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  • 特許-位置推定装置、及び位置推定方法 図1
  • 特許-位置推定装置、及び位置推定方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】位置推定装置、及び位置推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/04 20060101AFI20241225BHJP
【FI】
G01S5/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020172370
(22)【出願日】2020-10-13
(65)【公開番号】P2022063946
(43)【公開日】2022-04-25
【審査請求日】2023-10-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、支出負担行為担当官、総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「IoT/5G時代の様々な電波環境に対応した最適通信方式選択技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】393031586
【氏名又は名称】株式会社国際電気通信基礎技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】清水 聡
(72)【発明者】
【氏名】栗原 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義規
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-167996(JP,A)
【文献】特開2020-159705(JP,A)
【文献】特開2017-223645(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0201208(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00 - G01S 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の未知の波源からの電波の到来方向を取得する到来方向取得部と、
前記到来方向の取得される電波が受信された際の受信位置を取得する受信位置取得部と、
到来方向と受信位置との複数の組、前記未知の波源の推定位置を用いて、受信位置ごとの複数の波源に関する推定到来方向と到来方向との差の合計を引数とする目的関数を最適化することによって複数の推定位置を推定する推定部と、を備えた位置推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記合計に、当該推定到来方向の算出で用いる推定位置と受信位置との間の空間に関する空間情報に応じた重みを付けた目的関数を最適化する、請求項1記載の位置推定装置。
【請求項3】
前記到来方向取得部は、前記到来方向を取得する電波の受信電力をも取得し、
前記推定部は、前記合計に、当該到来方向の取得される電波の受信電力に応じた重みを付けた目的関数を最適化する、請求項1または請求項2記載の位置推定装置。
【請求項4】
前記到来方向取得部は、前記到来方向を取得する電波の受信電力をも取得し、
前記推定部は、到来方向と受信位置と受信電力との組、前記未知の波源の推定位置、前記未知の波源からの電波の推定送信電力、電波の伝搬損失を用いて、受信位置ごとの前記合計、及び受信位置ごとの推定受信電力と受信電力との差に応じた目的関数を最適化することによって、推定位置と推定送信電力とを推定する、請求項1または請求項2記載の位置推定装置。
【請求項5】
前記推定部は、逐次的な演算処理によって前記目的関数の最適化を行う、請求項1から請求項4のいずれか記載の位置推定装置。
【請求項6】
前記推定部は、複数の初期値を用いた前記逐次的な演算処理によって前記目的関数の最適化を行う、請求項5記載の位置推定装置。
【請求項7】
前記推定部は、前記逐次的な演算処理において、目的関数が局所最適値に収束している場合には、ステップサイズをより大きい値に変更し、目的関数が大域最適値に収束している場合には、ステップサイズをより小さい値に変更する、請求項5または請求項6記載の位置推定装置。
【請求項8】
複数の未知の波源からの電波の到来方向を取得するステップと、
前記到来方向の取得される電波が受信された際の受信位置を取得するステップと、
到来方向と受信位置との複数の組、前記未知の波源の推定位置を用いて、受信位置ごとの複数の波源に関する推定到来方向と到来方向との差の合計を引数とする目的関数を最適化することによって複数の推定位置を推定するステップと、を備えた位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未知の波源の位置を、電波の到来方向を用いて推定する位置推定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信を行うICT機器(Information and Communication Technology機器:情報通信装置)の普及により、空間には様々な電波が飛び交っている。それらの機器の中には、免許や適切な認定を受けることなく送信を行っているものがある。その電波は他の機器に干渉を与え、通信障害が発生することもある。
【0003】
このような状況を把握して対策を行うためには、電波を発する信号源の位置を特定する必要がある。その方法として主に次のような方法が知られている。
・信号源から発せられた電波のRSSI(Received Signal Strength Indication:受信信号強度)を複数の地点で測定し、その結果から三角測量の方法によって信号源の位置を推定する方法
・信号源から送信された信号を複数の地点で同時に受信し、その送達時間の差から信号源の位置を推定する方法(TDoA:Time Difference of Arrival)
