(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】衣服における電気絶縁
(51)【国際特許分類】
A41D 31/26 20190101AFI20241225BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20241225BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20241225BHJP
【FI】
A41D31/26
A41D31/00 502B
A41D31/04 Z
A41D31/00 502P
(21)【出願番号】P 2021559307
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(86)【国際出願番号】 EP2020059608
(87)【国際公開番号】W WO2020201528
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-30
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】500372821
【氏名又は名称】バイオ-メディカル リサーチ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100213333
【氏名又は名称】鹿山 昌代
(72)【発明者】
【氏名】コナー ミノーグ
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087398(JP,A)
【文献】特開2018-104869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 31/26
A41D 31/00
A41D 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣服の表面に適用するための導電層および絶縁層を備える電気システムであって、前記電気システムは、
衣服に取り付けるための第1の絶縁層と、
第2の絶縁層と、
前記第1の絶縁層と前記第2の絶縁層との間に封入された前記導電層と、
を備え、
前記第1の絶縁層は、少なくとも200VAC以上の耐電圧を有し、前記第2の絶縁層は、少なくとも100VAC以上の耐電圧を有する、電気システム。
【請求項2】
前記第1の絶縁層は、8000
mm
2を超える導電性表面で測定されるとき、少なくとも200kΩの抵抗を有する、請求項1に記載の電気システム。
【請求項3】
前記第2の絶縁層は、前記第2の絶縁層の表面上方に延在する導電性表面で測定されるとき、少なくとも200kΩの抵抗を有する、請求項1または請求項2に記載の電気システム。
【請求項4】
前記第1の絶縁層は、30μm以下の厚さを有し、少なくとも200VAC以上の耐電圧を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の電気システム。
【請求項5】
前記第1の絶縁層は、50μm以下の厚さを有し、少なくとも600VAC以上の耐電圧を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の電気システム。
【請求項6】
前記第1の絶縁層は、100μm以下の厚さを有し、少なくとも1500VAC以上の耐電圧を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の電気システム。
【請求項7】
前記第2の絶縁層は、30μm以下の厚さを有し、少なくとも100VAC以上の耐電圧を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の電気システム。
【請求項8】
前記第2の絶縁層は、50μm以下の厚さを有し、少なくとも600VAC以上の耐電圧を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の電気システム。
【請求項9】
前記第2の絶縁層は、100μm以下の厚さを有し、少なくとも1500VAC以上の耐電圧を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の電気システム。
