(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】ステント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/89 20130101AFI20241225BHJP
【FI】
A61F2/89
(21)【出願番号】P 2023526692
(86)(22)【出願日】2021-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2021021792
(87)【国際公開番号】W WO2022259382
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】523168490
【氏名又は名称】長谷部 光泉
(73)【特許権者】
【識別番号】523168504
【氏名又は名称】Global Vascular株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 光泉
(72)【発明者】
【氏名】亀井 俊佑
(72)【発明者】
【氏名】前川 駿人
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 健太
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0166641(US,A1)
【文献】特開2020-124642(JP,A)
【文献】特開2020-179216(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0246165(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0121180(US,A1)
【文献】国際公開第2020/219567(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0021885(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/89
A61F 2/915
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒面に沿って配置され、前記円筒面の軸方向を振幅方向とする波状を成す第1ストラットと、
前記円筒面に沿って配置され、前記軸方向を振幅方向とする波状を成しており、前記第1ストラットと前記軸方向で隣接している第2ストラットと、
前記第1ストラットにおける前記第2ストラット側に凸である複数の山部のうちの一部の山部である第1山部に形成され、前記第1山部を二等分する第1二等分線に対する両側から前記第2ストラット側に前記第1二等分線に沿って延びている第1延長部と、
前記第2ストラットにおける前記第1ストラット側に凸である複数の山部のうち前記第1山部に対して周方向にずれて位置する第2山部に形成され、前記第2山部を二等分する第2二等分線に対する両側から前記第1ストラット側に前記第2二等分線に沿って延びている第2延長部と、
前記第1延長部と前記第2延長部とに架け渡されている架渡し部と、
を有
し、
前記架渡し部が架け渡された前記第1延長部と前記第2延長部とは、前記軸方向に間隔を空けて配置されており、
前記架渡し部は、前記第1二等分線に対して傾斜している方向に延びており、前記第1山部から前記第2山部に向けて延びる延長方向に沿って形成されている、ステント。
【請求項2】
前記架渡し部の厚みは、前記第1延長部又は前記第2延長部の厚みと同等であって一様である、請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記第1延長部は、前記第1二等分線を長軸とする楕円状であり、
前記第2延長部は、前記第2二等分線を長軸とする楕円状である、請求項1又は請求項2に記載のステント。
【請求項4】
前記円筒面の径方向から見て、前記架渡し部の縁部における前記第1延長部側である一端は、前記第1延長部との境界で該第1延長部の縁と共通接線を成す曲線状であり、前記架渡し部の縁部における前記第2延長部側である他端は、前記第2延長部の境界で該第2延長部の縁と共通接線を成す曲線状である、請求項1~3の何れか1項に記載のステント。
【請求項5】
円筒面に沿って配置され、前記円筒面の軸方向を振幅方向とする波状を成す第1ストラットと、
前記円筒面に沿って配置され、前記軸方向を振幅方向とする波状を成しており、前記第1ストラットと前記軸方向で隣接している第2ストラットと、
前記第1ストラットにおける前記第2ストラット側に凸である複数の山部のうちの一部の山部である第1山部に形成され、前記第1山部を二等分する第1二等分線に対する両側から前記第2ストラット側に前記第1二等分線に沿って延びている第1延長部と、
前記第2ストラットにおける前記第1ストラット側に凸である複数の山部のうち前記第1山部に対して周方向にずれて位置する第2山部に形成され、前記第2山部を二等分する第2二等分線に対する両側から前記第1ストラット側に前記第2二等分線に沿って延びている第2延長部と、
前記第1延長部と前記第2延長部とに架け渡されている架渡し部と、
を有し、
前記第1延長部は、前記第1山部から軸方向に沿って楕円状に延びており、かつ、前記第2延長部は、前記第2山部から前記第1延長部と接触する接触部を有するように軸方向に沿って楕円状に延びており、
前記架渡し部は、前記接触部を挟む両側で架け渡されている、ステント。
【請求項6】
形状記憶合金で形成されている、請求項1~
5の何れか1項に記載のステント。
【請求項7】
表面にコーティング層を有する、請求項1~
6の何れか1項に記載のステント。
【請求項8】
前記コーティング層は、セラミックス層を含む、請求項
7に記載のステント。
【請求項9】
前記コーティング層は、薬剤溶出性コーティング層を含む、請求項
7又は請求項
8に記載のステント。
【請求項10】
前記第1ストラット及び前記第2ストラットの厚みは、前記円筒面に沿う方向における前記第1ストラット及び前記第2ストラットの最小幅Bの0.6倍以上であってB以下の範囲内である、請求項1~
