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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】医療用挿入器
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/42 20060101AFI20241225BHJP
   A61B 17/04 20060101ALN20241225BHJP
   A61B 17/02 20060101ALN20241225BHJP
【FI】
A61B17/42
A61B17/04
A61B17/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024122465
(22)【出願日】2024-07-29
【審査請求日】2024-07-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391016705
【氏名又は名称】クリエートメディック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504444658
【氏名又は名称】ケン・メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104237
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】松田 茂
(72)【発明者】
【氏名】千賀 裕
(72)【発明者】
【氏名】畑 健雄
【審査官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-523874(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0211423(US,A1)
【文献】特表2006-507097(JP,A)
【文献】特開2022-102154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/42
A61B 17/04
A61B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経膣的に挿入されるパイプ本体の基端開口を塞ぐ着脱可能なキャップを備えた医療用挿入器において、
前記キャップの主壁面部は、少なくとも一部が薄膜のシート状に形成され、該シート状の部位に、外径の異なる複数種類の軸状の器具を別々に貫通させる複数の挿入口部が一体成形され、
前記各挿入口部のうち何れか一の挿入口部に、その周縁より筒状に連なり一の挿入口部に貫通させた前記器具が内嵌する嵌合筒部が一体成形され、
前記嵌合筒部の内周面に、前記器具の外周面に対して全周に亘り密接する環状の凸部が、該嵌合筒部の軸方向に複数並べて一体成形され、
前記嵌合筒部の内周面において、前記凸部は互いに密に並ぶように一体成形され、隣り合う凸部の間は、前記器具の外周面に対して当接しない環状の凹部となり、
前記各挿入口部のうち何れか他の挿入口部は、前記嵌合筒部を有さず前記一の挿入口部よりも大きい内径に一体成形され、その周縁に沿って、他の挿入口部に対応する前記器具を圧入することで弾性拡径し、該器具の外周面に密接する圧着部が一体成形され、
前記圧着部は、前記主壁面部の表裏の基準面に位置する前記挿入口部の周縁より相交わる内側に向かい傾斜したテーパーとして一体成形されたことを特徴とする医療用挿入器。
【請求項2】
前記一の挿入口部と前記他の挿入口部である一対の挿入口部は、それぞれ前記主壁面部の中心を間にして直径方向に並ぶように設けられ、
前記キャップは、前記一対の挿入口部をそれぞれ塞ぐための止め栓を有し、
前記各止め栓は、それぞれ前記主壁面部の外周側から延びる連結部に接続され、
前記各連結部は、それぞれ前記主壁面部と略平行な同一面上に展開した復元位置から屈曲させて、前記止め栓が前記一対の挿入口部を塞ぐ閉鎖位置まで弾性変形可能であり、かつ前記復元位置では、前記一対の挿入口部のそれぞれの中心が前記主壁面部で並ぶ直径方向と平面視で重なる前記同一面上の直線に対して、該同一面上で斜めに交差する方向に延びることを特徴とする請求項1に記載の医療用挿入器。
【請求項3】
前記連結部の先端に、前記止め栓より先に延出した舌片状の持ち手が設けられ、
前記持ち手は、前記連結部の長手方向に対して交差する方向に延びることを特徴とする請求項に記載の医療用挿入器。
【請求項4】
経膣的に挿入されるパイプ本体の基端開口を塞ぐ着脱可能なキャップを備えた医療用挿入器における前記キャップであって、
前記キャップの主壁面部は、少なくとも一部が薄膜のシート状に形成され、該シート状の部位に、外径の異なる複数種類の軸状の器具を別々に貫通させる複数の挿入口部が一体成形され、
前記各挿入口部のうち何れか一の挿入口部に、その周縁より筒状に連なり一の挿入口部に貫通させた前記器具が内嵌する嵌合筒部が一体成形され、
前記嵌合筒部の内周面に、前記器具の外周面に対して全周に亘り密接する環状の凸部が、該嵌合筒部の軸方向に複数並べて一体成形され、
前記嵌合筒部の内周面において、前記凸部は互いに密に並ぶように一体成形され、隣り合う凸部の間は、前記器具の外周面に対して当接しない環状の凹部となり、
前記各挿入口部のうち何れか他の挿入口部は、前記嵌合筒部を有さず前記一の挿入口部よりも大きい内径に一体成形され、その周縁に沿って、他の挿入口部に対応する前記器具を圧入することで弾性拡径し、該器具の外周面に密接する圧着部が一体成形され、
前記圧着部は、前記主壁面部の表裏の基準面に位置する前記挿入口部の周縁より相交わる内側に向かい傾斜したテーパーとして一体成形されたことを特徴とするキャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経膣的に挿入されて子宮摘出に使用可能な医療用挿入器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、腹腔鏡下での子宮摘出手術に使用される器具として、様々なものが提案されている。例えば特許文献1には、経膣的に挿入されて、子宮切除時に子宮の保持に使用され、切除した子宮を取り出す鉗子等の器具の出し入れと、膣壁断端の縫合時にも利用可能な挿入具が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された挿入具では、その本体の基端開口に装着されるキャップに、鉗子等の器具を挿入する穴と、穴の周囲から延びる円筒部が設けられていた。ここで穴の内周面と円筒部の内周面とは、同一円筒面上で連続しており、穴から鉗子等の器具を挿入すると、円筒部の内周面が器具に密着する。そのため、キャップと器具との接触面積が増大し、気腹ガスの漏れ出しを抑制することができた。