【請求項10】
前記第1の絶縁層は、少なくとも1500VAC以上の耐電圧を有し、前記第2の絶縁層は、少なくとも100VAC以上の耐電圧を有する、請求項1に記載の電気システム。
【請求項11】
前記第1および第2の絶縁層の1つまたは各々は、少なくとも2つの別々に適用および結合された絶縁材料の層から形成され、前記層の数は、前記絶縁層に必要な絶縁性能を与える累積厚さを提供するように選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載の電気システム。
【請求項12】
前記別々に適用および結合された各層は、15~20kV/mmの耐圧を有する、請求項11に記載の電気システム。
【請求項13】
前記別々に適用および結合された各層の厚さは、8~10μmであり、層あたり120~200Vの公称耐電圧を提供する、請求項12に記載の電気システム。
【請求項14】
前記別々に適用および結合された各層は、誘電体インクの層である、請求項11から13のいずれか一項に記載の電気システム。
【請求項15】
前記導電層は、前記第1の絶縁層および前記第2の絶縁層の両方に取り付けられる、請求項1から14のいずれか一項に記載の電気システム。
【請求項16】
前記導電層は、前記第1の絶縁層および前記第2の絶縁層の両方に連続的に取り付けられる、請求項15に記載の電気システム。
【請求項17】
前記第1の絶縁層を前記衣服に取り付けるための取り付け装置が提供される、請求項1から16のいずれか一項に記載の電気システム。
【請求項18】
前記取り付け装置は、接着材を備える、請求項17に記載の電気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気要素を組み込んだ衣服に提供される絶縁に関する。
【背景技術】
【0002】
電気配線を組み込んだ衣服は、生理学的および生体力学的感知、加熱、電気刺激、視認性のための照明、ユーザーインターフェースなどの、明らかになっている多くの用途で一般的になりつつある。このような配線の基本的な目的は、衣服の一部分から別の部分に、例えば胸部に位置する皮膚電極のセットから衣服内の他の場所に位置する電子的なモジュールに電気信号または電流を伝導することである。明らかに、そのような配線およびそれに設けられた絶縁は、柔軟である必要があり、衣服の着脱、同様に着用、洗濯、乾燥および保管において発生するさまざまな力に耐えることが可能である必要がある。衣服は、一般に、温度および湿度の範囲、同様に液体やほこりへの暴露などの他の環境条件にわたって動作する必要がある。洗浄される必要がある場合、配線は関連する化学的条件および機械的条件に耐える必要がある。
【0003】
現在、布地層間またはシーム内の銅線、スクリーン印刷された導電性インクを使用した印刷回路、3D印刷、織糸または織物の形の導電性糸、導電性ポリマーまたはエラストマーの薄いシートまたはストリップなどを含むような配線を作成するためのさまざまなオプションがある。このような導体の電気抵抗は、特に、伸縮、曲げ、洗浄などに応じた抵抗の安定性であり、しばしば重要な要素である。
【0004】
ほとんどの場合、デバイスの正しい機能を保証するために、導体間の絶縁が必要である。印刷された誘電体インクまたは封入材、必要な形状にカットされた絶縁材料の押し出しシート、射出成形プラスチック、3D印刷材料など、絶縁を提供するための多くのオプションが存在する。導電性糸は絶縁フィルムでコーティングされ得る。
【0005】
特に興味深いのは、衣服の電気システムが、織物または布地の表面1に適用されるいくつかの層で構成される場合である(
図1を参照)。例えば、構造を衣服の布地に取り付ける接着層3、絶縁層5、導電層7、絶縁層9、である。
【0006】
この構造は、衣服の皮膚に面する表面、外面、または事実上衣服の織物層間に適用され得る。絶縁層5、9の一方または両方は、開口11(
図2を参照)を有し得、下にある導電層7への電気接続を可能にする。織物はまた、開口15を有し得、露出した導体へのアクセスを可能にする。
【0007】
柔軟で軽量な仕上げの衣服を実現するために、これらの層は、可能な限り薄く、可能な限り柔軟であることが望ましい。また、導電層7は、伸縮および曲げの間、最小の導電性を保持し、絶縁層5、9は、十分な抵抗および耐圧を有する必要がある。