・信号源から送信された信号を複数の地点で同時に受信し、その位相差から信号の到来方向を推定する方法(DoA:Direction of Arrival)
【0004】
TDoAやDoAによって信号源の位置を推定する場合は、複数の地点で同時に測定を行う必要がある。なお、電波は3×108(m/s)の極めて速い速度で伝搬する。したがって、複数地点で同時に伝搬時間差や位相差を測定するには、極めて高い時間分解能で受信する機構が必要になる。その際、離れた複数地点で「同時」を実現するのも難しいことになる。同時を実現しやすい近くの場合は、伝搬時間差や位相差が小さくなり、推定精度が低下するという問題がある。
【0005】
RSSIを用いる方法でも複数地点での測定は必要ではあるが、それらの場所で信号を同時に受信する必要はないため、一つの受信機を移動させてRSSIを記録することによって位置推定を行うこともできる。また、RSSIを用いる方法は、受信信号の強度のみを測定すればよく、平易な回路で実現できるという利点もある。
【0006】
また、電波を用いた位置推定については、例えば、特許文献1に記載された方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6030976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の発明では、複数の基地局で端末からのRSSIを測定して位置を推定している。しかしながら、基地局の位置が未知であるという前提のために、それを決めるために基地局の位置も基地局間相互の受信電力から推定する、という処理を行う。この過程で基地局の位置がずれてしまっては、端末位置を正確に把握できない。また、複数の基地局が必要な方法でもある。
【0009】
また、RSSIを用いて信号源の位置を推定する方法は上記のように優れた点はあるが、波源の位置から受信位置までの電波の伝搬損失について近似を行った場合には、その近似に応じて推定誤差が生じるという問題があった。さらに、信号源の出力が測定途中に変化した場合には、その変化に応じて推定誤差が生じるという問題もあった。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、TDoAやDoAを用いることなく、また、より高い精度で未知の波源の位置を推定することができる位置推定装置、及び位置推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一態様による位置推定装置は、未知の波源からの電波の到来方向を取得する到来方向取得部と、到来方向の取得される電波が受信された際の受信位置を取得する受信位置取得部と、到来方向と受信位置との複数の組、未知の波源の推定位置を用いて、受信位置ごとの推定到来方向と到来方向との差に応じた目的関数を最適化することによって推定位置を推定する推定部と、を備えたものである。
このような構成により、TDoAやDoAを用いることなく、電波の到来方向を用いて、未知の波源の位置を推定することができるようになる。このように、TDoA等を用いないため、簡易な構成により波源の位置の推定が可能になる。また、電波の伝搬損失について近似を行う必要がないため、より精度の高い位置推定が可能となる。また、信号源の出力が測定途中に変化しても、より適切な位置推定を行うことができる。さらに、目的関数の最適化によって推定を行うため、十分な個数の到来方向と受信位置との組を用いることによって、マルチパスの影響も低減しながら、波源の位置を推定することができるようになる。
【0012】
また、本発明の一態様による位置推定装置では、未知の波源は1以上存在し、推定部は、最適化された目的関数の値である最適値を推定波源数で除算した波源当たりの最適値が最適化されるように、推定波源数をも推定してもよい。
このような構成により、波源の個数の推定も行うことができるようになる。
【0013】
また、本発明の一態様による位置推定装置では、推定部は、推定到来方向と到来方向との差に、推定到来方向の算出で用いる推定位置と受信位置との間の空間に関する空間情報に応じた重みを付けた目的関数を最適化してもよい。
このような構成により、より精度の高い推定を実現することができるようになる。
【0014】
また、本発明の一態様による位置推定装置では、到来方向取得部は、到来方向を取得する電波の受信電力をも取得し、推定部は、推定到来方向と到来方向との差に、到来方向の取得される電波の受信電力に応じた重みを付けた目的関数を最適化してもよい。
このような構成により、より精度の高い推定を実現することができるようになる。
【0015】
また、本発明の一態様による位置推定装置では、到来方向取得部は、到来方向を取得する電波の受信電力をも取得し、推定部は、到来方向と受信位置と受信電力との組、未知の波源の推定位置、未知の波源からの電波の推定送信電力、電波の伝搬損失を用いて、受信位置ごとの推定到来方向と到来方向との差、及び受信位置ごとの推定受信電力と受信電力との差に応じた目的関数を最適化することによって、推定位置と推定送信電力とを推定してもよい。
このような構成により、到来方向に加えて、受信電力をも用いて波源の位置を推定するため、より精度の高い推定を実現することができるようになる。また、波源の送信電力をも推定することができる。
【0016】
また、本発明の一態様による位置推定装置では、推定部は、逐次的な演算処理によって目的関数の最適化を行ってもよい。
このような構成により、例えば、ニュートン法などの逐次的な演算によって、目的関数の最適化を行うことができるようになる。
【0017】
また、本発明の一態様による位置推定装置では、推定部は、複数の初期値を用いた逐次的な演算処理によって目的関数の最適化を行ってもよい。
このような構成により、最適解が局所最適値に対応したものとなることを回避することができ、より精度の高い推定を実現することができるようになる。
【0018】
また、本発明の一態様による位置推定装置では、推定部は、逐次的な演算処理において、目的関数が局所最適値に収束している場合には、ステップサイズをより大きい値に変更し、目的関数が大域最適値に収束している場合には、ステップサイズをより小さい値に変更してもよい。