【0004】
ところで、この種の挿入具で使用され、切除した子宮を取り出す器具は、通常の鉗子だけに限らず、他に回収袋も知られている。回収袋は、切除した子宮を収納する袋部がシャフト内に折り畳まれた状態で挿入されており、使用時にシャフトの先端より袋体を突出させて展開し、子宮を収納するものである。一般に回収袋のシャフト径は、鉗子のシャフト径よりも相当大きなものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2022-102154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した従来の挿入具では、キャップに一つだけある穴は、鉗子に対応したものであり、穴と円筒部の内径は、鉗子のシャフト径に合わせて設計されていた。このような挿入具では、キャップの穴には鉗子だけしか挿入することができず、シャフト径が大きく異なる他の器具(回収袋)を使用することはできなかった。ここで仮に、穴の大きさを回収袋にも対応可能なように拡張すると、鉗子を挿入した際に穴との間に隙間が生じやすくなり、この隙間から気腹ガスが漏れ出す虞がある。
【0007】
また、キャップの穴の周囲から延びる円筒部によって、鉗子を挿入した際にキャップと器具との接触面積が増大するため、サポート性とシール性は高められたが、鉗子の外周面が円筒部のストレートな内周面に対して面的に密接して張り付きやすくなる。そのため、鉗子の挿入時におけるキャップとの摩擦抵抗が大きくなり、鉗子を円滑に操作することができない虞があった。
【0008】
本発明は、以上のような従来技術が有する問題点に着目してなされたものであり、外径の異なる複数種類の器具(例えば、鉗子や回収袋)を、それぞれ別々にシール性を高めた状態で使用することができ、何れか一の器具(例えば、鉗子)については、使用時におけるシール性をサポート性と共にいっそう高めつつ、摩擦抵抗を減らして容易に操作することができる医療用挿入器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、前記した目的を達成するために、
経膣的に挿入されるパイプ本体の基端開口を塞ぐ着脱可能なキャップを備えた医療用挿入器において、
前記キャップの主壁面部は、少なくとも一部が薄膜のシート状に形成され、該シート状の部位に、外径の異なる複数種類の軸状の器具を別々に貫通させる複数の挿入口部が一体成形され、
前記各挿入口部のうち何れか一の挿入口部に、その周縁より筒状に連なり一の挿入口部に貫通させた前記器具が内嵌する嵌合筒部が一体成形され、
前記嵌合筒部の内周面に、前記器具の外周面に対して全周に亘り密接する環状の凸部が、該嵌合筒部の軸方向に複数並べて一体成形され、
前記嵌合筒部の内周面において、前記凸部は互いに密に並ぶように一体成形され、隣り合う凸部の間は、前記器具の外周面に対して当接しない環状の凹部となり、
前記各挿入口部のうち何れか他の挿入口部は、前記嵌合筒部を有さず前記一の挿入口部よりも大きい内径に一体成形され、その周縁に沿って、他の挿入口部に対応する前記器具を圧入することで弾性拡径し、該器具の外周面に密接する圧着部が一体成形され、
前記圧着部は、前記主壁面部の表裏の基準面に位置する前記挿入口部の周縁より相交わる内側に向かい傾斜したテーパーとして一体成形されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る医療用挿入器によれば、外径の異なる複数種類の器具を、それぞれ別々にシール性を高めた状態で使用することができ、かつ何れか一の器具については、使用時におけるシール性をサポート性と共にいっそう高めつつ、摩擦抵抗を減らして容易に操作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る医療用挿入器を示す側面図である。
図2】第1実施形態に係る医療用挿入器を示す斜視図である。
図3】第1実施形態に係るキャップを示す上から見た斜視図である。
図4】第1実施形態に係るキャップを示す下から見た斜視図である。
図5】第1実施形態に係るキャップを示す平面図である。
図6】第1実施形態に係るキャップを示す底面図である。
図7】第1実施形態に係るキャップを示す正面図である。
図8】第1実施形態に係るキャップを示す背面図である。
図9】第1実施形態に係るキャップを示す右側面図である。
図10】第1実施形態に係るキャップを示す左側面図である。
図11】第1実施形態に係るキャップを示す縦断面図である。
図12】第1実施形態に係るキャップで各挿入口部を止め栓で塞いだ状態を示す平面図である。
図13】第1実施形態に係るキャップの各挿入口部を拡大して示す縦断面図である。
図14】第1実施形態に係るキャップで各挿入口部を止め栓で塞ぐ動作を示す説明図である。
図15】第1実施形態に係るキャップで一の挿入口部の嵌合筒部の作用を示す説明図である。
図16】第1実施形態に係る医療用挿入器で使用する2種類の器具を示す説明図である。
図17】腹腔鏡下での子宮摘出手術のイメージを示す説明図である。
図18】第1実施形態に係る医療用挿入器の子宮摘出手術時における使用状態を示す説明図である。
図19図18の続く医療用挿入器の使用状態を示す説明図である。
図20】器具として鉗子を用いた場合の図19の続く医療用挿入器の使用状態を示す説明図である。
図21図20の続く医療用挿入器の使用状態を示す説明図である。
図22図21の続く医療用挿入器の使用状態を示す説明図である。
図23】器具として回収袋を用いた場合の図19の続く医療用挿入器の使用状態を示す説明図である。
図24図23の続く医療用挿入器の使用状態を示す説明図である。
図25図24の続く医療用挿入器の使用状態を示す説明図である。
図26図25の続く医療用挿入器の使用状態を示す説明図である。
図27図26の続く医療用挿入器の使用状態を示す説明図である。
図28】第2実施形態に係るキャップを示す上から見た斜視図である。
図29】第2実施形態に係るキャップを示す下から見た斜視図である。
図30】第2実施形態に係るキャップを示す平面図である。
図31】第2実施形態に係るキャップを示す底面図である。
図32】第2実施形態に係るキャップを示す正面図である。
図33】第2実施形態に係るキャップを示す背面図である。
図34】第2実施形態に係るキャップを示す右側面図である。
図35】第2実施形態に係るキャップを示す左側面図である。