【0008】
現在、伸縮性布地に直接印刷され得る優れた伸縮性を備えた導電性インクが登場している。配線に加えて、しばしば1つ以上の電極を使用して皮膚と電気的に接触する必要がある。例えば、電気刺激では、高電流密度が回避されるように刺激電流が皮膚に分散されることを確実にするために、皮膚接触の画定領域を有することが望ましい。電極は、導電性エラストマー、導電性インク、導電性織物などの薄いシートから作成され得る。電極は、導電層を露出する、上にある絶縁層内に単に窓を設けることによって形成され得る。追加の層を電極領域に適用し得、その導電率を変更し、例えば、その導電率を皮膚の導電率に一致させる。
【0009】
電流の流れをシステム内の所望のポイントに制限するためには、絶縁が必要である。導体を互いに隔離することによってデバイスが正しく機能することを保証するために提供される絶縁は、機能的絶縁として説明され得る。導体を周囲から隔離して安全を確保するために、絶縁が必要になる場合もあり得る。しかしながら、従来技術は、その設計はもちろんのこと、そのような絶縁の性能要件に対処していなかった。これは、関係する導体が患者接続であるとき、およびそれらを接地から隔離する必要があるかまたはそれらが接触することを意図していない体の部分との接触からそれらを隔離する必要があるとき、特に重要である。このような絶縁は、保護絶縁と呼ばれ得る。もちろん、絶縁には機能と保護との両方の目的がある。
【0010】
例えば、導電性トラックは、衣服の皮膚に面する側に印刷され得、そこから皮膚への電流のリークは、回避されなければならない。絶縁層は、導電層の上方に適用され得、皮膚からそれを電気的に分離する。印刷された導電性トラックの上にある絶縁層を追加すると、システムの柔軟性が低下するため、これをできるだけ薄く柔軟にすることが望ましい。一方、耐久性があり、洗濯を含む通常の摩耗および引き裂きに耐える必要がある。所定の絶縁材料の破壊電圧は、その厚さおよび耐圧に依存するため、柔軟性、重量、および絶縁性能の適切なバランスを実現する厚さを選択する必要がある。電極の裏側の絶縁もまた重要である。衣服の皮膚に面する表面に位置する皮膚電極について考慮する。この電極の反対側の面を、衣服を通って外面に電流が流れないように絶縁する必要がある。これは、指または手を衣服の外面に接触させる可能性が非常に高いユーザーへのリーク電流を防ぐためである。所定の用途では、各ハザードシナリオについての耐圧と絶縁抵抗との要件がどのようなものか、直ちには明らかにならない。例えば、体に装着されたバッテリー式ヒーター回路の絶縁が一箇所で壊れた場合、任意のリーク電流の戻り経路がないため、危険はない。異なる場所での2つの絶縁の破れは、ユーザーをリーク電流と潜在的な危害にさらす可能性がある。必要な保護を実現するための設計の選択には、絶縁に圧を与える電圧を考慮する必要がある。
【0011】
衣服内に配線を統合するためのさまざまなアーキテクチャを説明する近年に刊行された多くの文献、国際公開2016/131936号(Schwarz)、米国特許出願公開第2015/0359485号明細書(Berg)、米国特許出願公開第2014/0318699号明細書(Longinotti)、国際公開2017/199026号(Kai)、英国特許出願公開第2555592号明細書(Bungay)、が存在するが、絶縁の課題には注意が払われていない。着用用途向けに販売されている伸縮性絶縁インク(Dupont(商標)PE773)の大手サプライヤーさえもが、絶縁性能を引きあいに出していないことは注目に値する。
【0012】
したがって、問題は、所望の程度の安全性と機能的性能を達成するために必要な絶縁の量を決定し、衣服の全体的な剛性、重量、および厚さを最小限に抑えながら、そのレベルの絶縁を提供することである。
【0013】
上記を考慮して、本発明の目的は、上記の不利な点を緩和および軽減することである。
【発明の概要】
【0014】
第1の態様によれば、本発明は、衣服の表面に適用するための導電層および絶縁層を備える電気システムを提供し、電気システムは、
衣服に取り付けるための第1の絶縁層と、
第2の絶縁層と、
第1の絶縁層と第2の絶縁層との間に封入された導電層と、を備える。
