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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】局所止血材の製造方法、及び局所止血材
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/28 20060101AFI20241225BHJP
   A61L 15/26 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
A61L15/28 100
A61L15/26 100
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021567724
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048986
(87)【国際公開番号】W WO2021132663
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2019236933
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519463798
【氏名又は名称】株式会社アルチザンラボ
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】服部 則子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026177(WO,A1)
【文献】特表2010-520783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一主面を有する基材と、前記第一主面の側にカチオン化セルロースを含む層とを含み、前記カチオン化セルロースを含む層の厚みが16μm以上である、局所止血材であって、
前記カチオン化セルロースが分子量1,000,000以上である、局所止血材
【請求項2】
前記基材が、綿、PET、及びレーヨンのいずれか、もしくはそれらの混合物の構造体である、請求項1記載の局所止血材。
【請求項3】
局所止血材の製造方法であって、
基材の少なくとも1つの面に、溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液を適用する工程;及び
前記混合液から前記溶媒を除去し、カチオン化セルロースを含む層を前記基材の少なくとも1つの面に形成する工程、
を含み、
前記混合液が粘度13mPa・s以上であり、
前記カチオン化セルロースが分子量1,000,000以上であり、及び
前記カチオン化セルロースを含む層の厚みが16μm以上である、製造方法。
【請求項4】
前記溶媒が、水、もしくはアルコール類、またはそれらの混液である、請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記基材が、綿、PET、及びレーヨンのいずれか、もしくはそれらの混合物の構造体である、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
基材と、前記基材の少なくとも1つの面の側にカチオン化セルロースを含む層と、を含む、請求項1又は2局所止血材の製造のための、粘度が13mPa・s以上である、溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液であって、
前記カチオン化セルロースが分子量1,000,000以上であり、及び
前記カチオン化セルロースを含む層の厚みが16μm以上である、混合物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所止血材の製造方法に関する。本発明はまた、局所止血材にも関する。
【背景技術】
【0002】
出血は、何らかの原因で血管に破綻が生じ、血液が血管内から血管外に流出する現象をいう。出血を止めるための古典的な方法に、直接、血管または血管の外面の身体のいずれかを圧迫する方法がある。圧迫による止血は、出血が抑制状態になるまで維持しなければならず、不便である。手術のときは、出血している血管を含む周辺組織に熱をかけ、焼灼することで止血する方法が利用されるが、周辺組織への損傷が問題となる。他には、コラーゲンまたは酸化セルロースなどの化合物を利用した止血方法もある。
【0003】
局所止血剤として、キトサンも利用されている。キトサンは高い止血作用を示すが(特許文献1)、甲殻類に対するアレルギーを有する人々に利用する場合、注意を要する。
【0004】