9の何れか1項に記載のステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステントに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用のステントの一態様として、例えば米国特許7264633号で、隣り合う2つのストラットにおいて互いに向かい合っている山部同士を繋ぐリンクを有するステントが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
米国特許7264633号で開示されているステントは、リンクがストラットの山部の頂部に対して片側からのみ延びている構成を有する。そのため、このステントは、ステントが縮径状態又は拡径状態の一方から他方への変移に伴ってリンク及びその周辺の部位に応力が集中しやすい。この応力集中は、ステントの形状精度を悪化させる原因となる。
【0004】
本開示は、軸方向に隣り合うストラットの周方向にずれた山部同士を繋げる部位が第1山部又は第2山部の二等分線に対する片側のみから延びている構成と比して、ステントの形状精度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1態様に係るステントは、円筒面に沿って配置され、前記円筒面の軸方向を振幅方向とする波状を成す第1ストラットと、前記円筒面に沿って配置され、前記軸方向を振幅方向とする波状を成しており、前記第1ストラットと前記軸方向で隣接している第2ストラットと、前記第1ストラットにおける前記第2ストラット側に凸である複数の山部のうちの一部の山部である第1山部に形成され、前記第1山部を二等分する第1二等分線に対する両側から前記第2ストラット側に前記第1二等分線に沿って延びている第1延長部と、前記第2ストラットにおける前記第1ストラット側に凸である複数の山部のうち前記第1山部に対して周方向にずれて位置する第2山部に形成され、前記第2山部を二等分する第2二等分線に対する両側から前記第1ストラット側に前記第2二等分線に沿って延びている第2延長部と、前記第1延長部と前記第2延長部とに架け渡されている架渡し部と、を有する。
【0006】
第2態様に係るステントは、第1態様に記載のステントであって、前記架渡し部の厚みは、前記第1延長部又は前記第2延長部の厚みと同等であって一様である。
【0007】
第3態様に係るステントは、第1態様又は第2態様に記載のステントであって、前記第1延長部は、前記第1二等分線を長軸とする楕円状であり、前記第2延長部は、前記第2二等分線を長軸とする楕円状である。
【0008】
第4態様に係るステントは、第1態様~第3態様の何れか一態様に記載のステントであって、前記架渡し部の縁部は、前記円筒面の径方向から見て、前記第1延長部側である一端が前記第1延長部との境界で該第1延長部の縁と共通接線を成し、前記第2延長部側である他端が前記第2延長部の境界で該第2延長部の縁と共通接線を成す曲線状である。
【0009】
第5態様に係るステントは、第1態様~第4態様の何れか一態様に記載のステントであって、形状記憶合金で形成されている。
【0010】
第6態様に係るステントは、第1態様~第5態様の何れか一態様に記載のステントであって、表面にコーティング層を有する。
【0011】
第7態様に係るステントは、第6態様に記載のステントであって、前記コーティング層は、セラミックス層を含む。
【0012】
第8態様に係るステントは、第6態様又は第7態様に記載のステントであって、前記コーティング層は、薬剤溶出性コーティング層を含む。
【0013】
第9態様に係るステントは、第1態様~第8態様の何れか一態様に記載のステントであって、前記第1ストラット及び前記第2ストラットの厚みは、前記円筒面に沿う方向における前記第1ストラット及び前記第2ストラットの最小幅Bの0.6倍以上であってB以下の範囲内である。
【発明の効果】
【0014】
第1態様に係るステントによれば、軸方向に隣り合うストラットの周方向にずれた山部同士を繋げる部位が第1山部又は第2山部の二等分線に対する片側のみから延びている構成と比して、ステントの形状精度が向上する。
【0015】
第2態様に係るステントによれば、架け渡し部の厚みが第1延長部又は第2延長部の厚みよりも小さい構成と比して、ステントの形状精度が向上する。
【0016】
第3態様に係るステントによれば、第1延長部又は第2延長部が径方向から見て矩形状である構成と比して、構成と比して、ステントの形状精度が向上する。
【0017】
第4態様に係るステントによれば、架渡し部の縁部の端部が直線状である構成と比して、ステントの形状精度が向上する。
【0018】
第5態様に係るステントによれば、形状記憶合金で形成されている場合において、第1山部と第2山部とを繋げる部位が第1山部又は第2山部の二等分線に対する片側からのみ延びている構成と比して、ステントの形状精度が向上する。
【0019】
第6態様に係るステントによれば、コーティング層を有する構成において、第1山部と第2山部とを繋げる部位が第1山部又は第2山部の二等分線に対する片側からのみ延びている構成と比して、コーティング層が剥離しにくい。
【0020】
第7態様に係るステントによれば、コーティング層がセラミックス層を含む構成において、第1山部と第2山部とを繋げる部位が第1山部又は第2山部の二等分線に対する周方向の片側からのみ延びている構成と比して、ステントの経年劣化が抑制される。
【0021】
第8態様に係るステントによれば、コーティング層が薬剤溶出性コーティング層を含む構成において、第1山部と第2山部とを繋げる部位が第1山部又は第2山部の二等分線に対する片側からのみ延びている構成と比して、ステントの薬剤溶出効果が長期間持続する。
【0022】
第9態様に係るステントによれば、ストラットの厚みがストラットの最小幅を超える構成と比して、ステントの内径が大きい。また、第9態様に係るステントによれば、ストラットの厚みがストラットの最小幅の0.6倍未満である構成と比して、ステントが歪みにくい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示の実施形態に係る加工状態のステントを周方向に沿って平面状に展開した展開図である。
【
図2】本開示の実施形態に係るステントのリンクを示す拡大図である。
【
図3】本開示の実施形態に係るステントを構成する基材層及びコーティング層を示す断面図である。
【
図4】本開示に対する比較形態に係るステントのリンクを示す拡大図である。
【
図5】本開示の実施形態の変形例に係るステントを周方向に展開した展開図である。
【
図6】本開示の実施形態の変形例に係るステントのリンクを示す拡大図である。
