を含む短い干渉RNA及び前記配列番号17~20のいずれか一つの塩基配列を含む短い干渉RNAが互いに結合した複合体の形態である、請求項に記載の癌予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項6】
前記癌は、脳腫瘍、結腸癌、大腸癌、肺癌、肝癌、胃癌、食道癌、膵癌、胆嚢癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、絨毛癌、卵巣癌、乳癌、甲状腺癌、脳癌、頭頸部癌及び悪性黒色腫からなる群から選ばれる、請求項に記載の癌予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項7】
前記癌は脳腫瘍である、請求項6に記載の癌予防又は治療用薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、TUT4/7発現調節因子を含む癌予防又は治療用薬学的組成物に関し、より詳細には、TUT4/7発現を調節する核酸配列を含む癌予防又は治療用薬学的組成物に関する。
【0002】
本発明は、大韓民国保健福祉部の支援下で課題番号1711079098によってなされたものであり、この課題の研究管理専門機関は基礎科学研究院、研究事業名は“基礎科学研究院研究運営費支援”、研究課題名は“RNAによる細胞運命調節研究”、主管機関は基礎科学研究院、研究期間は2018.01.01.~2018.12.31.である。
【0003】
本特許出願は、2019年2月26日に大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2019-0022551号に対して優先権を主張し、この特許出願の開示事項は本明細書に参照によって組み込まれる。
〔背景技術〕
マイクロRNA(micro RNA;miRNA)の生成過程は、ドロシャ(Drosha)とダイサー(Dicer)による切断過程によって二重螺旋RNAを作り、これを構成する2本の鎖(5pと3p)からいずれかの鎖を選択する過程を伴う。2本の鎖は厳格に異なる配列を持っており、異なる遺伝子の発現を調節できるため、いずれの鎖が選択されるかを決定する鎖選択(strand selection)過程は生物学的に重要である。
【0004】
一方、細胞類型によって主に選択されるmiRNA鎖が変わることがあるが、これを代案的鎖(alternative processing)選択(又は、“アームスイッチング(arm switching)”)と呼ぶ。代案的鎖選択は、組織分化と癌発達に影響を及ぼすことができる。しかしながら、このような代案的鎖選択がどのように調節を受けるかなどのその分子メカニズム及び生理的重要性は、依然として曖昧なままである。
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明者らは、TUT4及びTUT7(TUT4/7)によるウリジン化現象がpre-mir-324のダイサー切断位置を調節することによって機能の異なる3種のマイクロRNA(5p及び23p異型体)を生成することを確認し、TUT4/7の機能を抑制させて細胞分裂を防ぎ、癌発達を阻害させることができ、miR-324-5pの量を増やし、miR-324-3p.1の機能を抑制させて同一の効果を示すことができることを糾明し、本発明を完成するに至った。
【0005】
したがって、本発明の目的は、配列番号1及び2の塩基配列を含むマイクロRNA(micro RNA;miRNA);配列番号4の塩基配列からなる核酸;及び配列番号5~20からなる群から選ばれる1個以上の塩基配列を含む短い干渉RNA(small interfering RNA;siRNA);を含む癌予防又は治療用薬学的組成物を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、配列番号1及び2の塩基配列を含むマイクロRNA(micro RNA;miRNA);配列番号4の塩基配列からなる核酸;及び配列番号5~20からなる群から選ばれる1個以上の塩基配列を含む短い干渉RNA(small interfering RNA;siRNA);を用いた癌治療方法を提供することである。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、配列番号1及び2の塩基配列を含むマイクロRNA(micro RNA;miRNA);配列番号4の塩基配列からなる核酸;及び配列番号5~20からなる群から選ばれる1個以上の塩基配列を含む短い干渉RNA(small interfering RNA;siRNA);の癌治療用途を提供することである。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、miR-324-5p又はmiR-324-3p.1のmiRNAの発現レベルを測定する製剤を含む癌診断用組成物を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、miR-324-5p又はmiR-324-3p.1のmiRNAの発現レベルを測定する製剤を含む癌診断用キットを提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、TUT4(Terminal uridylyl transferases 4)又はTUT7(Terminal uridylyl transferases 7)の遺伝子mRNA又はそのタンパク質のレベルを測定する製剤を含む癌診断用組成物を提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、TUT4又はTUT7の遺伝子mRNA又はそのタンパク質のレベルを測定する製剤を含む癌診断用キットを提供することである。
〔課題を解決するための手段〕
本発明者らは、TUT4及びTUT7(TUT4/7)によるウリジン化現象がpre-mir-324のダイサー切断位置を調節することによって機能の異なる3種のマイクロRNA(5p及び23p異型体)を生成することを確認し、TUT4/7の機能を抑制させて細胞分裂を防ぎ、癌発達を阻害させることができ、miR-324-5pの量を増やし、miR-324-3p.1の機能を抑制させて同一の効果を示すことができることを糾明した。
【0012】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0013】
本発明の一態様は、配列番号1及び2の塩基配列を含むマイクロRNA(micro RNA;miRNA);
配列番号4の塩基配列からなる核酸;及び
配列番号5~20からなる群から選ばれる1個以上の塩基配列を含む短い干渉RNA(small interfering RNA;siRNA);からなる群から選ばれる1種以上を含む癌予防又は治療用薬学的組成物に関する。
【0014】
前記癌は、脳腫瘍、結腸癌、大腸癌、肺癌、肝癌、胃癌、食道癌、膵癌、胆嚢癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、絨毛癌、卵巣癌、乳癌、甲状腺癌、脳癌、頭頸部癌及び/又は悪性黒色腫でよいが、それらに制限されるものではない。
【0015】
本発明において、“マイクロRNA(miRNA)”とは、mRNAの3’非翻訳領域(UTR)部位との塩基結合によって転写後抑制子の役割を担う概ね22ntの非翻訳RNAのことを指し、遺伝子発現を調節する役割を担う。
【0016】
本発明の前記マイクロRNAは、配列番号1及び2の塩基配列を含むものでよい。
【0017】
具体的に、前記マイクロRNA(5p duplex miRNA)は、前記配列番号1の塩基配列を含むマイクロRNA(miR-324-5p)及び前記配列番号2の塩基配列を含むマイクロRNA(miR-324-3p.2)が互いに結合をなしている一つの複合体(duplex)でよい。
【0018】
前記配列番号1及び2の塩基配列の5’末端にはリン酸塩(phosphate)(5phos)が位置してもよい。
【0019】
本発明において、“核酸”は、任意のDNA又はRNA、例えば、組織サンプルに存在する染色体、ミトコンドリア、ウイルス及び/又は細菌核酸を含む意味である。二重鎖核酸分子の1本又は2本の鎖を含み、無損傷核酸分子の任意の断片又は一部を含む。
【0020】
本発明の核酸は、化学的に変形されたDNA又はRNAを含むものと解釈される。当業者は当該技術分野に公知の方法を用いて所望の方式通りに前記核酸を合成し変形させることができる。
【0021】
本発明の前記核酸は、配列番号4の塩基配列(CAGCAGCACCTGGGGCAG)からなるものでよい。
【0022】
本発明において、“短い干渉RNA(siRNA)”は、二重鎖RNAがダイサー(Dicer)によって切断されて生成される18~23ヌクレオチドサイズの小さいRNA片であり、相補的な配列を有するmRNAに特異的に結合して当該タンパク質の発現を抑制する役割を担う。