このような構成により、最適解が局所最適値に対応したものとなることを回避することができ、より精度の高い推定を実現することができるようになる。
【0019】
また、本発明の一態様による位置推定方法は、未知の波源からの電波の到来方向を取得するステップと、到来方向の取得される電波が受信された際の受信位置を取得するステップと、到来方向と受信位置との複数の組、未知の波源の推定位置を用いて、受信位置ごとの推定到来方向と到来方向との差に応じた目的関数を最適化することによって推定位置を推定するステップと、を備えたものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様による位置推定装置等によれば、TDoAやDoAを用いることなく、電波に関する情報である到来方向を用いて、未知の波源の位置を推定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態による位置推定装置の構成を示すブロック図
図2】同実施の形態による位置推定装置の動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明による位置推定装置、及び位置推定方法について、実施の形態を用いて説明する。本実施の形態による位置推定装置、及び位置推定方法は、未知の波源の位置を、電波の到来方向を用いた最適化によって推定するものである。
【0023】
図1は、本実施の形態による位置推定装置1の構成を示すブロック図である。本実施の形態による位置推定装置1は、到来方向取得部11と、受信位置取得部12と、推定部13とを備える。後述するように、位置推定装置1は、電波を受信するものであってもよく、または、そうでなくてもよい。前者の場合には、位置推定装置1は、位置を変更可能なもの(例えば、持ち運び可能な装置や、自動車等の移動体に搭載可能な装置等)であることが好適である。一方、電波を受信しない場合には、位置推定装置1は、例えば、1個または2個以上のクライアント装置から電波の到来方向等を受け取るサーバ装置であってもよい。本実施の形態では、位置推定装置1が、電波を受信するものであり、位置を変更可能なものである場合について主に説明する。
【0024】
到来方向取得部11は、未知の波源5からの電波の到来方向を取得する。未知の波源5の個数は、1個以上であってもよい。本実施の形態では、まず、未知の波源5の個数が1個である場合について主に説明し、未知の波源5の個数が1個以外であり得る場合については後述する。到来方向取得部11は、未知の波源5からの電波を受信して、電波の到来方向を取得するものであってもよく、他の装置で受信された電波の到来方向を、他の装置から受け取るものであってもよい。本実施の形態では、上記のように、前者の場合について主に説明する。すなわち、本実施の形態では、到来方向取得部11が、アンテナ11aで電波を受信して、その電波の到来方向を取得するものとする。
【0025】
アンテナ11aは、指向性を有するアンテナであることが好適である。指向性を有するアンテナは、例えば、八木アンテナやパラボラアンテナなどのようなアンテナの構造によって、指向性を有するものであってもよく、アレーアンテナのように、複数のアンテナの受信信号に振幅と位相による重みを掛け合わせることによって指向性を持つようにしたアンテナであってもよい。電波の到来方向を適切に推定するため、アンテナ11aの指向性は鋭い方が好適である。
【0026】
到来方向取得部11は、例えば、八木アンテナなどの指向性を有するアンテナ11aを回転させ、未知の波源5からの電波の受信信号強度(RSSI)が最大となった時点のアンテナ11aのメインローブの方向を電波の到来方向としてもよい。この場合には、到来方向取得部11は、アンテナ11aを回転させるための回転機構を有していてもよい。また、到来方向取得部11は、例えば、アレーアンテナであるアンテナ11aの各アンテナで受信された電波の位相を用いることによって、アンテナ11aに対する電波の到来方向を取得してもよい。なお、到来方向取得部11が取得する電波の到来方向は、基準方向を基準とした電波の到来方向であってもよい。基準方向は、例えば、北の方向や東の方向などのようにワールド座標系におけるあらかじめ決められた方向であってもよい。到来方向取得部11は、例えば、基準方向を特定するための地磁気センサなどを有していてもよい。そして、アンテナ11aに対する相対的な電波の到来方向を取得した場合には、到来方向取得部11は、基準方向とアンテナ11aの方向との関係を用いて、基準方向に対する絶対的な電波の到来方向を取得してもよい。
【0027】
受信位置取得部12は、到来方向の取得される電波が受信された際の受信位置を取得する。すなわち、未知の波源5からの電波がアンテナ等によって受信された際のアンテナ等の位置が取得されることになる。受信位置取得部12は、到来方向取得部11が到来方向を取得するために電波を受信した時点の位置推定装置1の位置である受信位置を取得するものであってもよく、他の装置で電波が受信された時点のその装置の位置である受信位置を、他の装置から受け取るものであってもよい。本実施の形態では、前者の場合について主に説明する。
【0028】
受信位置取得部12が位置を取得する方法は問わない。受信位置取得部12は、例えば、GPS(Global Positioning System)を用いて位置を取得してもよく、さらに準天頂衛星システムをも用いて位置を取得してもよく、位置推定装置1が車両等に搭載されている場合には、例えば、ジャイロなどの自律航法装置を用いて位置を取得してもよく、位置を示す位置情報に対応したコード等(例えば、QRコード(登録商標)等)の画像が、その位置情報の示す位置に配置されている場合には、例えば、そのコード等の画像を撮影して、位置情報を読み出すことによって位置を取得してもよく、その他の方法によって位置を取得してもよい。受信位置取得部12は、例えば、メジャー等を用いて手作業で測定された受信位置を、キーボードやタッチパネルなどの入力手段を介して受け付けてもよい。本実施の形態では、受信位置取得部12が、GPS衛星からの電波を、アンテナ12aを介して受信し、その受信した電波を用いて位置を取得する場合について主に説明する。受信位置取得部12によって取得される位置は、例えば、緯度と経度を示す座標であってもよく、その他の座標であってもよい。