【
図7】本開示の実施形態に係る拡径状態のステントの斜視図である。
【
図8】本開示の実施形態に係る縮径状態のステントの斜視図である。
【
図9】本開示の実施形態の変形例に係るステントを周方向に展開した展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示の実施形態に係るステントの一例について
図1~
図9に従って説明する。
【0025】
(ステント10)
本実施形態に係るステント10は、血管等の管腔構造を有する生体器官に狭窄症等が生じた場合において狭窄部内腔を拡張させるために用いられる、略円筒状(
図7及び
図8参照)のステントである。具体的には、ステント10は、ステント10の素材となるチューブ状の部材(詳細は後述)の長さLで且つ直径Dである円筒面に沿って形成されている。以下の説明で用いる「円筒面」の語は、長さLで且つ直径Dである円筒面のほか、当該円筒面の一部であるもの、及び当該円筒面を軸方向に延長したもの及び当該円筒面を拡径及び縮径したものを含むこととする。
図1は、レーザー加工でチューブ状の部材から切り出される加工状態のステント10を周方向に沿って平面状に展開した展開図である。すなわち、
図1に示されるステント10の直径はDである。ステント10は、例えば自己拡張型のステントであり、
図7に示される拡径状態と、
図8に示される縮径状態とに切り替えることができる機能を有する。拡径状態におけるステント10の直径は、加工状態におけるステントの直径Dよりも大きい。また、縮径状態におけるステント10の直径は、加工状態におけるステント10の直径Dよりも小さい。なお、本開示に係るステントは、自己拡張型に限定されず、バルーン拡張型のステントであってもよい。以下の説明では、特記しない限り、加工状態のステント10の寸法形状について記載する。
【0026】
なお、各図に付した矢印A、矢印R、矢印Cは、ステント10の軸方向、径方向、周方向を示している。
【0027】
ステント10は、
図1において平面上に展開して示されるように、ステント10の軸方向における両端部に配置されている端部ストラット20と、2つの端部ストラット20の間で軸方向に並んで配置されている複数のストラット30と、を有する。また、ステント10は、端部ストラット20とストラット30とを繋げているリンク60と、隣り合うストラット30同士を繋げているリンク70と、をさらに有する。また、ステント10は、端部ストラット20の一部から軸方向における外側に突出しているマーカー80をさらに有する。ステント10は、端部ストラット20と、ストラット30と、リンク60、70と、マーカー80とが一体的に形成されている。
【0028】
端部ストラット20は、円筒面に沿う環状の部材である。端部ストラット20は、ステント10の軸方向を振幅方向とする波状に形成されている。
【0029】
端部ストラット20は、端部ストラット20の波の中心線CTに対して端部ストラット20と隣接しているストラット30とは反対側に凸である複数の山部22を有する。また、端部ストラット20は、端部ストラット20の波の中心線CTに対して端部ストラット20と隣接しているストラット30側に突出している複数の山部24を有する。また、端部ストラット20は、山部22と山部24とを直線状に繋げている真直部26を有する。真直部26と山部22及び山部24との境界部において、真直部26の縁は、山部22の縁及び山部24の縁の共通接線を成している。なお、本開示に係る端部ストラット20の山部22、24は夫々、端部ストラット20の波の折り返し部分のことを示す。この実施形態では、山部22及び山部24は、径方向から見て内周側の縁及び外周側の縁の何れも円弧状に形成されている。
【0030】
マーカー80は、
図1において平面上に展開して示されるように、端部ストラット20の複数の山部22のうちの一部の山部22の頂部から、山部22に対して山部24とは反対側に突出するように形成されている、円筒面に沿って拡がる略円板状の部材である。
【0031】
(ストラット30)
ストラット30は、2つの端部ストラット20の間で円筒面に沿って配置されている環状の部材である。複数のストラット30は、互いに軸方向に定められた間隔を空けて並んで配置されている。各ストラット30は、ステント10の軸方向を振幅方向とする波状に形成されている。各ストラット30は、互いに同じ形状である。また、この実施形態では、各ストラット30は、端部ストラット20と略同じ形状である。より具体的には、実施形態のストラット30は、円筒面に沿う一周で9周期の波状とされており、波の中心線に対して軸方向の一方側に凸となる山部32と、他方側に凸となる山部34とを有する。すなわち、実施形態のストラット30は、山部32、34を夫々9個ずつ有する。また、ストラット30は、山部32と山部34とを直線状に繋げている真直部36を有する。真直部36と山部32及び山部34との境界部において、真直部36の縁は、山部32の縁及び山部34の縁の共通接線を成している。なお、本開示に係るストラット30の山部32、34は夫々、ストラット30の波の折り返し部分のことを示す。
この実施形態では、山部32及び山部34は、径方向から見て内周側の縁及び外周側の縁の何れも円弧状に形成されている。また、山部32及び山部34を径方向から見て二等分する二等分線(後述する二等分線D1を含む)は、軸方向と平行とされている。別言すると、1つの山部32、34につながる一対の真直部36は、二等分線に対し対称(つまり等角)に形成されている。さらに、1つの山部32につながる一対の真直部36は、周方向に隣り合う山部34に向かうにつれて互いの間隔が徐々に広がっている。また、1つの山部34につながる一対の真直部36は、周方向に隣り合う山部32に向かうにつれて互いの間隔が徐々に広がっている。一対の真直部36の間に成される角度αは、拡径状態のステント10において、25°以上50°以下の範囲内であることが好ましい。
なお、縮径状態のステント10においては、一対の真直部36の間に成される角度αは-10°以上-5°以下の範囲内であることが好ましい。1つの山部32につながる一対の真直部36の間に成される角度αが負の値を有するとき、該一対の真直部36は、
図8に示されるように、周方向に隣り合う山部34に向かうにつれて互いの間隔が徐々に狭まっている。また、1つの山部34につながる一対の真直部36の間に成される角度αが負の値を有するとき、該一対の真直部36は、