【0015】
好ましくは、導電層は、第1の絶縁層と第2の絶縁層との両方に取り付けられる。好ましくは、導電層は、第1の絶縁層と第2の絶縁層との両方に連続的に取り付けられる。
【0016】
好ましくは、第1の絶縁層は、少なくとも200VAC以上の耐電圧を有し、第2の絶縁層は、少なくとも100VAC以上の耐電圧を有する。
【0017】
好ましくは、第1の絶縁層は、第2の絶縁層の表面上に延在する導電性表面で測定した場合、少なくとも200kΩの抵抗を有する。さらに好ましくは、第1の絶縁層は、8000cm2を超える導電性表面で測定したとき、少なくとも200kΩの抵抗を有する。さらに好ましくは、第1の絶縁層は、8000mm2のプローブで測定したとき、少なくとも200kΩの抵抗を有する。
【0018】
好ましくは、第2の絶縁層は、第2の絶縁層の表面上方に延在する導電性表面で測定したとき、少なくとも200kΩの抵抗を有する。さらに好ましくは、第2の絶縁層は、8000cm2を超える導電性表面で測定したとき、少なくとも200kΩの抵抗を有する。さらに好ましくは、第2の絶縁層は、8000mm2のプローブで測定したとき、少なくとも200kΩの抵抗を有する。
【0019】
好ましくは、第1の絶縁層は、30μm以下の厚さおよび少なくとも200VAC以上の耐電圧を有する。
【0020】
好ましくは、第1の絶縁層は、50μm以下の厚さおよび少なくとも600VAC以上の耐電圧を有する。
【0021】
好ましくは、第1の絶縁層は、100μm以下の厚さおよび少なくとも1500VAC以上の耐電圧を有する。
【0022】
第2の絶縁層は、30μm以下の厚さおよび少なくとも100VAC以上の耐電圧を有し得る。
【0023】
第2の絶縁層は、50μm以下の厚さおよび少なくとも600VAC以上の耐電圧を有し得る。
【0024】
第2の絶縁層は、100μm以下の厚さおよび少なくとも1500VAC以上の耐電圧を有し得る。
【0025】
好ましくは、第1の絶縁層は、少なくとも1500VAC以上の耐電圧を有し、第2の絶縁層は、少なくとも100VAC以上の耐電圧を有する。
【0026】
好ましくは、第1および/または第2の絶縁層は、絶縁材料の少なくとも2つの別々に適用および結合された層から形成され、層の数は、絶縁層に必要な絶縁性能を与える累積厚さを提供するように選択される。
【0027】
好ましくは、当該別々に適用および結合された各層は、15~20kV/mmの耐圧を有する。
【0028】
好ましくは、当該別々に適用および結合された各層の厚さは8~10μmであり、層あたり120~200Vの公称耐電圧を提供する。
【0029】
好ましくは、当該別々に適用および結合された各層は、誘電体インクの層である。
【0030】
好ましくは、当該少なくとも2つの別々に適用および結合された層は、少なくとも2つの別々に適用された絶縁材料のコーティングから形成され、前のコーティングは、次のコーティングが適用される前に硬化することが可能であり、コーティングの数は、絶縁層に必要な絶縁性能を与える累積厚さを提供するように選択される。
【0031】
好ましくは、コーティングは、誘電体インクのコーティングである。
【0032】
好ましくは、第1の絶縁層を衣服に取り付けるための取り付け装置が提供される。取り付け装置は、接着材を備え得る。第1の絶縁層を衣服に取り付けるための他の構成は、当業者には明らかである。第2の態様によれば、本発明は、衣服の表面に適用するための導電層および絶縁層を備える電気システムを試験する方法を提供し、電気システムは、
衣服に取り付けるための第1の絶縁層と、
第2の絶縁層と、
第1の絶縁層と第2の絶縁層との間に封入された導電層と、
を備え、
ここで、第1および/または第2の絶縁層の絶縁性能は、導電層に接続されたプローブと関連する絶縁層上に配置された画定領域を有する導電性プレートとの間に試験電圧を印加することによって、およびそれらの間の抵抗または破壊電圧を測定することによって、試験される。
【0033】
好ましくは、導電性プレートは、少なくとも1000mm2以上の画定領域を有する。導電性プレートは、少なくとも8000mm2の画定領域を有し得る。
【0034】
好ましくは、導電性プレートは、関連する絶縁層の形状と実質的に一致するように成形される。
【0035】