【0029】
到来方向取得部11によって取得された到来方向と、その到来方向の取得される電波に関して、受信位置取得部12によって取得された受信位置とは、紐付けられて管理されることが好適である。本実施の形態では、紐付けられた到来方向と受信位置とを、到来方向と受信位置との組と呼ぶことにする。到来方向取得部11によって到来方向が取得され、その到来方向の取得に応じた受信位置が受信位置取得部12によって取得されることによって、到来方向と受信位置との組が複数取得されることになる。例えば、位置推定装置1が移動可能なものである場合には、複数の位置において未知の波源5からの電波が受信されることによって、到来方向と受信位置との複数の組が取得されてもよい。
【0030】
推定部13は、到来方向と受信位置との複数の組、未知の波源5の推定位置を用いて、受信位置ごとの推定到来方向と到来方向との差に応じた目的関数を最適化することによって推定位置を推定する。すなわち、測定結果である到来方向と受信位置との複数の組を用いて、受信位置ごとの到来方向の推定値と到来方向の実測値との誤差に応じた目的関数(誤差関数)が最適化されるように(すなわち、その誤差が小さくなるように)、目的関数を最適化する最適解(すなわち、未知の波源5の位置)を求めることになる。なお、推定部13は、受信位置と推定位置とを用いて、受信位置を基準とした未知の波源5の方向、すなわち推定到来方向を推定することができる。
【0031】
目的関数は、受信位置ごとの到来方向の推定値と到来方向の実測値との誤差が大きくなるほど、値が大きくなる関数であってもよく、または、その誤差が大きくなるほど、値が小さくなる関数であってもよい。前者の場合には、最適化は目的関数を最小化することになり、後者の場合には、最適化は目的関数を最大化することになる。本実施の形態では、前者の場合について主に説明する。また、受信位置ごとの到来方向の推定値と到来方向の実測値との誤差が大きくなるほど、値が小さくなる関数としては、種々の関数を用いることができる。
【0032】
以下、目的関数を最適化することによって、未知の波源5の推定位置を求める処理について具体的に説明する。まず、未知の波源5の推定位置を(xe,ye)とする。また、i番目の位置で取得された受信位置と到来方向とをそれぞれ(xi,yi)、θiとする。したがって、到来方向取得部11及び受信位置取得部12によって取得される到来方向と受信位置とのi番目の組は、例えば、(xi,yi,θi)となる。なお、i=1,2,…,Nである。Nは、推定対象の未知数を超える整数であることが好適である。例えば、波源5が1個である場合には未知数は2となるため、Nは3以上であることが好適である。Nが未知数と同じである場合には、推定位置を求めることはできるが、実質的に三角測量と同程度の精度で推定を行うことになり、マルチパスの影響を低減することが困難になるからである。また、Nが大きいほど、マルチパスの影響をよりよく低減することができるため、波源5が1個である場合には、Nは、10以上や20以上などのように、3よりも十分大きい値であることがより好適である。
【0033】
未知の波源5からの波について、推定位置(xe,ye)、受信位置(xi,yi)を用いて算出した、受信位置(xi,yi)における推定到来方向θi eは次式のようになる。なお、この場合には、推定到来方向θi eは、x軸方向を基準方向とする角度である。
【数1】
【0034】
上記のように、N箇所で到来方向と受信位置とが取得された場合には、受信位置ごとの推定到来方向と到来方向との差に応じた目的関数(評価関数)fは、例えば、次のようになる。
【数2】
【0035】
なお、ここでは、目的関数が、推定到来方向と到来方向との差の二乗和である場合について示しているが、目的関数は、例えば、推定到来方向と到来方向と差の絶対値の受信位置ごとの和であってもよく、推定到来方向と到来方向と差の四乗や六乗の受信位置ごとの和であってもよいことは言うまでもない。また、その和(総和)において、上記目的関数fの式のように、推定到来方向と到来方向との差に重み付けがなされていてもよい。
【0036】
推定到来方向と到来方向との差に、重みを付けるとは、推定到来方向と到来方向との差に応じた値、例えば、差の二乗や、差の絶対値、差の四乗、差の六乗などに、重みを掛けることであってもよい。重みwiは、i番目の受信位置における測定結果に関する重みであり、通常、正の実数である。例えば、i番目の受信位置に応じた推定到来方向θi eと到来方向θiとの差に、その推定到来方向θi eの算出で用いる推定位置(xe,ye)と受信位置(xi,yi)との間の空間に関する空間情報に応じた重みwiが付けられてもよい。具体的には、見通しであることを示す空間情報に対応する重みwiは大きい値、例えば「1」に設定され、市街地や山地などのように障害物の存在を示す空間情報に対応する重みwiは、見通しの空間情報に対応する重みよりも小さい値、例えば「0.3」や「0.5」などに設定されてもよい。また、障害物の程度に応じて、重みが変更されてもよい。この場合には、空間情報によって示される障害物が多いほど、より小さい重みが用いられてもよい。例えば、少数の高層建築物が存在することを示す空間情報に応じた重みは、「0.5」などのようにより大きい値に設定され、多数の高層建築物が存在することを示す空間情報に応じた重みは、「0.2」などのようにより小さい値に設定されてもよい。このように、重みwiは、例えば、空間情報によってマルチパスの多いことが示される場合には、より小さい値に設定され、マルチパスの少ないことが示される場合には、より大きい値に設定されてもよい。推定部13は、例えば、地図情報を用いて空間情報を取得してもよい。空間情報を取得する方法については後述する。また、重みwiは、例えば、受信信号の大きさや確度などに応じて変更されてもよい。その場合には、例えば、理想的な受信に近いほど、より大きい重みが用いられてもよい。また、推定部13は、推定到来方向と到来方向との差に、その到来方向の取得される電波の受信電力に応じた重みを付けた目的関数を最適化してもよい。この場合には、受信電力が大きいほど、より大きい重みが用いられてもよい。受信電力が大きいほど、より適切に電波を受信できていると考えられるため、到来方向に関する重みが大きくなることが好適だからである。なお、重みwiは、定数であってもよい。このように、目的関数は、受信位置ごとの重みを用いないものであってもよい。この場合には、上記wiは、例えば、1であってもよく、1/Nであってもよい。
