(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】酸化ガリウム結晶の製造装置
(51)【国際特許分類】
C30B 11/00 20060101AFI20241225BHJP
C30B 29/16 20060101ALI20241225BHJP
F27B 14/10 20060101ALI20241225BHJP
F27B 14/06 20060101ALI20241225BHJP
F27B 14/14 20060101ALI20241225BHJP
F27D 11/02 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
C30B11/00 Z
C30B29/16
C30B11/00 C
F27B14/10
F27B14/06
F27B14/14
F27D11/02 B
(21)【出願番号】P 2021031374
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2020032482
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236687
【氏名又は名称】不二越機械工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】干川 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓実
(72)【発明者】
【氏名】大塚 美雄
(72)【発明者】
【氏名】太子 敏則
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-193466(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0306521(US,A1)
【文献】特開2020-015642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 11/00
C30B 29/16
F27B 14/10
F27B 14/06
F27B 14/14
F27D 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウムの原料を収容するためのるつぼと、
前記るつぼを下方から支持するるつぼ支持体と、
前記るつぼ支持体に下方から接続し、前記るつぼ及び前記るつぼ支持体を上下方向に移動可能に支持するるつぼ支持軸と、
前記るつぼ、前記るつぼ支持体、及び前記るつぼ支持軸を囲む管状の炉心管と、
前記炉心管を囲む管状の炉内管と、
前記炉心管と前記炉内管との間の空間に発熱部が設置された抵抗加熱発熱体と、
を備え、
前記炉心管及び前記炉内管の融点が1900℃以上であり、
前記炉心管の前記るつぼの真横に位置する部分の熱伝導率が前記炉内管の熱伝導率よりも高
く、
前記炉心管が、前記るつぼの真横に位置する部分を含む第1の部分と、前記第1の部分以外の第2の部分を有し、
前記第1の部分の熱伝導率が前記第2の部分の熱伝導率よりも高い、
酸化ガリウム結晶の製造装置。
【請求項2】
前記炉心管の上端の開口部に被せられた板状部材と、
前記板状部材の上に設置された保温材と、
を備えた、
請求項
1に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【請求項3】
前記炉心管の前記るつぼの真横に位置する部分がアルミナ系セラミックス又はマグネシア系セラミックスからなり、
前記炉内管がジルコニア系セラミックスからなる、
請求項
1又は2に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【請求項4】
前記るつぼが白金系合金からなる、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【請求項5】
前記るつぼ支持体が、前記るつぼに直接接触する最上部のジルコニア系セラミックスからなる第1のブロックと、前記第1のブロックの下の前記るつぼに接触しないアルミナ系セラミックスからなる第2のブロックを有する、
請求項
4に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【請求項6】
前記炉内管が側方及び上下方から保温層に囲まれ、
前記保温層が上側保温層と下側保温層の2つに上下方向に分離され、
前記上側保温層と前記下側保温層が、上下方向に空隙を挟み、かつ前記空隙が前記保温層の内側から外側に水平方向に連続しない状態で設置された、
請求項1~
5のいずれか1項に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【請求項7】
前記炉内管が側方及び上下方から保温層に囲まれ、
前記保温層が上側保温層と下側保温層の2つに上下方向に分離可能であり、
前記上側保温層を前記下側保温層上に設置したときに、前記上側保温層と前記下側保温層が上下方向の隙間無く接する、
請求項1~
5のいずれか1項に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ガリウム結晶の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、垂直ブリッジマン法による結晶育成を行う、酸化ガリウム結晶の製造装置が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置においては、るつぼを抵抗加熱発熱体によって加熱し、るつぼに収容された酸化ガリウムの原料を溶融させる。
【0003】
特許文献1によれば、内径2インチのるつぼを用いて、完全な単結晶ではないが、直径2インチのβ-Ga2O3結晶を育成できたとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