好ましくは、導電性プレートは、試験される絶縁層よりも長く、幅が広い。
【0036】
好ましくは、導電性プレートは、試験される絶縁層が適用される導電性表面を備えた3D体形状として提供される。好ましくは、試験の前に、関連する絶縁層は、衣服に取り付けられ、衣服は、試験される絶縁層が体形状に面するように体形状に取り付けられる。
【0037】
本発明の第1の態様の特徴は、必要に応じて本発明の第2の態様に組み込まれ得、その逆もまた同様である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
次に、添付の図面を本発明の実施形態を示す例としてのみ参照して、本発明を説明する。図面は以下の通りである。
【
図1】織物基材に取り付けられた電気システムを示す。
【
図2】導電層を露出させるための
図1のシステムの絶縁層における開口を示す。
【
図3】皮膚電極に接続される衣服内の導電性トラック上の絶縁および着用者が故障した絶縁に触れた場合に腕に流れ得る潜在的な誤差電流i
eを示す絶縁図である。
【
図4】それぞれZ1およびZ2の接触インピーダンスを有する2つの皮膚電極の等価回路を示す。
【
図5】システムの絶縁層の絶縁を試験するための試験機器を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明をより完全に説明するために、特定の例、すなわち経皮的電気刺激を考慮することが有用である。しかしながら、本発明は、そのような使用のみに限定されないことを理解されたい。当業者には、他の様々な用途が明らかになるであろう。本発明は、
図1~
図5を参照して説明される。経皮的電気刺激は、電気パルスが電子的な制御モジュール17(
図3を参照)内で生成され、
図3内の印加部分Aの少なくとも2本のリード線21および対応する皮膚電極23によって対象19に送達される、広く使用されている治療法である。リード線21は、制御モジュール17から皮膚電極23まで延びる埋め込み配線または導電性トラック(
図1および2の導電層7を参照)を含み、皮膚電極23への途中のリーク電流を防ぐために絶縁される。これらの導電層は、通常、衣服27の皮膚に面する側25に積層され得る。導電層の皮膚に面する側7a上の絶縁層9は、摩耗したときに電流が下にある皮膚に漏れないことを保証し、したがって、間違った皮膚位置で刺激を引き起こす。この絶縁不良は、不快感、皮膚の炎症または火傷を引き起こし得る。導電層7の衣服に面する側7b上の絶縁層5および電極は、衣服27へのリーク電流を防止する。衣服27は、通常、絶縁織糸で作られた織布または編物繊維製品で作られるが、濡れると衣服27の外面27aへの導電経路を提供し得る。刺激中にユーザーが濡れた衣服27のその部分に手を接触させ、絶縁層5が損傷した場合、電流i
eが手、腕、および胴の領域に流れ得る(
図3を参照されたい)。この場合に流れる電流の大きさは、それが電気的に並列であるため、電極接点と手の接点の相対インピーダンスに依存する。人体への電流の影響はIEC60479に規定されているため、絶縁不良のために発生する任意の電流が重大な害を引き起こす限度を十分に下回っていることを保証する必要がある。
【0040】
図4は、それぞれZ1およびZ2の接触インピーダンスを有する2つの皮膚電極23の等価回路を示す。電気刺激はノード1および2の間に適用される。Zcは、2つの皮膚電極23間の体のコアのインピーダンスを表し、通常、皮膚の接触インピーダンスよりはるかに小さい。Zhは、損傷状態の間の導電層7のうちの1つとの手の接触インピーダンスを表し、通常、Z1またはZ2よりも高いであろう。安全を確保するために、この分岐に流れる誤差電流i
eは可能な限り低くする必要がある。
【0041】
発明者らは、手における電位は、示されるように実質的に体のコアと同じであるため、導電層7と手との間のこの絶縁に圧を与える電圧が、直列の2つの皮膚電極23間の電圧の約半分であることを発見した。体のコア抵抗と直列の2つの皮膚電極23の電気インピーダンスを表す
図4の等価回路を参照されたい。全体的な回路インピーダンスは、皮膚の接触インピーダンスによって支配されることが知られている。最大20Vrmsを出力する一般的な電気刺激デバイスの場合、ピーク電圧は最大50Vになり得るが、絶縁における圧は、10Vrmsである(電気刺激波形は通常、低デューティ比のパルス列の形式であり、ピークパルス振幅はしばしば、パルス列の二乗平均平方根値の倍数である)。