カチオン化セルロースは、人体への影響も少なく、安価であるため、シャンプーなどの日用品に汎用される水溶性高分子である。カチオン化セルロースが、抗菌性を示し、かつ、止血作用を示すことが見いだされ、止血剤として利用が期待されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-522208号公報
【文献】特開2017-140231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
止血の分野には、人体への影響が少なく、安価で、良好な止血作用を示す局所止血材に対する要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、所定の粘度のカチオン化セルロース水溶液を基材の少なくとも1つの面に塗布した後に、乾燥させて作製した局所止血材が、優れた止血作用を示すことを見出し、成されたものである。本発明は、具体的には、以下の局所止血材、局所止血材の製造方法、及び前記局所止血材を製造するための混合液を提供するものである。
【0008】
本発明の1つの態様は、基材の少なくとも1つの面に、溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液を適用する工程;及び前記溶媒を除去する工程、を含み、前記混合液が、粘度13mPa・s以上である、局所止血材の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の他の態様は、溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液がその少なくとも1つの面の側に適用された基材を含む局所止血材であって、前記混合液が、粘度13mPa・s以上である、局所止血材を提供する。
【0010】
本発明の他の態様は、第一主面を有する基材と、前記第一主面の側にカチオン化セルロースを含む層とを含み、前記カチオン化セルロースを含む層の厚みが6.7μm以上である、局所止血材を提供する。
【0011】
本発明の他の態様は、基材と、前記基材の少なくとも1つの面の側にカチオン化セルロースを含む層と、を含む局所止血材の製造のための、粘度が13mPa・s以上である、溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1の(a)は、本発明の1つの実施形態に係る局所止血材の分解側面図である。図1の(b)は、局所止血材の正面図である。
図2図2は、各種止血パッドの、血液を介したガラス板への接着時間を示す、散布図である。
図3図3は、カチオン化セルロース水溶液の粘度と、前記水溶液を用いて作製した止血パッドの血液を介したガラス板への接着時間との関係を示す、散布図である。
図4図4は、カチオン化セルロースを含む層の厚みと、止血フィルムの血液を介したガラス板への接着時間との関係を示す、グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において「局所止血材」は、出血箇所の血管外で凝血を促進し得る組成物であって、カチオン化セルロース及び基材を含む組成物を意味する。局所止血材は、基材の少なくとも1つの面に、溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液を適用すること;及び前記溶媒を除去することによって製造することができる。前記製造方法により製造された局所止血材は、限定するものではないが、基材と、前記基材の少なくとも1つの面の側にカチオン化セルロースを含む層を含む。本明細書において、吸収パッドの少なくとも1つの面に前記混合物を適用し、その混合物の溶媒を除去する処理を行って得ることができる局所止血材を「止血パッド」ともいう。
【0014】
1つの実施形態において、カチオン化セルロースを含む層を含む局所止血材は、第一主面を有する基材と、前記第一主面の側にカチオン化セルロースを含む層とを含み、前記カチオン化セルロースを含む層の厚みが6.7μm以上である。1つの実施形態において、カチオン化セルロースを含む層を含む局所止血材は、第一主面及び前記第一主面に対向する第二主面を有する基材と、前記基材の第一主面の側にカチオン化セルロースを含む層と、前記基材の第二主面に固定された第一主面を有する裏当て部材とを含み、前記カチオン化セルロースを含む層の厚みが6.7μm以上である。
【0015】
