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  • 特許-石膏ボードからパルプを再生する方法 図1
  • 特許-石膏ボードからパルプを再生する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】石膏ボードからパルプを再生する方法
(51)【国際特許分類】
   D21B 1/08 20060101AFI20241225BHJP
【FI】
D21B1/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022023554
(22)【出願日】2022-02-18
(65)【公開番号】P2023120608
(43)【公開日】2023-08-30
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】314002549
【氏名又は名称】杉山特殊製紙株式会社
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松岡 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100079083
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 實三
(72)【発明者】
【氏名】杉山 弘仁
【審査官】竹中 辰利
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-133024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)石膏ボードから剥離した剥離紙を攪拌装置に投入し、注水して剥離紙を溶かす剥離紙の液化工程と、
b)3軸の混練装置に、液化した剥離紙の溶液を送り、その溶液の温度が、40℃~60℃の範囲で維持された状態で揉みほぐす揉みほぐし工程と、
c)選別装置に溶液を送り、その溶液中の異物を除去する異物除去工程と、
d)起泡装置に異物が除去された溶液を送り、繊維に含浸された石膏成分を除去する石膏除去工程と、
e)濃縮洗浄装置に石膏成分が除去された溶液を送り、繊維の表面に付着した石膏を洗い、繊維だけを回収する繊維回収工程と、
f)回収された繊維を抄紙網装置に送り、それをシート状に形成するシート形成工程と、
を備え、以上の工程を少なくとも記載の順序に従って順次行うことを特徴とする石膏ボードからパルプを再生する方法。
【請求項2】
前記b)揉みほぐし工程に於ける揉みほぐし時間が、2分~5分の範囲である請求項1記載の石膏ボードからパルプを再生する方法。
【請求項3】
前記b)揉みほぐし工程後の繊維長さが、0.01mm~0.15mmの範囲である請求項1又は2記載の石膏ボードからパルプを再生する方法。
【請求項4】
前記b)揉みほぐし工程に於いて、漂白剤を添加し、その漂白剤に次亜塩素酸ソーダーが使用される請求項1、2又は3記載の石膏ボードからパルプを再生する方法。
【請求項5】
前記d)石膏除去工程に於ける洗浄時間が、10分~15分の範囲である請求項1記載の石膏ボードからパルプを再生する方法。
【請求項6】
前記混練装置の3軸が、螺旋状旋回翼群を取付けたスクリュー軸であり、第1のスクリュー軸の送出側に、第2のスクリュー軸の先端側を配置させ、第3のスクリュー軸の先端側を第2のスクリュー軸の後端側に配置した請求項1記載の石膏ボードからパルプを再生する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石膏ボードの廃材に含まれる板紙を石膏から剥がした材料(以降、剥離紙という)からパルプを再生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に石膏ボードは、石膏板の両面に、古紙やパルプを主原料として沙紙された板紙を貼り付け、補強して形成されている。このため、石膏ボードの廃材から剥離した板紙である剥離紙の再生が種々試みられている。この剥離紙には10重量%前後の石膏成分が残存しており、繊維の間に石膏が固着しているため、紙成分のみをパルプとして抽出することは極めて困難であった。このため、大半は費用を掛けて焼却或いは土中に埋めて廃棄されているのが現状であった。