図8に示されるように、周方向に隣り合う山部32に向かうにつれて互いの間隔が徐々に狭まっている。
【0032】
複数のストラット30は、
図1に示されるように、軸方向に並んで配置されている。また、軸方向で互いに隣接している2つのストラット30は、周方向における波の位相が10°以上90°以下の範囲内でずれるように配置されている。なお、隣接している2つのストラット30の周方向における波の位相のずれ量は、5°以上20°以下の範囲内であることが好ましい。
また、軸方向に並ぶ複数のストラット30のうちn番目(ただし、nは1以上の整数)のストラットと(n-2)番目又は(n+2)番目のストラットとは、周方向における波の位相が同じとなるように配置されている。
【0033】
端部ストラット20と隣接しているストラット30は、周方向における波の位相が端部ストラット20に対して180°ずれて配置されている。すなわち、一方の端部ストラット20(
図1では紙面
下側の端部ストラット20)と隣接しているストラット30は、山部32が端部ストラット20の山部24と軸方向で向かい合って配置されている。また、他方の端部ストラット20(
図示を省略するが、紙面
上側の端部ストラット20)と隣接しているストラット30は、山部
32が端部ストラット20の山部24と軸方向で向かい合って配置されている。これらの端部ストラット20と隣接しているストラット30の夫々の山部
32は、軸方向で向かい合っている端部ストラット20の山部24と、リンク60を介して繋がっている。
【0034】
軸方向で互いに隣接している2つのストラット30は、一方のストラット30の複数の山部32のうち一部の山部32aと、他方のストラット30の複数の山部34のうち一部の山部34aとが、後に詳述するリンク70を介して繋がっている。例えば、一周で9周期の波状であるストラット30を備える本実施形態では、軸方向に隣接するストラット30同士が周方向に等間隔で配置された3つのリンク70にて繋がっている。一方のストラット30の山部32aに対してリンク70にて繋がれる他方のストラット30の山部34aは、他方のストラット30の複数の山部34のうち、一方のストラット30の山部32aに最も近い山部34である。
また、軸方向に並ぶ複数のストラット30のうちn番目(ただし、nは2以上の偶数)のストラット30と(n-1)番目のストラット30とを繋ぐリンク70は、n番目のストラット30と(n+1)番目のストラット30とを繋ぐリンク70に対し周方向にずれている。さらに、n番目のストラット30と(n-1)番目のストラット30とを繋ぐがリンク70は、n番目のストラット30と(n+1)番目のストラット30とを繋ぐリンク70に対し傾く向きが逆になっている。ここで、山部32aは第一山部の一例であり、山部34aは第二山部の一例である。また、奇数番目のストラット30を第1ストラットの一例とすると、偶数番目のストラット30が第2ストラットの一例となり、奇数番目のストラット30を第2ストラットの一例とすると、偶数番目のストラット30が第1ストラットの一例となる。
【0035】
(リンク70の詳細構造)
リンク70は、ステント10において、上記の通り軸方向に隣り合う2つのストラット30のうち、一方のストラット30の山部32aと他方のストラット30の山部34aとを繋いでいる。リンク70は、山部32aに形成された延長部44と、山部34aに形成された延長部54と、延長部44と延長部54とに架け渡されている架け渡し部72と、を含んで構成されている。以下の説明において、山部32aの二等分線を二等分線D1といい、山部34aの二等分線を二等分線D2という。
【0036】
延長部44は、山部32aの外周縁における二等分線D1の両側から二等分線D1に沿って、リンク70による繋ぎ対象のストラット30に向けて延びる部分とされている。この実施形態では、延長部44は、二等分線D1に対し線対称形状とされている。より具体的には、延長部44は、二等分線D1を長軸方向とする楕円状に形成されている。この実施形態で楕円状とは、径方向から見た外縁が楕円の一部を成すことをいう。また、延長部44の楕円状を成す縁部は、山部32aとの2つの境界で該山部32aと共通接線を有する。すなわち、山部32aと延長部44とは段差や変曲点が生じないよう滑らかに連続している。
延長部54は、延長部44と同様に形成されている。詳細説明は省略するが、延長部54はすなわち、延長部44に対して軸方向における向きが対称である形状を有しており、山部34aから二等分線D2に沿って、リンク70による繋ぎ対象のストラット30に向けて延びている。以上により、延長部44、54は、山部32a、34aを夫々の二等分線D1、D2に沿って延長した部分としてとらえることも可能である。ここで、延長部44は第一延長部の一例であり、延長部54は第二延長部の一例である。なお、山部32a、34a以外の山部32、34には延長部は形成されていない。別言すると、山部32a、34aは、外縁が楕円状で且つ内縁が円弧状であり、他の山部32、34よりも軸方向に長い山部とみなすことも可能である。
架け渡し部72は、
図2に示されるように、径方向(つまりR方向)から見て第1延長部44と第2延長部54との間に形成されている略四角形状の部位である。架け渡し部72は、軸方向(つまり二等分線D1、D2)に対して傾斜している方向に延びている。具体的には、架け渡し部72は、山部32aから山部34aに向けて延びる延長方向に沿って形成されている。この実施形態では、架け渡し部72は、延長部44の外縁を成す楕円の中心と、延長部54の外縁を成す楕円の中心とを通る仮想直線(図示省略)を中心線としている。
架け渡し部72は、該延長方向に沿う方向に延びている2つの縁部74を有する。一方の縁部74は、延長部44の頂部近傍から延長部54における二等分線D1、D2間の真直部36側部分まで至っている。他方の縁部74は、延長部54の頂部近傍から延長部44における二等分線D1、D2間の真直部36側部分まで至っている。
【0037】
架け渡し部72の縁部74は、両端部が曲線状に形成され、該両端部間が上記仮想直線に平行な直線状に形成されている。具体的には、縁部74は、径方向から見て、延長部44の頂部側又は延長部54の頂部側の端部が夫々、延長部44又は延長部54の頂部近傍との境界で延長部44の縁又は延長部54の縁と共通接線を成している。また、縁部74は、径方向から見て、延長部44の真直部36側又は延長部54の真直部36側の端部が夫々、延長部44の真直部36側部分又は延長部54の真直部36側部分との境界で延長部44の縁又は延長部54の縁と共通接線を成している。すなわち、架渡し部72の縁部74の延長部44側の一端は、径方向から見て、延長部44との境界で延長部44の縁と共通接線を成している。また、架渡し部72の縁部74の延長部54側である他端は、径方向から見て、第2延長部54との境界で第2延長部54の縁と共通接線を成している。
