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特許7610270酸化物半導体の電気特性の調節方法並びに高電導性p型及びn型Ga2O3の開発
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】酸化物半導体の電気特性の調節方法並びに高電導性p型及びn型Ga2O3の開発
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/223 20060101AFI20241225BHJP
   H10F 10/14 20250101ALI20241225BHJP
   H10F 30/20 20250101ALI20241225BHJP
   H10H 20/823 20250101ALI20241225BHJP
   H01L 21/383 20060101ALI20241225BHJP
   H01L 21/40 20060101ALI20241225BHJP
   H10D 62/80 20250101ALI20241225BHJP
【FI】
H01L21/223 V
H01L31/06 300
H01L31/10 A
H01L33/28
H01L21/383
H01L21/40
H01L29/24
H01L21/223
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021572541
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-15
(86)【国際出願番号】 US2020027384
(87)【国際公開番号】W WO2020247061
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】62/858,092
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521532374
【氏名又は名称】ボーリング・グリーン・ステート・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】セリム,ファリダ
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-041106(JP,A)
【文献】特開2004-342857(JP,A)
【文献】VARLEY et al,Hydrogenated cation vacancies in semiconducting oxides,Journal of Physics: Condens. Matter,米国,2011年08月02日,pp. 1-9
【文献】VARLEY et al,Ambipolar doping in SnO,Applied Physics Letters,米国,2013年08月23日,103, 082118
【文献】WEISER et al,Structure and vibrational properties of the dominant O-H center in β-Ga2O3,Applied Physics Letters,米国,2018年06月07日,112, 232104
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/223
H01L 31/068
H01L 31/10
H01L 33/28
H01L 21/383
H01L 21/40
H01L 29/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン空孔が水素で埋められた酸化物半導体材料を含む組成物であって、
前記酸化物半導体材料が、(H-VCa1-複合体を含み、Caは前記カチオンを表し、前記酸化物半導体材料はp型導電性を有し、または、
前記酸化物半導体材料が、(H-VCa1+複合体を含み、Caは前記カチオンを表し、前記酸化物半導体材料はn型導電性を有し、
前記酸化物半導体が、Gaを含む、
組成物。
【請求項2】
p型Gaを含む組成物であって、
前記p型Gaが、ドーパントとして水素原子を含み、前記水素原子が、前記p型GaのGa空孔中に存在する、
組成物。
【請求項3】
前記酸化物半導体材料が、n型Gaを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記n型Gaが、Ga空孔中に4個の水素原子を有する結晶構造を有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記n型Gaは、少なくとも約1016cm-2のシートキャリア濃度及び室温で少なくとも約100cm/VSの移動度の両方を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記n型Gaが、約100nm~約900nmの範囲内の厚さを有する薄膜である、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
前記n型Gaが、約10-4Ω・cmの抵抗率を有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
バイポーラドーピングの方法であって、
酸化物半導体材料中のカチオン空孔を水素で部分的に埋めることによって前記空孔のアクセプタ状態を低下させて浅いアクセプタとして作用させ、それによって、前記酸化物半導体材料をp型にドーピングすること、又は
前記カチオン空孔を水素及び追加のHイオンで埋め、それによって、前記酸化物半導体材料をn型にドーピングすること、
のいずれかを含む、方法。
【請求項9】
酸化物半導体材料をp型にドーピングするための、請求項8に記載の方法であって、
酸化物半導体材料を密封系中に配置すること、
前記密封系から空気を排出させること、
水素ガスを前記密封系中に導入すること、及び
前記酸化物半導体材料を、前記密封系中、高められた温度で、ある継続時間にわたってアニーリングして、前記水素ガスを前記酸化物半導体材料中に拡散させ、それによって前記酸化物半導体材料をp型にドーピングすること、
を含む、方法。
【請求項10】
前記酸化物半導体材料が、Gaを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化物半導体材料が、Gaを含み、前記高められた温度が、約950℃であり、前記継続時間が、約2時間であり、前記密封系が、前記アニーリングを行う間、約580トルの圧力である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
酸化物半導体材料をn型にドーピングするための、請求項8に記載の方法であって、
酸化物半導体材料を、空気中、第一の継続時間にわたって第一の温度でアニーリングすること、
前記酸化物半導体材料を密封系中に配置すること、
前記密封系から空気を排出させること、
水素ガスを前記密封系中に導入すること、及び
前記酸化物半導体材料を、前記密封系中、第二の高められた温度で、第二の継続時間にわたってアニーリングして、前記水素ガスを前記酸化物半導体材料中に拡散させ、それによって前記酸化物半導体材料をn型にドーピングすること、
を含む、方法。
【請求項13】
前記酸化物半導体材料が、Gaを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化物半導体材料が、Gaを含み、前記第一の継続時間が、約2時間であり、前記第一の温度が、約950℃であり、前記第二の継続時間が、約2時間であり、前記第二の温度が、約950℃であり、前記密封系が、前記アニーリングを行う間、約580トルの圧力である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記酸化物半導体材料中のカチオン空孔を水素で部分的に埋めるために、又は、前記カチオン空孔を水素及び追加のHイオンで埋めるために、水素プラズマがプラズマ反応器内で用いられる、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法第111条(b)の下、2019年6月6日に出願された米国仮特許出願第62/858,092号の優先権を主張するものであり、その全開示内容は参照により本明細書に援用される。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究の記載
本発明は、政府の支援を受けずに行われた。政府は本発明の権利を有しない。
【背景技術】
【0003】
Gaは、多くの高パワーデバイス及び光エレクトロニクス用途において望ましい材料である。しかし、p型Gaは、報告されておらず、本技術分野において大きな課題であると見なされている。p型Ga又は高電導性n型Gaを製造するための方法は、そのような材料がある特定のタイプのデバイスのために強く所望されているにも関わらず、現在のところ知られていない。p型Ga及び高電導性n型Gaを開発すること、並びにそれらを製造するための新規で改善された方法を開発することは有利である。
【発明の概要】
【0004】