【0003】
しかしながら、石膏ボードの廃材から石膏を除去して、粒状の排泄物処理材として使用する提案が、特許文献1に記載されている。この明細書の段落番号 [0006]には、石膏の付着量の少ない板紙を回収することが記載されており、又、段落番号[0047]には、石膏ボードの廃材から石膏を分離して板紙を回収することが記載されている。
【0004】
この板紙は石膏が完全に除去されたものではないため、従来の新聞古紙等と同様の製紙プラントを利用し再生パルプを得ようとしても、石膏成分によって装置内部の部品が摩耗し易く且つ破損し易くなる。 尚、新聞古紙等の再生パルプを得る工程としては、図2に示すように、a)新聞古紙等をパルパー(攪拌装置)に投入し、注水して古紙を液化する古紙の液化工程と、b)ニーダー(混練装置)による揉みほぐし工程と、c)スクリーン(選別装置)で金属やビニール片等の異物を除去する異物除去工程と、d)フローテーター(起泡装置)でインク等を浮上させて除去するインク等除去工程と、e)濃縮洗浄装置で繊維だけを回収する繊維回収工程と、f)ワイヤー(抄紙網装置)でシート状に形成するシート形成工程と、を備え、上記の工程を少なくとも記載の順序に従って、順次行う方法であった。前記揉みほぐし工程に於ける揉みほぐし時間としては、一般の新聞古紙等の場合には5秒前後で充分であった。また従来のパルパーは1軸のものを使用しており、剥離紙から再生パルプを得る場合は、攪拌だけの揉みほぐしを行っても解離不足が起きるのが現状であった。 更にパルプ再生が効率良く且つ安価に行える方法がないのが現状であり、石膏ボードからパルプを再生する新たなパルプ再生方法の開発が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-333773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、新聞古紙等の製紙プラントの設備装置等の一部の構成や能力を改善することで、パルプ再生が効率良く且つ安価に行えないかを鋭意研究した結果、本発明をなしたものである。 すなわち、本発明は新聞古紙等の製紙プラントの大半を利用し、石膏ボードから再生パルプが得られるパルプ再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記要望に応えるために成されたものであり、新聞古紙等の製紙プラントの大半を利用し再生パルプを得ようとする方法である。すなわち、a)石膏ボードから剥離した剥離紙を攪拌装置に投入し、注水して剥離紙を溶かす剥離紙の液化工程と、b)3軸の混練装置に、液化した剥離紙の溶液を送り、その溶液の温度が40℃~60℃の範囲で維持された状態で揉みほぐす揉みほぐし工程と、c)選別装置に溶液を送り、その溶液中の異物を除去する異物除去工程と、d)起泡装置に異物が除去された溶液を送り、繊維に含浸された石膏成分を除去する石膏除去工程と、e)濃縮洗浄装置に石膏成分が除去された溶液を送り、繊維の表面に付着した石膏を洗い、繊維だけを回収する繊維回収工程と、f)回収された繊維を抄紙網装置に送り、それをシート状に形成するシート形成工程と、を備え、以上の工程を少なくとも記載の順序に従って、順次行う方法とする。また、b)揉みほぐし工程に於ける揉みほぐす時間を、2分~5分の範囲で行うと良く、更に、b)揉みほぐし工程後の繊維長さは、0.01mm~0.15mmの範囲とするのが好ましい。またb)揉みほぐし工程に於いて、漂白剤を添加し、その漂白剤に次亜塩素酸ソーダーを使用すると良く、且つ、d)石膏除去工程に於ける洗浄時間を、10分~15分の範囲とするのが好ましい。更に、混練装置の3軸として、螺旋状旋回翼群が取付けられたスクリュー軸を用い、第1のスクリュー軸の送出側に、第2のスクリュー軸の先端側を配置させ、第3のスクリュー軸の先端側を第2のスクリュー軸の後端側に配置すると良い。
【発明の効果】
【0008】