図36】第2実施形態に係るキャップで各挿入口部を止め栓で塞いだ状態を示す平面図である。
図37】第2実施形態に係るキャップで各挿入口部を止め栓で塞いだ状態の寸法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づき、本発明を代表する各種実施形態を説明する。
図1から図27は、本発明の第1実施形態を示し、図28から図37は、本発明の第2実施形態を示している。各種実施形態に係る医療用挿入器10は、経膣的に挿入されて子宮摘出に使用可能なものであり、器具の出し入れ、および子宮を取り出す経路の確保にも使用される。なお、以下に説明する実施形態で示す構成要素、形状、数値等は、何れも本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。
【0013】
<第1実施形態の医療用挿入器10の概要>
図1に示すように、医療用挿入器10は、経膣的に挿入されるパイプ本体11と、パイプ本体11の基端開口11bを塞ぐ着脱可能なキャップ30とを備えている。ここでキャップ30が、本発明の根幹を成すものである。なお、以下の説明では、パイプ本体11が延びる軸方向において、術者より遠位となる側を「先端」(図1中で左端)とし、術者に近位となる側を「基端」(図1中で右端)と定義する。
【0014】
<パイプ本体11>
図1に示すように、パイプ本体11は、全体的には円形断面の筒状に形成されており、その先端および基端は、それぞれ開口している。詳しく言えばパイプ本体11は、先端に設けられた先端リング12と、先端リング12よりも基端側を占める主パイプ部13とから成る。主パイプ部13の基端側には、術者が把持するハンドル20が設けられている。なお、パイプ本体11のうち、ハンドル20よりも先端側の領域が、膣内に挿入され得る有効領域Lと成る。
【0015】
パイプ本体11の先端、すなわち先端リング12の先端は、パイプ本体11の軸心と直交する面に対して傾斜した面上で楕円形に開口している。この先端開口11aは、そのまま膣内に連通される部位と成る。一方、パイプ本体11の基端、すなわち主パイプ部13の基端は、パイプ本体11の軸心と直交する面上で円形に開口している。この基端開口11bは、膣外から複数種類の器具を挿入する部位となり、着脱可能なキャップ30によって塞がれる。
【0016】
先端リング12は、例えば、熱硬化性アクリル樹脂で形成される。具体的には、液体状の熱硬化性アクリル樹脂を金型に注入して密閉し、この状態で加温しながら硬化させることにより、先端リング12が形成される。この他、熱硬化性アクリル樹脂から成る筒状の押出成形品を切削加工することにより、先端リング12を形成しても良い。先端リング12の基端は、主パイプ部13の先端と同径であり、これらが隙間なく連続している。
【0017】
主パイプ部13は、その内側が複数種類の器具を挿入するための空間となっており、全体的には先端の外径よりも基端の外径の方が途中で漸次拡径するように形成されている。詳しく言えば主パイプ部13は、先端リング12に連なる先端側を成す円筒状の小径部13aと、基端側を成して小径部13aよりも大径な円筒状の大径部13bと、これらの間に連続するテーパー部13cとから成る。
【0018】
主パイプ部13の外周面上には、半径方向に突出して、後述する気腹ガスが外周面を伝って漏れることを防止する突条14a、14bが設けられる。本実施形態では、小径部13aの外周面上に、互いに軸方向に離隔した複数の突条14a、14bが設けられる。このうち最も先端側の突条14aは、全周に連続しておらず、周方向の一部のみに設けられる。その他の突条14bは、パイプ本体11の外周の全周に亘り連続した環状に設けられている。
【0019】
各突条14a、14bは、軸方向に直交する面に対して傾斜した楕円形を成している。突条14a、14bの半径方向の高さは、基端側に行くほど徐々に大きくなるように形成すると良い。なお、突条14a、14bの構成は前述したものに限らず、他に例えば、最も先端側の突条14aを省略して環状の突条14bのみを形成したり、突条を主パイプ部13の周方向に沿った円形としたり、複数の突条の半径方向の高さを揃えるように設けてもかまわない。
【0020】
図1に示すように、ハンドル20は、主パイプ部13の基端側に一体に連なるように設けられている。ハンドル20は、術者が掴みやすく主パイプ部13を操作しやすい大きさと形状に形成されている。本実施形態のハンドル20は、主パイプ部13の基端側より斜め後方に延出した後、主パイプ部13の軸方向と平行に後方へ細幅状に延びるように形成されている。ハンドル20は、例えば、主パイプ部13と共に同一の樹脂材料により一体成形される。なお、ハンドル20の表面には、滑り止めとなるリブや溝による凹凸を適宜設けると良い。
【0021】
主パイプ部13は、例えば、先端リング12をインサートした樹脂の射出成形で形成され、本実施形態では、主パイプ部13とハンドル20とが、同一の樹脂材料で一体に射出成形される。医療用挿入器10の使用時に、主パイプ部13の内側に挿入される器具等を視認できるように、透明であることが好ましい。このような要求特性とコストを考慮すると、主パイプ部13等の樹脂材料として、例えば、ポリカーボネートやABSが適している。なお、主パイプ部13等を射出成形する金型としては、例えば、本出願人が既に提案している特開2022-102154号公報に記載された発明等を利用すると良い。
【0022】
<キャップ30>
図2から図11に示すように、本発明の根幹を成すキャップ30は、パイプ本体11の基端開口11bを塞ぐように着脱可能であり、底浅で有底な円筒状に形成され、例えば、シリコンゴム等の可撓性材質により一体成形される。詳しく言えばキャップ30は、円形の天面を成す主壁面部31が、ある程度伸縮可能な薄膜のシート状に形成され、主壁面部31の外周端を囲って縁取る円筒状の外周壁部32を備えている。
【0023】
図3に示すように、主壁面部31の内面側には、外周壁部32より一回り小径の円筒状で、外周壁部32の先端よりさらに延びる内側壁部33が設けられている。キャップ30は、内側壁部33がパイプ本体11の基端開口11bに内嵌し、かつ外周壁部32がパイプ本体11の基端に外嵌する二重シール構造により、パイプ本体11の基端開口11bを密閉する状態に装着される。なお、図11に示すように、外周壁部32の先端内周側には、パイプ本体11の基端外周に係合するアゴ32aが設けられている。また、内側壁部33の先端外周側には、基端開口11bの内側に嵌入しやすくするテーパー33aが設けられている。
【0024】