【0042】
絶縁の設計において適用される安全率の選択は、不良に関連するリスクに依存する。低リスクの用途の場合、2倍の係数で十分であり得、20VACの耐電圧または100Vのピーク耐電圧となる。より好ましくは、リスクの低い用途であっても、5倍のより高い安全率を使用することが可能である。絶縁抵抗は、通常の動作で電流の流れを、破壊がないときに100μArmsの上限、したがって、50V/100μA=500kΩに制限するように選択され得る。
【0043】
リスクの高い状況の場合、破壊電圧についての安全率を必要に応じて5倍、10倍、20倍に増やすことができる。細動のリスクがある胸部を流れ得る電流の場合、耐電圧は、リスクの推定に応じて、500VAC、またはさらには1000VACまで高く設定され得る。
【0044】
絶縁不良に伴うリスクは肌側と衣服側で異なるため、各側で異なる絶縁性能を持たせることが適切な場合があり得る。皮膚に面する絶縁不良は皮膚の不快感をもたらすのみであるので、200VACの耐電圧を指定し得、これは動作電圧の20倍以上である。衣服側の場合、危害となる可能性が高いため、500VACの耐電圧が適切である。安全規格IEC60601(第3版)は、さまざまな動作電圧での絶縁の耐電圧レベルを定めている。患者を保護する2つの手段を提供するには、1000VACの破壊電圧で絶縁を提供する必要があり得る。
【0045】
耐電圧試験は、ほとんどの場合、「VAC」の使用が適切かつ十分である主電源周波数で動作するマシンで行われることに留意されたい。NMES(神経筋電気刺激)では、電流がパルス化されるため、「Vrms」の使用がより正確になる。
【0046】
例えば、ACIマテリアル社が提供するSE3102などの一般的な誘電体インクは、15~20kV/mmの範囲の耐圧を有する。より高い耐圧を備えた特殊なインクが利用可能であるが、柔軟性および伸縮性が十分でない場合があり得る。20kV/mmの強度を持つ材料の場合、1つのスクリーン印刷パスの厚さは通常10μmであり、1層あたり200Vの公称強度が得られるため、500Vの耐性能を構築するには少なくとも3つのパスが必要である。異なるプリントスクリーンメッシュおよびスクイージーパラメータを使用することによって、層ごとにより厚い厚さで印刷され得る柔軟なインクが利用され得る。
【0047】
スクリーン印刷は、メッシュマーキング、メッシュ伸縮、スクイージー圧力、角度、速度、インク粘度の変動により、固有の変動を有する。絶縁性能を損なう気泡もまた存在し得る。したがって、必要な絶縁性能を累積的に与える複数の層が必要である。複数の層は通常、製造プロセスを遅くする層間の硬化時間を必要とするため、可能な限り少ない層にすることが望ましい。
【0048】
所定の電圧に耐えることが可能であることに加えて、絶縁層が破壊電圧より低い適切な絶縁抵抗を提供することが必要である。IEC60601規格では、通常の使用での補助電流は100μA未満である必要がある。したがって、20Vrmsの標準動作電圧では、絶縁は200kΩより大きくすべきである。手または指との接触に対する抵抗は、接触する領域に依存する。IEC60479規格は、人体および動物の体に対する電流の影響を考慮し、指と手の接触をエミュレートする試験接触領域を画定する。指先の接触は250mm
2の面積でシミュレートされ得るが、手の接触は8000mm
2に相当する。また、1000mm
2の接触面積を使用して、指の接触をシミュレートし得る。したがって、指で接触するための衣服絶縁の適切な絶縁試験は、導電層7と絶縁層5、9上に配置された1000mm
2の面積を有する表面プローブ35との間の最大動作電圧での抵抗を測定する(例えば、絶縁テスター37を使用して)ことである(
図5を参照されたい)。同様の試験であるが、8000mm
2の面積を有する表面プローブを使用する試験は、手の接触についての衣服の絶縁を試験するために行われ得る。
【0049】