請求項1のようにa)石膏ボードから剥離した剥離紙を攪拌装置に投入し、注水して剥離紙を溶かす剥離紙の液化工程と、b)3軸の混練装置に、液化した剥離紙の溶液を送り、その溶液が40℃~60℃の範囲で維持された状態で揉みほぐす揉みほぐし工程と、c)選別装置に溶液を送り、その溶液中の異物を除去する異物除去工程と、d)起泡装置に異物が除去された溶液を送り、繊維に含浸された石膏成分を除去する石膏除去工程と、e)濃縮洗浄装置に石膏成分が除去された溶液を送り、繊維の表面に付着した石膏を洗い、繊維だけを回収する繊維回収工程と、f)回収された繊維を抄紙網装置に送り、それをシート状に形成するシート形成工程と、を具備し、以上の工程を少なくとも記載の順序に従って、順次行うことにより、従来、不可能であった石膏ボードからパルプを再生することが可能となる。このため、焼却処分が不要となり、且つ、土中に埋めて廃棄する処分も不要となる。しかも従来廃棄処分されていた廃材が、再生パルプとして有効に資源の活用ができる。更に従来の新聞古紙等の製紙プラントの大半が利用できるので、パルプ再生が効率良く且つ安価に行えると共に環境面でも好ましい再生パルプの製法となる。
【0009】
請求項に示すようにb)揉みほぐし工程に於ける揉みほぐす時間を、2分~5分の範囲で行うことにより、パルプ再生が効率良く行える。
【0010】
請求項に示すようにb)揉みほぐし工程後の繊維長さを、0.01mm~0.15mmの範囲にすることにより、パルプ再生が効率良く行える。
【0011】
請求項のようにb)揉みほぐし工程に於いて、漂白剤を添加し、その漂白剤として、次亜塩素酸ソーダーを用いることにより、従来の如き繊維に赤味が掛ることなく、より一層の漂白効果が期待でき、商品価値の上がるものとなる。また板材を漂白する際、従来の如き繊維に赤味が掛ることなく、商品価値の上がるものとなる。
【0012】
請求項のようにd)石膏除去工程に於ける洗浄時間を、10分~15分の範囲で行うことにより、充分な石膏の洗浄が行えるので、石膏が略完全に除去できる。
【0013】
請求項に示すように混練装置の3軸として、螺旋状旋回翼群が取付けられたスクリュー軸を用い、第1のスクリュー軸の送出側に、第2のスクリュー軸の先端側を配置させ、第3のスクリュー軸の先端側を第2のスクリュー軸の後端側に配置することにより、混練経路が長くなると共に混練時間が長くなるため、繊維の解離度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
図2】従来のパルプ再生方法を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の石膏ボードからパルプを再生する工程を図1に基づいて説明する。予め石膏ボードから剥離した板紙を粉砕した原料(剥離紙)を用意しておく。この剥離紙には、石膏成分が10重量%前後含み、繊維の中に固着されている。
【0016】
先ず始めにa)「剥離紙の液化工程」について説明する。先ず、板紙が粉砕された剥離紙を高解離な攪拌装置に投入し、注水して撹拌することにより、剥離紙が溶かされる。この時、高解離な攪拌装置として、スラッシュパルパー装置を使用する。スラッシュパルパー装置としては、例えば、株式会社協和鉄工所製のスラッシュパルパー3000型を用いることができる。これは従来のパルパーと比べると、剪断した繊維片の塊の大きさは、従来のものが約10mm前後に対して、本工程を行うと、その100分の1前後の細かなものになる。尚、解離とは、解繊とも言い、繊維をバラバラにすることを意味する。
【0017】
次にb)「 揉みほぐし工程」について説明する。液化された剥離紙を混練装置に送り、繊維が揉みほぐされることにより、繊維に固着した石膏が分離される。この時、混練装置として一般に1軸の混練装置(ニーダー)が使用されるが、本工程に於いては、3軸の混練装置を使用して揉みほぐしをより細部に渡って行えるようにしている。3軸の混練装置としては、例えば、株式会社大善製のニューイゼン70型を用いることができる。これは、混練装置の3軸が、螺旋状旋回翼群を取付けたスクリュー軸であり、第1のスクリュー軸の送出側に、第2のスクリュー軸の先端側を配置させ、第3のスクリュー軸の先端側を第2のスクリュー軸の後端側に配置して、第1のスクリュー軸から第3のスクリュー軸までを連続させるものである。