垂直ブリッジマン法において良質の単結晶を育成するためには、結晶育成に適した温度分布をるつぼ周辺に形成することが必要であり、育成する結晶が大型化するほど、温度分布の満たすべき条件が厳しくなる。
【0006】
目的の温度分布を形成するためには、るつぼ周辺の熱の流れを適切に制御する構成を装置が備えることが求められるため、特許文献1に記載の製造装置では、その構成上、2インチ又はそれ以上のサイズの酸化ガリウム単結晶を得ることは困難であると考えられる。
【0007】
本発明の目的は、垂直ブリッジマン法による結晶育成を行う装置であって、大きなサイズで結晶品質の劣化要因となる結晶欠陥の少ない酸化ガリウム単結晶を得ることのできる構成を備えた酸化ガリウム結晶の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[7]の酸化ガリウム結晶の製造装置を提供する。
【0009】
[1]酸化ガリウムの原料を収容するためのるつぼと、前記るつぼを下方から支持するるつぼ支持体と、前記るつぼ支持体に下方から接続し、前記るつぼ及び前記るつぼ支持体を上下方向に移動可能に支持するるつぼ支持軸と、前記るつぼ、前記るつぼ支持体、及び前記るつぼ支持軸を囲む管状の炉心管と、前記炉心管を囲む管状の炉内管と、前記炉心管と前記炉内管との間の空間に発熱部が設置された抵抗加熱発熱体と、を備え、前記炉心管及び前記炉内管の融点が1900℃以上であり、前記炉心管の前記るつぼの真横に位置する部分の熱伝導率が前記炉内管の熱伝導率よりも高く、前記炉心管が、前記るつぼの真横に位置する部分を含む第1の部分と、前記第1の部分以外の第2の部分を有し、前記第1の部分の熱伝導率が前記第2の部分の熱伝導率よりも高い、酸化ガリウム結晶の製造装置。
[2]前記炉心管の上端の開口部に被せられた板状部材と、前記板状部材の上に設置された保温材と、を備えた、上記[1]に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
[3]前記炉心管の前記るつぼの真横に位置する部分がアルミナ系セラミックス又はマグネシア系セラミックスからなり、前記炉内管がジルコニア系セラミックスからなる、上記[1]又は[2]に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
[4]前記るつぼが白金系合金からなる、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
[5]前記るつぼ支持体が、前記るつぼに直接接触する最上部のジルコニア系セラミックスからなる第1のブロックと、前記第1のブロックの下の前記るつぼに接触しないアルミナ系セラミックスからなる第2のブロックを有する、上記[4]に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
[6]前記炉内管が側方及び上下方から保温層に囲まれ、前記保温層が上側保温層と下側保温層の2つに上下方向に分離され、前記上側保温層と前記下側保温層が、上下方向に空隙を挟み、かつ前記空隙が前記保温層の内側から外側に水平方向に連続しない状態で設置された、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
[7]前記炉内管が側方及び上下方から保温層に囲まれ、前記保温層が上側保温層と下側保温層の2つに上下方向に分離可能であり、前記上側保温層を前記下側保温層上に設置したときに、前記上側保温層と前記下側保温層が上下方向の隙間無く接する、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、垂直ブリッジマン法による結晶育成を行う装置であって、大きなサイズで結晶品質の劣化要因となる結晶欠陥の少ない酸化ガリウム単結晶を得ることのできる構成を備えた酸化ガリウム結晶の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る酸化ガリウム結晶の製造装置の垂直断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る炉心管及びその周辺部材の拡大断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態に係るるつぼ、るつぼ支持体、るつぼ支持軸の拡大断面図である。
【
図4】
図4(a)、(b)は、それぞれ本発明の実施の形態に係る発熱体の斜視図と側面図である。
【
図5】
図5は、製造装置への発熱体の装着例を示す写真である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態に係る酸化ガリウム結晶の製造装置の変形例の垂直断面図である。
【
図7】
図7(a)は、一直線状の発熱体の写真である。
図7(b)は、製造装置への一直線状の発熱体の装着例を示す写真である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態に係る酸化ガリウム結晶の製造装置の他の変形例の垂直断面図である。
【
図9】
図9は、本実施例に係る酸化ガリウム単結晶のうちの、定径部が直径2インチの円柱形である2つのβ-Ga
2O
3単結晶と、それらから切り出された2枚のウエハの写真である。
【
図10】
図10(a)は、本実施例に係る酸化ガリウム単結晶のうちの、定径部が直径2インチの円柱形であり、定径部の径方向の断面が(100)面であるβ-Ga
2O
3単結晶の写真である。
図10(b)は、
図10(a)のβ-Ga
2O
3単結晶から切り出された、主面が(100)面の加工ウエハの写真である。
【
図11】
図11(a)は、本実施例に係る酸化ガリウム単結晶のうちの、定径部が直径2インチの円柱形であり、定径部の径方向の断面が(010)面であるβ-Ga
2O
3単結晶の写真である。
図11(b)は、
図11(a)のβ-Ga
2O
3単結晶から切り出された、主面が(010)面の加工ウエハの写真である。
【
図12】
図12は、本発明の実施の形態に係る製造装置を用いて育成した、定径部が直径3インチの円柱形であり、定径部の径方向の断面が(010)面であるβ-Ga