【0037】
上記の目的関数fを最小にするxe,yeが、推定対象である波源5の位置となる。その目的関数fが最小になる解、すなわち最適解は、極小点に対応するため、目的関数fの各変数での偏微分が0になる。したがって、推定位置を求めることは、次式が成り立つ(xe,ye)を求めることになる。
【数3】
【0038】
そのような(xe,ye)を算出する方法、すなわち目的関数の最適化の方法としては、様々なアルゴリズムが考えられ、その一例として、ニュートン法や最急降下法などを挙げることができるが、それに限定されるものではなく、例えば、カルマンフィルタ等のパラメータ推定方法を用いて最適化を行ってもよい。例えば、最急降下法を用いた逐次的な演算を行う場合には、初期値として、(x0 e,y0 e)を設定し、正の実数である適切なステップサイズαkを設定して、次式の逐次演算を繰り返すことによって、目的関数fを最適化することができる。なお、k=0,1,2,…である。また、逐次演算に必要な∇f(xe,ye)は、事前に算出しておき、逐次演算にその算出結果を用いるようにしてもよい。また、ステップサイズαkを、最初には大きな値とし、収束状況に応じて小さな値とすることによって、演算回数を低減するようにしてもよい。なお、ステップサイズとして定数を用いてもよい。
【数4】
【0039】
ここで、∇f(xe k,ye k)は、上記各式から次式のようになる。
【数5】
【0040】
このように、推定部13は、逐次的な演算処理によって目的関数fの最適化を行ってもよい。この場合には、所定の終了条件が満たされたときに、最適化の処理が終了されてもよい。その終了条件は、例えば、収束条件が満たされたことであってもよく、kがあらかじめ決められた最大逐次演算回数を超えたことであってもよく、その他の条件であってもよい。推定部13は、例えば、kが1だけインクリメントされた際の目的関数fの値の変化の絶対値|f(xk+1 e,yk+1 e)-f(xk e,yk e)|が、あらかじめ決められた閾値よりも小さくなった場合に、収束条件が満たされたと判断してもよい。その閾値は、正の実数であり、通常、小さい値に設定される。また、推定部13は、例えば、目的関数fの値が、あらかじめ決められた値よりも小さい値となった場合に、収束条件が満たされたと判断してもよい。そのあらかじめ決められた値は、正の実数であり、通常、小さい値に設定される。
【0041】
なお、推定部13は、目的関数fの最適化が局所最適となることを避けるため、例えば、複数の初期値を用いた逐次的な演算処理によって目的関数fの最適化を行ってもよい。例えば、推定部13は、複数の初期値を設定し、各初期値を用いた最適化を行うことによって、初期値ごとに、最適解と、その最適解を目的関数に代入した値である最適値とを取得することができる。その後、推定部13は、複数の最適値のうち、最も適切である最適値に対応する最適解を、最終的な推定位置としてもよい。最適解とは、目的関数を最適化することによって求められた解(ここでは、推定位置)のことである。また、最適値が最も適切であるとは、最適化が最小化である場合には、最適値が最も小さいことであり、最適化が最大化である場合には、最適値が最も大きいことである。なお、初期値は、厳密には、推定位置の初期値である。推定位置の初期値は、例えば、N個の受信位置を含む領域(例えば、N個の受信位置を含む最も小さい領域であってもよい)において、ランダムに特定されてもよい。
【0042】
また、推定部13は、目的関数fの最適化が局所最適となることを避けるため、例えば、逐次的な演算処理において、目的関数fが局所最適値に収束している場合には、ステップサイズαkをより大きい値に変更し、目的関数fが大域最適値に収束している場合には、ステップサイズαkをより小さい値に変更してもよい。なお、目的関数fが局所最適値に収束しているのか、大域最適値に収束しているのかは、例えば、目的関数fの値が、理想的な最適値に近いかどうかによって判断されてもよい。目的関数fの値が、理想的な最適値に近い場合には大域最適値に収束していると判断され、理想的な最適値から遠い場合には局所最適値に収束していると判断されてもよい。より具体的には、最適化が最小化である場合には、例えば、目的関数fの値が第1の閾値よりも大きい値に収束しているときに局所最適値に収束していると判断され、目的関数fの値が第1の閾値より小さい値に収束しているときに大域最適値に収束していると判断されてもよい。最適化が最大化である場合には、例えば、目的関数fの値が第2の閾値よりも小さい値に収束しているときに局所最適値に収束していると判断され、目的関数fの値が第2の閾値より大きい値に収束しているときに大域最適値に収束していると判断されてもよい。なお、第1及び第2の閾値は、同じ値であってもよく、異なっていてもよい。両閾値は、通常、正の実数である。目的関数fが局所最適値に収束している場合に用いられるステップサイズαk、及び目的関数fが大域最適値に収束している場合に用いられるステップサイズαkは、あらかじめ決められていてもよく、または、そうでなくてもよい。後者の場合には、例えば、目的関数fが局所最適値に収束しているときには、kの更新ごとに徐々に大きくなるステップサイズαkが用いられ、目的関数fが大域最適値に収束している場合には、kの更新ごとに徐々に小さくなるステップサイズαkが用いられてもよい。その場合であっても、ステップサイズの上限値や下限値は設定されていてもよい。
【0043】
推定部13によって取得された波源5の推定位置は、例えば、図示しない出力部によって出力されてもよい。その出力は、例えば、表示デバイス(例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなど)への表示でもよく、所定の機器への通信回線を介した送信でもよく、プリンタによる印刷でもよく、記録媒体への蓄積でもよい。