【0023】
本発明のsiRNAは、生体内核酸分解酵素による速い分解を防ぐために化学的に変形されたsiRNAを含むものと解釈される。当業者は当該技術分野に公知の方法を用いて所望の方式通りに前記siRNAを合成し変形させることができる。
【0024】
本発明の組成物は、細胞内への導入効率を増強させるために公知の核酸伝達体と共に細胞内に導入されてよい。
【0025】
本発明の前記短い干渉RNAは、配列番号5~20の塩基配列を含むものでよい。
【0026】
具体的に、前記短い干渉RNA(siTUT4)は、前記配列番号5~8のいずれか一つの塩基配列を含む短い干渉RNA及び前記配列番号9~12のいずれか一つの塩基配列を含む短い干渉RNAが互いに結合をなしている一つの複合体でよい。
【0027】
また、具体的に、前記短い干渉RNA(siTUT7)は、前記配列番号13~16のいずれか一つの塩基配列を含む短い干渉RNA及び前記配列番号17~20のいずれか一つの塩基配列を含む短い干渉RNAが互いに結合をなしている一つの複合体でよい。
【0028】
本発明において、前記miRNA、核酸及び/又はsiRNAの治療における有効量は、癌治療効果を期待するために投与に要求される量を意味する。したがって、疾患の種類、疾患の重症度、投与される核酸の種類、剤形、患者の年齢、体重、一般健康状態、性別、食餌、投与時間、投与経路及び治療期間、同時に使用される化学抗癌剤などの薬物を含む様々な因子によって調節されてよい。
【0029】
本発明の組成物は、経口、経皮、皮下、静脈又は筋肉を含む様々な経路で投与可能であり、そのために、本発明によるmiRNA、核酸及び/又はsiRNAに他の添加剤をさらに含むことができる。
【0030】
本発明による組成物の剤形は、錠剤、丸剤、散剤、サシェ(sachet)、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤、エアゾール、カプセル剤、滅菌注射剤、滅菌散剤などの形態でよく、好ましくは、静脈注射、皮下注射、内皮注射、筋肉注射などの注射剤に製剤化される。
【0031】
本発明の薬学的組成物は、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる方法によって、薬剤学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することによって単位容量の形態で製造されてもよく、或いは多回容量容器内に内入させて製造されてもよい。このとき、剤形は、オイル又は水性媒質中の溶液、懸濁液又は乳化液の形態であるか、エキス剤、散剤、坐剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態であってもよく、分散剤又は安定化剤をさらに含むことができる。
【0032】
本発明の薬学的組成物に含み得る薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルジネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、滑石、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルなどを含むが、それらに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分の他、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。好適な薬剤学的に許容される担体及び製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.,1995)に詳細に記載されている。
【0033】
本発明の薬学的組成物は、経口及び非経口で投与でき、例えば、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与、硬膜内投与、眼球投与、皮膚投与及び経皮投与などで投与することができる。
【0034】
本発明の薬学的組成物の適度な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性、病態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって様々であり、通常の熟練した医師は、希望の治療又は予防に効果的な投与量を容易に決定及び処方することができる。
【0035】
本発明の他の態様は、miR-324-5p及びmiR-324-3p.1からなる群から選ばれる1種以上のmiRNAの発現レベルを測定する製剤を含む癌診断用組成物に関する。
【0036】
前記マイクロRNA(miR-324-5p)は、配列番号1の塩基配列を含むものでよく、前記マイクロRNA(miR-324-3p.1)は、配列番号3(ACUGCCCCAGGUGCUGCUGG)の塩基配列を含むものでよい。
【0037】
具体的に、前記マイクロRNA(miR-324-3p.1)は、前記配列番号3の塩基配列を含むが、3’末端に1個又はそれ以上のウラシル(U)がさらに含まれるものでよい。
【0038】
また、前記マイクロRNAは、MIR324遺伝子(GenBank Number:442898)から作られた一つの転写体(transcript)からドロシャ及びダイサーによって切断されて作られたものでよい。
【0039】
本明細書において“診断”とは、特定の疾病又は疾患に対する一個体の感受性(susceptibility)を判定すること、一個体が特定の疾病又は疾患を現在持っているか否かを判定すること、特定の疾病又は疾患にかかった一個体の予後(prognosis)を判定すること、又はセラメトリクス(therametrics)(例えば、治療効能に関する情報を提供するために個体の状態をモニタリングすること)を含む。
【0040】
本明細書において“個体”、“対象”又は“患者”は、ヒト、ウシ、イヌ、ギニアピッグ、ウサギ、ニワトリ、昆虫などを含めて治療を要する任意の単一個体を意味する。また、任意の疾病臨床所見を示さない臨床研究試験に参加した任意の対象又は疫学研究に参加した対象又は対照群として用いられた対象が、対象に含まれる。
【0041】
本明細書において別に断りのない限り、本明細書で使われる表現“miRNAの発現レベル測定”は、該当の試料内で検出しようとする対象を検出することを意味する。
【0042】
本発明で検出しようとする対象は、試料内該当のmiRNAである。すなわち、miRNAを検出することによって前記癌の発病有無が確認できる。
【0043】
例えば、前記miRNAの発現レベルは、癌が疑われる患者の生物学的試料から測定できる。
【0044】
本発明は、癌である場合がそうでない場合に比べて、生体内miR-324-5pの発現レベルが有意に減少し、miR-324-3p.1の発現レベルが有意に増加する点を確認したことに基づき、miR-324-5p及びmiR-324-3p.1は、癌の発病有無に対する診断マーカーとして用いられる。
【0045】
本発明のmiRNAの発現レベルを測定する製剤は、癌が発病した場合、対象の生物学的試料の検体において発現レベルが減少するマーカーであるmiRNA及びさらに発現レベルが増加するマーカーであるmiRNAの発現レベルを確認することによってマーカーの検出に用いることができる分子を意味する。
【0046】
具体的に、前記miRNAの発現レベルを測定する製剤は、前記miRNAに特異的に結合するプライマー又はプローブでよい。
【0047】
すなわち、核酸の検出は、遺伝子を暗号化する核酸分子又は前記核酸分子の相補物にハイブリッド化される一つ以上のオリゴヌクレオチドプライマーを用いる増幅反応によって行うことができる。
【0048】
例えば、プライマーを用いたmiRNAの検出は、PCRのような増幅方法を用いて遺伝子配列を増幅した後、当分野に公知の方法で遺伝子の増幅有無を確認することによって行うことができる。
【0049】
プライマーは、短い自由3末端水酸基(free 3’ hydroxyl group)を有する核酸配列であり、相補的なテンプレート(template)と塩基対(base pair)を形成でき、テンプレート鎖複写のための開始地点として働く短い核酸配列を意味する。プライマーは、適切な緩衝溶液及び温度で重合反応(すなわち、DNAポリメラーゼ又は逆転写酵素)のための試薬及び異なる4種のヌクレオシドトリホスフェートの存在下でDNA合成が開始されてよい。本発明では、上の一つ以上のmiRNAに特異的に結合するセンス及びアンチセンスプライマーを用いてPCR増幅を行って発現レベルを確認することによって癌発病の有無が診断できる。PCR条件、センス及びアンチセンスプライマーの長さは、当業界に公知のものに基づいて変形させることができる。
【0050】