本明細書において「基材」は、カチオン化セルロースを表面に保持できる構造体であればよい。基材は、例えば、第一主面と、前記第一主面に対向する第二主面とを有する。基材の形状は、特に限定されないが、適用部位への利用に適した形状である。基材は、例えば、出血箇所を覆うことができる面を有する。基材の形態は、例えば、吸収パッド又はフィルムであってよい。基材は、例えば、長方形、正方形、長円形、5角形などの多角形、円形、卵形、楕円形などの様々な形状の面を有し、その表面にカチオン化セルロースを保持することができる。基材は、限定するものではないが、糸、織糸、レース、フェルト、不織布、天然繊維(例えば綿)、合成繊維(例えばレーヨン)、合成樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET))及び合成フィルムからなる群から選択される少なくとも1つの材料から製造することができる。基材は、商業的に入手可能であり、例えばタブレット綿球(株式会社エフスリィー);ガーゼ;包帯;PET及びポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム;ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム;ポリ塩化ビニルフィルム;ポリカーボネートフィルム;ポリエーテルウレタン及びポリエステルウレタンなどのポリウレタンフィルム;又はこれらの2種以上の積層体であってよい。
【0016】
本明細書において「吸収パッド」は、カチオン化セルロースを表面に保持でき、かつ液の吸収が可能な構造体である。吸収パッドは、例えば、短辺1~3cm、長辺2cm~5cmの長方形又は楕円の面を有し、厚みが2~10mmの多角柱、直方体又は円柱であってよい。吸収パッドは、例えば、直径が1~3cmの円形の面を有し、厚みが2~10mmの円柱であってよい。吸収パッドは、例えば、綿、絹などの天然繊維又はポリプロピレン及び/又はポリエチレンなどの合成繊維を圧縮することで製造できる。
【0017】
本明細書において「裏当て部材」は、本発明の実施に必ず必要であるものではないが、皮膚に面する第二表面と、第二表面の反対側で皮膚から離れた方向を向く第一表面と、を有する。裏当て部材は、例えば、矩形、正方形、長円形、円形、卵形、楕円形、ハート形などの様々な形状を有し得る。裏当て部材は、限定するものではないが、薄く、高可撓性又は変形可能性であり、水不透過性である。裏当て部材は、透明又は不透明である。裏当て部材の厚みは、限定するものではないが、0.05~0.2ミリメートルである。
【0018】
裏当て部材は、限定するものではないが、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリウレタン製伸縮性エラストマーフィルム、その他当分野で公知の可撓性水不溶性高分子フィルムであってよい。他の例において、裏当て部材は、ポリオレフィン、ビニルポリエチレンアセテート、不織布、ゴム又は当該分野で公知の他の材料から製造されてもよい。
【0019】
裏当て部材の第一表面は、止血パッドを接着し、皮膚に局所止血材を接着させることを可能にする接着層を備える。接着層は、限定するものではないが、ヒトの皮膚に対して生体適合性を有する接着剤を含む。前記接着剤は、水溶性、水不溶性、又は水性環境において分散性であってよく、当該分野で利用可能な接着剤を特に制限なく用いることができる。接着剤は、例えば、アクリル系接着剤である。接着層は、連続パターンで構成されてもよく、或いは、ライン又はスクリーンなどの不連続なパターンで構成されてもよい。
【0020】
本明細書において「剥離紙」は、裏当て部材の第一表面に向かう第一表面と、第一表面の反対側で裏当て部材の第一表面から離れた方向を含む第二表面とを有する、紙である。剥離紙は、限定するものではないが、局所止血材の利用直前まで、裏当て部材の第一表面の全体を覆うことで、保管又は輸送中の裏当て部材の第一表面を汚染から保護する。剥離紙は、止血パッドと、裏当て部材の第一表面に向かう第一表面は、シリコーン樹脂などで被覆されていてもよい。
【0021】
本明細書において「カチオン化セルロース」は、カチオン基をもったセルロース系のポリマーを意味する。カチオン化セルロースは、例えば、以下の一般式で表すことができる:
【化1】

[式中、
少なくとも1つのR1が、-R2-N+(R3)(R4)(R5)・X-であり、
前記R1の他のR1は、-H、または-(CH2CH2O)m-Hであり、
R2が、C1-6アルキレン、C2-6ヒドロキシアルキレン、-(CH2CH2O)l-、またはこれらの組み合わせであり、
lが、1または2であり、
mが、1または2であり、
X-が、アニオン性基であり、
R3、R4、R5が、C1-6アルキル、C1-6アルケニル、O-C1-6アルキル、CaYbのヘテロアルキルまたはヘテロアルケニルであって、Yがヘテロ原子であって、a+bが4から6であって、窒素原子で結合する場合には該窒素原子を含む飽和または不飽和の5員環または6員環を形成する]。