カチオン空孔が水素で埋められた酸化物半導体材料を含む組成物が提供される。ある特定の実施形態では、酸化物半導体材料は、(H-VCa1-複合体を含み、Caは、カチオンであり、酸化物半導体材料は、p型導電性を有する。ある特定の実施形態では、酸化物半導体材料は、(H-VCa1+複合体を含み、Caは、カチオンであり、酸化物半導体材料は、n型導電性を有する。ある特定の実施形態では、酸化物半導体材料は、Gaを含む。
【0005】
さらに、p型Gaを含む組成物が提供される。ある特定の実施形態では、p型Gaは、ドーパントとして水素原子を含む。特定の実施形態では、水素原子は、p型Ga中のGa空孔中に存在する。また、この組成物を含むパワーデバイス及び光エレクトロニクスデバイスも提供される。
【0006】
さらに、n型Gaを含む組成物も提供され、n型Gaは、ドーパントとして水素原子を含む。ある特定の実施形態では、n型Gaは、Ga空孔中に4個の水素原子を有する結晶構造を有する。ある特定の実施形態では、n型Gaは、少なくとも約1016cm-2のシートキャリア濃度を有する。ある特定の実施形態では、n型Gaは、室温で少なくとも約100cm/VSの移動度を有する。また、この組成物を含む光エレクトロニクスデバイス及びパワーデバイスも提供される。
【0007】
さらに、n型Gaが少なくとも約1016cm-2のシートキャリア濃度及び室温で少なくとも約100cm/VSの移動度の両方を有する、n型Gaを含む組成物も提供される。ある特定の実施形態では、n型Gaは、約10-4Ω・cmの抵抗率を有する。ある特定の実施形態では、n型Gaは、ドーパントとして水素原子を含む。また、この組成物を含む光エレクトロニクスデバイスも提供される。ある特定の実施形態では、組成物は、約100nm~約900nmの範囲内の厚さを有する薄膜である。ある特定の実施形態では、組成物は、約200nm~約700nmの範囲内の厚さを有する薄膜である。ある特定の実施形態では、組成物は、約500nmの厚さを有する薄膜である。また、この組成物を含む光エレクトロニクスデバイス及びパワーデバイスも提供される。
【0008】
さらに、p型Ga及びn型Gaから形成されるp-n接合を備えた光エレクトロニクスデバイス又はパワーデバイスも提供される。ある特定の実施形態では、p型Gaは、ドーパントとして水素原子を含む。ある特定の実施形態では、n型Gaは、ドーパントとして水素原子を含む。ある特定の実施形態では、p型Ga及びn型Gaはいずれも、ドーパントとして水素原子を含む。ある特定の実施形態では、n型Gaは、少なくとも約1016cm-2のシートキャリア濃度又は室温での少なくとも約100cm/VSの移動度のうちの少なくとも一方を有する。ある特定の実施形態では、n型Gaは、約10-4Ω・cmの抵抗率を有する。ある特定の実施形態では、パワーデバイスは、高パワーダイオード、スイッチ、若しくはトランジスタであり、又は光エレクトロニクスデバイスは、フォトダイオード、フォトトランジスタ、光電子増倍管、光アイソレータ、集積型光回路素子、フォトレジスタ、電荷結合画像デバイス、発光ダイオード(LED)、有機発光ダイオード(OLED)、ソーラーブラインドUV検出器、ガスセンサー、光検出器、パワートランジスタ、若しくはソーラーセルである。
【0009】
さらに、バイポーラドーピングの方法も提供され、この方法は、酸化物半導体材料中のカチオン空孔を水素で部分的に埋めることによってアクセプタ状態を低下させて浅いアクセプタとして作用させ、それによって、酸化物半導体材料をp型にドーピングすること、又はカチオン空孔を水素に加えて追加のHイオンで埋め、それによって、酸化物半導体材料をn型にドーピングすること、のいずれかを含む。
【0010】
さらに、酸化物半導体材料をp型にドーピングするための方法も提供され、この方法は、酸化物半導体材料を密封系中に配置すること;密封系から空気を排出させること;水素ガスを密封系中に導入すること;及び酸化物半導体材料を、密封系中、高められた温度で、ある継続時間にわたってアニーリングして、水素ガスを酸化物半導体材料中に拡散させ、それによって酸化物半導体材料をp型にドーピングすること、を含む。
【0011】
ある特定の実施形態では、継続時間は、少なくとも約1時間である。ある特定の実施形態では、継続時間は、約1時間~約5時間である。ある特定の実施形態では、継続時間は、約1時間~約2時間である。ある特定の実施形態では、高められた温度は、約310℃~約1000℃の範囲内である。ある特定の実施形態では、高められた温度は、約350℃~約1000℃の範囲内である。ある特定の実施形態では、高められた温度は、約700℃~約950℃の範囲内である。ある特定の実施形態では、高められた温度は、約950℃である。ある特定の実施形態では、密封系は、アニーリングを行う間、1atm未満の圧力である。ある特定の実施形態では、密封系は、アニーリングを行う間、約300トル~約700トルの範囲内の圧力である。ある特定の実施形態では、密封系は、アニーリングを行う間、約500トル~約650トルの範囲内の圧力である。ある特定の実施形態では、密封系は、アニーリングを行う間、約580トルの圧力である。ある特定の実施形態では、高められた温度は、約950℃であり、継続時間は、約2時間である。ある特定の実施形態では、酸化物半導体材料は、Gaを含む。ある特定の実施形態では、高められた温度は、約950℃であり、継続時間は、約2時間であり、酸化物半導体材料は、Gaを含み、密封系は、アニーリングを行う間、約580トルの圧力である。
【0012】
さらに、酸化物半導体材料をn型にドーピングするための方法も提供され、この方法は、酸化物半導体材料を、空気中、第一の継続時間にわたって第一の温度でアニーリングすること;酸化物半導体材料を密封系中に配置すること;密封系から空気を排出させること;水素ガスを密封系中に導入すること;及び酸化物半導体材料を、密封系中、第二の高められた温度で、第二の継続時間にわたってアニーリングして、水素ガスを酸化物半導体材料中に拡散させ、それによって酸化物半導体材料をn型にドーピングすること、を含む。
【0013】
ある特定の実施形態では、第一の継続時間は、少なくとも約1時間である。ある特定の実施形態では、第一の継続時間は、約1時間~約5時間の範囲内である。ある特定の実施形態では、第一の継続時間は、約1時間~約2時間の範囲内である。ある特定の実施形態では、第一の温度は、約310℃~約1000℃の範囲内である。ある特定の実施形態では、第一の温度は、約350℃~約1000℃の範囲内である。ある特定の実施形態では、第一の温度は、約700℃~約950℃の範囲内である。ある特定の実施形態では、第一の温度は、約950℃である。ある特定の実施形態では、第二の継続時間は、少なくとも約1時間である。ある特定の実施形態では、第二の継続時間は、約1時間~約5時間の範囲内である。ある特定の実施形態では、第二の継続時間は、約1時間~約2時間の範囲内である。ある特定の実施形態では、第二の継続時間は、約2時間である。ある特定の実施形態では、第二の温度は、約310℃~約1000℃の範囲内である。ある特定の実施形態では、第二の温度は、約350℃~約1000℃の範囲内である。ある特定の実施形態では、第二の温度は、約700℃~約950℃の範囲内である。ある特定の実施形態では、第二の温度は、約950℃である。ある特定の実施形態では、密封系は、アニーリングを行う間、1atm未満の圧力である。ある特定の実施形態では、密封系は、アニーリングを行う間、約400トル~約700トルの圧力である。ある特定の実施形態では、密封系は、アニーリングを行う間、約500トル~約650トルの圧力である。ある特定の実施形態では、密封系は、アニーリングを行う間、約580トルの圧力である。ある特定の実施形態では、酸化物半導体材料は、Gaを含む。ある特定の実施形態では、第二の継続時間は、約2時間であり、第二の温度は、約950℃であり、酸化物半導体材料は、Gaを含み、密封系は、アニーリングを行う間、約580トルの圧力である。ある特定の実施形態では、酸化物半導体材料は、Gaを含み、第一の継続時間は、約2時間であり、第一の温度は、約950℃であり、第二の継続時間は、約2時間であり、第二の温度は、約950℃であり、密封系は、アニーリングを行う間、約580トルの圧力である。
【0014】
本明細書で述べる方法のいくつかの実施形態では、アニーリング又は分子状水素の拡散の代わりに、より低い温度又はいずれかの範囲の温度で、いずれかの範囲の圧力で、及びいずれかの継続時間にわたって、水素プラズマがプラズマ反応器内で用いられる。
【0015】
本明細書で述べる方法のいずれかの製品がさらに提供される。
酸化物半導体材料を、さらなるドーパントを用いずにn型又はp型にドーピングするための水素の使用も提供される。
【0016】
本特許又は特許出願ファイルは、カラーで作成された1若しくは複数の図面、及び/又は1若しくは複数の写真を含み得る。カラー図面及び/又は写真付きの本特許又は特許出願公報の複写は、請求し、必要な費用を支払うことによって、米国特許商標庁から入手される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、他の主要な半導体と比較した、β-Gaパワーデバイスの理論的理想性能限界を示す。
図2A図2A図2Dは、β-Gaへの水素の組み込みを示す模式図である。図2Aは、水素分子が、高められた温度で表面と接触し、不均一に解離している様子を示す。Hの電子雲は、ガリウムの方へ引き寄せられ、プロトンは、酸素の方へ引き寄せられる。