プローブは、短くは数塩基から長くは数十塩基までに該当するRNA又はDNAなどの核酸断片を意味し、ラベリングされている。プローブは、オリゴヌクレオチド(oligonucleotide)プローブ、単鎖DNA(single stranded DNA)プローブ、二重鎖DNA(double stranded DNA)プローブ、RNAプローブなどの形態で作製可能である。本発明では、上の一つ以上のmiRNAと相補的なプローブを用いて混成化を行って発現レベルを確認することによって癌発病の有無が診断できる。適当なプローブの選択及び混成化条件は、当業界に公知のものに基づいて変形させることができる。
【0051】
このようなプライマー又はプローブは、公知の配列に基づいて当業者が適切にデザインすることができる。
【0052】
例えば、プライマー又はプローブは、ホスホロアミダイト固体支持体方法、又はその他広く公知された方法を用いて化学的に合成することができる。また、このような核酸配列は当該分野に公知の様々な手段を用いて変形させることができる。このような変形の非制限的な例には、メチル化、“キャップ化”、天然ヌクレオチドの一つ以上の同族体への置換、及びヌクレオチド間の変形、例えば、非荷電した連結体(例:メチルホスホナート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダート、カルバメートなど)又は荷電した連結体(例:ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)への変形がある。
【0053】
miRNAの発現レベルは、バイオキット分野で通常用いられる方法によって測定できるが、例えば、逆転写酵素重合酵素反応(RT-PCR)、競合的逆転写酵素重合酵素反応(Competitive RT-PCR)、実時間逆転写酵素重合酵素反応(Real-time RT-PCR)、RNase保護分析法(RPA;RNase protection assay)、ノーザンブロッティング(Northern blotting)又は遺伝子チップなどが含まれ、それらに制限されるものではない。
【0054】
本発明のさらに他の態様は、前記癌診断用組成物を含む癌診断用キットに関する。
【0055】
前記キットには、前記miRNAの発現レベルを測定する製剤の他、癌の診断キットに好適に用いられる当分野における通常の道具、試薬などが含まれてもよい。
【0056】
前記道具又は試薬の一例として、適切な担体、検出可能な信号を生成できる標識物質、発色団(chromophores)、溶解剤、洗浄剤、緩衝剤、安定化剤などが含まれるが、これに制限されない。標識物質が酵素である場合には、酵素活性を測定できる基質及び反応停止剤を含むことができる。担体は、可溶性担体、不溶性担体があり、可溶性担体の一例として、当分野に公知の生理学的に許容される緩衝液、例えばPBSがあり、不溶性担体の一例として、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、架橋デキストラン、ポリサッカライド、ラテックスに金属をメッキした磁性微粒子のような高分子、その他に紙、ガラス、金属、アガロース及びそれらの組合せでよい。
【0057】
例えば、本発明の診断キットは、RT-PCRを行うために必要な必須要素を含むキットでよい。RT-PCRキットは、マーカーmiRNAに対する特異的なそれぞれのプライマー対の他にも、テストチューブ又は他の適切なコンテナ、反応緩衝液(pH及びマグネシウム濃度は多様)、デオキシヌクレオチド(dNTPs)、Taq-ポリメラーゼ及び逆転写酵素のような酵素、DNase、RNAse抑制剤、DEPC水(DEPC-water)、滅菌水などを含むことができる。
【0058】
本発明のキットは、上述した組成物を構成として含むので、重複した内容は、本明細書の過度な複雑性を避けるためにその記載を省略する。
【0059】
本発明のさらに他の態様は、TUT4(Terminal uridylyl transferases 4)(GenBank Number:23318)及びTUT7(Terminal uridylyl transferases 7)(GenBank Number:79670)からなる群から選ばれる1種以上の遺伝子mRNA又はそのタンパク質のレベルを測定する製剤を含む癌診断用組成物に関する。
【0060】
前記TUT4遺伝子の塩基配列は配列番号21に示されており、前記TUT7遺伝子の塩基配列は配列番号22に示されている。
【0061】
本明細書において“診断”は、特定の疾病又は疾患に対する一個体の感受性を判定すること、一個体が特定の疾病又は疾患を現在持っているか否かを判定すること、特定の疾病又は疾患にかかった一個体の予後を判定すること、又はセラメトリクス(例えば、治療効能に関する情報を提供するために個体の状態をモニタリングすること)を含む。
【0062】
本明細書において“個体”、“対象”又は“患者”は、ヒト、ウシ、イヌ、ギニアピッグ、ウサギ、ニワトリ、昆虫などを含めて治療を要する任意の単一個体を意味する。また、任意の疾病臨床所見を示さない臨床研究試験に参加した任意の対象又は疫学研究に参加した対象又は対照群として用いられた対象が、対象に含まれる。
【0063】
本明細書において別に断りのない限り、本明細書で使われる表現“遺伝子mRNA又はそのタンパク質のレベル測定”は、該当の試料内で検出しようとする対象を検出することを意味する。
【0064】
本発明で検出しようとする対象は、試料内該当の遺伝子mRNA又はそのタンパク質である。すなわち、mRNA又はそのタンパク質を検出することによって前記癌の発病の有無が確認できる。
【0065】
例えば、前記mRNA又はそのタンパク質のレベルは、癌が疑われる患者の生物学的試料から測定することができる。
【0066】
本発明は、癌である場合がそうでない場合に比べて、生体内TUT4及びTUT7の発現レベルが有意に増加する点を確認したことに基づいて、TUT4及びTUT7は癌の発病有無に対する診断マーカーとして用いられる。
【0067】
本明細書において“遺伝子”は、タンパク質コーディング又は転写時に又は他の遺伝子発現の調節時に機能的役割を有する任意の核酸配列又はその一部を意味する。遺伝子は機能的タンパク質をコードする全ての核酸又はタンパク質をコード又は発現させる核酸の一部だけからなってよい。核酸配列は、エクソン、イントロン、開始又は終了領域、プロモーター配列、他の調節配列又は遺伝子に隣接した特有な配列内に遺伝子異常を含むことができる。
【0068】
本発明の遺伝子mRNAの発現レベルを測定する製剤は、癌が発病した場合、対象の生物学的試料の検体において発現レベルが増加するマーカーであるmRNAの発現レベルを確認することによってマーカーの検出に使用できる分子を意味する。
【0069】
具体的に、前記mRNAの発現レベルを測定する製剤は、前記mRNAに特異的に結合するプライマー又はプローブでよい。
【0070】
上述した“miR-324-5p及びmiR-324-3p.1のmiRNAの発現レベルを測定する製剤を含む癌診断用組成物”と重複する内容は、本明細書の過度な複雑性を避けるためにその記載を省略する。
【0071】
本明細書において“タンパク質”はまた、基準タンパク質と本質的に同じ生物活性又は機能を保有する、タンパク質の断片、類似体及び誘導体を含むことができる。
【0072】
本発明のタンパク質レベルを測定する製剤は、癌が発病した場合、対象の生物学的試料の検体においてレベルが増加するマーカーであるタンパク質の発現レベルを確認することによってマーカーの検出に使用できる分子を意味する。
【0073】
具体的に、前記タンパク質のレベルを測定する製剤は、前記タンパク質に特異的に結合する抗体でよい。
【0074】
本発明において“抗体”は最も広い意味で使われ、具体的に、無損傷モノクローナル(単一クローン)抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2個の無損傷抗体から形成された多重特異的抗体(例えば、二重特異的抗体)及び目的とする生物学的活性を示す抗体断片を含む。
【0075】
本発明のさらに他の態様は、前記癌診断用組成物を含む癌診断用キットに関する。
【0076】
前記キットには、前記遺伝子mRNA又はそのタンパク質のレベルを測定する製剤の他、癌の診断キットに好適に用いられる当分野における通常の道具、試薬などが含まれてよい。
【0077】
上述した“miR-324-5p及びmiR-324-3p.1のmiRNAの発現レベルを測定する製剤を含む癌診断用組成物;を含む癌診断用キット”と重複する内容は、本明細書の過度な複雑性を避けるためにその記載を省略する。
〔発明の効果〕
本発明は、TUT4/7発現調節因子を含む癌予防又は治療用薬学的組成物に関し、本発明の薬学組成物は、TUT4/7の機能を抑制させることによって細胞分裂を防ぎ、癌発達を阻害させることができ、miR-324-5pの量を増やし、miR-324-3p.1の機能を抑制させることができるので、これを効果的に癌の予防、治療又は診断に用いることができる。
〔図面の簡単な説明〕