主壁面部31は、本実施形態では、全域に亘って薄膜のシート状に形成されているが、このシート状の部位に、複数種類の器具を別々に貫通させるための挿入口部41,42が設けられている。各挿入口部41,42は、キャップ30をパイプ本体11の基端開口11bに装着した状態で、器具をパイプ本体11の内部に出し入れするための部位である。本実施形態のキャップ30では、2種類の器具を想定して2つの挿入口部41,42が設けられている。ここで器具とは、外径の異なる複数種類の軸状の医療用器具(トロッカー)であり、本実施形態では、2種類の器具として鉗子および回収袋を例に説明する。
【0025】
図16に示すように、鉗子Aは、子宮摘出後に腹腔内で膣壁断端の閉鎖縫合に用いる他(図17参照)、切除した子宮等の取り出しに用いられる。鉗子Aは、その先端の把持部A2がシャフトA1の先端に繋がっており、操作時にシャフトA1の先端より延出した把持部A2を操作可能である。回収袋Bも、切除した子宮等の取り出しに用いられる。回収袋Bは、袋体B2がシャフトB1に折り畳まれた状態で挿入されており、操作時にシャフトB1の先端より袋体B2を突出させて展開可能である。なお、医療用挿入器10で使用する器具は、鉗子Aや回収袋Bに限定されることはない。
【0026】
各挿入口部41,42は、それぞれに対応する器具を圧入することで弾性変形し、器具を密閉状態で挿通可能であり、一の挿入口部41は鉗子Aに対応し、他の挿入口部42は、回収袋Bに対応している。鉗子Aのシャフト径(外径と同義)は、一般に例えば、φ4.5~5.8mmと細く、回収袋Bのシャフト径(外径と同義)は、一般に例えば、φ10.0~15.0mmと太い。このように回収袋BのシャフトB1の外径は、鉗子AのシャフトA1の外径よりも比較的大きく、よって、他の挿入口部42は、一の挿入口部41よりも大きい内径に形成されている。
【0027】
図6に示すように、各挿入口部41,42は、それぞれ主壁面部31における内側壁部33の内側で、主壁面部31の中心から偏心した位置に配され、主壁面部31の中心を間にして直径方向に並ぶように設けられている。なお、図5に示すように、主壁面部31の表側(外面側)の基準面上には、各挿入口部41,42の外側を囲うように円弧状に延びる凸刻印43が設けられている。凸刻印43は、主壁面部31の表側の基準面が他の平面に張り付くのを防止するものとなる。
【0028】
図13に示すように、一の挿入口部41には、その周縁41aより筒状に連なり、貫通させた鉗子Aが内嵌する嵌合筒部410が設けられている。ここで一の挿入口部41の内周面と、嵌合筒部410の内周面とは、互いに同一の円筒面上で連続している。また、嵌合筒部410の内周面には、鉗子Aの外周面に対して全周に亘り密接する環状の凸部411が、嵌合筒部410が延びる軸方向に複数並べて設けられている。ここで各凸部411は、互いに密に並ぶように設けられており、隣り合う凸部411の間は、鉗子Aの外周面に当接しない環状の凹部412となる。なお、挿入口部41の内周も、嵌合筒部410の内周の一部と看做して説明する。
【0029】
図13に示すように、各凸部411は、例えば、滑らかな円弧形断面に形成されており、それぞれ頂端が鉗子A(シャフトA1)の外周面に対して局所的に線的に接触する。各凸部411の頂端に囲まれた嵌合筒部410の最小内径は、鉗子Aの外径よりも若干小さく設定すると良い。各凸部411により、嵌合筒部410の内周面が、鉗子Aの外周面に面接触する場合に比べて摩擦抵抗を減らすことができる。また、個々の凸部411は、鉗子A(シャフトA1)の外周面に全周方向に亘り密接することにより、鉗子Aの挿入時におけるシール性も高められている。
【0030】
また、各凸部411の間の凹部412は、図15(b)に示すように、鉗子Aの動きに追従して嵌合筒部410が変形しやすくするための遊びとなる。さらに、図13図15(a)に示すように、嵌合筒部410の先端の内側は、軸心方向に向かって全周に亘り延出する縮径部413も設けられている。縮径部413は、各凸部411よりも内側に出っ張り、鉗子Aの外周に密接するものであり、各凸部411と相俟ってシール性を高める構成である。
【0031】
鉗子Aのシャフト径が、前述したようにφ4.5~5.8mmである場合、各凸部411の頂端に囲まれた嵌合筒部410の最小内径は、具体的には例えばφ5.2mm位に設定すると良い。また、各凹部412の谷底に囲まれた嵌合筒部410の最大内径は、具体的には例えばφ5.8mm位に設定すると良い。さらに、縮径部413に囲まれた内径は、具体的には例えばφ3.8mm位に設定すると良い。なお、嵌合筒部410の長さは、挿入口部41の深さ(主壁面部31の厚さ)2.0mmを含めた値として、具体的には例えばφ8.0mm位に設定して、各凸部411は合計3つ設けると良い。
【0032】
一方、図13図14に示すように、他の挿入口部42には、その周縁42aに沿って、回収袋Bを圧入することで弾性拡径し、回収袋Bの外周面に密接する圧着部420が設けられている。圧着部420は、主壁面部31の表裏の基準面に位置する挿入口部42の周縁42aより相交わる内側に向かい傾斜したテーパー421として形成されている。ここで表裏のテーパー421同士が交わる先端422は、鋭角な三角形断面ではなく、強度の高い台形断面となるように形成されている。
【0033】
他の挿入口部42に挿入する回収袋Bのシャフト径は、前述したようにφ10.0~15.0mmと広い幅があるため、一の挿入口部41と同様な嵌合筒部410は設けずに、テーパー421で薄肉状に形成している。このような挿入口部42の構成によれば、回収袋Bの多様な外径に対応できるように拡張性を高めることができる。
【0034】
回収袋Bのシャフト径が、前述したようにφ10.0~15.0mmである場合、挿入口部42の周縁42aに囲まれた最大内径は、例えばφ12.5mmに設定すると良い。また、挿入口部42のテーパー421の先端422に囲まれた最小内径は、例えばφ7.5mmに設定すると良い。ここで挿入口部42の最大内径φ12.5mmが、例えば回収袋Bのシャフト径の外径と一致する場合、挿入口部42の最小内径φ7.5mmとの比率は、挿入口部42の最大内径(回収袋Bのシャフト径):挿入口部42の最小内径が、0.6:1であり、整数比では3:5であり、パーセント比では37.5%:62.5%となる。
【0035】
また、図3図4に示すように、キャップ30は、各挿入口部41,42をそれぞれ塞ぐための止め栓51,52を有している。各止め栓51,52は、主壁面部31の外周側となる外周壁部32の両端に、それぞれ連結部510,520を介して一体に接続されている。各止め栓51,52は、連結部510,520の先端側の一面より突出する突起状に形成されている。図14に示すように、各止め栓51,52は、円柱状の軸部51a,52aの先に略円錐形の頭部51b,52bを有して成り、頭部51b,52bの外周縁は軸部51a,52aの外径より傘状に拡がり、各挿入口部41,42に押し入れたときの抜け止めとなる。