図2B図2A図2Dは、β-Gaへの水素の組み込みを示す模式図である。図2Bは、高温で、プロトン及びヒドリドが、それぞれ、結晶表面上において酸素原子及びガリウム原子に引き寄せられ、バルク結晶中に拡散している様子を示す。プロトンは、負に荷電したガリウム空孔の方へ引き寄せられている。
図2C図2A図2Dは、β-Gaへの水素の組み込みを示す模式図である。図2Cは、DFT計算から得られた、2個の水素で修飾されたGa空孔を示す。
図2D図2A図2Dは、β-Gaへの水素の組み込みを示す模式図である。図2Dは、DFT計算から得られた、4個の水素で修飾されたGa空孔を示す。
図3A図3は、いくつかの処理後のβ-Gaサンプルのシート抵抗(図3A)及びシート数(sheet number)(図3B)である。第一のセット1、2、3、4、5:1-成長した状態のままのβ-Ga単結晶;2-H中でアニーリング;3-H中でアニーリング、4日後;4-H中で2回目のアニーリング;5-H中で2回目のアニーリング、4日後(この700℃で1時間のH拡散により、経時で減衰するp型導電性が得られた);第二のセットa、b、c:a-成長した状態のままのβ-Ga単結晶;b-アニーリング後直ちにH中でアニーリング;c-アニーリングの4日後にH中でアニーリング(この950℃で2時間のH拡散により、結晶中のより深くへのHの拡散が可能となることから、経時で安定なp型導電性が得られた)。黒四角-700℃で1時間のアニーリング;赤丸-950℃で2時間のアニーリング。
図3B図3は、いくつかの処理後のβ-Gaサンプルのシート抵抗(図3A)及びシート数(sheet number)(図3B)である。第一のセット1、2、3、4、5:1-成長した状態のままのβ-Ga単結晶;2-H中でアニーリング;3-H中でアニーリング、4日後;4-H中で2回目のアニーリング;5-H中で2回目のアニーリング、4日後(この700℃で1時間のH拡散により、経時で減衰するp型導電性が得られた);第二のセットa、b、c:a-成長した状態のままのβ-Ga単結晶;b-アニーリング後直ちにH中でアニーリング;c-アニーリングの4日後にH中でアニーリング(この950℃で2時間のH拡散により、結晶中のより深くへのHの拡散が可能となることから、経時で安定なp型導電性が得られた)。黒四角-700℃で1時間のアニーリング;赤丸-950℃で2時間のアニーリング。
図3C図3Cは、サンプルのシート抵抗を示し、図3Dは、サンプルのシート数を示す。第三のセット1、2、3:1-成長した状態のままのβ-Ga単結晶;2-O中でアニーリング;3-O中でアニーリング、続いてH拡散(黒四角)(Oアニーリングにより、抵抗率が増加し、そして続いてのH拡散により、経時で安定な高いn型導電性が得られた);第四のセットa、b:a-成長した状態のままのβ-Ga単結晶;b-Ga中でアニーリング、続いてH拡散(赤丸)(Ga中でのアニーリング及び続いてのH拡散では、有意な変化は誘導されなかった)。
【0018】

図3D図3Cは、サンプルのシート抵抗を示し、図3Dは、シート数を示す。第三のセット1、2、3:1-成長した状態のままのβ-Ga単結晶;2-O中でアニーリング;3-O中でアニーリング、続いてH拡散(黒四角)(Oアニーリングにより、抵抗率が増加し、そして続いてのH拡散により、経時で安定な高いn型導電性が得られた);第四のセットa、b:a-成長した状態のままのβ-Ga単結晶;b-Ga中でアニーリング、続いてH拡散(赤丸)(Ga中でのアニーリング及び続いてのH拡散では、有意な変化は誘導されなかった)。
図4A図4A図4Cは、異なる環境中で2時間にわたって950℃でアニーリングしたサンプルの熱刺激ルミネッセンス発光(図4A)である。アニーリングサンプルに対するデータ点を、0~1に標準化した。成長した状態のままのサンプルに対するデータ点は、ノイズを最小限とするために、0~0.5に標準化した(グローピークなし)。ピークは、ガウス関数を用いてフィッティングした。H拡散後、及びOアニーリングに続くH拡散後に低温で見られた2つのピークは、それぞれ、サンプル中に誘導された浅いアクセプタ及び浅いドナーに関連し、それらを用いてイオン化エネルギーを算出した。
図4B図4Bは、直接水素拡散後のサンプルのドナー状態及びアクセプタ状態を示す平坦バンド図を示す。
図4C図4Cは、酸素空孔を埋めた後の水素拡散を示す。
図5A図5A図5Dは、Gaの水素ドーピングからの浅いアクセプタ及び浅いドナーの形成の証拠である。図5Aは、陽電子消滅分光法のドップラー拡がり(DBPAS)によって測定した、侵入深さの関数としての欠陥パラメータS及びWを示し、S及びWは、それぞれ、価電子及び内殻電子による陽電子消滅の割合として定義される。下側のx軸は、陽電子エネルギーを表し、上側のx軸は、侵入深さを表す。グラフは、Hが、結晶中約500nmに拡散することを示している。
図5B】成長した状態のままのサンプル(図5B)、及びH中でアニーリングしたサンプル(950℃で2時間)(図5C)、O中でのアニーリングに続いてHのサンプル(950℃で2時間)(図5D)の陽電子消滅寿命分光法(PALS)データ。E=陽電子入射エネルギー、Zmean=陽電子入射深さ、t=陽電子寿命、I=寿命成分の強度、グラフb、c、及びdは、各サンプルにおける2つの陽電子寿命成分及びそれらの強度を示す。
図5C】成長した状態のままのサンプル(図5B)、及びH中でアニーリングしたサンプル(950℃で2時間)(図5C)、O中でのアニーリングに続いてHのサンプル(950℃で2時間)(図5D)の陽電子消滅寿命分光法(PALS)データ。E=陽電子入射エネルギー、Zmean=陽電子入射深さ、t=陽電子寿命、I=寿命成分の強度、グラフb、c、及びdは、各サンプルにおける2つの陽電子寿命成分及びそれらの強度を示す。
図5D】成長した状態のままのサンプル(図5B)、及びH中でアニーリングしたサンプル(950℃で2時間)(図5C)、O中でのアニーリングに続いてHのサンプル(950℃で2時間)(図5D)の陽電子消滅寿命分光法(PALS)データ。E=陽電子入射エネルギー、Zmean=陽電子入射深さ、t=陽電子寿命、I=寿命成分の強度、グラフb、c、及びdは、各サンプルにおける2つの陽電子寿命成分及びそれらの強度を示す。
図6A図6A図6Bは、ドナーの場合(図6A)及びアクセプタの場合(図6B)における熱ルミネセンスプロセスの模式図である。
図6B図6A図6Bは、ドナーの場合(図6A)及びアクセプタの場合(図6B)における熱ルミネセンスプロセスの模式図である。
図7A図7A図7Bは、初期立ち上がり法によるイオン化エネルギーの算出である。酸素中のアニーリングに続いて水素拡散を施したβ-Gaサンプル(図7A)及び水素拡散を施したβ-Gaサンプル(図7B)の、ln(I)対1/Tの直線フィッティングを示す。
図7B図7A図7Bは、初期立ち上がり法によるイオン化エネルギーの算出である。酸素中のアニーリングに続いて水素拡散を施したβ-Gaサンプル(図7A)及び水素拡散を施したβ-Gaサンプル(図7B)の、ln(I)対1/Tの直線フィッティングを示す。
図8図8は、H拡散サンプル及びO中アニーリングに続いてH拡散したサンプルに対するE=6での陽電子寿命スペクトルである。
図9A図9A図9Dは、n型及びp型のH処理β-Gaサンプルの温度依存性輸送特性である。図9Aは、シート抵抗を示す。
図9B図9A図9Dは、n型及びp型のH処理β-Gaサンプルの温度依存性輸送特性である。図9Bは、シート数を示す。
図9C図9A図9Dは、n型及びp型のH処理β-Gaサンプルの温度依存性輸送特性である。図9Cは、1000/Tの関数としてプロットしたシート数の対数を示す。
図9D図9A図9Dは、n型及びp型のH処理β-Gaサンプルの温度依存性輸送特性である。図9Dは、n型の移動度の温度依存性を示す。
図10図10は、成長した状態のままのサンプル、H拡散したp型サンプル、及びOアニーリングとH拡散したn型サンプルのX線回折(XRD)測定である。
図11A図11A図11Cは、成長した状態のままのサンプル(図11A)及びp型のH拡散したサンプル(図11B)のTSLグロー曲線、並びにバンドギャップ中のこれらのレベルの位置を示す図(図11C)である。
図11B図11A図11Cは、成長した状態のままのサンプル(図11A)及びp型のH拡散したサンプル(図11B)のTSLグロー曲線、並びにバンドギャップ中のこれらのレベルの位置を示す図(図11C)である。
図11C図11A図11Cは、成長した状態のままのサンプル(図11A)及びp型のH拡散したサンプル(図11B)のTSLグロー曲線、並びにバンドギャップ中のこれらのレベルの位置を示す図(図11C)である。
図12A図12A図12Bは、成長した状態のままのサンプル(図12A)及びn型のOアニーリングとH拡散したサンプル(図12B)のTSLグロー曲線であり、サンプル中の深いトラップが示される。
図12B図12A図12Bは、成長した状態のままのサンプル(図12A)及びn型のOアニーリングとH拡散したサンプル(図12B)のTSLグロー曲線であり、サンプル中の深いトラップが示される。
図12C図12Cは、バンドギャップ中のこれらのレベルの位置を示す図を示す。