図1〕mir-324アームスイッチング(Arm switching)結果であり、図1AはmiRNAに対する5p比率の中間絶対偏差の散点度(豊富でどこにでもあるmiRNA(両データセットにおいて>100 median RPM、全てのサンプルにおいて>0 RPM)が分析に含まれる)、図1BはAQ-seqによって測定されたHEK293TにおけるmiR-324のIsomiRプロファイル(RPM正規化読み取り回数は左側、5p及び3pの参照シーケンスは灰色陰影で表示)、図1CはAQ-seqによって測定されたマウス組織の指示されたパネルに対するmir-324の鎖比(5p/3p.1)、及び図1Dはほ乳動物におけるmiR-324の5’-isomiRの保存、を示す。
【0078】
図2〕TUT4/7によって調節されるmir-324アームスイッチング結果であり、図2Aは9個のヒト細胞株及び15個のマウス組織においてmiR-324-3pのウリジン化頻度(frequency)とmir-324の5p/3p.1比(ratio)間の陰性連関性(線形回帰は点線で表示。r:スピアマン相関係数(Spearman correlation coefficient))、図2Bはマウス組織の指示されたパネルにおける相対TUT4/7レベル及びmir-324の5p/3p.1比(ratio)(TUT4/7mRNAレベル及び5p/3p.1比はそれぞれRT-qPCR及びAQ-seqによって定量化。r:スピアマン相関係数)、図2CはHEK293TでTUT4/7のノックダウン後のAQ-seq結果(左側及び中間:ウリジン化生成頻度及びmiRNAの5p比率散布度。siNC-形質注入されたサンプルにおいて豊富なmiRNA(>100RPM)が分析に含まれる。右側:3個の5’-isomiRの相対的豊富度及びmir-324のlog-変形された5p/3p.1比)、図2DはHEK293TにおいてmiR-324-5p及びmiR-324-3pのノーザンブロット(合成mir-324二重複合体(duplex)をサイズ基準として使用)、及び図2EはマウスにおいてTut4/7の二重ノックアウト後のsRNA-seq結果(左側:骨髄においてTUT4/7劣化(depetion)による5’-isomiRの豊富度変化。対照群サンプルにおいて10超過のRPMを有する5’-isomiRが分析に含まれる。two-sided Student’s t testによるP-値。右側:mir-324のlog-変形された5p/3p.1比。棒は平均±s.d.。骨髄n=2;胚線維芽細胞n=2;胚幹細胞n=3;肝における対照群及びTut4/7dKOはそれぞれn=4及び3。two-sided Student’s t testによる*p<0.05、***p<0.001 RPM。RPM:reads per million)を示す。
【0079】
図3〕ウリジン化(Uridylation)によって誘導されたpre-mir-324の代案的なダイサー切断結果であり、図3Aは免疫精製されたダイサーによるpre-mir-324の非変形された、モノ-又はジ-ウリジン化された形態の試験管内(in vitro)切断(processing)(青色で表示された合成miR-324-5p(23nt)をサイズ基準として使用。主要切断産物及び該当の切断部位は矢尻で表示。*:放射性標識された5’ホスフェート)、図3BはHEK293TにおいてmiR-324-3pの5’-isomiR組成物、及び図3CはマウスにおいてmiR-324-3pの5’-isomiR組成物(棒は平均。骨髄n=2;胚線維芽細胞n=2;胚幹細胞n=3;肝における対照群及びTut4/7dKOはそれぞれn=4及び3)を示す。
【0080】
図4〕二重鎖RNA結合ドメイン(double stranded RNA-binding domain;dsRBD)によって促進された代案的なダイサー切断の結果であり、図4Aは免疫精製されたダイサーによる野生型又はバルジのない(no-bulge)突然変異体pre-mir-324の非変形された、モノ-又はジ-ウリジン化された形態の試験管内(in vitro)切断、図4B及び図4Cは免疫精製されたポケットダイサー突然変異体(図4B)又はdsRBD-削除突然変異体(図4C)によるpre-mir-324の非変形された、モノ-又はジ-ウリジン化された形態の試験管内(in vitro)切断(主要切断産物及び該当の切断部位は矢尻で表示。*:放射性標識された5’ホスフェート。†:3p位置nicked産物)、及び図4Dはpre-mir-324のウリジン化-媒介代案的なダイサー切断のための提案されたモデルを示す。
【0081】
図5〕代案的なダイサー切断によって誘導されたアームスイッチング結果であり、図5Aは、非変形された及びウリジン化されたpre-mir-324から製造されたmir-324二重複合体の鎖選択の概略図(点線四角形は各二重複合体の鎖選択を指示する終わりを示す)及び、図5Bは、2個のmir-324二重複合体を用いたルシフェラーゼレポーター分析(左側:miR-324-5p又は3p.1の3個の8mer標的部位があるホタル(firefly)レポーターmRNAの図。右側:HEK293Tにおいて2個のmir-324二重複合体に対するホタルルシフェラーゼの相対レポーター活性。ウミシイタケ(renilla)ルシフェラーゼのレポーター活性を対照群として使用。棒は平均±s.d.。(n=2、biological replicates)。two-sided Student’s t testによる**p<0.01)を示す。
【0082】
図6〕mir-324アームスイッチングによって調節される細胞周期進行結果であり、図6Aは膠芽細胞腫(glioblastoma)及び正常脳組織においてmiR-324-3pの5’-isomiR組成物の比率(正常脳n=3;膠芽細胞腫n=6)、図6BはOncopressionデータベースの正常、低等級膠腫(glioma)及び膠芽細胞腫組織においてTUT4/7の発現レベル(正常n=723;1等級n=74;2等級n=133;3等級n=132;膠芽細胞腫n=865。多重比較のためのone-way ANOVA with Tukey’s post hoc testによる***p<0.001)、図6Cは膠芽細胞腫(黒色)と一致する正常脳組織(白色)においてTUT4/7発現レベルとmiR-324-5p/3p比間の負の相関関係(線形回帰は点線で表示。r:スピアマン相関係数)、図6DはA172細胞においてmir-324の合成5p二重複合体(長いデュプレックス)又は3p.1二重複合体(短いデュプレックス)を過発現した後、表示されたサイクリンタンパク質のウェスタンブロット及び細胞周期プロファイル、図6EはA172細胞においてロックト(locked)核酸アンチセンスオリゴヌクレオチドによってmiR-324を抑制した後、指示されたサイクリンタンパク質のウェスタンブロット及び細胞周期プロファイル、及び図6FはA172細胞においてTUT4/7をノックダウンした後、指示されたタンパク質のウェスタンブロット及び細胞周期プロファイル(*:交差反応バンド。PI:ヨウ化プロピジウム。BrdU:ブロモデオキシウリジン)を示す。
【0083】
図7〕mir-324アームスイッチングメカニズムモデルを模式化した図である。
〔発明を実施するための形態〕
以下、本発明を下記の実施例によってより詳細に説明する。ただし、これらの実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0084】
本明細書全体にわたって、特定物質の濃度を示すために使われる“%”は、別に断りのない場合、固体/固体は(重量/重量)%、固体/液体は(重量/体積)%、そして液体/液体は(体積/体積)%である。
[準備例]
1.AQ-seqライブラリー
AQ-seq(バイアスが最小化されたsRNA-seq)ライブラリーは、以前研究(Kim et al.,2019)に説明されている通り、15個のマウス組織の全RNAを用いて構成された。
【0085】
具体的に、総RNA 5μgを30個の等モルのスパイクインRNA 10fmole(バイアス評価に用いられるmiRNA-類似非ヒト/マウス/カエル/フィッシュRNA)と混合した。短いRNA(Small RNA)は、15%ウレア-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いたサイズ分別によって濃縮され、3’及び5’末端において無作為化されたアダプターに順次に連結された。結紮されたRNAは、SuperScript III逆転写酵素(Invitrogen)を用いて逆転写され、Phusion High-Fidelity DNAポリメラーゼ(Thermo Scientific)を用いて増幅され、MiSeqプラットホーム(Illumina)において大容量シーケンシング(high-throughput sequencing;HTS)された。
【0086】
2.miRNAの大容量シーケンシング(high-throughput sequencing)分析