【0036】
一の挿入口部41を塞ぐ止め栓51の軸部51aは、嵌合筒部410を貫通する長さに設定され、頭部51bのみならず軸部51aの外径は、嵌合筒部410の縮径部413に囲まれた内径よりも若干大きく設定されている。かかる止め栓51を、挿入口部41ないし嵌合筒部410に挿入することで、挿入口部41が閉塞され、挿入口部41ないし嵌合筒部410から取り外すことで、挿入口部41から鉗子A等の器具を挿入する操作が可能となる。
【0037】
他の挿入口部42を塞ぐ止め栓52の軸部52aは、挿入口部42に貫通する程度の短さで足り、頭部52bのみならず軸部52aの外径は、挿入口部42のテーパー421の先端422に囲まれた最小内径よりも若干大きく設定されている。かかる止め栓52を、挿入口部42に挿入することで、挿入口部42が閉塞され、挿入口部42から取り外すことで、挿入口部42から回収袋B等のシャフト外径が比較的大きな器具を挿入する操作が可能となる。
【0038】
図3から図6に示すように、本実施形態では、キャップ30と、各止め栓51,52と、これらを連結する連結部510,520とが、可撓性材料で一体に形成されている。ここで各連結部510,520は、それぞれ細幅で扁平なバンド状に形成されている。一対となる連結部510,520は、キャップ30の外周壁部32の両端より、それぞれ2つの挿入口部41,42が並ぶ直径方向に沿って、互いに主壁面部31と略平行な同一平面上で外側に延び出るように設けられている。
【0039】
このように各連結部510,520は、外周壁部32の両端より、互いに180度相反する方向に延び出るように展開した状態が自然な復元位置となる。図12に示すように、各連結部510,520は、復元位置から自在に屈曲させて、各連結部510,520の先にある止め栓51,52が、それぞれ対応する各挿入口部41,42を塞ぐ閉鎖位置まで弾性変形可能である。図3に示すように、各連結部510,520において最も屈曲する基端側には、より屈曲しやすくするために屈曲側に凹むスリット状の薄肉ヒンジ511,521が設けられている。本実施形態の薄肉ヒンジ511,521は、連結部510,520ごとに2つずつ設けられているが、1つあるいは3つ以上でも良い。
【0040】
また、各連結部510,520の最先端には、止め栓51,52が設けられた箇所より連結部510,520全体の中心線から屈曲した舌片状の持ち手512,522が設けられている。各持ち手512,522は、それぞれ連結部510,520全体の中心線、すなわち2つの挿入口部41,42が並ぶ直径方向に延びることはなく、この直径方向に対して例えば直角に屈曲するように設けられている。これにより図12に示すように、止め栓51,52が閉鎖位置にあるとき、持ち手512,522同士が干渉することを防いでいる。
【0041】
図3図4に示すように、持ち手512,522の上下面には、それぞれ凸刻印513、523が設けられている。図3図5に示す持ち手512,522の上面に1本ずつある凸刻印513、523は、止め栓51,52を掴みやすいように浮かせるものであり、図4図6に示す持ち手512,522の下面に3本ずつある凸刻印513、523は、摘まんだときに滑り止めとなる。
ここで持ち手512,522の表裏にて、凸刻印513、523の数や形を異ならせることにより、止め栓51,52の向きが触感で分かるようにすると良い。なお、止め栓51,52は、連結部510,520や持ち手512,522を含めた全体を止め栓と称する場合もある。
【0042】
また、キャップ30の外周壁部32には、各挿入口部41,42が並ぶ直径方向と直交する一端側に、キャップ30の着脱時に掴みやすい突出片44が設けられている。突出片44は、薄板状で略三角形の舌片状に一体成形され、図9図10に示すように、主壁面部31の基準面と平行な平面上で、主壁面部31と同一平面上で外周壁部32の外側に突出するように設けられている。ここで突出片44は、例えば、キャップ30のサイズ等を記すための部位とすれば良い。
【0043】
<第1実施形態に係る医療用挿入器10の作用>
次に、第1実施形態に係る医療用挿入器10の作用について説明する。
図17は、腹腔鏡下での子宮摘出手術のイメージを示す説明図であり、図中の上側が腹部側、図中の下側が背部側である。医療用挿入器10を通じて、鉗子Aを使用するとき、あるいは回収袋Bを使用するときは、何れの場合も通常は患者の全身麻酔下での使用となる。なお、下記の説明はあくまで一例であり、術者(執刀医)や患者の状況によって異なる場合がある。
【0044】
[1]先ず、図18において、同図(a)に示すように、医療用挿入器10のパイプ本体11を膣の開口から挿入し、膣奥へ向かってゆっくり押し進め、子宮口がパイプ本体11の先端リング12の内部に入ったことを目視と触感で確認する。その後、同図(b)に示すように、パイプ本体11の先端リング12を子宮口付近の円蓋部まで押し進める。ここでパイプ本体11の基端開口11bから挿入状態を確認するときは、キャップ30を基端開口11bから外す場合がある。
【0045】
[2]続いて、腹腔内に気腹ガスを充填して腹腔を膨らませた状態で(図17参照)、腹腔鏡カメラで円蓋部を確認しながらパイプ本体11をさらに押し込み、図19に示すように、円蓋部の位置を視認しつつ電気メスで切除する。先端リング12を押し当てられた円蓋部は、腹腔内で変形して盛り上がって見える。かかる円蓋部に沿って繰り返し電気メスを当てて切除する。なお、先端リング12は、本実施形態では熱硬化性アクリル樹脂から成形されているため、電気メスとの接触によって容易に溶融する虞はない。
【0046】
子宮の円蓋部を切除することで、腹腔内の気腹ガスが膣およびパイプ本体11の内部に侵入する。このとき、パイプ本体11の基端開口11bはキャップ30により閉じられているため、パイプ本体11を通じて気腹ガスは漏れ難く、腹腔内の視界を良好な状態に保つことができる。また、パイプ本体11の外周面に設けた突条14a、14bおよびテーパー部13cが膣の内壁に密着することにより、パイプ本体11の外周面を伝って気腹ガスが外部へ漏れ出すことも規制される。
【0047】
<<鉗子Aの使用方法>>