【0044】
次に、位置推定装置1の動作について図2のフローチャートを用いて説明する。ここでは、逐次的な演算によって目的関数fの最適化が行われる場合について説明する。
【0045】
(ステップS101)到来方向取得部11及び受信位置取得部12は、未知の波源5からの電波の到来方向と受信位置との複数の組を取得する。その複数の組は、例えば、図示しない記録媒体で記憶されてもよい。
【0046】
(ステップS102)推定部13は、推定位置の初期値を設定する。この初期値の設定は、例えば、あらかじめ決められた値の読み出しであってもよい。
【0047】
(ステップS103)推定部13は、カウンタkを1に設定する。カウンタkの値は、逐次演算回数を示すものである。
【0048】
(ステップS104)推定部13は、暫定的な推定位置を算出する。この暫定推定値の算出は、例えば、上式のように、推定位置が最適解に近づくように更新されることによって行われてもよい。
【0049】
(ステップS105)推定部13は、ステップS104で取得した推定位置に応じた目的関数fの値を算出する。
【0050】
(ステップS106)推定部13は、収束条件が満たされるかどうか判断する。そして、収束条件が満たされる場合には、推定位置を推定する一連の処理は終了となり、そうでない場合には、ステップS107に進む。
【0051】
(ステップS107)推定部13は、カウンタkを1だけインクリメントする。
【0052】
(ステップS108)推定部13は、カウンタkが最大逐次演算回数を超えたかどうか判断する。そして、kが最大逐次演算回数を超えた場合には、推定位置を推定する一連の処理は終了となり、そうでない場合には、ステップS104に戻る。
【0053】
推定位置を推定する一連の処理が終了された場合には、ステップS104で最後に算出された推定位置が、最終的な推定結果となる。
【0054】
なお、図2のフローチャートにおいて、複数の初期値を用いた逐次的な演算が行われてもよい。その場合には、初期値ごとに、ステップS102~S108の処理が繰り返され、各処理が終了した後に、最適な最適値に対応する最適解を、波源5の推定位置としてもよい。また、図2のフローチャートでは、まず、到来方向と受信位置との取得が行われ、その後に目的関数を最適化することによる波源5の位置等の推定が行われる場合について示しているが、そうでなくてもよい。例えば、所定の個数の地点での到来方向や受信位置の取得が終了すると、推定位置の推定を行い、その推定の処理を、到来方向や受信位置の取得個数が増えるごとに繰り返すようにしてもよい。そして、十分な精度の推定位置を取得できた時点で、到来方向等の取得や、推定位置の推定の処理を終了するようにしてもよい。また、図2のフローチャートにおける処理の順序は一例であり、同様の結果を得られるのであれば、各ステップの順序を変更してもよい。
【0055】
以上のように、本実施の形態による位置推定装置1によれば、TDoAやDoAを用いることなく、未知の波源5の位置を推定することができる。また、電波の伝搬損失について近似を行う必要がないため、その近似が不適切であった場合と比較して、より精度の高い位置推定が可能となる。また、信号源の出力が測定途中に変化した場合であっても、より適切に波源5の位置推定を行うことができる。そのように、TDoA等を用いないため、簡易な構成により波源5の位置の推定が可能になる。さらに、目的関数の最適化によって推定を行うため、十分な個数の到来方向と受信位置との組を用いることによって、マルチパスなどによる誤差の影響を低減した位置推定等が可能となる。また、位置推定装置1が複数の位置に移動されて、未知の波源5からの電波を受信し、到来方向と受信位置との組を複数取得する場合には、複数の受信装置を用いることなく、波源5の位置を推定することができるようになる。また、信頼できない値があったとしても、重みwiを調整することによって、その影響を低減することも可能となる。その結果、推定精度を向上させることができる。
【0056】
次に、本実施の形態による位置推定装置1の変形例について説明する。
[複数の波源の位置の推定、及び波源の個数の推定]
上記実施の形態では、波源5の個数が1個である場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。波源5の個数は、複数であってもよく、不定であってもよい。波源5の個数が不定である場合には、波源5の個数も推定されてもよい。
【0057】
未知の波源5の個数が2個である場合には、波源5の推定位置を、(x(1)e,y(1)e)、(x(2)e,y(2)e)とすることができる。また、目的関数は、次式のようになる。ここで、この場合には、到来方向取得部11及び受信位置取得部12によって取得される到来方向と受信位置とのi番目の組は、例えば、(xi,yi,θ(1) i,θ(2) i)となる。2個の到来方向θ(1) i,θ(2) iは、例えば、未知の波源5からの電波について、受信信号強度が最も大きい方向と、2番目に大きい方向であってもよい。また、1個目の波源5の推定到来方向θ(1)e iは、1個目の波源5の推定位置(x(1)e,y(1)e)を用いて算出される。2個目の波源5の推定到来方向についても同様である。なお、2個の波源5を区別できる場合(例えば、周波数などの電波の特徴によって2個の波源5を区別できる場合など)には、目的関数は、1個の波源5の目的関数を2つ足したものであってもよい。この場合には、波源5ごとに重みが異なっていてもよい。また、2個の波源5を区別できる場合には、波源5ごとに位置の推定を行ってもよい。
【数6】
【0058】
未知の波源5の個数が2個である場合にも、例えば、次式のように最急降下法を用いた逐次演算を行うことができる。
【数7】
【0059】
なお、波源5の個数が2個である場合には、∇f(x(1)e k,y(1)e k,x(2)e k,y(2)e k)は次式のようになる。
【数8】
【0060】