マウスにおけるsRNA-seq結果の読取り値がマウスゲノム(mm10)にマップされた以外は、以前研究(Kim et al.,2019)に説明された通りにデータを処理した。
【0087】
具体的に、cutadapt(Martin,2011)を用いて読取り値(reads)から3’アダプターをクリッピングした。AQ-seqデータの場合、4-nt変性配列をFNTX-Toolkit(http://hannonlab.cshl.edu/fastx toolkit/)を用いてさらに除去した。FASTX-Toolkitを用いて短くて品質の低い人工読取り値をフィルタリングした後、AQ-seqデータをまずスパイクインシーケンスに整列し、整列されていない読取り値を次のゲノムにマッピングし、他のsRNA-seqデータはBWAを用いてゲノムにマッピングした(Li and Durbin,2010)。次いで、3’末端不一致だけを許容する最上の整列点数を有する整列結果を選択した。miRNAアノテーション(miRNA annotation)は、BEDTools(Cozomara and Griffiths-Jones,2014;Quinlan and Hall,2010)の交差道具でmiRBase release 21から検索した。
【0088】
miRNA鎖比率(strand ratio)の定量分析のために、まず、最も豊富に発現している細胞株又は組織において与えられた成熟miRNAに対して最も豊富な5’-isomiRを確認した。その後、全ての細胞株又は組織に対して5p及び3pからtop 5’-isomiR間の比を計算した。miRBase release 21において両側鎖が注釈処理された非反復miRNA遺伝子がこの分析に含まれた。
【0089】
3.Targetome分析
修正されたバージョンのAGO CLIP-seq(CLEAR-CLIP及びCLASH)の結果を分析して、miR-324標的(target)を識別した(Helwak et al.,2013;Moore et al.,2015)。
【0090】
まず、CLEAR-CLIPの分析のために、cutadaptを用いて3’及び5’アダプターをクリッピングした後、miR-324配列を含む読取り値を抽出した。その後、標的RNA配列をマウスゲノム(mm10)にマッピングした。アノテーション(Annotation)は、BEDToolsの交差道具でGENCODE release M19から検索した。
【0091】
次に、CLASHの分析のために、プロトコルE4によって生成されたCLASHデータの補充ファイルが用いられた。miR-324-3pの標的遺伝子は、miR-324-3p配列の5’末端にしたがって細分された。
【0092】
4.プラスミド構築
野生型(wild type)、5’ポケットダイサー突然変異体及び3’ポケットダイサー突然変異体の発現のためのプラスミドを構築するために、ヒトダイサーレファレンス(RefSeq NM_030621)のコーディング配列を、以前研究で導入された突然変異の存在又は不在の下に増幅させた(Park et al.2011)。増幅されたDNAをIn-Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いてBamHI及びXhoI部位においてpCK-FLAGベクター(CMVプロモーター-駆動ベクター)でサブクローニングした。
【0093】
二重鎖RNA結合ドメイン(double stranded RNA-binding domain;dsRBD)-削除ダイサーの場合、V1849-S1922アミノ酸に相応する配列を除くコーディング領域を増幅させ、同じ方式を用いてpCK-FLAGベクター内にサブクローニングした。
【0094】
TRBPの場合、ヒトTRBPレファレンス(RefSeq NM_134323)のコーディング配列を増幅させ、BamHI及びXhoI部位においてpcDNA3-cMycベクター(Invitrogen)でサブクローニングした。
【0095】
最後に、ルシフェラーゼ(luciferase)分析のためのプラスミドを構築するために、miR-1-3p、miR-324-5p又はmiR-324-3p.1の3個の8mer標的部位を含む合成DNAオリゴを増幅させ、XhoI及びXbaI部位においてpmirGLO(Promega)に挿入した。合成DNAオリゴ及びPCRプライマーの配列は、下表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
5.細胞培養及び形質注入(transfection)
A172及びU87MGは、韓国細胞株銀行から入手した。HEK293T、A172及びU87MGを10%ウシ胎児血清(WELGENE)が補充されたDMEM(WELGENE)で保持させた。膠芽細胞腫(glioblastoma)患者(TS13-64)から由来した1次腫瘍細胞は、延世大学校医科大学(4-2012-0212、4-2014-0649)の機関検討委員会によって承認された通り、新鮮な膠芽細胞腫組織標本から確立された。
【0098】
腫瘍球(tumorsphere)培養のために、TS13-64細胞を1X B-27(Thermo Scientific)、20ng/mLのbFGF(R&D Systems)及び20ng/mLのEGF(Sigma-Aldrich)が補充されたDMEM(WELGENE)で成長させた(Sigma-Aldrich)(Kong et al.,2013)。
【0099】
TUT4/7をノックダウンさせるために、リポフェクタミン(Lipofectamine)3000(Thermo Scientific)を用いて20~22nM siRNAで2回にわたって細胞に形質注入させ、第1形質注入4日後に収穫した。
【0100】
ダイサーの過発現のために、リポフェクタミン3000を用いてHEK293T細胞にpCK-FLAG-DICERを形質注入させ、形質注入2日後に収穫した。
【0101】
合成miRNA又は抑制剤を伝達するために、リポフェクタミン3000を用いて20nMの合成miRNAデュプレックス又は80nMのLNA miRNA抑制剤を細胞に形質注入させ、形質注入2日後に収穫した。
【0102】
対照群siRNA(AccuTarget陰性対照群siRNA)、siRNA、対照群miRNA及び合成mir-324二重体はBionerから入手した。対照群miRNA抑制剤(miRCURY LNA miRNA抑制剤陰性対照群A)及びmiR-324抑制剤(hsa-miR-324-5p及びhsa-miR-324-3p miRCURY LNA miRNA抑制剤)をQIAGENから得た。合成siRNA及びmiRNAの配列は、下表2に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
6.ノーザンブロット(Northern blot)
TRIzol(Invitrogen)を用いて総RNAを分離し、mirVana miRNA Isolation Kit(Ambion)で短いRNA(small RNA)(<200nt)を濃縮した。その後、RNAを15%ウレア-ポリアクリルアミドゲルで分析した。合成mir-324二重複合体及びDecade Markers System(Ambion)をサイズマーカーとして用いた。RNAをHybond-NX膜(Amersham)に移し、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドで膜に架橋させた。アンチセンスプローブ5’末端は、T4ポリヌクレオチド(Takara)によって[ γ-32P]ATPと放射性標識され、Performa Spinカラム(Edge BioSystems)を用いて精製された。膜を、PerfectHyb Plusハイブリッド化バッファーで変成されたUltraPure Salmon Sperm DNA溶液(Thermo Scientific)と共に培養し、アンチセンスプローブとハイブリッド化した後、マイルド(mild)洗浄バッファー(0.05% SDS及び2X SSC)で洗浄し、ストリンジェント(stringent)洗浄バッファー(0.1% SDS及び0.1X SSC)で洗浄した。放射能信号は、Typhoon FLA 7000(GE Healthcare)によって感知され、Multi Gaugeソフトウェア(FujiFilm)によって分析された。
【0105】
miR-324-3pがまず検出され、プローブを剥がした後、miR-324-5pが検出された。ブロットからプローブを除去するために、膜を、あらかじめ沸かした0.5% SDSに15分間浸漬させた。合成mir-324二重複合体(AccuTarget)は、Bioneerから入手した。プローブの配列は、下表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
7.定量的実時間PCR(RT-qPCR)