これは従来の1軸のものと比べ、3軸のニーダーを使用することで、繊維を揉みほす経路が長くなり、繊維の解離度が進み、石膏と繊維がより多く分離される。この時の繊維長さは0.01mm~0.15mmの範囲になる。この繊維長さが0.15mm以上になると、後の工程で使用する選別装置で、はじかれてゴミ扱いされてしまう恐れが生じる。また繊維長さが0.01mm未満には加工できない。更に、揉みほぐす時間を2分~5分前後行うことにより、繊維に石膏が付着しているので、石膏同志がぶつかり合う。これにより、摩擦熱を生じて約40℃前後まで剥離紙の溶液温度が上がり、水が繊維に浸透し易くなってほぐれ易くなる。この時、溶液温度が上がるようにヒーター等を使用して温度管理を行い、前記溶液の温度としては40℃~60℃の範囲を維持する。尚、前記温度が40℃以下になると、繊維の解れが効率良く行えなくなる恐れがあり、60℃以上になると繊維の解れ効率は上がるがコスト高となる。又、前記揉みほぐす時間が2分以下になると、解離不良が起き易くなり、5分以上になると、コスト高になる。尚、従来の工程では、溶液の温度が20℃以下で揉みほぐし工程が行われていた。又、前記ニーダーに2軸のものがあるが、これを使用して剥離紙からパプを再生しようとしても、解離が完全に行われず、一部が揉みほぐされずに塊となって残ってしまう。
【0018】
また本発明の揉みほぐし工程に於いて、漂白剤として次亜塩素酸ソーダーを、解離促進剤として苛性ソーダーを入れて揉みほぐし工程が行われる。この時、上述のように約40℃前後に溶液が温められているので、漂白剤が浸透し易くなり、漂白効果も上がる。尚、新聞古紙等の時には漂白剤として過酸化水素水が用いられており、これで板材を漂白すると、赤味が掛って商品価値が下がっているのが現状であるが、次亜塩素酸ソーダーを用いると、赤味が消える。
【0019】
その後、c)「異物除去工程」を行う。これについて説明する。先ず揉みほぐされた繊維を選別装置に送り、異物を除去する。この選別工程には粗選工程と精選工程の2工程が行われる。粗選工程用としては、例えば、IHI製のPスクリーン12型を用い、精選工程用としては、例えば、株式会社サトミ製作所製のFNスクリーンを用いることができる。この時、石膏や金属及びビニール片などの付着物は、沈殿及び遠心力によって、異物が排出される。この異物除去工程を行った後の繊維中の石膏は5重量%前後まで減少する。尚、c)「異物除去工程」は従来の工程と略内容は同じである。
【0020】
更にd)「石膏除去工程」を行う。これについて説明する。 繊維に付着した石膏を除去したものを起泡装置に送ると、繊維に付
着した細かな石膏や液中の石膏成分を泡の表面に付着させ、液面に浮上させて除去させる。この結果、繊維には石膏成分が略完全に除去されたものとなる。起泡装置としては、例えば、株式会社三栄レギュレーター製のフローテーターを用いることができる。前記石膏の洗浄時間としては、10分~15分間洗浄する。洗浄時間10分以下になると、石膏が除去されずに残る恐れが生じ、15分以上になると、コスト高になる。
【0021】
その後、濃縮洗浄装置で繊維の表面に付着した石膏を洗い落し、石膏成分が付着していないものとなり、繊維だけが回収されるe)「繊維回収工程」を行い、その後、回収された繊維を抄紙網装置に送り、それをシート状に形成するf)「シート形成工程」が行われ、そのシートを乾燥させることにより、再生パルプが得られる。前記濃縮洗浄装置としては、例えば、株式会社大善製のイゼン式濃縮洗浄装置を用いることができる。また前記抄紙網装置としては、例えば、株式会社小林製作所製のワイヤー装置を用いることができる。尚、前記e)「繊維回収工程」に於ける洗浄時間を10分~15分間洗浄する。洗浄時間が10分以下になると、石膏が除去されずに残る恐れを生じ、15分以上になるとコスト高になる。尚、e)「繊維回収工程」,f)「シート形成工程」は従来工程と同一である。
【0022】
本発明は従来の製紙プラントの大半を利用し、且つ、以上の工程を順次行うことにより、石膏ボードから剥離した板状の剥離紙からパルプ再生紙が効率良く得られるため、資源の有効回収が可能となり、且つ、安価にパルプ再生紙が得られる方法となる。
図1
図2