2O
3単結晶(右側)と、本発明の実施の形態に係る他の製造装置を用いて育成した、定径部が直径4インチの円柱形であり、定径部の径方向の断面が(010)面であるβ-Ga
2O
3単結晶(左側)の写真である。
【
図13】
図13は、本実施例に係る酸化ガリウム単結晶から切り出された、0.2mol%のSnがドープされた主面が(001)面の酸化ガリウム単結晶ウエハのX線トポグラフィーによる観察像である。
【
図14】
図14(a)~(d)は、それぞれ
図13に示されるウエハ上の領域1~4におけるX線ロッキングカーブ測定により得られた(001)面回折ピークである。
【
図15】
図15は、本実施例に係る0.2mol%のSnがドープされた主面が(001)面の酸化ガリウム単結晶ウエハの光学写真である。
【
図16】
図16は、X線ロッキングカーブ測定により得られた、
図15に示されるウエハ上の(001)面回折ピークの半値幅の分布を示すグラフである。
【
図18】
図18(a)~(c)は、ウエハ表面に現れたエッチピットの例を示す光学顕微鏡による観察像である。
【
図19】
図19(a)、(b)、(c)は、それぞれ
図15に示されるウエハの上段、中段、下段における(001)面回折ピークの半値幅と転位密度の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施の形態〕
(製造装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る酸化ガリウム結晶の製造装置1の垂直断面図である。製造装置1は、垂直ブリッジマン法による酸化ガリウム系結晶の育成を行う装置である。ここで、酸化ガリウム結晶とは、β-Ga
2O
3結晶、又は、Al、Inなどの置換型不純物やSn、Siなどのドーパントを含むβ-Ga
2O
3結晶を指すものとする。
【0013】
製造装置1は、酸化ガリウムの原料を収容するためのるつぼ20と、るつぼ20を下方から支持するるつぼ支持体21と、るつぼ支持体21に下方から接続し、るつぼ20及びるつぼ支持体21を上下方向に移動可能に支持するるつぼ支持軸22と、るつぼ20、るつぼ支持体21、及びるつぼ支持軸22を囲む管状の炉心管10と、炉心管10を囲む管状の炉内管11と、炉心管10と炉内管11との間の空間に発熱部231が設置された発熱体23と、を備える。
【0014】
また、製造装置1は、炉内管11の土台となる炉内管支持板12、炉内管11の外側に配置され、炉内管11の内側の結晶育成のための空間を側方及び上下方から囲んで装置外への熱の流出を抑える保温層13、製造装置1の内部から保温層13を貫通して装置外へ延びる排気管16、及び製造装置1の各構成部材を載せる基体17を備える。また、保温層13の外側が図示されない外壁に覆われていてもよい。
【0015】
炉心管10及び炉内管11の融点は1900℃以上であり、炉心管10及び炉内管11は酸化ガリウムの育成のための高温に耐えられる。また、炉内管11は、軟化点も1800℃以上であることが好ましい。
【0016】
一般的に、垂直ブリッジマン法による結晶育成においては、るつぼ周辺の温度分布の勾配が大きいと良質な結晶が成長し難く、この傾向は育成する結晶のサイズが大きいほど顕著になる。製造装置1においては、炉心管10によりるつぼ20周辺の熱の流れを制御し、サイズの大きい良質な酸化ガリウム結晶の育成に適した勾配の小さい温度分布をるつぼ20の周辺に形成することができる。
【0017】
より勾配の小さい温度分布をるつぼ20の周辺に形成するためには、炉心管10は熱伝導率が大きいことが好ましく、緻密質の高純度のアルミナ系セラミックスやマグネシア系セラミックスなどを材料に用いることが好ましい。例えば、ティーイーピー株式会社製の4NAを炉心管10の材料として好適に用いることができる。
【0018】
また、炉心管10は、るつぼ20と発熱体23を隔てて、発熱体23からのSi、Moなどの不純物の混入(コンタミネーション)を抑制することができる。
【0019】
炉内管11を用いることにより、発熱体23からの熱の流れを抑制し、発熱体23の消耗を抑えることができる。このため、炉内管11は耐熱衝撃性に優れることが好ましく、炉心管10よりも熱伝導率が小さいことが好ましい。そのため、炉内管11は、炉心管10の材料である緻密質の高純度のアルミナ系セラミックスやマグネシア系セラミックスなどよりも熱伝導率が小さい多孔質のジルコニア系セラミックスなどの材料からなることが好ましく、例えば、ティーイーピー株式会社製のZIR-Yを炉内管11の材料として好適に用いることができる。
【0020】
なお、ジルコニア系セラミックスを炉内管11の材料に用いる場合は、他の材料と反応しやすいため、1800℃以上となる部分が他の部材に接触しないように配置する。
【0021】
また、炉内管11は、炉内管11の外側に配置された保温層13の局所焼結や変形を抑制することができる。
【0022】
炉心管10と炉内管11は、典型的には円管状である。また、炉心管10と炉内管11は、それぞれ、種々の外径、内径を有する環状(典型的には円環状)の部材を積層して形成することができる。また、炉内管11を構成する環状の部材は、環の中心から外周に延びる複数本の直線に沿って分割された複数の分割片を組み合わせてなるものであってもよい。
【0023】
保温層13は、
図1に示されるように、内側(るつぼ20側)から外側に向かって複数の層が入れ子構造のように重なって構成され、それら複数の層のうち、最も内側のものが最も耐熱温度が高く、外側に近い層ほど耐熱温度が低いことが好ましい。保温層13に用いられる保温材は耐熱温度が高いほど高価であるため、このような構成をとることにより、保温層13の耐熱性を確保しつつコストを低減することができる。
【0024】
例えば、
図1に示される例では、最も内側の層131がおよそ1800℃の耐熱温度を有するアルミナ系ファイバーボードからなり、その外側の層132がおよそ1700℃の耐熱温度を有するアルミナ系ファイバーボードからなり、最も外側の層133がおよそ1400℃の耐熱温度を有する無機材料系ファイバーボードからなる。