マウス組織においてmRNAレベルを測定するために、RevertAid First Strand cDNA合成キット(Thermo Scientific)を用いてマウストータルRNAマスターパネル(Mouse Total RNA Master Panel)(Takara)のRNAを逆転写し、Power SYBR Green PCR Master Mix(Thermo Scientific)でStepOnePlus Real-Time PCRシステム(Thermo Scientific)で定量的実時間PCRを行った。内部対照群にはGAPDHが用いら、qPCRプライマーの配列は、下表4に示す。
【0108】
【表4】
【0109】
miR-324-5p/3p鎖比を定量化するために、総RNAをTRIzolを用いて分離した。その後、TaqMan miRNA逆転写キット(Applied Biosystems)を用いてcDNAを合成し、TaqMan遺伝子発現分析キット(Applied Biosystems)でStepOnePlus Real-Time PCRシステムにおいて定量的実時間PCRを行った。内部対照群にはU6 snRNAが用いられた。
【0110】
8.試験管内(In vitro)ダイサー切断分析
pre-mir-324及びその変異体は、T4ポリヌクレオチドによって[γ-32P]ATPと放射性標識され、メーカーの指示にしたがってOligo Clean & Concentrator(Zymo Research)を用いて精製された。
【0111】
FLAG-DICERの免疫沈殿のために、ダイサータンパク質を過発現するHEK293T細胞を溶解バッファー(500mM NaCl、20mM Tris(pH 8.0)、1mM EDTA、1% Triton X-100)で溶解させ、Bioruptor Standard(Diagenode)を用いて超音波処理した。遠心分離後、上澄液を10μLのANTI-FLAG M2 Affinity Gel(Sigma-Aldrich)と共に培養した。ビーズ(beads)を溶解バッファーで2回、高塩バッファー(800mM NaCl及び50mMトリス(pH 8.0))で4回、バッファーD(200mM KCl、20mMトリス(pH 8.0)、0.2mM EDTA)で4回洗浄した。
【0112】
免疫精製されたダイサーは、総体積30μL(2mM MgCl、1mM DTT、SUPERase In RNase Inhibitor(Thermo Scientific)60unit、5’-放射性標識されたpre-mir-324を含む)で試験管内(in vitro)反応を経た。RNAをフェノール抽出物又はOligo Clean & Concentratorで精製し、15%ウレア-ポリアクリルアミドゲルで分析した。合成miR-324-5p及びDecade Markers Systemをサイズマーカーとして使用した。合成pre-mir-324断片はIDTから得られた。合成miR-324-5pは、Bioneerから入手した。合成pre-mir-324断片及びmiR-324-5pの配列は、下表5に示す。
【0113】
【表5】
【0114】
9.デュアルルシフェラーゼレポーター分析
miR-1-3p、miR-324-5p又はmiR-324-3p.1の3個の8mer標的部位を含有するpmirGLOを、対照miRNA又はmir-324二重複合体と共にリポフェクタミン3000を用いてHEK293T細胞に共同形質注入(co-transfected)した。形質注入2日後に細胞を収穫し、レポーター分析を行った。レポーター活性はメーカーの指示(Promega)にしたがってSpark(登録商標)マイクロプレートリーダー(TECAN)でデュアルルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(Dual-Luciferase Reporter Assay System)を用いて測定された。miR-1-3pがHEK293Tでほとんど発現していないことを勘案し(AQ-seqで~8RPM)、miR-1-3pの3個の8mer標的部位を有するpmirGLOがプラスミド対照群として用いられた。追加標準化のために対照群miRNAが用いられた。
【0115】
10.膠芽細胞腫(glioblastoma)患者データの遺伝子発現分析
Oncopression(http://oncopression.com)からマイクロアレイを用いて前処理された遺伝子発現データを検索した(Lee and Choi,2017)。REMBRANDT遺伝子発現データセット(E-MTAB-3073)は、ArrayExpress(Madhavan et al.,2009)から入手した。
【0116】
mRNA及びmiRNAの同時プロファイリングを分析するために(Gulluoglu et al.,2018)、加工前マイクロアレイデータをRのlimmaパッケージを用いてRMA(robust multi-array average)で正規化した後、遺伝子発現分析に用いた。
【0117】
11.生存分析(Survival analysis)
TCGA膠芽細胞腫患者に対するlevel 3 miRNA遺伝子定量化データ及び臨床データはそれぞれ、GDC legacy archive及びGDCデータポータルから獲得した。患者たちは、miR-324-5p/3p比によって階層化され、また、上位及び下位40%が分析に含まれた。患者の生存はKaplan-Meier方法で推定し、Rの生存パッケージを用いて両側ログランク検定(two-sided log-rank test)でテストした。
【0118】
12.ウェスタンブロット(Western blot)
細胞をPBSで洗浄し、プロテアーゼ抑制剤カクテルセットIII(Merck Millipore)及びフォスファターゼ抑制剤カクテルII(AG Scientific)が補充されたRIPAバッファー(Thermo Scientific)に溶解させた。BCAタンパク質分析キット(Pierce Biotechnology)でタンパク質濃度を測定し、同一量のタンパク質を4~12%トリス-グリシンゲル(Thermo Scientific)から分離してImmobilon-P PVDF膜(Merck Millipore)に移した。膜を、5%脱脂乳が含まれたPBS-T(PBS(Amresco)+0.1%ツイン20(Anatrace))と共に培養した後、一次抗体で処理した。PBS-Tで3回洗浄した後、膜をHRP-接合二次抗体と共に培養した。タンパク質バンドは、SuperSignal West Pico PLUS Chemiluminescent Substrate(Thermo Scientific)によって検出され、ChemiDoc XRS+システム(Bio-Rad)によってスキャンされた。
【0119】
TUT4(18980-1-AP、RRID:AB_10598327、1:500)及びTUT7(25196-1-AP、1:500)に対するラビット多クローン抗体は、Proteintechから入手した。Cyclin E(sc-247、RRID:AB_627357、1:1,000)に対するマウス単一クローン抗体及びCyclin A(sc-751、RRID:AB_631329、1:1,000)、Cyclin B1(sc-752、RRID:AB_2072134、1:1,000)及びCyclin D1(sc-753、RRID:AB_2070433、1:1,000)に対するウサギ多クローン抗体は、Santa Cruz Biotechnologyから入手した。HSP90(4874、RRID:AB_2121214、1:1,000)に対するウサギ多クローン抗体は、Cell Signalingから入手した。ウサギIgG(111-035-144、RRID:AB_2307391、1:10,000)及びマウスIgG(115-035-146、RRID:AB_2307392、1:10,000)に対するHRP-接合ヤギ多クローン抗体は、Jackson ImmunoResearchから入手した。
【0120】
13.流細胞分析(Flow cytometry)
細胞を3~8時間10μM BrdUと共に培養した後、冷たい(ice-cold)70%エタノールで固定した。固定された細胞をFITC接合抗BrdU抗体(11-5071-42、RRID:AB_11042627、Invitrogen)と共に培養し、10μg/mL RNase A(Thermo Scientific)の存在下に20μg/mLヨウ化プロピジウム(Sigma-Aldrich)で追加染色した。その後、BD Accuri C6 Plus流細胞分析機を用いて検出した。細胞周期は、BD Accuri C6システムソフトウェアによって分析された。
[実施例]
1.mir-324の代案的鎖選択(又は、アームスイッチング(Arm switching))