絶縁層5、9が耐電圧要件を満たしていることを確認するために、製造後に構造の破壊電圧を試験する必要がある。絶縁層5、9の表面全体を試験する必要があるため、絶縁層5、9のすべての点と接しされ得るプローブを使用する必要がある。プローブまたはプレートは、絶縁層5、9の形状と一致するように成形され得るため、絶縁層5、9は、より小さなプローブを再配置しながら試験を複数回繰り返す必要がなく、一度に試験され得ることができる。あるいは、衣服を試験する簡便で迅速な手段は、それを導電性体形状またはマネキンに取り付け、衣服上の導電層7の各端子と導電性体形状との間の抵抗を試験することである。このような体形状は、金属箔、導電性織物、導電性塗料またはインクなどの導電性コーティングを施した木材、プラスチック、または発泡製品で作られ得る。導電層7のすべての端子を一緒に接続して単一の電気ノードを形成し、そのノードと導電性体形状との間の抵抗および破壊電圧を試験する方がさらに高速である。衣服を裏返しにして、積層回路の外向きの面での絶縁層5の性能を試験し得る。異なるサイズの衣服を試験するために、いくつかの体形状が提供され得、または、体形状が調整され得る。
【0050】
伸縮性布地で作られた衣服においては、電気システムは、衣服の性能が損なわれないように、好ましくは伸縮および弛緩し得る。電気システムを伸縮すると、必然的に伸縮方向に垂直な方向の断面寸法が小さくなり、絶縁耐電圧が低下する可能性がある。したがって、試験中に体形状上で試験サンプルを伸縮する必要があり得る。試験用の体形状のサイズは、期待される伸縮性が達成されるように、衣服のサイズと一致するように選択する必要がある。
【0051】
衣服は、使用中および洗濯中に濡れることがあり得る。絶縁層5、9は、湿気に耐え、層状構造内への水の浸入を防ぐ必要がある。したがって、耐電圧および絶縁抵抗が維持される安全性を確保するために、濡れた衣服を試験する必要があり得る。
【0052】
絶縁層5、9は、導電層7の一部を意図的に露出させるための開口11を有し得る。開口11は、皮膚またはコネクタもしくは別の導体への接続を可能にするように形成され得る。多層プリント回路基板と同様の方法において、絶縁層5、9によって分離された複数の導電層7を有するが、導電層7が特定の点で接触することを可能にする選択的な開口11を有することが有用であり得る。絶縁層5、9の開口11はまた、コネクタ(図示せず)を導電層7に取り付けることを可能にするように作製され得る。そのような接続手段は、例えば、スタッド圧縮ファスナー、圧着、接着材、溶接、はんだ付け、単純なねじ込みファスナーまたは別の適切なコネクタであり得る。そのような接続を行った後、それを絶縁する必要がある。接合の上方に別の層を積層することができ、そのような層は、それが取り付けられる絶縁層と同じ絶縁特性を有する。他の手段には、オーバーモールドまたは接合に注入またはスプレーされる樹脂が含まれ得る。
【0053】
衣服に絶縁層および導電層を作成するために利用可能ないくつかの方法がある。国際公開2017/199026号(Kaiら)は、織物上に連続する層をスクリーン印刷するプロセスを記載している。英国特許出願公開第2555592号明細書(Bungayら)は、複数の層が転写印刷基材上に置かれ、次いで熱または圧力を使用して衣服に適用される代替方法を記載している。同様に、層は、絶縁材料と導電性材料との成形層を互いの頂部で配置し、接着結合または溶接することによって形成され得る。例えば、第1の絶縁層、例えば、絶縁層5は、100~200μmの程度の厚さを有する絶縁TPUであり得る。導電層7は、導電性糸、導電性織物、金属箔であり得るか、または絶縁層5上に印刷された導電性インクパターンであり得る。第2の絶縁層、例えば絶縁層9は、100μm未満の厚さを有する絶縁TPUまたは他のポリマーまたは印刷された誘電体インクの別の成形層であり得る。組立体全体は、接着層3を介して布地に接着結合され得る。
【0054】
上記の多くは、衣服の皮膚に面する側25に適用される絶縁層5、9および導電層7の層状構造を記載しているが、構造を衣服の外面27aまたは2つの衣服27の間の層にも適用することもまた可能である。絶縁調整では、特定の用途のリスク特性を考慮に入れる必要がある。
【0055】
当業者は、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の範囲から逸脱することなく、変形および修正を行うことができることを理解されたい。