【0025】
層131、層132、層133の各々は、種々の外径、内径を有する環状(典型的には円環状)の部材を積層して形成することができる。また、層131、層132、層133を構成する環状の部材は、環の中心から外周に延びる複数本の直線に沿って分割された複数の分割片を組み合わせてなるものであってもよい。その場合、保温性を高めるため、上下及び内外に隣接する環状の部材の分割片の境界が重ならないように、環状の部材を積層することが好ましい。
【0026】
図2は、炉心管10及びその周辺部材の拡大断面図である。
図2に示されるように、炉心管10は、るつぼ20の真横に位置する部分を含む部分101とその他の部分102が異なる材料からなってもよい。
【0027】
この場合、るつぼ20に近い部分101は、上述のようにるつぼ20周辺の所望の温度分布を形成するため、熱伝導率が大きいことが好ましく、緻密質の高純度のアルミナ系セラミックスやマグネシア系セラミックスなどを材料に用いることが好ましい。一方で、るつぼ20から比較的離れた部分102は、耐熱衝撃性に優れることが好ましく、部分101の材料である緻密質の高純度のアルミナ系セラミックスやマグネシア系セラミックスよりも熱伝導率が小さい、多孔質のジルコニア系セラミックスなどの材料からなることが好ましい。
【0028】
炉心管10がこれら部分101と部分102から構成される場合は、部分101の熱伝導率は、部分102の熱伝導率よりも大きい。また、炉心管10がどのような構成を有する場合であっても、炉心管10のるつぼ20の真横に位置する部分の熱伝導率は、炉内管11の熱伝導率よりも高い。
【0029】
また、
図2に示されるように、炉心管10の上に保温材15が設置されていてもよい。保温材15を用いることにより、るつぼ20周辺の熱が上方へ逃げることを抑え、所望の温度分布を形成しやすくなる。保温材15は、炉心管10の上端の開口部に被せられた板状部材14の上に設置される。また、保温材15の局所焼結や変形を抑制するため、保温材15の側方を覆う管状部材18や上方を覆う板状部材19を用いてもよい。板状部材14や板状部材19は、典型的には円板状である。
【0030】
保温材15は、例えば、保温層の層131と同じ材料からなる。板状部材14、管状部材18、板状部材19は、いずれも融点が1900℃以上のアルミナ系セラミックスやマグネシア系セラミックスなどの材料からなる。
【0031】
るつぼ20は、白金ロジウム合金などの白金系合金からなる。白金系合金は、酸化ガリウム結晶の育成用のるつぼの材料に一般的に用いられるイリジウムと異なり酸素雰囲気中でもほとんど酸化しないため、白金ロジウム合金からなるるつぼ20を用いることにより、大気雰囲気中で酸化ガリウムの育成を行うことができる。酸化ガリウムは酸化力が弱く、雰囲気中に酸素がないと温度が融点近くになったときにガリウムと酸素に分解してしまうが、酸素を含む大気雰囲気中で育成を行うことにより、酸素欠陥の少ない良質の酸化ガリウムの単結晶を得ることができる。
【0032】
るつぼ20は、育成する酸化ガリウム結晶の形状や大きさに応じた形状や大きさを有する。例えば、定径部が直径2インチの円柱状である結晶を育成する場合は、定径部が内径2インチの円柱状のるつぼ20を用いる。また、定径部が円柱状以外の形状、例えば四角柱状、六角柱状の結晶を育成する場合は、定径部が四角柱状、六角柱状のるつぼ20を用いる。なお、るつぼ20の開口部を覆う蓋を用いてもよい。
【0033】
るつぼ支持軸22は、図示されない駆動機構により上下に移動することができ、るつぼ支持体21に支持されたるつぼ20を炉心管10の内側で上下に移動させることができる。また、るつぼ支持軸22は、上記駆動機構により、鉛直方向を軸とした回転が可能であってもよい。この場合、るつぼ支持体21に支持されたるつぼ20を炉心管10の内側で回転させることができる。
【0034】
また、るつぼ支持体21とるつぼ支持軸22は管状の部材であり、その内側にるつぼ20の温度を測定する熱電対26が通っている。るつぼ支持体21とるつぼ支持軸22は、いずれも融点が1900℃以上の耐熱性セラミックスなどの材料からなる。
【0035】
図3は、るつぼ20、るつぼ支持体21、るつぼ支持軸22の拡大断面図である。るつぼ支持体21は、
図3に示されるように、るつぼ20に直接接触する最上部のジルコニア系セラミックスからなるブロック21aと、その下のるつぼ20に接触しないアルミナ系セラミックスからなるブロック21bを有することが好ましい。また、ブロック21aは、上下方向に連結される複数のブロック(
図3に示される例ではブロック211~213)から構成されてもよい。同様に、ブロック21bも、上下方向に連結される複数のブロック(
図3に示される例ではブロック214~217)から構成されてもよい。
【0036】
アルミナ系セラミックスは、るつぼ支持体21の材料として、熱伝導率の高い点において優れているが、高温条件下で白金ロジウム合金と反応するという欠点や、耐熱衝撃性が低いという欠点がある。このため、1830℃を超える高温条件下でも白金ロジウム合金からなるるつぼと反応せず、また、耐熱衝撃性に優れるジルコニア系セラミックスをるつぼ20に接触するブロック21aの材料に用いて、ブロック21aの下に設けられるブロック21bの材料としてアルミナ系セラミックスを用いることが好ましい。
【0037】
例えば、ティーイーピー株式会社製のZIR-Yをブロック21aの材料として好適に用いることができる。また、例えば、ティーイーピー株式会社製の4NAをブロック21bの材料として好適に用いることができる。なお、ジルコニア系セラミックスからなるブロック21aとアルミナ系セラミックスからなるブロック21bの接合位置は、高温でも反応が生じない位置を選択する必要がある。
【0038】
図4(a)、(b)は、それぞれ発熱体23の斜視図と側面図である。発熱体23は、1800℃以上の高温加熱が可能な二珪化モリブデン(MoSi