【0038】
ステント10において、架渡し部72の最小幅(つまり架け渡し部72の上記傾斜方向に対する直交方向における幅)は、ストラット30の真直部36の最小幅と略同等である。
【0039】
(ステント10の断面構造)
ステント10は、断面が基材層90と、コーティング層92と、を有する層状に形成されている。具体的には、波状のストラット30は、
図3に示されるように、その波線に沿う方向と直交する仮想平面に沿ってカットされた断面において、該断面の中心部に位置している基材層90と、基材層90の表面上に形成されているコーティング層92と、を有する。これは端部ストラット20、リンク60、70及びマーカー80についても同様である。
【0040】
基材層90は、ニッケル・チタン合金等の形状記憶性を有する金属を含む材料で形成されている。すなわち、ステント10は、形状記憶合金で形成されている。ステント10の形状は、例えば上記金属で形成されている長さLで且つ直径Dである円筒面を有するチューブ状の部材をレーザー加工で切り出すことで成形される。なお、本開示に係る基材層90を形成する材料は、ニッケル・チタン合金に限定されず、鉄、銅、チタン、ニッケル、コバルト、クロム、アルミニウム、亜鉛、マンガン、タンタル、タングステン、白金、金等の金属を含んでいてもよい。特に、基材層90を形成する金属は、チタン、ニッケル、コバルト、クロム、タンタル、白金、及び金からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、基材層90を形成する材料は、コバルト・クロム合金、銅・アルミニウム・マンガン合金、銅・亜鉛合金、ニッケル・アルミニウム合金、又はステンレス鋼等の合金を含んでいてもよい。特に、基材層90を形成する金属は、該合金の中でも、ニッケル・チタン合金、コバルト・クロム合金、又はステンレス鋼を含むことが好ましい。
【0041】
また、本開示に係る基材層90を形成する材料は、上記の金属に限定されず、例えばポリエステル又はポリカーボネート共重合体等のポリマーを含んでいてもよい。また、本開示に係る基材層90を形成するポリマーは、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリグリコール酸、乳酸-グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、乳酸-カプロラクトン共重合体、グリコール酸-カプロラクトン共重合体、ポリ-γ-グルタミン酸、コラーゲン等の生分解性を有する生分解性ポリマーを含んでいてもよい。
【0042】
端部ストラット20及びストラット30の基材層90は、
図3に示されるように、矩形状の断面を有する。該断面のR方向の厚みは厚みTである。また、該断面の厚みTに対する幅方向の最小幅は最小幅Bである。端部ストラット20及びストラット30の基材層90の厚みTは、最小幅Bの0.6倍以上であって最小幅B以下の範囲内である。具体例として、端部ストラット20及びストラット30の厚みTは120μm±10μmであり、端部ストラット20及びストラット30の最小幅Bは150μm±10μmである。
【0043】
端部ストラット20、ストラット30、リンク60、70、マーカー80は夫々、基材層90のR方向の厚みが厚みTで一様に形成されている。すなわち、架渡し部72のR方向の厚みは、延長部44及び延長部54のR方向の厚みと同等であって一様である。
【0044】
(コーティング層92)
コーティング層92は、基材層90の表面に形成されているダイヤモンドライクカーボン層(DLC層)94と、DLC層94の表面に形成されている薬剤溶出性コーティング層96とを含んで構成されている。
【0045】
(DLC層94)
DLC層94は、フッ素(F)及びケイ素(Si)を含むダイヤモンドライクカーボンで形成されている。DLC層94は、セラミックス層の一例である。ステント10は、コーティング層92にセラミックス層の一例であるDLC層94を含むことで、ステントを構成する金属のイオンの溶出が抑制され、また、ステント10の生体器官又は血液に対する生体反応が抑制される。DLC層94は、F及びSiを含むことにより、生体の動きに伴うステント10の変形に安定的に追従する追従性と、追従した際の多様な応力に対して柔軟に変形する柔軟性と、を有する。また、DLC層94は、Fを含むことにより、抗血栓性を有する。
なお、本開示に係るセラミックス層は、金属酸化物層、金属窒化物層、Si層、又はカーボン層により構成されるものであれば、DLC層94に限定されない。本開示に係る金属酸化物層又は金属窒化物層は、チタン、ニッケル、コバルト、クロム、アルミニウム、亜鉛、マンガン、タンタル等を含むことが好ましい。本開示に係るSi層は、シリコンカーバイド又は二酸化ケイ素を含むことが好ましい。本開示に係るカーボン層は、ダイヤモンドライクカーボン又はグラフェンを含むことが好ましい。
【0046】
DLC層94は、F及びSiが含有される方法であれば、いずれの方法で形成された層でもよい。DLC層94は、蒸着法、スパッタリング法等の公知の方法を利用して形成することができる。特に、DLC層94は、イオン蒸着法によって形成されることが好ましい。さらに、DLC層94は、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition:CVD法)又は物理蒸着法(Physical Vapor Deposition:PVD法)で形成されることがより好ましい。CVD法又はPVD法で形成されたDLC層94は、CVD法又はPVD法以外の方法で形成された構成と比して、本開示に係るステント10から剥離しにくい。CVD法及びPVD法の詳細を以下に示す。
【0047】
CVD法としては、例えば、プラズマ化学蒸着法(Plasma Enhanced-CVD:PE-CVD法)、熱化学蒸着法が挙げられる。PE-CVD法を利用した薄膜合成により、F、Si及びCを含む薄膜を形成することができる。
【0048】