このようにして、2個の波源5が存在する場合にも、1個の波源5と同様にして、目的関数を最適化することによって波源5の位置をそれぞれ推定することができる。また、未知の波源5の個数が3個以上である場合にも、同様に式を拡張することによって、各波源5の位置をそれぞれ推定することができる。
【0061】
次に、波源5の個数が不定である場合には、推定部13は、最小波源数から、最大波源数までの各推定波源数について、それぞれ最適化によって各波源5の位置を推定してもよい。そして、推定部13は、最適化された目的関数の値である最適値を推定波源数で除算した波源当たりの最適値が最適化されるように、推定波源数をも推定してもよい。すなわち、波源数の推定のための目的関数を波源当たりの最適値として、その目的関数を最適化するように、波源数が推定されてもよい。なお、例えば、未知の波源5が1以上存在する場合には、最小波源数は1となる。最小波源数は、2以上であってもよい。
【0062】
なお、波源当たりの最適値が最適化されるように推定波源数を推定するとは、例えば、上記目的関数fの最適化が最小化である場合には、波源当たりの最適値が、最も小さくなる推定波源数を求めることであってもよく、上記目的関数fの最適化が最大化である場合には、波源当たりの最適値が、最も大きくなる推定波源数を求めることであってもよい。
【0063】
このように、波源5の個数が分からない場合であっても、波源5の個数をも推定することができるようになる。なお、ここでは、波源5の個数が最大波源数となるまで処理を行う場合について説明したが、そうでなくてもよい。波源当たりの最適値の最適化に収束条件を設け、その収束条件が満たされた場合に処理を終了するようにしてもよい。例えば、波源当たりの最適値が、あらかじめ決めされた閾値よりも適切な側となった場合(例えば、最適化が最小化であれば、閾値よりも小さくなった場合であり、最適化が最大化であれば、閾値よりも大きくなった場合であってもよい)に、収束条件が満たされたと判断されてもよい。
【0064】
[受信電力をも用いた目的関数の最適化]
推定部13は、到来方向と受信位置と受信電力との組、未知の波源5の推定位置、未知の波源5からの電波の推定送信電力、電波の伝搬損失を用いて、受信位置ごとの推定到来方向と到来方向との差、及び受信位置ごとの推定受信電力と受信電力との差に応じた目的関数を最適化することによって、推定位置と推定送信電力とを推定してもよい。
【0065】
受信電力は、例えば、受信信号強度(RSSI)であってもよい。この場合には、到来方向取得部11は、到来方向を取得する電波の受信電力をも取得してもよい。到来方向取得部11は、例えば、スペクトラムアナライザによって電波の受信信号強度を取得してもよく、その他の構成によって電波の受信信号強度を取得してもよい。
【0066】
電波の伝搬損失としては、例えば、推定位置から受信位置までの伝搬経路に応じたモデル(例えば、自由空間モデルや、マルチパスの影響を考慮したモデル等)に応じた伝搬損失を用いてもよい。ここでは、説明の簡単のため、自由空間モデルの伝搬損失を用いる場合について主に説明する。伝搬損失は、送信電力や距離を引数とする関数であると考えてもよい。
【0067】
推定部13は、推定位置と受信位置との間の空間に関する空間情報に応じた伝搬損失を用いて、目的関数の最適化を行ってもよい。その空間情報は、推定位置から受信位置までの伝搬経路の種類を示すものであってもよい。したがって、空間情報は、例えば、見通しや、市街地、山地などであってもよい。推定部13は、例えば、地図情報を用いて、受信位置及びその時点での推定位置を特定し、両位置の間に市街地や山がある場合には、両位置の間の空間情報が市街地や山地であると判断し、両位置の間に市街地や山などの障害物が何もない場合には、両位置の間の空間情報が見通しであると判断してもよい。そして、空間情報が見通しである場合には、例えば、自由空間モデルに対応した伝搬損失が用いられ、空間情報が市街地や山地などの障害物があることを示す場合には、例えば、マルチパスの影響を考慮したモデルに対応した伝搬損失が用いられてもよい。なお、空間情報は、例えば、推定部13が、位置推定装置1において保持されている地図情報にアクセスして取得してもよく、地図情報を保持しているサーバ等にアクセスすることによって取得してもよい。
【0068】
まず、未知の波源5の推定位置を(xe,ye)とし、未知の波源5からの波の推定送信電力をpeとする。また、i番目の位置で取得された受信電力をriとする。したがって、到来方向取得部11及び受信位置取得部12によって取得される到来方向と受信電力と受信位置とのi番目の組は、例えば、(xi,yi,θi,ri)となる。
【0069】
未知の波源5からの電波について、推定送信電力pe、伝搬損失、推定位置(xe,ye)、受信位置(xi,yi)を用いて算出した、受信位置(xi,yi)における推定受信電力ri eは次式のようになる。なお、Grは、アンテナ11aのゲインであり、既知の値である。
【数9】
【0070】
上式において、diは、未知の波源5の推定位置(xe,ye)から受信位置(xi,yi)までの距離であり、次式のとおりである。
【数10】
【0071】
また、λは、受信された波の波長であり、例えば、到来方向取得部11がスペクトラムアナライザによって受信電力を取得する場合には、到来方向取得部11によって取得されてもよい。また、受信された波がフーリエ変換され、周波数帯域におけるピークの波長λが取得されてもよい。なお、波源5は意図しないものであるため、無指向性であるとしている。そのため、アンテナゲインに相当する値は、実効放射電力として推定送信電力peに包含されることになる。
【0072】
また、上式では、自由空間での電波の伝搬損失の式を用いた推定受信電力を示しているが、波源5の位置から受信位置までの空間情報に応じて、それ以外の伝搬損失の式が用いられてもよいことは上記のとおりである。例えば、波源5の推定位置から受信位置までの空間情報が山地や市街地などのように障害物の存在を示す場合には、マルチパスの影響を考慮した伝搬損失を用いて、次式のように推定受信電力ri eを算出してもよい。また、次式のdi 2に代えて、di 3/2などのdi mを用いてもよい。ただし、mは、1から2までの実数である。