図13A図13A図13Dは、発光強度を温度及び波長の関数としてプロットした、成長した状態のままのサンプル(図13A)、H拡散したサンプル(図13B)、及びOアニーリングに続いてH拡散したサンプル(図13C)の等高線プロットである。図13Dは、H拡散したp型サンプルからの緑色発光を示す。
図13B図13A図13Dは、発光強度を温度及び波長の関数としてプロットした、成長した状態のままのサンプル(図13A)、H拡散したサンプル(図13B)、及びOアニーリングに続いてH拡散したサンプル(図13C)の等高線プロットである。図13Dは、H拡散したp型サンプルからの緑色発光を示す。
図13C図13A図13Dは、発光強度を温度及び波長の関数としてプロットした、成長した状態のままのサンプル(図13A)、H拡散したサンプル(図13B)、及びOアニーリングに続いてH拡散したサンプル(図13C)の等高線プロットである。図13Dは、H拡散したp型サンプルからの緑色発光を示す。
図13D図13A図13Dは、発光強度を温度及び波長の関数としてプロットした、成長した状態のままのサンプル(図13A)、H拡散したサンプル(図13B)、及びOアニーリングに続いてH拡散したサンプル(図13C)の等高線プロットである。図13Dは、H拡散したp型サンプルからの緑色発光を示す。
図14A図14A図14Bは、フォトルミネッセンスの発光及び機構である。図14Aは、成長した状態のままのサンプル及びp型H拡散サンプルのPL発光を示す。
図14B図14A図14Bは、フォトルミネッセンスの発光及び機構である。図14Bは、2つの図を示すが、右側の図は、380nmのUV発光の機構を示し、左側の図は、広帯域発光の機構を示す(青色及び緑色)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示全体を通して、様々な刊行物、特許、及び公開特許明細書が、識別する引用によって参照される。これらの刊行物、特許、及び公開特許明細書の開示内容は、本発明が属する分野の現行技術をより充分に記載するために、その全内容が参照により本開示に援用される。
【0020】
本明細書において、ワイドバンドギャップ酸化物半導体にバイポーラ(n型及びp型)導電性を誘導する方法、及びそれらの輸送特性を、格子中への水素の組み込みを単に制御することによって制御する方法が提供される。これらの方法により、従来のドーピング法の代わりに水素を用いることで、酸化物半導体の良好な移動度を維持しながら高いキャリア密度を実現することができる。半導体の浅いドナー型は、カチオン空孔を水素で修飾することによって作り出され得る。本明細書において、水素が、浅いドナーとして作用して、酸化物半導体中に非常に高いn型導電性を誘導し得ること、又は浅いアクセプタとして作用して、酸化物半導体中にp型導電性を誘導し得ることが示される。
【0021】
ワイドバンドギャップ酸化物半導体は、一般に、いずれの方向にもドーピングすることが困難であり、高いキャリア濃度及び良好な移動度を維持しながらは特に困難である。本開示は、これらの課題を緩和するものであり、n型又はp型のいずれかにドーピングすることができて、依然として高いキャリア濃度及び良好な移動度を有することができるワイドバンドギャップ酸化物半導体を提供する。理論に束縛されるものではないが、水素イオンをカチオン空孔に挿入するこの方法が、結晶構造にディスオーダーを導入しないことから、キャリア濃度及び移動度が劣化しないものと考えられる。これは、水素イオンが非常に小さいからである。
【0022】
本明細書で述べる方法を用いることで、p型Gaが開発された。さらに、本明細書で述べる方法を用いることで、著しく高い導電性のn型Gaが開発された。図1及び表1から分かるように、Gaは、高パワーデバイス及び光エレクトロニクスデバイスでの使用に有利な特性を有する。しかし、p型の実現は、これらの用途にとって重要である。図1は、他の主要な半導体と比較した、β-Gaパワーデバイスの理論的理想性能限界を示す。以下の表1は、主要な半導体及びβ-Gaの材料特性を示す。
【0023】
【表1】
【0024】
しかし、他のワイドバンドギャップ酸化物半導体の場合と同様に、Gaのドーピングは困難である。ドーピングは、典型的には、半導体の移動度を低下させ、ドーピングによるキャリア濃度の増加は、通常、移動度を犠牲にして行われる。実際、これまでに報告された唯一のn型Gaは、透明導電体用途において重要である本明細書で述べる非常に高い導電性を有しておらず、p型Gaについてはまだ報告されていない。本開示は、p型Ga及び高電導性n型Gaの両方の製造を提供する。例えば、本開示のn型Gaは、約数百ナノメートルの厚さに約1016cm-2のキャリア濃度、及び室温で約100cm/VSの移動度を有し得る。その高い導電性を考慮すると、本明細書で述べるn型Gaは、光起電力デバイス、発光ダイオード(LED)、若しくは発光デバイスなどの光エレクトロニクスデバイス、又は高パワーデバイスにおける透明導電性酸化物(TCO)として特に有用である。
【0025】
本開示は、カチオン空孔を水素で修飾することによって、半導体中に異なるドナー型、浅いドナー、を提供する。本明細書の例において、水素が浅いドナーとして作用することができ、酸化物中で非常に高いn型導電性を誘導することができることが示される。また、本明細書の例において、水素が浅いアクセプタとして作用することができ、酸化物中でp型導電性を誘導することができることも示される。したがって、本明細書において、カチオン空孔が水素で埋められた酸化物半導体材料が提供される。いくつかの実施形態では、酸化物半導体材料は、(H-VCa1-複合体を含み、Caは、カチオンであり、酸化物半導体材料は、p型導電性を有する。いくつかの実施形態では、酸化物半導体材料は、(H-VCa1+複合体を含み、Caは、カチオンであり、酸化物半導体材料は、n型導電性を有する。Gaは、本明細書において例示的な目的で記載されるが、本開示は、Gaに限定されるものではまったくない。そうではなく、いかなる酸化物半導体材料も、本明細書で述べるように水素でp型又はn型にドーピング可能である。
【0026】
一般に、本開示に従うバイポーラドーピングは、酸化物半導体材料を密封系中で水素に曝露すること、及び続いて密封系を高められた温度である継続時間にわたってアニーリングして、水素を酸化物半導体材料中に拡散させること、を含む。この水素拡散プロセスを、酸化物半導体材料を空気中での、又はそうでなければ酸素の存在下での第一のアニーリングをすることなく行うと、得られる酸化物半導体材料を、p型にドーピングすることができる。しかし、水素拡散プロセスを、酸化物半導体材料を空気中での、又はそうでなければ酸素の存在下での第一のアニーリング後行うと、得られる酸化物半導体材料を、n型にドーピングすることができる。理論に束縛されるものではないが、水素は、酸化物半導体材料中のカチオン空孔を埋めるが、酸素空孔も埋め得るものと考えられる。水素拡散の前に酸素アニーリングを行うと、格子中の酸素空孔がまず埋められ、それによって、続いての水素拡散において、より多くの水素原子がカチオン空孔中へ向けられる。言い換えると、酸素アニーリング後に酸素空孔が存在しないということは、Hにとっての唯一の利用可能なトラップがカチオン空孔であることを意味し、したがって、それは、より高い度合いで埋められることになり、その結果としてn型導電性が得られる。このドーピングは、前もってOアニーリングを行う代わりに、拡散される水素の量を増加させることによっても成され得る(拡散時間又はH圧の増加によって)。図2A図2Dは、水素の組み込みを示す。
【0027】
水素は、一般的には、1atm未満の圧力で密封系中に導入され、密封系は、アニーリングを行う間、約400トル~約700トル、又は約500トル~約650トルなど1atm未満の圧力に維持され得る。1つの限定されない例では、密封系は、アニーリングを行う間、約580トルの圧力である。水素の導入前に、空気を密封系から排出して真空を作り出してもよい。密封系は、アンプル又は大型真空チャンバーを例とするいかなるスケールであってもよい。密封系は、オーブン若しくは炉中に挿入されてよく、又はそれ自体が加熱素子を含んでいてもよい。密封系のサイズ及び構成は、特に限定されない。
【0028】
上記で述べたように、水素拡散プロセスは、高められた温度でのある継続時間にわたるアニーリングを含む。継続時間は、少なくとも約1時間であってよい。いくつかの実施形態では、継続時間は、約1時間~約5時間、又は約1時間~約2時間の範囲内である。いくつかの実施形態では、継続時間は、約2時間超である。最良の結果のためには、理想的な継続時間は、アニーリングの温度などの他の変数に依存し得る。例えば、より低い温度の場合、拡散のためのより長い継続時間が望ましい可能性がある。
【0029】
水素拡散アニーリング工程のための高められた温度は、一般に、300℃超である。いくつかの実施形態では、高められた温度は、約310℃~約1000℃、又は約350℃~約1000℃、又は約700℃~約950℃の範囲内である。使用する温度が低過ぎると、適切な水素の拡散がうまく機能しない場合がある。例えば、300℃では、方法が、p型Gaを良好に製造するようにうまく機能しない可能性がある。しかし、水素の格子中への適切な拡散に必要とされる高められた温度は、拡散させる時間の長さ、及び密封系が水素に曝露される圧力に依存し得る。例えば、より短い時間の長さが用いられる場合、温度を上げることで、より良好な結果が得られ得る。また、ガスの代わりに水素プラズマが用いられる場合、ドーピングは、非常により低い温度で行われ得る。