PE-CVD法とは、原料にガスを用いる化学蒸着(CVD)法の一種であり、真空容器内に原料ガスを導入し、プラズマを発生させることで化学反応を起こすことで膜を堆積させる方法である。CVD法は、化学反応を利用し基板上に膜を堆積させる方法の総称である。
【0049】
化学反応を起こすためのエネルギー源としては、熱、プラズマ、レーザー等が用いられる。CVD法では、原料に気体(ガス)が用いられる。そのため、原料ガスの選択によって成膜できる膜の質を自在に変えることができ、所望により種々の元素の添加が可能である。
【0050】
PE-CVD法は、真空容器内に炭化水素ガスや添加したい元素を含むガスを原料ガスとして流し、プラズマを発生させて化学反応させることで膜を堆積させる。プラズマを発生させる電力としては、直流電力、高周波、マイクロ波等の交流電力が好適に用いられる。PE-CVD法は、プラズマを用いることで活性化度の高い化学種を反応させることが可能であり、反応を低温で行わせることができる。
【0051】
本開示におけるDLC層は、高周波を用いた誘導結合型高周波プラズマ化学蒸着(ICP-CVD)装置を用いて形成することができる。ICP-CVD装置としては、例えば、株式会社オンワード技研製のYH-100NXを用いることができる。
ICP-CVD装置では、高周波放電によりリング状電極間にプラズマを発生させ、基板を設置した治具にバイアス電圧をかけることで、イオン化又は励起された化学種を吸着して膜を堆積形成する。成膜条件としては、処理時間、高周波出力、バイアス電圧、原料ガス流量、高周波のパルス振幅、バイアスのパルス振幅、プラズマ着火の際の高周波電圧、バイアス電圧、原料ガス流量等のパラメータを制御することができる。
【0052】
PVD法としては、例えば、プラズマイオン注入法、真空蒸着法、スパッタリング法が挙げられる。
【0053】
原料としては、シラン化合物と含フッ素脂肪族炭化水素とを混合した混合原料が用いられる。
【0054】
シラン化合物としては、炭素を含む有機ケイ素化合物が好ましい。有機ケイ素化合物としては、下記式Sで表される化合物が挙げられる。
SiRxH4-x :式S
式Sにおいて、Rは炭素数1~4のアルキル基を表し、xは1~4の整数を表す。
【0055】
式Sで表される化合物としては、例えば、テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、メチルジエチルシラン、ジエチルジメチルシラン等が挙げられる。
【0056】
含フッ素脂肪族炭化水素としては、炭素数1~4の含フッ素脂肪族炭化水素が好ましく、炭素数1~4のパーフルオロ炭化水素がより好ましい。含フッ素脂肪族炭化水素としては、例えば、テトラフルオロメタン(CF4)、ヘキサフルオロエタン(C2F6)、オクタフルオロプロパン、ペルフルオロブタン(C4F10)等が挙げられる。
【0057】
原料として、更に、炭化水素を用いることができる。
CVD法による場合、炭化水素として、飽和炭化水素(例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)等)、不飽和炭化水素(例えば、アセチレン(C2H2)、ベンゼン(C6H6)等)などを用いることができる。
PVD法による場合、炭化水素として固体炭素を用いることができる。
【0058】
DLC層形成工程では、シラン化合物を気化し、気化したシラン化合物と含フッ素脂肪炭化水素(不飽和炭化水素を加えてもよい。)とをチャンバー内に導入し、成膜する。このとき、シラン化合物と含フッ素脂肪炭化水素との分圧を制御して徐々に変化させることが好ましい。シラン化合物及び含フッ素脂肪炭化水素の混合原料は、シラン化合物と含フッ素脂肪族炭化水素とを任意の比率に制御して混合することで、本開示におけるDLC層を形成することができる。例えば、以下のようにして行える。
即ち、金属層の表面に、シラン化合物及び含フッ素脂肪族炭化水素を、まずシラン化合物の混合比≧含フッ素脂肪族炭化水素の混合比で供給して吸着、堆積する。成膜開始時は、混合材料を用いず、シラン化合物のみを用いてもよい。引き続いて、シラン化合物の混合比を減じ(好ましくは漸減し)、かつ、含フッ素脂肪族炭化水素の混合比を増やし(好ましくは漸増し)ながら、吸着、堆積して継続的に成膜する。
【0059】
DLC層94の厚みは、ステント10の用途の観点からは薄いことが好ましく、例えば、10nm以上1000nm未満の範囲が好ましく、100nm~500nmの範囲がより好ましく、150nm~250nmの範囲が更に好ましい。
【0060】
(薬剤溶出性コーティング層)
薬剤溶出性コーティング層96は、DLC層94の表面に層状に形成されたポリマーであり、内部に薬剤を貯蔵可能な機能を有する。薬剤溶出性コーティング層96は、ステント10が血管等の管腔構造を有する生体器官内に配置されたとき、貯蔵している薬剤を溶出させる機能を有する。本開示に係る薬剤溶出性コーティング層96の薬剤を貯蔵する方法は、特に限定されず、公知の方法を利用することができる。例えば、本開示に係る薬剤溶出性コーティング層96は、薬剤を貯蔵する方法として、薬剤溶出性コーティング層96に形成された溝又は孔部に薬剤又は薬剤を含む生分解性ポリマーを貯蔵させる方法を適用してもよい。また、本開示に係る薬剤溶出性コーティング層96は、薬剤を貯蔵する方法として、薬剤を含んで且つ生分解性を有する生分解性ポリマー又は薬剤で薬剤溶出性コーティング層96を形成する方法を適用してもよい。薬剤溶出性コーティング層96を形成するポリマーは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素樹脂、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、アクリルゴム、天然ゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-イソブレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレンブロック共重合体等を含んでいてもよい。また、薬剤溶出性コーティング層96を形成する生分解性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリ-β-ヒドロキシ酪酸、ポリグリコール酸、乳酸-グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、乳酸-カプロラクトン共重合体、グリコール酸-カプロラクトン共重合体、ポリ-γ-グルタミン酸、グリコール酸-トリメチレンカーボネート共重合体等を含んでいてもよい。