【数11】
【0073】
上記のように、N箇所で到来方向と受信電力と受信位置とが取得された場合には、受信位置ごとの推定到来方向と到来方向との差、及び受信位置ごとの推定受信電力と受信電力との差に応じた目的関数(評価関数)fは、例えば、次のようになる。なお、βは、0から1までの任意の実数であり、受信位置ごとの推定到来方向と到来方向との差に応じた関数と、受信位置ごとの推定受信電力と受信電力との差に応じた関数とに関する重みである。例えば、受信位置ごとの推定到来方向と到来方向との差に応じた関数の方が精度が高い場合には、βとして1に近い値が用いられてもよい。両関数の精度が同程度である場合には、βとして0.5が用いられてもよい。また、ここでは、両関数において用いる重みwiを同じにしているが、両関数において異なる重みを用いてもよいことは言うまでもない。
【数12】
【0074】
この場合にも、上記の目的関数fを最小にするxe,ye,peが、推定対象である波源5の位置と送信電力となる。その目的関数fが最小になる解、すなわち最適解は、極小点に対応するため、目的関数fの各変数での偏微分が0になる。したがって、推定位置及び推定送信電力を求めることは、次式が成り立つ(xe,ye,pe)を求めることになる。
【数13】
【0075】
なお、目的関数を最適化する推定位置及び推定送信電力を推定する方法は、上記説明と同様であり、その詳細な説明を省略する。
【0076】
[3次元の位置推定]
上記説明では、2次元平面において未知の波源5の位置を推定する場合について説明したが、3次元空間においても、同様にして未知の波源5の位置を推定することができる。3次元空間において波源5の位置を推定する場合には、電波の到来方向は、電波の方位角θiと仰角φiとを測定することによって取得されてもよい。また、受信位置ごとの推定到来方向と到来方向との差に応じた目的関数は、例えば、受信位置ごとの推定方位角と測定された方位角との差、及び推定仰角と測定された仰角との差に応じた目的関数となってもよい。また、目的関数が、受信位置ごとの推定受信電力と受信電力との差に応じた関数を含む場合にも、上記説明における2次元の位置を3次元の位置に容易に拡張できることは明らかである。
【0077】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、または、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0078】
また、上記実施の形態において、各構成要素間で行われる情報の受け渡しは、例えば、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に異なるものである場合には、一方の構成要素による情報の出力と、他方の構成要素による情報の受け付けとによって行われてもよく、または、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に同じものである場合には、一方の構成要素に対応する処理のフェーズから、他方の構成要素に対応する処理のフェーズに移ることによって行われてもよい。
【0079】
また、上記実施の形態において、各構成要素が実行する処理に関係する情報、例えば、各構成要素が受け付けたり、取得したり、選択したり、生成したり、送信したり、受信したりした情報や、各構成要素が処理で用いる閾値や数式、アドレス等の情報等は、上記説明で明記していなくても、図示しない記録媒体において、一時的に、または長期にわたって保持されていてもよい。また、その図示しない記録媒体への情報の蓄積を、各構成要素、または、図示しない蓄積部が行ってもよい。また、その図示しない記録媒体からの情報の読み出しを、各構成要素、または、図示しない読み出し部が行ってもよい。
【0080】
また、上記実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、各構成要素が処理で用いる閾値やアドレス、各種の設定値等の情報がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していなくても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、または、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0081】
また、上記実施の形態において、位置推定装置1に含まれる2以上の構成要素が通信デバイスや入力デバイス等を有する場合に、2以上の構成要素が物理的に単一のデバイスを有してもよく、または、別々のデバイスを有してもよい。
【0082】
また、上記各実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、または、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現され得る。その実行時に、プログラム実行部は、記憶部や記録媒体にアクセスしながらプログラムを実行してもよい。また、そのプログラムは、サーバなどからダウンロードされることによって実行されてもよく、所定の記録媒体(例えば、光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなど)に記録されたプログラムが読み出されることによって実行されてもよい。また、このプログラムは、プログラムプロダクトを構成するプログラムとして用いられてもよい。また、そのプログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、または分散処理を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上より、本発明の一態様による位置推定装置等によれば、未知の波源の位置を推定できるという効果が得られ、例えば、違法電波の発信源を特定する装置等として有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 位置推定装置
5 波源
11 到来方向取得部
12 受信位置取得部
13 推定部
図1
図2