2)などからなる抵抗加熱発熱体である。発熱体23は、径が小さく、通電されることにより発熱するU字状の発熱部231と、発熱部231よりも径が大きい、発熱体23に電流を供給する外部機器を接続するための電極部232を有する。
【0039】
また、発熱体23は、電極部232内の屈曲部233においてL字状に屈曲しており、屈曲部233よりも電極部232側の端部に近い部分を炉内管11及び保温層13に水平方向に開けられた孔に貫通させて、固定する。また、製造装置1においては、複数(例えば4~12個)の発熱体23が炉心管11を取り囲むように配置される。
【0040】
発熱体23においては、高温の熱を発する発熱部231と、その発熱部231に電流を供給し、かつ発熱部231を高温炉内空間に機械的に安定に保持する機能を果たす電極部232とは、材質は同じ又はほぼ同じであることが好ましいが、それらの太さ(断面積)については、電極部232の方が発熱部231よりも数倍は大きいことが好ましい。例えば、発熱部231の直径D1の電極部232の直径D2に対する比の値D1/D2を0.5以下とした場合、発熱部231の断面積は電極部232の断面積の1/4以下となる。このような場合、電極部232の機械的強度は発熱部231の機械的強度の4倍以上となり、発熱部231における単位長さ当たりの発熱量は電極部232における単位長さ当たりの発熱量の4倍以上となり、発熱量と機械的強度の両面から発熱体23の機能を満足する。このため、D1/D2は0.5以下であることが好ましい。ただし、高価な材料の必要量を考慮すると、D1/D2は0.5に近いことが好ましく、0.4以上であることが好ましい。
【0041】
また、発熱体23の炉内管11及び保温層13を貫通する部分が、サファイアなどからなるパイプ24に挿し通されていることが好ましい。パイプ24を用いることにより、発熱体23を炉内管11から熱的、電気的に分離して、発熱体23と炉内管11との反応を抑制することができる。炉内管11がジルコニア系セラミックスからなる場合は、サファイアからなるパイプ24を用いることにより、炉内管11とパイプ24の反応も抑えることができる。また、サファイアは1800℃程度の高温下でも軟化しないため、パイプ24の材料として好ましい。また、パイプ24によって発熱体23の屈曲部233を機械的にサポートし、発熱体23の破損を抑えることができる。
図5は、製造装置1への発熱体23の装着例を示す写真である。
【0042】
また、製造装置1は、発熱体23の温度を測定するための熱電対25を備える。熱電対25は、炉内管11及び保温層13に水平方向に開けられた孔を通って装置内に挿入され、その先端が発熱体23の発熱部231とほぼ同じ位置に設置される。
【0043】
図6は、本発明の実施の形態に係る酸化ガリウム結晶の製造装置1の変形例である製造装置2の垂直断面図である。製造装置2は、主に保温層の構成において製造装置1と異なる。
【0044】
製造装置2の保温層13は、上側の保温層13aと下側の保温層13bの2つに上下方向に分離されている。典型的には、
図6に示されるように、保温層13aが炉内管11の上方を覆い、保温層13bが炉内管11の側方及び下方を覆うように構成される。
【0045】
保温層13aは、これを載せる保温材支持板31、32、33、36と、それらのうちの最も外側に配置された保温材支持板33を支持する、保温層13aの上面を覆う基体34と、基体34に固定され、基体34と保温材支持板36を吊り上げることによって保温層13a全体を吊り上げる吊り部材35によって、保温層13bから離れて設置される。これによって、保温層13aと保温層13bの間に空隙38が形成され、保温層13aを構成する層131、132、133の熱膨張率差に起因する層131、132、133の上下方向の伸縮の相互干渉を抑えることができる。
【0046】
より具体的には、発熱体37の外側の領域では、上下動する基体34により保温材支持板33が支持され、その上に保温層133の一部、保温材支持板32、保温層132の一部、保温材支持板31、保温層131の一部の順に載る。また、発熱体37の内側の保温層131の一部は、吊り部材35により吊り下げられた保温材支持板36により支持されている。
【0047】
また、保温層13aと保温層13bの層131、132、133の分離面の高さを異ならせて、保温層13aと保温層13bの分離面を階段状にしている。これによって、保温層13aと保温層13bの間隔を調整して、保温層13aと保温層13bの間の空隙38が保温層13の内側から外側に水平方向に連続しないようにして、この空隙38からの装置外への熱の流出を抑えることができる。
【0048】
なお、保温層13aを保温層13bの間に空隙を設けて設置する方法は、上述の
図6に示される方法に限定されない。
【0049】
また、
図6に示される例では、一直線状の発熱体37が製造装置2に用いられている。発熱体37は、発熱体23の発熱部231、電極部232と同様の発熱部371、電極部372を有し、基体34、保温層13a、及び保温材支持板31に鉛直方向に開けられた孔を通って装置内に挿入され、固定される。また、製造装置1と同様に、L字状の発熱体23を保温層13aに設けられた孔に通して用いてもよい。
図7(a)は、一直線状の発熱体37の写真である。
図7(b)は、製造装置2への発熱体37の装着例を示す写真である。
【0050】
図8は、本発明の実施の形態に係る酸化ガリウム結晶の製造装置2の変形例である製造装置3の垂直断面図である。製造装置3は、主に上側の保温層13aと下側の保温層13bが上下方向の隙間無く接している点において製造装置2と異なる。
【0051】