【0022】
一例において、前記少なくとも1つのR1は、-CH2CH2O-CH2CH(OH)CH2-N+(R3)(R4)(R5)・X-であり、R3、R4、R5がメチル基またはエチル基であってもよい。他の例において、前記少なくとも1つのR1は、-CH2CH(OH)CH2N+(R3)(R4)(R5)・X-であり、R3、R4、R5がメチル基またはエチル基であってもよい。他の例において、前記アニオン性基は、ハロゲン化物イオン、リン酸エステル基、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基であってよい。前記ハロゲン化物イオンは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンであってよい。
【0023】
カチオン化セルロースは、公知の方法に基づいて製造することができる。一例において、カチオン化セルロースは、ヒドロキシエチルセルロースを塩化グリシジルトリメチルアンモニウム、又は塩化3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムを部分的に化学結合させることにより得ることができる。他の方法において、カチオン化セルロースは、特許文献2に記載の方法にて得ることができる。また、カチオン化セルロースは、商業的に入手可能であり、例えばポイズC-60H(花王株式会社)、ポイズC-150H(花王株式会社)であってよい。
【0024】
溶液中に溶解しているカチオン化セルロースは、その有するプラス荷電のために、赤血球と血小板とを引きつけ、血液の凝固作用を促進することが知られている(特許文献2)。一例において、前記他のR1のうち少なくとも1つは、-(CH2CH2O)mHであってよい。この例におけるカチオン化セルロースは、より高い保水性を有するため、創傷の湿潤療法に適している。他の例において、セルロースを形成するグルコースの2位、4位および6位の水酸基のいずれかが、カチオン化された官能基で修飾されている。
【0025】
「カチオン化セルロースを含む層」は、カチオン化セルロースを含む構造体である。カチオン化セルロースを含む層は、例えば、溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液を構造体の表面に適用した後、前記混合液から前記溶媒を除去することによって形成させることができる。カチオン化セルロースの厚みは、マイクロメータ、マイクロスコープ、ノギス等の一般的な計測機器を用いて物理的な距離として測定することができる。具体的には、カチオン化セルロースの厚みは、マイクロメータ又はマイクロスコープを用いて測定することができる。カチオン化セルロースを含む層の厚みは、一定であってもよく、一定でなくてもよい。カチオン化セルロースを含む層の厚みが一定でない場合、カチオン化セルロースを含む層の厚みは、一つの製品の異なった7箇所の厚みを測定し、その最大値及び最小値を示した2箇所のデータを除いた5箇所の厚みの平均値としてよい。厚みを測定する前記7箇所は、カチオン化セルロースを含む層の主面に垂直な方向から見たカチオン化セルロースを含む層の内接円の中心点から、前記内接円の半径の半分の距離であって、前記中心点の周りに等間隔の部分であってよい。
【0026】
カチオン化セルロースを含む層の厚みは、例えば、6.7μm以上、7μm以上、8μm以上、9μm以上、10μm以上、15μm以上、16μm以上、17μm以上、18μm以上、19μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、50μm以上、又は75μm以上である。カチオン化セルロースを含む層の厚みは、例えば、150μm以下、125μm以下、100μm以下、90μm以下、又は80μm以下である。カチオン化セルロースを含む層の厚みは、本明細書に開示した前記層に関する数値を適宜組み合わせた範囲であってよく、例えば6.7μm~150μm、7μm~150μm、8μm~150μm、9μm~150μm、10μm~150μm、15μm~150μm、16μm~150μm、17μm~150μm、18μm~150μm、19μm~150μm、20μm~150μm、25μm~150μm、30μm~150μm、50μm~150μm、又は75μm~150μmであってよい。
【0027】