[3]その後、切除した子宮を摘出するが、鉗子A(図16参照)を使用する場合は、パイプ本体11を膣内にそのまま挿入した状態で、キャップ30の挿入口部41から止め栓51を外す。そして、図20に示すように、鉗子Aを挿入口部41からパイプ本体11の内部に挿入し、切除した子宮を摘まむ。ここで腹腔側から鉗子を使って切除した子宮を摘出する場合(図17参照)や、腹腔内に回収袋Bを入れる場合は、パイプ本体11を通じての鉗子Aによる操作は行わない。
【0048】
図15に示すように、鉗子Aを挿入口部41に貫通させると、鉗子AのシャフトA1は、挿入口部41に連なる嵌合筒部410に内嵌する。これにより、挿入口部41に嵌合筒部410がない場合と比べて、キャップ30と鉗子Aとの接触面積が増大する。仮に、嵌合筒部410の内周面が凹凸のない滑面の場合、鉗子Aの外周面に貼り付いて抵抗が大きくなるが、嵌合筒部410の内周面には、環状の凸部411と凹部412が交互に並ぶ凹凸が設けられている。従って、鉗子Aの外周面は、嵌合筒部410の内周面に面的に密接して張り付くこともなく、嵌合筒部410と鉗子Aとの接触面積が増大しても、鉗子Aの挿入時における摩擦抵抗を減らしつつ、シール性を高めることが可能となる。
【0049】
また、図15(b)に示すように、鉗子Aを挿入口部41に貫通させた状態で上下左右に動かすと、挿入口部41自体は変形して隙間が生じる。ただし、挿入口部41に連なる嵌合筒部410は、筒状であって所定の長さがあるため、嵌合筒部410はその全長に亘って、鉗子Aの動きに倣うように弾性変形する。しかも、嵌合筒部410の先端には、鉗子Aの外周により密着する縮径部413があり、その周囲からの支持もない自由端であるため、いっそう鉗子Aの動きに倣って密着状態を保ちつつ容易に変形し、気腹ガスの漏れを確実に抑制することができる。
【0050】
[4]そして、図21に示すように、鉗子Aで摘まんだ子宮をパイプ本体11の内部へ引き入れる。次いで、キャップ30の挿入口部41から鉗子Aを一旦引き抜いて、図22に示すように、キャップ30をパイプ本体11から取り外し、パイプ本体11の内部から切除した子宮を鉗子Aで引き出す。ここで切除した子宮が、パイプ本体11の内部に入りきらない場合は、パイプ本体11ごと抜去して直接子宮を引き出す。その後、改めてパイプ本体11を膣内に挿入し、膣壁断端を閉鎖縫合する。
【0051】
[5]膣壁断端を閉鎖縫合する場合、縫合針を鉗子Aの把持部A2でつまみ、そのままパイプ本体11の内部に挿入する。さらに、鉗子Aを、パイプ本体11の内部を経由して腹腔内まで入れて、腹腔側からの鉗子へ縫合針を渡す。このときは未だ、パイプ本体11の基端開口11bからキャップ30は外された状態である。その後、パイプ本体11の内部から鉗子Aを引き抜く。なお、腹腔側からの鉗子を使って縫合針を入れる場合には、パイプ本体11を通じた鉗子Aによる縫合針の受け渡しは行わない。
【0052】
[6]続いて、パイプ本体11から鉗子Aを引き抜いた後、キャップ30の挿入口部41を止め栓51で塞いでから、かかる状態のキャップ30を、パイプ本体11の基端開口11bに装着して閉塞させる。このとき、使用していない他の挿入口部42は、最初から止め栓52で塞がれている。キャップ30の挿入口部41、42を止め栓51,52で塞ぐと、連結部510,520が屈曲するが、連結部510,520は、スリット状の薄肉ヒンジ511,521によって小さな曲率で変形しやすく、全体的に嵩張らないコンパクトな形状となる。
【0053】
[7]そして、キャップ30を装着したパイプ本体11を膣内に再び挿入する。これにより、腹腔内は気腹ガスが充満して、再び良好な視界を確保することができる。かかる状況下で、子宮を切除した跡の膣壁断端を、腹腔鏡下手術により腹部側から閉鎖縫合する。このとき、縫合を補助するために、パイプ本体11を操作する。具体的には、膣に挿入したパイプ本体11を少し後退させ、先端リング12により膣壁断端を内側から支持すると良い。膣壁断端を縫合した後、パイプ本体11は膣内かゆっくりと引き抜くことで、手術は終了する。
【0054】
<<回収袋Bの使用方法>>
[8]次に、前述した鉗子Aの代わりに、回収袋B(図16参照)を使用して、子宮を摘出する場合について説明する。前記[1]および前記[2]の処置は、鉗子Aを使用した場合と共通するが、回収袋Bを使用する場合は、パイプ本体11を膣内にそのまま挿入した状態で、キャップ30の挿入口部42から止め栓52を外す。そして、図23に示すように、回収袋Bを挿入口部42からパイプ本体11の内部に挿入する。次いで、図24に示すように、回収袋BのシャフトB1の先端から袋体B2を腹腔内で押し出す。
【0055】
回収袋Bに対応した挿入口部42は、例えば、シャフト径φ10.0~15.0mmまで挿入可能である。すなわち、挿入口部42は、穴径が広がる必要があるため、前記挿入口部41における嵌合筒部410は設けず、代わりに図13に示したように、弾性拡径しやすい圧着部420を設けている。このような挿入口部42の圧着部420によれば、回収袋Bの多様な外径に対応できるように拡張性が高まり、かつ回収袋Bの外周面に密接することでシール性も高めることができる。また、挿入口部42から外した状態の止め栓52の連結部520は、術者の手が当たらないように、自然と主壁面部31と略平行な同一面上で側方に延びた復元位置となる。
【0056】
[9]続いて、図25に示すように、押し出した袋体B2に全摘した子宮を入れた後、図26に示すように、袋体B2に付属の紐を引いて袋体B2の開封縁を閉じる。そして、紐を回収袋BのシャフトB1の基端側にある操作部等で切断して、図27に示すように、回収袋BのシャフトB1のみをキャップ30の挿入口部42から引き抜く。このとき、挿入口部42は、シャフトB1を挿入するときと同様に、圧着部420によって容易に弾性変形する。
【0057】
従って、挿入口部42からシャフトB1を引き抜く際は、圧着部420の弾性変形に加えて、キャップ30の外周壁部32と内側壁部33との二重シール構造により、キャップ30がパイプ本体11から外れることはなく、気腹ガスの流出も抑えられる。次いで、パイプ本体11と袋体B2を体外へ引き出し、袋体B2を取り除いてから、再びパイプ本体11を膣内に挿入する。その後の処理は、鉗子Aを使用する場合の前記[5]から前記[7]の処理と共通する。
【0058】
<医療用挿入器10のサイズ>
以上に説明した医療用挿入器10において、実際のサイズで重要なものは、パイプ本体11の先端外径と、有効長(有効領域Lの全長)であり、本実施形態では例えば、先端外径φ31mmおよび有効長172mm、先端外径φ35mmおよび有効長174mm、それに先端外径φ39mmおよび有効長176mmの3つのクラスが用意されている。これらの具体的なサイズは、膣を通して腹腔にアクセスするために必要とされる実質的な長さに起因するものであり、3つのクラスのパイプ本体11に応じて、キャップ30も3種類の大きさが用意されている。