製造装置3の保温層13は、製造装置2の保温層13と同様に、上側の保温層13aと下側の保温層13bの2つに上下方向に分離可能であり、上側の保温層13aは発熱体37とともに上下移動できるようになっている。一方で、製造装置3の保温層13は、製造装置2の保温層13と異なり、上側の保温層13aを下側の保温層13b上に設置したとき、保温層13aと保温層13bが上下方向の隙間無く接する。このため、放熱がより効果的に抑制され、また、保温層13aと保温層13bの隙間の状態の確認が不要であるという優位点がある。また、製造装置3においては、アルミナ系セラミックスからなる保温材支持板31、32、36を用いずに、断熱材のみで上側の保温層13aの段組みを行っているため、発熱体37の電極部372周辺の隙間を極力小さくすることができ、効果的に放熱を抑制することができる。このように、製造装置3は製造装置2よりもより効果的に放熱を抑えることができ、そのため、結晶育成時に所望の温度に容易に到達することができる。また、製造装置3においては、保温層13aの断熱材が劣化しても、段組みの内周部品を数枚交換するのみで対処可能であるため、メンテナンスコストを抑えることができる。
【0052】
(酸化ガリウム結晶の製造方法)
まず、るつぼ20内にβ-Ga2O3の焼結体などの酸化ガリウムの原料を収容する。良質の結晶を得るためには、酸化ガリウムの原料の純度は5N以上であることが好ましい。このとき、るつぼ20の底部に種結晶を設置してもよく、しなくてもよい。なお、ここで用いる種結晶の結晶成長の下地となる面の方位は、(100)、(010)、(001)のβ-Ga2O3の主要面方位に加えて、任意の方位でよく、これらの種結晶から任意の方位のβ-Ga2O3を育成することができる。
【0053】
次に、発熱体23により製造装置1の内部(保温層13の内側)を加熱し、上側の温度が高く、下側の温度が低くなるような温度勾配をるつぼ20周辺に形成し、るつぼ20内の酸化ガリウムの原料を融解させる。具体的には、鉛直方向に沿った酸化ガリウムの融点(およそ1795℃)近傍の温度勾配が0.2~10℃/cmになるような温度分布を形成する。炉心管10や炉内管11を備えている製造装置1、2、3は、このような低い温度勾配を有する温度分布を安定して形成することができるため、定径部の直径が2インチ以上の大きなサイズを有し、かつ結晶欠陥の少ない酸化ガリウム単結晶を育成することができる。
【0054】
典型的な方法では、まず、るつぼ支持軸22を上下移動させて、るつぼ20の高さを調節し、るつぼ20内の上側の領域の温度が酸化ガリウムの融点以上になるようにする。これによって、るつぼ20内の原料の上側の一部が融解する。次に、るつぼ支持軸22を上方に移動させて、るつぼ20を所定の速さ(例えば0.5~15mm/h)で上昇させながら、原料を下側まで融解させ、最終的に原料の全体と種結晶の一部を融解させる。次に、るつぼ支持軸22を下方に移動させて、るつぼ20を所定の速さ(例えば0.5~15mm/h)で下降させながら、融液を下側(種結晶側)から結晶化させ、単結晶を育成する。なお、原料の溶融又は融液の結晶化の際に、るつぼ20の上昇、下降に加えて、発熱体23の発熱温度の制御により製造装置1の内部の温度を上昇、下降させてもよい。酸化ガリウム融液が完全に結晶化した後、るつぼ20を剥がして成長結晶を取り出す。
【0055】
上記の酸化ガリウムの結晶育成は、大気雰囲気中、又はO2ガスと不活性ガス又は中性ガスとの混合ガス雰囲気中で行われる。また、酸素濃度調整ガスの供給により、1770℃以上の高温ゾーンの酸素濃度を20%よりも大きくかつ50%以下の範囲に保つことにより、酸素濃度がおよそ20%である大気雰囲気中で育成する場合よりも、酸素欠陥の少ない結晶を育成することができる。
【0056】
(酸化ガリウム結晶、ウエハの特性)
上記の本実施の形態に係る製造装置1、2、3を用いた結晶育成により、定径部が直径2インチ以上の円柱形の酸化ガリウム単結晶(インゴット)を得ることができ、そこから直径2インチ以上の円形の酸化ガリウム単結晶のウエハを切り出すことができる。
【0057】
また、本実施の形態に係る製造装置1、2、3を用いた結晶育成によれば、定径部の直径がおよそ8インチまでの円柱形の酸化ガリウム単結晶を得ることができる。例えば、所望のインチのるつぼ20が挿入できる炉内管11の設置とそれに伴う径方向の保温層13の内径の拡大を実施することにより、定径部がおよそ8インチまでの任意の径を有する酸化ガリウム単結晶を得ることができる。
【0058】
また、定径部が角柱状である結晶を育成することもできる。その場合は、直径2インチ以上の円形のウエハを切り出せるように、定径部の結晶成長方向に直交する断面の大きさが、2インチ以上の円形が収まるものである結晶を育成することが好ましい。例えば、定径部が四角柱状である結晶を育成する場合は、結晶成長方向に直交する断面が、一辺が2インチ以上の四角形である結晶を育成することが好ましい。
【0059】
本実施の形態に係る製造装置1、2、3を用いた結晶育成により得られる、本実施の形態に係る酸化ガリウム単結晶及びそこから切り出されるウエハに含まれるIrの濃度は0.01ppm以下である。ここで、ppmは重量の比率である。また、0.01ppmはGDMS(グロー放電質量分析)測定装置による検出限界値であり、0.01ppm以下であるということは、GDMS測定装置によってIrを検出できなかったことを意味する。
【0060】
本実施の形態に係る酸化ガリウム単結晶及びウエハ中のIr濃度が低いのは、Irを含まない白金系合金からなるるつぼ20を使用しているためである。なお、るつぼ20の代わりにIrからなるるつぼを用いる場合は、得られる酸化ガリウム単結晶中のIr濃度は数~数十ppmになる。
【0061】
本実施の形態に係る酸化ガリウム単結晶及びウエハ中のIr濃度が低いため、不純物散乱によるキャリア移動度の低下が抑えられる。また、Ir濃度が低いため、ボイドが少ない。Irからなるるつぼを用いるEFG法により育成された酸化ガリウム単結晶がボイドを多く含むのは、Ir濃度が大きいことによると考えられる。また、Ir濃度が低いとIrによる光散乱が減るため、光学用途において有利である。
【0062】
本実施の形態に係る酸化ガリウム単結晶ウエハは、転位密度が1000個/cm2以下である複数の1mm×1mmの領域を含む。また、本実施の形態に係る酸化ガリウム単結晶及びウエハの(001)面のXRD回折ピークの半値幅の平均値は20arcsec以下である。