本明細書において「溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液」は、カチオン化セルロース及び溶媒を含む液状物を意味する。前記混合液は、例えば、カチオン化セルロースを、溶媒に添加することで、調製することができる。前記混合物は、限定するものではないが、粉末状のカチオン化セルロースを、水に添加し、水が透明になるまで攪拌を続けることで得ることができる。他の例において、前記混合液は、溶媒中に高濃度で含有されるカチオン化セルロースを、溶媒で希釈することによって得ることができる。
【0028】
1つの実施形態は、基材と、前記基材の少なくとも1つの面の側にカチオン化セルロースを含む層とを含む局所止血材である。また、前記局所止血材の製造のための、溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液を提供し、前記混合液の粘度は13mPa・s以上である。
【0029】
溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液は、限定するものではないが、他の成分を含んでもよい。他の成分は、例えば、抗生物質、鎮痛剤、抗炎症薬、止血剤、皮膚軟化剤、止血薬、ステロイド、柔軟剤、香料、着色料、冷却剤、温感効果のあるもの、カチオン化セルロースを含む層をより強固にするためのセルロース及びコラーゲン等のいずれか又はそれらの組合せであってよい。止血薬は、例えば、コラーゲン、酸化セルロース、ゼラチン及びトロンビンのいずれか1種又はそれらの組合せであってよい。他の成分及びカチオン化セルロースを含む層は、例えば、溶媒媒中のカチオン化セルロース及び他の成分を含む混合液を構造体の表面に適用した後、前記混合液から前記溶媒を除去することによって形成させることができる。
【0030】
「溶媒」は、限定するものではないが、水またはアルコールであってよい。アルコールは、例えば、メタノール、エタノール、及びプロパノールのいずれか又はそれらの混合液であってよい。
【0031】
溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液の粘度は、B型回転粘度計にて測定される。溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液は、粘度13mPa・s以上であることが好ましい。前記混合液は、粘度16mPa・s以上、25mPa・s以上、50mPa・s以上、又は100mPa・s以上である。前記混合液は、より好ましい止血効果の観点から、粘度0.1Pa・s以上、0.2Pa・s以上、0.3Pa・s以上、0.4Pa・s以上、1.8Pa・s以上、2Pa・s以上、2.2Pa・s以上、4Pa・s以上、4.2Pa・s以上、4.5Pa・s以上、8Pa・s以上、9Pa・s以上、10Pa・s以上、11Pa・s以上、50Pa・s以上、60Pa・s以上、70Pa・s以上、80Pa・s以上、90Pa・s以上、100Pa・s以上、又は110Pa・s以上である。
【0032】
カチオン化セルロースを含む混合液の粘度は、例えば150Pa・s以下、140Pa・s以下、130Pa・s以下、120Pa・s以下、又は115Pa・s以下である。カチオン化セルロースを含む混合液の粘度は、本明細書に開示した粘度に関する数値を適宜組合せた範囲であってよく、例えば13mPa・s~150Pa・s、16mPa・s~150Pa・s、25mPa・s~150Pa・s、50mPa・s~150Pa・s、0.1~150Pa・s、1~150Pa・s、1.8~150Pa・s、2~150Pa・s、4~150Pa・s、8~150Pa・s、10~150Pa・s、50~150Pa・s、60~150Pa・s、70~150Pa・s、80~150Pa・s、90~150Pa・s、100~150Pa・s、又は110~150Pa・sであってよい。
【0033】
カチオン化セルロースの分子量は、銅エチレンジアミン法(JIS 8215)にて測定される。カチオン化セルロースの分子量が大きいカチオン化セルロースを含む混合液の粘度は、同じ濃度(w/w%)でより小さい分子量のカチオン化セルロースを含む混合液の粘度よりも、大きくなる傾向がある。分子量が大きいカチオン化セルロースの場合、より小さい分子量のカチオン化セルロースの配合量よりも、少ない配合量で所定の粘度を有する混合液を得ることができる。カチオン化セルロースの分子量は、例えば、600,000以上、800,000以上、好ましくは1,000,000以上、1,200,000以上、1,400,000以上、より好ましくは1,500,000以上である。
【0034】