【0059】
3つのクラスのパイプ本体11のうち前者2つに対応するキャップ30は、それぞれ相似形のものが用意されるが、最も大きなクラスのパイプ本体11に対応するキャップ30も相似形とすると、主壁面部31の両側に延び出る一対の連結部510,520の両端間のサイズがかなり長大となる。また、主壁面部31にある2つの挿入口部41,42を止め栓51,52で塞いで連結部510,520を屈曲させた状態でも、これらの屈曲部位がキャップ30の外径より外側に大きく嵩張ることになる。そこで、キャップ30の大きさがなるべくコンパクトに収まるように、次述する第2実施形態のキャップ30Aも用意している。
【0060】
<第2実施形態のキャップ30Aの概要>
図28から図37は、本発明の第2実施形態を示している。
第2実施形態に係る医療用挿入器10は、前述した第1実施形態に係る医療用挿入器10とパイプ本体11の構成はサイズ以外は同一であり図示省略したが、キャップ30Aの構成が若干異なっている。以下、キャップ30Aについて、第1実施形態と異なる点を説明し、同種の部位については同一符号を付して重複した説明を省略する。
【0061】
<キャップ30A>
図28から図36に示すように、第2実施形態のキャップ30Aは、第1実施形態のキャップ30とは、各止め栓51,52の連結部510A,520Aの形状が異なっている。すなわち、第1実施形態のキャップ30では、一対の510,520が、各挿入口部41,42が並ぶ直径方向と同一直線上で両側に延びているが、第2実施形態のキャップ30Aでは、一対の510A,520Aが、各挿入口部41,42が並ぶ直径方向と交差する方向に延びている。
【0062】
詳しく言えば図31に示すように、一対の連結部510A,520Aは、各挿入口部41,42が並ぶ直径方向の直線を基準とすれば、挿入口部41の中心より約40度傾斜した角度θで左右対称となるように延びている。このような一対の連結部510A,520Aの形状によれば、各挿入口部41,42を止め栓51,52で塞いで各連結部510A,520Aを屈曲させたとき、図37に示すように、各連結部510A,520Aが180度で左右に展開する場合(図中で二点鎖線)よりも、各連結部510A,520Aが約40度で傾斜した場合(図中で実線)の方が、当該部分の外径を小さくすることができる(図中でW1>W2)。
【0063】
また、各連結部510A,520Aの最先端にも、第1実施形態の場合と同様に、連結部510A,520A全体の中心線から屈曲した舌片状の持ち手512A,522Aが設けられている。各持ち手512A,522Aは、それぞれ連結部510A,520A全体の中心線から直角よりも大きな角度で屈曲している。これにより図37に示すように、止め栓51,52が閉鎖位置にあるとき、持ち手512A,522A同士が干渉することなく互いに平行にコンパクトに並ぶことになる。
【0064】
<本発明の構成と作用効果>
以上、本発明の各種実施形態について説明したが、本発明は前述した各種実施形態に限定されるものではない。前述した各種実施形態から導かれる本発明について、以下に説明する。
【0065】
先ず、本発明は、経膣的に挿入されるパイプ本体11の基端開口11bを塞ぐ着脱可能なキャップ30、30Aを備えた医療用挿入器10において、
前記キャップ30,30Aの主壁面部31は、少なくとも一部が薄膜のシート状に形成され、該シート状の部位に、外径の異なる複数種類の軸状の器具A,Bを別々に貫通させる複数の挿入口部41,42が設けられ、
前記各挿入口部41,42のうち何れか一の挿入口部41に、その周縁より筒状に連なり一の挿入口部41に貫通させた前記器具Aが内嵌する嵌合筒部410が設けられ、
前記嵌合筒部410の内周面に、前記器具Aの外周面に対して全周に亘り密接する環状の凸部411が、該嵌合筒部410の軸方向に複数並べて設けられたことを特徴とする。
【0066】
このような医療用挿入器10によれば、キャップ30,30Aの主壁面部31の少なくとも一部は薄膜のシート状に形成されており、キャップ30,30Aが可撓性材質であれば、シート状の部位は特に弾性変形しやすい。よって、このシート状の部位に設けた挿入口部41,42は、それぞれの内径に対応した器具A,Bを貫通させると、弾性拡径することが可能となり、器具A,Bごとにシール性を高めることができる。
【0067】
各挿入口部41,42のうち何れか一の挿入口部41には、その周縁より筒状に連なって延びる嵌合筒部410を設けたことにより、挿入口部41に貫通させた器具Aは嵌合筒部410に内嵌する。これにより、器具Aの軸方向における嵌合筒部410の長さ分だけサポート性が高まると共に、キャップ30,30Aと器具Aとの接触面積が増大し、これらの間に隙間が生じ難くなりシール性を高めることができる。
【0068】
ここで仮に、嵌合筒部410の内周面が凹凸のないストレートな滑面である場合、器具Aの外周面が面的に密接して張り付きやすい。そこで、嵌合筒部410の内周面には、環状の凸部411を軸方向に複数並べて設けている。各凸部411によれば、嵌合筒部410の内周面が、器具Aの外周面に面接触する場合に比べて摩擦抵抗を減らすことができ、器具Aの円滑な操作が可能となる。個々の凸部411は、器具Aの外周面を全周方向に亘り取り囲むため、摩擦抵抗を減らしつつシール性を高めることが可能となる。
【0069】
また、本発明は、前記嵌合筒部410の内周面において、前記凸部411は互いに密に並ぶように設けられ、隣り合う凸部411の間は、前記器具Aの外周面に対して当接しない環状の凹部412となることを特徴とする。
【0070】
このような構成によれば、嵌合筒部410の内周面は、環状の凸部411と凹部412が交互に並ぶ凹凸形状となり、各凸部411の間の凹部412は、器具Aの動きに追従して嵌合筒部410が変形しやすくするための遊びとなる。従って、嵌合筒部410の内周面は、いっそう器具Aの動きに倣って密着状態を保ちつつ容易に変形しやすくなり、操作性とシール性を高めることができる。
【0071】
また、本発明では、前記各挿入口部41,42のうち何れか他の挿入口部42は、前記一の挿入口部41よりも大きい内径に形成され、その周縁に沿って、他の挿入口部42に対応する前記器具Bを圧入することで弾性拡径し、該器具Bの外周面に密接する圧着部420が設けられたことを特徴とする。
【0072】
このような構成によれば、他の挿入口部42に設けた圧着部420は拡張性が高いため、器具Bの外径にある程度の幅(種類)があったとしても、それぞれの器具Bを高いシール性を保ちつつ貫通させことが可能となる。