【0063】
白金ロジウム合金からなるるつぼ20を用いた場合には、本実施の形態に係る酸化ガリウム単結晶及びウエハ中のRh濃度は10ppm以上40ppm以下の範囲内に収まる。酸化ガリウム中のRhはアクセプタとして働くため、高抵抗基板の材料に用いる場合に有利である。
【0064】
また、本実施の形態に係る酸化ガリウム単結晶中のRh濃度は、長さ方向(結晶成長方向)及び径方向に沿ってほぼ均一であることを特徴とする。Rh濃度の勾配は、酸化ガリウム単結晶の長さ方向において最も勾配が大きく、また、上述のように酸化ガリウム単結晶中のRh濃度は10ppm以上40ppm以下の範囲内に収まるため、長さ方向のRh濃度の最大値と最小値の差は30ppm以下である。また、径方向のRh濃度の最大値と最小値の差は、長さ方向のRh濃度の最大値と最小値の差よりも遥かに小さい。このため、酸化ガリウム単結晶から切り出されるウエハの面内のRh濃度がほぼ均一であり、かつ、ウエハ間のRh濃度のばらつきが少ない。例えば、一般的には酸化ガリウムからなる高抵抗基板を形成する場合にはFeやMgを添加するが、その場合のFeやMgの濃度の面内方向の均一性よりも、本実施の形態に係る酸化ガリウム単結晶ウエハのRh濃度の面内方向の均一性の方が高い。
【0065】
また、本実施の形態に係る製造装置1、2、3を用いた結晶育成によれば、上述の直径2インチ以上のウエハを切り出すことのできるサイズの酸化ガリウム単結晶であって、双晶を含まない酸化ガリウム単結晶を育成することができる。
【0066】
また、本実施の形態に係る製造装置1、2、3を用いた結晶育成によれば、5N以上の純度の酸化ガリウムの原料に0.1mol%以上のSnを添加して育成した場合、酸化ガリウム単結晶及びウエハ中のn型のキャリア濃度が3×1018cm-3以上となる。このキャリア濃度は、ショットキーバリアダイオードの作製に必要なn型低抵抗半導体基板のキャリア濃度として適したものと言える。
【0067】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態に係る炉心管10や炉内管11を備えた製造装置1、2、3によれば、直径2インチ以上の円形のウエハを切り出すことのできる大きなサイズを有し、かつ結晶品質の劣化要因となる結晶欠陥の少ない酸化ガリウム単結晶を育成することができる。
【実施例】
【0068】
以下、上記の本実施の形態に係る製造装置を用いた結晶育成により得られた酸化ガリウム単結晶(インゴット)及びそこから切り出されたウエハの特性の評価結果について述べる。本実施例に係る酸化ガリウム単結晶は、いずれも定径部が円柱状の白金ロジウム合金からなるるつぼ20の底にβ-Ga2O3単結晶からなる種結晶を設置して育成されたβ-Ga2O3単結晶である。
【0069】
図9は、本実施例に係る酸化ガリウム単結晶のうちの、定径部が直径2インチの円柱形である2つのβ-Ga
2O
3単結晶と、それらから切り出された2枚のウエハの写真である。
図9に示される2つの酸化ガリウム単結晶は、いずれも定径部の径方向の断面が(001)面であり、径方向にスライスすることにより、主面が(001)面のウエハを切り出すことができる。
【0070】
図10(a)は、本実施例に係る酸化ガリウム単結晶のうちの、定径部が直径2インチの円柱形であり、定径部の径方向の断面が(100)面であるβ-Ga
2O
3単結晶の写真である。
図10(b)は、
図10(a)のβ-Ga
2O
3単結晶から切り出された、主面が(100)面の加工ウエハの写真である。また、
図11(a)は、本実施例に係る酸化ガリウム単結晶のうちの、定径部が直径2インチの円柱形であり、定径部の径方向の断面が(010)面であるβ-Ga
2O
3単結晶の写真である。
図11(b)は、
図11(a)のβ-Ga
2O
3単結晶から切り出された、主面が(010)面の加工ウエハの写真である。
【0071】
図12は、製造装置1を用いて育成した、定径部が直径3インチの円柱形であり、定径部の径方向の断面が(010)面であるβ-Ga
2O
3単結晶(右側)と、製造装置3を用いて育成した、定径部が直径4インチの円柱形であり、定径部の径方向の断面が(010)面であるβ-Ga
2O
3単結晶(左側)の写真である。
【0072】
なお、本発明の実施の形態に係る製造装置を用いて(100)面方位に成長させた直径2インチのβ-Ga2O3単結晶及びそこから切り出された加工ウエハについて、非特許文献であるK. Hoshikawa , T. Kobayashi , Y. Matsuki , E. Ohba , T. Kobayashi, “2-inch diameter of (100) β-Ga2O3crystal growth by the vertical Bridgman technique in a resistance heating furnace in ambient air”, Journal of Crystal Growth 545 (2020) 125724に開示されている。また、(100)、(010)、(001)の各面方位のβ-Ga2O3単結晶の育成結果については、非特許文献であるEtsuko Ohba, Takumi Kobayashi, Toshinori Taishi, Keigo Hoshikawa, “Growth of (100), (010) and (001) β-Ga2O3 single crystals by vertical Bridgman method”, Journal of Crystal Growth 556 (2021) 125990に開示されている。
【0073】
図13は、製造装置1を用いた結晶育成により得られた本実施例に係る酸化ガリウム単結晶から切り出された、0.2mol%のSnがドープされた主面が(001)面の酸化ガリウム単結晶ウエハのX線トポグラフィーによる観察像である。
図14(a)~(d)は、それぞれ
図13に示されるウエハ上の領域1~4におけるX線ロッキングカーブ測定により得られた(001)面回折ピークである。
【0074】