カチオン化セルロースの分子量は、例えば、3,000,000以下、2,500,000以下、又は2,000,000以下である。カチオン化セルロースの分子量は、本明細書に開示した分子量に関する数値を適宜組み合わせた範囲であってよく、例えば600,000~3,000,000、800,000~3,000,000、1,000,000~3,000,000、1,200,000~3,000,000、1,400,000~3,000,000、又は1,500,000~3,000,000であってよい。
【0035】
カチオン化セルロースを含む混合液の基材への適用は、限定するものではないが分注器、ヘラなどの器具を用いて、前記基材の少なくとも1つの面に前記混合液を塗布することによって、適用することができる。溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液は、例えば、基材の少なくとも1つの面の総面積の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、99%以上、又は100%に適用される。
【0036】
基材に適用された前記混合液の溶媒は、例えば、水又はアルコールなどの溶媒を除去するための公知の方法を用いて、除去される。基材に適用された前記混合液の溶媒は、例えば、シリカゲルなどの乾燥剤とともに密閉容器中に前記基材を静置することによって、加温によって、又は減圧下に前記基材を置くことによって、或いはそれらの組合せによって、除去されてよい。
【0037】
前記除去処理により、基材に適用された前記混合液の溶媒は、限定するものではないが、完全に除去されていなくてもよい。一例において、基材に適用された前記混合液の溶媒は、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、又は100%が除去され得る。溶媒の除去率は、例えば、除去処理前後の基材の重量から除去された溶媒の重量を算出し、除去された溶媒の重量を、基材に適用した混合液の溶媒の重量で除することで算出される。
【0038】
1つの実施形態において、局所止血材は、限定するものではないが、基材と、前記基材の少なくとも1つの面に設けられたカチオン化セルロースを含む層とを含む。
【0039】
後述する本明細書の実施例において、本発明の実施形態に係る局所止血材の優れた止血作用が実証された。局所止血材におけるカチオン化セルロースを含む層では、プラスに帯電したカチオン化セルロースがマイナスに帯電した血液中の赤血球及び血小板を引きつけるため、優れた止血作用が発揮され得ると考えられる。
【0040】
一例において、止血パッドは、基材と、前記基材の少なくとも1つの面に設けられたカチオン化セルロースを含む層とを含む。前記カチオン化セルロースを含む層は、限定するものではないが、本明細書記載の溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液を、基材の少なくとも1つの面に適用すること、及び前記溶媒を除去することによって調製することができる。本発明の1つの実施形態は、基材と、前記基材の少なくとも1つの面に設けられたカチオン化セルロースを含む層と、を含む局所止血材の製造のための溶媒中のカチオン化セルロースを含む混合液であって、前記混合液の粘度は、13mPa・s以上である、前記混合液を提供する。
【0041】
図1を参照しつつ、本発明の1つの実施形態に係る局所止血材1について説明するが、これらの実施形態は本発明の例示であり、添付する特許請求の範囲に記載の発明をいかようにも限定するものではない。
【0042】
図1の(a)で示されるように、局所止血材1は、止血パッド2を備えている。止血パッド2は、カチオン化セルロースと吸収パッドとで構成される。止血パッド2は、カチオン化セルロースを含む層(図示せず)を備えた吸収パッドである。吸収パッドは、円柱状のタブレット綿である。止血パッド2は、皮膚に面する第一表面21と、第一表面21と反対側で皮膚から離れた方向を向く第二表面22とを有する。止血パッド2は、第一表面21の側に、カチオン化セルロースを含む層を有する。
【0043】
局所止血材1は、裏当て部材3を備えている。裏当て部材3は、皮膚に面する第一表面31と、第一表面31と反対側で皮膚から離れた方向を向く第二表面32とを有する。裏当て部材3の第一表面31は、止血パッド2の第二表面22と接着されている。裏当て部材3の第一表面31は、生体適合性のアクリル系接着剤を含む接着層を有する。
【0044】
局所止血材は、第一剥離紙41及び第二剥離紙42を備えている。第一剥離紙41は、図1の(a)で示されるように、止血パッド2の第一表面21の左半分と、裏当て部材3の第一表面31の左半分を覆っている。第二剥離紙42は、図1の(a)で示されるように、止血パッド2の第一表面31の右半分と、裏当て部材3の第一表面31の右半分を覆っている。本実施形態において、剥離紙は2枚のシートの組合せであったが、これに限定されない。止血パッド2の第一表面及び裏当て部材3の第一表面31の全体を、1枚の剥離紙で覆ってもよいし、3枚以上の剥離紙で覆ってもよい。