【0061】
薬剤溶出性コーティング層96の厚みは、ステント10の用途の観点からは薄いことが好ましく、例えば、1μm以上20μm未満の範囲が好ましく、1μm以上10μm未満の範囲がより好ましい。
【0062】
<作用及び効果>
次に、本開示の作用及び効果について説明する。なお、この説明において、本実施形態に対する比較形態を記載するときに、実施形態のステント10と同様の構成等を用いる場合、その構成等の符号及び名称をそのまま用いて説明する。
ステント10を血管等の管腔構造を有する生体器官(以下、「血管」の例で説明する)に留置する際には、縮径状態のステント10をデリバリーカテーテル等の留置デバイスにセットする。ステント10は、血管中の所定の位置で留置デバイスから射出されると、血管中で拡径して血管内壁に密着し、該血管内に留置される。形状記憶合金製のステント10は、血管の変形への追従性が良好である。血管中に留置されたステント10の薬剤溶出性コーティング層96からは、薬剤が溶出される。
【0063】
ここで、実施形態のステント10は、軸方向に隣り合う2つのストラット30のうち一方のストラット30の山部32aと他方のストラット30の山部34aとを繋いでいるリンク70が、延長部44と、延長部54と、架け渡し部72と、を含んで構成されている。実施形態のステント10と、以下に示す比較形態としてのステント110とを比較する。
【0064】
比較形態のステント110は、
図4に示されるように、実施形態のステント10における延長部44、54を有さない。また、ステント110は、軸方向に隣り合う2つのストラット130のうち一方のストラット130の山部32aと他方のストラット130の山部34aとが、リンク170によって一体的に繋がっている。リンク170は、二等分線D1に対する繋ぎ対象の山部
32a側の部位から該山部
32aに向かって延びている。逆に見ると、リンク170は、二等分線D2に対する繋ぎ対象の山部
34a側の部位から該山部
34aに向かって延びている。すなわち、比較形態のステント110は、リンク170が山部32a又は山部34a夫々の二等分線に対して片側から延びている(つまり、周方向における二等分線D1、D2の間にのみ位置する)。また、リンク170の縁部174は、両端が直線状に形成されている。すなわち、リンク170の縁部174は、径方向から見て、山部32a側である一端が山部32aとの境界で山部32aの縁と共通接線を成していない。また、リンク170の縁部174は、径方向から見て、山部34a側である他端が山部34aとの境界で山部34aの縁と共通接線を成していない。以上の点以外については、比較形態のステント110は、実施形態のステント10と同様の構成とされている。
【0065】
比較形態のステント110は、リンク170が山部32a又は山部34aの二等分線に対して片側から延びている構成を有しているため、縮径状態又は拡径状態の一方から他方への変移に伴ってリンク170及びその周辺の部位に応力が集中しやすい。特に、一方のストラット130の山部32aの周方向における位置が他方のストラット130の山部34aに対してずれている構成を有するステントにおいて、比較形態のステント110はリンク170及びその周辺の部位に応力が集中しやすい。この応力集中は、拡径後のステント110の形状精度を悪化させる虞がある。
【0066】
一方、実施形態のステント10は、一方のストラット30の延長部44、54が山部32a、34aを二等分する二等分線D1、D2に対する両側から他方のストラット30側に二等分線D1、D2に沿って延びている構成を有している。また、実施形態のステント10は、延長部44、54が架渡し部72にて架け渡されている。これにより、実施形態のステント10は、比較形態のステント110と比して、縮径状態又は拡径状態から拡径状態又は縮径状態への変移に伴ってリンク70及びその周辺の部位に応力が集中しにくい。よって、実施形態のステント10は、一方のストラット30の山部32aの周方向における位置が他方のストラット30の山部34aに対してずれているステントにおいて、比較形態のステント110と比して、ステント10の拡径後の形状精度が向上する。
【0067】
また、実施形態のステント10は、架渡し部72の厚みが延長部44及び延長部54の厚みと同等であって一様である構成を有している。これにより、実施形態のステント10は、架渡し部72の厚みが延長部44又は延長部54の厚みよりも小さい構成と比して、リンク70及びその周辺の部位に応力が集中しにくい。よって、実施形態のステント10は、架渡し部72の厚みが延長部44又は延長部54の厚みよりも小さい構成と比して、ステント10の形状精度が向上する。
【0068】
また、実施形態のステント10は、延長部44が二等分線D1を長軸とする楕円状であり、延長部54が二等分線D2を長軸とする楕円状である構成を有している。これにより、実施形態のステント10は、延長部44、54が径方向から見て矩形状である態様で軸方向に延びている構成と比して、リンク70及びその周辺の部位に応力が集中しにくい。よって、実施形態のステント10は、延長部44、54が径方向から見て矩形状である構成と比して、ステント10の形状精度が向上する。
【0069】
また、実施形態のステント10は、架渡し部72の縁部74の延長部44側の一端が、径方向から見て、延長部44との境界で延長部44の縁と共通接線を成している構成を有している。また、実施形態のステント10は、架渡し部72の縁部74の延長部54側である他端が、径方向から見て、延長部54との境界で延長部54の縁と共通接線を成している構成を有している。これにより、実施形態のステント10は、架渡し部72の縁部74が直線状である構成と比して、リンク70及びその周辺の部位に応力が集中しにくい。よって、実施形態のステント10は、架渡し部72の縁部74が直線状である構成と比して、ステント10の形状精度が向上する。
【0070】
また、実施形態のステント10は、形状記憶合金で形成されている。よって、実施形態のステント10は、形状記憶合金で形成されているステントにおいて、比較形態のステント110と比して、ステント10の形状精度が向上する。
【0071】