【0030】
本明細書の例で示されるように、700℃の高められた温度及び580トルの圧力で1時間にわたって拡散させた場合、酸化物半導体β-Gaは、導電性となるが、その後、拡散が逆転したために、約4日後には再度抵抗性となった。しかし、水素を、950℃の高められた温度及び580トルの圧力で2時間にわたって拡散させた場合、導電性は恒久的となった。したがって、本開示は、酸化物半導体材料中で恒久的な導電性を提供するために用いられ得るが、一時的な導電性を発生させるためにも用いられ得る。
【0031】
酸化物半導体材料をn型にドーピングする場合、酸化物半導体をp型にドーピングするための方法と比較して、追加の1工程:密封系中で酸化物半導体材料を水素ガスに曝露する前に、空気中で(又はそうでなければ、酸素の存在下で)酸化物半導体をアニーリングすること、が必要となるだけであり、続いて高められた温度でアニーリングを行う。したがって、酸化物半導体材料をn型にドーピングする場合、方法は、酸化物半導体材料を、空気中又は酸素中、第一の温度で第一の継続時間にわたってアニーリングすること、続いて酸化物半導体を密封系中で水素ガスに曝露すること(すなわち、アニーリングした酸化物半導体材料を密封系中に配置し、密封系から空気を排出し、密封系に水素ガスを導入する)、及び続いて酸化物半導体を、密封系中、第二の温度で第二の継続時間にわたって水素ガスでアニーリングすること、を含む。この方法では、第二の温度は、上記で考察した高められた温度と同等であり、第二の継続時間は、上記で考察した継続時間(酸化物半導体をp型にドーピングする場合に関して)と同等である。しかし、第一の温度及び第一の継続時間は、それぞれ、第二の温度及び第二の継続時間と異なっていてもよく、又は同じであってもよい。いくつかの実施形態では、第一の継続時間は、少なくとも約1時間である。いくつかの実施形態では、第一の継続時間は、約1時間~約5時間、又は約1時間~約2時間の範囲内である。いくつかの実施形態では、第一の温度は、約310℃~約1000℃、又は約350℃~約1000℃、又は約700℃~約950℃の範囲内である。ある特定の実施形態では、第一の温度は、約950℃である。水素でアニーリングを行う間の密封系の圧力は、酸化物半導体をp型にドーピングするための方法の場合と同等であってよい。
【0032】
本明細書で述べる方法の製品は、例えば高いキャリア濃度及び良好な移動度の透明導電性酸化物であり得ることから、非常に有利である。上記で述べたように、方法は、安定なp型Gaを製造するために、及び少なくとも約1016cm-2のシートキャリア濃度を有し得る、又は室温で少なくとも約100cm/VSの移動度を有し得る、n型Gaを製造するために用いられた。これらの組成物の各々は、光エレクトロニクスデバイスに用いられ得る。さらに、p型Ga及びn型Gaの両方は、光エレクトロニクスデバイスなどのデバイス中にp-n接合を作り出すために用いられ得る。したがって、安定なp型Ga、並びに少なくとも約1016cm-2のシートキャリア濃度及び/又は室温で少なくとも約100cm/VSの移動度を有し得るn型Gaに加えて、本明細書ではさらに、p型Ga及びn型Ga(本明細書で述べる高電導性Gaであっても、又はそうでなくてもよい)から形成されたp-n接合を有するGaベースのデバイスも提供される。本明細書で述べるドーピングされた酸化物半導体材料が中に用いられ得る光エレクトロニクスデバイスの限定されない例としては、フォトダイオード、フォトトランジスタ、光電子増倍管、光アイソレータ、集積型光回路素子、フォトレジスタ、電荷結合画像デバイス、発光ダイオード(LED)、有機発光ダイオード(OLED)、ソーラーブラインドUV検出器、ガスセンサー、光検出器、トランジスタ、又はソーラーセルが挙げられる。本明細書で述べるドーピングされた酸化物半導体材料が中に用いられ得るパワーデバイスの限定されない例としては、パワーダイオード、パワースイッチ、及びパワートランジスタが挙げられる。
【0033】
Gaは、本明細書において例の目的で記載されるが、本方法は、Gaと共に用いることに限定されない。本明細書で述べる方法は、他のワイドバンドギャップ酸化物半導体のバイポーラドーピングに用いられてもよく、実際、ほとんどの従来のドーピング法よりも簡便であり得る。方法は、いかなる酸化物半導体のドーピングのためにも実行され得る。理論に束縛されるものではないが、酸素と水素とが容易に結合を形成することから、この方法は、いかなる酸化物半導体にも用いられ得るものと考えられる。
【0034】
水素拡散のみを用い、他の元素によるさらなるドーピングを行わない本明細書で述べるバイポーラドーピングは、成長の過程又は成長の後に他の元素でドーピングすることによって一般には実現される従来のドーピングとは非常に異なっている。本開示によると、水素拡散は、ドーピングし、高い導電性を誘導するために用いられ得る。水素ドーピングは、より高いキャリア密度及び良好な移動度をもたらし得る。水素ドーピングは、半導体中に浅いドナー型を発生させ得る。水素イオンでカチオン空孔を埋めることによって、半導体中の電子移動度が向上され得るものであり、このことは、スイッチング及び高RFにおいて有用である。本明細書の例で示されるように、この方法は、p型Ga、さらには高電導性n型Gaを製造するために用いられ得る。本開示は、酸化ガリウムを用いることで、より安価なパワーエレクトロニクス、ガスセンサー、MOSFETなどを提供する。
【0035】
実施例
超ワイドバンドギャップ酸化物中での水素誘導p型及びn型導電性
光エレクトロニクス及び高パワーデバイスの今後の技術は、非常に優れた輸送特性を有するワイドバンドギャップ材料の開発に依存している。しかし、バイポーラドーピング(n型及びp型ドーピング)は、大きな課題であり、多くのワイドバンドギャップ酸化物ベースデバイスの開発を妨げてきた。置換又は格子間部位での元素による標準的な化学ドーピングは、多くの場合、キャリア移動度を低下させ、達成可能な最大キャリア密度の増加と酸化物中での良好な移動度の維持との間のトレードオフが常に存在する。これらの例では、さらなるドーピングを行わない水素拡散により、約5eVバンドギャップエネルギーの超ワイドバンドギャップ酸化物中に、p型及びn型導電性を発生させる方法を実証するものである。本明細書で示されるように、β-Ga格子中へのH組み込みを制御することによって、p型導電性とn型導電性とを切り替えることが可能である。n型導電性の9桁の増加(ドナーイオン化エネルギー20meV)が、抵抗率10-4Ω・cm、シートキャリア濃度1016cm-2、及び室温での移動度100cm/VSで観察された。格子中への水素の組み込みを変更するだけによる安定なp型Ga(アクセプタイオン化エネルギー42meV)の開発を以下でさらに示す。密度汎関数理論計算を用いて、Ga格子中への水素の組み込みを調べ、実験結果の解釈が支持された。これらの例は、酸化物半導体の輸送特性を操作するための有用な手法を示しており、光エレクトロニクス及び高パワーエレクトロニクスを大きく進歩させ得るGaデバイスの開発に用いられ得る。
【0036】
広いバンドギャップエネルギーは、今後の高パワートランジスタ及び多くの光エレクトロニクスデバイスの開発のための重要なパラメータとなってきており、ZnOなどのワイドバンドギャップ酸化物は、非常に優れた特性を呈することが示されてきた。しかし、それらを多くの用途に利用することは、導電性制御の欠如又は良好な移動度を伴って高いキャリア密度を実現することの困難さによって妨げられてきた。バイポーラドーピング(n型及びp型の両方の実現)は、ワイドバンドギャップ材料における大きな課題の1つであるが、それはほとんどのデバイスの開発にとって重要である。さらに、荷電キャリアを得るための最も一般的な方法である元素の置換ドーピングは、ディスオーダーを引き起こすことが多く、キャリア移動度を低下させる。これらの例では、超ワイドバンドギャップ酸化物に、格子中への水素(H)の取り込みを制御することで、さらなる置換ドーピングを行うことなく、p型及びn型導電性を誘導することについて述べており、室温での電子移動度100cm-1-1でのシート電子密度1016cm-2を実証している。酸化物半導体におけるそのような高い電子密度及び良好な移動度は、注目すべきである。本発明の例は、Gaで実施したものであり、これは、その広いバンドギャップ(約4.5~5eV)及び8MV/cmの高い破壊電界強度に起因して、高パワートランジスタのために重要な材料である。透明半導電性酸化物として、Gaは、例えば光起電力デバイス、液晶ディスプレイ、及び発光ダイオードにおける透明接点としての用途も有する。β-Gaは、Ga相の最も安定な多形であり、空間群C2/mの単斜晶構造を有する。その無欠陥結晶の形態では、絶縁体として挙動する。しかし、酸素空孔(V)に起因する固有のn型導電性の存在が、Vがβ-Gaの深いドナーであるためにn型導電性を引き起こす可能性は低いことが最近の計算から確認されたにも関わらず、報告されている。デバイスへ良好に組み込むためには、導電性β-Ga膜を構築することが必須であるが、多くの試みが不成功となってきた。現在、β-Gaを成長中にSn、Ge、又はSiでドーピングすることによって、1つの導電性型のみ(n型)が実現されている。p型導電性に関しては、ドーピング又はアニーリングによって有意ないかなる成功もこれまでに成されてこなかった。