【0045】
図1の(b)で示されるように、局所止血材1は、止血パッド2を裏当て部材3の略中央部に備えている。
【0046】
以下、具体的な実施例を記載するが、それらは本発明の好ましい実施形態を示すものであり、添付する特許請求の範囲に記載の発明をいかようにも限定するものではない。
【実施例
【0047】
実施例1
[カチオン化セルロース水溶液の調製]
下記ポイズC-60Hを精製水に添加して攪拌し、1w/w%、2w/w%、4w/w%、0.2w/w%、0.3w/w%、0.4w/w%及び0.5w/w%のカチオン化セルロース水溶液(以下、それぞれ試験液1、2、3、7、8、9、10ともいう)をそれぞれ調製した。同様にして、ポイズC-150Lから、1w/w%、2w/w%及び4w/w%カチオン化セルロース水溶液(以下、それぞれ試験液4、5、6ともいう)をそれぞれ調製した。
【表1】
* 塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース]
【0048】
[粘度測定]
調製した試験液1~10の粘度を、B型回転粘度計にて、測定した。その結果を、以下にまとめた。
【表2】
【0049】
表2で示されるように、試験液1は、粘度41.9mPa・s(実測値)であるのに対して、試験液2は、粘度267mPa・s(実測値)であった。試験液1に含有されたカチオン化セルロースの分子量と試験液2に含有されたカチオン化セルロースの分子量とは600,000と等しかったが、その含有濃度が、試験液1では1w/w%であったのに対して、試験液2では2w/w%と高濃度であった。これは、より高濃度のカチオン化セルロースを含有する水溶液は、より高い粘度を有することを示す。実際、さらに高濃度のカチオン化セルロース(4w/w%)を含有する試験液3は、分子量は600,000と等しいが、より高い粘度(4,192mPa・s)を示した(表2)。
【0050】
試験液2は、粘度267mPa・s(実測値)であったのに対して、試験液5は、粘度10,100mPa・s(実測値)であった。試験液2に含有されたカチオン化セルロースの含有濃度と、試験液5に含有されたカチオン化セルロースの含有濃度とは2[w/w%]と等しかったが、その分子量が、試験液2では600,000であったのに対して、試験液5では1,500,000と高分子量であった。これは、より分子量の高いカチオン化セルロースを含有する水溶液は、より高い粘度を有することを示す。
【0051】
[局所止血材の作製]
0.05gの試験液1を、分注器を用いて、円盤状(直径10mm×高さ1.5mm)の救急絆創膏(商品名:ニプロエンパッドSサイズ)である圧縮綿の1つの面に塗布した。前記圧縮綿をシリカゲル入りの密閉容器内に移し、室温にて一晩乾燥させて、止血パッド1を作製した。試験液1と同様にして、試験液2~6について、止血パッド2~6をそれぞれ作製した。
【0052】
[止血試験]
ボランティア5名から全血A~Eを採取した。採取した各全血A~Eをガラス板上に数滴ずつ滴下し、その上に以下の局所止血材を乗せて、血液を介してガラス板と接触させた。
【表3】
【0053】
局所止血材とガラス板との接触後30秒間、局所止血材をガラス板に押し付けた。その後、30秒間隔で局所止血材が動かなくなるまでの時間(接着時間)を記録した。止血試験において、局所止血材のガラス板への接着までの時間(分)が短いことは止血作用が高いことを意味する。各局所止血材の結果を、以下にまとめた(表4及び図2)。各試験結果について、エンパッドSに対する、対応のある場合の両側t検定を行った。
【表4】
* p<0.05
** p<0.01
n.s. not significant
【0054】
表4で示されるように、被覆保護用エンパッドSは、止血試験においてガラス板への接着に平均15.6分を要したのに対して、止血パッド1~6はいずれも、より短い時間でガラス板に接着した(平均7.4分~平均1.0分)。これは、カチオン化セルロースを用いた止血パッドが、優れた止血作用を有することを示す。
【0055】
アルギン酸塩による止血も期待される止血絆プラスは平均6.3分の接着時間を示し、止血パッド1~6はそれとほぼ変わらない乃至より短い接着時間を示した(平均7.4分~平均1.0分)。これは、カチオン化セルロースによる止血作用が期待される止血パッドが、アルギン酸塩による止血作用が期待される局所止血材と同等乃至より優れた止血作用を示すことを示唆する。
【0056】