まず、鎖比率(strand ratio)に大きい変化が見られるmiRNAを検索した。鎖比率の正確な定量のために、AQ-seqライブラリープロトコルを用いた。鎖選択(strand selection)の変異(variation)は、15個の異なるマウス組織/発達段階によって推定された(図1Aのx軸)。また、ヒトの鎖使用を比較するために、9個のヒト細胞株から得たsRNA-seqデータセットを用いた。
【0121】
図1Aから確認できるように、ヒト及びマウスデータセットの両方とも、大部分のmiRNAが鎖比率(~79%、3%未満の中間分散)は変わらなかった。しかし、mir-324、mir-362、mir-193a及びmir-140のように、変化が明確にみられるいくつかの事例を確認した。
【0122】
特に、mir-324のアームスイッチングが細胞運命決定に実質的な影響を及ぼすと考えられ、mir-324の鎖変化に集中した。
【0123】
図1B図1Dから確認できるように、単一MIR324遺伝子座で生成された5’-isomiRs(5p、3p.1及び3p.2)の3グループが検出された(図1B)。5p鎖は、マウス胚及び神経組織において優勢であるが、主要(major)3p異型体である3p.1は、肝及び胃で優勢に現れた(図1C)。また、5’-isomiRグループは哺乳類から発見され、これは、代案的鎖選択メカニズムが進化的に保存されるということを暗示する(図1D)。
【0124】
2.mir-324アームスイッチングはTUT4及びTUT7によって調節される。
【0125】
3pのウリジン化頻度(uridylation frequency)は、5p/3p.1比(ratio)と負の相関関係があることを確認した(図2A)。これによって、ウリジン化がアームスイッチングに関与できるという仮説を立てた。
【0126】
一方、ターミナルウリジリルトランスフェラーゼ(Terminal uridylyl transferases)であるTUT4(ZCCHC11及びTENT3Aとも知られている)及びTUT7(ZCCHC6及びTENT3Bとも知られている)は、pre-miRNAの特定セット(例えば、let-7前駆体)を含む様々なRNA種のウリジン化を触媒することが知られている。TUT4及びTUT7(TUT4/7)は大部分の基質において重複的に作動する。
【0127】
上記のような事実に基づき、マウス組織においてTUT4/7レベルを定量化(RT-qPCR)した結果、TUT4及びTUT7レベルが比較的低い細胞類型において5p/3p.1比率がより高いことが分かった(図2B)。
【0128】
mir-324成熟(maturation)においてTUT4/7の関与を確認するために、HEK293T細胞においてTUT4/7を劣化させ(depleted)、sRNA-seq(AQ-seq)を行った。
【0129】
図2Cから確認できるように、TUT4/7ノックダウンは、miR-324-3pを含め、miRNAのウリジン化を減少させた(左上のパネル)。また、TUT4/7ノックダウンは、3p.1の減少、及び5p及び補助(minor)異型体3p.2の増加などのようにmiR-324の異型体組成の変化を招き、結果的に、主要異型体間(5p/3p.1)の比が増加した(右上及び右下のパネル)。
【0130】
このようなシーケンシングデータは、ノーザンブロット結果(図2D)とも一致し、これはTUT4/7ノックダウン時にmiR-324異型体の量に変化が現れることを意味する。
【0131】
また、図2Eから確認できるように、TUT4/7二重ノックアウトマウスから公開されたsRNA-seqデータの再分析の結果、TUT4/7ノックアウト時に、3p.1レベルは減少するが、5pレベルは増加した(左パネル)。結果的に、検査された全ての組織/細胞類型(骨髄、胚線維芽細胞、胚幹細胞及び肝)においてTUT4/7二重ノックアウトによる鎖比率の変化が観察された(右パネル)。
【0132】
3.ウリジン化はpre-mir-324の代案的なダイサー切断を誘導する。
【0133】
TUT4/7は成熟miRNAよりはpre-miRNAを変形させるものと知られている。そこで、TUT4/7がmir-324鎖選択をどのように調節するかを確認するために、合成pre-mir-324で試験管内(in vitro)ダイサー切断分析を行うことによって、pre-miRNA切断に対するウリジン化の影響を確認した。
【0134】
図3Aから確認できるように、pre-mir-324が3’末端に1個又は2個の余分のウリジン残基を保有するとき、ダイサー切断部位は3-ntだけ移動した(図3Aの位置Aから位置Bに移動)。変形されていないpre-mir-324は、主に5p及び3p.2を含む、より長い二重複合体(黒い矢印)を放出するのに対し、ウリジン化されたpre-mir-324は代替位置(位置B)において割れ、より短い5p及び3p.1で構成されたより短い二重複合体を生成した(白い矢印)。したがって、pre-mir-324のTUT4/7-媒介ウリジン化は代案的なダイサー切断につながることが分かった。
【0135】
また、図3B及び図3Cから確認できるように、TUT4/7-劣化されたヒト及びマウス細胞からのシーケンシングデータは、3p isomiRs(3p.1 vs. 3p.2)の相対的豊富度がTUT4/7ノックダウン(図3B)及びノックアウト(図3C)によって変わり、これによってウリジン化がダイサー切断部位選択を変更させるという結論を裏付ける。
【0136】
4.代案的なダイサー切断は二重鎖RNA結合ドメイン(double stranded RNA-binding domain)によって促進される。
【0137】
まず、3-nt移動を担当する決定要因を確認するために、pre-mir-324からUバルジ(bulge)を除去した。
【0138】
図4Aから確認できるように、“Uバルジのない(no-bulge)”突然変異体の場合、ダイサーの切断部位がウリジン化によってそれ以上位置Bへ突然に移動せず、ウリジン個数によって順次に移動した(レーン10~12)。したがって、Uバルジは、位置AとB間の部位における切断に対する反-決定要因(anti-determinant)であり、これによってダイサーの代案的な切断を担当するシス-作用(cis-acting)要素として働くことを確認した。
【0139】
次に、5’-及び3’-カウンティング規則がpre-mir-324切断とどのような関連があるかを確認するために、5’又は3’ポケットにおけるダイサー突然変異体を活用した。
【0140】
図4Bから確認できるように、5’ポケットダイサー突然変異体は位置Aにおいてpre-mir-324を切断できなかったが、3’ポケット突然変異体は切断部位選択に影響を及ぼさない上に切断効率にやや影響を及ぼした。このような結果は、位置Aにおける切断に対する5’ポケットの重要性を示唆する。
【0141】
さらに、ダイサーにおいて他のドメインの寄与度を調べた。試験管内(in vitro)ダイサーdsRBDの役割を確認するために、dsRBD-欠失突然変異体を生成した。
【0142】
図4Cから確認できるように、dsRBD欠失は、切断パターンに相当な変化をもたらした。すなわち、dsRBDがないと、ダイサーは主に位置Aを切断し、これは、dsRBDが位置Bにおける切断を担当するということを示唆する。
【0143】
要するに、図4Dから確認できるように、変形されていないpre-mir-324は、ダイサーのプラットホーム領域に存在する5’ポケットに依存して位置Aが切断されることが分かる(左パネル)。しかし、ウリジン化すると、プラットホーム/PAZドメインに強固に固定されないため、最終構造(3-4 nt 3’突出部)は、dsRBDの助力によってpre-mir-324がダイサーにおいて再配置され、位置Bにおいて代案的な切断が可能になることが分かる(右パネル)。
【0144】
5.代案的なダイサー切断はアームスイッチングを誘導する。
【0145】
以上の実施例の結果によれば、図5Aから確認できるように、pre-mir-324が2つの代案的な形態の二重複合体、すなわち、長い二重複合体(位置A;5p/3p.2)及び短い二重複合体(位置B;5p/3p.1)を生成できることが分かる。
【0146】
そこで、細胞における鎖選択を確認するために、miR-324-5p又はmiR-324-3p.1に相補的な3’ UTRを含有するレポーターを構成し(図5Bの左パネル)、合成二重複合体((5p/3p.2)又は(5p/3p.1))をレポーターと共同形質注入(co-transfected)させた。その結果、長い二重複合体は、3p.1部位ではなく5p補完部位(complementary sites)があるレポーターを選択的に抑制した。これに対し、短い二重複合体は、3p.1レポーターを下向き調節したが、5pレポーターは下向き調節しなかった(図5Bの右パネル)。
【0147】
このような結果は、5p及び3p.1が、実際には、長い二重複合体及び短い二重複合体から別々に生成されることを示唆する。すなわち、長い二重複合体の場合、5pの5’末端が3p.2の5’末端に比べて熱力学的に不安定なため、5p鎖が選択されるのに対し(図5A、青い点線四角形)、短い二重複合体の場合、3p.1はAGOによって選好される5’アデノシンから始まることが分かった(図5A、赤い点線四角形)。