【0037】
水素は、透明導電性酸化物及び半導体の電気伝導性に対して強い影響を有することが知られており、それは、浅いドナーを引き起こすことができ、深い補償欠陥を不動態化することができる。β-Ga中において、単原子Hは、低い形成エネルギーを有し、格子間部位及び置換部位の両方を占有して、浅いドナーとして作用することができる。β-Gaの複雑な結晶構造によって、格子間水素(Hii )が酸素と結合を形成する多くの配置の形成が可能であり、エネルギー的に近い電子状態が作り出される。Hは、浅いドナーとしてのみ作用し、置換水素Hは、酸素不足条件下でのみ低い形成エネルギーを有すると考えられる。様々な位置でのH組み込みに起因するn型導電性の可能性に関するこれらの理論的予測にも関わらず、有意な実験的成功の報告はまったくなかった。本発明の例では、H又はHとしてではなく、カチオン空孔部位へのHの組み込みを制御することによって、Ga中にHドナー及びHアクセプタを発生させる。カチオン空孔は、β-Gaを含む透明導電性酸化物及び半導体中の電気的な補償アクセプタである。カチオン空孔は、いくつかの酸化物半導体(例:SnO、In)において高い形成エネルギーを有するが、これまでの第一原理計算から、β-Gaでのそれらの形成エネルギーは非常に低いため、H修飾VGa形成の高い可能性を、結晶中にHを組み込んだ後に実現可能であることが示された。
【0038】
結晶中への水素の組み込みプロセスについての見識を得るためには、Hと金属酸化物半導体の表面との相互作用を理解することが重要である。高温での結晶中へのH組み込みは、2つの工程で発生する。まず、Hは解離し、表面に結合した状態となり、続いてバルク結晶中に拡散する。材料の性質に応じて、Hは、ホモリティック解離又はヘテロリティック解離のいずれかの経路に従い得る。ホモリティック開裂の場合、H分子は解離して2つのH原子を形成し、それが結晶表面上の酸素に結合した状態となる。他方、ヘテロリティック開裂では、Hは解離してプロトンとヒドリドを形成し、この場合、プロトン及びヒドリドは、それぞれ酸素及び金属原子と結合した状態となる。金属のレドックス容量が、最も発生する可能性の高い解離の種類を決定する。密度汎関数理論(DFT)から、Hは、非還元性酸化物(例:MgO、γ-Al)の表面上ではヘテロリティックに解離する傾向にあり、一方還元性酸化物(例:CeO)の表面上ではホモリティック経路に従うことが予測される。β-Gaは、DFTによって非還元性であることが見出された。したがって、理論に束縛されるものではないが、Hは、図2Aに示されるように、ヘテロリティック解離に従う可能性が最も高い。吸着されたプロトン及びヒドリドは、高温でバルク結晶中に拡散する。図2Bに示されるように、プロトンは、負に荷電したVGaの方へ引き寄せられ、一方ヒドリドは、正に荷電した又は中性のVの方へ引き寄せられる。このような水素の異なる空孔部位への組み込みは、これらの例で示されるように、Ga及び半導電性酸化物全般の電気特性に対して注目すべき影響を与え得る。
【0039】
未ドーピングのβ-Ga単結晶にHを組み込むための一連の実験を行った。実験は、(010)面に対して平行に進行するEdge-defined Film-fed Growth(EFG)法によって成長させ、5×5×0.5mm片にカットしたサンプルに対して行った。成長した状態のままのサンプルは、高抵抗性であったが、580トルでHのみを充填した密封アンプル中でのH拡散後は、キャリア密度の上昇及びp型導電性を示した。700℃で1時間にわたるH拡散では、経時で減衰する不安定な導電性が引き起こされた。しかし、950℃で2時間にわたるH拡散の場合、キャリア密度のより大きい上昇、及び経時で安定なp型導電性が引き起こされた。未ドーピングのβ-Ga中の異なる部位にHを組み込むための他の手順も行った。密封アンプル中、950℃で2時間にわたり、1つのサンプルは、O流中でアニーリングし、別のサンプルは、Gaでアニーリングした。このプロセスは、それぞれの(アニオン又はカチオン)空孔を埋めるものと考えられる。その後、密封アンプル中、950℃で2時間にわたり、水素を580トルで結晶中に拡散させた。Oアニーリングに続くH拡散では、高いn型導電性(経時で安定)、及び電子移動度100cm/Vsでの注目すべきシートキャリア密度約1016cm-2が引き起こされた。対照的に、Ga中でのアニーリングに続くH拡散では、導電性の有意な増加は見られなかった。これらの結果を、以下の表2及び図3A図3Dにまとめて示す。
【0040】
【表2】
【0041】
理論に束縛されるものではないが、H拡散後のp型及びn型導電性の実現は、以下のように説明することができる。Ga空孔が、-3の荷電状態を有する深いアクセプタ(VGa3-として作用する。水素の結晶中への拡散時、表面に吸着したプロトンは(図2A図2B)、(VGa3-の方へ引き寄せられ、そこで負の電荷を安定化し、それによってアクセプタ状態を低下させる。この結果、H修飾ガリウム空孔(VGa-2H)1-図2Cに表されるように)及びp型導電性の増加が得られる。より低い温度では(例:700℃)、プロトンがバルク結晶内部に深く拡散する可能性は低くなる。この結果、室温での逆拡散によって、導電性が経時で低下する。しかし、より高い温度及びより長い時間にわたってHに曝露したサンプルでは、Hが結晶中により深く拡散するために、高いp型導電性が経時で持続される。
【0042】
を埋めた後に(すなわち、O中でのアニーリング後に)Hに曝露したサンプルは、高いn型導電性を示した。この場合、Vが存在しないために、より多くのH原子がVGaに拡散され、ドナーとして作用する(VGa-4H)1+の形成が引き起こされる(図2Dに表されるように)。すなわち、この場合においてVが存在しないということは、Hにとっての唯一の利用可能なトラップがVGaであることを意味しており、したがって、それはより大きい度合いで埋められることになる。VGaを埋めた後に続くH拡散で示されるキャリア濃度の増加はごく僅かであることから、格子間水素Hからのn型導電性の寄与は、顕著なものではない。さらに、H装飾カチオン空孔が、サンプル中に誘導されたn導電性の主要因であることも確認される。
【0043】
Vienna ab-initio Simulation Package(VASP)で実行した密度汎関数理論を用いて、Ga空孔へのH組み込みを調べた。これらの計算は、無欠陥構造中に合計で160個の原子を含有するβ-Gaの1×4×2のスーパーセルに対して行った。Γ点中心の2×2×2のMonkhorst-Pack法k点メッシュを用いて、Brillouinゾーンをサンプル対象とした。VGaは、四面体配位のGaイオンをセルから移動させることによって作り出したが、なぜなら、この空孔構造がより有利であることが識別されたからである。正味電荷-3を構造に付与した。電荷+1のHイオンを、得られた空孔構造に挿入して、系の電子総数は一定のままであるが、セルの正味電荷を減少させた。各配置に対する演算法及び結合エネルギーの計算の詳細を以下に示す。結果を上記の表2(d)に提示する。1つのHイオンのGa空孔に対する結合エネルギーは、-4.4eVである。DFT計算によって、N(Hイオンの数)が、少なくともN=4まで増加すると、反応は発熱性のままであるが、H原子あたりの結合強度が低下することが分かる。4個目のHイオンの添加によって得られるエネルギーは、僅かに-0.8eVであり、最初のHイオンの添加で得られた-4.4eVよりも非常に小さい。この傾向が持続されると考えると、このことは、4個を超えるHイオンをVGaに収容することは有利ではないことを示している。したがって、これらの計算から、単一のVGaが収容できるのは4個のHイオンまでであって、複合体の正味電荷を3-(N=0の場合)から1+(N=4の場合)まで変化させることが示され、並びに(VGa-4H)1+図2D)が、H よりも有利であることが確認される。これらの計算から、(VGa-4H)1+が、処理した高導電性n型サンプル中における支配的なドナーであるという電気輸送測定の解釈が裏付けられた。
【0044】
熱刺激ルミネッセンス(TSL)分光法をサンプルに対して実施して、ドナー及びアクセプタのイオン化エネルギーを算出した。方法及び測定、データ分析、並びにイオン化エネルギーの計算についての詳細を以下で説明する。図4Aは、成長した状態のまま、p型、及びn型のH処理Gaに対するTSL発光を示す。成長した状態のままのサンプルは、浅いレベルに対応するピークを示していない。他の2つのサンプルでは、各々低温にピークが見られ、浅いレベルの形成が示されている。p型のHアニーリングサンプルにおける107Kで形成されたピークは(図4Aの赤色曲線)、初期立ち上がり法を用いて算出した42meVのイオン化エネルギーを持つ浅いアクセプタの形成と関連している(図7参照)。Oアニーリングに続くH拡散後に現れるドナーのイオン化エネルギーも(図4Aの緑色曲線)、111Kのピークから初期立ち上がり法によって算出し、20meVであることが分かった(図7参照)。図4B図4Cは、それぞれ、対応する平坦バンド図、並びに対応するドナー状態及びアクセプタ状態を示す。