止血パッド2~6は、エンパッドSによる接着時間よりも、有意に短い接着時間を示した(表4のt検定)。これは、カチオン化セルロースによる止血作用が期待される局所止血材が、優れた止血作用を有することを示す。
【0057】
止血パッド2~6は、止血パッド1による接着時間(平均7.4分)よりも、短い接着時間を示した(平均5.2~平均1.0分)。表2で示されるように、止血パッド1の粘度(60mPa・s(推定値))に比べて、止血パッド2~6はいずれも止血パッド1の粘度よりも高い粘度を示した(267mPa・s~>100mPa・s)(表5)。これらの結果は、カチオン化セルロースによる止血作用が期待される局所止血材は、局所止血材を作製する際に使用した水溶液の粘度と、当該水溶液を乾燥させて作製した局所止血材との間に相関関係があることを示す。
【0058】
[粘度と接着時間との関係]
表2で示された各止血パッドの粘度と、表4で示された各止血パッドの接着時間(平均値)との関係を、以下にまとめた(表5及び図3)。
【表5】
【0059】
図3で示されるように、局所止血材の粘度が高くなるにつれ、より短い接着時間を示した。これは、局所止血材の作製に用いた水溶液の粘度が、局所止血材が有する止血作用に影響を及ぼすこと、及び、局所止血材の作製に用いた水溶液の粘度が高いほど、局所止血材はより優れた止血作用を有することを示す。例えば、より高い粘度を示した試験液6で作成した止血パッド6は、カルボキシメチルセルロース又はキトサンによる優れた止血作用が期待される局所止血材(ネオプラスターCMC又はヘムコンドット)と同様、優れた止血作用を有することを示した(表4)。
【0060】
実施例2
[カチオン化セルロースを含む層の厚み]
0.0637mgの試験液10を、分注器を用いて、10mm四方PETフィルムの1つの面に塗布した。前記PETフィルムをシリカゲル入りの密閉容器内に移し、室温にて一晩乾燥させ、止血フィルム1を作製した。前記と同様にして、試験液1、4、2及び6を用いて、試験フィルム2、3、5及び6を作製した。実施例1で用いた分子量600,000のカチオン化セルロース(ポイズC-60H)を含む水溶液(1.5w/w%)を調製した。上記と同様にして、調製した1.5w/w%のカチオン化セルロース水溶液を用いて止血フィルム4を作製した。各止血フィルムはそれぞれ6枚作製した。
【0061】
止血フィルム1~6の1つの面に形成されたカチオン化セルロースを含む層の厚みを、マイクロメータ(株式会社Mitutoyo社製)を用いて測定した。具体的には、各フィルムの厚みは、各フィルムの7箇所の厚みを測定し、その最大値及び最小値を示した2箇所の厚みを除いた5箇所の厚みの平均値として示す。カチオン化セルロースを含む層の厚み[μm]は、止血フィルム1~6の厚み[μm]から、試験液を塗布していないPETフィルム(コントロール)の厚み[μm]を差し引くことで算出した。その結果を、以下にまとめた(表6)。
【表6】
【0062】
ボランティア2名から全血F及びGを採取した。全血F及びGを用い(n=3)、実施例1と同様にして、止血フィルムがガラス板へ接着するまでの時間(分)を測定した。その結果を、以下にまとめた(表7)。t検定は、PETフィルムに対する検定である。
【表7】
* p<0.05
** p<0.01
n.s. not significant
【0063】
実施例2で示されたカチオン化セルロースを含む層の厚みと接着時間とを図4にまとめた。図4で示されるように、局所止血材の厚みが大きくなるにつれ、より短い接着時間を示した。これは、局所止血材におけるカチオン化セルロースを含む層の厚みが、止血作用に影響を及ぼすこと、具体的にはその厚みが大きいほど、局所止血材はより優れた止血作用を有することを示す。
【0064】
実施例3
[カチオン化セルロースを含む層の厚み]
実施例2と同様にして、試験液7~9を用いて止血フィルム7~9を作製した。実施例2と同様にして、止血フィルム7~9の厚み[μm]を測定した。その結果を、以下にまとめた(表8)。
【表8】
【0065】
実施例2と同様にして、止血フィルム7~9がガラス板へ接着するまでの時間(分)を測定値した。その結果を、以下にまとめた(表9)。t検定は、PETフィルムに対する検定である。
【表9】
* p<0.05
** p<0.01
n.s. not significant
【0066】
表9で示されるように、6.7μmのカチオン化セルロースを含む層の厚みを有する局所止血材が止血作用を示した。
【符号の説明】
【0067】
1 局所止血材
2 止血パッド
21 第一主面
22 第二主面
3 裏当て部材
31 第一表面
32 第二表面
41 第一剥離紙
42 第二剥離紙
図1
図2
図3
図4