【0148】
要するに、代案的なダイサー切断によってmir-324のアームスイッチングが発生することが分かる。
【0149】
6.mir-324アームスイッチングは細胞周期進行を調節する。
【0150】
ヒト膠芽細胞腫(GBM)においてmiR-324-3pの5’末端変化が報告されたことがあり、図6Aからも確認できるように、正常な脳組織(Normal brain)に比べて腫瘍(GBM)において3p.1の比率が実質的により高く現れた。
【0151】
そこで、TUT4/7-媒介mir-324成熟がGBMにおいて個別に調節される可能性を調べるために、Oncopressionを用いて転写体データセットを分析した。
【0152】
図6Bから確認できるように、TUT4及びTUT7の両方ともGBMにおいて大きく上向き調節された。
【0153】
さらに、mRNAとmiRNAの両方をプロファイリングする独立したデータセットを用いて正常サンプルと比較したとき、GBMにおいてTUT4/7量が上向き調節され、miR-324-5p/3p比が減少することを確認した。
【0154】
図6Cから確認できるように、TUT4/7レベルは、5p/3p比率と負の相関関係があることが分かった。このような結果は、GBMにおいてTUT4/7-媒介mir-324調節が生理学的に関連し得ることを示唆する。
【0155】
上記の結果に基づき、mir-324アームスイッチングの機能を理解するために、GBM細胞株においてmir-324代案的鎖選択によって誘導される分子及び細胞表現型を調べた。
【0156】
図6D及び図6Eから確認できるように、合成長い二重複合体(“5p duplex”)又は3pに対するアンチセンスオリゴ(“3p inhibitor”)の形質注入は、サイクリンD及びEの蓄積及びサイクリンA及びBの減少を招いた(左パネル)。また、細胞周期プロファイリングによれば、細胞がG1段階で停止したことが分かった(右パネル)。
【0157】
図6Fから確認できるように、TUT4/7ノックダウンも同様に、サイクリン調節異常及びG1停止をもたらした。
【0158】
要するに、miR-324isomiRsはGBM細胞増殖に対して反対機能を有していることが分かる。
[まとめ]
図7から確認できるように、末端ウリジン化酵素であるTUT4/7は、pre-mir-324をウリジン化することによって、mir-324代案的鎖選択に主要プレーヤーとして働く。すなわち、TUT4/7は、pre-mir-324をウリジン化させ、ウリジン化現象がpre-mir-324のダイサー切断位置を調節することによって、機能の異なる3種のマイクロRNA(5p及び23p異型体)間の比率を変化させる。したがって、ウリジン化によるmiR-324調節を阻害させると、細胞分裂関連遺伝子の発現を抑制でき、膠芽細胞腫の成長を抑制させることができる。
【0159】
本発明によれば、TUT4/7によるマイクロRNA(miR-324)の代案的鎖選択を調節できるので、これを効果的に癌(脳腫瘍)の予防、治療に用いることができる。
〔産業上の利用可能性〕
本発明は、TUT4/7発現調節因子を含む癌予防又は治療用薬学的組成物に関し、より詳細には、TUT4/7発現を調節する核酸配列を含む癌予防又は治療用薬学的組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0160】
図1A】mir-324アームスイッチング結果であり、miRNAに対する5p比率の中間絶対偏差の散点度を示す。
図1B】mir-324アームスイッチング結果であり、AQ-seqによって測定されたHEK293TにおけるmiR-324のIsomiRプロファイルを示す。
図1C】mir-324アームスイッチング結果であり、AQ-seqによって測定されたマウス組織の指示されたパネルに対するmir-324の鎖比を示す。
図1D】mir-324アームスイッチング結果であり、ほ乳動物におけるmiR-324の5’-isomiRの保存を示す。
図2A】TUT4/7によって調節されるmir-324アームスイッチング結果であり、9個のヒト細胞株及び15個のマウス組織においてmiR-324-3pのウリジン化頻度とmir-324の5p/3p.1比間の陰性連関性を示す。
図2B】TUT4/7によって調節されるmir-324アームスイッチング結果であり、マウス組織の指示されたパネルにおける相対TUT4/7レベル及びmir-324の5p/3p.1比を示す。
図2C】TUT4/7によって調節されるmir-324アームスイッチング結果であり、HEK293TでTUT4/7のノックダウン後のAQ-seq結果を示す。
図2D】TUT4/7によって調節されるmir-324アームスイッチング結果であり、HEK293TにおいてmiR-324-5p及びmiR-324-3pのノーザンブロットを示す。
図2E】TUT4/7によって調節されるmir-324アームスイッチング結果であり、マウスにおいてTut4/7の二重ノックアウト後のsRNA-seq結果を示す。
図3A】ウリジン化によって誘導されたpre-mir-324の代案的なダイサー切断結果であり、免疫精製されたダイサーによるpre-mir-324の非変形された、モノ-又はジ-ウリジン化された形態の試験管内切断を示す。
図3B】ウリジン化によって誘導されたpre-mir-324の代案的なダイサー切断結果であり、HEK293TにおいてmiR-324-3pの5’-isomiR組成物を示す。
図3C】ウリジン化によって誘導されたpre-mir-324の代案的なダイサー切断結果であり、マウスにおいてmiR-324-3pの5’-isomiR組成物を示す。
図4A】二重鎖RNA結合ドメインによって促進された代案的なダイサー切断の結果であり、免疫精製されたダイサーによる野生型又はバルジのない突然変異体pre-mir-324の非変形された、モノ-又はジ-ウリジン化された形態の試験管内切断を示す。
図4B】二重鎖RNA結合ドメインによって促進された代案的なダイサー切断の結果であり、免疫精製されたポケットダイサー突然変異体によるpre-mir-324の非変形された、モノ-又はジ-ウリジン化された形態の試験管内切断を示す。
図4C】二重鎖RNA結合ドメインによって促進された代案的なダイサー切断の結果であり、dsRBD-削除突然変異体によるpre-mir-324の非変形された、モノ-又はジ-ウリジン化された形態の試験管内切断を示す。
図4D】二重鎖RNA結合ドメインによって促進された代案的なダイサー切断の結果であり、pre-mir-324のウリジン化-媒介代案的なダイサー切断のための提案されたモデルを示す。
図5A】代案的なダイサー切断によって誘導されたアームスイッチング結果であり、非変形された及びウリジン化されたpre-mir-324から製造されたmir-324二重複合体の鎖選択の概略図を示す。
図5B】代案的なダイサー切断によって誘導されたアームスイッチング結果であり、2個のmir-324二重複合体を用いたルシフェラーゼレポーター分析を示す。
図6A】mir-324アームスイッチングによって調節される細胞周期進行結果であり、膠芽細胞腫及び正常脳組織においてmiR-324-3pの5’-isomiR組成物の比率を示す。
図6B】mir-324アームスイッチングによって調節される細胞周期進行結果であり、Oncopressionデータベースの正常、低等級膠腫及び膠芽細胞腫組織においてTUT4/7の発現レベルを示す。
図6C】mir-324アームスイッチングによって調節される細胞周期進行結果であり、膠芽細胞腫(黒色)と一致する正常脳組織(白色)においてTUT4/7発現レベルとmiR-324-5p/3p比間の負の相関関係を示す。
図6D】mir-324アームスイッチングによって調節される細胞周期進行結果であり、A172細胞においてmir-324の合成5p二重複合体又は3p.1二重複合体を過発現した後、表示されたサイクリンタンパク質のウェスタンブロット及び細胞周期プロファイルを示す。
図6E】mir-324アームスイッチングによって調節される細胞周期進行結果であり、A172細胞においてロックト核酸アンチセンスオリゴヌクレオチドによってmiR-324を抑制した後、指示されたサイクリンタンパク質のウェスタンブロット及び細胞周期プロファイルを示す。
図6F】mir-324アームスイッチングによって調節される細胞周期進行結果であり、A172細胞においてTUT4/7をノックダウンした後、指示されたタンパク質のウェスタンブロット及び細胞周期プロファイルを示す。
図7】mir-324アームスイッチングメカニズムモデルを模式化した図である。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7
【配列表】
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