【0045】
水素の効果をさらに理解し、導電性の原因の解釈を確認するために、陽電子消滅分光法(PAS)測定を行った。PASは、半導体中のカチオン空孔を検出し、特性評価するための充分に確立された技術である。陽電子消滅分光法のドップラー拡がり(DBPAS)及び陽電子消滅寿命分光法(PALS)の両方を用いた。これらの技術及び測定の詳細を以下に提供する。
【0046】
図5Aは、H拡散サンプル及びOアニーリングに続くH拡散のサンプルにおける、S及びWパラメータの依存性を示す。2つの曲線の一番最初の部分におけるSパラメータの値が大きいことは、すべてのDBPAS測定に共通であり、表面でのポジトロニウムの形成を示している。グラフは、最初の500nmにおいて、2つのサンプル間の差異が大きいことを示しており、O中でのアニーリングに続くHのサンプルの方が、S値は低く、及びW値は高く、このことは、n型導電性が高いことを示している。DBPASでは、Sパラメータの低下は、カチオン空孔又は中性空孔での陽電子トラップの抑制を示している。したがって、これらの測定から、Oアニーリングに続くH拡散のサンプルにおいて、負に荷電した空孔及び中性空孔の減少が確認される。これは、Ga空孔を4個以上のHイオンで埋めることに起因しており、このことは、n型導電性の多大な増加によって示されるように、正電荷状態及び浅いドナーの形成をもたらす。この(H-VGa1+複合体は、正電荷状態を有し、陽電子をトラップすることができないことから、Sパラメータの実質的な低下をもたらす。他方、H拡散のみの場合、水素はVGaを部分的に埋めることになって、負電荷状態が維持されて浅いアクセプタがもたらされ、これがp型導電性を付与する。この(H-VGa1-複合体は、依然として活性な陽電子トラップであり、より高いSパラメータをもたらす。
【0047】
PALSの深さ分解測定によって、各サンプルにおいて、2つの主要な陽電子寿命成分が明らかとなった。図5B図5Dは、成長した状態のままのサンプル、及びH拡散サンプル、及びOアニーリングに続くH拡散のサンプルにおける、深さの関数としての寿命成分、及びそれらの強度を示す。3つのサンプル間において、陽電子寿命成分の強度及び大きさに明確な差異が見られる。第二の寿命成分τ2が大きいことは、負電荷状態を持つVGa関連欠陥の存在を示している。成長した状態のままのGaの場合、τ2は、サンプル深さ全体にわたって、約25~30%の強度で約470psである(図5B)。Hアニーリングの後、τ2は、約320psに減少しており、このことは、VGa関連欠陥が水素によって部分的に埋められたことを示し、一方その強度は、負電荷が減少した結果として、これらの空孔での陽電子のトラップが減少したことに起因して、約13%に低下した(図5C)。Oアニーリングに続くH拡散の後は、ほとんどすべての陽電子が消滅し、寿命はバルク寿命に近い。τ2の強度は、約1%まで低下しており、このことは、欠陥での陽電子のトラップがほとんど完全に存在しないことを示し、VGa関連欠陥がHによって埋められて、陽電子をトラップすることのできない正電荷状態のドナーに変換されたことの強い証拠が得られる。したがって、DBPAS及びPALS測定によって、n型及びp型導電性の原因に対する解釈が明確に確認される。
【0048】
まとめると、Hの拡散及びβ-Ga格子中への組み込みを制御することによって、安定なp型及びn型Gaの開発が実証された。一方、ワイドバンドギャップ酸化物のドーピング及び導電性の制御のための簡便な方法が、一般的な置換ドーピング法では大きな課題である酸化物半導体での注目すべき高いキャリア密度及び良好な移動度の実現を伴って開発された。
【0049】
水素組み込み法及び輸送測定
Edge-defined Film-fed Growth(EFG)法によって成長させた高品質のβ-Gaサンプルを、Tamura Inc.,Japanから入手した。いくつかのサンプル(5mm×5mm×0.5mm)を、一方の端部が開放されて空気をポンプで排出してアンプルの排気を行うための真空ポンプと接続されている石英アンプル中に入れた。その後、チューブを580トルの圧力のHガスで充填した。チューブを水素で充填した後、開放端部を適切に密封した。アンプルを、温度の精密な制御が可能であるオーブン中に入れた。温度を、所望される値まで2段階で上昇させ、Hを、1時間又は2時間にわたって結晶中に拡散させた。同じ寸法の他の少数のサンプルを、まず酸素流中、950℃でアニーリングし、次に同じ手順に従って水素でアニーリングし、一方他のサンプルを、まずガリウムでアニーリングし、次に同じ手順に従って水素でアニーリングした。
【0050】
Van der Pauw法によるホール効果測定を行って、サンプルの電気輸送特性を特定した。測定は、室温(298K)、及び9300Gの一定の磁場で行った。4つのインジウム接点を、各サンプルの表面上に正方形に配置し、注意深く調節して接点をできる限り小さく維持した。電流-電圧の直線性を毎回チェックして、接点が良好であり、異なる接点間で抵抗率が10%を超えて変動しないことを確認した。
【0051】
熱ルミネッセンス分光法によるドナー/アクセプタイオン化エネルギーの計算
熱ルミネッセンス(TL)は、サンプルをイオン化放射線によって低温で照射した後の熱刺激による材料からの発光である。これは、低温で荷電キャリア(例:電子/ホール)をトラップする欠陥のエネルギーレベルを算出するための強力な技術である。この現象は、固体のエネルギーバンド理論によって説明することができる。理想的な半導体において、低温では、荷電キャリア(例:電子/ホール)のほとんどは、価電子帯に存在する。電子は、励起によって伝導帯へ(ホールは価電子帯へ)励起され得る。ワイドバンドギャップ材料は、荷電キャリアをトラップすることができる構造的欠陥を有することが多い。ドナー/アクセプタ状態も、低温で荷電キャリアをトラップする欠陥として考えられ得る。熱刺激は、これらのトラップから電子/ホールを放出させることができ、それらが、自身のエネルギーをルミネッセンス中心へ移送する。TLプロセスの模式図を図6A図6Bに示す。
【0052】
TL測定を、温度及び波長の関数として発光を記録する自作の分光計を用いて行った。測定は、-190℃~250℃で行った。サンプルを、まず遮光コンパートメントに置き、-190℃で30分間、パルスキセノンランプを用いてUV光を照射した。液体窒素、ウォーターポンプ、及びデジタル温度調節器を用いて、温度を精密に調節した。照射後、サンプルの温度を一定の速度(600℃/分)で上昇させるように設定し、発光スペクトルを、5秒ごとに200~800nmで記録した。温度の関数として発光強度を表すグロー曲線を、各温度での波長全体にわたる発光の積分値から作成した。
【0053】
ドナー/アクセプタイオン化エネルギーを、初期立ち上がり法によって算出した。Randall及びWilkinsは、ごく僅かな再トラップ、直線的な昇温速度を仮定して熱ルミネッセンスモデルを単純化し、良く知られているTL強度についてのRandall-Wilkinsの一次式を考案した:
【0054】
【数1】
【0055】
式中、sは、頻度因子であり、単純化されたモデルでは一定と見なされ、Tは、絶対温度であり、kは、ボルツマン定数であり、EDは、ドナー/アクセプタイオン化エネルギーであり、nは、t=0でトラップされている電子/ホールの総数であり、βは、一定の昇温速度である。サンプルのピークの形状が対称であることは、トラップからの脱トラップ後の荷電キャリアの再トラップが有意に発生する二次以上の速度論を示している。有意な再トラップが発生している場合の二次速度論に対して、類似の式が誘導された:
【0056】
【数2】
【0057】
最初は、グローピークの強度は、式(1)及び(2)のうちの前半の指数関数によって支配され、後半は無視することができる。その結果、ln(I)をグローピークの初期の点に対してプロットすると、直線が得られ、その傾きから、ドナー/アクセプタイオン化エネルギー、EDを算出することができる。n型(図3A)及びp型(図3B)に対するln(I)対1/Tの直線フィッティングを、それぞれ図7A図7Bに示す。酸素中のアニーリングに続いて水素拡散したβ-Gaサンプルのドナーイオン化エネルギー(図7A)及び水素拡散したβ-Gaサンプルのアクセプタイオン化エネルギー(図7B)は、それぞれ、20meV及び42meVであることが分かった。
【0058】
密度汎関数理論(DFT)による水素結合エネルギー算出のための演算法
Vienna ab-initio Simulation Package(VASP)で実行した密度汎関数理論を用いて、Ga空孔への水素組み込みを調べた。これらの計算は、無欠陥構造中に合計で160個の原子を含有するβ-Gaの1×4×2のスーパーセルに対して行った。Γ点中心の2×2×2のMonkhorst-Pack法k点メッシュを用いて、Brillouinゾーンをサンプル対象とした。平面波に対するエネルギーカットオフは、400eVとした。Projector Augmented Wave法及びPerdew,Burke,and Ernzerhof(PBE)一般化勾配近似(GGA)交換相関汎関数に基づいて擬ポテンシャルを用いた。一般に、計算は、いずれの原子に対する力の最大成分も0.02eV/オングストローム未満となるまで継続したが、そのような厳しい収束(tight convergence)が不可能であった1つ(荷電Ga空孔)は例外とした。この場合、最大力は、0.024eV/オングストロームであった。モノポール補正(これまでに報告された値よりも少し高い4.16の算出された誘電率を用いた)及びアライメント補正の両方をエネルギーに適用した。ポテンシャルを平均してアライメント補正を行う代わりに、材料中の最も深い状態が異なる構造にわたってアラインメントされるように、単に状態密度をシフトさせたが、これによって同様の補正が行われることが示されている。いずれの場合も、この補正の大きさは、0.1eV以下であった。