【0073】
また、本発明では、前記圧着部420は、前記主壁面部31の表裏の基準面に位置する前記挿入口部42の周縁42aより相交わる内側に向かい傾斜したテーパー421として形成されたことを特徴とする。
【0074】
このような圧着部420によれば、挿入口部42の内径の拡張性を確実に高めることができ、挿入口部42に対して表側からも裏側からも変形しやすく、表裏どちら側からの貫通操作に関しても、シール性を損なうことなく円滑に操作することができる。なお、挿入口部42の周縁42aにおける最大内径が回収袋Bの外径と一致する場合、圧着部420のテーパー421の先端における最小内径との比率は、例えば、整数比では3:5程度に設定すると良い。
【0075】
また、本発明では、前記キャップ30Aは、前記各挿入口部41,42をそれぞれ塞ぐための止め栓51,52を有し、
前記各止め栓51,52は、それぞれ前記主壁面部31の外周側から延びる連結部510A,520Aに接続され、
前記各連結部510A,520Aは、それぞれ前記主壁面部31と略平行な同一面上に展開した復元位置から屈曲させて、前記止め栓51,52が前記各挿入口部41,42を塞ぐ閉鎖位置まで弾性変形可能であり、かつ前記復元位置では前記各挿入口部41,42が前記主壁面部31に並ぶ直径方向と交差する方向に延びることを特徴とする。
【0076】
このような構成によれば、止め栓51,52をキャップ30Aの各挿入口部41,42に挿入することで、キャップ30Aの各挿入口部41,42が閉塞される。一方、止め栓51,52をキャップ30Aの各挿入口部41,42から取り外すことで、各挿入口部41,42に鉗子Aや回収袋B等の器具を挿入することができる。また、各止め栓51,52は、それぞれ主壁面部31の外周側から延びる連結部510A,520Aに接続されているため、紛失する虞はない。
【0077】
止め栓51,52で挿入口部41,42を塞いでいないとき、連結部510A,520Aは、それぞれ主壁面部31と略平行な同一面上に展開した復元位置にあるため、術者の操作の邪魔になることはない。止め栓51,52で挿入口部41,42を塞ぐと、連結部510A,520Aは弾性変形して屈曲する。ここで連結部510A,520Aは、自然な復元位置では各挿入口部41,42が並ぶ直径方向と交差する方向に延びている場合は、キャップ30Aは全体的に嵩張らないコンパクトな形状となる。
【0078】
また、本発明は、前記連結部510(510A),520(520A)の先端に、前記止め栓51,52より先に延出した舌片状の持ち手512(512A),522(522A)が設けられ、
前記持ち手512(512A),522(522A)は、前記連結部510(510A),520(520A)の長手方向に対して交差する方向に延びることを特徴とする。
【0079】
このような持ち手512(512A),522(522A)によれば、各挿入口部41,42を止め栓51,52で塞いだり、各挿入口部41,42から止め栓51,52を外すときに、容易に掴んで操作しやすくなる。また、持ち手512(512A),522(522A)は、長手方向と交差する方向に延びるため、止め栓51,52が各挿入口部41,42を塞ぐ閉鎖位置にあるとき、持ち手512(512A),522(522A)同士が互いに重なり合うような干渉を防ぐことができる。
【0080】
さらにまた、本発明は、前述したキャップ30(30A)単独としても成立し得るものである。
このようなキャップ30(30A)は、医療用挿入器10とは別に独立したパーツとしても扱うことが可能である。従って、パイプ本体11が既製品としてある場合には、本発明に係るキャップ30(30A)だけを交換すれば、容易に本発明品である医療用挿入器10に改良することができる。
【0081】
以上、本発明の各種実施形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述した実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、パイプ本体11およびキャップ30,30A等の具体的な形状や相対的な大きさは、図示したものに限定されることはない。
【0082】
また、各実施形態では、キャップ30,30Aの主壁面部31を、その全域に亘って薄膜のシート状に形成しているが、各挿入口部41,42の周りの部位だけを薄膜のシート状に形成して、他の部位は例えば所定厚の板状に成形して剛性を持たせても良い。
【0083】
さらに、各実施形態では、使用する複数種類の器具を鉗子Aと回収袋Bの2種類とし、キャップ30に設けた挿入口部41,42は、鉗子Aと回収袋Bに対応する2つとして説明したが、これに限定されることはない。すなわち、例えば、鉗子として、前記鉗子Aより細径または大径のものにも対応して、3つ目の挿入口部を設けると共に、この挿入口部にも嵌合筒部を設けたり、嵌合凸部は最も細径の鉗子に対応する挿入口部だけに設けるように構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る医療用挿入器は、必ずしも腹腔鏡下での子宮摘出手術に限らず、腹腔鏡下での他の処置にも使用可能なものとして広く適用することができる。
【符号の説明】
【0085】
A…鉗子(器具)
B…回収袋(器具)
10…医療用挿入器
11…パイプ本体
11a…先端開口
11b…基端開口
12…先端リング
13…主パイプ部
20…ハンドル
30,30A…キャップ
31…主壁面部
32…外周壁部
33…内側壁部
41…一の挿入口部
410…嵌合筒部
411…凸部
412…凹部
42…他の挿入口部
420…圧着部
421…テーパー
422…先端
51,52…止め栓
510,510A,520,520A…連結部
【要約】
【課題】鉗子Aと回収袋Bを、別々にシール性を高めた状態で使用することができ、特に鉗子Aについては、使用時におけるシール性をサポート性と共にいっそう高めつつ、摩擦抵抗を減らして容易に操作できる医療用挿入器を提供する。
【解決手段】経膣的に挿入されるパイプ本体11の基端開口11bを塞ぐ着脱可能なキャップ30を備え、キャップ30の主壁面部31に、鉗子Aと回収袋Bを別々に貫通させる挿入口部41,42が設けられている。鉗子Aに対応する挿入口部41には、その周縁より筒状に連なる嵌合筒部410が設けられ、嵌合筒部410の内周面に、鉗子Aの外周面に対して全周に亘り密接する環状の凸部411が複数並べて設けられている。
【選択図】図13
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