また、実施形態のステント10は、表面にコーティング層92を有する。実施形態のステント10は、比較形態のステント110と比して形状精度が向上していることで、コーティング層92を歪ませにくい。よって、実施形態のステント10は、比較形態のステント110と比して、ステント10の歪みによってコーティング層92が剥離しにくい。
【0072】
また、実施形態のステント10は、コーティング層92が、フッ素及びケイ素を含むDLC層94を含む。これにより、実施形態のステント10は、比較形態のステント110と比して、ステント10の歪みによってDLC層94が剥離しにくい。よって、実施形態のステント10は、比較形態のステント110と比して、ステント10の経年劣化が抑制される。
【0073】
また、実施形態のステント10は、コーティング層92が、薬剤溶出性コーティング層96を含む。これにより、実施形態のステント10は、比較形態のステント110と比して、ステント10の歪みによって薬剤溶出性コーティング層96が剥離しにくい。よって、実施形態のステント10は、比較形態のステント110と比して、ステント10の薬剤溶出効果が長時間持続する。
【0074】
また、実施形態のステント10は、ストラット30の厚みTが、ストラット30の最小幅Bの0.6倍以上であってB以下の範囲内である。よって、実施形態のステント10は、略円筒状であるステント10と同じ外径を有して且つストラット30の厚みがストラット30の最小幅Bを超える構成と比して、ステント10の内径が大きい。そのため、実施形態のステント10は、血管の内側に留置されたとき、ステント10と同じ外径を有して且つストラット30の厚みがストラット30の最小幅Bを超える構成と比して、該血管内腔への突出が小さく、該血管の血流に与える影響が小さい。これにより、実施形態のステント10は、ステント10と同じ外径を有して且つストラット30の厚みがストラット30の最小幅Bを超える構成と比して、該血管における血行不良を抑制することができる。
また、実施形態のステント10は、ストラット30の厚みがストラット30の最小幅Bの0.6倍未満である構成と比して大きい厚みを有することで、ステント10が歪みにくい。そのため、実施形態のステント10は、ストラット30の厚みがストラット30の最小幅Bの0.6倍未満である構成と比して、ステント10の形状精度が向上する。
【0075】
以上のとおり、特定の実施形態について詳細に説明したが、本開示は上記の実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想の範囲内にて種々の変形、変更、改良が可能である。
【0076】
例えば、実施形態のステント10は、端部ストラット20の真直部26の縁が、端部ストラット20の波の中心線CTを軸方向で挟む2つの山部の縁の共通接線を成すものとした。しかしながら、本開示に係る端部ストラット20の真直部26は、これに限定されない。例えば、本開示に係る真直部は、
図5及び
図6に示されるように、中心角が180°を超える円弧状の山部232、234の一端からステントの波線に沿って該波線の中心線に対して該山部とは反対側の山部に向けて延びている構成を有するものであってもよい。この構成においても一つの山部232、234に繋がる一対の真直部36は、縮径状態で1つの山部から離れるにつれて互いの間隔が狭まっている(角度αが負である)ことが望ましい。
【0077】
また、実施形態のステント10は、径方向から見て延長部44と延長部54との間に形成されており略四角形状である架け渡し部72を有するものとした。しかしながら、本開示に係る架け渡し部72は、これに限定されない。例えば、本開示に係る架け渡し部は、互いが接触するように第1山部から延びている第1延長部と、第2山部から延びている第2延長部との間に架け渡されている態様を有するものであってもよい。互いが接触するように第1山部から延びている第1延長部と、第2山部から延びている第2延長部との間に架け渡されている態様を有する架け渡し部を有するステントの一例であるステント210を以下に説明する。
ステント210は、
図6に示されるように、一方のストラット230の山部232aから軸方向に沿って楕円状に延びている延長部244を有する。また、ステント210は、他方のストラット230の山部234aから延長部244と接触するように軸方向に沿って楕円状に延びている延長部254を有する。また、ステント210は、延長部244と延長部254の接触部を挟む両側で、延長部244と延長部254とに架け渡されている架け渡し部272を有する。
【0078】
また、実施形態のステント10は、表面にDLC層94及び薬剤溶出性コーティング層96を含むコーティング層92を有するものとした。しかしながら、本開示に係るコーティング層92は、DLC層94又は薬剤溶出性コーティング層96の何れか一方のみを有する構成であってもよい。また、本開示に係るステント10は、コーティング層92を有さない構成であってもよい。
【0079】
また、実施形態の延長部44、54は、楕円状であるとした。しかしながら、本開示に係る延長部44、54は、楕円状以外の形状を有するものであってもよい。例えば、本開示に係る延長部44、54は、放物線状に形成されていてもよく、二等辺三角形状に形成されていてもよい。また、本開示に係る延長部44、54は、等脚台形状に形成されていてもよい。
【0080】
また、実施形態の複数のストラット30は、軸方向で互いに隣接している2つのストラット30が周方向における波の位相がずれるように配置されている構成を有するものとした。しかしながら、本開示に係る複数のストラット30は、
図9に示されるように、夫々の周方向における波の位相が互いに同じとなるように軸方向に並んで配置されていてもよい。この場合、リンク70で繋がれる山部32a及び山部34aは、隣接している2つのストラット30において 波の波長の半分の長さ分 ずれて位置しており一方が他方側に凸である山部同士とされている。
【0081】
また、実施形態のストラット30は、山部32、34を夫々9個ずつ有するものとした。しかしながら、本開示に係るステントのストラットの山部の数量は特に限定されず、ステントが留置される管腔構造を有する生体器官の大きさに応じて設定することが可能である。
【0082】
また、実施形態の隣接する2つのストラット30は、周方向に等間隔で配置された3つのリンク70で繋がっているものとした。しかしながら、本開示に係るリンクの配置及び数量は特に限定されず、ステントが留置される管腔構造を有する生体器官の大きさに応じて設定することが可能である。