【0059】
Ga空孔は、四面体配位のGaイオンをセルから移動させることによって作り出したが、なぜなら、この空孔構造がより有利なものであることが識別されたからである。正味電荷-3を構造に付与した。電荷+1の水素イオンを、得られた空孔構造に挿入して、系の電子総数は一定のままであるが、セルの正味電荷を減少させた。各配置に対する得られた結合エネルギーを、以下の関係を介して演算し:
【0060】
【数3】
【0061】
式中、E(VGaNH](-3+N))は、Ga空孔がN個のH+イオンで埋められた系のエネルギーであり、E(Bulk Ga)は、無欠陥のβ-Gaのエネルギーであり、E(VGa 3-)は、3-荷電状態の隔離されたGa空孔のエネルギーであり、E(H)は、隔離された格子間1+Hのエネルギーである。この定義において、負のエネルギーは、発熱又は有利な反応を示す。最も低いエネルギーのHの格子間位置に対する系統的なサーチは行わなかったが、Hをランダムに移動させて妥当な構造を見出す多重最小化(multiple minimization)は行った。ここで見出された構造は、Hイオンが三配位酸素イオンの1つと結合している構造である。
【0062】
陽電子消滅寿命分光法(PALS)及び陽電子消滅分光法のドップラー拡がり(DBPAS)
陽電子消滅分光法のドップラー拡がり(DBPAS)測定は、エネルギー可変単色陽電子ビームを用いて行った。陽電子は、大強度22Na源及びタングステンモデレータから発生させ、離散的エネルギー値EがE=0.05~35keVの範囲となるまで加速した。そのような陽電子入射エネルギーEは、Ga中の約1.8μmまでの侵入深さを可能とする。各Eに対する陽電子消滅分布を表すドップラー拡がりスペクトルを、511keVで1.09±0.01keVのエネルギー分解能の単結晶高純度ゲルマニウム検出器を用いて取得した。ドップラー拡がり分光分析を、電子-陽電子消滅に由来する記録された511keVのピークに対して行った。電子運動量分布の差異が、消滅光子のドップラーシフトによって表される。511keVのピークの低電子運動量部分は、いわゆるSパラメータ(形状パラメータ)によって特徴付けられ、これは、ピークの丁度真ん中である約511±0.742keVのエネルギーウィンドウにおける消滅イベント数を総イベント数に対して標準化したものとして定義される。それは、価電子による陽電子消滅の割合を反映している。他方、このピークの高電子運動量部分は、いわゆるWパラメータ(ウィングパラメータ)によって表され、これは、スペクトルのテール部分である約508~509keV及び約513~514keVのエネルギーウィンドウからの消滅イベント数を総イベント数に対して標準化したものとして定義される。それは、内殻電子による陽電子消滅の割合を反映している。欠陥での陽電子トラップは、価電子による陽電子消滅及びSパラメータの増加、並びに内殻電子による陽電子消滅及びWパラメータの減少を引き起こす。そのような分析を実行可能とするためには、非常に数多くの統計値を取得するべきである。ここでは、各E値に対して、少なくとも1~1.5×10の総カウント数から成る511keVピークに対するスペクトルを取得し、S及びWパラメータを各Eで算出した。
【0063】
陽電子消滅寿命分光法(PALS)は、カチオン空孔関連欠陥を調べるための効果的な方法として確立されてきたものであり、それらの種類を区別し、それらの濃度に関する情報を提供する。陽電子寿命実験を、パルス単色陽電子分光ビームラインで行った。寿命スペクトルを、16keVまでの各陽電子エネルギーEで測定した。図8は、H中のアニーリング及びO中でのアニーリングに続くHの2つのサンプルに対して、E=6keVで得た陽電子寿命スペクトルを示す。14ビットの垂直解像度及び2GS/sの水平解像度を有するSPDevices ADQ14DC-2Xを用いた自作ソフトウェアを備えたデジタル寿命CrBrシンチレーション検出器を使用した。それは、205psの時間分解能での室温測定に対して最適化されたものであった。スペクトル分析に必要な分解能は、陽電子入射エネルギーE及び適切な相対的シフトに応じて強度が変動する2つのガウス関数を用いた。すべてのスペクトルは、少なくとも5・10カウントを含んでいた。陽電子寿命スペクトルは、時間依存的指数消滅の合計N(t)=Σ/τ・exp(-t/τ)を分光計の時間分解を表すガウス関数と共に畳み込み積分したものとして分析し、非線形最小二乗法ベースのパッケージPALSfitフィッティングソフトウェアを用いた。明確に定められた単一成分陽電子寿命t≒181psを有するイットリア安定化ジルコニア(YSZ)参照サンプルを補正スペクトルとして用いて、サンプル陽電子寿命とは関連しない余分の成分を差し引くことにより、不要なバックグラウンドを考慮に入れた。この分析から算出された陽電子寿命成分及びそれらの強度から、それぞれ、欠陥の種類及び密度に関する指標が得られる。
【0064】
温度依存性輸送特性、XRD測定、TSL測定、及びPL測定
図9A図9Dは、n型及びp型のH処理β-Gaサンプルの温度依存性輸送特性を示す。図9Aは、シート抵抗を示す。図9Bは、シート数を示す。図9Cは、1000/Tの関数としてプロットしたシート数の対数を示す。図9Dは、n型の移動度の温度依存性を示す。移動度は、室温で100cm/VSであることが分かった。それは、クライオスタットシステムのノイズのために、低温での最高値に対して標準化した。
【0065】
図10は、成長した状態のままのサンプル、H拡散したp型サンプル、及びOアニーリングとH拡散したn型サンプルのX線回折(XRD)測定を示す。これらの測定から、H拡散又はアニーリングは、結晶性及びサンプルの配向に影響を与えなかったことが示される。
【0066】
より高い温度でさらに熱刺激ルミネッセンス(TSL)測定を行って、サンプル中の深いトラップの存在について調べた。欠陥(トラップ)のエネルギーレベルを、初期立ち上がり法を用いてグロー曲線から算出した。図11A図11Bは、成長した状態のままのサンプル(図11A)及びp型のH拡散サンプル(図11B)のTSLグロー曲線を示し、サンプル中の深いトラップが示される。図11Cは、バンドギャップ中のこれらのレベルの位置を示す図である。これらの測定は、Ga空孔中の水素がGa空孔のエネルギーレベルを低下させる様子を示すものであり、深いアクセプタから浅いアクセプタへの変換による。これらの測定により、さらに、アクセプタレベルを低下させることによってp型導電性が誘導される様子も確認される。
【0067】
図12A図12Bは、成長した状態のままのサンプル(図12A)及びn型のOアニーリングとH拡散したサンプル(図12B)のTSLグロー曲線を示し、サンプル中の深いトラップが示される。図12Cは、バンドギャップ中のこれらのレベルの位置を示す図を示す。これらの測定は、Oアニーリング後のH拡散が、深いアクセプタレベルを浅いドナーに変換する様子を示す。
【0068】
図13A図13Dは、発光強度を温度及び波長の関数としてプロットした、成長した状態のままのサンプル(図13A)、H拡散したサンプル(図13B)、及びOアニーリングに続いてH拡散したサンプル(図13C)の等高線プロットを示す。図13Dは、H拡散したp型サンプルからの緑色発光を示す。
【0069】
フォトルミネッセンス(PL)測定から、p型のH拡散サンプルにおける380nm(3.26eV)での強いUV発光が明らかとなった。この発光は、浅いアクセプタの形成に起因する。図14Aは、成長した状態のままのサンプル及びp型H拡散サンプルのPL発光を示す。図14Bは、2つの図を示すが、右側の図は、380nmのUV発光の機構を示し、左側の図は、広帯域発光の機構を示す(青色及び緑色)。
【0070】
本明細書で開示する組成物、デバイス、及び方法のある特定の実施形態が、上記の例で明確にされる。これらの例は、本発明の特定の実施形態を示す一方で、単なる実例として与えられるものであることは理解されるべきである。上記の考察及びこれらの例から、当業者であれば、本開示の本質的な特徴を確認することができ、並びに本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本明細書で述べる組成物、デバイス、及び方法を様々な使用及び条件に適合させるための様々な変更及び改変を行うことができる。様々な変更が行われてよく、本開示の本質的な範囲から逸脱することなく、本開示の要素に対して均等物が置き換えられてもよい。加えて、特定の状況又は材料を、本開示の本質的な範囲から逸脱することなく、本開示の教示内容に適合させるために、多くの改変が行われてもよい。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B