図14(a)~(d)に示される領域1~4における(001)面回折ピークの半値幅(度、arcsec)を次の表1に示す。
【0075】
【0076】
図15は、製造装置1を用いた結晶育成により得られた本実施例に係る0.2mol%のSnがドープされた主面が(001)面の酸化ガリウム単結晶ウエハの光学写真である。
図16は、X線ロッキングカーブ測定により得られた、
図15に示されるウエハ上の(001)面回折ピークの半値幅の分布を示すグラフである。
図16の「上段」、「中段」、「下段」は、それぞれ
図15に示される直線A、B、Cに沿って1mm×1mm間隔で測定された回折ピークの半値幅である。
【0077】
半値幅の値が高い場所には結晶欠陥が存在していると考えられる。このため、
図16によれば、上段には結晶欠陥が存在せず、中段には20~25mmの範囲に結晶欠陥が存在し、下段では-10~-5mm、0~5mm、15~20mmの範囲に結晶欠陥が存在していると考えられる。なお、酸化ガリウム単結晶ウエハ中のSnの濃度は、回折ピークの半値幅に影響を与えない。
【0078】
図17は、
図15に示されるウエハ上の転位密度の分布を示すグラフである。
図17の「上段」、「中段」、「下段」は、それぞれ
図15に示される直線A、B、Cに沿って1mm×1mm間隔で測定された転位密度である。ここで、転位密度は、ウエハの表面に水酸化カリウム(KOH)を用いたエッチングを施し、現れたエッチピットを観察することにより測定した。
図17によれば、転位密度が1000個/cm
2以下である複数の1mm×1mmの領域がウエハに含まれている。
【0079】
図18(a)~(c)は、ウエハ表面に現れたエッチピットの例を示す光学顕微鏡による観察像である。ここでは、
図18(a)、(b)に示されるような芯のある弾丸状のエッチピットを転移に起因するものと判定し、その数を転移の数として計測した。一方、
図18(c)に示される芯のないエッチピットは転移によるものとは判定しなかった。なお、
図18(a)~(c)の観察像の倍率は同じである。
【0080】
図19(a)、(b)、(c)は、それぞれ
図15に示されるウエハの上段、中段、下段における(001)面回折ピークの半値幅と転位密度の分布を示すグラフである。
図19(a)、(b)、(c)によれば、(001)面回折ピークの半値幅が特に大きい位置において転位密度が1000個/cm
2を超えており、分布の傾向も似ているため、(001)面回折ピークの半値幅と転位密度には相関関係があると考えられる。なお、
図19(c)の-10mm付近では分布の傾向が一致していないが、これは、結晶性以外の要因により生じた窪み(研磨痕など)が転位に起因するエッチピットと判定されたためと考えられる。
【0081】
次に、GDMSにより測定された、本実施例に係る酸化ガリウム単結晶に含まれる不純物の濃度を示す。表2は、Snが意図的にドープされていない酸化ガリウム単結晶ウエハに含まれる不純物の濃度を示し、表3は、0.05mol%のSnがドープされた酸化ガリウム単結晶ウエハに含まれる不純物の濃度を示し、表4は、0.1mol%のSnがドープされた酸化ガリウム単結晶ウエハに含まれる不純物の濃度を示し、表5は、0.2mol%のSnがドープされた酸化ガリウム単結晶ウエハに含まれる不純物の濃度を示す。また、濃度の単位「ppm」は、重量の比率である。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
表3~5に示されるように、これらの酸化ガリウム単結晶に含まれるIrの濃度は0.01ppm以下であった。また、表2~5に示されるように、これらの酸化ガリウム単結晶に含まれるRhの濃度は10ppm以上50ppm以下の範囲内に収まった。これは、Irを含まない白金ロジウム合金からなるるつぼ20を使用したことによると考えられる。
【0087】
また、表2によれば、固化率が0.5である位置のRh濃度と固化率が0.9である位置のRh濃度がほぼ等しい。
【0088】
次の表6に、本実施例に係る9枚の酸化ガリウムウエハ(試料A~Iとする)の特性を示す。表6における「ドープ量」は、Snのドープ量である。また、「UID」は、意図的にSnをドープしていないことを表している。また、「固化率」は、そのウエハが切り出された酸化ガリウム単結晶(インゴット)の部分の固化率を表している。
【0089】
【0090】
次の表7に、本実施例に係る4枚の酸化ガリウム単結晶(試料J~Mとする)の特性を示す。表7における「UID」は、意図的にSi及びSnをドープしていないことを表している。
【0091】
【0092】
表6、表7によれば、試料A、試料Kのn型のキャリア濃度が3×1018cm-3以上である。すなわち、本発明の実施の形態に係る製造装置1、2を用いた結晶育成によれば、n型のキャリア濃度が3×1018cm-3以上の酸化ガリウム単結晶、及びそこから切り出されるウエハを得ることができる。
【0093】
なお、上記の本発明の実施例に係るβ-Ga2O3単結晶及びウエハの特性については、非特許文献であるK. Hoshikawa, T. Kobayashi, E. Ohba, T. Kobayashi, “50 mm diameter Sn-doped (001) β-Ga2O3crystal growth using the vertical Bridgeman technique in ambient air”, Journal of Crystal Growth 546 (2020) 125778に、科学的な考察と共に開示されている。
【0094】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0095】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0096】
1、2、3…製造装置、 10…炉心管、 11…炉内管、 14…板状部材、 15…保温材、 20…るつぼ、 21…るつぼ支持体、 22…るつぼ支持軸、 23…発熱体、 231…発熱部